IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中村物産有限会社の特許一覧

<>
  • 特開-免震補助構造および衝撃吸収部材 図1
  • 特開-免震補助構造および衝撃吸収部材 図2
  • 特開-免震補助構造および衝撃吸収部材 図3
  • 特開-免震補助構造および衝撃吸収部材 図4
  • 特開-免震補助構造および衝撃吸収部材 図5
  • 特開-免震補助構造および衝撃吸収部材 図6
  • 特開-免震補助構造および衝撃吸収部材 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110851
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】免震補助構造および衝撃吸収部材
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240808BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20240808BHJP
   E04B 1/98 20060101ALI20240808BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20240808BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20240808BHJP
   F16F 7/12 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
E04G23/02 F
E04B1/98 Y
E04B1/98 V
F16F15/02 D
F16F7/00 F
F16F7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015701
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】396002851
【氏名又は名称】中村物産有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077573
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100123009
【弁理士】
【氏名又は名称】栗田 由貴子
(72)【発明者】
【氏名】中村 拓造
【テーマコード(参考)】
2E001
2E139
2E176
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E001DG02
2E001DH37
2E001DH39
2E001EA01
2E001EA05
2E001FA02
2E001FA21
2E001FA71
2E001GA01
2E001HD01
2E001HD08
2E001HD09
2E139AA01
2E139AA05
2E139AC19
2E139BC08
2E139CA01
2E139CA21
2E139CB04
2E139CC02
2E139CC15
2E176AA01
2E176AA07
2E176BB28
3J048AA06
3J048AC06
3J048AD05
3J048BD02
3J048DA04
3J048DA06
3J048EA38
3J066AA23
3J066BA03
3J066BC01
3J066BD05
3J066BF01
(57)【要約】
【課題】
壁面に設備配管などの凸部を有する上部構造体に対し免振装置が設けられた免震構造において、当該上部構造体が水平方向に大きく揺れた場合に、当該揺れを効率よく吸収することを可能であり、既存の免震構造にも十分に適用可能な免震補助構造および衝撃吸収部材を提供する。
【解決手段】
免震補助構造100は、上部構造体10と、下部構造体20と、上部構造体10と下部構造体20との間に位置する免振装置30とを備える免震構造を補助する構造であり、上部構造体10の壁面12の一部に対し離間して対向する対向壁26と、対向壁26に設けられた衝撃吸収部材40と、を備え、衝撃吸収部材40は発泡樹脂体42を有し、発泡樹脂体42は壁面12に対向する面である衝撃吸収面44を有し、衝撃吸収面44は、壁面12に設けられた凸部14と相補的な関係にある凹部46を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造体と、下部構造体と、前記上部構造体と前記下部構造体との間に位置する免振装置とを備える免震構造を補助する免振補助構造であり、
前記上部構造体の壁面の一部に対し離間して対向する対向壁と、
前記対向壁に設けられた衝撃吸収部材と、を備え、
前記衝撃吸収部材は発泡樹脂体を有し、
前記発泡樹脂体は前記壁面に対向する面である衝撃吸収面を有し、
前記衝撃吸収面は、前記壁面に設けられた凸部と相補的な関係にある凹部を備えることを特徴とする免震補助構造。
【請求項2】
前記衝撃吸収面に設けられた前記凹部の底面から前記凸部までの距離Iと、前記衝撃吸収面の、前記凹部を有しない領域と前記壁面までの距離IIとが、
距離I>距離IIである請求項1に記載の免震補助構造。
【請求項3】
前記凸部と前記凹部とが水平方向に互いに近接して前記衝撃吸収面の前記凹部が形成されていない領域が前記壁面に接触した状態において、
前記凸部の側周面が凹部に非接触である請求項1または2に記載の免震補助構造。
【請求項4】
前記衝撃吸収部材が、前記対向壁の主面に設けられている請求項1または2に記載の免震補助構造。
【請求項5】
上部構造体と、下部構造体と、前記上部構造体と前記下部構造体との間に位置する免振装置とを備える既存の免震構造において、前記上部構造体の壁面の一部に対し離間して対向する対向壁に設けられる衝撃吸収部材であり、
前記衝撃吸収部材は発泡樹脂体を有し、
前記発泡樹脂体は、前記壁面に対向する面である衝撃吸収面を有し、
