(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110983
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】細胞外小胞の回収方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20240808BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240808BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20240808BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20240808BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240808BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240808BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20240808BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240808BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240808BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALN20240808BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
C12Q1/686 Z
G01N1/10 F
G01N1/10 H
G01N33/48 A
G01N33/50 Z
G01N33/53 S
G01N33/68
G01N33/50 P
C12N5/071
C12N15/09 Z
C07K16/28
C12Q1/6851 Z
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024090514
(22)【出願日】2024-06-04
(62)【分割の表示】P 2020553220の分割
【原出願日】2019-10-16
(31)【優先権主張番号】P 2018195926
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019015177
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】517448489
【氏名又は名称】合同会社H.U.グループ中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 佑季
(72)【発明者】
【氏名】栗本 綾子
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 達俊
(57)【要約】
【課題】細胞外小胞含有試料から細胞外小胞を回収する新規方法。
【解決手段】ポリマーの存在下で細胞外小胞含有試料から細胞外小胞を分離することを含む、細胞外小胞の回収方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーの存在下で細胞外小胞含有試料から細胞外小胞を分離することを含む、細胞外小胞の回収方法。
【請求項2】
ポリマーが、20~30℃における1~20重量%水溶液中の粘度として1.5mPa・s以上の値を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリマーが、セルロース誘導体またはカルボニル含有親水性基を有するポリビニル誘導体である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ポリマーが、少なくとも1つの水酸基の水素原子がカルボキシアルキルまたはヒドロキシアルキルで置換されたセルロース誘導体、または少なくとも1つの水素原子がラクタムで置換されたポリビニル誘導体である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ポリマーが、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはポリビニルピロリドンである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ポリマーが、10kDa以上の重量平均分子量を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
細胞外小胞含有試料から細胞外小胞を分離する際のポリマーの濃度が、0.01~10.00重量%である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
細胞外小胞含有試料とキレート剤を合わせることをさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
細胞外小胞が、エクソソームである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記分離が、細胞外小胞膜結合物質を用いた分離法、または細胞外小胞含有試料の超遠心法により行われる、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
細胞外小胞膜結合物質が、テトラスパニン膜タンパク質に対する抗体、または細胞外マトリクスメタロプロテアーゼ誘導物質に対する抗体である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
細胞外小胞膜結合物質がCD9、CD63、CD81、またはCD147に対する抗体である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
細胞外小胞含有試料が血液試料、尿、または唾液である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
以下を含む、細胞外小胞の分析方法:
(1)ポリマーの存在下で、細胞外小胞含有試料から細胞外小胞を分離すること;および
(2)分離された細胞外小胞を分析すること。
【請求項15】
キレート剤の細胞外小胞含有試料への添加をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
分離された細胞外小胞中のタンパク質または核酸が分析される、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
ポリマーおよび細胞外小胞膜結合物質を含む、キット。
【請求項18】
キレート剤をさらに含む、請求項17に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞外小胞の回収方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞外小胞(extracellular vesicles:EV)は、さまざまな種類の細胞から分泌される、膜構造を有する微小な小胞であり、血液などの体液中あるいは細胞培養液中に存在する。細胞外に分泌される細胞外小胞には、エクソソーム(exosome)、エクトソーム(ectosome)、アポトーシス胞(apoptotic bleb)が含まれる。細胞外小胞は、細胞間の情報伝達等の機能を担う種々の物質を含む多様な集団であることから、診断、創薬等の目的のために解析されている。よって、このような解析に有用な細胞外小胞の回収方法の開発が求められている。例えば、特許文献1には、キレート剤を用いた細胞外小胞の回収方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
