(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111346
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04858 20160101AFI20240809BHJP
H01M 8/249 20160101ALI20240809BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20240809BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20240809BHJP
H01M 8/04225 20160101ALI20240809BHJP
H01M 8/04302 20160101ALI20240809BHJP
H01M 8/0432 20160101ALI20240809BHJP
H01M 8/0656 20160101ALI20240809BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20240809BHJP
【FI】
H01M8/04858
H01M8/249
H01M8/04537
H01M8/04746
H01M8/04225
H01M8/04302
H01M8/0432
H01M8/0656
H01M8/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015772
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 大河
(72)【発明者】
【氏名】早川 浩二朗
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA07
5H127AB13
5H127AB17
5H127AC15
5H127BA02
5H127BA15
5H127BA37
5H127BA44
5H127BB02
5H127BB27
5H127DA01
5H127DB47
5H127DB53
5H127DB66
5H127DC03
5H127DC43
5H127DC44
5H127DC45
5H127DC53
5H127DC54
5H127DC90
5H127EE02
5H127EE03
5H127EE29
5H127EE30
(57)【要約】
【課題】簡易な構成により、大きな出力を得る。
【解決手段】燃料電池システムは、1つ以上の燃料電池スタックと、燃料電池スタックに供給する燃料ガスと酸化剤ガスとを制御する補機と、をそれぞれ含む複数の発電モジュールを備え、複数の発電モジュール間で各燃料電池スタックが直列に接続される。このシステムは、制御指令に基づいて複数の発電モジュールのうち対応する発電モジュールの補機をそれぞれ制御する複数の個別制御部と、複数の発電モジュールの各燃料電池スタックの電圧が下限電圧を下回らない範囲内でシステムに要求される要求出力に応じた出力が得られるように電流指令を設定して複数の個別制御部に送信する統合制御部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと酸化剤ガスとの反応により発電する1つ以上の燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックに供給する燃料ガスと酸化剤ガスとを制御する補機と、をそれぞれ含む複数の発電モジュールを備え、前記複数の発電モジュール間で各燃料電池スタックが直列に接続されてなる燃料電池システムであって、
制御指令に基づいて前記複数の発電モジュールのうち対応する発電モジュールの補機をそれぞれ制御する複数の個別制御部と、
前記複数の発電モジュールの各燃料電池スタックの電圧が下限電圧を下回らない範囲内でシステムに要求される要求出力に応じた出力が得られるように電流指令を設定して前記複数の個別制御部に送信する統合制御部と、
を備える燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
前記統合制御部は、前記要求出力に対して実出力が不足する場合には、前記燃料電池スタックの電圧が上昇するように前記補機を制御する制御指令を送信する、
燃料電池システム。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池システムであって、
前記複数の個別制御部は、それぞれ対応する燃料電池スタックにおける燃料ガスの利用率が目標利用率となるように対応する補機を制御し、
前記統合制御部は、前記要求出力に対して実出力が不足する場合には、前記燃料ガスの目標利用率を減少させる、
燃料電池システム。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池システムであって、
前記統合制御部は、前記要求出力に対する実出力の不足が解消するまで、前記燃料ガスの目標利用率を徐々に減少させる、
燃料電池システム。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池システムであって、
現在の前記燃料ガスの目標利用率を記憶する記憶部を備え、
前記統合制御部は、システムを停止した後、次にシステムを起動するときには、前記記憶部に記憶されている前記燃料ガスの目標利用率で対応する発電モジュールの運転を開始させる、
燃料電池システム。
【請求項6】
請求項3ないし5いずれか1項に記載の燃料電池システムであって、
前記複数の発電モジュールは、それぞれ対応する燃料電池スタックから排出されたオフガスを燃焼させる燃焼部と、それぞれ対応する燃料電池スタックの温度に相関する温度を検出する温度センサと、を備え、
前記複数の個別制御部は、それぞれ対応する燃料電池スタックにおける酸化剤ガスの利用率が目標利用率となるように対応する補機を制御し、
前記統合制御部は、前記温度センサにより検出される温度が所定温度以上の場合には、対応する燃料電池スタックにおける前記酸化剤ガスの目標利用率を減少させる、
燃料電池システム。
【請求項7】
請求項6に記載の燃料電池システムであって、
現在の前記酸化剤ガスの目標利用率を記憶する記憶部を備え、
前記統合制御部は、システムを停止した後、次にシステムを起動するときには、前記記憶部に記憶されている前記酸化剤ガスの目標利用率で対応する発電モジュールの運転を開始させる、
燃料電池システム。
【請求項8】
請求項2ないし5いずれか1項に記載の燃料電池システムであって、
前記複数の発電モジュールは、それぞれ対応する燃料電池スタックから排出された燃料オフガスを燃料ガスの供給路に還流させる還流路と、前記還流路に設けられ前記燃料オフガスの還流率を調整する調整部と、を備え、
前記統合制御部は、前記要求出力に対して実出力が不足する場合には、前記還流率を増加させる、
燃料電池システム。
【請求項9】
請求項8に記載の燃料電池システムであって、
前記統合制御部は、前記要求出力に対する実出力の不足が解消されるか、前記還流率が上限値に達するまで、前記還流率を徐々に増加させる、
燃料電池システム。
【請求項10】
請求項9に記載の燃料電池システムであって、
現在の前記還流率を記憶する記憶部を備え、
前記統合制御部は、システムを停止した後、次にシステムを起動するときには、前記記憶部に記憶されている前記還流率で対応する発電モジュールの運転を開始させる、
