(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110813
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】操舵システムおよびそれを備えた車両
(51)【国際特許分類】
B62D 7/08 20060101AFI20240808BHJP
B62D 7/14 20060101ALI20240808BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
B62D7/08 Z
B62D7/14 Z
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015638
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】石原 教雄
【テーマコード(参考)】
3D034
3D333
【Fターム(参考)】
3D034BA02
3D034BA04
3D034BC04
3D034BC25
3D034BC26
3D034BC28
3D034CA02
3D034CA03
3D034CC09
3D034CE05
3D333CB02
3D333CB37
3D333CC15
3D333CC18
3D333CE04
3D333CE47
3D333CE48
3D333CE55
(57)【要約】
【課題】モータを小形化、高出力化して消費電力を抑えることができる操舵システムおよびこれを備えた車両を提供する。
【解決手段】本発明の操舵システムSYは、操舵機能付きのハブユニット1と、これを制御する制御装置29とを備えている。ハブユニット1は、車輪9を回転支持するハブベアリング15を含み上下方向に延びる転舵軸心Aを有するハブベアリング本体2と、転舵軸心A回りにハブベアリング本体2を回転させる操舵用アクチュエータ5とを有している。制御装置29は、操舵用アクチュエータ5を制御する。操舵用アクチュエータ5はモータ26を有し、入力された電圧を昇圧してモータ制御部34に出力する昇圧装置32が設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を回転支持するハブベアリングを含み上下方向に延びる転舵軸心を有するハブベアリング本体、および前記転舵軸心回りに前記ハブベアリング本体を回転させる操舵用アクチュエータを備えたハブユニットと、
前記操舵用アクチュエータを制御する制御装置と、を備えた操舵システムであって
前記操舵用アクチュエータはモータを有し、
前記制御装置は、前記モータを制御するモータ制御部を有し、
さらに、入力された電圧を昇圧して前記モータ制御部に出力する昇圧装置を備えた操舵システム。
【請求項2】
請求項1に記載の操舵システムにおいて、前記昇圧装置がDC-DCコンバータを有する操舵システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の操舵システムにおいて、前記モータ制御部は、上位制御部の指令信号に基づいて電流指令信号を出力する制御部と、前記電流指令信号に応じた電流を出力して前記操舵用アクチュエータを駆動する電源部とを有している操舵システム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の操舵システムが左右の前輪に装備された車両。
【請求項5】
請求項1または2に記載の操舵システムが左右の後輪に装備された車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の転舵を左右輪独立で行う機能を備えた操舵システムおよび車両に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な自動車等の車両は、ハンドルとステアリング装置が機械的に接続され、ステアリング装置の両端はタイロッドによってそれぞれ左右輪につながっている(例えば、特許文献1、2)。そのため、ハンドルの動きによる左右輪の切れ角度は初期の設定によって決まる。
【0003】
車両のジオメトリには、(1)左右輪の切れ角度が同じである「パラレルジオメトリ」、(2)旋回中心を1箇所にするために旋回内輪車輪角度を旋回外輪車輪角度よりも大きく切る「アッカーマンジオメトリ」が知られている。
【0004】
