(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110710
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】誘電体材料および積層セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
H01G 4/12 20060101AFI20240808BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20240808BHJP
C04B 35/468 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
H01G4/12 270
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
C04B35/468 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015452
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 和
(72)【発明者】
【氏名】松本 康宏
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC09
5E001AE02
5E001AE03
5E001AE04
5E001AE05
5E001AF06
5E082AA01
5E082AB03
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082GG11
5E082GG28
(57)【要約】
【課題】 高誘電率および高抵抗率を実現することができる誘電体材料および積層セラミック電子部品を提供する。
【解決手段】 誘電体材料は、主成分、第1副成分、第2副成分、および第3副成分を含み、前記主成分は、チタン酸バリウムを含み、前記第1副成分は、前記誘電体材料におけるチタン100molに対して2mol以上10mol以下であって、前記誘電体材料におけるチタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比が0.90より多く0.98未満となるようにジルコニウムを含み、前記第2副成分は、前記誘電体材料におけるチタン100molに対して0.5mol以上2mol以下のガドリニウムを含み、前記第3副成分は、前記誘電体材料におけるチタン100molに対して0.01mol以上2mol以下のマンガンを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体材料であり、
主成分、第1副成分、第2副成分、および第3副成分を含み、
前記主成分は、チタン酸バリウムを含み、
前記第1副成分は、前記誘電体材料におけるチタン100molに対して2mol以上10mol以下であって、前記誘電体材料におけるチタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比が0.90より多く0.98未満となるようにジルコニウムを含み、
前記第2副成分は、前記誘電体材料におけるチタン100molに対して0.5mol以上2mol以下のガドリニウムを含み、
前記第3副成分は、前記誘電体材料におけるチタン100molに対して0.01mol以上2mol以下のマンガンを含む、誘電体材料。
【請求項2】
コア部および前記コア部を覆うシェル部を含む複数の結晶粒子を有し、前記コア部におけるジルコニウムおよびマンガンの合計の濃度は、前記シェル部におけるジルコニウムおよびマンガンの合計の濃度より低い、請求項1に記載の誘電体材料。
【請求項3】
ガドリニウム以外の希土類元素をガドリニウムよりも少なく含む、請求項1または請求項2に記載の誘電体材料。
【請求項4】
前記誘電体材料におけるチタン100molに対して0.5mol以下のバナジウムを含む第4副成分を含む、請求項1または請求項2に記載の誘電体材料。
【請求項5】
前記第4副成分は、前記誘電体材料におけるチタン100molに対して0.05mol以上0.2mol以下のバナジウムを含む、請求項4に記載の誘電体材料。
【請求項6】
前記第4副成分のバナジウムの価数は、5価である、請求項4に記載の誘電体材料。
【請求項7】
コア部および前記コア部を覆うシェル部を含む複数の結晶粒子を有し、前記コア部におけるジルコニウム、マンガン、およびバナジウムの合計の濃度は、前記シェル部におけるジルコニウム、マンガン、およびバナジウムの合計の濃度より低い、請求項4に記載の誘電体材料。
【請求項8】
前記複数の結晶粒子の粒界に、前記第3副成分および前記第4副成分を含む、請求項7に記載の誘電体材料。
【請求項9】
前記複数の結晶粒子の粒界多重点において、前記第3副成分および前記第4副成分を含む、請求項7に記載の誘電体材料。
【請求項10】
ケイ素を含む第5副成分をさらに含み、
前記複数の結晶粒子の粒界に、前記第5副成分を含む、請求項7に記載の誘電体材料。
【請求項11】
前記複数の結晶粒子の粒界多重点において、前記第5副成分を含む、請求項10に記載の誘電体材料。
【請求項12】
BaTi2O5、BaTi4O9、BaTi5O11、BaTi6O13、Ba4Ti11O26、Ba4Ti12O27、Ba4Ti13O30、Ba4Ti14O27または、Ba6Ti17O40のうち少なくとも一つの副結晶粒子をさらに含む、請求項1または請求項2に記載の誘電体材料。
【請求項13】
請求項1または請求項2に記載の誘電体材料を含む、積層セラミック電子部品。
【請求項14】
互いに対向する複数の内部電極と、
前記複数の内部電極に挟まれて設けられ、請求項1に記載の誘電体材料の誘電体層と、
前記内部電極に電気的に接続される外部電極と、を備える、請求項13に記載の積層セラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体材料および積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話を代表とする高周波通信用システムにおいて、積層セラミックコンデンサなどの積層セラミック電子部品が用いられている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-114751号公報
【特許文献2】特開2021-190669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
