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特開2024-110958焼成体からなる布帛、膜蒸留用膜、淡水の製造方法、及び、布帛の製造方法
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  • 特開-焼成体からなる布帛、膜蒸留用膜、淡水の製造方法、及び、布帛の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110958
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】焼成体からなる布帛、膜蒸留用膜、淡水の製造方法、及び、布帛の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/10 20060101AFI20240808BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20240808BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20240808BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240808BHJP
   B01D 71/74 20060101ALI20240808BHJP
   D01F 9/16 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
B01D71/10
C02F1/44 G
B01D69/02
B01D69/00
B01D71/74
D01F9/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024015234
(22)【出願日】2024-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2023015655
(32)【優先日】2023-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】501366188
【氏名又は名称】株式会社中津山熱処理
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清野 竜太郎
(72)【発明者】
【氏名】谷岡 明彦
(72)【発明者】
【氏名】中津山 國雄
(72)【発明者】
【氏名】山野井 麗子
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 秀一
【テーマコード(参考)】
4D006
4L037
【Fターム(参考)】
4D006GA27
4D006MA21
4D006MA24
4D006MA31
4D006MA40
4D006MB10
4D006MC12X
4D006MC69X
4D006NA50
4D006NA62
4D006PA01
4D006PB03
4L037CS02
4L037CS03
4L037FA01
4L037FA15
4L037PA52
4L037PC05
4L037PF43
4L037PS13
4L037UA15
(57)【要約】
【課題】疎水性に優れ、タンパク質存在下でも物質透過性能に優れる新規な材料を提供する。
【解決手段】レーヨン系繊維の焼成体からなる布帛であって、140~160°の水接触角と、30~50%の多孔度とを有する、布帛。布帛は200~500μmの厚さを有することが好ましく、レーヨン系繊維が竹を原料としたものであることが好ましい。0秒の水接触角Aと120秒後の水接触角A120を求めたときに、変化率〔(A-A120)/A(%)〕が5%以下であることも好ましい。当該布帛は、太さが40~100番手のレーヨン系単糸を複数本撚った糸を撚糸とし、当該撚糸を用いて織物地を製造し、該織物地を真空下250~500℃で焼成する、レーヨン系繊維の焼成体からなる布帛の製造方法にて好適に製造されるものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーヨン系繊維の焼成体からなる布帛であって、
140~160°の水接触角と、30~50%の多孔度とを有する、布帛。