アッカーマンジオメトリは、車両に作用する遠心力を無視できるような低速域での旋回において、車両をスムーズに旋回させるために、各輪が共通の一点を中心として旋回するように左右輪の舵角差を設定している。しかしながら、遠心力を無視できない高速域の旋回においては、車輪は遠心力と釣り合う方向にコーナリングフォースを発生させることが望ましいので、アッカーマンジオメトリよりもパラレルジオメトリとすることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許出願公開第102012206337号明細書
【特許文献2】特開2019-006226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、一般的な車両の操舵装置は機械的に車輪と接続されているので、一般的には固定された単一のステアリングジオメトリしか取ることができず、アッカーマンジオメトリとパラレルジオメトリとの中間的なジオメトリに設定されることが多い。しかしながら、この場合、低速域では左右輪の舵角差が不足して外輪の舵角が過大となり、高速域では内輪の舵角が過大となる。このように内外輪の車輪横力配分に不要な偏りがあると、走行抵抗の悪化による燃費悪化およびタイヤの早期摩耗の原因となる。また、内外輪を効率的に利用できないので、コーナリングのスムーズさが損なわれるといった課題がある。
【0007】
特許文献1,2によると、ステアリングジオメトリを変更させることができるが以下の課題がある。
【0008】
特許文献1では、モータを2個使ってタイヤのトー角とキャンバー角を制御している。このため構造および制御が複雑になるうえに、エネルギー消費が大きい。転舵軸上に減速機を設けた場合、モータを含んだサイズが大きくなる。サイズが大きくなると車輪の内周部に全体を配置することが困難となる。また、減速比の大きい減速機を設けた場合、応答性が悪化する。
【0009】
上述のように、従来の補助的な転舵機能を備えた機構は、車両において車輪のトー角度やキャンバー角度を任意に変更することを目的としている。このため、モータおよび減速機構が複数必要になり構成が複雑となる。また、剛性を確保することが困難であり、剛性を確保するためには大形化する必要があり高重量化する。キングピン軸と転舵軸が一致する場合は、構成要素部品がハブユニットの後方(車体側)に配置されるので、全体のサイズが大きくなり重くなる。
【0010】
特許文献2は、タイヤからの逆入力を防止することを目的として、セルフロック機能のある台形ねじを使用している。しかしながら、台形ねじは、ねじ効率が低いので、出力が大きなモータが必要となり、消費電力(エネルギー消費)が大きくなると共に、モータサイズも大きくなってユニット全体が大形化、高重量化する。
【0011】
本発明は、モータを小形化、高出力化して消費電力を抑えることができる操舵システムおよびこれを備えた車両を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の操舵システムは、操舵機能付きのハブユニットと、これを制御する制御装置とを備えている。ハブユニットは、車輪を回転支持するハブベアリングを含み上下方向に延びる転舵軸心を有するハブベアリング本体と、転舵軸心回りに前記ハブベアリング本体を回転させる操舵用アクチュエータとを有している。前記制御装置は、操舵用アクチュエータを制御する。前記操舵用アクチュエータはモータを有し、前記制御装置は、前記モータを制御するモータ制御部を有している。入力された電圧を昇圧して前記モータ制御部に出力する昇圧装置が設けられている。前記昇圧装置は、例えば、DC-DCコンバータである。
【0013】
この構成によれば、ハブユニット内にキングピン軸とは異なる転舵軸心を持ち、ハブベアリング本体は上下両端部で転舵軸心回りに回転可能に保持されている。また、ハブユニット内に配置される操舵用アクチュエータによって、この転舵軸心を中心としてハブベアリング本体を回転作動させることが可能である。これによって、簡単な構造で、ハブユニットに取り付けられた車輪のトー角度を走行中に自由に変更することができる。
【0014】
一般に、車両に搭載されるバッテリの電圧は12Vであり、操舵システムのモータの電圧は12Vよりも高圧(例えば、24V)であることが多い。そのため、従来は、車両に搭載されるバッテリ以外に24Vのバッテリを別途設ける必要があった。この構成によれば、バッテリから供給される入力電圧を昇圧する昇圧装置を採用することで、別途バッテリを設ける必要がない。これにより、モータを小形化しつつ高出力化することが可能となり、システムの消費電力を抑えることができるうえに、ばね下荷重の増加を抑えて乗り心地の悪化を防ぐことができる。
