(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110836
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】ウエハ支持体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/5835 20060101AFI20240808BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20240808BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C04B35/5835
C04B41/87 F
H01L21/68 R
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015682
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】591034280
【氏名又は名称】株式会社フェローテックマテリアルテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100122183
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】山岸 航
(72)【発明者】
【氏名】森 一政
(72)【発明者】
【氏名】河野 仁
(72)【発明者】
【氏名】衛藤 俊一
(72)【発明者】
【氏名】柴瀬 惇志
【テーマコード(参考)】
5F131
【Fターム(参考)】
5F131AA02
5F131BA03
5F131BA04
5F131BA19
5F131BA23
5F131CA12
5F131EA03
5F131EB11
5F131EB12
5F131EB78
5F131EB79
(57)【要約】
【課題】耐食性に優れた新たなウエハ支持体を提供する。
【解決手段】ウエハ支持体30は、窒化ホウ素を含むマシナブルセラミックスからなる基材14と、基材の表面を覆う第1の層と、基材に少なくとも一部が内包された導電部材18,20と、を備える。第1の層は、窒化アルミニウムを主成分とするセラミックス焼結体で構成されており、基材14に含まれる窒化ホウ素の割合は、第1の層に含まれる窒化ホウ素の割合よりも高い。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素を含むマシナブルセラミックスからなる基材と、前記基材の表面を覆う第1の層と、前記基材に少なくとも一部が内包された導電部材と、を備え、
前記第1の層は、窒化アルミニウムを主成分とするセラミックス焼結体で構成されており、
前記基材に含まれる窒化ホウ素の割合は、前記第1の層に含まれる窒化ホウ素の割合よりも高いことを特徴とするウエハ支持体。
【請求項2】
前記第1の層は、厚みが0.3~3.0mmであることを特徴とする請求項1に記載のウエハ支持体。
【請求項3】
前記第1の層は、窒化アルミニウムを90~100質量%、窒化ホウ素を0~10質量%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のウエハ支持体。
【請求項4】
前記第1の層を覆う第2の層を更に備え、
前記第2の層は、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化イットリウム及び酸化マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一つ以上の材料で選択され、厚みが1.0~20μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のウエハ支持体。
【請求項5】
前記基材の熱膨張係数をΔ1[1×10-6/℃]、前記第1の層の熱膨張係数をΔ2[1×10-6/℃]とした場合、|Δ2-Δ1|≦1.0を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載のウエハ支持体。
【請求項6】
前記マシナブルセラミックスは、
窒化ホウ素、酸化ジルコニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素及び窒化アルミニウムのセラミックス成分の合計を100質量%とした場合に、窒化ホウ素を15~40質量%含有し、酸化ジルコニウムを0~40質量%含有し、窒化ケイ素を0~55質量%含有し、炭化ケイ素を0~20質量%含有し、窒化アルミニウムを0~75質量%含有し、
前記セラミックス成分の合計を100質量%とした場合に、更に焼結助剤成分を3~15質量%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のウエハ支持体。
【請求項7】
前記導電部材は、モリブデン、タングステン、タンタルおよびそれらを含む合金からなる群から選択される金属材料で構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のウエハ支持体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ウエハを支持する支持体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の静電チャック等に用いられるセラミックス材料は、窒化ケイ素や窒化アルミニウムといった加工が難しいファインセラミックスが多く、切削速度やチッピング(欠け)の観点から複雑な加工が困難であった。そこで、加工性に優れたマシナブルセラミックスを基材に用いたウエハ支持体が考案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のウエハ支持体は、半導体製造プロセスにおける腐食性のガスやプラズマ雰囲気に曝されると、表面からパーティクルが発生しやすい。そのパーティクルがウエハに付着すると、その後の半導体製造プロセスにおける不良の原因となる。そこで、プラズマによる腐食が少ない窒化アルミニウムからなる薄膜でマシナブルセラミックスの基材を覆うことが一案である。
