(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110938
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】銅合金、銅合金からなる半製品および電気接続部材
(51)【国際特許分類】
C22C 9/02 20060101AFI20240808BHJP
C22F 1/08 20060101ALN20240808BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240808BHJP
【FI】
C22C9/02
C22F1/08 B
C22F1/00 661A
C22F1/00 681
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 624
C22F1/00 625
C22F1/00 640A
C22F1/00 630K
C22F1/00 630J
C22F1/00 686A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024009938
(22)【出願日】2024-01-26
(31)【優先権主張番号】10 2023 000 334.4
(32)【優先日】2023-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】592179160
【氏名又は名称】ヴィーラント ウェルケ アクチーエン ゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】WIELAND-WERKE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100081570
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰芳
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ショーバー
(72)【発明者】
【氏名】ジュリア ヘイレマン
(72)【発明者】
【氏名】ティモ アルメンディンガー
(72)【発明者】
【氏名】マチヒアス ノーラー
(57)【要約】
【課題】 特に電気接続部材に使用するための、銅合金を提供する。
【解決手段】 本発明は、重量%で以下の組成:
Sn:3.0~6.5%、
Ni:0.30~0.70%、
P:0.15~0.40%、
S:0.10~0.40%、
Zn:任意に0.20%まで、
Fe:任意に0.50%まで、
Mn:任意に0.50%まで、
Pb:任意に0.25%まで、
残部銅ならびに不可避な不純物
を有する銅合金であって、
Pの含量に対するNiの含量の比が少なくとも1.1かつ多くとも2.8であり、およびリン化ニッケルを含有する、銅合金に関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で以下の組成:
Sn:3.0~6.5%、
Ni:0.30~0.70%、
P:0.15~0.40%、
S:0.10~0.40%、
Zn:任意に0.20%まで、
Fe:任意に0.50%まで、
Mn:任意に0.50%まで、
Pb:任意に0.25%まで、
残部銅ならびに不可避な不純物
を有する銅合金であって、
Pの含量に対するNiの含量の比が少なくとも1.1かつ多くとも2.8であり、およびリン化ニッケルを含有する、銅合金。
【請求項2】
Sの含量に対するPの含量の比が少なくとも0.70であることを特徴とする、請求項1に記載の銅合金。
【請求項3】
Feの含量に対するNiの含量の比が少なくとも1.8であることを特徴とする、請求項1または2に記載の銅合金。
【請求項4】
Sn含量が4.0から5.5重量%であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の銅合金。
【請求項5】
Ni含量が0.35から0.65重量%であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の銅合金。
【請求項6】
P含量が0.20から0.35重量%であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の銅合金。
【請求項7】
S含量が0.15から0.35重量%であることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の銅合金。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の銅合金からなる、線状または棒状半製品。