細胞外小胞含有試料から高効率で細胞外小胞を回収することができれば、診断、創薬等の応用に有望である。細胞外小胞は主に、細胞外小胞マーカーに対する抗体を用いる免疫沈降法、または超遠心法により回収されている。しかし、このような方法では、細胞外小胞は必ずしも高効率で回収されず、また、回収された細胞外小胞は非特異的に濃縮されるため品質にばらつきを有する。
【0005】
したがって、本発明の目的は、細胞外小胞を回収できる新規方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、所定のポリマーの存在下で細胞外小胞含有試料から細胞外小胞を分離することにより、細胞外小胞を高効率で回収できること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕ポリマーの存在下で細胞外小胞含有試料から細胞外小胞を分離することを含む、細胞外小胞の回収方法。
〔2〕ポリマーが、20~30℃における1~20重量%水溶液中の粘度として1.5mPa・s以上の値を有する、〔1〕の方法。
〔3〕ポリマーが、セルロース誘導体またはカルボニル含有親水性基を有するポリビニル誘導体である、〔1〕または〔2〕の方法。
〔4〕ポリマーが、少なくとも1つの水酸基の水素原子がカルボキシアルキルまたはヒドロキシアルキルで置換されたセルロース誘導体、または少なくとも1つの水素原子がラクタムで置換されたポリビニル誘導体である、〔3〕の方法。
〔5〕ポリマーが、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはポリビニルピロリドンである、〔4〕の方法。
〔6〕ポリマーが、10kDa以上の重量平均分子量を有する、〔1〕~〔5〕のいずれかの方法。
〔7〕細胞外小胞含有試料から細胞外小胞を分離する際のポリマーの濃度が、0.01~10.00重量%である、〔1〕~〔6〕のいずれかの方法。
〔8〕細胞外小胞含有試料とキレート剤を合わせることをさらに含む、〔1〕~〔7〕のいずれかの方法。
〔9〕細胞外小胞が、エクソソームである、〔1〕~〔8〕のいずれかの方法。
〔10〕前記分離が、細胞外小胞膜結合物質を用いた分離法、または細胞外小胞含有試料の超遠心法により行われる、〔1〕~〔9〕のいずれかの方法。
〔11〕細胞外小胞膜結合物質が、テトラスパニン膜タンパク質に対する抗体、または細胞外マトリクスメタロプロテアーゼ誘導物質に対する抗体である、〔10〕の方法。
〔12〕細胞外小胞膜結合物質がCD9、CD63、CD81、またはCD147に対する抗体である、〔11〕の方法。
〔13〕細胞外小胞含有試料が血液試料、尿、または唾液である、〔1〕~〔12〕のいずれかの方法。
〔14〕以下を含む、細胞外小胞の分析方法:
(1)ポリマーの存在下で、細胞外小胞含有試料から細胞外小胞を分離すること;および
(2)分離された細胞外小胞を分析すること。
〔15〕キレート剤の細胞外小胞含有試料への添加をさらに含む、〔14〕の方法。
〔16〕分離された細胞外小胞中のタンパク質または核酸が分析される、〔14〕または〔15〕の方法。
〔17〕ポリマーおよび細胞外小胞膜結合物質を含む、キット。
〔18〕キレート剤をさらに含む、〔17〕のキット。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、所定のポリマーを用いることにより、より高効率かつより高純度で、細胞外小胞の回収が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例1における、PBS、EDTA/EGTA-PBS(「ED/EG」)、または各濃度の各種CMC-PBSで希釈した血清検体の抗CD9抗体による免疫沈降法で得られたサンプルのビオチン化抗CD9抗体によるウエスタンブロッティングを示す図である。
【
図2】
図2は、実施例2における、PBS、または各濃度のCMC-PBSで希釈した血清検体を4℃で一晩もしくは37℃で1時間抗CD9抗体と免疫沈降させて得られたサンプルのビオチン化抗CD9抗体によるウエスタンブロッティングを示す図である。
【
図3】
図3は、実施例3における、PBS、EDTA/EGTA-PBS(「ED/EG」)、またはCMC-PBSで希釈した血清検体の抗CD9抗体による免疫沈降法で得られたサンプルのナノ粒子トラッキング解析による粒子数測定結果を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例4における、血清、および5種類の抗凝固剤(ヘパリン、EDTA、クエン酸(citrate)、ACD(酸-クエン酸-デキストロース、acid-citrate-dextrose)、CPD(クエン酸-リン酸-デキストロース、citrate phosphate dextrose))を含有する血漿を、PBS、CMC-PBS、EDTA/EGTA-PBS(「ED/EG」)、またはEDTA/EGTA/CMC-PBS(「ED/EG/C」)で希釈した検体の抗CD9抗体による免疫沈降法で得られたサンプルのビオチン化抗CD9抗体によるウエスタンブロッティングを示す図である。
【
図5A】
図5Aは、実施例5における、PBS、CMC-PBS、EDTA/EGTA-PBS(「ED/EG」)、またはEDTA/EGTA/CMC-PBS(「ED/EG/C」)で希釈した血清検体の抗テトラスパニン膜タンパク質抗体(抗CD63抗体および抗CD81抗体)による免疫沈降法で得られたサンプルの抗テトラスパニン膜タンパク質抗体(抗CD63抗体および抗CD81抗体)によるウエスタンブロッティングを示す図である。
【
図5B】
図5Bは、実施例5における、PBS、CMC-PBS、EDTA/EGTA-PBS(「ED/EG」)、またはEDTA/EGTA/CMC-PBS(「ED/EG/C」)で希釈した血清検体の抗CD147抗体による免疫沈降法で得られたサンプルのビオチン化抗CD9抗体によるウエスタンブロッティングを示す図である。
【
図6】
図6は、実施例6における、体液(尿および唾液、それぞれ、2個のサンプル。「#1」および「#2」として表わす。)を、PBS、CMC-PBS、EDTA/EGTA-PBS(「ED/EG」)、またはEDTA/EGTA/CMC-PBS(「ED/EG/C」)で希釈した検体の抗CD9抗体による免疫沈降法で得られたサンプルのビオチン化抗CD9抗体によるウエスタンブロッティングを示す図である。
【
図7A】
図7Aは、実施例7における、PBS、各濃度の各種HEC-PBS、またはCMC-PBSで希釈した血清検体の抗CD9抗体による免疫沈降法で得られたサンプルのビオチン化抗CD9抗体によるウエスタンブロッティングを示す図である。
【
図7B】
図7Bは、実施例7における、PBS、各濃度の各種HPC-PBS、またはCMC-PBSで希釈した血清検体の抗CD9抗体による免疫沈降法で得られたサンプルのビオチン化抗CD9抗体によるウエスタンブロッティングを示す図である。
【
図7C】
図7Cは、実施例7における、PBS、各濃度の各種HPMC-PBS、またはCMC-PBSで希釈した血清検体の抗CD9抗体による免疫沈降法で得られたサンプルのビオチン化抗CD9抗体によるウエスタンブロッティングを示す図である。
【
図8】
図8は、実施例8における、PBS、または各濃度の各種PVP-PBSで希釈した血清検体の抗CD9抗体による免疫沈降法で得られたサンプルのビオチン化抗CD9抗体によるウエスタンブロッティングを示す図である。
【
図9A】
図9Aは、実施例9における、PBSまたはCMC-PBSで希釈した血清検体を35~60℃の各温度で抗CD9抗体と免疫沈降させて得られたサンプルのビオチン化抗CD9抗体によるウエスタンブロッティングを示す図である。
【
図9B】
図9Bは、実施例9における、CMC-PBSで希釈した血清検体を35~60℃の各温度で抗CD63抗体と免疫沈降させて得られたサンプルの抗CD63抗体によるウエスタンブロッティングを示す図である。
【
図9C】
図9Cは、実施例9における、CMC-PBSで希釈した血清検体を35~60℃の各温度で抗CD81抗体と免疫沈降させて得られたサンプルの抗CD81抗体によるウエスタンブロッティングを示す図である。
