(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011122
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂発泡粒子及び熱可塑性樹脂発泡粒子成形体
(51)【国際特許分類】
C08J 9/16 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
C08J9/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112865
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂村 拓映
(72)【発明者】
【氏名】太田 肇
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA24
4F074AB03
4F074AB05
4F074BA32
4F074BC12
4F074CA30
4F074CA34
4F074CA39
4F074CA49
4F074DA02
4F074DA12
4F074DA22
(57)【要約】
【課題】成形型内での冷却時間を短縮することができるとともに、養生工程を省略しても、所望の形状を有し、外観及び剛性に優れた発泡粒子成形体を得ることができる熱可塑性樹脂発泡粒子、及びこの発泡粒子からなる熱可塑性樹脂発泡粒子成形体を提供する。
【解決手段】発泡粒子1は熱可塑性樹脂を含む発泡層2を有する。発泡粒子1は円柱状の形状を有するとともに、その軸方向に貫通した2つ以上8つ以下の貫通孔11を有している。発泡粒子1を軸方向の中央において軸方向に垂直に切断して得られる切断面における、発泡粒子1の断面積Aと貫通孔の断面積の合計Ctとの比Ct/Aが0.02以上0.15以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂発泡層を有する熱可塑性樹脂発泡粒子であって、
前記発泡粒子が、円柱状の形状を有するとともに、その軸方向に貫通した2つ以上8つ以下の貫通孔を有しており、
前記発泡粒子をその軸方向の中央において軸方向に垂直に切断して得られる切断面における、前記発泡粒子の断面積Aに対する前記貫通孔の断面積の合計Ctの比Ct/Aが0.02以上0.15以下である、熱可塑性樹脂発泡粒子。
【請求項2】
前記発泡粒子をその軸方向の中央において軸方向に垂直に切断して得られる切断面における、前記発泡粒子の断面積Aに対する前記貫通孔1つ当たりの断面積Caの比Ca/Aが0.005以上0.05以下である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂発泡粒子。
【請求項3】
前記発泡粒子は4つ以上8つ以下の前記貫通孔を有する、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂発泡粒子。
【請求項4】
前記発泡粒子をその軸方向の中央において軸方向に垂直に切断して得られる切断面における、前記貫通孔の孔径dが0.1mm以上0.5mm以下である、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂発泡粒子。
【請求項5】
前記発泡粒子をその軸方向の中央において軸方向に垂直に切断して得られる切断面における、前記貫通孔の孔径dに対する前記発泡粒子の貫通孔間距離Rの比R/dが2.0以上4.5以下である、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂発泡粒子。
【請求項6】
前記発泡粒子の嵩密度が10kg/m3以上50kg/m3以下であり、前記発泡粒子の嵩密度に対する見掛け密度の比が1.7以上1.9以下である、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂発泡粒子。
【請求項7】
前記発泡層を構成している熱可塑性樹脂がエチレン-プロピレンランダム共重合体であり、前記エチレン-プロピレンランダム共重合体が0.5質量%以上3.5質量%以下のエチレン成分を含む、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂発泡粒子。
【請求項8】
前記発泡粒子が前記発泡層を被覆する熱可塑性樹脂被覆層を有しており、前記被覆層が、前記発泡層を構成している熱可塑性樹脂の融点よりも低い融点または低い軟化点を有する熱可塑性樹脂から構成されている、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂発泡粒子。
【請求項9】
請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂発泡粒子を型内成形してなる熱可塑性樹脂発泡粒子成形体。
【請求項10】
前記発泡粒子成形体の開放気泡率が2%以上12%以下である、請求項9に記載の熱可塑性樹脂発泡粒子成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂発泡粒子及び熱可塑性樹脂発泡粒子成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体は、軽量で、緩衝性、剛性等に優れるため種々の用途に用いられている。ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体は、例えば、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を成形型内に充填した後、成形型内にスチームを供給して加熱する、型内成形法と呼ばれる方法により製造される。型内成形法においては、成形型内にスチームを供給すると発泡粒子が二次発泡すると共にその表面が溶融する。これにより、成形型内の発泡粒子が相互に融着し、成形型のキャビティの形状に対応する形状を備えた成形体を得ることができる。成形直後の成形体は、二次発泡により膨らみやすいため、成形型内で水や空気等で冷却された後に成形型から離型される。
【0003】
たとえば、特許文献1には、融点、メルトフローインデックス、及びZ平均分子量等が特定の範囲に調整されたポリプロピレン系樹脂を用いた発泡粒子を型内成形する技術が開示されている。また、特許文献2には、内部に貫通孔を備えた筒状の発泡粒子を型内成形する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-129028号公報
【特許文献2】特開平7-137064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した成形体の製造過程において、成形型から離型した後の発泡粒子成形体を常温で保管すると、型内成形時に発泡粒子成形体の気泡内へ流入していたスチームが気泡中で凝縮し、気泡内が負圧となる。その結果、発泡粒子成形体に体積収縮が生じて成形体が大きく変形することがある。したがって、発泡粒子成形体を成形型から離型した後に、たとえば60℃から80℃程度の温度に調整された高温雰囲気下で所定時間静置させて発泡粒子成形体の形状を回復させる養生工程が行われている。
【0006】
しかし、養生工程は、設備投資が必要であることやその工程に手間を要するため、養生工程を省略して発泡粒子成形体の生産性を大幅に向上することが望まれている。
【0007】
また、近年の環境意識の高まりに伴い、成形体の製造過程における消費エネルギーを低減することが望まれている。かかる観点から、養生工程の省略に加え、成形型内での冷却時間を短縮することが望まれている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された発泡粒子は、養生工程を短縮できるものの依然として養生工程が必要であり、養生工程を省略した場合には、発泡粒子成形体が著しく収縮、変形してしまい、所望形状を有する発泡粒子成形体を得ることが困難であった。また、特許文献1に記載された発泡粒子は、成形型内での冷却時間を短縮することについて改善の余地があった。さらには、特許文献1に記載された発泡粒子は、特殊な原料を使用しなければならないことから、原料調達においても改善の余地があった。
【0009】
特許文献2に記載された発泡粒子は、成形型内での冷却時間を短縮することができるものの、得られる成形体の表面に発泡粒子の貫通孔に由来する空隙が形成されるため、成形体の外観が著しく劣り、剛性も不十分であるという問題があった。
【0010】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、成形型内での冷却時間を短縮することができるとともに、養生工程を省略しても、所望の形状を有し、外観及び剛性に優れた発泡粒子成形体を得ることができる熱可塑性樹脂発泡粒子、及びこの発泡粒子からなる熱可塑性樹脂発泡粒子成形体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、以下の[1]~[8]に係る熱可塑性樹脂発泡粒子にある。
[1]熱可塑性樹脂発泡層を有する熱可塑性樹脂発泡粒子であって、
前記発泡粒子が、円柱状の形状を有するとともに、その軸方向に貫通した2つ以上8つ以下の貫通孔を有しており、
前記発泡粒子をその軸方向の中央において軸方向に垂直に切断して得られる切断面における、前記発泡粒子の断面積Aに対する前記貫通孔の断面積の合計Ctの比Ct/Aが0.02以上0.15以下である、熱可塑性樹脂発泡粒子。
【0012】
[2]前記発泡粒子をその軸方向の中央において軸方向に垂直に切断して得られる切断面における、前記発泡粒子の断面積Aに対する前記貫通孔1つ当たりの断面積Caの比Ca/Aが0.005以上0.05以下である、[1]に記載の熱可塑性樹脂発泡粒子。
[3]前記発泡粒子は4つ以上8つ以下の前記貫通孔を有する、[1]または[2]に記載の熱可塑性樹脂発泡粒子。
[4]前記発泡粒子をその軸方向の中央において軸方向に垂直に切断して得られる切断面における、前記貫通孔の孔径dが0.1mm以上0.5mm以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂発泡粒子。
【0013】
[5]前記発泡粒子をその軸方向の中央において軸方向に垂直に切断して得られる切断面における、前記貫通孔の孔径dに対する前記発泡粒子の貫通孔間距離Rの比R/dが2.0以上4.5以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂発泡粒子。
[6]前記発泡粒子の嵩密度が10kg/m3以上50kg/m3以下であり、前記発泡粒子の嵩密度に対する見掛け密度の比が1.7以上1.9以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂発泡粒子。
【0014】
[7]前記発泡層を構成している熱可塑性樹脂がエチレン-プロピレンランダム共重合体であり、前記エチレン-プロピレンランダム共重合体が0.5質量%以上3.5質量%以下のエチレン成分を含む、[1]~[6]のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂発泡粒子。
[8]前記発泡粒子が前記発泡層を被覆する熱可塑性樹脂被覆層を有しており、前記被覆層には前記発泡層は、前記発泡層を構成している熱可塑性樹脂の融点よりも低い融点または低い軟化点を有する熱可塑性樹脂から構成されている、[1]~[7]のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂発泡粒子。
【0015】
本発明の他の態様は、以下の[9]~[10]に係る熱可塑性樹脂発泡粒子成形体にある。
【0016】
[9][1]~[8]のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂発泡粒子を型内成形してなる熱可塑性樹脂発泡粒子成形体。
[10]前記発泡粒子成形体の開放気泡率が2%以上12%以下である、[9]に記載の熱可塑性樹脂発泡粒子成形体。
【発明の効果】
【0017】
前記の態様によれば、成形型内での冷却時間を短縮することができるとともに、養生工程を省略しても、所望の形状を有し、外観及び剛性に優れた発泡粒子成形体を得ることができる熱可塑性樹脂発泡粒子(以下、「発泡粒子」という。)、及びこの発泡粒子からなる熱可塑性樹脂発泡粒子成形体(以下、「発泡粒子成形体」または「成形体」という。)を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】
