(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110824
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】冷却装置
(51)【国際特許分類】
F25B 1/00 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
F25B1/00 304H
F25B1/00 371F
F25B1/00 361A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015656
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】木寺 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】林 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】堀川 伸二
(72)【発明者】
【氏名】石原 憲
(57)【要約】 (修正有)
【課題】蒸発温度一定制御を行いつつ、液戻りや冷凍機の過負荷運転を防止することの可能な冷却装置を提供する。
【解決手段】圧縮機20と凝縮器21と膨張弁40と、蒸発器3とを備え、蒸発器3における冷媒と被冷却物との熱交換により被冷却物を冷却する冷却装置1であって、冷媒圧力検知手段7と、冷媒温度検知手段8と、制御手段10を備え、冷媒圧力検知手段7は、蒸発器3を通過した後の冷媒の圧力を検知し、冷媒温度検知手段8は、蒸発器3を通過した後の冷媒の温度を検知し、制御手段10は、冷媒圧力検知手段7が検知した冷媒の圧力が目標圧力となるか、又は当該冷媒の圧力から算出される冷媒の蒸発温度が目標蒸発温度となるよう膨張弁40をフィードバック制御し、制御手段10はさらに、冷媒温度検知手段8が検知した冷媒の温度と蒸発温度の差である過熱度を算出し、当該過熱度が許容範囲から乖離した場合に、目標蒸発温度を変更する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を吸引して圧縮する圧縮機と、
前記圧縮機により吐出された冷媒を凝縮液化する凝縮器と、
前記凝縮器により凝縮液化された冷媒を減圧する開度調整可能な膨張弁と、
前記膨張弁によって減圧された冷媒を蒸発させる蒸発器と、を備え、前記蒸発器における冷媒と被冷却物との熱交換により前記被冷却物を冷却する冷却装置であって、
冷媒圧力検知手段と、冷媒温度検知手段と、制御手段をさらに備え、
前記冷媒圧力検知手段は、前記蒸発器を通過した後の冷媒の圧力を検知するよう構成され、
前記冷媒温度検知手段は、前記蒸発器を通過した後の冷媒の温度を検知するよう構成され、
前記制御手段は、前記冷媒圧力検知手段が検知した冷媒の圧力が目標圧力となるか、又は当該冷媒の圧力から算出される冷媒の蒸発温度が目標蒸発温度となるよう前記膨張弁をフィードバック制御し、
前記制御手段はさらに、前記冷媒温度検知手段が検知した冷媒の温度と前記蒸発温度の差である過熱度を算出し、当該過熱度が許容範囲から乖離した場合に、前記目標蒸発温度を変更する、冷却装置。
【請求項2】
請求項1に記載の冷却装置であって、
前記制御手段は、前記過熱度が前記許容範囲以下となった場合に前記目標蒸発温度を減算し、前記過熱度が前記許容範囲以上となった場合に前記目標蒸発温度を加算する、冷却装置。
【請求項3】
請求項2に記載の冷却装置であって、
前記制御手段は、前記過熱度の前記許容範囲からの乖離度合いに応じて前記目標蒸発温度の加算又は減算温度を変更する、冷却装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の冷却装置であって、
前記制御手段は、算出した現在の過熱度と第1所定時間前の過熱度とから算出される過熱度勾配から、第2所定時間後の予測過熱度を算出し、当該予測過熱度が前記許容範囲以下となった場合に前記目標蒸発温度を減算する、冷却装置。
