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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110946
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】遺伝子改変CHO細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/54 20060101AFI20240808BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240808BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240808BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240808BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240808BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20240808BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20240808BHJP
   C12N 9/12 20060101ALI20240808BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C12N15/54
C12N15/12 ZNA
C12N15/113 Z
C12N15/13
C12N5/10
C07K14/47
C07K16/00
C12N9/12
C12P21/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024013909
(22)【出願日】2024-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2023015195
(32)【優先日】2023-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
2.TWEEN
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業」「バイオ医薬品の高度製造技術の開発/先端的バイオ製造技術開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 正義
(72)【発明者】
【氏名】川畑 隆司
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 和子
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064AG26
4B064CA10
4B064CC24
4B064DA03
4B065AA90X
4B065AA91Y
4B065AB04
4B065BA02
4B065CA44
4H045AA11
4H045AA20
4H045BA09
4H045BA54
4H045DA75
4H045EA20
4H045EA22
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】CHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる技術を提供すること。
【解決手段】クレアチンキナーゼコード配列、Hrcタンパク質コード配列、及びmiR-146aコード配列からなる群より選択される少なくとも1種を含む外来性ポリヌクレオチドを含み、且つIgG抗体産生能を有する、遺伝子改変CHO細胞。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレアチンキナーゼコード配列、Hrcタンパク質コード配列、及びmiR-146aコード配列からなる群より選択される少なくとも1種を含む外来性ポリヌクレオチドを含み、且つIgG抗体産生能を有する、遺伝子改変CHO細胞。
【請求項2】
前記外来性ポリヌクレオチドを含まないCHO細胞に比べて、クレアチンキナーゼ、Hrcタンパク質、及びmiR-146aからなる群より選択される少なくとも1種の発現量が2倍以上高い、請求項1に記載の遺伝子改変CHO細胞。
【請求項3】
前記外来性ポリヌクレオチドが、染色体DNAに結合している、或いは染色体DNAに組込まれている、請求項1に記載の遺伝子改変CHO細胞。
【請求項4】
Ckmタンパク質コード配列、Hrcタンパク質コード配列、及びmiR-146aコード配列からなる群より選択される少なくとも1種を含む外来性ポリヌクレオチドを含む、請求項1に記載の遺伝子改変CHO細胞。
【請求項5】
Ckmタンパク質コード配列及びHrcタンパク質コード配列を含む外来性ポリヌクレオチド、並びにmiR-146aコード配列を含む外来性ポリヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも1種の外来性ポリヌクレオチドを含む、請求項1に記載の遺伝子改変CHO細胞。
【請求項6】
前記外来性ポリヌクレオチドを含まないCHO細胞に比べて、IgG抗体産生能が高い、請求項1に記載の遺伝子改変CHO細胞。
【請求項7】
前記IgG抗体がIgG1抗体である、請求項1に記載の遺伝子改変CHO細胞。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の遺伝子改変CHO細胞を培養することを含む、IgG抗体を製造する方法。
【請求項9】
クレアチンキナーゼコード配列、Hrcタンパク質コード配列、及びmiR-146aコード配列からなる群より選択される少なくとも1種を含むポリヌクレオチドを含む、IgG抗体産生能が向上したCHO細胞の製造用試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子改変CHO細胞等に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品市場に於いてバイオ医薬品の医薬品売上高に占める割合は一貫して増加しており、特にバイオ医薬市場で抗体医薬品をはじめとするタンパク質医薬品の占める比率は非常に大きい。一方でバイオ医薬品は薬価が高いため、低コスト化のためにも生産量向上が常に求められている。
【0003】
バイオ医薬品の生産宿主としては、CHO細胞が頻用されている。また、抗体医薬の大半はIgG抗体である。このため、CHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる技術は、多くのバイオ医薬品生産において利用することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Biotechnology Advances, Volume 33, Issue 8, 2015, Pages 1878-1896.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、CHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、クレアチンキナーゼコード配列、Hrcタンパク質コード配列、及びmiR-146aコード配列からなる群より選択される少なくとも1種を含む外来性ポリヌクレオチドを含み、且つIgG抗体産生能を有する、遺伝子改変CHO細胞、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0007】
項1. クレアチンキナーゼコード配列、Hrcタンパク質コード配列、及びmiR-146aコード配列からなる群より選択される少なくとも1種を含む外来性ポリヌクレオチドを含み、且つIgG抗体産生能を有する、遺伝子改変CHO細胞。
【0008】
項2. 前記外来性ポリヌクレオチドを含まないCHO細胞に比べて、クレアチンキナーゼ、Hrcタンパク質、及びmiR-146aからなる群より選択される少なくとも1種の発現量が2倍以上高い、項1に記載の遺伝子改変CHO細胞。
【0009】
項3. 前記外来性ポリヌクレオチドが、染色体DNAに結合している、或いは染色体DNAに組込まれている、項1に記載の遺伝子改変CHO細胞。
【0010】
項4. Ckmタンパク質コード配列、Hrcタンパク質コード配列、及びmiR-146aコード配列からなる群より選択される少なくとも1種を含む外来性ポリヌクレオチドを含む、項1に記載の遺伝子改変CHO細胞。
【0011】
項5. Ckmタンパク質コード配列及びHrcタンパク質コード配列を含む外来性ポリヌクレオチド、並びにmiR-146aコード配列を含む外来性ポリヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも1種の外来性ポリヌクレオチドを含む、項1に記載の遺伝子改変CHO細胞。
【0012】
項6. 前記外来性ポリヌクレオチドを含まないCHO細胞に比べて、IgG抗体産生能が高い、項1に記載の遺伝子改変CHO細胞。
【0013】
項7. 前記IgG抗体がIgG1抗体である、項1に記載の遺伝子改変CHO細胞。
【0014】
項8. 項1~6のいずれかに記載の遺伝子改変CHO細胞を培養することを含む、IgG抗体を製造する方法。
【0015】
項9. クレアチンキナーゼコード配列、Hrcタンパク質コード配列、及びmiR-146aコード配列からなる群より選択される少なくとも1種を含むポリヌクレオチドを含む、IgG抗体産生能が向上したCHO細胞の製造用試薬。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、CHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】試験例2-2の抗体産生能評価試験の結果を示す。左側の縦軸は培養液中に含まれるIgG1抗体濃度の相対値を示し、その値はカラムで示される。右側の縦軸は累積生細胞数(integrated viable cell density:IVCD)を示し、その値は菱形のプロットで示される。横軸は、導入した候補因子発現プラスミドがコードする候補因子を示す。Controlは空ベクターを示す。
図2】試験例2-3の抗体産生能評価試験の結果を示す。左側の縦軸は培養液中に含まれるIgG1抗体濃度を示す。横軸は、培養時間を示す。
図3】試験例3-2の抗体産生能評価試験の結果を示す。左側の縦軸は培養液中に含まれるIgG1抗体濃度を示し、その値はカラムで示される。右側の縦軸は累積生細胞数(integrated viable cell density:IVCD)を示し、その値はプロットで示される。横軸は、導入した候補因子発現プラスミドがコードする候補因子を示す。Controlは空ベクターを示す。
図4】試験例4-3の抗体産生能評価試験の結果を示す。左側の縦軸は培養液中に含まれるIgG1抗体濃度の相対値を示し、その値はカラムで示される。右側の縦軸は累積生細胞数(integrated viable cell density:IVCD)を示し、その値はプロットで示される。横軸は、導入した候補因子発現プラスミドがコードする候補因子を示す。Controlは空ベクターを示す。