図2は、
図1のII-II線矢視断面図(発泡粒子の切断面の平面図)である。
【
図3】
図3は、高温ピークの面積の算出方法を示す説明図である。
【
図4】
図4は、実施例1の発泡粒子の斜視図である。
【
図5】
図5は、
図4のV-V線矢視断面図(発泡粒子の切断面の平面図)である。
【
図6】
図6は、実施例2の発泡粒子の斜視図である。
【
図7】
図7は、
図6のVII-VII線矢視断面図(発泡粒子の切断面の平面図)である。
【
図8】
図8は、実施例4の発泡粒子の斜視図である。
【
図9】
図9は、
図8のIX-IX線矢視断面図(発泡粒子の切断面の平面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(熱可塑性樹脂発泡粒子)
熱可塑性樹脂発泡粒子1は、主に熱可塑性樹脂から構成された熱可塑性樹脂発泡層2(以下、「発泡層2」という。)を有している。発泡粒子1は、
図1に示すように円柱状の形状を有するとともに、その内部を軸方向に貫通する2つ以上8つ以下の貫通孔11を有している。前述した円柱状の形状には、例えば、
図1に示すような、略円形の底面12と、底面12の上方に配置され、底面12と概ね同一の形状を備えた頂面13と、底面12の端縁と頂面13の端縁とを接続する側周面14とによって囲まれた形状が含まれる。発泡粒子1を軸方向の中央において軸方向に垂直な面で切断して得られる発泡粒子1の切断面(
図2参照)における、発泡粒子1の断面積Aに対する貫通孔11の断面積の合計Ctの比Ct/Aが0.02以上0.15以下である。
【0020】
このように、円柱状の形状を有する発泡粒子に2つ以上8つ以下の貫通孔を設け、かつ、発泡粒子の断面積Aに対する貫通孔の断面積の合計Ctの比Ct/Aを前記特定の範囲とすることにより、成形型内での冷却時間を短縮するとともに、養生工程を省略した場合においても成形体の著しい収縮、変形等を抑制することができる。さらに、前記発泡粒子を型内成形することにより得られる成形体は、外観及び剛性に優れたている。
【0021】
前記発泡粒子によりこのような効果が得られる理由は、例えば以下の通りであると考えられる。すなわち、前記発泡粒子を型内成形すると、成形体に開放気泡からなる開放気泡構造、つまり、成形体の外部と連通した微小な空間部分が形成される。開放気泡構造は、具体的には複数の発泡粒子の貫通孔が相互に連通して形成される空隙、発泡粒子の貫通孔が発泡粒子間の隙間と連通して形成される空隙、発泡粒子間の隙間が連通して形成される空隙、成形体を構成する発泡粒子の連続気泡部分などが、複雑につながって形成される。
【0022】
開放気泡構造は成形体の外部と連通しているため、適度な開放気泡率を有する成形体を成形型から離型すると、外気が開放気泡構造を通じて成形体内部の気泡まで速やかに流入すると考えられる。そして、成形体内部の気泡に外気が流入することにより、成形体全体の内圧が成形体外部の雰囲気の圧力と速やかに均衡しやすくなる。以上の結果、成形体の寸法が早期に安定化しやすくなり、養生工程を行わない場合においても成形体の著しい収縮や変形を抑制することができると考えられる。
【0023】
また、前記発泡粒子は貫通孔を有しているため、成形型内にスチームが供給された際に、スチームが貫通孔を通過することができると考えられる。これにより、成形型の内部までスチームが到達しやすくなり、成形型内の発泡粒子全体を容易に加熱することができると考えられる。そのため、型内成形時の成形温度が低い条件であっても融着性に優れ、良好な外観を有する成形体を得ることができる。その結果、型内成形時にスチームにより発泡粒子が受ける熱量を低く抑えることができる。また、離型後の成形体の内部温度が過度に高くなることが抑制される。これらの結果、型内成形後の成形体の寸法が早期に安定化しやすくなると考えられる。
【0024】
また、前記発泡粒子は、複数の貫通孔を有しているため、発泡粒子の二次発泡性を適度に低下させることができる。その結果、型内成形時において発泡粒子が二次発泡する際に、外方への膨張を適度に抑制することができると考えられる。さらに、前記発泡粒子に複数の貫通孔を設けることにより、成形体に前述した開放気泡構造が形成され、成形体において発泡粒子の貫通孔に由来する微小な空間部分の表面積を増大させることができる。これらの結果、成形型内における成形体の冷却を効率よく行うことができるとともに、成形型に加わる面圧をより速く低減することができると推測され、成形型内における冷却時間を短縮することができると考えられる。
【0025】
また、前記発泡粒子における前記比Ct/Aの値は前記特定の範囲内であり、かつ、前記発泡粒子には複数の貫通孔が設けられている。これにより、貫通孔の数が1つである場合と比較して、前記発泡粒子における個々の貫通孔の孔径をより小さくすることができる。その結果、成形体の剛性を高めることができると考えられる。また、個々の貫通孔の孔径が小さくなることにより、成形体の表面において貫通孔が目立ちにくくなり、外観を向上させることができると考えられる。
【0026】
発泡粒子が貫通孔を有しない場合には、成形温度が高くなりやすいとともに、得られる成形体に開放気泡構造が十分に形成されにくくなるおそれがある。そのため、この場合には、養生工程を省略した際に成形体の著しい収縮、変形等を抑制することが難しい。また、この場合には、発泡粒子の二次発泡性が過度に高くなり、成形型内での冷却時間が長くなるおそれがある。
【0027】
また、発泡粒子における前記比Ct/Aの値が前記特定の範囲内であり、かつ、貫通孔の数が1つである場合には、貫通孔の数が複数である場合に比べて貫通孔の孔径が大きくなりやすい。そのため、型内成形後の成形体の表面において貫通孔が目立ちやすくなり、成形体の外観の悪化を招くおそれがある。また、この場合には、成形型内での冷却時間の短縮が不十分となるおそれがある。この原因としては、例えば、成形体における、発泡粒子の貫通孔に由来する微小な空間部分の表面積が小さくなりやすいこと等が考えられる。貫通孔の数を2つ以上8つ以下、好ましくは4つ以上8つ以下とすることにより、これらの問題を容易に回避することができる。
【0028】
一方、発泡粒子における貫通孔の数が9つ以上である場合には、発泡粒子の二次発泡性が過度に低下するおそれがある。その結果、成形体の剛性の低下や外観の悪化を招くおそれがある。
【0029】
発泡粒子の断面積Aに対する貫通孔の断面積の合計Ctの比Ct/Aが低すぎる場合には、成形体に開放気泡構造が形成されにくくなり、成形体の著しい収縮や変形を抑制するために養生工程が必要となるおそれがある。また、この場合には、発泡粒子の二次発泡性が過度に高くなり、冷却時間の短縮が不十分となるおそれがある。前記比Ct/Aを0.02以上とすることにより、これらの問題を容易に回避し、成形型内における冷却時間を短縮するとともに養生工程を行わない場合においても成形体の著しい収縮や変形を抑制することができる。成形型内における冷却時間をより短縮する観点からは、前記比Ct/Aは0.03以上であることが好ましく、0.04以上であることがより好ましく、0.05以上であることがさらに好ましい。
【0030】
一方、発泡粒子の断面積Aに対する貫通孔の断面積の合計Ctの比Ct/Aが高すぎる場合には、成形体の剛性の低下や外観の悪化を招くおそれがある。前記比Ct/Aを0.15以下とすることにより、これらの問題を容易に回避し、成形体の剛性及び外観を向上させることができる。かかる作用効果をより確実に得る観点から、前記比Ct/Aは0.13以下であることが好ましく、0.11以下であることがより好ましく、0.10以下であることがさらに好ましい。
【0031】
成形体の著しい収縮や変形の抑制及び冷却時間の短縮の効果を得つつ、剛性及び外観が良好な成形体をより容易に得る観点からは、前記比Ct/Aは、0.03以上0.13以下であることが好ましく、0.05以上0.10以下であることがさらに好ましい。
【0032】
前述した発泡粒子の断面積Aの算出方法は以下の通りである。まず、
図1に示すような発泡粒子1をその軸方向における中央において軸方向に垂直な面で切断し、
図2(
図1のII-II線矢視断面図)に示すような発泡粒子の切断面(つまり、発泡粒子を軸方向に垂直に切断した際に生じる切り口の面)を露出させる。この切断面における発泡粒子1の断面積を計測する。なお、発泡粒子1の断面積には、貫通孔11の断面積(つまり、開口面積)は含まれない。
【0033】
例えば、
図2に示すように発泡粒子1が発泡層2のみからなる場合、発泡粒子1の断面積は、前記切断面における発泡層2の断面積と等しい。また、例えば
図5等に示すように、発泡粒子1が発泡層2と発泡層2を被覆する熱可塑性樹脂被覆層3(以下、「被覆層3」という。)とを有する場合、発泡粒子1の断面積は、前記切断面における発泡層2の断面積と被覆層3の断面積との合計と等しい。
【0034】
以上の操作を100個以上の発泡粒子について行い、得られた発泡粒子の断面積の算術平均値を前記切断面における発泡粒子の断面積Aとする。なお、前記切断面における発泡粒子の断面積の計測は、例えば、発泡粒子の切断面の写真を撮影し、画像解析することにより行うことができる。また、前述した方法により得られる発泡粒子の断面積Aを、「発泡粒子の平均断面積A」ということがある。
【0035】
貫通孔の断面積の合計Ctの算出方法は以下の通りである。まず、
図2に示すように、発泡粒子1をその軸方向における中央において軸方向に垂直な面で切断し、
図2に示すような発泡粒子の切断面を露出させる。この切断面における、全ての貫通孔の断面積の合計を計測する。
【0036】
以上の操作を50個以上の発泡粒子について行い、得られた貫通孔の断面積の合計の算術平均値を貫通孔の断面積の合計Ctとする。なお、前記切断面における貫通孔の断面積の計測は、例えば、発泡粒子の切断面の写真を撮影し、画像解析することにより行うことができる。
【0037】
前記発泡粒子を軸方向の中央において軸方向に垂直な面で切断して得られる切断面における、前記発泡粒子の断面積Aに対する前記貫通孔1つ当たりの断面積Caの比Ca/Aは0.005以上0.05以下であることが好ましく、0.005以上0.04以下であることがより好ましく、0.005以上0.03以下であることがさらに好ましい。この場合には、成形体の剛性及び外観をより容易に向上させることができる。なお、貫通孔1つ当たりの断面積Caは、貫通孔の断面積の合計Ctを貫通孔の数で除することにより得られる。
【0038】
前記発泡粒子を軸方向の中央において軸方向に垂直な面で切断して得られる切断面における、前記貫通孔の孔径dは0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましい。前記貫通孔の孔径dを0.5mm以下とすることにより、成形体の剛性及び外観をより容易に向上させることができる。かかる観点からは、前記貫通孔の孔径dは0.45mm以下であることがより好ましく、0.4mm以下であることがさらに好ましい。また、前記貫通孔の孔径dを0.1mm以上とすることにより、成形型内にスチームが供給された際に、スチームがより容易に貫通孔を通過することができる。かかる観点からは、前記貫通孔の孔径dは0.2mm以上であることがより好ましい。
【0039】
発泡粒子の貫通孔の孔径dは、以下のように求められる。まず、発泡粒子1を軸方向の中央において軸方向に垂直な面で切断し、
図2に示すような切断面を露出させる。次に、切断面の写真を撮影し、切断面における個々の貫通孔11の断面積(つまり、開口面積)を算出する。そして、貫通孔11の断面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、この値を個々の貫通孔の孔径とする。
【0040】
50個以上の発泡粒子について上記の操作を行い、得られた貫通孔の孔径の算術平均値を、発泡粒子の貫通孔の孔径dとする。なお、個々の貫通孔の断面形状や孔径が発泡粒子の軸方向において一様でない場合であっても、貫通孔の孔径dは、上記のように切断面における貫通孔の孔径に基づいて定められる。また、前述した方法により得られる発泡粒子の貫通孔の孔径dを、「発泡粒子の貫通孔の平均孔径d」ということがある。
【0041】
貫通孔の孔径dは、後述する樹脂粒子における貫通孔の孔径drの大きさや発泡粒子の見掛け密度等を調整することにより前記特定の範囲に調整することができる。また、発泡粒子を二段発泡により製造される二段発泡粒子とすることにより、孔径dをより容易に小さな値に調整することができる。
【0042】