【請求項5】
請求項2又は請求項3に記載の冷却装置であって、
前記蒸発器における熱交換後の前記被冷却物の温度である被冷却物出口温度を検知する被冷却物温度検知手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記被冷却物出口温度に応じて、前記圧縮機の周波数制御を行う、冷却装置。
【請求項6】
請求項2又は請求項3に記載の冷却装置であって、
前記蒸発器における熱交換後の前記被冷却物の温度である被冷却物出口温度を検知する被冷却物温度検知手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記過熱度が前記許容範囲以上であっても、前記被冷却物出口温度と前記蒸発温度の温度差が第1所定冷却温度差以下である場合には、前記目標蒸発温度の加算を行わない、冷却装置。
【請求項7】
請求項6に記載の冷却装置であって、
前記制御手段は、前記温度差が前記第1所定冷却温度差以下である場合に、前記目標蒸発温度を減算する、冷却装置。
【請求項8】
請求項7に記載の冷却装置であって、
前記制御手段は、前記温度差が前記第1所定冷却温度差以下である場合に、当該温度差が前記第1所定冷却温度差より大きい第2所定冷却温度差となるよう前記目標蒸発温度を減算する、冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被冷却物を冷却する冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを備え、冷凍サイクルを利用して水等の被冷却物を冷却する冷却装置がある。例えば、特許文献1には、冷媒温度(圧縮機に吸入される冷媒の温度)から蒸発温度(圧縮機に吸入される冷媒の圧力における飽和温度)を減じた過熱度が予め設定された所定の目標過熱度になるよう膨張弁の開度を制御する装置が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、上記のような過熱度一定制御に代えて、蒸発温度が一定となるよう膨張弁の開度を制御する低温冷水装置(冷却装置)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-248919号公報
【特許文献2】特許第6958019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に示すような蒸発温度一定制御を行う場合、過熱度が低下して液戻りが生じるおそれや、過熱度が上昇して冷凍機(圧縮機)が過負荷運転となるおそれがあった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、蒸発温度一定制御を行いつつ、液戻りや冷凍機の過負荷運転を防止することの可能な冷却装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]冷媒を吸引して圧縮する圧縮機と、前記圧縮機により吐出された冷媒を凝縮液化する凝縮器と、前記凝縮器により凝縮液化された冷媒を減圧する開度調整可能な膨張弁と、前記膨張弁によって減圧された冷媒を蒸発させる蒸発器と、を備え、前記蒸発器における冷媒と被冷却物との熱交換により前記被冷却物を冷却する冷却装置であって、冷媒圧力検知手段と、冷媒温度検知手段と、制御手段をさらに備え、前記冷媒圧力検知手段は、前記蒸発器を通過した後の冷媒の圧力を検知するよう構成され、前記冷媒温度検知手段は、前記蒸発器を通過した後の冷媒の温度を検知するよう構成され、前記制御手段は、前記冷媒圧力検知手段が検知した冷媒の圧力が目標圧力となるか、又は当該冷媒の圧力から算出される冷媒の蒸発温度が目標蒸発温度となるよう前記膨張弁をフィードバック制御し、前記制御手段はさらに、前記冷媒温度検知手段が検知した冷媒の温度と前記蒸発温度の差である過熱度を算出し、当該過熱度が許容範囲から乖離した場合に、前記目標蒸発温度を変更する、冷却装置。