【請求項9】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の銅合金からなる、電気接続部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金、特に鍛錬用銅合金、銅合金からなる線状または棒状半製品、ならびに銅合金からなる電気接続部材に関する。
【背景技術】
【0002】
電気工学において、電気接続を実現することになっている部品にはたいてい銅合金が使用されている。このような部品は、一般的に電気接続部材と称される。ここでの例はプラグコネクタと電気端子である。これらの部品は、線状または棒状の半製品から機械加工により製造することができる。電気配線への、例えばケーブルへのこのような部品の接続は、通常、ボルト接続により、あるいは、圧着接続により行われる。圧着を可能にするためには、部品の材料は最終状態であっても冷間加工性が良好でなくてはならない。このような部品内での電気接続は、多くは外力によって実現されるが、この外力により、部品または少なくとも部品の一部が弾性変形し、それによりばね作用が生じる。例えば転位のような格子欠陥や合金原子の移動により、材料中に外部応力の結果として存在する弾性変形は時間の経過とともに塑性変形に変化する。応力緩和と称されるこのプロセスにより、電気接続を維持する力は時間が進むにつれて弱くなる。したがって、確実な電気接続を持続的に保証するためには、部品の材料が高い耐応力緩和特性を有していなくてはならない。電気接続部材用の、特にプラグコネクタ用の銅合金は、したがって、良好な冷間加工性、良好な機械加工性、高い導電率に加え、特に、高い耐応力緩和特性と、同時に高い強度を有する必要がある。
【0003】
昨今では、プラグコネクタはCuSn4Zn4Pb4合金から製造される。約4重量%という高い鉛含量によりこの合金の機械加工性は良好である。しかし、鉛は健康および環境にとって危ないものとみなされているので、CuSn4Zn4Pb4に代わる、鉛を減らした、あるいは、鉛を含まない代替物が必要とされている。
【0004】
特許文献1からは、媒体搬送ガス管または送水管用部品の製造に使用される鉛含有鋳造合金CuSn5Zn5Pb2を、Snを3.5から4.8重量%、Znを1.5重量%から3.5重量%、Sを0.25から0.65重量%およびPを0.04重量%から0.1重量%有する銅合金で代替できることが公知である。この合金は、任意に、鉛を0.09重量%まで、およびニッケルを0.4重量%まで含んでいてよい。この硫黄含量によって合金中には硫化銅および硫化亜鉛が生じ、これらが鋳造合金の機械加工特性を改善させる。しかし、硫化亜鉛は、冷間加工性に対して、亀裂を発生させるので好ましくない影響を及ぼす。Zn含量を低減すれば確かに冷間加工性は改善するが、そうして得られた合金の導電率および耐応力緩和特性は、電気接続部材に今日使用されているCuSn4Zn4Pb4合金の値には達しないので、不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、特に電気接続部材に使用するための、銅合金を提供するという課題に基づくものである。前記合金は、以下の特性を有していなくてはならない:低減されたPb含量、良好な機械加工性、高い強度、高い導電率、および良好な耐応力緩和特性。さらに、寸法が小さい半製品を少ない費用で製造できるように、かつ、この合金から製造された完成部品の圧着を可能にするために、前記合金は冷間加工性が良好でなくてはならない。半製品の外部寸法、例えば外径は、典型的には1.5から12mmである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、請求項1に記載の特徴により表される。他の従属請求項は本発明の好適な形態および改良形態に関するものである。
【0008】
本発明は、重量%で以下の組成:
Sn:3.0~6.5%、
Ni:0.30~0.70%、
P:0.15~0.40%、
S:0.10~0.40%、
Zn:任意に0.20%まで、
Fe:任意に0.50%まで、
Mn:任意に0.50%まで、
Pb:任意に0.25%まで、
残部銅ならびに不可避な不純物
を有する銅合金であって、
Pの含量に対するNiの含量の比が少なくとも1.1かつ多くとも2.8であり、およびリン化ニッケルを含有する、銅合金に関する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