積層セラミック電子部品では、高誘電率および高抵抗率を実現することができることが求められている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、高誘電率および高抵抗率を実現することができる誘電体材料および積層セラミック電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る誘電体材料は、主成分、第1副成分、第2副成分、および第3副成分を含み、前記主成分は、チタン酸バリウムを含み、前記第1副成分は、前記誘電体材料におけるチタン100molに対して2mol以上10mol以下であって、前記誘電体材料におけるチタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比が0.90より多く0.98未満となるようにジルコニウムを含み、前記第2副成分は、前記誘電体材料におけるチタン100molに対して0.5mol以上2mol以下のガドリニウムを含み、前記第3副成分は、前記誘電体材料におけるチタン100molに対して0.01mol以上2mol以下のマンガンを含む。
【0007】
上記誘電体材料において、コア部および前記コア部を覆うシェル部を含む複数の結晶粒子を有し、前記コア部におけるジルコニウムおよびマンガンの合計の濃度は、前記シェル部におけるジルコニウムおよびマンガンの合計の濃度より低くてもよい。
【0008】
上記誘電体材料は、ガドリニウム以外の希土類元素をガドリニウムよりも少なく含んでいてもよい。
【0009】
上記誘電体材料は、チタン100molに対して0.5mol以下のバナジウムを含む第4副成分を含んでいてもよい。
【0010】
上記誘電体材料において、前記第4副成分は、前記誘電体材料におけるチタン100molに対して0.05mol以上0.2mol以下のバナジウムを含んでいてもよい。
【0011】
上記誘電体材料において、前記第4副成分のバナジウムの価数は、5価であってもよい。
【0012】
上記誘電体材料において、コア部および前記コア部を覆うシェル部を含む複数の結晶粒子を有し、前記コア部におけるジルコニウム、マンガン、およびバナジウムの合計の濃度は、前記シェル部におけるジルコニウム、マンガン、およびバナジウムの合計の濃度より低くてもよい。
【0013】
上記誘電体材料において、前記複数の結晶粒子の粒界に、前記第3副成分および前記第4副成分を含んでいてもよい。
【0014】
上記誘電体材料における前記複数の結晶粒子の粒界多重点において、前記第3副成分および前記第4副成分を含んでいてもよい。
【0015】
上記誘電体材料は、ケイ素を含む第5副成分をさらに含み、前記複数の結晶粒子の粒界に、前記第5副成分を含んでいてもよい。
【0016】
上記誘電体材料における前記複数の結晶粒子の粒界多重点において、前記第5副成分を含んでいてもよい。
【0017】
上記誘電体材料は、BaTi2O5、BaTi4O9、BaTi5O11、BaTi6O13、Ba4Ti11O26、Ba4Ti12O27、Ba4Ti13O30、Ba4Ti14O27または、Ba6Ti17O40のうち少なくとも一つの副結晶粒子をさらに含んでいてもよい。
【0018】
本発明に係る積層セラミック電子部品は、上記いずれかの誘電体材料を含む。
【0019】
上記積層セラミック電子部品は、互いに対向する複数の内部電極と、前記複数の内部電極に挟まれて設けられ、上記誘電体材料の誘電体層と、前記内部電極に電気的に接続される外部電極と、を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高誘電率および高抵抗率を実現することができる誘電体材料および積層セラミック電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
【
図4】(a)はコアシェル粒子を例示する図であり、(b)は誘電体層の模式的な断面図である。
【
図6】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
【
図7】(a)および(b)は内部電極形成工程を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0023】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。
図2は、
図1のA-A線断面図である。
図3は、
図1のB-B線断面図である。
図1~
図3で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する素体10と、素体10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、素体10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、素体10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0024】
なお、
図1~
図3において、Z軸方向(第1方向)は、積層方向であり、各内部電極層が対向する方向である。X軸方向(第2方向)は、素体10の長さ方向であって、素体10の2端面が対向する方向であり、外部電極20aと外部電極20bとが対向する方向である。Y軸方向(第3方向)は、内部電極層の幅方向であり、素体10の4側面のうち2端面以外の2側面が対向する方向である。X軸方向と、Y軸方向と、Z軸方向とは、互いに直交している。
【0025】
素体10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、素体10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13は、誘電体層11と組成が同じであっても、異なっていても構わない。なお、内部電極層12が異なる2つの面に露出して、異なる外部電極に導通していれば、
図1から
図3の構成に限られない。
【0026】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0027】
内部電極層12は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、スズ(Sn)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12として、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、金(Au)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。Z軸方向における内部電極層12の1層当たりの平均厚みは、例えば、1.5μm以下であり、1.0μm以下であり、0.7μm以下である。内部電極層12の厚みは、積層セラミックコンデンサ100の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、異なる10層の内部電極層12についてそれぞれ10点ずつ厚みを測定し、全測定点の平均値を導出することによって測定することができる。
【0028】
