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特開2024-110817マンゴー香を呈するウイスキー風味の飲料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110817
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】マンゴー香を呈するウイスキー風味の飲料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/06 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
C12G3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015645
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】樋浦 竹彦
(72)【発明者】
【氏名】野畑 順子
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115MA03
(57)【要約】
【課題】ウイスキーの風味を損なうことなくマンゴー様の香気が付与されたウイスキー風味の飲料およびその製造方法の提供。
【解決手段】ウイスキー風味の飲料に、ジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される少なくとも1種のエトキシアルカン、ならびに脂肪酸エチルエステルおよび脂肪酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸エステルを組み合わせて配合し、エトキシアルカンの含有量を飲料の総質量に対して30~300ppmに調整し、脂肪酸エステルの含有量を飲料の総質量に対して50~500ppmに調整する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される少なくとも1種のエトキシアルカン、ならびに
脂肪酸エチルエステルおよび脂肪酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸エステル
を含有するウイスキー風味の飲料であって、
前記エトキシアルカンの含有量が、前記飲料の総質量に対して30~300ppmであり、
前記脂肪酸エステルの含有量が、前記飲料の総質量に対して50~500ppmである、前記飲料。
【請求項2】
前記エトキシアルカンが、1,1-ジエトキシエタン、1,1-ジエトキシブタン、1,1-ジエトキシプロパン、1,1-ジエトキシペンタン、1,1-ジエトキシへプタン、1-ジエトキシ-2-メチルプロパン、1,1-ジエトキシ-2-メチルブタン、1,1-ジエトキシ-3-メチルブタン、1-(1-エトキシエトキシ)ペンタン、1-(エトキシエトキシ)ブタン、ジエトキシヘキサン、1,1,3-トリエトキシプロパン、1-(1-エトキシエトキシ)ペンタン、1-(エトキシエトキシ)ブタンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
前記脂肪酸エステルが、ヘキサン酸エチル、へプタン酸エチル、オクタン酸エチル、ノナン酸エチル、デカン酸エチル、ドデカン酸エチル、パルミチン酸エチル、オクタン酸イソアミル、デカン酸イソアミル、ドデカン酸イソアミル、テトラデカン酸イソアミル、パルミチン酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の飲料。
【請求項4】
ケトンを、前記飲料の総質量に対して0.1~5ppmでさらに含有する、請求項1に記載の飲料。
【請求項5】
前記ケトンが、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、2-オクタノン、2-ノナノン、2-デカノン、2-ドデカノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-ヒドロキシ-4-メチルペンタン-2-オンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項4に記載の飲料。
【請求項6】
第2級直鎖状アルコールを、前記飲料の総質量に対して0.01~5ppmでさらに含有する、請求項1に記載の飲料。
【請求項7】
前記第2級直鎖状アルコールが、2-ヘキサノール、2-ヘプタノール、2-オクタノール、2-ノナノール、2-デカノール、2-ドデカノールからなる群から選択される、請求項6に記載の飲料。
【請求項8】
マンゴー香を呈するウイスキー風味の飲料の製造方法であって、
前記飲料におけるジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される少なくとも1種のエトキシアルカンの含有量を、前記飲料の総質量に対して30~300ppmに調整する工程、ならびに
前記飲料における脂肪酸エチルエステルおよび脂肪酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸エステルの含有量を、前記飲料の総質量に対して50~500ppmに調整する工程を含む、前記製造方法。
【請求項9】
前記エトキシアルカンが、1,1-ジエトキシエタン、1,1-ジエトキシブタン、1,1-ジエトキシプロパン、1,1-ジエトキシペンタン、1,1-ジエトキシへプタン、1-ジエトキシ-2-メチルプロパン、1,1-ジエトキシ-2-メチルブタン、1,1-ジエトキシ-3-メチルブタン、1-(1-エトキシエトキシ)ペンタン、1-(エトキシエトキシ)ブタン、ジエトキシヘキサン、1,1,3-トリエトキシプロパン、1-(1-エトキシエトキシ)ペンタン、1-(エトキシエトキシ)ブタンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記脂肪酸エステルが、ヘキサン酸エチル、へプタン酸エチル、オクタン酸エチル、ノナン酸エチル、デカン酸エチル、ドデカン酸エチル、パルミチン酸エチル、オクタン酸イソアミル、デカン酸イソアミル、ドデカン酸イソアミル、テトラデカン酸イソアミル、パルミチン酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
前記飲料におけるケトンの含有量を、前記飲料の総質量に対して0.1~5ppmに調整する工程をさらに含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項12】
前記ケトンが、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、2-オクタノン、2-ノナノン、2-デカノン、2-ドデカノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-ヒドロキシ-4-メチルペンタン-2-オンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記飲料における第2級直鎖状アルコールの含有量を、前記飲料の総質量に対して0.01~5ppmに調整する工程をさらに含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項14】
前記第2級直鎖状アルコールが、2-ヘキサノール、2-ヘプタノール、2-オクタノール、2-ノナノール、2-デカノール、2-ドデカノールからなる群から選択される、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
ウイスキー風味の飲料にマンゴー香を付与する方法であって、
前記飲料におけるジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される少なくとも1種のエトキシアルカンの含有量を、前記飲料の総質量に対して30~300ppmに調整する工程、ならびに
前記飲料における脂肪酸エチルエステルおよび脂肪酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸エステルの含有量を、前記飲料の総質量に対して50~500ppmに調整する工程を含む、前記方法。
【請求項16】