【0015】
本発明において、前記モータ制御部は、上位制御部の指令信号に基づいて電流指令信号を出力する制御部と、前記電流指令信号に応じた電流を出力して前記操舵用アクチュエータを駆動する電源部とを有ししてもよい。
【0016】
本発明の車両は、本発明の操舵システムが左右の前輪に装備されていてもよく、左右の後輪に装備されていてもよい。この構成によれば、車両の走行条件に応じ、左右の車輪を独立して角度を任意に変更することができる。そのため、適切にタイヤ角度を補正転舵することで車両の運動性能を向上させ、安定したに走行を実現できる。また、適切な車輪角度を設定することで燃費を改善することも可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の操舵システムおよび車両によれば、バッテリを含んだモータを小形化しつつ高出力化することが可能となり、システムの消費電力を抑えることができるうえに、ばね下荷重の増加を抑えて乗り心地の悪化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る操舵システムを備えた操舵機能付のハブユニットおよびその周辺の構成を示す縦断面図である。
【
図2】同ハブユニットの水平断面図および制御系のブロック図である。
【
図8】
図2の一部を拡大して示す部分拡大図である。
【
図10】同操舵システムのモータの回転速度と電圧関係を示すグラフである。
【
図11】同操舵システムを備えた車両の一例の模式平面図である。
【
図12】同操舵システムを備えた車両の別の例の模式平面図である。
【
図13】同操舵システムを備えた車両のさらに別の例の模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る操舵システムSYを
図1ないし
図10と共に説明する。操舵システムSYは、操舵機能付のハブユニット1と、このハブユニット1の操舵用アクチュエータ5を制御する制御装置29とを備える。制御装置29の詳細は後述する。本実施形態の操舵システムSYは車両に搭載されている。以下の説明において、ハブユニット1を車両に搭載した状態で、車両の車幅方向外側をアウトボード側といい、車両の車幅方向中央側をインボード側という。
【0020】
<操舵機能付のハブユニットの概略構造>
図1に示すように、本実施形態の操舵機能付ハブユニット1は、ハブユニット本体2と、ユニッ支持部材3と、回転許容支持部品4と、操舵用アクチュエータ5とを備える。ユニット支持部材3は、足回りフレーム部品であるナックル6に一体に設けられている。このユニット支持部材3のインボード側に、操舵用アクチュエータ5が設けられている。また、ユニット支持部材3のアウトボード側に、ハブユニット本体2が設けられている。
【0021】
図2に示すように、ハブユニット本体2と操舵用アクチュエータ5とはジョイント部8により連結されている。通常、このジョイント部8は、防水、防塵のためにブーツ(図示しない)が取り付けられている。
【0022】
図1に示すように、ハブユニット本体2は、上下方向に延びる転舵軸心A回りに回転自在に、上下二箇所で回転許容支持部品4,4を介してユニット支持部材3に支持されている。転舵軸心Aは、車輪9の回転軸心Oとは異なる軸心であり、主な操舵を行うキングピン軸とも異なっている。通常の車両は、車両走行の直進安定性の向上を目的としてキングピン角度が10~20度で設定されているが、本実施形態のハブユニット1は、このキングピン角度とは別の角度(軸)の転舵軸を有する。車輪9は、ホイール9aとタイヤ9bとを備える。
【0023】
<ハブユニット1の設置箇所>
操舵機能付のハブユニット1は、本実施形態では操舵輪、具体的には
図11に示すように、車両10の前輪9Fの懸架装置12のナックル6に一体に設けられている。
図11の例では、ハブユニット1は、前輪9Fのステアリング装置11による操舵に付加して左右輪個別に微小な角度(約±5deg)を操舵させる。ただし、操舵角度の範囲は、これに限定されず、例えば10°~20°等の比較的大きな角度であってもよい。後述する
図13に示すハブユニット1についても同様である。
【0024】