【請求項2】
200~500μmの厚さを有する請求項1に記載の布帛。
【請求項3】
レーヨン系繊維が竹を原料としたものである、請求項1又は2に記載の布帛。
【請求項4】
0秒での水接触角Aと120秒後の水接触角A120を求めたときに、水接触角の変化率〔(A-A120)/A(%)〕が5%以下である、請求項1又は2に記載の布帛。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の布帛からなる膜蒸留用膜。
【請求項6】
請求項5に記載の膜を膜蒸留法に供することにより海水を淡水化する、淡水の製造方法。
【請求項7】
太さが40~100番手のレーヨン系単糸を複数本撚った糸を撚糸とし、当該撚糸を用いて織物地を製造し、該織物地を真空下250~500℃で焼成する、レーヨン系繊維の焼成体からなる布帛の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーヨン系繊維の焼成体からなる布帛、それを用いた膜蒸留用膜、淡水の製造方法、及び、当該布帛の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、レーヨン系繊維等の繊維の焼成体からなる布帛は、導電特性、耐熱性、臭気吸着性等の種々の用途に用いられている(例えば特許文献1及び2)。
【0003】
一方、膜蒸留(membrane distillation、以下「MD」とも記載する場合がある。)は膜を介した両側の温度差に基づく蒸気圧差を駆動力に水蒸気が膜内部を拡散し脱塩を行うプロセスである。MDは海水淡水化や揮発性有機化合物の除去などに利用される。一般の蒸留では、海水を100℃まで沸騰させる必要があるが、MDは蒸気圧差を駆動力にするため60~70℃で脱塩が可能となる低温駆動プロセスである。その所要エネルギーの少なさや大規模施設が不要である点などから、近年注目を集めている。
【0004】
MDには疎水性多孔質膜が利用される。疎水性多孔質膜を利用する利点として、疎水性であれば供給液が膜内部に侵入するのを抑制し、高い除去率が達成できる点と、多孔質であれば蒸気の透過が促進され、より高い透過流束が達成できる点にある。MDに利用される疎水性多孔質膜にはフッ素系ポリマーであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜などが知られている。
膜プロセスでは、膜のファウリングが大きな課題となる。処理水中に微生物や汚濁物質などのタンパク質が存在すると、これらは疎水性多孔質膜に付着し、膜の目詰まりなどを引き起こす。タンパク質によるファウリングは膜表面特性の変化や膜細孔構造の変化、膜の濡れを引き起こし、膜寿命の低下などの原因となる。特許文献3では、PVDF等のフッ素樹脂膜にカーボンナノチューブを組み合わせることでタンパク質によるファウリングに対する耐性を向上させたとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-119993号公報
【特許文献2】特開2008-169495号公報
【特許文献3】特開2022-502248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、PVDF等のフッ素樹脂膜は、使用時や焼却処分時にフッ素ガス発生の恐れがあり人体への健康被害が危惧されている。カーボンナノチューブにも、同様に発がん性が指摘されており、またフッ素樹脂膜やカーボンナノチューブはコストも高い。これらのことから、特許文献3の技術は大量の水処理には不適である。
【0007】
従って、本発明は、疎水性に優れ、タンパク質存在下でも物質透過性能に優れる新規な材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はレーヨン系繊維の焼成体からなる布帛であって、140~160°の水接触角を有する、布帛を提供するものである。
【0009】
また本発明は、上記布帛からなる膜蒸留用膜を提供するものである。
【0010】
また本発明は、上記の膜を膜蒸留法に供することにより海水を淡水化する、淡水の製造方法を提供するものである。
【0011】