図5】試験例5-2の抗体産生能評価試験aの結果を示す。左側の縦軸は培養液中に含まれるIgG1抗体濃度の相対値を示す。横軸中、番号は、細胞が安定発現するクレアチンキナーゼ(表1)を示し、controlは空ベクターを導入して得られたコントロール細胞を用いたことを示す。
図6】試験例5-3の抗体産生能評価試験bの結果を示す。左側の縦軸は培養液中に含まれるIgG1抗体濃度の相対値を示す。横軸中、番号は、細胞が安定発現するクレアチンキナーゼ(表1)を示し、controlは空ベクターを導入して得られたコントロール細胞を用いたことを示す。
図7】試験例5-4の抗体産生能評価試験cの結果を示す。左側の縦軸は培養液中に含まれるIgG1抗体濃度の相対値を示す。横軸中、番号は、細胞が安定発現するクレアチンキナーゼ(表1)を示し、controlは空ベクターを導入して得られたコントロール細胞を用いたことを示す。
図8】試験例6-2の抗体産生能評価試験xの結果を示す。左側の縦軸は培養液中に含まれるIgG1抗体濃度の相対値を示す。横軸中、アルファベットは、細胞が安定発現するHrcタンパク質(表2)を示し、controlは空ベクターを導入して得られたコントロール細胞を用いたことを示す。
図9】試験例6-3の抗体産生能評価試験yの結果を示す。左側の縦軸は培養液中に含まれるIgG1抗体濃度の相対値を示す。横軸中、アルファベットは、細胞が安定発現するHrcタンパク質(表2)を示し、controlは空ベクターを導入して得られたコントロール細胞を用いたことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.定義
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0019】
アミノ酸配列の「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(KarlinS, Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes”Proc Natl Acad Sci USA.87:2264-2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェエブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。また、塩基配列の『同一性』も上記に準じて定義される。
【0020】
本明細書中において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0021】
本明細書において、「核酸」及び「ポリヌクレオチド」は、特に制限されず、天然、人工のいずれのものも包含する。具体的には、DNA、RNA等の他にも、次に例示するように、公知の化学修飾が施されたものであってもよい。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2´-O-Me)、CH2CH2OCH3(2´-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたものなどを挙げることができるが、これに限定されない。また、ヌクレオチドの糖部の2´酸素と4´炭素を架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定したものであるBNA(LNA)等もまた、用いられ得る。
【0022】
2.遺伝子改変CHO細胞
本発明は、その一態様において、クレアチンキナーゼコード配列、Hrcタンパク質コード配列、及びmiR-146aコード配列からなる群より選択される少なくとも1種を含む外来性ポリヌクレオチド(本明細書において、「本発明の外来性ポリヌクレオチド」と示すこともある。)を含み、且つIgG抗体産生能を有する、遺伝子改変CHO細胞(本明細書において、「本発明の遺伝子改変CHO細胞」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0023】
クレアチンキナーゼとしては、好ましくはCkmタンパク質、Ckbタンパク質、mtCKタンパク質が挙げられる。これらの中でも、特に好ましくはCkmタンパク質、Ckbタンパク質である。
【0024】
Ckm(creatine kinase, muscle/ creatine kinase, M-type)タンパク質は、ATPと様々なリン酸原物(例えばクレアチンリン酸)の間のリン酸の転移を可逆的に触媒する酵素である。Ckmタンパク質の由来生物種としては、特に制限されず、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカなどの種々の哺乳類動物; ニワトリ、セキショクヤケイ等の鳥類動物が挙げられる。由来生物種は、好ましくはげっ歯目動物である。げっ歯目動物としては、好ましくはネズミ上科動物が挙げられ、より好ましくはネズミ科動物、キヌゲネズミ科動物等が挙げられ、さらに好ましくはマウス、チャイニーズハムスター等が挙げられる。マウスCkm遺伝子は、NCBI Reference Sequence: NM_007710.2で示されるmRNAを発現する遺伝子である。
【0025】
種々の生物種由来Ckmタンパク質のアミノ酸配列及びそのコード配列は公知である。具体的には、例えば、マウスCkmタンパク質としては配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられ、そのコード配列としては配列番号2に示される塩基配列が挙げられる。また、別の例として、セキショクヤケイCkmタンパク質としては配列番号9に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられ、そのコード配列としては配列番号10に示される塩基配列が挙げられる。また、Ckmタンパク質及びそのコード配列としては、スプライシングバリアントも包含され得る。
【0026】
Ckmタンパク質は、CHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有する限りにおいて、置換、欠失、付加、挿入などのアミノ酸変異を有していてもよい。変異としては、活性がより損なわれ難いという観点から、好ましくは置換、より好ましくは保存的置換が挙げられる。また、Ckmタンパク質は、CHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有する限りにおいて、他のアミノ酸配列が付加されたものであってもよい。他の配列としては、例えば各種シグナル配列(例えば核移行シグナル、核外移行シグナル等)、タンパク質タグ(例えばビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ等)、標識タンパク質配列(例えば蛍光タンパク質、発光酵素タンパク質等)、タンパク質安定化配列等が挙げられる。
【0027】
Ckmタンパク質の好ましい具体例としては、下記(A)に記載するタンパク質及び下記(B)に記載するタンパク質:
(A)配列番号1又は9に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、及び
(B)配列番号1又は9に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有するタンパク質
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0028】
上記(B)において、同一性は、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上である。
【0029】
上記(B)に記載するタンパク質の一例としては、例えば
(B’)配列番号1又は9に示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列を含み、且つCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有するタンパク質
が挙げられる。
【0030】
上記(B’)において、複数個とは、例えば2~20個であり、好ましくは2~10個であり、より好ましくは2~5個であり、よりさらに好ましくは2又は3個である。
【0031】
Ckmタンパク質コード配列は、Ckmタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、この限りにおいて特に制限されない。
【0032】
Ckmタンパク質コード配列の好ましい具体例としては、下記(a)に記載する塩基配列及び下記(b)に記載する塩基配列:
(a)配列番号2又は10に示される塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(b)配列番号2又は10に示される塩基配列と85%以上の同一性を有する塩基配列を含み、且つCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0033】
上記(b)において、同一性は、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上である。
【0034】
上記(b)に記載するコード配列の一例としては、例えば
(b’)配列番号2又は10に示される塩基配列に対して1若しくは複数個の塩基が置換、欠失、付加、又は挿入された塩基配列を含み、且つCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド
が挙げられる。
【0035】
上記(b’)において、複数個とは、例えば2~60個であり、好ましくは2~30個であり、より好ましくは2~15個であり、よりさらに好ましくは2~10個である。
【0036】
Ckb(creatine kinase B-type)タンパク質は、ATPと様々なリン酸原物(例えばクレアチンリン酸)の間のリン酸の転移を可逆的に触媒する酵素である。Ckbタンパク質の由来生物種としては、特に制限されず、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカなどの種々の哺乳類動物; ニワトリ、セキショクヤケイ等の鳥類動物が挙げられる。由来生物種は、好ましくはげっ歯目動物である。げっ歯目動物としては、好ましくはネズミ上科動物が挙げられ、より好ましくはネズミ科動物、キヌゲネズミ科動物等が挙げられ、さらに好ましくはマウス、チャイニーズハムスター等が挙げられる。マウスCkb遺伝子は、NCBI Reference Sequence: NM_021273.4で示されるmRNAを発現する遺伝子である。
【0037】
