(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011130
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】細胞培養装置、細胞培養システム、及び細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/02 20060101AFI20240118BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20240118BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240118BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240118BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20240118BHJP
【FI】
C12M1/02 A
C12M3/00 Z
C12M1/00 A
C12N5/071
C12N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112884
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154184
【弁理士】
【氏名又は名称】生富 成一
(74)【代理人】
【識別番号】100105795
【弁理士】
【氏名又は名称】名塚 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(72)【発明者】
【氏名】小関 修
(72)【発明者】
【氏名】田中 郷史
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】西山 喬晴
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA11
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC01
4B029DB19
4B029DF10
4B029DG06
4B029GA08
4B029GB09
4B029GB10
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065BC08
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】 接着細胞を袋状の培養容器により培養する場合において、接着細胞を効率よく培養面から剥離してシングルセルにすることの可能な細胞培養装置を提供する。
【解決手段】 軟包材からなる袋状の培養容器10を用いて細胞の培養を行う細胞培養装置20であって、培養容器10を載置する架台21と、架台21に載置される培養容器10を架台21に対して押圧する押圧部材24と、押圧部材24に衝撃を付与する衝撃付与機構25とを有し、押圧部材24が架台21に対して傾斜可能に備えられ、内容液が充填された培養容器10が架台21と押圧部材24の間に挟持された状態で、衝撃付与機構25が押圧部材24の端部に衝撃を付与する。内容液が充填された培養容器10が架台21と押圧部材24の間に平行に挟持された状態における培養容器10内の液厚を10mm以下とすることが好ましい。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟包材からなる袋状の培養容器を用いて細胞の培養を行う細胞培養装置であって、
前記培養容器を載置する架台と、前記架台に載置される前記培養容器を前記架台に対して押圧する押圧部材と、前記押圧部材に衝撃を付与する衝撃付与機構と、を有し、
前記押圧部材が前記架台に対して傾斜可能に備えられ、
内容液が充填された前記培養容器が前記架台と前記押圧部材の間に挟持された状態で、前記衝撃付与機構が前記押圧部材の端部に衝撃を付与する
ことを特徴とする細胞培養装置。
【請求項2】
2つの前記衝撃付与機構が、前記押圧部材の相対する端部にそれぞれ衝撃を付与するように備えられ、
内容液が充填された前記培養容器が前記架台と前記押圧部材の間に挟持された状態で、2つの前記衝撃付与機構が前記押圧部材の相対する端部に交互に衝撃を付与する
ことを特徴とする請求項1記載の細胞培養装置。
【請求項3】
内容液が充填された前記培養容器が前記架台と前記押圧部材の間に平行に挟持された状態における前記培養容器内の液厚が10mm以下である
ことを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養装置。
【請求項4】
前記押圧部材が前記架台に対して傾斜した状態で、前記衝撃付与機構による衝撃の付与を停止可能であることを特徴とする1又は2記載の細胞培養装置。
【請求項5】
前記衝撃付与機構として、カム、ソレノイドシリンダ、エアシリンダ、又は直動系アクチュエータを用いることを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養装置。
【請求項6】
前記細胞が、接着細胞であることを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養装置。
【請求項7】
請求項1又は2記載の細胞培養装置を複数備え、それぞれの細胞培養装置に載置された前記培養容器がポートを介して並列して連通されたことを特徴とする細胞培養システム。
【請求項8】
請求項1又は2記載の細胞培養装置を用いる細胞培養方法であって、
