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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011068
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】チョコレートメーカー
(51)【国際特許分類】
   A23G 1/04 20060101AFI20240118BHJP
   B02C 7/14 20060101ALI20240118BHJP
   B02C 7/17 20060101ALI20240118BHJP
   B02C 7/175 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
A23G1/04
B02C7/14
B02C7/17
B02C7/175
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112755
(22)【出願日】2022-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003702
【氏名又は名称】タイガー魔法瓶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】南里 直人
(72)【発明者】
【氏名】治下 貴弘
【テーマコード(参考)】
4B014
4D063
【Fターム(参考)】
4B014GB01
4B014GG06
4B014GT01
4B014GT20
4B014GT21
4B014GY03
4D063DD02
4D063DD14
4D063GA04
4D063GC23
4D063GD02
4D063GD12
4D063GD19
4D063GD22
(57)【要約】
【課題】従来の家庭用チョコレートメーカーは、原料となるカカオニブを均一に細かく摩砕させることができなかった。
【解決手段】筒状で内側壁を有する固定臼と
前記固定臼に対して回転する回転子と、
前記回転子の回転を制御する制御部を有し、
前記制御部は、
前記回転子を低速かつ高トルクで回転させる第1処理工程と、
前記回転子を高速で回転させる第2処理工程を実行するチョコレートメーカーは、比較的短い時間でカカオニブを均一に細かく摩砕させることができ、家庭用でありながら上質なチョコレートを得ることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状で内側壁を有する固定臼と
前記固定臼に対して回転する回転子と、
前記回転子の回転を制御する制御部を有し、
前記制御部は、
前記回転子を低速かつ高トルクで回転させる第1処理工程と、
前記回転子を高速で回転させる第2処理工程を実行するチョコレートメーカー。
【請求項2】
前記固定臼の内側壁と前記回転子の外縁との間に原料を引き込める程度の隙間が形成される請求項1に記載のチョコレートメーカー。
【請求項3】
さらに、前記固定臼の温度を制御する温度調節器を有し、
前記制御部は、前記第2処理工程が終了する前に前記固定臼の温度を50℃~60℃に加熱させ、
前記第2処理工程の終了後に前記固定臼の温度を25℃まで冷却し、
前記回転子を前記第1処理工程よりも低い回転速度で回転させる請求項1または2の何れか記載のチョコレートメーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カカオ豆若しくはカカオマスを原料としてチョコレートを作製できるチョコレートメーカーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
滑らかな食感のチョコレートを得るには、原料となるカカオを細かく粉砕する必要がある。そして人の舌が滑らかと感じるには、カカオを粒径20μm以下まで細かくする必要があると言われている。原料のカカオは豆を粗く砕き、種皮や胚芽を取り除いた焙煎後のカカオニブが好適に利用される。このカカオニブの大きさは数cmから数mm程度の大きさである。これを20μm以下の粒子に粉砕するために、通常は専用の装置で、数日間処理する事が必要となる。したがって、一般家庭でカカオニブを原料とするチョコレートを作製するのは、困難であった。
【0003】
しかし、近年は流通手段の発達により、個人でもカカオニブを入手することができる環境が整ってきている。また、カカオ豆は産地により味が異なるため、複数のカカオニブを自らブレンドし、好みのチョコレートを一般家庭で得たいという要望も高まっている。
