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特開2024-110692位置合わせ装置及び放射線治療システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110692
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】位置合わせ装置及び放射線治療システム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
A61N5/10 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015428
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】市橋 正英
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AE03
4C082AJ01
4C082AJ03
4C082AJ16
4C082AJ20
4C082AP08
(57)【要約】
【課題】起伏が少ない体表面形状を測定した際に、位置合わせ精度の低下を抑制する。
【解決手段】 実施形態に係る位置合わせ装置は、測定部と、振幅算出部と、位置ずれ量算出部とを備える。前記測定部は、今回の治療時と前記治療時に先行する基準時との各々において、患者の呼吸状態に対応する複数の時点で前記患者の体表面形状を測定する。前記振幅算出部は、前記複数の時点の間の前記体表面形状の振幅を算出する。位置ずれ量算出部は、前記基準時の前記振幅と、前記治療時の前記振幅とに基づいて、前記基準時と前記治療時との間の前記患者の位置ずれ量を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
今回の治療時と前記治療時に先行する基準時との各々において、患者の呼吸状態に対応する複数の時点で前記患者の体表面形状を測定する測定部と、
前記複数の時点の間の前記体表面形状の振幅を算出する振幅算出部と、
前記基準時の前記振幅と、前記治療時の前記振幅とに基づいて、前記基準時と前記治療時との間の前記患者の位置ずれ量を算出する位置ずれ量算出部と、
を備えた位置合わせ装置。
【請求項2】
前記測定部は、前記体表面形状を一定時間内に測定し、
前記振幅算出部は、前記一定時間内の前記体表面形状の変動分を前記振幅として算出する、
請求項1に記載の位置合わせ装置。
【請求項3】
前記振幅算出部は、前記体表面形状に含まれる複数の位置を選択し、前記複数の位置の各々における前記体表面形状の変動分を前記振幅として算出する、
請求項1に記載の位置合わせ装置。
【請求項4】
前記位置ずれ量算出部は、前記基準時の前記振幅と前記治療時の前記振幅との間の差異が最小になる位置を求め、前記差異が最小になる位置に基づいて、前記位置ずれ量を算出する、
請求項1に記載の位置合わせ装置。
【請求項5】
前記位置ずれ量算出部は、前記治療時の前記振幅を、前記差異が最小になる位置に移動させる移動量を前記位置ずれ量として算出する、
請求項4に記載の位置合わせ装置。
【請求項6】
前記位置ずれ量算出部は、所定範囲内で前記差異を算出する位置を移動させることにより、前記差異が最小になる位置を求める、
請求項4に記載の位置合わせ装置。
【請求項7】
前記位置ずれ量算出部は、前記最小の差異が閾値を超えたとき、エラーを出力する、
請求項4に記載の位置合わせ装置。
【請求項8】
前記体表面形状を測定する際に、前記患者の呼吸状態をガイドするガイド部、を更に備えた請求項1に記載の位置合わせ装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の位置合わせ装置を備えた放射線治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
明細書等に開示の実施形態は、位置合わせ装置及び放射線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療の患者セットアップの際に、患者の体表面形状を光学的に測定することで、治療計画時との位置合わせが可能なSIGRT(Surface Image Guided Radiotherapy)システムが知られている。このSIGRTシステムは、放射線を用いないことから、無被ばくでの患者セットアップを実現している。