前記発泡粒子の切断面における貫通孔の配置は特に限定されることはなく、種々の態様を取り得る。例えば
図4及び
図5に示すように、複数の貫通孔11(11a~11e)のうち1つの貫通孔11aが発泡粒子1の中心軸10を貫くように配置されており、他の貫通孔11b~11eが発泡粒子1の中心軸10の周囲に配置されていてもよい。
図5に示す発泡粒子1における貫通孔11b~11eは、発泡粒子1の切断面における周方向の間隔が概ね等しい位置に配置されている。また、例えば
図7に示すように、4つの貫通孔11(11f~11i)が、発泡粒子1の中心軸10の周囲であって、発泡粒子1の切断面における周方向の間隔が概ね等しい位置に配置されていてもよい。同様に、
図9に示すように、3つの貫通孔11(11j~11l)が、発泡粒子1の中心軸10の周囲であって、発泡粒子1の切断面における周方向の間隔が概ね等しい位置に配置されていてもよい。
【0043】
前述した複数の貫通孔を設けることによる効果をより高める観点からは、複数の貫通孔は、前記発泡粒子の切断面において、概ね等間隔となる位置に配置されていることが好ましい。同様の観点から、複数の貫通孔のうち少なくとも一部の貫通孔が、発泡粒子の中心軸の周囲であって、発泡粒子をその軸方向の中央において軸方向に垂直な面で切断して得られる切断面における周方向の間隔が概ね等しい位置に配置されていることがより好ましい。
【0044】
また、前記発泡粒子の切断面における、前記貫通孔の孔径dに対する発泡粒子の貫通孔間距離Rの比R/dが2.0以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましい。この場合には、成形体の外観をより改善するとともに、成形体の剛性をより高めることができる。また、前記比R/dが4.5以下であることが好ましく、3.5以下であることがより好ましい。この場合には、成形型内における成形体の冷却時間をより短縮することができる。
【0045】
なお、前述した貫通孔間距離Rの算出方法は以下の通りである。まず、発泡粒子の切断面において、各貫通孔の断面形状における幾何中心の位置を決定し、この位置を各貫通孔の中心点とする。次に、全ての貫通孔について、測定対象の貫通孔の中心点と当該貫通孔の中心点に最も近い中心点を有する貫通孔の中心点との距離、つまり、中心点間距離を算出する。そして、全ての貫通孔における中心点間距離の算術平均値を、個々の発泡粒子の貫通孔間距離とする。以上の操作を100個以上の発泡粒子について行い、得られた貫通孔間距離の算術平均値を発泡粒子の貫通孔間距離Rとする。なお、前述した方法により得られる発泡粒子の貫通孔間距離Rを、「発泡粒子の平均貫通孔間距離R」ということがある。
【0046】
発泡粒子の肉厚が増加して発泡粒子の二次発泡性や成形体の剛性が向上するという観点、及び養生工程を省略した際に成形体の変形や収縮をより確実に抑制することができる観点から、発泡粒子の外径Dは2mm以上であることが好ましく、2.5mm以上であることがより好ましく、3mm以上であることがさらに好ましい。一方、成形型内への発泡粒子の充填性を向上させるという観点から、発泡粒子の外径Dは8mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましく、4.5mm以下であることがさらに好ましい。
【0047】
前述した発泡粒子の外径Dの算出方法は以下の通りである。まず、発泡粒子1をその軸方向における中央において軸方向に垂直な面で切断し、
図2に示すような発泡粒子1の切断面を露出させる。この切断面における発泡粒子1の断面積及び貫通孔11の断面積を算出する。そして、発泡粒子1の断面積と貫通孔11の断面積との合計を算出し、この合計の値と面積の等しい仮想真円の直径を個々の発泡粒子の外径とする。
【0048】
このようにして100個以上の発泡粒子1について外径を算出し、得られた発泡粒子の外径の算術平均値を発泡粒子の外径Dとする。なお、前記切断面における発泡粒子1の外径の計測は、例えば、発泡粒子の切断面の写真を撮影し、画像解析することにより行うことができる。また、前述した方法により得られる発泡粒子の外径Dを、「発泡粒子の平均外径D」ということがある。
【0049】
前記発泡粒子の嵩密度は10kg/m3以上50kg/m3以下であることが好ましく、10kg/m3以上35kg/m3以下であることがより好ましい。また、前記発泡粒子の嵩密度に対する見掛け密度の比は1.7以上1.9以下であることが好ましく、1.7以上1.8以下であることがより好ましい。嵩密度が上記範囲内である発泡粒子を用いて型内成形を行うことにより、軽量で剛性に優れる成形体を容易に得ることができる。また、嵩密度に加えて嵩密度に対する見掛け密度の比が前記特定の範囲内である発泡粒子を用いて型内成形を行うことにより、成形体の開放気泡率をより容易に適正な範囲にし、成形体の剛性及び外観をより容易に向上させるとともに、養生工程を行わない場合における成形体の収縮や変形を抑制する効果をより確実に得ることができる。
【0050】
発泡粒子の嵩密度の算出方法は以下の通りである。まず、発泡粒子を相対湿度50%、温度23℃、気圧1atmの環境下で24時間以上静置し、発泡粒子の状態を調節する。次に、状態調節後の発泡粒子をメスシリンダー内に自然に堆積するようにして充填し、メスシリンダーの目盛から発泡粒子群の嵩体積(単位:L)を読み取る。そして、メスシリンダー内の発泡粒子群の質量(単位:g)を前述した嵩体積で除した値を単位換算することにより、発泡粒子の嵩密度(単位:kg/m3)を得ることができる。
【0051】
発泡粒子の見掛け密度の算出方法は以下の通りである。まず、相対湿度50%、温度23℃、気圧1atmの環境下で発泡粒子群を1日間静置し、発泡粒子の状態を調節する。この発泡粒子群の質量(単位:g)を測定した後、23℃のアルコール(例えばエタノール)を入れたメスシリンダー内に金網などを使用して沈め、液面の上昇分から発泡粒子群の体積(単位:L)を求める。その後、発泡粒子群の質量を発泡粒子群の体積で除した値を単位換算することにより、発泡粒子の見掛け密度(単位:kg/m3)を算出することができる。
【0052】
成形体の軽量性と剛性とのバランスの観点から、発泡粒子の見掛け密度は、10kg/m3以上150kg/m3以下であることが好ましく、15kg/m3以上100kg/m3以下であることがより好ましく、20kg/m3以上80kg/m3以下であることがさらに好ましく、25kg/m3以上60kg/m3以下であることが特に好ましい。このように、見掛け密度の小さい発泡粒子を用いて型内成形を行うことにより、より軽量な成形体を容易に得ることができる。また、従来、特に密度の小さい成形体を製造する場合には、成形体が離型後に著しく変形しやすく、養生工程を省略することは困難であった。これに対し、前記発泡粒子は、見掛け密度が小さい場合であっても養生工程を省略することが可能であるため、無養生でも所望の形状を有する軽量な成形体を製造することができる。
【0053】
前記発泡粒子は、熱可塑性樹脂発泡層を有している。発泡層を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、結晶性ポリエステル系樹脂等の結晶性熱可塑性樹脂を好適に使用することができる。なお、本明細書において、ポリプロピレン系樹脂とは、プロピレン単量体の単独重合体及びプロピレンに由来する構成単位を50質量%以上含むプロピレン系共重合体をいう。また、ポリエチレン系樹脂とは、エチレン単量体の単独重合体及びエチレンに由来する構成単位を50質量%以上含むエチレン系共重合体をいう。
【0054】
本明細書において、「結晶性を有する」とは、JIS K7122(1987)に記載の「一定の熱処理を行った後、融解熱を測定する場合」(試験片の状態調節における加熱速度と冷却速度は、いずれも10℃/分とする。)を採用し、熱流束示差走査熱量測定装置を使用し、加熱速度10℃/分で得られるDSC曲線に基づく樹脂の融解に伴う吸熱ピーク熱量が5J/g以上であることをいう。前記吸熱ピーク熱量は15J/g以上であることが好ましく、30J/g以上であることがより好ましい。
【0055】
発泡層には、前述した作用効果を損なわない範囲で、エラストマー等の可塑性樹脂以外の他の重合体が含まれていてもよい。発泡層中の他の重合体の含有量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、0、つまり、発泡層は、重合体として実質的に熱可塑性樹脂のみを含むことが特に好ましい。
【0056】
また、発泡層中には、前述した作用効果を損なわない範囲で、気泡調整剤、結晶核剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、導電性フィラー、抗菌剤、着色剤等の添加剤が含まれていてもよい。発泡層中の添加剤の含有量は、例えば、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0057】
発泡層を構成する熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂であることが好ましく、プロピレンと他のモノマーとが共重合したプロピレン系共重合体であることがより好ましい。プロピレン系共重合体としては、エチレン-プロピレン共重合体、ブテン-プロピレン共重合体、ヘキセン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体等のプロピレンと炭素数4~10のα-オレフィンとの共重合体が好ましく例示される。これらの共重合体は、例えば、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体等であってもよいが、ランダム共重合体であることが好ましい。また、発泡層中には、1種類のポリプロピレン系樹脂が含まれていてもよく、2種類以上のポリプロピレン系樹脂が含まれていてもよい。
【0058】
発泡層を構成する熱可塑性樹脂は、これらのポリプロピレン系樹脂の中でも0.5質量%以上3.5質量%以下のエチレン成分を含むエチレン-プロピレンランダム共重合体であることが特に好ましい。このような発泡層を備えた発泡粒子は二次発泡性及び成形性に優れている。また、かかる発泡粒子を用いて型内成形を行うことにより、剛性及び表面性に優れ、養生工程を省略した場合にも変形や収縮を抑制できる成形体をより容易に得ることができる。
【0059】
より剛性に優れるとともに、養生工程を省略した場合における変形や収縮のより小さい成形体を得る観点からは、エチレン-プロピレンランダム共重合体中に含まれるエチレン成分の含有量は、0.5質量%以上2.0質量%未満であることが好ましい。一方、発泡粒子の成形性を高めるとともに、エネルギー吸収特性に優れた成形体を得る観点からは、エチレン-プロピレンランダム共重合体中に含まれるエチレン成分の含有量は、2.0質量%以上3.5質量%以下であることが好ましい。
【0060】
なお、前述した「エチレン成分」及び「プロピレン成分」は、それぞれ、エチレン-プロピレン共重合体におけるエチレン由来の構成単位及びプロピレン由来の構成単位を意味する。また、エチレン成分の含有量は、エチレン成分とプロピレン成分との合計を100質量%とした場合におけるエチレン成分の質量比率である。エチレン-プロピレン共重合体中の各成分の含有量は、IRスペクトル測定の結果に基づいて求めることができる。
【0061】
発泡層がポリプロピレン系樹脂から構成されている場合、ポリプロピレン系樹脂の融点Tmcは、155℃以下であることが好ましい。この場合には、より低い成形温度(つまり、低い成形圧)で外観や剛性に優れる成形体を成形することができる。この効果が向上するという観点から、発泡層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcは152℃以下であることが好ましく、148℃以下であることがより好ましい。一方、成形体の耐熱性や機械的強度等がより向上するという観点からは、発泡層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcは、135℃以上であることが好ましく、138℃以上であることがより好ましく、140℃以上であることがさらに好ましい。
【0062】
