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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110720
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】形材の圧延方法及び圧延設備
(51)【国際特許分類】
   B21B 1/088 20060101AFI20240808BHJP
   B21B 37/00 20060101ALI20240808BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20240808BHJP
   B21B 38/02 20060101ALI20240808BHJP
   B21B 39/14 20060101ALI20240808BHJP
   B21B 39/16 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
B21B1/088 B
B21B37/00 272
B21C51/00 L
B21B38/02
B21B39/14 D
B21B39/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015479
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 貴斗
(72)【発明者】
【氏名】駒城 倫哉
【テーマコード(参考)】
4E002
4E124
【Fターム(参考)】
4E002AC03
4E002BA04
4E002BC05
4E002BD20
4E002CA15
4E124AA09
4E124CC01
4E124DD16
4E124EE21
4E124FF02
(57)【要約】
【課題】曲がりの形態に応じて、的確に曲がりを抑制できる形材の圧延方法及び圧延設備を提供すること。
【解決手段】複数の素材を順次、圧延機より圧延して形材を連続して製造する形材の製造方法であって、圧延機と圧延機で圧延された形材を左右方向にガイドする一対の圧延ガイド52とを用いて製造された形材について、曲がり測定装置53にて曲がり量を測定し、形材の搬送方向下流側の第1領域R1及び第2領域R2における曲がり量を求め、第1領域の曲がり形状と第2領域の曲がり形状とに応じて、圧延機のロール隙である圧延条件、及び圧延ガイド52の進退位置であるガイド条件の少なくとも一方の変更量を算出し、算出された変更量にて調整された圧延条件及びガイド条件で圧延を行う。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素材を順次、圧延機により圧延して形材を連続して製造する、形材の製造方法であって、
前記圧延機と、前記圧延機の出側に配置され、前記圧延機で圧延された前記形材を左右方向にガイドする一対の圧延ガイドとを用いて製造された前記形材について、前記一対の圧延ガイドよりも下流側に配置される曲がり測定装置にて、前記形材の曲がり量を測定する測定工程と、
前記形材の搬送方向下流側の端である先端から第1距離までの領域である第1領域、及び前記第1領域の尾端側から第2距離までの領域である第2領域における曲がり量を求める曲がり量算出工程と、
前記第1領域の曲がり形状と前記第2領域の曲がり形状とに応じて、前記圧延機のロール隙である圧延条件及び前記圧延ガイドの進退位置であるガイド条件の少なくとも一方の変更量を算出する変更量算出工程と、
前記変更量算出工程の後、決定された変更量にて調整された前記圧延条件及び前記ガイド条件で圧延を行う圧延工程と、
を備える、形材の製造方法。
【請求項2】
前記変更量算出工程では、前記第1領域の曲がり形状として、前記第1領域の曲がり量及び曲がりの方向を用い、前記第2領域の曲がり形状として、前記第2領域の曲がり量及び曲がりの方向を用いる、請求項1に記載の形材の製造方法。
【請求項3】
複数の素材を順次、圧延して形材を連続して製造する、形材の圧延設備であって、
前記素材を圧延する圧延機と、
前記圧延機の出側に配置され、前記圧延機で圧延された前記形材を左右方向にガイドする一対の圧延ガイドと、
前記一対の圧延ガイドよりも下流側に配置され、前記形材の曲がり量を測定する曲がり測定装置と、
前記曲がり測定装置の測定結果に応じて、前記圧延機のロール隙である圧延条件及び前記圧延ガイドの進退位置であるガイド条件の少なくとも一方の変更量を算出する演算装置と、
を備え、
前記演算装置は、
前記形材の搬送方向下流側の端である先端から第1距離までの領域である第1領域、及び前記第1領域の尾端側から第2距離までの領域である第2領域における曲がり量を求め、
前記第1領域の曲がり形状と前記第2領域の曲がり形状とに応じて、前記圧延機のロール隙である圧延条件、及び前記圧延ガイドの進退位置であるガイド条件の少なくとも一方の変更量を算出し、
前記圧延機及び前記一対の圧延ガイドは、算出された変更量にて調整された前記圧延条件及び前記ガイド条件で圧延を行う、形材の圧延設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形材の圧延方法及び圧延設備に関する。
【背景技術】
【0002】
形材であるH形鋼の圧延を行う際には、粗圧延工程、中間圧延工程及び仕上圧延工程の3つの圧延工程が行われる。このうち、粗圧延工程では、加熱炉で所定の温度に加熱されたスラブ、ブルームやビームブランクを素材として、粗圧延機にて圧延が行われることで、ウェブとその両端にフランジを有する略H形状の粗形鋼片が形成される。
【0003】
また、中間圧延工程では、中間ユニバーサル圧延機にて圧延が行われることで、粗形鋼片のウェブ及びフランジの厚みの減厚が行われる。さらに、中間圧延工程では、中間ユニバーサル圧延機と対で用いられるエッジング圧延機にて圧延が行われることで、フランジの幅圧下が行われる。この中間圧延工程では複数パスのリバース圧延が行われる。
【0004】
さらに、仕上圧延工程では、通常、上下一対の水平ロールと左右一対の垂直ロールとが組み込まれた仕上ユニバーサル圧延機が用いられ、1パスの仕上圧延が行われる。仕上圧延工程では、上下一対の水平ロールの周面でウェブの厚み圧下が行われ、水平ロールの側面と水平ロールの左右に配置された垂直ロールの周面でフランジの厚み圧下及びフランジの角度おこしが行われ、製品寸法のH形鋼が製造される。製品寸法となったH形鋼はその後、熱間鋸断機や冷間鋸断機で所定の製品長さに切断される。