【0005】
しかしながら、窒化アルミニウム膜に存在するピンホールなどの微小欠陥を起点とした腐食が発生した場合、その腐食が基材であるマシナブルセラミックスまで到達すると、顕著に腐食されてパーティクルが発生してしまい不良品の発生を引き起こす。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、耐食性に優れた新たなウエハ支持体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のウエハ支持体は、窒化ホウ素を含むマシナブルセラミックスからなる基材と、基材の表面を覆う第1の層と、基材に少なくとも一部が内包された導電部材と、を備える。第1の層は、窒化アルミニウムを主成分とするセラミックス焼結体で構成されており、基材に含まれる窒化ホウ素の割合は、第1の層に含まれる窒化ホウ素の割合よりも高い。
【0008】
マシナブルセラミックスは、一般的なファインセラミックスと比較して加工が容易であり、また、優れた耐熱衝撃性を有している。一方、窒化ホウ素等のマシナブルセラミックスは耐食性という観点からは必ずしも最適な材料とは言い難い。そこで、この態様によると、基材を作製する段階で複雑な形状を実現しなくても、基材を作製してから加工ができるため、様々な形状のウエハ支持体の製造が可能となる。加えて、この態様によると、基材に対する処理ガスやプラズマによる腐食を第1の層により低減できる。
【0009】
第1の層は、厚みが0.3~3.0mmであってもよい。これにより、仮に第1の層にピンホール等の微小欠陥が存在しても、基材まで腐食が届きにくくなる。
【0010】
第1の層は、窒化アルミニウムを90~100質量%、窒化ホウ素を0~10質量%含有してもよい。これにより、第1の層の耐食性を向上できる。
【0011】
第1の層を覆う第2の層を更に備えてもよい。第2の層は、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化イットリウム及び酸化マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一つ以上の材料で選択され、厚みが1.0~20μmであってもよい。これにより、第1の層のみの場合と比較して、基材の耐食性を更に向上できる。
【0012】
基材の熱膨張係数をΔ1[1×10-6/℃]、第1の層の熱膨張係数をΔ2[1×10-6/℃]とした場合、|Δ2-Δ1|≦1.0を満たす。これにより、基材と第1の層とを一体焼結で作製できる。
【0013】
マシナブルセラミックスは、窒化ホウ素、酸化ジルコニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素及び窒化アルミニウムのセラミックス成分の合計を100質量%とした場合に、窒化ホウ素を15~40質量%含有し、酸化ジルコニウムを0~40質量%含有し、窒化ケイ素を0~55質量%含有し、炭化ケイ素を0~20質量%含有し、窒化アルミニウムを0~75質量%含有してもよい。セラミックス成分の合計を100質量%とした場合に、更に焼結助剤成分を3~15質量%含有してもよい。
【0014】
導電部材は、モリブデン、タングステン、タンタルおよびそれらを含む合金からなる群から選択される金属材料で構成されていてもよい。
【0015】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。また、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐食性に優れた新たなウエハ支持体を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】参考例に係るウエハ支持体の概略断面図である。
【
図2】保護層に欠陥がある場合に発生する腐食の様子を説明するための模式図である。
【
図3】AlN膜に欠陥があるウエハ支持体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した写真を示す図である。
【
図4】本実施の形態に係るウエハ支持体の概略断面図である。
【
図5】
図5(a)~
図5(e)は、本実施の形態に係るウエハ支持体の製造方法の一例を示す図である。
【
図6】
図6(a)は、実施例1に係る窒化アルミニウム焼結体の保護層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した写真を示す図、
図6(b)は、実施例3に係る窒化アルミニウム焼結体の保護層の断面を走査型電子顕微鏡により撮影した写真を示す図、
図6(c)は、参考例に係る窒化アルミニウム薄膜の断面を走査型電子顕微鏡により撮影した写真を示す図である。
【
図7】
図7(a)は、実施例1に係る窒化アルミニウム焼結体の保護層の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した写真を示す図、
図7(b)は、実施例3に係る窒化アルミニウム焼結体の保護層の表面を走査型電子顕微鏡により撮影した写真を示す図、
