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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110682
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】ポリオレフィン微多孔膜
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/36 20060101AFI20240808BHJP
   C08J 9/26 20060101ALI20240808BHJP
   C08J 7/18 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C08J9/36 CES
C08J9/26 102
C08J7/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015407
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】幾田 良和
【テーマコード(参考)】
4F073
4F074
【Fターム(参考)】
4F073AA01
4F073AA11
4F073BA07
4F073BB04
4F073CA01
4F073CA65
4F073FA03
4F074AA18
4F074AB01
4F074AD01
4F074AG02
4F074AH01
4F074CB34
4F074CB43
4F074CC02X
4F074CC04Y
4F074CC27Y
4F074CC28Z
4F074CC29Z
4F074CD11
4F074CD17
4F074CE15
4F074CE34
4F074CE84
4F074CE98
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA08
4F074DA10
4F074DA23
4F074DA24
4F074DA43
(57)【要約】
【課題】小サイズの物質を捕集する性能と、捕集対象以外の物質を透過する性能とに優れるポリオレフィン微多孔膜を提供する。
【解決手段】ポリオレフィンを含み、ガーレ値が0.01秒/100mL以上20秒/100mL以下であり、厚みが25μm以上150μm以下であり、空孔率が80%以上98%以下であり、平均孔径が0.30μm以上0.60μm未満である、ポリオレフィン微多孔膜。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンを含み、ガーレ値が0.01秒/100mL以上20秒/100mL以下であり、厚みが25μm以上150μm以下であり、空孔率が80%以上98%以下であり、平均孔径が0.30μm以上0.60μm未満である、ポリオレフィン微多孔膜。
【請求項2】
前記ポリオレフィンがポリエチレンを含む、請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項3】
前記ポリエチレンが超高分子量ポリエチレンを含み、前記超高分子量ポリエチレンのポリオレフィン全体に占める割合が20質量%以下である、請求項2に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項4】
バブルポイント圧が0.020MPa以上0.080MPa以下である、請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項5】
MD方向の引張破断強度とTD方向の引張破断強度の比率(MD方向/TD方向)が0.20以上2.0以下である、請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項6】
厚みが30μm以上である、請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項7】
厚みが35μm以上である、請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項8】
前記ポリオレフィン微多孔膜の表面及び/又は内表面に、
(1)ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、ホルミル基、スルホ基、スルホニル基、チオール基、アミノ基、ニトリル基、ニトロ基、ピロリドン環基、フルオロ基、エーテル結合、及びアミド結合からなる群より選ばれる1種以上の官能基又は前記官能基を有する分子若しくは分子鎖が結合しているか、又は、
(2)ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、ホルミル基、スルホ基、スルホニル基、チオール基、アミノ基、ニトリル基、ニトロ基、ピロリドン環基、フルオロ基、エーテル結合、及びアミド結合からなる群より選ばれる1種以上の官能基を有する樹脂が付着している、
請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリオレフィン微多孔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
気体又は液体中の異物を捕集する手段として、不織布が広く使用されている。例えば、特許文献1には不織布からなり、浸漬型カートリッジに用いられる液体フィルターが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-19833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
捕集対象となる物質のサイズが0.3μmから3.0μm程度に小さくなると、不織布製のフィルターでは充分に捕集できない場合がある。不織布製のフィルターを用いた場合、構成繊維に物質を絡めて捕集するので、小さな物質の捕集性能を高めるためには、不織布の膜厚を大きくする等の必要があるが、その結果フィルターが大型化してしまう問題もある。したがって、小サイズの物質を捕集する性能に優れるフィルターが求められている。