【0005】
ところで、H形鋼製品では、図6に示すように、製品が長手方向の左右に曲がる「曲がり」という形状不良が発生することがある。曲がりには公差範囲が決められており、例えばJIS規格(JIS G3192)では図6で定義した曲がり量δが製品長の0.001以下(ウェブ高さHが300mm超えの場合)と定められている。この公差範囲を外れる場合は、曲がりをプレス矯正機等で矯正する必要がある。さらに矯正しても公差範囲に入らない場合はその製品は不合格となり、生産性を大きく阻害する要因となっている。
【0006】
この曲がりに対し、これまでにもいくつかの改善方法が提案されている。例えば、特許文献1には、圧延中にユニバーサル圧延機出側で形鋼高さ方向の曲がり量(特許文献1では「反り」と表記)を圧延材の長さ方向に沿って計測し、計測した曲がり量に基づいてユニバーサル圧延機の左右垂直ロールの相互間のパスライン方向のロールオフセット量を調整する技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、圧延前の左右のフランジ厚を求め、圧延後に左右のフランジ厚の差が解消される垂直ロール位置の基準位置からの変更量を算出し、この変更量に従い圧延を行った場合に、左右のフランジ厚み圧下率差によって生じると予測される圧延後の曲がり量を算出し、この曲がり量が解消されるガイド位置の基準位置からの変更量を算出し、これらの変更量に基づいて圧延機における垂直ロール位置とガイド位置とを修正して圧延を行う技術が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献3には、ユニバーサル圧延機の入側と出側の各々に、フランジ外面に対向しかつフランジ外面に向かって進退自在で、またその断面輪郭形状が入側では圧延前のH形鋼のフランジ外面の断面形状と略同一である入側拘束ローラを配設し、出側では圧延後のH形鋼のフランジ外面の断面形状と略同一である出側拘束ローラを配設し、入側拘束ローラ及び出側拘束ローラの幅方向中心位置を、左右一対の垂直ロールの幅方向中心位置に略一致させ、これら入側拘束ローラ及び出側拘束ローラをフランジ両外面の略全面に当接してフランジを拘束しながらH形鋼を圧延し、H形鋼の曲がりを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10-225708号公報
【特許文献2】特開2001-30003号公報
【特許文献3】特開2000-140925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示された曲がりの抑制技術では、計測した曲がり量に応じて、ユニバーサル圧延機の垂直ロールのオフセットを調整する必要がある。ところが、この調整に対して曲がりは非常に敏感に変化することが多く、調整時の変更量の誤差によって曲がりが的確に制御できないという問題があった。また、曲がりの方向が長手方向で変化するS字状の曲がりには対応できないという問題もあった。
【0011】
また、特許文献2に開示された曲がりの抑制技術では、圧延前後のフランジ厚を正確に求める必要があり、また圧延後の曲がりの予測についても、モデル式を用いて算出する必要がある。このため、フランジ厚の算出誤差、モデル式の誤差によって、曲がりを正確に制御できないことが多いという問題があった。また、特許文献1と同様に、曲がりの方向が長手方向で変化するS字状の曲がりには対応できないという問題もあった。
【0012】
さらに、特許文献3に開示された曲がりの抑制技術では、曲がりの抑制のために、ユニバーサル圧延機の前後面に設置された拘束ローラを正確にセットする必要がある。このセット位置が少しでもずれている場合、曲がりの矯正効果が発揮できず、ずれている方向によってはかえって曲がりを大きくする場合もある、という問題があった。
そこで、本発明は、上記の課題に着目してなされたものであり、曲がりの形態に応じて、的確に曲がりを抑制できる形材の圧延設備及び圧延方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明の一態様によれば、
複数の素材を順次、圧延機により圧延して形材を連続して製造する、形材の製造方法であって、
上記圧延機と、上記圧延機の出側に配置され、上記圧延機で圧延された上記形材を左右方向にガイドする一対の圧延ガイドとを用いて製造された上記形材について、上記一対の圧延ガイドよりも下流側に配置される曲がり測定装置にて、上記形材の曲がり量を測定する測定工程と、
上記形材の搬送方向下流側の端である先端から第1距離までの領域である第1領域、及び上記第1領域の尾端側から第2距離までの領域である第2領域における曲がり量を求める曲がり量算出工程と、
上記第1領域の曲がり形状と上記第2領域の曲がり形状とに応じて、上記圧延機のロール隙である圧延条件、及び上記圧延ガイドの進退位置であるガイド条件の少なくとも一方の変更量を算出する変更量算出工程と、
上記変更量算出工程の後、算出された変更量にて調整された上記圧延条件及び上記ガイド条件で圧延を行う圧延工程と、
を備える、形材の製造方法が提供される。
【0014】
(2)上記(1)の構成において、上記変更量算出工程では、上記第1領域の曲がり形状として、上記第1領域の曲がり量及び曲がりの方向を用い、上記第2領域の曲がり形状として、上記第2領域の曲がり量及び曲がりの方向を用いる。
【0015】
(3)本発明の一態様によれば、
複数の素材を順次、圧延して形材を連続して製造する、形材の圧延設備であって、
上記素材を圧延する圧延機と、
上記圧延機の出側に配置され、上記圧延機で圧延された上記形材を左右方向にガイドする一対の圧延ガイドと、
上記一対の圧延ガイドよりも下流側に配置され、上記形材の曲がり量を測定する曲がり測定装置と、
上記曲がり測定装置の測定結果に応じて、上記圧延機のロール隙である圧延条件及び上記圧延ガイドの進退位置であるガイド条件の少なくとも一方の変更量を算出する演算装置と、
を備え、
上記演算装置は、
上記曲がり量が許容範囲内であるか否かを判断する判断し、