前記培養容器に接着細胞と培地を充填して細胞培養を行い、
前記培養容器を前記架台と前記押圧部材の間に挟持した状態で、前記衝撃付与機構により前記押圧部材の端部に衝撃を付与して、前記培養容器から前記接着細胞を剥離する
ことを特徴とする細胞培養方法。
【請求項9】
前記衝撃付与機構により前記押圧部材の端部に衝撃を付与して、前記培養容器から前記接着細胞を剥離すると共に、細胞塊をシングルセルに分解することを特徴とする請求項8記載の細胞培養方法。
【請求項10】
前記培養容器を、細胞の継代培養、又は細胞の分化誘導に用いることを特徴とする請求項8記載の細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養技術に関し、特に接着細胞を袋状の培養容器により培養する細胞培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品の生産や、遺伝子治療、再生医療、免疫療法等の分野において、細胞や組織などを人工的な環境下で効率良く大量に培養することが求められている。
このような状況において、軟包材からなる袋状の培養容器を用いて、細胞を閉鎖系で大量培養することが行われている。
【0003】
ところで、接着細胞を袋状の培養容器により培養する場合、細胞が増加するにしたがって、細胞が接着可能な培養面のスペースが次第になくなり、細胞の増殖効率が低下してしまう。
このため、増殖効率が低下する前に細胞を回収して、継代培養を行うことが必要であった。
具体的には、細胞を培養面から剥離してシングルセル(単個細胞)にし、これらを新たな培養容器に播種して、次に第二世代目の培養、さらに第三世代目の培養といったように細胞を繰り返し培養することが必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6601713号公報
【特許文献2】特許第4225924号公報
【特許文献3】特開2018-19631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、細胞の継代培養などを行う場合において、細胞を培養面から剥離してシングルセルにすることは、容易ではないという問題があった。
すなわち、接着細胞は、培養面に接着しているだけでなく、隣り合う細胞同士でも接着している。
【0006】
このため、その細胞塊をバラバラに崩壊させることは簡単には行うことができず、例えばセルスクレーパーなどを用いて細胞を培養面から剥離してシングルセルにしようとすると、細胞が強く押圧されたり、あるいは培養面の接着タンパクと細胞表面のタンパクが強引に切り離されたりして損傷し、死細胞が増えることが多くあった。
【0007】
一方、剥離液を用いて細胞を剥離することも一般的に行われているが、細胞を長時間剥離液に浸漬すると、細胞はダメージを受ける。
そこで、剥離液を添加後、適切な時間のみ浸漬した後に、手作業で培養容器を外側から叩くといった物理的な負荷を加えることにより、細胞を培養面から剥離し、さらに隣同士で接着している細胞を引き剥がしてシングルセルにすることが行われていた。
【0008】
しかしながら、このような方法は、細胞を自動的に大量培養する場合には、適していなかった。
そこで、本発明者らは鋭意研究して、接着細胞を効率よく培養面から剥離してシングルセルにすることが可能な細胞培養装置を開発することに成功して本発明を完成させた。
【0009】
具体的には、細胞培養装置において、内容液が充填された袋状の培養容器を押圧して容器内の液厚を小さくすることの可能な押圧部材を備えると共に、押圧部材に衝撃を加えて押圧部材を繰り返し傾斜動作させる衝撃付与機構を備えることにより、接着細胞を効率よく培養面から剥離してシングルセルにすることを可能とした。
【0010】
ここで、特許文献1には、袋状の培養容器の内面の少なくとも一部が接触するまで剥離液を排出した状態で培地を充填して細胞を剥離し、チューブポンプで細胞塊を崩壊させることが記載されている。
しかしながら、この方法では剥離液を排出した後に適切に洗浄工程を行うことができないという問題があった。また、袋状の培養容器を押圧するための手段が備えられていないため、仮に洗浄工程を実施するとしても、そのままでは培養容器内を十分に洗浄できないという問題もあった。
【0011】
また、特許文献2には、接着細胞の継代培養を行う自動継代培養装置が開示されている。しかし、これは袋状の培養容器に用いることが可能なものではなかった。また、特殊なフィルタ材が必要となるものであった。
【0012】
さらに、特許文献3には、袋状の培養容器内の内容液を撹拌することが可能な細胞培養装置が開示されている。しかし、この細胞培養装置は、単核球などの浮遊系細胞を培養するためのものであり、接着細胞を効率よく培養面から剥離してシングルセルにすることを可能とするものではなかった。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、接着細胞を袋状の培養容器により培養する場合において、接着細胞を効率よく培養面から剥離してシングルセルにすることの可能な細胞培養装置、細胞培養システム、及び細胞培養方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の細胞培養装置は、軟包材からなる袋状の培養容器を用いて細胞の培養を行う細胞培養装置であって、前記培養容器を載置する架台と、前記架台に載置される前記培養容器を前記架台に対して押圧する押圧部材と、前記押圧部材に衝撃を付与する衝撃付与機構とを有し、前記押圧部材が前記架台に対して傾斜可能に備えられ、内容液が充填された前記培養容器が前記架台と前記押圧部材の間に挟持された状態で、前記衝撃付与機構が前記押圧部材の端部に衝撃を付与する構成としてある。
