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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111302
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】メンタルヘルス不全改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/745 20150101AFI20240808BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240808BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20240808BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALN20240808BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20240808BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALN20240808BHJP
【FI】
A61K35/745
A61P25/00
A61K35/745 ZNA
C12N1/20 E ZNA
C12Q1/689 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
C12N1/20 E
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024101582
(22)【出願日】2024-06-24
(62)【分割の表示】P 2019501419の分割
【原出願日】2018-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2017033822
(32)【優先日】2017-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 宏祐
(72)【発明者】
【氏名】清水 金忠
(72)【発明者】
【氏名】小田巻 俊孝
(72)【発明者】
【氏名】リー ヨオン イェ
(57)【要約】
【課題】メンタルヘルス不全の改善に有効で、日常的に継続摂取可能な安全性の高いメンタルヘルス不全改善剤又はメンタルヘルス不全改善用組成物、及びメンタルヘルス不全改善用飲食品組成物の提供。
【解決手段】ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌を有効成分とするメンタルヘルス不全改善剤もしくはメンタルヘルス不全改善用組成物、又はメンタルヘルス不全改善用飲食品組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌を有効成分とするメンタルヘルス不全改善用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンタルヘルス不全改善剤又はメンタルヘルス不全改善用組成物、及びメンタルヘルス不全改善用飲食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活環境や職場環境の多様化、人間関係の複雑化などによる種々のストレスから、現代社会に生きる人々は、精神障害などの疾病にまでは至らない状態であっても、メンタルヘルス(精神的健康、精神衛生)が必ずしも良好ではない場合が多い。また、自然災害の増加により、被災者が、生活環境の急変を余儀なくされることによりメンタルヘルスに不調をきたすケース(メンタルヘルス不全)も増加している。このようなメンタルヘルス不全が長期間継続すると、身体的健康の不調や精神障害に発展することもある。うつ病などの精神障害を発症した場合には、副作用を有する投薬治療が長期間必要となる場合もあるため、精神障害が発症しないように、メンタルヘルス不全を適切にケアする必要がある。しかしながら、日常的にメンタルヘルス不全をケアするために、副作用のある精神安定剤等の化学合成薬剤を用いることは適切ではない。したがって、好ましくはうつ病などの精神障害を発症する前の段階で、日常的に気軽に摂取可能で副作用がないメンタルヘルス不全の改善に有効な医薬品又は飲食品への需要が存在する。
【0003】
メンタルヘルス不全の改善について、特許文献1には、気分を改善し、かつ心理的な緊張を緩和し、これを介して快適感を高める心理状態改善剤として、イソアルファ酸又は還元型イソアルファ酸を有効成分として含有する心理状態改善剤が開示されている。
特許文献2には、肉体的な疲労や精神的なストレスが複雑に組み合わされて生じる現象としての気分の悪化を改善する気分状態改善剤として、ウコン抽出物を含有することを特徴とする気分状態改善剤が開示されている。
【0004】
一方、ビフィズス菌や乳酸菌は、プロバイオティクスとして整腸作用等の有用な効果を有することが知られている。近年、腸内環境が腸から脳へのシグナル伝達に関与すること(脳腸相関)が知られており、プロバイオティクスは、腸内細菌叢と相互作用することにより脳機能にも影響を与えることが知られている。例えば、非特許文献1には、慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome:CFS)の患者が、ラクトバチルス・カゼイShir
ota株の摂取により不安症状が改善されたことが開示されている。さらに、特許文献3には、ラクトバシルス属細菌やビフィドバクテリウム属細菌などのプロバイオティクスの投与によるうつ病や視床下部-脳下垂体-副腎軸過敏症により特徴づけられる疾患の治療方法が開示されている。
【0005】
このように、プロバイオティクスの菌体を摂取することによるうつ病等の精神疾患への有効性は既に報告されているが、プロバイオティクスは菌種ごとに異なった生理作用を示すことが知られている。そして、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティス(Bifidobacterium longum subsp. infantis)BCCM LMG23728が、メンタルヘルス不全の改善に有用であることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-209022号公報
【特許文献2】特開2016-199491号公報
【特許文献3】特表2006-525313号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A Venket Rao et al., Gut Pathog., (2009)1:6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、メンタルヘルス不全の改善に有効で、日常的に継続摂取可能な安全性の高いメンタルヘルス不全改善剤又はメンタルヘルス不全改善用組成物、及びメンタルヘルス不全改善用飲食品組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌が、腸内細菌叢の変化を介してメンタルヘルス不全を改善する作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌を有効成分とするメンタルヘルス不全改善剤又はメンタルヘルス不全改善用組成物である。