図7(c)は、参考例に係る窒化アルミニウム薄膜の表面を走査型電子顕微鏡により撮影した写真を示す図、
図7(d)は、
図7(a)の写真を画像解析ソフトで変換した画像を示す図、
図7(e)は、
図7(b)の写真を画像解析ソフトで変換した画像を示す図、
図7(f)は、
図7(c)の写真を画像解析ソフトで変換した画像を示す図である。
【
図8】
図8(a)~
図8(c)は、プラズマ暴露試験を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0019】
(ウエハ支持体)
はじめに、ウエハ支持体の概略構成について参考例として説明する。ウエハ支持体は、シリコンウエハ等の半導体基板を支持できればよく、吸着機構や加熱機構を備えていてもよい。例えば、ウエハ支持体は、単にウエハを搭載するサセプタであってもよい。また、ウエハ支持体は、搭載されたウエハに対して吸着力を生じる静電チャックや、ウエハを加熱するヒータであってもよい。また、ウエハ支持体が支持する対象物は、主にウエハであるが、その他の部材や部品を支持するものであってもよい。
【0020】
参考例では、ウエハ支持体がヒータ付きの静電チャックである場合を一例に説明する。
図1は、参考例に係るウエハ支持体の概略断面図である。
【0021】
参考例に係るウエハ支持体10は、プラズマCVDといった半導体製造装置のチャンバ12内でウエハWを支持するために用いられる。ウエハ支持体10は、マシナブルセラミックスからなる基材14と、基材14の表面14aを覆う保護層16と、基材14に少なくとも一部が内包された導電部材18,20と、を有する。ウエハWは、搭載面16aである保護層16の表面に搭載される。
【0022】
導電部材18は、搭載面16aにウエハWを固定するための吸着力を発生させる電流が流れる静電チャック電極として機能する。また、導電部材20は、ウエハWを所定のプロセス温度まで加熱するための抵抗加熱体(ヒータ)として機能する。なお、本実施の形態に係るウエハ支持体10において、導電部材18,20は、焼結体である基材14に埋設されている。そのため、導電部材18,20は、焼成の段階で原料粉末の内部に配置されている必要があり、焼成温度で溶けないような高融点金属であることが好ましい。例えば、導電部材の材料としては、モリブデン、タングステン、タンタル等の高融点金属や、それらを二種以上含む合金が好ましい。
【0023】
また、ウエハ支持体10は、チャンバ側に露出する搭載面16aから基材14の内部を通過して外部のガス供給源(不図示)まで繋がっているガス導入口22が形成されていてもよい。ガス導入口22は、搭載面16aに吸着されたウエハWを裏面側から冷却するガスを供給するためのものである。
【0024】
(マシナブルセラミックス)
本発明者は、ウエハ支持体に適した材料を見出すために鋭意検討した結果、加工性がよい(快削性を有する)いわゆるマシナブルセラミックスからなる焼結体が好ましいことを見出した。
【0025】
マシナブルセラミックスは、一般的なファインセラミックス、例えば酸化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素等と比較して、機械加工が容易である。つまり、マシナブルセラミックスにおいては、セラミックスの加工で問題になるチッピングと呼ばれる欠けが発生しにくく、複雑な加工が可能となる。また、マシナブルセラミックスの加工時の研削量(加工レート)は、ファインセラミックスの加工時の研削量の数倍から数百倍であり、効率のよい加工が可能である。
【0026】
マシナブルセラミックスはセラミックス成分となる複数の原料化合物が混合されている複合材であり、例えば、炭化ケイ素の配合割合によって、体積抵抗率を調整できる。その結果、クーロン型やジョンソン・ラーベック型といった静電チャックの吸着機構のどちらにも対応できる。また、ヒータの場合は炭化ケイ素を添加しないことで絶縁体として使用できる。なお、マシナブルセラミックスは全体が均一組成である必要はなく、ウエハWが搭載される搭載面16aに近い導電部材18を収容する部分、導電部材20を収容する部分のそれぞれで、各部分の機能が最適になるように組成を異ならせてもよい。
【0027】
更に主成分の一つに窒化ホウ素が挙げられているが、一般的な酸化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素に比べ優れた耐熱衝撃性を有しており、製品であるウエハ支持体になった際、割れによる破損を防止することができる。
【0028】
参考例や後述する実施の形態に係るマシナブルセラミックスは、窒化ホウ素、酸化ジルコニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素及び窒化アルミニウムからなる群より選択された窒化ホウ素を必須とする少なくとも二つ以上の材料からなる焼結体である。窒化ホウ素は、被削性にも優れており、窒化ホウ素を必須成分とするマシナブルセラミックスを用いることで加工レートを大きくできる。また、基材の内部に異種材料である導電部材が内包されたウエハ支持体の場合、基材と導電部材の物性の違いによっては温度変化に対して内部応力が生じる。または、ウエハ支持体の外周部と中心部の温度差によって熱応力が生じる。しかしながら、窒化ホウ素は、優れた耐熱衝撃性を有しているため、基材が割れにくくなる。
【0029】
参考例に係るマシナブルセラミックスは、窒化ホウ素、酸化ジルコニウム、窒化ケイ素及び炭化ケイ素のセラミックス成分の合計を100質量%とした場合に、窒化ホウ素を10~80質量%含有し、窒化ケイ素を0~80質量%含有し、酸化ジルコニウムを0~80質量%含有し、炭化ケイ素を0~40質量%含有しているとよい。
