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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110933
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】細胞の代謝産物をモニターする方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20240808BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20240808BHJP
   C12N 5/0793 20100101ALI20240808BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20240808BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240808BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20240808BHJP
   C07K 14/78 20060101ALI20240808BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240808BHJP
   G01N 24/08 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C12Q1/06 ZNA
C12N5/078
C12N5/0793
C12N5/077
C12M1/34 B
C12M3/00 A
C07K14/78
G01N33/50 Z
G01N24/08 510Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024006236
(22)【出願日】2024-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2023015482
(32)【優先日】2023-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】宇山 允人
(72)【発明者】
【氏名】海野 佑樹
【テーマコード(参考)】
2G045
4B029
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045DA02
2G045DA03
2G045DA04
2G045DA31
2G045DA32
2G045DA35
2G045DA74
4B029AA07
4B029AA08
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B063QQ08
4B063QQ68
4B063QQ72
4B063QQ73
4B063QQ80
4B063QQ82
4B063QQ87
4B063QR44
4B063QR46
4B063QR47
4B063QR49
4B063QR77
4B063QS40
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AC14
4B065BC02
4B065BC03
4B065BC41
4B065BD50
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA61
4H045CA40
4H045EA50
4H045FA72
(57)【要約】
【課題】生きた細胞について細胞間接着した状態での代謝産物をモニターすることができる方法の提供。
【解決手段】細胞間接着した細胞を培養しながら、前記細胞と液体培地とを含む試料を磁気共鳴分光法により測定する工程を含む細胞の代謝産物をモニターする方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞間接着した細胞を培養しながら、前記細胞と液体培地とを含む試料を磁気共鳴分光法により測定する工程を含むことを特徴とする細胞の代謝産物をモニターする方法。
【請求項2】
前記細胞が、接着細胞である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接着細胞が、角質化上皮細胞、重層上皮細胞、外分泌上皮細胞、線維芽細胞、色素細胞、血管内皮細胞、脂肪細胞、神経細胞、免疫細胞、ランゲルハンス細胞、毛乳頭細胞、毛球部毛根鞘細胞、及び皮脂腺細胞から選択される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記試料における測定対象物質が、エタノール、アセトン、乳酸、フマル酸、酢酸、クエン酸、コハク酸、ピルビン酸、γ-アミノ酪酸(GABA)、ギ酸、リンゴ酸、グルコース、フルクトース、マルトース、ショ糖、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、ヒスチジン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、2-ピロリドン-5-カルボン酸、ウロカニン酸、オルニチン、シトルリン、β-アラニン、グルコース-6-リン酸、フルクトース-6-リン酸、グリセルアルデヒド-3―リン酸、1,3-ビスホスホグリセリン酸、ホスホエノールピルビン酸、アセチルリン酸、アデニン、ウラシル、グアニン、シトシン、チミン、チミジン、グリセロール-3-リン酸、尿素、脂質、及び多糖類の少なくともいずれかを含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞が、コラーゲン又はポリリジンで内壁がコートされた磁気共鳴分光法用のガラス試験管で培養される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ガラス試験管に播種される前記細胞の濃度が、0.5×10細胞/500μL培地~6.0×10細胞/500μL培地である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞に外部刺激を付与する工程と、
前記外部刺激を付与した後の前記細胞の代謝産物を測定する工程と、を更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記外部刺激が、化学刺激、温度刺激、光刺激、物理刺激、pH刺激、及び浸透圧刺激の少なくともいずれかである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
特定の時間の前記試料における測定対象物質を測定する第1の測定工程と、
前記特定の時間から一定時間経過後の前記試料における測定対象物質を測定する第2の測定工程と、
第1の測定工程における測定対象物質のレベルと、第2の測定工程における測定対象物質のレベルと、の変化を指標として、前記細胞の代謝産物を評価する評価工程と、
を含む請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の代謝産物をモニターする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や化粧料の研究開発、及び基礎研究において、培養細胞を用いて遺伝子、タンパク質、代謝物質等の挙動を調べることにより、薬剤等の刺激への応答や代謝物質などを評価することが一般的に行われている。また、培養細胞を用いた評価系は、動物実験の代替法としても有用である。
【0003】
これまでに、細胞培養物の生理学的状態をモニターする方法として、採取した培養サンプルにおける代謝産物のレベルを決定する工程を含む方法が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、生きたバクテリアを分散させて培養し、磁気共鳴分光(NMR)スペクトル測定の手法により解析したことが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
また、細胞に外来的に発現させたタンパク質のフォールディング安定性を磁気共鳴分光(NMR)スペクトル測定の手法により解析したことが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-025860号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nakanishi,Y.et al.(2011)Journal of proteome research,10,824-836.