燃料電池システム。
【請求項11】
請求項1ないし5いずれか1項に記載の燃料電池システムであって、
前記統合制御部は、前記複数の発電モジュール間で直列に接続された各燃料電池スタックの電圧のうち最も低い電圧が下限電圧を下回らないように上限電流を設定し、前記要求出力と前記各燃料電池スタックの全体の電圧とに基づいて要求電流を設定し、前記要求電流と前記上限電流とのうち小さい方に基づいて前記電流指令を設定する、
燃料電池システム。
【請求項12】
請求項1ないし5いずれか1項に記載の燃料電池システムであって、
前記燃料電池スタックは、燃料ガスと酸化剤ガスとの反応により発電する発電する発電動作と、高温水蒸気電解により水素を生成する電解動作とが可能な可逆作動固体酸化物形セルスタックであり、
前記統合制御部は、前記発電動作と前記電解動作とが切り替えられるように対応する個別制御部に制御指令を送信する、
燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、燃料電池システムについて開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の燃料電池システムとしては、複数の燃料電池が直列に接続された複数の燃料電池スタックと、直列接続内の個別の燃料電池スタックの電流値を調整するための調整回路と、を備え、電流の主要部分と比べて小さい補償電流が少なくとも1つの調整回路を経由して流れるように構成されるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、燃料電池システムとして、それぞれが少なくとも1つの燃料電池スタックを含む複数のパワーモジュールと、それぞれが入力端および出力端を有すると共に入力端で複数のパワーモジュールのうち対応するパワーモジュールに電気的に接続された複数のDC/DCコンバータと、複数のDC/DCコンバータの出力端に対して並列に接続されると共に負荷に電気的に接続可能なDCパワーバスと、を備えるものも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2012-533146号公報
【特許文献2】特表2022-523187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のシステムでは、調整回路が必要であり、調整回路に補償電流を流すために損失により効率が悪化したり、部品点数の増加によりコスト増を招いたりする。また、特許文献2に記載のシステムでは、パワーモジュール毎にDC/DCコンバータが必要となり、スイッチング損失により効率が悪化したり、部品点数の増加によりコスト増を招いたりする。
【0006】
本開示の燃料電池システムは、簡易な構成により、大きな出力を得ることが可能な燃料電池システムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の燃料電池システムは、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本開示の燃料電池システムは、
燃料ガスと酸化剤ガスとの反応により発電する1つ以上の燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックに供給する燃料ガスと酸化剤ガスとを制御する補機と、をそれぞれ含む複数の発電モジュールを備え、前記複数の発電モジュール間で各燃料電池スタックが直列に接続されてなる燃料電池システムであって、
制御指令に基づいて前記複数の発電モジュールのうち対応する発電モジュールの補機をそれぞれ制御する複数の個別制御部と、
前記複数の発電モジュールの各燃料電池スタックの電圧が下限電圧を下回らない範囲内でシステムに要求される要求出力に応じた出力が得られるように電流指令を設定して前記複数の個別制御部に送信する統合制御部と、
を備えることを要旨とする。
【0009】
この本開示の燃料電池システムでは、複数の発電モジュール間で各燃料電池スタックが直列に接続され、複数の発電モジュールの各燃料電池スタックの電圧が下限電圧を下回らない範囲内でシステムに要求される要求出力に応じた出力が得られるように電流指令を設定して各発電モジュールを制御する個別制御部に送信する。これにより、簡易な構成により、大きな出力を得ることが可能な燃料電池システムとすることができる。
【0010】
こうした本開示の燃料電池システムにおいて、前記統合制御部は、前記要求出力に対して実出力が不足する場合には、前記燃料電池スタックの電圧が上昇するように前記補機を制御する制御指令を送信してもよい。補機の制御により燃料電池スタックの電圧を上昇させることで、下限電圧を下回らせることなく、実出力を上げることができ、要求出力に対応させることができる。また、単セルの電圧降下は、オーム抵抗や電極反応に伴う過電圧等により与えられる。そして、電流密度が大きくなるにつれて、オーム抵抗や過電圧等が大きくなり、単セルの端子間電圧が低下する。すなわち、燃料電池スタックの電圧が低下する。電流密度は燃料極の酸化反応速度に置き換えることができ、燃料電池スタックから掃引する電流を増加させると、燃料極の酸化が進み、燃料電池スタックの劣化を招く。本開示の燃料電池システムでは、燃料電池スタックの電圧を上昇させることで、要求出力に対して掃引する電流の増加を抑えることができるため、燃料電池スタックの劣化を抑制して長寿命化を図ることができる。
【0011】
補機の制御により燃料電池スタックの電圧を上昇させる態様の本開示の燃料電池システムにおいて、前記複数の個別制御部は、それぞれ対応する燃料電池スタックにおける燃料ガスの利用率が目標利用率となるように対応する補機を制御し、前記統合制御部は、前記要求出力に対して実出力が不足する場合には、前記燃料ガスの目標利用率を減少させてもよい。これは、燃料ガスの利用率が低下するにつれて燃料電池スタックの電圧が上昇することに基づく。この場合、前記統合制御部は、前記要求出力に対する実出力の不足が解消するまで、前記燃料ガスの目標利用率を徐々に減少させてもよい。こうすれば、燃料電池スタックの発電状態(電流,電圧)を急変(脈動)させることなく、要求出力に対する実出力の不足を解消させることができる。さらにこの場合、現在の前記燃料ガスの目標利用率を記憶する記憶部を備え、前記統合制御部は、システムを停止した後、次にシステムを起動するときには、前記記憶部に記憶されている前記燃料ガスの目標利用率で対応する発電モジュールの運転を開始してもよい。こうすれば、システムの停止と起動とが発生する場合においても、各発電モジュールの運転を適切に行なうことができる。
【0012】
また、これらの場合、前記複数の発電モジュールは、それぞれ対応する燃料電池スタックから排出されたオフガスを燃焼させる燃焼部と、それぞれ対応する燃料電池スタックの温度に相関する温度を検出する温度センサと、を備え、前記複数の個別制御部は、それぞれ対応する燃料電池スタックにおける酸化剤ガスの利用率が目標利用率となるように対応する補機を制御し、前記統合制御部は、前記温度センサにより検出される温度が所定温度以上の場合には、対応する燃料電池スタックにおける前記酸化剤ガスの目標利用率を減少させてもよい。燃料ガスの利用率が低下すると、オフガスが増加し、燃焼部でのオフガスの燃焼により燃料電池スタックの温度が上昇する。このため、酸化剤ガスの目標利用率を減少させることで、酸化剤ガスを増加させて、酸化剤ガスにより燃料電池スタックの過剰な温度上昇を抑制することができる。この場合、現在の前記酸化剤ガスの目標利用率を記憶する記憶部を備え、前記統合制御部は、システムを停止した後、次にシステムを起動するときには、前記記憶部に記憶されている前記酸化剤ガスの目標利用率で対応する発電モジュールの運転を開始させてもよい。こうすれば、システムの停止と起動とが発生する場合においても、各発電モジュールの運転を適切に行なうことができる。