前記衝撃吸収面は、前記壁面に設けられた凸部と相補的な関係にある凹部を備えることを特徴とする衝撃吸収部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震補助構造に関し、より具体的には、免震装置を備える免震補助構造において、当該免震補助構造が水平方向に過大な変位を示した場合にも安全性に優れるよう、補助する免震補助構造および衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
大地震の発生や長周期地震動に対する研究は、近年活発になってきており、新規に建設される建造物はもちろんのこと、上述する免振装置を備える既存の建造物に対する対策の重要性が迫られている。
【0003】
従来、免震構造として、上部構造体(例えば建造物)と下部構造体(たとえば基礎構造)とを弾性部材等を介して縁切りする免震装置が配置された免震構造が知られている。上記弾性部材としては例えばゴム(特には高減衰ゴム)が知られる。上記免震構造において、上部構造体の下部領域と下部構造体とは、免振装置で縁切りされているため、一定のクリアランス(距離)が確保された状態で対向している。上記クリアランスは、上部構造体の下面と下部構造体の上面との間だけでなく、適宜、上部構造体の下部領域の壁面と、これに対向する下部構造体の鉛直壁面(例えば擁壁)との間にも、同様に設けられている。地震などが発生し地盤とともに下部構造体が水平方向に揺れた場合、一般的には、下部構造体に対し縁切りされた上部構造体には当該下部構造体からの揺れの伝達量が少ない上、当該揺れは、免震装置に備わる弾性部材の変形等により減衰される。上記弾性部材の変位の例としては、地震発生時の上部構造体と下部構造体との水平方向における相対的な位置変位が挙げられる。設計上、上記相対的な位置変位は、上記クリアランスの範囲内であり、そのため、上部構造体と下部構造体との衝突は回避されると想定されている。
【0004】
しかしながら、大地震の発生などにより免震装置における弾性部材の水平方向における変位が甚大となった場合、あるいは長周期地震動が生じて地震動の周期と上部構造体の固有周期とが一致して共振し上部構造体が大きく揺れる場合等には、上部構造体と下部構造体との相対的な位置変位が甚大となり、その結果、上部構造体と下部構造体とが衝突する虞があった。かかる衝突により上部構造体または下部構造体が損傷する虞があり問題であった。
【0005】
上記問題に対応する技術として以下の免震構造500(以下、従来技術1ともいう)が提案されている。従来技術1の説明には、図6(a)(b)を用いる。図6(a)は、従来の衝撃吸収部材530を備える免震構造500の平常時の概略図であり、図6(b)は従来の衝撃吸収部材530を備える免震構造500の振動発生時の概略図である。
従来技術1の免震構造500は、図6(a)に示すとおり、免震装置540を備え、建物510(上部構造体)と建物基礎550(下部構造体)の擁壁522とが対向する部位において、擁壁内面520にゴムによって形成された衝撃吸収部材530が設けられている(例えば下記特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら従来技術1は、地震発生時等において建物510の揺れを抑制することを主目的とするにもかかわらず、衝撃吸収部材530としてゴムが用いられることで、建物510の揺り戻しを助長する虞があることがわかった。即ち、ゴムは、一般的に弾性力が大きいため、側壁512がゴムからなる衝撃吸収部材530に衝突すると当該ゴムは一時的に圧縮変形して衝突の力を受け止めるが、速やかに、その変形をもとに戻そうとする力(反発力)が発生する。その結果、当該反発力を受けた建物510に揺り戻しが生じ、建物510の揺れが助長される虞があり問題であった。図6(b)における矢印は、ゴムの反発力を模擬的に示している。
【0007】
高減衰ゴムは、衝撃力が与えられた場合、変形するとともに、その変形を生じせしめたエネルギー(変形エネルギー)を熱エネルギーに変換する変換作用が発揮されることが知られる。ただし上記変換作用は、高減衰ゴムがせん断変形した際に顕著に発揮されるものの、圧縮変形した場合には小さい。そのため、高減衰ゴムであっても、圧縮変形した場合には、一般的なゴムに近い反発力が生じ得る。そのため衝撃吸収部材530として高減衰ゴムが用いられた場合であっても、大地震発生等によって建物510の揺り戻しを引き起こす可能性がある。
【0008】
そこで本出願人は、下記特許文献2に示すとおり、衝撃吸収部材として発泡樹脂体を用いる免振構造(以下、従来技術2ともいう)を提案した。かかる本出願人が提案した従来技術2によれば、水平方向における上部構造体と下部構造体との相対的な位置変位が甚大である場合でも、上部構造体と下部構造体とは、衝撃吸収部材を介して間接的に衝突するにとどまる。したがって、衝突時における上部構造体および下部構造体の損傷が防止される。発泡樹脂体を用いる衝撃吸収部材は、当該衝撃吸収部材と下部構造体との衝突によって発生した衝突力を良好に吸収するとともに、ゴムのような反発力を発生しない。そのため、本発明は、従来技術1のような衝撃吸収部材の反発力による上部構造体の揺り戻しが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2014-77229号公報
【特許文献2】特許第6494054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のとおり従来技術2は良好な免振性を示すものの、上部構造体(建造物)と下部構造体(基礎構造)との間を縁切りする免振装置が設けられた既存の免震構造に対し従来技術2を適用しようとした場合、以下の問題があった。かかる問題について図7を用いて説明する。図7は、上部構造体10と、基礎構造22および擁壁24を備える下部構造体24との間に免震装置30が設けられるとともに、擁壁24の壁面に発泡樹脂体42を備える従来の衝撃吸収部材40’が配置された免震構造200の概略縦断面図である。
【0011】