前記メンタルヘルス不全改善剤又はメンタルヘルス不全改善用組成物は、前記細菌が、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM LMG23728又はビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスM-63(NITE BP-02623)であることを好ましい態様とする。
また、前記メンタルヘルス不全改善剤又はメンタルヘルス不全改善用組成物は、前記メンタルヘルス不全がSF-36で評価されるものであることを好ましい態様とする。
さらに、前記メンタルヘルス不全改善剤又はメンタルヘルス不全改善用組成物は、前記メンタルヘルス不全が、心の健康(MH)及び/又は精神的健康度(MCS)のスコアが低い
状態であることを好ましい態様とする。
【0011】
さらに、本発明は、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌を有効成分とするメンタルヘルス不全改善用飲食品組成物を提供する。
前記メンタルヘルス不全改善用飲食品組成物は、前記細菌が、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM LMG23728又はビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスM-63(NITE BP-02623)であることを好ましい態様とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、効果的にメンタルヘルス不全を改善できる手段が提供される。具体的には、メンタルヘルス不全の改善に有効で、日常的に継続摂取可能な安全性の高いメンタルヘルス不全改善剤又はメンタルヘルス不全改善用組成物、及びメンタルヘルス不全改善用飲食品組成物を提供することができる。
また、本発明に用いられるビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌は、元来哺乳動物の腸内細菌叢に存在するものであり、生体への安全性が高く副作用の心配がなく、医薬品又は飲食品として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM LMG23728の摂取群と、非摂取群とについて、SF-36の「心の健康(MH)」のスコアの変化を表す図。
図2】ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM LMG23728の摂取群と、非摂取群とについて、SF-36の「精神的健康度(MCS)」のスコアの変化を表す図。
図3】ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM LMG23728の摂取群と、非摂取群とについて、それぞれの試験終了日におけるSF-36の「心の健康(MH)」のスコアを表す図。
図4】ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM LMG23728の摂取群と、非摂取群とについて、それぞれの試験終了日におけるSF-36の「精神的健康度(MCS)」のスコアを表す図。
図5】ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM LMG23728の摂取群と、非摂取群とについて、試験終了後の腸内細菌叢におけるBacteroidetes門に属する細菌の占有率を表す図。
図6】ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM LMG23728の摂取群と、非摂取群とについて、試験終了後の腸内細菌叢におけるFirmicutes門に属する細菌の占有率を表す図。
図7】ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM LMG23728の摂取群と、非摂取群とについて、試験終了後の腸内細菌叢におけるBacteroidetes門に属する細菌に対するFirmicutes門に属する細菌の構成比率(Firmicutes門に属する細菌の占有率/Bacteroidetes門に属する細菌の占有率)を表す図。
図8】ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM LMG23728の摂取群におけるSF-36の「精神的健康度(MCS)」のスコアと、腸内細菌叢におけるBacteroidetes門に属する細菌に対するFirmicutes門に属する細菌の構成比率(Firmicutes門に属する細菌の占有率/Bacteroidetes門に属する細菌の占有率)との相関関係を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。
【0015】
本発明のメンタルヘルス不全改善剤は、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌を有効成分とするものである。尚、本発明のメンタルヘルス不全改善剤は、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌を有効成分として含むものであって、他の成分を含むことを妨げるものではない。すなわち、本発明のメンタルヘルス不全改善剤は、メンタルヘルス不全改善用組成物と同等である。よって、本発明の他の態様は、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌を有効成分とするメンタルヘルス不全改善用組成物である。
【0016】
本発明における「メンタルヘルス」とは、2007年に世界保健機構(WHO)が定義し、その日本語訳の一例である、「一人一人が彼または彼女自らの可能性を実現し、人生における普通のストレスに対処でき、生産的にまた実り多く働くことができ、彼または彼女の共同体に貢献することができるという、十全にある状態」である。
【0017】
本発明における「メンタルヘルス不全」とは、適用対象において上記状態が損なわれた状態をいう。例えば、適用対象において神経質な心理状態、気分が落ち込んだ状態又はゆううつな気分状態をいう。
また、本発明における「メンタルヘルス不全改善」とは、上記「メンタルヘルス不全」が改善されることをいい、「メンタルヘルス」が損なわれた状態がそうでない状態になることをいう。例えば、適用対象において神経質な心理状態、気分が落ち込んだ状態又はゆううつな気分状態が緩和、改善又は解消された場合や、おだやかな気分状態又は楽しい気
