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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110819
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】車両の燃料改質システム
(51)【国際特許分類】
   F02M 21/02 20060101AFI20240808BHJP
   F02M 31/16 20060101ALI20240808BHJP
   F02D 19/02 20060101ALI20240808BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20240808BHJP
   F02B 75/02 20060101ALI20240808BHJP
   C01B 3/02 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
F02M21/02 K
F02M21/02 G
F02M21/02 S
F02M31/16 C
F02D19/02 B
F02D19/02 C
F02D41/04
F02B75/02 Z
C01B3/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015647
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 啓嗣
(72)【発明者】
【氏名】原田 雄司
【テーマコード(参考)】
3G092
3G301
4G140
【Fターム(参考)】
3G092AB01
3G092AB09
3G092AB12
3G092DA01
3G092DA02
3G092DA14
3G092DE17
3G092DF02
3G301HA22
4G140BA02
4G140BB03
(57)【要約】
【課題】車両の搭載に適した燃料改質システムを提供する。
【解決手段】レシプロエンジン3は、圧縮行程、膨張行程、ピストン32の上昇により燃焼ガスが圧縮される再圧縮行程、ピストンの下降により、排気ガスが排出されつつ、少なくとも吸気が導入される掃気行程を有する変則4ストロークサイクルを実行し、分解器6は、再圧縮行程における燃焼ガスの熱と圧力とを利用して、炭化水素燃料供給部45から供給された炭化水素燃料をカーボンと水素ガスとに分解し、水素ガス供給部5は、分解器によって生成された水素ガスを燃料として、シリンダ31内へ供給する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されかつ、シリンダ内のピストンが往復動するレシプロエンジンと、
炭化水素燃料をカーボンと水素ガスとに分解しかつ、前記カーボンを貯蔵する分解器と、
前記分解器へ前記炭化水素燃料を供給する炭化水素燃料供給部と、
前記分解器によって生成された前記水素ガスを燃料として、前記シリンダ内へ供給する水素ガス供給部と、を備え、
前記レシプロエンジンは、
前記シリンダ内へ供給された前記水素ガスを含む混合気が、前記ピストンの上昇により圧縮される圧縮行程、
前記混合気の燃焼により前記ピストンが下降する膨張行程、
前記ピストンの上昇により燃焼ガスが圧縮される再圧縮行程、及び、
前記ピストンの下降により、前記シリンダ内の排気ガスが排気ポートを通じて排出されつつ、吸気ポートを通じて前記シリンダ内に、少なくとも吸気が導入される掃気行程を有する変則4ストロークサイクルを実行し、
前記分解器は、前記再圧縮行程における前記燃焼ガスの熱と圧力とを利用して、前記炭化水素燃料供給部から供給された前記炭化水素燃料を前記カーボンと前記水素ガスとに分解する、車両の燃料改質システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の燃料改質システムにおいて、
前記レシプロエンジンは、前記シリンダに連通する第3のポートと、前記第3のポートを開閉する開閉弁と、を有し、
前記分解器は、前記第3のポートに接続され、
前記炭化水素燃料供給部は、前記第3のポート内へ前記炭化水素燃料を噴射する第1インジェクタを有し、
前記開閉弁は、前記再圧縮行程において開弁し、
前記ピストンの上昇により圧縮された前記燃焼ガスと、前記第1インジェクタが噴射した前記炭化水素燃料とが、前記第3のポートを通じて前記分解器へ供給される、車両の燃料改質システム。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の燃料改質システムにおいて、
前記開閉弁は、前記掃気行程において再開弁し、
前記排気ポートの排気弁は、前記掃気行程において前記開閉弁の開弁後に開弁し、
前記吸気ポートの吸気弁は、前記掃気行程において前記排気弁の開弁後に開弁する、車両の燃料改質システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の車両の燃料改質システムにおいて、
前記レシプロエンジンは、前記車両の走行用の駆動力を出力し、
前記レシプロエンジンを制御する制御器をさらに備え、
前記炭化水素燃料供給部は、前記炭化水素燃料を、前記シリンダ内へ供給可能であり、
前記制御器は、前記レシプロエンジンの運転状態が、前記レシプロエンジンの回転数が第1回転数よりも低くかつ、前記レシプロエンジンの要求負荷が第1負荷よりも低い第1領域である場合に、前記レシプロエンジンに前記変則4ストロークサイクルを実行させ、
前記制御器は、前記レシプロエンジンの運転状態が前記第1領域以外である場合に、前記レシプロエンジンに、前記ピストンの下降により、前記吸気ポートを通じて前記シリンダ内に、少なくとも吸気が導入される吸気行程、前記炭化水素燃料供給部によって前記シリンダ内へ供給された前記炭化水素燃料を含む混合気が、前記ピストンの上昇により圧縮される圧縮行程、前記混合気の燃焼により前記ピストンが下降する膨張行程、及び、前記ピストンの上昇により、前記排気ポートを通じて排気ガスが排出される排気行程を有する通常4ストロークサイクルを実行させる、車両の燃料改質システム。
【請求項5】
請求項4に記載の車両の燃料改質システムにおいて、
前記水素ガス供給部は、前記水素ガスを前記シリンダ内へ噴射する第2インジェクタを有し、
前記炭化水素燃料供給部は、前記炭化水素燃料を前記吸気ポート内へ噴射する第3インジェクタを有している、車両の燃料改質システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、車両の燃料改質システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、炭化水素をカーボンと水素とに直接分解する装置が記載されている。この従来の分解装置は、触媒が収容された反応器を備えている。炭化水素を含む原料ガスが反応器に供給されると、触媒の反応により生成されたカーボンが触媒に付着する。水素を含む反応ガスは反応器を通過する。反応器下流の水素精製装置は、反応ガス中の水素を精製し、水素濃度を高める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-104521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両(例えば四輪自動車)の技術分野において、カーボンニュートラルへの取り組みが求められている。炭化水素燃料(ガソリン、及び/又は、軽油を含む)を利用するエンジンを搭載した車両においてカーボンニュートラルを実現するためには、エンジンの熱効率の向上、及び/又は、排気エミッション性能の向上に加えて、炭化水素燃料からカーボン(C)又はCOを回収する新たな技術が必要である。
【0005】