誘電体層11は、誘電体材料から構成されている。誘電体層11は、例えば、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料は、チタン酸バリウムである。例えば、誘電体層11において、当該セラミック材料は、90at%以上含まれている。誘電体層11の厚みは、例えば、10.0μm以下であり、5.0μm以下であり、3.0μm以下であり、1.0μm以下である。誘電体層11の厚みは、積層セラミックコンデンサ100の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、異なる10層の誘電体層11についてそれぞれ10点ずつ厚みを測定し、全測定点の平均値を導出することによって測定することができる。
【0029】
誘電体層11には、添加物が添加されていてもよい。誘電体層11への添加物として、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、希土類元素(スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルテニウム(Lu))の酸化物、または、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、リチウム(Li)、ホウ素(B)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)もしくはケイ素(Si)を含む酸化物、または、コバルト、ニッケル、リチウム、ホウ素、ナトリウム、カリウムもしくはケイ素を含むガラスが挙げられる。
【0030】
図2で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において電気容量を生じる領域である。そこで、当該電気容量を生じる領域を、容量部14と称する。すなわち、容量部14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層12同士が対向する領域である。
【0031】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、エンドマージン15と称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域も、エンドマージン15である。すなわち、エンドマージン15は、同じ外部電極に接続された内部電極層12が異なる外部電極に接続された内部電極層12を介さずに対向する領域である。エンドマージン15は、電気容量を生じない領域である。
【0032】
図3で例示するように、素体10において、サイドマージン16は、誘電体層11および内部電極層12の2側面側の端部(Y軸方向の端部)を覆うように設けられた領域である。すなわち、サイドマージン16は、Y軸方向において、容量部14の外側に設けられた領域である。サイドマージン16も、電気容量を生じない領域である。
【0033】
誘電体層11において、母材および副成分を含む誘電体結晶の少なくとも一部が、コアシェル構造を有するコアシェル粒子が備わっていることが好ましい。
【0034】
図4(a)で例示するように、コアシェル粒子30は、略球形状のコア部31と、コア部31を囲むように覆うシェル部32とを備えている。コア部31は、添加化合物が固溶していないかもしくは添加化合物の固溶量が少ない結晶部分である。シェル部32は、添加化合物が固溶しておりかつコア部31の添加化合物濃度よりも高い添加化合物濃度を有している結晶部分である。
【0035】
図4(b)は、誘電体層11の模式的な断面図である。
図4(b)で例示するように、誘電体層11は、主成分セラミックの複数の誘電体粒子17を備えている。これらの誘電体粒子17のうち、少なくとも一部が
図4(a)で説明したコアシェル粒子30である。
【0036】
携帯電話を代表とする高周波通信用システムにおいて、ノイズを除去するために、積層セラミックコンデンサが用いられている。また、車載電子制御装置など人の生命に関わる電子回路においても、積層セラミックコンデンサが使用されている。積層セラミックコンデンサには、高い信頼性が求められているため、信頼性を向上させる技術が開示されている。
【0037】
積層セラミックコンデンサの誘電体には、チタン酸バリウムをコア部とし、各種添加物が固溶したシェル部がコア部を囲むコアシェル構造の焼結体が利用されてきた。チタン酸バリウムをコア部とし、各種添加物が固溶したシェル部で構成されるコアシェル構造にすることにより、高い誘電率、優れた温度特性、安定な微細構造が共存した材料を得ることができる。
【0038】
シェル部を構成する代表的な添加物としてマグネシウムが挙げられる。ただし、マグネシウムは、価数揺動しない単純なアクセプタであり、固溶して酸化物イオン欠陥を生成させるため、信頼性が頭打ちとなってしまう。最近、特許文献2においてジルコニウムおよびユーロピウムを共添加することで、誘電率の温度特性と信頼性とを両立させた材料を得ることができる、と報告された。一方で、特許文献2では、ユーロピウムの添加によって絶縁性が悪化することが指摘されている。これは、ユーロピウムが2価または3価の状態をとり得るため、ホッピング伝導が顕著になることに起因していると考えられる。
【0039】
これらに対して、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100は、高誘電率および高信頼性を実現することができる構成を有している。以下、詳細について説明する。
【0040】
具体的には、誘電体層11は、チタン酸バリウムを含む主成分を有している。また、誘電体層11は、第1副成分、第2副成分、および第3副成分を含んでいる。第1副成分は、誘電体層11において、チタン100molに対して2mol以上10mol以下であって、誘電体層11におけるチタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比(以下、Ba/(Ti+Zr)とも称する。)が0.90より多く0.98未満となるようにジルコニウムを含んでいる、第2副成分は、誘電体層11において、チタン100molに対して0.5mol以上2mol以下のガドリニウムを含んでいる。第3副成分は、誘電体層11において、チタン100molに対して0.01mol以上2mol以下のマンガンを含んでいる。この構成により、高誘電率および高信頼性を実現することができる。
【0041】
チタンに対するジルコニウムの量に下限を設けることによって、誘電ロス(tanδ)を低く抑えることができる。tanδを低く抑える観点から、誘電体層11において、チタン100molに対するジルコニウムの添加量は、2mol以上であることが好ましく、3mol以上であることがより好ましい。また、Ba/(Ti+Zr)比は、0.98以下であることが好ましく、0.96以下であることがより好ましい。
【0042】
チタンに対するジルコニウムの量の上限を設けることによって、コア部31までジルコニウムが拡散することが抑制され、コアシェル粒子30のコアシェル構造が維持される。それにより、優れた温度特性を実現することができる。誘電体層11において、チタン100molに対するジルコニウムの添加量は、10mol以下であることが好ましく、8mol以下であることがより好ましい。また、Ba/(Ti+Zr)比は、0.90以上であることが好ましく、0.92以上であることがより好ましい。