図7に示すとおり、基礎22との間に免震装置30が設けられた上部構造体10は、実際には壁面に設備配管などの種々の凸部14が設けられている。したがって壁面12は、完全に平坦ではない。そのため、なるべく凸部14を有さず平坦な領域を探して既存の上部構造体10の壁面12の望ましい場所に発泡樹脂体42を備える衝撃吸収部材40を設置しようとした場合、設置箇所が制限されるという問題があった。凸部14は壁面12において規則的に配置されているものも含まれるが、その多くは不規則に配置されており、その不規則な凸部14の存在がさらに衝撃吸収部材40の設置箇所の選択を困難なものとしていた。また凸部14の存在に拠らず、既存の上部構造体10の壁面12に衝撃吸収部材40を取り付けるためには種々の制約があり実質的に取り付け難い場合があった。
一方、擁壁24の壁面は上部構造体10の壁面12に比して不規則な凸部14が少ないことが一般的である。そこで図7に示すように、衝撃吸収部材40’を上部構造体10側ではなく、擁壁24の壁面に設置する態様が考えられる。
【0012】
しかしながら、図7に示す既存の免震構造200において、擁壁24の壁面に衝撃吸収部材40’を配置した場合、衝撃吸収部材40’(発泡樹脂体42)と凸部14との距離IIIは、衝撃吸収部材40(発泡樹脂体42)と凸部14を有しない側面12の領域との距離IVと異なってしまう。また衝撃吸収部材40’と上部構造体10とにおいて望ましい距離を確保しようとした場合、図7紙面右側に示す衝撃吸収部材40’と凸部14とのように、互いが接触したり近接し過ぎたりする場合がある。このように免震装置30を備える既存の上部構造体10に対し、従来技術2を適用しようとした場合、衝撃吸収部材40’と、上部構造体10との間で均等なクリアランスを確保し難いという問題があった。そして上記クリアランスの差異が有意に大きいと、大地震や長周期地震動が発生し、上部構造体10が水平方向に大きく揺れた場合に、発泡樹脂体42による上部構造体10の揺れを吸収する効果が低下する虞があった。
つまり、免振装置30を備える既存の上部構造体10の免震のために、衝撃吸収部材40’を取り付けることは難しい場合があった。
【0013】
新規に免振装置30を備える上部構造体10を建設する場合には、上記問題を予め加味して上部構造体10の壁面12における凸部14の配置に考慮した設計を行い、衝撃吸収部材40’を望ましい位置に取り付けることが可能であるが、設計の自由度が低下するという問題がある。
【0014】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、壁面に凸部を有する上部構造体に対し免振装置が設けられた免震構造において、当該上部構造体が水平方向に大きく揺れた場合に、当該揺れを効率よく吸収することを可能であり、既存の免震構造にも十分に適用可能な免震補助構造および衝撃吸収部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の免震補助構造は、上部構造体と、下部構造体と、上記上部構造体と上記下部構造体との間に位置する免振装置とを備える免震構造を補助する免振補助構造であり、上記上部構造体の壁面の一部に対し離間して対向する対向壁と、上記対向壁に設けられた衝撃吸収部材と、を備え、上記衝撃吸収部材は発泡樹脂体を有し、上記発泡樹脂体は上記壁面に対向する面である衝撃吸収面を有し、上記衝撃吸収面は、上記壁面に設けられた凸部と相補的な関係にある凹部を備えることを特徴とする。
【0016】
また本発明の衝撃吸収部材は、上部構造体と、下部構造体と、上記上部構造体と上記下部構造体との間に位置する免振装置とを備える既存の免震構造において、上記上部構造体の壁面の一部に対し離間して対向する対向壁に設けられる衝撃吸収部材であり、上記衝撃吸収部材は発泡樹脂体を有し、上記発泡樹脂体は、上記壁面に対向する面である衝撃吸収面を有し、上記衝撃吸収面は、上記壁面に設けられた凸部と相補的な関係にある凹部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の免震補助構造は、既存の上部構造体の壁面に対向する対向壁において、当該上部構造体の壁面に設けられた凸部と相補的な関係にある凹部を備える発泡樹脂体を備えた衝撃吸収部材が当該対向壁に設置されることにより、既存の免震構造を補助する。本発明によれば、上部構造体と衝撃吸収部材との間で均等なクリアランスを確保し易く、大地震や長周期地震動、あるいは台風などによる強風が発生し、上部構造体が水平方向に大きく揺れた場合に、発泡樹脂体により上部構造体の揺れを良好に吸収することができる。
また本発明の免震補助構造は、新規に建設される上部構造体に対しても、当該上部構造体の設計の自由度を低下させることなく良好な免振を実現することができる。
【0018】
また本発明の衝撃吸収部材は、上部構造体における凸部に相補的な関係にある凹部を備える。そのため、既存の免震構造における上部構造体の壁面に対向する対向壁に設置される場合であっても、上部構造体と衝撃吸収部材との間に均等なクリアランスを確保しやすく、優れた免震効果を発揮しうる。また本発明の衝撃吸収部材を使用することにより、新規に建造される上部構造体に対し、設計の自由度を低下させることなく、優れた免震性を付与することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第一実施形態にかかる免震補助構造の概略縦断面図である。
図2図1に示す免震補助構造のII-II断面図である。
図3】(a)(b)は、本発明における凹部と凸部との関係を説明する説明図である。
図4】(a)(b)は、本発明における凹部と凸部との関係を説明する説明図である。
図5】本発明の第二実施形態にかかる免震補助構造の部分概略縦断面図である。
図6】従来技術1の問題点を説明する図であり、図6(a)は従来技術1の衝撃吸収部材を備える免震構造の平常時の概略図であり、図6(b)は従来技術1の衝撃吸収部材を備える免震構造の振動発生時の概略図である。
図7】従来技術2の問題点を説明する概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は適宜に省略する。