【0003】
以上のようなSIGRTシステムは、特段の問題はないものの、本発明者の検討によれば、胸部や腹部などの起伏が少ない体表面形状を測定した際に、測定結果内の凹凸の情報が少なくなり、位置合わせ精度が低下してしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-171482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
明細書等に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、起伏が少ない体表面形状を測定した際に、位置合わせ精度の低下を抑制することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る位置合わせ装置は、測定部と、振幅算出部と、位置ずれ量算出部とを備える。前記測定部は、今回の治療時と前記治療時に先行する基準時との各々において、患者の呼吸状態に対応する複数の時点で前記患者の体表面形状を測定する。前記振幅算出部は、前記複数の時点の間の前記体表面形状の振幅を算出する。位置ずれ量算出部は、前記基準時の前記振幅と、前記治療時の前記振幅とに基づいて、前記基準時と前記治療時との間の前記患者の位置ずれ量を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本実施形態に係る放射線治療システムの構成を示す図である。
図2図2は、図1の位置合わせ装置の構成を示す図である。
図3図3は、図2の位置合わせ装置による位置合わせに係る一連の処理の典型的な流れを示す図である。
図4図4は、図1の形状測定器による測定対象のスキャンを示す模式図である。
図5図5は、ステップST1の動作を説明するための模式図である。
図6図6は、治療計画時及び治療時に測定される体表面形状を説明するための模式図である。
図7図7は、ステップST2の動作を説明するための模式図である。
図8図8は、体表面形状の振幅を説明するための模式図である。
図9図9は、治療計画時の振幅データを説明するための模式図である。
図10図10は、治療時の振幅データを説明するための模式図である。
図11図11は、図3のステップST5の動作を説明するための模式図である。
図12図12は、図3のステップST5の動作を説明するための模式図である。
図13図13は、図3のステップST6の動作を説明するための模式図である。
図14図14は、本実施形態の変形例に係る位置合わせ装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係る位置合わせ装置を説明する。
【0009】
本実施形態に係る位置合わせ装置は、放射線治療のために位置合わせを行うコンピュータである。この位置合わせ装置は、放射線治療システムに包含されるものとする。
【0010】
図1に示すように、放射線治療システム1は、形状測定器2、位置合わせ装置3、治療計画画像撮影装置5、治療計画装置6及び放射線治療装置7を有する。形状測定器2、位置合わせ装置3、治療計画画像撮影装置5、治療計画装置6及び放射線治療装置7は、ネットワーク等を介して互いに通信可能に接続されている。
【0011】
形状測定器2は、患者の体表面形状を光学的に3次元的に測定する測定機器(3次元スキャナ)である。形状測定器2は、患者に光線等を送受信し、非接触で患者の凹凸を数値化して測定する。形状測定器2による出力データ(以下、スキャンデータと呼ぶ)は位置合わせ装置3に供給される。
【0012】
位置合わせ装置3は、今回の治療時の患者と、今回の治療に先行する基準時の患者との位置合わせを行うための位置ずれ量を求めるコンピュータである。基準時は、治療計画時、前回の治療時又はそれ以前の治療時である。本実施形態では、治療計画時を基準時の例に挙げて述べる。
【0013】
治療計画画像撮影装置5は、放射線治療計画に利用する医用画像(以下、治療計画画像と呼ぶ)を生成する医用画像診断装置である。治療計画画像撮影装置5は、患者の体表を描出可能であれば、如何なる医用画像診断装置でも良い。このような治療計画画像撮影装置5としては、例えば、X線コンピュータ断層撮影装置やコーンビームCT装置、磁気共鳴イメージング装置、超音波診断装置等が用いられる。