上記曲がり量が許容範囲内にない場合には、上記形材の搬送方向下流側の端である先端から第1距離までの領域である第1領域、及び上記第1領域の尾端側から第2距離までの領域である第2領域における曲がり量を求め、
上記第1領域の曲がり形状と上記第2領域の曲がり形状とに応じて、上記圧延機のロール隙である圧延条件の変更量、及び上記圧延ガイドの進退位置であるガイド条件の少なくとも一方の変更量を算出し、
上記圧延機及び上記一対の圧延ガイドは、上記曲がり量が許容範囲内にある場合には、上記曲がり量が測定された上記形材と同じ上記圧延条件及び上記ガイド条件で圧延を行い、上記変更量が算出された場合には、算出された変更量にて調整された上記圧延条件及び上記ガイド条件で圧延を行う、形材の圧延設備が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、曲がりの形態に応じて、的確に曲がりを抑制できる形材の圧延設備および圧延方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る圧延設備である仕上圧延設備を示す平面図である。
図2】本発明の一実施形態における圧延ラインを示す説明図である。
図3】仕上ユニバーサル圧延機を示す正面図である。
図4】仕上圧延設備における、仕上ユニバーサル圧延機及び圧延ガイドの配置を示す平面図である。
図5】本発明の一実施形態における、圧延条件及びガイド条件の調整方法を示すフロー図である。
図6】H形鋼の曲がり量を示す模式図である。
図7】H形鋼における第1領域及び第2領域を示す説明図である。
図8】H形鋼の曲がりの形状を示す説明図であり、(A)は一様曲がりを示し、(B)はS字曲がりを示し、(C)先端曲がりを示し、(D)は部分曲がりを示す。
図9】H形鋼の曲がり量の算出方法を示す説明図であり、(A)は一様曲がりの場合を示し、(B)はS字曲がりの場合を示し、(D)は部分曲がりの場合を示す。
図10】比較例における仕上ユニバーサル圧延機を示す平面図である。
図11】H形鋼の曲がりの方向と圧延ガイドとの位置関係を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の詳細な説明では、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる場合が含まれる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0019】
<圧延設備>
本発明の一実施形態に係る圧延設備の構成について説明する。本実施形態において、圧延設備は、スラブ、ブルームやビームブランク等の素材を圧延することで、形材の一つであるH形鋼を製造する圧延ライン1に設けられる、仕上圧延設備5である。圧延ライン1は、図2に示すように、加熱炉2と、粗圧延設備3と、中間圧延設備4と、仕上圧延設備5とを備える。
加熱炉2は、素材を所定の温度まで加熱する装置である。
粗圧延設備3は、素材を圧延する粗圧延機を有する。粗圧延設備3では、加熱炉2で加熱された素材が粗圧延機で圧延(「粗圧延」ともいう。)されることで、ウェブとその両端にフランジを有する略H形状の被圧延材である粗形鋼片が製造される。
【0020】
中間圧延設備4は、粗圧延設備3で製造された粗形鋼片を圧延する、中間ユニバーサル圧延機41と、エッジング圧延機42とを備える。中間圧延設備4では、中間ユニバーサル圧延機41、及び中間ユニバーサル圧延機41と対で用いられるエッジング圧延機42にて、複数パスのリバース圧延(「中間圧延」ともいう。)が行われることで、粗形鋼片が圧延され、被圧延材がより製品寸法に近い形状となる。
【0021】
仕上圧延設備5は、中間圧延が施された被圧延材を圧延(「仕上圧延」ともいう。)することで、製品寸法のH形鋼を製造する。仕上圧延設備5は、図1に示すように、仕上ユニバーサル圧延機51と、一対の圧延ガイド52と、曲がり測定装置53と、演算装置54とを備える。なお、以下では、仕上圧延にて被圧延材が搬送される方向(図1の左右方向)を、搬送方向(「圧延方向」ともいう。)という。
【0022】
仕上ユニバーサル圧延機51は、図3に示すように、一対の水平ロール511と、一対の垂直ロール512とを有する。一対の水平ロール511は、回転軸が左右方向と平行に、且つ被圧延材を間に挟んで上下方向に並んで設けられる。一対の垂直ロール512は、回転軸が上下方向と平行に、且つ被圧延材を間に挟んで左右方向に並んで設けられる。なお、上下方向とは、鉛直方向であり、図3における上下方向である。また、左右方向とは、上下方向と被圧延材の搬送方向とに直交する方向であり、図3における左右方向である。仕上ユニバーサル圧延機51は、図1に示すように、演算装置54からの修正指令を受けて、一対の垂直ロール512の左右方向の位置を調整する。これにより、被圧延材の左右のフランジの圧下量が調整される。なお、一対の垂直ロール512の左右方向の基準となる位置を基準位置という。基準位置は、正常な圧延条件においてH形鋼が製品寸法となるように設定される基準の位置である。図4に示す例では、一対の垂直ロール512の円周面の互いに対向する位置である、左右方向の内側面の位置が、搬送方向に延在する点線で示す基準線とそれぞれ重なる位置が基準位置となる。
【0023】
一対の圧延ガイド(その形態から「平行ガイド」ともいう。)52は、仕上ユニバーサル圧延機51の出側に配置され、仕上ユニバーサル圧延機51で圧延されたH形鋼6を左右方向にガイドするものであり、圧延方向に対して所定の長さのガイド板をそれぞれ有する。一対の圧延ガイド52のガイド板には、搬送方向の上流側及び下流側の両端側にローラがそれぞれ設けられる。このローラは、回転自在なローラの周面をH形鋼の左右フランジの外面にそれぞれ当接させることで、H形鋼が左右方向に曲がらないように拘束するものである。圧延ガイド52の仕上ユニバーサル圧延機51に近い側の先端には、通常「呼び込み」と呼ばれるテーパ部が設けられている。
【0024】