前記エトキシアルカンが、1,1-ジエトキシエタン、1,1-ジエトキシブタン、1,1-ジエトキシプロパン、1,1-ジエトキシペンタン、1,1-ジエトキシへプタン、1-ジエトキシ-2-メチルプロパン、1,1-ジエトキシ-2-メチルブタン、1,1-ジエトキシ-3-メチルブタン、1-(1-エトキシエトキシ)ペンタン、1-(エトキシエトキシ)ブタン、ジエトキシヘキサン、1,1,3-トリエトキシプロパン、1-(1-エトキシエトキシ)ペンタン、1-(エトキシエトキシ)ブタンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記脂肪酸エステルが、ヘキサン酸エチル、へプタン酸エチル、オクタン酸エチル、ノナン酸エチル、デカン酸エチル、ドデカン酸エチル、パルミチン酸エチル、オクタン酸イソアミル、デカン酸イソアミル、ドデカン酸イソアミル、テトラデカン酸イソアミル、パルミチン酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項15に記載の製造方法。
【請求項18】
前記飲料におけるケトンの含有量を、前記飲料の総質量に対して0.1~5ppmに調整する工程をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記ケトンが、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、2-オクタノン、2-ノナノン、2-デカノン、2-ドデカノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-ヒドロキシ-4-メチルペンタン-2-オンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
前記飲料における第2級直鎖状アルコールの含有量を、前記飲料の総質量に対して0.01~5ppmに調整する工程をさらに含む、請求項15に記載の製造方法。
【請求項21】
前記第2級直鎖状アルコールが、2-ヘキサノール、2-ヘプタノール、2-オクタノール、2-ノナノール、2-デカノール、2-ドデカノールからなる群から選択される、請求項20に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンゴー香を呈するウイスキー風味の飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウイスキーには様々な香気成分が含まれることが知られており、その種類は1000種とも2000種とも言われている。そのような香気成分は、大別すると、原料に由来したり、ウイスキーの製造工程に由来したりすることが近年分かってきており、ウイスキー製造者では、それぞれが求める香気や市場の要望に応じてウイスキーに特定の香気を付与して、ウイスキーに付加価値を与える試みが行われている。
【0003】
ウイスキーにおける香気としては、リンゴ、オレンジ、洋ナシ、パイナップル等の果実様の香気が報告されており(例えば、非特許文献1)、例えば、ウイスキー製造の発酵や蒸留の過程において生成するγ-デカラクトンやγ-ドデカラクトンが甘いピーチ様の香気を有することが報告されている(例えば、非特許文献2)。
【0004】
近年、ウイスキーに対する香気の付与が盛んに行われており、ウイスキーとの相性の観点から、南国果実様の強い香気をウイスキーに付与することが特に望まれている。そして、南国果実を想起させる香気成分としては、これまでに短鎖のエステル類や硫黄系成分等が報告されている(例えば、非特許文献3および4)。
【0005】
しかしながら、ウイスキーにおいて短鎖のエステル類や硫黄系成分によってマンゴー等のウルシ科の南国果実様の香気が実現されたとの報告はない。実際、マンゴー様の香気を呈するウイスキーやウイスキー風味の飲料はほとんど存在しておらず、特にウイスキーの風味を損なうことなくウイスキーやウイスキー風味の飲料に意図的にマンゴー様の香気の付与することは実質的に実現していないのが現状と言える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.-Y. Monica Lee et al., Origins of Flavour in Whiskies and a Revised Flavour Wheel: a Review, Journal of The Institute of Brewing, 2001, 107(5), pp. 287-313
【非特許文献2】鰐川彰「ウイスキー醸造における乳酸菌の役割」、生物工学 第90巻、2012年、第6号、第324~328頁
【非特許文献3】Hill E. A. et al., Straying from the Crowd: Novel Yeasts for New Make. In: Worldwide Distilled Spirits Conference, 2017, Chapter 21, pp 103-107
【非特許文献4】Rowe D. et al., More Fizz for Your Buck: High-impact Aroma Chemicals, Perfumer & Flavourist magazine, 2000, 25(5), 1-19
【0007】
このような状況下、ウイスキーをはじめとするウイスキー風味の飲料に、そのウイスキーの風味を損なうことなくマンゴー様の香気を付与することが、技術的な課題として存在する。
【0008】
したがって、本発明の目的は、ウイスキーの風味を損なうことなくマンゴー様の香気が付与されたウイスキー風味の飲料およびその製造方法を提供することである。また、本発明の別の目的は、ウイスキー風味の飲料に、そのウイスキーの風味を損なうことなくマンゴー様の香気を付与する方法を提供することである。
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは、ウイスキー風味の飲料に、ジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される少なくとも1種のエトキシアルカン、ならびに脂肪酸エチルエステルおよび脂肪酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸エステルを組み合わせて配合し、エトキシアルカンおよび脂肪酸エステルの含有量をそれぞれ特定の範囲に調整することにより、ウイスキー風味の飲料に、そのウイスキーの風味を損なうことなくマンゴー様の香気を付与することができるとの知見を得た。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0010】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]ジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される少なくとも1種のエトキシアルカン、ならびに
脂肪酸エチルエステルおよび脂肪酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸エステル
を含有するウイスキー風味の飲料であって、
前記エトキシアルカンの含有量が、前記飲料の総質量に対して30~300ppmであり、
前記脂肪酸エステルの含有量が、前記飲料の総質量に対して50~500ppmである、前記飲料。
[2]前記エトキシアルカンが、1,1-ジエトキシエタン、1,1-ジエトキシブタン、1,1-ジエトキシプロパン、1,1-ジエトキシペンタン、1,1-ジエトキシへプタン、1-ジエトキシ-2-メチルプロパン、1,1-ジエトキシ-2-メチルブタン、1,1-ジエトキシ-3-メチルブタン、ジエトキシヘキサン、1-(1-エトキシエトキシ)ペンタン、1-(エトキシエトキシ)ブタン、1,1,3-トリエトキシプロパンからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]に記載の飲料。
[3]前記脂肪酸エステルが、ヘキサン酸エチル、へプタン酸エチル、オクタン酸エチル、ノナン酸エチル、デカン酸エチル、ドデカン酸エチル、パルミチン酸エチル、オクタン酸イソアミル、デカン酸イソアミル、ドデカン酸イソアミル、テトラデカン酸イソアミル、パルミチン酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]または[2]に記載の飲料。
[4]ケトンを、前記飲料の総質量に対して0.1~5ppmでさらに含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の飲料。
