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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111392
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】抗除菌照明装置および抗除菌方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/00 20060101AFI20240809BHJP
   A61L 9/20 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
A61L9/00 C
A61L9/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015851
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】510068183
【氏名又は名称】株式会社セオコーポレーション
(71)【出願人】
【識別番号】505036098
【氏名又は名称】インテックス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521518851
【氏名又は名称】株式会社 健成
(74)【代理人】
【識別番号】100117558
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 和之
(72)【発明者】
【氏名】相馬 一貴
(72)【発明者】
【氏名】八木 穣
(72)【発明者】
【氏名】治村 章浩
【テーマコード(参考)】
4C180
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180AA19
4C180CC01
4C180CC03
4C180CC15
4C180DD03
4C180DD04
4C180EA06X
4C180EA07X
4C180EA23X
4C180EA26X
4C180EA30X
4C180EA33X
4C180EA40X
4C180EA54X
4C180HH15
4C180HH19
(57)【要約】
【課題】紫外線の殺菌ランプおよび気流生成手段を用いることなく、空間抗除菌作用が発揮される抗除菌照明装置およびその抗除菌照明装置を用いた抗除菌方法を提供する。
【解決手段】抗除菌照明装置1は、LED素子15が実装されているLEDモジュール10と、LEDモジュール10を覆うカバー12と、カバー12の表面に形成されている抗除菌層20とを有する。LEDモジュール10は、可視光領域の放射照度よりも放射照度が高められた近紫外線を発生する高演色LEDを用いて形成されている。カバー12は、紫外線を透過する紫外線透過材を用いて形成されている。抗除菌層20は、光触媒作用を有する酸化物微粒子21と、銀ナノ粒子30と、ゼオライト微粒子26とを含有している。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LED素子が実装されているLEDモジュールと、該LEDモジュールを覆うカバーと、該カバーの表面に形成されている抗除菌層とを有し、
前記LEDモジュールは、可視光領域の放射照度よりも放射照度が高められた近紫外線を発生する高演色LEDを用いて形成され、
前記カバーは、紫外線を透過する紫外線透過材を用いて形成され、
前記抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体並びに鉱物微粒子とを含有している抗除菌照明装置。
【請求項2】
LED素子が実装されているLEDモジュールと、該LEDモジュールを覆うカバーと、該カバーの表面に形成されている抗除菌層とを有し、
前記LEDモジュールは、可視光領域の放射照度よりも放射照度が高められた近紫外線を発生する高演色LEDを用いて形成され、
前記カバーは、紫外線を透過する紫外線透過材を用いて形成され、
前記抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体及び珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、該珪酸塩鉱物微粒子を構成している珪酸塩に前記酸化物微粒子、銀ナノ粒子または銀錯体のいずれかが吸着し、該珪酸塩に吸着されている吸着物において、前記珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により前記吸着物の仕事関数が低下して、前記LEDモジュールが発生したLED光のうちの前記吸着物の限界波長よりも波長の長い長LED光の照射によって、前記吸着物から光電子が放出される抗除菌照明装置。
【請求項3】
LED素子が実装されているLEDモジュールと、該LEDモジュールを覆うカバーと、該カバーの表面に形成されている抗除菌層とを有し、
前記LEDモジュールは、可視光領域の放射照度よりも放射照度が高められた近紫外線を発生する高演色LEDを用いて形成され、
前記カバーは、紫外線を透過する紫外線透過材を用いて形成され、
前記抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体及び珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、該珪酸塩鉱物微粒子を構成している珪酸塩に前記酸化物微粒子、銀ナノ粒子または銀錯体のいずれかが吸着し、該珪酸塩に吸着されている吸着物において、前記珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により前記吸着物の仕事関数が低下して、前記LEDモジュールが発生した近紫外線の照射によって、前記吸着物から光電子が放出される抗除菌照明装置。
【請求項4】
前記珪酸塩として、細孔を有する結晶性の多孔質材料が用いられ、該細孔に前記吸着物が吸着されている吸着状態において、前記陽イオンによる前記電子の吸引が発生して前記吸着物の表面の状態が変化することによって、前記仕事関数が低下し、
前記光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって、室内空間に浮遊している細菌等微物に対する抗菌または除菌作用が発揮される請求項2または3記載の抗除菌照明装置。
【請求項5】
LED素子が実装されているLEDモジュールと、該LEDモジュールを覆うカバーと、該カバーの表面に形成されている抗除菌層とを有し、
前記LEDモジュールは、可視光領域の放射照度よりも放射照度が高められた近紫外線を発生する高演色LEDを用いて形成され、
前記カバーは、紫外線を透過する紫外線透過材を用いて形成され、
前記抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体と、銀とは異なる別金属微粒子並びにアルミノ珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、該アルミノ珪酸塩鉱物微粒子を構成しているアルミノ珪酸塩に前記酸化物微粒子、銀ナノ粒子、銀錯体または別金属微粒子のいずれかが吸着し、該アルミノ珪酸塩に吸着されている吸着物において、前記アルミノ珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により前記吸着物の仕事関数が低下して、前記LEDモジュールが発生したLED光のうちの前記吸着物の限界波長よりも波長の長い長LED光の照射によって、前記吸着物から光電子が放出される抗除菌照明装置。
【請求項6】
LED素子が実装されているLEDモジュールと、該LEDモジュールを覆うカバーと、該カバーの表面に形成されている抗除菌層とを有し、
前記LEDモジュールは、可視光領域の放射照度よりも放射照度が高められた近紫外線を発生する高演色LEDを用いて形成され、
前記カバーは、紫外線を透過する紫外線透過材を用いて形成され、
前記抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体と、銀とは異なる別金属微粒子並びにアルミノ珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、該アルミノ珪酸塩鉱物微粒子を構成しているアルミノ珪酸塩に前記酸化物微粒子、銀ナノ粒子、銀錯体または別金属微粒子のいずれかが吸着し、該アルミノ珪酸塩に吸着されている吸着物において、前記アルミノ珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により前記吸着物の仕事関数が低下して、前記LEDモジュールが発生した近紫外線の照射によって、前記吸着物から光電子が放出される抗除菌照明装置。
