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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111345
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】高炉の操業方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20240809BHJP
【FI】
C21B5/00 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015770
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(72)【発明者】
【氏名】松田 航尚
(72)【発明者】
【氏名】三尾 浩
【テーマコード(参考)】
4K012
【Fターム(参考)】
4K012BC03
4K012BC04
4K012BC08
(57)【要約】
【課題】鉱石原料及び混合コークスを含有する混合原料層と、コークス層とを炉内に交互に層状に形成する高炉の操業方法において、設備条件などに左右されることなく、還元ガスの流れを安定化する手法を提供する。
【解決手段】高炉原料を炉内に装入することにより、鉱石原料及び混合コークスを含有する混合原料層と、コークス層とを炉内に交互に層状に形成する高炉の操業方法において、混合原料層内の混合コークスの偏析領域に応じて、高炉原料の装入方法を調整する調整アクションを実施することにより、炉径方向における還元負荷のバラつきを縮小する。混合原料層のコークス層に対する質量比率をO/Cと定義したときに、調整アクションとして、炉径方向におけるO/Cの分布であるO/C分布を調整する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉原料を炉内に装入することにより、鉱石原料及び混合コークスを含有する混合原料層と、コークス層とを炉内に交互に層状に形成する高炉の操業方法において、
混合原料層内の混合コークスの偏析領域に応じて、高炉原料の装入方法を調整する調整アクションを実施することにより、炉径方向における還元負荷のバラつきを縮小すること、
を特徴とする高炉の操業方法。
【請求項2】
混合原料層のコークス層に対する質量比率をO/Cと定義したときに、
前記調整アクションとして、炉径方向におけるO/Cの分布であるO/C分布を調整するアクションを実行すること、
を特徴とする請求項1に記載の高炉の操業方法。
【請求項3】
混合原料層は、炉径方向において、混合コークスの占める割合が高い低還元負荷領域と、混合コークスの占める割合が低い高還元負荷領域とを有し、
前記調整アクションとして、前記低還元負荷領域の上に堆積する混合原料層及びコークス層のO/Cを増大し、前記高還元負荷領域の上に堆積する混合原料層及びコークス層のO/Cを縮小すること、
を特徴とする請求項2に記載の高炉の操業方法。
【請求項4】
コークス層及びこのコークス層に上に堆積する混合原料層の堆積形状に関する情報と、混合原料層における混合コークスの濃度分布に関する情報とを含む第1の堆積情報と、
コークス層及び混合原料層のO/C分布に関する第2の堆積情報と、を含む堆積情報を取得する堆積情報取得ステップと、
前記堆積情報に基づき、炉径方向における還元負荷を求める、還元負荷算出ステップと、
前記還元負荷算出ステップで求めた還元負荷に基づき、炉径方向における還元負荷のバラつきを縮小するための改善O/C分布を求める、改善O/C分布算出ステップと、
を有し、
前記改善O/C分布算出ステップで求めた改善O/C分布に対応した調整アクションを実行すること、
を特徴とする請求項2又は3に記載の高炉の操業方法。
【請求項5】
高炉数学モデルを利用して、前記堆積情報取得ステップ、前記還元負荷算出ステップ及び前記改善O/C分布算出ステップを実施すること、
を特徴とする請求項4に記載の高炉の操業方法。
【請求項6】
混合原料層内の混合コークスの偏析領域の変化が許容限度を超えたときに、調整アクションを実行すること、
を特徴とする請求項2又は3に記載の高炉の操業方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱石原料及び混合コークスを含有する混合原料層と、コークス層とを炉内に交互に層状に形成する高炉の操業方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉操業においては、炉頂部から還元材及び燃料としてのコークス、ならびに鉄源としての焼結鉱、ペレット、塊鉱石など(以下、これらを総称して、鉱石原料ともいう)が交互に層状になるように装入され、炉下部の羽口からは熱風とともに微粉炭などが吹き込まれる。