【
図10】
図10は、実施例11における、PBS、CMC-PBS(「CMC」)、EDTA/EGTA-PBS(「ED/EG」)、またはEDTA/EGTA/CMC-PBS(「ED/EG/C」)で希釈した、ヒト肺癌細胞H2228の培養上清の抗CD9抗体または抗CD63抗体による免疫沈降法で得られたサンプルのEML4-ALK mRNA検出量(PBSで希釈したサンプルに対する倍率変化で表わす)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、細胞外小胞の回収方法を提供する。
【0011】
細胞外小胞は、さまざまな種類の細胞から分泌される、膜構造を有する微小な小胞である。細胞外小胞としては、例えば、エクソソーム、エクトソーム、およびアポトーシス胞が挙げられる。好ましくは、細胞外小胞は、エクソソームである。細胞外小胞はまた、そのサイズにより規定することができる。細胞外小胞のサイズは、例えば、30~1000nmであり、好ましくは50~300nm、より好ましくは80~200nmである。細胞外小胞のサイズの測定は、例えば、細胞外小胞のブラウン運動に基づく方法、光散乱法、および電気抵抗法などにより行うことができる。好ましくは、細胞外小胞のサイズの測定は、NanoSight(Malvern Instruments社製)により行われる。
【0012】
本発明の回収方法は、以下の工程を含む:
(1)ポリマーの存在下で、細胞外小胞含有試料から細胞外小胞を分離すること。
【0013】
細胞外小胞含有試料は、細胞外小胞を含有する任意の試料である。好ましくは、細胞外小胞含有試料は、生物学的な液体試料である。細胞外小胞含有試料は、本発明の方法に用いられる前に、他の処理に付されてもよい。このような処理としては、例えば、遠心分離、抽出、ろ過、沈殿、加熱、凍結、冷蔵、および攪拌が挙げられる。
【0014】
一実施形態では、細胞外小胞含有試料は、培養上清である。培養上清は、細胞培養上清であっても組織培養上清であってもよい。培養される細胞または組織が由来する生物としては、例えば、哺乳動物(例、ヒト、サル等の霊長類;マウス、ラット、ウサギ等の齧歯類;ウシ、ブタ、ヤギ等の家畜;およびウマ、ヒツジ等の使役動物)、鳥類(例、ニワトリ)等の動物、昆虫、微生物(例、細菌類)、植物、および魚類が挙げられる。好ましくは、生物は、ヒト等の哺乳動物である。
【0015】
別の実施形態では、細胞外小胞含有試料は、体液である。体液は、上述したような生物に由来する体液である。体液としては、例えば、血液試料(例、全血、血清および血漿)、尿、唾液、リンパ液、組織液、脳脊髄液、腹水、汗、精液、涙液、粘液、乳汁、胸腔液、気管支肺胞洗浄液および羊水が挙げられる。好ましくは、体液は、血液試料、尿、または唾液である。血漿としては、例えば、ヘパリン血漿、クエン酸血漿、フッ化ナトリウム血漿、ACD(acid-citrate-dextrose)またはCPD(citrate phosphate dextrose))を含有する血漿が挙げられる。一般に、細胞外小胞の回収は、培養上清に比し、培養上清よりも多量のタンパク質(例、アルブミン、リゾチーム、ラクトフェリン、ヒスタチン、ペルオキシダーゼ、アグルチニン、ディフェンシン、免疫グロブリン)が混在している体液(例、血液、尿、唾液)において困難である。一方、本発明の方法によれば、細胞外小胞含有試料からの細胞外小胞の回収量が増加し、このような体液からであっても細胞外小胞を高効率かつ高純度で回収することができる。
【0016】
本発明で用いられるポリマーは、水溶性ポリマーであることが好ましい。「水溶性ポリマー」とは、4~80℃(好ましくは、4~37℃)での水に対する溶解度が0.01重量%以上のポリマーをいう。水溶性ポリマーの4~80℃(好ましくは、4~37℃)での水に対する溶解度は、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上であってもよい。
【0017】
ポリマーは、本発明の目的を達成するため、例えば、20~30℃における1~20重量%水溶液中の粘度として1.5mPa・s以上の値を有していてもよい。ポリマーの上述の条件での粘度としては、好ましくは5mPa・s以上、より好ましくは10mPa・s以上、さらにより好ましくは20mPa・s以上、なおさらにより好ましくは30mPa・s以上、特に好ましくは35mPa・s以上であってもよい。ポリマーの上述の条件での粘度としては、好ましくは30000mPa・s以下、より好ましくは20000mPa・s以下、さらにより好ましくは10000mPa・s以下、なおさらにより好ましくは5000mPa・s以下、特に好ましくは1000mPa・s以下であってもよい。より具体的には、ポリマーの上述の条件での粘度としては、好ましくは5~30000mPa・s、より好ましくは10~20000mPa・s、さらにより好ましくは20~10000mPa・s、なおさらにより好ましくは30~5000mPa・s、特に好ましくは35~1000mPa・sであってもよい。
【0018】
ポリマーは、本発明の目的を達成するため、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)にポリマーを2重量%になるように溶解したPBS溶液中の30℃における粘度として1.5mPa・s以上の値を有していてもよい。ポリマーの上述の条件での粘度としては、好ましくは5mPa・s以上、より好ましくは10mPa・s以上、さらにより好ましくは20mPa・s以上、なおさらにより好ましくは30mPa・s以上、特に好ましくは35mPa・s以上であってもよい。ポリマーの上述の条件での粘度としては、好ましくは30000mPa・s以下、より好ましくは20000mPa・s以下、さらにより好ましくは10000mPa・s以下、なおさらにより好ましくは5000mPa・s以下、特に好ましくは1000mPa・s以下であってもよい。より具体的には、ポリマーの上述の条件での粘度としては、好ましくは5~30000mPa・s、より好ましくは10~20000mPa・s、さらにより好ましくは20~10000mPa・s、なおさらにより好ましくは30~5000mPa・s、特に好ましくは35~1000mPa・sであってもよい。
【0019】
ポリマーの粘度は、例えば、液体試料を回転体によって回転させた際にロータの外周に発生した液の粘度摩擦トルクを検出する方法(回転粘度計を用いる方法)、または試料が満たされた測定管内を、落下錘を自由落下させ、その落下時間を計測する方法(落球粘度計を用いる方法)により測定することができる。また、ポリマーの粘度は、例えば、液体試料中に振動体(粘度センサ)を入れて振動させると、センサの振動振幅は、液体粘度が大きくなるにしたがってその粘性抵抗により抑制され、低下するが、この抑制される力に打ち勝ち、定振幅を維持するように振動子駆動電流を増加させ、この時の入力電流量を測定する方法(振動粘度計を用いる方法)により測定することができる。
ポリマーの粘度は、例えば、粘性解析装置(例、レオロジースペクトロメータSKR100、ヤマト科学社)を用いて測定することができる。
【0020】
ポリマーは、例えば、セルロース誘導体、親水性基を有するポリビニル誘導体、ポリエーテル化合物であってもよい。
【0021】
セルロース誘導体とは、セルロースの少なくとも1つの水酸基の水素原子が親水性基で置換されたセルロース誘導体である。セルロース誘導体における親水性基としては、例えば、カルボキシアルキル(例、カルボキシC1~6アルキル)、ヒドロキシアルキル(例、ヒドロキシC1~6アルキル)が挙げられる。セルロース誘導体における親水性基は、カルボキシアルキルまたはヒドロキシアルキルが好ましい。
