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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110907
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】ハイブリッド励磁式回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 19/12 20060101AFI20240808BHJP
   H02K 16/02 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
H02K19/12
H02K16/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023149432
(22)【出願日】2023-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2023015267
(32)【優先日】2023-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023098783
(32)【優先日】2023-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】疋田 一馬
(72)【発明者】
【氏名】内山 翔
【テーマコード(参考)】
5H619
【Fターム(参考)】
5H619AA01
5H619BB01
5H619PP02
5H619PP08
5H619PP12
(57)【要約】
【課題】高トルク化が可能なハイブリッド励磁式回転電機を提供する。
【解決手段】ハイブリッド励磁式回転電機は、磁石が配置されたロータコアを有するロータと、磁石に対して周方向に磁力を発生させるステータコイルを有し、ロータの外周に配置されるステータと、周方向に巻回され、ロータコアを励磁する励磁コイルと、を備える。ロータコアは、磁石が配置された磁極部と、極中心部に励磁コイルの励磁磁束を通す突極状部とを周方向に交互に有する。磁極部は、マグネットトルクを生じさせる第1磁石と、突極状部との両側の境界にそれぞれ配置され、第1磁石または隣り合う突極状部に向けて磁化された複数の第2磁石とを含む。
【選択図】図6

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石が配置されたロータコアを有するロータと、
前記磁石に対して周方向に磁力を発生させるステータコイルを有し、前記ロータの外周に配置されるステータと、
前記周方向に巻回され、前記ロータコアを励磁する励磁コイルと、を備え、
前記ロータコアは、前記磁石が配置された磁極部と、極中心部に前記励磁コイルの励磁磁束を通す突極状部とを前記周方向に交互に有し、
前記磁極部は、マグネットトルクを生じさせる第1磁石と、前記突極状部との両側の境界にそれぞれ配置され、前記第1磁石または隣り合う前記突極状部に向けて磁化された複数の第2磁石とを含む
ハイブリッド励磁式回転電機。
【請求項2】
前記ロータコアは、前記励磁コイルの軸方向一方側に配置される第1ロータコアと前記励磁コイルの軸方向他方側に配置される第2ロータコアとを有し、
前記第1ロータコアは、一方の磁極に対応する前記磁極部と、前記突極状部とを周方向に交互に有し、
前記第2ロータコアは、他方の磁極に対応する前記磁極部と、前記突極状部とを周方向に交互に有し、
前記第1ロータコアの前記磁極部と前記第2ロータコアの前記突極状部が前記軸方向に対向して配置され、
前記第1ロータコアの前記突極状部と前記第2ロータコアの前記磁極部が前記軸方向に対向して配置される
請求項1に記載のハイブリッド励磁式回転電機。
【請求項3】
前記磁極部は、複数の前記第1磁石を有し、
各々の前記第1磁石の磁石量と、各々の前記第2磁石の磁石量が等しい
請求項2に記載のハイブリッド励磁式回転電機。
【請求項4】
前記突極状部は、前記磁石を有しない鉄心で構成されている
請求項2に記載のハイブリッド励磁式回転電機。
【請求項5】
前記突極状部は、前記極中心部で径方向に延びる鉄心部と、前記鉄心部を隔てて周方向に対向して配置される2つの外径側空隙と、を有する
請求項2に記載のハイブリッド励磁式回転電機。
【請求項6】
前記外径側空隙には、ロータコア内の磁束を整流する磁石が嵌入されている
請求項5に記載のハイブリッド励磁式回転電機。
【請求項7】
前記突極状部は、前記外径側空隙よりも内径側に内径側空隙をさらに有する
請求項5または請求項6に記載のハイブリッド励磁式回転電機。
【請求項8】
磁石が配置されたロータコアを有するロータと、
前記磁石に対して周方向に磁力を発生させるステータコイルを有し、前記ロータの外周に配置されるステータと、
前記周方向に巻回され、前記ロータコアを励磁する励磁コイルと、を備え、
前記ロータコアは、前記磁石が配置された磁極部と、前記励磁コイルの励磁磁束を通す突極状部とを前記周方向に交互に有し、
前記磁極部は、マグネットトルクを生じさせる第1磁石と、前記突極状部との両側の境界にそれぞれ配置され、前記第1磁石または隣り合う前記突極状部に向けて磁化された複数の第2磁石とを含み、
前記突極状部には、内周側に凸となる湾曲形状をなし、磁壁を構成する帯状の空隙部が極中心部を跨いで形成される
ハイブリッド励磁式回転電機。
【請求項9】
前記突極状部の空隙部は、径方向に交わって延びる第1領域と、第1領域両端からそれぞれ外周側に延びる複数の第2領域とを有し、
前記極中心部の前記第1領域に空間を空けるとともに前記第2領域にそれぞれ磁石が配置される
請求項8に記載のハイブリッド励磁式回転電機。
【請求項10】
前記突極状部の空隙部は、径方向に交わって延びる第1領域と、第1領域両端からそれぞれ外周側に延びる複数の第2領域とを有し、
前記第2領域に空間を空けるとともに前記極中心部の前記第1領域に磁石が配置される
請求項8に記載のハイブリッド励磁式回転電機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド励磁式回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、界磁極に永久磁石及び電磁石を用いるハイブリッド励磁式回転電機が知られている。この種のハイブリッド励磁式回転電機は、励磁巻線を励磁することで機内磁束の調整が可能であり、回転電機の運転領域に応じて磁束を適切に調整することで効率を向上させることができる。