【0043】
誘電体層11が希土類元素としてガドリニウムを含むことによって、焼成時にチタン酸バリウムの還元を抑制することができる。それにより、tanδを低く抑えることができる。また、誘電体層11がガドリニウムを含むことによって、高い抵抗率が実現され、絶縁性が高くなる。これは、ガドリニウムがとりうる価数が3価のみであり、価数変動が起こらないことが絶縁性向上に寄与するからであると考えられる。絶縁性を向上させる観点から、誘電体層11において、チタン100molに対するガドリニウム量は、0.5mol以上であることが好ましく、1mol以上であることがより好ましい。
【0044】
一方、ガドリニウムの量に上限を設けることによって、チタン酸バリウムのAサイトにおけるガドリニウムの置換固溶を抑制することができ、絶縁性悪化を抑制することができる。誘電体層11において、チタン100molに対するガドリニウム量は、2mol以下であることが好ましく、1mol以下であることがより好ましい。
【0045】
マンガンの添加量に下限を設けることによって、焼成時にチタン酸バリウムの還元を抑制することができる。それにより、tanδを低く抑えることができ、絶縁性が高くなる。絶縁性を向上させる観点から、誘電体層11において、チタン100molに対するガドリニウム量は、0.01mol以上であることが好ましく、0.02mol以上であることがより好ましい。
【0046】
一方、マンガンの添加量に上限を設けることによって、マンガンの価数変動によって生じるホッピング伝導を抑制することができ、絶縁性悪化を抑制することができる。また、アクセプタとして作用するマンガン量を抑えることができるため、酸化物イオン空孔の生成が抑制され、誘電率の低下を抑制することができる。絶縁性悪化を抑制する観点および誘電率低下を抑制する観点から、誘電体層11において、チタン100molに対するマンガン量は、2mol以下であることが好ましく、1mol以下であることがより好ましい。
【0047】
なお、誘電体層11は、チタン100molに対して0.5mol以下のバナジウムを含む第4副成分を含んでいることが好ましい。誘電体層11がバナジウムを含むことによって、抵抗率が高くなる。これは、バナジウムが粒界および粒界多重点に分布し、粒界でのダブルショットキー障壁の幅が増大し、トンネル電流が生じにくくなるためと考えられる。粒界多重点とは、例えば、粒界三重点のように3つ以上の誘電体粒子に隣接する領域のことを指す。一方で、誘電体層11におけるバナジウムの添加量に上限を設けることによって、シェル部32におけるバナジウムの置換固溶が抑制され、高い抵抗率が維持される。誘電体層11におけるバナジウムの添加量は、チタン100molに対して0.3mol以下であることがより好ましく、0.2mol以下であることがさらに好ましい。
【0048】
バナジウム添加の効果を得るためには、バナジウムの添加量に下限を設けることが好ましい。チタン100molに対してバナジウムの添加量は、0.05mol以上であることが好ましく、0.075mol以上であることがより好ましく、0.1mol以上であることがさらに好ましい。
【0049】
コアシェル粒子30において、コア部31におけるジルコニウムおよびマンガンの合計の濃度は、シェル部32におけるジルコニウムおよびマンガンの合計の濃度より低いことが好ましい。理由は、コア部31のジルコニウム、マンガン、バナジウムの濃度が高くなるとチタン酸バリウムの分極反転の妨げとなり、誘電率が著しく低下するためである。
【0050】
誘電体層11は、ガドリニウム以外に希土類元素を含んでいてもよい。ただし、ガドリニウム以外の希土類元素が含まれる場合には信頼性が低下するおそれがあるため、誘電体層11におけるガドリニウム以外の希土類元素は、ガドリニウムよりも少ないことが好ましい。
【0051】
誘電体層11に含まれるバナジウムの価数は、5価であることが好ましい。理由は、5価のバナジウムがチタン酸バリウムのチタンサイトに置換固溶し、酸化物イオン空孔濃度を低減させる作用が働くためである。例えば、誘電体層11におけるバナジウムの価数は、TEM-EELSによる価数分析によって可能である。
【0052】
コアシェル粒子30において、コア部31におけるジルコニウム、マンガン、およびバナジウムの合計の濃度は、シェル部32におけるジルコニウム、マンガン、およびバナジウムの合計の濃度より低いことが好ましい。理由は、コア部31のジルコニウム、マンガン、バナジウムの濃度が高くなるとチタン酸バリウムの分極反転の妨げとなり、誘電率が著しく低下するためである。
【0053】
図5で例示するように、複数の誘電体粒子17の粒界に、偏析物18が生じていてもよい。例えば、偏析物18は、3つ以上の誘電体粒子17の粒界である粒界多重点に生じていてもよい。偏析物18は、第3副成分および第4副成分を含んでいることが好ましい。具体的には、偏析物18は、マンガンおよびバナジウムを含んでいることが好ましい。理由は、マンガンやバナジウムといった添加物が粒界に偏析することで、チタン酸バリウムの粒界においてダブルショットキー障壁を形成し、絶縁抵抗の向上に寄与するためである。
【0054】
誘電体層11はケイ素を含む第5副成分を含み、偏析物18は当該第5副成分を含んでいることが好ましい。具体的には、偏析物18は、ケイ素を含んでいることが好ましい。理由は、ケイ素を粒界に偏析させることで焼結助剤として作用し、焼結性が著しく向上するためである。
【0055】
複数の誘電体粒子17のうち、少なくともいずれかは、BaTi2O5、BaTi4O9、BaTi5O11、BaTi6O13、Ba4Ti11O26、Ba4Ti12O27、Ba4Ti13O30、Ba4Ti14O27または、Ba6Ti17O40のうち少なくとも一つの副結晶粒子であることが好ましい。これらの副結晶粒子は、還元焼成されたチタン酸バリウムと比較して高い抵抗率を有するため、積層セラミックコンデンサ100の絶縁性向上に寄与する。
【0056】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。
図6は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0057】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABO3の粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、チタン酸バリウムは、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このチタン酸バリウムは、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11の主成分セラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0058】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、ジルコニウム、ハフニウム、マグネシウム、マンガン、モリブデン、バナジウム、クロム、希土類元素(スカンジウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、イットリウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウムおよびルテニウム)の酸化物、または、コバルト、ニッケル、リチウム、ホウ素、ナトリウム、カリウムもしくはケイ素を含む酸化物、または、コバルト、ニッケル、リチウム、ホウ素、ナトリウム、カリウムもしくはケイ素を含むガラスが挙げられる。