炭化水素燃料を利用するエンジンが搭載された車両において、カーボン又はCOを回収しようとすれば、(1)炭化水素燃料の燃焼後にCOを回収する、又は、(2)炭化水素燃料の燃焼前に炭化水素燃料をカーボンと水素ガスとに分解し、カーボンを回収する、ことが考えられる。回収されたCO又はカーボンが車両に貯蔵されることを考慮すれば、COはカーボンよりも重いため、(2)の方が、車両の燃費性能の点で有利である。また、(2)であれば、水素ガスをエンジンの燃料として利用することも可能である。水素ガスを燃焼させれば、燃焼に起因する炭素酸化物が発生しないという利点もある。
【0006】
そこで、前述した従来の分解装置を車両に搭載することが考えられる。従来の分解装置は、触媒を昇温するための加熱装置を備えている。従来の分解装置が車両に搭載された場合、エンジンの熱を触媒の昇温に利用することが可能である。
【0007】
ところが、水素ガスをエンジンの燃料に使用しようとすれば高濃度の水素ガスが必要である。従来の分解装置は、高濃度の水素ガスを得るために、水素を含む反応ガスから水素を精製するためのPSA(Pressure Swing Adsorption)法による水素精製装置を必要としている。車両に、水素精製装置を搭載することは、車両重量を増大させるという不都合がある。従来の分解装置は、車両の搭載には不向きである。
【0008】
ここに開示する技術は、車両の搭載に適した燃料改質システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
炭化水素燃料の分解と、水素ガスの分離とを同時に行う膜反応器(Membrane Reactor)を、車両の燃料改質システムに利用することが考えられる。膜反応器は、触媒を利用して炭化水素燃料をカーボンと水素ガスとに分解しながら、分離膜が水素ガスのみを透過させることにより、小型でありながら、高濃度の水素ガスを生成できる。ところが、膜反応器において高濃度の水素ガスを効率的に生成しようとすれば、膜反応器に供給する、炭化水素燃料を含む原料ガスの圧力を高めなければならない。
【0010】
本願発明者らは、レシプロエンジンにおいて、ピストンの上昇によりシリンダ内のガスが圧縮されることに着目して、ここに開示する技術を完成させるに至った。
【0011】
具体的に、ここに開示する技術は、車両の燃料改質システムに係る。この車両の燃料改質システムは、
車両に搭載されかつ、シリンダ内のピストンが往復動するレシプロエンジンと、
炭化水素燃料をカーボンと水素ガスとに分解しかつ、前記カーボンを貯蔵する分解器と、
前記分解器へ前記炭化水素燃料を供給する炭化水素燃料供給部と、
前記分解器によって生成された前記水素ガスを燃料として、前記シリンダ内へ供給する水素ガス供給部と、を備え、
前記レシプロエンジンは、
前記シリンダ内へ供給された前記水素ガスを含む混合気が、前記ピストンの上昇により圧縮される圧縮行程、
前記混合気の燃焼により前記ピストンが下降する膨張行程、
前記ピストンの上昇により燃焼ガスが圧縮される再圧縮行程、及び、
前記ピストンの下降により、前記シリンダ内の排気ガスが排気ポートを通じて排出されつつ、吸気ポートを通じて前記シリンダ内に、少なくとも吸気が導入される掃気行程を有する変則4ストロークサイクルを実行し、
前記分解器は、前記再圧縮行程における前記燃焼ガスの熱と圧力とを利用して、前記炭化水素燃料供給部から供給された前記炭化水素燃料を前記カーボンと前記水素ガスとに分解する。
【0012】
レシプロエンジンは、変則4ストロークサイクルを実行する。変則4ストロークサイクルでは、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程を有する通常の4ストロークサイクルの排気行程と吸気行程とに代わり、膨張行程の後に、ピストンの上昇により燃焼ガスが圧縮される再圧縮行程が行われ、再圧縮行程の後のピストン下降時に、排気と吸気とを同時に行う掃気行程が行われる。燃料改質システムは、再圧縮行程における燃焼ガスの熱と圧力とを利用して、炭化水素燃料を分解する。
【0013】
具体的に、燃料改質システムは、分解器と、炭化水素燃料供給部と、水素ガス供給部と、を備えている。
【0014】
炭化水素燃料供給部は、分解器へ炭化水素燃料を供給する。車両に搭載される燃料タンクには、炭化水素燃料が貯留されればよい。炭化水素燃料供給部は、燃料タンクの炭化水素燃料を、分解器へ供給する。
【0015】
分解器は、再圧縮行程における燃焼ガスの熱と圧力とを利用して、炭化水素燃料を、カーボンと水素ガスとに分解する。分解器は、炭化水素燃料を効率的に分解できる。カーボンは、分解器に貯蔵される。
【0016】
水素ガス供給部は、分解器において生成された水素ガスを、燃料として、レシプロエンジンのシリンダ内へ供給する。レシプロエンジンは、水素ガスを燃焼させることによって運転する。燃焼に起因する炭素酸化物は発生しない。車両は、レシプロエンジンの動力を直接的又は間接的に利用して、走行する。変則4ストロークサイクルを実行するレシプロエンジンは、動力を出力しながら、炭化水素燃料の分解のために、分解器へ熱と圧力とを供給できる。
【0017】
この燃料改質システムは、カーボンニュートラルを実現できる。また、この燃料改質システムは、レシプロエンジンに起因する熱と圧力とを利用するため、炭化水素燃料の分解に必要な熱及び/又は圧力を発生させるための、別途の専用デバイスが不要である。燃料改質システムは、車載のシステムとして有用である。
【0018】
前記レシプロエンジンは、前記シリンダに連通する第3のポートと、前記第3のポートを開閉する開閉弁と、を有し、
前記分解器は、前記第3のポートに接続され、
前記炭化水素燃料供給部は、前記第3のポート内へ前記炭化水素燃料を噴射する第1インジェクタを有し、
前記開閉弁は、前記再圧縮行程において開弁し、
前記ピストンの上昇により圧縮された前記燃焼ガスと、前記第1インジェクタが噴射した前記炭化水素燃料とが、前記第3のポートを通じて前記分解器へ供給される、としてもよい。
【0019】
この燃料改質システムでは、分解器が第3のポートに接続されると共に、第1インジェクタが第3のポート内へ炭化水素燃料を噴射する。再圧縮行程において開閉弁が開弁すると、ピストンの上昇によって圧縮された燃焼ガスと、第1インジェクタが噴射した炭化水素燃料とが、第3のポートを通じて分解器へ供給される。分解器は、燃焼ガスの熱と圧力とを利用して、炭化水素燃料を効率的にカーボンと水素ガスとに分解できる。
【0020】
一般的なレシプロエンジンは、複数の吸気ポートと複数の排気ポートとを有している。燃料改質システムのレシプロエンジンにおいては、複数の吸気ポート及び複数の排気ポートのうちの少なくとも一つのポートが、第3のポートに転用されればよい。一般的なレシプロエンジンを、燃料改質システムに流用することができる。
【0021】
前記開閉弁は、前記掃気行程において再開弁し、
前記排気ポートの排気弁は、前記掃気行程において前記開閉弁の開弁後に開弁し、
前記吸気ポートの吸気弁は、前記掃気行程において前記排気弁の開弁後に開弁する、としてもよい。
【0022】
掃気行程においては、第3のポートの開閉弁が最初に開弁する。カーボン及び水素ガスが除去された燃焼ガスが、分解器からシリンダ内へ流入する。
【0023】
開閉弁の開弁に続いて排気弁が開弁する。シリンダ内の高い圧力によって、前記の燃焼ガスが排気ガスとして、シリンダから排気ポートへ排出される。排気弁の開弁タイミングは、掃気行程を前期、中期及び後期に三等分した場合の前期としてもよい。シリンダ内から排気ガスが効率的に排出される。
【0024】
排気弁の開弁後に、吸気弁が開弁する。ピストンの下降によって、吸気ポートを通じて吸気がシリンダ内へ導入される。掃気行程において、排気と吸気とが効率的に行われる。
【0025】
前記レシプロエンジンは、前記車両の走行用の駆動力を出力し、
前記レシプロエンジンを制御する制御器をさらに備え、