本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、1つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。図示する本発明の実施態様は、理解容易のために、特定の部材を全体において比較的大きく図示する場合、または小さく図示する場合などがあるが、いずれも本発明の各構成の寸法比率を何ら限定するものではない。
また本発明の説明に関し、特段の断りなく上下という場合には、任意の地点から天方向を上方とし、上記天方向に対し相対的に下向きの方向を下方といい、水平方向とは、上記上下方向に対し垂直な方向を指す。
【0021】
尚、以下の本発明の説明に関し、上部構造体の大きな横揺れを誘因する地震、長周期地震動、あるいは台風などによる強風といった様々な事象を包括して大地震等という場合がある。
【0022】
<第一実施形態>
以下に、本発明の免震補助構造の第一実施形態について図1図4を用いて説明する。本発明の衝撃吸収部材の一実施形態の説明として、以下の第一実施形態における衝撃吸収部材40の説明が参照される。
図1は、本発明の第一実施形態にかかる免震補助構造100の概略縦断面図である。図2は、図1に示す免震補助構造100のII-II断面図である。図3図4は、本発明における凹部14と凸部46との関係を説明する説明図である。
【0023】
図1図2に示すとおり、免震補助構造100は、上部構造体10と、下部構造体20と、上部構造体10と下部構造体20との間に位置する免振装置30とを備える既存の免震構造を補助する補助構造である。具体的には、免振補助構造100は、上部構造体10の壁面12の一部(即ち壁面12の下方領域)に対し離間して対向する対向壁26と、対向壁26に設けられた衝撃吸収部材40と、を備える。本実施形態における対向壁26は、たとえば擁壁などが挙げられ、本実施形態では基礎22と連続して下部構造体20を構成する。対向壁26の、上部構造体10側とは反対側の面は、直接または間接に地盤と隣接している。ただし、本発明における対向壁26は、上述する擁壁などに限定されず、衝撃吸収部材40を取り付けることができる壁面であればよく、また基礎22などの下部構造体と不連続な構造体であってもよい。
【0024】
衝撃吸収部材40は、発泡樹脂体42を有して構成され、実質的に発泡樹脂体42のみから構成されたものを含む。発泡樹脂体42は壁面12に対向する面である衝撃吸収面44を有しており、かかる衝撃吸収面44には、壁面12に設けられた凸部14と相補的な関係にある凹部46が形成されている。
【0025】
本実施形態にかかる免震補助構造100は、上部構造体10および免振装置30を備える既存の免震構造にも十分に適用できる点で非常に有用性が高い。つまり既存の免震構造における対向壁26に対し本発明の一実施形態である衝撃吸収部材40を設置することによって、免振補助構造100をなすことができる。
即ち、既存の免震構造において、壁面12に不規則な凸部14が設けられた既存の上部構造体10の、当該凸部14を予め確認し、これに相補的に対応する凹部46が衝撃吸収面44に形成された発泡樹脂体42を備える衝撃吸収部材40を準備し、これを当該凸部14に対向する対向壁26の所定領域に設置することで、本実施形態の免震補助構造100を容易に実施し、既存の免震構造を補助することができる。
かかる免震補助構造100によれば、従来課題であった上部構造体10と衝撃吸収部材40との間において均等なクリアランスを確保することが可能であり、上部構造体10と下部構造体20とが直接に衝突し得るような揺れが発生した場合であっても、その衝突力を良好に発泡樹脂体42によって吸収することが可能である。
【0026】
本実施形態の免震補助構造100は、以下の免震補助効果が発揮される。即ち免震補助構造100は、発泡樹脂体42を用いて構成された衝撃吸収部材40が用いられることから、震動の発生により水平方向における上部構造体10と対向壁26との相対的な位置変位が甚大となった場合でも、これらが直接に衝突することが回避される。そのため、免震補助構造100では、大地震等の発生により上部構造体10と対向壁26とが直接に衝突してこれらが損傷することが防止される。また衝撃吸収部材40を介して上部構造体10と対向壁26とが間接的に衝突した場合、ゴムのごとき反発力が発生して上部構造体10の揺り戻しが生じるといったことなく、発泡樹脂体42が圧縮変形してその衝突力が吸収される。
【0027】
かかる免震補助構造100によれば、大地震等が発生した場合であっても、上部構造体10の水平方向の揺れを小さく抑えることができ、また慣性により発生する上部構造体10の揺れを吸収することが可能である。そのため免震補助構造100によれば、既存の免震構造に対して、大地震等の発生による上部構造体10の揺れを小さくし、また揺れ時間を従来に比べて短縮するといった効果を付与することができる。また上部構造体の上方において当該上部構造体の壁面に設けられたエキスパンションジョイントなどの構造物が隣接する他の構造体に衝突するのが良好に防止される。
以下に、本実施形態にかかる免震補助構造100についてさらに詳細に説明する。尚、以下の説明では既存の免震構造に対し、衝撃吸収部材40を設置することで構成された免震補助構造100を例に説明するが、かかる説明は本発明を何ら制限するものではなく、本発明は、新規に構築される免震構造に付随して衝撃吸収部材40を設置して免震補助構造100をなす態様を包含する。
【0028】
(上部構造体および下部構造体)
本実施形態にかかる免震補助構造100は、上部構造体10、下部構造体20および免振装置30を備える既存の免震構造をベースとして実施される。
上部構造体10は、地盤上に設けられる構造体であって、免震装置30により地震の揺れを減衰可能な構造体である。ここで地盤とは、非掘削の地面および掘削された地盤の底面のいずれも含む。たとえば上部構造体10としては、ビル若しくは家屋などの建造物、または鉄塔若しくは看板などの長身の構造物、あるいはかつて長周期地震動において火災事故が発生した石油タンクなどが挙げられる。
【0029】