【非特許文献2】Inomata,K.et al.(2009)Nature458,106-109.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、生きた細胞の代謝産物を、細胞間接着した細胞を培養しながら非侵襲的にモニターすることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としての本発明の細胞の代謝産物をモニターする方法は、細胞間接着した細胞を培養しながら、前記細胞と液体培地とを含む試料を磁気共鳴分光法により測定する工程を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生きた細胞の代謝産物を、細胞間接着した細胞を培養しながら非侵襲的にモニターすることができる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1におけるNMRスペクトルを示す図である。
図2図2は、実施例で用いた角化細胞において接着因子の遺伝子発現解析の結果を示すグラフである。
図3図3は、実施例で用いた角化細胞の明視野顕微鏡像を示す図である。
図4図4は、実施例2におけるNMRスペクトルを示す図である。
図5図5は、実施例3におけるNMRスペクトルを示す図である。
図6図6は、実施例4におけるNMRスペクトルを示す図である。
図7図7は、実施例5における未分化の角化細胞における接着因子の細胞染色像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(細胞の代謝産物をモニターする方法)
本発明の細胞の代謝産物をモニターする方法は、細胞間接着した細胞をNMR管等の培養容器で培養しながら、前記細胞と液体培地とを含む試料を磁気共鳴分光法(NMR法)により測定する工程(NMR測定工程)を含み、更に必要に応じて、細胞調製工程、評価工程などのその他の工程を含む。
【0013】
従来の細胞培養物の生理学的状態をモニターする方法(特許文献1)では、培養サンプルの代謝産物のレベルを、例えば、質量分析やNMRによって分析することが報告されるものの、培地や細胞などの培養サンプルを採取した後に分析を行っており、したがって、細胞間接着した細胞を培養しながら、生きた細胞そのものを含む試料を測定することは報告されていない。
【0014】
非特許文献1では、O-157及びビフィズス菌をNMR管中に分散させ、代謝産物をモニターしている。このように、浮遊細胞の例は報告されているが、接着細胞に適用した例は報告されていない。一方、本発明においては、接着細胞をいかに播種固定化し、生育させてNMR測定できるかという課題に対し、コーティングを施すことなどにより課題を解決した。
【0015】
また、非特許文献2では、in-cell NMRと呼ばれるNMRスペクトル測定の手法により、大量に発現させた安定同位体標識タンパク質を精製後、エレクトロポレーション法などを用いて細胞膜に一過性の小孔を生じさせ、細胞内にタンパク質を詰め込み、細胞内でのフォールディング安定性を解析している。ただし、24時間近く新鮮な培地を供給し続ける必要があり、細胞をゲル中に分散固定化させる必要があるため、温度応答性のゲルを用いて、流動性のゾル状態で培養細胞を分散させた後、非流動的なゲル状態で細胞を固定した上で、NMR測定を行っているため、細胞が細胞間接着や増殖できる培養環境ではない。また、上記エレクトロポレーション法を細胞に適用した際、その影響で死滅する可能性が高いため、Hela細胞など一部の細胞に限定される。また、人工的、外来的に発現したタンパク質の解析を行っており、細胞の代謝産物をモニターしていない。さらに、本手法はあくまで細胞内のタンパク質構造に特化した測定手法であり、培地が非流動的な条件下のため、細胞外の代謝産物由来のピークを溶液NMRで観測するのは難しいという問題点がある。
【0016】
上記した従来技術の問題点に鑑み、本発明者らは鋭意検討した結果、本発明の細胞の代謝産物をモニターする方法が、生きた細胞の代謝産物を、細胞間接着した細胞を培養しながら非侵襲的にモニターすることができることを見出し、本発明の完成に至った。
加えて、本発明の細胞の代謝産物をモニターする方法は、測定対象物質を定量的に測定でき、同一の試料から継続的かつ経時的にモニターすることができるとともに、NMR測定により、液体培地に溶解する測定対象物質、及び細胞内に溶解する測定対象物質を包括的に測定及び検出することができる点で有利である。
【0017】
<細胞調製工程>
前記細胞培養工程は、NMR管等の培養容器に細胞を播種して培養し、細胞間接着した細胞を調製する工程である。
【0018】
<NMR測定工程>
前記NMR測定工程は、細胞間接着した細胞を培養しながら、前記細胞と液体培地とを含む試料を磁気共鳴分光法(NMR法)により測定する工程である。
【0019】
-細胞-
前記細胞は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、接着細胞であることが好ましい。
また、前記細胞は、株化した培養細胞や初代培養細胞等の培養細胞であってもよく、接着性の微生物であってもよい。
前記接着細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、角質化上皮細胞(角化細胞、表皮角化細胞とも称する)、重層上皮細胞、外分泌上皮細胞等の上皮細胞;線維芽細胞、色素細胞、血管内皮細胞、脂肪細胞、神経細胞、免疫細胞、ランゲルハンス細胞、毛乳頭細胞、毛球部毛根鞘細胞、皮脂腺細胞などが挙げられる。
これらの中でも、皮膚の代謝産物をモニターする観点から、上皮細胞が好ましく、角質化上皮細胞がより好ましく、また、ヒト由来の株化培養細胞が好ましい。