【請求項7】
LED素子が実装されている長尺状のLEDモジュールと、該LEDモジュールを覆う直管状カバーと、該直管状カバーの表面に形成されている抗除菌層とを有し、
前記LEDモジュールは、可視光領域の放射照度よりも放射照度が高められた近紫外線を発生する高演色LEDを用いて形成され、
前記直管状カバーは、紫外線を透過する紫外線透過樹脂を用いて形成され、
前記抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体と、銀とは異なる別金属微粒子並びにアルミノ珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、該アルミノ珪酸塩鉱物微粒子を構成しているアルミノ珪酸塩に前記酸化物微粒子、銀ナノ粒子、銀錯体または別金属微粒子のいずれかが吸着し、該アルミノ珪酸塩に吸着されている吸着物において、前記アルミノ珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により前記吸着物の仕事関数が低下して、前記LEDモジュールが発生したLED光のうちの前記吸着物の限界波長よりも波長の長い長LED光の照射によって、前記吸着物から光電子が放出される抗除菌照明装置。
【請求項8】
LED素子が実装されている長尺状のLEDモジュールと、該LEDモジュールを覆う直管状カバーと、該直管状カバーの表面に形成されている抗除菌層とを有し、
前記LEDモジュールは、可視光領域の放射照度よりも放射照度が高められた近紫外線を発生する高演色LEDを用いて形成され、
前記直管状カバーは、紫外線を透過する紫外線透過樹脂を用いて形成され、
前記抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体と、銀とは異なる別金属微粒子並びにアルミノ珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、該アルミノ珪酸塩鉱物微粒子を構成しているアルミノ珪酸塩に前記酸化物微粒子、銀ナノ粒子、銀錯体または別金属微粒子のいずれかが吸着し、該アルミノ珪酸塩に吸着されている吸着物において、前記アルミノ珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により前記吸着物の仕事関数が低下して、前記LEDモジュールが発生した近紫外線の照射によって、前記吸着物から光電子が放出される抗除菌照明装置。
【請求項9】
LED素子が実装されているLEDモジュールと、該LEDモジュールを覆うカバーと、該カバーの表面に形成されている抗除菌層とを有し、
前記LEDモジュールは、可視光のうちの紫色から青色までの領域の放射照度が他色の放射照度よりも大幅に大きい青色励起白色LEDを用いて形成され、
前記カバーは、紫外線を透過する紫外線透過材を用いて形成され、
前記抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体及び珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、該珪酸塩鉱物微粒子を構成している珪酸塩に前記酸化物微粒子、銀ナノ粒子または銀錯体のいずれかが吸着し、該珪酸塩に吸着されている吸着物において、前記珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により前記吸着物の仕事関数が低下して、前記LEDモジュールが発生したLED光のうちの前記吸着物の限界波長よりも波長の長い長LED光の照射によって、前記吸着物から光電子が放出される抗除菌照明装置。
【請求項10】
LED素子が実装されているLEDモジュールと、該LEDモジュールを覆うカバーと、該カバーの表面に形成されている抗除菌層とを有し、
前記LEDモジュールは、可視光のうちの紫色から青色までの領域の放射照度が他色の放射照度よりも大幅に大きい青色励起白色LEDを用いて形成され、
前記カバーは、紫外線を透過する紫外線透過材を用いて形成され、
前記抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体及び珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、該珪酸塩鉱物微粒子を構成している珪酸塩に前記酸化物微粒子、銀ナノ粒子または銀錯体のいずれかが吸着し、該珪酸塩に吸着されている吸着物において、前記珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により前記吸着物の仕事関数が低下して、前記LEDモジュールが発生した可視光線の照射によって、前記吸着物から光電子が放出される抗除菌照明装置。
【請求項11】
LED素子が実装されているLEDモジュールと、該LEDモジュールを覆カバーと、該カバーの表面に形成されている抗除菌層とを有する抗除菌照明装置による抗除菌方法であって、
前記LEDモジュールは、可視光領域の放射照度よりも放射照度が高められた近紫外線を発生する高演色LEDを用いて形成され、
前記カバーは、紫外線を透過する紫外線透過材を用いて形成され、
前記抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体並びに珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、
前記抗除菌層において、前記珪酸塩鉱物微粒子を構成している珪酸塩に前記酸化物微粒子、銀ナノ粒子または銀錯体のいずれかが吸着し、前記珪酸塩に吸着されている吸着物において、前記珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により前記吸着物の仕事関数が低下して、前記LEDモジュールが発生したLED光のうちの前記吸着物の限界波長よりも波長の長い長LED光の照射によって、前記吸着物から光電子が放出され、該放出された光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって、室内空間に浮遊している細菌等微物に対する抗菌または除菌作用が発揮される抗除菌方法。
【請求項12】
LED素子が実装されているLEDモジュールと、該LEDモジュールを覆カバーと、該カバーの表面に形成されている抗除菌層とを有する抗除菌照明装置による抗除菌方法であって、
前記LEDモジュールは、可視光領域の放射照度よりも放射照度が高められた近紫外線を発生する高演色LEDを用いて形成され、
前記カバーは、紫外線を透過する紫外線透過材を用いて形成され、
前記抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体並びに珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、
前記抗除菌層において、前記珪酸塩鉱物微粒子を構成している珪酸塩に前記酸化物微粒子、銀ナノ粒子または銀錯体のいずれかが吸着し、前記珪酸塩に吸着されている吸着物において、前記珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により前記吸着物の仕事関数が低下して、前記LEDモジュールが発生した近紫外線の照射によって、前記吸着物から光電子が放出され、該放出された光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって、室内空間に浮遊している細菌等微物に対する抗菌または除菌作用が発揮される抗除菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に接触する細菌、ウィルス、カビ等とともに、室内空間に浮遊している細菌、ウィルス、カビ等に及ぶ抗菌、除菌作用を有する抗除菌照明装置および抗除菌照明装置による抗除菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、室内の明かりを生成する照明装置として、種々の装置が知られている。例えば、殺菌効果を有する照明装置が知られていた(特許文献1参照)。この照明装置では、殺菌ランプから照射される紫外線によって、室内の空気(内気)の殺菌が行われるが、人体への直接照射を回避するため、その紫外線が室内の上方空間に向かって照射されるように、照明ランプと殺菌ランプとを保持するケーシングの構造が工夫されていた。
