(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110910
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】成分分離システム
(51)【国際特許分類】
B01D 11/04 20060101AFI20240808BHJP
B01D 11/02 20060101ALI20240808BHJP
C08J 11/08 20060101ALI20240808BHJP
B29B 17/02 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
B01D11/04 A
B01D11/02 A
C08J11/08 ZAB
B29B17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023184258
(22)【出願日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2023015498
(32)【優先日】2023-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】臼杵 司
(72)【発明者】
【氏名】岡本 浩孝
(72)【発明者】
【氏名】平井 隆行
【テーマコード(参考)】
4D056
4F401
【Fターム(参考)】
4D056AB17
4D056AB20
4D056AC06
4D056AC09
4D056AC29
4D056BA03
4D056CA13
4D056CA14
4D056CA17
4D056CA22
4D056CA39
4D056DA01
4F401AA09
4F401AA10
4F401AA11
4F401CA29
4F401CA51
4F401CA55
4F401CA56
4F401EA56
4F401EA59
4F401EA63
4F401EA90
(57)【要約】
【課題】常圧下で、蒸留を利用することなく、省エネルギーで成分分離が可能な成分分離システムを提供する。
【解決手段】成分A及び成分Bを含む1相の混合成分αβに対し、成分Cを加え、前記成分A、前記成分B及び前記成分Cを含む混合成分αβγの温度T
1で、前記成分A及び前記成分Cを主成分として含む分離成分αγと成分Bを主成分として含む分離成分βとを分離する第一分離部と、前記分離成分αγの温度を温度T
2に変化させ、前記成分Aを主成分として含む分離成分αと前記成分Cを主成分として含む分離成分γとを分離する第二分離部と、を有し、前記成分Cは、前記混合成分αβγの温度T
1で前記成分Aに対して混和挙動を示し、前記混合成分αβγの温度T
1で前記成分Bに対して分離挙動を示し、前記分離成分αγの温度T
2で前記成分Aに対して分離挙動を示す、成分分離システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分A及び成分Bを含む1相の混合成分αβに対し、成分Cを加え、前記成分A、前記成分B及び前記成分Cを含む混合成分αβγの温度T1で、前記成分A及び前記成分Cを主成分として含む分離成分αγと成分Bを主成分として含む分離成分βとを分離する第一分離部と、
前記分離成分αγの温度を温度T2に変化させ、前記成分Aを主成分として含む分離成分αと前記成分Cを主成分として含む分離成分γとを分離する第二分離部と、
を有し、
前記成分Cは、前記混合成分αβγの温度T1で前記成分Aに対して混和挙動を示し、前記混合成分αβγの温度T1で前記成分Bに対して分離挙動を示し、前記分離成分αγの温度T2で前記成分Aに対して分離挙動を示す、
成分分離システム。
【請求項2】
前記第一分離部は、液体の前記成分Aと液体の成分Bが混和している前記混合成分αβに対し、前記成分Aの抽出剤として前記成分Cを加え、前記成分Cによる前記成分Aの抽出により、前記分離成分αγと前記分離成分βとを液液分離する分離部である、請求項1に記載の成分分離システム。
【請求項3】
前記混合成分αβは、固体物質の再沈殿後の混合系であって、前記固体物質の貧溶媒としての前記成分A及び前記固体物質の良溶媒としての成分Bが混和した混合成分である請求項2に記載の成分分離システム。
【請求項4】
前記固体物質は、スチレン樹脂であり、
前記成分Aは、アルコール類であり、
前記成分Bは、テルペン類であり、
前記成分Cは、炭酸エチレンである、請求項3に記載の成分分離システム。
【請求項5】
前記第一分離部は、固体の前記成分Bが、前記成分Bの良溶媒である液体の前記成分Aに溶解している前記混合成分αβに対し、前記成分Bの貧溶媒として液体の前記成分Cを加え、前記成分Bを析出させて、前記分離成分αγと前記分離成分βとを固液分離する分離部である、請求項1に記載の成分分離システム。
【請求項6】
前記成分Aは、芳香族炭化水素類であり、
前記成分Bは、ポリオレフィン樹脂であり、
前記成分Cは、炭酸エチレンである、請求項5に記載の成分分離システム。
【請求項7】
前記分離成分αγにおける前記成分A又は前記成分Cの割合により、前記温度T2を調整する、請求項2又は請求項5に記載の成分分離システム。
【請求項8】
前記分離成分αγにおける前記成分A又は前記成分Cの組成により、前記温度T2を調整する、請求項2又は請求項5に記載の成分分離システム。
【請求項9】
前記成分Aは、芳香族炭化水素類及びアルコール類よりなる群から選ばれた少なくとも1種であり、
前記成分Bは、ポリオレフィン樹脂であり、
前記成分Cは、炭酸エチレンを含む、請求項8に記載の成分分離システム。
【請求項10】
前記成分Aは、2種の芳香族炭化水素類又は2種のアルコール類である、請求項9に記載の成分分離システム。
【請求項11】
