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特開2024-110921ポリエステルフィルム及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110921
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
B32B27/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023199548
(22)【出願日】2023-11-27
(31)【優先権主張番号】P 2023015134
(32)【優先日】2023-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 俊人
(72)【発明者】
【氏名】貫井 啓介
(72)【発明者】
【氏名】早野 知子
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AK41C
4F100AK41D
4F100AK41E
4F100AK42A
4F100AK42B
4F100AK42C
4F100AK42D
4F100AK42E
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA08
4F100BA10A
4F100BA10E
4F100EJ38
4F100EJ41
4F100JL16A
4F100JL16B
4F100JL16C
4F100JL16D
4F100JL16E
4F100JN01
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
4F100YY00D
4F100YY00E
(57)【要約】
【課題】再生ポリエステル樹脂の添加量を所望に応じて多量添加しても、色調のよいフィルムを提供すること。
【解決手段】ポリエステル層Aとポリエステル層Bが交互に少なくとも5層以上積層されてなるポリエステルフィルムであって、ポリエステル層Aの合計厚みTA(μm)は、フィルムの厚みT(μm)に対して40%以上の厚みを有し、ポリエステル層Aは、ポリエステル層Aを構成するポリエステル樹脂Aに対して再生ポリエステル樹脂を30質量%以上100質量%以下含有してなるポリエステルフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル層Aとポリエステル層Bが交互に少なくとも5層以上積層されてなるポリエステルフィルムであって、ポリエステル層Aの合計厚みTA(μm)は、フィルムの厚みT(μm)に対して40%以上の厚みを有し、ポリエステル層Aは、ポリエステル層Aを構成するポリエステル樹脂Aに対して再生ポリエステル樹脂を30質量%以上100質量%以下含有してなるポリエステルフィルム。
【請求項2】
前記ポリエステル層Bは、ポリエステル層Bを構成するポリエステル樹脂Bに対して再生ポリエステル樹脂を30質量%以上100質量%以下含有してなる請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記ポリエステルフィルムの色調b値が-2.0~2.0である請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記ポリエステルフィルムのヘイズ値が2.0%以下である請求項3に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記ポリエステルフィルムの厚みT(μm)が25μm以上500μm以下である請求項3に記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂原料の色調b値は、ポリエステルフィルムの色調b値より4.0倍を超える値である請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
前記ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂原料の色調b値が5.0以上15.0以下である請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項8】
前記ポリエステルフィルム樹脂に含まれる再生ポリエステル樹脂原料の色調b値が5.0以上30.0以下である請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載のポリエステル層Aとポリエステル層Bが交互に少なくとも5層以上積層されてなるポリエステルフィルムの製造方法であって、ポリエステル層Aの合計厚みTA(μm)は、フィルムの厚みT(μm)に対して40%以上の厚みを有し、ポリエステル層Aは、ポリエステル層Aを構成するポリエステル樹脂Aに対して再生ポリエステル樹脂を30質量%以上100質量%以下含有してなるポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記ポリエステル層Aに含まれる再生ポリエステル樹脂原料の色調b値が4.5~13.5である請求項9に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記ポリエステル層A、および前記ポリエステル層Bに含まれる再生ポリエステル樹脂原料の色調b値がいずれも4.5~13.5である請求項9に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生ポリエステル樹脂を含むポリエステルフィルム及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
長年、ポリエステル樹脂成型物を製造する際に発生するポリエステル屑を再利用する取り組みがなされている。このようなポリエステル屑の再生方法として、ポリエステル屑を一旦溶かしてペレット化し、再生ポリエステル樹脂材料として使用するマテリアルリサイクルがなされている。また、このように得られた再生ポリエステル樹脂は、何かしらの品位低下をまねきやすく、再生ポリエステル樹脂を他のバージン原料のポリエステル樹脂に一定量ブレンドして、ポリエステル樹脂成型物の品位が低下しない限られた範囲で利用されてきた。
【0003】