本実施形態における下部構造体20は、地盤に構築された基礎22を含む。かかる基礎22の上方には免震装置30が設けられている。基礎22は、上部構造体10の荷重を支持するとともに当該荷重を地盤に伝達する建造物等の種々の基礎構造を指す。本実施形態では、基礎22と対向壁22とが連続し全体として下部構造体20が構成されている。ただし、本発明において対向壁22は、基礎22などを備える下部構造体20とは独立の構造物であってもよい。
【0030】
(免震装置)
免震装置30は、上部構造体10と下部構造体20との間に配置されている。免震装置30は、上部構造体10と下部構造体20とを縁切りすることで下部構造体20から上部構造体10に対し伝達される揺れを抑制するとともに、地盤から下部構造体20に対し揺れが伝達された場合に、水平方向に動作することで、揺れを減衰可能な装置である。たとえば、免震装置30としては、ゴムなどの弾性部材を備え、かかる弾性部材のせん断変形により水平方向の揺れを減衰する装置の他、所謂滑り支承装置などが例示される。上記弾性部材としてはたとえば高減衰ゴムが好ましい。
【0031】
(衝撃吸収部材)
衝撃吸収部材40は、発泡樹脂体42を有し、上部構造体10の壁面12の一部(即ち壁面12の下方領域)に対し離間して対向する対向壁26に設置されている。本実施形態における衝撃吸収部材40は、上面が、地盤面(G.L)よりも低い高さに位置している。ただし、これは本発明を限定するものではなく、たとえば、対向壁22が地盤面G.Lを超えて上方まで延在している場合には、適宜、衝撃吸収部材40の上面も地盤面G.Lを超えた高さになるよう配置されてもよい。衝撃吸収部材40が設けられることにより、上部構造体10と対向壁26との相対的な位置変位が甚大な場合であっても、これらが直接に衝突することが回避されている。
【0032】
本実施形態における衝撃吸収部材40は、対向壁26の主面に設けられている。換言すると、衝撃吸収部材40は、衝撃吸収部材40を設置するために予め対向壁26に設けられた凹領域や凸領域ではなく、衝撃吸収部材40本来の側面における任意の位置に設置される。即ち、免振補助構造100を実施するために、対向壁26に特別な加工を施す必要がなく、たとえば既存の対向壁26に後付けで衝撃吸収部材40を容易に設置することができる。
【0033】
発泡樹脂体:
衝撃吸収部材40に用いられる発泡樹脂体42は、壁面12に対向する面である衝撃吸収面44を有している。衝撃吸収面44は、上部構造体10が水平方向に大きく振動した際に、かかる上部構造体10と直接または間接に衝突しうる面であり、かかる衝突により発生した衝突力の少なくとも一部が発泡樹脂体42に吸収される。
衝撃吸収面44は、壁面12に設けられた凸部14と相補的な関係にある凹部46を備える。ここで、凸部14と凹部46とが相補的な関係にあるとは、壁面12に設けられた凸部14と、かかる凸部に対向するよう対向壁26側に設けられた凹部46とが、互いに近づくよう水平方向に移動させた際に、凹部46に凸部14の少なくとも一部が嵌入する関係をいう。
【0034】
衝撃吸収面44に形成される凹部46は、対向壁26において衝撃吸収部材40の配置が予定される領域において、対向する壁面12に設けられた凸部14に相補的となるよう形成される。凹部12は、壁面12から対向壁26側に突出するありとあらゆる凸構造に対し相補的に形成されてもよいが、たとえば壁面12から対向壁26側に3cm以上、あるいは5cm以上、あるいは10cm以上の高さで突出する構造物を凸部14とし、これに対し相補的に凹部12を形成してもよい。
【0035】
発泡樹脂体42に凹部46を形成する方法は特に限定されず、まず直方体等のプレ発泡樹脂体を準備し、かかるプレ発泡樹脂体の衝撃吸収面44に相当する面において、任意の手段で所望形状の凹部46を切り欠き、または繰り抜く等の加工をすることができる。あるいは、対向する凸部14の形状を勘案しキャビティ内に凹部46を形成するための突出部が設けられた成形型を準備し、当該成形型を使用して発泡樹脂体を型内成形することもできる。
【0036】
上記相補的な関係の例を図3に示す。図3は、壁面12に設けられた凸部14と、かかる凸部14に対向する凹部46とを水平方向に互いに近接させた状態を仮想的に示している。かかる凹部46は、上記凸部14に対向する対向壁26に設置された衝撃吸収部材40における発泡樹脂体42の衝撃吸収面44に形成されたものであるが、対向壁26は図示省略している。尚、本実施形態における凸部14は直方体として図示しており、対向壁26に対向する先端面15および先端面15と凸部14の基端との間における側周面16とを有する。ここでいう先端面15とは、免振補助構造100の平常時において、対向する凹部46に対し、最も近接する凸部14の先端部分を指し、有意な面積を示す面だけではなく実質的な端部も含む。
【0037】
図3(a)は、凹部46に凸部14の全体が嵌入しており、凸部14の先端部分(先端面15)が凹部46に接触するとともに、衝撃吸収面44の凹部46が形成されていない領域が壁面12に接触する態様を示している。つまりかかる態様では、図2に示す距離Iと距離IIとが等しく、上部構造体10と衝撃吸収部材40(発泡樹脂体42)との間のクリアランスが均等に保たれる。そのため、大地震等が発生し、上部構造体10が水平方向に大きく揺れた場合であっても、衝撃吸収部材40に設けられた発泡樹脂体42によって上部構造体10の揺れを効率よく吸収可能である。
また、本態様では、衝撃吸収面44の凹部46が形成されていない領域が壁面12に接触した状態において、凸部14の側周面16が凹部46に接触していない。つまり、凹部46の深さ方向に対し直交する方向において、凹部46は凸部14よりも大きく形成されている。この結果、大地震等の発生により、上部構造体10が完全に水平方向ではなく捻じれながら横揺れした場合であっても、凸部14が凹部46に嵌入しやすく、互いの相補性が良好に保たれる。
【0038】