また本発明は、太さが40~100番手のレーヨン系単糸を複数本撚った糸を撚糸とし、当該撚糸を用いて織物地を製造し、該織物地を真空下250~500℃で焼成する、レーヨン系繊維の焼成体からなる布帛の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高度な疎水性を有し、物質透過性能に優れた多孔質の布帛が提供される。
また本発明によれば、環境負荷や健康への悪影響を防止しながら、タンパク質によるファウリングへの耐性に優れた膜蒸留膜及びそれを用いて低コストに安定的に海水から淡水を製造できる淡水の製造方法が提供される。
また本発明によれば、上記布帛を工業的に有利な方法で製造できる布帛の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1の織物焼成体からなる膜の電界放出形走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope、FE-SEM)による観察像である。上段は厚さ方向に沿って切断した断面を側面視した像であり、下段は厚さ方向における上方から見た平面視した像である。
図2】実施例1及び比較例1の接触角の推移を記載したグラフである。
図3】MD測定方法を説明する模式図である。
図4】実施例1及び比較例1のMD性能評価1の結果を示すグラフである。棒グラフが透過流束の値を示し、●が塩除去率を示す。
図5】実施例1及び比較例1のMD性能評価2の結果を示すグラフである。●が透過流束の値を示し、▲が塩除去率を示す。
図6】実施例1及び比較例1のMD性能評価3の結果を示すグラフである。棒グラフが透過流束の値を示し、●が塩除去率を示す。
図7】実施例2について、FE-SEMによる観察画像として、得られた織物の焼成体を、厚さ方向に沿い上方から見た平面視像である。
図8】実施例2について、FE-SEMによる観察画像として、得られた織物の焼成体の繊維断面を見た像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.レーヨン系繊維の焼成体からなる布帛
本発明の布帛は、レーヨン系繊維の焼成体からなる。レーヨン系繊維の焼成体からなる布帛は、レーヨン系繊維の焼成体をその構成中50質量%以上含有することが好ましく、60質量%以上含有することがより好適であり、80質量%以上含有することが更に好適であり、95質量%以上含有することが特に好適であり、98質量%以上であってもよく、99質量%以上であってもよい。
【0015】
レーヨン系繊維は、天然のセルロース繊維を化学修飾することで分子間の水素結合を解離していったんコロイド溶液とし、それを再びセルロース分子に戻すことによって高分子を再集合させて繊維を再生したものをいう。例えば原料としては、木材パルプや竹、コットンなどが挙げられ、レーヨン(ビスコースレーヨン)、銅アンモニアレーヨン(キュプラ)、ポリノジック、リヨセル(テンセル)、モダール、アセテート、トリアセテート及び精製セルロースなどを包含する。レーヨン系繊維は架橋剤によって架橋改質された再生セルロース繊維であってもよい。
本発明においてレーヨン系繊維の焼成体からなる布帛を用いることは、疎水性及び多孔質性を得ながら、柔軟性も合わせ持ち、膜蒸留に適している点で好適である。本発明では、レーヨン系繊維の焼成体からなる布帛であることで、繊維間に孔を有し、物質透過性能に寄与する。またレーヨン系繊維が焼成されて炭素化していることにより撥水性を有する。レーヨン系繊維の焼成体からなる布帛は、レーヨン系繊維の織物の焼成体からなることが、織り糸間に孔を有し、それが物質透過性能に寄与する点、及び、織物における織りに起因した凹凸(図1の側面視像を参照。)が撥水性に寄与する点で好適である。
【0016】
中でも、本発明においては、疎水性を高め、膜蒸留用膜としての特性に優れることから、原料として木材パルプ又は竹を用いたレーヨン系繊維が好ましく、特に原料として竹を用いたレーヨン系繊維(以下、「竹レーヨン系繊維」ともいう。)を用いることが好適である。竹レーヨン系繊維は、一般に単糸表面の凹凸が比較的大きく、また撚糸とすることで、凹凸が更に大きくなり、これを焼成することで得られる炭化繊維表面の凹凸形状を生じさせ、当該凹凸形状が優れた撥水性に寄与する可能性があると発明者は推測している。中でも本発明の効果に優れることから、竹を原料としたビスコース法レーヨン繊維を用いることが竹レーヨン系繊維の入手容易性や膜蒸留用膜としての特性に優れることから好ましい。