【0059】
例えば、セラミック原料粉末に添加化合物を含む化合物を湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック材料を調製する。例えば、上記のようにして得られたセラミック材料について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。以上の工程により、誘電体材料が得られる。
【0060】
得られる誘電体材料は、主成分、第1副成分、第2副成分、第3副成分、および第4副成分を含む。主成分は、チタン酸バリウムを含む。第1副成分は、誘電体材料において、チタン100molに対して2mol以上10mol以下であって、誘電体材料におけるBa/(Ti+Zr)比が0.90より多く0.98未満となるようにジルコニウムを含んでいる、第2副成分は、誘電体材料において、チタン100molに対して0.5mol以上2mol以下のガドリニウムを含んでいる。第3副成分は、誘電体材料において、チタン100molに対して0.01mol以上2mol以下のマンガンを含んでいる。第4副成分は、誘電体材料において、チタン100molに対して0.5mol以下のバナジウム含んでいる。
【0061】
次に、サイドマージン16を形成するための誘電体パターン材料を用意する。誘電体パターン材料は、サイドマージン16の主成分セラミックの粉末を含む。主成分セラミックの粉末として、例えば、誘電体材料の主成分セラミックの粉末を用いることができる。目的に応じて所定の添加化合物を添加する。
【0062】
(塗工工程)
次に、得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上にセラミックグリーンシート51を塗工して乾燥させる。基材は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。塗工工程を例示する図は省略した。
【0063】
(内部電極形成工程)
次に、
図7(a)で例示するように、セラミックグリーンシート51の表面に、有機バインダを含む内部電極形成用の金属導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、内部電極層用の内部電極パターン52を配置する。金属導電ペーストには、ニッケルに加えて共材としてセラミック粒子を添加する。セラミック粒子の主成分は、特に限定するものではないが、誘電体層11の主成分セラミックと同じであることが好ましい。
【0064】
次に、原料粉末作製工程で得られた誘電体パターン材料に、エチルセルロース系等のバインダと、ターピネオール系等の有機溶剤とを加え、ロールミルにて混練して逆パターン層用の誘電体パターンペーストを得る。
図7(a)で例示するように、セラミックグリーンシート51上において、内部電極パターン52が印刷されていない周辺領域に誘電体パターンペーストを印刷することで誘電体パターン53を配置し、内部電極パターン52との段差を埋める。内部電極パターン52および誘電体パターン53が印刷されたセラミックグリーンシート51を積層単位と称する。
【0065】
その後、
図7(b)で例示するように、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層12が誘電体層11の長さ方向の両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極20a,20bに交互に引き出されるように、積層単位を積層していく。例えば、内部電極パターン52の積層数を100~500層とする。
【0066】
(圧着工程)
図8で例示するように、積層単位が積層された積層体の上下にカバーシート54を所定数(例えば2~10層)だけ積層して熱圧着する。カバーシート54のセラミック材料として、上述した誘電体材料や誘電体パターン材料を用いることができる。
【0067】
(焼成工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N2雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地層となる金属ペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧が10-5~10-8atm、温度範囲1150℃~1250℃の還元雰囲気で、5分~10時間の焼成を行なう。
【0068】
(再酸化処理工程)
還元雰囲気で焼成された誘電体層11の部分的に還元された主相であるチタン酸バリウムに酸素を戻すために、内部電極層12を酸化させない程度に、約1000℃でN2と水蒸気の混合ガス中、もしくは500℃~700℃の大気中での熱処理が行われることがある。この工程は、再酸化処理工程とよばれる。
【0069】
(めっき処理工程)
その後、外部電極20a,20bの下地層上に、めっき処理により、銅、ニッケル、スズ等の金属コーティングを行う。以上の工程により、積層セラミックコンデンサ100が完成する。
【0070】
サイドマージン部は、上記積層部分の側面に貼り付けまたは塗布してもよい。具体的には、
図9で例示するように、セラミックグリーンシート51と、当該セラミックグリーンシート51と同じ幅の内部電極パターン52とを交互に積層することで、積層部分を得る。次に、積層部分の側面に、誘電体パターンペーストで形成したシートをサイドマージン部55として貼り付けてもよい。
【0071】
なお、上記では、外部電極用の下地層とセラミック積層体とを同時に焼成しているが、それに限られない。例えば、セラミックス積層体を焼成した後にNi,Cu,Agのペーストを塗布して焼き付けたり、メッキやスパッタリング技術によって端子電極を形成させたりしてもよい。
【0072】
なお、上記各実施形態においては、積層セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の積層セラミック電子部品を用いてもよい。
【実施例0073】
(実施例1)