図11に示すように、ステアリング装置11は、車体に取り付けられ、運転者のハンドル11aの操作、または自動運転装置、運転支援装置等(図示せず)の指令によって動作する。ステアリング装置11は、該指令により進退動作するタイロッド14を有し、このタイロッド14が
図2のユニット支持部材3のステアリング結合部6dに連結されている。ステアリング装置11は、例えば、ラック・ピニオン式であるが、これに限定されず、任意のタイプのステアリング装置を用いることができる。
【0025】
図11の懸架装置12は、例えば、ショックアブソーバをナックル6に直接固定するストラット式サスペンション機構を適用している。ただし、懸架装置12は、これに限定されず、ダブルウィッシュボーン式サスペンション機構、マルチリンク式サスペンション機構等のその他のサスペンション機構を適用してもよい。
【0026】
<ハブユニット本体2について>
図1に示すように、ハブユニット本体2は、車輪9の支持用のハブベアリング15と、転舵軸部付き円環部であるアウターリング16と、操舵力受け部であるアーム部17(
図3)とを備えている。
【0027】
図6に示すように、ハブベアリング15は、内輪18と、外輪19と、内外輪18,19間に介在された転動体20とを有し、車体側の部材と車輪9(
図1)とを連結している。本実施形態では、転動体20はボールであるが、これに限定されない。
【0028】
ハブベアリング15は、
図1の例では、外輪19が固定輪、内輪18が回転輪で、転動体20が複列のアンギュラ玉軸受である。内輪18は、アウトボード側の軌道面を構成するハブ輪部18aと、インボード側の軌道面を構成する内輪部18bとを有している。ハブ輪部18aは、ハブフランジ18aaを有している。ハブフランジ18aaに、車輪9のホイール9aがブレーキロータ21aと重なった状態でボルト固定されている。内輪18は、回転軸心O回りに回転する。
【0029】
図6に示すように、アウターリング(転舵軸部付き円環部)16は、外輪19の外周面に嵌合された円環部16aと、この円環部16aの外周から上下に突出して設けられたトラニオン軸状の転舵軸部16b,16bとを有する。上下の取付軸部である各転舵軸部16bは、転舵軸心Aに同軸に設けられている。
【0030】
図2に示すように、ブレーキ21は、ブレーキロータ21aと、ブレーキキャリパ21bとを有する。ブレーキキャリパ21bは、外輪19に一体にアーム状に突出して形成された上下二箇所のブレーキキャリパ取付部22(
図4)に取り付けられている。
【0031】
<回転許容支持部品およびユニット支持部材について>
図6に示すように、各回転許容支持部品4は転がり軸受を有している。本実施形態では、転がり軸受として、円すいころ軸受が用いられている。転がり軸受は、転舵軸部16bの外周に嵌合された内輪4aと、ユニット支持部材3に嵌合された外輪4bと、内外輪4a,4b間に介在された複数の転動体4cとを有する。
【0032】
ユニット支持部材3は、ユニット支持部材本体3Aと、ユニット支持部材結合体3Bとを有する。ユニット支持部材本体3Aのアウトボード側端に、略リング形状のユニット支持部材結合体3Bが着脱自在に固定されている。ユニット支持部材結合体3Bのインボード側側面のうち上下の部分には、部分的な円筒状の嵌合孔形成部3Baが形成されている。
【0033】
図5および
図6に示すように、ユニット支持部材本体3Aのアウトボード側端のうち上下の部分には、部分的な円筒状の嵌合孔形成部3Aaが形成されている。ユニット支持部材本体3Aのアウトボード側端にユニット支持部材結合体3Bが固定され、各上下の部分につき、嵌合孔形成部3Aa,3Baが互いに組み合わされることにより、全周に連なる嵌合孔が形成される。この嵌合孔に外輪4bが嵌合されている。
図3では、ユニット支持部材3が一点鎖線で表されている。
【0034】
図6に示すように、各転舵軸部16bは、中空軸であり、中空孔の内周面に雌ねじ部が形成されている。この雌ねじ部に、ボルト23が螺合する。内輪4aの端面に環状の押圧部材24が介在され、雌ねじ部に螺合するボルト23により、内輪4aの端面に押圧力が付与されている。これにより、各回転許容支持部品4に予圧が与えられている。すなわち、車両の重量などの外力がハブユニット1に作用した場合でも、予圧が抜けないように初期予圧が設定されている。これにより各回転許容支持部品4の剛性を高めることができる。なお、回転許容支持部品4の転がり軸受は、円すいころ軸受に限定されず、例えば、アンギュラ玉軸受、四点接触玉軸受等を用いてもよい。その場合も、上記と同様に予圧を与えることができる。