前記成分Cは、炭酸エチレンと、炭酸エチレン以外の環状カーボネート類及び多価アルコール類よりなる群から選ばれた少なくとも1種とである、請求項9に記載の成分分離システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成分分離システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の低減等から再利用が求められ、成分を分離する技術について種々検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には「再生ポリプロピレンを精製するための方法が開示される。一実施形態において、本方法は、再生ポリプロピレンを得ること、再生ポリプロピレンを第1の流体溶媒と接触させて、抽出された再生ポリプロピレンを生成すること、及び次いで、抽出された再生ポリプロピレンを溶媒中に溶解させて、ポリプロピレンを含む第1の溶液を生成することを伴う。第1の溶液を沈殿させ、次いで濾過する。得られた溶液から、より高純度のポリプロピレンを分離する再生ポリプロピレンを精製するための方法。」が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、「発泡ポリスチレンをグリコールエーテル酢酸エステル系化合物、グリコールエーテル系化合物、アセチルアセトン、炭酸ジエチルおよびオルトギ酸エチルよりなる群から選ばれた溶解溶剤に溶解することを特徴とする発泡ポリスチレンの減容化方法。」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2021-526575号公報
【特許文献2】特開平11-80418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、回収ポリプロピレンを高圧条件下で低沸点溶媒に溶解させ不純物と分離することで、高純度な再生ポリプロピレンが得られるとしている。不純物除去後に圧力を低下させることで、ポリプロピレンから低沸点溶媒を容易に分離することが可能となっている。
しかし、特許文献1の手法では、高圧条件下での処理が必要となり、設備コスト増大に繋がる。また、使用後の溶媒が常圧下で気化し易いことから、溶媒の回収又は再利用が困難となる。リサイクルコストを低減する上で、常圧下で実施可能であり、かつ溶媒の回収及び再利用が効率的に行える手法が求められる。
【0007】
一方、特許文献2では、ポリスチレンを良溶媒に溶解させることで減容化し、貧溶媒によりを再沈殿させポリスチレンの再利用が可能となるとしている。また、特許文献2では、再沈殿後に残った混合溶媒を蒸留により分離し再利用する。
しかし、特許文献2で採用する蒸留法は、混合溶媒における成分分離手法としてよく用いられるが、加熱に要するコストが大きいことが知られている。再沈殿後の混合溶媒を低コストで分離する手法が求められる。
【0008】
そこで、本開示の課題は、常圧下で、蒸留を利用することなく、省エネルギーで成分分離が可能な成分分離システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段は、下記態様を含む。
<1>
成分A及び成分Bを含む1相の混合成分αβに対し、成分Cを加え、前記成分A、前記成分B及び前記成分Cを含む混合成分αβγの温度T1で、前記成分A及び前記成分Cを主成分として含む分離成分αγと成分Bを主成分として含む分離成分βとを分離する第一分離部と、
前記分離成分αγの温度を温度T2に変化させ、前記成分Aを主成分として含む分離成分αと前記成分Cを主成分として含む分離成分γとを分離する第二分離部と、
を有し、
前記成分Cは、前記混合成分αβγの温度T1で前記成分Aに対して混和挙動を示し、前記混合成分αβγの温度T1で前記成分Bに対して分離挙動を示し、前記分離成分αγの温度T2で前記成分Aに対して分離挙動を示す、
成分分離システム。
<2>
前記第一分離部は、液体の前記成分Aと液体の成分Bが混和している前記混合成分αβに対し、前記成分Aの抽出剤として前記成分Cを加え、前記成分Cによる前記成分Aの抽出により、前記分離成分αγと前記分離成分βとを液液分離する分離部である、<1>に記載の成分分離システム。
<3>
前記混合成分αβは、固体物質の再沈殿後の混合系であって、前記固体物質の貧溶媒としての前記成分A及び前記固体物質の良溶媒としての成分Bが混和した混合成分である<2>に記載の成分分離システム。
<4>
前記固体物質は、スチレン樹脂であり、
前記成分Aは、アルコール類であり、
前記成分Bは、テルペン類であり、
前記成分Cは、炭酸エチレンである、<3>に記載の成分分離システム。
<5>
前記第一分離部は、固体の前記成分Bが、前記成分Bの良溶媒である液体の前記成分Aに溶解している前記混合成分αβに対し、前記成分Bの貧溶媒として液体の前記成分Cを加え、前記成分Bを析出させて、前記分離成分αγと前記分離成分βとを固液分離する分離部である、<1>に記載の成分分離システム。
<6>
前記成分Aは、芳香族炭化水素類であり、
前記成分Bは、ポリオレフィン樹脂であり、
前記成分Cは、炭酸エチレンである、<5>に記載の成分分離システム。
<7>
前記分離成分αγにおける前記成分A又は前記成分Cの割合により、前記温度T2を調整する、<2>~<6>のいずれか1つに記載の成分分離システム。
<8>
前記分離成分αγにおける前記成分A又は前記成分Cの組成により、前記温度T2を調整する、<2>~<6>のいずれか1つに記載の成分分離システム。
<9>
前記成分Aは、芳香族炭化水素類及びアルコール類よりなる群から選ばれた少なくとも1種であり、
前記成分Bは、ポリオレフィン樹脂であり、
前記成分Cは、炭酸エチレンを含む、<8>に記載の成分分離システム。
<10>
前記成分Aは、2種の芳香族炭化水素類又は2種のアルコール類である、<9>に記載の成分分離システム。
<11>
前記成分Cは、炭酸エチレンと、炭酸エチレン以外の環状カーボネート類及び多価アルコール類よりなる群から選ばれた少なくとも1種とである、<9>又は<10>に記載の成分分離システム。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、常圧下で、蒸留を利用することなく、省エネルギーで成分分離が可能な成分分離システムを提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の成分分離システムの一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、2成分系の組成における混和挙動及び相分離挙動図である
【
図3】