また、一対の圧延ガイド52は、仕上ユニバーサル圧延機51から出てくるH形鋼を挟んで、左右方向に離間して設けられる。さらに、一対の圧延ガイド52は、演算装置54からの指令を受けて、左右方向にそれぞれ移動可能に構成される。ここで、一対の圧延ガイド52の左右方向の基準となる位置を基準位置という。一対の圧延ガイド52の基準位置は、一対の垂直ロール512に対応した位置であり、一対の圧延ガイド52に設けられたロールの圧延芯側の周面の位置が、基準位置となる一対の垂直ロール512の周側面内側の位置と同じ位置となる位置である。図4に示す例では、一対の圧延ガイド52のローラの圧延芯側の周面の位置が、点線で示す搬送方向に延在する基準線とそれぞれ重なる位置が基準位置となる。また、一対の圧延ガイド52の基準位置からのズレ量を調整量Sという。調整量Sは、圧延ガイド52が基準位置となる場合には0mmとなり、圧延ガイド52が基準位置よりも圧延芯側にある場合にはマイナスのズレ量(mm)となり、圧延ガイド52が基準位置よりも圧延芯側の逆側にある場合にはプラスのズレ量(mm)となる。図4に示す例では、左右方向の左側(図4の上側)の圧延ガイド52が基準位置となり、左右方向の右側(図4の下側)の圧延ガイド52がプラス側にずれた状態となっている。なお、以下では、一対の圧延ガイド52の左右方向の位置のことを進退位置ともいう。また、本実施形態において、「(圧延ガイド52の)進退位置を大きくする」とは、当該圧延ガイド52を圧延芯より遠ざけることであり、調整量Sの値は正の方向に大きくなる。一方、「(圧延ガイド52の)進退位置を小さくする」とは、当該圧延ガイド52を圧延芯側に近づけることである。
【0025】
また、図4に示すように、搬送方向に平行な距離として、仕上ユニバーサル圧延機51の垂直ロール512から一対の平行ガイド52の搬送方向最上流側のローラまでの距離(各ローラにおける軸心位置での距離)を設置距離Lという。
【0026】
曲がり測定装置53は、仕上ユニバーサル圧延機51から出てくる被圧延材である、仕上圧延が施されたH形鋼の曲がり形状を測定する装置であり、一対の圧延ガイド52よりも搬送方向下流側に配置される。曲がり形状とは、H形鋼をフランジに平行な平面視でみた場合の、左右のフランジのいずれか一方のフランジ外面の位置における曲がりの形状であり、このフランジ外面の長手方向にわたる複数の位置に対して、各位置が基準の位置に対して左右方向にどれだけずれているかを示す、H形鋼の曲がりのプロフィールである。なお、曲がり形状を示すプロフィールは、上記の長手方向の複数位置における、一方のフランジ外面の左右方向の位置を示すデータが用いられる。この場合、具体的には、基準となる左右方向の所定の位置(例えば、曲がり測定装置53の位置)からの上記の左右方向の位置までの距離が用いられてもよい。また、H形鋼の圧延最先端位置(長手方向の先端のうち圧延が先に施される方の位置)と、圧延最先端位置から長手方向への所定長さの位置とを、曲がりプロフィールを描く両端とし、この両端における上記の左右方向の位置を繋ぐ線の左右方向の位置を0として、この位置から上記の長手方向の複数位置までの左右方向の距離(正または負の値)が用いられてもよい。曲がり測定装置53は、H形鋼の曲がり形状が測定可能なものであれば、特に限定されるものではない。本実施形態では、一例として、曲がり測定装置53は、一対の圧延ガイド52より搬送方向の下流側の、搬送されるH形鋼の左右方向の外側に設けられる、3台以上のレーザ距離計を有する。このレーザ距離計は、搬送方向に所定のピッチで並んで設置され、搬送されるH形鋼との左右方向の離間距離を、所定時間間隔で連続して測定する。そして、曲がり測定装置53は、3台以上のレーザ距離計で測定した距離の差から、各測定時間での曲がり量を求め、これを時系列的に重ね合わせることで、H形鋼の長手方向の曲がり形状を求める。曲がり測定装置53は、H形鋼の曲がり量の測定結果を演算装置54に送信する。
【0027】
演算装置54は、仕上ユニバーサル圧延機51、一対の圧延ガイド52及び曲がり測定装置53に電気的に接続される。演算装置54は、曲がり測定装置53にて測定されるH形鋼の曲がり形状の測定結果に応じて、仕上ユニバーサル圧延機51及び一対の圧延ガイド52を制御することで、H形鋼の圧延条件及びガイド条件を調整する。ここで、圧延条件とは、仕上ユニバーサル圧延機51による仕上圧延において、曲がりの発生に寄与する条件であり、本実施形態では、圧延時の一対の垂直ロール512の位置をいう。つまり、圧延条件は、各垂直ロール512と一対の水平ロール511との隙間(ロール隙)に相当する。また、ガイド条件とは、一対の圧延ガイド52による搬送されるH形鋼のガイドの条件であり、一対の圧延ガイド52の進退位置(つまり、調整量S)である。演算装置54による圧延条件及びガイド条件の調整方法についての詳細は、後述する。演算装置54は、後述する圧延条件の調整方法における、演算や制御の機能を実現するための、演算機器や制御機器等の複数の機器によって構成される制御盤であってもよい。また、演算装置54は、これらの各機能をコンピュータソフトウェア上でプログラムを実行することで実現するための演算処理機能を有するコンピュータシステムであってもよい。そして、このコンピュータシステムは、ROM、RAM、CPU等を備えて構成され、ROM等に予め記憶された各種専用のプログラムを実行することにより、前述した各機能をソフトウェア上で実現する。
【0028】
<形材の圧延方法>
次に、本実施形態に係る形材の圧延方法について説明する。本実施形態では、圧延ライン1にて、加熱炉2で加熱される複数の素材に対して、粗圧延、中間圧延及び仕上圧延を順に施すことでH形鋼を連続して製造する。この際、後述するように、仕上圧延では、前に圧延されたH形鋼の曲がり形状に応じて、圧延条件及びガイド条件を変更する。また、連続した圧延は基本的に、同一素材及び同一断面のH形鋼6を連続的に圧延(連続圧延)するものであり、連続圧延による複数のH形鋼6の圧延をまとめて連続圧延チャンスともいう。
【0029】
本実施形態では、はじめに、1本目の素材について、粗圧延設備3、中間圧延設備4及び仕上圧延設備5にて、粗圧延、中間圧延及び仕上圧延を施すことで、H形鋼を製造する。そして、図5に示す処理フローに従って、1本目の圧延結果から、2本目以降の素材の仕上圧延における圧延条件及びガイド条件の少なくとも一方の変更量が求められ、圧延条件及びガイド条件の少なくとも一方が調整される。また、連続圧延チャンスでは、圧延条件及びガイド条件の調整は、同じ連続圧延チャンスで圧延された前のH形鋼6の圧延結果から行われる。例えば、同じ連続圧延チャンスにおいて、直前の圧延結果に応じて、曲がりがなくなるまで、圧延条件及びガイド条件の調整を行ってもよい。なお、1本目の素材の圧延については、圧延条件及びガイド条件は特に限定されるものではなく、工程的に用いられるような標準的な条件でよい。
