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特開2024-110793細胞治療支援装置、細胞治療支援システム及び細胞治療支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110793
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】細胞治療支援装置、細胞治療支援システム及び細胞治療支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   G16H 20/00 20180101AFI20240808BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
G16H20/00
C12M1/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015598
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 宏司
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 耕平
【テーマコード(参考)】
4B029
5L099
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB11
4B029CC01
4B029FA15
5L099AA00
(57)【要約】
【課題】細胞治療を支援すること。
【解決手段】実施形態に係る細胞治療支援装置は、取得部と、決定部とを具備する。取得部は、対象者の炎症の程度が互いに異なる第1状態及び第2状態について、前記対象者の幹細胞を含む組織におけるリンパ球系細胞の活性化の程度を示す特性情報を取得する。決定部は、前記第1状態における前記特性情報と、前記第2状態における前記特性情報との間の差異に基づいて、前記対象者から採取される前記組織の採取量を決定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の炎症の程度が互いに異なる第1状態及び第2状態について、前記対象者の幹細胞を含む組織におけるリンパ球系細胞の活性化の程度を示す特性情報を取得する取得部と、
前記第1状態における前記特性情報と、前記第2状態における前記特性情報との間の差異に基づいて、前記対象者から採取される前記組織の採取量を決定する決定部と、
を具備する細胞治療支援装置。
【請求項2】
前記特性情報は、前記リンパ球系細胞の大きさ、複雑さ、数量及び球形度のうち少なくとも1つを含む、
請求項1に記載の細胞治療支援装置。
【請求項3】
前記特性情報は、前記組織に含まれる細胞の大きさごと及び複雑さごとの前記細胞の数量を示すヒストグラムにおける、前記リンパ球系細胞を含むクラスターの面積である、
請求項1に記載の細胞治療支援装置。
【請求項4】
前記取得部は、前記対象者から採取される前記組織の標準量を更に取得し、
前記決定部は、前記差異に基づいて前記標準量を補正することで、前記採取量を決定する、
請求項1に記載の細胞治療支援装置。
【請求項5】
前記取得部は、前記対象者から採取される前記組織の上限量を更に取得し、
前記決定部は、前記採取量が前記上限量を超える場合、警告を表示部に表示する、
請求項1に記載の細胞治療支援装置。
【請求項6】
前記組織は、血液であり、
前記幹細胞は、造血幹細胞、間葉系幹細胞及びMuse細胞のうち少なくとも1つを含み、
前記リンパ球系細胞は、T細胞、B細胞及びNK細胞のうち少なくとも1つを含む、
請求項1に記載の細胞治療支援装置。
【請求項7】
細胞治療支援装置と、操作端末とを具備する細胞治療支援システムであって、
前記細胞治療支援装置は、
対象者の炎症の程度が互いに異なる第1状態及び第2状態について、前記対象者の幹細胞を含む組織におけるリンパ球系細胞の活性化の程度を示す特性情報を取得する取得部と、
前記第1状態における前記特性情報と、前記第2状態における前記特性情報との間の差異に基づいて、前記対象者から採取される前記組織の採取量を決定する決定部と、
を具備し、
前記操作端末は、前記細胞治療支援装置により決定された前記採取量を表示する、
細胞治療支援システム。
【請求項8】
コンピュータに、
対象者の炎症の程度が互いに異なる第1状態及び第2状態について、前記対象者の幹細胞を含む組織におけるリンパ球系細胞の活性化の程度を示す特性情報を取得する取得機能と、
