(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111123
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
H01G4/30 201G
H01G4/30 201F
H01G4/30 516
H01G4/30 513
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024098072
(22)【出願日】2024-06-18
(62)【分割の表示】P 2019230076の分割
【原出願日】2019-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渥美 照夫
(57)【要約】
【課題】水素による悪影響を受けにくい積層セラミック電子部品を提供する。
【解決手段】積層セラミック電子部品は、セラミック素体と、外部電極と、を具備する。セラミック素体は、一軸方向に積層された複数の内部電極と、一軸と平行な平面に沿って延びる端面と、を有する。外部電極は、内層部と外層部とを有する。内層部は、Cuを主成分とし、Nb,Hf,Ta,W,Ptからなる群から選択される少なくとも1つで構成される添加元素を含むか、或いは、Niを主成分とし、V,Cr,Mn,Zr,Nb,Mo,Ru,Hf,Ta,W,Ptからなる群から選択される少なくとも1つで構成される添加元素を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一軸方向に積層された複数の内部電極と、前記一軸と平行な平面に沿って延び、前記複数の内部電極のうちの少なくとも一部が引き出された端面と、を有するセラミック素体と、
前記端面に隣接する内層部と、前記内層部を介して前記端面を覆う外層部と、を有する外部電極と、
を具備し、
前記内層部は、Cuを主成分とし、Nb,Hf,Ta,W,Ptからなる群から選択される少なくとも1つで構成される添加元素を含む
積層セラミック電子部品。
【請求項2】
請求項1に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記内層部は、さらに、Al,Si,P,S,Cl,Zn,Ga,Ge,Se,Br,Ag,In,Sn,Sb,Te,I,Au,Pb,Biからなる群から選択される少なくとも1つで構成される添加元素を含む
積層セラミック電子部品。
【請求項3】
一軸方向に積層された複数の内部電極と、前記一軸と平行な平面に沿って延び、前記複数の内部電極のうちの少なくとも一部が引き出された端面と、を有するセラミック素体と、
前記端面に隣接する内層部と、前記内層部を介して前記端面を覆う外層部と、を有する外部電極と、
を具備し、
前記内層部は、Niを主成分とし、V,Cr,Mn,Zr,Nb,Mo,Ru,Hf,Ta,W,Ptからなる群から選択される少なくとも1つで構成される添加元素を含む
積層セラミック電子部品。
【請求項4】
請求項3に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記内層部は、さらに、Al,Si,P,Zn,Ga,Ge,Se,Br,Pd,Ag,In,Sn,Sb,Te,I,Au,Pb,Biからなる群から選択される少なくとも1つで構成される添加元素を含む
積層セラミック電子部品。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記外層部は、少なくとも1層のメッキ膜として構成される
積層セラミック電子部品。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記内層部は、0.1質量%以上30質量%以下の前記添加元素を含む
積層セラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部電極を備えた積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、積層セラミックコンデンサの製造工程には、外部電極を形成するためのメッキ工程が含まれる。このメッキ工程で発生する水素は、外部電極内に吸蔵されて残存しやすい。積層セラミックコンデンサでは、外部電極内の水素がセラミック素体内に拡散することによって、絶縁抵抗の低下などの不具合が発生する。
【0003】
これに対し、特許文献1~7には、外部電極内の水素による悪影響を抑制するための技術が開示されている。特許文献1に記載の技術では、メッキ工程の前のセラミック素体に、水素と反応して水を形成するH2O2を含浸させる。特許文献2に記載の技術では、外部電極内の水素を外部に逃がすための開口部が設けられる。