[2][1]に記載の冷却装置であって、前記制御手段は、前記過熱度が前記許容範囲以下となった場合に前記目標蒸発温度を減算し、前記過熱度が前記許容範囲以上となった場合に前記目標蒸発温度を加算する、冷却装置。
[3][2]に記載の冷却装置であって、前記制御手段は、前記過熱度の前記許容範囲からの乖離度合いに応じて前記目標蒸発温度の加算又は減算温度を変更する、冷却装置。
[4][2]又は[3]に記載の冷却装置であって、前記制御手段は、算出した現在の過熱度と第1所定時間前の過熱度とから算出される過熱度勾配から、第2所定時間後の予測過熱度を算出し、当該予測過熱度が前記許容範囲以下となった場合に前記目標蒸発温度を減算する、冷却装置。
[5][2]~[4]のいずれかに記載の冷却装置であって、前記蒸発器における熱交換後の前記被冷却物の温度である被冷却物出口温度を検知する被冷却物温度検知手段をさらに備え、前記制御手段は、前記被冷却物出口温度に応じて、前記圧縮機の周波数制御を行う、冷却装置。
[6][2]~[5]のいずれかに記載の冷却装置であって、前記蒸発器における熱交換後の前記被冷却物の温度である被冷却物出口温度を検知する被冷却物温度検知手段をさらに備え、前記制御手段は、前記過熱度が前記許容範囲以上であっても、前記被冷却物出口温度と前記蒸発温度の温度差が第1所定冷却温度差以下である場合には、前記目標蒸発温度の加算を行わない、冷却装置。
[7][6]に記載の冷却装置であって、前記制御手段は、前記温度差が前記第1所定冷却温度差以下である場合に、前記目標蒸発温度を減算する、冷却装置。
[8][7]に記載の冷却装置であって、前記制御手段は、前記温度差が前記第1所定冷却温度差以下である場合に、当該温度差が前記第1所定冷却温度差より大きい第2所定冷却温度差となるよう前記目標蒸発温度を減算する、冷却装置。
【0008】
本発明によれば、蒸発温度一定制御を行いつつ、液戻りや冷凍機の過負荷運転を防止することが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る冷却装置1を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴について独立して発明が成立する。
【0011】
1.冷却装置1の構成
まず、本発明の一実施形態に係る冷却装置1の構成について説明する。本実施形態の冷却装置1は、被冷却物としての水を冷却し、冷水を製造するために用いられる。製造された冷水は、例えば、食品等の被処理物を冷却するために用いられる。
【0012】
本実施形態の冷却装置1は、
図1に示すように、冷凍機2と、蒸発器としての熱交換器3とを備える。また、冷却装置1は、冷凍機2と熱交換器3とを接続して冷媒を流通させるラインとして、冷媒循環ライン4を備える。冷媒循環ライン4には、冷凍機2の下流側の位置に、膨張弁40が設置される。加えて、冷却装置1は、各要素の動作を制御する制御手段10を備える。本実施形態の冷却装置1は、熱交換器3に接続された冷水ライン100を流通する水が冷媒と熱交換することにより、冷水が製造される。なお、本実施形態の冷却装置1は、冷水ライン100の熱交換器3よりも下流側、つまり出口側の位置に、被冷却物温度検知手段としての冷水温度センサ6も備えている。以下、各構成を具体的に説明する。
【0013】
冷凍機2は、圧縮機20と、凝縮器21とを備え、冷媒を冷却するものである。冷凍機2は、冷媒循環ライン4によって熱交換器3と接続されている。
【0014】
圧縮機20は、低温低圧の冷媒ガスを断熱圧縮して高温高圧のガスにする。圧縮機20において高温高圧のガス状態となった冷媒は、好ましくは油分離器(図示せず)を介して凝縮器21へ送られる。圧縮機20には、例えばスクロール圧縮機が用いられる。なお、本実施形態の圧縮機20は、多段階に運転周波数を変動させて圧縮力を調整する周波数制御を行うことができるものである。