前記第1状態における前記特性情報と、前記第2状態における前記特性情報との間の差異に基づいて、前記対象者から採取される前記組織の採取量を決定する決定機能と、
を実現させる細胞治療支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、細胞治療支援装置、細胞治療支援システム及び細胞治療支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞治療は、患者又は患者以外の他者から採取された細胞(例:幹細胞、免疫細胞、血球細胞)を用いて、患者の疾患を治療する治療法である。通常、採取された細胞の中には、移植に適した「高品質な」細胞と、移植に適さない「低品質な」細胞とが一定の比率で混在する。そこで、細胞の移植成績を向上させるため、患者からより多くの「高品質な」細胞を採取することが求められる。
【0003】
特に、患者から同量の幹細胞が採取される場合、炎症状態の患者から採取された幹細胞の移植成績は、健常状態の患者から採取された幹細胞の移植成績よりも低い傾向にある(例:低増殖率、低生存率、低生着率)。したがって、現在の状態の患者における幹細胞の品質を所定の指標に基づいて推定したうえで、患者から適切な数量の幹細胞を採取することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6812580号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、細胞治療を支援することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る細胞治療支援装置は、取得部と、決定部とを具備する。取得部は、対象者の炎症の程度が互いに異なる第1状態及び第2状態について、前記対象者の幹細胞を含む組織におけるリンパ球系細胞の活性化の程度を示す特性情報を取得する。決定部は、前記第1状態における前記特性情報と、前記第2状態における前記特性情報との間の差異に基づいて、前記対象者から採取される前記組織の採取量を決定する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態に係る細胞治療支援システムの構成例を示すブロック図。
図2】本実施形態に係る細胞治療支援装置の構成例を示すブロック図。
図3】本実施形態に係る操作端末の構成例を示すブロック図。
図4】本実施形態に係る細胞治療支援装置の全体動作例を示すフローチャート。
図5】本実施形態に係る細胞治療支援装置の詳細動作例を示すフローチャート。
図6】本実施形態に係る健常状態及び炎症状態のサイトグラムの例を示す図。
図7】本実施形態に係る細胞治療支援装置による第1処理例を示す図。
図8】本実施形態に係る細胞治療支援装置による第2処理例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら実施形態に係る細胞治療支援装置、細胞治療支援システム及び細胞治療支援プログラムについて説明する。以下の実施形態では、同一の参照符号を付した部分は同様の動作を行うものとして、重複する説明を適宜、省略する。
【0009】
図1は、本実施形態に係る細胞治療支援システム100の構成例を示すブロック図である。細胞治療支援システム100は、細胞治療を支援するシステムである。例えば、細胞治療支援システム100は、クライアントサーバシステムである。細胞治療支援システム100は、各構成として細胞治療支援装置1、複数の操作端末2、医用データ生成装置3、医用データ処理装置4及び医用データ記憶装置5を含む。各構成は、共通の信号伝送路であるバスを介して、互いに通信可能に接続される。
【0010】
細胞治療支援装置1は、細胞治療を支援する装置である。細胞治療支援装置1は、細胞治療支援システム100におけるサーバとして機能する。細胞治療支援装置1は、高速な情報処理を実行可能なワークステーションでもよい。細胞治療支援装置1は、「医用情報処理装置」とも換言される。
【0011】
操作端末2は、操作者(例:看護師)により操作される端末である。操作端末2は、細胞治療支援システム100におけるクライアントとして機能する。操作端末2は、デスクトップPC、ノートPC、スマートフォン、タブレット端末又はウェアラブル端末でもよい。
【0012】
医用データ生成装置3は、医用データ(例:医用画像データ、バイタルサインデータ)を生成する装置である。医用データ生成装置3は、医用画像診断装置(例:X線診断装置、X線CT装置、MRI装置、超音波診断装置、核医学検査装置)又はウェアラブルデバイス(例:血圧計、心拍計)でもよい。医用データ生成装置3は、生成した医用データを医用データ処理装置4に送信する。