【0030】
また、参考例や後述する実施の形態に係るマシナブルセラミックスは、焼結助剤成分を含有している。焼結助剤は、窒化ケイ素や窒化ホウ素の焼結に使用されているものから選択することができる。好ましい焼結助剤は酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化イットリウム(イットリア)、およびランタノイド金属の酸化物から得られた1種若しくは2種以上である。より好ましくはアルミナとイットリアの混合物、若しくはこれに更にマグネシアを添加した混合物、若しくはイットリアとマグネシアの混合物等である。
【0031】
焼結助剤成分の配合量は、セラミックス成分の合計を100質量%とした場合に、外掛けで1~25質量%、好ましくは3~15質量%、より好ましくは5~10質量%の範囲とすることが望ましい。焼結助剤成分の配合量が1質量%以上、好ましくは3質量%以上であれば、緻密化しやすくなり、焼結体の密度不足や機械的特性の低下を抑制できる。一方、焼結助剤成分の配合量が25質量%以下であれば、強度の低い粒界相が低減されることで、機械的強度の低下や粒界相の増加による加工性の低下が抑制できる。
【0032】
なお、窒化ホウ素は、被削性に優れるものの強度特性が悪い。したがって、焼結体中に粗大な窒化ホウ素が存在すると、それが破壊起点となって、加工時のカケ、割れ発生要因となる。このような粗大な窒化ホウ素粒子を形成しないためには、原料粉末を微粉にすることが有効である。主原料粉末、特に窒化ホウ素の原料粉末は平均粒径2μm未満のものを使用することが望ましい。窒化ホウ素は、六方晶系(h-BN)低圧相のものや立方晶系(c-BN)高圧相のものなどが存在するが、快削性の観点では六方晶系の窒化ホウ素が好ましい。また、加工性の観点では、窒化ホウ素が多いほど、また、窒化ケイ素(および酸化ジルコニウム)が少ないほど好ましい。また、機械的強度やヤング率は、窒化ホウ素が多いほど、また、窒化ケイ素(および酸化ジルコニウム)が少ないほど低くなる。
【0033】
マシナブルセラミックスとしては、例えば、BN含有窒化ケイ素系セラミックス(「ホトベールII」、「ホトベールII-k70」:株式会社フェローテックマテリアルテクノロジーズ製)が挙げられる。なお、ホトベールII-k70の組成は、窒化ホウ素が38.5質量%、窒化ケイ素が54.1質量%、イットリアが5.5質量%、マグネシア1.9質量%である。このBN含有窒化ケイ素系セラミックスは、曲げ強度が600MPa以下、ヤング率が250GPa以下、ビッカース硬度が5GPa以下である。このような特性を有するマシナブルセラミックスは、加工時の単位時間当たりの研削量(加工レート)が大きく、複雑な形状のウエハ支持体であっても効率良く生産できる。また、基材を単純な形状のブロックとして作製してから、所望の形状に切削加工することで、一部品で複雑なウエハ支持体を製造できる。
【0034】
(焼結体の製造方法)
まず、所定の配合量に応じて、窒化ホウ素、酸化ジルコニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素及び窒化アルミニウム等のセラミックス成分となる主原料粉末と、セラミックス成分の合計を100質量%とした場合に、1~25質量%の焼結助剤粉末と、を混合して原料粉末を調製する。この混合は、例えば、湿式ボールミル等により行うことができる。
【0035】
次に、原料粉末または成型体あるいはその両方を高温加圧下で成形し、焼成することで焼結体が作製される。なお、原料粉末または成型体の一部を焼結体に置き換えてもよい。また、ヒータのための抵抗加熱体や静電チャックの電極を焼結体の内部に設けるためには、ホットプレス装置に原料粉末、成型体または焼結体を充填する際に、焼成後に導電体となる部材や材料(例えば、金属板、金属箔、導電ペースト、コイル、メッシュ等)を所定位置に配置(埋設)すればよい。なお、導電体の形状は特に限定されない。この焼成は、例えば、ホットプレス装置を用いて行うことができる。ホットプレスは、非酸化性(不活性)雰囲気である例えば窒素やアルゴン雰囲気中で行うが、加圧窒素中で行ってもよい。ホットプレス温度は例えば、1300~1950℃の範囲である。温度が低すぎると焼結が不十分となり、高すぎると主原料の熱分解が起こるようになる。加圧力は20~50MPaの範囲内が適当である。ホットプレスの持続時間は温度や寸法にもよるが、通常は1~4時間程度である。高温加圧焼結は、HIP(ホットアイソスタティクプレス)により行うこともできる。この場合の焼結条件も、当業者であれば適宜設定できる。
【0036】
その後、焼結体を所望の形状に加工し、ウエハ支持体が製造される。参考例や実施の形態に係るマシナブルセラミックスは、高強度で高マシナブル性(快削性)を有するので、複雑な微細加工が工業的に現実的な時間で可能である。また、焼結体を製造する際の諸条件は、後述するプラズマによる耐食性を考慮して、マシナブルセラミックスの平均結晶粒径が0.5μm以下になるように選択されているとよい。これにより、仮に多結晶の一部がプラズマ雰囲気における腐食でパーティクルとして剥離された場合であっても、パーティクル自体が小さいことで半導体製造プロセスでの不良を低減できる。なお、マシナブルセラミックスの平均結晶粒径は、0.1μm以下がより好ましい。
【0037】
上述のように、参考例に係る基材14に用いられるマシナブルセラミックスは、一般的なファインセラミックスと比較して加工が容易である。そこで、この態様によると、基材14を作製する段階で複雑な形状を実現しなくても、基材を作製してから加工ができるため、様々な形状のウエハ支持体の製造が可能となる。