さらに、近年のSDGsなどの環境意識への高まりから、その再利用するポリエステル樹脂成型物の対象が、一旦市場や消費者に流通した使用済みのポリエステル屑にまで広がっており、その使用済みのポリエステル屑を回収し、回収したポリエステル樹脂成型物の表面等に設けられた加工層を剥離除去し、異物等を洗浄除去してポリエステル樹脂だけを取り出して再びポリエステル樹脂材料とする活動も進んでいる。特に偏光板やセラミックグリーンシートの製造工程において基材として用いられるポリエステルフィルムは、目的物を基材から剥離した後は、加工により基材の寸法変化があるために再利用されることなく廃棄される傾向にある。仮に、再生ポリエステル樹脂として他製品にリサイクルしても、再生したポリエステル樹脂を利用したフィルムはバージン樹脂を使用したフィルムに比べて機械的強度や色目などの特性面が悪化しやすく、再生ポリエステル樹脂の使用量には限界がある。この問題に対し、例えば、特許文献1には、回収したフィルムを溶融して再生すると、フィルム表面に付加している易接着性塗膜や制電性塗膜が劣化しリサイクルフィルムを着色させるため、回収前のフィルムに酸化防止剤を含んだ層を設ける前処理をおこない、酸化防止剤の効果により溶融時の塗膜層成分の劣化を抑え、再生フィルムの着色を防止する方法が提案されている。また、例えば、特許文献2では、再生樹脂が紫外線により劣化し黄味に着色することを抑制するため、中間層に再生樹脂を添加しその外層に紫外線吸収剤を添加することでフィルムのb値を抑える技術などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08-217892号公報
【特許文献2】特開2012-210761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、ポリエステル樹脂を再生するために、わざわざフィルムの表面に別の紫外線吸収剤を含有する層を積層する、という別の資源を利用しており、環境負荷が逆にかかってしまう。また、紫外線吸収剤を含有した再生ポリエステル樹脂を利用するため、再生ポリエステル樹脂の利用量が多くなるほど紫外線吸収剤の添加量も増えるため、透明性が損なわれやすくなる。また、特許文献2の方法では、紫外線吸収剤を外層に添加するとフィルムの製膜性が低下するため外層には再生ポリエステル樹脂を使用できないか、また、フィルムの透明性の観点や色目の問題から中間層の再生ポリエステル樹脂の使用量に制限があった。
【0006】
本発明の課題は、再生ポリエステル樹脂の添加量を所望に応じて多量添加しても、色調のよいフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の好ましい一態様は以下の構成を有するものである
(1)ポリエステル層Aとポリエステル層Bが交互に少なくとも5層以上積層されてなるポリエステルフィルムであって、ポリエステル層Aの合計厚みTA(μm)は、フィルムの厚みT(μm)に対して40%以上の厚みを有し、ポリエステル層Aは、ポリエステル層Aを構成するポリエステル樹脂Aに対して再生ポリエステル樹脂を30質量%以上100質量%以下含有してなるポリエステルフィルム。
(2)前記ポリエステル層Bは、ポリエステル層Bを構成するポリエステル樹脂Bに対して再生ポリエステル樹脂を30質量%以上100質量%以下含有してなる(1)に記載のポリエステルフィルム。
(3)前記ポリエステルフィルムの色調b値が-2.0~2.0である(1)または(2)に記載のポリエステルフィルム。
(4)前記ポリエステルフィルムのヘイズ値が2.0%以下である(1)~(3)のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
(5)前記ポリエステルフィルムの厚みT(μm)が25μm以上500μm以下である(1)~(4)のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
(6)前記ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂原料の色調b値は、ポリエステルフィルムの色調b値より4.0倍を超える値である(1)~(5)のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
(7)前記ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂原料の色調b値が5.0以上15.0以下である(1)~(6)のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
(8)前記ポリエステルフィルム樹脂に含まれる再生ポリエステル樹脂原料の色調b値が5.0以上30.0以下である(1)~(7)のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
(9)(1)~(8)のいずれかに記載のポリエステル層Aとポリエステル層Bが交互に少なくとも5層以上積層されてなるポリエステルフィルムの製造方法であって、ポリエステル層Aの合計厚みTA(μm)は、フィルムの厚みT(μm)に対して40%以上の厚みを有し、ポリエステル層Aは、ポリエステル層Aを構成するポリエステル樹脂Aに対して再生ポリエステル樹脂を30質量%以上100質量%以下含有してなるポリエステルフィルムの製造方法。
(10)前記ポリエステル層Aに含まれる再生ポリエステル樹脂原料の色調b値が4.5~13.5である(9)に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
(11)前記ポリエステル層A、および前記ポリエステル層Bに含まれる再生ポリエステル樹脂原料の色調b値がいずれも4.5~13.5である(9)または(10)に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、再生ポリエステル樹脂の添加量を所望に応じて多量添加しても、色調のよいフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステル層A(以下、単に層Aという場合がある。)とポリエステル層B(以下、単に層Bという場合がある)が交互に少なくとも5層以上積層されてなるポリエステルフィルムである。
【0010】
ポリエステル層Aとポリエステル層Bが交互に積層されてなるとは、層Aおよび層Bが直接、それらの層同士の表面を接して交互に層が重ねられていることをいう。また少なくとも5層以上積層されてなるとは、層Aおよび層Bで構成される層数が5層以上積層されていることをいい、5層であってもそれ以上であってもよく、また、本発明のポリエステルフィルムは層Aと層Bが交互に積層されている5層以上の構成を1ユニット以上有する態様であってもよい。5層以上の構成としては、層A/層B/層A/層B/層Aという両表層に層Aを有する5層構成、層B/層A/層B/層A/層Bという両表層に層Bを有する5層構成があげられる。さらに、それらフィルムの層数をさらに増して層A/層B/層A/層B/層A/・・・/層Aや、層B/層A/層B/層A/層B/・・・/層Bといった5層以上の構成とするものであってもよく、ポリエステルフィルムの表層の一方を層Aとし他方を層Bという5層以上の構成とするものであってもかまわない。また、その構成を1ユニットとして、ユニット同士を直接積層する構成であっても差し支えない。本発明のポリエステルフィルムは、例えば、層Aおよび層Bで構成される場合、2台の押出機を用いて層Aおよび層Bが形成されるものであり、層Aおよび層Bは別々の押出機から溶融押出しされた樹脂で構成され、層A間における組成と、層B間における組成は、それぞれの層間で同一の組成で構成されることが好ましく、層Aと層Bの組成が同一であってもよい。詳しくは後述する。本発明のポリエステルフィルムの層数は、さらに、色調b値の上昇を抑制しやすくする観点から、好ましくは100層以上、さらには200層以上、より好ましくは500層以上であり、層数の上限は特段に制限はないが層の厚みが不均一となる層乱れの抑制の観点から好ましくは1000層以下であり、同様の観点からより好ましくは700層以下である。