さらに、フィルターの処理効率の観点からは、捕集を意図しない物質の単位時間あたりのフィルター透過量は多いほど好ましい。すなわち、捕集対象以外の物質を選択的に透過する性能に優れるフィルターが求められている。
このような要求特性を不織布で解決することには限界があるが、一方で、ポリオレフィン微多孔膜はフィブリル状のポリオレフィンを三次元網目状に形成したものであるため、上記要求特性を両立し得る可能性がある。
上記事情に鑑み、本開示の実施形態は、小サイズの物質を捕集する性能と、捕集対象以外の物質を透過する性能とに優れるポリオレフィン微多孔膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1>ポリオレフィンを含み、ガーレ値が0.01秒/100mL以上20秒/100mL以下であり、厚みが25μm以上150μm以下であり、空孔率が80%以上85%以下であり、平均孔径が0.30μm以上0.60μm未満である、ポリオレフィン微多孔膜。
<2>前記ポリオレフィンがポリエチレンを含む、<1>に記載のポリオレフィン微多孔膜。
<3>前記ポリエチレンが超高分子量ポリオレフィンを含み、前記超高分子量ポリオレフィンのポリオレフィン全体に占める割合が20質量%以下である、<1>又は<2>に記載のポリオレフィン微多孔膜。
<4>バブルポイント圧が0.020MPa以上0.080MPa以下である、<1>~<3>のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
<5>MD方向の引張破断強度とTD方向の引張破断強度の比率(MD方向/TD方向)が0.20以上2.0以下である、<1>~<4>のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
<6>厚みが30μm以上である、<1>~<5>のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
<7>厚みが35μm以上である、<1>~<5>のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
<8>前記ポリオレフィン微多孔膜の表面及び/又は内表面に、
(1)ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、ホルミル基、スルホ基、スルホニル基、チオール基、アミノ基、ニトリル基、ニトロ基、ピロリドン環基、フルオロ基、エーテル結合、及びアミド結合からなる群より選ばれる1種以上の官能基又は前記官能基を有する分子若しくは分子鎖が結合しているか、又は、
(2)ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、ホルミル基、スルホ基、スルホニル基、チオール基、アミノ基、ニトリル基、ニトロ基、ピロリドン環基、フルオロ基、エーテル結合、及びアミド結合からなる群より選ばれる1種以上の官能基を有する樹脂が付着している、
<1>~<7>のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【発明の効果】
【0006】
本開示の実施形態によれば、小サイズの物質を捕集する性能と、捕集対象以外の物質を透過する性能とに優れるポリオレフィン微多孔膜が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、発明の実施形態を説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。本開示において述べる作用機序は推定を含んでおり、その正否は発明の範囲を制限するものではない。
【0008】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を示す。
【0009】
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0010】
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0011】
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。本開示において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0012】
本開示においてポリオレフィン微多孔膜の「MD方向(機械方向)」とは、長尺状に製造されるポリオレフィン微多孔膜における長尺方向を意味し、「TD方向(幅方向)」とは「機械方向」に直交する方向を意味する。
【0013】
<ポリオレフィン微多孔膜>
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィンを含み、ガーレ値が0.01秒/100mL以上20秒/100mL以下であり、厚みが25μm以上150μm以下であり、空孔率が80%以上98%以下であり、平均孔径が0.30μm以上0.60μm未満である、ポリオレフィン微多孔膜である。
【0014】
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、小サイズの物質を捕集する性能と、捕集対象以外の物質を透過する性能とに優れる。具体的には、捕集対象の物質としては、大きさが0.3μm以上3.0μm以下である場合の捕集性能に特に優れる。捕集対象の物質は流体中に存在していてもよく、流体は液体でも気体でもよい。
【0015】