【0004】
特許文献1には、破砕爪を撹拌子と兼用し、原料の破砕工程と、メランジング・コンチング工程と、テンパリング工程を実行可能な家庭用チョコレート製造装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6869556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の装置は、破砕爪を用いているため破砕処理を受けた粒子を20μm以下にするのは、非常に困難である。一方、石臼のように下側の固定臼と上側の回転臼を当接させた状態で回転臼を回転させ、その隙間に被処理物を投入する所謂「挽き器」は、細かく均一な粒径に破砕することが可能である。
【0007】
しかし、このような「挽き器」であっても、数cmから数mm程度の小片を1度に20μm以下の大きさに挽くことはできない。したがって、一度挽かれた処理物を再度挽く工程にかけるという循環が必要となる。チョコレートメーカーの場合、原料のカカオニブは上記の通り数cmから数mm程度の小片であるから、低速で大きなトルクを挽かなければならない。したがって、処理に時間がかかるという課題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みて想到されたものであり、臼のようにチョコレートの原料を挽きながら粉砕し、なおかつ短時間で原料の粉砕を完了できるチョコレートメーカーを提供する。
【0009】
より具体的に本発明のチョコレートメーカーは、
筒状で内側壁を有する固定臼と
前記固定臼に対して回転する回転子と、
前記回転子の回転を制御する制御部を有し、
前記制御部は、
前記回転子を低速かつ高トルクで回転させる第1処理工程と、
前記回転子を高速で回転させる第2処理工程を実行する。
【0010】
本発明は上記の構成を有するので、低速かつ高トルクで回転子を回転させる第1処理工程では大きな粒子(30μmより大きい粒子)を摩砕して循環させる効果がある。一方、高速回転状態では、小さな粒子間が積極的に衝突しあい、低速回転状態の第1処理工程よりも短い時間で粒子径がより小さくなる(粒径が30μmから20μmへの摩砕)混錬が促進される。結果的に回転速度を一定にして処理する場合と比較して短い時間で原料を舌触りの良い状態へのコンチングが可能になり、カカオマスを得ることができる。
【0011】
また、後述するように固定臼と回転子の間を原料が循環するため、数時間の処理で粒径が20μm程度まで小さくすることができる。そのため、通常摩砕の後に行われるリファインといった工程を経ることなく微細粒子で構成されたカカオマスを得ることができる。なお、第2処理工程の終盤でバター、砂糖、ミルクを入れることができる。
【0012】
また、上記構成において、前記固定臼の内壁と前記回転子の外側壁との間に原料粒子を引き込める程度の隙間が形成される。
【0013】
本発明はこのような構成を有するので、カカオニブの大きな粒子は、狭い隙間に対してはブリッジ効果により詰まりやすくなるが、4~5mmの隙間を設けることで、回転子と固定臼の間に引き込まれやすくなる。
【0014】
また、上記構成に加え、前記固定臼の温度を制御する温度調節器を有し、
前記制御部は、前記第2処理工程が終了する前に前記固定臼の温度を50℃~60℃に加熱させ、
前記第2処理工程の終了後に前記固定臼の温度を25℃まで冷却し、
前記回転子を前記第1処理工程よりも低い回転速度で回転させる。
【0015】
このような構成を有することで、回転子の摩擦熱の発生が抑制され、なおかつカカオマスの温度を均一に25℃まで冷却することができるので、好適なテンパリング状態のチョコレートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のチョコレートメーカーの組立の一部を示す図である。
図2図1に表した部分を組み立てた後の縦断面を示す図である。
図3】固定臼の下部構造を示す斜視図である。
図4】回転子の斜視図である。
図5】回転子の側面図である。
図6】回転子の底面図である。
図7】固定臼に回転子を組み合わせた状態の概念図である。
図8】回転子の外周方向からみた断面の概念図である。
図9】制御部のフローを示す図である。
図10】回転子の回転速度と経過時間の関係を表すグラフである。
図11】テンパリング工程(第3処理工程)も行う場合の制御部の処理フローを示す図である。