【0014】
治療計画装置6は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing unit)等のプロセッサ、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のメモリ、表示機器、入力インタフェース、通信インタフェースを含むコンピュータである。治療計画装置6は、治療計画画像撮影装置5から直接的に又はPACSシステム等を介して治療計画画像を受信する。治療計画装置6は、治療計画画像を利用して、患者に関する治療計画を作成する。治療計画は、治療計画画像と放射線治療条件とを含む。放射線治療条件は、腫瘍位置や放射線照射方向数、放射線照射角度、放射線強度、コリメータ開度、ウェッジフィルタ等の各種条件を含む。治療計画は、放射線治療装置7に送信される。
【0015】
放射線治療装置7は、治療用架台(ガントリ)と治療用寝台とコンソールとを有する。治療用架台は、照射ヘッドを回転軸回りに回転可能に支持する。照射ヘッドには、電子銃等により発生された電子等を加速する加速管と、加速管により加速された電子が衝突する金属ターゲットとが搭載される。金属ターゲットに電子が衝突することにより、放射線であるX線が発生する。照射ヘッドは、治療計画装置6により同定された治療計画に含まれる放射線治療条件に従い放射線を照射する。照射ヘッドからの放射線のビーム軸と回転軸とが交わる点は、空間的に不動であり、アイソ・センタと呼ばれている。治療用寝台は、患者が載置される治療用天板と、治療用天板を移動自在に支持する基台とを有する。治療用天板は、撮像用天板と同様に平面形状を有している。患者の治療部位がアイソ・センタに一致するように治療用架台、治療用寝台及び患者が位置合わせされる。
【0016】
図2に示すように、位置合わせ装置3は、処理回路31、メモリ32、ディスプレイ33、入力インタフェース34及び通信インタフェース35を有する。処理回路31、メモリ32、ディスプレイ33、入力インタフェース34及び通信インタフェース35は、互いにバスを介して通信可能に接続されている。
【0017】
処理回路31は、ハードウェア資源として、CPUやGPU等のプロセッサを有する。処理回路31は、位置合わせに関するプログラム(以下、位置合わせプログラムと呼ぶ)を実行し、測定機能311、振幅算出機能312、位置ずれ量算出機能313を実現する。
【0018】
測定機能311は、治療計画時と今回の治療時との各々において、患者の呼吸状態に対応する複数の時点で患者の体表面形状を測定する。例えば、測定機能311は、患者の呼吸状態に対応する複数の時点で形状測定器2から出力された患者に関するスキャンデータを、通信インタフェース35等を介して取得する。測定機能311及び処理回路31は、測定部の一例である。
【0019】
振幅算出機能312は、複数の時点の間の体表面形状の振幅を算出する。例えば、振幅算出機能312は、測定機能311により体表面形状が一定時間内に測定された場合、一定時間内の体表面形状の変動分を振幅として算出する。なお、振幅としては、絶対的な数値を算出してもよく、任意の位置の振幅を基準とした相対的な数値(パーセント)を算出してもよい。振幅算出機能312及び処理回路31は、振幅算出部の一例である。
【0020】
位置ずれ量算出機能313は、治療計画時の振幅と、今回の治療時の振幅とに基づいて、治療計画時と今回の治療時との間の患者の位置ずれ量を算出する。位置ずれ量算出機能313及び処理回路31は、位置ずれ量算出部の一例である。
【0021】
メモリ32は、種々の情報を記憶するRAMやROM、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、集積回路記憶装置等の記憶装置である。例えば、メモリ32は、治療計画画像、治療計画、位置合わせプログラム等を記憶する。ハードウェアとしてメモリ32は、CD-ROMドライブやDVDドライブ、フラッシュメモリ等の可搬性記録媒体との間で種々の情報を読み書きする駆動装置等であってもよい。
【0022】