種々の生物種由来Ckbタンパク質のアミノ酸配列及びそのコード配列は公知である。具体的には、例えば、マウスCkbタンパク質としては配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられ、そのコード配列としては配列番号4に示される塩基配列が挙げられる。また、別の例として、ニワトリCkbタンパク質としては配列番号11に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられ、そのコード配列としては配列番号12に示される塩基配列が挙げられる。また、Ckbタンパク質及びそのコード配列としては、スプライシングバリアントも包含され得る。
【0038】
Ckbタンパク質は、CHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有する限りにおいて、置換、欠失、付加、挿入などのアミノ酸変異を有していてもよい。変異としては、活性がより損なわれ難いという観点から、好ましくは置換、より好ましくは保存的置換が挙げられる。また、Ckbタンパク質は、CHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有する限りにおいて、他のアミノ酸配列が付加されたものであってもよい。他の配列としては、例えば各種シグナル配列(例えば核移行シグナル、核外移行シグナル等)、タンパク質タグ(例えばビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ等)、標識タンパク質配列(例えば蛍光タンパク質、発光酵素タンパク質等)、タンパク質安定化配列等が挙げられる。
【0039】
Ckbタンパク質の好ましい具体例としては、下記(C)に記載するタンパク質及び下記(D)に記載するタンパク質:
(C)配列番号3又は11に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、及び
(D)配列番号3又は11に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有するタンパク質
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0040】
上記(D)において、同一性は、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上である。
【0041】
上記(D)に記載するタンパク質の一例としては、例えば
(D’)配列番号3又は11に示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列を含み、且つCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有するタンパク質
が挙げられる。
【0042】
上記(D’)において、複数個とは、例えば2~20個であり、好ましくは2~10個であり、より好ましくは2~5個であり、よりさらに好ましくは2又は3個である。
【0043】
Ckbタンパク質コード配列は、Ckbタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、この限りにおいて特に制限されない。
【0044】
Ckbタンパク質コード配列の好ましい具体例としては、下記(c)に記載する塩基配列及び下記(d)に記載する塩基配列:
(c)配列番号4又は12に示される塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(d)配列番号4又は12に示される塩基配列と85%以上の同一性を有する塩基配列を含み、且つCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0045】
上記(d)において、同一性は、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上である。
【0046】
上記(d)に記載するコード配列の一例としては、例えば
(d’)配列番号4又は12に示される塩基配列に対して1若しくは複数個の塩基が置換、欠失、付加、又は挿入された塩基配列を含み、且つCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド
が挙げられる。
【0047】
上記(d’)において、複数個とは、例えば2~60個であり、好ましくは2~30個であり、より好ましくは2~15個であり、よりさらに好ましくは2~10個である。
【0048】
mtCK(Creatine Kinase, Mitochondrial/ Creatine Kinase, S-type)タンパク質は、ATPと様々なリン酸原物(例えばクレアチンリン酸)の間のリン酸の転移を可逆的に触媒する酵素である。Ckmタンパク質の由来生物種としては、特に制限されず、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカなどの種々の哺乳類動物; ニワトリ、セキショクヤケイ等の鳥類動物が挙げられる。由来生物種は、好ましくはげっ歯目動物である。げっ歯目動物としては、好ましくはネズミ上科動物が挙げられ、より好ましくはネズミ科動物、キヌゲネズミ科動物等が挙げられ、さらに好ましくはマウス、チャイニーズハムスター等が挙げられる。
【0049】
種々の生物種由来mtCKタンパク質のアミノ酸配列及びそのコード配列は公知である。具体的には、例えば、ニワトリmtCKタンパク質としては配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられ、そのコード配列としては配列番号14に示される塩基配列が挙げられる。また、mtCKタンパク質及びそのコード配列としては、スプライシングバリアントも包含され得る。
【0050】
MtCKタンパク質は、CHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有する限りにおいて、置換、欠失、付加、挿入などのアミノ酸変異を有していてもよい。変異としては、活性がより損なわれ難いという観点から、好ましくは置換、より好ましくは保存的置換が挙げられる。また、MtCKタンパク質は、CHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有する限りにおいて、他のアミノ酸配列が付加されたものであってもよい。他の配列としては、例えば各種シグナル配列(例えば核移行シグナル、核外移行シグナル等)、タンパク質タグ(例えばビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ等)、標識タンパク質配列(例えば蛍光タンパク質、発光酵素タンパク質等)、タンパク質安定化配列等が挙げられる。
【0051】
MtCKタンパク質の好ましい具体例としては、下記(X)に記載するタンパク質及び下記(Y)に記載するタンパク質:
(X)配列番号13に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、及び
(Y)配列番号13に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有するタンパク質
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0052】
上記(Y)において、同一性は、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上である。
【0053】
上記(Y)に記載するタンパク質の一例としては、例えば
(Y’)配列番号13に示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列を含み、且つCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有するタンパク質
が挙げられる。
【0054】
上記(Y’)において、複数個とは、例えば2~20個であり、好ましくは2~10個であり、より好ましくは2~5個であり、よりさらに好ましくは2又は3個である。
【0055】
MtCKタンパク質コード配列は、MtCKタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、この限りにおいて特に制限されない。
【0056】
MtCKタンパク質コード配列の好ましい具体例としては、下記(x)に記載する塩基配列及び下記(y)に記載する塩基配列:
(x)配列番号14に示される塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(y)配列番号14に示される塩基配列と85%以上の同一性を有する塩基配列を含み、且つCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0057】
上記(y)において、同一性は、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上である。
【0058】
上記(y)に記載するコード配列の一例としては、例えば
(y’)配列番号14に示される塩基配列に対して1若しくは複数個の塩基が置換、欠失、付加、又は挿入された塩基配列を含み、且つCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド
が挙げられる。
【0059】
上記(y’)において、複数個とは、例えば2~60個であり、好ましくは2~30個であり、より好ましくは2~15個であり、よりさらに好ましくは2~10個である。
【0060】
Hrc(histidine rich calcium binding protein)タンパク質は、カルシウム結合性を有するタンパク質である。Hrcタンパク質の由来生物種としては、特に制限されず、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカなどの種々の哺乳類動物; ニワトリ、セキショクヤケイ等の鳥類動物が挙げられる。由来生物種は、好ましくはげっ歯目動物である。げっ歯目動物としては、好ましくはネズミ上科動物が挙げられ、より好ましくはネズミ科動物、キヌゲネズミ科動物等が挙げられ、さらに好ましくはマウス、チャイニーズハムスター等が挙げられる。チャイニーズハムスターHrc遺伝子は、NCBI Reference Sequence: XM_003508642.2で示されるmRNAを発現し得る遺伝子である。
【0061】
種々の生物種由来Hrcタンパク質のアミノ酸配列及びそのコード配列は公知である。具体的には、例えば、マウスHrcタンパク質としては配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられ、そのコード配列としては配列番号6に示される塩基配列が挙げられる。また、別の例として、ヒトHrcタンパク質としては配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられ、そのコード配列としては配列番号16に示される塩基配列が挙げられる。また、別の例として、ラットHrcタンパク質としては配列番号17に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられ、そのコード配列としては配列番号18に示される塩基配列が挙げられる。また、別の例として、オキナワハツカネズミHrcタンパク質としては配列番号19に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられ、そのコード配列としては配列番号20に示される塩基配列が挙げられる。また、Hrcタンパク質及びそのコード配列としては、スプライシングバリアントも包含され得る。
