(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111061
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】放電プラズマ焼結方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/14 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
B22F3/14 101A
B22F3/14 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024096275
(22)【出願日】2024-06-13
(62)【分割の表示】P 2020129874の分割
【原出願日】2020-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】392004912
【氏名又は名称】株式会社菅製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000316
【氏名又は名称】弁理士法人ピー・エス・ディ
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 晃太朗
(57)【要約】
【課題】 粉末材料の粒子間の不純物及び粒子表面に付着した不純物を、より効果的に除去することを可能にする放電プラズマ焼結装置及び放電プラズマ焼結方法を提供する。
【解決手段】 放電プラズマ焼結装置は、ダイの内空間に挿入される第1のパンチ及び第2のパンチと、第1及び第2のパンチに通電するための電極と、第1のパンチ及びダイの少なくとも一方を、第1のパンチの内空間への挿入と内空間からの取り出しとが可能になるように移動させる、移動機構とを備える。第1のパンチと第1のパンチに通電する電極との間には、第1のパンチを着脱可能に保持するパンチ保持部が配置される。第1のパンチは、パンチ保持部が保持可能な対応する被保持部を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のダイの内空間に充填された粉末材料を真空雰囲気においてパンチで加圧しながら通電することによって粉末材料を焼結する放電プラズマ焼結方法であって、
前記粉末材料が充填された前記ダイの周囲を真空雰囲気にする真空工程と、
前記粉末材料を加熱する加熱工程と、
前記パンチが前記内空間に挿入されていない状態で、加熱された前記粉末材料を保持する、保持工程と、
前記パンチを前記内空間に挿入し、前記パンチによって前記粉末材料を加圧しながら前記粉末材料に通電する、焼結工程と
を含む放電プラズマ焼結方法。
【請求項2】
前記加熱工程は、前記パンチを前記内空間に挿入し、前記パンチを介して通電することによって前記粉末材料を加熱し、前記パンチを前記内空間から取り出すことを含む、請求項1に記載の放電プラズマ焼結方法。
【請求項3】
前記真空工程は、前記パンチが前記ダイの前記内空間に挿入されていない状態で、前記粉末材料が充填された前記ダイの周囲を真空雰囲気にすることを含む、
請求項1又は請求項2に記載の放電プラズマ焼結方法。
【請求項4】
前記加熱工程は、前記ダイを外部から加熱することによって前記粉末材料を加熱することを含む、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の放電プラズマ焼結方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末材料を加圧しながら通電することによって焼結する放電プラズマ焼結技術に関し、より具体的には、粉末材料の粒子間に存在する気体や粒子に付着した不純物等を効果的に除去することを可能にする放電プラズマ焼結装置及び放電プラズマ焼結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属やセラミックスなどの焼結方法として、放電プラズマ焼結(通電焼結、パルス通電加圧焼結などとも呼ばれる)が用いられている。放電プラズマ焼結は、粉末状の材料を加圧しながらパルス通電加熱を行うことによって、材料を焼結する方法である。放電プラズマ焼結は、焼結体の製造方法として用いられてきたホットプレス焼結、熱間等方加圧焼結などと比較して、低温度で短時間に焼結が可能であること、成形性がよく、従来の焼結法では成形できなかった材料の焼結も可能であること、粒成長を制御した緻密な焼結体を作製できること、ホットプレス焼結に比べて消費電力が低いことなどといった利点があり、近年、注目されている。