【0011】
前記層Aと前記層Bはいずれもポリエステル樹種を主成分とする層である。前記ポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸とジオールあるいはそれらの誘導体を用いて得られるポリエステルである。ここで、芳香族ジカルボン酸として、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、4,4′-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′-ジフェニルスルホンジカルボン酸などを挙げることができる。脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、シクロヘキサンジカルボン酸とそれらのエステル誘導体などが挙げられる。中でも好ましくはテレフタル酸と2,6-ナフタレンジカルボン酸を挙げることができる。これらの酸成分は1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよく、さらには、ヒドロキシ安息香酸等のオキシ酸などを一部共重合してもよい。また、ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート、スピログリコールなどを挙げることができる。中でもエチレングリコールが好ましく用いられる。これらのジオール成分は1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよい。上記ポリエステルのうち、ポリエチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリエチレンナフタレートおよびその共重合体、ポリブチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリブチレンナフタレートおよびその共重合体、さらにはポリヘキサメチレンテレフタレートおよびその共重合体並びにポリヘキサメチレンナフタレートおよびその共重合体の中から選択されるポリエステルを用いることが好ましい。
【0012】
前記ポリエステル層Aの合計厚みTA(μm)は、フィルムの厚みTに対して40%以上の厚みを有する。フィルムの厚みTが40%以上であると、本発明の色調b値の上昇の抑制効果が高く、本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステル層Aの厚みTA(μm)がフィルムの厚みT(μm)に対し40%以上の厚みを有するものを対象とする。なお、ポリエステル層Aの厚みTA(μm)がフィルムの厚みT(μm)に対し50%以上であることが好ましく、また好ましくは60%未満である。なお、具体的には前記TA(μm)は10μm以上300μm未満であることがより好ましく、は20μm以上110μm以下であることがさらに好ましい。
【0013】
ポリエステル層Aは、ポリエステル層Aを構成するポリエステル樹脂に対して、再生ポリエステル樹脂を30質量%以上100質量%以下含有してなることが好ましいポリエステルフィルムである。
【0014】
本発明に関わる再生ポリエステル樹脂とは、ポリエステル樹脂成型物をメカニカルリサイクルし、再溶融させてペレタイズ、すなわちペレット状にしたものをいう。ポリエステル樹脂成型物には、繊維、不織布、フィルム、ボトルなどが含まれるが、本発明はポリエステルフィルムであることから、再生ポリエステル樹脂はフィルムをメカニカルリサイクルしたものであることが好ましく、具体的な態様として、特に、ポリエステル樹脂を基材として何ら基材上に機能層などの表面加工が施されていないフィルムをそのフィルムの製造工場内で回収して利用できるようにしたものが組成管理や品質管理の観点から好ましい。例えば、フィルムの生産工程で発生する製品とならないフィルムの端部などのフィルム屑や、フィルムの厚み斑や表面の平面性など寸法規格外とされ市場展開には出荷できないフィルムがあげられる。さらに、メカニカルリサイクルの具体的な態様として、前述したようなポリエステル樹脂を用いて一旦成型したものの他、機能層などを基材上に積層した加工が加えられたポリエステル樹脂成型物を回収し、その成型物の機能層や付着異物など除去した後、溶融押出、ペレタイズして得られたペレット状の再生樹脂などが含まれる。より具体的に言えば、加工が加えられたポリエステル樹脂成型物としては、光学フィルムの機能層に代表されるハードコート層、屈折調整層、他部材との貼り合わせを容易とする易接着層や、離型シートに代表される離型層や被離型物の残渣等を除去したものなどが含まれる。再生ポリエステル樹脂の含有量の下限値は特段に制限されるものではないが、本発明のポリエステルフィルムによれば、ポリエステルフィルムの色調b値を-2.0~2.0とすることができるため、ポリエステル層Aを構成するポリエステル樹脂に対して、再生ポリエステル樹脂の含有量は30質量%以上が好ましく、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。再生ポリエステル樹脂の含有量が多くなるほど本発明の色調b値の上昇の抑制効果が高い。
【0015】
本発明において、ポリエステルフィルムを5層以上の積層構成とすることで色調b値の上昇を抑えられる原因について明らかになっていないものの、一般的には、ポリエステル樹脂の結晶化が促進され結晶サイズが大きくなると400~500nm付近の波長の光が反射されるのに対し、結晶サイズが小さいと波長領域400~500nm付近の光線透過率が上がることが知られているため、ポリエステル樹脂の結晶が成長する領域をフィルムの厚みから、フィルムの層の厚みあたりに制限することで、結晶化が抑制されているものと考えられる。本発明は、厚み方向の結晶の成長が単層フィルム厚みに比べ抑制され、各層厚み内でのみ結晶が成長するため、単層フィルムに比べ結晶サイズが小さくなることで波長領域400~500nmの光線透過率が上昇することにより、結果として色調b値の上昇が抑えられると推察される。各1層あたりの厚みが当該波長よりも大きくても結晶サイズが小さくなることから、フィルムを構成する層厚みが小さいほど色調b値の上昇が抑制され、5層以上の積層構成とすることが重要であると推察され、より層の厚みがうすくなるほどその効果は高まると考えられる。また、上述した層厚みのほか、色調b値の上昇を抑えられる原因として、各層の干渉によるものと考えられる。一般的に物質界面においては、屈折率と厚みの関係において干渉反射が起こるが、本発明における各層構成においては、各ポリエステル樹脂の色調及びポリエステル樹脂の屈折率、各層の厚みにより、波長領域400~500nm、すなわち青色反射領域における反射が低減されることで色調b値の上昇が抑えられると考えられ、本発明のポリエステルフィルムは、5層以上の積層構成とすることが重要であると推察される。