【0038】
一方、ウエハ支持体10は、用途によっては半導体製造プロセスにおいて腐食性のガスやプラズマ雰囲気に曝される。腐食性のプラズマとしては、CF4、C4F8、SF8、NF3、CHF3等のフッ素系ガスが例示され、加えて、Ar、O2、CO2等のガスが混合されることがある。ケイ素成分はフッ素系のプラズマと反応性が高いため、ケイ素を含む基材はこれらのプラズマに対し耐性が低い。また、窒化ホウ素は、O2プラズマと反応性が高い。
【0039】
前述のように、参考例に係るマシナブルセラミックスは、主成分に窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ホウ素が含まれることがあり、本願発明者は、ケイ素や窒化ホウ素を含むマシナブルセラミックスが腐食性のプラズマ雰囲気において耐食性が低くなる可能性に想到した。そして、プラズマやプロセスガスに対するウエハ支持体の耐食性を向上するために、本実施の形態に係るウエハ支持体10の基材14の表面に保護層16を設けた。
【0040】
(保護層)
参考例に係る保護層16は、基材14よりもプラズマによる腐食が少ない材料で構成されている。これにより、基材14に対するプラズマによる腐食を保護層16により低減できる。また、基材14を構成する材料が剥離しやすい場合であっても、保護層16により剥離を低減できる。本実施の形態に係る保護層16は、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、イットリウムアルミニウムガーネット(YAG:Y3O5Al12)及びイットリウムアルミニウムモノクリニック(YAM:Y4Al2O9)からなる群より選択された少なくとも一つ以上の材料で構成されている。特に窒化アルミニウムは耐熱衝撃性に優れているため、静電チャックに高い熱衝撃が加わるプロセスにおいて好適な材料である。
【0041】
図1に示すように、保護層16の表面である搭載面16aと導電部材18との間の厚みが誘電体層の厚みtとなる。そのため、保護層16の膜厚が厚すぎると、誘電体層の厚みtが大きくなり、十分な吸着力が得られなくなる。また、厚みtが大きすぎると、高い熱衝撃が加えられた際に保護層16にクラックが発生しやすくなる。一方、保護層16の厚みtが小さすぎると、プラズマに対して十分な耐食性が得られなくなる。そこで、参考例に係る保護層16は、厚みが1~30μmの範囲である。これにより、所望の吸着力とプラズマに対する耐食性とを両立できる。保護層16の厚みは、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上であれば、プラズマに対してより良好な耐食性が得られる。また、保護層16の厚みは、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下であれば、より十分な吸着力が得られる。
【0042】
(保護層の成膜方法)
保護層の成膜は、例えば、CVD、PVD(スパッタリングやイオンプレーティング)、エアロゾルデポジションといった方法で行われる。これらの方法は、膜厚制御に優れているため、前述の保護層の厚みのように1~30μmの範囲で精度の高い成膜が可能である。
【0043】
スパッタリングは、基板とターゲット(膜となる材質)を対向させ、10-1~数Pa程度のArガス雰囲気中で、ターゲットに負の高電圧を印加して放電させ、Arイオンをターゲットに衝突させる。Arイオンが衝突すると、スパッタリング現象でターゲットから原子が飛び出てくる。飛び出た原子が基材に堆積することで保護層が形成される。
【0044】
参考例に係る保護層16の形成には、反応性スパッタリング法が好適である。酸化アルミニウムや窒化アルミニウムなどの化合物をターゲットに用いると、スパッタ率が顕著に低下するため、コーティング速度が極めて小さくなることや、元素ごとにスパッタ率が異なるためにターゲットの組成からズレた膜が形成されることが知られている。そのため、参考例に係る保護層の構成材料が窒化アルミニウムの場合、単一金属のアルミニウムのターゲットを用いて、反応性ガスであるN2と反応させる反応性スパッタリング法が適している。
【0045】
保護層の他の成膜方法であるイオンプレーティングは、基板と蒸発源(膜となる材質)を対向させ、10-2~10-4Pa程度の真空中で蒸発源から膜の原料を溶解・蒸発させて基板に堆積させる方法である。蒸発させる材料の種類や反応ガスの導入で様々な材質の膜を作製できる。真空蒸着を基盤としたコーティング技術の中で、イオンを用いた方法全般をイオンプレーティングと呼ぶ。具体的には、高周波イオンプレーティング、反応性イオンプレーティング、イオンアシスト蒸着など多様な手法があるが、いずれも採用できる。参考例に係る保護層の構成材料が酸化イットリウムの場合、蒸着源に金属イットリウムを使用し、反応ガスにO2を導入してプラズマ雰囲気中で成膜できる。また、イオンアシスト蒸着の場合、蒸着源に酸化イットリウムを使用し、アシストイオンにO2イオンを使用することで、構成材料が酸化イットリウムの保護層を成膜できる。なお、構成材料が酸化マグネシウムや酸化アルミニウムの保護層である場合も、高周波イオンプレーティング、反応性イオンプレーティング、イオンアシスト蒸着によって成膜できる。
【0046】