【0030】
この圧延条件及びガイド条件の調整では、図5に示すように、まず、仕上圧延設備5にて仕上圧延されたH形鋼の曲がり形状を曲がり測定装置53で測定する(S100、測定工程)。ステップS100では、H形鋼の長手方向の先端から長手方向に所定の長さについて、全長にわたって、曲がり測定装置53のレーザ距離計で曲がり測定装置53からH形鋼までの距離が連続的に測定されることで、H形鋼の曲がり形状が測定される。この長手方向に所定の長さは、通常は最大で10m程度であり、後述する、図7の領域R1と領域R2との長手方向の長さの和(X+Y)について測定すればよい。
【0031】
次いで、演算装置54は、第1領域R1及び第2領域R2での第1曲がり量δ及び第2曲がり量δを求める(S102、曲がり量算出工程)。第1領域R1及び第2領域R2は、図7に示すように、H形鋼6の長手方向の先端側(搬送方向下流側)の端部における領域である。第1領域R1は、長手方向に、H形鋼6の搬送方向下流側の端である先端61から尾端側に第1距離X進んだ位置までの領域である。第2領域R2は、長手方向に、第1領域R1の尾端側の端から第2距離Y進んだ位置までの領域である。第1距離X及び第2距離Yの詳細については、後述する。
【0032】
第1曲がり量δは、第1領域R1におけるH形鋼6の曲がり量であり、曲がりプロフィールに対し弦をひき、この弦と曲がりプロフィールとの距離がもっとも長くなる長手方向位置での距離である。曲がりプロフィールとは、H形鋼6を図7に示すように平面視した際の曲がりの形状であり、本実施形態では、H形鋼6の一方のフランジ外面(側面)の位置で示される。また、第1曲がり量δは、曲がりの方向に応じて正負の符号をつけて表される。本実施形態では、一例として、曲がりの方向について、圧延先端からみて右方向への曲がりを正(プラス)として、圧延先端からみて左方向への曲がりを負(マイナス)とする。第2曲がり量δは、第2領域R2におけるH形鋼6の曲がり量であり、第1曲がり量δと同様に求められる。また、第2曲がり量δについても、第1曲がり量δと同様に、曲がりの方向に応じて正負の符号をつけて表される。なお、第1曲がり量δ及び第2曲がり量δは、単位長さあたりの曲がりに換算して取り扱うことが好ましい。例えば、第1曲がり量δ及び第2曲がり量δを1mあたりの長さでの曲がり量(mm)としてもよい。この場合、1m長さで1mm以内の曲がりならば、「曲がり良好、変更量0mm」、1mmを超える場合は、「曲がりの調整が必要」というような判断を行うことができる。ここで、曲がりの方向について、本実施形態では、図11に示すように、上方からH形鋼6をみた図において、図の上側に凸となるように曲がっている場合、上方側の圧延ガイド52Bの側を「凸側」とも記載し、下方側の圧延ガイド52Aの側を「凹側」とも記載している。
【0033】
(H形鋼の各種の曲がりの態様)
ここで、H形鋼等の形材において、仕上圧延設備5で仕上圧延され、所定の製品長さに切断されたH形鋼製品の曲がりの形状の例を図8に示す。図8に示す曲がりの形状としては、一様曲がり(図8(A))、S字曲がり(図8(B))、先端曲がり(図8(C))及び部分曲がり(図8(D))がある。なお、図8では、1本の素材から圧延されて複数本の製品となったH形鋼6のうち、圧延の最も先端側から採取されたH形鋼製品の曲がり形状を示している。図8(A)に示す一様曲がりは、ほぼ一様に一方向に曲がる曲がりの形態である。図8(B)に示すS字曲がりは、曲がりの方向が長手方向の途中で変わる曲がりの形態である。図8(C)に示す端部曲がりは、先端部での曲率が大きく、後端に行くに従い曲率が小さくなる曲がりの形態である。図8(D)に示す部分曲がりは、長手方向の一部(先端部ではない)に屈曲がある曲がりの形態である。また、曲がりの形態としては、図8と左右方向の曲がりが逆となる形態もある。このように複雑な曲がり形態となるのは、仕上圧延で先端となる長手方向位置から採取した製品で圧倒的に多く、曲がりでプレス矯正が必要となる製品の大半も仕上圧延先端から採取した製品である。特に図8(B),(C),(D)に示す、S字曲がりや端部曲がり、部分曲がりはプレス矯正が難しく、これらの形態の曲がりを抑制することが重要である。
【0034】
また、図9には、曲がり量δの算出方法の一例として、一様曲がり、S字曲がり及び部分曲がりがあるH形鋼6の、第1曲がり量δ及び第2曲がり量δの算出方法を示す。図9(A)には、一様曲がりの場合の曲がりプロフィールを示す。図9(A)の場合、第1曲がり量δ及び第2曲がり量δの符号は正で同じであり、単位長さあたりの曲がり量(絶対値)は同程度となる。図9(B)には、S字曲がりの場合の曲がりプロフィールを示す。図9(B)の場合、第1曲がり量δの符号は正、第2曲がり量δの符号は負となり、符号が逆になる。図9(C)には、端部曲がりの場合の曲がりプロフィールを示す。図9(C)の場合、第1曲がり量δ及び第2曲がり量δの符号は正で同じであり、単位長さあたりの曲がり量(絶対値)は、第1曲がり量δよりも第2曲がり量δの方が大きくなる。
【0035】
本発明者らは、図1,2に示す設備配列の圧延ライン1に対して、仕上ユニバーサル圧延機51の圧延条件と圧延ガイド52の進退位置とを種々の条件に変更し、圧延を行った。そして、圧延ガイド52へのH形鋼6の接触状態を確認しつつ、仕上圧延後のH形鋼6の圧延先端から10m長さ分の曲がり形状を曲がり測定装置53で調査した。
【0036】
なお、圧延ガイド52の進退位置とは、図4に示すように、破線で示す基準線に対して、圧延ガイド52に組み込まれたローラの圧延芯側の周側面がどれだけ進退しているかを示す値である。なお、図4に示す基準線は、仕上ユニバーサル圧延機51の垂直ロール512の圧延芯側(内側)の円周面を圧延方向に伸ばした線である。そして、圧延ガイド52が圧延されるH形鋼6から遠ざかる方向を符号+(プラス)とし、H形鋼6に近づく方向を符号-(マイナス)とする。
【0037】