【0003】
高炉の安定操業を維持するためには、良好な通気性を確保し、還元ガスの流れを安定化させる必要がある。炉内通気性は、主として高炉原料の性状、粒度および装入量により大きな影響を受けるが、それ以外に、炉頂からの高炉原料の装入方法によっても大きく左右される。
【0004】
炉内通気性を改善する方法として、鉱石層中に小塊コークス(以下、混合コークスともいう)を混合装入する方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。この考え方は、鉱石原料に混合コークスを近接配置することにより、混合コークスから発生する還元ガスによって、混合コークス周囲に存在する鉱石原料を速やかに還元できる、といった技術的意義に立脚している。かかる技術意義に鑑みると、炉径方向におけるO/C分布に基づき、鉱石量が相対的に多い炉径領域には混合コークスをより多く配分し、鉱石量が相対的に少ない炉径領域には混合コークスをより少なくすることが望ましいと考えることができる。
【0005】
特許文献1には、鉱石を2以上に分割して装入するベルレス式高炉への高炉原料装入方法において、装入する鉱石の分割された各バッチに小塊コークス(混合コークス)を混合し、鉱石第2バッチ以降における小塊コークス混合量を鉱石第1バッチにおける小塊コークス混合量よりも多くするとともに、小塊コークスの炉径方向における堆積位置を所定の位置に調整する方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、所定量の混合コークスと鉱石がバンカーで交じり合わずに、炉内に装入されるときに交じり合うように旋回シュートなどを制御することにより、バンカー内における鉱石及び混合コークスの粒径差による粒度偏析の発生を防止するとともに、混合原料層中における混合コークスの混合率を装入初期から装入末期にかけて概ね一定とする高炉原料の装入方法であって、当該装入方法を実現するために、旋回シュートの駆動、上部バンカーに対するコークスの装入タイミング、上部バンカーから下部バンカーに対するコークスの移送タイミングなどを制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-290511号公報
【特許文献2】特開2014-111819号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】柏原ら, 鉄と鋼, 102-12, 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、通常の高炉操業では、鉱石原料の槽配置や装入タイムスケジュール等に制約があるため、特許文献1に記載されるように鉱石バッチを複数に分割したり、特許文献2に記載されるように複雑な制御を行うことは必ずしも容易ではない。
また、混合コークスの偏析形態は高炉の設備(例えば、ホッパーの形状、ホッパー内における偏析制御板の有無)によっても大きく異なるため、高炉の設備によっては、特許文献1及び2の装入方法を必ずしも適用することができない。したがって、特許文献1及び2に記載の装入方法は、汎用性の高い装入方法とはいえない。
【0010】
本発明は、鉱石原料及び混合コークスを含有する混合原料層と、コークス層とを炉内に交互に層状に形成する高炉の操業方法において、設備条件などに左右されることなく、還元ガスのガス流れを安定化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る高炉の操業方法は、(1)高炉原料を炉内に装入することにより、鉱石原料及び混合コークスを含有する混合原料層と、コークス層とを炉内に交互に層状に形成する高炉の操業方法において、混合原料層内の混合コークスの偏析領域に応じて、高炉原料の装入方法を調整する調整アクションを実施することにより、炉径方向における還元負荷のバラつきを縮小すること、を特徴とする。
【0012】
(2)混合原料層のコークス層に対する質量比率をO/Cと定義したときに、前記調整アクションとして、炉径方向におけるO/Cの分布であるO/C分布を調整するアクションを実行すること、を特徴とする上記(1)に記載の高炉の操業方法。
【0013】