前述のスパッタリングやイオンプレーティングなどの、イオンを用いた成膜方法の場合、成膜前にArイオンで表面をクリーニング(イオンの衝撃で表面付着物や酸化膜を除去)できるため、密着力の高い膜を得ることができる。N2イオンやH2イオンは特に有機物のクリーニング(一般的にイオンボンバードメントと呼ばれる工程)に有効である。ボンバードメント工程により、基材であるマシナブルセラミックス表面の極微細なパーティクル(超音波洗浄などでは除去しきれないもの)を除去できるので、保護膜を備える基材は、保護膜のない基材より初期のパーティクル発生を低減できる。これらの手法は、粉を焼き固めて作るバルクセラミックスと比べ、窒化アルミニウムの純度も高くできるので、ウエハ汚染の懸念も下がり、不良低減に寄与する。
【0047】
また、マシナブルセラミックスからなる基材を用いた静電チャックは、基材の表面粗さが所定の範囲(例えば、算術平均粗さRaが0.02μm≦Ra≦0.2μmの範囲)であれば、ウエハと点接触するため、デチャック時にウエハとのこすれが少ない。一方で窒化ホウ素のへき開性のため、物理的な力で粒子の剥離(クラック)が生じやすいので、そのままではパーティクルが発生しやすい。しかしながら、前述の窒化アルミニウムなどの保護層16を基材14表面にコートすることで、粒子の剥離が低減され、パーティクルの発生を低減できる。加えて、参考例に係る成膜方法で作製された保護層16は、基材14の表面粗さに追従し、算術平均粗さRaが0.02μm≦Ra≦0.2μmの範囲の表面を有する。つまり、プラズマに対する耐食性のある保護層16を備えながら、保護層16自体がウエハと点接触できるため、参考例に係るウエハ支持体10は、パーティクル低減に極めて優れている。
【0048】
また、各層が硬質材料(ヤング率が高い材料の組合せ)で構成された多層部材の場合、いずれの層も変形しにくいため、熱応力などでクラックが発生しやすい。しかしながら、参考例に係るウエハ支持体10のように、主たる成分として窒化ホウ素を含む基材14を用いることで応力を吸収(緩和)できる。また、参考例に係るマシナブルセラミックスは複合材料であるため、基材14の熱膨張率を保護層16の熱膨張率に合わせることが可能である。その結果、各層の熱膨張率の相違による熱応力を小さくでき、クラックの発生、すなわちパーティクルの発生が抑制される。
【0049】
上述の参考例に係るウエハ支持体は、マシナブルセラミックスの持つ優れた耐熱衝撃性を持ちつつ、保護層16によってプラズマやプロセスガスに対する耐食性を向上できる。しかしながら、保護層であるAlN膜に存在するピンホール(小さな穴)などの微小欠陥があると以下の問題が発生しうる点に発明者らは想到した。
図2は、保護層に欠陥がある場合に発生する腐食の様子を説明するための模式図である。
図3は、AlN膜に欠陥があるウエハ支持体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した写真を示す図である。
【0050】
図2や
図3に示すように、欠陥を起点とした腐食が発生した場合、基材であるマシナブルセラミックスに到達すると顕著に腐食される。その結果、パーティクルが発生し、不良品の発生を引き起こす。また、一般的な成膜技術ではピンホールなどの微小欠陥をゼロにするのは極めて難しい。また、全体的な腐食によってAlN膜がなくなってしまった場合、耐食性の低いマシナブルセラミックスの基材が前面に曝されてしまうため、多量のパーティクルが発生し、不良品の発生にとどまらず装置を汚染してしまう。その結果、設備故障やダウンタイムの増加を引き起こす。
【0051】
そこで、本実施の形態に係るウエハ支持体では、保護層16と基材14との間に窒化アルミニウムを主成分とする焼結体を設けている。
図4は、本実施の形態に係るウエハ支持体の概略断面図である。なお、
図1に示す参考例に係るウエハ支持体10と同様の構成(導電部材18,20、ガス導入口22等)については図示を省略している。
【0052】
本実施の形態に係るウエハ支持体30は、窒化ホウ素を含むマシナブルセラミックスからなる基材14と、基材14の表面14aを覆う保護層15と、基材14に少なくとも一部が内包された導電部材18,20と、を備える。保護層15は、窒化アルミニウムを主成分とするセラミックス焼結体で構成されており、基材14に含まれる窒化ホウ素の割合は、保護層15の割合よりも高い。なお、保護層15と基材14との間に、マシナブルセラミックスを主成分とする中間層を設けてもよい。
【0053】
マシナブルセラミックスは、一般的なファインセラミックスと比較して加工が容易であり、また、優れた耐熱衝撃性を有している。そこで、本実施の形態に係るウエハ支持体30は、基材14を作製する段階で複雑な形状を実現しなくても、基材14を作製してから加工ができるため、様々な形状のウエハ支持体の製造が可能となる。
【0054】
一方、窒化ホウ素等のマシナブルセラミックスは耐食性という観点からは必ずしも最適な材料とは言い難い。そこで、耐食性の高い窒化アルミニウムを主成分とするセラミックス焼結体からなる保護層15を基材14の上に更に設けることにより、窒化アルミニウムの薄膜からなる保護層16の微小欠陥や保護層16の損耗が生じても、基材14が腐食雰囲気に直接暴露されにくくなり、基材14に対する処理ガスやプラズマによる腐食を抑制できる。その結果、パーティクルの量が抑制され、製造プロセスにおける不良発生が低減されるとともに、半導体製造装置の保護も図られる。
【0055】
なお、保護層15は、厚みが0.3~3.0mm、より好ましくは0.5~2.0mmの範囲であってもよい。これにより、仮に保護層15にピンホール等の微小欠陥が存在しても、基材まで腐食が届きにくくなる。なお、保護層の厚みが薄すぎる(例えば0.3mm未満)と焼結体として製造することが困難となり、また、微小欠陥が存在した場合に基材まで孔が貫通しやすくなる。一方、保護層の厚みが厚すぎる(例えば3.0mmより大きい)と、マシナブルセラミックスの基材14と傾斜構造の保護層15とを積層することで耐熱衝撃性を改善することの効果がなくなる。