【0062】
Hrcタンパク質は、CHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有する限りにおいて、置換、欠失、付加、挿入などのアミノ酸変異を有していてもよい。変異としては、活性がより損なわれ難いという観点から、好ましくは置換、より好ましくは保存的置換が挙げられる。また、Hrcタンパク質は、CHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有する限りにおいて、他のアミノ酸配列が付加されたものであってもよい。他の配列としては、例えば各種シグナル配列(例えば核移行シグナル、核外移行シグナル等)、タンパク質タグ(例えばビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ等)、標識タンパク質配列(例えば蛍光タンパク質、発光酵素タンパク質等)、タンパク質安定化配列等が挙げられる。
【0063】
Hrcタンパク質の好ましい具体例としては、下記(E)に記載するタンパク質及び下記(F)に記載するタンパク質:
(E)配列番号5、15、17、又は19に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、及び
(F)配列番号5、15、17、又は19に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有するタンパク質
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0064】
上記(F)において、同一性は、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上である。
【0065】
上記(F)に記載するタンパク質の一例としては、例えば
(F’)配列番号5、15、17、又は19に示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列を含み、且つCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有するタンパク質
が挙げられる。
【0066】
上記(F’)において、複数個とは、例えば2~50個であり、好ましくは2~30個であり、より好ましくは2~15個であり、さらに好ましくは2~7個であり、よりさらに好ましくは2又は3個である。
【0067】
Hrcタンパク質コード配列は、Hrcタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、この限りにおいて特に制限されない。
【0068】
Hrcタンパク質コード配列の好ましい具体例としては、下記(e)に記載する塩基配列及び下記(f)に記載する塩基配列:
(e)配列番号6、16、18、又は20に示される塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(f)配列番号6、16、18、又は20に示される塩基配列と85%以上の同一性を有する塩基配列を含み、且つCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0069】
上記(f)において、同一性は、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上である。
【0070】
上記(f)に記載するコード配列の一例としては、例えば
(f’)配列番号6、16、18、又は20に示される塩基配列に対して1若しくは複数個の塩基が置換、欠失、付加、又は挿入された塩基配列を含み、且つCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド
が挙げられる。
【0071】
上記(f’)において、複数個とは、例えば2~150個であり、好ましくは2~100個であり、より好ましくは2~50個であり、さらに好ましくは2~20個であり、よりさらに好ましくは2~10個である。
【0072】
miR-146aは、miRNAの一種である。miR-146aの由来生物種としては、特に制限されず、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカなどの種々の哺乳類動物; ニワトリ、セキショクヤケイ等の鳥類動物が挙げられる。由来生物種は、好ましくはげっ歯目動物である。げっ歯目動物としては、好ましくはネズミ上科動物が挙げられ、より好ましくはネズミ科動物、キヌゲネズミ科動物等が挙げられ、さらに好ましくはマウス、チャイニーズハムスター等が挙げられる。チャイニーズハムスターmiR-146aは、miRBase Accession MIMAT0023774で示される成熟配列(配列番号7)を有し、そのステムループ配列はmiRBase Accession MI0020407で示される配列(配列番号8)である。その他の種々の生物種由来miR-146aの成熟配列及びステムループ配列は公知である。
【0073】
miR-146aは、CHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有する限りにおいて、置換、欠失、付加、挿入などの塩基変異を有していてもよい。
【0074】
miR-146aの好ましい具体例としては、下記(G)に記載するmiRNA及び下記(H)に記載するmiRNA:
(G)配列番号7に示される塩基配列からなるmiRNA、及び
(H)配列番号7に示される塩基配列と85%以上の同一性を有する塩基配列からなり、且つCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有するmiRNA
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0075】
上記(H)において、同一性は、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上である。
【0076】
上記(H)に記載するmiRNAの一例としては、例えば
(H’)配列番号7に示される塩基配列に対して1若しくは複数個の塩基が置換、欠失、付加、又は挿入された塩基配列からなり、且つCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有するmiRNA
が挙げられる。
【0077】
上記(H’)において、複数個とは、例えば2又は3個であり、好ましくは2個である。
【0078】
miR-146aコード配列は、miR-146aをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドであり、この限りにおいて特に制限されない。
【0079】
miR-146aコード配列の好ましい具体例としては、下記(g)に記載するポリヌクレオチド及び下記(h)に記載するポリヌクレオチド:
(g)配列番号7又は8に示される塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(h)配列番号7又は8に示される塩基配列と85%以上の同一性を有する塩基配列を含み、且つCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有するmiRNAをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0080】
上記(h)において、同一性は、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上である。
【0081】
上記(h)に記載するポリヌクレオチドの一例としては、例えば
(h’)配列番号7又は8に示される塩基配列に対して1若しくは複数個の塩基が置換、欠失、付加、又は挿入された塩基配列を含み、且つCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させる活性を有するmiRNAをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド
が挙げられる。
【0082】
上記(h’)において、複数個とは、例えば2~7個、好ましくは2~5個、より好ましくは2又は3個、さらに好ましくは2個である。
【0083】
本発明の外来性ポリヌクレオチドは、本発明の遺伝子改変CHO細胞に含まれるポリヌクレオチド分子、或いは染色体DNA内に組込まれた領域である。本発明の外来性ポリヌクレオチドは、CHO細胞が元々有している内在性DNA(内在性染色体DNA等)とは異なる分子、或いは内在性DNAに組込まれており、且つ内在性DNAには元々存在しなかった領域である限り、特に制限されない。本発明の外来性ポリヌクレオチドは、ベクター(例えばエピソーマルベクター)、ベクターを切断してなる直鎖状ポリヌクレオチド、当該直鎖状ポリヌクレオチドの一部又は全部が染色体DNA内に組込まれてなる領域等であることができる。
【0084】
本発明の外来性ポリヌクレオチドは、染色体DNAに結合している、或いは染色体DNAに組込まれていることが好ましい。前者の場合、EBNA1/oriPシステムにより染色体DNAに結合することにより維持及び複製が安定化されていることが好ましい。
【0085】
本発明の外来性ポリヌクレオチドは、好ましくはCkmタンパク質コード配列、Hrcタンパク質コード配列、及びmiR-146aコード配列からなる群より選択される少なくとも1種を含む外来性ポリヌクレオチドを含むことができる。また、本発明の遺伝子改変CHO細胞は、好ましくはCkmタンパク質コード配列及びHrcタンパク質コード配列を含む外来性ポリヌクレオチド、並びにmiR-146aコード配列を含む外来性ポリヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも1種の外来性ポリヌクレオチドを含むことができる。
【0086】
本発明の外来性ポリヌクレオチドは、連続した塩基配列からなる(例えば、染色体DNA上の連続した塩基配列からなる領域)又は1種のポリヌクレオチド分子であることができるし、非連続の塩基配列からなる(例えば、染色体DNA上の非連続の2種以上の塩基配列からなる2種以上の領域)又は2種以上のポリヌクレオチド分子であることができる。上記コード配列の複数種を含む場合、複数種の上記コード配列(例えば、Ckmタンパク質コード配列、及びHrcタンパク質コード配列)は、染色体DNA上の連続した塩基配列からなる領域内に含まれている又は1種のポリヌクレオチド分子内に含まれていてもよいし、或いは染色体DNA上の非連続の2種以上の塩基配列からなる2種以上の領域内に別々に(例えば領域AにはCkmタンパク質コード配列が、領域BにはHrcタンパク質コード配列が)含まれている又は2種以上のポリヌクレオチド分子内に別々に(例えばポリヌクレオチド分子AにはCkmタンパク質コード配列が、ポリヌクレオチド分子BにはHrcタンパク質コード配列が)含まれていてもよい。