【0013】
また、補機の制御により燃料電池スタックの電圧を上昇させる態様の本開示の燃料電池システムにおいて、前記複数の発電モジュールは、それぞれ対応する燃料電池スタックから排出された燃料オフガスを燃料ガスの供給路に還流させる還流路と、前記還流路に設けられ前記燃料オフガスの還流率を調整する調整部と、を備え、前記統合制御部は、前記要求出力に対して実出力が不足する場合には、前記還流率を増加させてもよい。これは、燃料ガスの利用率が低下するにつれて燃料電池スタックの電圧が上昇し、燃料ガスの供給流量が一定の場合、還流率が増加するにつれて燃料ガスの利用率が低下することに基づく。この場合、前記統合制御部は、前記要求出力に対する実出力の不足が解消されるか、前記還流率が上限値に達するまで、前記還流率を徐々に増加させてもよい。こうすれば、燃料電池スタックの発電状態(電流,電圧)を急変(脈動)させることなく、要求出力に対する実出力の不足を解消させることができる。さらにこの場合、現在の前記還流率を記憶する記憶部を備え、前記統合制御部は、システムを停止した後、次にシステムを起動するときには、前記記憶部に記憶されている前記還流率で対応する発電モジュールの運転を開始させてもよい。こうすれば、システムの停止と起動とが発生する場合においても、各発電モジュールの運転を適切に行なうことができる。
【0014】
また、本開示の燃料電池システムにおいて、前記統合制御部は、前記複数の発電モジュール間で直列に接続された各燃料電池スタックの電圧のうち最も低い電圧が下限電圧を下回らないように上限電流を設定し、前記要求出力と前記各燃料電池スタックの全体の電圧とに基づいて要求電流を設定し、前記要求電流と前記上限電流とのうち小さい方に基づいて前記電流指令に設定してもよい。こうすれば、各燃料電池スタックのいずれも劣化を進行させることなく、要求出力に対応させることができる。
【0015】
また、本開示の燃料電池システムにおいて、前記燃料電池スタックは、燃料ガスと酸化剤ガスとの反応により発電する発電する発電動作と、高温水蒸気電解により水素を生成する電解動作とが可能な可逆作動固体酸化物形セルスタックであり、前記統合制御部は、前記発電動作と前記電解動作とが切り替えられるように対応する個別制御部に制御指令を送信してもよい。こうすれば、電力の需給に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態の燃料電池システムの概略構成図である。
【
図2】発電モジュールと補機とをそれぞれ含む複数の発電ユニットの概略構成図である。
【
図4】動作モード切替処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【
図5】発電制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【
図6】単セルの端子間電圧と電流密度との関係を示す説明図である。
【
図7】起動停止時処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【
図8】変形例の発電制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図9】変形例の燃料電池システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1は、本実施形態の燃料電池システム10の概略構成図であり、
図2は、発電モジュール20と補機30とをそれぞれ含む複数の発電ユニット11の概略構成図であり、
図3は、発電モジュール20の概略構成図である。
【0019】
実施形態の燃料電池システム10は、
図1に示すように、複数の発電ユニット11と、複数の発電ユニット11を管理する統合制御装置100と、を備える。
【0020】
複数の発電ユニット11は、それぞれ、
図1に示すように、燃料電池スタック21を含む発電モジュール20と、燃料電池スタック21の運転に必要な各種補機30と、各種補機30を制御するモジュール制御装置90と、を備える。
【0021】
発電モジュール20は、
図3に示すように、燃料電池スタック21の他に、燃焼器22や熱交換器23,24、蒸発器25等を含み、これらは、断熱性を有するモジュールケース29に収容されている。なお、蒸発器25に、蒸発器25で不足する熱を補うためのヒータを備えてもよい。各種補機30には、燃料供給系40や、エア供給系50、循環系60、排熱回収系70、水供給系80等が含まれる。
【0022】
燃料電池スタック21は、安定化ジルコニア(例えばYSZ)等の電解質と、当該電解質の一方の面側に配置されるNi等の触媒金属と安定化ジルコニア等との複合体の燃料極と、当該電解質の他方の面側に配置されるLSCF等の空気極と、をそれぞれ含む複数の固体酸化物形の単セルを備える。本実施形態では、各燃料電池スタック21は、可逆作動固体酸化物セルスタックであり、水素とエアに含まれる酸素との反応により発電する発電動作モード(FCモード)と、電源1から電力が供給された状態で高温水蒸気電解により水素を生成する電解動作モード(ECモード)とを有する。なお、電源1としては、系統電源や、太陽光発電装置などの再生可能エネルギ、蓄電池などを用いることができる。燃料電池スタック21の近傍には、温度センサ94が設置されている。温度センサ94は、燃料電池スタック21の温度に相関する温度(スタック相関温度Tst)を検出する。
【0023】
FCモードでは、燃料電池スタック21の燃料極には、燃料ガスとして燃料供給系40により供給される水素ガスが燃料ガス供給管21aを介して導入され、燃料電池スタック21の空気極には、酸化剤ガスとしてエア供給系50により供給されるエアが酸化剤ガス供給管21bを介して導入される。そして、空気極では、酸化物イオン(O2-)が生成され、当該酸化物イオンが電解質を透過して燃料極で水素と反応することにより電気エネルギが得られる。各単セルの燃料極において電気化学反応(発電)に使用されなかった燃料極オフガスは、燃料供給系40から燃料極に供給される燃料ガス(水素ガス)と熱交換器23で熱交換してからモジュールケース29外へ排出される。そして、燃料極オフガスは、燃料極オフガス配管62を通って循環系60に供給され、循環系60に設けられた凝縮器61により冷却させられて燃料極オフガスに含まれる水蒸気が除去された後、燃料極オフガス配管63を通って燃焼器22に供給される。また、各単セルの空気極において電気化学反応(発電)に使用されなかった空気極オフガスは、燃焼器22に直接に供給される。燃焼器22に導入された燃料極オフガスは、水素を含む可燃性ガスであり、燃焼器22に導入された酸素を含む空気極オフガスと混合され、燃焼器22で混合ガスが燃焼することにより、燃焼熱によって燃料電池スタック21が適正温度に保持される。また、燃焼器22では、燃焼排ガスが生成され、当該燃焼排ガスは、エア供給系50から空気極に供給されるエアと熱交換器24で熱交換してから、燃焼排ガス配管72を通って排熱回収系70に供給される。そして、燃焼排ガスは、排熱回収系70で排熱が回収された後、外気へ排出される。