【0015】
また、本発明の細胞培養装置を、2つの前記衝撃付与機構が、前記押圧部材の相対する端部にそれぞれ衝撃を付与するように備えられ、内容液が充填された前記培養容器が前記架台と前記押圧部材の間に挟持された状態で、2つの前記衝撃付与機構が前記押圧部材の相対する端部に交互に衝撃を付与する構成とすることが好ましい。
また、本発明の細胞培養装置を、内容液が充填された前記培養容器が前記架台と前記押圧部材の間に平行に挟持された状態における前記培養容器内の液厚が10mm以下である構成とすることも好ましい。
また、本発明の細胞培養装置を、前記押圧部材が前記架台に対して傾斜した状態で、前記衝撃付与機構による衝撃の付与を停止可能である構成とすることも好ましい。
【0016】
また、本発明の細胞培養装置を、前記衝撃付与機構として、カム、ソレノイドシリンダ、エアシリンダ、又は直動系アクチュエータを用いる構成とすることも好ましい。
また、本発明の細胞培養装置を、前記細胞が、接着細胞である構成とすることも好ましい。
さらに、本実施形態の細胞培養装置を、上記の細胞培養装置における各構成を様々に組み合わせたものとすることも好ましい。
【0017】
また、本発明の細胞培養システムは、上記のいずれかの細胞培養装置を複数備え、それぞれの細胞培養装置に載置された前記培養容器がポートを介して並列して連通された構成としてある。
【0018】
また、本発明の細胞培養方法は、上記のいずれかの細胞培養装置を用いる細胞培養方法であって、前記培養容器に接着細胞と培地を充填して細胞培養を行い、前記培養容器を前記架台と前記押圧部材の間に挟持した状態で、前記衝撃付与機構により前記押圧部材の端部に衝撃を付与して、前記培養容器から前記接着細胞を剥離する方法としてある。
【0019】
また、本発明の細胞培養方法を、前記衝撃付与機構により前記押圧部材の端部に衝撃を付与して、前記培養容器から前記接着細胞を剥離すると共に、細胞塊をシングルセルに分解する方法とすることが好ましい。
また、本発明の細胞培養方法を、前記培養容器を、細胞の継代培養、又は細胞の分化誘導に用いる方法とすることも好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、接着細胞を袋状の培養容器により培養する場合において、接着細胞を効率よく培養面から剥離してシングルセルにすることの可能な細胞培養装置、細胞培養システム、及び細胞培養方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係る細胞培養装置において用いられる袋状の培養容器の平面図と正面図を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る細胞培養装置の平面図と正面図を示す模式図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る衝撃付与機構(ソレノイドシリンダ型)を備えた細胞培養装置の平面図と正面図を示す模式図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る衝撃付与機構(ソレノイドシリンダ型)の動作を示す模式図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る衝撃付与機構(ソレノイドシリンダ型)を備えた細胞培養装置とその制御装置の構成を示す模式図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る衝撃付与機構(カム型)を備えた細胞培養装置の正面図を示す模式図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る細胞培養装置における袋状の培養容器を並列して連通して備えた細胞培養システムの構成を示す模式図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る細胞培養装置における袋状の培養容器を直列して連通して備えた細胞培養システムの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の細胞培養装置、細胞培養システム、及び細胞培養方法の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態及び後述する実施例の具体的な内容に限定されるものではない。
【0023】
[細胞培養装置]
本実施形態の細胞培養装置は、軟包材からなる袋状の培養容器を用いて細胞の培養を行う細胞培養装置であって、培養容器を載置する架台と、架台に載置される培養容器を架台に対して押圧する押圧部材と、押圧部材に衝撃を付与する衝撃付与機構とを有し、押圧部材が架台に対して傾斜可能に備えられ、内容液が充填された培養容器が架台と押圧部材の間に挟持された状態で、衝撃付与機構が押圧部材の端部に衝撃を付与することを特徴とする。
【0024】
また、本実施形態の細胞培養装置を、2つの衝撃付与機構が、押圧部材の相対する端部にそれぞれ衝撃を付与するように備えられ、内容液が充填された培養容器が架台と押圧部材の間に挟持された状態で、2つの衝撃付与機構が押圧部材の相対する端部に交互に衝撃を付与するものとすることが好ましい。
【0025】
まず、
図1を参照して、本実施形態の細胞培養装置において用いられる袋状の培養容器について説明する。