また、仕上ユニバーサル圧延機51の中心から、圧延ガイド52に組み込まれた仕上ユニバーサル圧延機51に最も近いローラの中心までの長手方向距離を、圧延ガイド52の設置距離Lとしている。なお、平行ガイドタイプの圧延ガイド52では、圧延ガイド52内にローラを組み込まない場合には、圧延ガイド52の呼び込み部が終了する位置までの距離を設置距離Lとしてもよい。また、圧延ガイド52のローラ面とガイド板面とのピックアップ量(板面に対しローラがどれだけ飛び出しているかを表す量)が微小な場合についても、圧延ガイド52の呼び込み部が終了する位置までの距離を設置距離Lとしてもよい。
【0038】
調査の結果、曲がりの大きさは別として、曲がりの形状としては、図9(A),(B),(C)に示す形態に大別され、時には図9(D)に示すように、圧延先端から一定の距離における曲がりの曲率が大きくなる場合もあることが判明した。これらの曲がりの形態が生じたH形鋼6の圧延でのガイド状況を詳しく観察した結果、以下のような曲がりの発生状況が判明した。
【0039】
S字曲がりの発生状況については以下のようになる。H形鋼6の圧延条件が不適切である場合、H形鋼6に大きな曲がりが発生する。その後、H形鋼6の先端が圧延ガイド52に当ったときに、ちょうど仕上ユニバーサル圧延機51で圧延されている長手部位について、曲がりの方向が変化することで、S字曲がりとなる。
【0040】
また、部分曲がりの発生状況については以下のようになる。部分曲がりが発生する際には、H形鋼6の圧延条件は適切であり圧延の先端側はまっすぐに圧延されている。ところが、圧延ガイド52の進退位置がマイナス(H形鋼6に近付く)方向に誤っていることで、H形鋼6の先端が圧延ガイド52に当ったときに、ちょうど仕上ユニバーサル圧延機51で圧延されている長手部位に屈曲するように曲がりが発生する。
【0041】
これらの知見から、図8に示す各種の曲がり形態について、圧延条件とガイドの進退位置の良否について簡単にまとめると、以下のようになる。
(一様曲がり)
圧延条件:曲がりを発生させる圧延条件になっている。
ガイド進退位置:ガイド進退位置が+(プラス)方向に広すぎる。
(S字曲がり)
圧延条件:曲がりを発生させる圧延条件になっている。
ガイド進退位置:適正位置よりも-(マイナス)側になっている可能性がある。
(端部曲がり)
圧延条件:曲がりを発生させる圧延条件になっている。
ガイド進退位置:ガイド進退位置は適正である。
(部分曲がり)
圧延条件:圧延条件は適正である。
ガイド進退位置:適正位置よりも-(マイナス)側になっている。
【0042】
このような曲がりの形態について分類して修正をするため、本実施形態では、圧延ガイドがH形鋼6の曲がり形状に作用を及ぼす、圧延先端からの第1距離Xを定めておく。第1距離Xは、H形鋼6の長手先端が圧延ガイド52に接触したときに正に圧延されている部位からH形鋼6の先端までの長さである。第1距離Xは、H形鋼6の先端クロップ形態やガイドとの接触状態を加味して決定できるが、結果としては、先に示した圧延ガイド52の設置距離Lとほぼ等しい値とすることができる。第1距離Xの具体例としては、圧延機後面のガイド形態にもよるが2~3m程度の値になることが多い。また、第2距離Yは、特に限定されないが、第1距離Xと同じ又は同程度としてもよく、第1距離Xの1倍~3倍としてもよい。
【0043】
ステップS102の後、演算装置54は、求められた第1曲がり量δ及び第2曲がり量δに応じて、仕上ユニバーサル圧延機51の圧延条件及び圧延ガイド52の進退位置の少なくとも一方の変更量を算出する(S104、変更量算出工程)。ステップS104では、仕上ユニバーサル圧延機51の圧延条件の変更量を決定する圧延条件決定工程と、圧延ガイド52の進退位置の変更量を決定する進退位置決定工程とが行われることで、各変更量が決定される。
【0044】
(圧延条件決定工程)
圧延条件決定工程では、第1曲がり量δが第1許容範囲内となる場合、圧延条件の変更が必要ないと判断してもよい。あるいは、算出した変更量が例えば±0.05mm以内の微小量となった場合にも、圧延条件の変更が必要ないと判断してもよい。第1許容範囲は、品質上の公差に基づいて設定される値である。また、第1領域R1での曲がりは、一様曲がり、S字曲がり及び端部曲がりで大きく発生するものであることから、部分曲がりとその他の曲がりとが第1領域R1にて判別可能なように第1許容範囲が設定されてもよい。圧延条件の変更が必要ないと判断された場合には、圧延条件の変更量はゼロとなる。一方、圧延条件の変更を行う場合には、以下の方法で圧延条件の変更量が決定される。
【0045】
圧延条件の変更では、第1領域R1における曲がりの方向つまり第1曲がり量δの符号に応じて、一対の垂直ロール512の位置を左右方向に相対的にずらすように、変更量が決定される。この際、第1領域R1における曲がりの凹側方向の垂直ロール512については、垂直ロール512と水平ロール511との隙が小さくなる方向に、垂直ロール512が所定の移動量ΔVだけ移動するように、変更量が決定される。一方、第1領域R1における曲がりの凸側方向の垂直ロール512については、垂直ロール512と水平ロール511との隙が大きくなる方向に、垂直ロール512が所定の移動量ΔVだけ移動するように、変更量が決定される。
【0046】
移動量ΔVは、例えば、第1曲がり量δに応じて決定され、式(1)のように決定されてもよい。
ΔV=K・δ ・・・(1)
ここで、Kは係数であり、予め圧延条件を変えたときの曲がりの変化量を調査しておき、そのデータに基づいて、H形鋼6の断面(形状・サイズ)や鋼種ごとに決めておけばよい。
【0047】
(進退位置決定工程)
進退位置決定工程では、第2曲がり量δが第2許容範囲内となる場合、進退位置の変更が必要ないと判断してもよい。あるいは、算出した変更量が例えば±0.2mm以内の微小量となった場合にも、進退位置の変更が必要ないと判断してもよい。第2許容範囲は、第1許容範囲と同様に、品質上の公差に基づいて設定される値である。また、第2領域R2での曲がりは、一様曲がり、S字曲がり及び部分曲がりで大きく発生するものであることから、端部曲がりとその他の曲がりとが第2領域R2にて判別可能なように第2許容範囲が設定されてもよい。進退位置の変更が必要ないと判断された場合には、進退位置の変更量はゼロとなる。一方、進退位置の変更を行う場合には、以下の方法で進退位置の変更量が決定される。