【0024】
一方、ECモードでは、燃料電池スタック21の燃料極には、燃料ガスとして水供給系80と燃料供給系40とにより供給される水蒸気と若干量の水素ガスとが燃料ガス供給管21aを介して導入され、燃料電池スタック21の空気極には、スイープガスとしてエア供給系50により供給されるエアが酸化剤ガス供給管21bを介して導入される。そして、電源1により燃料電池スタック21(可逆作動固体酸化物形セルスタック)の端子間に所定電圧の電力が供給されると、燃料極に導入された水蒸気は、燃料極において電解作用により水素と酸素イオン(O2-)とに分解され、当該酸素イオンが電解質を透過することで空気極において酸素が生成される。なお、本実施形態では、燃料極には、水蒸気と共に若干量の水素ガスも供給されるため、燃料極が還元雰囲気に保たれ、当該燃料極が酸化劣化するのを抑制することができる。燃料極で生成された水素ガスは、電解未反応の水蒸気と共に燃料極オフガスとして排出され、水供給系80から当該燃料極に供給される水蒸気等と熱交換器23で熱交換してからモジュールケース29外へ排出される。そして、水素ガスと水蒸気とを含む燃料極オフガスは、燃料極オフガス配管62を通って循環系60に供給され、循環系60に設けられた凝縮器61により冷却させられて水蒸気が除去された後、集合管3,開閉弁4を介して水素タンク2に貯留される。なお、開閉弁4は、FCモードでは閉弁されており、ECモードで開弁される。また、凝縮器61を通過した燃料極オフガス(水素ガス)の一部は、燃料極オフガス配管63を通って燃焼器22へ供給される。一方、空気極で生成された酸素ガスは、空気極を通過するエアと共に空気極オフガスとして燃焼器22へ直接に供給される。燃焼器22で燃料極オフガスと空気極オフガスとの混合ガスが燃焼することにより生成される燃焼熱は、蒸発器25に伝達される。蒸発器25は、水供給系80から供給される水(原料水)を蒸発させて水蒸気を生成すると共に生成した水蒸気を昇温する。また、燃焼器22では、燃焼排ガスが生成され、生成された燃焼排ガスは、エア供給系50から当該空気極に供給されるエアと熱交換器24で熱交換してから、燃焼排ガス配管72を通り、排熱回収系70を経て外気へ排出される。
【0025】
燃料供給系40は、水素タンク2に一端が接続された水素供給管31と、水素供給管31の他端から各発電モジュール20へ分岐する分岐管41と、各分岐管41にそれぞれ設置された水素ブロワ42と、を有する。水素ブロワ42を作動させることで、水素タンク2内の水素ガスは、発電モジュール20へと圧送(供給)される。水素ブロワ42は、各分岐管41にそれぞれ設置されているから、各水素ブロワ42を個別に制御することにより、発電モジュール20毎に水素ガスの供給量を制御することができる。また、水素供給管31には、開閉弁32(2連弁)や図示しない負圧防止弁等が設置され、各分岐管41には、水素ブロワ42の他に、ゼロガバナ43(均圧弁)や流量センサ44等が設置されている。流量センサ44は、分岐管41を流れる水素ガス(燃料ガス)の単位時間当りの流量(燃料流量Fg)を検出する。発電モジュール20に導入された水素ガスは、熱交換器23で燃料極オフガスとの熱交換により昇温させられた後、燃料電池スタック21の燃料極に供給される。
【0026】
エア供給系50は、各発電モジュール20にそれぞれ接続されたエア供給管51と、各エア供給管51の入口に設けられたフィルタ52と、各エア供給管51にそれぞれ設置されたエアブロワ53と、を有する。エアブロワ53を作動させることで、フィルタ52からエアが吸引されると共に吸引されたエアが発電モジュール20へと圧送(供給)される。エアブロワ53は、各エア供給管51にそれぞれ設置されているから、各エアブロワ53を個別に制御することにより、発電モジュール20毎にエアの供給量を制御することができる。また、各エア供給管51には、流量センサ54が設置されている。流量センサ54は、エア供給管51を流れるエアの単位時間当りの流量(エア流量Fa)を検出する。発電モジュール20に導入されたエアは、熱交換器24で燃焼排ガスとの熱交換により昇温させられた後、燃料電池スタック21の空気極に供給される。
【0027】
循環系60は、発電モジュール20毎に個別の熱交換流路を有する凝縮器61と、それぞれ各発電モジュール20(燃料電池スタック21の燃料極側)に一端が接続されると共に凝縮器61の各熱交換流路の入口に他端が接続された燃料極オフガス配管62と、それぞれ凝縮器61の各熱交換流路の出口に一端が接続されると共に各発電モジュール20(燃焼器22側)に他端が接続された燃料極オフガス配管63と、凝縮器61と熱利用機器とを接続する循環配管64と、循環配管64に設置される循環ポンプ65と、を有する。燃料電池スタック21の燃料極側から排出された燃料極オフガスは、循環ポンプ65を作動させることで循環配管64を循環する熱交換媒体との熱交換により、凝縮器61で当該燃料極オフガスに含まれる水蒸気が除去された後、燃焼器22へ供給される。なお、凝縮器61で水蒸気が凝縮されることにより得られた水は、水タンク81に貯留される。水タンク81に貯留された水は、ECモードの原料水として用いられる。
【0028】
さらに、循環系60は、凝縮器61よりも下流側の燃料極オフガス配管63から分岐して燃料供給系40の分岐管41における水素ブロワ42とゼロガバナ43との間に接続された還流配管66と、還流配管66に設置された調整弁67(電磁弁)とを備える。調整弁67を開弁することにより、凝縮器61を通過した燃料極オフガスの一部を還流させて燃料供給系40から発電モジュール20に供給することができる。また、本実施形態では、調整弁67の開度を調整することにより、燃料電池スタック21からの燃料極オフガスの排出量に対する還流量の割合である還流率Reを変更することができる。
【0029】
排熱回収系70は、各燃焼排ガス配管72に接続された熱交換器71と、蓄熱タンク73と、熱交換器71と蓄熱タンク73とを接続する循環配管74と、循環配管74に設置された循環ポンプ75と、を有する。循環ポンプ75を作動させることにより、蓄熱タンク73内の熱交換流体と燃焼排ガスとの熱交換により燃焼排ガスの熱(排熱)を回収する。また、排熱回収系70は、蓄熱タンク73と工場等に設置される熱利用機器とを接続する循環配管76と、循環配管76に設置された循環ポンプ77も備える。循環ポンプ77を作動させることにより、蓄熱タンク73に回収した熱を熱利用機器に供給することができる。
【0030】
水供給系80は、水(原料水)を貯留する水タンク81と、水タンク81に一端が接続された水供給管82と、水供給管82の他端から各発電モジュール20へ分岐する分岐管83と、各分岐管83にそれぞれ設置された水ポンプ84と、を有する。水ポンプ84を作動させることで、水タンク81内の原料水は、発電モジュール20へと圧送(供給)される。水ポンプ84は、各分岐管83にそれぞれ設置されているから、各水ポンプ84を個別に制御することにより、発電モジュール20毎に原料水の供給量を制御することができる。