[5]前記ケトンが、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、2-オクタノン、2-ノナノン、2-デカノン、2-ドデカノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-ヒドロキシ-4-メチルペンタン-2-オンからなる群から選択される少なくとも1種である、[4]に記載の飲料。
[6]第2級直鎖状アルコールを、前記飲料の総質量に対して0.01~5ppmでさらに含有する、[1]~[5]のいずれかに記載の飲料。
[7]前記第2級直鎖状アルコールが、2-ヘキサノール、2-ヘプタノール、2-オクタノール、2-ノナノール、2-デカノール、2-ドデカノールからなる群から選択される、[6]に記載の飲料。
[8]マンゴー香を呈するウイスキー風味の飲料の製造方法であって、
前記飲料におけるジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される少なくとも1種のエトキシアルカンの含有量を、前記飲料の総質量に対して30~300ppmに調整する工程、および
前記飲料における脂肪酸エチルエステルおよび脂肪酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸エステルの含有量を、前記飲料の総質量に対して50~500ppmに調整する工程を含む、前記製造方法。
[9]前記エトキシアルカンが、1,1-ジエトキシエタン、1,1-ジエトキシブタン、1,1-ジエトキシプロパン、1,1-ジエトキシペンタン、1,1-ジエトキシへプタン、1-ジエトキシ-2-メチルプロパン、1,1-ジエトキシ-2-メチルブタン、1,1-ジエトキシ-3-メチルブタン、ジエトキシヘキサン、1-(1-エトキシエトキシ)ペンタン、1-(エトキシエトキシ)ブタン、1,1,3-トリエトキシプロパンからなる群から選択される少なくとも1種である、[8]に記載の製造方法。
[10]前記脂肪酸エステルが、ヘキサン酸エチル、へプタン酸エチル、オクタン酸エチル、ノナン酸エチル、デカン酸エチル、ドデカン酸エチル、パルミチン酸エチル、オクタン酸イソアミル、デカン酸イソアミル、ドデカン酸イソアミル、テトラデカン酸イソアミル、パルミチン酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも1種である、[8]または[9]に記載の製造方法。
[11]前記飲料におけるケトンの含有量を、前記飲料の総質量に対して0.1~5ppmに調整する工程をさらに含む、[8]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]前記ケトンが、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、2-オクタノン、2-ノナノン、2-デカノン、2-ドデカノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-ヒドロキシ-4-メチルペンタン-2-オンからなる群から選択される少なくとも1種である、[11]に記載の製造方法。
[13]前記飲料における第2級直鎖状アルコールの含有量を、前記飲料の総質量に対して0.01~5ppmに調整する工程をさらに含む、[8]~[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14]前記第2級直鎖状アルコールが、2-ヘキサノール、2-ヘプタノール、2-オクタノール、2-ノナノール、2-デカノール、2-ドデカノールからなる群から選択される、[13]に記載の製造方法。
[15]ウイスキー風味の飲料にマンゴー香を付与する方法であって、
前記飲料におけるジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される少なくとも1種のエトキシアルカンの含有量を、前記飲料の総質量に対して30~300ppmに調整する工程、および
前記飲料における脂肪酸エチルエステルおよび脂肪酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸エステルの含有量を、前記飲料の総質量に対して50~500ppmに調整する工程を含む、前記方法。
[16]前記エトキシアルカンが、1,1-ジエトキシエタン、1,1-ジエトキシブタン、1,1-ジエトキシプロパン、1,1-ジエトキシペンタン、1,1-ジエトキシへプタン、1-ジエトキシ-2-メチルプロパン、1,1-ジエトキシ-2-メチルブタン、1,1-ジエトキシ-3-メチルブタン、ジエトキシヘキサン、1-(1-エトキシエトキシ)ペンタン、1-(エトキシエトキシ)ブタン、1,1,3-トリエトキシプロパンからなる群から選択される少なくとも1種である、[15]に記載の製造方法。
[17]前記脂肪酸エステルが、ヘキサン酸エチル、へプタン酸エチル、オクタン酸エチル、ノナン酸エチル、デカン酸エチル、ドデカン酸エチル、パルミチン酸エチル、オクタン酸イソアミル、デカン酸イソアミル、ドデカン酸イソアミル、テトラデカン酸イソアミル、パルミチン酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも1種である、[15]または[16]に記載の製造方法。
[18]前記飲料におけるケトンの含有量を、前記飲料の総質量に対して0.1~5ppmに調整する工程をさらに含む、[15]~[17]のいずれかに記載の方法。
[19]前記ケトンが、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、2-オクタノン、2-ノナノン、2-デカノン、2-ドデカノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-ヒドロキシ-4-メチルペンタン-2-オンからなる群から選択される少なくとも1種である、[18]に記載の製造方法。
[20]前記飲料における第2級直鎖状アルコールの含有量を、前記飲料の総質量に対して0.01~5ppmに調整する工程をさらに含む、[15]~[19]のいずれかに記載の製造方法。
[21]前記第2級直鎖状アルコールが、2-ヘキサノール、2-ヘプタノール、2-オクタノール、2-ノナノール、2-デカノール、2-ドデカノールからなる群から選択される、[20]に記載の製造方法。
【0011】
本発明によれば、ウイスキー風味の飲料に、そのウイスキーの風味を損なうことなくマンゴー様の香気を付与することが可能となる。
【発明の具体的説明】
【0012】
本明細書において、「マンゴー様の香気」とは、ウルシ科のマンゴー属のMangifera indicaに分類される果実や果汁を想起させるような香気をいう。
【0013】
本明細書において、ウイスキー風味飲の飲料に含有されるエトキシアルカン、脂肪酸エステル、ケトンおよび第2級直鎖状アルコールの各成分の濃度は、特段の言及がない限り、いずれも当該成分を含有するウイスキー風味の飲料のエタノールの濃度(アルコール度数)を100(v/v%)に換算した場合の濃度を表す。
【0014】
本発明において、「ppm」とは百万分率を表し、「mg/L」と同義である。すなわち、1ppmは1mg/Lに相当する。
【0015】
[マンゴー様の香気を呈するウイスキー風味の飲料]
本発明の一つの態様によれば、ジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される少なくとも1種のエトキシアルカン、ならびに脂肪酸エチルエステルおよび脂肪酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸エステルをそれぞれ特定の含有量で含有するウイスキー風味の飲料であって、ウイスキーの風味が損なわれることなくマンゴー様の香気を呈するウイスキー風味の飲料(以下、単に「ウイスキー風味の飲料」または「本発明の飲料」ともいう。)が提供される。一般に、マンゴーの香気の主体となるのはテルペン類であることが知られているが、本発明によれば、上述したような特定のエトキシアルカンと特定の脂肪酸エステルとを組み合わせることによって、そのようなテルペン類を実質的に含まないにもかかわらずマンゴー様の香気を呈するウイスキー風味の飲料を提供することができる。
【0016】