【0003】
しかしながら、この照明装置では、紫外線が照射される領域の内気については殺菌が行われるものの、殺菌作用が内気の隅々にまで及ぶことがなく、十分な浄化作用が得られないという課題があった。この点、従来、ファン等の気流生成手段によって内気を強制的に移動させて、殺菌効果が広範囲に及ぶようにした照明装置が知られていたが(特許文献2,3,4参照)、これらの照明装置には、気流生成手段を有することで構造が複雑になり、電力消費が増えるという課題があった。
【0004】
そこで、従来、紫外線の殺菌ランプおよび気流生成手段を備えることなく、光触媒を利用した殺菌(特定の菌を死滅させること)、抗菌(菌の増殖を抑制すること)、除菌(菌を取り除くこと)作用(抗菌、除菌作用をまとめて抗除菌作用ともいう)有する照明装置が知られていた(特許文献5、6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-3616号公報
【特許文献2】国際公開番号WO2011/049047号公報
【特許文献3】特表2012-527302号公報
【特許文献4】特開2017-98085号公報
【特許文献5】実用新案登録第3229149号公報
【特許文献6】特許第6925669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、照明装置において、光触媒を利用した抗除菌作用が得られるためには、次の1)、2)が必要である。1)照明装置から近紫外線を含む光が発生する、2)その光が光触媒に照射される。例えば、照明装置において、近紫外線を含む光を発生する発光体がカバーに収容され、そのカバーに光触媒が塗布されることによって、上記1)、2)が満たされる。
【0007】
しかし、このような光触媒による抗除菌作用は、カバーの表面に接触する細菌、ウィルス、カビ等(「細菌等微物」ともいう)が対象である。カバーの表面に接触しない細菌等微物には、光触媒による抗除菌作用が及ばなかった。そのため、例えば、細菌等微物が照明装置の置かれている室内空間に浮遊している場合、その細菌等微物が照明装置のカバーの表面に接触すれば分解されるものの、カバーの表面に接触することなく室内空間に浮遊しているときは、分解されることがなかった。
【0008】
したがって、従来技術では、光触媒による抗除菌作用を有していても、その抗除菌作用は、接触することなく室内空間に浮遊している細菌等微物には及ばなかった。そのため、接触することなく室内空間に浮遊している細菌等微物に及ぶ抗除菌作用(以下、「空間抗除菌作用」ともいう)を紫外線の殺菌ランプおよび気流生成手段を用いることなく得ることが求められていた。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、紫外線の殺菌ランプおよび気流生成手段を用いることなく、空間抗除菌作用が発揮される抗除菌照明装置およびその抗除菌照明装置を用いた抗除菌方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、LED素子が実装されているLEDモジュールと、そのLEDモジュールを覆うカバーと、そのカバーの表面に形成されている抗除菌層とを有し、LEDモジュールは、可視光領域の放射照度よりも放射照度が高められた近紫外線を発生する高演色LEDを用いて形成され、バーは、紫外線を透過する紫外線透過材を用いて形成され、抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体並びに鉱物微粒子とを含有している抗除菌照明装置を特徴とする。
【0011】
本発明は、LED素子が実装されているLEDモジュールと、そのLEDモジュールを覆うカバーと、そのカバーの表面に形成されている抗除菌層とを有し、LEDモジュールは、可視光領域の放射照度よりも放射照度が高められた近紫外線を発生する高演色LEDを用いて形成され、カバーは、紫外線を透過する紫外線透過材を用いて形成され、抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体及び珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、その珪酸塩鉱物微粒子を構成している珪酸塩に酸化物微粒子、銀ナノ粒子または銀錯体のいずれかが吸着し、その珪酸塩に吸着されている吸着物において、珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により吸着物の仕事関数が低下して、LEDモジュールが発生したLED光のうちの吸着物の限界波長よりも波長の長い長LED光の照射によって、吸着物から光電子が放出される抗除菌照明装置を提供する。
【0012】
また、本発明は、LED素子が実装されているLEDモジュールと、そのLEDモジュールを覆うカバーと、そのカバーの表面に形成されている抗除菌層とを有し、LEDモジュールは、可視光領域の放射照度よりも放射照度が高められた近紫外線を発生する高演色LEDを用いて形成され、カバーは、紫外線を透過する紫外線透過材を用いて形成され、抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体及び珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、その珪酸塩鉱物微粒子を構成している珪酸塩に酸化物微粒子、銀ナノ粒子または銀錯体のいずれかが吸着し、その珪酸塩に吸着されている吸着物において、珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により吸着物の仕事関数が低下して、LEDモジュールが発生した近紫外線の照射によって、吸着物から光電子が放出される抗除菌照明装置を提供する。
【0013】
上記抗除菌照明装置の場合、珪酸塩として、細孔を有する結晶性の多孔質材料が用いられ、その細孔に吸着物が吸着されている吸着状態において、陽イオンによる電子の吸引が発生して吸着物の表面の状態が変化することによって、仕事関数が低下し、光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって、室内空間に浮遊している細菌等微物に対する抗菌または除菌作用が発揮されることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明は、LED素子が実装されているLEDモジュールと、そのLEDモジュールを覆うカバーと、そのカバーの表面に形成されている抗除菌層とを有し、LEDモジュールは、可視光領域の放射照度よりも放射照度が高められた近紫外線を発生する高演色LEDを用いて形成され、カバーは、紫外線を透過する紫外線透過材を用いて形成され、抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体と、銀とは異なる別金属微粒子並びにアルミノ珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、そのアルミノ珪酸塩鉱物微粒子を構成しているアルミノ珪酸塩に酸化物微粒子、銀ナノ粒子、銀錯体または別金属微粒子のいずれかが吸着し、そのアルミノ珪酸塩に吸着されている吸着物において、アルミノ珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により吸着物の仕事関数が低下して、LEDモジュールが発生したLED光のうちの吸着物の限界波長よりも波長の長い長LED光の照射によって、吸着物から光電子が放出される抗除菌照明装置を提供する。
【0015】
さらに、LED素子が実装されているLEDモジュールと、そのLEDモジュールを覆うカバーと、そのカバーの表面に形成されている抗除菌層とを有し、LEDモジュールは、可視光領域の放射照度よりも放射照度が高められた近紫外線を発生する高演色LEDを用いて形成され、カバーは、紫外線を透過する紫外線透過材を用いて形成され、抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体と、銀とは異なる別金属微粒子並びにアルミノ珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、そのアルミノ珪酸塩鉱物微粒子を構成しているアルミノ珪酸塩に酸化物微粒子、銀ナノ粒子、銀錯体または別金属微粒子のいずれかが吸着し、そのアルミノ珪酸塩に吸着されている吸着物において、アルミノ珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により吸着物の仕事関数が低下して、LEDモジュールが発生した近紫外線の照射によって、吸着物から光電子が放出される抗除菌照明装置を提供する。
