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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110742
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】電動パーキングブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/22 20060101AFI20240808BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
B60T17/22 C
B60T13/74 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015512
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】390000996
【氏名又は名称】株式会社ハイレックスコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 孝弘
【テーマコード(参考)】
3D048
3D049
【Fターム(参考)】
3D048BB01
3D048CC49
3D048HH18
3D048HH66
3D048HH68
3D048HH70
3D048HH79
3D048RR11
3D048RR17
3D048RR25
3D049BB01
3D049CC07
3D049HH44
3D049HH47
3D049HH48
3D049HH51
3D049HH54
3D049RR05
3D049RR08
3D049RR10
(57)【要約】
【課題】荷重検知装置によらずに、パーキングブレーキの引き摺りを検知できる電動パーキングブレーキ装置を提供する。
【解決手段】本発明の電動パーキングブレーキ装置1は、パーキングブレーキPBにかかる荷重を検知する荷重検知部2と、ケーブルCAのストローク位置を検知するストローク位置検知部3と、ストローク位置検知部3の検知結果を記憶する記憶部4と、ケーブルCAの引き操作および戻し操作を制御する制御部5とを備え、制御部5は、パーキングブレーキPBの作動時に、荷重検知部2が引き摺り判定基準荷重を検知したときのストローク位置を、引き摺り判定基準位置として記憶部4に記憶し、パーキングブレーキPBの作動解除時に、パーキングブレーキPBの作動解除完了と判定したときのケーブルCAのストローク位置が、引き摺り判定基準位置に対して所定の範囲内にあるか否かを判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブルの引き操作および戻し操作によってパーキングブレーキを電動で作動および作動解除する電動パーキングブレーキ装置であって、前記電動パーキングブレーキ装置は、
前記パーキングブレーキにかかる荷重を検知する荷重検知部と、
前記ケーブルのストローク位置を検知するストローク位置検知部と、
前記ストローク位置検知部の検知結果を記憶する記憶部と、
前記ケーブルの引き操作および戻し操作を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記パーキングブレーキの作動時に、前記荷重検知部が引き摺り判定基準荷重を検知したときの前記ストローク位置を、引き摺り判定基準位置として前記記憶部に記憶し、
前記パーキングブレーキの作動解除時に、前記パーキングブレーキの作動解除完了と判定したときの前記ケーブルの前記ストローク位置が、前記引き摺り判定基準位置に対して所定の範囲内にあるか否かを判定する、
電動パーキングブレーキ装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記パーキングブレーキの作動時毎に、前記引き摺り判定基準荷重に対応する前記引き摺り判定基準位置を、前記記憶部に記憶する、
請求項1に記載の電動パーキングブレーキ装置。
【請求項3】
前記記憶部は、
不揮発性メモリである、
請求項1に記載の電動パーキングブレーキ装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記ケーブルの前記ストローク位置が前記引き摺り判定基準位置に対して前記所定の範囲内にあると判定したとき、前記ケーブルの戻し操作可能域の最端となる位置でありストローク位置の始点となるゼロ位置を、再設定するように構成される、
請求項1に記載の電動パーキングブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パーキングブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のパーキングブレーキを電動で作動および作動解除する電動パーキングブレーキ装置として、たとえば特許文献1に開示された電動パーキングブレーキ装置が用いられている。特許文献1の電動パーキングブレーキ装置は、パーキングブレーキを作動する場合に、パーキングブレーキを操作するケーブルを引き操作して、ケーブルに目標荷重が付加されたときに、ケーブルの引き操作を停止するように構成されている。また、特許文献1の電動パーキングブレーキ装置は、パーキングブレーキを作動解除する場合に、パーキングブレーキを作動状態としたときのケーブルのストローク位置から所定の解除目標位置まで、またはパーキングブレーキを作動状態とする前の元の位置までケーブルを戻し操作するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-28301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動パーキングブレーキ装置では、たとえばメンテナンスなどによって、ケーブルの取付位置が変化し、電動パーキングブレーキ装置が記憶しているケーブルのストローク位置が実際のストローク位置からずれてしまう場合がある。そのような場合に、たとえば特許文献1の電動パーキングブレーキ装置のように、パーキングブレーキを作動解除するために、電動パーキングブレーキ装置が記憶している現在のストローク位置に基づいて、ケーブルのストローク位置を所定の解除目標位置まで、またはパーキングブレーキを作動状態とする前の元の位置までケーブルを戻し操作しても、作動解除不足による制動部材と被制動部材との引き摺り(離間が不十分な状態)が生じる虞がある。