(3)混合原料層は、炉径方向において、混合コークスの占める割合が高い低還元負荷領域と、混合コークスの占める割合が低い高還元負荷領域とを有し、前記調整アクションとして、前記低還元負荷領域の上に堆積する混合原料層及びコークス層のO/Cを増大し、前記高還元負荷領域の上に堆積する混合原料層及びコークス層のO/Cを縮小すること、を特徴とする上記(2)に記載の高炉の操業方法。
【0014】
(4)コークス層及びこのコークス層に上に堆積する混合原料層の堆積形状に関する情報と、混合原料層における混合コークスの濃度分布に関する情報とを含む第1の堆積情報と、コークス層及び混合原料層のO/C分布に関する第2の堆積情報と、を含む堆積情報を取得する堆積情報取得ステップと、前記堆積情報に基づき、炉径方向における還元負荷を求める、還元負荷算出ステップと、前記還元負荷算出ステップで求めた還元負荷に基づき、炉径方向における還元負荷のバラつきを縮小するための改善O/C分布を求める、改善O/C分布算出ステップと、を有し、前記改善O/C分布算出ステップで求めた改善O/C分布に対応した調整アクションを実行すること、を特徴とする上記(2)又は(3)に記載の高炉の操業方法。
【0015】
(5)高炉数学モデルを利用して、前記堆積情報取得ステップ、前記還元負荷算出ステップ及び前記改善O/C分布算出ステップを実施すること、を特徴とする上記(4)に記載の高炉の操業方法。
【0016】
(6)混合原料層内の混合コークスの偏析領域の変化が許容限度を超えたときに、調整アクションを実行すること、を特徴とする上記(2)又は(3)に記載の高炉の操業方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鉱石原料及び混合コークスを含有する混合原料層と、コークス層とを炉内に交互に層状に形成する高炉の操業方法において、設備条件などに左右されることなく、還元ガスのガス流れを安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の高炉の操業方法によって実現される炉内堆積形状の模式図である。
図2】O/C分布の調整方法を示したフローチャートである。
図3】小塊コークスの装入タイミングを示したグラフである(実施例)。
図4】第1の堆積情報に対応するグラフである。
図5】第2の堆積情報に対応するグラフである。
図6】調整前の炉径方向における還元負荷を示したグラフである。
図7】改善後のO/C分布を示したグラフである。
図8】調整後の炉径方向における還元負荷を示したグラフである。
図9】調整前後のコークス比を比較するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1を参照しながら、本発明の高炉の操業方法の一実施形態について説明する。図1は、本実施形態の高炉の操業方法によって実現される炉内堆積形状の模式図であり、矢印はCOガスの流れる方向を示している。本実施形態の高炉の操業方法は、高炉原料を炉内に装入することにより、鉱石原料及び混合コークスを含有する混合原料層O1,O2と、コークス層C1,C2,C3と、を炉内に交互に層状に形成する高炉の操業方法において、混合原料層O1内の混合コークスMCの偏析領域に応じて、混合原料層O2を形成するときの原料装入を調整する(調整アクションに相当する)ことにより、炉径方向における還元負荷のバラつきを縮小して、COガス(以下、「還元ガス」ともいう)のガス流れを安定化することを目的とする。ただし、コークス層C2を形成するときの原料装入を調整することにより調整アクションとしてもよいし、混合原料層O2及びコークス層C2を形成するときの原料装入を調整することにより調整アクションとしてもよい。
【0020】
「偏析領域」とは、混合原料層O1において、混合コークスMCの体積割合が相対的に高い領域のことである。偏析領域では、還元ガス量に対して還元すべき鉱石量が相対的に少ない状態となっており、非偏析領域では、還元ガス量に対して還元すべき鉱石量が相対的に多い状態となっており、混合原料層O1では、還元負荷が炉径方向で不均一になっている。そこで、混合原料層O2及びコークス層C2を形成するときの原料装入を調整することによって、還元ガスのガス流れを安定化させ、炉径方向における還元負荷のバラつきを縮小する。なお、「非偏析領域」とは、偏析領域以外の領域のことである。したがって、混合原料層O1は、偏析領域及び非偏析領域によって構成される。
【0021】