ディスプレイ33は、処理回路31の処理に関する種々の情報を表示する。ディスプレイ33は、例えば、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、プラズマディスプレイ、又は当技術分野で知られている他の任意のディスプレイが適宜利用可能である。また、ディスプレイ33は、プロジェクタであってもよい。
【0023】
入力インタフェース34は、入力機器を介して受け付けたユーザからの各種指令を入力する。入力機器としては、キーボードやマウス、各種スイッチ等が利用可能である。入力インタフェース34は、入力機器からの出力信号を、バスを介して処理回路31に供給する。
【0024】
通信インタフェース35は、図示しない有線又は無線を介して、形状測定器2や治療計画画像撮影装置5、治療計画装置6、放射線治療装置7等との間でデータ通信を行う。例えば、通信インタフェース35は、形状測定器2からスキャンデータを受信する。また、通信インタフェース35は、治療計画画像撮影装置5から治療計画画像を受信する。
【0025】
以下、位置合わせ装置3による位置合わせに係る一連の処理について図3を用いて詳細に説明する。
【0026】
始めに、ステップST1において、図4に示すように、形状測定器2による患者Pのスキャンが行われる。患者P等は治療室に配置される。治療室には治療用架台71と治療用寝台74とが設置される。治療用架台71は保持装置72と、回転軸A1回りに回転可能に保持装置72に設けられた照射ヘッド73とを有する。治療用寝台74は、床面に設けられた基台75と、移動自在に基台75に支持される天板76とを有する。天井に設けられた形状測定器2によるスキャンのため、患者Pが天板76に載置されている。患者Pには放射線治療と同様、天板76における患者Pの体位を固定するための固定具81が装着されているものとする。また、治療用架台71の回転軸A1に平行する軸をZ軸、Z軸に鉛直に直交する軸をY軸、Z軸及びY軸に直交する方向をX軸とする。
【0027】
ユーザは、患者Pの体表面形状をスキャンするため、形状測定器2を動作させる。
【0028】
形状測定器2による測定方法としては、例えば、以下の3種類がある。第1の種類は、レーザ光を患者に照射し、その反射時間を計測して距離を演算する。第2の種類は、赤外線や白色光のパターン模様を患者に照射し、そのパターン模様の変化を光学カメラにより撮影し、撮影画像に画像処理を施して患者の凹凸を演算する。第3の種類は、2つの光学カメラから同時に患者を撮影し、その2つの光学カメラの視差を利用して撮影画像から患者の凹凸を演算する。
【0029】
スキャンにより形状測定器2は、患者Pの体表面形状に関するスキャンデータを位置合わせ装置3に出力する。スキャンデータは、形状測定器2による測定可能な情報の種類に応じて含む情報が異なる。形状測定器2が位置を測定する機能を有する場合、スキャンデータは、例えば、患者の体表面のサンプル点毎の位置情報に関するデータである。サンプル点は、形状測定器2から照射された光線の反射点に規定される。一方、形状測定器2が位置及び色を測定する機能を有する場合、スキャンデータは、例えば、サンプル点毎の位置情報及び色情報に関するデータである。位置情報は、実空間の3次元座標におけるサンプル点の位置により規定されてもよいし、実空間の3次元座標における形状測定器2の位置と形状測定器2からサンプル点までの距離との組合せにより規定されてもよい。なお、図5に示す如き、患者Pの顎部、首部、胸部、腹部の一連の体表面形状に関するスキャンデータSDは、顎部から胸部に至る直線L1に関する体表面形状と、胸部から臍部に至る直線L2に関する体表面形状との間で、異なる凹凸の情報を表している。例えば図6の上側に示すように、直線L1に関する体表面形状は凹凸の情報が多いのに対し、直線L2に関する体表面形状は凹凸の情報が少ない。この場合、図6の下側に示すように、治療計画時(実線)の直線L1で示す体表面形状と、治療時(破線)の直線L1で示す体表面形状とは、位置ずれが生じた場合に形状の差異が大きいことから、位置合わせ精度を維持し易い。これに対し、治療計画時(実線)の直線L2で示す体表面形状と、治療時(破線)の直線L2で示す体表面形状とは、位置ずれが生じた場合に形状の差異が小さいことから、位置合わせ精度が低下してしまう可能性がある。
【0030】