【0056】
保護層15は、窒化アルミニウムを70~100質量%、窒化ホウ素を0~30質量%含有してもよく、窒化アルミニウムを80~100質量%、窒化ホウ素を0~20質量%含有してもよく、好ましくは、窒化アルミニウムを90~100質量%、窒化ホウ素を0~10質量%含有しているとよい。これにより、保護層15の耐食性を向上できる。なお、保護層15は、耐熱衝撃性の観点からは窒化ホウ素が多いほどよい。保護層15に含まれる窒化アルミニウムや窒化ホウ素の粒径は細かいほど耐食性が良く、好ましくは平均粒径で5μm以下、より好ましくは2μm以下であるとよい。粒径が細かいことで発生するパーティクルが小さくなり、ウエハ支持体が使用される装置で製造される半導体の不良を低減できる。
【0057】
本実施の形態に係るウエハ支持体30は、保護層15を覆う保護層16を更に備えている。本実施の形態に係る保護層16は、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化イットリウム及び酸化マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一つ以上の材料で選択され、厚みが1.0~20μmである。保護層16の厚みは、より好ましくは1.0~10mmである。これにより、保護層15のみの場合と比較して、基材14の耐食性を更に向上できる。なお、保護層15が薄すぎると耐食性が低くなり(部品寿命が短くなり)、保護層15が厚すぎると成膜時の内部応力でクラックが入りやすくなる。
【0058】
また、セラミックス焼結体の比較的厚みのある保護層15の上に、保護層16のような薄膜の窒化アルミニウムを成膜することで、仮に保護層16が腐食されてその下層のセラミックス焼結体の保護層15が露出しても、再び保護層16を作製することでウエハ支持体を再使用できる。その結果、ウエハ支持体の寿命を延ばすことができる。
【0059】
本実施の形態に係るウエハ支持体30においては、基材14の熱膨張係数をΔ1[1×10-6/℃]、第1の層である保護層15の熱膨張係数をΔ2[1×10-6/℃]とした場合、|Δ2-Δ1|≦1.0を満たす。これにより、基材14と保護層15とを一体焼結で作製できる。なお、|Δ2-Δ1|の値が大きいと、焼成時の熱応力によって基材14又は保護層15のいずれかにクラックが発生するなど、良好な一体焼結品が得られない可能性が高くなる。特に、窒化ホウ素はヤング率が小さい材料であり、熱応力を緩和しクラック発生を抑制する効果があることから、各層の特性のミスマッチを緩和する傾斜材料に有効である。また、一体焼結の方法によれば、従来のマシナブルセラミックスでは作製できない高い熱伝導率の材料からなる層をウエハ接触面やその近傍に形成できるので、半導体製造工程におけるウエハの均熱性を高めることができる。具体的には、従来のマシナブルセラミックスでは熱伝導率が~70W/m・K程度までしか実現できなかったが、基材14の上に保護層15である窒化アルミニウムを主成分とするセラミックス焼結体を設けることで、90W/m・K以上の熱伝導率を実現できる。
【0060】
なお、基材14と保護層15の熱膨張率差Δ=|Δ2-Δ1|が1.0より大きい場合、基材14と保護層15との間に、熱膨張係数Δ1と熱膨張係数Δ2の間の熱膨張係数Δ3(Δ1<Δ3<Δ2又はΔ2<Δ3<Δ1)を有する中間層を形成してもよい。この場合、熱膨張率差|Δ1-Δ3|、|Δ2-Δ3|は、共に1.0×10-6/℃以下であるとよい。
【0061】
なお、本実施の形態に係る基材のマシナブルセラミックスは、窒化ホウ素、酸化ジルコニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素及び窒化アルミニウムのセラミックス成分の合計を100質量%とした場合に、窒化ホウ素を15~40質量%含有し、酸化ジルコニウムを0~40質量%含有し、窒化ケイ素を0~50質量%含有し、炭化ケイ素を0~20質量%含有し、窒化アルミニウムを0~75質量%含有してもよい。セラミックス成分の合計を100質量%とした場合に、更に焼結助剤成分を3~15質量%含有してもよい。
【0062】
図5(a)~
図5(e)は、本実施の形態に係るウエハ支持体の製造方法の一例を示す図である。はじめに、
図5(a)に示すように、基材14の組成に調整された粉体32をホットプレスの型34に詰めて一軸加圧し第1の加圧体36を形成する(
図5(b))。その後、第1の加圧体36の上から、保護層15の組成に調整された粉体38を詰めて一軸加圧し、第1の加圧体36の上に第2の加圧体40を形成する(
図5(c))。このように得られた2層構造の成形体を焼成炉42に配置しホットプレス焼成する(
図5(d))。これにより、基材14と保護層15とが一体的に形成され、さらに、保護層15の上に保護層16をCVDやPVDによって成膜する(
図5(e))。
【0063】
なお、粉体32を型34に詰めたのち、その上から粉体38を型34に詰めて、同時に一軸加圧してもよい。別の製造方法としては、粉体32をCIP(Cold Isostatic Pressing)した成形体の上に、粉体38をCIPした成形体を乗せて、ホットプレス焼成することで一体成形してもよい。
【0064】
[実施例]
次に、各実施例や各比較例に係るウエハ支持体の特性について説明する。各実施例および各比較例におけるセラミックス成分および焼結助剤成分の含有量は表1に示すとおりである。膜厚は走査型電子顕微鏡により撮影した断面写真から計測した。