【0003】
また、特許文献1では、ハイブリッド励磁式回転電機において、永久磁石による磁石極と鉄心のみで構成された鉄心極とを回転子の周方向に交互に配列した構造が提案されている。特許文献1の構造は、高負荷時においても励磁巻線の磁束が回転子の鉄心極を通過できるため、励磁磁束の可変特性を拡大することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-351206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のハイブリッド励磁式回転電機では、磁石のない鉄心極と磁石極が交互に形成されるため、回転子に配置される磁石の量が半減する。そのため、鉄心極のない同体格の回転電機に比べると出力できるトルクが減少する点で改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであって、高トルク化が可能なハイブリッド励磁式回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様のハイブリッド励磁式回転電機は、磁石が配置されたロータコアを有するロータと、磁石に対して周方向に磁力を発生させるステータコイルを有し、ロータの外周に配置されるステータと、周方向に巻回され、ロータコアを励磁する励磁コイルと、を備える。ロータコアは、磁石が配置された磁極部と、極中心部に励磁コイルの励磁磁束を通す突極状部とを周方向に交互に有する。磁極部は、マグネットトルクを生じさせる第1磁石と、突極状部との両側の境界にそれぞれ配置され、第1磁石または隣り合う突極状部に向けて磁化された複数の第2磁石とを含む。
【0008】
上記の一態様のハイブリッド励磁式回転電機において、ロータコアは、励磁コイルの軸方向一方側に配置される第1ロータコアと励磁コイルの軸方向他方側に配置される第2ロータコアとを有していてもよい。第1ロータコアは、一方の磁極に対応する磁極部と、突極状部とを周方向に交互に有し、第2ロータコアは、他方の磁極に対応する磁極部と、突極状部とを周方向に交互に有していてもよい。第1ロータコアの磁極部と第2ロータコアの突極状部が軸方向に対向して配置され、第1ロータコアの突極状部と第2ロータコアの磁極部が軸方向に対向して配置されていてもよい。
【0009】
上記の一態様のハイブリッド励磁式回転電機において、磁極部は、複数の第1磁石を有していてもよく、各々の第1磁石の磁石量と、各々の第2磁石の磁石量が等しくてもよい。
上記の一態様のハイブリッド励磁式回転電機において、突極状部は、磁石を有しない鉄心で構成されていてもよい。
【0010】
また、上記の一態様のハイブリッド励磁式回転電機において、突極状部は、極中心部で径方向に延びる鉄心部と、鉄心部を隔てて周方向に対向して配置される2つの外径側空隙と、を有していてもよい。また、外径側空隙には、ロータコア内の磁束を整流する磁石が嵌入されていてもよい。また、突極状部は、外径側空隙よりも内径側に内径側空隙をさらに有していてもよい。
【0011】
本発明の他の態様のハイブリッド励磁式回転電機は、磁石が配置されたロータコアを有するロータと、磁石に対して周方向に磁力を発生させるステータコイルを有し、ロータの外周に配置されるステータと、周方向に巻回され、ロータコアを励磁する励磁コイルと、を備える。ロータコアは、磁石が配置された磁極部と、励磁コイルの励磁磁束を通す突極状部とを周方向に交互に有する。磁極部は、マグネットトルクを生じさせる第1磁石と、突極状部との両側の境界にそれぞれ配置され、第1磁石または隣り合う突極状部に向けて磁化された複数の第2磁石とを含む。突極状部には、内周側に凸となる湾曲形状をなし、磁壁を構成する帯状の空隙部が極中心部を跨いで形成される。
【0012】
上記の他の態様のハイブリッド励磁式回転電機において、突極状部の空隙部は、径方向に交わって延びる第1領域と、第1領域両端からそれぞれ外周側に延びる複数の第2領域とを有し、極中心部の第1領域に空間を空けるとともに第2領域にそれぞれ磁石が配置されてもよい。
【0013】
上記の他の態様のハイブリッド励磁式回転電機において、突極状部の空隙部は、径方向に交わって延びる第1領域と、第1領域両端からそれぞれ外周側に延びる複数の第2領域とを有し、第2領域に空間を空けるとともに極中心部の第1領域に磁石が配置されてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高トルク化が可能なハイブリッド励磁式回転電機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係るモータの斜視図である。
図2】第1実施形態のモータの右側面図である。
図3】第1実施形態のモータの側断面図である。
図4図2のA-A線断面図である。
図5図2のB-B線断面図である。
図6】(a)は図4に示す第1ロータコアの部分拡大図であり、(b)は図5に示す第2ロータコアの部分拡大図である。
図7】第1実施形態のモータの磁界を模式的に示す図である。
図8】実施例および比較例での励磁起磁力と誘起電圧の関係を示すグラフである。
図9】実施例および比較例での界磁起磁力とトルクの関係を示すグラフである。
図10】実施例と比較例のリラクタンストルクの割合を示すグラフである。
図11】(a)は第2実施形態での第1ロータコアの部分拡大図であり、(b)は第2実施形態での第2ロータコアの部分拡大図である。
図12】(a)は第3実施形態での第1ロータコアの部分拡大図であり、(b)は第3実施形態での第2ロータコアの部分拡大図である。
図13】(a)は第4実施形態での第1ロータコアの部分拡大図であり、(b)は第4実施形態での第2ロータコアの部分拡大図である。
図14】(a)は第1実施形態から第4実施形態の各モータにおいて、最大電流・無励磁時の鉄損を示す図であり、(b)は第1実施形態から第4実施形態の各モータにおいて、最大電流・最大励磁時の鉄損を示す図である。
図15】(a)は第5実施形態での第1ロータコアの部分拡大図であり、(b)は第5実施形態での第2ロータコアの部分拡大図である。
図16】第5実施形態のモータにおいて界磁磁束量に対する誘起電圧の変化を示す解析結果のグラフである。
図17】第5実施形態のモータにつき、最大電流・コイル無励磁時のギャップ磁束密度分布の解析結果を示すグラフである。