平均孔径が0.30μm以上0.60μm未満の範囲のポリオレフィン微多孔膜は一般的にガーレ値が増大する傾向にある。しかし、本開示ではポリオレフィン微多孔膜の厚みを25μm以上150μm以下として空孔率を80%以上98%以下にしたことで、ガーレ値が0.01秒/100mL以上20秒/100mL以下であるという物性を実現している。それにより、小サイズの物質を捕集する性能と流体の透過性能をバランスよく実現できることを見出した。不織布をフィルターとして用いて上記サイズの粒子を除去しようとする場合、不織布の厚みを厚くする必要がある。不織布の厚みが増すと、例えば、容積が既に決まっているカートリッジ中に収められる不織布の面積が狭くなる。不織布の面積が狭くなると捕集ができる領域が狭くなるので、フィルターが早く目詰まりを起こすようになり、フィルターの寿命が短くなると言う問題があった。本開示のポリオレフィン微多孔膜は、不織布に比べると厚みが薄い状態で同様の捕集性能を有する。その結果、フィルターの寿命を長く保つことができる。
更に本開示のポリオレフィン微多孔膜は、グラフト等の表面処理を行うことで、表面に所定の機能を付与することができる。例えば、ポリオレフィン微多孔膜の表面を親水化させることができる。これにより、親水性の媒体中の物質を有効に捕集することができる。
【0016】
本開示においてポリオレフィン微多孔膜とは、ポリオレフィンを含む微多孔膜を意味する。微多孔膜とは、フィブリル状のポリオレフィンが連結された三次元網目状構造を含み、内部に多数の微細孔を有し、これらの微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体又は液体が通過可能な状態である膜を意味する。
【0017】
従来のポリオレフィン微多孔膜は、小サイズの物質を捕集する性能(以下、捕集性能ともいう)及び捕集対象以外の物質を透過する性能(以下、透過性能ともいう)の少なくともいずれかにおいて改善の余地がある。
特定のガーレ値、厚み、空孔率及び平均孔径の条件を満たす本開示のポリオレフィン微多孔膜は、これらの性能をバランスよく充足している。
【0018】
本開示において、捕集対象となる物質の形態は特に制限されない。たとえば、捕集対象となる物質は粒子状であっても、粒子状でなくてもよい。
捕集対象となる物質が粒子状である場合、捕集対象となる物質の平均粒子径は0.1μm以上10μm以下の範囲内であってもよく、0.2μm以上5μm以下の範囲内であってもよく、0.3μm以上3μm以下の範囲内であってもよい。
本開示において捕集対象となる物質の平均粒子径は、画像解析法により求める。具体的には、電子顕微鏡等を用いて100個の粒子を観察し、観察された粒子の粒子径の算術平均値を捕集対象となる物質の平均粒子径とする。
捕集対象となる物質は、液体又は気体に含まれた状態であってもよい。
【0019】
[ポリオレフィン微多孔膜を構成するポリオレフィン]
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィンのみからなっていても、ポリオレフィンとポリオレフィン以外の材料とからなっていてもよい。ポリオレフィン微多孔膜がポリオレフィンとポリオレフィン以外の材料とからなる場合、ポリオレフィン微多孔膜全体に占めるポリオレフィンの割合は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィンは1種のみでもよく、分子構造、分子量等が異なる2種以上であってもよい。
【0020】
ポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィンとしてポリエチレンを含んでもよい。この場合、ポリオレフィン微多孔膜はポリオレフィンとしてポリエチレンのみを含んでも、ポリエチレンとポリエチレン以外のポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン)とを含んでもよい。ポリオレフィン微多孔膜がポリオレフィンとしてポリエチレンとポリエチレン以外のポリオレフィンとを含む場合、ポリオレフィン全体に占めるポリエチレンの割合は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
【0021】
ポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィンに含まれるポリエチレンとして超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)を含んでもよい。ポリオレフィン微多孔膜が超高分子量ポリエチレンを含んでいると、ポリオレフィン微多孔膜の孔径が大きすぎず捕集性能に優れる傾向にある。
【0022】
ポリオレフィン微多孔膜が超高分子量ポリエチレンを含む場合、超高分子量ポリエチレンのポリオレフィン全体に占める割合が20質量%以下であることが好ましい。超高分子量ポリエチレンのポリオレフィン全体に占める割合が20質量%以下であると、ポリオレフィン微多孔膜の孔径が小さすぎず透過性能に優れる傾向にある。
超高分子量ポリエチレンオレフィンのポリオレフィン全体に占める割合は18質量%以下であることが好ましく、16質量%以下であることがより好ましい。
また、ポリオレフィン微多孔膜が超高分子量ポリエチレンを含む場合、超高分子量ポリエチレンのポリオレフィン全体に占める割合が1質量%以上であることが好ましい。超高分子量ポリエチレンのポリオレフィン全体に占める割合が1質量%以上であると、ポリオレフィン微多孔膜の機械的強度を高めやすい。超高分子量ポリエチレンのポリオレフィン全体に占める割合は3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。
【0023】
ポリオレフィン微多孔膜が、ポリオレフィンとして超高分子量ポリエチレンと超高分子量ポリエチレン以外のポリオレフィン(以下、その他のポリオレフィンともいう)とを含む場合、その他のポリオレフィンの種類は特に制限されない。その他のポリオレフィンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)が好ましい。本開示において高密度ポリエチレンとは、密度が942kg/m以上のポリエチレンを意味する。