【0031】
水供給系80の分岐管83と燃料ガス供給管21aとの間には、蒸発器25が接続されている。原料水は、蒸発器25で蒸発させられて水蒸気に変換される。また、上述したように、燃料ガス供給管21aには、当該燃料ガス供給管21aを流れる燃料ガスを燃料電池スタック21から排出された燃料極オフガスと熱交換するための熱交換器23が設置されている。また、酸化剤ガス供給管21bには、当該酸化剤ガス供給管21bを流れる酸化剤ガスを燃焼器22から排出された燃焼排ガスと熱交換するための熱交換器24が設置されている。
【0032】
複数の発電ユニット11がそれぞれ備える燃料電池スタック21は、単一のパワーコンディショナ15に対して直列に接続されており、各燃料電池スタック21において発電された直流電力は、パワーコンディショナ15により変換されて負荷Lへ供給される。各発電モジュール20の燃料電池スタック21の出力端子間には、燃料電池スタック21の出力電圧を検出するための電圧センサ91が設置されている。また、直列に接続された燃料電池スタック21のうち一端に配置された燃料電池スタック21の一方の端子(燃料極端子)と、他端に配置された燃料電池スタック21の他方の端子(空気極端子)との間には、各燃料電池スタック21全体の電圧(総電圧Vt)を検出するための電圧センサ92が設置されている。さらに、各燃料電池スタック21を直列に接続する電力ラインには、当該電力ラインを流れる電流を検出する電流センサ93が設置されている。また、直列に接続された燃料電池スタック21のうち一端に配置された燃料電池スタック21の一方の端子(燃料極端子)には、パワーコンディショナ15を介して電源1の負極側の給電端子が電気的に接続され、他端に配置された燃料電池スタック21の他方の端子(空気極端子)には、パワーコンディショナ15を介して電源1の正極側の給電端子が電気的に接続されている。
【0033】
パワーコンディショナ15は、DC/DCコンバータやインバータを有し、各燃料電池スタック21からの直流電力を系統電源と連系可能な電圧(例えば、AC200V)の交流電力に変換して出力する。パワーコンディショナ15には図示しない電源基板が接続されている。電源基板は、各燃料電池スタック21や電源1からの電力を各種補機30やモジュール制御装置90、統合制御装置100の駆動に適した直流電力に変換してそれぞれに供給する。また、パワーコンディショナ15や電源基板等が配置される補機室には、当該パワーコンディショナ15や電源基板を冷却するための図示しない冷却ファンと換気ファンとが配置されている。
【0034】
各モジュール制御装置90は、図示しないが、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成され、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポートを備える。各モジュール制御装置90には、対応する燃料電池スタック21の近傍に設置された温度センサ94からのスタック相関温度Tstや、対応する燃料電池スタック21の出力端子間に設置された電圧センサ91からの電圧V、燃料供給系40の対応する分岐管41に設置された流量センサ44からの燃料流量Qg、エア供給系50の対応するエア供給管51に設置された流量センサ54からのエア流量Qa等が入力ポートを介して入力されている。また、各モジュール制御装置90からは、燃料供給系40の対応する水素ブロワ42への制御信号や、エア供給系50の対応するエアブロワ53への制御信号、循環系60の対応する調整弁67への制御信号、水供給系80の対応する水ポンプ84への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。
【0035】
統合制御装置100は、CPU101を中心としたマイクロプロセッサとして構成され、CPU101の他に、処理プログラムを記憶するROM102やデータを一時的に記憶するRAM103、不揮発性メモリとしてのEEPROM104、入出力ポートおよび通信ポートを備える。統合制御装置100には、電圧センサ92により検出される総電圧Vtや電流センサ93からの電流Iなどが入力ポートを介して入力されている。また、統合制御装置100からは、開閉弁4,32への制御信号や循環系60の循環ポンプ65への制御信号、排熱回収系70の循環ポンプ75,77への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。また、統合制御装置100は、通信バス12を介して統合制御装置100と通信可能に接続されており、互いに制御信号やデータをやり取りしている。
【0036】
次に,こうして構成された本実施形態の燃料電池システム10の動作について説明する。
図4は、統合制御装置100により実行される動作モード切替処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、所定時間毎に繰り返し実行される。
【0037】
動作モード切替処理が実行されると、統合制御装置100のCPU101は、まず、FCモードとECモードとのうち実行する動作モードを決定する(ステップS100)。動作モードは、電力の需要に応じて決定することができる。例えば、負荷Lが電力を要求している場合にはFCモードを選択し、負荷Lが電力を要求していない場合にはECモードを選択することができる。また、デマンドレスポンス契約を締結した燃料電池システム10においては、電力の需要量を減らす下げDRが要求された場合にはFCモードを選択し、電力の需要量を増やす上げDRが要求された場合にはECモードを選択することができる。
【0038】
続いて、CPU101は、決定した動作モードがFCモードである場合(ステップS102)、燃料供給系40の分岐管41が燃料ガス供給管21aと連通すると共に開閉弁4を閉弁する等して燃料電池スタック21(可逆作動固体酸化物形セルスタック)に対して給排するガス(燃料ガス、酸化剤ガス、燃料極オフガスおよび空気極オフガス)の経路をFCモード用に切り替える(S104)。そして、CPU101は、燃料電池スタック21の燃料極に水素ガスが供給されると共に空気極にエアが供給されるよう各種補機30(水素ブロワ42,エアブロワ53)を制御する制御指令を各モジュール制御装置90に送信し(ステップS106)、発電動作を開始して(ステップS108)、本ルーチンを終了する。
【0039】
一方、CPU101は、決定した動作モードがECモードである場合(ステップS102)、燃料供給系40の分岐管41と水供給系の分岐管83とが燃料ガス供給管21aと連通すると共に開閉弁4を開弁する等して燃料電池スタック21(可逆作動固体酸化物形セルスタック)に対して給排するガス(燃料ガス、酸化剤ガス、燃料極オフガスおよび空気極オフガス)の経路をECモード用に切り替える(ステップS110)。そして、CPU101は、燃料電池スタック21の燃料極に水蒸気と若干量の水素ガスとが供給されると共に空気極にエアが供給されるよう各種補機30(水素ブロワ42,エアブロワ53および水ポンプ84)を制御する制御指令を各モジュール制御装置90に送信し(ステップS112)、各燃料電池スタック21の電極間に電源1からの必要な電力を供給することにより電解動作を開始して(ステップS114)、本ルーチンを終了する。