コークス層C1、混合原料層O1、コークス層C2、混合原料層O2、コークス層C3は、この順序で炉内に堆積される。なお、コークス層及び混合原料層は炉内に交互に形成されるものであり、図1はその一部だけを図示する。図1における両矢印Rは、炉径方向に対応している。
【0022】
混合原料層O1,O2は、炉内に鉱石原料とともに混合コークスMCを装入することにより形成される鉱石層であって、混合コークスと比較して鉱石が十分に多い。混合コークスMCには、小塊コークスを用いることができる。小塊コークスは、コークス層C1,C2を形成する大塊コークスの篩下コークスであって、例えば粒子径10~40mm程度のコークスのことである。
【0023】
混合原料層O1は、炉径方向Rの領域S1において混合コークスMCの占める体積割合が高く、領域S2において混合コークスMCの占める体積割合が低い層構造となっている。つまり、領域S1が混合コークスMCの偏析領域となっており、領域S2が混合コークスMCの非偏析領域となっている。
ここで、混合原料層O1及びコークス層C1に着目したとき、混合コークスMCが偏析する領域S1は、還元ガスが有効活用されていないため、相対的に還元負荷が小さい領域と言える。一方、混合コークスMCが偏析していない領域S2は、還元ガスが有効活用されているため、相対的に還元負荷が大きい領域と言える。
領域S1及び領域S2をそれぞれ、低還元負荷領域S1及び高還元負荷領域S2と定義する。
【0024】
したがって、混合原料層O1の低還元負荷領域S1の上に堆積するコークス層C2及び混合原料O2のO/Cを相対的に高くし、高還元負荷領域S2の上に堆積するコークス層C2及び混合原料O2のO/Cを相対的に低くする調整アクション(O/C分布を調整するアクションに相当する)を実施することにより、還元ガスのガス流れを安定化することができる。言い換えると、炉径方向における還元負荷のバラつきを小さくすることができる。O/Cとは、コークス層C2に対する混合原料層O2の質量比率のことであり、本実施形態では、コークス層C2を構成する大塊コークスと、混合原料層O2を構成する鉱石原料及び混合コークスMCとの質量比率が、O/Cである。また、O/C分布は、炉径方向におけるO/Cの分布を意味する。
【0025】
O/Cは、炉内堆積層の表面プロフィールを測定可能なプロフィールメータを用いて算出することができる。例えば、混合原料層O1の表面プロフィールを測定し(以下、表面プロフィールO1ともいう)、コークス層C2の堆積後にコークス層C2の表面プロフィールを測定し(以下、表面プロフィールC2ともいう)、混合原料層O2の堆積後に混合原料層O2の表面プロフィールを測定する(以下、表面プロフィールO2ともいう)。次に、表面プロフィールO1及び表面プロフィールC2の差分からコークス層C2の層厚を算出し、表面プロフィールC2及び表面プロフィールO2の差分から混合原料層O2の層厚を算出し、これらの層厚比を取る。そして、この層厚比を炉周方向に積分することによって、コークス層C2及び混合原料O2のO/Cを算出することができる。
【0026】
図2のフローチャートを参照しながら、O/C分布の調整方法について具体的に説明する。調整方法は、堆積情報取得ステップ(S101)、還元負荷算出ステップ(S102)、改善O/C分布算出ステップ(S103)及び調整アクション(S104)を含む。堆積情報取得ステップ(S101)、還元負荷算出ステップ(S102)及び改善O/C分布算出ステップ(S103)を予め実施し、その後に調整アクションS104が実行される。
【0027】
(S101:堆積情報取得ステップ)
堆積情報取得ステップS101では、コークス層C1及び混合原料層O1の堆積情報を取得する。堆積情報は、第1の堆積情報および第2の堆積情報を含む。
【0028】
第1の堆積情報は、コークス層C1及び混合原料層O1の堆積形状と、混合原料層O1における混合コークスMCの濃度分布に関する情報を含む。濃度は、混合コークスMCの体積割合であってもよい。
例えば、横軸を炉径方向、縦軸を炉高方向とした二次元平面に、コークス層C1及び混合原料層O1の堆積形状を表す表面プロフィールを描くとともに、混合原料層O1中に、混合コークスMCの濃度分布を白黒の濃淡等で描くことにより、第1の堆積情報とすることができる。なお、濃度分布に関する情報は、白黒の濃淡に限るものではない。例えば、混合原料層O1をメッシュ状に分割し、各分割領域の座標と体積割合の数値とを紐づけたデータテーブルを、濃度分布に関する情報としてもよい。第1の堆積情報の具体例は、後述する実施例で述べる。
【0029】