【0017】
竹レーヨン系繊維は、レーヨン製造において、竹からのパルプとともに竹以外の一般の木材パルプなどセルロース素材を一部混合した、竹を含むレーヨン系繊維であってもよい。竹由来の優れた特性を得る点から、全セルロース原料中50質量%以上が竹由来であることが好ましく、70質量%以上が竹由来であることがより好ましく、90質量%以上が竹由来であることが更に好ましい。
【0018】
レーヨン系繊維の焼成体からなる布帛における単糸焼成体の形状は、通常、走査型電子顕微鏡で確認することができる。単糸の断面形状は紡糸口金の形状により種々の形状が選択でき、円形及び扁平形状、ギザギザの鋸歯状等のいずれであってもよい。
【0019】
以下、布帛がレーヨン系繊維の織物の焼成体からなる場合について詳述する。
竹レーヨン繊維は単糸を複数本撚るなどして太くしたものを織り糸とすることが物質透過性能が良好且つ適度な凹凸が得やすいので疎水性を高め、タンパク質による透過性能防止の効果に優れることから好ましい。この点から、織物を構成する織り糸焼成体の太さは30~500μmであることが好ましく、70~400μmであることがより好ましい。糸及びその焼成体の太さは、FE-SEM画像により織物の焼成体を図1の「膜表面」の写真のように、その厚さ方向における上方から平面視した像から測定でき、例えば10箇所の糸の太さの平均値とすることができる。
【0020】
上記の織物の種類としては、平織、ツイル、タッサー、サテン、ハニカム織、片二重織、二重織等の重ね組織、コール天、ビロード等のパイル織組織等が挙げられる。中でも、平織、ツイル、タッサーから選ばれる少なくとも一種を用いることが、好適な多孔性を得やすい点で好ましく平織が特に好ましい。
【0021】
<水接触角>
本発明の布帛において、水接触角は、140°以上であり、疎水性に優れている。水接触角は141°以上が好ましく、142°以上がより好ましい。水接触角の上限は特に限定されないが、例えば160°以下であることが製造容易性の理由から好ましく、150°以下であってもよい。
上記水接触角を得るためには用いるレーヨン系繊維の種類や糸の太さや形状、織物とする場合の織り方等を調整することにより行うことができる。水接触角は後述する実施例に記載の方法にて滴下0秒の値として測定することができる。滴下10秒後~120秒後の水接触角も、上記範囲内であることが好ましい。
従って120秒後の水接触角も140°以上が好ましく、141°以上がより好ましく、142°以上が更に好ましい。
【0022】
また本発明の布帛は、0秒の水接触角Aと120秒後の水接触角A120を求めたときに、変化率〔(A-A120)/A(%)〕の値が5%以下であることが好適であり、3%以下であることが特に好適である。このように優れた撥水性を有することで、タンパク質によるファウリング耐性に特に優れたものとなる。布帛の入手容易性の点から、変化率〔(A-A120)/A(%)〕の下限としては例えば0.05%以上が挙げられる。
【0023】
<多孔度>
本発明の布帛は多孔質なものである。具体的には、布帛の多孔度は、30%以上であることが好ましく、これにより、高い透過流束を得やすくなる。この観点から、多孔度は、32%以上であることがより好ましい。また多孔度は大きすぎると塩除去率を低下しやすいため50%以下であることが好適であり、42%以下であることがより好ましい。多孔度は後述する実施例に記載の方法にて測定することができる。
【0024】
<孔径>
本発明の布帛において、平均孔径は100~900μmであることが膜蒸留に用いた場合の透過流束と除去率のバランスの点で好ましく、150~750μmであることがより好ましい。平均孔径は実施例に記載の方法にて測定することができる。FE-SEM画像により布帛を図1の「平面視像」の写真のように、その厚さ方向における上方から平面視した像における経糸と横糸に囲まれた孔を横断する最大線分の長さとして測定でき、例えば10箇所の孔における平均値とすることができる。
【0025】
<厚さ>