【0016】
そして、本発明は、LED素子が実装されている長尺状のLEDモジュールと、そのLEDモジュールを覆う直管状カバーと、その直管状カバーの表面に形成されている抗除菌層とを有し、LEDモジュールは、可視光領域の放射照度よりも放射照度が高められた近紫外線を発生する高演色LEDを用いて形成され、直管状カバーは、紫外線を透過する紫外線透過樹脂を用いて形成され、抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体と、銀とは異なる別金属微粒子並びにアルミノ珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、そのアルミノ珪酸塩鉱物微粒子を構成しているアルミノ珪酸塩に酸化物微粒子、銀ナノ粒子、銀錯体または別金属微粒子のいずれかが吸着し、そのアルミノ珪酸塩に吸着されている吸着物において、アルミノ珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により吸着物の仕事関数が低下して、LEDモジュールが発生したLED光のうちの吸着物の限界波長よりも波長の長い長LED光の照射によって、吸着物から光電子が放出される抗除菌照明装置を提供する。
【0017】
また、本発明は、LED素子が実装されている長尺状のLEDモジュールと、そのLEDモジュールを覆う直管状カバーと、その直管状カバーの表面に形成されている抗除菌層とを有し、LEDモジュールは、可視光領域の放射照度よりも放射照度が高められた近紫外線を発生する高演色LEDを用いて形成され、直管状カバーは、紫外線を透過する紫外線透過樹脂を用いて形成され、抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体と、銀とは異なる別金属微粒子並びにアルミノ珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、そのアルミノ珪酸塩鉱物微粒子を構成しているアルミノ珪酸塩に酸化物微粒子、銀ナノ粒子、銀錯体または別金属微粒子のいずれかが吸着し、そのアルミノ珪酸塩に吸着されている吸着物において、アルミノ珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により吸着物の仕事関数が低下して、LEDモジュールが発生した近紫外線の照射によって、吸着物から光電子が放出される抗除菌照明装置を提供する。
【0018】
さらに、本発明は、LED素子が実装されているLEDモジュールと、そのLEDモジュールを覆うカバーと、そのカバーの表面に形成されている抗除菌層とを有し、LEDモジュールは、可視光のうちの紫色から青色までの領域の放射照度が他色の放射照度よりも大幅に大きい青色励起白色LEDを用いて形成され、カバーは、紫外線を透過する紫外線透過材を用いて形成され、抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体及び珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、その珪酸塩鉱物微粒子を構成している珪酸塩に酸化物微粒子、銀ナノ粒子または銀錯体のいずれかが吸着し、その珪酸塩に吸着されている吸着物において、珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により吸着物の仕事関数が低下して、LEDモジュールが発生したLED光のうちの吸着物の限界波長よりも波長の長い長LED光の照射によって、吸着物から光電子が放出される抗除菌照明装置を提供する。
【0019】
そして、本発明は、LED素子が実装されているLEDモジュールと、そのLEDモジュールを覆うカバーと、そのカバーの表面に形成されている抗除菌層とを有し、LEDモジュールは、可視光のうちの紫色から青色までの領域の放射照度が他色の放射照度よりも大幅に大きい青色励起白色LEDを用いて形成され、カバーは、紫外線を透過する紫外線透過材を用いて形成され、抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体及び珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、その珪酸塩鉱物微粒子を構成している珪酸塩に酸化物微粒子、銀ナノ粒子または銀錯体のいずれかが吸着し、その珪酸塩に吸着されている吸着物において、珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により前記吸着物の仕事関数が低下して、LEDモジュールが発生した可視光線の照射によって、吸着物から光電子が放出される抗除菌照明装置を提供する。
【0020】
さらに、本発明は、LED素子が実装されているLEDモジュールと、そのLEDモジュールを覆カバーと、そのカバーの表面に形成されている抗除菌層とを有する抗除菌照明装置による抗除菌方法であって、LEDモジュールは、可視光領域の放射照度よりも放射照度が高められた近紫外線を発生する高演色LEDを用いて形成され、カバーは、紫外線を透過する紫外線透過材を用いて形成され、抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体並びに珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、抗除菌層において、珪酸塩鉱物微粒子を構成している珪酸塩に酸化物微粒子、銀ナノ粒子または銀錯体のいずれかが吸着し、珪酸塩に吸着されている吸着物において、珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により吸着物の仕事関数が低下して、LEDモジュールが発生したLED光のうちの吸着物の限界波長よりも波長の長い長LED光の照射によって、吸着物から光電子が放出され、その放出された光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって、室内空間に浮遊している細菌等微物に対する抗菌または除菌作用が発揮される抗除菌方法を提供する。
【0021】
また、本発明は、LED素子が実装されているLEDモジュールと、そのLEDモジュールを覆カバーと、そのカバーの表面に形成されている抗除菌層とを有する抗除菌照明装置による抗除菌方法であって、LEDモジュールは、可視光領域の放射照度よりも放射照度が高められた近紫外線を発生する高演色LEDを用いて形成され、カバーは、紫外線を透過する紫外線透過材を用いて形成され、抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体並びに珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、抗除菌層において、珪酸塩鉱物微粒子を構成している珪酸塩に酸化物微粒子、銀ナノ粒子または銀錯体のいずれかが吸着し、珪酸塩に吸着されている吸着物において、珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により吸着物の仕事関数が低下して、LEDモジュールが発生した近紫外線の照射によって、吸着物から光電子が放出され、その放出された光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって、室内空間に浮遊している細菌等微物に対する抗菌または除菌作用が発揮される抗除菌方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
以上詳述したように、本発明によれば、紫外線の殺菌ランプおよび気流生成手段を用いることなく、空間抗除菌作用が発揮される抗除菌照明装置およびその抗除菌照明装置を用いた抗除菌方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施の形態に係る抗除菌照明装置の一例を示す正面図である。
図2】抗除菌照明装置の動作内容を模式的に示した図である。
図3】抗除菌照明装置の軸と交差する方向の要部を拡大して模式的に示した断面図である。
図4】酸化物微粒子の一例を模式的に示す正面図である。
図5】紫色励起白色LEDを有するLEDモジュールの一例を示す断面図である。