図18】第5実施形態のモータにつき、無負荷時の鉄心極のギャップ磁束密度分布の解析結果を示すグラフである。
図19】(a)は第6実施形態での第1ロータコアの部分拡大図であり、(b)は第2実施形態での第6ロータコアの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
実施形態では説明を分かり易くするため、本発明の主要部以外の構造や要素については、簡略化または省略して説明する。また、図面において、同じ要素には同じ符号を付す。なお、図面に示す各要素の形状、寸法などは模式的に示したもので、実際の形状、寸法などを示すものではない。
【0017】
また、図面においては、適宜3次元直交座標系としてXYZ座標系を示す。XYZ座標系において、Z軸方向は、図1に示す中心軸Jの軸方向と平行な方向とする。Y軸方向は、中心軸Jに対する径方向のうち図2の左右方向とする。X軸方向は、Z軸方向及びY軸方向の両方と直交する方向とする。X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向のいずれにおいても、図中に示す矢印が指す側を+側、反対側を-側とする。
【0018】
また、以下の説明においては、Z軸方向の正の側(+Z側)を「一方側」と称し、Z軸方向の負の側(-Z側)を「他方側」と称する。なお、一方側及び他方側は、単に説明のために用いられる名称であって、実際の位置関係及び方向を限定しない。また、特に断りのない限り、中心軸Jに平行な方向(Z軸方向)を単に「軸方向」と称し、中心軸Jを中心とする径方向を単に「径方向」と称し、中心軸Jを中心とする周方向、すなわち、中心軸Jの軸周り(図1のθ方向)を単に「周方向」と称する。径方向において中心軸Jに近づく側を「径方向内側」と称し、中心軸Jから遠ざかる側を「径方向外側」と称する。周方向において図中に示す矢印が指す側を+側と称し、反対側を-側と称する。周方向の正の側(+θ側)を「一方側」と称し、周方向の負の側(-θ側)を「他方側」と称する。
【0019】
なお、本明細書において、「軸方向に延びる」とは、厳密に軸方向(Z軸方向)に延びる場合に加えて、軸方向に対して、45°未満の範囲で傾いた方向に延びる場合も含む。また、本明細書において、「径方向に延びる」とは、厳密に径方向、すなわち、軸方向(Z軸方向)に対して垂直な方向に延びる場合に加えて、径方向に対して、45°未満の範囲で傾いた方向に延びる場合も含む。また「平行」とは、厳密に平行な場合に加えて、互いに成す角が45°未満の範囲で傾いた場合も含む。
【0020】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係るモータの斜視図である。図2は、第1実施形態のモータ100を+X側から見た右側面図である。図3は、第1実施形態のモータ100を、中心軸Jを通りX軸と直交する面で切断して示す側断面図である。図4は、図2のA-A線断面図であり、図5は、図2のB-B線断面図である。
【0021】
図1のモータ100は、ハイブリッド励磁式回転電機の一例である。モータ100は、中心軸Jに沿って延びるシャフト230を有するロータ200と、ロータ200の径方向外側にエアギャップを介して配置されるステータ300と、を有する。
【0022】
シャフト230は、軸受(不図示)によって、中心軸Jを回転軸として回転可能に軸支される。シャフト230は、軸方向の一方側に配置された第1シャフト231と、軸方向の他方側に配置された第2シャフト232を組合わせて構成されている。
【0023】
第1シャフト231は、軸方向他方側に径方向に広がる環状の段差部231bを有する。また、第1シャフト231は、段差部231bの軸方向他方側端に軸方向に突出する凸部231aを有する。
【0024】
第2シャフト232は、軸方向一方側に径方向に広がる環状の段差部232bを有する。
段差部231b、232bの径は略同一である。また、第2シャフト232は、段差部232bの軸方向一方側端に、凸部231aを受ける凹部232aを有する。第1シャフト231は、凸部231aが凹部232aに嵌まることで第2シャフト232と一体化される。
【0025】
ロータ200のコアは、軸方向と交差する平面に沿って2つに分割された構成であり、軸方向に離れて配置された第1ロータコア210と第2ロータコア220とを有している。第1ロータコア210は、モータ100の軸方向一方側に配置され、第1シャフト231の段差部231bよりも軸方向一方側に位置している。第2ロータコア220は、モータ100の軸方向他方側に配置され、第2シャフト232の段差部232bよりも軸方向他方側に位置している。なお、第1ロータコア210と第2ロータコア220は、同一形状であってもよく、軸方向長さが異なる形状であってもよい。
【0026】
第1ロータコア210は、電磁鋼板を軸方向に積層して構成されている。第1ロータコア210には、第1ロータコア210を軸方向に貫通し、第1シャフト231が嵌まる貫通孔212が形成されている。第1ロータコア210は、貫通孔212に嵌入された第1シャフト231の径方向外側に固定されている。また、第1ロータコア210には、図4に示すように、所定のパターンで永久磁石が配置されている。なお、第1ロータコア210の磁極のパターンについては後述する。
【0027】
第2ロータコア220は、電磁鋼板を軸方向に積層して構成されている。第2ロータコア220には、第2ロータコア220を軸方向に貫通し、第2シャフト232が嵌まる貫通孔222が形成されている。第2ロータコア220は、貫通孔222に嵌入された第2シャフト232の径方向外側に固定されている。また、第2ロータコア220には、図5に示すように、所定のパターンで永久磁石が配置されている。なお、第2ロータコア220の磁極のパターンについては後述する。
【0028】
また、モータ100において、第1ロータコア210および第2ロータコア220の間には、励磁コイルユニット350が配置されている。
【0029】
励磁コイルユニット350は、円板状の部材であって、中心軸Jに沿って軸方向に貫通する貫通孔351を中心部に有している。貫通孔351の内側には、励磁コイルユニット350に対して回転可能にシャフト230が挿通されている。
【0030】
また、励磁コイルユニット350は、ステータ300に固定されており、シャフト230、第1ロータコア210および第2ロータコア220に対してそれぞれエアギャップをあけて配置されている。
【0031】