【0003】
従来の放電プラズマ焼結装置の一般的な構成は、
図9の模式図に示されるとおりである。放電プラズマ焼結装置5は、粉末材料Mが充填される内空間を有する筒状のダイ52と、ダイ52の上端及び下端から内空間に挿入される2つのパンチ53、54とを備える。ダイ52と2つのパンチ53、54とは、通常、黒鉛(グラファイト)を用いて成形されている。ダイ52及び2つのパンチ53、54は、真空チャンバー50の内部において、スペーサー55、56を介して粉末材料Mにパルス通電を行うための電極57、58によって挟まれるように配置される。下部のパンチ54は、プレス機構70によって筒状のダイ52の軸方向に移動可能になっており、これにより、ダイ52の内空間に充填された粉末材料Mを加圧することができる。放電プラズマ焼結を行う場合には、粉末材料Mをダイ52の内空間に入れ、パンチ53、54を粉末材料に接触するまで内空間に挿入し、ダイ52及びパンチ53、54を組み合わせたものを真空チャンバー50内に配置する。次いで、開閉バルブ62を開けて真空ポンプ61によって真空チャンバー50内の空気を排気し、プレス機構70を作動させパンチ53、54によって粉末材料Mを加圧しながら、電極57、58によって粉末材料Mにパルス通電を行う。これにより、粉末材料Mから焼結体が作製される。
【0004】
ダイに充填される粉末材料は、焼結体の物性を安定させるために、できるだけ純度の高い原料が用いられることが望ましい。しかし、充填された粉末材料の粒子間には空間が存在し、その空間に空気などの気体や異物が存在する。また、粉末材料の粒子個々の表面に、空気に含まれる酸素、窒素等の気体や、水分、酸化被膜、取り扱いの際に付着した皮脂などの異物が付着することは避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-131921号公報
【特許文献2】特開平9-324228号公報
【特許文献3】特開2003-49207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
粒子間の空間に存在する気体や異物及び粒子表面に付着した気体や異物(以下、「不純物」という)を除去するために、焼結工程チャンバーに連結され、特定の雰囲気に制御されるグローブボックス式の前工程チャンバーを設けた装置が、特許文献1に提案されている。この装置では、不活性ガス雰囲気の前工程チャンバー内で原料粉末の秤量、焼結型(ダイ)への充填、焼結型へのパンチ挿入、減チャンバー圧を実行し、これを外気に触れずに焼結工程チャンバーに移るため、原料粉末調製時の汚染がない焼結体の製造を可能にするとされている。しかし、この技術は、装置及び作業が大掛かりかつ複雑になるとともに、不活性ガスの常時使用による環境への影響が問題となる。
【0007】
粒子間及び粒子表面の不純物を除去するための技術は、特許文献2及び特許文献3にも開示されている。特許文献2には、金属粉末を黒鉛性のダイ及び電極をかねた上下パンチの間に充填し、これを容器内の焼結ステージに配置して容器内を減圧することによって、金属粉末に吸着しているガス等を除去することが開示されている。また、特許文献3には、アルミニウム合金粉体を入れた容器を加熱しながら、容器内の空気を真空雰囲気まで減じることによって、アルミニウム合金粉末から水、水酸化物などの材質劣化物除去することが開示されている。
【0008】
しかし、特許文献2に開示されるように、減圧によって金属粉末に吸着しているガス等を除去することのみでは、十分な不純物除去が達成されない。また、特許文献3に開示される技術は、原料粉末が封入された金属容器を加熱しながら減圧し、内部の原料粉末が所定のかさ密度となるように圧縮して被焼結体を得た後、被焼結体を容器から取り出す必要がある。したがって、工程が多く、処理が複雑である。
【0009】