分状態になったと判断した場合が挙げられる。
メンタルヘルス不全にあるか否か、及びメンタルヘルス不全が改善されたか否かは、適用対象自身の主観的な判断であってもよく、医師等による客観的な判断であってもよいが、心理検査などにより客観的な尺度によって評価されるものであることが好ましい。
【0018】
本発明の適用対象は、メンタルヘルス不全にあるヒト又はメンタルヘルス不全の改善を必要としているヒトであって、精神障害や精神疾患に罹患していないヒトである。メンタルヘルス不全の改善を必要としているか否かは、適用対象自身の主観的な判断であってもよく、医師等による客観的な判断であってもよい。
【0019】
精神障害や精神疾患とは、例えば、うつ病、双極性障害(躁うつ病)又は統合失調症などが挙げられる。このうち、例えば、うつ病に罹患しているか否かは、例えば、光トポグラフィ(登録商標)や血液検査で診断可能である。したがって、本発明においては、これらの検査によって、うつ病と診断されなかったヒトを適用対象とすることができる。なお、血液検査の場合、血漿中のリン酸エタノールアミン濃度が1.5μM以下でうつ病と診断されるため、本発明の適用対象としては、血漿中のリン酸エタノールアミン濃度が1.5μMを超えていることが好ましく、2.0μM以上であることがより好ましく、2.5μM以上であることがさらに好ましい。一方で、該濃度の上限は特に制限されないが、5.0μM以下であることが好ましく、4.0μM以下であることがより好ましく、3.0μM以下であることがさらに好ましい。
その他の精神障害や精神疾患についても、それらに罹患しているか否かは、公知の方法で診断可能である。
【0020】
したがって、本発明のメンタルヘルス不全改善剤又はメンタルヘルス不全改善用組成物は、上記精神障害や精神疾患の治療用途を除くことが好ましく、そもそも本発明で改善されるメンタルヘルス不全は上記精神障害や精神疾患とは異なるものである。
【0021】
本発明の適用対象は、好ましくは、地震、洪水又は津波等の自然災害の被災者等である。自然災害が起こった場合には一度に大量の被災者が発生するとともに、個々の被災者のメンタルヘルスの状態に大きな差異が生じることから、このような被災者に対しては通常の精神疾患の患者への対応とはまったく異なる対応が必要になる。
また、かかる被災者は、身体的な外傷、土地建物の損害、仮設住宅への引っ越し等の様々なストレスに対処しなければならず、個々のストレスが軽微であっても斯様なストレスが集合することで、焦燥感、ひきこもり、又は快感消失等を引き起こすドリッピング・フォーセット症候群(Dripping Faucet Syndrome)と呼ばれる症状に罹患することがある。したがって、本発明における「対象」は、より好ましくは、ドリッピング・フォーセット症候群に罹患しているヒトである。
【0022】
本発明における「メンタルヘルス不全」を心理検査などにより客観的な尺度によって評価する場合、かかる心理検査として、例えば、SF-36(MOS 36-Item Short-Form Health Survey)等が挙げられる。なお、SF-36は、Medical Outcomes Trustの登録商標である。
【0023】
SF-36は、「身体機能(Physical Functioning; PF)」、「日常役割機能(身体)(Role Physical; RP)」、「体の痛み(Bodily Pain; BP)」、「全体的健康感(General Health Perception; GH)」、「活力(Vitality; VT)」、「社会的生活機能(Social Functioning; SF)」、「日常役割機能(精神)(Role Emotional; RE)」及び「心の健
康(Mental Health; MH)」の8項目に分類される36の質問におけるスコアから、健康
関連QOL(HRQOL)を評価する尺度であり、全体的にスコアが高いほどQOLが良好と評価されるものである。SF-36は、健康関連QOLを測定するための科学的で信
頼性・妥当性を持つ尺度であり、米国で作成され、国際的に広く使用されている。さらに、SF-36では、前記8項目を身体的側面及び精神的側面の2種に分類し、身体的側面のQOLサマリースコア(身体的健康度(Physical Component Summary; PCS))及び精
神的側面のQOLサマリースコア(精神的健康度(Mental Component Summary; MCS))
の2つの側面からQOLを評価することができる(日本腰痛学会誌、第8巻第1号、pp.38-43、2002)。
なお、本明細書において「心の健康(Mental Health; MH)」を指す場合には、「心の
健康(Mental Health; MH)」や「心の健康(MH)」、「心の健康」、「Mental Health」、「MH」などと記載するものとする。このことは、他の項目についても同様である。
【0024】
本発明における「メンタルヘルス不全」をSF-36により評価する場合、「心の健康(MH)」及び/又は「精神的健康度(MCS)」のスコアが低い状態が好ましい。この場合
、「心の健康(MH)」のスコアは、70以下であることが好ましく、60以下であることがより好ましく、50以下であることがさらに好ましい。「精神的健康度(MCS)」のス
コアは、50以下であることが好ましく、40以下であることがより好ましく、30以下であることがさらに好ましい。
また、本発明における「メンタルヘルス不全改善」をSF-36により評価する場合には、「心の健康(MH)」及び/又は「精神的健康度(MCS)」のスコアが上昇した場合に
メンタルヘルス不全が改善したと評価する。
なお、本発明で改善されるメンタルヘルス不全はうつ病、双極性障害(躁うつ病)及び統合失調症などの精神疾患とは異なるものであるが、これらの精神疾患に罹患している場合には、「心の健康(MH)」及び「精神的健康度(MCS)」以外のSF-36のスコアに
ついても、総じて低くなる。例えば、これらの精神疾患の罹患者であれば、「身体機能(PF)」のスコアは、好ましくは70以下であり、より好ましくは60以下である。また、「日常役割機能(身体)(RP)」のスコアは、好ましくは70以下であり、より好ましくは60以下である。「体の痛み(BP)」のスコアは、好ましくは80以下であり、より好ましくは70以下である。「全体的健康感(GH)」のスコアは、好ましくは60以下であり、より好ましくは50以下である。「活力(VT)」のスコアは、好ましくは60以下であり、より好ましくは50以下である。「社会的生活機能(SF)」のスコアは、好ましくは80以下であり、より好ましくは70以下である。さらに、「日常役割機能(精神)(RE)」のスコアは、好ましくは80以下であり、より好ましくは70以下である。また、「身体的健康度(PCS)」のスコアは、好ましくは50以下であり、より好ましくは40
以下である。
【0025】