図1は、本実施形態の細胞培養装置において用いられる袋状の培養容器の平面図と正面図を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態の細胞培養装置において用いられる袋状の培養容器10は、2枚のフィルムの周縁部をヒートシールなどによって貼り合わせ、内部に接着細胞を接着させて培養するための培養面11を有する培養室が形成されている。
【0026】
また、培養容器10は、内容液の注入や排出を行うためのポート12が備えられている。
図1の例ではポート12が2つ備えられているが、その個数は特に限定されず、1つでも3つ以上であってもよい。
ポート12にはチューブが接続され、チューブに配設されたポンプなどの送液手段により、ポート12を介して培養容器10への内容液の供給や培養容器10からの内容液の排出が行われる。
【0027】
また、
図1において、培養容器10の培養室の周縁領域に外側向きに張り出した膨出形状が形成されている。これにより、後述するように培養容器10の上面に対し、押圧部材を用いて衝撃を与え易くなっている。
なお、培養容器10の形状は、これに限定されず、膨出形状を備えていないものであってもよい。
【0028】
培養容器10の材料としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂を好適に用いることができる。その他用いることができる材料として、ポリメチルペンテン、環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリメタクリル酸メチル、ポリエステル、ポリアミド、アイオノマー、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリジメチルシロキサン、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリブタジエン樹脂、塩化ポリエチレンなどが挙げられる。また、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、ナイロン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーも用いることができる。また、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどの熱硬化性エラストマーや、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミドなどの熱硬化性樹脂も用いることができる。
【0029】
また、ポート12の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレン系エラストマー、FEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)などの熱可塑性樹脂を用いることができる。
培養容器10に充填される内容液としては、特に限定されないが、細胞増殖用培地、分化誘導用培地、洗浄液、剥離液、細胞懸濁液などが使用される。
【0030】
次に、
図2を参照して、本実施形態の細胞培養装置について説明する。
図2は、本実施形態の細胞培養装置の平面図と正面図を示す模式図である。
図2に示すように、本実施形態の細胞培養装置20は、培養容器10を載置する架台21を備えている。また、架台21の端部には、天板部23を支持する天板支持部22が立設して備えられている。
【0031】
天板部23の下面側の四隅にはマグネット231が備えられると共に、ガイドピン232が取り付けられている。
また、天板部23には、培養容器10内の液厚を検出する測長センサ233が備えられている。
【0032】
また、本実施形態の細胞培養装置20には、培養容器10を架台21に対して押圧する押圧部材24が備えられている。
押圧部材24の上面側の四隅には天板部23のマグネット231に対面するようにマグネット241が備えられている。マグネット231とマグネット241が互いに反発し合うことで、押圧部材24が培養容器10を架台21に対して押圧できるようになっている。
なお、押圧部材24により培養容器10を押圧する手段は、これに限定されるものではなく、バネなどの付勢手段を用いたり、あるいは押圧部材24の自重により培養容器10を押圧する構成としてもよい。
【0033】
また、押圧部材24の四隅には、天板部23のガイドピン232を移動可能に挿入するためのガイド孔242(貫通孔)が形成されており、ガイドピン232に沿って押圧部材24が上下に移動可能になっている。
さらに、このガイド孔242の直径をガイドピン232の直径に対して幅広に設定することにより、後述するように押圧部材24を架台21に対して傾斜可能として、培養容器10に衝撃を付与することができるようになっている。
【0034】
また、押圧部材24の上面側において、天板部23の測長センサ233に対面するように金属部材243が備えられている。測長センサ233がこの金属部材243までの距離を測定し、その測定結果にもとづいて、測長センサ233に接続される制御装置により培養容器10の液厚を算出できるようになっている。
また、押圧部材24には、培養容器10に接する押圧板244が備えられている。
【0035】
次に、
図3を参照して、本実施形態の細胞培養装置における衝撃付与機構について説明する。
図3は、衝撃付与機構(ソレノイドシリンダ型)を備えた細胞培養装置の平面図と正面図を示す模式図である。
図3に示すように、本実施形態の細胞培養装置20は、衝撃付与機構25をさらに備えている。
この衝撃付与機構25は、ソレノイドシリンダを用いて構成されており、ロッド251が備えられ、ブラケット252を介して天板部23に固定されている。