【0024】
本開示において、超高分子量ポリエチレンとは重量平均分子量が100万以上600万以下であるポリエチレンを意味する。
超高分子量ポリエチレンの重量平均分子量は、300万以上が好ましく、400万以上がより好ましい。また超高分子量ポリエチレンの重量平均分子量は、500万以下であることが好ましく、480万以下であることがより好ましい。
【0025】
本開示においてポリオレフィンの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される。
具体的には、測定対象のポリオレフィンをo-ジクロロベンゼン中に加熱溶解し、ゲル浸透クロマトグラフィー(システム:Waters社製 Alliance GPC 2000型、カラム:GMH6-HT及びGMH6-HTL)により、カラム温度135℃、流速1.0mL/分の条件にて測定を行うことで得られる。分子量の校正には分子量単分散ポリスチレン(東ソー社製)を用いる。
【0026】
[ガーレ値]
本開示のポリオレフィン微多孔膜のガーレ値は、0.01秒/100mL以上20秒/100mL以下である。
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、ガーレ値が0.01秒/100mL以上であることで充分な捕集性能が確保され、ガーレ値が20秒/100mL以下であることで充分な透過性能が確保される。
捕集性能の観点からは、ポリオレフィン微多孔膜のガーレ値は0.1秒/100mL以上であることが好ましく、1秒/100mL以上であることがより好ましい。
透過性能の観点からは、ポリオレフィン微多孔膜のガーレ値は、15秒/100mL以下であることが好ましく、13秒/100mL以下であることがより好ましい。
【0027】
本開示において、ポリオレフィン微多孔膜のガーレ値はJIS P8117:2009に準拠し、東洋精機製ガーレー式デンソメーターを用いて測定する。測定は28.6mmφのサンプルに対して200mlの空気が通過する時間を計測し、その時間を半分にして100mlあたりに換算した値を採用する。
【0028】
[厚み]
本開示のポリオレフィン微多孔膜の厚みは、25μm以上150μm以下である。
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、厚みが25μm以上であることで充分な捕集性能が確保され、厚みが150μm以下であることで充分な透過性能が確保される。
捕集性能の観点からは、ポリオレフィン微多孔膜の厚みは30μm以上であることが好ましく、35μm以上であることがより好ましい。
透過性能の観点からは、ポリオレフィン微多孔膜の厚みは130μm以下であることが好ましく、120μm以下であることがより好ましい。
【0029】
本開示において、ポリオレフィン微多孔膜の厚みは、接触式の膜厚計(ミツトヨ社製、ABSデジマチックインジケータ、型番Model ID:ID-S112X)を用いて測定する。具体的には、ポリオレフィン微多孔膜の厚みを20点で測定し、その算術平均値をポリオレフィン微多孔膜の厚みとする。接触端子としては底面が直径6.5mmの円柱状の端子を用いる。また、ポリオレフィン微多孔膜の厚みを測定する他の方法としては、接触式の厚み計(ミツトヨ社製LITEMATIC)を用い、測定端子は直径5mmの円柱状のものを用い、測定中に7gの荷重が印加されるように調整し、これにて20点測定し、これらを算術平均することで求める方法が挙げられる。
【0030】
[空孔率]
本開示のポリオレフィン微多孔膜の空孔率は、80%以上98%以下である。
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、空孔率が80%以上であることで充分な透過性能が確保され、空孔率が98%以下であることで充分な膜の強度が確保される。
透過性能の観点からは、ポリオレフィン微多孔膜の空孔率は81%以上であることが好ましく、82%以上であることがより好ましい。
膜の強度の観点からは、ポリオレフィン微多孔膜の空孔率は95%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましい。
【0031】
本開示において、ポリオレフィン微多孔膜の空孔率は、下記の算出方法に従って求める。即ち、ポリオレフィン微多孔膜の構成材料がa、b、c、…、nであり、各構成材料の質量がWa、Wb、Wc、…、Wn(g/cm)であり、各構成材料の真密度がda、db、dc、…、dn(g/cm)であり、ポリオレフィン微多孔膜の厚みをt(cm)としたとき、空孔率ε(%)を下記の式により求める。
ε={1-(Wa/da+Wb/db+Wc/dc+…+Wn/dn)/t}×100
【0032】
[平均孔径]
本開示のポリオレフィン微多孔膜の平均孔径は、0.30μm以上0.60μm未満である。
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、平均孔径が0.30μm以上であることで充分な透過性能が確保され、平均孔径が0.60μm未満であることで充分な捕集性能が確保される。
透過性能の観点からは、ポリオレフィン微多孔膜の平均孔径は0.32μm以上であることが好ましく、0.35μm以上であることがより好ましい。
捕集性能の観点からは、ポリオレフィン微多孔膜の平均孔径は0.59μm以下であることが好ましく、0.58μm以下であることがより好ましい。
【0033】
本開示において、ポリオレフィン微多孔膜の平均孔径は、PMI社のパームポロメータ(型式:CFP-1200-AEXL)を用い、浸液にPMI社製のガルウィック(表面張力15.9dyn/cm)を用いて、ASTM E1294-89に規定するハーフドライ法により求める。測定温度は25℃とし、測定圧力は0kPaから600kPaの範囲で変化させる。
【0034】