第2の堆積情報は、コークス層C1及び混合原料層O1のO/C分布に関する情報である。O/C分布から各炉径位置におけるO/Cを把握することができる。例えば、横軸を炉径方向、縦軸を炉高方向としたグラフに、各炉径位置におけるO/Cをプロットすることにより、第2の堆積情報とすることができる。
すなわち、炉径方向に炉内を複数に分割し、各分割領域におけるO/Cの代表値をグラフにプロットすることにより、第2の堆積情報とすることができる。O/Cの代表値は、例えば、各分割領域の炉径方向における中心位置のO/Cとしてもよい。この第2の堆積情報の具体例は、後述する実施例で述べる。
【0030】
堆積情報の取得方法について説明する。堆積情報、特に第1の堆積情報は、実操業中に炉内を調査して、把握することが困難である。したがって、予め実高炉を模した試験装置等を用いて、高炉原料の装入試験を実施することにより、堆積情報を取得することが望ましい。
例えば、実高炉がベルレス式高炉の場合、1/3ベルレス試験装置を用いることができる。すなわち、1/3ベルレス試験装置に対して、模擬高炉原料を、所定の装入量で装入することにより、炉内における堆積状態を模擬することができる。模擬高炉原料は、実炉に装入される高炉原料よりも粒径が小さい。また、所定の装入量は、実炉における高炉原料の装入量よりも低い。そして、模擬高炉原料の堆積領域をメッシュ状に分割して、各分割領域から高炉原料を採取して、仕分けすることにより、堆積情報を取得することができる。
ただし、本発明は、ベルレス式高炉に限定するものではなく、ベル高炉にも適用することができる。ベル高炉の場合、1/3ベル試験装置を用いて、堆積情報を取得することができる。
【0031】
(S102:還元負荷算出ステップ)
還元負荷は、S101の堆積情報を高炉数学モデルに適用して、解析することにより、算出することができる。高炉数学モデルには、公知のモデル(例えば、Koji TAKATANIら「Three-dimensional Dynamic Simulator for Blast Furnace」ISIJ International, vol.39(1999), No.1, p.15-22)を用いることができる。例えば、横軸を炉径方向、縦軸を還元負荷指標としたグラフに、各炉径位置における還元負荷指標をプロットすることにより、還元負荷情報とすることができる。還元負荷指標には、例えばCOガス利用率(ηCO)を用いることができる。
高炉数学モデルは、プログラムによって実行することができる。すなわち、コンピュータが不図示のデータベースからプログラムを読み出して、実行することにより、還元負荷を算出することができる。
なお、高炉は下方が上方よりも広い末広がりの炉壁を有するため、高炉原料が炉下部に向かって移動する際に、堆積層の一部が炉壁側等に崩落して、堆積層の形状が変化する。上記高炉数学モデルでは、この崩落現象を考慮しながら還元負荷指標を算出することができる。
【0032】
(S103:改善O/C分布算出ステップ)
次に、上述の還元負荷情報に基づき、炉径方向における還元負荷のバラつきを縮小する(言い換えると、還元ガスのガス流れを改善する)ためのコークス層C2及び混合原料層O2のO/C分布(改善O/C分布)を算出する。改善O/C分布は、上述の高炉数学モデルを用いて算出することができる。
図1の堆積状態では、低還元負荷領域S1の上に堆積するコークス層C2及び混合原料O2のO/Cが相対的に大きく、かつ、高還元負荷領域S2の上に堆積するコークス層C2及び混合原料O2のO/Cが相対的に小さいO/C分布が、改善O/C分布として算出される。
【0033】
(S104:調整アクション実行)
改善O/C分布を実現するための調整アクションを決定し、これを実行する。かかる調整アクションは、例えば、堆積形状推定ツールを用いて、決定することができる。堆積形状推定ツールには、「ISIJ International,Vol.43(2003),No.5,pp620‐629」に記載されたツールを用いることができる。
【0034】
調整アクションについて具体的に説明する。
高炉がベルレス式高炉の場合、旋回シュートの傾動角、旋回シュートの旋回数、高炉原料の装入量及び装入ストックラインのうち少なくとも一つを変更することにより、調整アクションとすることができる。
高炉がベル高炉の場合、ムーバブルアーマーの角度、ベルの開速度、高炉原料の装入量及び装入ストックラインのうち少なくとも一つを変更することにより、調整アクションとすることができる。