位置合わせ装置3の処理回路31は、形状測定器2から患者Pの呼吸状態に対応する複数の時点でスキャンデータSDを取得する。処理回路31は、呼吸により変動するスキャンデータSDを、リアルタイムで取得してもよいし、一括して取得してもよい。いずれにしても、処理回路31は、呼吸により変動するスキャンデータSDを取得することで、患者Pの呼吸状態に対応する複数の時点で患者Pの体表面形状を測定する。例えば図7に示すように、胸部から臍部に至る直線L2において、胸部側の端部を位置A、中央部を位置B、臍部側を位置Cとしたとする。この場合、図8(a)に示すように、各々の位置A,B,Cにおいて、呼吸によりスキャンデータSDが上下に変動する。すなわち、各々の位置A,B,Cを示すXYZ直交座標系において、高さ(Y軸)の値が変動する。また、呼吸による変動分に対応する振幅PBは、胸部側の位置Aから臍部側の位置Cに向かうにつれて大きくなる。また、図8(b)に示すように、呼吸によるスキャンデータSDの変動は、呼吸波形に対応し、周期的に繰り返される。従って、処理回路31は、少なくとも1つの呼吸波形が得られる一定時間内に体表面形状を測定する。また、処理回路31は、当該呼吸波形に基づき、スキャンデータSDが最小値を示す吸気開始時点と、スキャンデータSDが最大値を示す呼気開始時点とに対応する複数の時点で患者Pの体表面形状を測定する。
【0031】
ステップST1の後、ステップST2において、処理回路31は、複数の時点の間の体表面形状の振幅を算出する。具体的には、処理回路31は、測定した体表面形状の複数の参照点を決定する。各々の参照点は、例えば、測定領域内をある一定間隔で格子状に区切った格子の交点とする。また、処理回路31は、各々の参照点における一定時間内の体表面形状の変動分を振幅PBとして算出する。例えば、処理回路31は、体表面形状に含まれる複数の位置A,B,Cを選択し、複数の位置A,B,Cの各々における体表面形状の変動分を振幅PBとして算出する。例えば、位置Aに対応する参照点の場合、図9に示すように、位置A及び周辺位置における振幅PB(A)が算出される。同様に、位置B,Cに対応する各々の参照点の場合、位置B,C及び各々の周辺位置における振幅PB(B),PB(C)が算出される。ステップST2の終了により、治療計画時の位置合わせ装置3の動作が終了する。
【0032】
後日、治療時において、位置合わせ装置3は、ステップST3以降の動作を実行する。
【0033】
ステップST3において、治療前の患者セットアップのため、ステップST1と同様に形状測定器2による患者Pのスキャンが行われる。また同様に、位置合わせ装置3の処理回路31は、呼吸により変動するスキャンデータSDを取得することで、患者Pの呼吸状態に対応する複数の時点で患者Pの体表面形状を測定する。
【0034】
ステップST3の後、ステップST4において、処理回路31は、ステップST2と同様に、複数の時点の間の体表面形状の振幅を算出する。例えば、処理回路31は、治療計画時と同じ間隔で同じ個数の位置A,B,Cを選択し、図10に示すように、複数の位置A,B,Cの各々における体表面形状の変動分を振幅TB(A),TB(B),TB(C)として算出する。
【0035】
ステップST4の後、ステップST5において、処理回路31は、治療計画時の振幅PBと治療時の振幅TBとの間の差異を算出する。具体的には、処理回路31は、複数の位置A,B,Cの各々において、治療計画時の振幅PB(A),PB(B),PB(C)と、治療時の振幅TB(A),TB(B),TB(C)との間の差異を算出する。位置Aにおける差異(PB(A)-TB(A))を算出する過程を図11に示す。また、処理回路は、PB(A)-TB(A)の算出結果の累計値を差異として計算する。例えば、図11の場合、差異を示す累計値Vd(A)は、次式のように、図11右側に示す算出結果の表の各要素を合計して求める。
【0036】
Vd(A)=0.1+0.2+0.1+0.1+0.1+0.1+0.2+0.1+0.2+...
位置B,Cについても同様である。位置Cにおける差異を算出する過程を図12に示し、位置Cにおける差異を示す累計値Vd(C)を算出する例を次式に示す。
【0037】
Vd(C)=1.4+1.2+0.4+1.4+1.3+0.6+0.4+0.1+0.9+...