膜厚は薄ければ薄いほど透過流束は大きくなる。一方膜厚は薄すぎると強度が弱くなってしまう。これらの点から本発明の布帛において、厚さは200μm以上500μm以下が膜蒸留に用いた場合の透過流束と強度のバランスの点で好ましく、220μm以上450μm以下がより好ましい。膜の厚さは、FE-SEM画像により織物の焼成体を図1の写真のように、その厚さ方向から側面視した像から測定でき、例えば10箇所の焼成体の厚さの平均値とすることができる。
【0026】
2.膜蒸留用膜
本発明の膜蒸留膜は、上記の布帛からなるものである。本発明の布帛を膜蒸留膜とする際にその構成に特に制限はない。膜蒸留用膜は本発明の布帛をそのまま用いてもよいし、布帛と別のフィルム成分を複合化してもよく、或いは織布帛に別成分を担持させてもよいが、レーヨン系繊維の焼成体を主要な構成体とすることが好適である。ここでいう主要とは、膜を構成する成分の40質量%以上、好適には50質量%以上、特に好適には60質量%以上をしめることをいう。本発明の膜蒸留用膜の水接触角及び多孔度としては、本発明の布帛の水接触角及び多孔度として上記で挙げた範囲が挙げられる。
本発明の膜蒸留用膜は、本発明の布帛からなる膜一枚で膜蒸留に供するものであってもよく、当該膜を2枚以上を重ねて膜蒸留に供してもよい。膜を2枚以上重ねる場合に、2枚以上の膜の多孔度は同じであっても異なっていてもよい。また膜を2枚以上重ねる場合に、2枚以上の膜の水接触角は同じであっても異なっていてもよい。膜蒸留膜の総厚さ(複数の膜を重ねる場合はそれらの厚さの合計値)は200μm以上1000μm以下が膜蒸留に用いた場合の透過流束と強度のバランスの点で好ましく、300μm以上900μm以下がより好ましい。
【0027】
膜蒸留方法としては、例えば膜を介した両側の液体が膜に接した直接接触膜蒸留(DCMD)、不活性ガスを用いて透過水蒸気を回収するスイープガス膜蒸留(SGMD)、透過側にエアギャップを介して壁を置き、その壁面を冷却して水蒸気を回収するエアギャップ膜蒸留(AGMD)および透過側を真空引きする真空膜蒸留(VMD)である。上記の中でもAGMD法は熱損失が低く、高い流束が得られるプロセスであることから本発明の利点が発揮されやすく、好ましい。
【0028】
3.淡水の製造方法
本発明における淡水の製造方法は、上記の本発明の膜蒸留用膜を用いて膜蒸留を実施することで海水を淡水化するものであれば特段の限定はなく、任意の方法が採用できる。膜蒸留法を採用するのであれば、その他の精製等の条件を特に制限なく設定することができる。
【0029】
4.布帛の製造方法
【0030】
以下、本発明の布帛の好適な製造方法を述べる。本製造方法は、繊維太さが40~100番手(英式綿番手表示)のレーヨン系単糸を複数本撚った糸を織り糸とし、当該織り糸を用いて織物地を製造し、真空下250~500℃で焼成するものである。上記で述べた布帛の構成の説明は、本製造方法の説明に適宜適用することができる。
【0031】
レーヨン系繊維としては40~100番手のレーヨン系単糸を複数本撚った糸を用いることが疎水性を高め、上記の好ましい多孔度の焼成体が首尾よく得やすいことから好ましい。レーヨン系単糸の番手は50~90番手がより好ましく、60~90番手が更に好ましく、70~80番手が更に一層好ましい。
【0032】
上述した通り、レーヨン系繊維の単糸を複数本撚った糸を織り糸とする場合、疎水性を高め、膜蒸留用膜としての特性に優れることから好適である。この点から、前記の単糸を複数本(例えば2~5本、特に2~3本)束ねて撚った繊維束を更に複数本撚って織り糸を構成することが好適であり、織り編みに供する織り糸は太さが直径30~500μmであることが好ましく、70~400μmであることがより好ましい。糸の太さは、FE-SEM画像により織物を図1の写真のように、その厚さ方向における上方から平面視した像から測定でき、例えば10箇所の糸の太さの平均値とすることができる。また、単糸から織り糸を得るための中間体である上記繊維束の太さは、直径が1~10μmであることが好適であり、2~8μmであることがより好適である。繊維束の太さは、FE-SEM画像の観察像において、10箇所の糸の太さの平均値とすることができる。なお、ここでいう直径とは、断面が円形でない場合は、面積換算径をいう。
あるいは、焼成後のレーヨン系繊維は、その長手方向と直交する断面を見たときに、断面を横断する最大長さが1~15μmであってよく、1~10μmであってよい。