本発明に用いられるビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌としては、本発明の効果を損なわない限りにおいて、公知のビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌を1種でも2種以上でも自由に選択して用いることができる。その中でも、本発明においては、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM LMG23728であることを好ましい態様とする。なお、本発明に用いられるビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスは、単にビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)との略称で呼称される場合もある。
【0026】
ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM LMG23728は、ベルギーの保存機関であるBelgian Coordinated Collections of Microorganisms(BCCM)(住所:ベルギー、B-1000 ブリュッセル シアンス通り
(ウェーテンスカップ通り)8)から入手することができる。
尚、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM
LMG23728は、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスM-63(NITE BP-02623)と同一の細菌であり、該好ましい態様
においては、いずれの細菌を用いてもよい。ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスM-63(NITE BP-02623)は、2018年1月26日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、NITE BP-02623の受託番号で、ブダペスト条約に基づく国際寄託がなされたものである。
また、本明細書において「同一の細菌」とは、前記寄託菌と同属又は同種の細菌であって、16SrRNA遺伝子の塩基配列が、当該細菌の16SrRNA遺伝子の塩基配列と98%以上、好ましくは99%以上、より好ましくは100%の相同性を有し、かつ、好ましくは当該細菌と同一の菌学的性質を有する細菌である。
さらに、当該細菌又はそれと同一の細菌は、本発明の効果が損なわれない限り、これらの細菌から、変異処理、遺伝子組換え、自然変異株の選択等によって育種された細菌であってもよい。
【0027】
本発明のビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌は、それらを培養することにより容易に増殖させることができる。
本発明のビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌を培養する方法は、該細菌が増殖できる限り特に限定されず、該細菌の培養に通常用いられる方法を必要により適宜修正して用いることができる。例えば、培養温度は25~50℃でよく、30~40℃であることが好ましい。培養は、嫌気条件下で行うことが好ましく、例えば、炭酸ガス等の嫌気ガスを通気しながら培養することができる。
【0028】
前記ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌を培養する培地としては、特に限定されず、該細菌の培養に通常用いられる培地を必要により適宜修正して用いることができる。当該培地の炭素源としては、例えば、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、セロビオース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、デンプン、デンプン加水分解物、廃糖蜜等の糖類を資化性に応じて使用できる。当該培地の窒素源としては、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムなどのアンモニウム塩類や硝酸塩類を使用できる。また、当該培地の無機塩類としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マンガン、硫酸第一鉄等を用いることができる。また、当該培地にはペプトン、大豆粉、脱脂大豆粕、肉エキス、酵母エキス等の有機成分を用いてもよい。また、当該培地として、調製済みの培地としては、例えばMRS培地を好適に用いることができる。
【0029】
本発明のビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌は、培養後、得られた培養物をそのまま用いてもよく、希釈又は濃縮して用いてもよく、培養物から回収した菌体を用いてもよい。細菌は、生菌であっても死菌であってもよく、生菌及び死菌の両方であってもよいが、生菌であることが好ましい。
また、本発明の効能を損なわない限り、培養後に加熱、及び凍結乾燥等の種々の追加操作を行うことができる。追加の操作は、生菌の生残性が高いものであることが好ましい。
【0030】
適用対象が本発明のメンタルヘルス不全改善剤又はメンタルヘルス不全改善用組成物を摂取することにより、該適用対象のメンタルヘルス不全が改善される。本発明のメンタルヘルス不全改善剤又はメンタルヘルス不全改善用組成物に有効成分として用いられるビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌は、食品や薬剤中に長年使用されているものであるため、かつ、動物の腸内に善玉菌として存在するものであるため、生体への安全性が高いことが期待される。よって、副作用や依存性が生じにくいと考えられるため、長期間、連続的に摂取することが可能で、適用対象が気軽に摂取することができる。本発明のメンタルヘルス不全改善剤又はメンタルヘルス不全改善用組成物は、医薬又は飲食品の形態で日常的に摂取することができるため、メンタル
ヘルス不全改善用医薬又はメンタルヘルス不全改善用飲食品組成物として利用することができる。
【0031】
<医薬>
本発明のメンタルヘルス不全改善用医薬は、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌を含有する限り特に制限されない。本発明のメンタルヘルス不全改善用医薬は、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌をそのまま使用してもよく、生理的に許容される液体又は製剤担体を配合して製剤化してもよい。
【0032】
本発明のメンタルヘルス不全改善用医薬の剤形は特に制限されず、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の固形製剤;溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、座剤、軟膏剤等に製剤化することができる。製剤化に際しては、通常の製剤化に用いられている製剤担体を用いることができる。また、本発明に係るメンタルヘルス不全改善用医薬は、公知の又は将来的に見出されるメンタルヘルス不全改善効果を有する成分を含有することもできる。