【0005】
電動パーキングブレーキ装置では、引き摺りを検知するため、パーキングブレーキの作動解除動作を行なった後に、パーキングブレーキ装置に作用している荷重を検知して、引き摺りの確認が行なわれる。しかし、たとえば大型車両など、車両の停止状態を維持するのにより大きな荷重を必要とする車両などの場合には、より大きな荷重を検知することができる荷重検知装置を設ける必要があり、そのような設定をした荷重検知装置は、小さな荷重の検知精度が低くなる虞があり、引き摺りを正確に検知できない虞がある。
【0006】
本発明は、荷重検知装置によらずに、パーキングブレーキの引き摺りを検知できる電動パーキングブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電動パーキングブレーキ装置は、ケーブルの引き操作および戻し操作によってパーキングブレーキを電動で作動および作動解除する電動パーキングブレーキ装置であって、前記電動パーキングブレーキ装置は、前記パーキングブレーキにかかる荷重を検知する荷重検知部と、前記ケーブルのストローク位置を検知するストローク位置検知部と、前記ストローク位置検知部の検知結果を記憶する記憶部と、前記ケーブルの引き操作および戻し操作を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記パーキングブレーキの作動時に、前記荷重検知部が引き摺り判定基準荷重を検知したときの前記ストローク位置を、引き摺り判定基準位置として前記記憶部に記憶し、前記パーキングブレーキの作動解除時に、前記パーキングブレーキの作動解除完了と判定したときの前記ケーブルの前記ストローク位置が、前記引き摺り判定基準位置に対して所定の範囲内にあるか否かを判定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、荷重検知装置によらずに、パーキングブレーキの引き摺りを検知できる電動パーキングブレーキ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態の電動パーキングブレーキ装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】パーキングブレーキを作動状態にするための動作を示すフローチャートである。
図3】パーキングブレーキを作動解除状態にするための動作及び作動解除完了後の引き摺り判定をするための動作を示すフローチャートである。
図4】ケーブルのストローク位置がずれていない場合における動作時のケーブルのストローク位置の変化を説明するための説明図である。
図5】ケーブルのストローク位置がずれている場合における動作時のケーブルのストローク位置の変化を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態の電動パーキングブレーキ装置を説明する。ただし、以下に示す実施形態は一例であり、本発明の電動パーキングブレーキ装置は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本実施形態の電動パーキングブレーキ装置1は、図1に示されるように、ケーブルCAの引き操作および戻し操作によってパーキングブレーキPBを電動で作動および作動解除する装置である。電動パーキングブレーキ装置1は、道路交通法など、各国の法律に基づく大型自動車、中型自動車、普通自動車など、パーキングブレーキを備える車両であれば、特に限定されることはなく、さまざまな車両に適用可能である。
【0012】
パーキングブレーキPBは、ケーブルCAの引き操作によって所定の荷重が負荷されることで作動状態にされ、ケーブルCAの戻し操作によって荷重が解除されることで作動解除状態にされる。パーキングブレーキPBは、作動状態で車両の車輪の回転を抑制して車両の駐停車時に車両の静止状態を維持し、作動解除状態で車両の車輪の回転を許容して車両の移動を許容する。
【0013】
パーキングブレーキPBとしては、ケーブルCAの引き操作によって作動状態にされ、ケーブルCAの戻し操作によって作動解除状態にされるように構成されていれば、その構造は特に限定されることはなく、公知のパーキングブレーキを用いることができる。パーキングブレーキPBは、本実施形態では、被制動部材(たとえばドラム)と、ケーブルCAの操作によって駆動される制動部材(たとえばブレーキシュー)とを備えている。パーキングブレーキPBは、ケーブルCAの引き操作によって制動部材が被制動部材に押し当てられて所定の荷重が負荷されたときに、被制動部材の回転が抑制される作動状態となる。パーキングブレーキPBは、作動状態にされることで、車輪の回転を抑制する。パーキングブレーキPBは、ケーブルCAの戻し操作によって制動部材が被制動部材から離間されて荷重が解除されたときに、被制動部材の回転が許容される作動解除状態となる。パーキングブレーキPBは、作動解除状態にされることで、車輪の回転を許容する。なお、被制動部材は、車両の車輪に固定される構成を有していてもよいし、回転することで車両の車輪に動力を伝達する動力伝達部材とともに回転するように固定される構成を有していてもよい。
【0014】
パーキングブレーキPBを操作するケーブルCAは、可撓性を有する長尺部材であり、電動パーキングブレーキ装置1の後述する駆動部6とパーキングブレーキPBとの間に配索されて、駆動部6の駆動力をパーキングブレーキPBに伝達する。ケーブルCAは、引き操作されることでパーキングブレーキPBに荷重を負荷し、戻し操作されることでパーキングブレーキPBの荷重を軽減する。ケーブルCAとしては、たとえば公知のコントロールケーブルのインナーケーブルを用いることができる。ただし、ケーブルCAは、少なくとも引き操作および戻し操作されることによって駆動部6の駆動力をパーキングブレーキPBに伝達することができればよく、ロッドなどの他の長尺部材によって代用することも可能である。
【0015】