放電プラズマ焼結装置では、通常、ダイとパンチとが、粉末材料の逃げ隙間が生じないように高精度に嵌合しており、ダイの内壁とパンチとの勘合隙間が極めて小さい。また、ダイに充填された粉末材料にパンチが接触したときに、ダイとパンチとの境界部分に粉末材料が入り込む場合があると考えられる。したがって、ダイにパンチを挿入した状態で真空にしただけでは、粉末材料の粒子間の不純物も粒子表面に付着した不純物も、容易に排出されない。不純物が排出されないまま粉末材料を焼結すると、不純物が焼結体に吸蔵され、純度が低下するおそれがある。また、焼結体内部に高圧が維持された状態の空孔が閉じ込められ、クラック等の起点となり、焼結体の機械的強度が低下する可能性がある。
【0010】
本発明は、粉末材料の粒子間の不純物及び粒子表面に付着した不純物を、従来の方法より効果的に除去することを可能にする放電プラズマ焼結装置及び放電プラズマ焼結方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者は、粉末材料が充填された空間を開放した状態でチャンバーを真空にするとともに粉末材料が充填された空間を開放した状態で加熱による不純物除去を行うこと、あるいは、粉末材料が充填された空間を開放した状態で加熱による不純物除去を複数回にわたって行うことによって、粉末材料の粒子間の不純物及び粒子表面に付着した不純物をより効果的に除去することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明は、その第1の態様において、筒状のダイの内空間に充填された粉末材料を真空雰囲気においてパンチで加圧しながら通電することによって粉末材料を焼結する放電プラズマ焼結装置を提供する。放電プラズマ焼結装置は、ダイの内空間に挿入される第1のパンチ及び第2のパンチと、第1及び第2のパンチに通電するための電極と、第1のパンチ及びダイの少なくとも一方を、第1のパンチの内空間への挿入と内空間からの取り出しとが可能になるように移動させる、移動機構とを備える。第1のパンチと第1のパンチに通電する電極との間には、第1のパンチを着脱可能に保持するパンチ保持部が配置される。第1のパンチは、パンチ保持部が保持可能な対応する被保持部を有する。一実施形態においては、第1のパンチと第1のパンチに通電する電極との間にスペーサーを配置し、そのスペーサーにパンチ保持部を設けるようにすることもできる。
【0013】
一実施形態において、第1のパンチの被保持部とパンチ保持部とは、第1のパンチが移動できるように構成されていることが好ましい。第1のパンチが移動できることにより、移動機構の作動によって真空雰囲気内で第1のパンチが内空間に挿入されるときに、第1のパンチと内空間とを自動的に位置合わせさせることができる。このことを実現するために、一実施形態においては、第1のパンチの被保持部はツバを有し、パンチ保持部はツバと係合するフックを有することが好ましい。
【0014】
一実施形態において、ダイは、第1のパンチを内空間に位置合わせさせるためのガイド部を有することが好ましい。ガイド部は、ダイにおける第1のパンチが挿入される側の入口部分に内空間の奥に向かって形成されたテーパー加工部であることが好ましい。
【0015】
本発明は、第2の態様において、筒状のダイの内空間に充填された粉末材料を真空雰囲気においてパンチで加圧しながら通電することによって粉末材料を焼結する放電プラズマ焼結方法を提供する。放電プラズマ焼結方法は、粉末材料が充填されたダイの周囲を真空雰囲気にする真空工程と、粉末材料を加熱する加熱工程と、パンチが内空間に挿入されていない状態で、加熱された粉末材料を保持する、保持工程と、パンチを内空間に挿入し、パンチによって粉末材料を加圧しながら粉末材料に通電する、焼結工程とを含む。真空工程においては、パンチがダイの内空間に挿入されていない状態で、粉末材料が充填されたダイの周囲を真空雰囲気にすることがより好ましい。
【0016】