なお、図11及びVd(A)は差異が小さい例を示し、図12及びVd(c)は差異が大きい例を示している。
【0038】
ステップST5の後、ステップST6において、処理回路31は、複数の位置A,B,Cの各々において、差異を算出する位置を所定距離だけ移動させる。具体的には、差異の算出に用いる振幅TBの位置を所定距離だけ移動させる。位置Aにおける振幅TB(A)の位置を位置A*に移動させる例を図13に示す。なお、位置B、Cにおける振幅TB(B),TB(C)についても同様である。また、図13中、左右方向(X軸)に移動させた例を示すが、これに限らず、頭尾方向(Z軸)に移動させてもよい。また、ステップST6において、振幅方向(高さ方向、Y軸)に移動させることはない。
【0039】
ステップST6の後、ステップST7において、処理回路31は、所定範囲内で治療時の振幅TBの位置を所定距離ずつ移動させたか否かを判定する。例えば、この所定範囲を、頭尾方向に±2cm、左右方向に±2cmの範囲であるとする。処理回路31は、この所定範囲内で振幅TBの位置を1mmずつ、全て移動させたか否かを判定する。この判定の結果、否の場合にはステップST5に戻り、ステップST5~ST6を繰り返し実行する。このステップST5~ST7のループにより、処理回路31は、位置A,B,Cの各々において、所定範囲内の所定距離毎の位置A*,B*,C*における差異を示す累計値Vd(A*),Vd(B*),Vd(C*)を取得する。一方、ステップST7の判定の結果、所定範囲内で全て移動させた場合には、ステップST8に移行する。
【0040】
ステップST8において、処理回路31は、治療計画時の振幅PBと治療時の振幅TBとの間の差異が最小になる位置を求める。具体的には、処理回路31は、位置Aにおいて、所定範囲内の所定距離毎の位置における差異を示す累計値Vd(A*)のうち、最小の差異を示す累計値Vd(A*)と、当該累計値Vd(A*)となる位置A*とを求める。同様に、処理回路31は、位置B,Cにおいて、最小の差異を示す累計値Vd(B*),Vd(C*)と、当該累計値Vd(B*),Vd(C*)となる各々の位置B*,C*とを求める。
【0041】
ステップST8の後、ステップST9において、処理回路31は、位置A,B,Cの各々において、ステップST8で求めた最小の差異が閾値以下か否かを判定する。いずれかの位置A,B,Cにおいて否の場合、すなわち、最小の差異が閾値を超えたときには、エラーを出力して処理を終了する(ステップST10)。一方、ステップST9の判定の結果、最小の差異が閾値以下の場合には、ステップST11に移行する。
【0042】
ステップST11において、処理回路31は、ステップST8で求めた、差異が最小となる位置A*,B*,C*に移動させる移動量を算出する。詳しくは、処理回路31は、ステップST4における各々の位置A,B,Cを、ステップST8で求めた位置A*,B*,C*に移動させる移動量(A*-A),(B*-B),(C*-C)を位置ずれ量として算出する。しかる後、処理回路31は、位置ずれ量を放射線治療装置7に送出し、処理を終了する。放射線治療装置7では、送出された位置ずれ量に基づいて、天板76の左右方向(X軸)と頭尾方向(Z軸)の位置を補正する。ステップST11の終了により、治療時の位置合わせに関する処理を終了する。
【0043】
上述したように本実施形態によれば、処理回路31は、今回の治療時と治療時に先行する基準時との各々において、患者の呼吸状態に対応する複数の時点で患者Pの体表面形状を測定する。処理回路31は、複数の時点の間の体表面形状の振幅を算出する。処理回路31は、基準時の振幅と、治療時の振幅とに基づいて、基準時と治療時との間の患者の位置ずれ量を算出する。従って、起伏が少ない体表面形状を測定した際に、位置合わせ精度の低下を抑制することができる。また、呼吸状態に対応する複数の時点の間の振幅を求めるので、息止めを不要とすることができる。
【0044】
また、本実施形態によれば、処理回路31は、体表面形状を一定時間内に測定し、当該一定時間内の体表面形状の変動分を振幅として算出する。従って、前述した効果に加え、一定時間内の最大の体表面形状と最小の体表面形状との間の変動分を振幅として算出することができる。
【0045】
また、本実施形態によれば、処理回路31は、体表面形状に含まれる複数の位置を選択し、複数の位置の各々における体表面形状の変動分を振幅として算出する。従って、前述した効果に加え、選択した複数の位置の個数及び間隔に応じて、位置合わせ精度の向上を図ることができる。
【0046】