【0087】
本発明の遺伝子改変CHO細胞において、上記コード配列は、コードされるタンパク質/miRNAの発現か可能となるように配置されている限り、特に制限されない。例えば、本発明の外来性ポリヌクレオチドが、上記コード配列の発現が可能となるようにプロモーターを含む態様、本発明の外来性ポリヌクレオチドがプロモーターを含まず、且つ上記コード配列にコードされるタンパク質/miRNAが内在性染色体が有するプロモーターにより発現可能なように、本発明の外来性ポリヌクレオチドが染色体DNAに組込まれている態様、が挙げられる。
【0088】
上記コード配列にコードされるタンパク質/miRNAを、効率的に発現させる観点、安定に発現させる観点、容易に発現させる観点等から、本発明の外来性ポリヌクレオチドは、好ましくは、Ckmタンパク質発現カセット、Ckbタンパク質発現カセット、Hrcタンパク質発現カセット、及びmiR-146a発現カセットからなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0089】
発現カセットは、プロモーターと、当該プロモーターの制御下にある上記コード配列を含む。プロモーターの制御下となるように、通常、プロモーターの下流にコード配列を配置する。利用可能なプロモーターとしては、例えばCMVプロモーター、EF1プロモーター、SV40プロモーター、MSCVプロモーター、hTERTプロモーター、βアクチンプロモーター、CAGプロモーターなどのRNA polymerase II(poII)系プロモーター; マウス及びヒトのU6-snRNAプロモーター、ヒトH1-RNase P RNAプロモーター、ヒトバリン-tRNAプロモーターなどのRNA polymerase III(polIII)系プロモーターなどが挙げられる。プロモーターはコード配列に作動可能に連結される。ここで、「プロモーターがコード配列に作動可能に連結している」とは、「プロモーターの制御下にコード配列が配置されている」ことと同義であり、通常、プロモーターの3'末端側に直接又は他の配列を介してコード配列が連結されることになる。コード配列の下流にはポリA付加シグナル配列を配置する。ポリA付加シグナル配列の使用によって転写を終了させる。ポリA付加シグナル配列としてはSV40のポリA付加配列、ウシ由来成長ホルモン遺伝子のポリA付加配列等を用いることができる。
【0090】
本発明の外来性ポリヌクレオチドは、上記コード配列以外に(プロモーターを含む場合は上記コード配列とプロモーター以外に)、他の配列を含んでいてもよい。他の配列としては、エンハンサー配列、リプレッサー配列、インスレーター配列、複製基点、レポータータンパク質(例えば、蛍光タンパク質等)コード配列、薬剤耐性遺伝子コード配列などが挙げられる。
【0091】
薬剤耐性遺伝子としては、例えばクロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0092】
レポータータンパク質としては、特定の基質と反応して発光(発色)する発光(発色)タンパク質、或いは励起光によって蛍光を発する蛍光タンパク質である限り特に限定されない。発光(発色)タンパク質としては、例えばルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、βグルクロニダーゼ等が挙げられ、蛍光タンパク質としては、例えばGFP、Azami-Green、ZsGreen、GFP2、HyPer、Sirius、BFP、CFP、Turquoise、Cyan、TFP1、YFP、Venus、ZsYellow、Banana、KusabiraOrange、RFP、DsRed、AsRed、Strawberry、Jred、KillerRed、Cherry、HcRed、mPlum等が挙げられる。
【0093】
本発明の遺伝子改変CHO細胞は、本発明の外来性ポリヌクレオチドを含まないCHO細胞(すなわち本発明の外来性ポリヌクレオチドを含まない以外は本発明の遺伝子改変CHO細胞と同条件のCHO細胞)に比べて、クレアチンキナーゼ、Hrcタンパク質、及びmiR-146aからなる群より選択される少なくとも1種の発現量が高い。具体的には、上記発現量が、例えば1.2倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、又は1000倍以上、高い。当該発現量は、後述の試験例2-3に従って又は準じてウェスタンブロッティング法により、或いはPCR法により、測定することができる。
【0094】
本発明の遺伝子改変CHO細胞は、IgG抗体産生能を有する。
【0095】
IgG抗体が結合性(好ましくは特異的結合性)を有する抗原としては特に制限されず、各種タンパク質、ペプチド、糖鎖等が挙げられる。
【0096】
IgG抗体としては、例えばIgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、IgG4抗体等が挙げられ、好ましくはIgG1抗体、IgG2抗体が挙げられる。また、IgG抗体は、1種の生物種のアミノ酸配列からなる抗体であってもよいし、複数の生物種由来の配列からなるキメラ抗体であってもよい。
【0097】
IgG抗体産生能を有するCHO細胞は、好ましくはIgG抗体コード配列(或いはIgG抗体発現カセット)を含む外来性ポリヌクレオチド(IgG抗体コードポリヌクレオチド)を含む。IgG抗体コードポリヌクレオチドについては、上記説明が援用される。IgG抗体コードポリヌクレオチドは、L鎖遺伝子及びH鎖遺伝子の両方を同一分子内に含むポリヌクレオチドであることもできるし、L鎖遺伝子を含むポリヌクレオチドとH鎖遺伝子を含む別分子のポリヌクレオチドの組合せであることもできる。IgG抗体コードポリヌクレオチドは、次のようにして得ることができる。抗体を発現する遺伝子を持つハイブリドーマ,細胞,ファージ,リボソームなどからmRNAを抽出する。このmRNAより逆転写酵素を用いる逆転写反応によりcDNAを作製する。L鎖遺伝子又はH鎖遺伝子と相補塩基配列を持つプライマーとcDNAを用いるPCRによりL鎖遺伝子又はH鎖遺伝子を増幅し,クローニング用プラスミドと結合することにより各遺伝子を取得する。
【0098】
本発明の遺伝子改変CHO細胞は、例えば、CHO(Chinese Hamster Ovary)細胞に、本発明の外来性ポリヌクレオチド、及びIgG抗体コードポリヌクレオチドを導入することにより、得ることができる。導入は、同時でもよいし、別々に逐次でもよい。
【0099】
導入方法としては、特に制限されないが、例えばリン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法等が挙げられる。また、導入後、必要に応じて、薬剤選抜を行うことにより、本発明の外来性ポリヌクレオチド、及び/又はIgG抗体コードポリヌクレオチドが染色体DNAに組込まれた細胞を効率的に選択することができる。
【0100】
本発明の遺伝子改変CHO細胞は、本発明の外来性ポリヌクレオチドを含まないCHO細胞(すなわち本発明の外来性ポリヌクレオチドを含まない以外は本発明の遺伝子改変CHO細胞と同条件のCHO細胞)に比べて、IgG抗体産生能が高い。具体的には、後述の試験例2-2等に従って測定される、培養液中に含まれるIgG抗体濃度が、例えば1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2倍、2.2倍、2.4倍、2.5倍、3倍、3.5倍、又は4倍以上、高い。
【0101】
3.製造方法
本発明は、その一態様において、本発明の遺伝子改変CHO細胞を培養することを含む、IgG抗体を製造する方法、に関する。
【0102】
培養に用いる培地としては、CHO細胞培養で使用される通常の培地を用いることができる。これらには通常、アミノ酸、ビタミン類、脂質因子、エネルギー源、浸透圧調節剤、鉄源、pH緩衝剤を含む。これらの成分の含量は、通常、アミノ酸は0.05-1500mg/L、ビタミン類は0.001-10mg/L、脂質因子は0-200mg/L、エネルギー源は1-20g/L、浸透圧調節剤は0.1-10000mg/L、鉄源は0.1-500mg/L、pH緩衝剤は1-10000mg/L、微量金属元素は0.00001-200mg/L、界面活性剤は0-5000mg/L、増殖補助因子は0.05-10000μg/Lおよびヌクレオシドは0.001-50mg/Lの範囲が適当であるが、これらに限定されず、所望の組換抗体の種類などにより適宜決定できる。
【0103】
上記成分のほか、例えば、微量金属元素、界面活性剤、増殖補助因子、ヌクレオシドなどを添加しても良い。
【0104】
具体的には、例えば、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-シスチン、L-グルタミン、L-グルタミン酸、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-オルニチン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン等、好ましくはL-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-シスチン、L-グルタミン、L-グルタミン酸、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン等のアミノ酸類;i-イノシトール、ビオチン、葉酸、リポ酸、ニコチンアミド、ニコチン酸、p-アミノ安息香酸、パントテン酸カルシウム、塩酸ピリドキサール、塩酸ピリドキシン、リボフラビン、塩酸チアミン、ビタミンB12、アスコルビン酸等、好ましくはビオチン、葉酸、リポ酸、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、塩酸ピリドキサール、リボフラビン、塩酸チアミン、ビタミンB12、アスコルビン酸等のビタミン類;塩化コリン、酒石酸コリン、リノール酸、オレイン酸、コレステロール等、好ましくは塩化コリン等の脂質因子;グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース等、好ましくはグルコース等のエネルギー源;塩化ナトリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム等、好ましくは塩化ナトリウム等の浸透圧調節剤;EDTA鉄、クエン酸鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄等、好ましくは塩化第二鉄、EDTA鉄、クエン酸鉄等の鉄源類;炭酸水素ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、HEPES、MOPS等、好ましくは炭酸水素ナトリウム等のpH緩衝剤を含む培地を例示できる。
【0105】