【0033】
本発明ではレーヨン系繊維を真空条件下で250~500℃で焼成することを特徴の一つとする。このような低温焼成で炭化することで表面多孔度を向上させつつ、優れた撥水性が得られるという利点がある。
【0034】
例えば、本発明の布帛の製造方法では上述した織物が設置された焼成炉内を吸引減圧しつつ焼成炉10内を所定昇温速度で加熱する。
焼成のターゲット温度は上記の通り、250~500℃であり、特に260~450℃とすることが好適である。ターゲット温度に到達したら、当該温度を一定時間維持して、織物を焼成する。
【0035】
本製造方法では、上記ターゲット温度に至るまでの常温からの焼成時間を所定の長時間とすることに別の特徴を有する。低温で長時間焼成とすることで、低温であっても十分にレーヨン系繊維を炭化させ、表面多孔度を向上させつつ、優れた撥水性が得られる。具体的には、常温からターゲット温度に至るまでの加熱時間は200分以上1000分以下が更に好適であり、300分以上800分以下が特に好適である。
【0036】
加熱は、二段階以上で行うことが、低温焼成にて首尾よく表面多孔度を向上させつつ、優れた撥水性が得る点で特に好ましい。二段階焼成は具体的には、以下のように行うことが好適である。二段階の焼成を行ってターゲット温度まで昇温する間に、降温操作は行わないことで、上記の好適な時間での焼成を首尾よく得られ、表面多孔度を良好に向上させつつ、優れた撥水性を好適に得られる
【0037】
まず、織物を緩やかな速度で昇温していく。具体的には、常温から上記予熱温度までの昇温速度が、0.4℃/分以上1.2℃/分以下、特に0.5℃/分以上1.0℃/分以下であることが、好適である。このような緩和な条件により、低温焼成にて十分な炭化を行いやすく、首尾よく表面多孔度を向上させつつ、優れた撥水性が得やすくなる。なお、昇温は直線的に行ってもよいが、昇温パターンに限られない(以下同様である。)
【0038】
予熱温度は、100~300℃、特に150~250℃とすることが首尾よく表面多孔度を向上させつつ、優れた撥水性が得やすくなる点で好ましい。
【0039】
上記予熱温度での保持時間は60~200分、特に100~180分であることが首尾よく表面多孔度を向上させつつ、優れた撥水性が得やすくなる点で好ましい。
【0040】
常温から上記予熱温度までの昇温速度に比して、上記予熱温度から上記ターゲット温度までの昇温温度は更に一層緩やかとすることで焼成体を十分に炭化させ、撥水性と表面多孔度を首尾よく得る点で望ましい。これらの点で、上記予熱温度からまでの昇温速度は0.15℃/分以上0.7℃/分以下、特に0.2℃/分以上0.6℃/分以下であることが、好適である。
【0041】
ターゲット温度での焼成時間は、例えば、30~140分、特に60~120分であることが、十分に炭化でき、表面多孔度を一層向上させつつ、優れた撥水性がより首尾よく得られる点から好ましい。
【0042】
焼成が完了したら、降温する。降温速度は2.0~4、5℃/min、特に2.8~4.0℃/minの範囲内であることが表面多孔度を一層向上させつつ、優れた撥水性がより首尾よく得られる点から好ましい。
【0043】
焼成中、焼成炉中は、吸引減圧を行うことで水分、油分など吸引減圧しながら除去する。真空度の調整はN等の不活性ガスを用いる。予熱温度での焼成(予熱)とターゲット温度での焼成(本熱)とでは吸引減圧が同じであっても異なっていてもよいが、本熱の加熱時のほうが吸引減圧が大きいことが好ましい。
【0044】
焼成中の真空度は大気圧基準で-0.001~-85kPaGの範囲内とすることで、本発明の疎水性に優れた布帛が首尾よく得られる点で好ましい。
【0045】
また、本発明の布帛は、撥水性に優れるだけでなく保温性にも優れる。そのことに起因して本発明の布帛は、血流上昇や自律神経の安定化などの作用も有する。更に本発明の布帛には、光吸収発熱温度差が高いという利点もある。その上、本発明の布帛には、消臭性も有するという特徴がある。したがって本発明の布帛は、膜蒸留用膜として有用であるばかりでなく、身体の保温具、寝具用シーツ、寝具用布団、下着、靴下、帽子、手袋、靴のインソール、下駄箱用消臭シート及び冷蔵庫用消臭シートなどとしても有用である。