【0020】
--細胞間接着--
前記細胞が細胞間接着していることを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法を適宜選択することができ、例えば、顕微鏡観察により培養した細胞同士が隣接することを確認する方法;細胞間の密着結合や接着結合が形成されていることを確認する方法;細胞同士が隣接することの顕微鏡観察に加えて細胞接着分子のタンパク質乃至遺伝子が発現していることを確認する方法などが挙げられる。
【0021】
-培養容器-
前記培養容器としては、特に制限はなく、用いる細胞などの目的に応じて適宜選択することができるが、磁気共鳴分光法用のガラス試験管(NMR管)が好ましく、コラーゲン又はポリリジンで内壁がコートされた磁気共鳴分光法用のガラス試験管(NMR管)がより好ましい。
【0022】
前記細胞を播種して培養する方法としては、特に制限はなく、用いる細胞などの目的に応じて公知の方法を適宜選択することができ、例えば、培養細胞の場合、目的の細胞を液体培地に分散させて所望の細胞の濃度に調整し、前記培養容器に播種して37℃、COインキュベーターで培養する方法が挙げられる。これにより、目的の細胞数で接着した細胞を、続くNMR測定工程に呈すればよい。
前記ガラス試験管に播種される前記細胞の濃度としては、特に制限はなく、用いる細胞などの目的に応じて適宜選択することができるが、角質化上皮細胞の場合は、0.5×10細胞/500μL培地~6.0×10細胞/500μL培地が好ましい。
【0023】
-液体培地-
前記液体培地としては、特に制限はなく、用いる細胞などの目的に応じて公知の液体培地を適宜選択することができる。
【0024】
-試料-
NMR測定の試料は、前記細胞と液体培地とを含み、更に必要に応じて、その他の成分を含む。
【0025】
-測定対象物質-
前記試料における測定対象物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、アセトン、乳酸、フマル酸、酢酸、クエン酸、コハク酸、ピルビン酸、γ-アミノ酪酸(GABA)、ギ酸、リンゴ酸、グルコース、フルクトース、マルトース、ショ糖;グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、ヒスチジン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン等のアミノ酸;2-ピロリドン-5-カルボン酸、ウロカニン酸、オルニチン、シトルリン、β-アラニン(別名、3-アミノプロピオン酸)、グルコース-6-リン酸、フルクトース-6-リン酸、グリセルアルデヒド-3―リン酸、1,3-ビスホスホグリセリン酸、ホスホエノールピルビン酸、アセチルリン酸;アデニン、ウラシル、グアニン、シトシン、チミン、チミジン等の塩基;グリセロール-3-リン酸、尿素、脂質、多糖類などが挙げられる。
【0026】
-磁気共鳴分光法(NMR法)により測定する方法-
前記試料を磁気共鳴分光法(NMR法)により測定するための装置としては、特に制限はなく、公知のNMR測定装置を目的に応じて適宜選択することができ、例えば、400MHzのNMR分光器(ECZ400、JEOL RESONANCE社製)などが挙げられる。
【0027】
NMR測定条件としては、例えば、以下の条件が挙げられる。
【0028】
ロック溶媒として重水を用い、NMRのサンプルチューブには、5mmφ同軸NMRチューブ(内管:SP-402、及び外管:PS-005、株式会社シゲミ製)を用い、内管には標準物質(外部標準物質)として3-(トリメチルシリル)-1-プロパン-1,1,2,2,3,3,-d-スルホン酸ナトリウム(DSS-d、濃度:501.6mg/L、富士フィルム和光純薬株式会社製)の重水溶液を封入し、外管に細胞及び液体培地を含む試料をAr、N、O、COガス等と共に封入する。温度制御は、NMR装置に付随している温度コントローラーを用いて行い、37℃に制御する。スキャン回数を1,024回に設定する。
【0029】
前記標準物質としては、特に制限はなく、一般的に定量NMRの定量用の標準物質乃至基準物質として認定されている物質を目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1,4-ビス(トリメチルシリル)ベンゼン-d(1,4-BTMSB-d)、3-(トリメチルシリル)-1-プロパン-1,1,2,2,3,3,-d-スルホン酸ナトリウム(DSS-d)、ジメチルスルホン、マレイン酸などが挙げられる。
【0030】
下式により、NMRスペクトル上の標準物質の信号(プロトン面積)と分析サンプルの各信号の積分値を比較することで分析サンプルにおける各測定対象物質の定量値を算出することができる。
【0031】
【数1】

式中、
smpは、測定対象物質の質量(mg/L)、
stdは、標準物質の質量(mg/L)、
smpは、測定対象物質のプロトン面積、
stdは、標準物質のプロトン面積、
smpは、測定対象物質の分子量、
stdは、標準物質の分子量、
定数90/500は、内管および外管の体積補正をそれぞれ示す。
【0032】
なお、前記定数は、用いるNMR管により適宜設定することができる。
【0033】
前記細胞の代謝産物をモニターする方法は、細胞の生理的条件下で細胞の代謝産物を非侵襲的にモニターできる点で好ましい。
前記生理的条件としては、特に制限はなく、一般的に細胞が生存できる環境であればよく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0034】
また、後述する刺激付与工程により、外部刺激を付与することもでき、細胞の代謝産物に与える外部刺激の影響を評価することができる。