【0016】
すなわち、ポリエステル層Aは、ポリエステル層Aを構成するポリエステル樹脂に対して、再生ポリエステル樹脂を30質量%以上100質量%以下含有してなり、かつ前記ポリエステル層Aの合計厚みTA(μm)は、フィルムの厚みTに対して40%以上の厚みを有する場合においては、色調b値が上昇しやすい傾向にあるが、ポリエステルフィルムを5層以上の積層構成とすることでフィルムの色調b値の上昇を抑えることが可能となる。
【0017】
前記層Aおよび層Bの各1層あたりの厚みは、フィルムの厚みTと各層の層数によって変わるが、積層数は、好ましくは100層以上、さらに好ましくは200層以上、さらに好ましくは500層以上である。上限は特段に制限されるものではないが、1層あたりの厚みから考慮すると、1000層が限界である。層数を100層以上とする場合には、前記層Aおよび層Bの各1層あたりの厚みは10nm以上1000nm以下であることが好ましく、層の厚みが不均一とならない、すなわち、各層の厚みのバラツキが少ない厚みの精度がよい層を形成する観点からより好ましくは20nm以上500nm以下、さらに好ましくは50nm以上350nm以下である。
【0018】
本発明のポリエステルフィルムは、層数を100層以上とする場合、各層の厚みの分布は、全層の厚みが均等であるもの、フィルム面の一方から反対側の面へ向かって増加または減少する層厚み分布や、フィルム面の一方からフィルム中心へ向かって層厚みが増加した後減少する層厚み分布や、フィルム面の一方からフィルム中心へ向かって層厚みが減少した後増加する層厚み分布等もあげられ、層厚み分布の変化の仕方としては、線形、等比、階差数列といった連続的に変化するものや、10層から50層程度の層がほぼ同じ層厚みを持ち、その層厚みがステップ状に変化するものも含まれる。各層間の厚みの分布は、任意の1つの層の平均厚みと、他の全ての層の平均厚みとが、互いに80%以上120%以下の差に収まる厚みであることが好ましく、好ましくは90%以上115%以下、より好ましくは95%以上105%以下、究極的には0%である。層の平均厚みとは、各層の任意10点における層の厚みから、平均値を算出したものである。
【0019】
前記層Aの組成と前記層Bの組成は、例えば、層Aに含有する再生ポリエステル樹脂と層Bに含有する再生ポリエステル樹脂の含有量が、層Aと層Bで異なる場合や、その他添加剤の含有量や種類が異なっている場合に層構成を異とするが、層Aと層Bは同一の組成であってもかまわない。すなわち、層Aおよび層Bが同一の、疑似単層フィルムとなる場合や、上述した1ユニットの組成が同一の層で構成され、該ユニットが繰り返し層Aおよび層Bが同一の疑似単層フィルムとなるポリエステルフィルムであってもよい。一方で、層A間、層B間、すなわち層Aと他の層Aにおいて組成が異なる場合、層Bと他の層Bにおいて異なる場合は、界面屈折の関係から色調b値の上昇の抑制が難しくなる可能性があり、層A間、層B間における各層を構成する組成は同一であるほうが好ましい。また、層Aと層Bが同一、すなわち、全ての層が同一の組成であっても、経由する熱履歴が微妙に異なることや結晶成長のタイミングが短いことから層A・層Bをまたいで結晶成長するような結晶サイズの大きな結晶ができにくく、各層領域でのポリエステル樹脂の結晶成長となり、結果として色調b値の上昇が抑制されると考えられる。
【0020】
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステル層Aを構成するポリエステル樹脂の総質量に対して30質量%以上100質量%以下の再生ポリエステル樹脂を利用しても、層Aと層Bを交互に5層以上積層させることで色調b値の上昇を抑制することができる。
【0021】
前記ポリエステル層Bは、ポリエステル層Bを構成するポリエステル樹脂に対して再生ポリエステル樹脂を30質量%以上100質量%以下含有してなる層とすることができる。
【0022】
前記ポリエステル層Bにおける再生ポリエステル樹脂の含有量は好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは75質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。このように層Bに再生ポリエステル樹脂を30質量%以上添加することで本発明のポリエステルフィルム全体に対する再生ポリエステル樹脂の使用量を多くすることができる。
【0023】
本発明のポリエステルフィルムの色調b値は-2.0~2.0であることが好ましい。色調b値が該範囲であると、ポリエステルフィルムの見た目の透明性が阻害されず好ましい。より好ましくは、ポリエステルフィルムの色調b値は、-1.0~1.0である。色調b値が該範囲から外れると黄味を帯びた色調となり好ましくない場合がある。本発明では、再生リサイクル樹脂をフィルムを構成するポリエステル樹脂の総質量に対し多く利用しても該範囲とすることができる。また、該範囲とするには、ポリエステルフィルムを構成する層Aおよび層Bに添加するポリエステル樹脂原料の色調b値と再生ポリエステル樹脂原料の含有量を調整することでポリエステルフィルムの色調b値の上昇を抑制しやすくなる。本発明のポリエステルフィルムの色調b値に対する、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂原料の色調b値は、4.0より高いポリエステルフィルムとすることができる。
【0024】
また、本発明のポリエステルフィルムのヘイズ値は、2.0%以下であることが好ましい。2.0%以下であるとポリエステルフィルムの透明性が高いフィルムとすることができる。ポリエステルフィルムのヘイズ値の上昇を抑制するために、本発明を構成する層Aおよび層Bは添加剤を実質的に含有しないことが好ましい。添加剤としては、紫外線吸収剤、酸化防止剤、粒子などが上げられるが、紫外線吸収剤、酸化防止剤の成分はフィルムを加熱するとフィルムの表層にブリードアウトしやすく、フィルムが白化しヘイズ値が高くなり、透明用途のフィルムとして再利用しにくくなる場合があり、これら添加剤は含有しないことが好ましい。仮に、これら添加剤を含有した場合には、フィルムの表面に析出防止の機能層を別途設ける加工を施すことでフィルムの添加剤のフィルム表面へのブリードアウトを抑制することも可能である。