【0035】
図1に示すように、上下の転舵軸部16b,16bは、回転許容支持部品4,4を介してユニット支持部材3に支持され、各回転許容支持部品4が車輪9のホイール9a内に位置する。本実施形態では、各回転許容支持部品4が、ホイール9a内でこのホイール9aの幅方向中間付近に配置されている。
【0036】
図2に示すように、アーム部17は、ハブベアリング15の外輪19に補助的な操舵力を与える作用点となる部位であり、アウターリング16または外輪19から径方向外側に突出する。本実施形態では、アーム部17は、アウターリング16または外輪19の外周の一部に一体に形成されている。アーム部17は、ジョイント部8を介して、操舵用アクチュエータ5の直動出力部となる出力ロッド25aに回転自在に連結されている。これにより、操舵用アクチュエータ5の出力ロッド25aが進退(直進運動)することで、ハブユニット本体2が転舵軸心A回りに回転、つまり補助操舵させられる。
【0037】
<操舵用アクチュエータ5>
図2に示すように、操舵用アクチュエータ5は、左右輪である各車輪9を独立して操舵するための一対の操舵用アクチュエータを有する。左右一対の操舵用アクチュエータ5は同一構造である。操舵用アクチュエータ5は、ハブユニット本体2を転舵軸心A回りに回転駆動させる回転駆動源としてのモータ26と、このモータ26の回転を減速する減速機27と、この減速機27の正逆の回転出力を出力ロッド25aの往復直線動作(直進運動)に変換する直動機構25とを備える。本実施形態では、モータ26は永久磁石型同期モータであるが、これに限定されず、例えば、直流モータ、誘導モータ等であってもよい。
【0038】
<減速機27>
減速機27は、例えば、ベルト伝達機構等の巻き掛け式伝達機構、ギヤ列等であり、
図2の例ではベルト伝達機構が用いられている。減速機27は、ドライブプーリ27a,ドリブンプーリ27bと、ベルト27cとを有する。モータ26のロータ軸26bにドライブプーリ27aが結合され、直動機構25の回転自在なナット部35に、ドリブンプーリ27bが設けられている。このドリブンプーリ27bは、ロータ軸26bに平行に配置されている。モータ26の駆動力は、ドライブプーリ27aからベルト27cを介してドリブンプーリ27bに伝達される。ドライブプーリ27a,ドリブンプーリ27bおよびベルト27cで、巻き掛け式の減速機27が構成されている。
【0039】
<直動機構25について>
図8に示すように、直動機構25は、台形ねじまたは三角ねじ等の滑りねじ式の送りねじ機構を用いることができ、本実施形態では、台形ねじの滑りねじを用いた送りねじ機構33が用いられている。滑りねじの内部には、グリースが封入されている。この直動機構25は、送りねじ機構33、回転支持軸受28と、回り止め部品43、およびこれらの構成部品を覆うアクチュエータケース34を有する。
【0040】
送りねじ機構33は、ナット部35と、ねじ軸である出力ロッド25aと、すべり軸受37とを有する。出力ロッド25aは、回り止め部品43によってユニット支持部材3に対して回り止めされている。ナット部35は、この外周部の軸方向中間部にドリブンプーリ27bが設けられて軸方向両側の回転支持軸受28,28(
図2)によりユニット支持部材3に回転自在に支持されている。このナット部35の内周に雌ねじ部35aが形成されている。出力ロッド25aの外周に雄ねじ部25aaが設けられており、ナット部35の雌ねじ部35aに噛み合っている。
【0041】
ナット部35の軸方向両端にすべり軸受37,37が設けられており、出力ロッド25aがすべり軸受37,37に摺動可能に挿通されている。すべり軸受37は、出力ロッド25aの軸方向の移動をガイドすると共に、タイヤ側からの外力が出力ロッド25aに入力された場合、出力ロッド25aにラジアル方向の力が負荷されることを防止する。
【0042】
本実施形態では、回転支持軸受28は、2個の円すいころ軸受がドリブンプーリ27bを介して正面合わせで組み合わされている。2つの回転支持軸受28,28(
図2)の配置は、背面合わせ、正面合わせのどちらでもよい。ただし、組付け性やシム等による予圧調整の容易さから、正面合わせの配置が好ましい。なお、回転支持軸受28は、アンギュラ玉軸受であってもよい。この場合にも、回転支持軸受28,28(