前記外部刺激としては、例えば、化学物質や薬剤による化学刺激、温度刺激、光刺激、物理刺激、pH刺激、浸透圧刺激などが挙げられる。
【0035】
<評価工程>
前記細胞の代謝産物をモニターする方法において、評価する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、測定対象物質の経時的変化に基づき評価する方法などが挙げられる。
ここで、測定対象物質の「レベル」とは、評価対象である前記測定対象物質の測定値、又は前記測定値に基づき標準化乃至換算した値を意味する。
【0036】
前記細胞の代謝産物をモニターする方法が、特定の時間の前記試料における測定対象物質を測定する第1の測定工程と、前記特定の時間から一定時間経過後の前記試料における測定対象物質を測定する第2の測定工程と、第1の測定工程における測定対象物質のレベルと、第2の測定工程における測定対象物質のレベルと、の変化を指標として、前記細胞の代謝産物を評価する評価工程と、を含むことが好ましい。
このような態様により、測定対象物質の経時的変化に基づき前記代謝産物を評価することができる。
【0037】
<追加の測定工程>
前記細胞の代謝産物をモニターする方法は、更に、追加の測定工程を含んでもよく、前記特定の時間から一定の時間間隔で複数の測定工程を行ってもよく、前記特定の時間からそれぞれ任意の時間間隔で複数の測定工程を行ってもよい。
また、前記追加の工程の回数は、1回であってもよく、2回以上であってもよく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0038】
前記追加の測定工程は、前記特定の時間から他の一定時間経過後の前記試料における測定対象物質を測定する工程であり、その場合、前記評価工程は、第1の測定工程における測定対象物質のレベルと、第2の測定工程における測定対象物質のレベルと、追加の測定工程における測定対象物質のレベルと、の変化を指標として、前記細胞の代謝産物を評価する工程である。
前記追加の測定工程により、測定対象物質の複数の測定点における経時的変化に基づき前記代謝産物をより詳細に評価することができる。
【0039】
<刺激付与工程>
前記第1の態様における前記細胞の代謝産物をモニターする方法は、更に、刺激付与工程を含むことが好ましい。
前記刺激付与工程は、前記細胞に外部刺激を付与する工程である。前記刺激付与工程は、前記第1の測定工程に続いて実施され、前記刺激付与工程に続いて、前記第2の測定工程、及び必要に応じて追加の測定工程を実施することが好ましい。
前記外部刺激としては、例えば、化学物質や薬剤等の化学刺激、温度刺激、光刺激、物理刺激、pH刺激、浸透圧刺激などが挙げられる。
【0040】
前記化学物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グルコース、フルクトース、マルトース、ショ糖、過酸化水素、重水、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリル、メチルアルコール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、イソプレングリコール、1,2-ペンタングリコール、1,2-ヘキサングリコール、2-メチル-1,3-プロパノール、エチルカルビトール、1,2-ブチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。
【0041】
前記薬剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、インスリン、EGF、ハイドロコルチゾン、BPE等の細胞増殖を促進する薬剤;カルシウム等の細胞分化を促進する薬剤;ビタミンA及びその誘導体、ビタミンB6塩酸塩、ビタミンB6トリパルミテート、ビタミンB6ジオクタノエート、ビタミンB2及びその誘導体、ビタミンB12、ビタミンB15及びその誘導体等のビタミンB類;L-アスコルビン酸及びその誘導体の塩;α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、ビタミンEアセテート、ビタミンEニコチネート等のビタミンE類;ビタミンD類、ビタミンH、パントテン酸、パンテチンなどのビタミン類、トラネキサム酸およびその誘導体の塩、アルコキシサリチル酸(例えば、3-メトキシサリチル酸、3-エトキシサリチル酸、4-メトキシサリチル酸、4-エトキシサリチル酸、4-プロポキシサリチル酸、4-イソプロポキシサリチル酸、4-ブトキシサリチル酸、5-メトキシサリチル酸、5-エトキシサリチル酸、5-プロポキシサリチル酸等)及びその誘導体の塩、グルタチオン及びその誘導体の塩、ニコチン酸アミド、グリチルリチン酸ジカリウム、グリシルグリシン、各種エキス等の化粧料の薬効成分などが挙げられる。
【0042】
前記外部刺激を付与する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、化学物質や薬剤を例えば微量の溶媒乃至液体培地に溶解して液体培地に投与することにより化学物質や薬剤を付与する方法;細胞及び液体培地を含む試料を加温乃至冷却することにより温度刺激を付与する方法;細胞及び液体培地を含む試料に、光(例えば、紫外線、可視光、赤外線)を照射することにより光刺激を付与する方法;遠心などによる力学刺激により物理刺激を付与する方法;酸又はアルカリを例えば微量の溶媒乃至液体培地に溶解して液体培地に投与することによりpH刺激を付与する方法;液体培地に滅菌水を添加する乃至低浸透圧液体培地に置換することにより浸透圧刺激を付与する方法;などが挙げられる。
前記刺激付与工程により、外部刺激による測定対象物質の経時的変化に基づき、前記外部刺激による細胞応答を評価することができる。