【0013】
医用データ処理装置4は、医用データを処理する装置である。例えば、医用データ処理装置4は、医用画像データ又はバイタルサインデータを再構成し、解析し、又は加工する。医用データ処理装置4は、細胞治療支援システム100におけるサーバとして機能する。医用データ処理装置4は、高速な情報処理を実行可能なワークステーションでもよい。医用データ処理装置4は、処理した医用データを医用データ記憶装置5に送信する。
【0014】
医用データ記憶装置5は、医用データを記憶する装置である。医用データ記憶装置5は、記憶媒体(例:磁気的記憶媒体、電磁的記憶媒体、光学的記憶媒体、半導体メモリ)でもよいし、記憶媒体との間で情報を読み書きする駆動装置でもよい。医用データ記憶装置5は、医用データ処理装置4から送信された医用データを記憶する。
【0015】
図2は、本実施形態に係る細胞治療支援装置1の構成例を示すブロック図である。細胞治療支援装置1は、各構成として処理回路11、メモリ12及び通信IF13を含む。各構成は、共通の信号伝送路であるバスを介して、互いに通信可能に接続される。
【0016】
処理回路11は、細胞治療支援装置1の全体の動作を制御する回路である。処理回路11は、少なくとも1つのプロセッサを含む。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、特定用途向け集積回路(ASIC:Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例:単純プログラマブル論理デバイス(SPLD:Simple Programmable Logic Device)、複合プログラマブル論理デバイス(CPLD:Complex Programmable Logic Device)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA:Field Programmable Gate Array))などの回路を意味する。プロセッサがCPUである場合、CPUはメモリ12に記憶された各プログラムを読み出して実行することで、各機能を実現する。プロセッサがASICである場合、各機能がASICの回路内に論理回路として直接、組み込まれる。プロセッサは、単一の回路として構成されてもよいし、独立した複数の回路を互いに組み合わせて構成されてもよい。処理回路11は、各機能(取得機能111、決定機能112、システム制御機能113)を実現する。
【0017】
取得機能111は、各種のデータ又は情報を取得する機能である。第一に、取得機能111は、対象者(例:患者、患者以外の他者)の炎症の程度が互いに異なる第1状態及び第2状態について、対象者の幹細胞を含む組織におけるリンパ球系細胞(例:T細胞、B細胞、NK細胞)の活性化の程度を示す特性情報Cを取得する。第二に、取得機能111は、対象者から採取される組織の標準量又は上限量を取得する。取得機能111は、医用データ記憶装置5にアクセスすることで、医用データ記憶装置5から各種のデータ又は情報を取得してもよい。取得機能111は、取得部の一例である。
【0018】
決定機能112は、各種の内容を決定する機能である。第一に、決定機能112は、第1状態における特性情報Cと、第2状態における特性情報Cとの間の差異に基づいて、対象者から採取される組織の採取量を決定する。第二に、決定機能112は、同差異に基づいて組織の標準量を補正することで、組織の採取量を決定する。第三に、決定機能112は、組織の採取量が上限量を超える場合、警告をディスプレイに表示する。決定機能112は、決定部の一例である。
【0019】
システム制御機能113は、処理回路11が行う各種の動作を制御する機能である。例えば、システム制御機能113は、処理回路11が各機能(取得機能111、決定機能112)を実現するためのオペレーティングシステム(OS)を提供する。システム制御機能113は、システム制御部の一例である。
【0020】
メモリ12は、各種のデータ又は情報を記憶する装置である。メモリ12は、プロセッサにより読取可能な記憶媒体(例:磁気的記憶媒体、電磁的記憶媒体、光学的記憶媒体、半導体メモリ)でもよいし、記憶媒体との間でデータ又は情報を読み書きする駆動装置でもよい。メモリ12は、処理回路11に各機能(取得機能111、決定機能112、システム制御機能113)を実現させる各プログラムを記憶する。メモリ12は、記憶部の一例である。
