(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110694
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】電源システム
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20240808BHJP
H02M 3/155 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
H02J7/00 302C
H02M3/155 H
H02M3/155 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015432
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 康浩
(72)【発明者】
【氏名】泉 純太
(72)【発明者】
【氏名】三木 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】伴 尊行
(72)【発明者】
【氏名】水野 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】戸村 修二
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大塚 一雄
(72)【発明者】
【氏名】塚田 浩司
【テーマコード(参考)】
5G503
5H730
【Fターム(参考)】
5G503BA03
5G503BB01
5G503DA02
5G503GB03
5H730AA14
5H730AS05
5H730BB13
5H730BB85
5H730BB88
5H730FF09
5H730FG05
5H730XX02
5H730XX13
5H730XX22
5H730XX33
(57)【要約】
【課題】電池ストリングを用いた電源システムにおいて、パススルー状態が生じても、損失の増大を抑制する。
【解決手段】電池ストリングは、複数の電池回路モジュールを直列接続可能に構成される。電池回路モジュールの駆動回路SU0~SU5は、スイッチをON/OFFするゲート信号を一定の遅延時間Tdずつ遅延しながら、下流の駆動回路SUへ伝達する。特定の電池回路モジュール(
図4では、駆動回路SU4)がパススルー状態になると、遅延時間が遅延時間Tdから遅延時間Tdsに切り換えられる。遅延時間Tdsは、遅延時間Tdより長い。これにより、「遅延時間×稼働する電池回路モジュール数」であるゲート信号の周期が短くなることを抑制でき(周波数が増大することを抑制でき)、損失の増大を抑制できる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池と、前記電池に並列に接続された第1スイッチと、前記電池に直列に接続された第2スイッチと、前記第1スイッチがOFF状態かつ前記第2スイッチがON状態であるときに前記電池の電圧が印加される第1出力端子及び第2出力端子とを含む、電池回路モジュールと、
複数の前記電池回路モジュールを直列接続した電池ストリングと、
前記電池ストリングを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記第1スイッチおよび前記第2スイッチのON/OFF状態を切り換えるゲート信号を、一定の遅延時間ずつ遅延させて下流側の前記電池回路モジュールへ伝達するとともに、前記ゲート信号の周期を、「遅延時間×稼働する前記電池回路モジュールの数」に設定し、
前記制御装置は、
前記電池ストリングに含まれる前記電池回路モジュールのすべてを、切り離すことなく稼働する場合、前記遅延時間を第1遅延時間Tdに設定し、
特定の前記電池回路モジュールの電池を強制的に切り離した状態であるとき、前記遅延時間を、前記第1遅延時間より長い第2遅延時間Tdsに設定する、電源システム。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記電池ストリングに含まれる前記電池回路モジュールの総数をNoとし、強制的に切り離した前記電池回路モジュールの数をNsとしたとき、
前記第2遅延時間Tdsを、「Tds=Td×(No/(No-Ns))」とする、請求項1に記載の電源システム。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記ゲート信号のデューティ比を制御することにより、前記電池ストリングの出力電圧を制御し、
前記出力電圧を所定値に制御する際に、前記第1遅延時間におけるゲート信号のON時間がTonである場合、前記第2遅延時間におけるゲート信号のON時間T’onを、「T’on=Ton×(No/(No-Ns))」とする、請求項2に記載の電源システム。