【実施例0043】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。なお、本実施例の説明において、割合(%及び部)の値は、特に記載がない限り質量基準とする。
【0044】
実施例1:角化細胞のNMR測定
以下の条件で正常ヒト新生児表皮角化細胞のNMR測定を行うことにより、細胞のモニター方法を実施した。
【0045】
<NMR測定装置及び測定条件>
1H NMRスペクトルは、400MHzのNMR分光器(ECZ400、JEOL RESONANCE社製)を用いて測定を行い、ロック溶媒として重水を用いた。NMRのサンプルチューブには、5mmφ同軸NMRチューブ(内管:SP-402、及び外管:PS-005、株式会社シゲミ製)を用い、内管には外部標準物質としてDSS-d(濃度:501.6mg/L、富士フィルム和光純薬株式会社製)の重水溶液を封入し、外管に細胞及び液体培地を含む試料をCOガスと共に封入した。温度制御は、NMR装置に付随している温度コントローラーを用いて行い、37℃に制御した。スキャン回数を1,024回に設定した。
【0046】
<NMR管の準備>
以下の手順により、細胞の培養容器としてのNMR管を準備した。
(1) 500μg/mLのCOLLAGEN TypeIV(カタログ番号:C7521、SIGMA-ALDRICH社製)、0.1M酢酸の水溶液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、製品番号:14249-95、ナカライテスク株式会社製)で100倍希釈してコラーゲン溶液(5μg/mL)を調製した。
(2) パスツールピペットを用いてNMR管の外管に500μLのコラーゲン溶液を入れ、外管の内壁にコラーゲン溶液を塗布した。
(3) 30秒後、パスツールピペットを用いてコラーゲン溶液を除去した。
(4) PBSを用いて、外管の内壁を2回洗浄し、余剰のコラーゲン溶液を除去した。
(5) 外管の内壁を30分間、風乾した。
【0047】
なお、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)として、塩化カリウム200mg/L、りん酸二水素カリウム200mg/L、塩化ナトリウム8000mg/L、リン酸水素二カリウム・三水和物1150mg/Lを含む溶液を用いた。
【0048】
<細胞準備>
以下の手順により、細胞を準備し、培養容器としてのNMR管に細胞を播種した。
(1) 正常ヒト新生児表皮角化細胞であるNHEK(製品番号:KK-4009、倉敷紡績株式会社製)を60μMのCa2+を含むEplifeTM培地(MEPICF500、Thermo Fisher Scinetific社製、以下、「培地」と称することがある)、及び正常ヒト表皮角化細胞用増殖添加剤であるHuMedia-KG増殖添加剤セット(KK-6150、倉敷紡績株式会社製)を用いて細胞解凍し、培養シャーレ(製品番号:353002、又は353003、FALCON社製)に播種後、数日間培養して目的の細胞数まで増やした。
(2) HBSを用いて、細胞を2回洗浄し、培地を除去した。
(3) 0.125% Tripsin/1mM-EDTA solution(35554-64、ナカライテスク株式会社製)を添加した。
(4) 37℃、COインキュベーターにて3分間~5分間静置した。
(5) トリプシン中和液(HK-3220、倉敷紡績株式会社製)を添加して、細胞を分散させた。
(6) 60μMのCa2+を含むEplifeTM培地に分散した細胞を懸濁し、5分間、1,000rpmで遠心した。
(7) 上清を除去し、培地を添加した。
(8) 培地に懸濁した細胞の一部を分取し、0.5%トリパンブルー(29853-34、ナカライテスク株式会社製)と等量混ぜて細胞数をカウントした。
(9) 3.0×10細胞/500μLに調整し、NMR管(外管)に細胞を播種した。
(10) 37℃、COインキュベーターに横向きで外管を30分間静置し、外管の内壁に細胞を付着させた。
(11) 30分間静置後、横向きの外管の上下を反転させて1日静置し、外管の内壁の残り部分にも細胞を付着させた。
【0049】
なお、ヘペス緩衝生理食塩水(HBS)として、塩化ナトリウム135mM、りん酸水素二ナトリウム1mM、塩化カリウム4mM、HEPES 20mMを含む溶液を用いた。
【0050】
<NMR測定工程>
以下の手順により、NMR管に播種した細胞を培養して細胞間接着させた。次いで、細胞を培養しながら、細胞と液体培地とを含む試料を、NMR分光器を用いてNMR測定した。
【0051】
まず、前記<細胞準備>に従って、NMR管(外管)に細胞を播種した(1日目)。低濃度カルシウム(60μMのCa2+)を含むEplifeTM培地にて、角化細胞が未分化の状態で培養を続けた。細胞を培養しながら、播種から2日目の10時間目から18時間目の間、NMR管をNMR分光器にセットしてNMR測定を行った。
【0052】
次いで、播種から2日目の19時間目に培地を高濃度カルシウム(1.8mMのCa2+)を含むEplifeTM培地に交換することにより、角化細胞の分化を誘導する条件に変更し、細胞を培養しながら、NMR管をNMR分光器にセットしてNMR測定を行った。播種から3日目の21時間目までNMR測定を継続した。播種から4日目の9時間目に、培養した細胞の様子を観察し、以下の手順により、細胞数をカウントした。
【0053】
<細胞数カウント方法>
(1) 培地を除去して、HBSを用いて、NMR管内の細胞を2回洗浄した。
(2) 0.125% Tripsin/1mM-EDTA solution(35554-64、ナカライテスク株式会社製)を添加した。
(3) 37℃、COインキュベーターにて3分間~5分間静置した。