【0025】
また、再生ポリエステル樹脂をポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂組成物に対して多く添加するとヘイズ値も高くなる傾向があるが、再生ポリエステル樹脂の含有量を調整することでヘイズ値を低くさせることが出来る。本発明のポリエステルフィルムによれば、再生ポリエステル樹脂を多く含有せしめてもポリエステルフィルムの色調b値は低くすることができるので、フィルムの色調b値を調整するために紫外線吸収剤や酸化防止剤は添加する必要性がない。また、ポリエステルフィルムの透明性の観点から、紫外線吸収剤や酸化防止剤、粒子は添加しないほうが好ましい。実質的に添加剤を含有しないとは、本発明においてはポリエステルフィルムの総質量に対して、添加剤の含有量が0.05質量%以下であることをいい、より好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは含有しないこと、である。本発明のポリエステルフィルムのヘイズ値はフィルムの透明性の観点からより好ましくは1.5%以下で、さらに好ましくは1.0%以下である。
【0026】
本発明のポリエステルフィルムを150℃30分加熱した後のヘイズの上昇値ΔHz(%)は1.0%以下であることが好ましい。上述したように紫外線吸収剤、酸化防止剤を含有しないようにすることで、加熱後のポリエステルフィルムのヘイズ上昇を抑制することが可能である。
【0027】
なお、本発明は、ポリエステルフィルムの表層にさらに、易滑層、接着層、離型層、機能層などを設けることができる。易滑層としては、粒子として有機粒子無機粒子を水溶性樹脂の中に一定量添加させたもの、接着層としては、水溶性樹脂に官能基を付与したもの、離型層としては、シリコーン離型機能樹脂や、シリコーンを含有しない離型機能樹脂、機能層としては、ハードコートとした硬化性樹脂や屈折を利用した熱可塑性樹脂や硬化樹脂などを設けることができる。
【0028】
本発明のポリエステルフィルムの厚みT(μm)は、25μm以上500μm以下であることが好ましく、35μm以上200μm以下であることがより好ましい。厚みは上記の易滑層、接着層、離型層、機能層の厚みなどを除いたものであり、層Aおよび層Bの2種類の層でのみ構成される場合は厚みT(μm)は層Aおよび層Bの厚みの総和である。本発明の厚みT(μm)の上下限は特段に制限されるものではないが、層数の関係から25μmが下限である。また、厚みTの上限は一般的には500μmである。また、該フィルムの範囲を上下限に外れると、フィルムの破断や厚み斑が発生しやすくなる場合がある。
【0029】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法の好ましい一態様や一例について以下説明する。
【0030】
再生ポリエステル樹脂は、ポリエステルを主成分とするものであれば得に限定されるものではなく、本発明の目的を阻害しない範囲内で、他種ポリマーをブレンドしてフィルムに供することができる。ポリエステルフィルムから機能層等を除去する方法は、アルカリ等の薬剤にて溶かして除去する方法や表面をマット加工等で削り取る方法などを用いることが出来る。被覆層を除去したフィルムは粉砕し、水分を除去するためにガラス転移温度~160℃程度で乾燥することが好ましい。乾燥後の水分率は100ppm程度以下に低減することがポリマーの加水分解を抑制するために好ましい。乾燥した粉砕フィルムを押出機にて溶融し、ダイからストランド状に吐出せしめて冷水で急冷固化させる。押出機で溶融している時間を短縮して熱劣化を抑制することが望ましい。また、固化したストランドはストランドカッタにてペレット形状に切断した後、フィルム製膜時の乾燥工程で融着を防ぐために、熱風乾燥機等でペレットの表面を結晶化させることも好ましい態様の一つである。ポリエステル層Aに含まれる再生ポリエステル樹脂原料の色調b値は5.0~13.5である。該範囲であると、ポリエステルフィルムとした際の色調b値を-2.0~2.0に調整しやすくなる。各層に含有する再生ポリエステル樹脂は、一度再生処理を行ったポリエステル樹脂であるため、色調b値が再生処理を行う前の回収ポリエステルフィルムの色調b値よりも高くなりやすい。すなわち、一旦、バージン原料から製造されたポリエステルフィルムの色調b値よりも、そのポリエステルフィルムを回収し、再生処理をおこなった再生ポリエステル樹脂原料の色調b値は高くなる傾向がある。色調b値が高くなる理由は回収時のポリエステル樹脂のポリマー分子鎖の劣化による着色などが考えられる。さらに、ポリエステル層Bに再生ポリエステル樹脂を含む場合は、ポリエステル層Bに含まれる再生ポリエステル樹脂原料の色調b値が5.0~13.5であることが好ましい。
【0031】
通常、色調b値が高いポリエステル樹脂を利用すると、フィルムの色調b値も高くなる傾向があるが、本発明では5層以上の積層構成を用いることで、色調b値が高いポリエステル樹脂を含有しても、色調b値の上昇を抑制することが可能となる。本発明のポリエステルフィルムの色調b値に対する、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂原料の色調b値は、4.0より高いポリエステルフィルムであることが好ましく、より好ましくは5.0以上、さらに好ましくは6.0以上である。ただし、ポリエステルフィルムに、ポリエステル樹脂が複数種類含有される場合は、各樹脂の色調b値をポリエステル樹脂組成物の総質量100質量%に対して加重平均したものとする。上限は、特段制限されるものではないが、該値が高い場合は、ポリエステル樹脂原料の色調b値が過剰に高い値を含む場合があるため、ポリエステルフィルムの色調b値の観点から、17.0以下、さらには15.0以下である。
【0032】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂原料の色調b値は、5.0以上15.0以下であることが好ましく、より好ましくは6.0以上14.0以下である。ポリエステル樹脂に含まれる再生ポリエステル樹脂量が多くなればなるほど色調b値はたかくなる傾向にある。
【0033】
また、ポリエステル樹脂に含まれる再生ポリエステル樹脂原料の色調b値は5.0以上30.0以下であることが好ましい。再生ポリエステル樹脂原料の色調b値が30.0を超えると、ポリエステル樹脂の結晶化が進んでいたり、ポリマー鎖の劣化がすすんでいると考えられ、ポリエステルフィルムの色調b値を2.0以下とすることが難しくなる。再生ポリエステル樹脂原料の色調b値は、より好ましくは5.0以上25.0以下、さらに好ましくは5.0以上20.0以下であるとポリエステルフィルムの色調b値を-2.0以上2.0以下に調整しやすい。