[バブルポイント圧]
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、バブルポイント圧が0.020MPa以上0.080MPa以下であることが好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜のバブルポイント圧が0.020MPa以上であると、捕集性能に優れる傾向にある。
ポリオレフィン微多孔膜のバブルポイント圧が0.080MPa以下であると、透過性能に優れる傾向にある。
捕集性能の観点からは、ポリオレフィン微多孔膜のバブルポイント圧は0.025MPa以上であることが好ましく、0.030MPa以上であることがより好ましい。
透過性能の観点からは、ポリオレフィン微多孔膜のバブルポイント圧は0.070MPa以下であることが好ましく、0.065MPa以下であることがより好ましい。
【0035】
本開示において、ポリオレフィン微多孔膜のバブルポイント圧は、ポリオレフィン微多孔膜をエタノールに浸漬し、JIS K3832:1990のバブルポイント試験方法にしたがって測定する。測定は、試験時の液温を24±2℃に変更し、印加圧力を昇圧速度2kPa/秒で昇圧しながら実施する。
【0036】
[M/T比]
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、MD方向の引張破断強度とTD方向の引張破断強度の比率(MD方向/TD方向、M/T比ともいう)が0.20以上2.0以下であることが好ましく、0.23以上であることがより好ましく、0.40以上であることが更により好ましい。本開示のポリオレフィン微多孔膜のM/T比は2.0以下であることが好ましく、1.0以下であることがより好ましく、0.80以下であることが更により好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜のM/T比が上記範囲内であると、ポリオレフィン微多孔膜の物理的な強度が充分に確保される。
【0037】
本開示において、ポリオレフィン微多孔膜の引張破断強度は、JIS K7176:2014に準拠し、オリエンテック社製 テンシロン試験機RTG-1225型を用いて測定する。サンプル幅は15mm、試験機のチャック間距離(標線距離)は500mmとし、200mm/分の速度で引張り、サンプルが破断した時点の荷重をサンプルの幅で除した値を求める。3個のサンプルを用いて同一の測定操作を3回行い、得られた値を平均して引張破断強度の値とする。
【0038】
[ポリオレフィン微多孔膜の製造方法]
ポリオレフィン微多孔膜は、例えば、下記の工程(I)~(IV)を含む製造方法で製造することができる。
【0039】
工程(I):ポリオレフィンと大気圧における沸点が210℃未満の揮発性の溶剤とを含む溶液を調製する工程。
工程(II):前記溶液を溶融混練し、得られた溶融混練物をダイより押し出し、冷却固化して第一のゲル状成形物を得る工程。
工程(III):前記第一のゲル状成形物を少なくとも一方向に延伸(一次延伸)し且つ溶剤の乾燥を行い第二のゲル状成形物を得る工程。
工程(IV):前記第二のゲル状成形物を少なくとも一方向に延伸(二次延伸)する工程。
【0040】
工程(I)は、ポリオレフィンと大気圧における沸点が210℃未満の揮発性の溶剤とを含む溶液を調製する工程である。前記溶液は、好ましくは熱可逆的ゾルゲル溶液であり、ポリオレフィンを溶剤に加熱溶解させることによりゾル化させ、熱可逆的ゾルゲル溶液を調製する。大気圧における沸点が210℃未満の揮発性の溶剤としてはポリオレフィンを十分に溶解できる溶剤であれば特に限定されない。前記揮発性の溶剤として具体的にはテトラリン(206℃~208℃)、エチレングリコール(197.3℃)、デカリン(デカヒドロナフタレン、187℃~196℃)、トルエン(110.6℃)、キシレン(138℃~144℃)、ジエチルトリアミン(107℃)、エチレンジアミン(116℃)、ジメチルスルホキシド(189℃)、ヘキサン(69℃)等が挙げられ、デカリン又はキシレンが好ましい。上記の例示において、括弧内の温度は大気圧における沸点である。前記揮発性の溶剤は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
工程(I)に使用するポリオレフィンは1種のみでも2種以上であってもよく、ポリオレフィン微多孔膜の所望の物性等に応じて選択できる。
【0042】
工程(I)において調製する溶液は、ポリオレフィン微多孔膜の多孔質構造を制御する観点から、ポリオレフィン濃度が10質量%~40質量%であることが好ましく、15質量%~35質量%であることがより好ましく、25~32質量%であることが更により好ましい。溶液中のポリオレフィン濃度が10質量%以上であると、ポリオレフィン微多孔膜の製膜工程において切断の発生を抑制することができ、また、ポリオレフィン微多孔膜の力学強度が高まりハンドリング性が向上する。溶液中のポリオレフィン濃度が40質量%以下であると、本開示のポリオレフィン微多孔膜が得られやすい。
【0043】
工程(II)は、工程(I)で調製した溶液を溶融混練し、得られた溶融混練物をダイより押し出し、冷却固化して第一のゲル状成形物を得る工程である。工程(II)では、例えば、ポリオレフィンの融点から融点+65℃の温度範囲においてダイより押し出して押出物を得、次いで前記押出物を冷却して第一のゲル状成形物を得る。第一のゲル状成形物はシート状に賦形することが好ましい。冷却の方法は特に制限されない。例えば、水又は有機溶媒への浸漬、冷却された金属ロールへの接触などによって冷却を行ってもよい。
【0044】