【0036】
そして、衝撃付与機構25は、ロッド251により押圧部材24を打撃することで、押圧部材24を架台21に対して傾斜させることができる。これにより、押圧部材24と架台21に挟持されて押圧された培養容器10に激しい衝撃を与えることができ、培養容器10の培養面11から接着細胞を剥離してバラバラにし、シングルセルにすることが可能になっている。
【0037】
図3において、衝撃付与機構25が2つ設けられているが、いずれか一方のみとすることもできる。
また、本実施形態の細胞培養装置において衝撃付与機構25を2つ設ける場合は、
図4に示すように、押圧部材24の相対する端部領域に対して、交互に衝撃を付与することが好ましい。
このようにすれば、培養容器10により激しい衝撃を与えることができるため、接着細胞をより効率的に剥離してシングルセルにすることが可能である。
【0038】
また、衝撃付与機構25による衝撃は、衝撃付与機構25をONにする(ロッド251により押圧部材24を打撃する)タイミングで付与する構成とするほか、衝撃付与機構25をONにして押圧部材24を架台21に対して傾斜させた後、OFFにする(ロッド251を押圧部材24から引く)タイミングで付与する構成とすることもできる。
【0039】
また、図示しないが、本実施形態の細胞培養装置20において、押圧部材24を2つのポート側にそれぞれ備え、各押圧部材24に衝撃付与機構25を2つずつ設けるようにすることも好ましい。このとき、各押圧部材24を架台21に対して傾斜可能にするために、2つの押圧部材24間に隙間を形成することが好ましい。
【0040】
本実施形態の細胞培養装置20をこのような構成にすれば、培養容器10に対して、左右の2つの押圧部材24を用いて衝撃を付与できるため、接着細胞をさらに効率的に剥離してシングルセルにすることが可能となる。特に、このような構成によれば、培養容器10の中央付近に存在する接着細胞に対しても、より一層効率的に剥離してシングルセルにすることが可能である。また、このような構成を後述するその他の衝撃付与機構を備える場合に適用することも可能である。
【0041】
なお、本実施形態の細胞培養装置において、培養容器10を押圧部材24により下側から押圧する構成として、衝撃付与機構25により培養容器10に対して下面側から衝撃を付与することも可能である。
【0042】
次に、
図5を参照して、本実施形態の細胞培養装置の制御機構について説明する。
図5は、本実施形態の細胞培養装置とその制御装置の構成を示す模式図である。
図5に示すように、制御装置30(制御ユニット)は、入出力部31、制御部32、操作部33、及び電源部34を有するものとすることができる。
【0043】
入出力部31は、細胞培養装置20における測長センサ231と、衝撃付与機構25に接続されている。そして、測長センサ231からの入力情報を制御部32に出力する。また、制御部32からの入力情報を衝撃付与機構25に出力する。
制御部32は、PLC(programmable logic controller,プログラマブルロジックコントローラ)などにより構成され、所望の制御内容を予めプログラミングして記憶させ、これにもとづいて各部の動作を制御することができる。
【0044】
すなわち、制御部32は、衝撃付与機構25を制御するための情報を所定のタイミングで入出力部31を介して衝撃付与機構25に送信して、その動作を制御することができる。
また、制御部32は、測長センサ231aからの入力情報にもとづき培養容器10内の液厚を算出することができる。
【0045】
操作部33は、タッチパネルなどの表示部を備え、ユーザによる入力情報を制御部32に送信してPLCの設定などを実行する。また、制御部32からの入力情報を表示する。
電源部34(安定化電源など)は、制御装置30内の各部に電気を供給する。
また、図示しないが、制御装置30において、さらに継電部(リレー)や配線遮断部(ブレーカー)を備えた構成とすることができる。また、制御装置30における制御部32や操作部33などの一部又は全部の構成をマイコンやコンピュータなどの情報処理装置により実現してもよい。
【0046】
次に、
図6を参照して、その他の衝撃付与機構を備えた本実施形態の細胞培養装置について説明する。
図6は、衝撃付与機構(カム型)を備えた細胞培養装置の正面図を示す模式図である。
図6に示すように、本実施形態の細胞培養装置20’において、カムを用いて構成された衝撃付与機構26を備えることも好ましい。
【0047】
衝撃付与機構26は、回転軸261にカム262が取り付けられており、回転軸261をモータ263により回転させることで、カム262が押圧部材24に対して衝撃を与えることが可能になっている。モータ263は、架台21’に立設された支持部264により支持されている。なお、
図6において、
図3に示す本実施形態の細胞培養装置20と同様の構成には同じ符号が示されている。
【0048】
また、
図6において、カム262は2つ備えられているが、いずれか一方のみとしてもよい。
また、本実施形態の細胞培養装置20においてカム262を2つ備える場合は、押圧部材24の相対する端部領域に対して交互に衝撃を付与することができ、接着細胞をより効率的に剥離してシングルセルにすることが可能である。
【0049】
さらに、本実施形態の細胞培養装置における衝撃付与機構は、ソレノイドシリンダやカムを用いるものに限定されず、例えばエアシリンダやモータ動作によりシャフトの伸縮が可能な直動系アクチュエータなどその他の機構で構成することも可能であることは勿論である。
また、