これらの調整アクションは、CPU等からなるコントローラによって自動的に実行してもよいし、オペレータが制御室から操作することによって実行してもよい。
【0035】
図1の堆積状態では、低還元負荷領域S1の上に堆積される混合原料層O2の層厚を増大させる調整アクションを実施することにより、かかる領域のO/Cを増大させている。言い換えると、高還元負荷領域S2の上に堆積される混合原料層O2の層厚を縮小させる調整アクションを実施することにより、かかる領域のO/Cを縮小させている。これにより、混合原料層O2の炉径方向における還元負荷のバラつきを縮小することができる。
【0036】
次に、調整アクションを実施するタイミングについて説明する。
混合コークスMCの偏析領域の変化が許容限度を超えない限り、上述の調整アクションに対応した高炉原料の装入方法を継続する。偏析領域の変化は、種々の方法で判別することができる。判別法を例示すると、以下の通りである。
【0037】
(判別法1)
混合コークスMC、鉱石原料等の粒径の変化に基づき把握することができる。粒径が変化することにより、ホッパー内における高炉原料の配置、炉内における高炉原料の転動挙動等が変化するため、偏析領域が変わり得る。例えば、炉頂ホッパーに向かって高炉原料を搬送する搬送コンベア上から高炉原料を周期的に採取し、この採取した高炉原料の粒径を篩等で調べることにより、高炉原料の粒径を取得することができる。予め高炉原料の粒径と高炉のガス流れ分布との関係を調べてデータベース化しておき、前述の取得した粒径と当該データベースとを対比して、所望のガス流れ分布が得られているかどうかを判別する。そして、所望のガス流れ分布が得られていない場合、偏析領域が変化したと判別することができる。所望のガス流れ分布は、その時の高炉の操業状態に応じて適宜設定することができる。ガス流れ分布は、例えば、COガス利用率(ηCO)に基づき把握することができる。
【0038】
(判別法2)
また、ホッパー内に配設される偏析制御板の角度が変わる等の設備変更の有無によって、偏析領域が変化したかどうかを判別してもよい。偏析制御板の角度が変わることにより、混合コークスMC等を含む高炉原料の炉内装入順序が変化するため、偏析領域が変わり得る。例えば、偏析制御板の角度を変更する設備変更が生じたときは、原則として偏析領域の変化が許容限度を超えた、と評価することができる。
【0039】
(判別法3)
さらに、操業中に高炉の安定度を評価し、安定度が悪化したときに偏析領域が変化したと判別してもよい。すなわち、偏析領域の変化後に従来の高炉操業を継続すると、高炉の安定性が悪化するため、操業中の高炉の安定度に基づき、偏析領域の変化を判別することができる。高炉の安定度は、公知の方法に基づき評価することができる。例えば、出銑量、出銑温度、出銑成分などから高炉の安定度を把握し、高炉の安定度の変化を評価することができる。
例えば、出銑温度が50℃以上変化したときに、偏析領域の変化が許容限度を超えた、と評価することができる。
【0040】
偏析領域の変化が許容限度を超えた場合には、改めて炉径方向における還元負荷のバラつきを少なくするためのO/C分布を求め、これに対応する調整アクションを実行すればよい。この点については、詳細を上述したから、説明を繰り返さない。
【0041】
このように、本実施形態の高炉の操業方法では、混合コークスMCの偏析領域を予測し、この偏析領域に応じてO/C分布を調整することにより、炉径方向における還元負荷のバラつきを縮小している。この調整方法によれば、高炉の設備状況などに左右されずに、炉径方向における還元負荷のバラつきを縮小することができる。
【0042】
次に、本発明の実施例について詳細に説明する。
実高炉と同一の条件で小塊コークス(混合コークスMC)を含む高炉原料を試験装置に装入し、小塊コークスの配置を調べた。試験装置には、1/3ベルレス試験装置を使用した。1/3ベルレス試験装置とは、ベルレス式炉頂装入装置を模した実炉の1/3サイズの模型実験装置(半径1800mm程度)のことである。平均粒径は実炉の約1/3とし、装入量は実炉の約1/27とした。コークスの装入量は1チャージ当たり約1.3t、鉱石の装入量は1チャージ当たり約5.4tとした。鉱石チャージにおいて、小塊コークスを0.2t混合して、鉱石とともに装入した。原料が、装置壁側(高炉の炉壁側に相当する)から装置中心側(高炉の炉中心側に相当する)に向かって装入されるように、装置を制御した。つまり、ベルレス式高炉において、旋回シュートの傾動角を徐々に小さくする駆動方式(いわゆる順傾動)を模した装入方法を採用した。
【0043】