【0021】
通信IF13は、細胞治療支援システム100に含まれる各構成との間で、各種のデータ又は情報を通信するインタフェースである。通信IF13は、操作端末2又は医用データ記憶装置5との間で、各種のデータ又は情報を通信する。通信IF13は、通信部の一例である。
【0022】
図3は、本実施形態に係る操作端末2の構成例を示すブロック図である。操作端末2は、各構成として処理回路21、メモリ22、入力IF23、ディスプレイ24及び通信IF25を含む。各構成は、共通の信号伝送路であるバスを介して、互いに通信可能に接続される。
【0023】
処理回路21は、操作端末2の全体の動作を制御する回路である。操作端末2の処理回路21は、細胞治療支援装置1の処理回路11と同様なハードウェア構成を有する。処理回路21は、各機能(取得機能211、表示制御機能212、システム制御機能213)を実現する。
【0024】
取得機能211は、各種のデータ又は情報を取得する機能である。例えば、取得機能211は、細胞治療支援装置1から表示データを取得する。表示データには、細胞治療支援装置1により決定された組織の採取量が含まれてもよいし、警告メッセージなどのテキストが含まれてもよい。取得機能211は、取得部の一例である。
【0025】
表示制御機能212は、各種のデータ又は情報を表示する機能である。例えば、表示制御機能212は、表示データに基づく表示画像をディスプレイ24に表示する。表示制御機能212は、表示制御部の一例である。
【0026】
システム制御機能213は、処理回路21が行う各種の動作を制御する機能である。例えば、システム制御機能213は、処理回路21が各機能(取得機能211、表示制御機能212)を実現するためのオペレーティングシステム(OS)を提供する。システム制御機能213は、システム制御部の一例である。
【0027】
メモリ22は、各種のデータ又は情報を記憶する装置である。操作端末2のメモリ22は、細胞治療支援装置1のメモリ12と同様なハードウェア構成を有する。メモリ22は、処理回路21に各機能(取得機能211、表示制御機能212、システム制御機能213)を実現させる各プログラムを記憶する。メモリ22は、記憶部の一例である。
【0028】
入力IF23は、操作者から各種の操作を受け付けるインタフェースである。入力IF23は、操作者から受け付けた各種の操作を電気信号に変換し、電気信号を処理回路21に伝送する。入力IF23は、マウス、キーボード、ボタン、パネルスイッチ、スライダースイッチ、トラックボール、操作パネル又はタッチパネルでもよい。入力IF23は、入力部の一例である。
【0029】
ディスプレイ24は、各種のデータ又は情報を表示する装置である。ディスプレイ24は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ又はLEDディスプレイでもよい。ディスプレイ24は、入力IF23としての機能を兼ねるタッチパネル式ディスプレイでもよい。ディスプレイ24は、表示部の一例である。
【0030】
通信IF25は、細胞治療支援システム100に含まれる各構成との間で、各種のデータ又は情報を通信するインタフェースである。通信IF25は、細胞治療支援装置1との間で各種のデータ又は情報を通信する。通信IF25は、通信部の一例である。
【0031】
図4は、本実施形態に係る細胞治療支援装置1の全体動作例を示すフローチャートである。本動作例では、細胞治療支援装置1は、処理対象となる患者について、健常状態における特性情報Cと、炎症状態における特性情報Cとを取得する。細胞治療支援装置1は、取得された特性情報C間の差異に基づいて、患者から採取される組織の数量(採取量)を決定する。
【0032】
(ステップS101)まず、細胞治療支援装置1は、患者情報を取得する。具体的には、細胞治療支援装置1は取得機能111により、医用データ記憶装置5から患者に関する患者情報を取得する。取得された患者情報は、メモリ12に記憶される。取得された患者情報には、患者の炎症の程度を示す情報(炎症情報)が含まれる。
【0033】
炎症情報は、(1)炎症性疾患の名称と、(2)炎症性疾患の検査値とを含む。(1)炎症性疾患の名称は、アレルギー性疾患(例:喘息、アトピー性皮膚炎)、自己免疫性疾患(例:自己免疫性溶血性貧血、バセドウ病、橋本甲状腺炎、多発性硬化症、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、全身性エリテマトーデス、1型糖尿病、血管炎)、自己炎症性疾患などを含む。(2)炎症性疾患の検査値は、C-反応性蛋白(CRP)値、血沈値、リウマトイド因子(RF)値などを含む。