【0033】
本発明のメンタルヘルス不全改善用医薬におけるビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌の含有量は特に限定されず、剤形に合わせて一日あたりの摂取量又は投与量に基づいて適宜選択することができる。例えば、1×10~1×1012cfu/g又は1×10~1×1012cfu/mLとすることが好ましく、1×10~1×1011cfu/g又は1×10~1×1011cfu/mLとすることがより好ましく、1×10~1×1010cfu/g又は1×10~1×1010cfu/mLとすることがさらに好ましい。なお、前記単位cfuは、colony forming unitsの略であり、コロニー形成単位である。該細菌が死菌の場合、cfu/gまたはcfu/mLは、個細胞/gまたは個細胞/mLと置き換えることができる。
【0034】
また、本発明のメンタルヘルス不全改善用医薬の投与量は、投与対象の体重1kg当たりのビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌の量として、1×10~1×1012cfu/日が好ましく、1×10~1×1011cfu/日がより好ましく、1×10~1×1010cfu/日がさらに好ましい。該細菌が死菌の場合、cfu/日は、個細胞/日と置き換えることができる。本発明のメンタルヘルス不全改善用医薬の投与方法は、経口投与でも非経口投与でもよい。また、本発明のメンタルヘルス不全改善用医薬の投与は、一日一回でもよく、複数回に分けてもよい。
【0035】
前記製剤担体としては、剤形に応じて、各種有機又は無機の担体を用いることができる。固形製剤の場合の担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤等が挙げられる。
【0036】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビット等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α‐デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン誘導体;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の珪酸塩誘導体;リン酸カルシウム等のリン酸塩誘導体;炭酸カルシウム等の炭酸塩誘導体;硫酸カルシウム等の硫酸塩誘導体等が挙げられる。
【0037】
結合剤としては、例えば、上記賦形剤の他、ゼラチン;ポリビニルピロリドン;マクロゴール等が挙げられる。
【0038】
崩壊剤としては、例えば、上記賦形剤の他、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等の化学修飾されたデンプン又はセルロース誘導体等が挙げられる。
【0039】
滑沢剤としては、例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ピーガム、ゲイロウ等のワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸、アジピン酸等のカルボン酸類;安息香酸ナトリウム等のカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウム等の硫酸塩類;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム等のラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物等の珪酸類;デンプン誘導体等が挙げられる。
【0040】
安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;無水酢酸;ソルビン酸等が挙げられる。
【0041】
矯味矯臭剤としては、例えば、甘味料、酸味料、香料等が挙げられる。なお、経口投与用の液剤の場合に使用する担体としては、水等の溶剤、矯味矯臭剤等が挙げられる。
【0042】
本発明のメンタルヘルス不全改善用医薬は、メンタルヘルス不全の改善によって緩和、予防又は治療され得る疾患に適用することができる。メンタルヘルス不全の改善によって緩和、予防又は治療され得る疾患とは、SF-36における「心の健康(MH)」及び/又は「精神的健康度(MCS)」のスコアが上昇した場合に、当該疾患の症状が緩和又は改善
したと判断できる疾患である。かかる疾患として、具体的には、心的外傷後ストレス障害(Post-Traumatic Stress Disorder;PTSD)、ドリッピング・フォーセット症候群(Dripping Faucet Syndrome)、アルコール依存症、解離性障害、強迫性障害、自律神経失調症
、適応障害、恐怖神経症、対人恐怖症、広場恐怖症、情緒障害、チック障害、パーソナリティー障害、発達障害等が例示できる。
なお、以上の各疾患の中でもとくに自然災害の被災に起因する疾患に対しては本発明が好適である。
【0043】
本発明のメンタルヘルス不全改善用医薬は、単独で投与してもよいし、他の医薬、例えば、他のメンタルヘルス不全改善用医薬、抗精神病剤、抗不安剤、幻覚剤、気分安定剤、精神刺激剤、睡眠剤等と併用してもよい。
【0044】
<飲食品組成物>
本発明のメンタルヘルス不全改善用飲食品組成物は、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌を、公知の飲食品に添加することによって製造してもよいし、飲食品の原料中に混合して新たな飲食品組成物を製造することもできる。
【0045】
本発明のメンタルヘルス不全改善用飲食品組成物は、液状、ペースト状、固体、粉末等の形態を問わず、錠菓、流動食、飼料(ペット用を含む)等のほか、例えば、小麦粉製品、即席食品、農産加工品、水産加工品、畜産加工品、乳・乳製品、油脂類、基礎調味料、複合調味料・食品類、冷凍食品、菓子類、飲料、これら以外の市販品等が挙げられる。
【0046】
また、本発明で定義されるメンタルヘルス不全改善用飲食品組成物は、メンタルヘルス不全改善用等の保健用途が表示された飲食品として提供・販売されることが可能である。
「表示」行為には、需要者に対して前記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、前記用途を想起・類推させうるような表現であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、全て本発明の「表示」行為に該当する。
【0047】