図5に示すソレノイドシリンダ型の衝撃付与機構25を備えた細胞培養装置20と同様に、カム型やその他の衝撃付与機構を備えた細胞培養装置についても、制御装置30によって、押圧部材24に対する衝撃を制御することが可能である。
【0050】
次に、本実施形態の細胞培養装置20における培養容器10の液厚について説明する。
本実施形態の細胞培養装置20において、内容液が充填された培養容器10が架台21と押圧部材24の間に平行に挟持された状態で、培養容器10内の液厚を10mm以下とすることが好ましい。
すなわち、このように培養容器10内の液厚が10mm以下となるように押圧部材24によって培養容器10を押圧した状態で培養容器10に衝撃を与えることで、培養面11から接着細胞をより効率的に剥離してシングルセルにすることが可能である。
【0051】
ここで、本実施形態の細胞培養装置において、培養容器10内の液厚が大きくなるにつれて、培養面11から接着細胞を剥離することが難しくなる。
また、本実施形態の細胞培養装置は、衝撃付与機構25や衝撃付与機構26によって押圧部材24の端部領域に対して衝撃を付与する構成であるところ、押圧部材24を架台21に対して傾斜させても、培養容器10内の中央領域の液厚はあまり変化することがない。そのため、培養容器10内の中央領域に対しては、衝撃を付与し難い。
【0052】
しかしながら、上記のとおり、本実施形態の細胞培養装置において、培養容器10が架台21と押圧部材24の間に平行に挟持された状態で培養容器10内の液厚を10mm以下とし、この状態から押圧部材24の端部領域に対して衝撃を付与することにより、効率的に培養面11から接着細胞を剥離してシングルセルにすることが可能である。
また、このとき、培養容器10内の液厚を5mm以下とすることがより好ましく、同液厚を2mm以下とすることがさらに好ましく、液厚を1mm以下とすることが特に好ましい。
【0053】
また、本実施形態の細胞培養装置20において、押圧部材24が架台21に対して傾斜した状態で、衝撃付与機構25,26による衝撃の付与を停止させることも好ましい。
この衝撃付与機構25,26による衝撃の付与の停止や衝撃の付与の開始は、衝撃付与機構25,26に接続された制御装置30により行うことが可能である。
【0054】
例えば、
図4において、左側の衝撃付与機構25をONにしてロッド251を伸ばした状態にすると共に、右側の衝撃付与機構25をOFFにしてロッド251を引き込んだ状態にすることで、押圧部材24が架台21に対して右側が上方になるように傾斜した状態で、衝撃付与機構25,26による衝撃の付与を停止させることができる。
【0055】
本実施形態の細胞培養装置20をこのような構成にすれば、押圧部材24が架台21に対して傾斜した状態のままにすることができるため、例えば培養容器10内に内容液を注入する際に、チューブ内などの空気が培養容器10に流入した場合に、その空気を培養容器10内の一方のポート12側に集めて除去し易くすることなどが可能となる。
【0056】
[細胞培養システム]
本実施形態の細胞培養システムは、上述した本実施形態の細胞培養装置20を複数備え、それぞれの細胞培養装置20に載置された培養容器10がポート12を介して並列して連通されたことを特徴とする。
具体的には、例えば
図7に示すように、第一の細胞培養装置20-1に第一の培養容器10-1を載置し、第二の細胞培養装置20-2に第二の培養容器10-2を載置し、第三の細胞培養装置20-3に第三の培養容器10-3を載置して、各培養容器に備えられたポートをチューブを用いて並列に連通させた構成とすることが好ましい。また、各培養容器のポートに接続されたチューブには、それぞれポンプなどの送液手段を配設することが好ましい。
【0057】
また、
図7においては、第一の培養容器10-1と第二の培養容器10-2と第三の培養容器10-3として同サイズのものが示されているが、この順番に培養面積が大きなものとすることも好ましい。
【0058】
本実施形態の細胞培養システムには、培地A容器41と、培地B容器42と、洗浄液容器43と、剥離液容器44とが備えられ、それぞれがバルブを介して、各培養容器10に連通されている。また、廃液容器45もバルブを介して、各培養容器10に連通されている。
【0059】
また、本実施形態の細胞培養システムにおいて、上述した制御装置30を備えることが好ましい。
そして、制御装置30の入出力部31を各ポンプとバルブに接続して、制御部32からの情報にもとづいて、これらのポンプとバルブの動作を制御することが好ましい。
ポンプとしては、特に限定されないが、例えばチューブポンプなどを好適に用いることができる。また、バルブも特に限定されないが、例えばピンチバルブなどを好適に用いることができる。
【0060】
これにより、測長センサ231からの入力情報にもとづいて、ポンプとバルブの動作を制御することができ、内容液が充填された各培養容器が架台21と押圧部材24の間に平行に挟持された状態において培養容器内の液厚を一定に保った状態で、内容液を容器間で送液することなどが可能となる。
【0061】
このような本実施形態の細胞培養システムは、例えば以下のように使用することができる。
まず、第一の培養容器10-1に対して培地A容器41から培地を供給すると共に、接着細胞を供給し、第一の培養容器10-1の培養面11-1において細胞を培養する。これによって、培養面11-1に接着細胞の細胞塊が形成される。
次に、培養面11-1から細胞を剥離するに先立って、第一の培養容器10-1に対して洗浄液容器43から洗浄液を供給すると共に、第一の培養容器10-1から廃液容器45に洗浄液を排出して、第一の培養容器10-1内を洗浄する。
【0062】