【請求項4】
電池と、前記電池に並列に接続された第1スイッチと、前記電池に直列に接続された第2スイッチと、前記第1スイッチがOFF状態かつ前記第2スイッチがON状態であるときに前記電池の電圧が印加される第1出力端子及び第2出力端子とを含む、電池回路モジュールと、
複数の前記電池回路モジュールを直列接続した電池ストリングと、
前記電池ストリングを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記第1スイッチおよび前記第2スイッチのON/OFF状態を切り換えるゲート信号を、一定の遅延時間ずつ遅延させて下流側の前記電池回路モジュールへ伝達するとともに、前記ゲート信号の周期を、「遅延時間×稼働する前記電池回路モジュールの数」に設定し、
前記制御装置は、
前記電池ストリングに含まれる前記電池回路モジュールの稼働数がNpのとき、前記遅延時間を第1遅延時間Tdaに設定し、
特定の前記電池回路モジュールの電池を強制的に切り離し、稼働する前記電池回路モジュールの数が、Npより小さいNrになったとき、前記遅延時間を第2遅延時間Tdtに設定し、
前記第2遅延時間Tdtを、「Tdt=Tda×(Np/Nr)」とする、電源システム。
【請求項5】
前記制御装置は、
特定の前記電池回路モジュールが強制的に切り離されたとき、
前記電池ストリングに含まれる最も上流側の前記電池回路モジュールの駆動時に、前記第1遅延時間から前記第2遅延時間に前記遅延時間を変更する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2022-120255号公報(特許文献1)には、複数の電池回路モジュールを直列に接続可能とした電池ストリングを用いて、交流電力(交流電圧)を出力する電源システムが開示されている。電池ストリングに含まれる電池回路モジュールは、電池と、電池に並列に接続された第1スイッチと、電池に直列に接続された第2スイッチと、第1スイッチがOFF状態かつ第2スイッチがON状態であるときに電池の電圧が印加される第1出力端子及び第2出力端子とを備える。第1スイッチと第2スイッチは、ゲート信号によって、ON/OFF状態が制御され、ゲート信号は、直列接続された次段の電池回路モジュールへ、所定の遅延時間をもって伝達される。電池ストリングに含まれる各電池回路モジュールの第1スイッチ及び第2スイッチをゲート信号によって制御することで、電池ストリングの出力電圧を所望の大きさに調整することができる。
【0003】
特開2022-120255号公報(特許文献1)には、特定の電池回路モジュールの電池が故障した場合等において、第1スイッチを常時ON状態とするとともに第2スイッチを常時OFF状態にして、特定の電池回路モジュールの電池を強制的に切り離した状態(パススルー状態)に制御することが、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゲート信号は、たとえば、PWM(パルス幅変調:Pulse Width Modulation)制御によって制御され、デューティ比を制御することにより、電池ストリングの出力電圧が制御される。PWM制御の周期(ゲート信号の周期)は、稼働する(強制的に切り離されない)電池回路モジュールの遅延時間の合計(遅延時間×稼働する電池回路モジュールの総数)によって算出される。電池回路モジュールがパススルー状態になると、稼働する電池回路モジュールの総数が少なくなり、周期が短くなるので、ゲート信号の駆動周波数が高くなる。駆動周波数が高くなると、損失(たとえば、スイッチング損失)が増加する。
【0006】
本開示の目的は、電池ストリングを用いた電源システムにおいて、パススルー状態が生じても、損失の増大を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本開示の電源システムは、電池回路モジュールと、複数の前記電池回路モジュールを直列接続した電池ストリングと、電池ストリングを制御する制御装置と、を備える。電池回路モジュールは、電池と、電池に並列に接続された第1スイッチと、電池に直列に接続された第2スイッチと、第1スイッチがOFF状態かつ第2スイッチがON状態であるときに電池の電圧が印加される第1出力端子及び第2出力端子とを含む。制御装置は、第1スイッチおよび第2スイッチのON/OFF状態を切り換えるゲート信号を、一定の遅延時間ずつ遅延させて下流側の前記電池回路モジュールへ伝達するとともに、ゲート信号の周期を、「遅延時間×稼働する電池回路モジュールの数」に設定する。制御装置は、電池ストリングに含まれる電池回路モジュールのすべてを、切り離すことなく稼働する場合、遅延時間を第1遅延時間Tdに設定し、特定の電池回路モジュールの電池を強制的に切り離した状態であるとき、遅延時間を、第1遅延時間より長い第2遅延時間Tdsに設定する。