本明細書において「ウイスキー」とは、日本国の酒税法において定義されるウイスキーをいう。また、本明細書において「ウイスキー風味の飲料」とは、ウイスキーの風味を有する飲料であれば特に限定されず、ウイスキーそのもの、ウイスキーの香味成分が添加されたことによりウイスキーの風味が付与された飲料、製造工程でウイスキーの香味成分が生成したことによりウイスキーの風味を呈する飲料等であってもよく、これらの少なくとも1種を含有することによりウイスキーの風味を呈する飲料等であってもよい。ウイスキー風味を呈する飲料としては、例えば、ハイボール、カクテル(例えば、ウイスキー・コーク等)等が挙げられる。
【0017】
本発明の飲料は、ジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される少なくとも1種のエトキシアルカンを特定の濃度で含有する。具体的には、本発明の飲料におけるエトキシアルカンの濃度は、ウイスキー風味の飲料の総質量に対して30~300ppmであり、好ましくは35~200ppm、より好ましくは40~150ppm、より一層好ましくは50~100ppmである。なお、ウイスキー風味の飲料が2種以上のエトキシアルカンを含有する場合、上述した濃度範囲はそれら2種以上のエトキシアルカンの合計の濃度である。ウイスキー風味の飲料におけるエトキシアルカンの濃度を上述した範囲に調整し、後述する特定の濃度の脂肪酸エステルと組み合わせることにより、ウイスキー風味の飲料に、そのウイスキーの風味を損なうことなくマンゴー様の香気を付与することができる。
【0018】
エトキシアルカンの種類はジエトキシアルカンまたはトリエトキシアルカンである限り特に限定されず、例えば、1,1-ジエトキシエタン、1,1-ジエトキシブタン、1,1-ジエトキシプロパン、1,1-ジエトキシペンタン、1,1-ジエトキシへプタン、1-ジエトキシ-2-メチルプロパン、1,1-ジエトキシ-2-メチルブタン、1,1-ジエトキシ-3-メチルブタン、ジエトキシヘキサン等のジエトキシアルカン、1,1,3-トリエトキシプロパン等のトリエトキシアルカンが挙げられる。本発明の飲料は、1種のエトキシアルカンを単独で含有していてもよく、2種以上のエトキシアルカンを組み合わせて含有していてもよいが、好ましくは2種以上のエトキシアルカンを組み合わせて含有する。
【0019】
エトキシアルカンは、アルコール風味の飲料の原料、例えば穀物に由来するものであってもよく、アルコール風味の飲料の製造過程において生成するものであってもよく、アルコール風味の飲料の製造過程において添加されるものであってもよい。
【0020】
一つの好ましい実施形態において、本発明の飲料は、エトキシアルカンとして1,1-ジエトキシエタン、1-ジエトキシ-2-メチルプロパン、1,1-ジエトキシ-3-メチルブタン、ジエトキシヘキサンおよび1,1,3-トリエトキシプロパンを組み合わせて含有する。
【0021】
本発明の飲料がこれらのエトキシアルカンを組み合わせて含有する場合、本発明の飲料における各エトキシアルカンの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、適宜設定することができる。具体的には、1,1-ジエトキシエタンの濃度は、好ましくは30~150ppm、より好ましくは40~100ppm、より一層好ましくは40~70ppmである。また、1-ジエトキシ-2-メチルプロパンの濃度は、好ましくは1~10ppm、より好ましくは2~8ppm、より一層好ましくは3~6ppmである。また、1,1-ジエトキシ-3-メチルブタンの濃度は、好ましくは0.2~5ppm、より好ましくは0.5~4ppm、より一層好ましくは1~3ppmである。また、ジエトキシヘキサンの濃度は、好ましくは0.2~5ppm、より好ましくは0.5~4ppm、より一層好ましくは1~3ppmである。また、1,1,3-トリエトキシプロパンの濃度は、好ましくは0.2~5ppm、より好ましくは0.5~4ppm、より一層好ましくは1~3ppmである。
【0022】
ウイスキー風味の飲料におけるエトキシアルカンの濃度を測定する方法は、溶液中のエトキシアルカンの濃度を正確に測定することができる方法であればいかなる方法も用いることができるが、例えば、Mateusz Rozanski et al, Influence of Alcohol Content and Storage Conditions on the Physicochemical Stability of Spirit Drinks, Foods, 9, 1264, 2020の“2.4. Chromatographic Analysis”の項に記載の方法により測定することができる。
【0023】
本発明の飲料は、脂肪酸エチルエステルおよび脂肪酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸エステルを特定の濃度で含有する。具体的には、本発明の飲料における脂肪酸エステルの濃度は、ウイスキー風味の飲料の総質量に対して50~500ppmであり、好ましくは60~400ppm、より好ましくは80~300ppm、より一層好ましくは100~200ppmである。なお、ウイスキー風味の飲料が2種以上の脂肪酸エステルを含有する場合、上述した濃度範囲はそれら2種以上の脂肪酸エステルの合計の濃度である。ウイスキー風味の飲料における脂肪酸エステルの濃度を上述した範囲に調整し、上述した特定の濃度のエトキシアルカンと組み合わせることにより、ウイスキー風味の飲料に、そのウイスキーの風味を損なうことなくマンゴー様の香気を付与することができる。
【0024】
脂肪酸エステルの種類は脂肪酸エチルエステルまたは脂肪酸イソアミルである限り特に限定されず、例えば、ヘキサン酸エチル、へプタン酸エチル、オクタン酸エチル、ノナン酸エチル、デカン酸エチル、ドデカン酸エチル、パルミチン酸エチル等の脂肪酸エチルエステル、オクタン酸イソアミル、デカン酸イソアミル、ドデカン酸イソアミル、テトラデカン酸イソアミル、パルミチン酸イソアミル等の脂肪酸イソアミルが挙げられる。本発明の飲料は、1種の脂肪酸エステルを単独で含有していてもよく、2種以上の脂肪酸エステルを組み合わせて含有していてもよいが、好ましくは2種以上の脂肪酸エステルを組み合わせて含有する。
【0025】
脂肪酸エステルは、アルコール風味の飲料の原料、例えば穀物に由来するものであってもよく、アルコール風味の飲料の製造過程において生成するものであってもよく、アルコール風味の飲料の製造過程において添加されるものであってもよい。
【0026】
一つの好ましい実施形態において、本発明の飲料は、脂肪酸エステルとしてデカン酸エチル、ドデカン酸エチル、オクタン酸イソアミルおよびデカン酸イソアミルを組み合わせて含有する。
【0027】
本発明の飲料がこれらの脂肪酸エステルを組み合わせて含有する場合、本発明の飲料における各脂肪酸エステルの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、適宜設定することができる。具体的には、デカン酸エチルの濃度は、好ましくは40~150ppm、より好ましくは50~120ppm、より一層好ましくは60~100ppmである。また、ドデカン酸エチルの濃度は、好ましくは20~100ppm、より好ましくは30~80ppm、より一層好ましくは40~70ppmである。また、オクタン酸イソアミルの濃度は、好ましくは0.1~5ppm、より好ましくは0.2~3ppm、より一層好ましくは0.3~1ppmである。また、デカン酸イソアミルの濃度は、好ましくは0.2~5ppm、より好ましくは0.5~4ppm、より一層好ましくは1~3ppmである。
【0028】
ウイスキー風味の飲料における脂肪酸エステルの濃度を測定する方法は、溶液中の脂肪酸エステルの濃度を正確に測定することができる方法であればいかなる方法も用いることができるが、例えば、Mateusz Rozanski et al, Influence of Alcohol Content and Storage Conditions on the Physicochemical Stability of Spirit Drinks, Foods, 9, 1264, 2020の“2.4. Chromatographic Analysis”の項に記載の方法により測定することができる。
【0029】
一つの好ましい実施形態において、本発明の飲料は、上述したエトキシアルカンおよび脂肪酸エステルに加えて、ケトンおよび第2級直鎖状アルコールの両方またはいずれか一方を含有する。本発明の飲料におけるケトンおよび第2級直鎖状アルコールの濃度をそれぞれ適切に調整することにより、本発明の飲料により強いマンゴー様の香気を付与することができる。
【0030】