(4) トリプシン中和液(HK-3220、倉敷紡績株式会社製)を添加して、細胞を分散させた。
(5) 60μMのCa2+を含むEplifeTM培地に分散した細胞を懸濁し、5分間、1,000rpmで遠心した。
(6) 上清を除去し、培地を添加した。
(7) 培地に懸濁した細胞の一部を分取し、0.5%トリパンブルー(29853-34、ナカライテスク株式会社製)と等量混ぜて細胞数をカウントした。
【0054】
高濃度カルシウム培地に培地交換した後の、細胞及び液体培地を含む試料をNMR測定した結果を図1及び表1に示す。
培地交換後、0時間後、3時間後、6時間後、12時間後、及び24時間後のそれぞれの測定点における1H NMRスペクトルを図1に示し、主なピークの各々に、対応する物質(測定対象物質)の名称を付記した。
【0055】
また、図1に示す1H NMRスペクトルに基づき、算出した各物質の量[mg/L]を表1に示した。なお、グルコース量については、3.45ppmのピークに基づき算出した値を表1に示した。
下式により、NMRスペクトル上の標準物質の信号(プロトン面積)と分析サンプルの各信号の積分値を比較することで分析サンプルにおける各測定対象物質の定量値を算出した。
【0056】
【数2】
式中、
smpは、測定対象物質の質量(mg/L)、
stdは、標準物質の質量(mg/L)、
smpは、測定対象物質のプロトン面積、
stdは、標準物質のプロトン面積、
smpは、測定対象物質の分子量、
stdは、標準物質の分子量、
定数90/500は、内管および外管の体積補正をそれぞれ示す。
【0057】
【表1】
【0058】
図1及び表1の結果より、角化細胞の分化状態において、例えば、中間代謝産物、乃至代謝産物である乳酸、及びギ酸の量は増加する一方、栄養成分であるグルコースは時間経過とともに消費され、量が減少することが分かった。アミノ酸について、時間経過とともにアラニンの量は増加し、ヒスチジンやグルタミンの量は減少することが観察された。また、量がほとんど変動しないアミノ酸(チロシン、フェニルアラニン)や、塩基(アデニン)、エタノールも観察された。
したがって、角化細胞の分化状態における経時的な代謝プロフィールを評価できることが分かった。
【0059】
また、NMR測定後(細胞播種から4日目)の細胞を明視野顕微鏡にて観察した結果、細胞同士が互いに接着し、細胞が生きた状態で培養できていることが確認できた(図示せず)。
NMR測定後の細胞の生存率を前記<細胞数カウント方法>によりカウントした結果、生細胞率が53%、死細胞率が47%であった。
非特許文献1「生物物理 53(2),076-081(2013)」では、Hela細胞の15時間のNMR測定後の死細胞率が80%以上であったことから、実施例1では、生きた細胞の状態のまま細胞を培養しながら、NMR測定できることが確認できた。
【0060】
<角化細胞における接着因子の遺伝子発現解析>
<<分化した角化細胞の調製>>
以下の手順により、分化した角化細胞を培養し、培養3日後の明視野顕微鏡観察と、細胞回収を行った。
【0061】
前記<細胞準備>に従って、NMR管(外管)に3.0×10細胞/500μLに調整した細胞を播種した(1日目)。低濃度カルシウム(60μMのCa2+)を含むEplifeTM培地にて、角化細胞が未分化の状態で培養を続けた。次いで、播種から2日目に培地を高濃度カルシウム(1.8mMのCa2+)を含むEplifeTM培地に交換することにより、角化細胞の分化を誘導する条件に変更した。播種から3日目まで培養した後、明視野顕微鏡観察を行い、トータルRNAを回収してmRNA定量を行った。
【0062】
<<未分化の角化細胞の調製>>
また、以下の手順により、対象としての未分化の角化細胞を培養し、培養2日後の細胞回収を行った。
【0063】
前記<細胞準備>に従って、NMR管(外管)に3.0×10細胞/500μLに調整した細胞を播種した(1日目)。低濃度カルシウム(60μMのCa2+)を含むEplifeTM培地にて、角化細胞が未分化の状態で培養を続けた。次いで、播種から2日目に、トータルRNAを回収してmRNA定量を行った。
【0064】
<<RNA精製、cDNA合成、及び遺伝子発現解析>>
RNeasy mini kit(QIAGEN社製)を用いて、プロトコールにしたがって、回収した各細胞からトータルRNA精製を行った。
【0065】
次いで、SuperScript VILO Master Mix(Invitrogen社製)を用いて、プロトコールにしたがって、得られた各トータルRNAからcDNAの合成を行った。
【0066】
得られた各cDNAから、LightCyclerTM 480 SYBR Green I Master(Roche社製)を用いて、プロトコールにしたがって、各標的遺伝子、及びハウスキーピング遺伝子の定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)測定を行った。
【0067】
<<接着因子の遺伝子発現解析>>
標的遺伝子として、接着因子であるデスモグレイン1(Desmoglein 1、DSG1)、クローディン1(Claudin 1、CLDN1)、タイトジャンクションタンパク1(Tight junction protein 1、Zonula occludens-1、ZO1)、及びオクルディン(Occludin、OCLN)の遺伝子の発現を解析した。
【0068】
ハウスキーピング遺伝子として、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GADPH)の遺伝子を測定した。GADPH遺伝子のmRNA量を指標として、各標的遺伝子の相対的mRNA発現量を算出し、図2に示した。