図12】テンパリング工程を行う際の、回転子の回転数(左縦軸:rpm)と経過時間(横軸)と共に固定臼の温度(右縦軸:℃)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一例である実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0018】
<固定臼と回転子>
図1は、本発明のチョコレートメーカー1の組立図の一部を示しており、図2は組み立てた状態の断面図を示している。ここではチョコレートメーカー1の挽臼構造を中心に説明を行う。そのため、固定臼2及び回転子6と周辺構造のみを示している。固定臼2及び回転子6の説明の後、チョコレートメーカー1の運転手順について説明する。
【0019】
底部の中央に貫通孔が形成された有底筒状の固定臼2を下方から貫通するように動力シャフト28が配置される。固定臼2と共に挽臼構造を構成する回転子6は、動力シャフト28に取り付けられ、固定臼2の内側に相対回転可能に収容される。また、回転子6は、上方からバネ20及びバネ押さえ22と連結される。このバネ20は、動力シャフト28に対して回転子6を下方へ押し下げる付勢手段である。バネ20の付勢により、摩砕されるカカオニブに対して回転子6の自重に加えて下方へ一定の圧力を加えることができる。動力シャフト28はテンパリングの際の加熱機構を備えたヒーターステージ26に固定されている。
【0020】
動力シャフト28の下端には従動プーリー30が固定されている。モーター34の回転軸34aには駆動プーリー32が固定されている。従動プーリー30と駆動プーリー32の間にはドライブベルト36が掛けられ、モーター34の回転によって、動力シャフト28が回転する。この回転が回転子6を回転させる。
【0021】
ヒーターステージ26は加熱および冷却手段が搭載されたステージである。ヒーターステージ26は温度調節器である。固定臼2を加熱若しくは冷却することができる。加熱手段および冷却手段は、特に限定されるものではないが、IHヒーターとペルチェ素子が好適に利用できる。
【0022】
制御部50はコンピュータ(CPUとメモリ)によって構成される。制御部50は、制御信号Cmによってモーター34の回転を制御する。また制御信号Ctによってヒーターステージ26の加熱若しくは冷却を制御する。また、固定臼2の底面に接するように配置された温度センサ40からの信号Stを受け、現在の固定臼2の温度を知る。
【0023】
固定臼2の内底2a側には摩砕部4が形成されている(後に図3を参照して説明する)。そして、回転子6の下側には、摩砕部4と対向する領域に摩砕部(対向摩砕部)8が設けられている。
【0024】
図3は、固定臼2の下部構造を示す斜視図である。本実施の形態に係る構成では、固定臼2は複数のパーツで構成されている。図2では、内底2aの構造を理解しやすいように、複数のパーツのうち底の部分を含む下部構造のみを示している。図3を参照し、内底2aの中央側には、貫通配置される動力シャフト28(図1参照)を囲む筒状の中央円筒壁2cが形成されている。
【0025】
また、内底2aには、回転子6(図1参照)の回転半径方向の外側から中央側まで延びるように放射状に複数本の送り溝4aが形成されている。この送り溝4aは約600μmの深さが適している。送り溝4aの底の断面形状は幅方向の中央領域が最も深くなるように緩やかに湾曲している。この送り溝4aを通じて、混練中のカカオニブを半径方向に送ることができる。本実施の形態に係る固定臼2では、混練中のカカオニブは半径方向の外側から中央側へ送られるように構成されている。
【0026】
隣接する送り溝4aの間には、扇型の受圧部4bが形成されている。この受圧部4b上で回転子6との間でカカオニブが摩砕される。本実施の形態に係る構成では、受圧部4bは、送り溝4aの上端と同じ高さに形成されている。
【0027】
図4図5図6は、回転子6を示している。図4は斜視図、図5は側面図、図6は底面図である。また、図7は固定臼2に回転子6を組み合わせた状態の概念図である。凸条8aは省略している。また、動力シャフト28等も省略している。
【0028】