カルボキシアルキルとしては、例えば、カルボキシメチル、カルボキシエチル(1-カルボキシエチル、2-カルボキシエチル)、カルボキシプロピル(1-カルボキシプロピル、2-カルボキシプロピル、3-カルボキシプロピル)、カルボキシイソプロピル(1-カルボキシ-2-メチルエチル、2-カルボキシ-2-メチルエチル)、カルボキシブチル(1-カルボキシブチル、2-カルボキシブチル、3-カルボキシブチル、4-カルボキシブチル)、カルボキシt-ブチル、カルボキシペンチル(1-カルボキシペンチル、2-カルボキシペンチル、3-カルボキシペンチル、4-カルボキシペンチル、5-カルボキシペンチル)、カルボキシヘキシル(1-カルボキシヘキシル、2-カルボキシヘキシル、3-カルボキシヘキシル、4-カルボキシヘキシル、5-カルボキシヘキシル、6-カルボキシヘキシル)が挙げられる。
ヒドロキシアルキルとしては、例えば、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル(1-ヒドロキシエチル、2-ヒドロキシエチル)、ヒドロキシプロピル(1-ヒドロキシプロピル、2-ヒドロキシプロピル、3-ヒドロキシプロピル)、ヒドロキシイソプロピル(1-ヒドロキシ-2-メチルエチル、2-ヒドロキシ-2-メチルエチル)、ヒドロキシブチル(1-ヒドロキシブチル、2-ヒドロキシブチル、3-ヒドロキシブチル、4-ヒドロキシブチル)、ヒドロキシt-ブチル、ヒドロキシペンチル(1-ヒドロキシペンチル、2-ヒドロキシペンチル、3-ヒドロキシペンチル、4-ヒドロキシペンチル、5-ヒドロキシペンチル)、ヒドロキシヘキシル(1-ヒドロキシヘキシル、2-ヒドロキシヘキシル、3-ヒドロキシヘキシル、4-ヒドロキシヘキシル、5-ヒドロキシヘキシル、6-ヒドロキシヘキシル)が挙げられる。
セルロース誘導体の具体例としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)が挙げられる。
セルロース誘導体には、ナノセルロース誘導体も含まれる。ナノセルロース誘導体とは、後述するナノセルロースの誘導体である。
【0022】
親水性基を有するポリビニル誘導体とは、少なくとも1つの水素原子が親水性基で置換されたポリビニル誘導体であり、メチレン単位中の1個の水素原子が親水性基で置換されたポリビニル誘導体が好ましい。ポリビニル誘導体の親水性基としては、例えば、カルボニル含有親水性基、カルボキシ含有親水性基、含窒素親水性基、環(炭素環または複素環)含有親水性基が挙げられる。ポリビニル誘導体の親水性基は、カルボニル含有親水性基、含窒素親水性基、または複素環含有親水性基が好ましく、ラクタム(例、α-ラクタム、β-ラクタム、γ-ラクタム、δ-ラクタム、ε-ラクタム)がより好ましい。親水性基を有するポリビニル誘導体の具体例としては、ポリビニルピロリドンが挙げられる。
【0023】
ポリエーテル化合物とは、反復単位の主鎖にエーテル構造を含むポリマーである。ポリエーテル化合物としては、例えば、ポリアルキレンオキシ化合物(例、ポリC1~6アルキレンオキシ化合物)が挙げられる。ポリアルキレンオキシ化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールが挙げられる。ポリアルキレンオキシ化合物は、ポリエチレングリコールが好ましい。
【0024】
ナノセルロースとは、ナノメートルオーダーの繊維幅を有する繊維状セルロースである。ナノセルロースの繊維幅は、例えば500nm以下であり、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下、さらにより好ましくは50nm以下、なおさらにより好ましくは10nm以下、特により好ましくは5nm以下であってもよい。
【0025】
セルロース誘導体、親水性基を有するポリビニル誘導体、およびポリエーテル化合物には、それらの塩も含まれる。塩としては、例えば、金属(例、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、およびセシウム等の一価の金属、ならびにカルシウム、マグネシウム、および亜鉛等の二価の金属)の塩、ならびに無機塩基(例、アンモニア)の塩が挙げられる。
【0026】
ポリマーは、本発明の目的を達成するため、例えば、10kDa以上の重量平均分子量を有してもよい。ポリマーの重量平均分子量としては、好ましくは12kDa以上、より好ましくは14kDa以上、さらにより好ましくは16kDa以上、なおさらにより好ましくは18kDa以上、特に好ましくは20kDa以上であってもよい。ポリマーの重量平均分子量としては、好ましくは5000kDa以下、より好ましくは3000kDa以下、さらにより好ましくは2000kDa以下、なおさらにより好ましくは1000kDa以下、特に好ましくは500kDa以下であってもよい。より具体的には、ポリマーの重量平均分子量としては、好ましくは12~5000kDa、より好ましくは14~3000kDa、さらにより好ましくは16~2000kDa、なおさらにより好ましくは18~1000kDa、特に好ましくは20~500kDaであってもよい。
【0027】
細胞外小胞の分離工程におけるポリマーの濃度は、ポリマーを含まない場合に比べて細胞外小胞を高効率で回収でき、かつ分離工程で用いられる溶液中にポリマーが溶解できる濃度である限り特に限定されない。このような濃度は、ポリマーの種類によっても異なるが、例えば0.01~10.00重量%、好ましくは0.05~7.50重量%、より好ましくは0.10~5.00重量%であってもよい。
【0028】
細胞外小胞の分離工程において、細胞外小胞は、細胞外小胞含有試料から液相中で分離される。すなわち、細胞外小胞は、ポリマーと共沈しない状態で、後述する分離手法により、細胞外小胞含有試料から分離される。したがって、本発明における分離工程は、共沈性ポリマーを用いた共沈法による分離(例、ポリエチレングリコール沈殿)とは異なる。したがって、本発明で用いるポリマーは、非共沈性ポリマーであることが好ましい。
【0029】
本発明の回収方法において、ポリマーは、分離工程に存在すればよいので、本発明の回収方法は、細胞外小胞含有試料とポリマーを合わせることを含んでもよい。例えば、細胞外小胞含有試料とポリマーを合わせた後に、当該細胞外小胞含有試料から細胞外小胞を分離してもよい。また、例えば、後述する細胞外小胞膜結合物質を用いた分離法を用いる場合、細胞外小胞膜結合物質を含む溶液に予めポリマーを添加しておき、これに細胞外小胞含有試料を添加してもよい。
【0030】
本発明の回収方法は、細胞外小胞含有試料とキレート剤を合わせることをさらに含んでもよい。この場合、本発明の回収方法において、ポリマーおよびキレート剤の存在下で、細胞外小胞含有試料から細胞外小胞を分離すればよいので、例えば、細胞外小胞含有試料にポリマーおよびキレート剤を同時に添加してもよいし、細胞外小胞含有試料にポリマーを添加した後にキレート剤を添加してもよいし、細胞外小胞含有試料にキレート剤を添加した後にポリマーを添加してもよい。また、例えば、後述する細胞外小胞膜結合物質を用いた分離法を用いる場合、細胞外小胞膜結合物質を含む溶液に予めポリマーおよびキレート剤を添加しておき、これに細胞外小胞含有試料を添加してもよい。
【0031】
キレート剤は、金属イオンとの配位結合が可能である配位部分を有する化合物またはその塩である。配位部分の数は、好ましくは2個以上、より好ましくは3個以上(例、3個または6個)である。配位部分としての配位原子としては、例えば、酸素原子、リン原子、窒素原子、硫黄原子、および塩素原子が挙げられる。配位原子は、好ましくは酸素原子又はリン原子であり、より好ましくは酸素原子である。配位部分としての配位基としては、例えば、上記配位原子を有する基が挙げられる。配位基は、好ましくはカルボン酸基またはリン酸基であり、より好ましくはカルボン酸基である。
【0032】