装入条件は4000m級高炉が安定操業しているときの条件を踏襲した。小塊コークスの装入タイミングを、図3に示すように、鉱石装入の後半に集中させることによって、実高炉の操業状態を模擬した。図3は、小塊コークスの装入タイミングを示すグラフであり、横軸を鉱石の無次元装入時間(-)、縦軸を小塊コークスの無次元装入量(-)を縦軸とした。
無次元装入時間(-)とは、鉱石の装入が終わるまでの所要時間を1とし、無次元装入時間(-)が0の時に鉱石の装入が開始され、無次元装入時間(-)が1の時に鉱石の装入が終了することを意味する。
無次元装入量(-)とは、小塊コークスの全装入量を1とし、無次元装入量(-)が1に達した時に、小塊コークスの装入が終了することを意味する。
【0044】
装入後に、高炉原料を採取して仕分けし、第1の堆積情報および第2の堆積情報を取得した。
採取は、試験装置を装置半径方向に7分割するとともに、各分割領域の中央から装置高さ方向に沿って所定間隔毎に原料をサンプリング(採取)することにより、実施した。なお、サンプリングしていない領域の濃淡は、隣接するサンプリング領域の濃淡を互いに比較し、一方の濃淡が他方の濃淡に漸近するようにグラデーション調整を行うことにより、補間した。
【0045】
図4は、第1の堆積情報に相当するグラフであり、各サンプリング領域における小塊コークスの体積割合を白黒の濃淡(グレイスケール画像)で表している。黒色に近いほど、小塊コークスの体積割合が高いことを意味する。Oは混合原料層、Cは混合原料層Oの下に堆積したコークス層、Pcはコークス層Cの表面プロフィール、OT1はコークス層Cの下に堆積する混合原料層の表面プロフィール、OT2は混合原料層Oの表面プロフィールを示している。また、FWは炉壁、FCは炉中心を示している。
【0046】
図5は、第2の堆積情報に相当するグラフであり、横軸を炉中心からの無次元距離(-)、縦軸を無次元O/C(-)とした。原料をサンプリングした炉径位置におけるO/Cを無次元値でグラフにプロットした。
【0047】
図4の第1の堆積情報及び図5の第2の堆積情報を、上述の高炉数学モデルに適用して、炉内状態を計算することにより、炉径方向における還元負荷を求めた。図6は、求めた還元負荷のグラフであり、横軸を炉中心からの無次元距離(-)、縦軸を還元負荷指標(-)とした。還元負荷指標(-)及び還元負荷は同義である。つまり、「還元負荷指標(-)が大きくなる(小さくなる)」と「還元負荷が大きくなる(小さくなる)」は同義である。同図を参照して、炉中心からの無次元距離(-)が0~0.5の領域における還元負荷が相対的に小さく、炉中心からの無次元距離(-)が0.5~1.0の領域における還元負荷が相対的に大きいことがわかった。
つまり、炉中心からの無次元距離(-)を0~0.5とする領域が、小塊コークスの偏析する偏析領域で、小塊コークスが多いにも関わらず、O/Cが相対的に低いことがわかった。
【0048】
そこで、かかる還元負荷情報を上述の高炉数学モデルに適用し、炉径方向における還元負荷のバラつきを縮小するための改善O/C分布を求めた。図7に改善後のO/C分布を示した。ただし、改善前のO/C分布と比較するため、図5の改善前のO/C分布も並記した。この改善O/C分布は、炉中心からの無次元距離(-)を0~0.5とする領域のO/Cが相対的に大きく、炉中心からの無次元距離(-)を0.5~1とする領域のO/Cが相対的に小さい、O/C分布である。
【0049】
上述の堆積形状推定ツールを用いて、改善O/C分布を得るための装入方法を検討し、この検討結果に基づき装入条件を調整した後、再び還元負荷を上述の高炉数学モデルにより求めた。図8は、求めた還元負荷のグラフであり、横軸を炉中心からの無次元距離(-)、縦軸を還元負荷指標(-)とした。同図に示すように、還元負荷のバラつきが、調整前より減少することを確認した。この結果を踏まえて、実際に還元ガスのガス流れが改善されるかどうかを、実高炉で調べた。
【0050】
上述の調整前の装入条件で操業している高炉において、前述の調整アクションを実施した結果、図9に示すように、コークス比が低下した。なお、調整アクション前後の操業状態が安定操業状態であることは言うまでもない。
以上の結果から、実高炉において、調整アクションを実施することにより、還元ガスのガス流れが改善されることがわかった。
【符号の説明】
【0051】
S1 低還元負荷領域
S2 高還元負荷領域
MC 混合コークス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9