次いで、第一の培養容器10-1に対して剥離液容器44から剥離液を供給して、37℃で10分間放置し、接着細胞が培養面から剥がれやすくした状態とする。
そして、第一の細胞培養装置20-1における衝撃付与機構25,26を作動させて、培養容器10-1内における接着細胞を培養面11-1から剥離し、隣同士の細胞を分離して細胞塊をシングルセルに分解する。
【0063】
次に、第一の培養容器10-1内の細胞を第二の培養容器10-2に移送して、同様の処理を実行する。
すなわち、第二の培養容器10-2において培養された接着細胞を培養面11-2から剥離してシングルセルに分解する(以下、これを単に剥離と称する場合がある。)。そして、第二の培養容器10-2内の細胞を第三の培養容器10-3に移送して、同様の処理を実行する。
【0064】
次に、上述した細胞の剥離及びシングルセルへの分解の詳細な手順について、具体的に説明する。
(1)培地を充填した状態での細胞の剥離及びシングルセルへの分解
培養容器に培地を充填した状態で接着細胞を以下の手順で剥離することができる。
(i)第一の培養容器10-1で細胞培養→(ii)培地排出→(iii)リン酸緩衝生理食塩水により洗浄(以下、PBS洗浄と称する。)→(iv)剥離液充填→(v)放置(37℃ 10分)→(vi)剥離液排出→(vii)PBS洗浄→(viii)培地充填→(ix)衝撃付与により細胞剥離→(x)第二の培養容器10-2に細胞移動→(xi)第二の培養容器10-2に培地追加
【0065】
(2)PBSを充填した状態での細胞の剥離及びシングルセルへの分解
培養容器にPBSを充填した状態で接着細胞を以下の手順で剥離することができる。
(i)第一の培養容器10-1で細胞培養→(ii)培地排出→(iii)PBS洗浄→(iv)剥離液充填→(v)放置(37℃ 10分)→(vi)剥離液排出→(vii)PBS充填→(viii)衝撃付与により細胞剥離→(ix)第二の培養容器10-2に細胞移動→(x)第二の培養容器10-2に培地追加→(xi)数時間後に第二の培養容器10-2で培地の全量交換
【0066】
(3)剥離液を充填した状態での細胞の剥離及びシングルセルへの分解
培養容器に剥離液を充填した状態で接着細胞を以下の手順で剥離することができる。
(i)第一の培養容器10-1で細胞培養→(ii)培地排出→(iii)PBS洗浄→(iv)剥離液充填→(v)放置(37℃ 10分)→(vi)衝撃付与により細胞剥離→(vii)第二の培養容器10-2に細胞移動→(viii)第二の培養容器10-2に培地追加→(ix)数時間後に第二の培養容器10-2で培地の全量交換
【0067】
さらに、本実施形態の細胞培養システムは、継代培養のみならず、細胞の分化誘導に用いることが可能である。
例えば、第一の培養容器10-1でiPS細胞を接着培養して増殖させた後、培養面11-1から剥離して第二の培養容器10-2に移送して、分化誘導に必要な培地を培地B容器42から供給して、第二の培養容器10-2において細胞培養を行うことが可能である。また、必要に応じて、第二の培養容器10-2から第三の培養容器10-3に細胞を移送して、さらに分化誘導を行わせることが可能なことは言うまでもない。
【0068】
また、本実施形態の細胞培養システムを、上述した本実施形態の細胞培養装置20を複数備え、それぞれの細胞培養装置20に載置された培養容器10がポート12を介して直列に連通された構成とすることもできる。
具体的には、例えば
図8に示すように、第一の培養容器10-1に第二の培養容器10-2をポートを介して連通させ、第二の培養容器10-2に第三の培養容器10-3をポートを介して連通させると共に、それぞれの培養容器に培地A容器41と、培地B容器42と、洗浄液容器43と、剥離液容器44と、廃液容器45をバルブを介して連通させることもできる。
【0069】
ここで、本実施形態の細胞培養システムにおいて、培養容器間で細胞の移送を行う場合、培養容器内の液厚を一定にした状態で行うことが好ましい。このため、
図8に示すように、培養容器がポートを介して直列に連通された場合には、各培養容器間にポンプが2個ずつ必要であり、また各所に開閉バルブが必要となっている。
【0070】
以上説明したように、本実施形態の細胞培養システムによれば、接着細胞を自動的に培養面から剥離してシングルセルにすることができ、効率的に継代培養や分化誘導を行うことが可能となっている。また、剥離液を培養容器に充填する前と排出した後の両方で培養容器内を自動的に洗浄することができるため、細胞の剥離を効率的に行うことができ、また次世代の継代培養や分化誘導を安全に行うことが可能になっている。
【0071】
なお、本実施形態の細胞培養システムにおいて、本実施形態の細胞培養装置に代えて、衝撃付与機構を備えていない細胞培養装置を用いて、各細胞培養装置に載置された培養容器がポートを介して並列して又は直列に連通された構成とすることもできる。
このような細胞培養システムは、例えば以下のように使用することができる。
【0072】
まず、第一の培養容器10-1に対して培地A容器41から培地を供給すると共に、接着細胞を供給し、第一の培養容器10-1の培養面11-1において細胞を培養する。これにより、培養面11-1に接着細胞の細胞塊が形成される。
次に、培養面11-1から細胞を剥離するに先立って、第一の培養容器10-1に対して洗浄液容器43から洗浄液を供給すると共に、第一の培養容器10-1から廃液容器45に洗浄液を排出して、第一の培養容器10-1内を洗浄する。
【0073】
次いで、第一の培養容器10-1に対して剥離液容器44から剥離液を供給して、37℃で10分間放置し、接着細胞が培養面から剥がれやすくした状態とする。