発泡層を構成する熱可塑性樹脂の融点は、JIS K7121-1987に基づいて示差走査熱量測定(つまり、DSC)を行い、取得したDSC曲線に基づいて決定することができる。具体的には、まず、「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を測定する場合」に従って試験片の状態調節を行う。状態調節された試験片を10℃/分の加熱速度で30℃から200℃まで昇温することによりDSC曲線を取得し、DSC曲線に現れた融解ピークの頂点温度を熱可塑性樹脂の融点Tmcとする。なお、DSC曲線に複数の融解ピークが表れる場合は、最も面積の大きな融解ピークの頂点温度を融点Tmcとする。
【0063】
発泡層がポリプロピレン系樹脂から構成されている場合、ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレイト(つまり、MFR)は5g/10分以上であることが好ましく、6g/10分以上であることがより好ましく、7g/10分以上であることがさらに好ましい。この場合には、発泡性や成形性をより高めることができる。一方、成形体の剛性をより高めるという観点から、ポリプロピレン系樹脂のMFRは12g/10分以下であることが好ましく、10g/10分以下であることがより好ましい。なお、ポリプロピレン系樹脂のMFRは、JIS K7210-1:2014に基づき、試験温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される値である。
【0064】
発泡層がポリプロピレン系樹脂から構成されている場合、ポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は800MPa以上1600MPa以下であることが好ましい。成形体の剛性を高めるという観点、及び養生工程を省略した場合の寸法変化をより確実に抑制するという観点から、発泡層を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は、800MPa以上であることが好ましく、850MPa以上であることがより好ましく、900MPa以上であることがさらに好ましく、1200MPa以上であることが特に好ましい。一方、より低い成形温度(つまり、低い成形圧)で外観や剛性に優れる成形体を成形することができるという観点、及び成形体のエネルギー吸収特性を向上させる観点から、発泡層を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は、1200MPa未満であることが好ましく、1100MPa以下であることがより好ましく、1000MPa以下であることがさらに好ましい。なお、ポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は、JIS K7171:2008に基づき、求めることができる。
【0065】
従来、特に曲げ弾性率1200MPa未満のポリプロピレン系樹脂から構成される発泡粒子を型内成形した場合には、養生工程を省略すると離型後の成形体が著しく収縮・変形する傾向があった。この原因としては、例えば、離型後の収縮・変形に対する抵抗力が小さいこと等が考えられる。これに対し、前述した成形体の製造方法によれば、たとえば1200MPa未満の曲げ弾性率を有するポリプロピレン系樹脂から構成される発泡粒子を用いた場合であっても、養生工程を省略することができる。
【0066】
発泡粒子は、発泡層と、発泡層を被覆する熱可塑性樹脂被覆層とを備えた多層構造を有していてもよい。この場合、被覆層は、発泡層の全面を被覆していてもよいし、発泡層の一部を被覆していてもよいが、発泡層の側周面の全面を被覆していることが好ましい。
【0067】
前述した被覆層は、発泡粒子の融着性を改善する作用を有している。被覆層がこのような作用を有しているか否かは、以下の方法により判別することができる。まず、発泡層と被覆層とを備えた発泡粒子を用い、種々のスチーム圧で型内成形を行う。このようにして得られた成形体の融着率を測定する。そして、融着率が90%以上である成形体が得られるスチーム圧のうち最も低い値を特定し、この値を最低成形圧P1とする。
【0068】
これとは別に、発泡層のみからなる発泡粒子を用いて同様の評価を行い、融着率が90%以上である成形体が得られるスチーム圧のうち最も低い値を特定し、この値を最低成形圧P2とする。そして、被覆層を有する発泡粒子の最低成形圧P1が、被覆層を有しない発泡粒子の最低成形圧P2未満である場合に、被覆層が融着性を改善する作用を有すると判断できる。
【0069】
なお、成形体の融着率の測定方法は以下の通りである。まず、成形体を折り曲げて破断させ、破断面を露出させる。この破断面における、発泡粒子の総数と、発泡粒子の内部において破断している発泡粒子(つまり、材料破壊している発泡粒子)の数とを数える。そして、破断面に存在する、発泡粒子の内部において破断している発泡粒子の数に対する発泡粒子の総数の比率を算出し、この値を融着率(単位:%)とする。
【0070】
被覆層は、前記発泡層を構成する熱可塑性樹脂の融点よりも低い融点または低い軟化点を有する熱可塑性樹脂から構成されていることが好ましい。このような熱可塑性樹脂からなる被覆層で発泡層を被覆することにより、型内成形においてより低い成形温度(つまり、低い成形圧)で発泡粒子を融着させることができる。その結果、養生工程を省略した場合における成形体の変形や収縮をより確実に抑制することができる。
【0071】
被覆層を構成する熱可塑性樹脂は、結晶性熱可塑性樹脂であってもよく、非結晶性熱可塑性樹脂であってもよい。被覆層に用いられる結晶性熱可塑性樹脂としては、例えば、発泡層に用いられる結晶性熱可塑性樹脂と同様の結晶性熱可塑性樹脂を用いることができる。また、被覆層に用いられる非結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、非結晶性ポリエステル系樹脂等が例示される。
【0072】
発泡層がポリプロピレン系樹脂から構成されている場合、被覆層は、発泡層との接着性の観点からポリオレフィン系樹脂から構成されていることが好ましく、ポリエチレン系樹脂及び/またはポリプロピレン系樹脂から構成されていることがより好ましく、ポリプロピレン系樹脂から構成されていることがさらに好ましい。被覆層に用いられるポリプロピレン系樹脂としては、例えばエチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体及びプロピレン単独重合体等が挙げられる。これらの中でも、被覆層を構成する熱可塑性樹脂はエチレン-プロピレン共重合体及び/又はエチレン-プロピレン-ブテン共重合体であることが特に好ましい。
【0073】
被覆層中には、前述した作用効果を損なわない範囲で、結晶核剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、導電性フィラー、抗菌剤、着色剤等の添加剤が含まれていてもよい。被覆層中の添加剤の含有量は、例えば、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0074】
発泡粒子の被覆層は発泡状態であってもよく、非発泡状態であってもよいが、実質的に非発泡状態であることが好ましい。「実質的に非発泡」とは、ほとんど気泡構造がないことを意味する。被覆層の厚みは、例えば0.5μm以上100μm以下である。また、発泡層と被覆層との間にさらに中間層を設けてもよい。
【0075】
発泡層を構成する樹脂と被覆層を構成する樹脂との質量比(質量%の比)は、成形体の剛性を維持しつつ、成形性を高める観点から、発泡層:被覆層=99.5:0.5~80:20であることが好ましく、99:1~85:15であることがより好ましく、97:3~88:12であることがさらに好ましい。
【0076】
発泡粒子の独立気泡率は、発泡粒子の成形性を高める観点、成形体の剛性をより高める観点から、90%以上であることが好ましく、92%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
【0077】
発泡粒子の独立気泡率は、ASTM-D2856-70手順Cに基づき空気比較式比重計を用いて測定することができる。具体的には、次のようにして測定される。まず、発泡粒子を相対湿度50%、温度23℃、気圧1atmの環境下で24時間以上静置し、発泡粒子の状態を調節する。状態調節後の発泡粒子からメスシリンダー内に自然に堆積させたときの標線の値が約20cm3となるように測定用サンプルを採取する。この測定用サンプルを温度23℃のエタノールが入ったメスシリンダーに沈め、液面の上昇量に基づいて測定用サンプルの見掛け体積を測定する。
【0078】
見掛け体積を測定した測定用サンプルを十分に乾燥させた後、ASTM-D2856-70に記載されている手順Cに準じ、島津製作所社製アキュピックII1340により測定される測定用サンプルの真の体積の値を測定する。そして、これらの体積の値を用い、下記の式(1)に基づいて測定用サンプルの独立気泡率(単位:%)を計算する。
独立気泡率=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ)・・・(1)
【0079】
ただし、上記式(1)におけるVx(単位:cm3)は発泡粒子の真の体積(つまり、発泡粒子を構成する樹脂の容積と、発泡粒子内の独立気泡部分の気泡全容積との和)であり、Va(単位:cm3)は発泡粒子の見掛け体積(つまり、発泡粒子をエタノールの入ったメスシリンダーに沈めた際の液面の上昇分から測定される体積)であり、W(単位:g)は測定用サンプルの質量であり、ρ(単位:g/cm3)は発泡層を構成する熱可塑性樹脂の密度である。
【0080】
以上の操作を異なる測定用サンプルを用いて5回行い、これら5回の測定により得られる独立気泡率の算術平均値を発泡粒子の独立気泡率とする。
【0081】
発泡層を構成する熱可塑性樹脂が結晶性熱可塑性樹脂である場合、発泡粒子は、加熱速度10℃/分で23℃から200℃まで加熱した際に得られるDSC曲線に、発泡層を構成する結晶性熱可塑性樹脂固有の融解による吸熱ピークと、この吸熱ピークよりも高温側に位置する1以上の融解ピークとが現れる結晶構造を有することが好ましい。このような結晶構造を備えた発泡粒子は、機械的強度に優れるとともに成形性にも優れている。なお、以下において、前記DSC曲線に現れる結晶性熱可塑性樹脂固有の融解による吸熱ピークを「樹脂固有ピーク」といい、樹脂固有ピークよりも高温側に現れる融解ピークを「高温ピーク」という。樹脂固有ピークは、発泡層を構成する結晶性熱可塑性樹脂が本来有する結晶が融解する際の吸熱によって生じる。一方、高温ピークは、発泡粒子の製造過程で発泡層を構成する結晶性熱可塑性樹脂中に形成された二次結晶の融解によって生じると推定される。すなわち、DSC曲線に高温ピークが現れた場合、結晶性熱可塑性樹脂中に二次結晶が形成されていると推定される。
【0082】
発泡粒子が前述した結晶構造を有するか否かは、JIS K7121:1987に準拠し、前述した条件により示差走査熱量測定(DSC)を行うことにより得られるDSC曲線に基づいて判断すればよい。また、DSCを行うにあたっては、発泡粒子1~3mgを試料として用いればよい。
【0083】
具体的には、上記のように10℃/分の加熱速度で23℃から200℃までの加熱(つまり、第1回目の加熱)を行ったときに得られるDSC曲線には、高温ピークと、発泡層を構成する結晶性熱可塑性樹脂の樹脂固有ピークとの両方が現れる。これに対し、第1回目の加熱を行った後、10℃/分の冷却速度で200℃から23℃まで冷却し、その後再び10℃/分の加熱速度で23℃から200℃までの加熱(つまり、第2回目の加熱)を行ったときに得られるDSC曲線においては、発泡層を構成する結晶性熱可塑性樹脂の樹脂固有ピークのみが現れる。従って、第1回目の加熱時に得られるDSC曲線と第2回目の加熱時に得られるDSC曲線とを比較することにより、樹脂固有ピークと高温ピークとを見分けることができる。この樹脂固有ピークの頂点の温度は、第1回目の加熱と第2回目の加熱とで多少異なる場合があるが、通常、その差は5℃以内である。
【0084】
発泡粒子の高温ピークの融解熱量は、発泡粒子の成形性をより向上させるという観点、及び剛性により優れる成形体を得るという観点から、5J/g以上40J/g以下であることが好ましく、7J/g以上30J/g以下であることがより好ましく、10J/g以上20J/g以下であることがさらに好ましい。
【0085】
前述した高温ピークの融解熱量は、次のようにして求められる値である。まず、発泡粒子を相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて24時間静置して発泡粒子の状態を調節する。状態調節を行った後の発泡粒子1~3mgを試料として用い、加熱速度10℃/分で23℃から200℃まで加熱するという条件で示差走査熱量測定を行うことによりDSC曲線を得る。