前記炭化水素燃料供給部は、前記炭化水素燃料を、前記シリンダ内へ供給可能であり、
前記制御器は、前記レシプロエンジンの運転状態が、前記レシプロエンジンの回転数が第1回転数よりも低くかつ、前記レシプロエンジンの要求負荷が第1負荷よりも低い第1領域である場合に、前記レシプロエンジンに前記変則4ストロークサイクルを実行させ、
前記制御器は、前記レシプロエンジンの運転状態が前記第1領域以外である場合に、前記レシプロエンジンに、前記ピストンの下降により、前記吸気ポートを通じて前記シリンダ内に、少なくとも吸気が導入される吸気行程、前記炭化水素燃料供給部によって前記シリンダ内へ供給された前記炭化水素燃料を含む混合気が、前記ピストンの上昇により圧縮される圧縮行程、前記混合気の燃焼により前記ピストンが下降する膨張行程、及び、前記ピストンの上昇により、前記排気ポートを通じて排気ガスが排出される排気行程を有する通常4ストロークサイクルを実行させる、としてもよい。
【0026】
車両に搭載されたレシプロエンジンが、車両の走行用の駆動力を出力するエンジンである場合、その運転状態は、低負荷から高負荷まで、及び、低回転から高回転まで大きく変化する。レシプロエンジンの回転数が低回転でかつ、要求負荷が低負荷であれば、掃気行程において、要求出力を満たすために必要な新気がシリンダ内に導入される。しかし、レシプロエンジンの回転数が高くなる、及び/又は、要求負荷が高くなって、新気の必要量が増えると、掃気行程において必要量の新気をシリンダ内へ導入することが難しくなる。
【0027】
そこで、制御器は、レシプロエンジンの運転状態に応じて、炭化水素燃料の分解を行う変則4ストロークサイクルと、炭化水素燃料の分解を行わない通常4ストロークサイクルとを切り替える。具体的に、制御器は、レシプロエンジンの運転状態が、レシプロエンジンの回転数が第1回転数よりも低くかつ、要求負荷が第1負荷よりも低い第1領域にある場合に、レシプロエンジンに変則4ストロークサイクルを実行させる。炭化水素燃料がカーボンと水素ガスとに効率的に分解される。
【0028】
制御器は、レシプロエンジンの運転状態が第1領域以外にある場合に、レシプロエンジンに通常4ストロークサイクルを実行させる。炭化水素燃焼供給部は、レシプロエンジンに、炭化水素燃料を供給する。レシプロエンジンは、炭化水素燃料を燃焼させて運転する。通常4ストロークサイクルの実行中は、炭化水素燃料の分解は行われないものの、排気行程及び吸気行程がそれぞれ行われるため、レシプロエンジンは要求出力を達成できる。
【0029】
前記水素ガス供給部は、前記水素ガスを前記シリンダ内へ噴射する第2インジェクタを有し、
前記炭化水素燃料供給部は、前記炭化水素燃料を前記吸気ポート内へ噴射する第3インジェクタを有している、としてもよい。
【0030】
第2インジェクタが水素ガスをシリンダ内へ噴射することにより、レシプロエンジンは、水素ガスを燃料として運転できる。
【0031】
第3インジェクタが炭化水素燃料を吸気ポート内へ噴射することにより、レシプロエンジンは、水素ガスのみならず、炭化水素燃料を使って運転できる。
【発明の効果】
【0032】
前記の車両の燃料改質システムは、車両の搭載に適している。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、車両に搭載される燃料改質システムを示している。
図2図2は、炭化水素燃料を分解する分解器を示している。
図3図3は、水素ガスをシリンダ内へ供給する水素ガス供給部を示している。
図4図4は、車両の制御システムを示している。
図5図5は、変則4ストロークサイクルの各行程を示している。
図6図6は、水素ガス供給部のモードを示している。
図7図7は、水素ガス供給部のモードの切替制御のフローチャートである。
図8図8は、水素ガス供給部の変形例を示している。
図9図9は、変形例に係る水素ガス供給部の、モードの切替制御のフローチャートである。
図10図10は、レシプロエンジンの制御用マップを示している。
図11図11は、吸気弁、排気弁、及び、開閉弁のリフトカーブを示している。
図12図12は、変則4ストロークサイクルと通常4ストロークサイクルとの切替制御のフローチャートである。
図13図13は、噴射する燃料の切替制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、車両の燃料改質システム、及び、車両の制御システムの実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明するシステムは例示である。
【0035】
(燃料改質システムの構成)
図1は、車両に搭載される燃料改質システム1を示している。車両に搭載された燃料タンクには、炭化水素燃料が貯留されている。炭化水素燃料は、例えばガソリンである。炭化水素燃料は、ガソリンに限らない。燃料改質システム1は、炭化水素燃料を、カーボンと水素ガスとに分解する。カーボンは、後述する分解器6に貯蔵される。水素ガスは、レシプロエンジン3の燃料として用いられる。燃料改質システム1は、炭化水素燃料が搭載される車両の、カーボンニュートラルを実現する。
【0036】
燃料改質システム1は、レシプロエンジン3を備えている。レシプロエンジン3は、シリンダ31と、シリンダ31内を往復動するピストン32と、を有している。レシプロエンジン3は、複数のシリンダ31を有している。複数のシリンダ31は、例えばレシプロエンジン3のクランクシャフトが伸びる方向に並んでいる。各シリンダ31のピストン32は、コネクティングロッドを介してクランクシャフトに接続されている。コネクティングロッドは、ピストン32の往復動をクランクシャフトの回転に変換する。クランクシャフトは、変速機を介して駆動輪に接続されている。レシプロエンジン3は、車両の走行用の駆動力を出力する。尚、レシプロエンジン3は、発電機を駆動する駆動源として用いられてもよい。
【0037】
レシプロエンジン3は、吸気ポート33を有している。吸気ポート33は、シリンダ31に連通している。各シリンダ31は、一つ又は複数の吸気ポート33を有している。各シリンダ31は、例えば二つの吸気ポート33を有していてもよい。吸気ポート33は、吸気管に接続されている。後述するように、吸気ポート33を通じて、シリンダ31内へ吸気が導入される。吸気は、少なくとも新気を含む。吸気に、EGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスが含まれていてもよい。
【0038】
レシプロエンジン3は、吸気弁34を有している。吸気弁34は、吸気ポート33を開閉するポペット弁である。吸気弁34が開弁すると、吸気がシリンダ31内へ導入される。図4に示す吸気動弁装置41が、吸気弁34を開閉する。吸気動弁装置41は、例えば吸気弁34に機械的に接続された吸気カムシャフトを有している。吸気動弁装置41は、吸気弁34のバルブタイミングを、連続的に変更できる(いわゆる、S-VT(Sequential-Valve Timing))。吸気動弁装置41はまた、吸気弁34のバルブリフトを、連続的に変更できる(いわゆる、CVVL(Continuously Variable Valve Lift))。吸気動弁装置41は、公知の油圧式又は電動式の機構を採用できる。吸気動弁装置41は、レシプロエンジン3の運転状態に応じて、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを変更する。
【0039】
レシプロエンジン3は、排気ポート35を有している。排気ポート35は、シリンダ31に連通している。各シリンダ31は、一つ又は複数の排気ポート35を有している。各シリンダ31は、例えば一つの排気ポート35を有していてもよい。排気ポート35は、排気管に接続されている。後述するように、排気ポート35を通じて、シリンダ31内から排気ガスが排出される。