【0048】
第1曲がり量δ、第2曲がり量δ、並びに第1曲がり量δ及び第2曲がり量δの符号に応じて、下記(a)~(c)の3条件に場合分けされて、進退位置の変更量が決定される。
(a)第1曲がり量δ及び第2曲がり量δの符号が同じで、第2曲がり量δが第2許容範囲を外れている場合(一様曲がりの場合)
この場合、第2領域R2の曲がりの凹側方向の圧延ガイド52について、進退位置を小さくする方向に進退位置の変更が行われる。また、変更量ΔSは、第2曲がり量δの大きさに応じて、例えば式(2)のように決定されてもよい。
ΔS=K・δ ・・・(2)
【0049】
(b)第1曲がり量δ及び第2曲がり量δの符号が逆で、第2曲がり量δが第2許容範囲を外れている場合(S字曲がりの場合)
この場合、第2領域R2の曲がりの凸側方向の圧延ガイド52について、進退位置を大きくする方向に進退位置の変更が行われる。また、変更量ΔSは、第2曲がり量δの大きさに応じて、例えば式(3)のように決定されてもよい。
ΔS=K・δ ・・・(3)
【0050】
(c)第1曲がり量δが第1許容範囲内で、第2曲がり量δが第2許容範囲を外れている場合(部分曲がりの場合)
この場合、第2領域R2の曲がりの凸側方向の圧延ガイド52について、進退位置を大きくする方向に進退位置の変更が行われる。また、変更量ΔSは、第2曲がり量δの大きさに応じて、例えば式(4)のように決定されてもよい。
ΔS=K・|δ| ・・・(4)
なお、K~Kは係数であり、予め進退位置を変えたときの曲がりの変化量を調査しておき、そのデータに基づいて、H形鋼6の断面(形状・サイズ)や鋼種ごとに決めておけばよい
【0051】
また、圧延ガイド52の進退位置の変更量については、必ずしも式(2)~(4)に従う必要はない。例えば、圧延素材1本あたりで行う変更量をあらかじめ所定の値(たとえば1mm)と決めておき、曲がり形状に基づく圧延ガイド52の進退位置の判定から1本毎に変化させていってもよい。さらに、圧延ガイド52は、左右方向に一対配置されているが、上記の説明で動かすとした圧延ガイド52とは他方となる圧延ガイド52については、位置設定をそのままにしてもよい。また、この他方の圧延ガイド52については、上記の説明で動かすとした圧延ガイド52の進退位置の変更量とは逆方向に調整(つまり、一対の圧延ガイド52を平行移動させて調整)してもよい。
【0052】
即ち、ステップS104では、第1領域R1における曲がり形状に応じて、仕上ユニバーサル圧延機51の圧延条件の変更量が決定される。また、ステップS104では、第1領域R1における曲がり形状と、第2領域R2における曲がり形状とに応じて、ガイド条件の変更量が決定される。なお、曲がりの形状とは、各領域における曲がり量δ(又は曲がり量δの絶対値)及び曲がりの方向(曲がり量δの正負)である。
ステップS104の後、演算装置54は、仕上ユニバーサル圧延機51のロール隙及び圧延ガイド52の進退位置について、ステップS104で求められた変更量となるように調整を行う(S106)。
【0053】
本実施形態に係る形材の製造方法は、
複数の素材を順次、圧延機(仕上ユニバーサル圧延機51)により圧延してH形鋼6を連続して製造する、形材の製造方法であって、
圧延機と、圧延機の出側に配置され、圧延機で圧延されたH形鋼6を左右方向にガイドする一対の圧延ガイド52とを用いて製造されたH形鋼6について、一対の圧延ガイド52よりも下流側に配置される曲がり測定装置53にて、H形鋼6の曲がり量を測定する測定工程(S100)と、
H形鋼6の搬送方向下流側の端である先端から第1距離Xまでの領域である第1領域R1、及び第1領域R1の尾端側から第2距離Yまでの領域である第2領域R2における曲がり量を求める曲がり量算出工程(S102)と、
第1領域R1の曲がり形状に応じて圧延機のロール隙である圧延条件の変更量を決定し、第1領域R1及び第2領域R2の曲がり形状に応じて圧延ガイド52の進退位置であるガイド条件の変更量を決定する変更量算出工程(S104)と、
変更量算出工程の後には、決定された変更量にて調整された圧延条件及びガイド条件で圧延を行う圧延工程と、
を備える。
【0054】
また、本実施形態に係る形材の製造方法は、前記変更量算出工程では、第1領域R1の曲がり形状として、第1領域R1の曲がり量及び曲がりの方向を用い、第2領域R2の曲がり形状として、第2領域R2の曲がり量及び曲がりの方向を用いてもよい。
【0055】
本実施形態に係る形材の圧延設備(仕上圧延設備5)は、
複数の素材を順次、圧延してH形鋼6を連続して製造する、形材の圧延設備であって、
素材を圧延する圧延機(仕上ユニバーサル圧延機51)と、
圧延機の出側に配置され、圧延機で圧延されたH形鋼6を左右方向にガイドする一対の圧延ガイド52と、
一対の圧延ガイド52よりも下流側に配置され、H形鋼6の曲がり量を測定する曲がり測定装置53と、
曲がり測定装置53の測定結果に応じて、前延機のロール隙である圧延条件及び圧延ガイド52の進退位置であるガイド条件の少なくとも一方を調整する演算装置54と、
を備え、
演算装置54は、
曲がり量が許容範囲内にない場合には、H形鋼6の搬送方向下流側の端である先端から第1距離Xまでの領域である第1領域R1、及び第1領域R1の尾端側から第2距離Yまでの領域である第2領域R2における曲がり量を求め、
第1領域の曲がり形状と前記第2領域の曲がり形状とに応じて、圧延機のロール隙である圧延条件の変更量と、圧延ガイド52の進退位置であるガイド条件の変更量とを算出し、
圧延機及び一対の圧延ガイド52は、算出された変更量にて調整された圧延条件及びガイド条件で圧延を行う。
【0056】
このような構成によれば、第1領域R1及び第2領域R2の曲がり形状に応じて圧延条件やガイド条件を変更することで、一様曲がり、S字曲がり、先端曲がり及び部分曲がりといった様々な曲がりの形態に対して、的確に曲がりを抑制することができる。
【0057】
変更量を算出する際には、第1領域R1の曲がり形状に応じて圧延条件の変更量を算出し、第1領域R1の曲がり形状と第2領域R2の曲がり形状とに応じてガイド条件の変更量を決定する、という方法を取ることができる。この方法に従い圧延条件やガイド条件を変更することで、一様曲がり、S字曲がり、先端曲がり及び部分曲がりといった様々な曲がりの形態に対して、より的確に曲がりを抑制することができる。