銅-スズ合金は、良好なばね特性および滑り特性を有し、優れた疲労限度を持っている。スズはさらに、合金の強度と硬度を改善させ、耐食性および耐摩耗性を向上させる。スズ含有量が増加するにつれて強度と硬度は増すが、一方、導電率は低下する。これらの特性の有利な組み合わせは、スズ含量が少なくとも3.0重量%かつ多くとも6.5重量%の場合に生じる。スズ含量が3.0重量%未満では必要な強度を得ることができない。スズ含量が6.5重量%を超える場合は、もはや所望の導電率を得ることはできない。さらに、6.5重量%を超えるスズ含量では脆弱なデルタ相が生じ、硬度が増す一方、可塑性は減少する。
【0010】
銅中での硫黄の溶解度は低い。硫黄は、Cu、Zn、FeおよびMnの元素と硫化物を生成する。この硫化物はチップブレーカとして作用し、それにより機械加工性を改善させる。合金中の硫黄含量が0.10重量%より下だと、機械加工を改善させるには少な過ぎる。硫黄含量が0.40重量%を超えていると、その材料は脆くなり、冷間加工性は悪化する。Cu2S型析出物が導電率を少しだけ低下させる。
【0011】
ニッケルは、リンと組み合わされると、導電率および耐応力緩和特性に対して好ましい作用を及ぼす。驚くことに、0.15から0.40重量%の範囲のリン含量を有する銅-スズ合金において、ニッケルを0.30から0.70重量%の範囲で添加することにより、ニッケル不含の合金に比べ導電率および耐応力緩和特性が改善することが明らかになった。この効果は、リン化ニッケルの形成に起因するとみなすことができる。リン化ニッケルは、Ni2P、Ni5P2およびNi3Pの組成を有することができる。驚くべきことに、リン化ニッケルの形成は、Pの含量に対するNiの含量の比、略してNi/Pが、少なくとも1.1かつ多くとも2.8である場合に促進されることがわかった。この範囲において、他の元素とリンとの競合化合物の他にリン化ニッケルの形成に有利な状況が生じる。有利には、Ni/P比は少なくとも1.4かつ多くとも2.5、特に有利には少なくとも1.6かつ多くとも2.1である。ニッケル含量が0.3重量%未満では、耐応力緩和特性を改善させるのに十分な析出物が生成されない。
【0012】
リン化ニッケルは主に球状析出物を形成し、これらは組織中均一に微細分散している。これらは、その均一な分散により、材料の均一な成形加工を可能にしている。リン化ニッケルのサイズは非常に小さいので、リン化ニッケルの上記全体量では体積当たりの析出物の数は非常に多い。したがって、リン化ニッケルは、組織中の粒界および転移のような格子欠陥を特に効果的に固定することができる、つまり、その移動を妨げることができる。これにより、リン化ニッケルは、強度の上昇に寄与するだけではなく、さらに、耐応力緩和特性の明らかな改善をももたらす。これにより、前記合金は特に好適なものとなる。なぜならば、材料の冷間加工により達成される強度上昇は、通常、耐応力緩和特性を悪化させるからである。冷間加工により転移が生じ、それが材料をより強固にする。使用中に材料が高温にさらされると、転位の移動(回復プロセス)が現れ、その結果、強度が低下する。転位を固定する微細分散したリン化ニッケル析出物により、この転位移動は阻止される。それにより、材料は固定されたままで、耐応力緩和特性は備わっている。
【0013】
前記銅合金は、0.20重量%までの亜鉛を含んでいてよい。亜鉛は、機械加工性を改善させる硫化亜鉛を形成するが、他方、冷間加工性に好ましくない影響を及ぼす。したがって、前記合金は、亜鉛を0.20重量%より多く含んでいてはならない。
【0014】
前記銅合金は、0.50重量%までの鉄を含んでいてよい。鉄は、銅結晶格子中の溶解度がニッケルよりも小さい。したがって、鉄は、溶融物の冷却の際により早く析出物を形成し、少量で細粒化を引き起こす。硫化鉄は合金の機械加工特性を促進させることができる。鉄はリンと共にリン化鉄を形成するが、これは応力緩和に対してリン化ニッケルと同様の影響を及ぼす。しかし、これらのリン化物は融点が1350℃であり、したがって、すでに溶融物から生じる。このことにより、冷間加工性に対して好ましくない影響を及ぼす大きな析出物が生じる。したがって、合金中の鉄含量は最大0.50重量%、有利には最大0.24重量%、特に有利には最大0.08重量%であってよい。
【0015】
前記銅合金は、0.50重量%までのマンガンを含んでいてよい。マンガンは硫黄と共に、チップブレーキングを促進する硫化物を形成する。したがって、マンガンは機械加工性の改善に寄与する。マンガン含量が0.50重量%を超えると、合金の特性に好ましくない影響を及ぼす金属間相が形成されるかもしれない。有利には、合金中のマンガン含量は多くとも0.10重量%である。
【0016】
前記銅合金は、0.25重量%までの鉛、有利には0.09重量%までの鉛を含んでいてよい。鉛は機械加工性に対して好ましい効果を有するが、合金中のその含量は規制上制限されている。
【0017】