【0004】
また、特許文献3~7には、外部電極の内側に水素の拡散を防止するための保護層が設けられる。各保護層としては、特許文献3ではTaN,TiNが用いられ、特許文献4ではPd,Pt,Cu,Auが用いられ、特許文献5ではAg,Al,Au,Bi等が用いられ、特許文献6では酸化銅が用いられ、特許文献7ではMoが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63-169712号公報
【特許文献2】特開2013-110239号公報
【特許文献3】特開2012-243998号公報
【特許文献4】特開2012-248622号公報
【特許文献5】特開2016-058719号公報
【特許文献6】特開2016-066783号公報
【特許文献7】特開2018-101751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような外部電極の内側に保護層を設ける構成では、外部電極と内部電極との間の電気抵抗の増大などに起因する性能の低下が生じ、また保護層を設けるための工程が必要となるため製造コストが増加する。したがって、積層セラミックコンデンサでは、保護層を設けずにセラミック素体内への水素の拡散を防止可能な技術が望まれる。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、水素による悪影響を受けにくい積層セラミック電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る積層セラミック電子部品は、セラミック素体と、外部電極と、を具備する。
上記セラミック素体は、一軸方向に積層された複数の内部電極と、上記一軸と平行な平面に沿って延び、上記複数の内部電極のうちの少なくとも一部が引き出された端面と、を有する。
上記外部電極は、上記端面に隣接する内層部と、上記内層部を介して上記端面を覆う外層部と、を有する。
上記内層部は、Cuを主成分とし、Nb,Hf,Ta,W,Ptからなる群から選択される少なくとも1つで構成される添加元素を含む。
上記内層部は、さらに、Al,Si,P,S,Cl,Zn,Ga,Ge,Se,Br,Ag,In,Sn,Sb,Te,I,Au,Pb,Biからなる群から選択される少なくとも1つで構成される添加元素を含んでもよい。
上記外層部は、少なくとも1層のメッキ膜として構成されてもよい。
上記複数の内部電極は、0.1質量%以上30質量%以下の上記添加元素を含んでもよい。
【0009】
また、本発明の一形態に係る積層セラミック電子部品は、セラミック素体と、外部電極と、を具備する。
上記セラミック素体は、第1軸方向に積層された複数の内部電極と、上記第1軸と直交する第2軸方向を向き、上記複数の内部電極のうちの少なくとも一部が引き出された端面と、を有する。
上記外部電極は、上記端面に隣接する内層部と、上記内層部を介して上記端面を覆う外層部と、を有する。
上記内層部は、Niを主成分とし、V,Cr,Mn,Zr,Nb,Mo,Ru,Hf,Ta,W,Ptからなる群から選択される少なくとも1つで構成される添加元素を含む。
上記内層部は、さらに、Al,Si,P,Zn,Ga,Ge,Se,Br,Pd,Ag,In,Sn,Sb,Te,I,Au,Pb,Biからなる群から選択される少なくとも1つで構成される添加元素を含んでもよい。
上記外層部は、少なくとも1層のメッキ膜として構成されてもよい。
上記複数の内部電極は、0.1質量%以上30質量%以下の上記添加元素を含んでもよい。
【0010】
これらの構成の外部電極では、主成分を構成するベース元素に応じた添加元素によって内層部に水素が侵入しにくくなる。これにより、積層セラミックコンデンサでは、セラミック素体を覆う外部電極の内層部によって水素が遮蔽されるため、保護層を設けることなくセラミック素体11内への水素の拡散を防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
水素による悪影響を受けにくい積層セラミック電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの斜視図である。
【
図2】上記積層セラミックコンデンサの
図1のA-A'線に沿った断面図である。
【
図3】上記積層セラミックコンデンサの
図1のB-B'線に沿った断面図である。
【
図4】ベース元素M0をCuとして様々な添加元素M1について算出した水素安定化エネルギE(H)を示すグラフである。
【