【0015】
凝縮器21は、圧縮機20からの高温高圧のガスを凝縮液化して、低温高圧の冷媒液の状態にする。本実施形態の凝縮器21は、ファン21aを備える空冷式の熱交換器である。ただし、水冷式の凝縮器21を用いることも可能である。凝縮器21で低温高圧の冷媒液の状態となった冷媒は、冷媒循環ライン4を通って膨張弁40へ送られる。
【0016】
膨張弁40は、凝縮器21で低温高圧の冷媒液の状態となった冷媒を減圧して、低温低圧の冷媒液の状態にする。膨張弁40は、その開度を制御可能な弁であり、開度は制御手段10によって制御される。制御手段10によって膨張弁40の開度を調整することにより、減圧の度合いを調整することができる。膨張弁40で低温低圧の冷媒液の状態となった冷媒は、熱交換器3へ送られる。なお、膨張弁40は、電子膨張弁であっても機械式膨張弁であっても良い。
【0017】
冷媒循環ライン4は、冷媒を圧縮機20、凝縮器21、膨張弁40及び熱交換器3(蒸発器)の順に循環させるよう接続されており、冷媒が冷媒循環ライン4を循環することで、冷媒の圧縮、凝縮、膨張及び蒸発の冷凍サイクルが実行されるようになっている。なお、本実施形態において、凝縮器21の下流側(出口側)であって膨張弁40の上流側の位置には、循環弁41も設けられている。循環弁41には、電磁弁を用いることが好ましい。
【0018】
加えて、本実施形態の冷媒循環ライン4には、熱交換器3の下流側(出口側)であって圧縮機20の上流側(入口側)の位置に、冷媒圧力検知手段としての冷媒圧力センサ7と、冷媒温度検知手段としての冷媒温度センサ8とが設置されている。冷媒圧力センサ7は、熱交換器3における冷媒の圧力を検知するよう構成される。冷媒温度センサ8は、熱交換器3により蒸発した、圧縮機20に吸入される冷媒の温度を検知するよう構成される。なお、冷媒圧力センサ7及び冷媒温度センサ8は、熱交換器3の出口から圧縮機20の入口に至る冷媒循環ライン4の配管上であれば、任意の箇所に設置することができる。
【0019】
熱交換器3は、冷凍サイクルにおける蒸発器として機能する。熱交換器3は、冷媒循環ライン4と接続される冷媒流路と冷水ライン100と接続される水流路とを備え、冷媒と水とを混合することなく、これらの間で間接的に熱交換させるものである。熱交換器3は、膨張弁40を通過して低温低圧となった冷媒循環ライン4の冷媒液が圧力一定のまま冷水ライン100の水から吸熱して蒸発することにより、水から熱を奪って水を冷却する。熱交換器3には、例えば、二重管熱交換器が用いられる。なお、膨張弁40の開度調整により、冷媒は熱交換器3において完全に蒸発し、蒸発した冷媒は、冷媒循環ライン4を通って低温低圧のガスの状態で圧縮機20へ送られるようになっている。
【0020】
なお、冷水ライン100には、熱交換器3の上流側(入口側)の位置に冷水ポンプ101が配置され、熱交換器3の下流側(出口側)の位置に冷水温度センサ6が設けられている。冷水ポンプ101の作動により、冷水ライン100を水が流通する。冷水ライン100は、例えば、冷水タンク(図示せず)に接続され、熱交換器3と冷水タンクとで水を循環させることで、冷水タンク内の水を冷却することが可能である。ただし、製造された冷水を熱負荷との熱交換(例えば食材の冷却)に使用し、使い捨てる(流水仕様)ようにしてもよい。
【0021】
また、冷水温度センサ6は、熱交換器3における熱交換後の水の温度(被冷却物出口温度としての冷水出口温度)を検知するよう構成される。
【0022】
制御手段10は、各種センサの検出信号や経過時間などに基づき、上記各構成を制御する。制御手段10は、具体的には、冷凍機2(圧縮機20及び凝縮器21)と、膨張弁40と、循環弁41とを制御する。また、制御手段10には、冷水温度センサ6、冷媒圧力センサ7及び冷媒温度センサ8などが接続されている。制御手段10は、後述するように、所定の手順(プログラム)に従い、冷媒を循環させて水を冷却する冷却動作のための制御を行う。