また、「表示」は、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により行われることが好ましい。具体的には、飲食品に係る商品又は商品の包装に前記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為等が挙げられる。
【0048】
一方、表示内容としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示等)であることが好ましい。また、そのような表示内容を、包装、容器、カタログ、パンフレット、POP等の販売現場における宣伝材、その他の書類等へ付することが好ましい。
【0049】
また、「表示」には、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、医薬用部外品等としての表示も挙げられる。この中でも特に、消費者庁によって認可される表示、例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、若しくは機能性表示食品に係る制度、又はこれらに類似する制度にて認可される表示等が挙げられる。具体的には、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク減少表示、科学的根拠に基づいた機能性の表示等を挙げることができ、より具体的には、健康増進法に規定する特別用途表示の許可等に関する内閣府令(平成二十一年八月三十一日内閣府令第五十七号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)及びこれに類する表示が典型的な例である。
【0050】
なお、本発明のメンタルヘルス不全改善用飲食品組成物を製造する際におけるビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌の含有量は特に限定されず、一日あたりの摂取量に基づいて適宜選択することができるが、例えば、1×10~1×1012cfu/g又は1×10~1×1012cfu/mLとすることが好ましく、1×10~1×1011cfu/g又は1×10~1×1011cfu/mLとすることがより好ましく、1×10~1×1010cfu/g又は1×10~1×1010cfu/mLとすることがさらに好ましい。該細菌が死菌の場合、cfu/gまたはcfu/mLは、個細胞/gまたは個細胞/mLと置き換えることができる。
【0051】
また、本発明のメンタルヘルス不全改善用飲食品組成物の摂取量は、摂取対象の体重1kg当たりのビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌の量として、1×10~1×1012cfu/日が好ましく、1×10~1×1011cfu/日がより好ましく、1×10~1×1010cfu/日がさらに好ましい。該細菌が死菌の場合、cfu/日は、個細胞/日と置き換えることができる。
【0052】
さらに、本発明は、以下の構成を採用することも可能である。
[1]ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌を有効成分とするメンタルヘルス不全改善剤若しくはメンタルヘルス不全改善用組成物、又はメンタルヘルス不全改善用飲食品組成物。
[2]前記細菌が、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM LMG23728である、[1]に記載のメンタルヘルス不全改善剤若しくはメンタルヘルス不全改善用組成物、又はメンタルヘルス不全改善用飲食品組成物。
[3]前記メンタルヘルス不全がSF-36により評価されるものである、[1]又は[2]に記載のメンタルヘルス不全改善剤若しくはメンタルヘルス不全改善用組成物、又はメンタルヘルス不全改善用飲食品組成物。
[4]前記メンタルヘルス不全が、心の健康(MH)及び/又は精神的健康度(MCS)のス
コアが低い状態である、[3]に記載のメンタルヘルス不全改善剤若しくはメンタルヘルス不全改善用組成物、又はメンタルヘルス不全改善用飲食品組成物。
[5]前記メンタルヘルス不全改善が、神経質な心理状態、気分の落ち込み、若しくはゆううつな気分の緩和、改善若しくは解消、又は、おだやかな気分若しくは楽しい気分の向上である、[1]~[4]のいずれかに記載のメンタルヘルス不全改善剤若しくはメンタルヘルス不全改善用組成物、又はメンタルヘルス不全改善用飲食品組成物。
[6]メンタルヘルス不全改善用組成物又はメンタルヘルス不全改善用医薬の製造における、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌の使用。
[7]メンタルヘルス不全改善のためのビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌の使用。
[8]メンタルヘルス不全改善用に用いられるビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌。
[9]ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌、又は[1]~[5]のいずれかに記載のメンタルヘルス不全改善剤若しくはメンタルヘルス不全改善用組成物、又はメンタルヘルス不全改善用飲食品組成物を適用対象に投与する段階を含む、メンタルヘルス不全を改善する方法。
[10]ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌、又は[1]~[5]のいずれかに記載のメンタルヘルス不全改善剤若しくはメンタルヘルス不全改善用組成物、又はメンタルヘルス不全改善用飲食品組成物を適用対象に投与する段階を含む、メンタルヘルス不全の改善によって緩和、予防又は治療され得る疾患の緩和、予防又は治療方法。
[11]ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌を有効成分とする、腸内細菌叢における腸内細菌構成比率調整剤若しくは腸内細菌構成比率調整用組成物、腸内細菌叢における腸内細菌構成比率改善剤若しくは腸内細菌構成比率改善用組成物、又は腸内細菌叢における腸内細菌構成比率調整用飲食品組成物若しくは腸内細菌叢における腸内細菌構成比率改善用飲食品組成物。
[12]前記腸内細菌比率が、腸内細菌叢におけるBacteroidetes門に属する細菌に対するFirmicutes門に属する細菌の構成比率である、[11]に記載の腸内細菌叢における腸内細菌構成比率調整剤若しくは腸内細菌構成比率調整用組成物、腸内細菌叢における腸内細菌構成比率改善剤若しくは腸内細菌構成比率改善用組成物、又は腸内細菌叢における腸内細菌構成比率調整用飲食品組成物若しくは腸内細菌叢における腸内細菌構成比率改善用飲食品組成物。
[13]腸内細菌叢におけるBacteroidetes門に属する細菌に対するFirmicutes門に属する細菌の構成比率を減少させる、[11]又は[12]に記載の腸内細菌叢における腸内細菌構成比率調整剤若しくは腸内細菌構成比率調整用組成物、腸内細菌叢における腸内細菌構成比率改善剤若しくは腸内細菌構成比率改善用組成物、又は腸内細菌叢における腸内細菌構成比率調整用飲食品組成物若しくは腸内細菌叢における腸内細菌構成比率改善用飲食品組成物。