一実施形態においては、加熱工程は、パンチを内空間に挿入し、パンチを介して通電することによって粉末材料を加熱し、その後パンチを内空間から取り出すことを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、真空雰囲気内で、作業者がダイ及びパンチに触れることなくダイ内部へのパンチの挿入とダイからのパンチの取り出しとを行うことができるため、非加熱不純物除去と加熱不純物除去とを一連の工程の中で連続的に行うことや、加熱不純物除去工程を複数回にわたって行うことが可能である。したがって、本発明に係る装置及び方法は、不純物が効果的に除去されるため純度のばらつきが低減されるとともに、粉末空間の真空化にともなって高密度化された、安定した品質の焼結体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る放電プラズマ焼結装置の主要部の構成を示す図である。
【
図2】放電プラズマ焼結装置に用いられる上部パンチを示す図であり、(a)は縦断面図、(b)は底面図である。
【
図3】放電プラズマ焼結装置に用いられる上部スペーサーを示す図であり、(a)は縦断面図、(b)は底面図である。
【
図4】放電プラズマ焼結装置に用いられるダイを示す縦断面図である。
【
図5】上部パンチがダイの内空間に挿入される際に、上部パンチが自動的に位置合わせされる状態を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る放電プラズマ焼結方法の工程を示すフロー図である。
【
図7】加熱不純物除去を行った焼結体試料のEDS元素マッピング画像である。
【
図8】加熱不純物除去を行わなかった焼結体試料のEDS元素マッピング画像である。
【
図9】従来の放電プラズマ焼結装置の主要部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内で、適宜変更して実施することができる。
【0020】
[放電プラズマ焼結装置の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る放電プラズマ焼結装置1(以下、単に装置1という)の主要部の構成を示す模式図である。
図1に示される主要部は、装置1の筐体(図示せず)の内部に収納されている。装置1は、内空間11を有する円筒形状のダイ12と、ダイ12の内空間11に挿入される上部パンチ13及び下部パンチ14とを備える。上部パンチ13は、ダイ12の上方から内空間11に挿入され、下部パンチ14は、ダイ12の下方から内空間11に挿入される。上部パンチ13及び下部パンチ14の内空間11に挿入される部分の形状は、内空間11に合わせた形状を有する。内空間11には粉末材料Mが充填され、粉末材料Mは、上部パンチ13及び下部パンチ14で加圧されながら通電されることによって、焼結体となる。
【0021】
ダイ12、上部パンチ13及び下部パンチ14は、導電性材料で形成されるものであることが好ましい。具体的には、黒鉛(グラファイト)、鉄鋼材料、炭化ケイ素、炭化タングステン等によって形成されるものであることが好ましく、黒鉛によって形成されるものであることがより好ましい。ダイ12及び内空間11、並びに上部パンチ13及び下部パンチ14の大きさ及び形状は、特に限定されるものではなく、目的とする焼結体の大きさや形状、設備の規模に応じて、適宜設計することができる。また、ダイ12と上部パンチ13及び下部パンチ14とは、粉末材料Mの逃げ隙間が生じないように(逃げ隙間が存在すると高圧にならない)、ダイ12の内壁と上部パンチ13及び下部パンチ14との勘合隙間が極めて小さくなるように形成されている。
【0022】
上部パンチ13には、上部スペーサー15を介して上部電極17が接続され、下部パンチ14には、下部スペーサー16を介して下部電極18が接続される。上部スペーサー15及び下部スペーサー16もまた、ダイ12、上部パンチ13及び下部パンチ14と同様の導電性材料で形成され、黒鉛で形成されるものであることがより好ましい。上部電極17及び下部電極18は、直流パルス状の電力や単相全波状の電力を発生させる電源(図示せず)に接続される。電源によって発生した電力は、上部電極17及び下部電極18、上部スペーサー15及び下部スペーサー16、並びに上部パンチ13及び下部パンチ14を介してダイ12(粉末材料Mが導電性材料の場合は粉末材料M自体)に印加される。
【0023】
ダイ12、上部パンチ13及び下部パンチ14、上部スペーサー15及び下部スペーサー16、並びに上部電極17及び下部電極18の一部は、真空チャンバー10の内部に配置される。真空チャンバー10の内部は、開閉バルブ22を開け、真空ポンプ21によって空気を排気することにより、真空雰囲気にすることができる。