【0034】
次に、各層を構成する、粒子などを実質的に含有しないポリエステル樹脂と、上記の再生ポリエステル樹脂を所定の割合で混合し、乾燥した後、上述したポリエステル層Aに対応する押出機Aとポリエステル層Bに対応する押出機Bの2台にそれぞれポリエステル樹脂を溶融した状態で供給し、それぞれの流路からの溶融熱可塑性樹脂を、公知の積層装置であるマルチマニホールドタイプのフィードブロックとスクエアミキサー、もしくはコームタイプのフィードブロックのみにより少なくとも5層以上有する積層装置を用い、次いでその溶融積層体をT型口金等によりシート状に溶融押出し、その後、キャスティングドラム上で冷却固化して未延伸多層積層フィルムを得ることができる。
【0035】
層Aと層Bの積層精度を高める方法としては、特開2007-307893号公報、特許第4691910号公報、特許第4816419号公報に記載されている方法を採用することができる。各押出機のポリエステル樹脂の溶融押出条件としては押出機内は融点(Tm)+20℃以上、押出機出口からスリットダイまでは融点(Tm)+15℃以下に加熱することが好ましい。
【0036】
押出機で溶融して押し出したポリマーは、フィルターにより濾過する。極小さな異物もフィルム中に入ると粗大突起欠陥となるため、フィルターには例えば3μm以上の異物を95%以上捕集する高精度のものを用いることが有効である。続いてスリット状のスリットダイからシート状に押し出し、上記のフィードブロックで5層以上に積層し、口金から樹脂を押し出し、キャスティングロールで冷却して未延伸フィルムを作る。この場合、背圧の安定化および厚み変動の抑制の観点からポリマー流路にスタティックミキサー、ギヤポンプを設置することが好ましい。
【0037】
延伸方法は逐次二軸延伸であっても同時二軸延伸であってもよい。同時二軸延伸はロールによる延伸を伴わないため、フィルム表面の局所的な加熱ムラを抑制し、均一な品質が得られると共に、延伸時にロール延伸に伴うフィルムとロールとの接触場所での速度差、ロールの微小傷の転写による傷の発生を抑制できる点で好ましく、逐次二軸延伸は長手方向と幅方向の特性を個別に細かく制御できる点で好ましい。
【0038】
同時二軸延伸においては未延伸フィルムを、まず長手方向および幅方向に延伸温度を80℃以上125℃以下、好ましくは85℃以上120℃以下として同時に延伸する。延伸温度が80℃よりも低くなるとフィルムが破断しやすく、延伸温度が125℃よりも高くなると十分な強度が得られないことがある。また、延伸ムラを防止する観点から、長手方向・幅方向の合計延伸倍率は4倍以上20倍以下、好ましくは6倍以上15倍以下である。合計延伸倍率が4倍よりも小さいと十分な強度が得られにくい。一方、倍率が20倍よりも大きくなると、フィルム破断が起こりやすく、安定したフィルムの製造が難しくなる場合がある。必要な強度を得るためには、温度140℃以上200℃以下、好ましくは160℃以上190℃以下で長手方向および/または幅方向に1.02倍以上1.5倍以下、好ましくは1.05倍以上1.2倍以下で再度延伸を行うことが好ましく、合計延伸倍率が、長手方向で3.0倍以上4.5倍以下、好ましくは3.2倍以上4.0倍以下、幅方向に3.2倍以上5.0倍以下、好ましくは3.5倍以上4.3倍以下である。その後、205℃以上240℃以下、好ましくは220℃以上240℃以下で0.5秒以上20秒以下、好ましくは1.0秒以上15秒以下熱固定を行う。熱固定温度が205℃よりも低いとフィルムの熱結晶化が進まないため目標とする寸法変化率などが安定しにくい場合がある。また、フィルム物性を安定させるため、熱処理時のフィルム上下の温度差は20℃以下、より好ましくは10℃以下、更に好ましくは5℃以下である。フィルム上下での温度差が20℃よりも大きいと、熱処理時に平面性の悪化などを引き起こす恐れがある。その後、徐冷区間にて長手方向および/または幅方向に0.5%以上7.0%以下の弛緩処理を施す。
【0039】
一方、本発明のポリエステルフィルムは、逐次二軸延伸を用いて製造することもできる。最初の長手方向の延伸は、延伸温度は80℃以上125℃以下、好ましくは85℃以上120℃以下である。延伸温度が80℃よりも低くなるとフィルムが破断しやすく、延伸温度が125℃よりも高くなるとフィルム表面が熱ダメージを受けやすくなる場合がある。また、延伸倍率は長手方向に3.0倍以上4.5倍以下、好ましくは3.2倍以上4.0倍以下である。続く幅方向の延伸は、延伸温度が80℃以上125℃以下であり、好ましくは85℃以上120℃以下である。また、延伸倍率は幅方向に3.2倍以上5.0倍以下、好ましくは3.5倍以上4.3倍以下である。かかる温度、倍率範囲を外れると延伸ムラあるいはフィルム破断などの問題を引き起こし、本発明の特徴とするフィルムが得られにくい場合がある。特に、縦延伸時の延伸倍率が高くなると、加熱温度140℃の長手方向の寸法変化率が0.20%を超えやすくなる。このようにして逐次二軸延伸したフィルムを、上述した同時二軸延伸と同様な再縦延伸を施すか、またはそのまま横延伸した後、中間冷却区間を通過させた後、205℃以上240℃以下、好ましくは210℃以上230℃以下で0.5秒以上20秒以下、好ましくは1.0秒以上15秒以下の熱固定を行う。熱固定温度が205℃よりも低くなるとフィルムの結晶化が進まないために構造が安定せず、目標とする寸法変化率などの特性が得られないことがある。その後、徐冷区間にて長手方向および/または幅方向に0.5%以上7.0%以下の弛緩処理を施す。
【0040】
逐次二軸延伸において、長手方向の延伸過程は、フィルムとロールが接触し、ロールの周速とフィルムの速度差による傷が発生しやすい工程につき、ロール周速がロール毎に個別に設定できる駆動方式が好ましい。長手方向の延伸過程において、搬送ロールの材質は、延伸前に未延伸フィルムをガラス転移点以上に加熱するか、ガラス転移点未満の温度に保った状態で延伸ゾーンまで搬送し、延伸時に一挙に加熱するかにより選択される。延伸前に未延伸フィルムをガラス転移点以上まで加熱する場合は、加熱による粘着を防止する上で、非粘着性シリコーンロール、セラミックス、“テフロン”(登録商標)から選択することが好ましい。また、延伸ロールは最もフィルムに負荷がかかり、該プロセスで傷や延伸ムラが発生しやすい工程につき、延伸ロールの表面粗さ(算術平均粗さ)Raは、0.005μm以上1.0μm以下、好ましくは0.1μm以上0.6μm以下である。表面粗さRaが1.0μmよりも大きいと延伸時にロール表面の凹凸がフィルム表面に転写する場合があり、0.005μmよりも小さいとロールとフィルム地肌が粘着し、フィルムが熱ダメージを受けやすくなる場合がある。表面粗さRaを制御するためには研磨剤の粒度、研磨回数などを適宜調整することが有効である。未延伸フィルムをガラス転移点未満の温度に保った状態で延伸ゾーンまで搬送し、延伸時に一挙に加熱する場合は、予熱ゾーンの搬送ロールは、ハードクロムやタングステンカーバイドで表面処理を行った、表面粗さRaが0.2μm以上0.6μm以下の金属ロールを使用するのが好ましい。また、熱処理時において、縦方向および/または横方向に弛緩してもよい。