【0040】
レシプロエンジン3は、排気弁36を有している。排気弁36は、排気ポート35を開閉するポペット弁である。排気弁36が開弁すると、排気ガスがシリンダ31の外へ排出される。図4に示す排気動弁装置42が、排気弁36を開閉する。排気動弁装置42は、例えば排気弁36に機械的に接続された排気カムシャフトを有している。排気動弁装置42は、排気弁36のバルブタイミングを、連続的に変更できる(いわゆる、S-VT、図11参照)。排気動弁装置42はまた、排気弁36のバルブリフトを、連続的に変更できる(いわゆる、CVVL)。排気動弁装置42は、公知の油圧式又は電動式の機構を採用できる。排気動弁装置42は、レシプロエンジン3の運転状態に応じて、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを変更する。
【0041】
レシプロエンジン3は、第3のポート37を有している。第3のポート37は、シリンダ31に連通している。各シリンダ31は、少なくとも一つの第3のポート37を有している。各シリンダ31は、例えば一つの第3のポート37を有していてもよい。
【0042】
一般的なレシプロエンジンは、一つのシリンダにつき、二つの吸気ポートと二つの排気ポートを有している。二つの排気ポートのうちの一つが、第3のポート37に転用されてもよい。図1のレシプロエンジン3は、一つのシリンダ31につき、二つの吸気ポート33と、一つの排気ポート35と、一つの第3のポート37とを有する。尚、図1は、理解を容易にするために、排気ポート35と、第3のポート37とを、位置をずらして描いている。
【0043】
尚、二つの吸気ポートのうちの一つが、第3のポート37に転用されてもよい。但し、二つの吸気ポート33は、シリンダ31内へ多くの新気を導入できるという利点がある。排気ポート又は吸気ポートが第3のポート37に転用される場合、一般的なレシプロエンジンを燃料改質システム1のレシプロエンジン3に流用できる。尚、レシプロエンジン3は、一つのシリンダ31につき、二つの吸気ポート33と、二つの排気ポート35と、一つの第3のポート37とを有してもよい。
【0044】
レシプロエンジン3は、開閉弁38を有している。開閉弁38は、第3のポート37を開閉するポペット弁である。図4に示す第3の動弁装置43が、開閉弁38を開閉する。第3の動弁装置43は、例えば開閉弁38に機械的に接続された第3のカムシャフトを有している。第3の動弁装置43は、開閉弁38を、1サイクル中に2回開弁する(図11参照)。第3の動弁装置43はまた、開閉弁38の開閉を停止できる。開閉弁38の開閉を停止させる弁停止機構には、公知の油圧式又は電動式の機構を採用できる。弁停止機構は、例えば第3のカムシャフトと開閉弁38との間に介装されたロッカアームに組み込んでもよい。弁停止機構はまた、ロッカアームを支持するラッシュアジャスタに組み込んでもよい。尚、開閉弁38は、吸気カムシャフト又は排気カムシャフトに機械的に接続されてもよい。
【0045】
吸気ポートインジェクタ44が、レシプロエンジン3に取り付けられている。吸気ポートインジェクタ44の噴射孔は、吸気ポート33内に臨んでいる。吸気ポートインジェクタ44は、炭化水素燃料を吸気ポート33内へ噴射する。吸気ポートインジェクタ44は、第3インジェクタの一例である。炭化水素燃料供給部45が、吸気ポートインジェクタ44に接続されている。炭化水素燃料供給部45は、炭化水素燃料を貯留する燃料タンクと、炭化水素燃料を圧送する燃料ポンプとを有している。炭化水素燃料供給部45は、吸気ポートインジェクタ44へ炭化水素燃料を供給する。
【0046】
第3ポートインジェクタ46が、レシプロエンジン3に取り付けられている。第3ポートインジェクタ46の噴射孔は、第3のポート37内に臨んでいる。第3ポートインジェクタ46は、炭化水素燃料を第3のポート37内へ噴射する。第3ポートインジェクタ46は、第1インジェクタの一例である。炭化水素燃料供給部45は、第3ポートインジェクタ46にも接続されている。炭化水素燃料供給部45は、吸気ポートインジェクタ44及び第3ポートインジェクタ46へ、炭化水素燃料を、選択的に供給する。
【0047】
水素インジェクタ47が、レシプロエンジン3に取り付けられている。水素インジェクタ47の噴射孔は、シリンダ31内に臨んでいる。水素インジェクタ47は、水素ガスをシリンダ31内へ噴射する。水素インジェクタ47は、第2インジェクタの一例である。
【0048】
尚、炭化水素燃料を噴射するインジェクタを、シリンダ31内に臨んで、レシプロエンジン3に取り付け、水素ガスを噴射する水素インジェクタを、吸気ポート33内に臨んで、レシプロエンジン3に取り付けることもできる。
【0049】
水素ガス供給部5が、水素インジェクタ47に接続されている。水素ガス供給部5は、水素インジェクタ47へ水素ガスを供給する。水素ガスは、前述したように、炭化水素燃料から分解された水素ガスである。水素ガス供給部5の構成は、後述する。
【0050】
分解器6が、第3のポート37に接続されている。分解器6は、炭化水素燃料をカーボンと水素ガスとに分解する。分解器6は、シリンダ31毎に取り付けられている。分解器6は、複数のシリンダ31に共通であってもよい。
【0051】
図2は、分解器6の構造を示している。分解器6は、触媒を使って炭化水素燃料をカーボンと水素ガスとに分解すると共に、分離膜63を使って水素ガスを分離する。分解器6は、いわゆる膜反応器である。炭化水素燃料、例えばイソオクタンの分解は、以下の化学反応式により表される。
【0052】
iC8H18(g) = 8C(s) + 9H2
固体であるカーボンの回収は、車両の重量の増大を抑制する。燃料改質システム1は、車載のシステムとして適している。
【0053】
分解器6は、反応容器61を有している。反応容器61は、例えば筒状体である。反応容器61は、例えば多孔質セラミック製である。多孔質セラミックは、例えばジルコニアである。反応容器61は、後述する触媒の担持体62を収容する機能と、生成された水素ガスを透過させる機能とを有している。反応容器61は、前述した二つの機能を有するのであれば、様々な構造を採用することができる。
【0054】
分解器6は、触媒の担持体62を有している。炭化水素燃料の分解に使用できる触媒は、例えばNi-Al-Fe合金である。触媒は、炭化水素燃料の分解に利用できるものであれば、様々な触媒を利用できる。
【0055】
担持体62は、例えば酸化アルミニウムのボールを使用することができる。触媒は、ボールの表面に塗布される。多数の担持体62が、反応容器61の内部に充填されている。担持体62としてのボールの使用は、触媒の表面積を増大させて分解器6の分解効率を高める。尚、担持体62の形状は、特定の形状に制限されない。
【0056】
炭化水素燃料の分解により生成されたカーボンは、担持体62の表面に付着する。分解器6は、カーボンの貯蔵も行う。ボールの使用により、分解器6におけるカーボンの貯蔵量が増えると共に、カーボンの貯蔵量が増えても、分解器6の分解能力を維持できる。また、ボールの使用は、炭化水素燃料から分解された水素ガスの分離を容易にする。後述するように、水素ガスの効率的な分離も、分解器6の分解能力の低下を抑制する。
【0057】
分解器6は、分離膜63を有している。分離膜63は、反応容器61の内面に取り付けられている。反応容器61は、分離膜63を保持するホルダである。分離膜63は、水素ガスのみを透過する機能を有している。分離膜63は、例えばPd合金の膜である。尚、分離膜63は、Pd合金の膜に限定されない。分離膜63を透過した水素ガスは、反応容器61を通って反応容器61の外側へ至る(図2の白抜きの矢印参照)。
【0058】