電動パーキングブレーキ装置1は、図1に示されるように、パーキングブレーキPBにかかる荷重を検知する荷重検知部2と、ケーブルCAのストローク位置を検知するストローク位置検知部3と、ストローク位置検知部3の検知結果を記憶する記憶部4と、ケーブルCAの引き操作および戻し操作を制御する制御部5とを備えている。電動パーキングブレーキ装置1はさらに、電動でケーブルCAを引き操作および戻し操作するための駆動部6を備えている。
【0016】
駆動部6は、パーキングブレーキPBに対してパーキングブレーキPBから離れる方向(図1中、右方向)にケーブルCAを引き操作し、パーキングブレーキPBに対してパーキングブレーキPBに近付く方向(図1中、左方向)にケーブルCAを戻し操作する。なお、以下では、ケーブルCAを引き操作する方向を引き操作方向D1といい、ケーブルCAを戻し操作する方向を戻し操作方向D2といい、引き操作方向D1および戻し操作方向D2をまとめて操作方向Dという。駆動部6は、電動でケーブルCAを引き操作および戻し操作することができればよく、その構造は特に限定されない。本実施形態では、駆動部6は、図1に示されるように、ケーブルCAに接続される移動部材61と、移動部材61を操作方向Dに沿って移動させるための駆動力を発生させる駆動装置62と、駆動装置62の駆動力を移動部材61に伝達する伝動部材63とを備えている。移動部材61、駆動装置62および伝動部材63は、本実施形態では、車両に固定されるケーシングなどの基部BPに収容されている。
【0017】
移動部材61は、駆動装置62の駆動力によって操作方向Dに沿って移動する。移動部材61は、図1に示されるように、操作方向Dの一方側(戻し操作方向D2側)でケーブルCAに接続され、操作方向Dの他方側(引き操作方向D1側)で荷重検知部2に接続される。移動部材61は、駆動装置62の駆動力によって引き操作方向D1に移動することで、移動部材61に接続されたケーブルCAを引き操作する。また、移動部材61は、駆動装置62の駆動力によって戻し操作方向D2に移動することで、移動部材61に接続されたケーブルCAを戻し操作する。移動部材61はさらに、パーキングブレーキPBに負荷された荷重の反力を、ケーブルCAを介して受け取り、荷重検知部2に伝達する。
【0018】
移動部材61は、操作方向Dに沿って移動することで、ケーブルCAを操作することができれば、その構成は特に限定されない。本実施形態では、移動部材61は、図1に示されるように、操作方向Dに沿って第1移動部材611、第2移動部材612および第3移動部材613を備えている。第1移動部材611および第2移動部材612は、操作方向Dに沿って互いに対して相対移動可能に互いに接続され、第2移動部材612および第3移動部材613は、操作方向Dに沿って互いに対して相対移動可能に互いに接続される。第1移動部材611は、操作方向Dの一方側(戻し操作方向D2側)でケーブルCAに接続され、操作方向Dの他方側(引き操作方向D1側)で第2移動部材612に接続される。第2移動部材612は、操作方向Dの一方側(戻し操作方向D2側)で第1移動部材611に接続され、操作方向Dの他方側(引き操作方向D1側)で第3移動部材613に接続される。第3移動部材613は、操作方向Dの一方側(戻し操作方向D2側)で第2移動部材612に接続され、操作方向Dの他方側(引き操作方向D1側)で荷重検知部2に接続される。移動部材61は、第1移動部材611と第2移動部材612とが操作方向Dに沿って互いに相対移動し、第2移動部材612と第3移動部材613とが操作方向Dに沿って互いに相対移動することで、操作方向Dに沿って第1移動部材611と第3移動部材613とが第2移動部材612に対して進退移動するように構成されている。第1移動部材611および第3移動部材613は、操作方向Dに沿って第2移動部材612に向かって移動することでケーブルCAを引き操作し、操作方向Dに沿って第2移動部材612から遠ざかる方向に移動することでケーブルCAを戻し操作する。なお、少なくとも第1移動部材611または第3移動部材613のいずれか一方が操作方向Dに沿って移動をすることで移動部材61が操作方向Dに沿って伸縮するように構成されていればよく、たとえば第1移動部材611および第3移動部材613のいずれか一方が第2移動部材612に対して相対移動しないように構成されていてもよい。
【0019】
第1移動部材611および第2移動部材612、ならびに第2移動部材612および第3移動部材613はそれぞれ、本実施形態では、第2移動部材612が軸Xまわりに回転することで、第1移動部材611および第3移動部材613が操作方向Dに沿って第2移動部材612に対して相対移動するように、互いに対して接続される。第1移動部材611は、第2移動部材612が軸Xまわりの一方に回転することで、第2移動部材612に対して近付く方向(引き操作方向D1)に相対移動し、第2移動部材612が軸Xまわりの他方に回転することで、第2移動部材612に対して離れる方向(戻し操作方向D2)に相対移動する。第3移動部材613は、第2移動部材612が軸Xまわりの一方に回転することで、第2移動部材612に対して近付く方向(戻し操作方向D2)に相対移動し、第2移動部材612が軸Xまわりの他方に回転することで、第2移動部材612に対して離れる方向(引き操作方向D1)に相対移動する。その目的のために、たとえば、第1移動部材611および第3移動部材613はスクリューとして、第2移動部材612はナットとして具現化される。
【0020】
第1移動部材611、第2移動部材612および第3移動部材613はいずれも、操作方向Dに沿って基部BP(またはパーキングブレーキPB)に対して移動可能に構成されている。しかし、第3移動部材613は、荷重検知部2の後述する付勢部材22により引き操作方向D1側に付勢されて固定されているので、少なくとも戻し操作方向D2側に付勢部材22の付勢力を超える負荷を受けない限り、操作方向Dに沿った基部BP(またはパーキングブレーキPB)に対する移動が抑制される。したがって、移動部材61が伸縮する際には、移動部材61が戻し操作方向D2側に付勢部材22の付勢力を超える荷重を受けない限り、第1移動部材611および第2移動部材612が操作方向Dに沿って基部BP(またはパーキングブレーキPB)に対して移動する。移動部材61が戻し操作方向D2側に付勢部材22の付勢力を超える荷重を受けたときには、ケーブルCAによって第1移動部材611の操作方向Dに沿った基部BP(またはパーキングブレーキPB)に対する移動が抑制されて、第2移動部材612および第3移動部材613が操作方向Dに沿って基部BP(またはパーキングブレーキPB)に対して移動する。