【0008】
この構成によれば、電池回路モジュールの第1スイッチと第2スイッチをON/OFFするゲート信号が、一定の遅延時間ずつ遅延されて下流側の電池回路モジュールへ伝達する。そして、ゲート信号の周期が、「遅延時間×稼働する電池回路モジュールの数」に設定されることにより、ゲート信号のデューティ比が制御され、電池ストリングの出力電圧が制御される。
【0009】
電池ストリングに含まれる特定の電池回路モジュールの電池が強制的に切り離されると、稼働する電池回路モジュールの数が減少し、ゲート信号の周期が短くなり、ゲート信号の周波数が高くなる。
【0010】
制御装置は、特定の電池回路モジュールの電池が強制的に切り離された状態(パススルー状態)であるとき、遅延時間を、第2遅延時間Tdsに設定する。第2遅延時間Tdsは、電池ストリングに含まれる電池回路モジュールのすべてを、切り離すことなく稼働する場合に設定される第1遅延時間Tdよりも長く設定される。したがって、特定の電池回路モジュールの電池が強制的に切り離されると、稼働する電池回路モジュールの数が減少しても、ゲート信号の周期が短くなることを抑制でき、ゲート信号の周波数が高くなることを抑制できる。これにより、パススルー状態が生じても、損失の増大を抑制できる。
【0011】
なお、第2遅延時間Tdsは、強制的に切り離した電池回路モジュールの数に応じて設定され、強制的に切り離した電池回路モジュールの数が多いほど、第2遅延時間Tdsを長く設定してもよい。これにより、ゲート信号の周波数が大きく変化することを抑止可能になる。
【0012】
(2)好ましくは、制御装置は、電池ストリングに含まれる電池回路モジュールの総数をNoとし、強制的に切り離した電池回路モジュールの数をNsとしたとき、第2遅延時間Tdsを、「Tds=Td×(No/(No-Ns))」とするようにしてもよい。
【0013】
この構成によれば、第1遅延時間Tdにおけるゲート信号の周期と、第2遅延時間Tdsにおけるゲート信号の周期を、実質的に同じにできるので、パススルー状態が生じても、ゲート信号の周波数を一定に保てるので、損失の増大を抑制できる。
【0014】
(3)制御装置は、ゲート信号のデューティ比を制御することにより、電池ストリングの出力電圧を制御する。制御装置は、出力電圧を所定値にする際に、第1遅延時間Tdにおけるゲート信号のON時間がTonである場合、第2遅延時間Tdsにおけるゲート信号のON時間T’onを、「T’on=Ton×(No/(No-Ns))」とするようにしてもよい。
【0015】
この構成によれば、遅延時間を、第1遅延時間Tdから第2遅延時間Tdsに切り換えても、電池ストリングの出力電圧が変化しないよう制御することができる。
【0016】
(4)本開示の電源システムは、電池回路モジュールと、複数の電池回路モジュールを直列接続した電池ストリングと、電池ストリングを制御する制御装置と、を備える。電池回路モジュールは、電池と、電池に並列に接続された第1スイッチと、電池に直列に接続された第2スイッチと、第1スイッチがOFF状態かつ第2スイッチがON状態であるときに電池の電圧が印加される第1出力端子及び第2出力端子とを含む。制御装置は、第1スイッチおよび第2スイッチのON/OFF状態を切り換えるゲート信号を、一定の遅延時間ずつ遅延させて下流側の電池回路モジュールへ伝達するとともに、ゲート信号の周期を、「遅延時間×稼働する前記電池回路モジュールの数」に設定する。制御装置は、電池ストリングに含まれる電池回路モジュールの稼働数がNpのとき、遅延時間を第1遅延時間Tdaに設定し、特定の電池回路モジュールの電池を強制的に切り離し、稼働する電池回路モジュールの数が、Npより小さいNrになったとき、遅延時間を第2遅延時間Tdtに設定し、第2遅延時間Tdtを、「Tdt=Tda×(Np/Nr)」とする。
【0017】
この構成によれば、電池ストリングに含まれる電池回路モジュールの稼働数がNpのとき、遅延時間を第1遅延時間Tdaに設定する。そして、パススルー状態によって、稼働する電池回路モジュールの数が、Npより小さいNrになったとき、遅延時間を第2遅延時間Tdt=Tda×(Np/Nr)に設定する。第1遅延時間Tdaにおけるゲート信号の周期と、第2遅延時間Tdtにおけるゲート信号の周期を、実質的に同じにできるので、稼働する電池回路モジュールの数が減少しても、ゲート信号の周波数が高くなることを抑制でき、損失の増大を抑制できる。
【0018】