分解器6は、ケース64を有している。反応容器61は、ケース64の中に収容されている。反応容器61の外周面と、ケース64の内周面との間には、空間が形成されている。ケース64は、水素ガスを集合させて、後述する水素ガス通路50へ導く機能を有している。
【0059】
ケース64の端部には、第3のポート37が接続されている。より詳細に、第3のポート37は、筒状の反応容器61の内側に接続されている。燃焼ガスと炭化水素燃料とは、第3のポート37を通じて、反応容器61の内側に導入される。反応容器61の内側において、炭化水素燃料は、カーボンと水素ガスとに分解される。
【0060】
ケース64の側部には、水素ガス通路50が接続されている。反応容器61の内側において生成された水素ガスは、分離膜63及び反応容器61を通って反応容器61の外側へ至る。水素ガスは、水素ガス通路50を通って、水素ガス供給部5へ送られる。水素ガス通路50は、図3に示すように、水素ガス供給部5を介して、水素インジェクタ47に接続されている。
【0061】
図3は、水素ガス供給部5の構造を示している。水素ガス供給部5は、前述したように、水素ガスを水素インジェクタ47へ供給する。水素ガス供給部5は、複数のシリンダ31に共通とすればよい。水素ガス供給部5は、シリンダ31毎に設けられてもよい。
【0062】
水素ガス供給部5は、第1タンク51を有している。第1タンク51は、水素ガス通路50に接続されている。第1タンク51は、分解器6からの水素ガスを貯留する。
【0063】
水素ガス供給部5は、バイパス通路53を有している。バイパス通路53は、第1タンク51をバイパスする。第1タンク51の上流側には第1切替弁54が設けられ、第1タンク51の下流側には第2切替弁55が設けられている。第1切替弁54及び第2切替弁55は、後述する制御器21からの制御信号を受けて、水素ガスの流通経路を、第1タンク51の側と、バイパス通路53の側とに切り替える。第1切替弁54及び第2切替弁55の切り替えについては、後述する。
【0064】
水素ガス供給部5は、ポンプ56を有している。ポンプ56は、第2切替弁55の下流において、水素ガス通路50に接続されている。ポンプ56は、水素ガスの圧力を高める。
【0065】
水素ガス供給部5は、第2タンク52を有している。第2タンク52は、ポンプ56の下流において、水素ガス通路50に接続されている。第2タンク52は、水素ガス通路50において、ポンプ56と水素インジェクタ47との間に位置している。第2タンク52は、高圧の水素ガスを貯留する。
【0066】
第1タンク51の圧力は、第2タンク52の圧力よりも低い。低圧の第1タンク51は、分離膜63の二次側の圧力(つまり、反応容器61の外側の圧力)を、一次側の圧力(つまり、反応容器61の内側の圧力)よりも下げる。低圧の第1タンク51は、分離膜63の一次側と二次側との圧力差を大きくする。大きい圧力差は、分離膜63における水素ガスの透過を促進する。反応容器61の内部で生成された水素ガスが、反応容器61の外へ速やかに透過するから、反応容器61の内部における炭化水素燃料の分解反応が促進される。第1タンク51は、水素ガス通路50の圧力を、反応容器61の内側の圧力よりも低下させる減圧部の一例である。この減圧部と、後述する再圧縮行程における燃焼ガスの熱と圧力との組み合わせは、分解器6の分解反応を、大幅に促進させる。炭化水素燃料の分解反応の促進は、分解器6が小型であっても、レシプロエンジン3の運転に必要な水素ガス量の確保を可能にする。
【0067】
また、後述するように、水素ガスの流通経路が、バイパス通路53の側に切り替えられた状態では、ポンプ56の駆動によって分離膜63の二次側の圧力が低下する。ポンプ56もまた、水素ガス通路50の圧力を、反応容器61の内側の圧力よりも低下させる減圧部の一例である。
【0068】
高圧の第2タンク52は、水素インジェクタ47へ高圧の水素ガスを、安定して供給できる。水素インジェクタ47は、シリンダ31内の圧力が高い圧縮上死点付近のタイミングで、シリンダ31内へ、水素ガスを噴射できる。ポンプ56は、第1タンク51の圧力を低く維持しながら、水素インジェクタ47へ高圧の水素ガスを供給することを可能にする。
【0069】
(制御システムの構成)
図4は、燃料改質システム1が搭載された車両の、制御システム2のブロック図である。制御システム2は、制御器21を有している。制御器21は、プロセッサ、メモリ、インターフェースなどのハードウエアと、データベースや制御プログラムなどのソフトウエアとで構成されている。
【0070】
回転数センサ22が、制御器21に、電気的に接続されている。回転数センサ22は、レシプロエンジン3に取り付けられている。回転数センサ22は、クランクシャフトの回転数に対応する計測信号を制御器21へ出力する。制御器21は、回転数センサ22の計測信号に基づいて、レシプロエンジン3の回転数を把握できる。
【0071】
アクセルポジションセンサ23が、制御器21に、電気的に接続されている。アクセルポジションセンサ23は、アクセルペダルに取り付けられている。アクセルポジションセンサ23は、アクセルペダルの踏み込み量に対応する信号を制御器21へ出力する。制御器21は、アクセルポジションセンサ23の計測信号に基づいて、レシプロエンジン3の要求負荷を把握できる。
【0072】
ノックセンサ24が、制御器21に、電気的に接続されている。ノックセンサ24は、レシプロエンジン3に取り付けられている。ノックセンサ24は、レシプロエンジン3においてノッキングが発生した場合に、ノック検出信号を制御器21へ出力する。制御器21は、ノック検出信号に基づいて、ノッキングの発生を把握できる。
【0073】
タンク圧センサ25が、制御器21に、電気的に接続されている。タンク圧センサ25は、水素ガス供給部5の第2タンク52に取り付けられている。タンク圧センサ25は、第2タンク52の水素ガス量に対応する信号を、制御器21へ出力する。制御器21は、タンク圧センサ25の信号に基づいて、シリンダ31へ供給可能な水素ガス量を判断できる。
【0074】
前述した吸気動弁装置41、排気動弁装置42、及び、第3の動弁装置43はそれぞれ、制御器21に電気的に接続されている。制御器21は、レシプロエンジン3の運転状態に応じて、吸気動弁装置41、排気動弁装置42、及び、第3の動弁装置43のそれぞれに、制御信号を出力する。吸気動弁装置41は、制御器21からの制御信号に基づいて、吸気弁34のバルブタイミング、及び/又は、バルブリフトを変更する。排気動弁装置42は、制御器21からの制御信号に基づいて、排気弁36のバルブタイミング、及び/又は、バルブリフトを変更する。第3の動弁装置43は、制御器21からの制御信号に基づいて、開閉弁38の開閉と停止とを切り替える。
【0075】
前述した吸気ポートインジェクタ44、第3ポートインジェクタ46、及び、水素インジェクタ47はそれぞれ、制御器21に電気的に接続されている。制御器21は、吸気ポートインジェクタ44、第3ポートインジェクタ46、及び、水素インジェクタ47のそれぞれに、制御信号を出力する。吸気ポートインジェクタ44は、制御器21からの制御信号に基づいて、所定のタイミングで、所定量の炭化水素燃料を、吸気ポート33内へ噴射する。第3ポートインジェクタ46は、制御器21からの制御信号に基づいて、所定のタイミングで、所定量の炭化水素燃料を、第3のポート37内へ噴射する。水素インジェクタ47は、制御器21からの制御信号に基づいて、所定のタイミングで、所定量の水素ガスを、シリンダ31内へ噴射する。
【0076】
制御システム2は、点火プラグ26を有している。点火プラグ26は、シリンダ31内に臨んで、レシプロエンジン3に取り付けられている。点火プラグ26は、制御器21に電気的に接続されている。制御器21は、点火プラグ26に、制御信号を出力する。点火プラグ26は、制御器21からの制御信号に基づいて、所定のタイミングで、シリンダ31内の混合気に点火する。
【0077】