【0034】
(ステップS102)次に、細胞治療支援装置1は、患者の状態を推定する。具体的には、細胞治療支援装置1は、ステップS101で取得された患者情報に基づいて、患者の炎症の程度に関する状態を推定する。特に、細胞治療支援装置1は、患者が「健常状態」又は「炎症状態」にあるかを推定する。
【0035】
第一に、取得された患者情報に(1)炎症性疾患の名称が含まれない場合、細胞治療支援装置1は、患者の炎症の程度が全くないか、比較的低いと推定する。すなわち、細胞治療支援装置1は、患者が「健常状態」にあると推定する。反対に、取得された患者情報に(1)炎症性疾患の名称が含まれる場合、細胞治療支援装置1は、患者の炎症の程度が比較的高いと推定する。すなわち、細胞治療支援装置1は、患者が「炎症状態」にあると推定する。
【0036】
第二に、取得された患者情報に(2)炎症性疾患の検査値が含まれる場合であって、検査値が正常範囲にあるとき、細胞治療支援装置1は、患者が「健常状態」にあると推定する。反対に、検査値が正常範囲にないとき、細胞治療支援装置1は、患者が「炎症状態」にあると推定する。
【0037】
なお、細胞治療支援装置1は、「炎症状態」のうち、患者が「軽度炎症状態」又は「重度炎症状態」にあるかを推定してもよい。例えば、(2)炎症性疾患の検査値が正常範囲にない場合であって、検査値が正常範囲に比較的近いとき、細胞治療支援装置1は、患者が「軽度炎症状態」にあると推定する。反対に、検査値が正常範囲から比較的遠いとき、細胞治療支援装置1は、患者が「重度炎症状態」にあると推定する。特に、細胞治療支援装置1は、「軽度炎症状態」を「健常状態」とみなしてもよい。
【0038】
(ステップS103)続いて、細胞治療支援装置1は、患者の特性情報Cを取得する(図5参照)。具体的には、細胞治療支援装置1は取得機能111により、ステップS102で推定された患者の状態に関連付けて、患者の特性情報Cを取得する。すなわち、細胞治療支援装置1は、患者の「健常状態」又は「炎症状態」に関連付けて、患者の特性情報Cを取得する。これにより、「健常状態」における患者の特性情報C、又は「炎症状態」における患者の特性情報Cが取得される。取得された患者の特性情報Cは、メモリ12に記憶される。
【0039】
(ステップS104)ここで、細胞治療支援装置1は、過去の特性情報Cがあるか否かを判定する。具体的には、細胞治療支援装置1は、メモリ12を検索することで、ステップS103で取得された現在の特性情報Cのほかに、過去の特性情報Cがあるか否かを判定する。過去の特性情報Cがある場合(ステップS104-YES)、処理はステップS105に進む。過去の特性情報Cがない場合(ステップS104-NO)、処理はステップS101に戻る。この場合、任意の時点で一連のステップ(S101、S102、S103)が再び実行され、同一の患者について新たな特性情報Cが取得される。取得された新たな特性情報Cは、「現在の特性情報C」として扱われる。既に取得された古い特性情報Cは、「過去の特性情報C」として扱われる。
【0040】
現在の特性情報Cは、処理対象となる現在の時点における、患者の特性情報Cを指す。現在の特性情報Cは、「健常状態」又は「炎症状態」における患者の特性情報Cである。一方、過去の特性情報Cは、過去の時点における、患者の特性情報Cを指す。過去の特性情報Cは、「健常状態」又は「炎症状態」における患者の特性情報Cである。好適には、現在の特性情報Cは、「炎症状態」における患者の特性情報Cであり、過去の特性情報Cは、「健常状態」における患者の特性情報Cである。
【0041】
(ステップS105)続いて、細胞治療支援装置1は、特性情報C間の差異を算出する。具体的には、細胞治療支援装置1は、同一の患者について、現在の特性情報Cと、過去の特性情報Cとの間の差異を算出する。特に、細胞治療支援装置1は、過去の特性情報Cに対する現在の特性情報Cの差異を算出する。
【0042】
(ステップS106)続いて、細胞治療支援装置1は、組織の採取量を決定する。具体的には、細胞治療支援装置1は決定機能112により、ステップS105で算出された差異に基づいて、患者から採取される組織の採取量を決定する。特に、細胞治療支援装置1は、同差異に基づいて組織の標準量を補正することで、組織の採取量を決定する。
【0043】