【0024】
上部電極17は、装置1の内部のいずれかの位置に固定され、下部電極18は、図示しないプレス機構(移動機構)30によって上下方向に移動可能になっている。プレス機構30が下部電極18を上方に移動させることによって、下部パンチ14が内空間11の内部を上方に移動し、内空間11に充填された粉末材料Mに高圧を付加することができる。なお、真空チャンバー10においては、内部を真空に維持したままの状態で、下部電極18を上下に移動させることができるように構成されている。この実施形態では、下部電極18がプレス機構30によって移動するように構成されているが、これに限定されるものではなく、上部電極17が移動可能に構成されていてもよく、また、上部電極17及び下部電極18がいずれも移動可能に構成されていてもよい。
【0025】
(上部スペーサー及び上部パンチ)
図2は、装置1に用いられる上部パンチ13を示す図であり、(a)は縦断面図、(b)は底面図である。また、
図3は、装置1に用いられる上部スペーサー15を示す図であり、(a)は縦断面図、(b)は底面図である。
【0026】
上部パンチ13は、円柱形状の本体131と、上部スペーサー15に保持されるための被保持部とを備える。本実施形態においては、被保持部は、
図2に示されるように、本体131の側面から突出するように設けられた円環形状のツバ132である。一方、上部スペーサー15は、円柱形状の本体151と、上部パンチ13を着脱可能に保持するパンチ保持部とを備える。本実施形態においては、パンチ保持部は、本体151の下面から下方に(すなわち、上部パンチ13の方向に向かって)突出するように設けられたフック152、153である。フック152、153は、
図3に示されるように、互いに対向するように形成された突起部分152a、153aを有する。
【0027】
本実施形態においては、
図1に示されるように、上部パンチ13は、ツバ132の下面が上部スペーサー15の突起部分152a、153aの上面に接するように載置される。したがって、上部パンチ13は、上部スペーサー15に係合した状態でも自由に横方向に移動可能となる。このような構造により、プレス機構30が下部電極18を上下に移動させることによって、真空雰囲気内で上部パンチ13をダイ12の内空間11に挿入したり、上部パンチ13をダイ12の内空間11から取り出したりすることが可能になる。また、プレス機構30が下部電極18を上方に移動させることによって真空雰囲気内で上部パンチ13がダイ12の内空間11に挿入されるときに、上部パンチ13の中心軸線と内空間11の中心軸線とが一致していなくても、上部パンチ13が横方向に移動して自動的に内空間11と位置合わせされるようになる。この点は、後述のダイ12の記載部分において、
図5を用いてあらためて説明する。
【0028】
別の実施形態においては、上部パンチ13に設けられた被保持部を雄ネジとし、上部スペーサー15の中央部分に設けられたパンチ保持部を雌ネジとした構成を採用して、雄ネジを雌ネジに螺着することによって、上部パンチ13を上部スペーサー15に着脱可能に取り付けることができるようにしてもよい。この構造により、プレス機構30が下部電極18を上下に移動させることによって、真空雰囲気内で上部パンチ13をダイ12の内空間11に挿入したり、上部パンチ13をダイ12の内空間11から取り出したりすることが可能になる。さらに別の実施形態においては、例えば上部スペーサー15のフック152及び153を貫通して上部パンチ13まで達するピンを用いて、上部パンチ13を上部スペーサー15に着脱可能に取り付けることができる。さらにまた別の実施形態においては、例えば上部スペーサー15の内空間などの適切な位置にワイヤーを取り付け、そのワイヤーに上部パンチ13を吊るすことによって、上部パンチ13を上部スペーサー15に着脱可能に取り付けることができる。
【0029】
さらに別の実施形態において、上部スペーサー15を用いない場合、すなわち、上部パンチ13が上部電極17に直接接触する構成の場合には、パンチ保持部(
図1の場合はフック152、153)が、上部電極17の下面に設けられていてもよい。例えば、上部電極17の下面から下方に突出するように、