励磁コイルユニット350は、励磁コイル355を樹脂部353で覆うように樹脂成形されている。励磁コイル355は、例えば、エナメル線をアルファ巻きで周方向に巻回して形成され、直流電流の通電により第1ロータコア210および第2ロータコア220を励磁する。なお、励磁コイル355の巻回の層数は、2層以上の多層であることが好ましい。
【0032】
また、励磁コイルユニット350には、後述のステータコイル340を挿通するために複数の貫通孔352が形成されている。貫通孔352は、ステータ300のスロットと対応する位置に形成され、励磁コイルユニット350上で環状をなすように配置されている。
【0033】
ステータ300は、軸方向に沿って励磁コイルユニット350を挟みこんで配置される第1ステータコア310および第2ステータコア320を有する。例えば、第1ステータコア310および第2ステータコア320は、励磁コイルユニット350と接着剤で固定されていてもよく、不図示のケース等にはめ込むことで励磁コイルユニット350に対して軸方向に固定されてもよい。
【0034】
第1ステータコア310は、電磁鋼板を軸方向に積層して形成された円環状部材である。第1ステータコア310は、励磁コイルユニット350の軸方向一方側に配置される。第1ステータコア310の内周には、エアギャップを介して第1ロータコア210が対向配置される。また、第1ステータコア310の内周側には、第1ステータコア310を軸方向に貫通するスロット312が周方向に所定間隔で複数形成されている。これにより、第1ステータコア310の隣り合うスロット312の間には櫛歯状にティース313が形成される。
【0035】
第2ステータコア320は、電磁鋼板を軸方向に積層して形成された円環状部材である。
第2ステータコア320は、励磁コイルユニット350の軸方向他方側に配置される。第2ステータコア320の内周には、エアギャップを介して第2ロータコア220が対向配置される。また、第2ステータコア320の内周側には、第2ステータコア320を軸方向に貫通するスロット322が周方向に所定間隔で複数形成されている。これにより、第2ステータコア320の隣り合うスロット322の間には櫛歯状にティース323が形成される。
【0036】
また、ステータ300は、電機子巻線としてのステータコイル340を有する。ステータコイル340により、ステータ300には周方向に沿って等間隔に磁極が構成される。モータ100において、ステータコイル340の電流制御でステータ300の磁界を順番に切り替えることで、ロータ200にはステータ300の磁界との吸引力または反発力が生じる。これにより、中心軸Jを中心としてロータ200を回転させることができる。
【0037】
ステータコイル340は、例えば、平角線のセグメントコイルで構成される。図1から図3では、ステータコイル340の軸方向他方側の端部同士の接続をする前の状態を示している。
【0038】
ステータコイル340は、励磁コイルユニット350の貫通孔352に挿通されるとともに、第1ステータコア310のスロット312および第2ステータコア320のスロット322に収容されて巻回される。このとき、ステータコイル340は、軸方向一方側から、第1ステータコア310、励磁コイルユニット350及び第2ステータコア320の順に通過する。
【0039】
また、ステータ300は、励磁コイルユニット350の径方向外側に配置される第3ステータコア330を有する。第3ステータコア330は、電磁鋼板を周方向に巻いて形成された巻鉄心であり、励磁コイル355が形成する磁束の磁路の一部となる。なお、第3ステータコア330は、磁性材であれば巻鉄心でなくてもよい。
【0040】
次に、第1実施形態のロータ200における磁極のパターンについて説明する。第1実施形態のロータ200は、永久磁石を主磁束源とする磁石極と、励磁コイル355の励磁磁束を主磁束源とする鉄心極とを有している。磁石極は、磁極部の一例であり、鉄心極は、突極状部の一例である。
【0041】
第1ロータコア210は、N極の磁石極241と鉄心極251とが周方向に交互に配置された構成であり、第2ロータコア220は、S極の磁石極242と鉄心極252とが周方向に交互に配置された構成である。第1ロータコア210および第2ロータコア220において、磁石極241,242および鉄心極251,252は45°の位相差で交互に配置されている。
【0042】
また、第1ロータコア210と第2ロータコア220の間では、磁石極241,242および鉄心極251,252の位置が互いに周方向にずれている。ロータ200の軸方向では、第1ロータコア210のN極の磁石極241と第2ロータコア220の鉄心極252が対向して配置され、第1ロータコア210の鉄心極252と第2ロータコア220のS極の磁石極242が対向して配置されている。上記の構成により、第1ロータコア210と第2ロータコア220を組合わせたロータ200の全体では、N極とS極が対称となるため磁極のバランスが保たれる。
【0043】
図6(a)は、図4に示す第1ロータコア210の部分拡大図であり、図6(b)は、図5に示す第2ロータコア220の部分拡大図である。図6(a)、(b)では、ロータ200の軸方向において互いに対応する90°の範囲をそれぞれ切り出して示している。
【0044】
ロータ200の各磁極では、中心軸Jと、マグネットトルクの磁極中心を結ぶ軸がd-q軸座標のd軸となる。また、上記のd軸と電気角で直交する軸がd-q軸座標のq軸となる。ロータ200のうち、互いに隣り合う一対のq軸の間の部分は、リラクタンストルクを生成する補助磁極部となる。
【0045】
図6(a)に示す第1ロータコア210の磁石極241は、永久磁石が配置された外周側の第1領域241aと、内周側の第2領域241bを有する。第1領域241aと第2領域241bの間には空隙で形成されたフラックスバリア部243が形成されている。磁石極241の第1領域241aと第2領域241bは径方向に延びる2本のブリッジ244で接続されている。また、磁石極241の周方向両端において、フラックスバリア部243はq軸に沿って第1ロータコア210の外周側(第1領域241a側)に延びる溝部245を有している。なお、q軸は、磁石極241と鉄心極251との境界の一例である。
【0046】
磁石極241の第2領域241bは、隣り合う鉄心極251と周方向に接続されている。一方、磁石極241の第1領域241aは、フラックスバリア部243および溝部245により、磁石極241の第2領域241bおよび隣り合う鉄心極251から隔離されている。これにより、磁石極241の第1領域241aには鉄心極251を通過する励磁磁束が通りにくくなり、磁石極241では励磁磁束の影響が抑制される。