【0023】
なお、上記構成の制御手段10は、具体的には例えば、CPU、メモリ(例えばフラッシュメモリ)、入力部及び出力部を備えた情報処理装置により構成することができる。そして、情報処理装置により構成された制御手段10の上記各構成要素による処理は、メモリに記憶されたプログラムをCPUが読み出して実行することで行われる。情報処理装置としては、例えば、パーソナルコンピュータ、PLC(プログラマラブルロジックコントローラ)あるいはマイコンが用いられる。ただし、制御手段10の一部の機能を、任意の通信手段により接続されたクラウド上で実行されるよう構成しても良い。
【0024】
2.冷却装置1の冷却動作
次に、本実施形態の冷却装置1の冷却動作について説明する。冷却装置1は、制御手段10による冷凍機2及び膨張弁40等の制御により冷媒循環ライン4に冷媒を循環させ、冷媒の圧縮、凝縮、膨張及び蒸発の冷凍サイクルを実行し、熱交換器3において冷媒と冷水ライン100の水との熱交換を行うことで、水を冷却する。具体的には、本実施形態の冷却装置1は、冷凍サイクルの実行の際、制御手段10の制御により、蒸発温度一定制御と、冷凍機周波数制御と、目標蒸発温度加減算制御と、冷却温度差維持制御とを実行する。以下、各制御についてより具体的に説明する。なお、これらの制御は、それぞれ冷却装置1の冷却運転中に亘って並列的に実行される。
【0025】
<蒸発温度一定制御>
蒸発温度一定制御は、熱交換後の冷媒の圧力から算出される冷媒の蒸発温度が目標蒸発温度となるよう膨張弁40をフィードバック制御(PID制御)するものである。具体的には、制御手段10は、まず、冷媒圧力センサ7が検知した熱交換器3を通過した後の(圧縮機20に吸入される)冷媒の圧力値に基づいて、当該冷媒の圧力値における飽和温度、つまり蒸発温度を算出(換算)する。冷媒の圧力値における飽和温度の算出は、例えば、冷媒圧力値と当該圧力値における飽和温度との対照テーブルを予め設定し、対照テーブルに基づいて行うことができる。また、入力される冷媒圧力値に対し飽和温度を出力する関数を予め設定し、検知された冷媒の圧力値を当該関数に入力して飽和温度を算出するようにしてもよい。
【0026】
そして、制御手段10は、上記算出された冷媒の蒸発温度が目標蒸発温度に一致するよう、膨張弁40の開度を制御する。なお、目標蒸発温度は、冷凍機2の冷却能力が実質的に最大になるように設定することが好ましい。
【0027】
<目標蒸発温度加減算制御>
目標蒸発温度加減算制御は、冷媒の過熱度が許容範囲から乖離した場合に、上述した蒸発温度一定制御の目標蒸発温度を変更する制御である。ここで、冷媒の過熱度は、熱交換器3において蒸発した冷媒の温度と冷媒の蒸発温度の差である。過熱度は、熱交換器3において、気液混合状態の冷媒が水との熱交換により蒸発し、完全に気化した後、さらに熱を受け取ることで上昇する。
【0028】
具体的には、制御手段10は、まず、冷媒温度センサ8が検知した熱交換器3において蒸発した冷媒の温度から冷媒圧力センサ7が検知した同冷媒の圧力から算出される蒸発温度を減算することで、冷媒の過熱度を算出する。
【0029】
次に、制御手段10は、算出した冷媒の過熱度が許容範囲内であるか、許容範囲から乖離したかを判定する。過熱度が許容範囲内であれば(許容下限値と許容上限値の間にあれば)、制御手段10は、目標蒸発温度の変更を行わない。
【0030】
一方、制御手段10は、過熱度が許容範囲から乖離し、許容下限値以下となった場合、目標蒸発温度を減算する。また、制御手段10は、過熱度が許容範囲から乖離し、許容上限値以上となった場合、目標蒸発温度を加算する。
【0031】