【0021】
駆動装置62は、移動部材61を操作方向Dに沿って移動させるための駆動力を発生させる。駆動装置62は、本実施形態では、正逆回転運動可能に構成されたモータによって具現化され、第2移動部材612を軸Xまわりの一方または他方に回転させる駆動力を発生させる。駆動装置62は、伝動部材63を介して移動部材61に接続され、伝動部材63を介して駆動力を移動部材61に伝達する。ただし、駆動装置は、移動部材61を操作方向Dに沿って移動させるために、直線運動可能に構成されたリニアモータとして具現化されてもよい。また、駆動装置は、伝動部材63および移動部材61を介さずに、ケーブルCAに直接接続され、ケーブルCAを直接移動させるように構成されてもよい。
【0022】
伝動部材63は、駆動装置62の駆動力を移動部材61に伝達する。伝動部材63は、駆動装置62の駆動力を移動部材61に伝達することができれば、特に限定されることはなく、1つまたは複数の歯車などの駆動力伝達部材により構成することができる。伝動部材63は、本実施形態では、駆動装置62の駆動力を伝達することで第2移動部材612を軸Xまわりに回転させるとともに、伝動部材63に対する操作方向Dに沿った第2移動部材612の移動が許容されるように、第2移動部材612に接続される。ただし、伝動部材63は、必ずしも設けられる必要はなく、伝動部材63を介さずに、駆動装置62と移動部材61とが直接接続されてもよい。
【0023】
荷重検知部2は、パーキングブレーキPBにかかる荷重を検知する。パーキングブレーキPBにかかる荷重とは、パーキングブレーキPBを作動状態にするという目的のためにパーキングブレーキPBに負荷される荷重である。パーキングブレーキPBは、作動解除状態から作動状態に移行すると負荷される荷重が大きくなり、作動状態から作動解除状態に移行すると負荷される荷重が小さくなる。パーキングブレーキPBにかかる荷重は、本実施形態では、制動部材と被制動部材との間に生じる押圧力に対応する。荷重検知部2は、図1に示されるように、制御部5に通信可能に接続され、検知結果、すなわち検知した荷重に関する情報を制御部5に送信するように構成される。
【0024】
荷重検知部2は、パーキングブレーキPBにかかる荷重を検知することができれば、その構成は特に限定されない。本実施形態では、荷重検知部2は、図1に示されるように、操作方向Dに沿った移動部材61の移動に伴って操作方向Dに沿って移動可能な従動部材21と、従動部材21を引き操作方向D1に付勢する付勢部材22と、従動部材21とともに移動する第1センサ要素23(たとえば磁石またはホールIC)と、基部BPに対して不動に取り付けられ、第1センサ要素23と相互作用する第2センサ要素24(たとえばホールICまたは磁石)とを備える。荷重検知部2では、付勢部材22の付勢力を超える荷重でケーブルCAを引き操作したとき、ケーブルCAに接続された移動部材61とともに従動部材21が操作方向Dに沿って引き操作方向D1側に移動する。その際、ケーブルCAの引き操作によるパーキングブレーキPBにかかる荷重の大きさに応じて、従動部材21とともに移動する第1センサ要素23と、基部BPに不動に取り付けられた第2センサ要素24との間の位置関係が変化する。第1センサ要素23と第2センサ要素24との間の位置関係の変化に応じて、第1センサ要素23と第2センサ要素24との間の相互作用の強さが変化する。したがって、第1センサ要素23と第2センサ要素24との間の相互作用の強さを測定することにより、第1センサ要素23と第2センサ要素24との間の位置関係を求めることができ、それによってケーブルCAの操作によるパーキングブレーキPBにかかる荷重を求めることができる。ただし、荷重検知部は、パーキングブレーキPBにかかる荷重を検知することができれば、上述した例に限定されることはなく、たとえばケーブルCAの操作による駆動装置62に加わる負荷を検知するように構成されていてもよい。また、荷重検知部は、たとえばパーキングブレーキPBの制動部材と被制動部材との間に生じる押圧力を検知するなど、パーキングブレーキPBにかかる荷重を直接検知するように構成されていてもよい。
【0025】
ストローク位置検知部3は、ケーブルCAのストローク位置を検知する。ケーブルCAのストローク位置とは、操作方向DにおけるケーブルCAの位置であり、たとえばストローク位置の始点となるゼロ位置に対する位置とすることができる。ゼロ位置は、予め設定したケーブルCAのストローク位置の基準となる位置であり、たとえばケーブルCAの戻し操作可能域の戻し操作方向D2側の最端となる位置とすることができ、たとえばパーキングブレーキPBに所定の最大荷重(後述する目標荷重よりも大きく、各要素を破損しない程度に予め設定した荷重)をかけたときのケーブルCAの位置(最大荷重位置)から、パーキングブレーキPBを確実に解除状態にするために必要な所定ストローク量だけ戻し操作したときのケーブルCAの位置に設定することができる。ストローク位置検知部3は、制御部5に通信可能に接続され、検知結果、すなわち検知したケーブルCAのストローク位置に関する情報を制御部5に送信するように構成される。
【0026】
ストローク位置検知部3は、ケーブルCAのストローク位置を検知することができれば、その構成は特に限定されない。本実施形態では、ストローク位置検知部3は、駆動部6の駆動変位量(たとえば、移動部材61の移動量、または駆動装置62もしくは伝動部材63の回転数)を検知することで、ケーブルCAの移動量(ストローク量)を検知するように構成される。ストローク位置検知部3は、ケーブルCAのゼロ位置に対応する駆動変位位置(たとえば、ケーブルCAがゼロ位置にあるときの移動部材61の位置、または駆動装置62もしくは伝動部材63の回転位置)からの駆動変位量を検知することで、ケーブルCAのストローク位置を検知することができる。ストローク位置検知部3は、たとえば図1に示されるように、駆動部6の駆動装置62または伝動部材63に取り付けられた公知のロータリーエンコーダとして具現化することができる。ストローク位置検知部3は、駆動装置62または伝動部材63の回転数を計数することで、操作方向Dに沿って移動する移動部材61の移動量を検知し、それによって操作方向DにおけるケーブルCAのストローク量を検知する。ストローク位置検知部3は、ケーブルCAのゼロ位置に対応する駆動装置62または伝動部材63の回転位置からの駆動装置62または伝動部材63の回転数を計数することで、ケーブルCAのストローク位置を検知する。ストローク位置検知部3は、本実施形態では、計数した駆動装置62または伝動部材63の回転数に関する情報を、ケーブルCAのストローク量およびストローク位置に関する情報として、制御部5に送信する。ただし、ストローク位置検知部は、たとえばケーブルCAの特定箇所の位置を直接計測する位置センサなどによって具現化することもできる。