前記合金の残部は銅ならびに不可避な不純物である。不純物の含量は有利には0.2重量%未満、特に有利には0.1重量%未満である。
【0018】
前記合金は、冷間加工性、機械加工性、強度、導電率、および耐応力緩和特性に関し、優れた特性を有する。鉛の含量が少ないことで、この合金は、規制上の要件により鉛の含量が制限されている適用に対して使用可能である。前記合金は、鉛含量が0.03重量%未満であってもなお十分良好に機械加工することができる。
【0019】
前記合金の特別な特性プロファイルは、特に、合金元素Ni、PおよびSの含量を特別に選定したことにより得られる。これらの元素の含量は、有利には硫化銅およびリン化ニッケルが形成されるように選ばれている。硫化銅は機械加工性を改善させ、一方、リン化ニッケルは耐応力緩和特性を改善させる。合金組成を特別に選定することにより、まさにこの両方の析出物型を適切な規模で生成することができる。
【0020】
半製品を製造するために、前記合金を溶融し鋳造する。この鋳造形態は、熱間加工しないですぐに冷間加工することができる。成形加工された状態で、この合金は鍛錬用合金と称される。この合金は、例えば、18から25mmの直径を有する鋳造ワイヤとして鋳造することができる。この鋳造ワイヤは、圧延または伸線により冷間加工することができる。引き続き、550から700℃の温度範囲で2から7時間アニーリングを行なって、組織を再結晶させることができる。アニーリング温度が750℃を越えると、この温度より上でニッケルとリンが再び溶解するので、導電率は低減する。この一連の成形加工および再結晶アニーリングは、目指す半製品寸法が得られるまで繰り返してもよい。好適には、このとき、断面積の相対減少率として定義された成形加工度は、成形加工工程ごとに少なくとも15%である。特に、この一連の成形加工工程は、成形加工度が少なくとも60%の、特に有利には少なくとも70%の少なくとも1つの工程を含んでいてよい。半製品を製造する際の最終工程は、通常、成形加工工程、特に伸線工程である。
【0021】
本発明の実施形態の枠内では、Sの含量に対するPの含量の比、略してP/S、が少なくとも0.70であってよい。ニッケルは、リンとも硫黄とも化合物を作ることができる。この実施形態では、硫黄の含量に対するリンの最小量が提示されているので、硫化ニッケルの形成に比べてリン化ニッケルの形成の条件が特に有利である。したがって、この合金は、ほとんど硫化ニッケルを有さない。有利には、P/S比は少なくとも0.80であってよい。
【0022】
本発明の別の実施形態では、Feの含量に対するNiの含量の比、略してNi/Fe、が少なくとも1.8であってよい。この実施形態で選ばれた、鉄の含量に対するニッケルの最小含量により、優先的にリン化ニッケルおよび少ない鉄含有析出物が生成する。有利には、Ni/Fe比は少なくとも2.8、特に有利には少なくとも3.0であってよい。
【0023】
本発明の別の特別な実施形態では、スズ含量が4.0から5.5重量%であってよい。スズ含量がこの範囲で選ばれると、スズは主にマトリックス中に溶解したまま、固溶体強化が起こる。したがって、強度、導電率、耐食性および冷間加工性に関して特に有利な特性が生じる。さらに、ひずみとネッキングはこの範囲で最大値を示す。特に有利には、スズ含量は4.5から5.0重量%であってよい。
【0024】
本発明の別の好適な実施形態では、ニッケル含量が0.35から0.65重量%であってよい。ニッケル含量がこの範囲で選ばれると、導電率、耐応力緩和特性および冷間加工性に関して特に有利な特性が生じる。特に有利には、Ni含量は0.43から0.58重量%であってよい。
【0025】
本発明の別の好適な実施形態では、リン含量が0.20から0.35重量%であってよい。リン含量がこの範囲で選ばれると、機械加工性、強度および耐応力緩和特性に関して特に有利な特性が生じる。リン化ニッケルもリン化銅も形成するのに十分なリンが合金中に存在している。リン化銅は合金の強度を改善させ、リン化ニッケルは耐応力緩和特性を改善させ、リン化銅よりも好適に導電率に作用する。特に有利には、リン含量は0.25から0.30重量%であってよい。
【0026】
本発明の別の好適な実施形態では、硫黄含量が0.15から0.35重量%であってよい。硫黄がこの範囲で選ばれると、機械加工性および冷間加工性に関して特に有利な特性が生じる。特に有利には、硫黄含量は多くとも0.30重量%である。
【0027】
前記の銅合金は、鍛錬用銅合金として、特に線状または棒状半製品の形状であってよい。
【0028】