図6図1に示されている抗除菌照明装置1の製造に用いられる照明装置の正面図である。
図7】紫色励起白色LEDの発光スペクトルの一例を示す図である。
図8】青色励起白色LEDを有するLEDモジュールの一例を示す断面図である。
図9図8の青色励起白色LEDの発光スペクトルの一例を示す図である。
図10】ゼオライトを構成する四面体構造部を示す斜視図である。
図11】ゼオライトを構成する連結構造部を示す斜視図である。
図12】フォージャサイトの結晶構造の要部を示す一部省略した斜視図である。
図13】フォージャサイトの細孔に金属等微粒子が吸着された状態を模式的に示した図である。
図14】フォージャサイトのカチオンに吸引されている金属等微粒子において、電子の吸引が発生した状態を模式的に示す図である。
図15】フォージャサイトのカチオンに吸引されている金属等微粒子において、光電効果により、光電子の放出が発生した状態を模式的に示す図である。
図16】フォージャサイトのカチオンに吸引されている金属等微粒子において、放出された光電子によって、ヒドロキシルラジカルが発生した状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0025】
本発明の実施の形態に係る抗除菌照明装置1について、図1図3図5図7を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る抗除菌照明装置1の正面図である。図3は、抗除菌照明装置1の軸と交差する方向の要部を拡大して模式的に示した断面図である。図4は、酸化物微粒子21を模式的に示す正面図である。図5は、紫色励起白色LEDを有するLEDモジュールの一例を示す断面図、図7は、紫色励起白色LEDの発光スペクトルの一例を示す図である。
【0026】
(抗除菌照明装置1の構成)
本発明の実施の形態に係る抗除菌照明装置1は、直管型の構造を有している。抗除菌照明装置1は、例えば、室内の天井に取り付けられて室内の照明を確保する場合や、卓上で使用されて卓上の照明を確保する場合の照明装置として用いられる。
【0027】
抗除菌照明装置1は、図1に詳しく示すように,LED(Light Emitting Diode)モジュール10と、抗除菌カバー12と、口金ユニット13,14とを有している。
【0028】
LEDモジュール10は、長尺矩形状に形成され、抗除菌カバー12は、長尺円筒(円管)状に形成されている。LEDモジュール10が抗除菌カバー12に収容されている。抗除菌カバー12がLEDモジュール10を覆っている。
【0029】
LEDモジュール10は、長尺矩形状のアルミニウム等からなる基板11と、複数のLED素子15とを有している。LEDモジュール10は、各LED素子15が基板11上に直接実装されているタイプ(Chip on Board、COB型ともいう)とすることができる。LEDモジュール10は、SMD(surface mounted device)型でもよいが、本実施の形態にかかるLEDモジュール10は、COB型によって構成されている。
【0030】
LEDモジュール10は、図5に示すように、基板11と、LED素子15と、電極パッド11bと、ボンディングワイヤ11dと、封止樹脂11eと、バンク11fとを有している。LEDモジュール10は、一般的なLEDモジュールよりも演色性が高い高演色LEDモジュールである。本実施の形態では、その高演色性LEDの一例として、主に波長400nmの紫色で発光する紫色LEDを用いてLED素子15が形成されている。各LED素子15と、電極パッド11bとがボンディングワイヤ11dによって接続されている。各LED素子15は基板11上にその長手方向に沿って二列に並べられて実装されている(一列に並べられていてもよい)。また、各LED素子15は封止樹脂11eによって一体に覆われている。封止樹脂11eは、紫色光を青色光、緑色光、赤色光に変換する蛍光体材料が混入されたシリコーン樹脂等の透明樹脂である。封止樹脂11eは、バンク11fによって囲まれた一定の領域内に納められている。
【0031】
LEDモジュール10は、LED素子15が発光することで得られる紫色光と、封止樹脂11eを透過して得られた光を組み合わせて演色性の高い白色光(平均演色評価数Ra:90~95程度)を得ている。LEDモジュール10は、紫色LEDであるLED素子15の紫色光で蛍光体を励起する紫色励起白色LEDを構成している。図7には、その紫色励起白色LEDの発光スペクトルの一例(横軸は波長、縦軸は放射照度)が示されている。LEDモジュール10は、波長が365nmから400nmまでの近紫外領域A1と、400nmから780nmまでの可視光領域A2とを含む広範囲の連続的な発光スペクトルを有している。また、図7に示すように、LEDモジュール10は、近紫外領域A1の中に、可視光領域A2の放射照度よりも放射照度が高められた近紫外線(波長は365nmから370nm)が含まれている(図7のR1で示された部分)。また、可視光領域A2の中には、他の可視光領域よりも放射照度が高められた可視光(波長は405nm)が含まれている(図7のR2で示された部分)。なお、近紫外線のなかで、波長が315nmから400nmの近紫外線をUV-Aともいう。後述するように、本実施の形態では、波長が365nmから370nmの近紫外線をUV1ともいう。
【0032】
各LED素子15が発光すると、その紫色光が封止樹脂11eの蛍光体を透過して白色光(本発明におけるLED光に相当する)が発生し、その白色光(LED光)が抗除菌カバー12にその内側から照射される。
【0033】
抗除菌カバー12は、LEDモジュール10を覆う概ね円管状の部材であって、基板11よりも長い長さを有している。図3に示すように、抗除菌カバー12は、円管状の樹脂カバー17と、その外側の表面に形成されている抗除菌層20とを有している。
【0034】
樹脂カバー17は、ポリカーボネート、アクリル等の紫外線を透過する樹脂(紫外線透過樹脂)を用いて形成されている。抗除菌層20については後述する。
【0035】
口金ユニット13,14は、図1に示すように、抗除菌カバー12の長さ方向に沿った両端部にそれぞれ設けられている。口金ユニット13,14は、抗除菌カバー12の一方の端部(一端部)、他方の端部(他端部)を閉塞していて、長さ方向外向きに突出する給電端子(それぞれ給電端子13a,13b、14a,14b)を有している。口金ユニット13,14の形状は、例えば、従来の蛍光灯のG13口金と同じ形状とすることができるが、他の形状でもよい。口金ユニット13,14は、絶縁性の合成樹脂(例えば、ポリブチレンテレフタレートなど)で形成されている。
【0036】
口金ユニット13には、電源回路部13dが収容されている。電源回路部13dは、商用電源(例えば、AC100V/200V)を入力して交流電力を直流電力に変換し、変換された直流電力を出力する回路(AC-DCコンバータ)が収容されている。電源回路部13dは給電端子13a,13bに供給される交流電力を直流電力に変換し、その変換された直流電力の電圧(プラス、マイナス)を給電配線13e,13fにそれぞれ供給する。給電配線13e,13fからすべてのLED素子15に給電されるので、抗除菌照明装置1は、片側給電タイプである。口金ユニット13には、電源回路部13dが内蔵されているが、口金ユニット14には、電源回路部が内蔵されていない。そのため、口金ユニット14は抗除菌照明装置1が所定の設置器具に設置(装着)された場合の保持部材として機能する。なお、図示の抗除菌照明装置1は、片側給電タイプであるが、両側給電タイプとすることもできる。
【0037】
(抗除菌層)
図3に示すように、抗除菌層20は、光触媒作用を有する酸化物微粒子21と、ゼオライト微粒子26と、銀ナノ粒子30と、添加金属40とが分散して含有されている溶液(光触媒銀ナノ分散液ともいう)を用いて形成されている。光触媒銀ナノ分散液は、ゾル溶液であって、水溶液系、溶剤系のどちらでもよいが、水溶液系が好ましい。
【0038】
酸化物微粒子21は、光触媒作用を有する酸化物の微粒子(粒子径は約2~10nm程度)である。光触媒作用を有する酸化物として、酸化チタン(TiO)、酸化チタンとシリカの複合物であるチタニアシリカ、酸化タングステン等があるが、本実施の形態では、酸化チタン(TiO)が用いられている。図4に示すように、酸化物微粒子21は、酸化チタン(TiO)微粒子22と、その表面を部分的に被覆する複数のセラミック粒子23とを有している。酸化チタン(TiO)には、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型と呼ばれる3種類の異なった結晶構造があるが、本実施の形態に係る酸化チタン微粒子22は、アナターゼ型とするのが好ましい。