上記成分のほか、例えば、硫酸銅、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム、塩化ニッケル、塩化スズ、塩化マグネシウム、亜ケイ酸ナトリウム等、好ましくは硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム等の微量金属元素;Tween80、プルロニックF68等の界面活性剤;および組換え型インスリン、組換え型IGF-1、組換え型EGF、組換え型FGF、組換え型PDGF、組換え型TGF-α、塩酸エタノールアミン、亜セレン酸ナトリウム、レチノイン酸、塩酸プトレッシン等、好ましくは亜セレン酸ナトリウム、塩酸エタノールアミン、組換え型IGF-1、塩酸プトレッシン等の増殖補助因子;デオキシアデノシン、デオキシシチジン、デオキシグアノシン、アデノシン、シチジン、グアノシン、ウリジン等のヌクレオシドなどを添加してもよい。なお上記培地の好適例においては、ストレプトマイシン、ペニシリンGカリウム及びゲンタマイシン等の抗生物質や、フェノールレッド等のpH指示薬を含んでいても良い。
【0106】
培地のpHは培養する細胞により異なるが、一般的にはpH6.8~7.6、多くの場合pH7.0~7.4が適当である。
【0107】
培地は、市販の動物細胞培養用培地、例えば、D-MEM (Dulbecco's Modified Eagle Medium)、 D-MEM/F-12 1:1 Mixture (Dulbecco's Modified Eagle Medium : Nutrient Mixture F-12)、 RPMI1640、CHO-S-SFM II(Invitrogen社)、 CHO-SF (Sigma-Aldrich社)、 EX-CELL 301 (JRH biosciences社)、CD-CHO (Invitrogen社)、 IS CHO-V (Irvine Scientific社)、 PF-ACF-CHO (Sigma-Aldrich社)などの培地を用いることも可能である。又、培地は無血清培地であってもよい。
【0108】
本発明の遺伝子改変CHO細胞は、例えば、通常、気相のCO2濃度が0-40%、好ましくは、2-10%の雰囲気下、30-39℃、好ましくは37℃程度で、培養することが可能である。
【0109】
所望の組換抗体又はその断片を産生するために適当な細胞の培養期間は、通常1日~3カ月であり、好ましくは1日~2ヶ月、さらに好ましくは1日~1ヶ月である。
【0110】
また、動物細胞培養用の各種の培養装置としては、例えば発酵槽型タンク培養装置、エアーリフト型培養装置、カルチャーフラスコ型培養装置、スピンナーフラスコ型培養装置、マイクロキャリアー型培養装置、流動層型培養装置、ホロファイバー型培養装置、ローラーボトル型培養装置、充填槽型培養装置等を用いて培養することができる。
【0111】
培養は、バッチ培養(batch culture)、流加培養(fed-batch culture)、連続培養(continuous culture)などのいずれの方法を用いてもよいが、流加培養又は連続培養が好ましく、流加培養がより好ましい。
【0112】
得られたIgG抗体は、精製することができる。精製方法としては、特に制限されず、例えばアフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせた方法が挙げられる。
【0113】
アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えば、プロテインAカラムを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose F. F. (Pharmacia) 等が挙げられる。
【0114】
アフィニティークロマトグラフィー以外のクロマトグラフィーとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization : A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーはHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
【0115】
4.試薬
本発明は、その一態様において、クレアチンキナーゼコード配列、Hrcタンパク質コード配列、及びmiR-146aコード配列からなる群より選択される少なくとも1種を含むポリヌクレオチドを含む、IgG抗体産生能が向上したCHO細胞の製造用試薬、に関する。
【0116】
上記試薬は、上記ポリヌクレオチドのみからなるものでもよいが、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。上記試薬の形態は特に制限されず、例えば乾燥形態、溶液形態等であることができ、さらにキット形態であってもよい。キットは、必要に応じて核酸導入試薬、緩衝液等、試薬、器具等を適宜含んでいてもよい。
【0117】
上記以外について、上記試薬の使用方法(IgG抗体産生能が向上したCHO細胞(本発明の遺伝子改変CHO細胞)の製造方法)については、上記「1.遺伝子改変CHO細胞」の記載が援用される。
【実施例0118】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0119】
試験例1.高機能化因子迅速同定システムの開発
試験例1-1.EBNA1 を安定発現するIgG1 抗体生産CHO 細胞の構築
IgG1抗体産生CHO細胞(CHO-K1株由来、Journal of Bioscience and Bioengineering, Volume 127, Issue 6, 2019, Pages 752-757)に対して、Epstein-Barr virus (EBV) encoded nuclear antigen 1 (EBNA1)発現遺伝子を導入し、IgG1/EBNA1安定発現細胞を構築した。具体的には以下のようにして行った。
【0120】
EBNA1をコードするpEBMulti-Neo(富士フィルム和光純薬)を制限酵素Hinc IIで処理し直鎖化した7.8kb断片を、遺伝子導入試薬PEI max(Polyscience)を用いてIgG1抗体産生CHO細胞に遺伝子導入し、125-mL Erlenmeyer flask(Corning)で培養した。抗生物質G418(ナカライテスク)を終濃度500μg/mLで添加し、細胞増殖が安定するまで繰り返し継代培養を実施した。得られたプール細胞の中から、ClonePix2システム(Molecular Device)を用いて、シングルコロニーを単離し96-well multi plateに播種した。Clone Select Imager(Molecular Device)を用いて、良好な細胞増殖性を示すクローン細胞を選別・拡大培養し、複数のクローン細胞を樹立した。各クローン細胞の細胞内EBNA1発現を確認するため、キャピラリー電気泳動を実施した。装置はWes(ProteinSimple)を用いた。細胞内ライセート液はM-PER(Thermo Fisher Scientific)で調製し、検出の1次抗体には抗EBV EBNA-1抗体(1EB12, Santa Cruz Biotechnology)を用いた。EBNA1を安定発現するIgG1抗体産生CHO細胞を4株樹立し(EB01~04)、以降の実験ではEB-03を用いた。
【0121】
試験例1-2.細胞内のプラスミド複製・維持を可能にするoriP 配列の導入
市販の遺伝子発現プラスミドに対して、エピソームDNA の複製・維持に関わるoriP配列を挿入し、迅速同定システムで作用する評価用プラスミド(oriP配列挿入プラスミド)を作製した。具体的には以下のようにして行った。
【0122】
pCAG-Hyg TARGET tag-C(富士フィルム和光純薬)を制限酵素SspIで処理した。次にpEBMulti-Neo(富士フィルム和光純薬)をテンプレートとしてoriP配列領域をPCRで増幅し、増幅断片をIn-Fusion cloningキット(タカラバイオ)を用いてSspI処理したpCAG-Hyg TARGET tag-Cに挿入して、oriP配列挿入プラスミドを得た。
【0123】
試験例2.高機能化因子の探索及び評価1
試験例2-1.候補因子発現プラスミドの調製
oriP配列挿入プラスミド(試験例1-2)を制限酵素Kpn I/BamH Iで処理し、マルチクローニングサイトに人工遺伝子合成した候補因子コード配列を挿入した。候補因子コード配列の遺伝子合成はユーロフィンジェノミクス株式会社に依頼した。調製後のプラスミドDNAをXL10-Goldコンピテントセル(Agilent)に形質転換し、NucleoBond(登録商標) Xtra Midi EFキット(タカラバイオ)を用いて、候補因子発現プラスミドを調製した。
【0124】
本試験例で採用した候補因子は、Gene-01~Gene-07の計7つである。これらの内、Gene-04は、Mus musculus creatine kinase, brain (Ckb)(mRNA, NCBI Reference Sequence: NM_021273.4、アミノ酸配列:配列番号3、コード配列:配列番号4)であり、Gene-05は、Mus musculus creatine kinase, muscle (Ckm)(mRNA, NCBI Reference Sequence: NM_007710.2、アミノ酸配列:配列番号1、コード配列:配列番号2)である。
【0125】
試験例2-2.抗体産生能評価試験
EBNA1とIgG1抗体を安定発現するCHO細胞に、oriP配列を含む候補因子(遺伝子)発現プラスミドを導入することにより、候補因子(遺伝子)発現プラスミドを安定な維持及び複製が可能になり、候補因子(遺伝子)が染色体DNAに組込まれずに、細胞分裂に伴なって導入遺伝子が複製される。そのため、候補因子(遺伝子)をホストゲノムに取り込まれずに安定で長時間に渡って候補因子のIgG1抗体産生に対する影響を少ない労力で簡便に評価できる。この効果により、IgG抗体を安定に産生させる実用的な場合に近い条件下で候補因子を評価できる。
【0126】
EBNA1安定発現するIgG1抗体産生CHO細胞EB-03株(試験例1-1)をBalanCD transfectory CHO(富士フィルム和光純薬)、500-mL Erlenmeyer flasks (Corning Inc.)を用いて、5%CO2、37℃、湿度80%、回転数80rpm条件に設定したClimoshaker ISF1-X (Kuhner)を用いて前培養した。Vi-CELL XR生死細胞オートアナライザー(Beckman Coulter)を用いて、前培養した細胞をおよそ4×106cells/mLになるようにBalanCD transfectory CHOに播種し、細胞液量5mLでCELLSTAR cellreactor tubes(Greiner)に播種した。次に候補因子発現プラスミド(試験例2-1)を3μg/mL、PEIpro (Polyplus-transfection)を3μg/mLになるように加え、遺伝子導入を行った。遺伝子導入後、5%CO2、32℃、湿度80%、回転数180rpm条件に設定したClimoshaker ISF1-X (Kuhner)を用いて評価培養を行った。2日後にTRANSFECTORY SUPPLEMENT(富士フィルム和光純薬)を0.5mL加えた。適宜、CountessII (Thermo Fisher Scientific)で細胞数を計測し、遺伝子導入後10日目まで培養した。培養液中に含まれるIgG1抗体濃度をOctetQKe(Sartorius)で測定した。また、累積生細胞数(integrated viable cell density:IVCD)を算出した。IVCDは生細胞の増殖曲線の積分値に相当する。