図2)の配置は、背面合わせ、正面合わせのどちらでもよい。
【0043】
図7および
図8に示すように、回り止め部品43は、出力ロッド25aの後端部であるインボード側端部に設けられた軸状部材である。回り止め部品43は、出力ロッド25aのインボード側端部において、例えば、上下方向と出力ロッド25aの軸方向の両方に直交する方向に延びるように、出力ロッド25aに貫通状に嵌合固定されている。回り止め部品43の外周における軸方向両端部に、環状のすべり軸受49a,49bが嵌合されている。
【0044】
出力ロッド25aのインボード側端部のうち、一方のすべり軸受49bに対向する部分に、すべり軸受49bの一端面に平行な平坦面(いわゆるDカット面)50が形成されている。この出力ロッド25aの平坦面50にすべり軸受49bの一端面が当接されると共に、すべり軸受49bの他端面を押えるボルト51が回り止め部品43に螺合されている。これにより、アクチュエータケース34に対して、回り止め部品43、ボルト51およびすべり軸受49a,49bの位置(
図2における上下方向の位置)が所望の位置に規制される。
【0045】
アクチュエータケース34内に、略直方体状の案内溝52が形成されている。案内溝52は、各すべり軸受49a,49bの外周面を案内する案内面52a,52bを含む。換言すれば、回り止め部品43は、すべり軸受49a,49bを介して、直動機構25の固定部分であるアクチュエータケース34の案内面52a,52bに摺動自在に接触する。回り止め部品43がすべり軸受49a,49bを介してアクチュエータケース34の案内溝52に沿って摺動することで、出力ロッド25aが軸方向に往復運動できる。
【0046】
図2に示すように、直動機構25は、台形ねじの滑りねじを用いた送りねじ機構を備えるので、タイヤ9bからの逆入力の防止効果を高めることができる。モータ26、減速機27および直動機構25を備えた操舵用アクチュエータ5は、サブアセンブリとして組み立てられてケース6bにボルト等により着脱自在に取り付けられる。本実施形態の操舵用アクチュエータ5は、モータ26、減速機27および直動機構25を備えているが、減速機が省略される場合もある。つまり、モータ26の駆動力が、減速機を介さず直接的に直動機構25へ伝達する機構も可能である。また、直動機構25には、本実施形態に示す台形ねじの他、ボールねじまたはラックアンドピニオン機構等のような回転運動を直動運動に変換可能な機構が使用できる。
【0047】
<その他の機構的構成>
図2に示すように、ケース6bは、ユニット支持部材3の一部として、ユニット支持部材本体3Aに一体に形成されている。ケース6bは、有底筒状に形成され、モータ26を支持するモータ収容部と、直動機構25を支持する直動機構収容部が設けられている。モータ収容部には、モータ26をケース内所定位置に支持する嵌合孔が形成されている。直動機構収容部には、直動機構25をケース内所定位置に支持する嵌合孔、および出力ロッド25aの進退を許す貫通孔等が形成されている。
【0048】
図3に示すように、ユニット支持部材本体3Aは、前記ケース6b、ショックアブソー
バの取り付け部となるショックアブソーバ取り付け部6c、およびステアリング装置11
(
図2)の結合部となるステアリング装置結合部6dを有する。これらショックアブソー
バ取り付け部6cおよびステアリング装置結合部6dも、ユニット支持部材本体3Aに一
体に形成されている。ユニット支持部材本体3Aの外表面部における上部に、ショックア
ブソーバ取り付け部6cが突出するように形成されている。ユニット支持部材本体3Aの
外表面部における側面部には、ステアリング装置結合部6dが突出するように形成されて
いる。
【0049】
<制御系について>
図2に示すように、制御装置29は、操舵制御部30と、電源部31とを有する。これら操舵制御部30と電源部31により、モータ26を制御するモータ制御部34が構成されている。制御装置29は、左右輪を独立に操舵制御する機能を有する。また、本実施形態では、左右輪用の一対のアクチュエータ5、つまり全てのアクチュエータ5を制御可能とする1つの制御装置29が適用されている。但し、制御装置29は、各アクチュエータ5に対応して複数設けられてもよい。
【0050】