本発明の飲料に含有されるケトンの種類としては、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、例えば、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、2-オクタノン、2-ノナノン、2-デカノン、2-ドデカノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-ヒドロキシ-4-メチルペンタン-2-オン等が挙げられる。本発明の飲料は、1種のケトンを単独で含有していてもよく、2種以上のケトンを組み合わせて含有していてもよいが、好ましくは2種以上のケトンを組み合わせて含有する。
【0031】
本発明の飲料におけるケトンの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、好ましくは0.1~5ppm、より好ましくは0.2~3ppm、より一層好ましくは0.3~2ppm、特に好ましくは0.3~1.5ppmである。なお、ウイスキー風味の飲料が2種以上のケトンを含有する場合、上述した濃度範囲はそれら2種以上のケトンの合計の濃度である。エトキシアルカンおよび脂肪酸エステルの濃度がそれぞれ上述した範囲に調整されたウイスキー風味の飲料において、さらにケトンの濃度を上述した範囲に調整することにより、ウイスキー風味の飲料により強いマンゴー様の香気を付与することができる。
【0032】
ケトンは、アルコール風味の飲料の原料、例えば穀物に由来するものであってもよく、アルコール風味の飲料の製造過程において生成するものであってもよく、アルコール風味の飲料の製造過程において添加されるものであってもよい。
【0033】
一つの好ましい実施形態において、本発明の飲料は、ケトンとして2-ヘプタノンおよび4-メチル-3-ペンテン-2-オンを組み合わせて含有する。
【0034】
本発明の飲料がこれらのケトンを組み合わせて含有する場合、本発明の飲料における各ケトンの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、適宜設定することができる。具体的には、2-ヘプタノンの濃度は、好ましくは0.05~2ppm、より好ましくは0.1~1ppm、より一層好ましくは0.2~0.5ppmである。また、4-メチル-3-ペンテン-2-オンの濃度は、好ましくは0.05~2ppm、より好ましくは0.1~1ppm、より一層好ましくは0.2~0.5ppmである。
【0035】
ウイスキー風味の飲料におけるケトンの濃度を測定する方法は、溶液中のケトンの濃度を正確に測定することができる方法であればいかなる方法も用いることができるが、例えば、Vivian A watts and Christian E Butzke, Analysis of microvolatiles in brandy: relationship between methylketone concentration and Cognac age, Journal of the Science of Food and Agriculture, 83, pp. 1143-1149の“MATERIALS AND METHODS”の項に記載の方法により測定することができる。
【0036】
本発明の飲料に含有される第2級直鎖状アルコールの種類としては、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、例えば、2-ヘキサノール、2-ヘプタノール、2-オクタノール、2-ノナノール、2-デカノール、2-ドデカノール等が挙げられる。本発明の飲料は、1種の第2級直鎖状アルコールを単独で含有していてもよく、2種以上の第2級直鎖状アルコールを組み合わせて含有していてもよい。
【0037】
本発明の飲料における第2級直鎖状アルコールの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、好ましくは0.01~5ppm、より好ましくは0.05~3ppm、より一層好ましくは0.07~1ppmである。なお、ウイスキー風味の飲料が2種以上の第2級直鎖状アルコールを含有する場合、上述した濃度範囲はそれら2種以上の第2級直鎖状アルコールの合計の濃度である。エトキシアルカンおよび脂肪酸エステルの濃度がそれぞれ上述した範囲に調整されたウイスキー風味の飲料において、さらに第2級直鎖状アルコールの濃度を上述した範囲に調整することにより、ウイスキー風味の飲料により強いマンゴー様の香気を付与することができる。
【0038】
第2級直鎖状アルコールは、アルコール風味の飲料の原料、例えば穀物に由来するものであってもよく、アルコール風味の飲料の製造過程において生成するものであってもよく、アルコール風味の飲料の製造過程において添加されるものであってもよい。
【0039】
一つの好ましい実施形態において、本発明の飲料は、第2級直鎖状アルコールとして2-ヘプタノールを単独で含有する。この場合の本発明の飲料における2-ヘプタノールの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、好ましくは0.01~5ppm、より好ましくは0.05~3ppm、より一層好ましくは0.07~1ppmである。
【0040】
ウイスキー風味の飲料における第2級直鎖状アルコールの濃度を測定する方法は、溶液中の第2級直鎖状アルコールの濃度を正確に測定することができる方法であればいかなる方法も用いることができるが、例えば、Jiaxin Hong et al., Unraveling variation on the profile aroma compounds of strong aroma type of Baijiu in different regions by molecular matrix analysis and olfactory analysis, RSC Advances, 11, 2021, pp. 33511-33521の“2.3 Identification of aroma compounds”の項に記載の方法により測定することができる。
【0041】
本発明の飲料は、好ましくはアルコール飲料であり、アルコール飲料におけるエタノールの濃度は、例えば、5~95%、5%以上95%未満、10~80%、30~70%等とすることができる。なお、本発明の飲料がアルコール飲料である場合のエタノールの濃度は、いわゆる「アルコール度数」を意味し、アルコール飲料に対するアルコール(エタノール)の体積濃度を百分率(%)で表した割合(v/v%)である。本発明の飲料は、特に好ましくはウイスキーである。
【0042】
[マンゴー様の香気を呈するウイスキー風味の飲料の製造方法]
本発明の別の態様によれば、ジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される少なくとも1種のエトキシアルカン、ならびに脂肪酸エチルエステルおよび脂肪酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸エステルを含有するウイスキー風味の飲料の製造方法であって、ウイスキー風味の飲料がエトキシアルカンおよび脂肪酸エステルをそれぞれ特定の濃度で含有するように調整する工程を含む製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)が提供される。本発明の製造方法によれば、ウイスキーの風味が損なわれることなくマンゴー様の香気を呈するウイスキー風味の飲料を製造することができる。
【0043】
本発明の製造方法においては、ウイスキー風味の飲料におけるエトキシアルカンの濃度が、ウイスキー風味の飲料の総質量に対して30~300ppmに調整され、好ましくは35~200ppm、より好ましくは40~150ppm、より一層好ましくは50~100ppmに調整される。なお、ウイスキー風味の飲料が2種以上のエトキシアルカンを含有する場合、上述した濃度範囲はそれら2種以上のエトキシアルカンの合計の濃度である。ウイスキー風味の飲料におけるエトキシアルカンの濃度を上述した範囲に調整し、さらに脂肪酸エステルの濃度を後述する範囲に調整することにより、ウイスキー風味の飲料に、そのウイスキーの風味を損なうことなくマンゴー様の香気を付与することができる。なお、ウイスキー風味の飲料におけるエトキシアルカンの濃度の測定方法は、上述した本発明の飲料について説明したのと同様の測定方法とすることができる。
【0044】