なお、過熱度が許容範囲から乖離した場合の目標蒸発温度の加減算は、所定の遅延時間(例えば、30秒)の間連続で乖離していたときに実施することが好ましい。また、遅延時間は、目標蒸発温度を減算する場合と加算する場合とで異ならせても良い。例えば、過熱度が許容下限値以下となった場合のほうが緊急度が高いため、過熱度が許容上限値以上となった場合よりも遅延時間を短く設定することが好ましい。
【0032】
また、本実施形態の制御手段10は、過熱度の許容範囲からの乖離度合いに応じて目標蒸発温度の加算温度又は減算温度を変更する。例えば、制御手段10は、過熱度が許容下限値から第1乖離度以上乖離している場合、目標蒸発温度を第1温度減算し、過熱度が許容下限値から第1乖離度とこれより小さい第2乖離度の間乖離している場合、目標蒸発温度を第1温度よりも小さい第2温度減算する。また、制御手段10は、過熱度が許容上限値から第3乖離度以上乖離している場合、目標蒸発温度を第3温度加算し、過熱度が許容上限値から第3乖離度とこれより小さい第4乖離度の間乖離している場合、目標蒸発温度を第3温度よりも小さい第4温度加算する。なお、第1温度と第3温度、第2温度と第4温度は同じであっても異なっていても良い。
【0033】
より具体的な例としては、制御手段10は、過熱度が許容下限値より4℃以上低い場合、目標蒸発温度を2℃減算し、2~4℃低い場合、目標蒸発温度を1℃減算し、0~2℃低い場合、目標蒸発温度を0.5℃減算する。また、制御手段10は、過熱度が許容上限値より4℃以上高い場合、目標蒸発温度を1℃加算し、0~4℃高い場合、蒸発温度を0.5℃加算する。
【0034】
さらに、本実施形態の制御手段10は、過熱度の履歴から予測過熱度を算出し、予測過熱度が許容下限値以下となった場合に目標蒸発温度を減算するようになっている。具体的には、制御手段10は、まず、現在の過熱度と第1所定時間前(過熱度勾配確認時間前)の過熱度とから算出される過熱度勾配から、第2所定時間後(過熱度予測時間後)の予測過熱度を継続的に算出する。そして、制御手段10は、当該予測過熱度が許容下限値以下となった場合に、目標蒸発温度を第5温度減算するようになっている。なお、第5温度は、上述した第1温度~第4温度のいずれかと同じであっても、いずれとも異なっていても良い。
【0035】
より具体的な例としては、制御手段10は、現在の過熱度と6秒前の過熱度の差を6秒で除算することで過熱度勾配を算出し、当該過熱度勾配に30秒を乗算したものに現在の過熱度を加えることで、30秒後の予測過熱度を算出する。そして、予測過熱度が許容下限値以下である状態が第3所定時間継続した場合、目標蒸発温度を2℃減算する。なお、本例の場合、予測過熱度が許容上限値以上であっても、目標蒸発温度の加算は行わない。減算のみ行うのは、過熱度の低下の方が、緊急性が高いからである。すなわち、急激に圧力上昇が生じて過熱度が急低下してしまうと、その時点での過熱度のみに基づく通常の減算では制御が間に合わず、冷媒が液体のまま圧縮機20に戻る液バック運転となって、圧縮機20が故障するおそれがあるためである。
【0036】
<冷却温度差維持制御>
冷却温度差維持制御は、冷水出口温度と蒸発温度の温度差(以下、冷却温度差と呼ぶ)が所定の温度差以下である場合に、目標蒸発温度を減算することで冷却温度差を所定の温度差以上に維持する制御である。
【0037】
具体的には、制御手段10は、まず、冷水温度センサ6の検知する冷水出口温度と冷媒圧力センサ7が検知した冷媒の圧力値から得られる蒸発温度から冷却温度差を算出する。次に、制御手段10は、冷却温度差が第1所定冷却温度差以下である場合に、冷却温度差が第1所定冷却温度差より大きい第2所定冷却温度差となるよう目標蒸発温度を減算する。ここで、第1所定冷却温度差は、例えば3℃であり、第2所定冷却温度差は、例えば5℃である。
【0038】
なお、冷却温度差維持制御は、目標蒸発温度加減算制御における目標蒸発温度の加算よりも優先して実行される。すなわち、制御手段10は、過熱度が許容範囲以上(許容上限値以上)であっても、冷却温度差が第1所定冷却温度差以下である場合には、目標蒸発温度の加算を行わないようになっている。