操舵制御部30および電源部31は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、および/または、それらの組み合わせを含む回路または処理回路である。プロセッサは、トラジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路とみなされる。つまり、操舵制御部30および電源部31は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアがプロセッサである場合、操舵制御部30および電源部31はハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェアおよび/またはプロセッサの構成に使用される。
【0051】
図9に示す上位制御部32は操舵制御部30の上位の制御手段である。この上位制御部32として、例えば、車両全般を制御する電気制御ユニットが適用される。
【0052】
操舵制御部30は、上位制御部32から与えられた補助操舵角指令信号(指令信号)に応じた電流指令信号を出力する。
【0053】
電源部31は、操舵制御部30から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して操舵用アクチュエータ5を駆動制御する。詳細には、電源部31は、モータ26のコイルに供給する電力を制御する。電源部31は、例えば、スイッチ素子を用いたハーフブリッジ回路を有し、スイッチ素子のON-OFFデューティ比によりモータ印加電圧を決定するPWM制御を行う。これにより、運転者のハンドル操作による操舵に付加して、車輪9を微小に角度変化することができる。直線走行時にも、それぞれの場面に合わせてトー角の量を調整できる。
【0054】
操舵システムSYは、さらに、昇圧装置36を備えている。昇圧装置36は、入力された電圧を昇圧して操舵制御部30および電源部31に出力する。昇圧装置36は、例えば、DC-DCコンバータである。ただし、昇圧装置36は、これに限定されない。本実施形態では、昇圧装置36は制御装置29に設けられている。ただし、昇圧装置36は、制御装置29以外に設けられてもよい。
【0055】
車両に搭載されるバッテリ38から供給される入力電圧V1(例えば12V)が、昇圧装置38により昇圧される。昇圧された電圧V2の値(例えば24V)により操舵制御部30がモータ26の出力を演算し、電流指令信号が決定され、電源部30を介してモータ26に駆動電流Cが供給される。
【0056】
図10は、本実施形態の操舵システムの昇圧条件を示す。通常、モータ26は電圧値V(例えば、12V)で駆動しているが、モータ26の回転速度が足りない(必要なモータ回転数がRよりも速い)と操舵制御部30が判断した場合、必要なモータ回転数となるように、昇圧装置36を制御し、モータ26に供給する電圧を昇圧する。
【0057】
このとき、モータ26の出力が同じである場合、入力電圧V2の値が高いほど、モータ26に流れる駆動電流Cが減少し、消費電力を抑えることができる。
【0058】
また、モータ26に流れる駆動電流Cが少ない場合、小形のモータ26を採用できる。さらに、駆動電流Cを抑えることで、電源部31も小形化できるので、機械体に制御システムを実装する機電一体が可能となる。
【0059】
<作用効果>
上記構成によれば、
図1に示す車輪9を支持するハブベアリング15を含むハブユニット本体2を、操舵用アクチュエータ5の駆動により、転舵軸心A回りに自由に回転させることができる。この回転は、運転者のハンドル操作による操舵に付加して、すなわちステアリング装置11(
図2)によるキングピン軸回りのナックル6の回転に付加して、補助的な操舵として行われ、且つ、1輪の独立操舵が行える。左右の車輪9,9の補助操舵の角度を異ならせることで、車両の走行状況に応じて、左右の車輪9,9間のトー角を任意に変更することができる。
【0060】
そのため、操舵機能付ハブユニット1を操舵輪(例えば、前輪)および非操舵輪(例えば、後輪)のいずれにも用いることができる。操舵輪に用いる場合は、ステアリング装置11により方向が変化させられる部材に設置されることにより、運転者のハンドル操作による操舵に付加して、左右の車輪個別の、または左右輪に連動した車輪9の微小な角度変化を行わせる機構となる。補助操舵の角度については、車両の運動性能の向上、走行の安定性向上を図るにつき、僅かな角度で足り、補助操舵可能角度が±5度以下であっても十分に足りる。補助操舵の角度は操舵用アクチュエータ5の制御により行う。
【0061】