ウイスキー風味の飲料におけるエトキシアルカンの濃度を調整する方法は特に限定されないが、例えば、ウイスキー風味の飲料の製造過程のいずれかの時点において、エトキシアルカンをウイスキー風味の飲料の原料、中間物に添加する、エトキシアルカンを含む原料の使用量を増減させる、最終産物であるウイスキー風味の飲料中にエトキシアルカンを生成する原料の使用量を増減させること等によって行われる。また、ウイスキー風味の飲料の製造過程に発酵工程、蒸留工程、熟成工程が含まれる場合には、発酵、蒸留、熟成によってエトキシアルカンに変換される物質の濃度を調整することにより、ウイスキー風味の飲料におけるエトキシアルカンの濃度を調整してもよい。これらの方法は1つを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
ウイスキー風味の飲料に含有されるエトキシアルカンの種類は特に限定されないが、例えば、上述した本発明の飲料について説明したのと同様のエトキシアルカンが含有される。
【0046】
一つの好ましい実施形態において、本発明の製造方法により製造されるウイスキー風味の飲料は、エトキシアルカンとして1,1-ジエトキシエタン、1-ジエトキシ-2-メチルプロパン、1,1-ジエトキシ-3-メチルブタン、ジエトキシヘキサンおよび1,1,3-トリエトキシプロパンを組み合わせて含有する。
【0047】
本発明の製造方法により製造されるウイスキー風味の飲料がこれらのエトキシアルカンを組み合わせて含有する場合、ウイスキー風味の飲料における各エトキシアルカンの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、適宜調整することができる。具体的には、1,1-ジエトキシエタンの濃度は、好ましくは30~150ppm、より好ましくは40~100ppm、より一層好ましくは40~70ppmに調整される。また、1-ジエトキシ-2-メチルプロパンの濃度は、好ましくは1~10ppm、より好ましくは2~8ppm、より一層好ましくは3~6ppmに調整される。また、1,1-ジエトキシ-3-メチルブタンの濃度は、好ましくは0.2~5ppm、より好ましくは0.5~4ppm、より一層好ましくは1~3ppmに調整される。また、ジエトキシヘキサンの濃度は、好ましくは0.2~5ppm、より好ましくは0.5~4ppm、より一層好ましくは1~3ppmに調整される。また、1,1,3-トリエトキシプロパンの濃度は、好ましくは0.2~5ppm、より好ましくは0.5~4ppm、より一層好ましくは1~3ppmに調整される。
【0048】
本発明の製造方法においては、ウイスキー風味の飲料における脂肪酸エステルの濃度が、ウイスキー風味の飲料の総質量に対して50~500ppmに調整され、好ましくは60~400ppm、より好ましくは80~300ppm、より一層好ましくは100~200ppmに調整される。なお、ウイスキー風味の飲料が2種以上の脂肪酸エステルを含有する場合、上述した濃度範囲はそれら2種以上の脂肪酸エステルの合計の濃度である。ウイスキー風味の飲料における脂肪酸エステルの濃度を上述した範囲に調整し、さらにエトキシアルカンの濃度を上述した範囲に調整することにより、ウイスキー風味の飲料に、そのウイスキーの風味を損なうことなくマンゴー様の香気を付与することができる。なお、ウイスキー風味の飲料における脂肪酸エステルの濃度の測定方法は、上述した本発明の飲料について説明したのと同様の測定方法とすることができる。
【0049】
ウイスキー風味の飲料における脂肪酸エステルの濃度を調整する方法は特に限定されないが、例えば、ウイスキー風味の飲料の製造過程のいずれかの時点において、脂肪酸エステルをウイスキー風味の飲料の原料、中間物に添加する、脂肪酸エステルを含む原料の使用量を増減させる、最終産物であるウイスキー風味の飲料中に脂肪酸エステルを生成する原料の使用量を増減させること等によって行われる。また、ウイスキー風味の飲料の製造過程に発酵工程、蒸留工程、熟成工程が含まれる場合には、発酵、蒸留、熟成によって脂肪酸エステルに変換される物質の濃度を調整することにより、ウイスキー風味の飲料における脂肪酸エステルの濃度を調整してもよい。これらの方法は1つを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
ウイスキー風味の飲料に含有される脂肪酸エステルの種類は特に限定されないが、例えば、上述した本発明の飲料について説明したのと同様のエトキシアルカンが含有される。
【0051】
一つの好ましい実施形態において、本発明の製造方法により製造されるウイスキー風味の飲料は、脂肪酸エステルとしてデカン酸エチル、ドデカン酸エチル、オクタン酸イソアミルおよびデカン酸イソアミルを組み合わせて含有する。
【0052】
本発明の製造方法により製造されるウイスキー風味の飲料がこれらの脂肪酸エステルを組み合わせて含有する場合、ウイスキー風味の飲料における各脂肪酸エステルの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、適宜調整することができる。具体的には、デカン酸エチルの濃度は、好ましくは40~150ppm、より好ましくは50~120ppm、より一層好ましくは60~100ppmに調整される。また、ドデカン酸エチルの濃度は、好ましくは20~100ppm、より好ましくは30~80ppm、より一層好ましくは40~70ppmに調整される。また、オクタン酸イソアミルの濃度は、好ましくは0.1~5ppm、より好ましくは0.2~3ppm、より一層好ましくは0.3~1ppmに調整される。また、デカン酸イソアミルの濃度は、好ましくは0.2~5ppm、より好ましくは0.5~4ppm、より一層好ましくは1~3ppmに調整される。
【0053】
一つの好ましい実施形態において、本発明の製造方法では、上述したウイスキー風味の飲料におけるエトキシアルカンおよび脂肪酸エステルの濃度に加えて、ケトンおよび第2級直鎖状アルコールの濃度が調整される。ウイスキー風味の飲料におけるケトンおよび第2級直鎖状アルコールの濃度をそれぞれ適切に調整することにより、本発明の製造方法により製造されるウイスキー風味の飲料により強いマンゴー様の香気を付与することができる。
【0054】
本発明の製造方法において、ウイスキー風味の飲料におけるケトンの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、好ましくは0.1~5ppm、より好ましくは0.2~3ppm、より一層好ましくは0.3~1ppmに調整される。なお、ウイスキー風味の飲料が2種以上のケトンを含有する場合、上述した濃度範囲はそれら2種以上のケトンの合計の濃度である。エトキシアルカンおよび脂肪酸エステルの濃度がそれぞれ上述した範囲に調整されたウイスキー風味の飲料において、さらにケトンの濃度を上述した範囲に調整することにより、ウイスキー風味の飲料により強いマンゴー様の香気を付与することができる。なお、ウイスキー風味の飲料におけるケトンの濃度の測定方法は、上述した本発明の飲料について説明したのと同様の測定方法とすることができる。
【0055】
ウイスキー風味の飲料におけるケトンの濃度を調整する方法は特に限定されないが、例えば、ウイスキー風味の飲料の製造過程のいずれかの時点において、ケトンをウイスキー風味の飲料の原料、中間物に添加する、ケトンを含む原料の使用量を増減させる、最終産物であるウイスキー風味の飲料中にケトンを生成する原料の使用量を増減させること等によって行われる。また、ウイスキー風味の飲料の製造過程に発酵工程、蒸留工程、熟成工程が含まれる場合には、発酵、蒸留、熟成によってケトンに変換される物質の濃度を調整することにより、ウイスキー風味の飲料におけるケトンの濃度を調整してもよい。これらの方法は1つを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
ウイスキー風味の飲料に含有されるケトンの種類は特に限定されないが、例えば、上述した本発明の飲料について説明したのと同様のケトンが含有される。
【0057】
一つの好ましい実施形態において、本発明の製造方法により製造されるウイスキー風味の飲料は、ケトンとして2-ヘプタノンおよび4-メチル-3-ペンテン-2-オンを組み合わせて含有する。
【0058】