チタン酸バリウム(BaTiO3)粉末に、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ガドリニウム(Gd2O3)、炭酸マンガン(MnCO3)、酸化ケイ素(SiO2)の粉末を加えた。チタン100molに対して、ジルコニウムの添加量を2molとした。チタンに対するバリウムのモル比(Ba/Ti比)を1とした。チタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比(Ba/(Ti+Zr))を0.980とした。チタン100molに対してガドリニウムの添加量を1molとした。チタン100molに対してマンガンの添加量を0.5molとした。
【0074】
これらをエタノール、トルエン、PVB(ポリビニルブチラール)樹脂と混合した。混合はYSZ(イットリア安定化ジルコニア)ボールを用いたボールミルで行い、誘電体スラリを作製した。このスラリをダイコータで2.5μm厚みのセラミックグリーンシートに成形した。このセラミックグリーンシートを乾燥させた後にニッケルペーストを印刷し内部電極パターンとした。得られた積層単位を11層積層し、上下に、内部電極パターンを形成していないセラミックグリーンシートを厚く積み重ねた層で圧着し、小片にカットした。その後、2端面にNiペーストを外部電極用の導電性ペーストとしてディップし、窒素ガス中で脱脂を行った。脱脂後の小片を、ニッケルが酸化しない酸素分圧になるように制御したN2-H2-H2O混合ガス中で、1280℃で2時間焼成して焼結させ、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0075】
作製された積層セラミックコンデンサのサイズは、1005形状(1.0mm×0.5mm×0.5mm)であった。各誘電体層の厚みは、2.0μmであった。その後、窒素と、数ppmの酸素との混合ガス中で、850℃で2時間の熱処理を行い、チタン酸バリウム結晶中から失われた酸素イオンを補填する再酸化処理を行った。
【0076】
(実施例2)
実施例2では、チタン100molに対して、ジルコニウムの添加量を4molとした。チタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比(Ba/(Ti+Zr))を0.960とした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0077】
(実施例3)
実施例3では、チタン100molに対して、ジルコニウムの添加量を8molとした。チタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比(Ba/(Ti+Zr))を0.920とした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0078】
(実施例4)
実施例4では、チタン100molに対して、ジルコニウムの添加量を10molとした。チタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比(Ba/(Ti+Zr))を0.900とした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0079】
(実施例5)
実施例5では、チタン100molに対して、ジルコニウムの添加量を4molとした。チタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比(Ba/(Ti+Zr))を0.960とした。チタン100molに対してガドリニウムの添加量を0.5molとした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0080】
(実施例6)
実施例6では、チタン100molに対して、ジルコニウムの添加量を4molとした。チタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比(Ba/(Ti+Zr))を0.960とした。チタン100molに対してガドリニウムの添加量を2molとした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0081】
(実施例7)
実施例7では、チタン100molに対して、ジルコニウムの添加量を4molとした。チタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比(Ba/(Ti+Zr))を0.960とした。チタン100molに対してマンガンの添加量を0.01molとした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0082】
(実施例8)
実施例8では、チタン100molに対して、ジルコニウムの添加量を4molとした。チタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比(Ba/(Ti+Zr))を0.960とした。チタン100molに対してマンガンの添加量を2molとした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0083】
(実施例9)
実施例9では、チタン100molに対して、ジルコニウムの添加量を4molとした。チタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比(Ba/(Ti+Zr))を0.960とした。チタン100molに対してマンガンの添加量を0.1molとした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0084】
(実施例10)
実施例10では、チタン酸バリウム(BaTiO3)粉末に、さらに酸化バナジウム(V2O5)の粉末を加えた。チタン100molに対して、ジルコニウムの添加量を4molとした。チタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比(Ba/(Ti+Zr))を0.960とした。チタン100molに対してマンガンの添加量を0.1molとした。チタン100molに対してバナジウムの添加量を0.05molとした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0085】
(実施例11)
実施例11では、チタン酸バリウム(BaTiO3)粉末に、さらに酸化バナジウム(V2O5)の粉末を加えた。チタン100molに対して、ジルコニウムの添加量を4molとした。チタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比(Ba/(Ti+Zr))を0.960とした。チタン100molに対してマンガンの添加量を0.1molとした。チタン100molに対してバナジウムの添加量を0.1molとした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0086】
(実施例12)