工程(III)は、第一のゲル状成形物を少なくとも一方向に延伸(一次延伸)し且つ溶剤の乾燥を行い第二のゲル状成形物を得る工程である。工程(III)の延伸工程は、一軸延伸又は二軸延伸のいずれでもよい。二軸延伸は、縦延伸と横延伸とを別々に実施する逐次二軸延伸でもよく、縦延伸と横延伸とを同時に実施する同時二軸延伸でもよい。一次延伸の延伸倍率(縦延伸倍率と横延伸倍率の積)は、ポリオレフィン微多孔膜の多孔質構造を制御する観点から、1.1倍~3倍が好ましく、1.1倍~2倍がより好ましい。一次延伸の延伸時の温度は、75℃以下が好ましい。
工程(III)における溶剤の乾燥(乾燥工程)は、第二のゲル状成形物が変形しない温度で行うことが好ましく、60℃以下で行うことがより好ましい。
【0045】
工程(III)の延伸工程と乾燥工程とは、同時に行ってもよく、段階的に行ってもよい。例えば、予備乾燥しながら一次延伸し、次いで本乾燥を行ってもよいし、予備乾燥と本乾燥との間に一次延伸を行ってもよい。一次延伸は、乾燥を制御し、溶剤を好適な状態に残存させた状態でも行うことができる。
【0046】
工程(IV)は、第二のゲル状成形物を少なくとも一方向に延伸(二次延伸)する工程である。工程(IV)の延伸工程は、二軸延伸が好ましい。二軸延伸は、縦延伸と横延伸とを別々に実施する逐次二軸延伸;縦延伸と横延伸とを同時に実施する同時二軸延伸;縦方向に複数回延伸した後に横方向に延伸する工程;縦方向に延伸し横方向に複数回延伸する工程;逐次二軸延伸した後にさらに縦方向及び/又は横方向に1回又は複数回延伸する工程;のいずれでもよい。
【0047】
二次延伸の延伸倍率(縦延伸倍率と横延伸倍率の積)は、ポリオレフィン微多孔膜の多孔質構造を制御する観点から、好ましくは5倍~90倍であり、より好ましくは10倍~60倍である。二次延伸の延伸温度は、ポリオレフィン微多孔膜の多孔質構造を制御する観点から、70℃~135℃が好ましく、80℃~130℃がより好ましい。
【0048】
必要に応じ、工程(IV)の後に熱固定処理を行ってもよい。熱固定処理の温度は、ポリオレフィン微多孔膜の多孔質構造を制御する観点から、110℃~150℃が好ましく、120℃~140℃がより好ましい。
【0049】
必要に応じ、熱固定処理の後にポリオレフィン微多孔膜に残存している溶媒の抽出処理とアニール処理とを行ってもよい。残存溶媒の抽出処理は、例えば、熱固定処理後のシートを塩化メチレン浴に浸漬させて、塩化メチレンに残存溶媒を溶出させることにより行う。塩化メチレン浴に浸漬したポリオレフィン微多孔膜は、塩化メチレン浴から引き揚げた後、塩化メチレンを乾燥によって除去することが好ましい。アニール処理は、残存溶媒の抽出処理の後に、ポリオレフィン微多孔膜を例えば70℃~140℃に加熱したロール上を搬送することで行うか、又はポリオレフィン微多孔膜を70℃~140℃の加熱雰囲気下、幅方向の寸法が一定になるように保持した状態で搬送することで行うことができる。
【0050】
[ポリオレフィン微多孔膜の表面処理]
必要に応じ、ポリオレフィン微多孔膜に対して表面処理を施してもよい。表面処理を行うことによって、ポリオレフィン微多孔膜に所望の機能を付与することができる。
表面処理を実施する方法は特に制限されず、グラフト処理、プラズマ処理、電子線処理、コロナ処理、機能性ポリマーによるコーティング処理等が挙げられる。
【0051】
表面処理されたポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィン微多孔膜の表面及び/又は内表面に、
(1)ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、ホルミル基、スルホ基、スルホニル基、チオール基、アミノ基、ニトリル基、ニトロ基、ピロリドン環基、フルオロ基、エーテル結合、及びアミド結合からなる群より選ばれる1種以上の官能基又は前記官能基を有する分子若しくは分子鎖が結合しているか、又は、
(2)ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、ホルミル基、スルホ基、スルホニル基、チオール基、アミノ基、ニトリル基、ニトロ基、ピロリドン環基、フルオロ基、エーテル結合、及びアミド結合からなる群より選ばれる1種以上の官能基を有する樹脂が付着している状態であってもよい。
【0052】
上述した官能基を有する分子としては、官能基と炭化水素基とを含む分子が挙げられる。ポリオレフィンに結合させた官能基又は官能基を有する分子に対してさらに官能基又は官能基を有する分子を結合させてもよい。また本開示のポリオレフィン微多孔膜を構成するポリオレフィンのある1つの水素原子が存在する位置に対して、上記の表面処理を行った結果、2分子以上の官能基を有する分子がポリオレフィンに結合し、ポリオレフィンの主鎖から側鎖状に分子鎖を形成するような態様も含むものである。
【0053】
上述した官能基を有する樹脂としては、ポリビニルアルコール、オレフィン・ビニルアルコール系樹脂、アクリル・ビニルアルコール系樹脂、メタクリル・ビニルアルコール系樹脂、ビニルピロリドン・ビニルアルコール系樹脂、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、パーフルオロスルホン酸系樹脂、ポリスチレンスルホン酸、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、パーフルオロアルコキシアルカン、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。
【0054】
ある実施態様では、ポリオレフィン微多孔膜に対し、捕集対象の物質又はこれを含む媒体に対する親和性を高めるための表面処理を施してもよい。たとえば、表面処理によってポリオレフィン微多孔膜の親水性を高めることで、親水性の物質又はこれを含む媒体に対する捕集性能を向上させてもよい。
ある実施態様では、ポリオレフィン微多孔膜に対し、イオン性の官能基を導入するための表面処理を施してもよい。たとえば、表面処理によってポリオレフィン微多孔膜にアニオン性(又はカチオン性)の官能基を導入することで、カチオン性(又はアニオン性)の物質に対する捕集性能を向上させてもよい。