図3は、本開示の第一実施形態に係る第一分離部の一例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、本開示の第一実施形態に係る第一分離部の他の一例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、本開示の第二実施形態に係る第一分離部の一例を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、本開示の第二実施形態に係る第一分離部の他の一例を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、本開示の実施形態に係る第二分離部の一例を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、本開示の実施形態に係る第二分離部の他の一例を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、本開示の第一実施形態に係る固体物質の精製システムの一例を示すブロック図である。
【
図10】
図10は、本開示の第二実施形態に係る固体物質の精製システムの一例を示すブロック図である。
【
図11】
図11は、エタノール-リモネンの混合溶媒に対するポリスチレン樹脂の溶解性を示す表である。
【
図12】
図12は、成分分離システムの消費エネルギー計算結果を示す図である。
図12(A)は実施例1の成分分離システムの計算結果を示す図であり、
図12(B)は従来の蒸留法による成分分離システムの結果を示す図である。
【
図13】
図13は、炭酸エチレン-キシレン系の液液平衡状態図である。
【
図14】
図14は、炭酸エチレン-キシレンの混合溶媒に対するポリプロピレン樹脂の溶解性を示す表である。
【
図15】
図15は、成分分離システムの消費エネルギー計算結果を示す図である。
図15(A)は実施例2の成分分離システムの計算結果を示す図であり、
図15(B)は従来の蒸留法による成分分離システムの結果を示す図である。
【
図16】
図16は、炭酸エチレン-キシレンの混合溶媒に対するポリエチレン樹脂の溶解性を示す表である。
【
図17】
図17は、成分分離システムの消費エネルギー計算結果を示す図である。
図17(A)は実施例3成分分離システムの計算結果を示す図であり、
図17(B)は従来の蒸留法による成分分離システムの結果を示す図である。
【
図18】
図18は、(トルエン+キシレン)-炭酸エチレン系の相変化温度を示す図である。
【
図19】
図19は、(エタノール+1-プロパノール)-炭酸エチレン系の相変化温度を示す図である。
【
図20】
図20は、キシレン-(炭酸エチレン+炭酸プロピレン)系の相変化温度を示す図である。
【
図21】
図21は、p-シメン-(炭酸エチレン+炭酸プロピレン)系の相変化温度を示す図である。
【
図22】
図22は、キシレン-(炭酸エチレン+エチレングリコール)系の相変化温度を示す図である。
【
図23】
図23は、成分分離システムの消費エネルギー計算結果を示す図である。
図23(a)は実施例2の成分分離システムの計算結果を示す図であり、
図23(b)は実施例4の成分分離システムの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0013】
本明細書において、各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
また、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
また、「常温」とは25℃を意味し、「常圧」とは1気圧を意味する。
【0014】
<成分分離システム(又は成分分離方法)>
本実施形態に係る成分分離方法(又は成分分離方法、以下同様)は、
図1に示すように、
成分A及び成分Bを含む1相の混合成分αβに対し、成分Cを加え、成分A、成分B及び成分Cを含む混合成分αβγの温度T
1で、成分A及び成分Cを主成分として含む分離成分αγと成分Bを主成分として含む分離成分βとを分離する第一分離部(又は第一分離工程)と、
分離成分αγの温度を温度T
2に変化させ、成分Aを主成分として含む分離成分αと成分Cを主成分として含む分離成分γとを分離する第二分離部(第二分離部)と、
を有する。
なお、
図1に示すように、分離成分γは、第一分離部(又は第一分離工程)で、成分Cとして再利用してもよい。
【0015】
そして、成分Cは、混合成分αβγの温度T1で成分Aに対して混和挙動を示し、混合成分αβγの温度T1で成分Bに対して分離挙動(具体的には、成分Bが液体の場合、相分離性、又は成分Bが固体の場合、不溶性)を示し、分離成分αγの温度T2で成分Aに対して分離挙動を示す。
【0016】
言い換えれば、成分Aは、混合成分αβγの温度T1で成分Cに対して混和挙動を示し、分離成分αγの温度T2で成分Cに対して分離挙動を示す。
一方、成分Bは、混合成分αβγの温度T1で成分Cに対して分離挙動を示す。
【0017】
ここで、
図2に示すように、2成分系の組成における混和挙動及び相分離挙動は、(i)UCST(Upper Critical Solution Temperature)型挙動が観測される場合、(ii)LCST(Lower Critical Solution Temperature)型挙動が観測される場合、(iii)臨界温度が観測されない場合、などの挙動に分類される。
成分A及び成分Cを含む2成分系の組成の挙動は(i)または(ii)の挙動に該当し、成分B及び成分Cを含む2成分系の組成の挙動は(iii)の挙動に該当する。
【0018】
このように、本実施形態に係る成分分離システムでは、成分Bに対して分離挙動を示すと共に、成分Aに対して温度依存性の分離挙動を示す成分Cを使用することで、常圧下で、混合成分αβから成分Bの分離、分離成分αγから成分Aの分離が可能となる。つまり、成分Aと成分Cの平衡移動を利用し、一連の分離操作を常圧下で行うことができ、かつ蒸留することなく各成分の分離を実施できる。
そのため、本実施形態に係る成分分離システムは、常圧下で、蒸留を利用することなく、省エネルギーで成分分離が可能となる。
【0019】
ここで、「成分A及び成分Cを主成分として含む混合成分αγ」とは、分離成分αγ全体に対して成分A及び成分Cを51質量%以上で含む混合系であることを示す。
「成分Aを主成分として含む成分α」とは、成分α全体に対して成分Aを51質量%以上含む成分を示す。
「成分Bを主成分として含む分離成分β」とは、分離成分β全体に対して成分B51質量%以上含む分離成分を示す。
「成分Cを主成分として含む分離成分γ」とは、分離成分γ全体に対して成分Cを51質量%以上含む分離成分を示す。
【0020】