図5】ベース元素M0をNiとして様々な添加元素M1について算出した水素安定化エネルギE(H)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図面には、適宜相互に直交するX軸、Y軸、及びZ軸が示されている。X軸、Y軸、及びZ軸は全図において共通である。
【0014】
[積層セラミックコンデンサ10の基本構成]
図1~3は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10を示す図である。
図1は、積層セラミックコンデンサ10の斜視図である。
図2は、積層セラミックコンデンサ10の
図1のA-A'線に沿った断面図である。
図3は、積層セラミックコンデンサ10の
図1のB-B'線に沿った断面図である。
【0015】
積層セラミックコンデンサ10は、セラミック素体11と、第1外部電極14と、第2外部電極15と、を備える。セラミック素体11の外面は、Y-Z平面に平行に延びる第1及び第2端面E1,E2と、X-Z平面に平行に延びる第1及び第2側面と、X-Y平面に平行に延びる第1及び第2主面と、を有する。
【0016】
セラミック素体11の端面E1,E2、側面、及び主面はいずれも、平坦面として構成される。本実施形態に係る平坦面とは、全体的に見たときに平坦と認識される面であれば厳密に平面でなくてもよく、例えば、表面の微小な凹凸形状や、所定の範囲に存在する緩やかな湾曲形状などを有する面も含まれる。
【0017】
各外部電極14,15は、セラミック素体11の両端面E1,E2を覆い、セラミック素体11を挟んでX軸方向に対向している。外部電極14,15は、セラミック素体11の各端面E1,E2から主面及び側面に延出している。これにより、外部電極14,15では、X-Z平面に平行な断面、及びX-Y平面に平行な断面がいずれもU字状となっている。
【0018】
なお、外部電極14,15の形状は、
図1に示すものに限定されない。例えば、外部電極14,15は、セラミック素体11の両端面E1,E2から一方の主面のみに延び、X-Z平面に平行な断面がL字状となっていてもよい。また、外部電極14,15は、いずれの主面及び側面にも延出していなくてもよい。
【0019】
第1外部電極14は、内層部141と、外層部142と、を有する。内層部141はセラミック素体11の第1端面E1に隣接し、第1外部電極14の最内層を構成する。外層部142は、内層部141を介してセラミック素体11の第1端面E1を覆い、第1外部電極14の最外層を構成する。
【0020】
第2外部電極15は、内層部151と、外層部152と、を有する。内層部151はセラミック素体11の第2端面E2に隣接し、第2外部電極15の最内層を構成する。外層部152は、内層部151を介してセラミック素体11の第2端面E2を覆い、第2外部電極15の最外層を構成する。
【0021】
外部電極14,15における内層部141,151及び外層部142,152はいずれも、電気の良導体となる元素を主成分として形成される。なお、本実施形態に係る主成分とは、最も含有比率の高い成分のことを言うものとする。外部電極14,15の内層部141,151の構成については後述する。
【0022】
外部電極14,15の外層部142,152は、例えば、Ni、Cu、Sn(錫)、Pd、及びAgの少なくとも1つの元素を主成分とする金属や合金で形成することができる。外層部142,152は、例えば、湿式メッキ法で形成された少なくとも1層のメッキ膜として構成することができる。
【0023】
セラミック素体11は、誘電体セラミックスで形成されている。セラミック素体11は、誘電体セラミックスに覆われた複数の第1内部電極12及び第2内部電極13を有する。複数の内部電極12,13は、いずれもX-Y平面に沿って延びるシート状であり、Z軸方向に沿って交互に配置されている。
【0024】
つまり、セラミック素体11には、内部電極12,13がセラミック層を挟んでZ軸方向に対向する対向領域が形成されている。第1内部電極12は、対向領域から第1端面E1に引き出され、第1外部電極14に接続されている。第2内部電極13は、対向領域から第2端面E2に引き出され、第2外部電極15に接続されている。
【0025】
このような構成により、積層セラミックコンデンサ10では、第1外部電極14と第2外部電極15との間に電圧が印加されると、内部電極12,13の対向領域において複数のセラミック層に電圧が加わる。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、第1外部電極14と第2外部電極15との間の電圧に応じた電荷が蓄えられる。
【0026】