本発明の別の側面は、前記の銅合金からなる電気接続部材に関するものである。特に、本発明は、接続部材のばね作用により、あるいは力の作用、例えばボルト接続および/または圧着接続により電気接続が得られる電気接続部材に関する。このような接続部材の例は、プラグコネクタおよび電気端子である。特に、この電気接続部材は、前記の銅合金からなる線状または棒状半製品を機械加工することにより製造することができる。
【0029】
本発明を、実施例および比較例によって詳細に説明する。
【0030】
表1は、本発明の例と比較例の組成(重量%)を示している。試料No.1からNo.6までは本発明の例である。*で目印を付けた試料No.7からNo.10は比較例であり、試料No.7は鉛含有基準合金CuSn4Zn4Pb4である。さらに、この表は、それぞれの合金の成形加工性および導電率に関する情報を含んでいる。成形加工性の欄の「+」の記号は、成形加工性が良好なことを意味し、「-」の記号は成形加工性が悪いことを意味する。
【0031】
【0032】
これらの合金を溶融し、直径20mmのワイヤとして鋳造した。引き続き、これらを、外径が1.5mmになるまで複数の工程で冷間加工した。断面積の相対減少率として定義された成形加工度は、成形加工工程ごとに少なくとも18%であった。しかし、単独の成形加工工程では、特に最終成形加工工程では、70%を超える成形加工度も得られた。2つの成形加工工程の間で、これらの試料を約650℃でアニーリングした。ニッケル含有合金である試料No.1からNo.6ならびにニッケル不含合金である試料No.10は、基準合金である試料No.7のように問題なく成形加工された。試料No.8(CuSn4Zn2PS)およびNo.9(CuSn4Zn8FeP)は、直径が15mmの際にすでに材料に亀裂が生じたので、非常に限定的に成形加工された。
【0033】
外径が約15mmの試料において、アニーリングした状態で導電率を測定した。基準合金であるNo.7は約9.2S・m/mm2の導電率を有し、これは16%IACSに相当する。ニッケル含有合金である試料No.1からNo.6の導電率は、8.4から9.0S・m/mm2であり、これは約15%IACSに相当する。したがって、これらの合金の導電率は基準合金No.7の導電率をわずかに下回るだけである。ニッケル不含合金である試料No.10は、より低い導電率である7.6S・m/mm2(約13%IACS)しか有していない。試料No.8とNo.9は、約19%IACSという比較的高い導電率を有しているが、これらはその成形加工性が悪いので、これ以上考慮に入れることはない。
【0034】
応力緩和を表現するために、試料No.1(CuSn5NiSP)、No.7(CuSn4Zn4Pb4)およびNo.10(CuSn5PS)から製造された直径4mmのワイヤにおいて、それぞれ2つの強度状態についてリング法を用いて、時間に依存した応力の減少率Δσを異なる温度で測定した。試験時間および温度は、ラーソン・ミラー・パラメータが7から11の範囲をカバーするように選ばれた。測定方法の詳細は、M.Bohsmann(M.ボースマン)およびS.Gross(S.グロス)の論文“Understanding Stress Relaxation”(「応力緩和の理解」)、Material Science and Technology(マテリアル・サイエンス・アンド・テクノロジー)、2008年10月、p.41から47、から引用している。
【0035】
【0036】
表2は、調査結果を示している。記載されているのは、室温での初期値に対する、材料の応力の相対減少率Δσである。上の3列に示された値は、約780MPaの引張り強さで表された強度状態における試料No.1、No.7およびNo.10で検出されたものである。下の3列に示された値は、約830MPaの引張り強さで表された強度状態における試料No.1、No.7およびNo.10で検出されたものである。測定された応力減少率が少ないほど、材料の耐応力緩和特性は一層良好である。
【0037】
ニッケル含有合金である試料No.1は、調査した両方の強度状態に対し、鉛含有基準合金である試料No.7の水準に近い耐応力緩和特性を示している。それに対し、ニッケル不含合金である試料No.10は、調査した両方の強度状態に対し、90℃を越える温度では、試料No.1およびNo.7より明らかに大きな応力減少率を示している。したがって、試料No.1とNo.10の比較から、合金中の元素であるニッケルが耐応力緩和特性を明らかに改善することが裏付けられている。その原因は、材料の組織に微細分散しているリン化ニッケルである。
【0038】
この調査は、前記ニッケル含有およびリン含有銅合金が鉛含有合金CuSn4Zn4Pb4の特性プロファイルと広く一致する特性プロファイルを有することを示している。したがって、鉛含有合金CuSn4Zn4Pb4を、鉛含有量が問題のない水準にある合金で代えることは可能である。