(ステップS107)最後に、細胞治療支援装置1は、組織の採取量を表示する。具体的には、細胞治療支援装置1は、ステップS106で決定された採取量を含む表示データを生成し、生成した表示データを操作端末2に送信する。操作端末2は、送信された表示データに基づく表示画像を、ディスプレイ24に表示する。ステップS107の後、細胞治療支援装置1は、一連の動作を終了する。
【0044】
図5は、本実施形態に係る細胞治療支援装置1の詳細動作例を示すフローチャートである。図5は、図4のステップS103の詳細動作例を示す。本動作例では、細胞治療支援装置1は、患者の血液を解析することで、血液に含まれるリンパ球系細胞の活性化の程度を示す特性情報Cを算出する。以下では、細胞治療支援装置1は、フローサイトメトリを実行可能な構成を有すると想定する。
【0045】
(ステップS103A)まず、細胞治療支援装置1は、血液の採取提案を表示する。具体的には、細胞治療支援装置1は、血液の採取を提案するための表示データを生成し、生成した表示データを操作端末2に送信する。操作端末2は、送信された表示データに基づく表示画像を、ディスプレイ24に表示する。
【0046】
操作端末2の操作者は、ディスプレイ24に表示された表示画像を視認した後、患者の血液を採取する。操作者は、採取した血液に所定の試薬(例:抗凝固剤、蛍光標識抗体)を添加するなどして、解析用の血液サンプルを調製する。操作者は、調製した血液サンプルを細胞治療支援装置1に提供する。
【0047】
(ステップS103B)次に、細胞治療支援装置1は、前方散乱光シグナル(FSC)及び側方散乱光シグナル(SSC)を測定する。具体的には、細胞治療支援装置1は、患者の血液サンプルをフローサイトメトリにより解析することで、血液サンプルに含まれる各種の細胞について、前方散乱光シグナル及び側方散乱光シグナルを測定する。前方散乱光シグナルは、細胞の大きさの指標である。側方散乱光シグナルは、細胞の複雑さの指標である。
【0048】
(ステップS103C)続いて、細胞治療支援装置1は、サイトグラムを生成する。具体的には、細胞治療支援装置1は、ステップS103Bで測定された前方散乱光シグナルを一方の軸に取り、ステップS103Bで測定された側方散乱光シグナルを他方の軸に取ることで、サイトグラムを生成する。生成されたサイトグラムは、血液に含まれる細胞の大きさごと及び複雑さごとの、細胞の数量を示す。生成されたサイトグラムは、「2変量ヒストグラム」とも換言される。
【0049】
(ステップS103D)続いて、細胞治療支援装置1は、リンパ球系細胞クラスターをグルーピングする。具体的には、細胞治療支援装置1は、ステップS103Cで生成されたサイトグラムにおける、リンパ球系細胞を含むクラスターをグルーピングする。グルーピングには、機械学習による学習済みモデルが適用されてもよい。
【0050】
(ステップS103E)最後に、細胞治療支援装置1は、クラスターの面積を算出する。具体的には、細胞治療支援装置1は、ステップS103Dでグルーピングされたリンパ球系細胞クラスターの面積を算出する。リンパ球系細胞クラスターの面積は、特性情報Cの一例である。ステップS103Eの後、処理はステップS104に進む(図4参照)。
【0051】
図6は、本実施形態に係る健常状態及び炎症状態のサイトグラムの例を示す図である。図6の(A)は、健常状態における患者の血液のサイトグラム200を示す。図6の(B)は、炎症状態における患者の血液のサイトグラム300を示す。サイトグラム200及び300の横軸は、前方散乱光シグナルを示す。サイトグラム200及び300の縦軸は、側方散乱光シグナルを示す。
【0052】
サイトグラム200には、(1)顆粒球から成るクラスター、(2)壊死組織片から成るクラスター、(3)リンパ球及び芽細胞から成るクラスター210、並びに(4)単核球から成るクラスターが観察される。4種類のクラスターのうち、クラスター210は、破線によりグルーピングされる。クラスター210は、前方散乱光シグナルの値が「約350-600」の範囲にあり、側方散乱光シグナルの値が「約0-200」の範囲にある細胞集団である。「リンパ球及び芽細胞から成るクラスター」は、「リンパ球系細胞クラスター」とも換言される。
【0053】
サイトグラム300には、リンパ球及び芽細胞から成るクラスター310が観察される。サイトグラム300のクラスター310は、サイトグラム200のクラスター210に比べて、縦軸方向及び横軸方向に拡大している。本例では、クラスター310の面積は、クラスター210の面積の2倍よりも大きい。
【0054】