図3(b)は、凹部46に凸部14の全体が嵌入しており、衝撃吸収面44の凹部46が形成されていない領域が壁面12に接触した状態において、凸部14の先端部分(先端面15)が凹部46に非接触である態様を示している。つまりかかる態様では、図2に示す距離Iが距離IIより大きい。これにより、上部構造体10が水平方向に大きく揺れた場合、まず壁面12と衝撃吸収面44の凹部46を有しない領域とが衝突し(この衝突を第一次衝突という)、一方、凸部14の先端面15と凹部46とは衝突しないか、または第一次衝突により衝突力の一部が吸収された後に凸部14の先端面15と凹部46とが遅れて衝突する(この衝突を第二次衝突という)。その結果、大地震等の発生において上部構造体10の水平方向の変位が大きくなった場合でも、凸部14が対向壁26側に衝突するのを避け、あるいは衝突したとしてもその衝撃を低減することができ、凸部14の破損を良好に防止することができる。
また、本態様でも、衝撃吸収面44の凹部46が形成されていない領域が壁面12に接触した状態において、凸部14の側周面16が凹部46に接触していない。
【0039】
図4(a)は、凹部46に凸部14の一部が嵌入しており、凸部14の先端面15が凹部46に接触するとともに、凸部14の側周面16が凹部46に対し非接触である態様を示している。つまり、図2に示す距離Iより距離IIが大きい。本実施形態における凸部14と凹部46は、かかる態様を含む。
【0040】
図4(b)は、衝撃吸収面44の凹部46が形成されていない領域が壁面12に接触した状態において、凹部46に凸部14の全体が嵌入しており、凸部14の先端面15および側周面16がともに凹部46に対し非接触である態様を示している。つまり、図2に示す距離Iより距離IIが小さい。本態様における凸部14は、側面視において非直方体であって対向壁26に対し突出する高さが均一ではない形状をなす。凸部14は直方体などの定形の形状以外の他の種々の形状であってよい。
本発明において、凸部14と相補的な関係にある凹部46とは、図3(a)(b)、図4(a)に示すように凸部14の形状と類似または相似の形状である凹部46だけでなく、4図(b)に示すように、凸部14の少なくとも一部を嵌入可能な範囲で、凸部14の形状と非類似の形状である凹部46を含む。
【0041】
上部構造体10が水平方向に大きく変位した際に凸部14の破損を良好に防止するという観点からは、凸部14と凹部46との関係において、凸部14の高さHは、凹部46の深さDと同じかあるいは小さい(H≦D)であることが好ましい。ここでいう凸部14の高さHとは、凸部14の基端から先端までの最も高い部分の高さを指し、一方、凹部46の深さDとは、上述する高さHを示す凸部14と対向する領域の凹部46の深さを指す。換言すると、凸部14と凹部46とが水平方向に最も近接した状態となったとき、凸部の先端面15および側周面16がともに凹部46に接触しないことが好ましい。
【0042】
尚、図2に示すとおり、本明細書において、距離Iとは、凹部46の底面から凸部14の先端までの距離を指し、距離IIとは、衝撃吸収面44の凹部46を有しない領域と側面12までの距離IIを指す。
【0043】
上述するとおり、免震補助構造100は、上部構造体10と衝撃吸収部材40との間における均等なクリアランスを確保することが可能である。
ここで、本発明に関しクリアランスとは、上部構造体10と衝撃吸収部材40との距離を指し、より具体的には、凸部14の先端面15から凹部46までの距離Iおよび壁面12から衝撃吸収面40の凹部が設けられていない領域までの距離IIを含む。また本発明に関し均等なクリアランスとは、上記距離Iおよび上記距離IIが等しい場合、および略等しい場合を含む。
【0044】
上述する距離Iおよび距離IIの数値は特に限定されないが、それぞれ3cm以上であることが好ましく、5cm以上であることがより好ましく、8cm以上であることがさらに好ましい。
また、距離IIが大きすぎると免震装置30に設けられたゴムのせん断変形が大きくなり当該ゴムの劣化が進む虞があり、また免震装置30の慣性力により二次的に生じる上部構造体10の揺れが長く続く虞がある。かかる観点からは、距離Iおよび距離IIはそれぞれ、100cm以下であることが好ましく、50cm以下であることがより好ましく、30cm以下であることがさらに好ましく、10cm以下であることが特に好ましい。
上記範囲において、距離Iは、距離IIの寸法を考慮しながら決定することができ、距離Iと距離IIとは同じであってもよいし、異なっていてもよいが、図3を用いて説明するとおり、距離I≧距離IIであることが好ましく、距離I>距離IIであることがより好ましい。
【0045】
ところで、従来の免震装置が設けられた上部構造体は、免震装置が設けられていない上部構造体に比べて、中小規模の地震あるいは強風などによっても揺れが大きく、かつ揺れが持続する傾向にあった。これは、免震装置に設けられたゴムがせん断変形するためである。このような揺れは、上部構造体に居る人に不快感を与える虞がある。免震補助構造100を実施することにより、上述するような揺れをも低減させることが可能であり、特に距離IIが3cm以上30cm以下であって距離I≧距離IIである免震補助構造100を実施することで上述する揺れを良好に低減させることが可能である。
【0046】
発泡樹脂体:
次に衝撃吸収部材40に設けられた発泡樹脂体42について説明する。本実施形態における発泡樹脂体42は、中実であり衝撃吸収面44に凹部46が形成された発泡樹脂体である。たとえば発泡樹脂体42は直方体であって衝撃吸収面44に凹部46が形成された形状であってもよい。ただし本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、発泡樹脂体42は、中実であることに限定されず、内部に空隙または空洞が形成された発泡樹脂体を包含する。
【0047】
上述のとおり、衝撃吸収部材40は発泡樹脂体を備えるため、上部構造体10と対向壁26との相対的な位置変位が甚大な場合、衝撃吸収部材40と壁面12および/または凸部14とが衝突することで発泡樹脂体42が圧縮変形し、これによって衝突のエネルギーが発泡樹脂体42に吸収される。その結果、衝突による上部構造体10および下部構造体20の損傷が防止される。圧縮変形した発泡樹脂体42は、ゴムのような反発力を発揮しないため、上部構造体10の揺り戻しが抑制される。