図3に示されるようなフック部を設けることができる。
【0030】
(ダイ)
図4は、装置1に用いられるダイ12を示す縦断面図である。ダイ12は、上部パンチ13が挿入される入口部分111に、上部パンチ13と内空間11との位置合わせを補助するためガイド部を有することが好ましい。本実施形態においては、
図1及び
図4に示されるように、ダイ12は、上部パンチ13が挿入される側の入口部分111において、内空間11に面する角部を円周方向全体にわたって切り取った形状とすることが好ましい。すなわち、本実施形態におけるダイ12のガイド部は、入口部分111から内空間11の奥に向かって内空間11の径が次第に狭くなるように内空間11に面する角部に設けられたテーパー加工部122である。このようにダイ12の入口部分111においてテーパー加工部122を設けることによって、向か雰囲気内で上部パンチ13を挿入するときに、上部パンチ13と内空間11との位置合わせが容易になる。テーパー加工部122は、ダイ12の径方向の対向する位置においてテーパー加工部122の向か沿って内空間11内に下ろした2つのときの間の角度(
図4の角度θ)が、限定されるものではないが、45°~80°であることが好ましい。この角度が小さすぎるとダイ12と上部パンチ13との間のズレ許容度が小さくなり、この角度が大きすぎるとテーパー加工部122において上部パンチ13が滑りづらくなるため、いずれも好ましくない。
【0031】
ダイ12と上部パンチ13との位置合わせについて、
図5を用いて説明する。
図5(a)は、下部パンチ14が挿入され、粉末材料Mが充填されたダイ12を、真空チャンバー10の内部に(より詳細には下部スペーサー16の上に)配置した状態を示す。上部スペーサー15には、上部パンチ13が取り付けられている。この後、放電プラズマ焼結方法の説明において後述されるように、真空チャンバー10内部を真空雰囲気にした状態で加熱工程を実行する際に、プレス機構30によって下部電極18を上昇させる。
図5(b)に示されるように、ダイ12が矢印Aの方向に移動した場合に、上部パンチ13の中心軸線と内空間11の中心軸線とがずれているときには、上部パンチ13の下端の一部がダイ12の一部に当たる。このとき、上部パンチ13が横移動可能に上部スペーサー15に保持されているとともに、ダイ12にテーパー加工部122が設けられているため、
図5(c)に示されるように、ダイ12が矢印Aの方向にさらに移動するにつれて、上部パンチ13は、ツバ132が上部スペーサー15の突起部分152a、153aに載った状態で、テーパー加工部122の傾斜に沿って滑り、矢印Bの方向に移動する。このようにして、上部パンチ13は、プレス機構30の作動によって真空雰囲気内で内空間11に挿入されるときに、内空間11と自動的に位置合わせされる。
【0032】
(ヒータ)
本発明の別の実施形態においては、粉末材料Mをダイ12の外部から加熱するための加熱部としてヒータ42を設けるようにしてもよい。ヒータ42は、例えばダイ12の外周を囲むように配置されるリング形状を有し、ヒータホルダ41に保持されている。ヒータ42は、上下駆動部43の動作によって、真空チャンバー10の内部を上方からダイ12の側方まで移動させることができるようになっているため、ダイ12を真空チャンバー10に出し入れする際の作業性が問題になることはない。
【0033】
[放電プラズマ焼結方法]
図6は、本発明の一実施形態に係る放電プラズマ焼結方法の工程を示すフロー600である。フロー600は、ダイ12及び上部パンチ13を設置する工程、不純物を除去する工程、及び粉末材料Mを焼結・冷却する工程を示す。フロー600の前に、前工程及び後工程が行われる。
【0034】
(前工程)
最初に、作業者が、真空チャンバー10の外部で、ダイ12の内空間11に下部パンチ14を挿入し、ダイ12及び下部パンチ14によって形成される内空間11に必要量の粉末材料Mを充填する。本実施形態においては、ダイ12は円筒形状であり、下部パンチ14は円柱形状であるが、これに限定されるものではなく、作製される焼結体の所望の形状に合わせた形状のダイ及びパンチを準備すればよい。粉末材料Mは、放電プラズマ焼結によって焼結体を形成できるものであれば限定されず、例えば、金属、合金や、酸化物、炭化物、窒化物などのセラミックスなどを適宜用いることができる。