【0047】
磁石極241の第1領域241aには、マグネットトルクを生じさせる一対の第1磁石247が配置されている。第1磁石247はそれぞれ矩形状の永久磁石であって、中心軸Jと直交する平面において磁石の長辺と直交する方向に磁化されている。また、第1ロータコア210において、第1磁石247はいずれも外周側がN極を向くように配置されている。
【0048】
第1ロータコア210の一対の第1磁石247は、d軸で対称をなすように、ロータ内径側にV字の谷が位置するV字状のパターンで配置されている。これにより、一対の第1磁石247は、磁極中心から線対称をなすように配置されている。また、各々の第1磁石247は、第1ロータコア210を軸方向に貫通する磁石孔に嵌入されている。なお、第1磁石247の長辺両端には磁石孔と接続された空隙部246が形成されている。
【0049】
また、第1ロータコア210の磁石極241では、q軸に沿って延びる溝部245に一対の第2磁石248(スポーク磁石)がそれぞれ嵌入されている。第2磁石248は、永久磁石であって、中心軸Jと直交する平面において径方向に磁化されている。また、第1ロータコア210の第2磁石248は、外側に隣り合う鉄心極251に対してS極が向くようにいずれも配置されている。
【0050】
第2磁石248は、磁石を有していない鉄心極の磁石量を補う機能を担う。各々の第2磁石248の磁石量は、各々の第1磁石247の磁石量と異なっていてもよく、等しくてもよい。ロータ200に第2磁石248を嵌入した場合、ロータ200のマグネットトルクを、鉄心極を有しない同体格のモータのマグネットトルクにより近づけることができる。
【0051】
また、第1ロータコア210の鉄心極251では、ロータ200の径方向全域にわたって鉄心が配置されており、磁極内には永久磁石が配置されていない。第1ロータコア210において、鉄心極251はロータ200内で励磁コイル355の磁束を通す磁路の一部を形成する。
【0052】
鉄心極251での鉄心のパターンは、磁石極241のフラックスバリア部243、磁石孔の磁石配置領域および空隙部246を鉄心で埋めて、磁石極241の第1領域241aと第2領域241bを一体化した形状に相当する。図6(a)では、鉄心極251においてフラックスバリア部243、磁石配置領域および空隙部246に対応する位置を仮想的に破線で図示している。
【0053】
次に、図6(b)を参照しつつ、第2ロータコア220の磁石極242について説明する。また、第2ロータコア220に関し、第1ロータコア210と同様の構成には同一符号を付して重複説明は適宜省略する。なお、図6(b)に示す第2ロータコア220の鉄心極252は、第1ロータコア210の鉄心極251と同様の構成である。
【0054】
図6(b)に示す第2ロータコア220の磁石極242は、永久磁石が配置された外周側の第1領域242aと、内周側の第2領域242bを有する。第1領域242aと第2領域242bの間には空隙で形成されたフラックスバリア部243が形成されている。磁石極242の第1領域242aと第2領域242bは径方向に延びる2本のブリッジ244で接続されている。また、磁石極242の周方向両端において、フラックスバリア部243はq軸に沿って第2ロータコア220の外周側(第1領域242a側)に延びる溝部245を有している。q軸は、磁石極242と鉄心極252との境界の一例である。
【0055】
磁石極242の第2領域242bは、隣り合う鉄心極252と周方向に接続されている。一方、磁石極242の第1領域242aは、フラックスバリア部243および溝部245により、磁石極242の第2領域242bおよび隣り合う鉄心極252から隔離されている。
【0056】
磁石極242の第1領域242aには、マグネットトルクを生じさせる一対の第1磁石247が配置されている。第2ロータコア220では、第1ロータコア210の磁石極241と同様の位置に第1磁石247が配置されるが、第1磁石247はいずれも外周側がS極を向くように配置されている。なお、第2ロータコア220においても、第1磁石247の長辺両端には磁石孔と接続された空隙部246が形成されている。
【0057】
また、第2ロータコア220の磁石極242では、q軸に沿って延びる溝部245に一対の第2磁石248(スポーク磁石)がそれぞれ嵌入されている。第2ロータコア220では、第1ロータコア210の磁石極241と同様の位置に第2磁石248が配置されるが、第2磁石248は外側に隣り合う鉄心極252に対してN極が向くようにいずれも配置されている。
【0058】
図7は、第1実施形態のモータ100の磁界を模式的に示す図である。第1実施形態のモータ100の磁界は、ロータ200の永久磁石による磁界と、励磁コイル355の励磁磁束による磁界に大別できる。
【0059】
ロータ200の永久磁石からの磁束MFAは、第1ロータコア210のN極の磁石極からギャップを介してステータ300に導かれる。そして、ステータ300の磁束MFAはギャップを介して第2ロータコア220のS極の磁石極に導かれ、第2ロータコア220の永久磁石とシャフト230を経て第1ロータコア210のN極の磁石極に至る。
【0060】
一方、励磁コイルの励磁磁束MFBは、モータ100内で磁気抵抗の小さな経路を通る。励磁磁束MFBが永久磁石の磁束MFAと同一方向になる場合、図7に示すように、励磁磁束MFBは、ステータ300からギャップを介して第2ロータコア220の鉄心極に導かれ、シャフト230および第1ロータコア210の鉄心極を経て、ギャップを介してステータ300に至る経路を辿る。なお、励磁磁束MFBが永久磁石の磁束MFAと逆方向になる場合、励磁磁束MFBの経路は図7に示す上記の経路とは逆向きになる。
【0061】
ここで、励磁磁束MFBが永久磁石の磁束MFAと同一方向になる場合、ステータコイル340ではN極側で切る磁束の方向とS極側で切る磁束の方向が逆となり、互いに反対方向の誘起電圧が生じて全体としては誘起電圧が減少する。つまり、この場合には励磁コイル355の直流励磁電流の大きさによって誘起電圧を低くできる。したがって、励磁コイル355で永久磁石の磁束と同一方向の磁束を作ることで、等価的に界磁磁束を弱める(減磁する)ことができる。
【0062】