キレート剤としては、例えば、シュウ酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(EDTMP)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、並びにそれらの塩が挙げられる。塩としては、例えば、金属塩(例、ナトリウム塩、カリウム塩等の一価の金属塩、およびカルシウム塩、マグネシウム塩等の二価の金属塩)、無機塩(例、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物等のハロゲン化物塩、およびアンモニウム塩)、有機塩(例、アルキル基で置換されたアンモニウム塩)、および酸付加塩(例、硫酸、塩酸、臭化水素酸、硝酸、リン酸等の無機酸との塩、および酢酸、シュウ酸、乳酸、クエン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸等の塩)が挙げられる。本発明では、2種以上(例、2種、3種、4種、5種)のキレート剤の混合物を細胞外小胞含有試料の分離に用いてもよい。
【0033】
キレート剤は、恐らくは細胞外小胞への夾雑物の吸着を抑制することにより、細胞外小胞の高純度での回収に効果を示す(国際公開第2018/070479号)。したがって、ポリマーおよびキレート剤の存在下で、細胞外小胞含有試料から細胞外小胞を分離することにより、細胞外小胞の回収効率向上に相乗効果を与える。上述のキレート剤はいずれも細胞外小胞の高純度での回収に効果を示すので、ポリマーとの併用により同質の相乗効果を与える。
【0034】
細胞外小胞の分離工程におけるキレート剤の濃度は、細胞外小胞への夾雑物の吸着を抑制でき、かつ分離工程で用いられる溶液中にキレート剤が溶解できる濃度である限り特に限定されない。このような濃度は、キレート剤の種類によっても異なるが、例えば、1mM~200mMである。好ましくは、キレート剤の濃度は、10mM以上、15mM以上、20mM以上、30mM以上、40mM以上、または50mM以上であってもよい。このような濃度はまた、キレート剤の種類によっても異なるが、200mM以下、180mM以下、160mM以下、140mM以下、120mM以下、または100mM以下であってもよい。
【0035】
ポリマーの存在下での、細胞外小胞含有試料からの細胞外小胞の分離(工程(1))は、例えば、細胞外小胞膜結合物質を用いた分離法、または超遠心法により行うことができる。細胞外小胞膜結合物質を用いた分離は、分析方法(例、後述するイムノアッセイ)の過程において行われてもよい。細胞外小胞膜結合物質を用いて細胞外小胞を分離する場合、細胞外小胞膜結合物質を細胞外小胞含有試料と混合することで、細胞外小胞膜結合物質を細胞外小胞に結合させ、次いで細胞外小胞膜結合物質が結合した細胞外小胞を、試料から分離することにより、細胞外小胞を回収することができる。また、細胞外小胞の分離を超遠心法により行う場合、超遠心法により細胞外小胞含有試料中の細胞外小胞を沈殿させ、次いで、上清を廃棄することにより、細胞外小胞を回収することができる。さらに、細胞外小胞の分離を分析方法の過程において行う場合、分析方法(例、ELISA等のイムノアッセイ)における溶液の除去または固相の洗浄に伴い、細胞外小胞を分離することができる。具体的には、イムノアッセイにおいて、細胞外小胞の抗体との結合および細胞外小胞含有試料を含む溶液の除去および/または固相の洗浄に伴い、細胞外小胞を分離することができる。分離は、好ましくは、単離または精製である。したがって、本発明の回収方法はまた、単離または精製方法として利用することができる。
【0036】
本発明の回収方法において用いられる細胞外小胞膜結合物質は、細胞外小胞マーカーに親和性を有する物質である。細胞外小胞マーカーとしては、例えば、テトラスパニン膜タンパク質(細胞外小胞膜特異的4回貫通膜タンパク質、例、CD9、CD63、CD81)、細胞外マトリクスメタロプロテアーゼ誘導物質(CD147)、癌胎児性抗原(Carcinoembryonic antigen、CEA)、熱ショックタンパク質(HSP)70、HSP90、主要組織適合性複合体(MHC)I、腫瘍感受性遺伝子(TSG)101、リソソーム関連膜タンパク質(LAMP)1、細胞間接着分子(ICAM)-1、インテグリン、セラミド、コレステロール、ホスファチジルセリン、ALIX、Annexins、Caveolin-I、Flotillin-I、Rabタンパク質、EpCAMなどが挙げられる。細胞外小胞マーカーは、好ましくはテトラスパニン膜タンパク質、細胞外マトリクスメタロプロテアーゼ誘導物質である。また細胞外小胞マーカーは、好ましくはCD9、CD63、CD81、またはCD147である。細胞外小胞膜結合物質としては、例えば、抗体(例、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体)およびその抗原結合性断片、アプタマー、ホスファチジルセリン結合タンパク質、セラミド結合タンパク質が挙げられる。抗原結合性断片は、対象とする細胞外小胞マーカーに対する結合性を維持している抗体断片であればよく、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv等が挙げられる。細胞外小胞膜結合物質は、好ましくは抗体またはその抗原結合性断片であり、より好ましくはモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片である。また、細胞外小胞を回収する際に用いられる細胞外小胞膜結合物質は、一つでも複数を組み合わせてもよい。
【0037】
細胞外小胞膜結合物質は、細胞外小胞の分離を容易にするための固相と結合していてもよい。固相としては、例えば、セファロースビーズ、アガロースビーズ、磁性ビーズ、またはプラスチックプレートを用いることができる。固相への細胞外小胞膜結合物質の固定化は当業者に周知の常法によって行うことができる。
【0038】
本発明の回収方法において、細胞外小胞膜結合物質を用いた分離法により細胞外小胞を回収する場合、ポリマーは、少なくとも細胞外小胞膜結合物質と細胞外小胞含有試料とを混合する際に、存在していればよい。例えば、磁性ビーズを用いる場合、ポリマーの存在下で、磁性ビーズに結合した細胞外小胞膜結合物質と細胞外小胞含有試料を混合することにより、細胞外小胞膜結合物質と細胞外小胞含有試料中の細胞外小胞とを結合させ、磁性ビーズを永久磁石または電磁石などを用いて集磁し、次いで、磁性ビーズに結合しなかった成分を含む上清を廃棄することにより、磁性ビーズに結合した細胞外小胞を細胞外小胞含有試料から分離することができる。磁性ビーズを集磁する方法は、当業者に周知の方法を用いることができる。また、例えば、セファロースビーズまたはアガロースビーズを用いる場合、ポリマーの存在下で、これらビーズに結合した細胞外小胞膜結合物質と細胞外小胞含有試料を混合することにより、細胞外小胞膜結合物質と細胞外小胞含有試料中の細胞外小胞とを結合させ、遠心分離により、ビーズを沈殿させ、ビーズに結合しなかった成分を含む上清を廃棄することにより、ビーズに結合した細胞外小胞を細胞外小胞含有試料から分離することができる。ビーズを遠心分離により沈殿させる方法は、当業者に周知の方法を用いることができる。
【0039】
細胞外小胞膜結合物質を用いた分離法により、細胞外小胞含有試料から細胞外小胞を分離する場合、細胞外小胞膜結合物質と細胞外小胞含有試料を混合する温度は、細胞外小胞膜結合物質と細胞外小胞含有試料との混合物が液体で存在する温度であればいかなる温度であってもよく、0~100℃であってもよい。このような温度は、例えば4℃以上であり、好ましくは15℃以上、より好ましくは35℃以上、さらに好ましくは40℃以上であってもよい。このような温度はまた、例えば80℃以下であり、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下、さらに好ましくは50℃以下であってもよい。より具体的には、このような温度は、例えば4~80℃であり、好ましくは15~70℃、より好ましくは35~60℃、さらに好ましくは40~50℃であってもよい。細胞外小胞膜結合物質と細胞外小胞を結合させる時間は、細胞外小胞膜結合物質が細胞外小胞に結合するために十分な時間である限り特に限定されず、例えば、1分以上、5分以上、10分以上、または20分以上であってもよい。このような時間はまた、24時間以下、18時間以下、8時間以下、4時間以下、2時間以下、または1時間以下であってもよい。
【0040】