【0039】
酸化物微粒子21は、酸化チタン微粒子(チタン系微粒子)22による光触媒作用を有する。その光触媒作用とは、有機物を分解、浄化、殺菌等する作用である。光触媒作用は、バンドギャップ以上のエネルギーをもつ波長の光が酸化物微粒子21に照射されることによって発揮される。この光触媒作用は、光励起によって伝導帯に電子、荷電子帯に正孔がそれぞれ生成された場合のその電子の強い還元力、正孔の酸化力によって得られる。アナターゼ型の酸化チタンの場合、そのバンドギャップは3.2eVなので、約388nmよりも高エネルギーをもつ光(波長の短い光)が光触媒作用には有効である。紫外線(詳しくは、近紫外線、波長は300nmから388nm程度)が照射されることによって、酸化物微粒子21の光触媒作用が有効に発揮される。
【0040】
セラミック粒子23は、光触媒作用をもたない材料(本実施の形態では、アパタイトが好ましく、シリカでもよい)によって構成されている。アパタイトは、骨や歯を構成している物質であって生体親和性に優れていて、菌やカビを吸着する。酸化チタン微粒子22が繊維やプラスチック(例えば、抗除菌カバー12の樹脂カバー17)に塗布されると、光触媒作用によってそれらが分解されてしまう。そのため、酸化チタン微粒子22の表面が複数のセラミック粒子23によって部分的に被覆されて、酸化物微粒子21が形成されている。
【0041】
銀ナノ粒子30は、ナノサイズ(粒子径は約2~30nm程度)の大きさを有する銀の微粒子である(図3において、ドット表示が銀ナノ粒子30を示している)。銀ナノ粒子30は、光触媒銀ナノ分散液の中で銀又は銀イオンとなって含有されている。光触媒銀ナノ分散液に可視光が照射されて電荷分離が誘起されると、銀ナノ粒子30が酸化されて銀イオン(Ag)が生成される。そのための波長は、主に400nm~450nm程度(好ましくは405nm、450nm)の可視光である。その銀イオンは、ごく微量で極めて強い殺菌作用があり、レジオネラ菌、大腸菌、ブドウ球菌、一般細菌、MRSA、ヘルペスウィルス、赤痢菌、緑膿菌、ポリオウィルス、ロタウィルスなどほとんどの菌に対して有効であることが知られている。銀イオンは、細菌を呼吸できなくさせ、ウィルスについてはenvelope表面を不活性化させて死滅させることで、殺菌、抗除菌作用が発揮される。
【0042】
一方、前述の酸化チタン微粒子22による光触媒作用によって電子が生成されると、その還元反応により、銀イオンが還元されて銀ナノ粒子30が生成される。
【0043】
(ゼオライト微粒子)
ゼオライト微粒子26はゼオライトの微粒子(粒子径はナノサイズ~ミクロンサイズ)である。ゼオライトは、アルミニウム(Al),珪素(Si)、酸素(O)を構成元素とするアルミノ珪酸塩である。ゼオライトは、図10に示すように、SiO(またはAlO)からなる四面体構造部126を有している。四面体構造部126は、Si4+またはAl3+と4つの酸素(O2-)とを有している。その四面体構造部126が酸素を共有しながら図11に示すように規則正しくつながって連結構造部226が形成される。さらに連結構造部226が立体的につながることで、図12に示すような結晶構造部326が形成されている。結晶構造部326が後述する細孔327を有している。
【0044】
鉱物(mineral)は、天然産の無機物質であるが、人工的な方法によって合成または生成された鉱物(人工鉱物)も存在している。鉱物(mineral)には、酸化鉱物、水酸化鉱物などがあり、珪素(Si)および酸素(O)を構成元素とする珪酸塩鉱物もある。珪酸塩は、Si-Oの結合方式に応じて、ネソ、ソロ、サイクロ、イノ、フィロ、テクトに分類される。テクト珪酸塩(tectosilicate)は、Si-O四面体が四つのすべての酸素(O)を共有している連続的な3次元網目構造を有している。テクト珪酸塩において、珪素(Si)の一部がアルミニウム(Al)で置換されて、(SiAl)Oとなることがある。これがアルミノ珪酸塩(aluminosilicate)である。アルミノ珪酸塩の場合、Si4+がAl3+によって置換されているので、電気的に中性になるよう、1価の陽イオン(後述するカチオンM)が含まれている。テクト珪酸塩には、例えば、カスミ石(nepheline)、ソウチョウ石(albite)などがある。また、四面体の骨組みがすき間を持ち、そこに水を含むアルミノ珪酸塩がある。それがゼオライト(沸石)である。
【0045】
ゼオライトは、四面体構造部126を基本単位とするアルミノ珪酸塩であるが、結晶構造が異なる非常に多くの種類が知られている。ゼオライトには、天然ゼオライト、合成ゼオライト、人工ゼオライトがある。天然ゼオライトには、方沸石(analcime)、菱沸石(chabazite)などがある。合成ゼオライトには、フェリエライト(ferrierite)、フォージャサイト(faujasite)などがある。
【0046】
図12に示されている結晶構造部326は、フォージャサイトの結晶構造の要部を示す一部省略した斜視図である。結晶構造部326は、細孔327を有している。細孔327は、図12に示すLが0.7~1.3nm程度の大きさを有している。また、結晶構造部326の場合、細孔327の近くのポイント328a,328bと、細孔327から離れたポイント328cにカチオンMが含まれている。ゼオライトは、その結晶構造内に細孔327を有するため、結晶性の多孔質材料である。ゼオライトは、その細孔327を活用して、金属や金属酸化物(例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化亜鉛(ZnO)など)の微粒子、金属化合物(例えば、硝酸銀)の微粒子、金属錯体を取り込む吸着機能や、金属イオン(例えば、銅イオン)を対象としたイオン交換機能、触媒機能等の特性を有する。
【0047】
(添加金属)
添加金属40は、銀とは異なる別金属(例えば、銅(Cu),亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、トリウム(Th)など)からなる微粒子(本発明における別金属微粒子で、粒子径は約2~30nm程度)または別金属のイオン、別金属の酸化物や化合物の微粒子またはイオンである。これらは、後述する抗除菌溶液を定着させるバインダとして機能するか、またはゼオライト微粒子26の吸着またはイオン交換の対象とされる。
【0048】
(抗除菌照明装置の製造方法)
抗除菌照明装置1を製造する方法について説明する。まず、図6に示すように、照明装置41を準備する。照明装置41は、抗除菌照明装置1と比較して、抗除菌カバー12の代わりに樹脂カバー17を有する点で相違している。照明装置41は、抗除菌照明装置1と同様のLEDモジュール10と、口金ユニット13,14とを有し、LEDモジュール10がその円管状の樹脂カバー17に収容されている。照明装置41は、片側給電タイプの直管型構造を有している。
【0049】
次に、抗除菌層形成工程が実行される。抗除菌層形成工程では、樹脂カバー17の表面に抗除菌溶液が塗布される。抗除菌溶液は、前述した光触媒作用を有する酸化物微粒子21と、ゼオライト微粒子26と、銀ナノ粒子30と、添加金属40とが分散して含有され(さらにアニオンポリマーが含まれている)ているゾル溶液(前述の光触媒銀ナノ分散液)である。これを刷毛塗り、スプレーコートなどの方法で樹脂カバー17の表面に塗布する。すると、樹脂カバー17の表面にその抗除菌溶液の塗膜が形成される。その後、樹脂カバー17が放置されると、塗膜に含まれていた水分が蒸発して固化し、その塗膜が樹脂カバー17の表面に定着する。これによって、抗除菌層20が形成されて、抗除菌照明装置1が製造される。
【0050】
(抗除菌照明装置1の動作内容、作用効果)
抗除菌照明装置1は、例えば、オフィス、学校、工場等の室内において、天井に取り付けられて室内の照明を確保する場合や、卓上で使用されて卓上の照明を確保する場合の照明装置として用いられる。この場合、抗除菌照明装置1が新規に取り付けられる場合はもちろん、蛍光灯からLED照明装置への変更(LED化)をすでに終えているところにも、そのLED照明装置を抗除菌照明装置1に交換することで、以下の作用効果が容易に得られる。
【0051】
そして、図示しない電源スイッチが投入されると、図示しない商用電源から電力が供給され、LEDモジュール10(LED素子15)が点灯する。
【0052】