【0055】
[グラフト充填量]
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、グラフト充填量が2.0g/m以上であることが好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜のグラフト充填量が2.0g/m以上であると、ポリオレフィン微多孔膜に対して表面処理を行う場合に、表面処理の効果が充分に発揮される。ポリオレフィン微多孔膜のグラフト充填量は3.0g/m以上であることがより好ましく、3.5g/m以上であることがさらに好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜のグラフト充填量の上限は特に制限されないが、充分な透過性能を確保する観点からは10.0g/m以下であることが好ましく、9.5g/m以下であることがより好ましい。
【0056】
ポリオレフィン微多孔膜のグラフト充填量は、ポリオレフィン微多孔膜に付与し得る表面処理の効果の程度を示す指標であり、ポリオレフィン微多孔膜が実際に表面処理されていることを要しない。
【0057】
本開示において、ポリオレフィン微多孔膜のグラフト充填量は下記の方法で測定される。
ポリオレフィン微多孔膜をカットして10cm×10cmのサンプルを作製する。サンプルに対し、アルゴン雰囲気下で、出力20W及び真空度10Paの条件でプラズマ処理を1分間実施する。次いで、サンプルをアクリル酸の溶液(濃度:10質量%、溶媒:純水)に浸漬し、80℃で30分反応させる。その後、サンプルを水及びエタノールの混合液(質量比1:1)で洗浄し、真空乾燥機で乾燥する。下記式により、サンプルのグラフト充填量を算出する。サンプルの目付は、サンプルの質量の測定値に100を乗じて得られる値とする。
グラフト充填量(g/m)=グラフト後のサンプルの目付(g/m)-グラフト前のサンプルの目付(g/m
【0058】
[ポリオレフィン微多孔膜の用途]
ポリオレフィン微多孔膜の用途は特に制限されない。具体的な用途としては、エアフィルター、液体フィルター、透湿防水膜、袋(バッグ)、集塵シート基材等が挙げられる。
ポリオレフィン微多孔膜を粒子状の物質の捕集に使用する場合、捕集対象となる物質の平均粒径は0.1μm以上10μm以下の範囲内であってもよく、0.2μm以上5μm以下の範囲内であってもよく、0.3μm以上3.0μm以下の範囲内であってもよい。
捕集対象の物質は、液体又は気体のいずれかに含まれた状態であってもよい。
【実施例0059】
以下に実施例を挙げて、本開示のポリオレフィン微多孔膜をさらに具体的に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本開示の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本開示のポリオレフィン微多孔膜の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきではない。
【0060】
[実施例1]
重量平均分子量(Mw)が460万の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)15質量部と、重量平均分子量(Mw)が56万であり密度が950kg/mである高密度ポリエチレン(HDPE)85質量部とを混合したポリエチレン組成物を用意した。次いで、ポリエチレン組成物の濃度が30質量%となるようにポリエチレン組成物と溶剤としてのデカリンとを混合して、ポリエチレン溶液を調製した。
【0061】
上記のポリエチレン溶液を温度160℃でダイからシート状に押出し、次いで押出物を水温20℃の水浴中で冷却し、第一のゲル状シートを得た。
【0062】
第一のゲル状シートを60℃、10分の条件で予備乾燥し、次いで、MD方向に1.2倍で一次延伸をし、次いで、本乾燥を50℃、7分の条件で行って、第二のゲル状シートを得た。第二のゲル状シート中の溶剤の残留量は、1質量%未満とした。
次いで、二次延伸として、第二のゲル状シートをMD方向に温度90℃にて倍率3.5倍で延伸し、続いてTD方向に温度125℃にて倍率10.0倍で延伸した。二次延伸の後、直ちに134℃の熱処理(熱固定)を行った。
【0063】
熱固定後のシートを、3槽に分かれた塩化メチレン浴に合計で2分間連続して浸漬させながら、シート中の溶剤を抽出した。シートを塩化メチレン浴から搬出した後、40℃の加熱ロール上にてシートを乾燥して塩化メチレンを除去した。その後、シートのアニール処理を80℃の加熱雰囲気下で実施した。
以上の工程を経て、実施例1のポリオレフィン微多孔膜を得た。実施例1のポリオレフィン微多孔膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ、フィブリル状のポリオレフィンが連結された三次元網目状構造を含み、内部に多数の微細孔を有し、これらの微細孔が連結された構造となっていることが観察された。
【0064】
[実施例2~6及び比較例1~6]
ポリエチレン溶液の組成又はポリオレフィン微多孔膜の製造工程の条件を表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2~6及び比較例1~6のポリエチレン微多孔膜を作製した。実施例2~6及び比較例1~6のポリオレフィン微多孔膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ、フィブリル状のポリオレフィンが連結された三次元網目状構造を含み、内部に多数の微細孔を有し、これらの微細孔が連結された構造となっていることが観察された。
【0065】
【表1】
【0066】
[ガーレ値の測定]
ポリオレフィン微多孔膜のガーレ値は、JIS P8117:2009に準拠し、東洋精機製ガーレー式デンソメーターを用いて測定を行った。測定は28.6mmφのサンプルに対して200mlの空気が通過する時間を計測し、その時間を半分にして100mlあたりに換算した値を採用した。結果を表2に示す。