回転子6の摩砕部8は、半径方向の外縁から中央にかけて形成されている。この摩砕部8のうち、外縁に形成された部分は、投入直後の比較的大きい原料を粗粉砕するために設けられており、混練中には循環してくるカカオニブを取り込む取込部10としても機能する(図2も参照。)。図2図4および図5に表れている取込部10は、回転子6の外壁となる取込縦面10a、取込縦面10aの下端の粉砕エッジ10b及び、取込部10を区画する取込側壁10cとから構成されている。取込側壁10cには回転子6の回転方向に向かって傾斜し、取込縦面10aより高い位置まで延設された取込爪11の側面として形成されている。この取込部10の作用については、後に詳しく述べる。
【0029】
図6に示すように、底面側には、湾曲した凸条8aが、回転半径方向の外側と中央側との間に渡すように複数本形成されている。この回転子6の回転方向は、図4の斜視図において時計回り、図5の側面図において左から右であり、図6の底面図においては反時計周りの向きである。凸条8aは、回転前方側が凹むように湾曲している。そして、凸条8aの線幅は外側から中央側にかけて略一定であり、回転後方は膨らむように湾曲している。また、図6に見て取れるように、凸条8aの外側と中央側の位置は、中央側よりも外側の方が、回転子6の回転方向において回転前方に位置している。よって、凸条8aの外側が先行するように回転する。
【0030】
隣接する凸条8a同士の間には、高さ方向に凹状となるように加圧部8bが形成されている。この加圧部8bの深さは中央側から、加圧区画8ba、8bb、8bc、8bd、8beの順に深くなるように形成されている(図7参照。)。すなわち、使用時において対向配置される固定臼2の受圧部4b(図3参照)との間の寸法は、外側から中央側へ向けて次第に小さくなるように形成されている。このように形成されているので、回転子6の外縁側の取込部10から取り込まれたカカオニブは最初に外側の加圧区画8beで摩砕され、粒度が小さくなったものから順に中央側へ移動しながら摩砕されていく。
【0031】
回転子6の中央には、上下方向に貫通する還流孔8cが形成されている。この還流孔8cは、固定臼2の摩砕部4と回転子6の摩砕部8との間の摩砕領域において混練中されたカカオニブを、回転子6の上方側(還流路8d)へ還流させるために形成されている。これにより、回転子6の上方と下方の摩砕領域との間で混練中の原料が循環する。
【0032】
図4図5図6に表れているように、還流孔8cの内側には、内壁に沿って螺旋状に延びるように還流リブ8eが形成されている。本実施の形態では、この還流リブ8eは、図6に示すように4本設けられており、何れも上方から下方に向けて回転前方側へ下方傾斜している(図4参照)。これにより、回転子6が回転すると、上述したように固定臼2の送り溝4a(図3参照)を通して中央側に集められたカカオニブは、還流リブ8eの傾斜に沿って相対的に回転子6の上方へ送られる。回転子6の上面側には、還流孔8cを通して持ち上げられた原料を外側へ送るための還流路8dが形成されている。
【0033】
還流路8dは、図5に示されているように回転子6の還流孔8cから回転子6の外周に向かって下る略円錐状のテーパー面である。側面図では傾斜面である。よって、還流孔8cから溢れ出たカカオニブは、還流路8dの傾斜面に沿って半径方向の外側へ向けて流れる。
【0034】
さらに、運転中は回転子6が回転することにより遠心力が作用するので、速やかに扇型に広がりながら、略均等に回転子6の外縁の取込部10に流れ込む。
【0035】
<取り込部の作用>
ここで、構成の概要を上述した取込部10の作用について述べる。
【0036】
取込部10を構成する取込縦面10aの回転方向の側方に形成された取込側壁10cは、何れも上端側が下端側よりも回転前方側へ迫り出するように傾斜している。これにより、チョコレートメーカー1(図1参照)の運転始動時に、比較的粒度の大きい原料が取込部10に投入されたとき、取込縦面10aの両端の取込側壁10cのうち回転後方側は、下方へ押し込むように原料を誘導する。特に取込爪11が高さ方向に長く設けられているので、カカオニブが比較的大きな摩砕初期の場合であって、好適に取込部10に原料を押し込むことができる。このようにして下方に押し込まれた原料は、取込縦面10aに沿って降下し、粉砕エッジ10bの位置に達する。
【0037】
粉砕エッジ10bは、図4図5に見て取れるように、直線状に形成されている。固定臼2の円筒状に湾曲した内側壁2b(図3参照)に対して直線状の粉砕エッジ10bが旋回するので、内側壁2bに沿ったある特定位置に着目すると、粉砕エッジ10bが通過する際、内側壁2bと粉砕エッジ10bとの間の距離が変化する。この内側壁2bと粉砕エッジ10bとの間で距離が変化する隙間に入り込んだカカオニブは、回転半径方向へ相対的に押し出される粉砕エッジ10bの圧力によって粉砕される。このようにして、初期の比較的粒度の大きいカカオニブが取込部10によって粗粉砕される。