実施例12では、チタン酸バリウム(BaTiO3)粉末に、さらに酸化バナジウム(V2O5)の粉末を加えた。チタン100molに対して、ジルコニウムの添加量を4molとした。チタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比(Ba/(Ti+Zr))を0.960とした。チタン100molに対してマンガンの添加量を0.1molとした。チタン100molに対してバナジウムの添加量を0.2molとした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0087】
(実施例13)
実施例13では、チタン酸バリウム(BaTiO3)粉末に、さらに酸化バナジウム(V2O5)の粉末を加えた。チタン100molに対して、ジルコニウムの添加量を4molとした。チタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比(Ba/(Ti+Zr))を0.960とした。チタン100molに対してマンガンの添加量を0.1molとした。チタン100molに対してバナジウムの添加量を0.5molとした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0088】
(比較例1)
比較例1では、ジルコニウムを添加しなかった。すなわち、チタン100molに対して、ジルコニウムの添加量を0molとした。チタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比(Ba/(Ti+Zr))を1.000とした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0089】
(比較例2)
比較例2では、チタン100molに対して、ジルコニウムの添加量を20molとした。チタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比(Ba/(Ti+Zr))を0.800とした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0090】
(比較例3)
比較例3では、酸化ガドリニウム(Gd2O3)の代わりに酸化ユーロピウム(Eu2O3)を添加した。チタン100molに対してユーロピウムの添加量を1molとした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0091】
(比較例4)
比較例4では、チタン100molに対して、ジルコニウムの添加量を4molとした。チタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比(Ba/(Ti+Zr))を0.960とした。酸化ガドリニウムを添加しなかった。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0092】
(比較例5)
比較例5では、チタン100molに対して、ジルコニウムの添加量を4molとした。チタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比(Ba/(Ti+Zr))を0.960とした。チタン100molに対してガドリニウムの添加量を7molとした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0093】
(比較例6)
比較例6では、チタン100molに対して、ジルコニウムの添加量を4molとした。チタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比(Ba/(Ti+Zr))を0.960とした。酸化マンガンを添加しなかった。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0094】
(比較例7)
比較例7では、チタン100molに対して、ジルコニウムの添加量を4molとした。チタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比(Ba/(Ti+Zr))を0.960とした。チタン100molに対してマンガンの添加量を7molとした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0095】
(比較例8)
比較例8では、チタン100molに対して、ジルコニウムの添加量を4molとした。チタンおよびジルコニウムの和に対するバリウムのモル比(Ba/(Ti+Zr))を0.960とした。酸化ガドリニウム(Gd2O3)の代わりに酸化ユーロピウム(Eu2O3)を添加した。チタン100molに対してユーロピウムの添加量を1molとした。チタン100molに対してマンガンの添加量を0.1molとした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0096】
実施例1~13および比較例1~8の各条件を、表1に示す。
【表1】
【0097】
誘電体層における誘電体粒子の平均径を測定した。具体的には、積層セラミックコンデンサにおいて、外部電極が形成されている端面に平行に切断して断面を研磨した。当該断面は、YZ断面に相当する。当該断面に対して走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した誘電体層の断面写真に基づいて、誘電体粒子の粒径を測定した。SEM画像に基づいて誘電体粒子の積層方向の最大長を粒子径とし、測定された各粒子径の算術平均値をその誘電体粒子の平均径とした。ここでの研磨位置は、中央部近傍となるように、両外部電極の端面からX軸方向に5等分した中央領域に収まるようにした。
【0098】
誘電体粒子の平均径は、実施例1では0.26μmであり、実施例2では0.25μmであり、実施例3では0.25μmであり、実施例4では0.25μmであり、実施例5では0.26μmであり、実施例6では0.27μmであり、実施例7では0.23μmであり、実施例8では0.2μmであり、実施例9では0.25μmであり、実施例10では0.25μmであり、実施例11では0.25μmであり、実施例12では0.25μmであり、実施例13では0.25μmであり、比較例1では0.65μmであり、比較例2では0.25μmであり、比較例3では0.27μmであり、比較例4では0.25μmであり、比較例5では0.29μmであり、比較例6では0.25μmであり、比較例7では0.19μmであり、比較例8では0.25μmであった。
【0099】
実施例1~13および比較例1~8の積層セラミックコンデンサについて150℃の恒温槽中で2h静置したのち室温へ取り出し、その24h後にLCRメータを用いて1kHz、1Vrmsの条件で、容量およびtanδを測定した。その後、積層セラミックコンデンサを温度特性測定用のチャンバに入れ、-55℃から150℃まで昇温しながら各温度での容量およびtanδを測定した。このとき、粒成長が著しく進行した積層セラミックコンデンサは、tanδが異常に大きな値(>12%)を示す。本試験においてこのようなtanδに異常が認められたものは、短絡のため不良と判断した。短絡している積層セラミックコンデンサは、電子部品として成立しないためである。