セラミック素体11では、内部電極12,13間の各セラミック層の容量を大きくするため、高誘電率の誘電体セラミックスが用いられる。高誘電率の誘電体セラミックスとしては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)に代表される、バリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含むペロブスカイト構造の材料が挙げられる。
【0027】
なお、誘電体セラミックスは、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、チタン酸マグネシウム(MgTiO3)、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)、チタン酸ジルコン酸カルシウム(Ca(Zr,Ti)O3)、ジルコン酸バリウム(BaZrO3)、酸化チタン(TiO2)などの組成系でもよい。
【0028】
[内層部141,151の構成]
(概略構成)
積層セラミックコンデンサ10は、外部電極14,15に水素が吸蔵された状態になりやすい。特に、外部電極14,15では、外層部142,152を水素の発生を伴う湿式メッキ法(特に電解メッキ法)で形成する場合に、外層部142,152の内側に位置する内層部141,151に水素が吸蔵されることがある。
【0029】
なお、内層部141,151に吸蔵される水素は、メッキ工程で発生した水素に限らず、例えば、大気中の水蒸気などの水分に含まれる水素などであってもよい。また、外部電極14,15に吸蔵される水素は、水素原子や水素イオンや水素同位体など、水素のとりうるいずれの状態であってもよい。
【0030】
水素は、セラミック素体11を劣化させる作用の強い元素である。このため、外部電極14,15内に吸蔵された水素のセラミック素体11への拡散が内部電極12,13の対向領域まで進行すると、内部電極12,13間のセラミック層の絶縁抵抗が低下する。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、絶縁不良が発生しやすくなる。
【0031】
これに対し、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10では、外部電極14,15の内層部141,151を水素が留まりにくい構成とする。これにより、積層セラミックコンデンサ10の外部電極14,15では、内層部141,151への水素の侵入、及び内層部141,151における水素の吸蔵が抑制される。
【0032】
したがって、積層セラミックコンデンサ10では、セラミック素体11の端面E1,E2を直接覆う内層部141,151によって水素が遮蔽されるため、水素がセラミック素体11に拡散することを防止することができる。つまり、内層部141,151は、セラミック素体11を水素から保護する機能を果たす。
【0033】
具体的に、内層部141,151では、主成分を構成するベース元素M0に対して水素を留まりにくくする作用を有する添加元素M1を用いる。つまり、積層セラミックコンデンサ10では、添加元素M1の作用によって内層部141,151に水素が留まりにくくなるため、セラミック素体11を水素から保護することができる。
【0034】
本願の発明者は、内層部141,151における水素の留まりやすさの指標として水素安定化エネルギE(H)を用いた。本実施形態では、内層部141,151の水素安定化エネルギE(H)を下記の式で算出可能である。
E(H)=E(metal)+1/2E(H2)-E(metal+H)
【0035】
ここで、E(metal)は、ベース元素M0のみで構成された安定な結晶構造について1原子のみを任意の元素Mの原子で置換した状態のエネルギである。E(H2)は、水素ガスのエネルギである。E(metal+H)は、上記の結晶構造について元素Mに隣接するサイトに1つの水素原子を挿入した状態のエネルギである。
【0036】
上記の式の「E(metal)+1/2E(H2)」は、結晶構造に水素が吸蔵されておらず、つまり結晶構造と水素原子とが別々に存在している状態のエネルギの合計を表す。これに対し、E(metal+H)は、結晶構造に水素が吸蔵されており、つまり水素原子が結晶構造中に留まっている状態のエネルギの合計を表す。
【0037】
したがって、結晶構造に水素が留まった状態の安定性は、水素安定化エネルギE(H)が大きい状態ほど高く、水素安定化エネルギE(H)が低い状態ほど低い。つまり、水素安定化エネルギE(H)が小さい元素Mほど、結晶構造中に水素を留まりにくくする作用が強いことがわかる。
【0038】