【0069】
各標的遺伝子、及びハウスキーピング遺伝子のプライマーセットとして、以下の配列のものを用いた(5'to3')。なお、配列名の「F」はフォワードプライマーを示し、「R」はリバースプライマーを示し、各遺伝子についてフォワードプライマー及びリバースプライマーのプライマーセットを用いてqPCR測定を行った。
DSG1-F:AGCCTGTCGTGAAGGTGAAG (配列番号1)
DSG1-R:AGAGCTCGGCAGTAGATAATGA (配列番号2)
CLDN1-F:TTCTTCTTGCAGGTCTGGC (配列番号3)
CLDN1-R:GAAGGCAGAGAGAAGCAGC (配列番号4)
ZO1-F:TGGTCGATCACACGATAGGC (配列番号5)
ZO1-R:ATCTCTACTCCGGAGACTGCC (配列番号6)
OCLN-F:AGTGAAGAGTACATGGCTGC (配列番号7)
OCLN-R:AACAACTTGGCATCAGCCTTC (配列番号8)
GADPH-F:GAGTCAACGGATTTGGTCGT (配列番号9)
GADPH-R:TTGATTTTGGAGGGATCTCG (配列番号10)
【0070】
図2の結果、低濃度カルシウム培地にて培養した未分化な角化細胞に比べて、高濃度カルシウム培地に変更して分化誘導した分化した角化細胞では、分化したことにより、接着因子の遺伝子発現が上昇することが確認できた。細胞間接着には、これらの接着因子が関与していることが報告されている(Cold Spring Harb Perspect Biol.2018 Apr 2;10(4):a029181.)したがって、分化した角化細胞が細胞間接着していると考えられる。
【0071】
また、図3に、分化した角化細胞の明視野顕微鏡像を示す。図3中、黒矢頭で示すように、角化細胞同士が細胞間接着している部位が多数観察され、角化細胞が細胞間接着していることが確認できた。
【0072】
実施例2:角化細胞のNMR測定(その2)
実施例1において、培養容器であるNMR管に播種する細胞数を3.0×10細胞/500μLから0.5×10細胞/500μLに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、NMR測定を行った。
【0073】
高濃度カルシウム培地に培地交換した後の、細胞及び液体培地を含む試料をNMR測定した結果を図4及び表2に示す。
その結果、実施例1よりも細胞密度が低いため、実施例1よりも経時的変化の程度が少ないものの、角化細胞の分化状態における経時的な代謝プロフィールを評価できることが分かった。
【0074】
また、NMR測定後(細胞播種から4日目)の細胞を明視野顕微鏡にて観察した結果、細胞同士が互いに接着し、細胞が生きた状態で培養できていることが確認できた(図示せず)。
NMR測定後の細胞の生存率を前記<細胞数カウント方法>によりカウントした結果、生細胞率が45%、死細胞率が55%であった。
【0075】
【表2】
【0076】
実施例3:角化細胞のNMR測定(その3)
実施例1において、培養容器であるNMR管に播種する細胞数を3.0×10細胞/500μLから6.0×10細胞/500μLに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、NMR測定を行った。
【0077】
高濃度カルシウム培地に培地交換した後の、細胞及び液体培地を含む試料をNMR測定した結果を図5及び表3に示す。
その結果、実施例1と比較しておおよそ同様の測定対象物質の経時的パターン及び傾向が観察され、角化細胞の分化状態における経時的な代謝プロフィールを評価できることが分かった。
なお、実施例3では、実施例1よりも細胞密度が高いため、例えば測定開始後12時間においてグルコース量の減少が顕著であり、NMR管内の培地量は増やせないため、実施例1よりも早く栄養成分が不足したと考えられる。
【0078】
また、NMR測定後(細胞播種から4日目)の細胞を明視野顕微鏡にて観察した結果、細胞同士が互いに接着し、細胞が生きた状態で培養できていることが確認できた(図示せず)。
NMR測定後の細胞の生存率を前記<細胞数カウント方法>によりカウントした結果、生細胞率が57%、死細胞率が43%であった。
【0079】
【表3】
【0080】
実施例4:外部刺激を付与した角化細胞のNMR測定
過酸化水素を培地に添加することにより外部刺激として化学刺激乃至酸化ストレスを付与した正常ヒト新生児表皮角化細胞のNMR測定を行うことにより、細胞の代謝産物をモニターする方法を実施した。
具体的には、実施例1における<NMR測定工程>を下記の<NMR測定工程>に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、NMR測定を行った。
【0081】
<NMR測定工程>
以下の手順により、NMR管に細胞を播種することで内壁に接着させて培養した。次いで、細胞を培養しながら、細胞と液体培地とを含む試料を、NMR分光器を用いてNMR測定した。
【0082】
まず、前記<細胞準備>に従って、NMR管(外管)に細胞を播種した(1日目)。低濃度カルシウム(60μMのCa2+)を含むEplifeTM培地にて、角化細胞が未分化の状態で培養を続けた。次いで、播種から2日目の10時間目に、0.06%過酸化水素水(23155-1230、純正化学株式会社製)を添加した60μMのCa2+を含むEplifeTM培地に交換し、細胞を培養しながら、播種から2日目の10時間目から18時間目の間、NMR管をNMR分光器にセットしてNMR測定を行った。
【0083】