[14]腸内細菌叢におけるBacteroidetes門に属する細菌の占有率を増加させる、[11]~[13]のいずれかに記載の腸内細菌叢における腸内細菌構成比率調整剤若しくは腸内細菌構成比率調整用組成物、腸内細菌叢における腸内細菌構成比率改善剤若しくは腸内細菌構成比率改善用組成物、又は腸内細菌叢における腸内細菌構成比率調整用飲食品組成物若しくは腸内細菌叢における腸内細菌構成比率改善用飲食品組成物。
[15]腸内細菌叢におけるFirmicutes門に属する細菌の占有率を減少させる、[11]~[14]のいずれかに記載の腸内細菌叢における腸内細菌構成比率調整剤若
しくは腸内細菌構成比率調整用組成物、腸内細菌叢における腸内細菌構成比率改善剤若しくは腸内細菌構成比率改善用組成物、又は腸内細菌叢における腸内細菌構成比率調整用飲食品組成物若しくは腸内細菌叢における腸内細菌構成比率改善用飲食品組成物。
[16]前記ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに属する細菌が、BCCM LMG23728である、[11]~[15]のいずれかに記載の腸内細菌叢における腸内細菌構成比率調整剤若しくは腸内細菌構成比率調整用組成物、腸内細菌叢における腸内細菌構成比率改善剤若しくは腸内細菌構成比率改善用組成物、又は腸内細菌叢における腸内細菌構成比率調整用飲食品組成物若しくは腸内細菌叢における腸内細菌構成比率改善用飲食品組成物。
【実施例0053】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0054】
[試験例1]
(1)試料の調製
ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM LMG23728の培養液を濃縮し、凍結乾燥を行い、マルトデキストリン(松谷化学社製)と混合して、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM LMG23728を含む菌末を調製した。当該菌末1.0gをアルミ袋に小分けし、1包当り1.0×10cfuのビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM LMG23728を含む個包装を得た。
【0055】
(2)経口摂取試験
マレーシアKelantan地区で発生した洪水の被災者31名を対象として、本発明のメンタルヘルス不全改善剤の効果を確認する試験を行った。当該31名のうち、11名を摂取群とし、前記「(1)試料の調製」にて製造した菌末を1日あたり1包、3ヶ月の間毎日1回摂取させた。一方、前記31名の対象のうち摂取群以外の20名を非摂取群(対照群)とし、摂取群及び非摂取群に対して、試験開始日(1回目)と、試験開始日から3ヶ月後の試験終了日(2回目)の合計2回、SF-36によるQOL評価を行った。「日本腰痛学会誌、第8巻第1号、pp.38-43、2002」の手法に基づき、身体機能(PF)、日常役割機
能(身体)(RP)、体の痛み(BP)、全体的健康感(GH)、活力(VT)、社会的生活機能(SF)、日常役割機能(精神)(RE)及び心の健康(MH)の8項目を身体的側面の項目及び精神的側面の項目の2種に分類し、身体的健康度(PCS)と精神的健康度(MCS)を算出し、Mann-Whitney U検定を用いて統計学的有意差を検討した。
【0056】
(3)結果
SF-36の身体機能(PF)、日常役割機能(身体)(RP)、体の痛み(BP)、全体的健康感(GH)、活力(VT)、社会的生活機能(SF)、日常役割機能(精神)(RE)及び心の健康(MH)の8項目と、身体的健康度(PCS)と精神的健康度(MCS)について、試験終了日のスコア及び試験前後のスコア変動値(試験終了日のスコアから試験開始日のスコアを差し引いた値)を算出した結果、表1のとおりとなった。
【0057】
【表1】
【0058】
SF-36の8項目のうち、身体機能(PF)、日常役割機能(身体)(RP)、体の痛み(BP)、全体的健康感(GH)、活力(VT)、社会的生活機能(SF)及び日常役割機能(精神)(RE)の7項目、並びに身体的健康度(PCS)については、試験終了日のスコア及び
試験前後のスコア変動値のいずれについても、非摂取群と摂取群の間に有意な差は生じなかった。一方、心の健康(MH)及び精神的健康度(MCS)の試験前後のスコア変動値は、
それぞれ図1及び図2のとおりとなり、摂取群では非摂取群と比較して有意に大きな値を示した。具体的には、心の健康(MH)のスコア変動値(平均値)は、摂取群では17.27上昇したのに対し、非摂取群では-13.40となり、摂取群とは逆にスコアが低下する結果となった。精神的健康度(MCS)のスコア変動値(平均値)でも同様に、摂取群で
は7.92上昇したのに対し、非摂取群では-4.44となり、非摂取群では摂取群とは逆にスコアが低下した。
また、心の健康(MH)及び精神的健康度(MCS)の試験終了日のスコアは、それぞれ図
3及び図4のとおりとなり、非摂取群と比較して摂取群では有意に上昇した。具体的には、心の健康(MH)の試験終了日のスコア(平均値)は、摂取群では80.4であったのに対し、非摂取群では67.0となり、非摂取群では摂取群よりも10ポイント以上低いスコアとなった。さらに、精神的健康度(MCS)の試験終了日のスコア(平均値)は、摂取
群では56.8であったのに対し、非摂取群では49.8となり、非摂取群では摂取群よりも7ポイント低いスコアとなった。
【0059】
本試験の結果から、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファン
ティスBCCM LMG23728の菌末を摂取することにより、SF-36における心の健康(MH)及び精神的健康度(MCS)のスコアが上昇することが明らかとなった。うつ
病等の精神疾患においては、SF-36の8項目のスコアが総じて低くなるため、うつ病等の精神疾患が改善する場合には、SF-36のスコアが全般的に高くなるものと推察されるが、本試験においては、SF-36における心の健康(MH)及び精神的健康度(MCS
)のスコアのみが有意に高くなった。すなわち、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM LMG23728の菌末を摂取することにより、心の健康(MH)及び精神的健康度(MCS)のスコアが上昇し、メンタルヘルス不全が
改善することが確認された。
【0060】
[試験例2]
(1)腸内菌叢解析
試験例1において確認されたメンタルヘルス不全改善効果と、腸内細菌叢の関係性(脳腸相関)を検討するため、試験例1の被験者を対象として腸内細菌叢の解析を行った。具体的には、試験例1の非摂取群及び摂取群から、試験終了日に採便して、採便した検体をRNA-Later(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)中に懸濁し常温で保管した溶液からQiagen stool DNA extraction kit(キアゲン社製)を用いて糞便に含まれる菌のDNAを抽出し、DNA溶液を得た。