本発明の製造方法により製造されるウイスキー風味の飲料がこれらのケトンを組み合わせて含有する場合、ウイスキー風味の飲料における各ケトンの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、適宜設定することができる。具体的には、2-ヘプタノンの濃度は、好ましくは0.05~2ppm、より好ましくは0.1~1ppm、より一層好ましくは0.2~0.5ppmに調整される。また、4-メチル-3-ペンテン-2-オンの濃度は、好ましくは0.05~2ppm、より好ましくは0.1~1ppm、より一層好ましくは0.2~0.5ppmに調整される。
【0059】
本発明の製造方法において、ウイスキー風味の飲料における第2級直鎖状アルコールの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、好ましくは0.01~5ppm、より好ましくは0.05~3ppm、より一層好ましくは0.07~1ppmに調整される。なお、ウイスキー風味の飲料が2種以上の第2級直鎖状アルコールを含有する場合、上述した濃度範囲はそれら2種以上の第2級直鎖状アルコールの合計の濃度である。エトキシアルカンおよび脂肪酸エステルの濃度がそれぞれ上述した範囲に調整されたウイスキー風味の飲料において、さらに第2級直鎖状アルコールの濃度を上述した範囲に調整することにより、ウイスキー風味の飲料により強いマンゴー様の香気を付与することができる。
【0060】
ウイスキー風味の飲料における第2級直鎖状アルコールの濃度を調整する方法は特に限定されないが、例えば、ウイスキー風味の飲料の製造過程のいずれかの時点において、第2級直鎖状アルコールをウイスキー風味の飲料の原料、中間物に添加する、第2級直鎖状アルコールを含む原料の使用量を増減させる、最終産物であるウイスキー風味の飲料中に第2級直鎖状アルコールを生成する原料の使用量を増減させること等によって行われる。また、ウイスキー風味の飲料の製造過程に発酵工程、蒸留工程、熟成工程が含まれる場合には、発酵、蒸留、熟成によって第2級直鎖状アルコールに変換される物質の濃度を調整することにより、ウイスキー風味の飲料における第2級直鎖状アルコールの濃度を調整してもよい。これらの方法は1つを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
ウイスキー風味の飲料に含有される第2級直鎖状アルコールの種類は特に限定されないが、例えば、上述した本発明の飲料について説明したのと同様の第2級直鎖状アルコールが含有される。
【0062】
一つの好ましい実施形態において、本発明の製造方法により製造されるウイスキー風味の飲料は、第2級直鎖状アルコールとして2-ヘプタノールを単独で含有する。この場合のウイスキー風味の飲料における2-ヘプタノールの濃度は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、好ましくは0.01~5ppm、より好ましくは0.05~3ppm、より一層好ましくは0.07~1ppmに調整される。
【0063】
本発明の製造方法により製造されるウイスキー風味の飲料はアルコール飲料であってもノンアルコール飲料であってもよく、そのエタノールの濃度は0%超95%未満である。本発明の製造方法により製造されるウイスキー風味の飲料は、好ましくはアルコール飲料であり、アルコール飲料におけるエタノールの濃度は、例えば、5~95%、5%以上95%未満、10~80%、30~70%等とすることができる。なお、ウイスキー風味の飲料がアルコール飲料である場合のエタノールの濃度は、いわゆる「アルコール度数」を意味し、アルコール飲料に対するアルコール(エタノール)の体積濃度を百分率(%)で表した割合(v/v%)である。本発明の製造方法により製造されるウイスキー風味の飲料は、特に好ましくはウイスキーである。
【0064】
[ウイスキー風味の飲料にマンゴー様の香気を付与する方法]
本発明のさらに別の態様によれば、ウイスキー風味の飲料にマンゴー様の香気を付与する方法であって、ウイスキー風味の飲料において、ジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される少なくとも1種のエトキシアルカン、ならびに脂肪酸エチルエステルおよび脂肪酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸エステルをそれぞれ特定の濃度で含有するように調整する工程を含む方法(以下、「本発明の方法」ともいう。)が提供される。本発明の方法によれば、ウイスキー風味の飲料に、そのウイスキーの風味を損なうことなくマンゴー様の香気を付与することができる。
【0065】
本発明の方法において、ウイスキー風味の飲料におけるジエトキシアルカンおよびトリエトキシアルカンからなる群から選択される少なくとも1種のエトキシアルカンの濃度を調整する工程、ならびにウイスキー風味の飲料における脂肪酸エチルエステルおよび脂肪酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸エステルを調整する工程は、いずれも上述した本発明の製造方法と同様にして行うことができる。
【0066】
一つの好ましい実施形態において、本発明の方法では、ウイスキー風味の飲料におけるエトキシアルカンおよび脂肪酸エステルの濃度に加えて、ケトンおよび第2級直鎖状アルコールの濃度が調整される。本発明の方法において、ウイスキー風味の飲料におけるケトンの濃度を調整する工程、およびウイスキー風味の飲料における第2級直鎖状アルコールの濃度を調整する工程は、いずれも上述した本発明の製造方法と同様にして行うことができる。
【0067】
本発明の方法におけるウイスキー風味の飲料は、好ましくはアルコール飲料であり、アルコール飲料におけるエタノールの濃度は、例えば、5~95%、5%以上95%未満、10~80%、30~70%等とすることができる。なお、ウイスキー風味の飲料がアルコール飲料である場合のエタノールの濃度は、いわゆる「アルコール度数」を意味し、アルコール飲料に対するアルコール(エタノール)の体積濃度を百分率(%)で表した割合(v/v%)である。本発明の方法におけるウイスキー風味の飲料は、特に好ましくはウイスキーである。
【実施例0068】
以下の実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、各成分の濃度(ppm)は、当該成分を含有する飲料のエタノールの濃度(アルコール度数)を100(v/v%)に換算した場合の濃度を表す。
【0069】
実施例1:マンゴー香を呈する物質の検討1
一般的にフルーティな香り、甘い香り等と表現される香気を有する各種エトキシアルカンにより、ウイスキー風味の飲料にマンゴー香が付与されるかどうかの検討を、以下の手順に従って行った。
まず、ウイスキー風味の飲料として、特徴的な香気が弱く、ウイスキーとしてプレーンな香気を呈するアルコール度数43度の市販のウイスキーを準備した。次いで、準備したウイスキーをイオン交換水または蒸留水で希釈してアルコール度数20度に調整して、飲料モデルを作製した。飲料モデル中のエトキシアルカンの濃度をMateusz Rozanski et al, Influence of Alcohol Content and Storage Conditions on the Physicochemical Stability of Spirit Drinks, Foods, 9, 1264, 2020の“2.4. Chromatographic Analysis”の項に記載の方法により測定したところ、
1,1,3-トリエトキシプロパン:0ppm
1-ジエトキシ-2-メチルプロパン:0.05ppm
1,1-ジエトキシ-3-メチルブタン:0.55ppm
1,1-ジエトキシエタン:14.93ppm
であった。
【0070】
飲料モデルに、1,1,3-トリエトキシプロパン、1-ジエトキシ-2-メチルプロパン、1,1-ジエトキシ-3-メチルブタンおよび/または1,1-ジエトキシエタンを添加して、各種エトキシアルカンの濃度を下記の表1に示すように調整した試験区1-1~1-9のウイスキー風味の飲料を得た。なお、試験区1-1はいずれのエトキシアルカンも添加されていない上述した飲料モデル(対照)である。
【0071】
【表1】
【0072】