そして、第一の培養容器10-1を外側から叩き、培養容器10-1内における接着細胞を培養面11-1から剥離し、隣同士の細胞を分離して細胞塊をシングルセルに分解する。
【0074】
次に、第一の培養容器10-1内の細胞を第二の培養容器10-2に移送して、同様の処理を実行する。
すなわち、第二の培養容器10-2において培養された接着細胞を培養面11-2から剥離してシングルセルに分解する。そして、第二の培養容器10-2内の細胞を第三の培養容器10-3に移送して、同様の処理を実行する。
このような細胞培養システムでは、接着細胞を培養面から手作業により剥離してシングルセルにし、継代培養や分化誘導を行うことが可能である。
【0075】
[細胞培養方法]
本実施形態の細胞培養方法は、上述した本実施形態の細胞培養装置20を用いる細胞培養方法であって、培養容器10に接着細胞と培地を充填して細胞培養を行い、培養容器10を架台21と押圧部材24の間に挟持した状態で、衝撃付与機構25,26により押圧部材24の端部に衝撃を付与して、培養容器10から接着細胞を剥離することを特徴とする。
【0076】
また、本実施形態の細胞培養方法を、衝撃付与機構25,26により押圧部材24の端部に衝撃を付与して、培養容器10から接着細胞を剥離すると共に、細胞塊をシングルセルに分解する方法とすることが好ましい。
さらに、本実施形態の細胞培養方法を、培養容器10を、細胞の継代培養、又は細胞の分化誘導に用いる方法とすることも好ましい。
【0077】
本実施形態の細胞培養方法をこのようにすれば、接着細胞を袋状の培養容器により培養する場合において、接着細胞を効率よく培養面から剥離してシングルセルにすることができ、細胞の継代培養や細胞の分化誘導に好適に用いることが可能となる。
【実施例0078】
以下、本発明の実施形態に係る細胞培養装置の効果を確認するために行った試験について説明する。
まず、袋状の培養容器を作成して、接着細胞を培養した。
具体的には、ポリエチレンシート(ユメリット125FN,宇部丸善ポリエチレン株式会社)に対して表面処理を行い、表面処理を行った領域を培養面とするフィルムを作成した。そして、2枚のフィルムを重ねて周辺部をヒートシールにより貼り合わせ、培養バッグを形成した。これにより、サンプル1~6の培養バッグを得た。
【0079】
このとき、培養バッグの向かい合う2辺にポートを挟み込んで貼り合わせ、2つのポートを備えた培養バッグとした。培養バッグにおける外周シール部及びポート設置部を除いた培養部の面積は、約100cm2であった。
また、表面処理にはエキシマ照射装置(株式会社エム・ディ・コム製)を使用し、培養面の親水化処理を行った。エキシマ照射は、電圧12V、照射距離4mm、照射速度2mm/s×3回の条件で実施した。
【0080】
次に、各培養バッグに培地としてStemFit(R)(AK-02N ,味の素ヘルシーサプライ株式会社)を封入すると共に、接着細胞(iPS細胞1231A3株,京都大学iPS細胞研究所)を播種して7日間培養した。
その後、培地を排出して、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で培養バッグを洗浄した後、PBSを排出した。次に、細胞解離酵素(TrypLETM Select,Thermo Fisher Scientific社)+EDTAのPBS2倍希釈液を添加し、37℃で10分間放置した。そして、細胞解離酵素を排出した後、PBSで洗浄し、培地を添加した。
【0081】
次に、サンプル1の培養バッグについては、外側から手でバッグを叩くことによって、接着細胞を剥離した。そして、剥離した細胞をシリンジで回収して、血球計数盤を用いて細胞数を計数した。この細胞数を回収率算出の基準値とした。
また、サンプル2の培養バッグについては、本実施形態の細胞培養装置(ソレノイドシリンダ型)に設置して押圧し、培養バッグ内の培地量を10ml、液厚を1mmとした。
そして、培養バッグに対して衝撃付与機構により50回衝撃を与えて、接着細胞を剥離した。剥離した細胞をシリンジで回収して、血球計数盤を用いて細胞数を計数し、基準値に対する回収率を計算した。
【0082】
次に、サンプル3~6の培養バッグについても同様に、本実施形態の細胞培養装置(ソレノイドシリンダ型)に設置して押圧し、培養バッグ内の培地量をそれぞれ20ml,50ml,100ml,120ml、液厚をそれぞれ2mm,5mm,10mm,12mmとした。
そして、各培養バッグに対して衝撃付与機構により50回衝撃を与えて、接着細胞を剥離した。剥離した細胞をシリンジで回収して、血球計数盤を用いて細胞数を計数し、基準値に対する回収率を計算した。その結果を表1に示す。
【0083】
【0084】
表1に示されるように、培養バッグを本実施形態の細胞培養装置に設置して押圧し、培養バッグ内の液厚をそれぞれ1mm~12mmとして衝撃付与機構により衝撃を与えることによって、細胞が回収されている。その回収率は、液厚が1mmのときは100%、液厚が2mmのときは96%、液厚が5mmのときは96%、液厚が10mmのときは88%、液厚が12mmのときは48%であった。
この結果から、培養バッグ内の液厚を1mm~10mm以下にして衝撃付与機構により衝撃を与えることで、手作業によりバッグを叩く場合と遜色のない細胞の回収率が得られ得ることが分かった。
【0085】
本発明は、以上の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。例えば、衝撃付与機構として他の手段を用いたり、あるいは衝撃回数を実施例と異なるものにしたりするなど適宜変更することが可能である。