【0127】
結果を図1に示す。Gene-04(Ckb)及びGene-05(Ckm)がCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させることが分かった。なお、既報(非特許文献1等)で一過的または安定発現により抗体産生能の向上効果を示すことが報告されている遺伝子(分子シャペロン遺伝子(CANX、CARL、PDIA3、HSPA1A、HSPB1、PPIB)、分泌プロセス促進/分泌小胞形成促進遺伝子(SNAP23、VAMP8)、代謝遺伝子(MDH2、GCLM、GSS))についても、本試験例と同様に評価したが、多くの遺伝子はCHO細胞のIgG抗体産生能の向上効果が無かった。
【0128】
試験例2-3.安定発現細胞の構築及び評価
Gene-05(Ckm)発現プラスミド(試験例2-1)を制限酵素BstX Iで処理し直鎖化した。得られた断片を遺伝子導入試薬PEI max(Polyscience)を用いてIgG1抗体産生CHO細胞に遺伝子導入し、125-mL Erlenmeyer flask(Corning)で培養した。抗生物質HygromycinB(ナカライテスク)を終濃度300 μg/mLで添加し、細胞増殖が安定するまで繰り返し継代培養を実施した。得られたプール細胞の中から、ClonePix2システム(Molecular Device)を用いて、シングルコロニーを単離し96-well multi plateに播種した。Clone Select Imager(Molecular Device)を用いて、良好な細胞増殖性を示すクローン細胞を選別・拡大培養し、複数のクローン細胞を樹立した。各クローン細胞の細胞内Gene-05(Ckm)発現を確認するため、キャピラリー電気泳動を実施した。装置はWes(ProteinSimple)を用いた。細胞内ライセート液はM-PER(Thermo Fisher Scientific)で調製し、検出の1次抗体には抗TARGET tagモノクローナル抗体(016-25421, 富士フィルム和光純薬)を用いた。樹立したクローン細胞(Gene-05(Ckm)安定発現細胞)ではCkmタンパク質の発現が確認できたが、導入前の親細胞(IgG1抗体産生CHO細胞)では外来的に遺伝子導入したCkmタンパク質の発現は確認できなかった。
【0129】
Gene-05(Ckm)安定発現細胞と導入前の親細胞を、125-mL Erlenmeyer flask(Corning)、BalanCD CHO GrowthA/ BalanCD CHO FEED 4(富士フィルム和光純薬)を用いて培養した。培養には5%CO2、37℃、湿度80%、回転数80rpm条件に設定したClimoshaker ISF1-X (Kuhner)を用いた。培養液中に含まれるIgG1抗体濃度をOctetQKe(Sartorius)で測定した。
【0130】
結果を図2に示す。Gene-05(Ckm)を安定発現させたCHO細胞株は、いずれも親細胞よりも高いIgG抗体産生能を有することが分かった。
【0131】
試験例3.高機能化因子の探索及び評価2
IgG抗体産生量が高い細胞株をトランスクリプトーム解析し、Geneオントロジーにより、IgG抗体高発現の時に高発現の遺伝子を調べていく中で、4つの遺伝子(TC-19、TC-20、TC-23、TC-24)を見出した。この4つの遺伝子の中から、試験例2で見出したCkmと加算的な効果を示す遺伝子を探索した。
【0132】
TC-20は、Cricetulus griseus histidine rich calcium binding protein (Hrc)(transcript variant X1 mRNA, NCBI Reference Sequence: XM_003508642.2、アミノ酸配列:配列番号5、コード配列:配列番号6)である。
【0133】
試験例3-1.候補因子発現プラスミドの調製
oriP配列挿入プラスミド(試験例1-2)を制限酵素Kpn I/BamH Iで処理し、マルチクローニングサイトに人工遺伝子合成した候補因子(TC-19、TC-20、TC-23、又はTC-24)コード配列を挿入した。候補因子コード配列の遺伝子合成はユーロフィンジェノミクス株式会社に依頼した。調製後のプラスミドDNAをXL10-Goldコンピテントセル(Agilent)に形質転換し、NucleoBond(登録商標) Xtra Midi EFキット(タカラバイオ)を用いて、候補因子発現プラスミドを調製した。
【0134】
試験例3-2.抗体産生能評価試験
EBNA1安定発現するIgG1抗体産生CHO細胞EB-03株(試験例1-1)をBalanCD transfectory CHO(富士フィルム和光純薬)、500-mL Erlenmeyer flasks (Corning Inc.)を用いて、5%CO2、37℃、湿度80%、回転数80rpm条件に設定したClimoshaker ISF1-X (Kuhner)を用いて前培養した。Vi-CELL XR生死細胞オートアナライザー(Beckman Coulter)を用いて、前培養した細胞をおよそ4×106cells/mLになるようにBalanCD transfectory CHOに播種し、細胞液量5mLでCELLSTAR cellreactor tubes(Greiner)に播種した。次に、Gene-05(Ckm)発現プラスミド(試験例2-1)を1.5μg/mLになるように加え、或いは当該プラスミドと候補因子発現プラスミド(試験例3-1)それぞれ1.5μg/mL(合計3μg/mL)になるように加え、さらにPEIpro (Polyplus-transfection)を3μg/mLになるように加え、遺伝子導入を行った。遺伝子導入後、5%CO2、32℃、湿度80%、回転数180rpm条件に設定したClimoshaker ISF1-X (Kuhner)を用いて評価培養を行った。2日後にTRANSFECTORY SUPPLEMENT(富士フィルム和光純薬)を0.5mL加えた。適宜、CountessII (Thermo Fisher Scientific)で細胞数を計測し、遺伝子導入後10日目まで培養した。培養液中に含まれるIgG1抗体濃度をOctetQKe(Sartorius)で測定した。また、累積生細胞数(integrated viable cell density:IVCD)を算出した。IVCDは生細胞の増殖曲線の積分値に相当する。
【0135】
結果を図3に示す。TC-20(Hrc)は、CHO細胞のIgG抗体産生能について、Ckmによる産生能向上効果に対して加算的な効果を示すことが分かった。なお、本試験例と同様の試験により、TC-20(Hrc)が単独でもCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させることが確認された。
【0136】
試験例4.高機能化因子の探索及び評価3
IgG抗体産生量が高い細胞株と低い細胞株とでmiRNAの発現量を解析し、100種以上の候補miRNAが得られた。これらの中からパスウェイ解析に基づいて11種のmiRNA(miRNA-01~miRNA-11)をピックアップした。
【0137】
miRNA-02は、Cricetulus griseus miR-146a(成熟配列(MIMAT0023774):配列番号7、ステムループ配列(MI0020407):配列番号8)である。
【0138】
試験例4-1.細胞内のプラスミド複製・維持を可能にするoriP 配列の導入
市販の遺伝子発現プラスミドに対して、エピソームDNA の複製・維持に関わるoriP配列を挿入し、迅速同定システムで作用する評価用プラスミドを作製した。具体的には以下のようにして行った。
【0139】
pmR-Zs Green1(タカラバイオ)を制限酵素SspIで処理した。次にpEBMulti-Neo(富士フィルム和光純薬)をテンプレートとしてoriP配列領域をPCRで増幅し、増幅断片をIn-Fusion cloningキット(タカラバイオ)を用いてSspI処理したpmR-Zs Green1に挿入して、oriP配列挿入プラスミドを得た。
【0140】
試験例4-2.候補因子発現プラスミドの調製
oriP配列挿入プラスミド(試験例4-1)を制限酵素Hind III/BamH Iで処理し、マルチクローニングサイトに人工遺伝子合成した候補因子(miRNA-01~miRNA-11)のステムループ配列を挿入した。ステムループ配列の遺伝子合成は株式会社ファスマックに依頼した。調製後のプラスミドDNAをXL10-Goldコンピテントセル(Agilent)に形質転換し、NucleoBond(登録商標) Xtra Midi EFキット(タカラバイオ)を用いて、候補因子発現プラスミドを調製した。
【0141】
試験例4-3.抗体産生能評価試験
EBNA1安定発現するIgG1抗体産生CHO細胞EB-03株(試験例1-1)をBalanCD transfectory CHO(富士フィルム和光純薬)、500-mL Erlenmeyer flasks (Corning Inc.)を用いて、5%CO2、37℃、湿度80%、回転数80rpm条件に設定したClimoshaker ISF1-X (Kuhner)を用いて前培養した。Vi-CELL XR生死細胞オートアナライザー(Beckman Coulter)を用いて、前培養した細胞をおよそ4×106cells/mLになるようにBalanCD transfectory CHOに播種し、細胞液量5mLでCELLSTAR cellreactor tubes(Greiner)に播種した。次に候補因子発現プラスミド(試験例4-2)を3μg/mL、PEIpro (Polyplus-transfection)を3μg/mLになるように加え、遺伝子導入を行った。遺伝子導入後、5%CO2、32℃、湿度80%、回転数180rpm条件に設定したClimoshaker ISF1-X (Kuhner)を用いて評価培養を行った。2日後にTRANSFECTORY SUPPLEMENT(富士フィルム和光純薬)を0.5mL加えた。適宜、CountessII (Thermo Fisher Scientific)で細胞数を計測し、遺伝子導入後10日目まで培養した。培養液中に含まれるIgG1抗体濃度をOctetQKe(Sartorius)で測定した。また、累積生細胞数(integrated viable cell density:IVCD)を算出した。IVCDは生細胞の増殖曲線の積分値に相当する。
【0142】
結果を図4に示す。miRNA-02(miR-146a)がCHO細胞のIgG抗体産生能を向上させることが分かった。
【0143】
試験例5.クレアチンキナーゼの給源の検討
各種生物種及び組織に由来するクレアチンキナーゼを使用して、IgG抗体産生能を調べた。
【0144】
試験例5-1.クレアチンキナーゼ発現プラスミドの調製