【0027】
記憶部4は、ストローク位置検知部3の検知結果を記憶する。記憶部4は、図1に示されるように、制御部5に通信可能に接続され、制御部5からストローク位置検知部3の検知結果を受信するように構成される。記憶部4は、ストローク位置検知部3の検知結果以外にも、荷重検知部2の検知結果や、予め設定した荷重およびストローク位置、制御部5により実行されると制御部5の動作を実行するように構成されたソフトウェアを記憶することもできる。記憶部4は、ストローク位置検知部3の検知結果などを記憶することができれば、特に限定されることはなく、公知の不揮発性メモリまたは揮発性メモリにより具現化することができる。記憶部4は、たとえば不揮発性メモリにより構成されることで、電動パーキングブレーキ装置1の図示しない電源がメンテナンスなどにより切られたとしても、ストローク位置検知部3の検知結果などを記憶し続けることができる。なお、記憶部4は、本実施形態では制御部5を介してストローク位置検知部3の検知結果を受信するように構成されているが、ストローク位置検知部3に通信可能に接続されて、ストローク位置検知部3から直接検知結果を受信するように構成されていてもよい。
【0028】
制御部5は、ケーブルCAの引き操作および戻し操作を制御するように構成される。制御部5は、本実施形態では、図1に示されるように、駆動部6に通信可能に接続され、ケーブルCAを操作するための命令を駆動部6に送信するように構成される。また、制御部5は、荷重検知部2およびストローク位置検知部3と通信可能に接続され、荷重検知部2およびストローク位置検知部3の動作を制御するとともに、荷重検知部2から荷重検知部2の検知結果を、およびストローク位置検知部3からストローク位置検知部3の検知結果を受信するように構成される。制御部5は、以下で詳しく述べるように、荷重検知部2の検知結果およびストローク位置検知部3の検知結果に基づいて、ケーブルCAの引き操作および戻し操作を制御するように構成される。制御部5は、ケーブルCAの引き操作および戻し操作を制御することができれば、特に限定されることはなく、たとえば公知の中央演算処理装置(CPU)により構成することができる。制御部5は、制御部5により実行されると、以下で述べる制御部5の動作を実行可能なソフトウェアを動作させることができるように構成される。
【0029】
制御部5は、パーキングブレーキPBを作動状態にする際には、図2に示されるように、パーキングブレーキPBが作動状態であると判定されるまで、駆動部6にケーブルCAを引き操作させる。より具体的には、制御部5が、たとえば図示しないスイッチの操作により動作を開始すると、制御部5の命令により、駆動部6がケーブルCAの引き操作を開始し(ステップS11)、後述するステップS12、S13の有無に関わらず、パーキングブレーキPBが作動状態であると判定されるまで、駆動部6がケーブルCAの引き操作を継続する(ステップS14、S15)。パーキングブレーキPBが作動状態であると判定されると、駆動部6がケーブルCAの引き操作を停止する。パーキングブレーキPBが作動状態であるか否かの判定(ステップS15)は、特に限定されることはなく、たとえば予め設定した目標荷重がパーキングブレーキPBに負荷されているか否かを荷重検知部2により検知することにより行なわれる。目標荷重は、パーキングブレーキPBに負荷されたときに車両の静止状態を維持し得る範囲で設定される。目標荷重は、車両が駐停車されるときの状態、たとえば車両が駐停車される場所の傾斜や車両に積載される積荷の重量などに応じて、適宜設定することができる。荷重検知部2が、パーキングブレーキPBに目標荷重が負荷されたことを検知すると、駆動部6は、ケーブルCAの引き操作を停止する。駆動部6がケーブルCAの引き操作を停止したときに、ストローク位置検知部3により検知されたケーブルCAのストローク位置は、パーキングブレーキPBの作動状態に対応する作動位置として記憶部4に記憶されてもよい。また、引き操作される前のケーブルCAのストローク位置が作動前の位置として記憶部4に記憶されてもよい。
【0030】
制御部5は、図2のステップS12、S13に示されるように、パーキングブレーキPBの作動時に、荷重検知部2が引き摺り判定基準荷重を検知したときのストローク位置を、引き摺り判定基準位置として記憶部4に記憶させる。引き摺り判定基準位置とは、以下で詳しく述べるように、パーキングブレーキPBを作動解除したときに、パーキングブレーキPBが引き摺り状態であるか否かを判定するために使用されるケーブルCAの基準となるストローク位置である。引き摺り判定基準位置は、予め設定された引き摺り判定基準荷重がパーキングブレーキPBに負荷されたときに検知されるケーブルCAのストローク位置であり、引き摺り判定基準荷重に応じて変化するとともに、同じ引き摺り判定基準荷重であってもケーブルCAなどの配置の変化などによって変化し得る位置である。パーキングブレーキPBの引き摺り状態とは、パーキングブレーキPBが完全な作動解除状態ではなく、パーキングブレーキPBへの荷重が一定以上(例えば100N以上)残っている状態のことをいう。引き摺り判定基準位置に対して所定の範囲内のストローク位置にケーブルCAが位置する場合には、パーキングブレーキPBへの荷重が一定以上残っていて、パーキングブレーキPBが引き摺り状態であると判定することができる。
【0031】