【0035】
(設置工程)
次に、粉末材料Mが充填され、下部パンチ14が挿入されたダイ12を、真空チャンバー10内の下部スペーサー16上の所定位置に設置する(s601)。ダイ12に温度コントロール用の熱電対(図示せず)が取り付けられる。上部パンチ13が、
図1及び
図5に示されるように上部スペーサー15に取り付けられる(s602)。このとき、上部パンチ13を横移動させてフック152、153の間から挿入し、ツバ132がフック152、153の突起部分152a、153aに載るようにする。最後に、真空チャンバー10の扉を閉じる。
【0036】
(不純物除去工程)
不純物を除去する工程は、真空雰囲気内で加熱することなく粉末材料Mの粒子間に存在する気体を除去する無加熱不純物除去工程と、真空雰囲気内で粉末材料Mに熱を与えながら粉末材料Mの粒子に付着した気体や異物を除去する加熱不純物除去工程とを含むことが好ましい。まず、真空チャンバー10の扉を閉めた後、開閉バルブ22を空けて真空ポンプ21によって真空チャンバー10内の空気を排気する(s603)。このとき、上部パンチ13は、ダイ12の内空間11には挿入されていない。このように上部パンチ13をダイ12の内空間11に挿入しない状態で排気を行うことによって、粉末材料Mの粒子間に存在する気体を除去することができる(s604:無加熱不純物除去)。真空度は、粉末材料Mの種類や、作製される焼結体の目標とする性能及び特性等に応じて適宜選択することができるが、典型的には、10Pa~1×10-3Paであることが好ましい。
【0037】
次に、プレス機構30を作動させ、真空チャンバー10内を真空に保ったまま下部電極18を上方に移動させることによって、上部パンチ13を内空間11に挿入する(s605)。このとき、上部パンチ13と内空間11との位置合わせが、
図5を用いて上述したとおり行われる。粉末材料Mへの加圧力が所定の加圧力に達したら、上部電極17及び下部電極18によって通電し、粉末材料Mの温度が所定の温度になるまで加熱する(s607)。粉末材料Mに与える加圧力及び所定の温度は、粉末材料Mの種類や、作製される焼結体の目標とする性能及び特性等に応じて適宜選択することができる。加圧力は、0.1kN以上であることが好ましく、必要に応じて装置1の最大加圧力まで使用することができる。また、温度は、必要に応じて室温より高い温度から焼結温度以下までのいずれかの温度とすることができる。一例として、加圧力を0.1kN、温度を150°Cとすることができる。
【0038】
所定の温度まで加熱した後、プレス機構30を作動させて、下部電極18を下方に移動させることによって、上部パンチ13を内空間11から取り出す。加熱された状態の粉末材料Mを、この状態で真空雰囲気において所定時間にわたって保持する(s608)。保持時間は、粉末材料Mの種類や、作製される焼結体の目標とする性能及び特性等に応じて適宜選択することができ、必要に応じて1分~99分とすることができ、一例として、保持時間を3分とすることができる。上部パンチ13がダイ12に挿入されていない状態で、加熱された粉末材料Mを真空雰囲気で保持することによって、粉末材料Mの粒子の表面に付着した気体や不純物が除去される(s609:加熱不純物除去)。以上のように、無加熱不純物除去工程及び加熱不純物除去工程の両方を行うことによって、高純度かつ機械的強度の高い焼結体を得ることができる。なお、加熱不純物除去は、必要に応じて複数回行ってもよく、複数回行う場合には、s605~s609の工程が複数回繰り返される。本発明に係る装置1では、真空雰囲気内で上部パンチ13をダイ12に挿入したり取り出したりすることができるため、加熱不純物除去を複数回にわたって行うことが可能である。
【0039】
別の実施形態においては、不純物除去工程を加熱不純物除去のみとすることもできる。この場合には、s602において上部パンチ13を上部スペーサー15に取り付けた後、プレス機構30を作動させて上部パンチ13をダイ12に挿入し、同時に又はそれと前後して、真空チャンバー10内の空気を排気する(s606)。その後、上部電極17及び下部電極18によって通電して、粉末材料Mの温度が所定の温度になるまで加熱する(s607)。さらに、上部パンチ13を内空間11から取り出し、加熱された状態の粉末材料Mを、この状態で真空雰囲気において所定時間にわたって保持する(s608)ことによって、加熱不純物除去を行う(s609)。この場合には、無加熱不純物除去が行われないので、s605~s609の工程を複数回繰り返して加熱不純物除去を複数回行うことが特に好ましい。