次いで、播種から2日目の19時間目に培地を0.06%過酸化水素水(23155-1230、純正化学株式会社製)に交換した高濃度カルシウム(1.8mMのCa2+)を含むEplifeTM培地に交換することにより、角化細胞の分化を誘導する条件に変更し、細胞を培養しながら、NMR管をNMR分光器にセットしてNMR測定を行った。播種から3日目の21時間目までNMR測定を継続した。播種から4日目の9時間目に、培養した細胞の様子を観察し、細胞数をカウントした。
【0084】
高濃度カルシウム培地に培地交換した後の、細胞及び液体培地を含む試料をNMR測定した結果を図6及び表4に示す。
その結果、薬剤付与の外部刺激、すなわち、過酸化水素の付与による酸化ストレスにより、実施例1と比較して測定対象物質のレベル及びパターンに変化が見られ、例えば、実施例1とは反対に、時間経過とともにアラニンが減少する一方で、グルコースの量が増加しており、解糖系が阻害されるとともに糖新生が起こっている可能性が示唆された。一方で、乳酸の量が経時的に減少することが分かった。また実施例1では確認できなかった酢酸の存在を検出した。
したがって、外部刺激による細胞応答などの代謝産物をモニターでき、角化細胞の細胞応答における経時的な代謝プロフィールを評価できることが分かった。
【0085】
また、NMR測定後(細胞播種から4日目)の細胞を明視野顕微鏡にて観察した結果、細胞同士が互いに接着し、細胞が生きた状態で培養できていることが確認できた(図示せず)。
なお、トリパンブルーを用いた細胞数カウントを実施したが、過酸化水素を添加した場合、トリパンブルーの膜透過性が上昇してしまうようであり、生きた細胞と観察される細胞もトリパンブルーにより染色される結果となり、実施例1~3と比較可能に評価することができなかった。
【0086】
ここで、細胞へ過酸化水素を付与した場合の細胞応答については、例えば、「J.Biol.Chem.vol.263,pp.1665-1675,1988」にて、過酸化水素により解糖系が阻害され、乳酸の生成が阻害されることが報告されている。このような報告と整合して、正常ヒト新生児表皮角化細胞を用い、過酸化水素を付与していない実施例1~3では、グルコース量の減少(解糖)及び乳酸量の増加が観察されたのに対し、過酸化水素を付与した実施例4では、グルコース量が増加し、乳酸量が全く変化しないことが観察された。
【0087】
【表4】
【0088】
実施例5:未分化の角化細胞における接着因子の発現解析
以下の手順により、未分化の角化細胞を培養し、播種翌日の細胞における接着因子E-カドヘリンの発現を細胞染色により調べた。
1次抗体として、モノクローナルマウス 抗ヒトE-カドヘリン(クローンNCH-38、製品番号:M361201-2、Abcam社製)を用い、2次抗体として、Alexa FruoroTM488で標識されたロバ抗マウス488(製品番号:A21202、Invitrogen社製)を用い、核酸染色試薬として、Hoechst(登録商標)33342(製品番号:H3570、Invitrogen社製)を用いた。
【0089】
<<未分化の角化細胞の調製>>
コラーゲンコートしたカルチャースライド8wellタイプ(製品番号:354114、FALCON社製)に、実施例1におけるNMR管と同等の細胞密度となるように6.1×10細胞/wellに調整した細胞を播種した(1日目)。低濃度カルシウム(60μMのCa2+)を含むEplifeTM培地にて、角化細胞が未分化の状態で培養を続けた。次いで、播種から2日目に、4質量%パラホルムアルデヒド(PFA)のPBS溶液を用いて4℃、終夜(O/N)で細胞を固定した。
【0090】
3日目に、固定した細胞を0.05質量%のTween-20を含むPBS(以下、PBSTと称する)で1回、PBSで2回洗浄し、0.2質量%のTriton-Xを含むPBSで15分間の浸透処理を行った。次いで、10体積%の正常ヤギ血清、3質量%のTriton-X、及び3質量%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むブロッキング溶液で1時間のブロッキング処理を行った。次いで、ブロッキング溶液で1/200希釈した1次抗体を用いて、4℃、終夜(O/N)静置した。
【0091】
4日目に、PBSTで5分間×1回、PBSで5分間×2回洗浄し、ブロッキング溶液で1/200希釈した2次抗体、及び1/1000希釈した核酸染色試薬を用いて、室温で15分間反応させた。次いで、室温にて、PBSTで5分間×1回、PBSで5分間×2回洗浄し、ProLongTM Gold Antifade Mountant(製品番号:P36934、Invitrogen社製)を10μL/well添加して、蛍光顕微鏡(オリンパス社製)で観察した。
【0092】
図7に結果を示す。図7は、実施例5における未分化の角化細胞における接着因子の細胞染色像を示す図である。
図7の結果より、未分化の角化細胞において接着因子E-カドヘリンが発現していることが分かった。
【0093】
この結果より、未分化状態の角化細胞にも、接着因子E-カドヘリンタンパク質が発現し、細胞間接着していることが分かった。加えて、図2では、分化した角化細胞では、未分化の角化細胞と比べて、複数の接着因子の遺伝子発現が上昇していることから、より一層、細胞間接着が亢進していることが分かった。
【0094】
以上、本発明を具体的な実施形態及び実施例に基づいて説明したが、これらの実施形態及び実施例は例として提示したものにすぎず、本発明は上記実施形態及び実施例によって限定されるものではない。本発明の開示の範囲内において、様々な変更、修正、置換、削除、付加、及び組合せ等が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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