前述した水素ガス供給部5は、制御器21に電気的に接続されている。制御器21は、水素ガス供給部5の第1切替弁54、第2切替弁55、及び、ポンプ56へ、制御信号を出力する。
【0078】
(変則4ストロークサイクル)
レシプロエンジン3は、分解器6が炭化水素燃料の分解を行うために、変則4ストロークサイクルを実行する。図5は、変則4ストロークサイクルに含まれる各行程を示している。
【0079】
S1は、圧縮行程である。レシプロエンジン3は、圧縮行程S1において、ピストン32の上昇によりシリンダ31内の混合気を圧縮する。吸気弁34、排気弁36及び開閉弁38は全て閉じている。
【0080】
水素インジェクタ47は、圧縮行程S1中に、水素ガスをシリンダ31内へ噴射する。尚、水素ガスが不足している場合、吸気ポートインジェクタ44が、後述の掃気行程S4において、不足分を補うように、炭化水素燃料を吸気ポート33へ噴射してもよい。また、水素ガスが無い場合、吸気ポートインジェクタ44が、水素インジェクタ47に代わって、掃気行程S4において、炭化水素燃料を吸気ポート33へ噴射してもよい。シリンダ31内へ供給する水素ガスが不足する場合に、吸気ポートインジェクタ44が炭化水素燃料を噴射することにより、レシプロエンジン3の必要燃料量が確保される。レシプロエンジン3は、炭化水素燃料を使って、又は、炭化水素燃料と水素ガスとの両方を使って、運転できる。
【0081】
点火プラグ26は、圧縮上死点付近のタイミングで、シリンダ31内の混合気に点火をする。混合気は燃焼を開始する。S2は、膨張行程である。ピストン32は、膨張行程S2において、混合気の燃焼により下降する。吸気弁34、排気弁36及び開閉弁38は全て閉じている。
【0082】
S3は、再圧縮行程である。レシプロエンジン3は、再圧縮行程S3において、ピストン32の上昇によりシリンダ31内の燃焼ガスを圧縮する。再圧縮行程S3において、開閉弁38は開弁する。圧縮された燃焼ガスが、第3のポート37を通じて分解器6へ導入される。また、第3ポートインジェクタ46が、再圧縮行程S3において、第3のポート37内へ炭化水素燃料を噴射する。炭化水素燃料は、燃焼ガスと共に、分解器6へ導入される。前述したように、分解器6において、燃焼ガスの熱と触媒により、炭化水素燃料が、カーボンと水素ガスとに分解される。カーボンは、分解器6に貯蔵される。水素ガスは、燃焼ガスの圧力により、分解器6の分離膜63を透過して、水素ガス供給部5へ送られる。
【0083】
再圧縮行程における燃焼ガスの高い圧力が、分解器6の内側に付与されるため、分解器6の内側において生成された水素ガスは、速やかに分離膜63を透過する。前述した化学反応式の右辺の水素ガスが、分解器6の内側から排出されるから、分解器6の内側における炭化水素燃料の分解反応が促進される。レシプロエンジン3の再圧縮行程S3の圧力を利用する分解器6は、小型であっても、レシプロエンジン3の運転に必要な量の水素ガスを生成できる。
【0084】
S4は、掃気行程である。掃気行程S4において、ピストン32が下降する。開閉弁38は、掃気行程S4において開弁する。開閉弁38が開弁すると、カーボン及び水素ガスが除去された燃焼ガスが、分解器6からシリンダ31へ導入される。
【0085】
掃気行程S6において、排気弁36は開弁する。シリンダ31内の燃焼ガスが、排気ポート35へ排出される。掃気行程S6において、吸気弁34も開弁する。吸気ポート33を通じて、吸気がシリンダ31内へ導入される。吸気には、少なくとも新気が含まれる。吸気に、EGRガスが含まれてもよい。このEGRガスは、EGR通路を通じて吸気管に還流した、いわゆる外部EGRガスである。レシプロエンジン3は、掃気行程S6においてシリンダ31内のガス交換を行う。
【0086】
掃気行程S4の後、レシプロエンジン3は、圧縮行程S1へ戻る。
【0087】
このように、変形4ストロークサイクルを実行するレシプロエンジン3を含む燃料改質システム1は、炭化水素燃料の分解により生成されたカーボンを、分解器6に貯蔵する。また、レシプロエンジン3は、炭化水素燃料の分解により生成された水素ガスを燃焼させるため、燃焼に起因する炭素酸化物は発生しない。燃料改質システム1は、カーボンニュートラルを実現できる。
【0088】
また、この燃料改質システム1は、レシプロエンジン3に起因する熱と圧力とを利用するため、炭化水素燃料の分解に必要な熱及び/又は圧力を発生させるための、別途の専用デバイスが不要である。燃料改質システム1は、車載のシステムとして有用である。
【0089】
尚、分解器6のカーボン貯蔵量が多くなれば、分解器6からカーボンが回収される。例えば車両のメンテナンス入庫の際に、分解器6から、カーボンが付着した担持体62が取り出され、例えばミルを使って、カーボンが担持体62から除去される。回収したカーボンは、産業用カーボンとして利用できる。カーボンが除去された担持体62は、必要に応じて触媒が再塗布された上で、分解器6に再充填可能である。
【0090】
(水素ガス供給部のモード切替)
水素ガス供給部5は、レシプロエンジン3の状態に応じて、第1モード、第2モード、及び、第3モードを切り替える。図6は、水素ガス供給部5の各モードを示している。
【0091】
第1モードは、炭化水素燃料の分解を行って、生成された水素ガスを第1タンク51に貯留しつつ、水素ガスをレシプロエンジン3へ供給するモードである。第1モードにおいて、第1切替弁54及び第2切替弁55は、水素ガスの流通経路を、第1タンク51の側にする。分解器6からの水素ガスは、第1タンク51に流入する。前述したように、第1タンク51は、水素ガス通路50の圧力を、反応容器61の内側の圧力よりも低下させる。
【0092】
また、ポンプ56は、駆動する。第1タンク51の水素ガスが昇圧されて、第2タンク52へ送られる。第2タンク52に高圧の水素ガスが貯留する。そして、第2タンク52から水素インジェクタ47へ高圧の水素ガスが供給され、水素インジェクタ47は、シリンダ31内へ水素ガスを噴射する。
【0093】
第1モードは、例えばレシプロエンジン3の始動時、及び/又は、第2タンク52の低圧時のモードとしてもよい。第1タンク51に予め貯留されていた水素ガスを利用しながら、レシプロエンジン3の始動、及び/又は、運転が可能になる。尚、前述したように、水素ガスが不足する場合、炭化水素燃料が吸気ポート33内へ噴射される。
【0094】
第2モードは、炭化水素燃料の分解を行って、生成された水素ガスを直ぐに、レシプロエンジン3へ供給するモードである。第2モードにおいて、第1切替弁54及び第2切替弁55は、水素ガスの流通方向を、バイパス通路53の側にする。分解器6からの水素ガスは、第1タンク51をバイパスして、ポンプ56に至る。ポンプ56は、駆動する。ポンプ56が駆動すると、入口側の圧力が低下する。ひいては分解器6の分離膜63の二次側の圧力が低下する。第2モードにおけるポンプ56は、減圧部に相当する。
【0095】
ポンプ56の駆動により水素ガスが昇圧されて、第2タンク52へ送られる。第2タンク52に高圧の水素ガスが貯留する。そして、第2タンク52から水素インジェクタ47へ高圧の水素ガスが供給され、水素インジェクタ47は、シリンダ31内へ水素ガスを噴射する。
【0096】
第2モードは、例えばレシプロエンジン3の通常運転時のモードとしてもよい。通常運転時は、前述した始動時、第2タンク52の低圧時、及び、後述するフューエルカット時以外を意味する。第2モードは、変則4ストロークサイクル実行時の、基本モードであってもよい。燃料改質システム1は、分解器6における炭化水素燃料の分解効率が高いため、炭化水素燃料を分解しながら、生成された水素ガスをレシプロエンジン3へ供給して、レシプロエンジン3を運転できる。
【0097】