【0040】
次に、発電動作(FCモード)の詳細について説明する。
図5は、統合制御装置100のCPU101により実行される発電制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、FCモードで運転を開始するときに実行される。
【0041】
発電制御ルーチンが実行されると、CPU101は、まず、燃料電池システム10に要求される要求発電出力(要求発電電力)Preqや、電圧センサ91からの各発電モジュール20の燃料電池スタック21の電圧V,電圧センサ92からの総電圧Vt、電流センサ93からの電流Iなど制御に必要なデータを入力する(ステップS200)。電圧Vは、電圧センサ91から各モジュール制御装置90に入力されたものを当該モジュール制御装置90から通信により入力するものとした。
【0042】
続いて、CPU101は、要求発電出力Preqと発電モジュール20毎の電圧Vとに基づいて電圧Vがそれぞれの下限電圧Vlimを下回らない範囲内で各発電モジュール20の燃料電池スタック21から出力すべき目標電流Itagを設定する(S202)。具体的には、CPU101は、各発電モジュール20の燃料電池スタック21の電圧Vのうち最も低い電圧Vminがその下限電圧Vlimを下回らない範囲で最も高い電流を上限電流Imaxに設定し、要求発電出力Preqを総電圧Vtで除した値を要求電流Ireqに設定し、要求電流Ireqと上限電流Imaxとのうち小さい方を目標電流Itagに設定することにより行なわれる。そして、CPU101は、設定した目標電流Itagを電流指令として各モジュール制御装置90に送信する(ステップS204)。
【0043】
各モジュール制御装置90は、受信した目標電流Itagに基づいて燃料ガス(水素ガス)およびエアの供給量を制御する。燃料ガスの供給量の制御は、目標電流Itagに基づいて燃料利用率Ufsystemが目標燃料利用率Uftagとなるように目標燃料流量Fgtagを設定し、設定した目標燃料流量Fgtagで燃料ガスが供給されるよう水素ブロワ42を制御すると共に、還流率Reが目標還流率Retagとなるように調整弁67を制御することにより行なわれる。水素ブロワ42の制御は、具体的には、設定した目標燃料流量Fgtagと流量センサ44により検出される燃料流量Fgとの差分に基づくフィードバック演算により燃料デューティを設定し、設定した燃料デューティで水素ブロワ42のモータを駆動制御することにより行なわれる。ここで、燃料利用率Ufsystemは、燃料供給系40(水素ブロワ42)が供給した燃料ガスに対する燃料電池スタック21が利用した燃料ガスの割合である。エアの供給量の制御は、エア利用率Uaが目標エア利用率Uatagとなるように目標エア流量Fatagを設定し、設定した目標エア流量Fatagでエアが供給されるようにエアブロワ53を制御することにより行なわれる。エアブロワ53の制御は、具体的には、設定した目標エア流量Fatagと流量センサ54により検出されるエア流量Faとの差分に基づくフィードバック演算によりエアデューティを設定し、設定したエアデューティでエアブロワ53のモータを駆動制御することにより行なわれる。ここで、エア利用率Uaは、エア供給系50(エアブロワ53)が供給したエアに対する燃料電池スタック21が利用したエアの割合である。
【0044】
次に、CPU101は、ステップS200で入力した電流Iに総電圧Vtを乗じて燃料電池システム10全体の実発電出力Pを算出し(ステップS206)、実発電出力Pが要求発電出力Preq未満であるか否かを判定する(ステップS208)。CPU101は、実発電出力Pが要求発電出力Preq未満でないと判定すると、実発電出力Pに不足は生じていないと判断して、本ルーチンを終了する。
【0045】
一方、CPU101は、実発電出力Pが要求発電出力Preq未満であると判定すると、実発電出力Pに不足が生じていると判断し、目標還流率Retagが予め定められた上限値Remax未満であるか否かを判定する(ステップS210)。CPU101は、目標還流率Retagが上限値Remax未満であると判定すると、現在の目標還流率Retagに所定値ΔReを加えたものを新たな目標還流率Retagに設定すると共に設定した目標還流率Retagを対応するモジュール制御装置90に送信する(ステップS212)。燃料電池スタック21の電圧Vは、次式(1)であらわすことができる。ここで、式(1)中、「η」は、単位発熱量あたりの効率を示し、「-ΔH」は水素と酸素とが反応して水が生成されるときの反応前後のエンタルピー差を示し、「n」は、燃料ガスのモル数を示し、「F」は、ファラデー定数を示す。また、「Ufstack」は、燃料電池スタック21の燃料極に供給された燃料ガスに対する当該燃料電池スタック21が利用した燃料ガスの割合を示す。なお、本実施形態の燃料電池システム10では、燃料電池スタック21から排出された燃料極オフガスを燃料供給系40に還流させるため、燃料利用率Ufstackは、燃料利用率Ufsystemとは異なる。式(1)により、燃料電池スタック21の電圧Vは、燃料利用率Ufstackが減少するにつれて、上昇することがわかる。また、燃料利用率Ufstackは、次式(2)であわらすことができる。式(2)により、燃料利用率Ufsystemを一定、すなわち、燃料ガスの供給量を一定とした場合、燃料利用率Ufstackは、還流率Reが増加するにつれて、減少することがわかる。式(2)を式(1)に代入すると、燃料電池スタック21の電圧Vは、還流率Reが増加するにつれて、上昇することがわかる。したがって、下限電圧Vlimによって目標電流Itagが制限されるものとしても、目標還流率Retagを増加補正することで、対応する燃料電池スタック21の電圧Vを上昇させることができ、実発電出力Pを増加させることができる。この結果、各燃料電池スタック21の電圧Vが下限電圧Vlimを下回らないようにしつつ、要求発電出力Preqに対する出力の不足を解消させることができる。なお、目標還流率Retagの増加補正は、本実施形態では、実発電出力Pが要求発電出力Pref以上となるか目標還流率Retagが上限値Remaxに達するまで、目標還流率Retagを所定値ΔReずつ段階的に増加させることにより行なわれる。また、目標還流率Retagの増加補正は、複数の発電モジュール20の全てに対して一律に行なってもよいし、複数の発電モジュール20のうち電圧Vが低い発電モジュール20から順に行なってもよい。CPU101は、こうして目標還流率Retagを増加補正した後、発電動作の停止が要求されたか否かを判定する(ステップS214)。CPU101は、発電動作の停止が要求されていないと判定すると、ステップS200に戻り、発電動作の停止が要求されていると判定すると、本ルーチンを終了する。
【0046】
【0047】