【0061】
次に、細菌の16SrRNA遺伝子の第3~4可変領域を増幅させるための1stプライマーセットであるTru357F (5’-CGCTCTTCCGATCTCTGTACGGRAGGCAGCAG-3’;配列番号1) 及びTru806R (5’-CGCTCTTCCGATCTGACGGACTACHVGGGTWTCTAAT-3’;配列番号2)、並びに、次世代シーケンサーMiseq (イルミナ社製)にて解析するために必要な2ndプライマーセットであるFwd(5’-AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACACNNNNNNNNACACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCTCTG-3’;配列番号3)及びRev(5’-CAAGCAGAAGACGGCATACGAGATNNNNNNNNGTGACTGGAGTTCAGACGTGTGCTCTTCCGATCTGAC-3’;配列番号4)を設計し、Life Technologies社のオリゴプライマー作成サービスによりプライマーを
合成した。なお、前記塩基配列中の「N」は任意の塩基からなるバーコード配列である。
【0062】
前記DNA溶液及び1stプライマーセットを含む総液量25μlの反応液を、Takara Extaq HS kit(タカラバイオ社製)を用いて調製した。核酸増幅反応
は、サーマルサイクラーを用いて行い、94℃‐3分の後、94℃‐30秒、50℃‐30秒、72℃‐30秒を1サイクルとし、これを30回繰り返し、その後、72℃‐5分として、PCR反応を行った。
続いて、得られたPCR産物1μlを鋳型とし、2ndプライマーセットを用い、サイクル数を8回とした以外は1stプライマーを用いた場合と同条件にてPCR反応を行った。得られたPCR産物は、QIA quick 96 PCR Purification
kit(キアゲン社製)を用いて精製した。複数の検体に由来するPCR産物を同じ濃
度で混合したものをMiseq v3 Reagent kit(イルミナ社製)に供し、
Miseqにてシークエンス解析を実施した。
【0063】
シークエンス解析により得られたペアエンド配列からReference Conso
rtium human build 38およびPhiX 174に相当する配列をbowtie-2 (ver. 2‐2.2.4) により検出し、検出された配列を解析から除外し
た。その後、PHRED quality scoreが17以下の塩基配列をトリミングし、150塩基より短いまたは配列全長の平均PHRED quality scoreが25以下の配列全長を削除した。その後、fastq‐join (ver. 1.1.2‐
537)にて、ペアエンド配列を結合し、USEARCH (ver. 5.2.32)とg
oldデータベース(http://drive5.com/otupipe/gold.tz)を用いてキメラ配列を除去し
、解析に用いる配列を得た。菌群の解析にはQiimeソフトウェア(version
1.8.0)におけるopen‐reference OTU(Operational
Taxonomy Unit)picking法とデータベース:Greengenes database13_8にて97%の相同性を有する配列ごとをOTUとした。各OT
Uの代表配列をデータベース:Greengenes database13_8に対して相同性検索することにより、腸内細菌の構成比率を解析した。
【0064】
(2)結果
図5、6及び7に示したとおり、試験終了後の摂取群の腸内細菌叢におけるBacteroidetes門に属する細菌の占有率は平均値で58%となり、非摂取群のBacteroidetes門に属する細菌の占有率の平均値45%に比較して有意に高い値を示した(図5)。また、試験終了後の摂取群の腸内細菌叢におけるFirmicutes門に属する細菌の占有率は平均値で24%となり、非摂取群Firmicutes門に属する細菌の占有率の平均値39%に比較して有意に低い値を示した(図6)。さらに、試験終了後の摂取群の腸内細菌叢における上記2細菌の構成比率(Firmicutes門に属する細菌/Bacteroidetes門に属する細菌)は平均値で0.44となり、非摂取群の上記2細菌の構成比率平均値1.08と比較して有意に低い値を示した(図7)。なお、有意差は、Mann-Whitney U検定により検討した。
【0065】
さらに、試験例1における試験終了後の精神的健康度(MCS)(図4)と、腸内細菌叢
における前記構成比率(図7)とのスピアマン相関をIBM SPSS Statistics(Ver.22)によって解析した結果、図8に示すように、2両者間には有意な負の相関が認められた。すなわち、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM LMG23728の摂取による、精神的健康度(MCS)の上昇と、
腸内細菌叢における前記構成比率の低下とには相関が認められた。よって、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM LMG23728は、それを摂取した適用対象の腸内細菌叢における前記構成比率を低下させることで、メンタルヘルス不全を改善することが示唆された。
【0066】
[製造例1]
ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM LMG23728をMRS液体培地3mLに添加し、37℃で16時間嫌気培養し、培養液を濃縮し、凍結乾燥を行い、当該細菌の菌末を得る。当該菌末と賦形剤等とを適宜混合して錠剤化する。当該錠剤を、菌の摂取量が1×10~1×1012cfu/kg体重/日になるように、3ヶ月間毎日摂取する。
当該錠剤の摂取により、メンタルヘルス不全改善効果、並びに腸内細菌叢構成比率調整効果及び腸内細菌叢構成比率改善効果が期待できる。
【0067】
[製造例2]
ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスBCCM LMG23728をMRS液体培地3mLに添加し、37℃で16時間嫌気培養し、培養液を濃縮し、凍結乾燥を行い、当該細菌の菌末を得る。当該菌末を発酵乳原料に添加し、発酵乳を得る。当該発酵乳を、菌の摂取量が1×10~1×1012cfu/kg体重/日になるように、少なくとも3ヶ月毎日摂取する。
当該発酵乳の摂取により、メンタルヘルス不全改善効果、並びに腸内細菌叢構成比率調整効果及び腸内細菌叢構成比率改善効果が期待できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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