サイトグラム200及び300に示すように、炎症状態において活性化されたリンパ球系細胞は、健常状態において活性化されていないリンパ球系細胞に比べて、大きさ、複雑さ及び数量が増加する。例えば、活性化されたリンパ球系細胞にはオリゴマーが形成されることで、細胞の複雑さが増加する。一方、活性化されたリンパ球系細胞の細胞膜は、波打つ形状を有し、活性化されていないリンパ球系細胞の細胞膜は、球形により近い形状を有する。すなわち、リンパ球系細胞の活性化の程度を示す特性情報Cは、リンパ球系細胞の大きさ、複雑さ、数量又は球形度でもよい。
【0055】
図7は、本実施形態に係る細胞治療支援装置1による第1処理例を示す図である。図7の(A)は、健常状態における患者の血液のサイトグラム200Aを示す。図7の(B)は、炎症状態における患者の血液のサイトグラム300Aを示す。サイトグラム200A及び300Aの横軸は、前方散乱光シグナルを示す。サイトグラム200A及び300Aの縦軸は、側方散乱光シグナルを示す。
【0056】
サイトグラム200Aには、リンパ球及び芽細胞から成るクラスター210Aが観察される。クラスター210Aの面積は、「40」である。サイトグラム300Aには、リンパ球及び芽細胞から成るクラスター310Aが観察される。クラスター310Aの面積は、「60」である。
【0057】
細胞治療支援装置1は、クラスター210Aの面積と、クラスター310Aの面積との比率(面積比)を算出する。本例では、面積比は、「(クラスター210Aの面積):(クラスター310Aの面積)=40:60=2:3」と算出される。すなわち、クラスター310Aの面積は、クラスター210Aの面積に比べて「1.5倍」大きい。
【0058】
ここで、健常状態における患者の標準採血量が「200cc」であると想定する。前述のとおり、健常状態におけるクラスター210Aの面積に比べて、炎症状態におけるクラスター310Aの面積は「1.5倍」大きい。そこで、細胞治療支援装置1は、標準採血量「200cc」を「1.5倍」に増加させることで、標準採血量を補正する。この場合、補正後の採血量は、「300cc」と算出される。細胞治療支援装置1は、補正後の採血量を、操作端末2のディスプレイ24に表示する。
【0059】
図7の(C)は、患者の採血量に係る表示画像400Aを示す。表示画像400Aには、標準採血量と、補正後の採血量とが示される。具体的には、表示画像400Aには、「標準採血量200ccのところ、300ccの採血を推奨します。」というテキストが表示される。
【0060】
図8は、本実施形態に係る細胞治療支援装置1による第2処理例を示す図である。図8の(A)は、健常状態における患者の血液のサイトグラム200Bを示す。図8の(B)は、炎症状態における患者の血液のサイトグラム300Bを示す。サイトグラム200B及び300Bの横軸は、前方散乱光シグナルを示す。サイトグラム200B及び300Bの縦軸は、側方散乱光シグナルを示す。
【0061】
サイトグラム200Bには、リンパ球及び芽細胞から成るクラスター210Bが観察される。クラスター210Bの面積は、「5」である。サイトグラム300Bには、リンパ球及び芽細胞から成るクラスター310Bが観察される。クラスター310Bの面積は、「95」である。
【0062】
細胞治療支援装置1は、クラスター210Bの面積と、クラスター310Bの面積との比率(面積比)を算出する。本例では、面積比は、「(クラスター210Bの面積):(クラスター310Bの面積)=5:95=1:19」と算出される。すなわち、クラスター310Bの面積は、クラスター210Bの面積に比べて「19倍」大きい。
【0063】
ここで、健常状態における患者の標準採血量が「200cc」であると想定する。前述のとおり、健常状態におけるクラスター210Bの面積に比べて、炎症状態におけるクラスター310Bの面積は「19倍」大きい。そこで、細胞治療支援装置1は、標準採血量「200cc」を「19倍」に増加させることで、標準採血量を補正する。この場合、補正後の採血量は、「3800cc」と算出される。細胞治療支援装置1は、補正後の採血量を、操作端末2のディスプレイ24に表示する。
【0064】
図8の(C)は、患者の採血量に係る表示画像400Bを示す。表示画像400Bには、標準採血量と、補正後の採血量とが示される。具体的には、表示画像400Bには、「標準採血量200ccのところ、3800ccの採血を推奨します。」というテキストが表示される。
【0065】