(5)上記(1)~(4)において、制御装置は、特定の電池回路モジュールが強制的に切り離されたとき、電池ストリングに含まれる最も上流側の電池回路モジュールの駆動時に、第1遅延時間(TdあるいはTda)から第2遅延時間(TdsあるいはTdt)へ、遅延時間を変更するようにしてもよい。
【0019】
この構成によれば、パススルー状態が生じたとき、最も上流側の電池回路モジュールの駆動時に、遅延時間が、第1遅延時間(TdあるいはTda)から第2遅延時間(TdsあるいはTdt)に変更される。これにより、電池ストリングの出力電圧に乱れが発生することを抑制できる。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、電池ストリングを用いた電源システムにおいて、パススルー状態が生じても、損失の増大を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本開示の実施の形態に係る電源システムの構成を示す図である。
【
図2】(A)~(D)は、ゲート信号によって制御される電池回路モジュールの動作の説明する図である。
【
図3】本実施の形態における、ゲート信号のタイムチャートを示す図である。
【
図4】パススルー状態から復帰するときのゲート信号のタイムチャートを示す図である。
【
図5】制御装置で実行される、パススルー制御の処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図中、同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0023】
図1は、本開示の実施の形態に係る電源システムの構成を示す図である。
図1を参照して、電源システム1は、電池ストリングStと、制御装置100とを含む。制御装置100はコンピュータであってよく、たとえばプロセッサと記憶装置と通信I/F(インターフェース)とを備える。記憶装置には、たとえば、プロセッサによって実行されるプログラム、及びプログラムで使用される情報(たとえば、マップ、数式、及び各種パラメータ)が記憶されている。
【0024】
電池ストリングStは、複数の電池回路モジュールM(M0~Mn:nは0を含む正の整数)を備える。電池ストリングStに含まれる電池回路モジュールMの数は任意であり、5~50個であってもよいし、100個以上であってもよい。
【0025】
電池回路モジュールMはそれぞれ、電力回路SUBと、カートリッジCgとを含む。カートリッジCgは、電池Bと、監視ユニットBSとを含む。電力回路SUBと電池Bとがそれぞれ接続されることによって、電池Bを含む電池回路モジュールMが形成されている。駆動回路SUは、電池回路モジュールMに含まれるスイッチング素子(後述するSW11及びSW12)を駆動するように構成される。電池Bは、ニッケル水素二次電池、あるいは、リチウムイオン二次電池であってよく、電動車両で使用された二次電池を直列に接続することにより、電池Bを製造してよい。
【0026】
図1に示すように、電池回路モジュールMは、電力回路SUBと、カートリッジCgと、遮断器RB1及びRB2(以下、区別しない場合は「遮断器RB」と称する)とを含む。電力回路SUBとカートリッジCgとは、遮断器RB1及びRB2を介して、互いに接続されている。遮断機RBは、制御装置100からの指令によって、電力回路SUBとカートリッジCgとの接続状態(導通/遮断)を切り替える。遮断器RBは、ユーザが手動でON/OFFできるように構成されてもよく、この構成によって、カートリッジCgが、電力回路SUBに対して着脱可能にされている。
【0027】
カートリッジCgにおいて、監視ユニットBSは、電池Bの状態(たとえば、電圧、電流、及び温度)を検出して、検出結果を制御装置100へ出力するように構成される。
【0028】
電池ストリングStに含まれる電池回路モジュールMは、共通の電線PLによって接続されている。電線PLは、各電池回路モジュールMの出力端子OT1及びOT2を含む。電池回路モジュールMの出力端子OT2が、当該電池回路モジュールMに隣接する電池回路モジュールMの出力端子OT1と接続されることによって、電池ストリングStに含まれる電池回路モジュールM同士が接続されている。
【0029】
電力回路SUBは、第1スイッチング素子11(以下、「SW11」と称する)と、第2スイッチング素子12(以下、「SW12」と称する)と、第1ダイオード13と、第2ダイオード14と、チョークコイル15と、コンデンサ16と、出力端子OT1及びOT2とを備える。SW11及びSW12の各々は、駆動回路SUによって駆動される。この実施の形態に係るSW11、SW12は、それぞれ本開示に係る「第1スイッチ」、「第2スイッチ」の一例に相当する。