試験区1-1~1-9の各ウイスキー風味の飲料のトロピカル香およびマンゴー香について官能評価試験を行った。官能評価試験では、ウイスキー評価のトレーニングを積んだ専門パネル8名により、各ウイスキー風味の飲料のトロピカル香およびマンゴー香の強さの評価を行った。具体的には、容量120ml程度のチューリップグラスに各試験区のウイスキー風味の飲料を30ml注ぎ、カバーガラスで蓋をすることで香気の散逸を防ぎながら、各試験区のウイスキー風味の飲料を各パネル間で交換して評価を行った。なお、官能評価試験は、それぞれ個別のブースにて行い、ウイスキー風味の飲料の色合いによる評価の先入観を防ぐため、暗室内でウイスキー風味の飲料に赤色ライトを照らし、ウイスキー風味の飲料の色合いが分からない状態で行った。マンゴー香のスタンダードとして、市販のウイスキーに市販のマンゴー香料を特定の量(専門パネルが十分にマンゴー香を感じるレベル)で添加して得られた飲料の香りを「Strong」とし、同じウイスキーに同じマンゴー香料を上記の添加量の半分の量で添加して得られた飲料の香りを「Medium」とし、同じウイスキーそのもの香りを「Weak」として各専門パネルに記憶させた。飲食品分野で一般的に用いられる質的データ分析(QDA:Qualitative Data Analysis)の評価を参考にして、各ウイスキー風味の飲料のトロピカル香およびマンゴー香の強さについて、スコアシートを用いてスコア付けを行った。スコアシートとしては、評価項目ごとに15cmの長さの横線(評価軸)が引かれており、それに直交する1cmの縦線が、横線の左端から1.5cm、7.5cmおよび13.5cmの位置にそれぞれ引かれているスコアシートを用いた。スコアシートは、評価軸の左端を0点、右端を100点とし、1.5cm、7.5cmおよび13.5の縦線をそれぞれ「Weak(10点)」、「Medium(50点)」および「Strong(90点)」とした。上記の手順で記憶したマンゴー香のスタンダードに基づいて、各試験区のウイスキー風味の飲料のトロピカル香およびマンゴー香の強さを、評価軸上に縦線で記入することによりスコア付けを行った。スコア付け完了後、評価軸に記入された縦線の評価軸左端からの長さを測定し、測定値(cm)を全長(15cm)で割り、得られた値に100を乗じた値をウイスキー風味の飲料の各香りの強さのスコアとした。スコア付けは専門パネル1人当たり2回行い、その平均値を該当する専門パネルのスコアとし、8名の専門パネルのスコアの平均値をウイスキー風味の飲料の各香りの強さの最終的なスコアとした。結果を下記の表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
表2に示す結果から、いずれのエトキシアルカンも添加されていない試験区1-1の飲料モデル(対照)と比較して、エトキシアルカンが添加された試験区1-2~1-9の飲料モデルでは、トロピカル香およびマンゴー香のいずれも減弱していることが分かる。この結果は、ウイスキー風味の飲料へのマンゴー香の付与には、エトキシアルカンのみの添加では十分でないこと、および/またはエトキシアルカン濃度を適切に調整することが必要であることを示唆するものであると言える。
【0075】
実施例2:マンゴー香を呈する物質の検討2
一般的にフルーティな香り、甘い香り等と表現される香気を有する各種のエトキシアルカン、脂肪酸エチルエステル、ケトンおよび第2級直鎖状アルコールにより、ウイスキー風味の飲料にマンゴー香が付与されるかどうかの検討を、以下の手順に従って行った。
【0076】
ウイスキー風味の飲料として、特徴的な香気が弱く、ウイスキーとしてプレーンな香気を呈するアルコール度数43度の市販のウイスキー(ただし、実施例1で用いたのとは異なるウイスキー)を用いて、実施例1と同様の方法により飲料モデルを作製し、試験区2-1のウイスキー風味の飲料とした。飲料モデル中のエトキシアルカンおよび脂肪酸エステルの濃度をそれぞれMateusz Rozanski et al, Influence of Alcohol Content and Storage Conditions on the Physicochemical Stability of Spirit Drinks, Foods, 9, 1264, 2020の“2.4. Chromatographic Analysis”の項に記載の方法を参考に測定した。また、飲料モデル中のケトンの濃度をVivian A watts and Christian E Butzke, Analysis of microvolatiles in brandy: relationship between methylketone concentration and Cognac age, Journal of the Science of Food and Agriculture, 83, pp. 1143-1149の“MATERIALS AND METHODS”の項に記載の方法を参考に測定した。また、第2級直鎖状アルコールの濃度をJiaxin Hong et al., Unraveling variation on the profile aroma compounds of strong aroma type of Baijiu in different regions by molecular matrix analysis and olfactory analysis, RSC Advances, 11, 2021, pp. 33511-33521の“2.3 Identification of aroma compounds”の項に記載の方法を参考に測定した。飲料モデルに、各種のエトキシアルカン、脂肪酸エステル、ケトンおよび第2級直鎖状アルコールをそれぞれ添加して、各香気成分の濃度を下記の表3に示すように調整した試験区2-2~2-5のウイスキー風味の飲料を得た。
【0077】
【表3】
【0078】
試験区2-1~2-5の各ウイスキー風味の飲料のアップル香、ピーチ香、オレンジ香およびマンゴー香について官能評価試験を行った。官能評価試験は上述した実施例1の方法と同様の方法により行った。結果を下記の表4に示す。
【0079】
【表4】
【0080】
表4に示す結果から、いずれの香気成分も添加されていない試験区2-1の飲料モデル(対照)と比較して、エトキシアルカン、脂肪酸エチルエステル、ケトンおよび第2級直鎖状アルコールがそれぞれ単独で添加された試験区2-2~2-5の飲料モデルではマンゴー香が同程度であるか、または増大してもわずかな増大にとどまることが分かる。この結果は、ウイスキー風味の飲料へのマンゴー香の付与には、エトキシアルカン、脂肪酸エチルエステル、ケトンおよび第2級直鎖状アルコールのそれぞれ単独の添加では十分でないこと、および/またはエトキシアルカン、脂肪酸エチルエステル、ケトンおよび第2級直鎖状アルコールの濃度をそれぞれ適切に調整することが必要であることを示唆するものであると言える。
【0081】
実施例3:マンゴー香を呈する物質の組み合わせの検討
一般的にフルーティな香り、甘い香り等と表現される香気を有する各種の脂肪酸エチルエステル、ケトンおよび/または第2級直鎖状アルコールと、上述した各種エトキシアルカンとの組み合わせにより、ウイスキー風味の飲料にマンゴー香が付与されるかどうかの検討を、以下の手順に従って行った。
【0082】
実施例2で用いたのと同じ飲料モデルに、各種のエトキシアルカン、脂肪酸エステル、ケトンおよび第2級直鎖状アルコールを組み合わせて添加して、各香気成分の濃度を下記の表5に示すように調整した試験区3-2~3-5のウイスキー風味の飲料を得た。なお、試験区3-1はいずれの香気成分も添加されていない上述した実施例2で用いたのと同じ飲料モデル(対照)である。
【0083】
【表5】
【0084】
試験区3-1~3-5の各ウイスキー風味の飲料のアップル香、ピーチ香、オレンジ香およびマンゴー香について官能評価試験を行った。官能評価試験は上述した実施例1の方法と同様の方法により行った。結果を下記の表6に示す。
【0085】
【表6】
【0086】
表6に示す結果から、いずれの香気成分も添加されていない試験区3-1の飲料モデル(対照)と比較して、エトキシアルカン、脂肪酸エチルエステル、ケトンおよび/または第2級直鎖状アルコールが組み合わせて添加された試験区3-2~3-5の飲料モデルではマンゴー香が増大していることが分かる。より詳細には、エトキシアルカンと脂肪酸エステルとが組み合わせて添加された試験区3-5では顕著にマンゴー香が増大し、エトキシアルカンおよび脂肪酸エステルに加えて、ケトンおよび第2級直鎖状アルコールのいずれか一方を添加した試験区3-3および3-4ではそれぞれ特に顕著にマンゴー香が増大していることが分かる。これらの結果は、エトキシアルカン、脂肪酸エチルエステル、ケトンおよび第2級直鎖状アルコールを組み合わせて添加することにより、ウイスキー風味の飲料に十分なマンゴー香を付与できることを示唆するものであると言える。