一方、励磁磁束MFBが永久磁石の磁束MFAと逆方向になる場合、ステータコイル340ではN極側で切る磁束の方向とS極側で切る磁束の方向が同一となり、同一方向の誘起電圧が生じて全体としては誘起電圧が増加する。つまり、この場合には励磁コイル355の直流励磁電流の大きさによって誘起電圧を高くできる。したがって、励磁コイル355で永久磁石の磁束と逆方向の磁束を作ることで、等価的に界磁磁束を強める(増磁する)ことができる。
【0063】
第1実施形態では、モータ100の回転時に磁束量を適量に調整することで、モータ100の余計な鉄損を抑制することができる。また、第1実施形態では、特許文献1と同様にモータ100の高負荷運転時においても、励磁起磁力を増加させることで励磁磁束が鉄心極を通過できる。これにより、ステータコイル340と鎖交する磁束量が増加し、モータ100のトルクを増加させることができる。
【0064】
以上のように、第1実施形態のモータ100は、磁石が配置されたロータコア(第1ロータコア210、第2ロータコア220)を有するロータ200と、磁石に対して周方向に磁力を発生させるステータコイル340を有し、ロータ200の外周に配置されるステータ300と、周方向に巻回され、ロータコアを励磁する励磁コイル355と、を備える。ロータコアは、磁石が配置された磁極部(磁石極241,242)と、磁石を有さずに励磁コイル355の励磁磁束を通す突極状部(鉄心極251,252)とを周方向に交互に有する。磁極部は、マグネットトルクを生じさせる第1磁石247と、突極状部との両側の境界にそれぞれ配置され、第1磁石247または隣り合う突極状部に向けて磁化された複数の第2磁石248とを含む。
【0065】
第1実施形態のモータ100によれば、励磁コイル355に与える直流電流の制御により鉄心極を通る励磁磁束を調整して界磁制御を行うことができる。鉄心極251,252には磁石が配置されていないため、高負荷時においても励磁磁束がロータコイルの鉄心極251,252を通過できる。これにより、第1実施形態のモータ100は励磁磁束の可変特性を有する。
【0066】
また、第1実施形態では、ロータコアの磁石極241,242において、マグネットトルクを生じさせる第1磁石247とは別に、磁石を有していない鉄心極の磁石量を補う第2磁石248が配置されている。これにより、鉄心極251,252に励磁磁束の経路を確保しつつ、モータ100を高トルク化することができる。
【0067】
(実施例)
以下、第1実施形態のモータの実施例について説明する。
実施例では、上記実施形態と同様の構成であるモータの解析モデルについて、励磁起磁力[AT]が0のときと6000のときの誘起電圧[V]をそれぞれ算出した。また、比較例として、特許文献1と等価構成のモータの解析モデルについて、励磁起磁力[AT]が0のときと6000のときの誘起電圧[V]をそれぞれ算出した。なお、比較例の解析モデルは、第1実施形態のロータの磁石極から溝部と第2磁石を除いた構成に相当する。
【0068】
図8は、実施例および比較例での励磁起磁力と誘起電圧の関係を示すグラフである。図8の縦軸は誘起電圧[%]を示し、図8の横軸は励磁起磁力[AT]を示す。なお、図8では、IPMSMの中心を二分割して励磁巻線を取り付けた先行技術(励磁起磁力=6000ATの場合)の誘起電圧を100%として、実施例、比較例の誘起電圧をそれぞれ正規化して示している。
【0069】
実施例のモータの場合、励磁起磁力が0のときの誘起電圧が57.2%であり、励磁起磁力が6000のときの誘起電圧が85.8%であった。一方、比較例のモータの場合、励磁起磁力が0のときの誘起電圧が57.1%であり、励磁起磁力が6000のときの誘起電圧が82.0%であった。したがって、実施例と比較例を対比すると、実施例と比較例はほぼ同様の磁束可変範囲を有することが確認できる。
【0070】
図9は、実施例および比較例での励磁起磁力とトルクの関係を示すグラフである。図9の縦軸はトルク[%]を示し、図9の横軸は励磁起磁力[AT]を示す。なお、図9では、上記の実施例(励磁起磁力=6000ATの場合)のトルクを100%として、比較例のトルクを正規化して示している。
【0071】
実施例のモータの場合、励磁起磁力が0のときのトルクが91.2%であり、励磁起磁力が6000のときのトルクが100%であった。一方、比較例のモータの場合、励磁起磁力が0のときのトルクが73.4%であり、励磁起磁力が6000のときのトルクが78.4%であった。したがって、実施例と比較例を対比すると、実施例と比較例のトルク可変幅はほぼ同様であるが、実施例ではベースとなるトルク量が増加していることが確認できる。
【0072】
図10は、実施例と比較例のリラクタンストルクの割合を示すグラフである。図10では、実施例および比較例において、励磁起磁力が0のときのリラクタンストルクを示している。
【0073】
図10では、実施例のリラクタンストルクを100%として、比較例のリラクタンストルクを正規化して示している。図10において、比較例のリラクタンストルクは実施例に対して60.6%となる。実施例では、比較例からの形状変更により、磁石極と鉄心極の境界に第2磁石を配置した構造となっている。実施例の当該構造により、励磁巻線による可変特性は維持しつつ、リラクタンストルクを増加させることができ、比較例よりも高トルク化を達成できていることが分かる。
【0074】
<第2実施形態>
図11(a)は、第2実施形態での第1ロータコア210の部分拡大図であり、図11(b)は、第2実施形態での第2ロータコア220の部分拡大図である。なお、以下の各実施形態の説明では、既に説明した実施形態と共通の要素には同じ符号を付し、重複説明を適宜省略する。
【0075】
第2実施形態は、第1実施形態の変形例であって、鉄心極251,252にd軸を隔てて2つの外径側空隙271,271が対向配置された構成である。鉄心極251,252の2つの外径側空隙271は、ロータコアの外周近傍の位置でロータ内径側にV字の谷が位置するV字状のパターンで配置されており、隣り合うティース間での磁束の短絡を抑制する磁壁としてそれぞれ機能する。
【0076】
また、第2実施形態の鉄心極251,252の極中心部には、d軸に沿って径方向に延びる所定幅の鉄心部270が2つの外径側空隙271,271の間に形成される。当該鉄心部270は、鉄心極251,252においてロータ内部に一定量の磁束を流す磁路として機能する。
【0077】