【0100】
こうして測定された容量において25℃の容量値を基準として容量変化率を各温度で算出し、その変化量が積層セラミックコンデンサのEIA規格におけるX5Rの規格内に収まっているかを判断した。X5Rの規格内に収まっている場合には良好「〇」とし、X5Rの規格内に収まっていない場合には不良「×」とした。
【0101】
直流抵抗率ρ(Ω・cm)は、測定時の直流電圧をV(V)とした場合に、ρ=(V/I)×(S/t)の式から計算することができる。Sは断面積であり、tは電極間距離である。直流電流Iに関しては、絶縁抵抗計を用いて測定することができる。測定にあたっては測定電圧を決定する必要があるが、その誘電体層の厚みに依存した測定電界として決定することができる。一例として、125℃の恒温槽内に、積層セラミックコンデンサを30分保持し、セラミックス製の碍子等を用いて周囲との絶縁性を確保して、恒温槽から外部電極に接続した電線を通じて、測定電界を10V/μm、すなわち誘電体層の厚みが2μmの場合は、20Vを30秒印加して、直流電流Iの測定を行って、直流抵抗率ρ(Ω・cm)を算出した。結果を表2に示す。
【表2】
【0102】
比較例1,2および実施例1~4の結果について検証する。比較例1,2および実施例1~4では、添加するジルコニウムの量を変化させた。ジルコニウムを添加しなかった比較例1では、焼成後のtanδが16%となり、著しく高い値となっていた。この試料の微細組織を観察したところ、著しく粒成長しており、誘電体層における平均結晶粒径が0.65μmとなっていた。この顕著な粒成長が原因で、異常に高いtanδになったものと考えられる。こうした異常に高いtanδを示す積層セラミックコンデンサは、電子部品として成立せず、そもそも絶縁性が著しく悪いために正しく静電容量および絶縁性を評価できない。それにより、こうした試料に対しては電気特性評価を実施しなかった。
【0103】
一方で、チタン100molに対するジルコニウムの添加量を2mol以上10mol以下にした実施例1~4では、tanδが5%~6%程度の値を示しており、静電容量と絶縁性を測定することができた。また、実施例1~4では、抵抗率が2×1011~3×1010Ω・cmを示していた。一方で、チタン100molに対してジルコニウムの添加量が20molの比較例2では静電容量の温度特性がX5Rを満たさなかった。さらに、比較例2の誘電率は、1400という著しく低い値となった。これは、ジルコニウムの量が多く、コア部までジルコニウムが拡散し、コアシェル構造維持できなくなったためと考えられる。こうした結果から、チタン100molに対するジルコニウムの添加量は、2モル以上10mol以下であることが求められることがわかる。なお、当該添加量をBa/(Ti+Zr)比に換算すると、0.90≦Ba/(Ti+Zr)≦0.98にすることが求められることがわかる。
【0104】
次に、比較例3および実施例1の結果について検証する。比較例3では、希土類元素としてユーロピウムを添加した。比較例3の絶縁性を測定したところ、3×1010Ω・cmを示していた。一方で、実施例1では希土類元素としてガドリニウムを添加した。ガドリニウムを添加した実施例1では2×1011Ω・cmの抵抗率を示した。この結果から、比較例3よりも実施例1の方が、絶縁性が高いことがわかる。比較例3では,添加したユーロピウムが2価または3価の状態をとり得るため、価数変動に起因するホッピング伝導が顕著になったため絶縁性が悪化したものと考えられる。一方で、ガドリニウムがとりうる価数は3価のみであり、価数変動が起こらないことが絶縁性向上に寄与したものと考えられる。
【0105】
次に、比較例4,5および実施例5,6の結果について検証する。比較例4,5および実施例5,6では、ガドリニウムの添加量を変えた。比較例4では、ガドリニウムを添加しなかった。比較例4は、tanδ=40%という異常に高い値を示した。これは、希土類元素の添加量が少なすぎたため、チタン酸バリウムが還元されたことに起因している。一方、実施例5,6では、それぞれチタン100molに対してガドリニウムの添加量を0.5mol、2molとしている。実施例5,6は正常なtanδ(<12%)を示しており、高い絶縁性が得られた。一方で、比較例5では、チタン100molに対してガドリニウムの添加量を7molとしており、この試料では実施例5,6に比べて絶縁性が僅かに悪化した。これは、ガドリニウムがチタン酸バリウムAサイトに置換固溶し、ドナーとして作用したためと考えられる。こうした結果から、チタン100molに対するガドリニウムの添加量は、0.5mol以上2mol以下であることが求められることがわかる。
【0106】
次に、比較例6,7および実施例7,8の結果について検証する。比較例6,7および実施例7,8では、マンガンの添加量を変えた。比較例6では、マンガンを添加しなかった。比較例6は、tanδ=40%という異常に高い値を示した。これは、マンガンの添加量が少なすぎたため、チタン酸バリウムが還元されたことに起因している。一方、実施例7,8では、それぞれチタン100molに対してマンガンの添加量を0.01mol、2molとした。実施例7,8は、正常なtanδ(<12%)を示しており、高い絶縁性が得られた。一方で、比較例7では、チタン100molに対してマンガンの添加量を7molとしている。比較例7では、実施例7,8に比べて絶縁性が僅かに悪化した。これは、マンガンの価数変動によって生じるホッピング伝導に起因していると考えられる。さらに、比較例7の誘電率は1200という著しく低い値となった。これは、マンガンがアクセプタとして作用し、酸化物イオン空孔が生成されたことに起因していると考えられる。こうした結果から、チタン100molに対するマンガンの添加量は、0.01mol以上2mol以下であることが求められることがわかる。
【0107】
比較例8および実施例9~13では、チタン100molに対してマンガンの添加量を0.1molとした。また、比較例8では、希土類元素としてユーロピウムを添加した。比較例8の抵抗率は、1×105Ω・cmであった。一方で、実施例9では、希土類としてガドリニウムを添加した。実施例9の抵抗率は、1×106Ω・cmであり、ユーロピウムを添加した比較例8の抵抗率よりも高かった。
【0108】
実施例9~13では添加するバナジウムの量を変化させ、チタン100molに対するバナジウムの添加量を0~5molとした。チタン100molに対するバナジウムの添加量が0から0.2molまでは、バナジウムの量が多くなるほど抵抗率が高くなった。これは、バナジウムが粒界および粒界多重点に分布し、粒界でのダブルショットキー障壁の幅が増大し、トンネル電流が生じにくくなったためと考えられる。
【0109】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。