【0041】
このようにして得られた本発明のポリエステルフィルムは、透明性が高く、色調b値に優れるため、偏光板保護や導電性パネル基材等としての光学用フィルムや、離型フィルム、電子部品保護フィルムなど様々な用途に利用できる。また、再生ポリエステル樹脂を多量に利用できるため環境保護の取り組みとして優位である。
【実施例0042】
以下、本発明を比較例、実施例に基づいてさらに具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0043】
[物性値の評価法]
(1)ヘイズ値(%)
試料サンプルから、10cm×10cm角に5つ切り出し、これを試料片とした。この試料片をヘイズメータHZ-V3(スガ試験機器製作所製)を用い表面ヘイズを測定した(旧JIS-K-7105(1981年))。これを試料片1つに対して一方の面と他方の面から1回ずつ測定し、試料片5サンプル全10個のデータを平均し、これをヘイズ値(%)とした。
【0044】
(2)フィルムの色調b値
(1)で切り出した試料片を用い、NIPPON DENSHOKU社製分光式色彩計ZE-2000を使用し、フィルムの色調を透過法(JIS-Z8722(2009年))で測定した。これを一方の面と他方の面から5回ずつ測定し、全10個のデータを平均し、これをフィルムの色調b値とした。
【0045】
(3)フィルム厚みT(μm)、各層の厚み(μm)
(1)で切り出した試料片をマイクロメーター法(JIS-C-2151(2019年))に準じて測定した。厚みが50μm以下の場合は10枚かさねて測定し、枚数で除して1枚あたりの厚みとした。
【0046】
各層の平均厚みは、(1)で切り出した試料片5つについて、ミクロトームを用いて断面を切り出し、透過型電子顕微鏡H-7100FA型((株)日立製作所製)を用い、加速電圧75kVの条件でフィルムの断面を10000~40000倍に拡大観察し、断面写真を撮影し、層数および各層厚みを測定した。尚、各層厚みは、試料片の厚み方向に1試料片あたり、各層毎に任意の5点から厚みを計測し平均値を各層の平均厚みとした。層が確認されにくい場合は、コントラストを高くするために、公知のRuOやOsOなどを使用した染色技術を用いた。
【0047】
フィルムから層数および各層厚みが認識出来ない場合は、製造工程におけるギヤポンプによる吐出比(積層比)ポリエステル樹脂A/ポリエステル樹脂B=PA/PBとし、T(μm)×PA/(PA+PB)で表される値をポリエステル層Aの厚みTA(μm)、ポリエステル層Bの厚みTB(μm)とした。
【0048】
(4)各層の再生ポリエステル樹脂の含有量(質量%)
フィルムを製造する際に、各押出機にて投入するポリエステル樹脂の質量を測定した。
【0049】
(5)ポリエステル樹脂原料のb値(原料b値)
PET-1~PET-4の各ポリエステル樹脂のペレットを円柱状の粉体測定用セルに充填し、色差計(スガ試験機(株)社製、SMカラーメーターSM-T)を用いて反射法にて測定し、これを各ポリエステル樹脂原料の色調b値とした。測定結果は表1に記す。
【0050】
また、ポリエステルフィルム中に含まれる各ポリエステル樹脂原料の配合比率(質量基準)と、各ポリエステル樹脂原料の色調b値の積の和から、フィルムの色調を単純に原料b値から予測した、原料b値(加重平均)を求めた。求めた結果は表2~5に記す。
【0051】
(6)色調b値の変化量
上記(5)で計測されたポリエステル樹脂原料の色調b値を(2)で計測されたフィルムの色調b値で割り返し、小数点下2桁を四捨五入して求めた。
【0052】
[ポリエチレンテレフタレート樹脂の調製]
(PET-1)
酸成分としてテレフタル酸を、グリコール成分としてエチレングリコールを用い、三酸化アンチモン(重合触媒)を得られるポリエステルペレットに対してアンチモン原子換算で300ppmとなるように添加し、重縮合反応を行い、ポリエチレンテレフタレート樹脂を得た。得られたポリエチレンテレフタレート樹脂の物性を表1に記す。これをPET-1とする。
【0053】
(PET-2)
[ポリエステルフィルムの製造方法]
実質的に不活性粒子を含まないPET-1で調製したポリエチレンテレフタレートチップを、180℃の温度で5時間、3torrの減圧下で乾燥し、溶融押出機に投入して290℃の温度で溶融した後、濾過精度8μmのリーフディスクフィルタを5枚介した後濾過後、T字型口金からシート状に押し出した。押し出されたシート状物を、静電印加キャスト法により表面温度20℃の温度の鏡面キャストドラム上で冷却固化し、実質的に非晶質の未延伸フィルムを得た。
【0054】
この未延伸フィルムを、連続的に配置されたロール群でまず75℃に予熱を行った後、90℃のロールで加熱し、延伸倍率3.3倍で縦延伸(フィルムの走行方向)を行った。次いで、冷却ロール群にて冷却し、一軸配向(一軸延伸)フィルムとした。
【0055】
その後、ステンターオーブンに導き100℃の条件下で4.0倍に横延伸(フィルムの走行方向とは垂直な方向)に延伸し、引き続いて同オーブン内で230℃の温度で熱処理および5%の幅方向リラックスを実施し、100℃で冷却した後、厚み50μmの二軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。
【0056】
このポリエチレンテレフタレートフィルムを、以下の回収手順1の方法で再生し再生ポリエチレンテレフタレート樹脂とした。
【0057】
得られた再生ポリエステル樹脂の物性を表1に記す。これをPET-2とする。
【0058】
[回収手順1(回収ポリエステルフィルムの再生ポリエステル樹脂の調製)]
ポリエチレンテレフタレートフィルムを粉砕し、粉砕した回収ポリエステルを押出機にて溶融し、ダイからストランド状に吐出し冷水で急冷固化させる。固化したストランドはストランドカッタにてペレット形状に切断し、再生ポリエステル樹脂を得る。
【0059】
(PET-3)
(PET-2)の[ポリエステルフィルムの製造方法]にて、ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。
【0060】
このポリエチレンテレフタレートフィルムを、以下の回収手順2の方法で再生し再生ポリエチレンテレフタレート樹脂とした。
【0061】
得られた再生ポリエステル樹脂の物性を表1に記す。これをPET-3とする。
【0062】
[回収手順2(回収ポリエステルフィルムの再生ポリエステル樹脂の調製)]