【0030】
電力回路SUBの出力端子OT1及びOT2間には、SW11と、コンデンサ16と、電池Bとが並列に接続されている。SW11は、電線PL上に位置し、出力端子OT1と出力端子OT2との接続状態(導通/遮断)を切り替えるように構成される。出力端子OT1は電線BL1を介して電池Bの正極に接続されており、出力端子OT2は電線BL2を介して電池Bの負極に接続されている。電線BL1には、SW12及びチョークコイル15がさらに設けられている。電池回路モジュールMにおいては、電池Bと直列に接続されたSW12がON状態(接続状態)であり、かつ、電池Bと並列に接続されたSW11がOFF状態(遮断状態)であるときに、出力端子OT1及びOT2間に電池Bの電圧が印加される。
【0031】
出力端子OT1,OT2と電池Bとの間には、電線BL1及び電線BL2の各々に接続されたコンデンサ16が設けられている。SW11及びSW12の各々は、たとえばFET(電界効果トランジスタ)である。第1ダイオード13、第2ダイオード14は、それぞれSW11、SW12に対して並列に接続されている。なお、SW11及びSW12の各々は、FETに限られず、FET以外のスイッチング素子であってもよい。
【0032】
制御装置100は、ゲート信号を生成する。駆動回路SU(SU0~SUn:nは0を含む正の整数)は、電池回路モジュールM(M0~Mn)ごとに設けられており、ゲート信号に従ってSW11及びSW12を駆動するGD(ゲートドライバ)81と、ゲート信号を遅延させる遅延回路82とを含む。電池回路モジュールMに含まれるSW11及びSW12の各々は、ゲート信号に従ってON/OFF制御される。
【0033】
図2は、ゲート信号によって制御される電池回路モジュールMの動作の説明する図である。
図2(A)は、電池回路モジュールMの動作の一例を示すタイムチャートであり、本実施の形態では、SW11及びSW12を駆動するためのゲート信号として、矩形波信号を採用する。
図2(A)中に示されるゲート信号の「Low」、「High」は、それぞれゲート信号(矩形波信号)のLレベル、Hレベルを意味する。また、「出力電圧」は、出力端子OT1及びOT2間に出力される電圧を意味する。電池回路モジュールMの初期状態では、駆動回路SUにゲート信号が入力されず(ゲート信号=Lレベル)、SW11、SW12がそれぞれON状態、OFF状態になっている。SW11及びSW12は、ゲート信号の立ち上がり/立ち下がりに応じて状態(ON/OFF)が切り替わる。制御装置100は、ゲート信号を用いてPWM制御を行なう。
【0034】
駆動回路SUにゲート信号が入力されると、GD81が、入力されたゲート信号に従ってSW11及びSW12を駆動する。
図2に示す例では、タイミングt1で、ゲート信号がLレベルからHレベルに立ち上がり、ゲート信号の立ち上がりと同時にSW11がON状態からOFF状態に切り替わる。そして、ゲート信号の立ち上がりから所定の時間(デッドタイムdt1)だけ遅れたタイミングt2で、SW12がOFF状態からON状態に切り替わる。これにより、電池回路モジュールMが駆動状態(接続状態)になり、
図2(B)に示すように、SW11がOFF状態かつSW12がON状態になることで、出力端子OT1及びOT2間に電池Bの電圧が印加される。
【0035】
図2(A)を参照して、タイミングt3で、ゲート信号がHレベルからLレベルに立ち下がると、ゲート信号の立ち下がりと同時にSW12がON状態からOFF状態に切り替わる。これにより、電池回路モジュールMが停止状態になる。停止状態の電池回路モジュールMでは、SW12がOFF状態になることで、出力端子OT1及びOT2間に電池Bの電圧が印加されなくなる。その後、ゲート信号の立ち下がりから所定の時間(デッドタイムdt2)だけ遅れたタイミングt4で、SW11がOFF状態からON状態に切り替わる。なお、デッドタイムdt1とデッドタイムdt2とは互いに同じであっても異なってもよい。
【0036】
デッドタイムdt1、dt2においては、
図2(C)に示すように、SW11とSW12の両方がOFF状態になる。これにより、SW11及びSW12が同時にON状態になること(電池回路モジュールMが短絡状態になること)が抑制される。
【0037】
デッドタイムdt2の終了(t4)から電池回路モジュールMが駆動状態になるまでの期間を「停止期間」と称すると、停止期間では、
図2(D)に示すように、初期状態と同様に、SW11がON状態かつSW12がOFF状態になる。
【0038】