積層セラミックコンデンサ10では、ベース元素M0の種類に応じて、水素安定化エネルギE(H)が低い元素Mを添加元素M1として用いることで、内層部141,151に水素を留まりにくくすることができる。なお、水素安定化エネルギE(H)のマイナスの値は、絶対値が大きいほど小さいものとしている。
【0039】
本実施形態では、ベース元素M0のみで構成された結晶構造の水素安定化エネルギE(H)を基準とし、水素安定化エネルギE(H)が当該基準よりも0.1eV以上小さい元素Mを内層部141,151の添加元素M1として用いる。添加元素M1は、1種類の元素で構成されていても、複数種類の元素で構成されていてもよい。
【0040】
以下、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10における内層部141,151のベース元素M0と添加元素M1との組み合わせの具体例として、ベース元素M0としてCuを用いる場合の添加元素M1と、ベース元素M0としてNiを用いる場合の添加元素M1と、について説明する。
【0041】
(ベース元素M0としてCuを用いる場合)
内層部141,151の主成分のベース元素M0をCuとして、上記の式を用いて様々な元素Mについての水素安定化エネルギE(H)を算出した。水素安定化エネルギE(H)の算出では、ベース元素M0の結晶構造を、Cuにおける安定な結晶構造である面心立方格子(fcc)とした。
【0042】
表1は、各元素Mについて算出された水素安定化エネルギE(H)を示している。また、
図4は、表1に示す各元素Mについて算出された水素安定化エネルギE(H)をプロットしたグラフである。なお、表1及び
図4では、元素Mがベース元素M0と同様のCuである構成が、ベース元素M0のCuのみで構成された結晶構造に相当する。
【0043】
【0044】
表1に示すとおり、ベース元素M0のCuのみで構成された結晶構造の水素安定化エネルギE(H)は0.055である。したがって、積層セラミックコンデンサ10では、Cuをベース元素M0とする内層部141,151の添加元素M1として、水素安定化エネルギE(H)が-0.045以下の元素Mを選択する。
【0045】
水素安定化エネルギE(H)が-0.045以下の元素Mは、Al(アルミニウム),Si(ケイ素),P(リン),S(硫黄),Cl(塩素),Zn(亜鉛),Ga(ガリウム),Ge(ゲルマニウム),Se(セレン),Br(臭素),Nb(ニオブ),Ag,In(インジウム),Sn,Sb(アンチモン),Te(テルル),I(ヨウ素),Hf(ハフニウム),Ta(タンタル),W(タングステン),Pt(白金),Au(金),Pb(鉛),Bi(ビスマス)である。
【0046】
したがって、Cuをベース元素M0とする内層部141,151では、Al,Si,P,S,Cl,Zn,Ga,Ge,Se,Br,Nb,Ag,In,Sn,Sb,Te,I,Hf,Ta,W,Pt,Au,Pb,Biからなる元素Mの群から選択される少なくとも1つで構成される添加元素M1を用いる。
【0047】
(ベース元素M0としてNiを用いる場合)
内層部141,151の主成分のベース元素M0をNiとして、上記の式を用いて様々な元素Mについての水素安定化エネルギE(H)を算出した。水素安定化エネルギE(H)の算出では、ベース元素M0の結晶構造を、Niにおける安定な結晶構造である面心立方格子(fcc)とした。
【0048】
表2は、各元素Mについて算出された水素安定化エネルギE(H)を示している。また、
図5は、表2に示す各元素Mについて算出された水素安定化エネルギE(H)をプロットしたグラフである。なお、表2及び
図5では、元素Mがベース元素M0と同様のNiである構成が、ベース元素M0のNiのみで構成された結晶構造に相当する。
【0049】
【0050】
表2に示すとおり、ベース元素M0のNiのみで構成された結晶構造の水素安定化エネルギE(H)は0.252である。したがって、積層セラミックコンデンサ10では、Niをベース元素M0とする内層部141,151の添加元素M1として、水素安定化エネルギE(H)が0.152以下の元素Mを選択する。
【0051】
水素安定化エネルギE(H)が0.152以下の元素Mは、Al,Si,P,V(バナジウム),Cr(クロム),Mn(マンガン),Zn,Ga,Ge,Se,Br,Zr,Nb,Mo(モリブデン),Ru(ルテニウム),Pd,Ag,In,Sn,Sb,Te,I,Hf,Ta,W,Pt,Au,Pb,Biである。
【0052】
したがって、Niをベース元素M0とする内層部141,151では、Al,Si,P,V,Cr,Mn,Zn,Ga,Ge,Se,Br,Zr,Nb,Mo,Ru,Pd,Ag,In,Sn,Sb,Te,I,Hf,Ta,W,Pt,Au,Pb,Biからなる元素Mの群から選択される少なくとも1つで構成される添加元素M1を用いる。