また、旋回走行時に、走行速度に応じて左右輪の舵角差を変えることができる。例えば高速域の旋回走行においてはパラレルジオメトリとし、低速域の旋回走行においてはアッカーマンジオメトリとするなど、走行中にステアリングジオメトリを変化させることができる。このように走行中に車輪角度を任意に変更することができるため、車両の運動性能を向上させ、安定して走行することが可能となる。旋回走行時における左右の操舵輪の操舵角度を適切に変えることで、車両の旋回半径を小さくし、小回り性能を向上させることもできる。
【0062】
さらに直線走行時にも、それぞれの場面に合わせてトー角の量を調整することで、低速時にはタイヤを進行方向に真っ直ぐに向け走行抵抗を下げ燃費を悪化させることなく、高速時にはタイヤ角度をトーインとし走行安定性を確保するなど調整が可能である。
【0063】
操舵機能付ハブユニット1を後輪9R(
図12)である非操舵輪に適用した場合は、旋回走行時に、舵角を前輪9F(
図12)と同じ位相にすると、操舵時に発生するヨーを抑え、車両の安定性を高めることができる。直線走行時にも左右独立でトー角を調整することで、走行安定性を確保することができる。また、この構成を後輪に適用した場合は、ハブユニット全体は転舵しないが、転舵機能により、前輪と同様に僅かな角度の転舵を車輪毎に独立して行える。
【0064】
このように車両の挙動を制御するためには、モータ26を高出力化して応答性を向上させることで、正確に車輪9の舵角を制御する必要がある。上記構成では、バッテリ38から供給される入力電圧V1を昇圧する昇圧装置36が設けられている。これにより、モータ26を小形化かつ高出力化すると共に、消費電力を抑えることが可能となる。その結果、本実施形態の操舵システムSYは、省エネルギー化を実現しつつ、ばね下荷重の増加を抑えて乗り心地の悪化を防ぐことができる。
【0065】
一般に、車両に搭載されるバッテリ38の電圧は12Vであるが、条件によってはモータの回転速度が不足する場合がある。そのため、従来は、車両に搭載されるバッテリ38以外に12Vより電圧の高いバッテリを別途設けたり、モータを大形化したりする必要があった。上記構成では、バッテリ38から供給される入力電圧V1を昇圧する昇圧装置36が設けられているので、別途バッテリを設けたり、モータを大形化したりする必要がない。これにより、モータ26を小形化しつつ高出力化することが可能となり、システムの消費電力を抑えることができるうえに、ばね下荷重の増加を抑えて乗り心地の悪化を防ぐことができる。
【0066】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施形態で先行して説明している事項に対応している部分は同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している実施形態と同様とする。同一の構成は同一の作用効果を奏する。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0067】
<非操舵輪への適用について>
操舵機能付のハブユニット1は、非操舵輪に適用してもよい。例えば、
図12に示すように、前輪操舵の車両において、後輪9Rを支持する懸架装置12Rの車輪用軸受設置部となる足回りフレーム部品6Rに設定し、後輪操舵に用いてもよい。非操舵輪のハブユニット1において、車両制御の要求によっては、前述の微小な操舵角度に限らず例えば10°~20°等の比較的大きな角度を左右輪個別に採ることもある。
【0068】
また、
図13に示すように、操舵機能付のハブユニット1は、操舵輪である左右の前輪9F,9Fおよび非操舵輪である左右の後輪9R,9Rの両方に適用してもよい。
さらに、左右の車輪を上下方向に延びる転舵軸心回りに回転駆動させる一対の操舵用アクチュエータ5,5を設け、各操舵用アクチュエータ5,5を独立に制御する車両に、本実施形態の操舵システムSYの昇圧装置36を適用することも可能である。
【0069】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
1 ハブユニット
2 ハブベアリング本体
5 操舵用アクチュエータ
9 車輪
15 ハブベアリング
26 モータ
30 操舵制御部(制御部)
31 電源部
32 上位制御部
34 モータ制御部
36 昇圧装置(DC-DCコンバータ)
A 転舵軸心
SY 操舵システム