ゲート信号は、遅延回路82によって、所定の遅延時間Tdずつ遅延されて、上流の駆動回路SUから下流の駆動回路SUへ伝達される。そして、制御装置100は、最も下流の駆動回路SU(SUn)の遅延回路82からゲート信号を受けると、新たなゲート信号を、最も上流側の駆動回路SU(SU0)に出力する。ゲート信号の周期Tは、電池ストリングStに含まれる遅延回路82の遅延時間Tdの合計であり、電池ストリングStに含まれるすべての電池回路モジュールMの数(電池回路モジュールMの総数)をNoとすると、周期Tは、「T=Td×No」として設定される。そして、ゲート信号のデューティ比(Hレベルの時間:オン時間Ton)を制御することにより、駆動状態の電池回路モジュールMの数(同時に駆動状態になる電池回路モジュールMの数)を調整することができる。遅延時間Tdを長く設定すると、ゲート信号の周波数(1/T)は低周波数になる。遅延時間Tdを短く設定すると、ゲート信号の周波数は高周波数になる。遅延時間Tdは、たとえば、電池ストリングStおよび電源システム1に求められる仕様に応じて、許容可能な損失(スイッチング損失)の範囲内で設定される。
【0039】
電池ストリングStに含まれる電池回路モジュールMを、上述のように制御することにより、駆動状態の電池回路モジュールMの数(同時に駆動状態になる電池回路モジュールMの数)を調整することができ、電池ストリングStの出力電圧を制御することができる。これにより、電池ストリングStは、0[V]から、電池ストリングStに含まれる各電池B(カートリッジCg)の電圧の総和までの電圧を出力可能とされている。
【0040】
電池ストリングStに含まれる電池Bが急速に劣化した場合や故障した場合等の異常時、あるいは、各電池BのSOC(State Of Charge)を均等化するとき、等において、特定(異常な電池、あるいは、SOCが小さい電池)の電池回路モジュールMを強制的に切り離した状態(パススルー状態)として、当該電池Bを除外したい要求がある。この場合、たとえば、特定の電池回路モジュールMのGD81が、SW11を常時ON状態にするとともにSW12を常時OFF状態にし、ゲート信号を、遅延回路82を迂回して下流の駆動回路SUへ伝達することによって、特定の電池回路モジュールMの電池Bをパススルー状態に制御する。
【0041】
電池回路モジュールMがパススルー状態になると、稼働する(パススルー状態でない)電池回路モジュールMの総数が少なくなり、ゲート信号の周期Tが短くなるので、ゲート信号の周波数(1/T)が高くなる。周波数が高くなると、損失(たとえば、スイッチング損失)が増加する。本実施の形態では、パススルー状態が発生したとき、遅延時間Tdを長くすることにより、ゲート信号の周波数が高くなることを抑制する。
【0042】
図3は、本実施の形態における、ゲート信号のタイムチャートを示す図である。
図3に示す電池ストリングStでは、電池回路モジュールMの総数Noが6個とされており、6個の電池回路モジュールM(M0~M5)に対応する駆動回路SU(SU0~SU5)を備えている。
図3を参照して、斜線部は、ゲート信号のHレベルであり、オン時間Tonに相当する。
図3において、パススルー状態が発生していないときのデューティ比は、50%とされている。
【0043】
図3を参照して、制御装置100のゲート信号により、時刻taにおいて、最も上流の駆動回路SU0がゲート信号のHレベルを出力する(ゲート信号が、LレベルからHレベルに立ち上がる)。駆動回路SUnは、時刻ta(駆動回路SU0がHレベルを出力した時点)から「遅延時間Td×n」経過後に、Hレベルを出力する。たとえば、駆動回路SU2は、時刻taから「遅延時間Td×2」経過後に、Hレベルを出力し、最も下流の駆動回路SU5は、時刻taから「遅延時間Td×5」経過後に、Hレベルを出力する。そして、制御装置100は、駆動回路SU5からHレベル信号の出力時から遅延時間Td経過後(時刻taから「遅延時間Td×6」経過後)の時刻tbに、新たなゲート信号を出力し、次の制御サイクルが開始する。今回の制御サイクルにおける、ゲート信号の周期Tnは、「遅延時間Td×6(電池回路モジュールMの総数No)」になる。
【0044】
次の制御サイクルの開始後、たとえば、駆動回路SU4(回路モジュールM4)にパススルー状態が生じると、駆動回路SU4から、ゲート信号は出力されず、SW11が常時ON状態とされ、SW12が常時OFF状態とされる。駆動回路SU4の下流の駆動回路SU5は、時刻Tbから「遅延時間Td×4」経過後、Hレベル信号を出力する。この回のゲート信号の周期Tsは、「遅延時間Td×5」となり、ゲート信号の周波数が、前回よりも高くなる。
【0045】