【0067】
[厚みの測定]
ポリオレフィン微多孔膜の厚みは、接触式の膜厚計(ミツトヨ社製、ABSデジマチックインジケータ、型番Model ID:ID-S112X)を用いて測定した。具体的には、ポリオレフィン微多孔膜の厚みを20点で測定し、その算術平均値を厚みとした。接触端子としては底面が直径6.5mmの円柱状の端子を用いた。結果を表2に示す。
【0068】
[空孔率の測定]
ポリオレフィン微多孔膜の空孔率は、下記の算出方法に従って求めた。即ち、ポリオレフィン微多孔膜の構成材料がa、b、c、…、nであり、各構成材料の質量がWa、Wb、Wc、…、Wn(g/cm)であり、各構成材料の真密度がda、db、dc、…、dn(g/cm)であり、ポリオレフィン微多孔膜の厚みをt(cm)としたとき、空孔率ε(%)を下記の式により求めた。結果を表2に示す。
ε={1-(Wa/da+Wb/db+Wc/dc+…+Wn/dn)/t}×100
【0069】
[平均孔径の測定]
ポリオレフィン微多孔膜の平均孔径は、PMI社のパームポロメータ(型式:CFP-1200-AEXL)を用い、浸液にPMI社製のガルウィック(表面張力15.9dyn/cm)を用いて、ASTM E1294-89に規定するハーフドライ法により求めた。測定温度は25℃とし、測定圧力は0kPaから600kPaの範囲で変化させた。
【0070】
[バブルポイント圧の測定]
ポリオレフィン微多孔膜のバブルポイント圧は、ポリオレフィン微多孔膜をエタノールに浸漬し、JIS K3832:1990のバブルポイント試験方法にしたがって測定した。測定は、試験時の液温を24±2℃に変更し、印加圧力を昇圧速度2kPa/秒で昇圧しながら実施した。
【0071】
[引張破断強度の測定]
ポリオレフィン微多孔膜の引張破断強度はJIS K7176:2014に準拠し、オリエンテック社製 テンシロン試験機RTG-1225型を用いて測定を行った。サンプル幅は15mm、試験機のチャック間距離(標線距離)は500mmとし、200mm/分の速度で引張り、サンプルが破断した時点の荷重をサンプルの幅で除した値を求めた。3個のサンプルを用いて同一の測定操作を3回行い、得られた値を平均して引張破断強度の値とした。ポリオレフィン微多孔膜のMD方向及びTD方向について測定した引張破断強度の値からM/T比を算出した。結果を表2に示す。
【0072】
[グラフト充填量の測定]
ポリオレフィン微多孔膜をカットして10cm×10cmのサンプルを作製した。サンプルに対し、アルゴン雰囲気下で、出力20W及び真空度10Paの条件でプラズマ処理を1分間実施した。次いで、サンプルをアクリル酸の溶液(濃度:10質量%、溶媒:純水)に浸漬し、80℃で30分反応させた。その後、サンプルを水及びエタノールの混合液(質量比1:1)で洗浄し、真空乾燥機で乾燥した。下記式により、サンプルのグラフト充填量を算出した。サンプルの目付は、サンプルの質量の測定値に100を乗じて得られる値とした。結果を表2に示す。
グラフト充填量(g/m)=グラフト後のサンプルの目付(g/m)-グラフト前のサンプルの目付(g/m
【0073】
[液体流量の測定]
上述したグラフト充填量の測定方法に記載した表面処理を行ったポリオレフィン微多孔膜を直径30mmの円形に切り出し、直径16mmのステンレス製の透液セルにセットした。94kPaの差圧で予め計量した純水(10mL)を透過させて、純水全量が透過するのに要した時間を計測した。
10mLの純水がポリオレフィン微多孔膜を透過するのに要した時間が、100秒以下の場合は「A」と、100秒を超え200秒以下の場合は「B」と、200秒を超え500秒以下の場合は「C」と、500秒を超える場合は「D」とした。結果を表2に示す。
【0074】
[粒子捕集率の測定]
ポリスチレンビーズ(粒子径:500nm)を純水に分散させて分散液(濃度:10ppm)を調製した。この分散液と上述したグラフト充填量の測定方法に記載した表面処理を行ったポリオレフィン微多孔膜を測定装置にセットし、減圧度94kPaで分散液(10mL)をろ過した。ろ過後の分散液のポリスチレンビーズ濃度(ppm)を、分光光度計を用いて測定した。下記式により、ポリオレフィン微多孔膜の粒子捕集率を算出した。
粒子捕集率が99%以上である場合は「A」と、95%以上99%未満である場合は「B」と、90%以上95%未満である場合は「C」、90%未満である場合は「D]として、ポリオレフィン微多孔膜の捕集性能を評価した。結果を表2に示す。
粒子捕集率(%)={(ろ過前の濃度-ろ過後の濃度)/ろ過前の濃度}×100
【0075】
[ポリオレフィンの重量平均分子量の測定]
ポリオレフィン微多孔膜の作製に使用するポリオレフィンの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した。
具体的には、測定対象のポリオレフィンをo-ジクロロベンゼン中に加熱溶解し、ゲル浸透クロマトグラフィー(システム:Waters社製 Alliance GPC 2000型、カラム:GMH6-HT及びGMH6-HTL)により、カラム温度135℃、流速1.0mL/分の条件にて測定を行った。分子量の校正には分子量単分散ポリスチレン(東ソー社製)を用いた。
【0076】
[判定]
粒子捕集率の評価と液体流量の評価がともにA又はBである場合は「合格」と判定し、いずれか一方がC又はDである場合は「不合格」と判定した。結果を表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
表2に示すように、ガーレ値、厚み、空孔率及び平均孔径がそれぞれ本開示の条件を満たす実施例のポリオレフィン微多孔膜は、ガーレ値、厚み、空孔率及び平均孔径の少なくともいずれかが本開示の条件を満たさない比較例のポリオレフィン微多孔膜に比べて捕集性能及び透過性能の総合評価に優れていた。