【0058】
<変形例>
以上で、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、これら説明によって発明を限定することを意図するものではない。本発明の説明を参照することにより、当業者には、開示された実施形態とともに種々の変形例を含む本発明の別の実施形態も明らかである。従って、特許請求の範囲に記載された発明の実施形態には、本明細書に記載したこれらの変形例を単独または組み合わせて含む実施形態も網羅すると解すべきである。
【0059】
例えば、ステップS102の前に、ステップS100の測定結果から、全長曲り量δを求め、求められた全長曲がり量δが許容範囲内か否かを判断する工程が行われてもよい。全長曲がり量δは、H形鋼6の全長における曲がり量である。そして、全長曲がり量δが許容範囲内でない場合には、ステップS102以降の処理が行われる。一方、全長曲がり量δが許容範囲内である場合には、圧延条件及びガイド条件の調整が行われない。
【0060】
また、上記実施形態では、形材としてH形鋼6を例に説明したが、本発明は他の形材についても適用することができる。例えば、溝形鋼やI形鋼の仕上圧延を、ユニバーサル圧延で行う場合は、H形鋼の場合と同様に、仕上ユニバーサル圧延の垂直ロールの位置を修正するという、圧延条件の変更を行うことができる。また、鋼矢板や山形鋼など、上下で一対となるロール組(垂直ロールなし)で仕上圧延を行う場合については、以下の方法で、圧延条件の変更を行うことができる。すなわち、上下ロールのうちの一方のロールの軸心を水平方向から傾けることで、他方のロールに対して相対的に傾きをつける、いわゆる「レベリング」を行うことで、曲がりの状態を変えることができる。したがって、圧延条件の変更を「レベリング」によって行うことができる。さらには、形材は、その素材が鋼である必要はなく、銅材やアルミ材など圧延でその形状を形成する物であれば、他の素材であってもよい。
【実施例0061】
本発明者らが行った実施例について説明する。実施例では、図1及び図2に示したH形鋼6の圧延ライン1において、断面寸法がH900mm×300mm×16mm×28mmとなるH形鋼6の圧延を実施した。圧延1本目は、標準の圧延条件で圧延を行った。その後、圧延2本目から10本目までについて、上記実施形態と同様に、仕上圧延について、前に圧延される形材の曲がりの実績に応じて、圧延2本目から10本目までについて圧延条件及びガイド条件の修正を順に行った(発明例)。
【0062】
また、比較のために、特許文献1に開示されるように、曲がり量を曲がり測定装置で測定し、この曲がり量に応じて、2本目から10本目について垂直ロール512と水平ロール511との隙間のみを修正していく圧延も実施した(比較例1)。また別の比較として、特許文献3と同様に、図10に示すように、仕上ユニバーサル圧延機51と圧延ガイド52との間、圧延芯から1.7m下流側に一対の拘束ローラ55を設置した仕上圧延設備5aでも、9本の素材の圧延を行った(比較例2)。比較例2では、一対の拘束ローラ55の進退位置を、拘束ローラ55と仕上ユニバーサル圧延機51の垂直ロール512との圧延芯側の周面位置が一致させるように調整して圧延を行った。なお、比較例2では、圧延ガイド52の進退位置は20mmと一定にした。
【0063】
発明例及び比較例1,2では、第1距離Xを2.5mとし、第2距離Yを2.5mとした。また、素材ごとの調整については、発明例、比較例1では式(1)に従い、係数K=0.2として垂直ロール隙のずらし調整を行った。
【0064】
また、発明例では圧延ガイド52の変更量について、式(2)~式(4)に従うものとし、各式の係数をK=-2.0,K=-1.0,K=2.0として、圧延ガイド52の進退位置を調整した。なお、発明例では、他方側の圧延ガイド52は一方側の圧延ガイド52に対して平行移動させた。ここで、一方側の圧延ガイド52とは、ステップS108で進退位置を調整するとした圧延ガイド52であり、他方側の圧延ガイド52とは、一方側の圧延ガイド52と反対側の圧延ガイド52である。
【0065】
これらの実施例について、圧延先端部から採取した製品長10mとなる製品それぞれ9本について曲がりの発生状況を調査した。調査では、製品先端から距離2.5mまでの長さ区間(第1領域R1)に対して第1曲がり量δを測定し、先端から2.5m~5mまでの長さ区間(第2領域R2)に対して第曲がり量δを測定した。δ及びδの管理範囲は、絶対値でそれぞれ1m当たり2.5mm以下である。
【0066】
また、製品全長に対する全長曲がり量δも求めた。このとき曲がりの態様がS字曲がりである場合は、図9(B)に示すように、曲がり量δと曲がり量δとの絶対値の和を全長曲がり量δとした。全長曲がり量δの管理範囲は、絶対値で10m当たり10mm以下である。
実施例の結果をまとめて表1に示す。第1曲がり量δ及び第2曲がり量δは、曲がりの方向に合わせて、正負の符号をつけており、全長曲がり量δは絶対値で示している。また、表1では、管理範囲を外れている数値に下線を引いている。
【0067】
【表1】
【0068】
比較例1では、全長曲がりが安定せず、目標とする曲がりの公差10mm以下を外れる製品が5本発生した。比較例2では、全長の曲がりは管理範囲に入っているものの、S字曲がりや端部曲がりが発生しやすく、第1曲がり量δや第2曲がり量δが目標を外れる製品が4本発生した。また、比較例2では、製品1本については部分曲がりも発生していた。
これに対して発明例では、曲がり形状に基づき、圧延ガイド52の進退位置と仕上圧延条件の設定を適正に行えるので、曲がりの目標公差を外れる製品は0本であり、良好な結果となった。かくして本発明の効果は明らかである。
【符号の説明】
【0069】
1 圧延ライン
2 加熱炉
3 粗圧延設備
4 中間圧延設備
41 中間ユニバーサル圧延機
42 エッジング圧延機
5,5a 仕上圧延設備
51 仕上ユニバーサル圧延機
511 水平ロール
512 垂直ロール
52 圧延ガイド
53 曲がり測定装置
54 演算装置
55 拘束ローラ
6 H形鋼
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11