使用したクレアチンキナーゼを表1に示す。表1の上から順に、便宜的に、クレアチンキナーゼ1、クレアチンキナーゼ2、クレアチンキナーゼ3、クレアチンキナーゼ4、クレアチンキナーゼ5と称する。
【0145】
【表1】
【0146】
各クレアチンキナーゼのコード配列の遺伝子合成を、ユーロフィンジェノミクス株式会社に依頼した。合成したクレアチンキナーゼ遺伝子配列をPCR反応で増やし、制限酵素BcuIとNot1で処理し、同じ制限酵素で処理した市販のpOTCプラスミドとLigation high Ver.2(東洋紡)を用いたライゲーション反応を行ってプラスミドに各クレアチンキナーゼ遺伝子を挿入した。調製後のプラスミドはCompetent high JM109(東洋紡)に形質転換し、Wizard Plus SV Minipreps DNA purification System(Promega)を用いて各給源のクレアチンキナーゼ発現プラスミドを調製した。
【0147】
試験例5-2.抗体産生能評価試験a
クレアチンキナーゼ発現プラスミド(クレアチンキナーゼ1発現プラスミド又はクレアチンキナーゼ2発現プラスミド)を、マウスIgG1抗体を発現するCHO細胞T-A株に、プラスミドを制限酵素消化せずに、遺伝子導入試薬TransFectin(Bio-Rad)を用いて遺伝子導入し、6well マルチプレート(Corning)で培養した。抗生物質HygromycinB(ナカライテスク)を終濃度750~1000 μg/mLで添加し、細胞増殖が安定するまで繰り返し継代培養を実施した。得られたプール細胞を125-mL Erlenmeyer flask (Corning)で培養し、安定発現細胞を得た。一方で、クレアチンキナーゼ発現プラスミドに代えてコントロール用プラスミド(クレアチンキナーゼ発現プラスミド調製に用いたpOTCベクターについて、クレアチンキナーゼ遺伝子を含まないプラスミド)を用いる以外は上記と同様にして、コントロール細胞を得た。
【0148】
安定発現細胞とコントロール細胞を、125-mL Erlenmeyer flask(Corning)、及びCHO細胞T-A株に適したカスタム培地、及びBalanCD CHO FEED4 (富士フイルム和光純薬)を用いて、14日間培養した。培養には、5%CO2、37℃、湿度80%以上、回転数120rpmを条件に設定したClimoshaker ISF1-XC(Kuhner)を用いた。培養液中に含まれる抗体濃度は、TSKgel Protein A-5PW(東ソー)を用いた高速液体クロマトグラフLaChrom Elite(日立ハイテク)で測定した。
【0149】
結果を図5に示す。クレアチンキナーゼ1の安定発現細胞及びクレアチンキナーゼ2の安定発現細胞は、共に、コントロール細胞よりも高いIgG産生能を有することが示された。
【0150】
試験例5-3.抗体産生能評価試験b
クレアチンキナーゼ発現プラスミド(クレアチンキナーゼ3発現プラスミド又はクレアチンキナーゼ4発現プラスミド)を、モルモットIgG2抗体を発現するCHO細胞T-B株に、プラスミドを制限酵素消化せずに、遺伝子導入試薬TransFectin(Bio-Rad)を用いて遺伝子導入し、6well マルチプレート(Corning)で培養した。抗生物質HygromycinB(ナカライテスク)を終濃度750~1000 μg/mLで添加し、細胞増殖が安定するまで繰り返し継代培養を実施した。得られたプール細胞を125-mL Erlenmeyer flask (Corning)で培養し、安定発現細胞を得た。一方で、試験例5-2と同様にして、コントロール細胞を得た。
【0151】
安定発現細胞とコントロール細胞を、125-mL Erlenmeyer flask(Corning)、及びCHO細胞T-B株に適したカスタム培地、及びBalanCD CHO FEED4 (富士フイルム和光純薬)を用いて、8日間培養した。培養には、5%CO2、37℃、湿度80%以上、回転数120rpmを条件に設定したClimoshaker ISF1-XC(Kuhner)を用いた。培養液中に含まれる抗体濃度は、TSKgel Protein A-5PW(東ソー)を用いた高速液体クロマトグラフLaChrom Elite(日立ハイテク)で測定した。
【0152】
結果を図6に示す。クレアチンキナーゼ3の安定発現細胞及びクレアチンキナーゼ4の安定発現細胞は、共に、コントロール細胞よりも高いIgG産生能を有することが示された。
【0153】
試験例5-4.抗体産生能評価試験c
クレアチンキナーゼ発現プラスミド(クレアチンキナーゼ5発現プラスミド)を、モルモット抗体のFab配列とマウスIgG1のFc配列からなるキメラ抗体を発現するCHO細胞T-C株に、プラスミドを制限酵素消化せずに、遺伝子導入試薬TransFectin(Bio-Rad)を用いて遺伝子導入し、6well マルチプレート(Corning)で培養した。抗生物質HygromycinB(ナカライテスク)を終濃度750~1000 μg/mLで添加し、細胞増殖が安定するまで繰り返し継代培養を実施した。得られたプール細胞を125-mL Erlenmeyer flask (Corning)で培養し、安定発現細胞を得た。一方で、試験例5-2と同様にして、コントロール細胞を得た。
【0154】
安定発現細胞とコントロール細胞を、125-mL Erlenmeyer flask(Corning)、及びCHO細胞T-C株に適したカスタム培地、及びBalanCD CHO FEED4 (富士フイルム和光純薬)を用いて、8日間培養した。培養には、5%CO2、37℃、湿度80%以上、回転数120rpmを条件に設定したClimoshaker ISF1-XC(Kuhner)を用いた。培養液中に含まれる抗体濃度は、TSKgel Protein A-5PW(東ソー)を用いた高速液体クロマトグラフLaChrom Elite(日立ハイテク)で測定した。
【0155】
結果を図7に示す。クレアチンキナーゼ5の安定発現細胞は、共に、コントロール細胞よりも高いIgG産生能を有することが示された。
【0156】
試験例6.Hrcタンパク質の給源の検討
各種生物種及び組織に由来するHrcタンパク質を使用して、各種IgG抗体産生能を調べた。
【0157】
試験例6-1.Hrcタンパク質発現プラスミドの調製
使用したHrcタンパク質を表2に示す。表2の上から順に、便宜的に、Hrcタンパク質A、Hrcタンパク質B、Hrcタンパク質C、Hrcタンパク質Dと称する。
【0158】
【表2】
【0159】
各Hrcタンパク質のコード配列の遺伝子合成を、ユーロフィンジェノミクス株式会社に依頼した。合成したHrc遺伝子配列をPCR反応で増やし、制限酵素BcuIとNot1で処理し、同じ制限酵素で処理した市販のpOTCプラスミドとLigation high Ver.2(東洋紡)を用いたライゲーション反応を行ってプラスミドに各Hrc遺伝子を挿入した。調製後のプラスミドはCompetent high JM109(東洋紡)に形質転換し、Wizard Plus SV Minipreps DNA purification System(Promega)を用いて各給源のHrcタンパク質発現プラスミドを調製した。
【0160】
試験例6-2.抗体産生能評価試験x
Hrcタンパク質発現プラスミド(Hrcタンパク質A発現プラスミド又はHrcタンパク質B発現プラスミド)を、モルモットIgG2抗体を発現するCHO細胞T-B株に、プラスミドを制限酵素消化せずに、遺伝子導入試薬TransFectin(Bio-Rad)を用いて遺伝子導入し、6well マルチプレート(Corning)で培養した。抗生物質HygromycinB(ナカライテスク)を終濃度750~1000 μg/mLで添加し、細胞増殖が安定するまで繰り返し継代培養を実施した。得られたプール細胞を125-mL Erlenmeyer flask (Corning)で培養し、安定発現細胞を得た。一方で、試験例5-2と同様にして、コントロール細胞を得た。
【0161】
安定発現細胞とコントロール細胞を、125-mL Erlenmeyer flask(Corning)、及びCHO細胞T-B株に適したカスタム培地、及びBalanCD CHO FEED4 (富士フイルム和光純薬)を用いて、8日間培養した。培養には、5%CO2、37℃、湿度80%以上、回転数120rpmを条件に設定したClimoshaker ISF1-XC(Kuhner)を用いた。培養液中に含まれる抗体濃度は、TSKgel Protein A-5PW(東ソー)を用いた高速液体クロマトグラフLaChrom Elite(日立ハイテク)で測定した。
【0162】
結果を図8に示す。Hrcタンパク質Aの安定発現細胞及びHrcタンパク質Bの安定発現細胞は、共に、コントロール細胞よりも高いIgG産生能を有することが示された。
【0163】
試験例6-3.抗体産生能評価試験y
Hrcタンパク質発現プラスミド(Hrcタンパク質C発現プラスミド又はHrcタンパク質D発現プラスミド)を、マウスIgG1抗体を発現するCHO細胞T-A株に、プラスミドを制限酵素消化せずに、遺伝子導入試薬TransFectin(Bio-Rad)を用いて遺伝子導入し、6well マルチプレート(Corning)で培養した。抗生物質HygromycinB(ナカライテスク)を終濃度750~1000 μg/mLで添加し、細胞増殖が安定するまで繰り返し継代培養を実施した。得られたプール細胞を125-mL Erlenmeyer flask (Corning)で培養し、安定発現細胞を得た。一方で、試験例5-2と同様にして、コントロール細胞を得た。
【0164】
安定発現細胞とコントロール細胞を、125-mL Erlenmeyer flask(Corning)、及びCHO細胞T-A株に適したカスタム培地、及びBalanCD CHO FEED4 (富士フイルム和光純薬)を用いて、14日間培養した。培養には、5%CO2、37℃、湿度80%以上、回転数120rpmを条件に設定したClimoshaker ISF1-XC(Kuhner)を用いた。培養液中に含まれる抗体濃度は、TSKgel Protein A-5PW(東ソー)を用いた高速液体クロマトグラフLaChrom Elite(日立ハイテク)で測定した。
【0165】
結果を図9に示す。Hrcタンパク質Cの安定発現細胞及びHrcタンパク質Dの安定発現細胞は、共に、コントロール細胞よりも高いIgG産生能を有することが示された。
【0166】
試験例7.3種の高機能化因子の併用の検討
miR-146a(試験例4)を安定発現する安定発現細胞株、並びにmiR-146a(試験例4)に加えてさらにクレアチンキナーゼ(クレアチンキナーゼ1:表1)及びHrcタンパク質(Hrcタンパク質A:表2)を安定発現する安定発現細胞株を、試験例5及び試験例6に従って調製し、試験例5及び試験例6と同様にして抗体産生能を評価したところ、miR-146aに加えてさらにクレアチンキナーゼ及びHrcタンパク質を発現させることにより抗体産生能が向上することが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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