【表1】
【0065】
(断面組織)
図6(a)は、実施例1に係る窒化アルミニウム焼結体の保護層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した写真を示す図、
図6(b)は、実施例3に係る窒化アルミニウム焼結体の保護層の断面を走査型電子顕微鏡により撮影した写真を示す図、
図6(c)は、参考例に係る窒化アルミニウム薄膜の断面を走査型電子顕微鏡により撮影した写真を示す図である。
【0066】
図6(a)や
図6(b)に示す窒化アルミニウム焼結体の保護層15は、粒径が1~5μm程度の粒子が詰まった組織である。一方、
図6(c)に示す窒化アルミニウム膜は、スパッタリングにより成膜されたものであり、1μm未満の柱状粒子が並んで詰まった組織である。このように、焼結体と薄膜とでは明確な組織上の相違があることがわかる。また、窒化アルミニウム焼結体を傾斜材料として利用することで、窒化アルミニウム薄膜を作成する方法では実現困難な厚みの保護層15(耐食層)を形成できる。これにより、本実施の形態に係るウエハ支持体の耐久性が向上(長寿命化)する。
【0067】
実施例1~5、比較例1~3に係るウエハ支持体の試料表面特性とプラズマ暴露試験の結果を表2に示す。クラックの有無は目視または実態顕微鏡(×20倍)にて確認した。
【表2】
【0068】
(試料表面特性)
図7(a)は、実施例1に係る窒化アルミニウム焼結体の保護層の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した写真を示す図、
図7(b)は、実施例3に係る窒化アルミニウム焼結体の保護層の表面を走査型電子顕微鏡により撮影した写真を示す図、
図7(c)は、参考例に係る窒化アルミニウム薄膜の表面を走査型電子顕微鏡により撮影した写真を示す図、
図7(d)は、
図7(a)の写真を画像解析ソフトで変換した画像を示す図、
図7(e)は、
図7(b)の写真を画像解析ソフトで変換した画像を示す図、
図7(f)は、
図7(c)の写真を画像解析ソフトで変換した画像を示す図である。
【0069】
ここで、
図7(a)~
図7(c)に示すSEM写真の倍率は1000倍である。また、画像解析は、画像解析ソフト(WIN ROOF)を用いて凹み部を抽出し、凹み部の面積率を算出した。なお、明確な凹み部の面積率を抽出するため、画像解析ソフトでは、1μm
2以下の凹み部は計算から除外している。
【0070】
図7(a)や
図7(b)に示す窒化アルミニウム焼結体の表面と、
図7(c)に示す窒化アルミニウム薄膜の表面とでは、凹凸の形状やサイズ、面積率が異なる。例えば、窒化アルミニウム焼結体の表面の凹み部(ポア)の形状はエッジが立っているが、窒化アルミニウム薄膜の表面の凹み部(ポア)の形状はエッジが立っていない。また、窒化アルミニウム薄膜の表面の凹み部の面積率(0.6%)は、窒化アルミニウム焼結体の表面の凹み部の面積率より小さい。なお、ポアが多い、またはエッジが立っていると表面積が大きくなり腐食ガスに曝される部分が増えるため耐食性には不利である。そのため、面積率は小さいほうが好ましい。
【0071】
また、試料表面の状態として、JIS B 0601で規定された算術平均粗さRaを測定した。なお、実施例1~5については保護層16に相当する薄膜の表面を測定した。
【0072】
(プラズマ暴露試験)
図8(a)~
図8(c)は、プラズマ暴露試験を説明するための模式図である。試験に用いたプラズマ発生装置は、サムコ株式会社製のRIE-10Nである。プラズマ出力は100W、ガス種はCF
4を40sccm、O
2を10sccm混合したものである。圧力は40Pa、処理時間は240分(30分×8回)である。
図8(a)に示すように、ウエハ支持体を模した試験対象の試料44の一部にカプトンテープ等のマスク46を貼り付け、
図8(b)に示すようにプラズマ処理をする。所定の処理時間後にマスク46を除去し、マスク46が覆われていなかった場所と、マスク46で覆われていた場所との段差dを腐食量として測定した(
図8(c)参照)。表2に示すように、実施例1~5に係るウエハ支持体は、段差dが0μmであり腐食が確認されなかった。
【0073】
(ビッカース硬度)
プラズマに対する耐食性には、前述の化学反応によるエッチング以外に物理的なエッチングが影響を与える可能性がある。例えば、フッ素系(CF4)のガスを用いたプラズマと反応しても昇華しにくい物質(例えばアルミニウムやイットリウム)を含む材料を保護層とすることで、化学的反応による耐食性は向上する。加えて、物理的な衝撃にも強い高硬度な保護層であれば、プラズマに対する更に高い耐食性が期待される。
【0074】
そこで、本願発明者らは、保護層の膜硬度に着目した。膜硬度は、ナノインデンテーション法でナノインデンテーション硬さH_ITを測定し、ビッカース硬度(GPa)に換算した。例えば、実施例1,3,4に係るウエハ支持体は、ビッカース硬度が10GPa以上であり、プラズマ暴露試験による腐食量の結果と合わせて、プラズマに対する更に高い耐食性が期待される。
【0075】
以上、本発明を上述の実施の形態や実施例を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや工程の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0076】
10 ウエハ支持体、 12 チャンバ、 14 基材、 14a 表面、 15 保護層、 16 保護層、 16a 搭載面、 18 導電部材、 20 導電部材、 22 ガス導入口、 W ウエハ。