引き摺り判定基準位置とされるストローク位置にケーブルCAが位置するときにパーキングブレーキPBに負荷される荷重である引き摺り判定基準荷重は、荷重検知部2が検知することができる最小荷重よりも大きく、パーキングブレーキPBを作動状態にするための目標荷重よりも小さい範囲で設定される。引き摺り判定基準荷重を目標荷重よりも小さく設定することで、引き摺り判定基準荷重を目標荷重に設定する場合とは異なり、たとえば車両が駐停車されるときの状態に応じて目標荷重を変えたとしても、引き摺り判定基準荷重を固定の値に設定することができる。それによって、引き摺り判定基準荷重に対応する引き摺り判定基準位置に対する所定の範囲を固定の値に設定することができ、変化する目標荷重毎に所定の範囲を変更する必要がないので、パーキングブレーキPBの引き摺り判定を容易に行なうことができる。また、引き摺り判定基準荷重を目標荷重よりも小さく設定することで、引き摺り判定基準位置を検知する際に、ケーブルCAにかかる荷重を小さくしてケーブルCAの伸びを抑制することができ、ケーブルCAの伸びによるストローク位置の検知誤差を抑制することができるので、引き摺り判定基準位置をより正確に検知することができる。
【0032】
引き摺り判定基準位置の検知は、パーキングブレーキPBの作動時、すなわちパーキングブレーキPBに荷重が負荷されている時に実施されればよく、ケーブルCAの引き操作時に実施されてもよいし、ケーブルCAの戻し操作時に実施されてもよい。本実施形態では、引き摺り判定基準位置の検知は、図2に示されるように、パーキングブレーキPBを作動状態にするためにケーブルCAを引き操作する作動操作時において実施される。たとえば、制動部材が被制動部材から離間する方向に付勢されている構成をパーキングブレーキPBが有している場合には、パーキングブレーキPBを作動解除状態にするためにケーブルCAを戻し操作する作動解除操作時において、パーキングブレーキPBの制動部材を付勢する付勢力によってケーブルCAが戻し操作方向D2側に付勢される場合がある。その場合、移動部材61および従動部材21も戻し操作方向D2側に付勢されるので、パーキングブレーキPBの荷重を正確に検知することができず、引き摺り判定基準位置を正確に検知できない虞がある。引き摺り判定基準位置の検知をケーブルCAの引き操作時に実施することで、たとえばパーキングブレーキPBの制動部材が被制動部材から離間する方向に付勢されているような場合であっても、引き摺り判定基準荷重をより正確に検知することができ、引き摺り判定基準位置をより正確に検知することができる。
【0033】
制御部5は、本実施形態では、パーキングブレーキPBの作動時毎に、引き摺り判定基準荷重に対応する引き摺り判定基準位置を、記憶部4に記憶させる。パーキングブレーキPBの作動時毎に、引き摺り判定基準位置を記憶部4に記憶させることで、パーキングブレーキPBの作動後の作動解除時毎に、パーキングブレーキPBの引き摺り状態の判定を正確に行うことができる。ただし、制御部5は、メンテナンスなど、ケーブルCAのストローク位置がずれる可能性がある作業を行なった後にのみ、引き摺り判定基準位置を検知して、引き摺り判定基準位置を記憶部4に記憶させてもよい。
【0034】
制御部5は、パーキングブレーキPBを作動解除状態にする際には、図3に示されるように、パーキングブレーキPBが作動解除完了と判定されるまで、駆動部6にケーブルCAを戻し操作させる。より具体的には、制御部5が、たとえば図示しないスイッチの操作により動作を開始すると、制御部5の命令により、駆動部6がケーブルCAの戻し操作を開始し(ステップS21)、パーキングブレーキPBが作動解除完了と判定されるまで、駆動部6がケーブルCAの戻し操作を継続し(ステップS21、S22)、パーキングブレーキPBが作動解除完了と判定されると、駆動部6がケーブルCAの戻し操作を停止する。パーキングブレーキPBの作動解除完了の判定(ステップS22)は、特に限定されることはなく、たとえばパーキングブレーキPBを作動状態にするためにケーブルCAを引き操作したときのストローク量だけ、すなわちケーブルCAを作動前の位置に戻すためのストローク量だけケーブルCAが戻し操作されたか否かを判定したり、ケーブルCAの戻し操作開始時には予め設定された所定のストローク位置に戻すためのストローク量だけケーブルCAが戻し操作されたか否かを判定したりするなど、ケーブルCAの戻し操作量が所定の条件を満たすか否かを判定することにより行なわれる。ストローク位置検知部3が、被制動部材に制動部材が押し当てられた状態から被制動部材に押し当てられた制動部材が被制動部材から離間したと推定できるストローク量だけケーブルCAが戻し操作されたことを検知した際に、制御部5は、パーキングブレーキPBの作動解除が完了したと判定する。
【0035】
制御部5は、図3に示されるように、パーキングブレーキPBの作動解除時に、パーキングブレーキPBの作動解除完了と判定したときのケーブルCAのストローク位置が、上述した引き摺り判定基準位置に対して所定の範囲内にあるか否かを判定する(ステップS23)。引き摺り判定基準位置に対して所定の範囲とは、引き摺り判定基準位置と、引き摺り判定基準位置から戻し操作方向D2に所定のストローク量だけ離れたストローク位置との間の範囲のことをいう。このときの所定のストローク量は、引き摺り判定基準位置から、パーキングブレーキPBが作動解除状態となるケーブルCAのストローク位置までのストローク量とすることができ、たとえば、パーキングブレーキPBが作動解除状態となるケーブルCAのストローク位置のうち引き操作方向D1側の最端の位置とすることができる。
【0036】
制御部5は、パーキングブレーキPBの作動解除が完了したと判定したときのケーブルCAのストローク位置が、引き摺り判定基準位置に対して所定の範囲にあるか否かを判定することで、荷重検知部2によってパーキングブレーキPBの荷重を検知することなく、パーキングブレーキPBの引き摺り状態を検知することができる。たとえば、作動時の荷重を大きくする必要性のある大型自動車などにおいて、パーキングブレーキPBが作動状態にあるときに車両の状況等に応じた制御を行なうために、大きな荷重にレンジを合わせた荷重検知部を採用した場合においては、パーキングブレーキPBの引き摺り状態のような小さな荷重を正確に検知することが難しく、パーキングブレーキPBの荷重を検知することによりパーキングブレーキPBの引き摺り状態を判定することが難しい場合がある。このような場合に、本実施形態におけるケーブルCAの引き摺り状態の判定を好適に適用することができる。なお、制御部5は、上記判定と組み合わせて、パーキングブレーキPBにかかる荷重に基づいてパーキングブレーキPBの引き摺り状態を判定するように構成されてもよい。たとえば、制御部5は、パーキングブレーキPBに残った荷重が大きい場合には、荷重検知部2の検知結果に基づいて、パーキングブレーキPBに残った荷重が小さい場合には、ケーブルCAのストローク位置に基づいて、パーキングブレーキPBの引き摺り状態を判定するように構成されてもよい。それにより、より広い荷重範囲にわたって、パーキングブレーキPBの引き摺り状態を判定することができる。