【0039】
<冷凍機周波数制御>
冷凍機周波数制御は、冷水温度センサ6が検知する熱交換後の水の温度(以下、冷水出口温度と呼ぶ)に応じて冷凍機2(圧縮機20)の周波数を変動させる制御である。具体的には、冷凍機周波数制御において、制御手段10は、冷水出口温度が第1閾値以上である場合、圧縮機20の周波数を1段階増加させる。また、制御手段10は、冷水出口温度が第2閾値以下である場合、圧縮機20の周波数を1段階減少させる。ここで、第1閾値は冷水の目標温度より高い温度とし、第2閾値は冷水の目標温度より低い温度とすることが好ましい。
【0040】
なお、周波数を増加させると、蒸発温度(蒸発圧力)が下がるため、上述した過熱度は上昇し、周波数を減少させると、蒸発温度(蒸発圧力)が上がるため、過熱度は低下することになる。本実施形態において、過熱度が所定温度以下である場合は、冷凍機周波数制御は行わないようになっている。これにより、冷媒が液体のまま圧縮機20に戻る液バック運転を防止することが可能となる。
【0041】
4.作用効果
(1)本実施形態に係る冷却装置1によれば、蒸発温度一定制御として、冷媒圧力センサ7の検知した冷媒圧力に基づいて算出される蒸発温度が目標蒸発温度となるよう、制御手段10が膨張弁40の開度をフィードバック制御するようになっている。このような蒸発温度一定制御により、特に、外気温度や冷凍機2(圧縮機20)の運転状況、熱交換器3における熱負荷の変動等の外的要因によって蒸発温度が変動しない安定した運転が可能となっている。また、効率のよい安定した冷却能力を得るとともに、例えば熱交換器3内で冷媒と熱交換する水が凍結を起こさないようにすることが可能となっている。
【0042】
(2)過熱度が一定となるよう膨張弁40を制御する一般的な過熱度一定制御の場合、過熱度の算出に用いられる「熱交換器3において蒸発した冷媒温度(冷媒温度センサ8が検知)」と「冷媒の蒸発温度(冷媒圧力センサ7が検知)」とでは、冷媒温度の応答性及び変化速度が遅いため、十分な時間をかけて膨張弁40の操作をしないとハンチングが生じるおそれがある。また、過熱度を一定とするために膨張弁40を制御することで、蒸発温度の変化幅が大きくなることがあり、冷却能力(冷水出口温度)や冷凍機2の運転状態が安定しない場合がある。さらに、冷凍機周波数制御により圧縮機20の周波数を変化させる場合や冷凍機2の運転状態が変わることによる外乱等により、過熱度は影響を受けやすいという問題もある。この点、本実施形態に係る冷却装置1によれば、蒸発温度一定制御により膨張弁40のフィードバック制御の対象を蒸発温度のみとすることで、外乱の影響を受けることなく膨張弁40の操作を早くすることができる。これにより、応答性及び変化速度を改善することができ、ハンチングを抑制することも可能となっている。
【0043】
(3)上記過熱度一定制御に代えて蒸発温度一定制御のみを実行した場合、過熱度の上昇又は低下により冷凍機2の運転状態が不安定となり、蒸発温度を一定に保つことが困難となるおそれがある。しかしながら、本実施形態に係る冷却装置1によれば、目標蒸発温度加減算制御として、制御手段10は、過熱度が許容下限値以下となった場合に目標蒸発温度を減算し、過熱度が許容上限値以上となった場合に目標蒸発温度を加算するようになっている。これにより、冷凍機2の運転状態・蒸発温度が安定し、効率が高いまま運転を維持することが可能となっている。
【0044】
(4)また、本実施形態における目標蒸発温度加減算制御では、制御手段10は、過熱度の許容範囲からの乖離度合いに応じて目標蒸発温度の加算温度又は減算温度を変更する。これにより、過熱度が許容範囲から大きく乖離している場合でも、早期に過熱度を許容範囲内に戻すことが可能となっている。
【0045】