また、鉄心極251,252の各外径側空隙271には、それぞれ永久磁石272が嵌入されている。永久磁石272は、鉄心極251,252とは反対の磁化方向となるように配置されている。これにより、鉄心極251,252で各外径側空隙271内に配置された永久磁石272は、鉄心極251,252のロータコア内の磁束を整流し、短絡磁束による鉄損をより抑制する機能を担う。
【0078】
第2実施形態によれば、鉄心極251,252の極中心部に鉄心部270があるため、磁石極が最大トルクを得られる電機子電流(位相・振幅)と同条件で鉄心極251,252に発生する磁束の流れが阻害されない。また、鉄心極251,252の各外径側空隙271で隣り合うティース間での磁束短絡が妨げられることで、トルクに寄与しない磁束流れが抑制される。これにより、第2実施形態の構成によれば、モータ100の鉄損をより低減することができる。
【0079】
<第3実施形態>
図12(a)は、第3実施形態での第1ロータコア210の部分拡大図であり、図12(b)は、第3実施形態での第2ロータコア220の部分拡大図である。第3実施形態は、第2実施形態の鉄心極251,252の外径側空隙271に永久磁石を配置せず、外径側空隙271を磁壁として機能させる構成に相当する。
【0080】
第3実施形態では、外径側空隙271に永久磁石がない分、鉄心極251,252の外径側空隙271近傍での磁束の整流作用は第2実施形態よりも低下するが、第2実施形態と同様の効果を得ることができる。また、第3実施形態では、外径側空隙271に永久磁石がない分、第2実施形態よりもロータを軽量化することができる。また、外径側空隙271に磁石を嵌入すると磁石による遠心力が鉄心極251,252で発生するが、第3実施形態では鉄心極251,252において磁石の遠心力による応力を考慮せずに済む。
【0081】
<第4実施形態>
図13(a)は、第4実施形態での第1ロータコア210の部分拡大図であり、図13(b)は、第4実施形態での第2ロータコア220の部分拡大図である。第4実施形態は、第3実施形態の鉄心極251,252において、ロータコアの内径側にさらに2つの内径側空隙273,273を設けた構成に相当する。なお、第4実施形態において、鉄心極251,252の2つの外径側空隙271,271に第2実施形態と同様に磁石を嵌入してもよい。
【0082】
第4実施形態の鉄心極251,252において、2つの内径側空隙273,273はd軸を隔てて対向配置されており、2つの外径側空隙271,271よりも内径側に位置している。内径側空隙273は、例えば、ロータの軽量化のために設けられるが、ロータ内に冷媒を流すための流路として用いられてもよい。
【0083】
また、第4実施形態の鉄心極251,252の極中心部には、d軸に沿って径方向に延びる所定幅の鉄心部270が2つの外径側空隙271,271および2つの内径側空隙273,273の間に形成される。当該鉄心部270は、鉄心極251,252においてロータ内部に一定量の磁束を流す磁路として機能する。なお、鉄心極251,252において空隙273よりも内径側の鉄心は、励磁コイルの無励磁時にはロータ内漏洩磁路として、励磁コイルの励磁時には増磁または磁気飽和させる回路として機能する。
【0084】
ここで、内径側空隙273の周方向寸法は、シャフト側に流れる漏洩磁束で磁気飽和しない磁路幅を鉄心極251,252に確保でき、かつ最大負荷時に必要とする励磁コイル磁束で磁気飽和しない磁路幅を鉄心極251,252に確保できる条件下で適宜設定される。同様に、内径側空隙273の径方向の位置は、最大トルクでの電機子電流通電時にロータ面内の磁束流れを阻害しない位置に形成される。また、内径側空隙273の辺の傾きも磁束に沿うように形成される。
【0085】
第4実施形態の構成によれば、第3実施形態における最大励磁時の性能を低下させることなく、鉄心極251,252のロータコアの空隙を増加させることでロータを軽量化することができる。
【0086】
また、図14(a)は、第1実施形態から第4実施形態の各モータにおいて、最大電流・無励磁時の鉄損を示す図であり、図14(b)は、第1実施形態から第4実施形態の各モータにおいて、最大電流・最大励磁時の鉄損を示す図である。
【0087】
第2実施形態から第4実施形態のモータでは、鉄心極251,252の外径側空隙271が磁壁を形成し、鉄心極251,252を介して隣り合うステータのティースへの磁束の短絡を妨げる。そのため、第2実施形態から第4実施形態のモータでは、トルクに寄与しない磁束流れが抑制され、鉄心極251,252の外径側空隙がない第1実施形態と比べていずれも鉄損が抑制されている。
【0088】
<第5実施形態>
図15(a)は、第5実施形態での第1ロータコア210の部分拡大図であり、図15(b)は、第5実施形態での第2ロータコア220の部分拡大図である。
【0089】
第5実施形態では、鉄心極251,252の外周部に帯状の空隙部280が設けられている。空隙部280は、内周側に凸となる湾曲形状に形成され、d軸に対称をなしている。図15に示す空隙部280は、径方向のd軸に略直交して延びる第1領域280aと、第1領域280aの両端からそれぞれ外周側に向けて直線状に延びる第2領域280bとを有する略カップ状である。また、空隙部280の各々の第2領域280bは内周側から外周側に向けて互いの間隔が広がるように配置されている。なお、空隙部280の形状は、図15に示す形状に限定されず、例えば、内周側にV字の谷が位置するV字状や、内周側に凸となる円弧形などに形成されていてもよい。
【0090】
上記の帯状の空隙部280は、鉄心極251,252の外周部に磁壁を形成する機能を担う。特に、第5実施形態では、d軸に略直交して延びる第1領域280aにより、鉄心極251,252の極中心部に磁壁が形成されている。
ここで、空隙部280の形状は、磁石極241,242が最大トルクを得られる電機子電流(振幅、位相)と同条件で鉄心極251,252に発生する磁束の流れを阻害しない形状に設定されることが好ましい。
【0091】
また、第5実施形態の鉄心極251,252の空隙部280には、ロータコア内の磁束を整流するために永久磁石281が嵌入されている。鉄心極251,252において、永久磁石281は空隙部280の各第2領域280bに1つずつ嵌入されている。すなわち、鉄心極251,252の永久磁石281は、空隙部280の第1領域280aを隔ててd軸に対称に配置されている。また、第5実施形態での永久磁石281は、鉄心極251,252とは反対の磁化方向となるように配置されている。
【0092】