つまり、「成分Cが、混合成分αβγの温度T1で成分Aに対して混和挙動を示し、混合成分αβγの温度T1で成分Bに対して分離挙動を示す」とは、混合成分αβγから、分離成分αγ全体に対する成分A及び成分Cの合計割合が51質量%以上の分離成分αγと、分離成分β全体に対する成分Bの割合が51質量%以上の分離成分γと、に分離することを示す。
また、「成分Cが、分離成分αγの温度T2で成分Aに対して分離挙動を示す」とは、分離成分αγから、分離成分α全体に対する成分Aの割合が51質量%以の分離成分αと、分離成分γ全体に対する成分Cの割合が51質量%以上の分離成分γと、に分離することを示す。
【0021】
成分Aは、液状の成分を適用する。成分Aは、常温で固体である場合、加熱により液化して使用してもよい。
成分Aとしては、例えば,芳香族炭化水素類,アルコール類、エステル類、カーボネート類、エーテル類、ケトン類、ハロゲン化炭化水素類、アミド類、スルホキシド類等が挙げられる。
芳香族炭化水素類としては、ベンゼン、エチルベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、シメン、クメン、プソイドクメン等が挙げられる。
アルコール類としては、脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール等)、芳香族アルコール(ベンジルアルコール等)等が挙げられる。
エステル類としては、脂肪族カルボン酸エステル(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ビニル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル等)等が挙げられる。
カーボネート類としては、鎖状カーボネート類(ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート等)、環状カーボネート類(プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート等)が挙げられる。
エーテル類としては、鎖状エーテル(ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルイソプロピルエーテル等)、環状エーテル(テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等)等が挙げられる。
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
ハロゲン化炭化水素類としては、ジクロロエタン、トリクロロメタン等が挙げられる。
アミド類としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
スルホキシド類としては、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0022】
成分Bとしては、液体及び固体の成分が適用できる。成分Bは、常温で固体である場合、加熱により液化して使用してもよい。
液体の成分Bとしては、テルペン類(ミルセン、リモネン、ピネン、カンファー、サピネン、フェランドレン、パラシメン、オシメン、テルピネン、カレン、ジンギベレン、カリオフィレン、ビサボレン、セドレン等のテルペン炭化水素;シトロネラール、シトラール、シクロシトラール、サフラナール、フェランドラール、ペリルアルデヒド、ゲラニアール、ネラール等のテルペンアルデヒド;ショウノウ、ツヨシ等のテルペンケトン)が挙げられる。
固体の成分Bとしては、ポリオレフィン樹脂(ポリプロピレン、ポリエチレン、シクロオレフィン等のポリマー)、ポリスチレン樹脂、ゴム(エチレンプロピレンゴム等)等が挙げられる。
【0023】
成分Cは、液状の成分を適用する。成分Cは、常温で固体である場合、加熱により液化して使用してもよい。
成分Cとしては、カーボネート類、多価アルコール類、水等が挙げられる。
カーボネート類としては、成分Aで前述したものが挙げられる。
多価アルコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。
中でも、成分Cとしては、分離性及びT2の調整容易性の観点から、環状カーボネート類及び多価アルコール類よりなる群から選ばれた少なくとも1種であることが好ましく、環状カーボネート類及び多価アルコール類よりなる群から選ばれた少なくとも2種であることが好ましく、炭酸エチレンと、炭酸エチレン以外の環状カーボネート類及び多価アルコール類よりなる群から選ばれた少なくとも1種とであることが更に好ましく、炭酸エチレンと、炭酸プロピレン及びエチレングリコールよりなる群から選ばれた少なくとも1種とであることが特に好ましい。
特に、炭酸エチレンは、対称性の高い分子構造を有しており分子間相互作用が強く、混合系において比較的高い温度で混和及び分離の相変化が生じる。炭酸エチレンの性質により、炭酸エチレンと他の成分の混合系において、温和な冷却操作により各成分を容易に分離することが可能となる。また、炭酸エチレンは電解液などに用いられる高極性溶媒として知られており、極性物質を溶かしやすいという性質を有する。よって、炭酸エチレンを元々含まない極性溶媒と無極性溶媒の混合系においても、炭酸エチレンによって極性溶媒を抽出することで無極性溶媒を分離し、冷却操作によって炭酸エチレンと極性溶媒を分離することが可能となる。
そのため、成分Cとしては、炭酸エチレンを含むことが好ましく、炭酸エチレンであることがより好ましい。
【0024】
以下、本実施形態に係る成分分離システム(又は成分分離方法)の詳細について説明する。
【0025】
<第一分離部(又は第一分離工程、以下同様)>
(第一実施形態)
第一実施形態に係る第一分離部は、例えば、
図3に示すように、液体の成分Aと液体の成分Bが混和している混合成分αβに対し、成分Aの抽出剤として液体の成分Cを加え、成分Cによる成分Aの抽出により、分離成分αγと分離成分βとを液液分離する分離部である。
【0026】
第一実施形態に係る第一分離部では、混合成分αβを準備する。混合成分αβにおける成分Aと成分Bとの比率(成分A/成分B)は、例えば、質量比で、10/1-1/10とする。成分Aと成分Bとを混和する温度に調整して混合し、混合成分αβを準備してもよい。
【0027】
次に、混合成分αβに成分Cを加え、混合成分αβγを得る。