第3モードは、レシプロエンジン3への水素ガスの供給を停止しつつ、炭化水素燃料の分解を行って、生成された水素ガスを第1タンク51に貯留するモードである。水素インジェクタ47は駆動を停止し、水素ガスの噴射を停止する一方で、第3ポートインジェクタ46は、第3のポート37へ炭化水素燃料を噴射する。
【0098】
第3モードにおいて、第1切替弁54及び第2切替弁55は、水素ガスの流通経路を、第1タンク51の側にする。分解器6からの水素ガスは、第1タンク51に貯留される。ポンプ56は、停止する。水素ガスは、第1タンク51から第2タンク52へ送られない。尚、ポンプ56は、駆動してもよい。この場合、第2タンク52から水素インジェクタ47ヘの水素ガスの供給が停止される。
【0099】
第3モードは、例えばレシプロエンジン3の、フューエルカット時のモードとしてもよい。制御器21は、アクセルポジションセンサ23の計測信号に基づいて、フューエルカットか否かを判断できる。第3モードにおいて、第1タンク51の水素ガスの貯留量は増える。第1タンク51に貯留された水素ガスは、第1モードにおいて、水素インジェクタ47へ供給される。
【0100】
第1モード、第2モード、第3モードの切り替えは、レシプロエンジン3の運転状態、第2タンク52の圧力、及び、フューエルカットであるか否かに応じて、行われてもよい。図7は、水素ガス供給部5のモード切り替えに関する制御手順を示している。スタート後のステップS71において、制御器21は各種信号を読み込む。続くステップS72において、制御器21は、水素ガス供給部5を第2モードにすべきか否かを判断する。前述したように、レシプロエンジン3の通常運転時に、制御器21は、水素ガス供給部5を第2モードにすべきと判断する。ステップS72の判断がYesであれば、制御器21は、続くステップS73において、第1切替弁54及び第2切替弁55により、第1タンク51がバイパスされるよう、水素ガスの流通経路をバイパス通路53の側にする。そして、ステップS76において、制御器21は、ポンプ56を駆動する。
【0101】
ステップS72の判断がNoであれば、制御器21は、ステップS74において、第1切替弁54及び第2切替弁55により、水素ガスの流通経路を第1タンク51の側にする。そして、ステップS75において、制御器21は、水素ガス供給部5を第3モードにすべきか否かを判断する。前述したように、レシプロエンジン3のフューエルカット時に、制御器21は、水素ガス供給部5を第3モードにすべきと判断する。ステップS75の判断がYesであれば、制御器21は、ステップS77において、ポンプ56を停止する。ステップS75の判断がNoであれば、制御器21は、ステップS76において、ポンプ56を駆動する。水素ガス供給部5は第1モードになる。
【0102】
図8は、水素ガス供給部の変形例を示している。水素ガス供給部59は、第2タンク52に代えて、第2ポンプ57を有している。第2ポンプ57は、水素ガス通路50における、分解器6と第1切替弁54との間に位置している。尚、図8の水素ガス供給部59では、2台のポンプを区別するために、第2切替弁55と水素インジェクタ47との間に位置するポンプを、第1ポンプ56と呼ぶ。第1ポンプ56は、水素インジェクタ47へ高圧の水素ガスを供給するポンプである。
【0103】
第2ポンプ57が駆動すると、第2ポンプ57の入口側の圧力が低下する。入口側の圧力低下は、分解器6における分離膜63の二次側の圧力を下げる。第2ポンプ57は、水素ガス通路50の圧力を、反応容器61の内側の圧力よりも低下させる減圧部の一例である。
【0104】
水素ガス供給部59も、第1モード、第2モード及び第3モードを切り替える。図9は、水素ガス供給部59のモード切り替えに関する制御手順を示している。スタート後のステップS91において、制御器21は各種信号を読み込む。続くステップS92において、制御器21は、水素ガス供給部59を第2モードにすべきか否かを判断する。ステップS92の判断がYesであれば、制御器21は、続くステップS93において、第1切替弁54及び第2切替弁55により、第1タンク51がバイパスされるよう、水素ガスの流通経路をバイパス通路53の側にする。そして、ステップS96において、制御器21は、第1ポンプ56及び第2ポンプ57を駆動する。炭化水素燃料から分解された水素ガスが、第2ポンプ57、バイパス通路53、及び、第1ポンプ56を通って、水素インジェクタ47へ供給される。
【0105】
ステップS92の判断がNoであれば、制御器21は、ステップS94において、第1切替弁54及び第2切替弁55により、水素ガスの流通経路を第1タンク51の側にする。そして、ステップS95において、制御器21は、水素ガス供給部59を第3モードにすべきか否かを判断する。ステップS95の判断がYesであれば、制御器21は、ステップS97において、第1ポンプ56を停止し、第2ポンプ57を駆動する。水素インジェクタ47への水素ガスの供給が停止されつつ、生成された水素ガスが、第1タンク51に貯留される。ステップS95の判断がNoであれば、制御器21は、ステップS96において、第1ポンプ56及び第2ポンプ57を駆動する。炭化水素燃料から分解された水素ガスが、第1タンク51へ供給されつつ、第1タンク51から第1ポンプ56を通って、水素インジェクタ47へ供給される。水素ガス供給部59は第1モードになる。
【0106】
(変則4ストロークサイクルと通常4ストロークサイクルとの切替)
燃料改質システム1に含まれるレシプロエンジン3は、車両の走行用の駆動力を出力するエンジンでもある。レシプロエンジン3の運転状態は、低負荷から高負荷まで、及び、低回転から高回転まで大きく変化する。
【0107】
変則4ストロークサイクルは、掃気行程を有している。レシプロエンジン3の回転数が低回転でかつ、要求負荷が低負荷であれば、掃気行程において、要求出力を満たすために必要な新気がシリンダ31内に導入される。しかし、レシプロエンジン3の回転数が高くなる、及び/又は、要求負荷が高くなって、新気の必要量が増えると、掃気行程において必要量の新気をシリンダ31内へ導入することが難しくなる。
【0108】
そこで、車両の制御システム2では、レシプロエンジン3の回転数及び要求負荷に係る運転状態に応じて、炭化水素燃料の分解を行う変則4ストロークサイクルと、炭化水素燃料の分解を行わない通常4ストロークサイクルとが切り替わる。
【0109】
図10は、レシプロエンジン3の制御マップ101を示している。制御マップ101は、エンジンの回転数と要求負荷とによって規定されたレシプロエンジン3の運転領域に対応する。制御器21は、制御マップ101に従って、レシプロエンジン3を運転する。
【0110】
制御マップ101は、レシプロエンジン3の運転領域を、第1領域102と第2領域103とに分割している。第1領域102は、回転数が第1回転数N1よりも低くかつ、要求負荷が負荷Pe1よりも低い領域である。第2領域103は、回転数が第1回転数N1以上の領域、及び/又は、要求負荷が負荷Pe1よりも高い領域である。第1回転数N1は、レシプロエンジン3の運転領域を、回転数の方向に、低回転領域、中回転領域、及び、高回転領域に三等分した場合の、中回転領域に含まれる回転数としてもよい。負荷Pe1は、レシプロエンジン3の運転領域を、負荷の方向に、低負荷領域、中負荷領域、及び、高負荷領域に三等分した場合の、中負荷領域に含まれる負荷としてもよい。
【0111】
制御器21は、第1領域102において、レシプロエンジン3に、変則4ストロークサイクルを実行させる。具体的に、制御器21は、吸気動弁装置41及び排気動弁装置42を通じて、吸気弁34及び排気弁36を所定のタイミングで開弁させながら、第3の動弁装置43を通じて、開閉弁38を所定のタイミングで開弁させる。
【0112】
図11は、吸気弁34、排気弁36、及び、開閉弁38のリフトカーブを例示している。図11の横軸はクランク角であり、縦軸はバルブリフトである。チャート111は、変則4ストロークサイクル実行時の、吸気弁34、排気弁36、及び、開閉弁38のリフトカーブである。