パススルー状態が生じると、次回の制御サイクルにおいて(最も上流側の駆動回路SU0がゲート信号を出力する時刻tcにおいて)、遅延時間Tdを遅延時間Tdsに切り換える。遅延時間Tdsは、電池ストリングStに含まれるすべての電池回路モジュールMの数(電池ストリングStに含まれる電池回路モジュールの総数)をNoとし、パススルー状態の電池回路モジュールMの数をNsとしたとき、「Tds=Td×(No/(No-Ns))」として設定される。
図3の例では、No=6、Ns=1であるので、「Tds=Td×(6/5)」に設定される。駆動回路SU4(電池回路モジュールM4)がパススルー状態になると、
図3に示すように、時刻tc以降は、遅延時間が遅延時間Tdから遅延時間Tdsに切り換えられる。また、ゲート信号は、パススルー状態である駆動回路SU4の遅延回路82を迂回して伝達されるので、駆動回路SU5は、時刻Tcから「遅延時間Tds×4」経過後に、Hレベル信号を出力する。このように、パススルー状態が生じたとき、遅延時間を遅延時間Tdから遅延時間Tdsに切り換えるので、時刻tc以降は、ゲート信号の周期が周期Tnとなり、ゲート信号の周波数を、パススルー状態が発生していないときの周波数と同じにでき、周波数が高くなることを抑制できる、なお、遅延時間Tdが、本開示の「第1遅延時間Td」の一例に相当し、遅延時間Tdsが、本開示の「第2遅延時間Tds」の一例に相当する。
【0046】
図3において、パススルー状態が発生していないときのデューティ比は、50%であり、ゲート信号のオン時間Ton(Hレベルの時間)は、周期Tnの1/2である。パススルー状態が生じて、遅延時間が遅延時間Tdから遅延時間Tdsに切り換えられた場合、デューティ比が50%のままであると、電池ストリングStの出力電圧が変動(変化)する。そこで、遅延時間Tdsにおける、ゲート信号のオン時間T’onを、「T’on=Ton×(No/(No-Ns))」として算出する。そして、遅延時間が遅延時間Tdsのときには、ゲート信号のオン時間(Hレベルの時間)が、オン時間T’onになるよう制御する(オン時間T’onになるようデューティ比を制御する)。これにより、電池ストリングStの出力電圧が変動することを抑制できる。
【0047】
GD81から出力されるゲート信号のHレベル(オン時間)/Lレベルを、駆動回路SUに設けたカウンタ(キャリアカウンタ)を用いて生成する場合、カウンタ値は、
図3に示すように、周期Tnに相当する最大値maxになるとリセットされて「0」になるよう設定される。駆動回路SUのカウンタ値が最大値maxになってリセットされるタイミング(カウンタがカウントを開始するタイミング)は、上述の各駆動回路SUがゲート信号のHレベルを出力するタイミングである。なお、パススルー状態が生じたとき、その制御サイクルにおいて、パススルー以降の駆動回路SUの最大値maxと、最も上流の駆動回路SU0の最大値maxとが、遅延時間Tdに相当する値だけ、小さく設定される(最大値maxからTdを減算した値が最大値maxに設定される(
図3のAおよびB参照))。また、パススルー状態が生じたとき、次の制御サイクルの開始時に、最も上流の駆動回路SU0以外の駆動回路SUnのカウンタ値は、「最大値max-遅延時間Tds×n」の値にセットされる(
図3の時刻tcにおける、駆動回路SU1~SU5のカウンタ値を参照)。
【0048】
駆動回路SU(GD81)は、カウンタ値が閾値以下である場合、Hレベルを出力し、カウンタ値が閾値を超える場合、Lレベルを出力する。遅延時間が遅延時間Tdのとき、閾値は、オン時間Tonに対応する閾値Tonsに設定され、遅延時間が遅延時間Tdsに切り換えられると、閾値は、オン時間T’onに対応する閾値T’onsに設定される。なお、閾値T’onsは、オン時間T’onと同様に、「T’ons=Tons×(No/(No-Ns))」として算出することができる。
【0049】
図4は、パススルー状態から復帰するときのゲート信号のタイムチャートを示す図である。斜線部は、ゲート信号のHレベルである。駆動回路SU4(電池回路モジュールM4)がパススルー状態から復帰すると、
図4に示すように、駆動回路SU4は、駆動回路SU0がHレベルを出力した時点(時刻tg)から「遅延時間Tds×4」経過後に、ゲート信号のHレベルを出力する。駆動回路SU5は、時刻tgから「遅延時間Tds×5」経過後に、Hレベルを出力するよう制御されるが、
図4に示す例では、周期Tnによって、次回の制御サイクルに入るので、今回の制御サイクルでは、Hレベルは出力されない。駆動回路SU4がパススルー状態から復帰した後の制御サイクルでは、遅延時間が遅延時間Tdsから遅延時間Tdに切り換えられるとともに、オン時間がオン時間Tonに設定され、駆動回路SUからゲート信号が出力される。
【0050】
駆動回路SUに設けたカウンタは、パススルー状態が復帰した以降の駆動回路SU(