【0040】
さらに別の実施形態においては、ヒータ42を用いてダイ12の外部からの熱によって粉末材料Mを加熱することもできる。この場合には、無加熱不純物除去工程を終えた後、ヒータ42がダイ12の側方に位置するようにヒータホルダ41を移動させ、上部パンチ13を内空間11に挿入しない状態で粉末材料Mを加熱し、加熱を続けた状態又は加熱を停止した状態で、粉末材料Mを真空雰囲気において所定時間にわたって保持する。
【0041】
(焼結・冷却工程)
加熱された状態の粉末材料Mを、真空雰囲気において所定時間にわたって保持した後、プレス機構30を動作させ、真空チャンバー10内を真空に保ったまま下部電極18を再び移動させることによって、再度、上部パンチ13を内空間11に挿入する(s610)。プレス機構30の動作は、粉末材料Mの加圧力が所定の数値になるまで行われる。所定の加圧力に達した後、所定の昇温速度及び焼結温度で、所定の焼結時間にわたって、上部電極17及び下部電極18によって通電し、焼結を行う(s611)。焼結の際の加圧力、昇温速度、焼結温度及び焼結時間は、粉末材料Mの種類や、作製される焼結体の目標とする性能及び特性等に応じて適宜選択すれば良い。例えば、加圧力を7kN、昇温速度を240°C/分、焼結温度を500°C、焼結時間を2分とすることができる。焼結が完了したら、通電を終了し、ダイ12の温度が設定温度に低下するまで放置した後、必要に応じて冷却ガスをダイ12に吹きつけることによって急速冷却を行う(s612)。
【0042】
(後工程)
ダイ12の冷却が完了した後、後工程が行われる。具体的には以下のとおりである。まず、真空チャンバー10の真空状態を解放する。次いで、プレス機構30を作動させて下部電極18を下方に移動させ、ダイ12、上部パンチ13及び下部パンチ14を真空チャンバー10から取り出す。このとき、上部パンチ13のツバ132が上部スペーサー15の突起部分152a、152bに載っているので、上部パンチ13を横移動させてフック152、153の間から取り出す。必要に応じて治具を用いて、上部パンチ13、下部パンチ14をダイ12から外し、焼結体を取り出す。必要に応じてバリを除去することによって、焼結体が完成する。
【実施例0043】
(実施例1)
本発明に係る装置は、真空雰囲気内で上部パンチをダイに挿入したり取り出したりすることができる。したがって、加熱不純物除去を複数回にわたって行うことが可能である。ここでは、複数回にわたって加熱不純物除去を行ったときの不純物除去効果を確認した。直径15mmのパンチ及びそれに対応するダイを用いて、3種類の焼結試料を作成し、不純物除去効果の比較を行った。3種類の試料の粉末材料、焼結体の重量、焼結プロセス条件、及び加熱不純物除去の条件は、表1~表3に示すとおりである。なお、表において「加熱Degas」は「加熱不純物除去」を表す。No.8及びNo.9の試料では、ステアリン酸粉末を不純物と想定して、粉末原料に混合した。加熱Degasの繰り返し回数は2回とした。
【0044】
【0045】
【0046】
【表3】
実験結果を表4に示す。また、
図7及び
図8は、試料No.8及び試料No.9の焼結体を切断して切断面を研磨し、EDS(エネルギー分散型X線分析装置)による元素マッピング画像である。
【0047】
【0048】
試料No.8と試料No.9とを比較すると、試料No.8の方が焼結体重量は軽くなり、No.8の焼結後には真空チャンバー内部が全体的に白くなった。これは、加熱不純物除去によってステアリン酸が気化し、温度が低い真空チャンバー内壁や真空チャンバーのビューポートガラスに付着したためと考えられる。また、EDS観察結果から、試料断面に残るC(炭素)成分は、試料No.9(
図8)よりNo.8(
図7)の方が少ないことがわかる。これらのことから、加熱不純物除去によって、粉末材料の不純物を焼結前に除去することができ、純度を高めることが可能であると考えられる。