そして、混合成分αβγの温度を温度T1に温度操作する。温度T1は、例えば、40℃以上、各成分の沸点以下の範囲内とする。
混合成分αβγの温度T1への温度操作は、混合成分αβγの昇温操作でもよいし、冷却操作でもよい。また、予め混合成分αβ及び成分Cを温度調整し、混合成分αβに成分Cを加えたとき、混合成分αβγの温度が温度T1となるようにしてもよい。
成分Cを加えた混合成分αβγでは、成分Cによる成分Aの抽出により、分離成分αγと分離成分βとが相分離する。そして、液液分離操作により、分離成分αγと分離成分βとを分離する。液液分離操作は、分液漏斗を使用する方法等、周知の方法が採用できる。
抽出操作及び液液分離操作の回数、並びに成分Cの添加量は、例えば、混合成分αβγにおける成分Aの分配係数及び混合成分αβの量から決定する。
【0028】
ここで、第一実施形態に係る第一分離部において、混合成分αβの成分Bの割合が少ない場合、成分Aの影響が支配的となり、混合成分αβγにおいて、分離成分αγと分離成分βとで相分離が生じ難くなることがある。その場合、
図4に示すように、分離成分βを再利用し、混合成分αβに追加で分離成分βを加え、混合成分αβにおける成分Bの割合を増やし、上記範囲としてもよい。
なお、別途、成分Bを準備し、混合成分αβに追加で成分Bを加え、混合成分αβにおける成分Bの割合を増やしてよい。
【0029】
(第二実施形態)
第二実施形態に係る第一分離部は、例えば、
図5に示すように、第一分離部は、固体の成分Bが、成分Bの良溶媒である液体の成分Aに溶解している混合成分αβに対し、成分Bの貧溶媒として液体の成分Cを加え、成分Bを析出させて、分離成分αγと分離成分βとを固液分離する分離部である。
【0030】
第二実施形態に係る第一分離部では、混合成分αβを準備する。混合成分αβにおける成分Aと成分Bとの比率(成分A/成分B)は、例えば、質量比で、1000/1-10/1とする。成分Aに成分Bが溶解する温度に調整し、混合成分αβを準備してもよい。
【0031】
次に、混合成分αβに成分Cを加え、混合成分αβγを得る。
そして、混合成分αβγの温度を温度T1に温度操作する。温度T1の範囲、及び混合成分αβγの温度T1への温度操作の方法は、第一実施形態に係る第一分離部と同様とする。
成分Cを加えた混合成分αβγでは、成分Bの溶解度が変化し、成分Bが析出する。そして、固液分離操作により、分離成分αγと分離成分βとを分離する。固液分離操作は、濾過、遠心分離、デカンテーション等、周知の方法が採用できる。
【0032】
ここで、第二実施形態に係る第一分離部において、混合成分αβに不純物が混入している場合、
図6に示すように、混合成分αβに成分Cを加える前に、不純物を除去する処理を実施してもよい。不純物を除去する方法は、吸着剤を利用する方法、濾過、遠心分離、デカンテーション等、周知の方法が採用できる。
【0033】
<第二分離部(第二分離工程、以下同様)>
本実施形態に係る第二分離部は、
図7及び
図8に示すように、分離成分αγの温度を温度T
2に変化させ、成分Aを主成分として含む分離成分αと成分Cを主成分として含む分離成分γとを分離する分離部である。
【0034】
本実施形態に係る第二分離部では、分離成分αγの温度を温度T2に温度操作するが、成分Aと成分CがUCST型の分離挙動を示す場合、分離成分αγの温度T2を温度T1よりも低くする。つまり、温度T1>温度T2の関係となるように、分離成分αγの冷却し、温度T1よりも低い温度T2とする。
一方、成分Aと成分CがLCST型の分離挙動を示す場合、分離成分αγの温度T2を温度T1よりも高くする。つまり、温度T1<温度T2の関係となるように、分離成分αγの昇温し、温度T1よりも高い温度T2とする。
ここで、温度T2は、分離成分αγにおける成分A又は成分Cの割合、好ましくは成分Cの割合により調整できる。そのため、上述した第一及び第二の実施形態に係る第一分離部において、目的の温度T2となるように、成分A及び成分Cの種類、成分Cの添加量を調整することがよい。
なお、温度T1と温度T2との差(絶対値)は、例えば、10℃以上の範囲内とする。
【0035】
温度操作により、分離成分αγの温度が温度T
2となると、平衡移行により、分離成分αと分離成分γとが相分離する。そして、液液分離操作により、分離成分αγと分離成分γとを分離する(
図7参照)。液液分離操作は、分液漏斗を使用する方法等、周知の方法が採用できる。
【0036】
ただし、温度操作により、分離成分αγの温度を温度T
2としたとき、温度T
2が成分A又は成分Cの融点を下回ると、成分A又は成分Cが析出する(
図8参照)。その場合、固液分離操作により、分離成分αγと分離成分γとを分離する。固液分離操作は、濾過、遠心分離、デカンテーション等、周知の方法が採用できる。
【0037】
また、温度T2は、前記分離成分αγにおける前記成分A又は前記成分Cの組成により、調整することができる。
前記分離成分αγにおける前記成分A又は前記成分Cの組成により温度T2をコントロールすることで、成分分離エネルギーの低減が可能となる。例えば、例えば成分Aと成分CとがUCST型の相変化挙動を示す場合、T1>相変化温度>T2となる必要があるが、相変化温度をT1に近付けることでT2も上昇させることができ、T1とT2との温度変化分の消費エネルギーが低減可能となる。また、相変化温度のコントロールは、T1及びT2を各成分の沸点以下凝固点以上に設定したい場合にも有効である。
【0038】
温度T2を、前記分離成分αγにおける前記成分Aの組成により調整する場合、成分Aは、分離性及びT2の調整容易性の観点から、2種以上の化合物であることが好ましく、芳香族炭化水素類、アルコール類、ハロゲン化炭化水素類、アミド類及びスルホキシド類よりなる群から選ばれた少なくとも2種であることがより好ましく、芳香族炭化水素類及びアルコール類よりなる群から選ばれた少なくとも2種であることが更に好ましく、2種の芳香族炭化水素類又は2種のアルコール類であることが特に好ましい。
成分Aとして2種以上を用いる場合の芳香族炭化水素類としては、分離性及びT2の調整容易性の観点から、ベンゼン、エチルベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、シメン、クメン及びプソイドクメンよりなる群から選ばれた2種以上であることが好ましく、トルエン、キシレン、メシチレン、シメン及びクメンよりなる群から選ばれた2種以上であることがより好ましく、トルエン及びキシレンが特に好ましい。