本発明の回収方法において、超遠心法により細胞外小胞を回収する場合、ポリマーは、細胞外小胞含有試料が超遠心分離に供される際に存在すればよく、例えば、超遠心分離を複数回行う場合は、少なくとも1回の超遠心分離をポリマーの存在下で行えばよい。超遠心分離は、超遠心機を使用して行うことができる。超遠心分離で印加される重力は、例えば、10,000×g~200,000×gであり、好ましくは、70,000×g~150,000×gであってもよい。超遠心分離の時間は、例えば、0.5~24時間であり、好ましくは1~5時間である。超遠心分離での温度は、例えば、4~30℃である。超遠心分離は、1回または複数回(例、2回、3回)行ってもよい。
【0041】
本発明はまた、細胞外小胞の分析方法を提供する。
【0042】
本発明の分析方法は、以下を含む:
(1)ポリマーの存在下で、細胞外小胞含有試料から細胞外小胞を分離すること;および
(2)分離された細胞外小胞を分析すること。
【0043】
本発明の分析方法における工程(1)は、本発明の回収方法における工程(1)と同様にして行うことができる。
【0044】
工程(2)では、分離された細胞外小胞が分析される。分析される対象としては、例えば、細胞外小胞中に含まれる成分(例、細胞外小胞の内部に含まれる成分、細胞外小胞の膜成分、細胞外小胞の膜表面に存在している成分)、および細胞外小胞自体(粒子)が挙げられる。
【0045】
細胞外小胞中に含まれる成分が分析される場合、分析は、成分の検出または定量である。このような分析はまた、一成分または複数成分の分析である。分析される成分としては、例えば、タンパク質、核酸(例、RNA、DNA)、糖、脂質、アミノ酸、ビタミン類、ポリアミン、およびペプチドが挙げられる。ポリマーの存在下で細胞外小胞含有試料から細胞外小胞を分離することにより、細胞外小胞の回収量を増加させることができる。したがって、本発明の分析方法によれば、細胞外小胞中のタンパク質、核酸等の成分を高精度で分析することができる。
【0046】
成分の分析は、当該分野において公知である任意の方法により行うことができる。
分析される成分がタンパク質である場合、分析方法としては、例えば、イムノアッセイ、質量分析法が挙げられる。イムノアッセイとしては、例えば、直接競合法、間接競合法、およびサンドイッチ法が挙げられる。また、このようなイムノアッセイとしては、化学発光イムノアッセイ(CLIA)〔例、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)〕、免疫比濁法(TIA)、酵素免疫測定法(EIA)(例、直接競合ELISA、間接競合ELISA、およびサンドイッチELISA)、放射イムノアッセイ(RIA)、ラテックス凝集反応法、蛍光イムノアッセイ(FIA)、およびイムノクロマトグラフィー法、ウエスタンブロッティング、免疫染色、蛍光活性化細胞選別(fluorescence activated cell sorting、FACS)が挙げられる。複数成分が分析される場合、プロテオーム分析が行われてもよい。
分析される成分が核酸である場合、分析方法としては、例えば、プローブを用いるハイブリダイゼーション法、逆転写酵素を用いる逆転写(RT)反応、プライマー(例、2、3、または4個のプライマー)を用いる遺伝子増幅法(例、定量PCR、RT-PCR等のPCR法)、シークエンシング、質量分析法が挙げられる。
分析される成分がタンパク質および核酸以外の成分である場合、分析方法としては、例えば、イムノアッセイ、質量分析法が挙げられる。複数成分が分析される場合、メタボローム分析が行われてもよい。
【0047】
本発明の分析方法は、細胞外小胞に含まれるマーカーの検出に用いることができる。細胞外小胞に含まれるマーカーとしては、例えば、細胞外小胞の存在の指標となるマーカー、癌等の疾患の指標となるマーカー(例、診断マーカー、疾患のリスク評価マーカー)が挙げられる。細胞外小胞の存在の指標となるマーカーとしては、例えば、テトラスパニン膜タンパク質(細胞外小胞膜特異的4回貫通膜タンパク質、例、CD9、CD63、CD81)、細胞外マトリクスメタロプロテアーゼ誘導物質(CD147)、癌胎児性抗原(Carcinoembryonic antigen、CEA)、熱ショックタンパク質(HSP)70、HSP90、主要組織適合性複合体(MHC)I、腫瘍感受性遺伝子(TSG)101、リソソーム関連膜タンパク質(LAMP)1、細胞間接着分子(ICAM)-1、インテグリン、セラミド、コレステロール、ホスファチジルセリン、ALIX、Annexins、Caveolin-I、Flotillin-I、Rabタンパク質、EpCAM、およびこれらのタンパク質をコードする核酸(例、DNA、RNA)が挙げられる。疾患の指標となるマーカーとしては、例えば、癌等の疾患に罹患した生物に由来する細胞外小胞または癌細胞等の異常細胞から分泌される細胞外小胞に特異的に存在するタンパク質(以下、「異常タンパク質」と呼ぶ。例、変異タンパク質、外来タンパク質)が挙げられる。変異タンパク質としては、例えば、EML4-ALK等の融合タンパク質が挙げられる。EML4-ALKには、バリアント1、2、3a、3b、4,5a、5b、6等のバリアントが存在する。外来タンパク質としては、例えば、ウイルス由来タンパク質が挙げられる。疾患の指標となるマーカーとしてはまた、これらのタンパク質をコードする核酸の発現の有無またはその量の変化、ならびに、SNP等の変異、ハプロタイプ、転座、核酸のメチル化の存在もしくは非存在、およびバリアントの種類が挙げられる。
【0048】
細胞外小胞自体(粒子)の分析は、例えば、粒子分析機器、電子顕微鏡、フローサイトメーター等の機器により行うことができる。この場合、細胞外小胞の粒子数、粒子の大きさおよび形状、並びにそれらの分布を分析することができる。
【0049】
細胞外小胞は、癌等の種々の疾患に関与し得ることが報告されている(国際公開第2014/003053号;国際公開第2014/152622号;Taylor et al.,Gynecologic Oncol,100(2008) pp13-21)。したがって、本発明の回収方法および分析方法は、例えば、細胞外小胞に基づく診断および創薬に有用である。例えば、肺癌等の癌マーカーであるEML4-ALKを本発明の分析方法により検出することは、肺癌等の癌患者に対するクリゾニチブ、アレクチニブ等のALKチロシンキナーゼ阻害剤の投与決定の指標として有用となり得る。
【0050】
別の実施形態では、本発明は、以下を含む、細胞外小胞の分析方法を提供する:
(1)細胞外小胞膜結合物質を用いて細胞外小胞含有試料から細胞外小胞を分離すること;および
(2)分離された細胞外小胞内に含まれる、癌等の疾患の指標となるマーカーを分析すること。
【0051】
本実施形態における細胞外小胞膜結合物質としては、上述の細胞外小胞マーカーに親和性を有する物質が挙げられる。細胞外小胞マーカーは、好ましくはテトラスパニン膜タンパク質、細胞外マトリクスメタロプロテアーゼ誘導物質である。また細胞外小胞マーカーは、好ましくはCD9、CD63、CD81、またはCD147、より好ましくはCD9、またはCD63である。細胞外小胞膜結合物質としては、例えば、上述の抗体(例、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体)およびその抗原結合性断片、アプタマー、ホスファチジルセリン結合タンパク質、セラミド結合タンパク質が挙げられる。
【0052】
癌等の疾患の指標となるマーカーして、上述した異常タンパク質の発現の有無またはその量の変化が挙げられる。異常タンパク質としては、例えば、EML4-ALK等の融合タンパク質が挙げられる。疾患の指標となるマーカーとしてはまた、これらのタンパク質をコードする核酸の発現の有無またはその量の変化、ならびに、SNP等の変異、ハプロタイプ、転座、核酸のメチル化の存在もしくは非存在、およびバリアントの種類が挙げられる。
【0053】
本発明はまた、上述したようなポリマーおよび細胞外小胞膜結合物質を含むキットを提供する。本発明のキットは、キレート剤をさらに含んでもよい。本発明のキットは、例えば、本発明の回収方法、および分析方法の簡便な実施に有用である。