(5)加えて、本実施形態における目標蒸発温度加減算制御では、制御手段10は、現在の過熱度と第1所定時間前の過熱度とから算出される過熱度勾配から、第2所定時間後の予測過熱度を継続的に算出し、当該予測過熱度が許容下限値以下となった場合に目標蒸発温度を減算する。これにより、将来的に過熱度が許容下限値以下になることを予測し、前もって目標蒸発温度を減算することで、過熱度が許容下限値以下になることを抑制することが可能となっている。
【0046】
(6)本実施形態に係る冷却装置1によれば、制御手段10は、冷凍機周波数制御として、冷水出口温度が第1閾値以上である場合に圧縮機20の周波数を1段階増加させ、冷水出口温度が第2閾値以下である場合に圧縮機20の周波数を1段階減少させる制御を行っている。これにより、冷水出口温度に応じて冷凍機2(圧縮機20)を効率的に運転し、消費電力を低減することが可能となっている。
【0047】
(7)本実施形態に係る冷却装置1によれば、制御手段10は、冷却温度差維持制御として、冷却温度差が第1所定冷却温度差以下である場合に冷却温度差が第1所定冷却温度差より大きい第2所定冷却温度差となるよう目標蒸発温度を減算する制御を行っている。これにより、冷却温度差を所定の温度差以上に維持することができ、水の冷却不足を防止することが可能となっている。なお、冷却温度差維持制御は、目標蒸発温度加減算制御における目標蒸発温度の加算よりも優先して実行される。すなわち、制御手段10は、過熱度が許容範囲以上(許容上限値以上)であっても、冷却温度差が第1所定冷却温度差以下である場合には、目標蒸発温度の加算を行わない。これにより、確実に冷却温度差を維持し、水の冷却不足を防止するとともに、冷媒が液体のまま圧縮機20に戻る液バック運転を防止することが可能となっている。
【0048】
5.変形例
なお、本発明は、以下の態様でも実施可能である。
【0049】
上記実施形態では、制御手段10は、冷凍機2(圧縮機20)の運転周波数を変動させる冷凍機周波数制御を行っていたが、冷凍機周波数制御は必須ではない。本発明は、周波数制御を行わない(周波数制御ができない)冷凍機でも実施することが可能である。また、冷却温度差を所定の温度差以上に維持する冷却温度差維持制御も必須ではなく、蒸発温度一定制御と目標蒸発温度加減算制御のみを行うようにしても良い。
【0050】
上記実施形態では、制御手段10は、蒸発温度一定制御において、冷媒圧力センサ7が検知した冷媒の圧力から算出される冷媒の蒸発温度が目標蒸発温度となるよう膨張弁40をフィードバック制御していた。しかしながら、制御手段10は、冷媒圧力センサ7が検知した冷媒の圧力を温度換算せず、検知した冷媒の圧力そのものが目標圧力となるよう膨張弁40をフィードバック制御するようにしても良い。
【0051】
また、上記実施形態の冷却装置1において、凝縮器21において液化された高圧低温の冷媒と熱交換器3で気化された冷媒との間で熱交換をする液ガス熱交換器(図示せず)を設けることも好ましい。液ガス熱交換器により、膨張弁40へ送られる冷媒を冷却するとともに、熱交換器3を出て冷凍機2(圧縮機20)に戻る冷媒を完全にガス化することができる。なお、液ガス熱交換器を設ける場合、冷媒圧力センサ7及び冷媒温度センサ8は液ガス熱交換器の冷凍機2側の出口から圧縮機20の入口に至るまでの冷媒循環ライン4の配管上に設けることが好適である。
【0052】
上記実施形態において、冷却装置1は水を冷却する冷水装置(ウォーターチラー)として用いられていたが、水以外の被冷却物、例えば、二次冷媒であるブラインを冷却する装置とすることも可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 :冷却装置
2 :冷凍機
3 :熱交換器(蒸発器)
4 :冷媒循環ライン
6 :冷水温度センサ(被冷却物温度検知手段)
7 :冷媒圧力センサ(冷媒圧力検知手段)
8 :冷媒温度センサ(冷媒温度検知手段)
10 :制御手段
20 :圧縮機
21 :凝縮器
21a :ファン
40 :膨張弁
41 :循環弁
100 :冷水ライン
101 :冷水ポンプ