第5実施形態の構成では、鉄心極251,252の空隙部280の磁壁により、鉄心極251,252とステータ300のティース間での磁束の短絡による鎖交磁束の発生が抑制される。これにより、例えば、励磁コイル355の無励磁時にロータ200内で磁束が適切に通るようになって極中心近傍での磁束密度の変化が小さくなり、余分な鉄損が生じることを抑制できる。また、第5実施形態では、励磁コイル355の無励磁時のトルクが向上するため、第1実施形態から第4実施形態の構成よりも無励磁時の駆動範囲を拡大することが可能となる。
さらに、励磁コイル355の励磁時においても、上記と同様の理由により鉄損が低減される。
【0093】
図16は、第5実施形態のモータにおいて界磁磁束量に対する誘起電圧の変化を示す解析結果のグラフである。図16の縦軸は無負荷のときの誘起電圧を示し、図16の横軸は励磁コイルの励磁起磁力を示す。図16のグラフでは、第5実施形態のモータの特性を比較例のモータの特性で正規化して示している。図16での比較例のモータは、第5実施形態のロータの鉄心極において、空隙部の第1領域および第2領域にすべて永久磁石を配置したIPMモータに相当する。
【0094】
図16に示すように、第5実施形態のモータでは、励磁コイル355の励磁起磁力の低い領域において比較例のIPMモータと比べて誘起電圧の低い領域が存在する。そのため、第5実施形態のモータは、比較例のIPMモータと比べて励磁コイルの無励磁時に誘起電圧を低くすることができ、無負荷鉄損を低鉄損化できることが分かる。
また、図16に示すように、第5実施形態のモータでは、励磁コイル355の励磁起磁力が最大のときの誘起電圧は、比較例のIPMモータの誘起電圧を上回り、必要十分な磁束が得られることが分かる。
【0095】
また、この種のハイブリッド励磁式回転電機では、鉄心極251,252のギャップ磁束密度分布は矩形波状となり、コギングトルクが大きくなる傾向がある。これに対し、第5実施形態の構成では、空隙部の磁壁により、鉄心極251,252側のギャップ磁束密度の基本波成分が増加するとともに、高調波成分が低減される。これにより、第5実施形態の構成では、鉄心極251,252のギャップ磁束密度分布が正弦波の形状に近づくため、コギングトルクの発生を抑制することができる。
【0096】
図17は、第5実施形態のモータにつき、最大電流・コイル無励磁時のギャップ磁束密度分布の解析結果を示すグラフである。図17の縦軸はギャップ磁束密度を示し、図17の横軸は角度を示している。なお、図17のグラフでは、図16の比較例のモータ(IPM)と、第1実施形態のモータ(図6)と、第2実施形態のモータ(図11)と、第5実施形態のモータの各特性をそれぞれ示している。
【0097】
また、図18は、第5実施形態のモータにつき、無負荷時の鉄心極のギャップ磁束密度分布の解析結果を示すグラフである。図18の縦軸はギャップ磁束密度を示し、図18の横軸は角度を示している。図18のグラフでは、第1実施形態のモータ(図6)と、第2実施形態のモータ(図11)と、第5実施形態のモータの各特性をそれぞれ示している。なお、図18のグラフでは、第1実施形態のモータと第2実施形態のモータの特性はほぼ一致している。
【0098】
図17図18に示すように、第5実施形態のモータのギャップ磁束密度分布は、第1実施形態および第2実施形態のモータと比べて、鉄心極側のギャップ磁束密度の基本波成分が増加するとともに、高調波成分が低減している。そのため、第5実施形態のモータでは、第1実施形態および第2実施形態のモータと比べて、鉄心極のギャップ磁束密度分布が正弦波の形状に近づくことが分かる。
【0099】
<第6実施形態>
図19(a)は、第6実施形態での第1ロータコア210の部分拡大図であり、図19(b)は、第6実施形態での第2ロータコア220の部分拡大図である。
第6実施形態は、第5実施形態の変形例であって、鉄心極251,252の空隙部280の第1領域280aにロータコア内の磁束を整流する永久磁石281を嵌入し、空隙部280の各第2領域280bを開口させた構成を示している。第6実施形態での永久磁石281は、鉄心極251,252とは反対の磁化方向となるように配置されている。第6実施形態の構成においても、鉄心極251,252の極中心部には空隙部280による磁壁が形成されるため、第5実施形態とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0100】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
【0101】
例えば、上記実施形態では回転電機がモータである場合について説明したが、回転電機は発電機であってもよい。また、上記実施形態では、一例として8極の回転電機を説明したが、回転電機の極数は上記に限定されるものではない。さらに、ロータの磁石極における第1磁石の形状、個数、配置は、上記実施形態の態様に限定されるものではない。
【0102】
上記の実施形態では、励磁コイルがステータコイル340よりも内周側に配置される例を説明したが、励磁コイルはステータコイル340よりも外周側に配置されていてもよい。
【0103】
上記の第4実施形態では、鉄心極251,252において2つの内径側空隙273,273がd軸を隔てて対向配置される構成について説明した。しかしながら、鉄心極251,252に形成される内径側空隙273の形状は第4実施形態の例に限定されない。例えば、鉄心極251,252において必要な励磁巻線磁束の磁路(径方向の磁路)と磁石および電機子巻線により生じる磁束の磁路(周方向の磁路)を確保できれば、それ以外は空隙としてもよい。また、鉄心極251,252の内径側空隙は、1つあるいは3つ以上の空隙で構成されていてもよい。
【0104】
上記の第5実施形態において、ロータコアの耐遠心力強度を向上させる観点から、限りなく漏れ磁束を抑制できれば、空隙部の底部領域に内周側と外周側をつなぐブリッジ部を形成するようにしてもよい。
【0105】
加えて、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0106】
100…モータ、200…ロータ、210…第1ロータコア、220…第2ロータコア、241,242…磁石極、247…第1磁石、248…第2磁石、251,252…鉄心極、270…鉄心部、271…外径側空隙、272…磁石、273…内径側空隙、300…ステータ、340…ステータコイル、355…励磁コイル

図1
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