成分Aとして2種以上を用いる場合のアルコール類としては、分離性及びT2の調整容易性の観点から、2種以上の脂肪族アルコールであることが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール及びヘキサノールよりなる群から選ばれた2種以上であることがより好ましく、エタノール及び1-プロパノールであることが特に好ましい。
【0039】
成分Aとして芳香族炭化水素類及びアルコール類、成分Cとして炭酸エチレンを用い、成分Aの組成を変化させた場合の相変化温度を
図18及び
図19に示す。なお、相変化温度は成分Aと成分Cとの質量比が1:1の時の値である。また、成分A及び成分Cの混合溶媒の温度を変化させつつ撹拌し、溶媒の輝度変化を観察することで相変化温度の記録を行った。
まず、芳香族炭化水素類の場合ではトルエン(Toluene)とキシレン(Xylene)とを混合した溶媒を用い、
図18に示すようにキシレンの割合が大きくなるにつれて相変化温度が高くなることが確かめられた。更に、相変化温度の挙動はキシレンの割合に対し二次曲線で近似可能であり、未計測の組成においても相変化温度を予測できることが示されている。
続いて、アルコール類の場合ではエタノール(Ethanol)と1-プロパノール(1-Propanol)とを混合した溶媒を用い、
図19に示すように1-プロパノールの割合が大きくなるにつれて相変化温度が高くなることが確かめられ、芳香族炭化水素類の場合と同様に相変化温度の挙動が1-プロパノールの割合に対し二次曲線で近似可能であるとの結果が得られた。
これらの結果を応用し、成分Aの組成を調整することで相変化温度のコントロールが可能となる。なお今回の例ではトルエンとキシレンとの組み合わせ、エタノールと1-プロパノールとの組み合わせについて記載したが、他の芳香族炭化水素類、アルコール類の物質を用いることでより幅広い範囲で相変化温度をコントロールすることも可能となる。
【0040】
温度T
2を、前記分離成分αγにおける前記成分Cの組成により調整する場合、成分Cは、分離性及びT
2の調整容易性の観点から、2種以上の化合物であることが好ましく、炭酸エチレンと、炭酸エチレン以外の環状カーボネート類及び多価アルコール類よりなる群から選ばれた少なくとも1種とであることがより好ましく、炭酸エチレンと、炭酸プロピレン及びエチレングリコールよりなる群から選ばれた少なくとも1種とであることが特に好ましい。
成分Aとしてキシレン又はp-シメンを用い、成分Cとして炭酸エチレン(EC)と炭酸プロピレン(PC)との混合溶媒又は炭酸エチレンとエチレングリコール(EG)との混合溶媒を用い、成分Cの組成を変化させた場合の相変化温度を
図20~
図22に示す。なお、相変化温度は成分Aと成分Cとの質量比が1:1の時の値である。また、成分A及び成分Cの混合溶媒の温度を変化させつつ撹拌し、溶媒の輝度変化を観察することで相変化温度の記録を行った。
まず、炭酸エチレンと炭酸プロピレンとの混合溶媒を用いた場合では、
図20及び
図21に示すように炭酸エチレンの割合が大きくなるにつれて相変化温度が高くなることが確かめられた。これは炭酸プロピレンがキシレン、p-シメンに対し混和性を示す溶媒であり、炭酸プロピレンの割合が減ることで分離しにくくなったためである。
続いて、炭酸エチレンとエチレングリコールとの混合溶媒を用いた場合では、
図22に示すように炭酸エチレンの割合が大きくなるにつれて相変化温度が低くなることが確かめられた。これはエチレングリコールがキシレンに対し分離性を示す溶媒であり、エチレングリコールの割合が減ることで分離し易くなったためである。
これらの結果を応用し、成分Cの組成を調整することで相変化温度のコントロールが可能となる。なお今回の例では炭酸エチレンと炭酸プロピレンとの組み合わせ、炭酸エチレンとエチレングリコールとの組み合わせについて記載したが、成分Aとの相平衡挙動に応じて適切な物質を選択することで、より幅広い範囲で相変化温度をコントロールすることも可能となる。更に成分Aの組成調整と組み合わせることもできる。
【0041】
<他の態様>
(第一実施形態)
第一実施形態に係る第一分離部を有する成分分離システムは、固体物質の精製システム(以下、「第一実施形態に係る固体物質の精製システム」)に適用できる。
第一実施形態に係る固体物質の精製システムでは、
図9に示すように、不純物が混ざった固体物質を、固体物質の良溶媒としての液体の成分Bを加え、成分Bに溶解する溶解操作を実施する。それにより、成分B、固体物質及び不純物を含む溶液を得る。
次に、固体物質の貧溶媒としての成分Aを溶液に加え、再沈殿操作により、固体物質を析出させ、固体物質と不純物を分離する。つまり、第一実施形態に係る第一分離部を有する成分分離システムにおいて、混合成分αβは、固体物質の再沈殿後の混合系であって、固体物質の貧溶媒としての成分A及び固体物質の良溶媒としての成分Bが混和した混合成分が該当する。
【0042】
そして、残った、成分A及び成分Bを主成分として含む混合成分αβを用いて、第一実施形態に係る第一分離部を有する成分分離システムで分離を実施する。
それにより、第一実施形態に係る固体物質の精製システムでは、固体物質の精製と共に、各成分が分離可能となる。
【0043】
第一実施形態に係る固体物質の精製システム(及び第一実施形態に係る第一分離部を有する成分分離システム)において、固体物質は樹脂(特にスチレン樹脂)であり、成分Aは、アルコール類であり、成分Bはテルペン類であり、成分Cは炭酸エチレンである組み合わせが好適に挙げられる。
【0044】
なお、第一実施形態に係る固体物質の精製システム(及び第一実施形態に係る第一分離部を有する成分分離システム)において、分離した分離成分α、β、γは、各々再利用することもできる。
【0045】
(第二実施形態)
第二実施形態に係る第一分離部を有する成分分離システムは、固体物質の精製システム(以下、「第二実施形態に係る固体物質の精製システム」)に適用できる。
第二実施形態に係る固体物質の精製システムでは、
図10に示すように、不純物が混ざった固体の成分Bを、固体物質の良溶媒としての液体の成分Aを加え、成分Aに溶解する溶解操作を実施する。それにより、成分Bが成分Aに溶解し、不純物を含む混合成分αγを得る。
次に、混合成分αγに不純物除去処理を実施し、不純物を除去する。
【0046】