図3にDSC曲線の一例を示す。発泡粒子が高温ピークを有する場合、DSC曲線には、
図3に示すように、樹脂固有ピークΔH1と、樹脂固有ピークΔH1の頂点よりも高温側に頂点を有する高温ピークΔH2とが現れる。
【0086】
次に、DSC曲線上における80℃に相当する点αと、発泡粒子の融解終了温度Tに相当する点βとを結ぶ直線L1を引く。なお、融解終了温度Tは、高温ピークΔH2における高温側の端点、つまり、DSC曲線における、高温ピークΔH2と、高温ピークΔH2よりも高温側のベースラインとの交点である。
【0087】
直線L1を引いた後、樹脂固有ピークΔH1と高温ピークΔH2との間に存在する極大点γを通り、グラフの縦軸に平行な直線L2を引く。この直線L2により樹脂固有ピークΔH1と高温ピークΔH2とが分割される。高温ピークΔH2の吸熱量は、DSC曲線における高温ピークΔH2を構成する部分と、直線L1と、直線L2とによって囲まれた部分の面積に基づいて算出することができる。
【0088】
(発泡粒子の製造方法)
前記発泡粒子は、たとえば、熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂粒子(以下、「樹脂粒子」という。)を分散媒に分散させるとともに、樹脂粒子に発泡剤を含浸させた後、発泡剤を含む樹脂粒子を分散媒とともに低圧下に放出する方法により製造することができる。なお、このような発泡方法は「ダイレクト発泡法」と呼ばれることがある。
【0089】
樹脂粒子は、例えばストランドカット法により作製することができる。ストランドカット法では、まず、押出機内に、発泡層を構成する熱可塑性樹脂と、必要に応じて供給される気泡核剤等の添加剤を供給し、加熱、混練して樹脂溶融混練物とする。その後、押出機先端に付設されたダイの小孔から、樹脂溶融混練物を押し出して複数の貫通孔を有する柱状の押出物を形成する。この押出物を冷却した後、所望の長さに切断することにより、熱可塑性樹脂を含む芯層からなり、複数の貫通孔を備えた単層構造の樹脂粒子を得ることができる。
【0090】
発泡層と当該発泡層を被覆する被覆層とを備えた多層構造の発泡粒子を得ようとする場合には、芯層形成用押出機と、被覆層形成用押出機と、これら2台の押出機に接続された共押出ダイとを備えた共押出装置を用いて多層構造の樹脂粒子を作製すればよい。この場合、芯層形成用押出機では、発泡層を構成する熱可塑性樹脂と、必要に応じて添加される添加剤等とを溶融混練し、芯層形成用樹脂溶融混練物を作製する。また、被覆層形成用押出機では、被覆層を構成する熱可塑性樹脂と、必要に応じて添加される添加剤等とを溶融混練し、被覆層形成用樹脂溶融混練物を作製する。
【0091】
これらの溶融混練物を共押出し、ダイ内で合流させることにより、非発泡状態の柱状の芯層と、芯層の外側表面を被覆する非発泡状態の被覆層とからなる多層構造の複合体を形成する。この複合体をダイの小孔から押し出して芯層に複数の貫通孔を有する柱状の押出物を形成する。この押出物を冷却した後、所望の長さに切断することにより、芯層に複数の貫通孔を有する多層構造の樹脂粒子を得ることができる。なお、樹脂粒子の製造方法は前述した方法に限定されることはなく、ホットカット法や、水中カット法等を採用してもよい。
【0092】
樹脂粒子を作製するに当たっては、柱状の押出物を水中で冷却した後に切断する、ストランドカット方式を採用することが好ましい。この場合には、樹脂粒子の形状の精度をより高め、最終的に得られる発泡粒子における複数の貫通孔の形状をより容易に所望の形状とすることができる。
【0093】
樹脂粒子の粒子径は、0.1mm以上3.0mm以下であることが好ましく、0.3mm以上1.5mm以下であることがより好ましい。
【0094】
また、樹脂粒子1個当たりの質量は、0.1mg以上20mg以下であることが好ましく、0.2mg以上10mg以下であることがより好ましく、0.3mg以上5mg以下であることがさらに好ましく、0.4mg以上2mg以下であることが特に好ましい。なお、樹脂粒子1個当たりの質量は、無作為に選んだ200個の樹脂粒子の質量を樹脂粒子の個数で除した値である。また、前述した方法により得られる樹脂粒子1個当たりの質量を、「樹脂粒子1個当たりの平均質量」ということがある。
【0095】
樹脂粒子が芯層と被覆層とを有する場合、芯層と被覆層の質量比率は、芯層:被覆層=99.5:0.5~85:15であることが好ましく、99:1~92:8であることがより好ましく、97:3~90:10であることがさらに好ましい。
【0096】
貫通孔を有する発泡粒子を形成するに当たり、樹脂粒子における芯層の貫通孔の孔径drを調整することにより、発泡粒子の貫通孔の孔径dを前記特定の範囲に調整することができる。より具体的には、樹脂粒子の貫通孔の孔径drを0.03mm以上0.15mm未満、好ましくは0.05mm以上0.1mm未満とすることにより、貫通孔の孔径dが0.1mm以上0.5mm未満の発泡粒子を容易に製造することができる。樹脂粒子の芯層の貫通孔の孔径drは、たとえば貫通孔を形成するためのダイの小孔の孔径(つまり、ダイスの内径)により調整することができる。
【0097】
樹脂粒子の貫通孔の孔径drの算出方法は、発泡粒子に替えて樹脂粒子を用いる以外は、前述した発泡粒子の貫通孔の孔径dの算出方法と同様である。なお、かかる方法により得られる樹脂粒子の貫通孔の孔径drを、「樹脂粒子の貫通孔の平均孔径dr」ということがある。
【0098】
なお、押出物の切断にストランドカット方式、つまり、ダイから押し出された筒状の押出物を引き取りながら水中で冷却した後、適当な長さに切断する方法を採用する場合には、樹脂溶融混練物の押出の際に、押出速度、引き取り速度、カッタースピードなどを適宜変えて切断することにより樹脂粒子の粒子径、長さ/外径比及び1個当たりの質量を調整することができる。
【0099】
上記のようにして樹脂粒子を作製した後、樹脂粒子を分散媒中に分散させる。樹脂粒子を分散媒中に分散させる作業は、後に行う発泡工程において用いる密閉容器内で行ってもよいし、発泡工程において用いる密閉容器とは別の容器内で行ってもよい。製造工程の簡素化の観点からは、分散工程を発泡工程において用いる密閉容器内で行うことが好ましい。
【0100】
分散媒としては、水を主成分とする水性分散媒が用いられる。水性分散媒中には、水の他に、エチレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノール等の親水性の有機溶媒が含まれていてもよい。水性分散媒における水の割合は、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
【0101】
分散媒中には分散剤を添加することが好ましい。分散媒中に分散剤を添加することにより、発泡工程において、容器内で加熱された樹脂粒子同士の融着を抑制することができる。分散剤の添加量は、樹脂粒子100質量部当たり0.001質量部以上5質量部以下であることが好ましい。分散剤としては、有機分散剤や無機分散剤を使用することができるが、取り扱いの容易さから微粒状無機物を分散剤として使用することが好ましい。より具体的には、分散剤としては、例えば、アムスナイト、カオリン、マイカ、クレー等の粘土鉱物や、酸化アルミニウム、酸化チタン、塩基性炭酸マグネシウム、塩基性炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、酸化鉄等を使用することができる。これらの分散剤は、単独で使用されてもよく、2種以上の分散剤が併用されてもよい。これらの中でも分散剤としては粘土鉱物を用いることが好ましい。粘土鉱物は、天然のものであっても、合成されたものであってもよい。
【0102】
なお、分散剤を使用する場合、分散助剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤を併用することが好ましい。分散助剤の添加量は、樹脂粒子100質量部当たり0.001質量部以上1質量部以下であることが好ましい。
【0103】
樹脂粒子を分散媒中に分散させた後、密閉容器内において樹脂粒子に発泡剤を含浸させる。樹脂粒子に含浸させる発泡剤は物理発泡剤であることが好ましい。物理発泡剤としては、二酸化炭素、空気、窒素、ヘリウム、アルゴン等の無機物理発泡剤や、プロパン、ブタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、クロロフルオロメタン、トリフルオロメタン、1,1-ジフルオロメタン、1-クロロ-1,1-ジクロロエタン、1,2,2,2-テトラフルオロエタン、メチルクロライド、エチルクロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素等の有機物理発泡剤が挙げられる。これらの物理発泡剤は単独で使用されていてもよく、二種以上の物理発泡剤が併用されていてもよい。また、無機物理発泡剤と有機物理発泡剤とを混合して用いることもできる。環境に対する負荷や取扱い性の観点から、好ましくは無機物理発泡剤、より好ましくは二酸化炭素が用いられる。
【0104】
樹脂粒子100質量部に対する発泡剤の添加量は、好ましくは0.1質量部以上30質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上15質量部以下であることがより好ましい。
【0105】
発泡粒子の製造工程において、樹脂粒子に発泡剤を含浸させる方法としては、密閉容器内に発泡剤を供給し、密閉容器内の圧力を上昇させて分散媒中の樹脂粒子に発泡剤を含浸させる方法を採用することができる。この際、樹脂粒子を分散媒とともに加熱することにより、樹脂粒子への発泡剤の含浸をより促進することができる。
【0106】
発泡時の密閉容器内の圧力はゲージ圧において0.5MPa(G)以上であることが好ましい。一方、密閉容器内の圧力はゲージ圧において4.0MPa(G)以下であることが好ましい。上記範囲内であれば、密閉容器の破損や爆発等のおそれがなく安全に発泡粒子を製造することができる。
【0107】
また、分散媒を加熱する場合には、分散媒の昇温を、1~5℃/分で行うことで、発泡時の温度も適切な範囲とすることができる。
【0108】
樹脂粒子への発泡剤の含浸が完了した後に、密閉容器の内容物を密閉容器よりも低圧の環境へ放出する。これにより、樹脂粒子の芯層が発泡して気泡構造が形成されるとともに、外気によって冷却されて気泡構造が安定化し、発泡粒子が得られる。
【0109】
芯層がポリプロピレン系樹脂から構成されている場合、発泡剤を含浸させる際に以下の態様で加熱及び発泡を行うことが好ましい。すなわち、まず、(ポリプロピレン系樹脂の融点-20℃)以上、(ポリプロピレン系樹脂の融解終了温度)未満の温度で十分な時間、好ましくは10~60分程度保持する一段保持工程を行い、その後、(ポリプロピレン系樹脂の融点-15℃)から(ポリプロピレン系樹脂の融解終了温度+10℃)未満の温度に調節する。そして、必要により、その温度でさらに十分な時間、好ましくは10~60分程度保持する二段保持工程を行う。その後、密閉容器内の温度を(ポリプロピレン系樹脂の融点-10℃)以上とした状態で密閉容器の内容物を外部へ放出させ、樹脂粒子を発泡させることが好ましい。発泡時における密閉容器内の温度は、(ポリプロピレン系樹脂の融点)以上(ポリプロピレン系樹脂の融点+20℃)以下であることがより好ましい。このようにして樹脂粒子を加熱して発泡させることにより、発泡層を構成するポリプロピレン系樹脂中に二次結晶を形成し、機械的強度に優れるとともに成形性にも優れた発泡粒子を容易に得ることができる。
【0110】
成形体の作製には、以上により得られた発泡粒子をそのまま用いてもよい。また、前述したダイレクト発泡法により得られた発泡粒子をさらに発泡させ、見掛け密度を小さくした発泡粒子を用いて成形体を作製することもできる。なお、このように樹脂粒子の発泡を二段階で行う場合、一段階目の発泡工程を一段発泡工程といい、一段発泡工程により得られる発泡粒子を一段発泡粒子という。また、二段階目の発泡工程を二段発泡工程という。二段発泡工程により得られる発泡粒子は、二段発泡粒子と呼ばれることもある。
【0111】
二段発泡により発泡粒子の見掛け密度を小さくする方法は、例えば以下の通りである。まず、一段発泡工程として前述したダイレクト発泡法により樹脂粒子を発泡させ、一段発泡粒子を得る。その後、一段発泡粒子に内圧を付与する。より具体的には、一段発泡粒子を耐圧容器内に入れた後、耐圧容器内を空気や二酸化炭素等の無機ガスで加圧して発泡粒子に無機ガスを含浸させる。これにより、一段発泡粒子の気泡内の圧力を大気圧以上とする。その後、耐圧容器から取り出した一段発泡粒子を、その気泡内の圧力よりも低圧の環境下でスチームや加熱空気などの加熱媒体を用いて加熱することにより一段発泡粒子を二段発泡させる。