図4の例では、駆動回路SU5)の最大値maxが、最大値maxに遅延時間Tdsを加算した値に設定される(
図4のCを参照)。また、パススルー状態から復帰したとき、次の制御サイクルの開始時、最も上流の駆動回路SU0以外の駆動回路SUnのカウンタ値は、「最大値max-遅延時間Td×n」の値にセットされる(
図4の時刻thにおける、駆動回路SU1~SU5のカウンタ値を参照)。
【0051】
図5は、制御装置100で実行される、パススルー制御の処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、電源システム1の作動中に、所定期間毎に繰り返し処理される。ステップ(以下、ステップを「S」と略す)10では、パススルー状態の電池回路モジュールM(駆動回路SU)があるか否かを判定する。パススルー状態の電池回路モジュールMがない場合は、否定判定され、今回のルーチンを終了する。パススルー状態の電池回路モジュールMがある場合は、肯定判定されS11へ進む。
【0052】
S11では、バススルー状態における遅延時間Tdsを算出する。パススルー状態が生じていいないときの遅延時間を遅延時間Tdとすると、遅延時間Tdsを「Tds=Td×(No/Nr)」として算出する。Noは、電池ストリングStに含まれる電池回路モジュールMの総数であり、Nrは、稼働している(パススルー状態でない)電池回路モジュールの数である。なお、Nr=No-Ns(パススルー状態の電池回路モジュールの数)である。
【0053】
続くS12では、パススルー状態における、ゲート信号のオン時間T’onを算出する。パススルー状態が生じていないときのオン時間をオン時間Tonとすると、オン時間T’onを「T’on=Ton×(No/Nr)」として算出する。S13では、遅延時間Tds、オン時間T’onを用いて、電池ストリングSt(駆動回路SU)を制御する。
【0054】
本実施の形態によれば、制御装置100は、特定の電池回路モジュールMの電池Bが強制的に切り離された状態(パススルー状態)であるとき、遅延時間Tdを、遅延時間Tdsに設定する。遅延時間Tdsは、パススルー状態が生じていないときの遅延時間Tdよりも長く設定される。したがって、パススルーによって稼働する電池回路モジュールの数が減少しても、ゲート信号の周期が短くなることを抑制でき、ゲート信号の周波数が高くなることを抑制でき損失の増大を抑制できる。また、パススルー状態の電池回路モジュールMの数が多いほど、第2遅延時間Tdsが長く設定されるので、ゲート信号の周波数が大きく変化することを抑止できる。
【0055】
(変形例)
上記実施の形態では、電池ストリングStに含まれるすべての電池回路モジュールMが稼働する場合の遅延時間を、遅延時間Tdに設定し、パススルー状態が生じたときの遅延時間を、遅延時間Tds(=Td×No/Nr)としていた(No:電池ストリングStに含まれる電池回路モジュールMの総数、Nr:稼働している(パススルー状態でない)電池回路モジュールの数)。しかし、電池ストリングStに含まれる電池回路モジュールMの数が多い場合、パススルー状態になる電池回路モジュールMが少ないときには、遅延時間Tdを用いて制御しても、稼働する電池回路モジュールMの数が多く、ゲート信号の周波数が許容範囲を超えない可能性がある。
【0056】
変形例では、パススルー状態が生じて、稼働する電池回路モジュールMの数が、No(総数)より小さいNpになるまで、遅延時間Tdaを用いて、電池ストリングSt(駆動回路SU)を制御する。遅延時間Tdaは、上記実施の形態の遅延時間Tdと同じであってよい。Npは、損失(たとえば、スイッチング損失)を許容できる周波数をHc[Hz]としたとき、「Np>1/(Tda×Hc)」を満足する最小の整数である。そして、パススルー状態が生じて、稼働する電池回路モジュールMの数が、Npより小さいNrになったとき、遅延時間を遅延時間Tdaから遅延時間Tdtに切り換える。遅延時間Tdtは、「Tdt=Tda×(Np/Nr)」として算出される。遅延時間Tdaが、本開示の「第1遅延時間Tda」の一例に相当し、遅延時間Tdtが、本開示の「第2遅延時間Tdt」の一例に相当する。なお、ゲート信号のオン時間は、上記実施の形態と同様に算出し、切り換えが実行される。
【0057】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0058】
1 電源システム、11 第1スイッチング素子(SW)、12 第2スイッチング素子(SW)、81 ゲートドライバ(GD)、82 遅延回路、100 制御装置、B 電池、Cg カートリッジ、M 電池回路モジュール、OT1,OT2 出力端子、St 電池ストリング、SU 駆動回路、SUB 電力回路。