そして、残った、成分A及び成分Bを含む混合成分αβを用いて、第二実施形態に係る第一分離部を有する成分分離システムで分離を実施する。
それにより、第二実施形態に係る固体物質の精製システムでは、固体の成分Bの精製と共に、各成分が分離可能となる。
【0047】
第二実施形態に係る固体物質の精製システム(及び第二実施形態に係る第一分離部を有する成分分離システム)において、成分Aは芳香族炭化水素類であり、成分Bは樹脂(特にポリオレフィン樹脂)であり、成分Cは炭酸エチレンである組み合わせが好適に挙げられる。
【0048】
なお、第二実施形態に係る固体物質の精製システム(及び第二実施形態に係る第一分離部を有する成分分離システム)において、分離した分離成分α、γは、各々再利用することもできる。
【実施例0049】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、本開示はこれら実施例に限定されない。また、実施例は常圧下で実施した。
【0050】
[実施例1:ポリスチレン樹脂の再沈殿、及び成分分離]
本開示の成分分離システムをポリスチレン樹脂の精製システムに適用した例について記載する。
【0051】
まず、ポリスチレン樹脂300mgを室温下で良溶媒としてのd-リモネン(成分Bの一例)15gに完全に溶解させ、ポリスチレン樹脂溶液を得た。
次に、ポリスチレン樹脂溶液に貧溶媒としてのエタノール(成分Aの一例)15gを投入し、溶液をよく撹拌し、ポリスチレン樹脂を析出させた。
次に、ポリスチレン樹脂溶液から、ポリスチレン樹脂の析出物を遠心分離により分離した。残ったd-リモネンとエタノールを質量比1:1で含む混合溶媒αβ(混合成分αβ
の一例)に対し、40℃に加熱し、液化した炭酸エチレン(成分Cの一例)12gを加えて、よく振り混ぜて、混合溶媒αβγ(混合成分αβγの一例)を得た。
そして、混合溶媒αβγの温度が温度T1=40℃となり、上層液と下層液とに相分離した。分液漏斗を用いて上層液と下層液とを分離する液液分離操作を実施し、残った上層液及び下層液に、再び炭酸エチレン12gを加え、撹拌後に分液漏斗を用いて上層液と下層液に液液分離操作を実施した。同様の操作をあと2回繰り返した。なお、これを操作時の液の温度は、温度T1=40℃とした。
【0052】
抽出操作後の上層液は、炭酸エチレン、エタノール、d-リモネンを質量比3.5:15.6:80.9で含む、d-リモネンが主成分の分離溶媒β(分離成分βの一例)となった。分離溶媒βはエタノールを15.6質量%含んでいるが、
図11に示すようにエタノールの割合が20質量%以下の場合、d-リモネンとエタノールの混合溶媒はポリスチレン樹脂の良溶媒として作用すると考えられる。実際に分離溶媒βに対しポリスチレン樹脂300mgを加えたところ、ポリスチレン樹脂は完全に溶解し、この一連の操作により回収された分離溶媒βがポリスチレン樹脂の再沈殿操作に再利用可能であることが示された。
【0053】
一方、抽出操作後の下層液は、炭酸エチレン、エタノール、d-リモネンを質量比62.2:34.5:3.3で含む分離溶媒αγ(分離成分αγの一例)となった。
【0054】
次に、分離溶媒αγを4℃下で15分間静置して冷却し、分離溶媒αγの温度が温度T2=4℃となったとき、容器の底に成分Cの析出物γ(分離成分γの一例)が析出した。そして、濾過及び遠心分離により分離溶媒αと成分Cの析出物γとを固液分離した。
分離溶媒αは炭酸エチレン、エタノール、d-リモネンを質量比7.8:58.7:33.5で含む、エタノールが主成分の液体であった。分離溶媒αは、ポリスチレン樹脂の再沈殿操作における貧溶媒として再利用可能な状態で回収された。
【0055】
続いて、ポリスチレン樹脂の再沈殿操作において、再沈殿後の溶媒回収まで含めた成分分離のポリスチレン樹脂1kgあたりの消費エネルギー計算を行った。本計算では、ポリスチレン樹脂に対し質量比でd-リモネンとエタノールを50倍、炭酸エチレンを150倍用いたとし、各操作の熱効率を25%、分離操作効率を100%と仮定し計算を行った。また、各成分の熱物性はNISTのデータブック記載の値を参照した。
なお、本計算にはポリスチレン樹脂の比熱及び溶解熱、並びに各溶媒の混和熱については考慮していない。
計算結果を
図12に示す。
図12(A)は実施例1の成分分離システムの計算結果であり、
図12(A)は従来の蒸留法による成分分離システムの結果となっている。
従来法による消費エネルギーが約643[MJ/kg-PS]であるのに対し、実施例1の成分分離システムを用いることで約281[MJ/kg-PS]まで低減されるとの計算結果を得た。
【0056】
ここで、従来法は、1)ポリスチレン樹脂(PS)を25℃のd-リモネンに溶解する、2)、ポリスチレン樹脂溶液にエタノールを添加し、ポリスチレン樹脂を析出分離する。3)蒸留によりd-リモネンとエタノールとを分離するシステムとした。
【0057】
[実施例2:ポリプロピレン樹脂の再沈殿、及び成分分離]
本開示の成分分離システムをポリプロピレン樹脂(成分Bの一例)の精製システムに適用した例について記載する。
【0058】
ポリプロピレン樹脂(成分Bの一例)300mgを130℃下で良溶媒であるキシレン(成分Aの一例)15gに完全に溶解させ、ポリプロピレン樹脂溶液αβ(混合成分αβ
の一例)を得た。
次に、ポリプロピレン樹脂溶液αβに40℃に加熱し、液化した炭酸エチレン(成分Cの一例)15gを加えよく撹拌して、温度T1=88℃の混合溶液αβγ(混合成分αβγの一例)を得るとともに、ポリプロピレン樹脂の析出物β(分離成分βの一例)を析出させた。なおポリプロピレン樹脂の析出物βは、ポリプロピレン樹脂溶液αβに炭酸エチレンを加えた瞬間に析出した。
そして、ポリプロピレン樹脂の析出物βを濾過により回収した。
【0059】
次に、残ったキシレンと炭酸エチレンを質量比1:1で含む混合溶媒αγ(分離成分αγの一例)を室温下で放置した。混合溶媒αγの温度が70℃以下になった段階で徐々に分離が生じ、温度T2=40℃以下になった段階で明瞭な液液界面が発生し、上層液と下層液とに相分離が生じた。
【0060】
次に、分液漏斗を用いて上層液と下層液を分離する液液分離操作を実施した。
図13に示す炭酸エチレン-キシレン系の液液平衡状態図から、上層液は、キシレンが主成分で炭酸エチレンを約10質量%含む分離溶媒α(分離成分αの一例)であり、下層液は炭酸エチレンが主成分でキシレンを約20質量%含む分離溶媒γ(分離成分γの一例)であると推定される。