【0037】
上述したパーキングブレーキPBの引き摺り状態の判定は、特に限定されることはないが、たとえばメンテナンスなどによって、パーキングブレーキPBや基部BPに対するケーブルCAの取り付け位置が変化し、記憶部4が記憶しているケーブルCAのストローク位置が実際のストローク位置からずれてしまったような場合に有効である。以下、ケーブルCAのストローク位置がずれていない場合の動作時のストローク位置の変化を示す図4と、ケーブルCAのストローク位置がずれている場合の動作時のストローク位置の変化を示す図5とを参照して、その効果について説明する。
【0038】
ケーブルCAのストローク位置がずれていない場合には、図4に示されるように、パーキングブレーキPBを作動する前において、実際のケーブルCAのストローク位置(作動前の位置)は、制御部5が認識しているケーブルCAのストローク位置(作動前の位置)と一致している。パーキングブレーキPBを作動するためにケーブルCAを引き操作すると、ケーブルCAは、作動前の位置から、パーキングブレーキPBに引き摺り判定基準荷重が負荷されるまで引き操作されて引き摺り判定基準位置に到達し、パーキングブレーキPBに目標荷重が負荷されるまで引き操作されて作動位置に到達する。このとき、実際のケーブルCAの作動前の位置と制御部5が認識しているケーブルCAの作動前の位置とが一致しているので、実際のケーブルCAの引き摺り判定基準位置および作動位置も、制御部5が認識する引き摺り判定基準位置および作動位置と一致する。つぎに、パーキングブレーキPBを作動解除するために、被制動部材に制動部材が押し当てられた状態から被制動部材から制動部材が離間したと推定できるストローク量、たとえばケーブルCAを引き操作したときのストローク量だけケーブルCAが戻し操作され(図中、「作動解除動作」参照)たとき、ケーブルCAは作動前の位置(作動解除完了位置)に戻る。このとき、実際のケーブルCAの作動前の位置と制御部5が認識しているケーブルCAの作動前の位置とが一致しているので、実際のケーブルCAの作動解除完了位置は制御部5が認識しているケーブルCAの作動解除完了位置と一致する。ケーブルCAが作動解除完了位置に到達すると、作動解除完了位置が、引き摺り判定基準位置から所定の範囲(図中、「所定の範囲」参照)内にあるか否かが判定される。図示された例では、作動解除完了位置が、引き摺り判定基準位置から所定の範囲内にないので、パーキングブレーキPBは引き摺り状態ではないと判定される。
【0039】
ケーブルCAのストローク位置がずれている場合には、図5に示されるように、パーキングブレーキPBを作動させる前において、実際のケーブルCAのストローク位置(作動前の位置)は、制御部5が認識しているケーブルCAのストローク位置(作動前の位置)からずれている。たとえば、実際のケーブルCAのストローク位置(作動前の位置)がメンテナンスなどによりシフト量dだけ引き操作方向D1側にずれたと仮定する(図中、「A」参照)。このとき、制御部5は、ケーブルCAのストローク位置がずれる前の、記憶部4に記憶されたケーブルCAのストローク位置を認識しているので、ケーブルCAが、ずれる前のストローク位置に位置していると認識している。この状態から、パーキングブレーキPBを作動するためにケーブルCAを引き操作すると、ケーブルCAは、作動前の位置から、引き摺り判定基準荷重に対応する引き摺り判定基準位置、および目標荷重に対応する作動位置へと移動する。引き摺り判定基準荷重および目標荷重は、ケーブルCAのストローク位置がずれる前後で変更されていないので、実際のケーブルCAが位置する、それぞれに対応する引き摺り判定基準位置および作動位置は、ケーブルCAのストローク位置がずれる前後で変化しない(図4図5との比較)。このときに実際にケーブルCAが移動したストローク量(図中、「A」が示すパーキングブレーキPBの作動前の位置とパーキングブレーキPBが作動状態となる作動位置との間の距離)は、ケーブルCAのストローク位置がずれる前と比べてシフト量dだけ小さくなる。よって、制御部5は、引き摺り判定基準位置および作動位置を、ケーブルCAの実際のストローク位置と比べて、シフト量d’だけ戻し操作方向D2側の位置(ストローク位置がずれる前の位置)と認識する(図中、「B」、「C」参照)。つぎに、パーキングブレーキPBを作動解除するために、被制動部材に制動部材が押し当てられた状態から被制動部材から制動部材が離間したと推定できるストローク量、たとえばケーブルCAを引き操作したときのストローク量だけケーブルCAが戻し操作され(図中、「作動解除動作」参照)、ケーブルCAは作動前の位置(作動解除完了位置)に戻る。このとき、実際のケーブルCAの作動解除完了位置は、ケーブルCAのストローク位置がずれる前と比べて、引き操作方向D1側にシフト量dだけずれている(図中、「A」参照)。それによって、実際のケーブルCAの作動解除完了位置が、実際の引き摺り判定基準位置から所定の範囲(図中、「所定の範囲」参照)内にあることになり、実際のパーキングブレーキPBは引き摺り状態である。一方、制御部5が認識しているケーブルCAの引き摺り判定基準位置は、ケーブルCAがずれる前と比べて、戻し操作方向D2側にシフト量d’だけずれている(図中、「B」参照)。それによって、制御部5が認識している作動解除完了位置が、制御部5が認識している引き摺り判定基準位置から所定の範囲(図中、「所定の範囲」参照)内にあることになり、制御部5は、パーキングブレーキPBが引き摺り状態であると判定することができる。
【0040】