【実施例0054】
以下、実施例を参照して本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
市販の3種類のCMCナトリウム塩(以下、単に「CMC」と呼ぶ。CAS No.9004-32-4、ナカライテスク社#07326-95(平均分子量不明)、シグマアルドリッチ社#C5678(平均分子量90kDa)、#C4888(平均分子量250kDa))の、EV回収への効果を検討した。EV回収は、抗CD9抗体を用いて行った。
健常人血清を20,000×g、4℃で15分間遠心した後、200μLの血清を200μLのPBS(2.9mM NaH
2PO
4、9.0mM Na
2HPO
4、137mM NaCl)、EDTA/EGTA-PBS(血清を希釈した後の各終濃度が50mMになるようにEDTAおよびEGTAを含むPBS)(ED/EG)、または終濃度0.2~2.5重量%のCMC-PBS(血清を希釈した後の終濃度が0.2~2.5重量%になるようにCMCを溶解したPBS)で希釈し、抗CD9抗体(自社製)を固定した磁性ビーズ(Dynabeads M-280 tosylactivated(ライフテクノロジーズ社))を0.26mg/mLとなるように添加した。4℃で一晩回転反応させた後に、磁性ビーズをPBS-Tで3回洗浄し、サンプルバッファー(BIO-RAD社)で希釈してウエスタンブロッティング用サンプルとした。ウエスタンブロッティング用サンプルでは、エクソソームを含むサンプルがSDSで処理されることにより、エクソソームが破壊され、エクソソームのマーカータンパク質(例、CD9)がサンプル溶液中に放出されている。ビオチン化した抗CD9抗体(自社製)によるウエスタンブロッティング法で免疫沈降効率を解析した(
図1)。4種類のCMC全てにおいて、PBS希釈サンプルと比較してEV回収効率向上の効果を認めた。
実施例で用いたCMCの各物性値を以下の表1にまとめた。
【0056】
【0057】
(実施例2)
CMC(シグマアルドリッチ社#C4888)の濃度(0.06重量%~1.0重量%の終濃度)および反応温度(4℃、37℃)がEV回収に与える効果を検討した。
健常人血清を20,000×g、4℃で15分間遠心した後、200μLの血清を200μLのPBSもしくはCMC-PBS(血清希釈後の終濃度が0.06~1.0重量%になるようにCMCを溶解したPBS)で希釈し、抗CD9抗体(自社製)を固定した磁性ビーズ(Dynabeads M-280 tosylactivated(ライフテクノロジーズ社))を0.26mg/mLとなるように添加した。4℃で一晩もしくは37℃で1時間回転反応させた後に、磁性ビーズをPBS-Tで3回洗浄し、サンプルバッファー(BIO-RAD社)で希釈してウエスタンブロッティング用サンプルとした。ビオチン化した抗CD9抗体によるウエスタンブロッティング法でEVの回収効率を解析した(
図2)。反応温度4℃および37℃において、CMCの終濃度0.25重量%~1重量%の範囲で、PBS希釈サンプルと比較してEV回収効率向上の効果を認めた。
【0058】
(実施例3)
CMC(シグマアルドリッチ社#C4888)のEV回収への効果をナノ粒子トラッキング解析(NanoSight LM10、カンタムデザイン社)により検討した。
200μLの健常人血清を20,000×g、4℃で15分間遠心した後、その上清に200μLのPBS、EDTA/EGTA-PBS(血清希釈後の各終濃度50mMになるようにEDTAおよびEGTAを含むPBS)(ED/EG)、またはCMC-PBS(血清希釈後の終濃度が0.5重量%になるようにCMCを溶解したPBS)(CMC)で希釈し、抗CD9抗体(自社製)を固定した磁性ビーズ(Dynabeads M-280 tosylactivated(ライフテクノロジーズ社))を0.26mg/mLとなるように添加した。37℃で30分間回転反応させた後に、磁性ビーズをPBS-Tで3回洗浄し、40μL BRUB(Britton & Robinson Universal Buffer)(pH2.6)で5分間反応させた後、20μLの1M Tris-HCl(pH8.0)で中和することで細胞外小胞を抗体磁性ビーズ粒子から遊離させた。Qubit protein assay(ライフテクノロジーズ社)で総タンパク質濃度を定量した後、PBS 450μLを添加してNanoSightにより粒子数を解析した(
図3)。CMCで希釈した条件においてEVの総回収粒子数と総タンパク質あたりの粒子数の増加が認められ、高純度で細胞外小胞が回収されたことが示された。
【0059】
(実施例4)
血清、および5種類の抗凝固剤(ヘパリン、EDTA、クエン酸(citrate)、ACD(酸-クエン酸-デキストロース;acid-citrate-dextrose)、CPD(クエン酸-リン酸-デキストロース;citrate phosphate dextrose))を含有する血漿において、CMC(シグマアルドリッチ社#C4888)のEV回収への効果を検討した。
200μLの健常人血清、および抗凝固剤含有健常人血漿を20,000×g、4℃で15分間遠心した後、その上清に200μLのPBS、EDTA/EGTA-PBS(血清または血漿希釈後の各終濃度が50mMになるようにEDTAおよびEGTAを含むPBS)(ED/EG)、CMC-PBS(血清または血漿希釈後の終濃度が0.5重量%になるようにCMCを溶解したPBS)(CMC)、またはEDTA/EGTA/CMC-PBS(血清または血漿希釈後のそれぞれの終濃度が37.5mM/37.5mM/0.5重量%になるようにEDTA、EGTAおよびCMCを含むPBS)(ED/EG/C)で希釈し、抗CD9抗体(自社製)を固定した磁性ビーズ(Dynabeads M-280 tosylactivated(ライフテクノロジーズ社))を0.26mg/mLとなるように添加した。37℃で1時間回転反応させた後に、磁性ビーズをPBS-Tで3回洗浄し、サンプルバッファー(BIO-RAD社)で希釈してウエスタンブロッティング用サンプルとした。ビオチン化した抗CD9抗体によるウエスタンブロッティング法で免疫沈降効率を解析した(
図4)。抗凝固剤の種類を問わず、血漿検体においてもCMCによるEV回収効率向上の効果を認めた。また、CMCとキレート剤を組み合わせることでさらにEV回収効率が向上した。
【0060】
(実施例5)
CMC(シグマアルドリッチ社#C4888)が、CD9以外の2種類のテトラスパニン膜タンパク質(CD63およびCD81)、および細胞外マトリクスメタロプロテアーゼ誘導物質(CD147)に対する抗体を用いたEV回収に与える効果を検討した。
200μLの健常人血清を20,000×g、4℃で15分間遠心した後、その上清に200μLのPBS、EDTA/EGTA-PBS(血清希釈後の各終濃度50mM)(ED/EG)、CMC-PBS(血清希釈後の終濃度0.5重量%)(CMC)、またはEDTA/EGTA/CMC-PBS(血清希釈後のそれぞれの終濃度37.5mM/37.5mM/0.5重量%)(ED/EG/C)で希釈し、抗CD63抗体(8A12:コスモバイオ社)、抗CD81抗体(M38:アブカム社)および抗CD147抗体(MEM-M6/1:アブカム社)の各抗体を固定した磁性ビーズ(Dynabeads M-280 tosylactivated(ライフテクノロジーズ社))を0.26mg/mLとなるように添加した。4℃で一晩回転反応させた後に、磁性ビーズをPBS-Tで3回洗浄し、サンプルバッファー(BIO-RAD社)で希釈してウエスタンブロッティング用サンプルとした。抗CD63抗体(自社製)、抗CD81抗体(12C4:コスモバイオ社)およびビオチン化抗CD9抗体(自社製)によるウエスタンブロッティング法でEV回収効率を解析した(
図5Aおよび
図5B)。CD63、CD81、およびCD147に対する抗体を用いた場合でもCMCによるEV回収効率向上の効果を認めた。また、CMCとキレート剤を組み合わせることでさらにEV回収効率が向上した。