【0113】
チャート111において、開閉弁38は、再圧縮行程において開弁すると共に、掃気行程において開弁する。再圧縮行程においてシリンダ31内の燃焼ガスが、第3のポート37に導入され、掃気行程において分解器6からシリンダ31へ、燃焼ガスが流入する。開閉弁38は、1サイクル当たり2回開弁する。
【0114】
掃気行程においては、排気弁36も開弁する。排気弁36は、開閉弁38の開弁後に、開弁する。排気弁36の開弁タイミングは、掃気行程を前期、中期及び後期に三等分した場合の前期としてもよい。掃気行程の前期は、シリンダ31内の圧力が高い。排気弁36が開弁すると、シリンダ31内の高い圧力によって、シリンダ31から排気ポート35へ排気ガスが効率的に排出される。
【0115】
掃気行程においては、吸気弁34も開弁する。吸気弁34は、排気弁36の開弁後に、開弁する。吸気弁34の開弁タイミングは、掃気行程の中期としてもよい。相対的に速い速度でピストン32が下降することにより、吸気が吸気ポート33からシリンダ31内へ導入される。
【0116】
尚、制御器21は、吸気弁34及び/又は排気弁36の、バルブタイミング及び/又はバルブリフト制御を通じて、変則4ストロークサイクル実行中の、レシプロエンジン3の負荷を変更する。
【0117】
制御器21は、第2領域103において、レシプロエンジン3に、通常4ストロークサイクルを実行させる。具体的に、制御器21は、吸気動弁装置41及び排気動弁装置42を通じて、吸気弁34及び排気弁36を所定のタイミングで開弁させながら、第3の動弁装置43を通じて、開閉弁38の開弁を停止させる。図11のチャート112は、通常4ストロークサイクル実行時の、吸気弁34、及び、排気弁36のリフトカーブを例示している。変則4ストロークサイクル実行時に対して、通常4ストロークサイクル実行時は、排気弁36の開弁時期が進角される。また、開閉弁38の開弁が停止する。通常4ストロークサイクル実行時には、排気行程及び吸気行程がそれぞれ実行されるため、シリンダ31内に、より大量の新気が導入可能である。レシプロエンジン3は要求出力を達成できる。
【0118】
図12のフローチャートは、変則4ストロークサイクルと、通常4ストロークサイクルとの切り替えに係る制御手順を示している。スタート後のステップS121において、制御器21は、各種信号を読み込み、続くステップS122において、制御器21は、読み込んだ信号と、制御マップ101に基づき、レシプロエンジン3の運転状態が第1領域にあるか否かを判断する。ステップS122の判断がYesの場合、つまり、レシプロエンジン3の運転状態が第1領域102にある場合、制御器21は、ステップS123において、第3のポート37の開閉弁38を開閉させる。レシプロエンジン3は、変則4ストロークサイクルを実行する。
【0119】
ステップS124において、制御器21は、吸気弁34及び/又は排気弁36の開弁を、要求出力に応じて調整する。続くステップS125において、制御器21は、燃料の設定を行う。ステップS125の燃料設定については後述する。
【0120】
ステップS122に戻り、ステップS122の判断がNoの場合、制御器21は、ステップS126において、開閉弁38を停止させる。レシプロエンジン3は、通常4ストロークサイクルを実行する。
【0121】
ステップS127において、制御器21は、吸気弁34及び/又は排気弁36の開弁を、要求出力に応じて調整する。続くステップS128において、制御器21は、ノックセンサ24がノッキングを検出したか否かを判断する。ステップS128の判断がYesの場合、制御器21は、ステップS129において、水素インジェクタ47に、水素ガスを噴射させて、異常燃焼の発生を抑制する。
【0122】
一般的に、炭化水素燃料を利用するエンジンが高負荷で運転している場合は、異常燃焼(例えばノッキング)が発生しやすいという問題がある。レシプロエンジン3の運転状態が第2領域103にある場合は、炭化水素燃料を燃焼させるため、要求負荷が高まれば、異常燃焼が生じる恐れがある。
【0123】
ここで、炭化水素燃料の燃焼と、水素ガスの燃焼とを比較すると、水素ガスの燃焼は、燃焼速度が大幅に速いという特徴を有している。そこで、車両の制御システム2は、レシプロエンジン3の運転状態が第2領域103にある場合であって、ノッキングが検出された場合には、吸気ポートインジェクタ44が炭化水素燃料を吸気ポート33内へ噴射することに加えて、水素インジェクタ47が水素ガスをシリンダ31内に噴射する。水素ガスは、例えば第1タンク51に貯留されている水素ガスが利用される。水素インジェクタ47は、例えば圧縮行程中のタイミングで、水素ガスをシリンダ31内に噴射してもよい。適切なタイミングでシリンダ31内へ噴射された水素ガスは、燃焼促進剤として機能し、燃焼速度を高める。炭化水素燃料を用いた燃焼が行われている場合であって、レシプロエンジン3の運転状態が高負荷である場合に、異常燃焼が抑制できる。水素ガス噴射による異常燃焼の抑制は、レシプロエンジン3の熱効率を下げずに、異常燃焼が抑制できるという利点がある。
【0124】
ステップS128の判断がNoの場合、制御器21は、水素インジェクタ47に、水素ガスを噴射させない。
【0125】
尚、ステップS128は、要求負荷Peが、負荷Pe2以上であるか否かを判断してもよい。負荷Pe2は、図10に示すように、レシプロエンジン3の運転領域を負荷方向に、低負荷、中負荷、及び、高負荷の領域に三等分した場合の、高負荷の領域に含まれる負荷としてもよい。異常燃焼が発生しやすい領域において水素ガスをシリンダ31内へ噴射することにより、異常燃焼が未然に回避される。
【0126】
図13は、図12のフローチャートのステップS125の燃料設定に関する制御手順を示している。先ずステップS131において、制御器21は、タンク圧センサ25の信号に基づいて、シリンダ31へ供給可能な水素ガス量を取得する。そして、ステップS132において、制御器21は、要求出力と、水素ガス量とに基づいて、水素ガスのみの噴射が可能か否か、換言すれば、水素ガス量によって要求出力が満たされるか否かを判断する。
【0127】
ステップS132の判断がYesの場合、制御器21は、ステップS133において、水素ガスのみの噴射を設定する。ステップS132の判断がNoの場合、水素ガスが不足しているため、制御器21は、ステップS134において、水素ガスと炭化水素燃料との両方の噴射を設定する。炭化水素燃料の噴射量は、水素ガスの不足分の量に設定される。
【0128】
変則4ストロークサイクルと、通常4ストロークサイクルとの切り替えは、レシプロエンジン3のカーボンニュートラル化を進めつつ、レシプロエンジン3を駆動源とする車両の走行を可能にする。
【0129】
尚、ここに開示する技術は、前記の構成に限らない。例えばレシプロエンジン3は、圧縮着火式のエンジンであってもよい。
【0130】
また、燃料改質システム1の分解器6は、膜反応器に限定されない。燃焼ガスの熱と圧力を利用して炭化水素燃料を分解できるのであれば、分解器6は、どのような構造であってもよい。
【符号の説明】
【0131】
1 燃料改質システム
3 レシプロエンジン
31 シリンダ
32 ピストン
33 吸気ポート
34 吸気弁
35 排気ポート
36 排気弁
37 第3のポート
38 開閉弁
44 吸気ポートインジェクタ(第3インジェクタ)
45 炭化水素燃料供給部
46 第3ポートインジェクタ(第1インジェクタ)
47 水素インジェクタ(第2インジェクタ)
5 水素ガス供給部
59 水素ガス供給部
6 分解器
S1 圧縮行程
S2 膨張行程
S3 再圧縮行程
S4 掃気行程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13