CPU101は、ステップS210で目標還流率Retagが上限値Remax以上であると判定すると、現在の目標燃料利用率Uftag(本実施形態では、燃料利用率Ufsystemの目標値)を所定値ΔUf(例えば、1%)だけ減算したものを新たな目標燃料利用率Uftagに設定すると共に設定した目標燃料利用率Uftagを対応するモジュール制御装置90に送信する(ステップS216)。上述した式(1)により、目標燃料利用率Uftagを減少補正することで、対応する燃料電池スタック21の電圧Vを上昇させることができ、実発電出力Pを増加させることができる。この結果、各燃料電池スタック21の電圧Vが下限電圧Vlimを下回らないようにしつつ、要求発電出力Preqに対する出力の不足を解消させることができる。目標燃料利用率Uftagの減少補正は、本実施形態では、実発電出力Pが要求発電出力Pref以上となるまで、目標燃料利用率Uftagを所定値ΔUfずつ段階的に減少させることにより行なわれる。また、目標燃料利用率Uftagの減少補正は、複数の発電モジュール20の全てに対して一律に行なってもよいし、複数の発電モジュール20のうち電圧Vが低い発電モジュール20から順に行なってもよい。
【0048】
次に、CPU101は、温度センサ94からスタック相関温度Tstを入力し(ステップS218)、入力したスタック相関温度Tstが所定温度Tref以上であるか否かを判定する(ステップS220)。ここで、所定温度Trefは、燃料電池スタック21の適正温度範囲における上限付近の温度に定められている。CPU101は、スタック相関温度Tstが所定温度Tref以上でないと判定すると、燃料電池スタック21の温度は適正温度範囲内であると判断して、ステップS214に進む。一方、CPU101は、スタック相関温度Tstが所定温度Tref以上であると判定すると、適正温度範囲における上限付近に達していると判断し、燃料電池スタック21を冷却するために、現在の目標エア利用率Uatagから所定値ΔUa(例えば、1%)を減じたものを新たな目標エア利用率Uatagに設定して対応するモジュール制御装置90に送信して(ステップS222)、ステップS218に戻る。上述したように、燃料利用率Ufsystemを減少させると、燃料極オフガスが増加し、燃焼器22での燃料極オフガスの燃焼により燃料電池スタック21の温度を昇温させる。このため、スタック相関温度Tstが所定温度Tref以上になると、目標エア利用率Uatagを減少させることで、エアにより燃料電池スタック21を冷却するのである。目標エア利用率Uatagの減少補正は、本実施形態では、スタック相関温度Tstが所定温度Tref未満となるまで、目標エア利用率Uatagを所定値ΔUaずつ段階的に減少させることにより行なわれる。CPU101は、ステップS220でスタック相関温度Tstが所定温度Tref未満であると判定すると、ステップS214に進む。そして、CPU101は、ステップS214において、発電動作の停止が要求されていなければ、S200に戻り、発電動作の停止が要求されると、本ルーチンを終了する。
【0049】
このように、本実施形態の燃料電池システム10では、目標還流率Retagを増加させたり目標燃料利用率Uftagを減少させたりすることで、燃料電池スタック21の電圧Vを上昇させ、燃料電池スタック21から掃引する電流を増加させることなく、実発電出力Pを増加させている。ここで、
図6に示すように、単セルの電圧降下は、オーム抵抗や、燃料極と空気極の電極反応に伴う過電圧、積層化による単セル間の接触抵抗により与えられる。そして、電流密度が大きくなるにつれて、オーム抵抗や過電圧等が大きくなり、単セルの端子間電圧が低下する。すなわち、電流密度が大きくなるにつれて、燃料電池スタック21の電圧Vが低下する。電流密度は、燃料極の酸化反応速度に置き換えることができる。燃料電池スタック21から掃引する電流(目標電流Itag)を増加させると、空気極から酸素イオン(O
2-)の移動量が増加し、燃料極においてH
2Oが増加する。H
2Oの増加は、次の化学反応(Ni+H
2O→NiO+H
2)により燃料極の材料(Ni)の酸化を進行させることとなるため、燃料極が劣化、すなわち燃料電池スタック21が劣化してしまう。本実施形態の燃料電池システム10では、燃料電池スタック21の電圧Vを上昇させることで、要求発電出力Preqに対して燃料電池スタック21から掃引する電流(電流密度)の増加を抑えることができるため、燃料電池スタック21の劣化を抑制して長寿命化を図ることができる。
【0050】
次に、FCモードにおいて、燃料電池システム10が起動・停止したときの動作について説明する。
図7は、統合制御装置100のCPU101により実行される起動停止時処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎に繰り返し実行される。
【0051】
起動停止時処理ルーチンが実行されると、CPU101は、まず、システムが起動したタイミングであるか否かを判定する(ステップS300)。CPU101は、システムが起動したタイミングであると判定すると、EEPROM104の所定領域に記憶されている各発電モジュール20の目標還流率Retag、目標燃料利用率Uftagおよび目標エア利用率Uatagを読み出し(ステップS302)、読み出した各目標値を対応する発電モジュール20のモジュール制御装置90に送信して(ステップS304)、ステップS306に進む。モジュール制御装置90は、上述したように、受信した各目標値を用いて燃料ガスやエアの供給量を制御する。CPU101は、システムが起動したタイミングではないと判定すると、ステップS306に進む。
【0052】
次に、CPU101は、システムが停止したタイミングであるか否かを判定する(ステップS306)。CPU101は、システムが停止したタイミングではないと判定すると、本ルーチンを終了する。一方、CPU101は、システムが停止したタイミングであると判定すると、現在の各発電モジュール20の目標還流率Retag、目標燃料利用率Uftagおよび目標エア利用率UatagをEEPROM104の所定領域に記憶して(ステップS308)、本ルーチンを終了する。このように、CPU101は、システムが停止するときに目標還流率Retag、目標燃料利用率Uftagおよび目標エア利用率UatagをEEPROM104に記憶し、システムが起動するときにEEPROM104から目標還流率Retag、目標燃料利用率Uftagおよび目標エア利用率Uatagを読み出して対応するモジュール制御装置90へ送信することで、システムの停止と起動とが発生する場合においても、各発電モジュール20の運転を適切に行なうことができる。
【0053】
以上説明した本実施形態の燃料電池システム10では、複数の発電モジュール20間で各燃料電池スタック21が直列に接続され、複数の発電モジュール20の各燃料電池スタック21の電圧Vが下限電圧Vlimを下回らない範囲内でシステムに要求される要求発電出力Preqに応じた出力が得られるように目標電流Itagを設定して各モジュール制御装置90に送信する。これにより、簡易な構成により、大きな出力を得ることが可能な燃料電池システム10とすることができる。
【0054】