【0038】
<原料の流れ>
図7は、固定臼2と回転子6の関係を示した概念図である。摩砕領域R2は、固定臼2と回転子6との間に形成される。回転子6の上方に破線で囲んだ空間が原料投入領域R1である。この部分にカカオニブが投入される。投入されたカカオニブは、回転子6の外縁と固定臼2の内側壁2bとの間の取込部10から取り込まれる。処理中の原料の流れは塗りつぶしの矢印で示した。
【0039】
回転子6の上面に形成された還流路8dは、中央側から外側へ向けて下方に傾斜している。還流孔8cの還流リブ8eによって持ち上げられる原料は、還流孔8cの上端から出た時点で還流路8dの傾斜によって下方に流れるとともに、遠心力によって外側へ引っ張られる。これにより、カカオニブは速やかに還流路8dを通過し、回転子6の外縁と固定臼2の内側壁2bとの間に形成された取込部10から再び取り込まれる。循環のスピードは、還流孔8c内の還流リブ8eの傾斜角度、還流リブ8eの数、還流路8dの傾斜角度、還流路8dの幅等に加えて、回転子6の回転数を適宜選択することで設計段階における調節が可能である。
【0040】
動力シャフト28に取り付けられているバネ押さえ22とバネ20(図1参照)によって回転子6は、動力シャフト28に対して相対的に上下動可能に設けられている。そして、バネ20によって下方に向けて付勢されている。これにより、比較的粒度の大きい原料が回転子6と固定臼2との間に噛み込んだ場合、回転子6はバネ20の付勢に抗して上方へ退避可能である。
【0041】
図8に回転子6の外周方向からみた断面の概念図を示す。固定臼2の送り溝4aが紙面手前から奥に向かって延設されている。回転子6の加圧部8bも紙面手前から奥に向かって延設されている。ここでは、図8では回転子6の凸条8aが幅広く、加圧部8bが幅狭く描かれているが、本来、凸条8aは狭く、加圧部8bの幅が広い。
【0042】
送り溝4aの深さは上述したように600μm程度であるのに対して、加圧部8bは、100μmから20μmまで段階的に狭くなる。したがって、比較的大きな粒径のものは、送り溝4aを通過ながら循環し、摩砕されていく。
【0043】
一方、比較的小さな粒径のものは、狭い加圧部8bで積極的に衝突しあうことで摩砕されていく。したがって、粒径が小さくなると、衝突の回数を増やしてやることで、摩砕の速度が高まる。
【0044】
以上のように固定臼2と回転子6を突き合せて摩砕領域R2を作り、原料となるカカオニブを挽きつぶすことで摩砕する構成を有するチョコレートメーカー1の運転方法について説明する。図9には、制御部50の処理のフローを示す。また、図10には、回転子6の回転速度と経過時間の関係を表すグラフを示す。図10では、横軸がチョコレートメーカー1の処理開始からの時間を表し、縦軸は回転子6の回転数(rpm)を表すものである。なお、回転数は回転速度の代用であり、回転速度と考えてよい。また回転子6の回転数を「rp」とする。
【0045】
チョコレートメーカー1は、原料となるカカオニブ(数cmから数mm程度の粒径)を原料投入領域R1に投入する。そしてチョコレートメーカー1を起動する。
【0046】
図9を参照し、チョコレートメーカー1が起動されると(ステップS100)、回転子6を第1回転数(rp=r1)で回転させる。これは第1処理工程と呼ぶことができる。第1処理工程では、大きな粒径の原料を小さく摩砕する。この際は、回転子6を低速度・高トルクで回転させる(ステップS102)。なお、動力シャフト28に取り付けられた従動プーリー30とモータ34の回転軸34aに取り付けられた駆動プーリー32の関係では、駆動プーリー32の方の歯数を少なく設定することで、回転子6の低回転速度且つ高トルクは実現することができる。
【0047】
大きな粒子は取込爪11と固定臼2の内側壁2bとの間で摩砕される。取込部10から摩砕領域R2に導かれた原料は、上から付勢された回転子6の粉砕エッジ10bで粉砕されながら、固定臼2の送り溝4aに沿って、摩砕されながら回転子6の中央に向かって送られる。そして還流孔8cに設けられた還流リブ8eによって、回転子6の上方に送られ、還流路8dに沿って取込部10に再び向かう。このような循環によって投入されたカカオニブの大きな塊は粉砕される。
【0048】