【0061】
(実施例6)
2種類の体液(尿および唾液)において、CMC(シグマアルドリッチ社#C4888)のEV回収への効果を検討した。
200μLの健常人尿および唾液(それぞれ、2個のサンプル。「#1」および「#2」として表わす。)を15,000×g、4℃で15分間遠心し、0.22μmフィルターにより濾過を行った後、200μLのPBS、EDTA/EGTA-PBS(尿または唾液希釈後の各終濃度50mM)(ED/EG)、CMC-PBS(尿または唾液希釈後の終濃度0.5重量%)(CMC)、またはEDTA/EGTA/CMC-PBS(尿または唾液希釈後のそれぞれの終濃度37.5mM/37.5mM/0.5重量%)(ED/EG/C)で希釈し、抗CD9抗体(自社製)を固定した磁性ビーズ(Dynabeads M-280 tosylactivated(ライフテクノロジーズ社))を0.26mg/mLとなるように添加した。37℃で1時間回転反応させた後に、磁性ビーズをPBS-Tで3回洗浄し、サンプルバッファー(BIO-RAD社)で希釈してウエスタンブロッティング用サンプルとした。ビオチン化した抗CD9抗体によるウエスタンブロッティング法で免疫沈降効率を解析した(
図6)。血清、血漿のみならず、尿および唾液においてもCMCによるEV回収効率向上の効果を認めた。
【0062】
(実施例7)
下記表2に示すセルロース誘導体(0.13重量%~4.0重量%の各終濃度)の、EV回収への効果を検討した。
健常人血清を20,000×g、4℃で15分間遠心した後、200μLの血清を200μLのPBS、CMC-PBS(血清希釈後の終濃度0.5重量%)(CMC)、またはPBSに溶解したセルロース誘導体(血清希釈後の各終濃度0.13~4.0重量%)で希釈し、抗CD9抗体(自社製)を固定した磁性ビーズ(Dynabeads M-280 tosylactivated(ライフテクノロジーズ社))を0.26mg/mLとなるように添加した。37℃で1時間回転反応させた後に、磁性ビーズをPBS-Tで3回洗浄し、サンプルバッファー(BIO-RAD社)で希釈してウエスタンブロッティング用サンプルとした。ビオチン化した抗CD9抗体によるウエスタンブロッティング法でEVの回収効率を解析した(
図7A~C)。CMC以外の3種類のセルロース誘導体においてもPBS希釈サンプルと比較してEV回収効率向上の効果を認めた(HECは0.13重量%~2.0重量%の範囲、HPCは0.25重量%~4.0重量%の範囲、HPMCは0.25重量%~2.0重量%の範囲において)。
【0063】
【0064】
(実施例8)
下記表3に示すポリビニルピロリドン(1重量%、2重量%、4重量%の各終濃度)の、EV回収への効果を検討した。
健常人血清を20,000×g、4℃で15分間遠心した後、200μLの血清を200μLのPBS、またはPBSに溶解したポリビニルピロリドン(血清希釈後の各終濃度1.0~4.0重量%)で希釈し、抗CD9抗体(自社製)を固定した磁性ビーズ(Dynabeads M-280 tosylactivated(ライフテクノロジーズ社))を0.26mg/mLとなるように添加した。37℃で1時間回転反応させた後に、磁性ビーズをPBS-Tで3回洗浄し、サンプルバッファー(BIO-RAD社)で希釈してウエスタンブロッティング用サンプルとした。ビオチン化した抗CD9抗体によるウエスタンブロッティング法でEVの回収効率を解析した(
図8)。ポリビニルピロリドンは1.0重量%~4.0重量%の範囲で、PBS希釈サンプルと比較して、EV回収効率向上の効果が認められた。
【0065】
【0066】
(実施例9)
CMC(シグマアルドリッチ社#C4888)について、35℃から60℃の各反応温度におけるEV回収への効果を検討した。
健常人血清を20,000×g、4℃で15分間遠心した後、100μLの血清を100μLのPBSまたはCMC-PBS(血清希釈後の終濃度0.5重量%)で希釈し、抗CD9抗体(自社製)、抗CD63抗体(8A12:コスモバイオ社)または抗CD81抗体(12C4:コスモバイオ社)を固定した磁性ビーズ(Dynabeads M-280 tosylactivated(ライフテクノロジーズ社))を0.26mg/mLとなるように添加した。各反応温度で5分間反応させた後に、磁性ビーズをPBS-Tで3回洗浄し、サンプルバッファー(BIO-RAD社)で希釈してウエスタンブロッティング用サンプルとした。ビオチン化した抗CD9抗体(自社製)、抗CD63抗体(自社製)および抗CD81抗体(12C4:コスモバイオ社)によるウエスタンブロッティング法でEVの回収効率を解析した(
図9A~
図9C)。CMC添加により35℃から60℃の各反応温度においてEV回収効率向上の効果を認めた。さらに40℃以上の高温条件においてCMC添加によりEV回収効率向上の、より高い効果を認めた。また、CMCによるEV回収効率向上効果は短時間の反応においても効果を認めた。
【0067】
(実施例10)
実施例7で用いたセルロース誘導体および実施例8で用いたポリビニルピロリドンのPBS溶液中の粘度を測定した。具体的には、2重量%になるように各セルロース誘導体又はポリビニルピロリドンをPBSに溶解して調製した各PBS溶液を粘性解析装置レオロジースペクトロメータSKR100(ヤマト科学社)を用いて、30℃、測定時間60秒にて、200rpm、400rpm、600rpm、800rpmの各回転速度で測定した結果の平均として求めた(表4)。
【0068】
【0069】
(実施例11)
CMC(シグマアルドリッチ社#C4888)およびテトラスパニン膜タンパク質(CD9およびCD63)に対する抗体を用いた免疫沈降法によるEV回収およびEVからのマーカー(EML4-ALK融合遺伝子)RNAの検出への効果を検討した。
3日間無血清培地で培養したヒト肺癌細胞H2228の培養上清をサンプルとして用いた。培養上清を、2,000×g、4℃で5分間遠心し、0.22μmフィルター(ミリポア社製)で濾過した後、Amicon Ultra-15(ミリポア社製)を用いて100倍に濃縮した。
濃縮物を等量のPBS、EDTA/EGTA-PBS(濃縮物を希釈した後の各終濃度50mM)(ED/EG)、CMC-PBS(濃縮物を希釈した後の終濃度0.5重量%)(CMC)、またはEDTA/EGTA/CMC-PBS(濃縮物を希釈した後のそれぞれの終濃度37.5mM/37.5mM/0.5重量%)(ED/EG/C)で希釈し、抗CD9抗体(自社製)、抗CD63抗体(自社製)の各抗体を固定したDynabeads M-280 tosylactivated(ライフテクノロジーズ社)をそれぞれ0.26mg/mLとなるように添加した。4℃で一晩、回転反応させた後に、PBS-Tで3回洗浄し、miRNeasy micro kit(QIAGEN社製)を用いてトータルRNAを精製した。精製したトータルRNAからSuperScript(商標)IV First-Strand Synthesis System(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてcDNAを作成し、Droplet Digital PCR(BioRad社製)を用いてEML4-ALK mRNAを定量した(
図10)。
EML4-ALK mRNAの検出には以下の表5に示す配列のプライマーおよび蛍光プローブを用いた。蛍光プローブとして、5’末端に蛍光物質HEXと、プローブの内部にZENクエンチャーと、3’末端にIowa Black(登録商標)クエンチャー(IABkFQ)とを有するダブルクエンチャープローブを用いた。表5に示す配列のプライマーおよび蛍光プローブを用いることにより、EML4-ALK融合遺伝子のバリアント3aおよび3bを検出することができる。
【0070】
【0071】
免疫沈降法により回収したEVに含まれるEML4-ALKを検出した。CMCを用いることで、EML4-ALK mRNA検出量が増大し、EV回収効率の向上効果を認めた。さらに、キレート剤を添加することで、EML4-ALK mRNA検出量がより増大し、EV回収効率のより向上した効果を認めた。