発泡樹脂体42において、衝突のエネルギーを吸収する圧縮変形とは、主として塑性変形を意味する。即ち、発泡樹脂体42は、壁面12および/または凸部14と衝突した際、速やかに塑性変形する性質を有しており、かかる塑性変形によって衝突のエネルギーを吸収する。発泡樹脂体42の厚み寸法や揺れの大きさにもよるが、発泡樹脂体42は、一般的には、一度の衝突では全てが塑性変形せず、衝突面側が塑性変形するとともに、その内側には非塑性変形領域(弾性変形し形状が復元する領域)を残す。そのため、発泡樹脂体42は、繰り返し、衝突のエネルギーを吸収することが可能である。尚、ここでいう塑性変形とは、圧縮のエネルギーを吸収可能な程度の圧縮変形を意味し、具体的には、圧縮変形により永久的に形状が復元しない変形だけではなく、圧縮変形し、瞬時には形状が復元しないものの時間をかけて形状の一部または全部が復元する変形も含む。
【0048】
発泡樹脂体42の塑性変形量が閾値よりも多くなった場合、または大地震等が発生した後には、適宜、発泡樹脂体42の一部または全部を交換すればよい。即ち、本発明における発泡樹脂体42は、塑性変形により衝突のエネルギーを吸収することを前提とする部材であって、適宜のタイミングで交換可能な部材である。ゴムに比べて、発泡樹脂体42は軽量であり、取扱い性も容易なため、交換等の作業が容易である。
塑性変形量は、設置直後の発泡樹脂体42の厚み寸法(先端基端方向における寸法)に対する、計測時の厚み寸法の比率が設定値を下回った場合を目安にするとよい。
【0049】
建物基礎の一部や置き換え地盤などに用いられる発泡樹脂体(以下、基礎用発泡樹脂体ともいう)は、一般的に、繰り返しの交換を予定しないものであり、また建造物や地盤の荷重に長期的に耐えうる物性を備えるものが選択される。基礎用発泡樹脂体としては、具体的には、長期クリープ特性に優れるEPS(型内発泡により成形されたポリスチレン系樹脂)などが好例である。これに対し型内発泡により形成されたポリプロピレン系樹脂またはポリスチレン系樹脂は、同じ樹脂量において、圧縮応力が高く、またエネルギー吸収量が高い傾向にあり、発泡樹脂体42として適している。また、型内発泡成形されたポリプロピレン系樹脂発泡体またはポリスチレン系樹脂発泡体は、発泡樹脂粒子1粒ずつの変形により良好に衝撃を吸収することができる。エネルギーを吸収した発泡樹脂体42は、一部が塑性変形するが、衝突により塑性変形量が多くなった発泡樹脂体42は、適宜交換すればよい。
【0050】
発泡樹脂体42は、適度に圧縮強度が高いことが好ましく、発泡樹脂体42の圧縮強度の下限は好ましくは50kN/m2以上であり、より好ましくは100kN/m2以上であり、さらに好ましくは150kN/m2以上である。
発泡樹脂体42の圧縮強度の上限は、特に限定されないが、好ましくは400kN/m2以下であり、より好ましくは300kN/m2以下である。発泡樹脂体42の圧縮強度の上限範囲が上述する範囲であることによって、衝撃吸収部材40と壁面12および/または凸部14との衝突エネルギーが良好に吸収される。
上記圧縮強度は、JIS K 7220:2006に示される計測方法に準じて計測することができる。具体的には、縦寸法約50mm×横寸法約50mm×厚さ約50mmの試験片を作成し、該試験片を載荷速度10mm/分で圧縮せしめ5%圧縮ひずみ時の圧縮応力を測定することができる。
【0051】
免震補助構造100において、衝撃吸収部40が配置される位置や数は特に限定されない。たとえば図2に示すとおり、上部構造体100の周囲を囲むように複数の衝撃吸収部材40を設けることができる。また、図2に示すとおり上部構造体10の、凸部14を有しない壁面12に対しては、衝撃吸収面45に凹部を有しない発泡樹脂体42を備えた衝撃吸収部材40’が用いられてもよい。また図2では、上部構造体10の一つの壁面12に対向して一つの衝撃吸収部材40が設けられた態様を示したが、上部構造体10の一つの壁面12に対向して二つ以上の衝撃吸収部材40を設けてもよい。
また、図2の紙面上方に示すとおり、複数の凸部(凸部14a、14b)それぞれに相補的な複数の凹部(凹部46a、46b)が1つの衝撃吸収部材40に設けられていてもよい。
【0052】
発泡樹脂体42としては、押出発泡成形されたものよりも、型内発泡成形されたものが好ましい。押出発泡成形された押出発泡樹脂体は、数%の圧縮歪(%)において急激に座屈する傾向にあるが、型内発泡成形された型内発泡樹脂体は、圧縮歪(%)の増加に伴い座屈することなく圧縮応力が漸増するからである。
【0053】
衝撃吸収部材40に用いられる発泡樹脂体42は、適度な衝撃吸収力を発揮するものであればよく、たとえばポリプロピレン系樹脂発泡体、ポリスチレン系樹脂発泡体、またはポリエチレン系樹脂発泡体などから構成することができる。なかでも、発泡樹脂体42として、ポリプロピレン系樹脂発泡体またはポリエチレン系樹脂発泡体が好ましく、ポリプロピレン系樹脂発泡体がより好ましく、型内発泡により形成されたポリプロピレン系樹脂発泡体であることがさらに好ましい。ポリプロピレン系樹脂発泡体およびポリエチレン系
樹脂発泡体は圧縮歪に対する耐久性が高いからである。
【0054】
<第二実施形態>
以下に、本発明の免震補助構造の第二実施形態について図5を用いて説明する。図5は、本発明の第二実施形態にかかる免震補助構造120の部分概略縦断面図である。第二実施形態にかかる免震補助構造120は、衝撃吸収部材40に荷重分散板48が設けられている点、ならびに対向壁12に取付板50が設けられている点で、第一実施形態と相違し、その他の点については、適宜第一実施形態と同様に実施することが可能である。そのため、以下では主として第二実施形態に特有の構成について説明する。
【0055】
(荷重分散板)
本実施形態における衝撃吸収部材40は、中間部において、対向壁26に対し略平行な方向に延在する荷重分散板48が配置されている。ここで中間部とは、衝撃吸収部材40の先端と基端との間の任意の位置を意味する。尚、衝撃吸収部材40の先端とは衝撃吸収面44を指し、衝撃吸収部材40の基端とは、衝撃吸収面44とは反対側の面を指す。
荷重分散板48は、発泡樹脂体42aと発泡樹脂体42bとに挟まれて配置されている。
【0056】