次に第1処理工程が一定時間継続されたかを判断する(ステップS104)。第1処理工程の実施時間を第1処理実施時間T1と呼ぶ。この判断は、処理開始からの経過時間TdがT1以上になったか否かで判断することができる。なお経過時間Tdは制御部50が内部タイマーで持つことができる。経過時間Tdが第1処理実施時間T1を経過した場合(ステップS104のY分岐)は処理を次に進める。経過していない場合(ステップS104のN分岐)は、第1処理工程を続ける。
【0049】
第1回転数での処理(第1処理工程)が終了したら、次に第2回転数(rp=r2)による処理を行う(ステップS106)。これは第2処理工程と呼ぶことができる。第2処理工程における第2回転数r2は、第1回転数r1よりも多い。つまり、回転速度は速くなる。2倍以上好ましくは3倍以上の回転速度であるのが望ましい。
【0050】
第2処理工程では、主として回転子6の加圧部8bの中で粒子同士の衝突を高めることで粒径の微細化が実行される。次に第2処理工程の経過時間を判断する(ステップS108)。第2処理工程を実施する時間を第2処理実施時間T2と呼ぶ。この判断は、経過時間TdがT1+T2以上になったか否かで判断する。
【0051】
第2処理実施時間T2が経過したら(ステップS108のY分岐)、処理を終了する(ステップS110)。経過してなければ、第2処理工程を継続する(ステップS108のN分岐)。第2処理工程までを実施することで、カカオニブは摩砕され粒度が20μm程度のなめらかなペーストを得ることができる。
【0052】
本発明に係るチョコレートメーカー1は、ヒーターステージ26を有しているので、この後さらにテンパリングの工程を行うこともできる。
【0053】
図11にテンパリング工程も行う場合の制御部50の処理フローを示す。また図12には回転子6の回転数(左縦軸:rpm)と経過時間(横軸)と共に固定臼2の温度(右縦軸:℃)を示す。
【0054】
図11を参照して、処理が始まると(ステップS200)、回転子6を第1回転数r1で回転させる(ステップS202)第1処理工程は、図9の場合と同じである。第1処理実施時間T1が経過したら(ステップS204のY分岐)、第2処理工程に移り、回転子6の第2回転数をr2まで上昇させる(ステップS206)。そして、第2処理実施時間T2がある程度経過するまでその状態を維持する(ステップS208のN分岐)。
【0055】
ここで図12を参照すると、第2処理工程は、最初のT2a時間と全行程であるT2b時間に分けられている。つまり、後半のT2b-T2a時間の処理の開始を判断する。
【0056】
第2処理工程に入ってからT2a時間経過したら、固定臼2の温度Tmをテンパリング開始温度(TMPH)にする。このとき、第2処理工程において、すでに固定臼2の温度がテンパリング開始温度(TMPH)より高ければヒーターステージ26でテンパリング開始温度(TMPH)まで冷却する。まだ、テンパリング開始温度(TMPH)まで到達していなければ、ヒーターステージ26でテンパリング開始温度(TMPH)まで加熱する(ステップS210)。そして、温度調整後は残りの第2処理工程を継続する(ステップS212のN分岐)。
【0057】
次に第2処理工程が終了したら(ステップS212のY分岐)、固定臼2の温度をテンパリング終了温度TMPLまで冷却し、回転数rpをr3まで落とす。これは第3処理工程である(ステップS214)。回転数r3は、回転数r2より遅い。テンパリング終了温度TMPLは、チョコレートの再結晶のための温度であり、回転数r3は、再結晶を均一に生じさせるための混錬である。したがって、早くなくてもよい。この状態で第3処理実施時間T3を継続する(ステップS216のN分岐)。第3処理実施時間T3が終了したら(ステップS216のY分岐)、全ての処理が終了する(ステップS218)。
【0058】
以上のように、固定臼2の送り溝4aと、送り溝4aの深さより浅い回転子6の加圧部8bを有する挽き器を2段階の回転速度で回転させることで、好適なチョコレートを短い処理時間で得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のチョコレートメーカーは、家庭においても簡単に好みのカカオニブを使ってチョコレートを作製することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 チョコレートメーカー
2 固定臼
10 取込部
50 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12