以上に示したように、本実施形態の電動パーキングブレーキ装置1におけるパーキングブレーキPBの引き摺り状態の判定は、たとえばメンテナンスなどによって、ケーブルCAの取り付け位置が変化し、記憶部4が記憶しているケーブルCAのストローク位置が実際のストローク位置からずれてしまったような場合に好適に適用することができる。メンテナンス以外にも、ケーブルCAの伸びや、電動パーキングブレーキ装置1の構成要素間のずれなどによっても、記憶部4が記憶しているケーブルCAのストローク位置が実際のストローク位置からずれる可能性があり、そのような場合にも、本実施形態におけるパーキングブレーキPBの引き摺り状態の判定を好適に適用することができる。
【0041】
制御部5は、上述したように、ケーブルCAの作動解除完了時のストローク位置が引き摺り判定基準位置から所定の範囲内にあるか否かを判定するように構成されていればよく、その判定後の動作は特に限定されない。たとえば、制御部5は、図3に示されるように、ケーブルCAのストローク位置が引き摺り判定基準位置に対して所定の範囲内にあると判定したとき、図示しない表示部に引き摺り検知の警告を表示するよう構成されていてもよいし、ゼロ位置を再設定する(ステップS24)ように構成されていてもよい。ゼロ位置の再設定は、たとえば、パーキングブレーキPBに最大荷重をかけたときのケーブルCAの位置(最大荷重位置)から、パーキングブレーキPBを確実に解除状態にするために必要な所定ストローク量だけ戻し操作したときのケーブルCAの位置をゼロ位置に設定することにより行なうことができる。図5の場合について具体的に説明すると、ケーブルCAのストローク位置がずれている場合において、パーキングブレーキPBにかける最大荷重は、ケーブルCAのストローク位置がずれる前後で変更されていないので、実際のケーブルCAの最大荷重に対応する最大荷重位置は、ケーブルCAのストローク位置がずれる前後でほとんど変化しない(図4図5との比較)。そして、ゼロ位置の再設定は、パーキングブレーキPBに最大荷重をかけ、パーキングブレーキPBに最大荷重をかけたときのケーブルCAの位置(最大荷重位置)から、予め設定された所定のストローク量だけ戻し操作することで行い、戻し操作をしたときのケーブルCAの位置を新たなゼロ位置として設定する。これにより、制御部5は、ケーブルCAのストローク位置を正確に認識することができる。再設定されたゼロ位置は、記憶部4に記憶されてもよい。
【0042】
制御部5は、図3に示されるように、ケーブルCAのゼロ位置を再設定した後、再設定したゼロ位置に基づいて予め設定された所定のストローク量(たとえば5mm)だけ引き操作方向D1側に引き操作を行うことでケーブルCAを作動前の位置に戻す(ステップS25)ように構成されていてもよい。なお、ステップS25による作動前の位置とはゼロ位置を再設定した後のみの位置であってもよく、必ずしもパーキングブレーキPBが作動前に位置する位置でなくてもよい。これによって、ケーブルCAのストローク位置が、引き摺り判定基準位置に対して所定の範囲内ではなくなるので、パーキングブレーキPBの引き摺り状態が解消される。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されない。なお、上記した実施形態は、以下の構成を有する発明を主に説明するものである。
【0044】
(1)ケーブルの引き操作および戻し操作によってパーキングブレーキを電動で作動および作動解除する電動パーキングブレーキ装置であって、前記電動パーキングブレーキ装置は、
前記パーキングブレーキにかかる荷重を検知する荷重検知部と、
前記ケーブルのストローク位置を検知するストローク位置検知部と、
前記ストローク位置検知部の検知結果を記憶する記憶部と、
前記ケーブルの引き操作および戻し操作を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記パーキングブレーキの作動時に、前記荷重検知部が引き摺り判定基準荷重を検知したときの前記ストローク位置を、引き摺り判定基準位置として前記記憶部に記憶し、
前記パーキングブレーキの作動解除時に、前記パーキングブレーキの作動解除完了と判定したときの前記ケーブルの前記ストローク位置が、前記引き摺り判定基準位置に対して所定の範囲内にあるか否かを判定する、
電動パーキングブレーキ装置。
【0045】
(2)前記制御部は、
前記パーキングブレーキの作動時毎に、前記引き摺り判定基準荷重に対応する前記引き摺り判定基準位置を、前記記憶部に記憶する、
(1)に記載の電動パーキングブレーキ装置。
【0046】
(3)前記記憶部は、
不揮発性メモリである、
(1)または(2)に記載の電動パーキングブレーキ装置。
【0047】
(4)前記制御部は、
前記ケーブルの前記ストローク位置が前記引き摺り判定基準位置に対して前記所定の範囲内にあると判定したとき、前記ケーブルの戻し操作可能域の最端となる位置でありストローク位置の始点となるゼロ位置を、再設定するように構成される、
(1)~(3)のいずれか1つに記載の電動パーキングブレーキ装置。
【符号の説明】
【0048】
1 電動パーキングブレーキ装置
2 荷重検知部
21 従動部材
22 付勢部材
23 第1センサ要素
24 第2センサ要素
3 ストローク位置検知部
4 記憶部
5 制御部
6 駆動部
61 移動部材
611 第1移動部材
612 第2移動部材
613 第3移動部材
62 駆動装置
63 伝動部材
BP 基部
CA ケーブル
d シフト量
d’ 制御部が認識するシフト量
D 操作方向
D1 引き操作方向
D2 戻し操作方向
PB パーキングブレーキ
S11 ケーブルを引き操作するステップ
S12 パーキングブレーキに引き摺り判定基準荷重が負荷されているか否かを判定するステップ
S13 引き摺り判定基準荷重が負荷されたときのケーブルのストローク位置を引きずり判定基準位置として記憶部に記憶させるステップ
S14 ケーブルを引き操作するステップ
S15 パーキングブレーキが作動状態であるか否かを判定するステップ
S21 ケーブルを戻し操作するステップ
S22 パーキングブレーキの作動解除が完了しているか否かを判定するステップ
S23 ケーブルのストローク位置が引き摺り判定基準位置に対して所定の範囲内にあるか否かを判定するステップ
S24 ゼロ位置を再設定するステップ
S25 再設定したゼロ位置に基づいてケーブルを作動前の位置に戻すステップ
X 移動部材の軸
図1
図2
図3
図4
図5