図2に示すように、LEDモジュール10が点灯すると、白色のLED光VLが生成され、そのLED光VLが抗除菌カバー12にその内側から照射される(図3参照)。
【0053】
抗除菌カバー12は、抗除菌層20を有しているが、その抗除菌層20には、酸化物微粒子21と、銀ナノ粒子30とが分散している(図3参照。図2には図示せず)。LED光VLには、酸化物微粒子21による光触媒作用が発揮される近紫外領域A1の近紫外線が含まれている。そのため、LED光VLの照射を受けて酸化物微粒子21が光触媒作用を発揮する。その場合、LED光VLが照射されたことで、抗除菌カバー12の表面に強力な酸化還元力が生まれ、それに伴い、抗除菌カバー12の表面に接触する有機化合物や細菌等微物が水と二酸化炭素に分解される。こうして、抗除菌カバー12の周囲にある内気cfにつき、抗除菌作用が得られる。このとき、酸化物微粒子21の表面のアパタイトからなるセラミック粒子23(図4参照)がその周囲の菌やカビを吸着するから、より効果的な抗除菌作用が得られる。
【0054】
また、LED光VLには、銀ナノ粒子30が酸化されて銀イオンが生成される波長の光(銀イオン生成光、可視光領域A2のうちの波長が400nm~450nmの光)が含まれる。そのため、LED光VLが照射されたことで、抗除菌層20に銀イオンが生成され、その銀イオンによって、抗除菌カバー12の表面に接触する有機化合物や細菌等微物が不活性化され、これによる抗除菌作用も得られる。特に、LEDモジュール10は、波長が405nmの放射照度が他の可視光領域の放射照度よりも高められているので、銀イオンがより多く生成される。よって、銀イオンによる抗除菌作用が向上する。
【0055】
一方、抗除菌層20には、ゼオライト微粒子26が含まれている。ゼオライト微粒子26のゼオライトは、例えば、細孔(例えば、フォージャサイトの結晶構造部326の場合は、前述の細孔327)を有している。そのため、抗除菌層20では、その細孔が活用されることで、金属、金属酸化物、金属化合物の吸着、イオン交換などが実現される。
【0056】
また、ゼオライトがフォージャサイトの場合、細孔327よりも大きなスーパーケージと呼ばれる細孔329(直径が2~3nm程度)が含まれている。そのため、その細孔329に金属酸化物または金属の微粒子(以下、"金属等微粒子"ともいい、例えば、酸化チタンや銀の微粒子、別金属の酸化物(例えば、酸化ジルコニウム)の微粒子で直径2~3nm程度)が取り込まれることが可能である。そうすると、例えば、図13に示すように、添加金属40の一例としての金属等微粒子C1が細孔329の内側に吸着される。この場合、金属等微粒子C1が本発明における吸着物に相当する。
【0057】
このとき、細孔329のポイント330a,330bにカチオンMが配置されているとすると、金属等微粒子C1が細孔329の内表面329bのポイント330a,330bにおいて、カチオンMに吸引される(カチオンMと、金属等微粒子C1との静電引力による)。これに伴い、図14に示すように、金属等微粒子C1の表面C1Sにおいて、電子e1のカチオンMに向かう吸引eaが発生する。その吸引eaによって、電子e1が表面C1Sの近くに配置される。そのため、表面C1Sの吸着状態が変化し、それにより、電子e1が外部に放出されやすくなる。すると、金属等微粒子C1において、金属等微粒子C1の仕事関数Wが低下する。仕事関数Wは、バルク項(金属内の電子密度だけに依存する量であって、物質に固有の大きさを有する)と、表面項(吸着物質等による表面の状態によって大きさが変化する)との和であり、その表面項がカチオンMによる吸引eaに伴い変化するからである(参考文献 物理学One Point 21 仕事関数、塚田 捷著 共立出版株式会社)。
【0058】
ところで、光が金属等の固体表面に照射されたときに光電子が放出される現象は光電効果と呼ばれ、固体表面から放出される電子は光電子と呼ばれている。その光電子一つが金属等の固体表面から取り出されるために必要なエネルギーが仕事関数Wである。なお、本実施の形態において、光電子が放出される現象を光電子放出ともいう。
【0059】
そして、仕事関数Wと、限界波長λとの間には、以下の式1で示す関係があることが知られている。限界波長λとは、固体表面から光電子が放出されるために必要な光の最も長い波長である。したがって、限界波長λよりも波長の短い光が金属等に照射されたときに光電子が放出される。
式1:λ=hc/W
(λ:限界波長[m]、h:プランク定数[J・s])
(c:光速度[m/s]、W:仕事関数[ev])
【0060】
そうすると、例えば、金属等微粒子C1が酸化ジルコニウムの微粒子の場合、酸化ジルコニウムの仕事関数が5.8[ev]であるから、金属等微粒子C1の限界波長は214nmとなる。そのため、金属等微粒子C1の光電子放出が実現されるには、波長が214nmよりも短い光(紫外線)が金属等微粒子C1に照射されることが必要である。
【0061】
しかし、LEDモジュール10の場合、波長が350nmよりも長い光(近紫外線)が発生するが、波長が214nm程度の光(紫外線)を発生させることができない。仮に、LEDモジュール10から波長が214nm程度の紫外線が発生できたとしても、そのような紫外線が人体に照射されたときに、人体に悪影響を及ぼすおそれがある。したがって、波長が214nm程度の光(紫外線)がLEDモジュール10から発生することは好ましくない。
【0062】
そこで、本実施の形態にかかる抗除菌照明装置1では、抗除菌層20にゼオライト微粒子26が含有されている。ゼオライト微粒子26は、ゼオライトの微粒子であるが、ゼオライトは、図12図13に示すような細孔327、329を有する結晶性の多孔質材料であるから、その細孔327、329を利用して、金属等微粒子C1を吸着することができる。また、ゼオライトはカチオン(本発明における陽イオンに相当する。本実施の形態では、前述のフォージャサイトのカチオンM)が含まれているから、吸着されている金属等微粒子C1において、金属等微粒子C1を構成する金属(例えば、金属等微粒子C1が酸化ジルコニウムの微粒子の場合、ジルコニウム)の電子e1の吸引eaが起こる。それに起因して、金属等微粒子C1の仕事関数Wが低下する。その結果、電子e1が原子核の束縛を振り切って飛び出す光電子放出に要するエネルギーが小さくなる。
【0063】
仕事関数Wの低下が起こると、限界波長λよりも波長の長い光が照射された場合でも、光電子放出が実現されるようになる。そうすると、前述のように、金属等微粒子C1が酸化ジルコニウムの微粒子の場合、限界波長λが214nmであるが、それよりも波長の長い紫外線(近紫外領域A1(365nm~370nm)の近紫外線UV1で本発明における長LEDに相当する)が照射された場合でも、光電子eが放出される(図15参照)。また、近紫外線UV1は可視光線に近い波長を有し、人体にはほぼ影響がないことが知られている。それに加えて、近紫外線UV1がLEDモジュール10から室内に照射されることによって、近紫外線UV1自体の有する抗除菌作用も発揮される。
【0064】
このように、本実施の形態にかかる抗除菌照明装置1は、抗除菌層20において、LEDモジュール10が発生するLED光のうちの吸着物の限界波長(吸着物が酸化ジルコニウムの微粒子の場合、限界波長λは214nm)よりも波長の長い長LED光(本実施の形態では、近紫外領域A1(365nm~370nm)の近紫外線UV1)の照射によって、光電子放出が実現されるように構成されている。
【0065】
また、LEDモジュール10では、近紫外領域A1(365nm~370nm)の放射照度(irradiance)が可視光領域の放射照度よりも高められている。近紫外線UV1の放射照度が高められることにより、近紫外線UV1に含まれる光子の数が増える。そのため、LEDモジュール10により、近紫外線UV1が抗除菌層20に照射されることによって、より多くの光電子eが放出される。
【0066】
一方、光電子放出が実現されると、図16に示すように、放出された光電子eが室内空間の空気中に存在している酸素(O)と反応する(S0)。この反応によって、酸素ラジカル(・O)が生成される(S1)。そして、その酸素ラジカル(・O)が空気中に存在している水(HO)と反応すること(S2)によって、ヒドロキシルラジカル(・OH)が生成される(S3)。
【0067】
ヒドロキルシラジカル(・OH)は、強力な酸化力を有する。そのため、ヒドロキルシラジカル(・OH)は、たんぱく質や糖質など、様々物質と反応する。そのため、室内空間の空気中において、ヒドロキルシラジカル(・OH)の付近に存在している細菌等微物が分解される。