【0112】
(発泡粒子成形体)
前記発泡粒子を型内成形することにより、発泡粒子成形体を得ることができる。成形体は、開放気泡構造を有する。開放気泡構造は、成形体の外部と連通した微小な空間部分である。開放気泡構造は、複数の発泡粒子の貫通孔が相互に連通して形成される空隙、発泡粒子の貫通孔が発泡粒子間に形成される空隙と連通して形成される空隙、発泡粒子間の隙間が連通して形成される空隙、成形体を構成する発泡粒子の連続気泡部分などが、複雑につながって形成される。
【0113】
成形体の開放気泡率は2%以上12%以下であることが好ましい。成形体の開放気泡率を前記特定の範囲とすることにより、養生工程を省略しても、成形体の著しい収縮、変形等を抑制するとともに、成形体の外観及び剛性を向上させることができる。これは、成形体が上記特定の割合で開放気泡構造を有することにより、離型後、速やかに成形体内部の気泡まで空気が流入し、成形体全体の内圧が高められる結果、成形体の寸法が早期に安定化しやすくなるためであると考えられる。
【0114】
成形体の開放気泡率が過度に低い場合には、養生工程を省略すると、成形体が著しく収縮、変形し、所望の形状の成形体が得られなくなるおそれがある。養生工程を省略しても、成形体の著しい収縮、変形等をより抑制することができる観点から、成形体の開放気泡率は、2%以上であることが好ましく、2.5%以上であることがより好ましく、3%以上であることがさらに好ましく、4%以上であることが特に好ましい。一方、成形体の開放気泡率が過度に高い場合には、成形体の外観が悪くなると共に、剛性が低下するおそれがある。また、用途によっては漏水防止性が不足するおそれがある。成形体の外観、剛性及び漏水防止性をより向上させることができるという観点から、成形体の開放気泡率は、12%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、8%以下であることがさらに好ましく、7.5%以下であることが特に好ましく、6%以下であることが最も好ましい。
【0115】
成形体の開放気泡率は、ASTM2856-70手順Bに準拠して測定される。具体的には、まず、成形体を23℃の温度で12時間静置して成形体の状態を調節する。次いで、成形体の中心部から、縦2.5cm×横2.5cm×高さ2.5cmの立方体形状の第1試験片を切り出し、その幾何学的体積Va(単位:cm3)、つまり、縦寸法(単位:cm)と横寸法(単位:cm)と高さ寸法(単位:cm)との積を算出する。次に、乾式自動密度計(具体的には、島津製作所社製アキュピックII1340)を使用して第1試験片の真の体積V1(単位:cm3)を測定する。
【0116】
その後、第1試験片を8等分にし、縦1.25cm×横1.25cm×高さ1.25cmの立方体形状の第2試験片を作製し、乾式自動密度計により第2試験片の真の体積V2(単位:cm3)を測定する。なお、第2試験片の真の体積V2は、第1試験片から切り出される8個の各々の真の体積の合計である。
【0117】
第1試験片の開放気泡率(単位:%)は、以上により得られた第1試験片の幾何学的体積Va、第1試験片の真の体積V1及び第2試験片の真の体積V2を用い、下記式(2)により表される。なお、このようにして測定される開放気泡率は、第1試験片から第2試験片を切り出す際に破壊される独立気泡の影響を補正した値であり、補正連続気泡率とも呼ばれる。
開放気泡率=(Va-2V1+V2)×100/Va ・・・(2)
【0118】
以上の操作を5個の第1試験片について行い、各第1試験片の開放気泡率を算出する。そして、5個の第1試験片における開放気泡率の算術平均値を成形体の開放気泡率Coとする。
【0119】
なお、本明細書における開放気泡率Coは上記のようにASTM2856-70手順Bに準拠して測定される物性値であり、成形体の空隙率とは異なる概念を有する物性値である。成形体の空隙率は、例えば次のようにして測定される。具体的には、まず、成形体の中心部から直方体形状(例えば、縦20mm×横100mm×高さ20mm)の試験片を切り出す。次いで、エタノールを入れたメスシリンダー中にこの試験片を沈め、エタノールの液面の上昇分から試験片の真の体積Vc(単位:L)を求める。また、試験片の外形寸法から見掛けの体積Vd(単位:L)を求める。成形体の空隙率(単位:%)は、以上により得られる試験片の真の体積Vcと見掛けの体積Vdを用い、下記式(3)により表される。
空隙率=[(Vd-Vc)/Vd]×100・・・(3)
【0120】
成形体の空隙率の測定においては、試験片を切り出した際に破壊される独立気泡は考慮されていない。また、測定のための媒体としてエタノール等の液体を用いる点で上記開放気泡率Coの測定方法とは異なる。したがって、開放気泡率Coの値は、成形体の空隙率の値をもとに推定することも困難である。なお、成形体の空隙率は、開放気泡率Coよりも必ず大きな値となる。
【0121】
養生工程を省略しても寸法変化をより十分に抑制することができるという観点から、成形体の空隙率は4%以上であることが好ましく、4.5%以上であることがより好ましく、5%以上であることがさらに好ましい。一方、剛性や外観がより向上するという観点から、成形体の空隙率は12%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。成形体の空隙率は、上述の測定方法により測定することができる。
【0122】
成形体の密度は10kg/m3以上60kg/m3以下であることが好ましい。この場合には、成形体の軽量性と剛性とをバランスよく向上させることができる。成形体の剛性がより向上するという観点から、成形体の密度は15kg/m3以上であることがより好ましく、20kg/m3以上であることがさらに好ましい。成形体の軽量性がより向上するという観点から、成形体の密度は50kg/m3以下であることがより好ましく、45kg/m3以下であることがさらに好ましい。成形体の密度は、成形体の質量(単位:g)を成形体の外形寸法から求められる体積(単位:L)で除し、単位換算することにより算出される。なお、例えば成形体が少なくとも部分的に複雑形状を有し、成形体の外形寸法から体積を求めることが容易でない場合には、水没法により成形体の体積を求めることができる。
【0123】
従来、密度の小さい成形体を製造する場合、離型後に成形体が著しく変形しやすいため、養生工程を省略することは特に困難であった。これに対し、前記発泡粒子成形体は、密度が小さい場合であっても養生工程を省略することが可能であり、無養生でも所望形状で、外観、剛性に優れている。この効果を有効に発揮するという観点からも、成形体の密度を上記範囲にすることが好ましい。
【0124】
成形体は、例えば、自動車などの車両分野、建築分野等の種々の分野における吸音材、衝撃吸収材、緩衝材等にも用いられる。
【0125】
(発泡粒子成形体の製造方法)
前記発泡粒子成形体を作製するに当たっては、例えば、前記発泡粒子を成形型内に充填した後、成形型内に加熱媒体としてのスチームを供給して型内成形を行えばよい。具体的には、まず、所望する成形体の形状に対応したキャビティを有する成形型内に、発泡粒子を充填する。発泡粒子の充填が完了した後、成形型内にスチームを供給して発泡粒子を加熱する。成形型内の発泡粒子は、スチームによって加熱され、二次発泡しつつ相互に融着する。これにより、成形型内の発泡粒子を一体化させ、成形体を形成することができる。
【0126】
発泡粒子の加熱が完了した後、成形型内の成形体を冷却して形状を安定させる。その後、成形型から成形体を取り出すことにより、型内成形が完了する。前記製造方法においては、必要に応じて、離型後の成形体を例えば60℃から80℃程度の温度に調整された高温雰囲気下で所定時間静置させる養生工程を行ってもよいが、離型後の成形体に高温雰囲気下での養生工程を行わない場合にも成形体の収縮や変形を抑制することができる。養生工程を省略する場合には、例えば、離型後の成形体をたとえば23℃の環境中で12時間静置することにより、成形体の形状を安定させることができる。
【0127】
前記製造方法においては、前記特定の発泡粒子を型内成形することにより成形体の開放気泡率を2%以上12%以下の範囲内に容易に調整することができる。発泡粒子が貫通孔を有しない場合には、成形体の開放気泡率の値を2%以上とすることが困難となる。
【0128】
また、成形体の開放気泡率は、発泡粒子における発泡粒子の断面積Aに対する貫通孔の断面積の合計Ctの比Ct/Aが高いほど大きくなる傾向がある。従って、比Ct/Aが低すぎる場合には開放気泡率が2%未満となりやすく、比Ct/Aが高すぎる場合には開放気泡率が12%よりも高くなりやすい。
【実施例0129】
前記発泡粒子、発泡粒子成形体及びその製造方法の実施例を説明する。
【0130】
(ポリプロピレン系樹脂)
表1に、発泡粒子の製造に使用したポリプロピレン系樹脂の性状等を示す。なお、本例において使用したエチレン-プロピレン共重合体及びエチレン-プロピレン-ブテン共重合体は、いずれもランダム共重合体である。また、表1に示すPP1及びPP2の密度は、900kg/m3である。
【0131】
【0132】
<ポリプロピレン系樹脂のモノマー成分含有量>
ポリプロピレン系樹脂(具体的には、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体)のモノマー成分含有量は、IRスペクトルにより決定する公知の方法により求めた。具体的には、高分子分析ハンドブック(日本分析化学会高分子分析研究懇談会編、出版年月:1995年1月、出版社:紀伊国屋書店、ページ番号と項目名:615~616「II.2.3 2.3.4 プロピレン/エチレン共重合体」、618~619「II.2.3 2.3.5 プロピレン/ブテン共重合体」)に記載されている方法、つまり、エチレン及びブテンの吸光度を所定の係数で補正した値とフィルム状の試験片の厚み等との関係から定量する方法により求めた。
【0133】
より具体的には、まず、ポリプロピレン系樹脂を180℃の環境下でホットプレスしてフィルム状に成形し、厚みの異なる複数の試験片を作製した。次いで、各試験片のIRスペクトルを測定することにより、エチレン由来の722cm-1及び733cm-1における吸光度(A722、A733)と、ブテン由来の766cm-1における吸光度(A766)とを読み取った。次いで、各試験片について、以下の式(4)~(6)を用いてポリプロピレン系樹脂中のエチレン成分含有量(単位:質量%)を算出した。各試験片について得られたエチレン成分含有量の算術平均値をポリプロピレン系樹脂中のエチレン成分含有量(単位:質量%)とした。
【0134】
(K´733)c=1/0.96{(K´733)a-0.268(K´722)a}・・・(4)
(K´722)c=1/0.96{(K´722)a-0.268(K´722)a}・・・(5)
エチレン成分含有量=0.575{(K´722)c+(K´733)c}・・・(6)
【0135】
ただし、式(4)~(6)におけるK´aは各波数における見かけの吸光係数(K´a=A/ρt)であり、K´cは補正後の吸光係数であり、Aは吸光度であり、ρは樹脂の密度(単位:g/cm3)であり、tはフィルム状の試験片の厚み(単位:cm)である。なお、上記式(4)~(6)はランダム共重合体に適用することができる。
【0136】
また、各試験片について、以下の式(7)を用いてポリプロピレン系樹脂中のブテン成分含有量を算出した。各試験片について得られたブテン成分含有量の算術平均値をポリプロピレン系樹脂中のブテン成分含有量(単位:質量%)とした。
ブテン成分含有量=12.3(A766/L)・・・(7)
ただし、式(7)におけるAは吸光度であり、Lはフィルム状の試験片の厚み(単位:mm)である。
【0137】
<ポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率>
ポリプロピレン系樹脂を230℃でホットプレスして4mmのシートを作製し、このシートから長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの試験片を切り出した。この試験片の曲げ弾性率を、JIS K7171:2008に準拠して求めた。なお、圧子の半径及び支持台の半径は共に5mmであり、支点間距離は64mmであり、試験速度は2mm/分である。