また、本実施形態の燃料電池システム10では、要求発電出力Preqに対して実発電出力Pが不足する場合には、目標燃料利用率Uftagを減少させる。目標燃料利用率Uftagを減少させることにより、対応する燃料電池スタック21の電圧Vを上昇させることができ、実発電出力Pを増加させることができる。この結果、各燃料電池スタック21の電圧Vが下限電圧Vlimを下回らないようにしつつ、要求発電出力Preqに対する出力の不足を解消させることができる。さらに、要求発電出力Preqに対する実発電出力Pの不足が解消するまで、目標燃料利用率Uftagを所定値ΔUfずつ段階的に減少させるため、燃料電池スタック21の発電状態(電流,電圧)を急変(脈動)させることなく、要求発電出力Preqに対する実発電出力Pの不足を解消させることができる。さらに、本実施形態の燃料電池システム10では、スタック相関温度Tstが所定温度Tref以上の場合には、対応する燃料電池スタック21における目標エア利用率Uatagを減少させる。燃料利用率Ufsystemを減少させると、燃料オフガスが増加し、燃料オフガスの燃焼により燃料電池スタック21の温度を昇温させる。このため、目標エア利用率Uatagを減少させることで、エアにより燃料電池スタック21を冷却し、燃料電池スタック21を適正温度範囲に保持することができる。
【0055】
また、本実施形態の燃料電池システム10では、要求発電出力Preqに対して実発電出力Pが不足する場合には、目標還流率Retagを増加させる。 燃料電池スタック21の電圧Vは還流率Reが増加するにつれて上昇するため、下限電圧Vlimによって目標電流Itagが制限されるものとしても、目標還流率Retagを増加させることで、対応する燃料電池スタック21の電圧Vを上昇させることができ、実発電出力Pを増加させることができる。この結果、各燃料電池スタック21の電圧Vが下限電圧Vlimを下回らないようにしつつ、要求発電出力Preqに対する出力の不足を解消させることができる。さらに、要求発電出力Preqに対する実発電出力Pの不足が解消するまで、目標還流率Retagを所定値ΔReずつ段階的に減少させるため、燃料電池スタック21の発電状態(電流,電圧)を急変(脈動)させることなく、要求発電出力Preqに対する実発電出力Pの不足を解消させることができる。
【0056】
また、本実施形態の燃料電池システム10では、システムが停止するときに目標還流率Retagや目標燃料利用率Uftag、目標エア利用率UatagをEEPROM104に記憶し、システムが起動するときにEEPROM104から目標還流率Retagや目標燃料利用率Uftag、目標エア利用率Uatagを読み出して対応するモジュール制御装置90へ送信する。このため、システムの停止と起動とが発生する場合においても、各発電モジュール20の運転を適切に行なうことができる。
【0057】
また、本実施形態の燃料電池システム10では、燃料電池スタック21は可逆作動固体酸化物形セルスタックとして構成され、動作モードとして発電動作(FCモード)と電解動作(ECモード)とを備える。これにより、電力の需給に対応することができる。
【0058】
上述した実施形態では、循環系60は、燃料オフガスを分岐管41に還流させる還流配管66と、還流配管66に設置された調整弁67とを備えるものとしたが、調整弁67に代えてオリフィスが設けられてもよい。また、還流配管66を省略してもよい。これらの場合、還流率Reを変更できないため、統合制御装置100のCPU101は、
図5の発電制御ルーチンに代えて、ステップS210,212を省略した
図8の発電制御ルーチンを実行すればよい。
【0059】
上述した実施形態では、FCモードにおいて、燃料供給系40は、燃料ガスとして水素ガスを燃料電池スタック21の燃料極に供給するものとしたが、天然ガスやLPガス等の原燃料ガスを、水素ガスを含む燃料ガスに改質して燃料電池スタック21の燃料極に供給するようにしてもよい。この場合、燃料供給系は、分岐管41に原燃料ガスを圧送するガスポンプと原燃料ガス中の硫黄成分を除去する脱硫器とを備え、モジュールケース29内に水タンク81に貯留されている水(改質水)の供給を受けて水蒸気を生成する蒸発器と、蒸発器からの水蒸気を用いて原燃料ガスを燃料ガスに改質する改質器とを備えていればよい。
【0060】
上述した実施形態では、燃料電池システム10の動作モードとしてFCモードとECモードとを備えるものとしたが、ECモードを備えないものとしてもよい。この場合、
図9の変形例の燃料電池システム10Bに示すように、水素タンク2や集合管3、開閉弁4といった水素回収系や、水タンク81や水供給管82、分岐管83、水ポンプ84といった水供給系80を省略し、代わりに水素供給管31に水素供給源を接続すればよい。
【0061】
上述した実施形態では、燃料電池システム10が備える複数の発電モジュール20は、それぞれ1つの燃料電池スタック21を備えるものとした。しかし、複数の発電モジュール20の全てまたは一部は、直列に接続された複数個の燃料電池スタック21を備えてもよい。
【0062】
上述した実施形態では、モジュール制御装置90と統合制御装置100とは、別々の制御ユニットにより構成されたが、単一の制御ユニットにより構成されてもよい。
【0063】
実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施形態では、燃料電池スタック21が「燃料電池スタック」に相当し、発電モジュール20が「発電モジュール」に相当し、燃料供給系40やエア供給系50、循環系60等を含む各種補機30が「補機」に相当し、モジュール制御装置90が「個別制御部」に相当し、統合制御装置100が「統合制御部」に相当する。また、EEPROM104が「記憶部」に相当する。また、燃焼器22が「燃焼部」に相当し、温度センサ94が「温度センサ」に相当する。また、還流配管66が「還流路」に相当し、調整弁67が「調整部」に相当する。
【0064】
なお、実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施形態が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施形態は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0065】
以上、本開示を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本開示はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本開示は、燃料電池システムの製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 電源、2 水素タンク、3 集合管、4 開閉弁、10 燃料電池システム、11 発電ユニット、12 通信バス、15 パワーコンディショナ、20 発電モジュール、21 燃料電池スタック、21a 燃料ガス供給管、21b 酸化剤ガス供給管、22 燃焼器、23,24 熱交換器、25 蒸発器、29 モジュールケース、30 補機、31 水素供給管、32 開閉弁、40 燃料供給系、41 分岐管、42 水素ブロワ、43 ゼロガバナ、44 流量センサ、50 エア供給系、51 エア供給管、52 フィルタ、53 エアブロワ、54 流量センサ、60 循環系、61 凝縮器、62,63 燃料極オフガス配管、64 循環配管、65 循環ポンプ、66 還流路、67 調整弁、70 排熱回収系、71 熱交換器、72 燃焼排ガス配管、73 蓄熱タンク、74 循環配管、75 循環ポンプ、76 循環配管、77 循環ポンプ、80 水供給系、81 水タンク、82 水供給管、83 分岐管、84 水ポンプ、90 モジュール制御装置、91,92 電圧センサ、93 電流センサ、94 温度センサ、100 統合制御装置、101 CPU、102 ROM、103 RAM、104 EEPROM、L 負荷。