【0053】
(内層部141,151の形成方法)
内層部141,151は、例えば、積層セラミックコンデンサ10の製造過程の焼成前の段階おいて、未焼成のセラミック素体11の端面E1,E2に、ベース元素M0を主成分とする導電性ペーストを塗布することによって形成することができる。添加元素M1は、例えば、導電性ペーストに予め添加しておくことができる。
【0054】
また、本実施形態では、導電性ペーストに添加元素M1を添加せずに、添加元素M1を未焼成の内層部141,151に隣接して配置してもよい。この場合、セラミック素体11を焼成する焼成工程などの加熱を伴う工程において、隣接して配置された添加元素M1を内部電極12,13に拡散させることができる。
【0055】
例えば、添加元素M1は、未焼成の内層部141,151上にスパッタリング法などによって配置することができる。また、セラミック素体11の各セラミック層を構成するセラミックシートに添加元素M1を含ませることで、セラミックシート中の添加元素Mを内層部141,151に拡散させることもできる。
【0056】
更に、焼成後のセラミック素体11の端面E1,E2に、スパッタリング法によって内層部141,151を形成することもできる。また、スパッタリング法によってベース元素M0の層と添加元素M1の層とを各別に形成し、熱処理によって相互拡散させることで内層部141,151を得ることもできる。
【0057】
[内部電極12,13の構成]
積層セラミックコンデンサ10では、セラミック素体11に侵入した水素が、使用時の通電に伴って移動することで特定の部分(例えば各内部電極12,13の外縁部近傍)に偏在しやすい。このため、セラミック素体11では、侵入する水素が少量であっても、内部電極12,13間の絶縁抵抗が低下することがある。
【0058】
セラミック素体11では、一般的にセラミック材料よりも水素が留まりやすい金属材料で形成された内部電極12,13が水素の移動の経路となりやすい。したがって、積層セラミックコンデンサ10では、内部電極12,13を水素が留まりにくい構成とすることで、セラミック素体11における水素の偏在を効果的に抑制できる。
【0059】
このため、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10では、上記のベース元素M0及び添加元素M1の組み合わせを、内層部141,151のみならず内部電極12,13にも適用することが好ましい。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、セラミック素体11における水素の偏在が抑制され、更に絶縁抵抗が低下しにくくなる。
【0060】
つまり、Cuをベース元素M0とする内部電極12,13では、Al,Si,P,S,Cl,Zn,Ga,Ge,Se,Br,Nb,Ag,In,Sn,Sb,Te,I,Hf,Ta,W,Pt,Au,Pb,Biからなる元素Mの群から選択される少なくとも1つで構成される添加元素M1を用いることが好ましい。
【0061】
また、Niをベース元素M0とする内部電極12,13では、Al,Si,P,V,Cr,Mn,Zn,Ga,Ge,Se,Br,Zr,Nb,Mo,Ru,Pd,Ag,In,Sn,Sb,Te,I,Hf,Ta,W,Pt,Au,Pb,Biからなる元素Mの群から選択される少なくとも1つで構成される添加元素M1を用いることが好ましい。
【0062】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定され
るものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0063】
例えば、本発明の積層セラミックコンデンサの外部電極は、最内層として内層部を有していればよく、内層部及び外層部以外の層を含んでいてもよい。つまり、外部電極は、内層部と外層部の間に少なくとも一層の中層部を含んでいてもよく、また外層部よりも外側に少なくとも一層の最外層部を含んでいてもよい。
【0064】
また、本発明は、積層セラミックコンデンサのみならず、外部電極を有する積層セラミック電子部品全般に適用可能である。本発明を適用可能な積層セラミック電子部品としては、積層セラミックコンデンサ以外に、例えば、チップバリスタ、チップサーミスタ、積層インダクタなどが挙げられる。
【符号の説明】
【0065】
10…積層セラミックコンデンサ
11…セラミック素体
12,13…内部電極
14,15…外部電極
141,151…内層部
142,152…外層部
E1,E2…端面