【0138】
<ポリプロピレン系樹脂の融点>
ポリプロピレン系樹脂の融点は、JIS K7121:1987に基づき求めた。具体的には、まず、JIS K7121:1987に記載の「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を測定する場合」に基づいてポリプロピレン系樹脂からなる試験片の状態を調節した。状態調節後の試験片を10℃/分の加熱速度で30℃から200℃まで昇温することによりDSC曲線を取得した。そして、DSC曲線に現れた融解ピークの頂点温度を融点とした。なお、測定装置としては、熱流束示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製、型番:DSC7020)を用いた。
【0139】
<ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレイト>
ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレイト(つまり、MFR)は、JIS K7210-1:2014に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定した。
【0140】
次に、本例において用いた発泡粒子の構成及び製造方法を説明する。
【0141】
(実施例1)
実施例1の発泡粒子1は、
図4及び
図5に示すように、円柱状の形状を有するとともに、その軸方向を貫通する5本の貫通孔11を有している。5本の貫通孔11(11a~11e)うち1本の貫通孔11aは発泡粒子1の中心軸10を貫くように設けられている。また、残る4本の貫通孔11b~11eは、中心軸10の周囲であって、発泡粒子1を、その軸方向の中央において軸方向に垂直な面で切断して得られる切断面における周方向の間隔が概ね等しい位置に配置されている。
【0142】
また、実施例1の発泡粒子1は、
図5及び表2に示すように、PP1からなる発泡層2と、PP2からなり、発泡層2を被覆する非発泡状態の被覆層3とを備えた多層構造を有している。
【0143】
本例の発泡粒子を作製するに当たっては、まず、芯層形成用押出機と、被覆層形成用押出機と、これら2台の押出機に接続された共押出ダイとを備えた共押出装置を用い、共押出装置から押し出された押出物をストランドカット法により切断して多層樹脂粒子を作製した。具体的には、芯層形成用押出機において、PP1と気泡調整剤としてのホウ酸亜鉛とを溶融混練し、芯層形成用樹脂溶融混練物を得た。なお、芯層形成用押出機における最高設定温度は245℃とし、ホウ酸亜鉛の配合量はポリプロピレン系樹脂の質量に対して500質量ppmとした。また、これと並行して、被覆層形成用押出機において、PP2を最高設定温度245℃にて溶融混練して被覆層形成用樹脂溶融混練物を得た。
【0144】
これらの樹脂溶融混練物を共押出し、ダイ内で合流させることにより、非発泡状態の芯層と、芯層の側周面を被覆する非発泡状態の被覆層とからなる複合体を形成した。この複合体をダイから押出した後、押出物を引き取りながら水中で冷却し、ペレタイザーを用いて適当な長さに切断することにより、芯層と該芯層の側周面を被覆する被覆層とからなり、芯層に5本の貫通孔が形成された多層樹脂粒子を得た。多層樹脂粒子における、芯層と被覆層との質量比は、芯層:被覆層=95:5(つまり、被覆層の質量比が5%)とした。また、多層樹脂粒子1個当たりの質量は約1.5mgとした。
【0145】
次に、ダイレクト発泡法により多層樹脂粒子を発泡させて発泡粒子を得た。具体的には、多層樹脂粒子1kgを、分散媒としての3Lの水とともに5Lの密閉容器内に投入した。次いで、密閉容器内に、多層樹脂粒子100質量部に対して0.3質量部の分散剤と、0.004質量部の分散助剤とを添加し、多層樹脂粒子を分散媒中に分散させた。分散剤としてはカオリンを使用した。また、分散助剤としては界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)を使用した。
【0146】
その後、発泡剤としての二酸化炭素を密閉容器内に添加した後、密閉容器を密閉し、密閉容器内を攪拌しながら表1の「発泡温度」欄に記載の温度まで加熱した。このときの容器内圧力(含浸圧力または二酸化炭素圧力ともいう)は表1の「容器内圧力」欄に示す値であった。前述した発泡温度を15分保持した後、密閉容器を開放して内容物を大気圧下に放出することにより、芯層が発泡してなる発泡層2と、発泡層2を被覆する非発泡状態の被覆層3とを備えた発泡粒子1を得た。
【0147】
次に、二段発泡工程を行うことにより、一段発泡粒子の見掛け密度を低下させた。具体的には、一段発泡粒子を耐圧容器(具体的には、金属製のドラム)内に入れ、耐圧容器内に空気を供給することにより、容器内の圧力を高め、空気を気泡内に含浸させた。耐圧容器から取り出した一段発泡粒子の気泡の内圧は表2に示す通りであった。その後、一段発泡粒子を金属製のドラムに入れ、ドラム圧力が表2に示す値となるようスチームを供給して一段発泡粒子を加熱することにより、表2に示す見掛け密度を有する発泡粒子1を得た。
【0148】
(実施例2)
本例の発泡粒子1は、貫通孔11の数が4つに変更されている以外は実施例1の発泡粒子1と同様の構成を有している。本例の発泡粒子1の貫通孔11(11f~11i)は、具体的には、
図6及び
図7に示すように、発泡粒子1の中心軸10の周囲であって、発泡粒子1をその軸方向の中央において軸方向に垂直な面で切断して得られる切断面における周方向の間隔が概ね等しい位置に配置されている。本例の発泡粒子1の製造方法は、共押出ダイにおける小孔の形状を変更した以外は実施例1の発泡粒子1の製造方法と同様である。
【0149】
(実施例3)
本例の発泡粒子1は、貫通孔11の孔径dが表2に示す値に変更されている以外は実施例1の発泡粒子1と同様の構成を有している。本例の発泡粒子1の製造方法は、共押出ダイにおける小孔の形状を変更した以外は実施例1の発泡粒子1の製造方法と概ね同様である。
【0150】
(実施例4)
本例の発泡粒子1は、貫通孔11の数が3つに変更されている以外は実施例1の発泡粒子1と同様の構成を有している。本例の発泡粒子1の貫通孔11(11j~11l)は、
図8及び
図9に示すように、発泡粒子1の中心軸10の周囲であって、発泡粒子1をその軸方向の中央において軸方向に垂直な面で切断して得られる切断面における周方向の間隔が概ね等しい位置に配置されている。本例の発泡粒子1の製造方法は、共押出ダイにおける小孔の形状を変更した以外は実施例1の発泡粒子1の製造方法と同様である。
【0151】
(比較例1)
本例の発泡粒子は、貫通孔を有さず、中実球状の形状を有する従来のポリプロピレン系樹脂発泡粒子である。本例の発泡粒子の製造方法は、貫通孔を有さず、中実球状の形状を有する樹脂粒子を用いた以外は実施例1の発泡粒子1の製造方法と概ね同様である。
【0152】
(比較例2)
比較例2の発泡粒子は、貫通孔11の数が1つに変更されている以外は実施例1の発泡粒子1と同様の構成を有している。図には示さないが、本例の発泡粒子における貫通孔は発泡粒子の中心軸を貫くように配置されている。本例の発泡粒子の製造方法は、共押出ダイにおける小孔の形状を変更した以外は実施例1の発泡粒子1の製造方法と概ね同様である。
【0153】
(比較例3)
比較例3の発泡粒子は、貫通孔11の数が1つに変更されていること、及び貫通孔の孔径dが表3に示す値に変更されていること以外は実施例1の発泡粒子1と同様の構成を有している。図には示さないが、本例の発泡粒子における貫通孔は発泡粒子の中心軸を貫くように配置されている。本例の発泡粒子の製造方法は、共押出ダイにおける小孔の形状を変更したこと、及び二段発泡を行わなかったこと以外は実施例1の発泡粒子1の製造方法と同様である。
【0154】
(比較例4)
本例の発泡粒子は、貫通孔の孔径dが表3に示す値に変更されている以外は実施例2の発泡粒子と同様の構成を有している。本例の発泡粒子の製造方法は、共押出ダイにおける小孔の形状を変更した以外は実施例1の発泡粒子1の製造方法と概ね同様である。
【0155】
実施例及び比較例における発泡粒子及び成形体の諸特性を表2及び表3に示す。表2及び表3に示す諸特性の評価方法は以下の通りである。
【0156】
(発泡粒子の評価)
発泡粒子の物性測定及び評価には、相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて24時間静置して状態調節した後の発泡粒子を使用した。
【0157】
<嵩密度>
状態調節後の発泡粒子をメスシリンダー内に自然に堆積するようにして充填し、メスシリンダーの目盛から発泡粒子群の嵩体積(単位:L)を読み取った。その後、メスシリンダー内の発泡粒子群の質量(単位:g)を前述した嵩体積で除し、さらに単位換算することにより、発泡粒子の嵩密度(単位:kg/m3)を算出した。
【0158】
<見掛け密度>
状態調節後の発泡粒子群の質量を測定した後、温度23℃のエタノールが入ったメスシリンダー内に金網を使用して沈めた。そして、金網の体積を考慮し、水位上昇分より読みとられる発泡粒子群の容積を測定した。このようにして得られた発泡粒子群の質量(単位:g)を容積(単位:L)で除した後、単位を換算することにより、発泡粒子の見掛け密度(単位:kg/m3)を算出した。
【0159】
<独立気泡率>
発泡粒子の独立気泡率の測定方法は、前述した通りである。
【0160】
<貫通孔の孔径d>
状態調節後の発泡粒子群から無作為に100個の発泡粒子を選択し、これらの発泡粒子をその軸方向における中央位置において軸方向に垂直な面で切断して発泡粒子の切断面を露出させた。次に、発泡粒子の切断面の写真を撮影し、画像解析を行うことにより個々の発泡粒子の貫通孔の断面積(つまり、開口面積)を計測した。そして、貫通孔の断面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、この値を個々の貫通孔の孔径とした。以上の操作を100個の発泡粒子について行い、得られた貫通孔の孔径の算術平均値を、発泡粒子の貫通孔の孔径dとした。
【0161】
<発泡粒子の断面積A>
状態調節後の発泡粒子群から無作為に100個の発泡粒子を選択し、これらの発泡粒子をその軸方向における中央位置において軸方向に垂直な面で切断して発泡粒子の切断面を露出させた。次に、発泡粒子の切断面の写真を撮影し、画像解析を行うことにより個々の発泡粒子における発泡層の断面積と被覆層の断面積とを算出した。そして、発泡層の断面積と被覆層の断面積との和を個々の発泡粒子の断面積とした。なお、発泡粒子の断面積には、貫通孔の断面積は含まれていない。以上の操作を100個の発泡粒子について行い、得られた発泡粒子の断面積の算術平均値を、発泡粒子の断面積Aとした。
【0162】
<貫通孔の断面積の合計Ct、貫通孔1つ当たりの断面積Ca>
状態調節後の発泡粒子群から無作為に100個の発泡粒子を選択し、これらの発泡粒子をその軸方向における中央位置において軸方向に垂直な面で切断して発泡粒子の切断面を露出させた。次に、発泡粒子の切断面の写真を撮影し、画像解析を行うことにより個々の発泡粒子の貫通孔の断面積を計測した。そして、個々の発泡粒子について貫通孔の断面積の合計を算出した。
【0163】
以上の操作を100個の発泡粒子について行い、得られた貫通孔の断面積の合計の算術平均値を貫通孔の断面積の合計Ctとし、貫通孔の断面積の合計Ctを貫通孔の数で除した値を貫通孔1つ当たりの断面積Caとした。また、表2及び表3には、切断面における発泡粒子の断面積Aに対する貫通孔の断面積の合計Ctの比Ct/A及び発泡粒子の断面積Aに対する貫通孔1つ当たりの断面積Caの比Ca/Aを記載した。
【0164】
<発泡粒子の外径D>
状態調節後の発泡粒子群から無作為に100個の発泡粒子を選択し、これらの発泡粒子をその軸方向における中央位置において軸方向に垂直な面で切断して発泡粒子の切断面を露出させた。次に、発泡粒子の切断面の写真を撮影し、画像解析を行うことにより個々の発泡粒子の発泡層の断面積、被覆層の断面積及び貫通孔の断面積を計測した。そして、発泡層の断面積、被覆層の断面積及び貫通孔の断面積の合計と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、この値を個々の発泡粒子の外径とした。以上の操作を100個の発泡粒子について行い、得られた発泡粒子の外径の算術平均値を、発泡粒子の外径Dとした。
【0165】
<貫通孔間距離R>