【実施例0046】
以下、実施例に基づき、更に本発明について説明する。
(実施例1)
竹レーヨン繊維(ビスコースレーヨン法で得られ、セルロース原料として竹を90質量%以上用いた繊維)として、80番手の単糸(英式綿番手表示)を2本撚った糸を用いた。この糸を複数本束ねて直径が5.8μmの糸束とし、それを撚って直径150μm程度の撚糸とし、平織で織り編みして織物とした。
上記で得られた織物を、真空条件にて二段階焼成にて300℃で焼成した。焼成条件は常温から予熱温度(200)℃まで0.8℃/分の昇温速度で210分で昇温し、次いで200℃で140分保持し(予熱)、200℃から300℃まで昇温速度0.4℃/分にて250分で昇温させた。300℃で保持時間90分にて焼成し(本熱)、次いで300℃からの降温速度3.3℃/分で降温した。焼成中、上記減圧範囲内で吸引減圧を行った。
FE-SEMによる観察画像として、得られた織物の焼成体を、厚さ方向に対して垂直な横方向からみた側面視像及び厚さ方向に沿い上方からみた平面視像を図1に示す。織り糸焼成体の太さは150μm程度であった。焼成体の織り編みの平均孔径は340μm程度であった。また上記方法で測定した焼成体の厚さは250μm程度であった。
【0047】
(比較例1)
多孔質PVDF膜は非溶媒誘起相分離法(NIPS法)により作製した。初めにペレット状のPVDF(ARKEMA社、Kynar720)を溶媒であるN、N-ジメチルアセトアミド(DMAc、試薬特級、富士フィルム和光純薬株式会社)に溶解させた。これに、孔形成剤として平均分子量Mwが600のポリエチレングリコール(PEG、試薬一級、富士フィルム和光純薬株式会社)を加え、マグネチックスターラーを用いて撹はんした。その後、少量の脱イオン水を加え50℃、350rpmで2~4日間攪はんし均一なキャスト溶液とした。キャスト溶液作製時の試薬の重量は、PVDFが4.5g、DMAcが23.6g、PEG(平均分子量600)が0.9g、HOが1.0g、PEG/PVDFの重量比が0.4であった。その後、キャスト溶液をガラス板に膜厚300μmでキャストナイフを用いて薄く広げ、直ちに蒸留水に浸漬させた。溶媒を完全に取り除くため流水で24h洗浄して比較例1のPVDF膜を得た。
【0048】
実施例1で得られた織物の焼成体からなる膜と比較例1で得られたPVDF膜とを以下の方法にて表面多孔度及び水接触角の測定に供した。その結果を表1に示す。なお、水接触角の推移を、図2にも示した。
【0049】
(表面多孔度の測定)
表面多孔度は、膜の表面をFE-SEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ、S-4100)を用い、膜表面を観察した。PVDF膜は液体窒素に浸漬して粉砕し、得られた試料片を台座上にカーボンテープを用いて固定した。最後に、試料に導電性を持たせるためPtスパッタリング処理を行った。炭素化繊維膜は導電性を有しており、カッターナイフで所定の大きさに切り取った後試料台に固定し、そのままFE-SEMでの撮影を行った。倍率50倍、加速電圧は5kVを用いて観察して得られたSEM画像を用いて、表面多孔度を用いた。画像処理ソフトにはImage-Jを用い、メニューバーのAdjust→Color Thereshold(閾値 BrightnessはAUTOで設定)の設定により、二値化処理を行うことにより空隙の面積率を求め、これを表面多孔度(%)とした。表面多孔度は一つの膜について異なる3か所測定し、その平均値とした。
【0050】
(水接触角の測定)
測定装置として、自動接触角計(DSA30S、KRUS)を用いた。接触角の測定には脱イオン水を用いた。
観察試料は膜を3cm×3cmに切り取りスライドガラス上に両面テープで固定し作製した。観察前処理として、膜に対して200質量倍以上のイソプロピルアルコール中に浸漬させ、その状態で30分放置し、次いで膜に対して200質量倍以上の蒸留水中に浸漬させ、その状態で数時間放置し、その後、50℃で24時間乾燥させた。脱イオン水1μLを膜表面上に滴下し、3枚の膜について滴下0秒から120秒までの接触角を10秒ごとに測定した。各タイミングで測定した3連の値の平均値を図1に示す。表1には滴下0秒の水接触角の値、及び、120秒後の低下率も併せて示す。