荷重分散板48は、衝撃吸収部材40の先端(衝撃吸収面44)において負荷された衝突力(荷重)を基端に均等に伝達させるための部材である。衝撃吸収面44において不可された衝突力(荷重)は、荷重分散板48によって分散されて、荷重分散板48よりも対向壁26側に位置する発泡樹脂体42aに伝達される。そのため、荷重分散板48よりも壁面12側に位置する発泡樹脂体42bよりも、荷重分散板48よりも対向壁26側に位置する発泡樹脂体42aの劣化を遅らせることができる。したがって、大地震等が発生した後、または定期点検などで、適宜、発泡樹脂体42aだけを交換することもできる。
また、衝撃吸収面44には凹部46が形成されているため、発泡樹脂体42bは水平方向(先端基端方向)において厚みが均一ではない。そのため、衝撃吸収面44に負荷された荷重(衝突力)の吸収・伝搬も均一ではない場合がある。しかし、荷重分散板48の存在により、衝撃吸収面44を有する発泡樹脂体42bに負荷された荷重は、発泡樹脂体の中間部において発泡樹脂体42aに対し分散されるため、発泡樹脂体42aにおいて衝突力の吸収・伝搬が均され好ましい。
【0057】
荷重分散板48は、先端側の発泡樹脂体42に負荷された荷重を受け止めて当該荷重を面内に分散可能な部材であればよく、例えば所定厚みの金属板や硬質樹脂板などが挙げられるがこれに限定されない。より具体的な例としては、荷重分散板48がステンレスまたは防錆加工がなされた鉄などの金属部材からなる板状体であり、発泡樹脂体42a、42bがポリプロピレン系樹脂発泡体であることが好ましい。鉄やステンレスなどの金属とポリプロピレン系樹脂発泡体は、熱融着などの簡易な方法でしっかりと接合されるからである。そのため先端側の発泡樹脂体42bを交換する場合には、金属板である荷重分散板48から先端側の発泡樹脂体42bを剥離させて取り外し、その後、熱融着にて新しい発泡樹脂体42bを荷重分散板48の表面に容易に接合することができる。
【0058】
荷重分散板48の寸法および形状は特に限定されない。たとえば先端側からの荷重を発泡樹脂体42aにより平均的に分散可能であるという観点からは、荷重分散板48は、発泡樹脂体42aの荷重分散板48との当接面である側面43と、略同等の形状であることが好ましい。
【0059】
(取付板)
免震補助構造120では、衝撃吸収部材40は、取付板50を介して対向壁26に取り付けられている。取付板50は、平坦な板状体であって対向壁26の所定領域に沿って設けられており、固定具52によって対向壁26に固定されている。固定具52は対向壁26を対向壁26に固定できる手段であればよく、たとえば、取付板50に設けられた貫通孔を貫通するアンカーボルトなどであってもよい。
【0060】
取付板50を構成する部材は特に限定されないが、ステンレス板や防錆加工がなされた鉄板などからなる板状の金属部材であることが好ましい。金属部材で取付板50を構成することによって、衝撃吸収部材40が設けられた対向壁26の所定領域を補強することができる。
【0061】
以上に本発明の第一実施形態および第二実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
【0062】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)上部構造体と、下部構造体と、前記上部構造体と前記下部構造体との間に位置する免振装置とを備える既存の免震構造を補助する免振補助構造であり、
前記上部構造体の壁面の一部に対し離間して対向する対向壁と、
前記対向壁に設けられた衝撃吸収部材と、を備え、
前記衝撃吸収部材は発泡樹脂体を有し、
前記発泡樹脂体は前記壁面に対向する面である衝撃吸収面を有し、
前記衝撃吸収面は、前記壁面に設けられた凸部と相補的な関係にある凹部を備えることを特徴とする免震補助構造。
(2)前記衝撃吸収面に設けられた前記凹部の底面から前記凸部までの距離Iと、前記衝撃吸収面の、前記凹部を有しない領域と前記壁面までの距離IIとが、
距離I>距離IIである上記(1)に記載の免震補助構造。
(3)前記凸部と前記凹部とが水平方向に互いに近接して前記衝撃吸収面の前記凹部が形成されていない領域が前記壁面に接触した状態において、
前記凸部の側周面が凹部に非接触である上記(1)または(2)に記載の免震補助構造。
(4)前記衝撃吸収部材が、前記対向壁の主面に設けられている上記(1)から(3)のいずれか一項に記載の免震補助構造。
(5)上部構造体と、下部構造体と、前記上部構造体と前記下部構造体との間に位置する免振装置とを備える既存の免震構造において、前記上部構造体の壁面の一部に対し離間して対向する対向壁に設けられる衝撃吸収部材であり、
前記衝撃吸収部材は発泡樹脂体を有し、
前記発泡樹脂体は、前記壁面に対向する面である衝撃吸収面を有し、
前記衝撃吸収面は、前記壁面に設けられた凸部と相補的な関係にある凹部を備えることを特徴とする衝撃吸収部材。
【符号の説明】
【0063】
10・・・・・上部構造体
12・・・・・壁面
14、14a、14b・・・・・凸部
15・・・・・先端面
16・・・・・側周面
20・・・・・下部構造体
22・・・・・基礎
24・・・・・擁壁
26・・・・・対向壁
28・・・・・主面
30・・・・・免振装置
40、40’・・・・・衝撃吸収部材
42、42a、42b・・・・・発泡樹脂体
43・・・・・側面
44、45・・・・・衝撃吸収面
46、46a、46b・・・・・凹部
48・・・・・荷重分散板
50・・・・・取付板
52・・・・・固定具
54・・・・・基板
100、120・・・・・免振補助構造
200、500・・・・・免震構造
510・・・・・建物
512・・・・・側壁
520・・・・・擁壁内面
522・・・・・擁壁
530・・・・・衝撃吸収部材
540・・・・・免震装置
550・・・・・建物基礎
D・・・・・凹部の深さ
H・・・・・凸部の高さ
I・・・・・凹部の底面から前記凸部までの距離
II・・・・・凹部を有しない領域と側面までの距離
III、IV・・・・・発泡樹脂体と凸部との距離

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7