状態調節後の発泡粒子群から無作為に100個の発泡粒子を選択し、これらの発泡粒子をその軸方向における中央位置において軸方向に垂直な面で切断して発泡粒子の切断面を露出させた。次に、発泡粒子の切断面の写真を撮影し、画像解析を行うことにより、個々の貫通孔における中心点間距離、つまり、測定対象の貫通孔の中心点と当該貫通孔の中心点と最も近い中心点を有する貫通孔の中心点との距離を計測した。この測定を、測定対象の発泡粒子に形成される全ての貫通孔について行い、得られた中心点間距離の算術平均値を測定対象の発泡粒子の貫通孔間距離とした。以上の操作を100個の発泡粒子について行い、得られた発泡粒子の貫通孔間距離の算術平均値を、発泡粒子の貫通孔間距離Rとした。
【0166】
<最低成形圧>
最低成形圧の評価においては、本加熱時の成形圧を0.18~0.38MPa(G)の間で0.02MPaずつ変化させて型内成形を行うことにより発泡粒子成形体を作製した。そして、融着性及び回復性のいずれも良好な成形体を得られる成形圧のうち最も低い成形圧を最低成形圧とした。成形体の作製方法は、具体的には以下の通りである。
【0167】
まず、発泡粒子を23℃で24時間乾燥させた後、空気を含浸させて内圧、つまり気泡内の圧力を表2及び表3の「発泡粒子の内圧」欄に示す値まで高めた。なお、発泡粒子の内圧は、以下のようにして測定される値である。成形型内に充填する直前の、内圧が高められた状態の発泡粒子群の質量Q(単位:g)及び48時間経過後の発泡粒子群の質量U(単位:g)を測定し、QとUとの差を増加空気量W(単位:g)とした。これらの値を用い、下記式(8)に基づいて発泡粒子の内圧(単位:MPa(G))を算出した。
P=(W/M)×R×T/V ・・・(8)
【0168】
ただし、前記式(8)におけるMは空気の分子量であり、Rは気体定数であり、Tは絶対温度であり、Vは発泡粒子群の見掛け体積から発泡粒子群中に占める樹脂の体積を差し引いた体積(単位:L)である。本例では、M=28.8(g/mol)、R=0.0083(MPa・L/(K・mol))、T=296(K)とした。
【0169】
次に、クラッキング充填法により縦300mm×横250mm×厚さ60mmの平板成形型に発泡粒子を充填した。充填時のクラッキング量(具体的には、厚さ方向の内寸法に対する成形型の型開き量の比率)は表2及び表3に示す値とし、充填が完了した後、成形型を厚み方向に型締めして発泡粒子を機械的に圧縮した。
【0170】
次に、成形型内にスチームを供給して型内成形を行った。型内成形においては、まず、成形型のドレン弁を開放した状態で成形型内にスチームを5秒間供給して予備加熱を行った。次いで、ドレン弁を閉鎖し、本加熱時の成形圧より0.08MPa(G)低い圧力に達するまで、成形型の一方の面側からスチームを供給して一方加熱を行った。次に、本加熱時の成形圧より0.04MPa(G)低い圧力に達するまで成形型の他方の面側よりスチームを供給して一方加熱を行った。その後、本加熱時の成形圧に達するまで成形型の両面からスチームを供給して本加熱を行った。本加熱が完了した後、成形型内の圧力を解放し、成形体の発泡力による表面圧力が0.04MPa(G)になるまで成形型内において成形体を冷却した。
【0171】
その後、成形型から取り出した発泡粒子成形体を80℃のオーブン中で12時間静置する養生工程を行った。養生工程後、発泡粒子成形体を相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて24時間静置することにより、発泡粒子成形体の状態調節を行った。状態調節後の発泡粒子成形体の融着性及び回復性を評価し、後述する評価基準でいずれの項目でも合格となった成形圧(つまり、合格品が取得可能であった成形圧)のうち、最も低い成形圧を最低成形圧とした。最低成形圧が低いほど、成形性に優れていると判断することができる。
【0172】
最低成形圧の評価における融着性及び回復性の評価方法は以下の通りである。
【0173】
・融着性
発泡粒子成形体を長手方向に概ね等分となるように破断させた。破断面に露出した発泡粒子のうち無作為に選択した100個以上の発泡粒子を目視により観察し、粒子内部で破断した発泡粒子(つまり、材料破壊した発泡粒子)であるか、発泡粒子同士の界面で破断した発泡粒子であるかを判別した。そして、観察した発泡粒子の総数に対する粒子内部で破断した発泡粒子の数の比率を百分率で表した値(つまり、材料破壊率)を算出し、この値を融着率とした。そして、融着率が90%以上である場合を合格と判断し、90%未満である場合を不合格と判断した。
【0174】
・回復性
発泡粒子成形体を厚み方向から見た平面視において、各頂点より中心方向に10mm内側となる4か所の位置における発泡粒子成形体の厚みと、中央部における発泡粒子成形体の厚みとをそれぞれ計測した。次いで、計測した箇所のうち最も厚みの厚い箇所の厚みに対する最も厚みの薄い箇所の厚みの比(単位:%)を算出した。このようにして得られた厚みの比が95%以上である場合に合格と判断し、95%未満である場合に不合格と判断した。
【0175】
<成形サイクル評価>
・成形型内での冷却時間
本加熱時の成形圧を、前述した最低成形圧、最低成形圧よりも0.2MPa(G)高い圧力または最低成形圧よりも0.4MPa(G)高い圧力のいずれかとした以外は、前述した最低成形圧の評価と同様の方法で型内成形を行った。そして、本加熱が完了した時点から成形型内の圧力を解放し、成形体の発泡力による表面圧力が0.04MPa(G)になるまでの時間、つまり、成形型内における成形体の冷却時間を計測した。なお、発泡粒子の型内成形において、成形型内での冷却時間は成形圧が高くなるほど長くなる傾向がある。
【0176】
・無養生成形の可否
本加熱時の成形圧を前述した最低成形圧とし、前述した最低成形圧の評価と同様の方法で型内成形を行った。離型後の成形体に養生工程を施すことなく、相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて24時間静置することにより、成形体の状態調節を行った。状態調節後の成形体を厚み方向から見た平面視において、各頂点より中心方向に10mm内側となる4か所の位置における成形体の厚みと、中央部における成形体の厚みとをそれぞれ計測した。次いで、計測した箇所のうち最も厚みの厚い箇所の厚みに対する最も厚みの薄い箇所の厚みの比(単位:%)を算出した。
【0177】
表2及び表3の「無養生成形の可否」欄には、厚みの比が95%以上である場合に「可」と記載し、95%未満である場合に「不可」と記載した。なお、比較例3及び比較例4においては、後述するように外観評価が不合格であったため、無養生成形の可否については評価を行わなかった。
【0178】
(成形体の評価)
成形体の物性測定及び評価には、最低成形圧の評価において行った方法と同様の方法により最低成形圧で型内成形を行い、成形型から離型した後、養生工程を施すことなく相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて12時間静置して状態調節した成形体を使用した。
【0179】
<成形体の密度>
成形体の質量(単位:g)を成形体の外形寸法から求められる体積(単位:L)で除した後、単位換算することにより成形体の密度(単位:kg/m3)を算出した。
【0180】
<開放気泡率>
ASTM2856-70手順Bに準拠して開放気泡率を測定した。具体的には、まず、成形体の中心部から、縦2.5cm×横2.5cm×高さ2.5cmの立方体形状の第1試験片を切り出し、その幾何学的体積Va(単位:cm3)、つまり、縦寸法(単位:cm)と横寸法(単位:cm)と高さ寸法(単位:cm)との積を算出した。次に、乾式自動密度計(具体的には、島津製作所社製アキュピックII1340)を使用して第1試験片の真の体積V1(単位:cm3)を測定した。
【0181】
その後、第1試験片を8等分にし、縦1.25cm×横1.25cm×高さ1.25cmの立方体形状の第2試験片を作製し、乾式自動密度計により第2試験片の真の体積V2(単位:cm3)を測定した。なお、第2試験片の真の体積V2は、第1試験片から切り出された8個の各々の真の体積の合計である。
【0182】
以上により得られた第1試験片の幾何学的体積Va、第1試験片の真の体積V1及び第2試験片の真の体積V2を用い、下記式(2)に基づいて第1試験片の開放気泡率(単位:%)を算出した。
開放気泡率=(Va-2V1+V2)×100/Va ・・・(2)
【0183】
以上の操作を5個の第1試験片について行い、各第1試験片の開放気泡率を算出した。そして、5個の第1試験片における開放気泡率の算術平均値を成形体の開放気泡率Coとした。
【0184】
<成形体の空隙率>
成形体の中心部から縦20mm×横100mm×高さ20mmの直方体形状を有する試験片を切り出した。エタノールを入れたメスシリンダー中に試験片を沈め、エタノールの液面の上昇分から試験片の真の体積Vc(単位:L)を求めた。また、試験片の外形寸法から試験片の見掛けの体積Vd(単位:L)を求めた。以上により得られる試験片の真の体積Vcと見掛けの体積Vdを用い、下記式(3)に基づいて成形体の空隙率(単位:%)を算出した。
空隙率=[(Vd-Vc)/Vd]×100・・・(3)
【0185】
<50%圧縮応力σ50>
成形体の中心部から、縦50mm×横50mm×厚み25mmの角柱形状を有し、スキン面、つまり、型内成形時に成形型の内表面と接触していた面を含まない試験片を切り出した。JIS K6767:1999に基づき、圧縮速度10mm/分にて圧縮試験を行うことにより成形体の50%圧縮応力σ50(単位:kPa)を求めた。また、表2及び表3に、成形体の50%圧縮応力σ50を成形体の密度で除した値(σ50/密度)を記載した。
【0186】
<外観>
成形体の表面を目視観察し、下記基準に基づいて成形体の表面性を評価した。
A+:成形体の表面に粒子間隙が極めて少なく、かつ貫通孔に起因する凹凸がほとんど目立たない非常に良好な表面状態を示す。
A:成形体の表面に粒子間隙が十分に少なく、かつ貫通孔に起因する凹凸があまり目立たない良好な表面状態を示す。
B:成形体の表面に粒子間隙および/または貫通孔に起因する凹凸がやや認められる。
C:成形体の表面に粒子間隙および/または貫通孔に起因する凹凸が著しく認められる。
【0187】
【0188】
【0189】
表2に示したように、実施例1~4の発泡粒子は、円柱状の形状を有するとともに、その軸方向を貫通する複数の貫通孔を有している。また、これらの発泡粒子の断面積Aに対する貫通孔の断面積の合計Ctの比Ct/Aは前記特定の範囲内である。このような発泡粒子を用いて型内成形を行うことにより、成形型内での冷却時間を短縮することができた。実施例1~4の発泡粒子は、成形圧が最低成形圧よりも高い条件で成形した場合であっても、冷却時間を十分に短縮することができるとともに、養生工程を省略しても所望の形状を有し、外観及び剛性に優れた発泡粒子成形体を得ることができた。実施例1~4の発泡粒子は、前記比Ct/Aが前記特定の範囲内であり、かつ貫通孔の数が1つである比較例2の発泡粒子から得られた発泡粒子成形体と比べてもさらに外観が良好であった。
【0190】
一方、比較例1の発泡粒子は貫通孔を有しない従来のポリプロピレン系樹脂発泡粒子である。比較例1の発泡粒子は、二次発泡性が過度に高く、表3に示したように成形型内での冷却時間が著しく長くなった。また、比較例1の発泡粒子は、型内成形時にスチームの通り道が形成されにくいため、成形体を得るために必要な成形圧が高い。さらに、得られる成形体には開放気泡構造がほとんど形成されない。そのため、比較例1の発泡粒子を用いて作製した成形体は、成形型から離型した後で養生工程を施さない場合に著しく収縮、変形した。
【0191】
比較例2の発泡粒子は、実施例1~4の発泡粒子に比べて成形型内での冷却時間が長くなった。これは、貫通孔の数が1本であり、成形体における発泡粒子の貫通孔に由来する微小な空間部分の表面積が小さくなりやすいためと考えられる。
【0192】
比較例3及び比較例4の発泡粒子は、発泡粒子の断面積Aに対する貫通孔の断面積の合計Ctの比Ct/Aが大きすぎるため、成形体の表面に貫通孔に起因する凹凸が著しく形成され、外観が不合格となった。
【0193】
以上、実施例に基づいて本発明に係る熱可塑性樹脂発泡粒子及び熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の具体的な態様を説明したが、本発明に係る熱可塑性樹脂発泡粒子等の具体的な態様は実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。