なお、
図13において、M
ECは炭酸エチレンの質量、M
xyleneはキシレンの質量、T
Cは系の温度示す。
ここで、
図14に示すように、炭酸エチレンの割合が20質量%以下の場合、炭酸エチレンとキシレンの混合溶媒はポリプロピレンの良溶媒として作用する為、分離溶媒αはポリプロピレン樹脂の良溶媒として再利用可能であるといえる。
【0061】
次に、実施例1の場合と同様に、ポリプロピレン樹脂の再沈殿操作においても消費エネルギーの計算を行った。本計算では、ポリプロピレン樹脂に対し質量比でキシレンと炭酸エチレンを50倍用いたとし、その他は実施例1と同様の条件とした。
計算結果を
図15に示す。
図15(A)は実施例2の成分分離システムの計算結果であり、
図15(B)は従来の蒸留法による成分分離システムの結果となっている。
従来法による消費エネルギーが約480[MJ/kg-PP]であるのに対し、実施例2の成分分離システムを用いることで約63[MJ/kg-PP]まで低減されるとの計算結果を得た。
【0062】
ここで、従来法は、1)ポリプロピレン樹脂(PP)を130℃のキシレンに溶解する、2)ポリプロピレン樹脂溶液を40℃まで冷却する、3)ポリプロピレン樹脂溶液に40℃のアセトンを添加し、ポリプロピレン樹脂を析出分離する。3)蒸留によりキシレンとアセトンとを分離するシステムとした。
【0063】
[実施例3:ポリエチレン樹脂の再沈殿、及び成分分離]
本開示の成分分離システムをポリエチレン樹脂(成分Bの一例)の精製システムに適用した例について記載する。
【0064】
ポリエチレン樹脂(成分Bの一例)300mgを115℃下でキシレン(成分Aの一例)15gに完全に溶解させて、ポリエチレン樹脂溶液αβ(混合成分αβの一例)を得た。
次に、ポリエチレン樹脂溶液αβに40℃に加熱し、液化した炭酸エチレン(成分Cの一例)15gを加えよく撹拌して、温度T1=80℃の混合溶液αβγ(混合成分αβγの一例)を得るとともに、ポリエチレン樹脂の析出物β(分離成分βの一例)を析出させた。なおポリエチレン樹脂の析出物βは、ポリエチレン樹脂溶液αβに炭酸エチレンを加えた瞬間に析出した。
そして、ポリエチレン樹脂の析出物βを濾過により回収した。
【0065】
残ったキシレンと炭酸エチレンを質量比1:1で含む混合溶媒αγ(分離成分αγの一例)を室温下で放置した。混合溶媒αγの温度が70℃以下になった段階で徐々に、分離が生じ、温度T2=40℃以下になった段階で明瞭な液液界面が発生し、上層液と下層液とに相分離が生じた。
【0066】
次に、分液漏斗を用いて上層液と下層液を分離する液液分離操作を実施した。
図13に示す炭酸エチレン-キシレンの液液平衡状態図から、上層液は、キシレンが主成分で炭酸エチレンを約10質量%含む分離溶媒α(分離成分αの一例)であり、下層液は炭酸エチレンが主成分でキシレンを約20質量%含む分離溶媒(分離成分γの一例)であると推定される。
ここで、
図16に示すように、炭酸エチレンの割合が20質量%以下の場合、炭酸エチレンとキシレンの混合溶媒はポリプロピレン樹脂の良溶媒として作用する為、分離溶媒αはポリエチレン樹脂の良溶媒として再利用可能であるといえる。
【0067】
次に、実施例2の場合と同様に、ポリエチレン樹脂の再沈殿操作における消費エネルギーの計算を行った。計算条件は実施例2と全く同じとした。計算結果と
図17に示す。
図17(A)は実施例3の成分分離システムの計算結果であり、
図17(B)は従来の蒸留法による成分分離システムの結果となっている。
従来法による消費エネルギーが約470[MJ/kg-PE]であるのに対し、実施例3の成分分離システムを用いることで約52[MJ/kg-PE]まで低減されるとの計算結果を得た。
【0068】
ここで、従来法は、1)ポリエチレン樹脂(PP)を115℃のキシレンに溶解する、2)ポリエチレン樹脂溶液を40℃まで冷却する、3)エチレン樹脂溶液に40℃のアセトンを添加し、ポリエチレン樹脂を析出分離する。3)蒸留によりキシレンとアセトンとを分離するシステムとした。
【0069】
[実施例4:ポリプロピレンの再沈殿操作]
ポリプロピレン300mgを130℃下でキシレン15gに完全に溶解させた。このポリプロピレン溶液に炭酸エチレン13g及びエチレングリコール3gを加えよく撹拌するとポリプロピレンが析出した。このポリプロピレン析出物を濾過により回収し、残ったキシレン、炭酸エチレン及びエチレングリコールの混合溶液を80℃になるまで放置すると、明瞭な液液界面が発生した。この溶液を、分液漏斗を用いて上層液と下層液とに分離した。新たなポリプロピレン300mgを130℃下で回収した上層液に完全に溶解させ、このポリプロピレン溶液を回収した下層液に加えよく撹拌するとポリプロピレンが析出した。1回目の操作時と同様、ポリプロピレン析出物を濾過により回収し、残った混合溶媒を80℃になるまで放置すると明瞭な液液界面が生じた。この溶液を、分液漏斗を用いて上層液と下層液に分離した。これにより、今回の試験で用いた溶媒系は相変化により分離することで繰り返し使用できることが確かめられた。なお1回目及び2回目の操作で回収したポリプロピレン析出物の収率は90%以上となった。
【0070】
続いて、実施例2及び実施例4のポリプロピレンの再沈殿操作において、再沈殿後の溶媒回収まで含めたプロセスのポリプロピレン1kgあたりの消費エネルギー計算を行った。本計算では、キシレンを炭酸エチレンとエチレングリコールとを4:1(質量比)の割合で含む混合溶媒をポリプロピレンに対し質量比で50倍ずつ用いたとし、各操作の熱効率を25%、分離操作効率を100%と仮定し計算を行った。また、各物質の熱物性はNISTのデータブック記載の値を参照した。なお、本計算にはポリプロピレンの比熱や溶解熱、各溶媒の混和熱については考慮していない。計算結果を
図23に示す。
図23(a)は実施例2の場合の計算結果であり、
図23(b)は実施例4の場合の結果となっている。今回、実施例2での消費エネルギーが約63[MJ/kg-PP]であるのに対し、実施例4での消費エネルギーが約35[MJ/kg-PP]まで低減されるとの計算結果を得た。
【0071】
以上から、本実施例の成分分離システムは、常圧下で、蒸留を利用することなく、省エネルギーで成分分離が可能であることがわかる。
また、本実施例の成分分離システムは、固体物質の精製と共に、成分分離が可能であることがわかる。