【0068】
したがって、抗除菌照明装置1によって、空間抗除菌作用が発揮される。このように、抗除菌照明装置1は、高演色性を有するLEDモジュール10の樹脂カバー17に抗除菌層20が形成されているため、紫外線の殺菌ランプおよび気流生成手段を用いることなく、空間抗除菌作用が得られる。
【0069】
以上のように、抗除菌照明装置1は、酸化物微粒子21による光触媒作用と、銀ナノ粒子30による殺菌、抗除菌作用とともに、UV1による空間抗除菌作用を有している。
【0070】
(変形例1)
前述の抗除菌照明装置1は、高演色性を有するLEDモジュール10を有していたが、LEDモジュール10の代わりにLEDモジュール50を有していてもよい。LEDモジュール50は、図8に示すように、基板11と、LED素子55と、電極パッド11bと、ボンディングワイヤ11dと、封止樹脂51eと、バンク11fとを有している。LED素子55は青色光(主に波長450nm)を発生する青色LEDであり、各LED素子55と、電極パッド11bとがボンディングワイヤ11dによって接続されている。各LED素子55は基板11上にその長手方向に沿って二列に並べられて実装されている(一列に並べられていてもよい)。また、各LED素子55は封止樹脂51eによって一体に覆われている。封止樹脂51eは、青色光をその補色の黄色光に変換する蛍光体(黄色蛍光体)材料が混入されたシリコーン樹脂等の透明樹脂であり、バンク11fによって囲まれた一定の領域内に納められている。
【0071】
LEDモジュール50は、LED素子55が発光することで得られる青色光と、その青色光で励起される補色の黄色の発色光を封止樹脂51eの黄色蛍光体によって得て、それらを組み合わせて白色光(平均演色評価数Ra:70~85程度)を得ている。LEDモジュール50は、青色LEDであるLED素子55の青色光で蛍光体を励起する青色励起白色LEDを構成している。図9には、その青色励起白色LEDの発光スペクトルの一例(横軸は波長、縦軸は放射照度)が示されている。LEDモジュール50は、青色励起白色LEDとして構成されており、可視光のうちの紫色から青色までの領域(波長が400nmから450nm程度で、図9のR1で示した部分)の放射照度が他色の放射照度よりも大幅に大きい。
【0072】
各LED素子55が発光すると、その青色光が封止樹脂51eの黄色蛍光体を透過して白色光(本発明におけるLED光に相当する)が発生し、その白色光(LED光)が抗除菌カバー12にその内側から照射される。
【0073】
LEDモジュール50は、前述のLEDモジュール10のような高い演色性を有していないので、波長が365nm~370nmの近紫外線を発生しない。波長が388nm程度の近紫外線が発生するも、その放射照度は可視光領域よりも低い。そのため、前述のように、金属等微粒子C1が酸化ジルコニウムの場合、仕事関数Wが5.8[ev]であって、高い値を示すので、ゼオライト微粒子26の吸着作用による仕事関数の低下があっても、光電子放出が実現されないおそれがある。
【0074】
この点、添加金属40として、亜鉛(Zn)の微粒子が加えられているときは、光電子放出が実現される。亜鉛(Zn)の仕事関数Wが3.63[ev]であり、限界波長λが342nmとなるが、ゼオライト微粒子26による仕事関数Wの低下により、342nmよりも波長の長い長LED光(近紫外線:388nm程度)が照射された場合でも、光電子放出が実現される、と考えられるからである。
【0075】
したがって、変形例1にかかる抗除菌照明装置1は、LEDモジュール50の演色性がLEDモジュール10と比べて低いものの、仕事関数の低下によって、光電子放出が実現される。そのため、変形例1にかかる抗除菌照明装置1でも、第1の実施形態に係る抗除菌照明装置1と同様の空間抗除菌作用が発揮される。
【0076】
(そのほかの変形例)
前述した抗除菌照明装置1では、抗除菌層20が酸化物微粒子21と、銀ナノ粒子30とが分散している溶液(光触媒銀ナノ分散液)を用いて形成されていた。そのほか、酸化物微粒子21と、銀錯体とが分散している溶液(光触媒銀錯体溶液)を用いて抗除菌層20が形成されていてもよい。
【0077】
銀錯体は銀を含む錯体(金属等の原子を中心原子とし、それに配位子とよばれる分子やイオンが結合してひとつの原子集団を形成しているときのその集団)である。銀の配位置数が2であるから、銀錯体は直線型となる。このような抗除菌層20でも、酸化物微粒子21によって、抗除菌層20と同様の光触媒作用が得られるし、銀錯体31から銀イオンが生成されることでその銀イオンによる抗除菌作用が得られる。また、抗除菌層20も、ゼオライトによる仕事関数の低下によって、光電子放出が実現されるため、空間抗除菌作用が得られる。
【0078】
前述した実施形態では、ゼオライト微粒子26に酸化ジルコニウムの微粒子が吸着される場合を例にとって説明した。ゼオライト微粒子26には、酸化チタン、銀の微粒子が吸着されることもできる。また、別金属として、ジルコニウム以外の銅や亜鉛の微粒子またはそれらの酸化物の微粒子が吸着されることもできる。
【0079】
前述した実施形態では、ゼオライト微粒子26を含む抗除菌層20を例にとって説明した。ゼオライトは、細孔および陽イオンを含む珪酸塩鉱物である。細孔および陽イオンを含むことにより、ゼオライトに吸着された金属等微粒子の仕事関数が低下し、その金属等微粒子を構成する金属の限界波長よりも波長の長い光(例えば、365nm~370nm)が照射された場合にも光電子放出が実現されることができる。その他、細孔および陽イオンを含む鉱物として、バーミキュライト、スメクタイト等の層状珪酸塩鉱物がある。これらは、同型置換による負電荷を中和するため、単位層の表面に陽イオンが保持されている。ゼオライト微粒子26の代わりにこれらの層状珪酸塩鉱物の微粒子が添加されていても、金属等微粒子を構成する金属の限界波長よりも波長の長い光が照射された場合にも光電子放出が実現されると考えられる。なお、同型置換とは、本来の結晶組成とは異なる元素が保持されていることを意味している。例えば、Si4+が入るべきところにAl3+が入る場合である。
【0080】
前述した抗除菌照明装置1は、樹脂カバー17の表面に抗除菌層20が形成されていたが、樹脂カバー17の代わりに透光性を有する材料(例えば、ガラス)を用いて形成されたカバー(ガラス製カバー)の表面に抗除菌層20が形成されていてもよい(図示せず)。ガラス製カバーの表面に抗除菌層20が形成されていると、不燃性能を求められる地下鉄の駅や車両その他の場所にも、本発明に係る抗除菌照明装置1を設置して照明を確保するとともに、抗除菌作用や空間抗除菌作用によって、周囲の浄化を行える。
【0081】
前述の実施形態では、銀とは異なる別金属として、銅(Cu),亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、トリウム(Th)などが例示されている。その他、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、その酸化物、化合物でもよい。アルカリ金属は、一般に仕事関数の大きさが他の金属に比べて小さく、それ故、波長の長い近紫外線の照射によって、光電子が放出されやすいからである。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明を適用することにより、紫外線の殺菌ランプおよび気流生成手段を用いることなく、空間抗除菌作用が発揮される抗除菌照明装置およびその抗除菌照明装置を用いた抗除菌方法が得られる。本発明は、抗除菌照明装置および抗除菌照明装置の抗除菌方法の分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1,60,81,103……抗除菌照明装置、10,50,95…LEDモジュール、11e,51e…封止樹脂、12,92…抗除菌カバー、15,55…LED素子、17…樹脂カバー、20…抗除菌層、21…酸化物微粒子、22…酸化チタン微粒子、23…セラミック粒子、26…ゼオライト微粒子、40…添加金属、30…銀ナノ粒子、31…銀錯体、51…照明装置、52…抗除菌層、71…LEDベースライト、91…LEDシーリングライト、92…抗除菌カバー、126…四面体構造部、326…結晶構造部、327、329…細孔。
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
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図16