【0051】
【表1】
【0052】
図1に示す膜は同じ方法で製造し、多孔度、水接触角及び厚さが同じ2枚の織物の焼成体を重ねたものであるところ、以下の実施例1の評価結果は図1に示すような織物の焼成体からなる膜を2枚重ねたものを膜蒸留(MD)法に供して得られたものである。なお、比較例1では、一枚の膜を膜蒸留(MD)法に供した。
(MD性能評価1)
供給液に3質量%NaCl水溶液を用い、実施例1と比較例1の膜のMD測定を下記方法にて行った。透過流束と塩除去率について3連以上の平均値を図4に示す。
【0053】
(MD測定)
MD測定は図3に示した装置を用いて行った。前処理として、全ての膜をイソプロパノール中で15分、脱イオン水中で15分洗浄し、その後50℃のオーブン中で24時間乾燥処理を行った。供給液を、膜上で60℃となるように流量40mLmin-1で膜上に循環させた。有効膜面積は51.4cmであった。5分毎に透過液量を測定した。各膜の透過流束[Lmmh-1-2]は下記(1)式から算出した。
【0054】
【数1】
(式中、Δmは透過量変化[L]、lは膜厚[mm]、Aは膜面積[m]、Δtは測定時間[h]である。)
【0055】
また、MD後の供給液と透過液の電気伝導度を電気伝導度計(東亜DKK株式会社、WN-22EP)で測定し、下記(2)式から脱塩率R[%]を算出した。
【数2】
(式中、Cは透過液の、Cは供給液の塩濃度[molL-1]である。)
【0056】
図4に示すように、実施例1で得られた織物焼成体からなる膜の透過流束は、比較例1のPVDF膜に比して平均で12%ほど高い値を示した。また、実施例1で得られた織物焼成体からなる膜の塩除去率は安定して99.8%以上を示したのに対し、比較例1の円の除去率は比較的不安定であった。
【0057】
(MD性能評価2)
供給液のNaCl濃度を、3質量%からNaClの飽和溶液にほぼ近い26質量%まで変化させた以外はMD性能評価1と同様の評価を行った。実施例1と比較例1の膜のMD測定から求めた透過流束と塩除去率をNaClの濃度に対して図示した結果を図5に示す。図5から、実施例1の膜は、比較例1の膜に対する透過流束に係る優位性をNaClの濃度に関わらず維持していることが判る。
【0058】
(MD性能評価3)
供給液として3質量%NaCl水溶液と、これに150mg/Lとなる量のBSAを添加したNaCl/BSA混合溶液を用いた以外は上記の(MD性能評価1)と同様のMD測定を行った。結果を図6に示す(NaCl+BSA)。図6には、図4で示したBSA非添加の場合の透過流束と塩除去率も併せて示す(NaCl)。
図6に示すように、比較例1のPVDF膜は、NaCl/BSA混合溶液を用いた場合、NaCl水溶液を場合と比較して透過流束が18%減少した。これに対し、実施例1では、これに対し、実施例1の織物焼成体からなる膜では、供給液としてNaCl/BSA混合溶液を用いた場合の透過流束は、供給液として3質量%NaCl水溶液を用いた場合と比較して5%の減少にとどまった。このことは、実施例1の織物焼成体からなる膜はPVDF多孔膜よりもたんぱく質に対して高い耐ファウリング性を有することを示している。これは実施例1の織物焼成体からなる膜の高い撥水性によるものではないかと考えられる。なお、いずれの膜においても塩除去率は99%以上であった。
【0059】
(実施例2)
実施例1とは異なる竹レーヨン繊維(ビスコースレーヨン法で得られ、セルロース原料として竹を90質量%以上用いた繊維)の織物(平織)を用いた。焼成条件は常温から予熱温度(200)℃まで0.8℃/分の昇温速度で210分で昇温し、次いで200℃で140分保持し(予熱)、200℃から300℃まで昇温速度0.4℃/分にて昇温させた。300℃で保持時間90分にて焼成し(本熱)、次いで300℃からの降温速度3.3℃/分で降温した。焼成中、上記減圧範囲内で吸引減圧を行った。得られた織物の焼成体を、厚さ方向に沿い上方からみた平面視像を図7に、焼成後の繊維断面図を図8に示す。
得られた織物の接触角を前記と同様の方法で測定したところ、152.3°であり、多孔度を前記と同様の方法で測定したところ、37.4%であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8