また、本実施形態によれば、処理回路31は、基準時の振幅と治療時の振幅との間の差異が最小になる位置を求め、差異が最小になる位置に基づいて、位置ずれ量を算出する。従って、前述した効果に加え、差異が最小となる位置の精度に応じて、位置ずれ量の精度を向上させることができる。
【0047】
また、本実施形態によれば、処理回路31は、治療時の振幅を、差異が最小になる位置に移動させる移動量を位置ずれ量として算出する。従って、前述した効果に加え、差異が最小になる位置への移動量の精度に応じて、位置ずれ量の精度を向上させることができる。
【0048】
また、本実施形態によれば、処理回路31は、所定範囲内で差異を算出する位置を移動させることにより、差異が最小になる位置を求める。従って、前述した効果に加え、所定範囲内で位置合わせが実行されることになるので、位置合わせ精度を維持することができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、処理回路31は、最小の差異が閾値を超えたとき、エラーを出力する。従って、前述した効果に加え、最小の差異であっても、閾値を超える差異の場合、位置合わせを実行しないので、位置合わせ精度を維持することができる。
【0050】
なお、本実施形態では、仰向けに載置された患者Pの胸部及び腹部が上下に変動したが、これに限定されない。例えば、本実施形態は、横向きに載置された患者Pの胸部及び腹部が呼吸により変動する場合にも同様に適用して同様の効果を得ることができる。
【0051】
また、本実施形態では、治療計画時を基準時とし、治療時との差異を算出したが、これに限定されない。例えば、本実施形態は、1回目の治療時を基準時とし、2回目以降の治療時との差異を算出する場合にも同様に適用して同様の効果を得ることができる。
【0052】
また、本実施形態では、治療計画時の患者Pの呼吸動作と、治療時の患者Pの呼吸動作とが略同一であることを前提としたが、これに限定されない。例えば、患者Pの体調により、治療計画時の患者Pの呼吸動作と、治療時の患者Pの呼吸動作とが異なる可能性がある。これに対し、処理回路31は、図14に示すように、治療計画時及び治療時の各々において、患者の体表面形状を測定する際に、患者の呼吸状態をガイドするガイド機能314を実現してもよい。ガイド機能314は、例えば、治療計画時の呼吸波形と、今回の治療時の呼吸波形とをディスプレイ33に重畳表示し、患者の呼吸制動をガイドする。また、ガイド機能314は、重畳表示に加え、呼吸制動をガイドする音声信号をスピーカ(図示せず)に送出してもよい。なお、ガイド機能314及び処理回路31は、ガイド部の一例である。このような変形例によれば、本実施形態の効果に加え、治療計画時及び治療時において、患者の呼吸動作が略同一になることを期待でき、位置合わせの精度を向上させることができる。
【0053】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、起伏が少ない体表面形状を測定した際に、位置合わせ精度の低下を抑制することができる。
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU、GPU、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC))、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサが例えばCPUである場合、プロセッサはメモリに保存されたプログラムを読み出して実行することで機能を実現する。一方、プロセッサが例えばASICである場合、プログラムがメモリに保存される代わりに、当該機能がプロセッサの回路内に論理回路として直接組み込まれる。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、図1及び図2における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
【0054】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0055】
1 放射線治療システム
2 形状測定器
3 位置合わせ装置
31 処理回路
311 測定機能
312 振幅算出機能
313 位置ずれ量算出機能
314 ガイド機能
32 メモリ
33 ディスプレイ
34 入力インタフェース
35 通信インタフェース
5 治療計画画像撮影装置
6 治療計画装置
7 放射線治療装置
71 治療用架台
72 保持装置
73 照射ヘッド
74 治療用寝台
75 基台
76 天板
81 固定具
図1
図2
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