ポリエチレンテレフタレートフィルムを粉砕した後、ポリオキシエチレン誘導体のノニオン界面活性剤の1質量%と水酸化ナトリウム水溶液の3質量%との混合水溶液(pH13.5)に浸漬し、105℃で30分間処理を行い、その後水洗し、乾燥した。本水酸化ナトリウム処理したポリエステルを押出機にて溶融し、ダイからストランド状に吐出し冷水で急冷固化させる。固化したストランドはストランドカッタにてペレット形状に切断し、再生ポリエステル樹脂を得る。
【0063】
(PET-4)
(PET-2)の[ポリエステルフィルムの製造方法]にて、ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。
【0064】
このポリエチレンテレフタレートフィルムを、以下の回収手順3の方法で再生し再生ポリエチレンテレフタレート樹脂とした。
【0065】
得られた再生ポリエステル樹脂の物性を表1に記す。これをPET-4とする。
【0066】
[回収手順3(回収ポリエステルフィルムの再生ポリエステル樹脂の調製)]
ポリエチレンテレフタレートフィルムを粉砕した後、ポリオキシエチレン誘導体のノニオン界面活性剤の1質量%と水酸化ナトリウム水溶液の3質量%との混合水溶液(pH13.5)に浸漬し、120℃で60分間処理を行い、その後水洗し、乾燥した。本水酸化ナトリウム処理したポリエステルを押出機にて溶融し、ダイからストランド状に吐出し冷水で急冷固化させる。固化したストランドはストランドカッタにてペレット形状に切断し、再生ポリエステル樹脂を得る。
【0067】
[比較例1]
層Aを構成するポリエステル樹脂としてPET-1を30質量%、PET-2を70質量%とすること以外はポリエステルフィルムの製造方法と同様にして二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。このポリエチレンテレフタレートフィルムの物性を表2に記す。
【0068】
[比較例2]
未延伸フィルムの厚み、およびフィルムの延伸倍率を調整して表2に記載するフィルムの厚みとすること以外は比較例1と同様にして二軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。このポリエチレンテレフタレートフィルムの物性を表2に記す。
【0069】
[比較例3]
層Aを構成するポリエステル樹脂としてPET-1を45質量%、PET-2を55質量%とし、未延伸フィルムの厚み、およびフィルムの延伸倍率を調整して表2に記載するフィルムの厚みとすること以外は比較例1と同様にして二軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。このポリエチレンテレフタレートフィルムの物性を表2に記す。
【0070】
[実施例1]
実質的に粒子を含まない、PET-1およびPET-2で調製したポリエチレンテレフタレートチップを、180℃の温度で5時間、3torrの減圧下で乾燥し、層Aを構成するポリエステル樹脂として、PET-1を70質量%、PET-2を30質量%、層Bを構成するポリエステル樹脂として、PET-1を70質量%、PET-2を30質量%として、それぞれ、別々の押出機にて290℃で溶融させ、濾過精度8μmのリーフディスクフィルタを5枚介した後、ギヤポンプにて吐出比(積層比)が樹脂A/樹脂B=1.2(ポリエステル層Aの厚みTA/ポリエステルフィルム全体厚みT=54.5%)になるように計量しながら、特開2007-307893号公報に記載されている方法で積層を行い、600層フィードブロック(A層が300層、B層が300層)にて交互に合流させた。次いで、積層した溶融樹脂をTダイに供給し、シート状に成形した後、ワイヤーで8kVの静電印加電圧をかけながら、表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化し、実質的に非晶質の未延伸フィルムを得た。それ以外はポリエステルフィルムの製造方法と同様にして二軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。このポリエチレンテレフタレートフィルムの物性を表2に記す。
【0071】
[実施例2~4]
層Aおよび層Bに用いるポリエステル樹脂の組成を表2に記載するポリエステル樹脂とすること以外は実施例1と同様にして二軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。このポリエチレンテレフタレートフィルムの物性を表2に記す。
【0072】
[実施例5~9]
層Aおよび層Bに用いるポリエステル樹脂の組成を表2に記載するポリエステル樹脂とすること、最終的に得られるポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みが表2となるように未延伸フィルムの厚みを調整すること以外は実施例1と同様にして二軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。このポリエチレンテレフタレートフィルムの物性を表2に記す。
【0073】
[実施例10~11]
積層装置を変えて表2に記載する積層数とすること以外は実施例3と同様にして二軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。このポリエチレンテレフタレートフィルムの物性を表2に記す。
【0074】
[実施例12]
PET-2の代わりにPET-3を用いること以外は実施例3と同様にして二軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。このポリエチレンテレフタレートフィルムの物性を表3に記す。
【0075】
[実施例13]
PET-2の代わりにPET-4を用いること以外は実施例3と同様にして二軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。このポリエチレンテレフタレートフィルムの物性を表4に記す。
【0076】
[比較例4]
層Aを構成するポリエステル樹脂としてPET-1を30質量%、PET-4を70質量%とすること以外は比較例1と同様にして二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。このポリエチレンテレフタレートフィルムの物性を表4に記す。
【0077】
[参考例1]
層Aを構成するポリエステル樹脂としてPET-1を100質量%とすること以外はポリエステルフィルムの製造方法と同様にして二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。このポリエチレンテレフタレートフィルムの物性を表5に記す。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】