なお、細胞治療支援装置1は、補正後の採血量と、患者から採取される血液の上限量とを互いに比較することで、補正後の採血量が上限量を超えるか否かを判定してもよい。例えば、補正後の採血量が「3800cc」であり、上限量が「400cc」であると想定する。この場合、細胞治療支援装置1は、補正後の採血量が上限量を超えると判定する。細胞治療支援装置1は、患者から血液を採取すべきではない旨を示す警告を、操作端末2のディスプレイ24に表示する。
【0066】
図8の(D)は、患者からの採血に対する警告画像500を示す。具体的には、警告画像500には、「リンパ球の状態が悪く、移植に不適です。」というテキストが表示される。警告画像500は、表示画像400Bとともに表示されてもよいし、表示画像400Bに代えて表示されてもよい。
【0067】
以上、本実施形態に係る細胞治療支援装置1及び細胞治療支援システム100について説明した。本実施形態によれば、細胞治療支援装置1は、現在の状態の患者における幹細胞の品質を、患者の特性情報C(すなわち、リンパ球系細胞の活性化の程度)を指標として推定する。例えば、細胞治療支援装置1は、健常状態における患者の特性情報Cと、炎症状態における患者の特性情報Cとの間の差異に基づいて、患者から採取される組織の採取量を決定する。細胞治療支援装置1は、決定された採取量をディスプレイに表示する。
【0068】
したがって、細胞治療支援装置1は、操作者が患者から適切な数量の組織を採取することを支援できる。さらに、細胞治療支援装置1は、決定された採取量が上限量を超える場合には、ディスプレイに警告を表示する。これにより、細胞治療支援装置1は、患者から組織を採取すべきではないことを、操作者に認識させることができる。操作者は、細胞治療支援装置1により表示された組織の採取量及び採取可否を、細胞治療、アフェレーシスなどの治療計画にフィードバックできる。
【0069】
前述のとおり、細胞治療支援装置1は、患者が炎症状態にある場合には、患者が健常状態にある場合に比べて、患者からの採血量を増加させる。これは、炎症性疾患によりリンパ球系細胞が活性化されて幹細胞を損傷することで、幹細胞の品質が低下すると考えられるためである。そこで、細胞治療支援装置1は、患者におけるリンパ球系細胞の活性化の程度を算出し、この算出結果に基づいて、患者からの採血量を決定する。細胞治療支援装置1は、患者におけるリンパ球系細胞の活性化の程度が比較的高い場合(炎症状態)には、患者からの採血量を増加させる。結果として、細胞治療支援装置1は、患者からより多くの「高品質な」幹細胞を採取することで、幹細胞の品質を向上できる。
【0070】
本実施形態では、患者から採取される組織の例として、「血液」を想定した。血液に含まれる幹細胞は、造血幹細胞、間葉系幹細胞又はMuse(Multilineage differentiating stress enduring)細胞でもよい。患者から採取された血液に含まれる幹細胞は、移植用に加工された後、患者に移植される。
【0071】
本実施形態では、細胞治療支援装置1が、「健常状態」における患者のリンパ球系細胞クラスターの面積を算出し得ない場合が想定される。この場合、細胞治療支援装置1は、「軽度炎症状態」における患者のリンパ球系細胞クラスターの面積を代わりに算出してもよい。あるいは、細胞治療支援装置1は、「健常状態」における一般的な人間のリンパ球系細胞クラスターの面積を代わりに算出してもよい。これにより、細胞治療支援装置1は、「健常状態」における患者のリンパ球系細胞クラスターの面積と、「炎症状態」における患者のリンパ球系細胞クラスターの面積との間の差異を算出できる。
【0072】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、細胞治療を支援することができる。
【0073】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0074】
1 細胞治療支援装置
2 操作端末
3 医用データ生成装置
4 医用データ処理装置
5 医用データ記憶装置
11,21 処理回路
12,22 メモリ
13,25 通信IF
23 入力IF
24 ディスプレイ
100 細胞治療支援システム
111 取得機能
112 決定機能
113 システム制御機能
200,200A,200B,300,300A,300B サイトグラム
210,210A,210B,310,310A,310B クラスター
211 取得機能
212 表示制御機能
213 システム制御機能
400A,400B 表示画像
500 警告画像
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8