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特開2024-111394鋼矢板のローラ矯正方法および装置、鋼矢板のローラ矯正用ロールならびに鋼矢板の製造方法
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  • 特開-鋼矢板のローラ矯正方法および装置、鋼矢板のローラ矯正用ロールならびに鋼矢板の製造方法 図1
  • 特開-鋼矢板のローラ矯正方法および装置、鋼矢板のローラ矯正用ロールならびに鋼矢板の製造方法 図2
  • 特開-鋼矢板のローラ矯正方法および装置、鋼矢板のローラ矯正用ロールならびに鋼矢板の製造方法 図3
  • 特開-鋼矢板のローラ矯正方法および装置、鋼矢板のローラ矯正用ロールならびに鋼矢板の製造方法 図4
  • 特開-鋼矢板のローラ矯正方法および装置、鋼矢板のローラ矯正用ロールならびに鋼矢板の製造方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111394
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】鋼矢板のローラ矯正方法および装置、鋼矢板のローラ矯正用ロールならびに鋼矢板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/04 20060101AFI20240809BHJP
   B21D 3/05 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
E02D5/04
B21D3/05 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015853
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 由紀雄
(72)【発明者】
【氏名】山口 陽一郎
【テーマコード(参考)】
2D049
【Fターム(参考)】
2D049FB03
2D049FB09
2D049FB12
(57)【要約】
【課題】鋼矢板の長手方向端部の幅変動を抑制することができるローラ矯正技術を提供する。
【解決手段】ウェブとその幅方向両端にコーナー部を介して接続される一対のフランジと先端に一対の継手とを有する鋼矢板を複数のロールを備えたローラで矯正する方法であって、内側ロールと外側ロールとを、鋼矢板の通材路を挟んで通材方向に交互に配し、内側ロールの内の一のロールが、ウェブ内面平坦部の一部およびフランジ内面の一部と接触可能でかつコーナー部とは接触しないロール面をウェブの平坦部に接触させてウェブおよびフランジを凹状の内面から拘束し、前記鋼矢板の凸状の外面のうち前記コーナー部を含む前記ウェブの平坦部から前記フランジの外面の一部までに沿いうるロール面を有する前記外側ロールで、前記鋼矢板を凸状の外面から拘束し、鋼矢板を矯正する方法である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブと、該ウェブの幅方向両端にコーナー部を介して接続される一対のフランジと、幅方向先端に一対の継手と、を有する鋼矢板を、複数のロールを備えたローラで矯正する方法であって、
前記ローラは、前記ウェブと前記一対のフランジによって形成された凹状の内面に配置された内側ロールと、前記ウェブと前記一対のフランジによって形成された凸状の外面に配置された外側ロールとを、前記鋼矢板の通材路を挟んで通材方向に交互に配し、
前記内側ロールのうちの少なくとも1本の、一のロールが、前記ウェブの内面の平坦部の一部および前記フランジの内面の一部と接触可能で、かつ、前記コーナー部とは接触しないロール面を有し、該ロール面を前記ウェブの平坦部に接触させて前記ウェブを前記凹状の内面から拘束し、
前記鋼矢板の凸状の外面のうち前記コーナー部を含む前記ウェブの平坦部から前記フランジの外面の一部までに沿いうるロール面を有する前記外側ロールで、前記鋼矢板を凸状の外面から拘束し、
前記鋼矢板を矯正する、鋼矢板のローラ矯正方法。
【請求項2】
前記ウェブのコーナー部近傍の、前記一のロールと接触しない領域の幅が、前記ウェブの幅方向両端で、それぞれ、前記ウェブの内面幅の10~20%の範囲とする、
請求項1に記載の鋼矢板のローラ矯正方法。
【請求項3】
前記鋼矢板は、前記継手が、前記ウェブとは反対側の前記フランジの端に接続されているU形鋼矢板である、請求項1または2に記載の鋼矢板のローラ矯正方法。
【請求項4】
ウェブと、該ウェブの幅方向両端にコーナー部を介して接続される一対のフランジと、幅方向先端に一対の継手と、を有する鋼矢板を、複数のロールを備えたローラで矯正するための装置であって、
前記ローラは、前記ウェブと前記一対のフランジによって形成された凹状の内面に配置された内側ロールと、前記ウェブと前記一対のフランジによって形成された凸状の外面に配置された外側ロールとが、鋼矢板の通材路を挟んで通材方向に交互に配されており、
前記内側ロールのうちの少なくとも1本の、一のロールが、前記ウェブの内面の平坦部の一部、および、前記フランジの内面の一部と接触可能で、かつ、前記コーナー部とは接触しないロール面を有し、
前記外側ロールが、前記鋼矢板の凸状の外面のうち前記コーナー部を含む前記ウェブの平坦部から前記フランジの外面の一部までに沿いうるロール面を有している、鋼矢板のローラ矯正装置。
【請求項5】
前記一のロールと、前記ウェブのコーナー部近傍の前記ウェブの内面と、の接触しない領域の幅が、前記ウェブの幅方向両端で、それぞれ、前記ウェブの内面幅の10~20%の範囲である、請求項4に記載の鋼矢板のローラ矯正装置。
【請求項6】
ウェブと、該ウェブの幅方向両端にコーナー部を介して接続される一対のフランジと、幅方向先端に一対の継手と、を有する鋼矢板のローラ矯正に用いるロールであって、
前記ロールが、前記ウェブの内面の平坦部の一部、および、前記フランジの内面の一部と接触させたときに、前記コーナー部とは接触しないロール面を有している、鋼矢板のローラ矯正用ロール。
【請求項7】
請求項1または2に記載の方法で鋼矢板を矯正する工程を含む、鋼矢板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延によって製造された鋼矢板をまっすぐに矯正するローラ矯正方法およびローラ矯正装置、ローラ矯正用ロールならびに鋼矢板の製造方法に関し、特にローラ矯正中に鋼矢板の幅が不均一になる幅変動を防止する技術に関する。本明細書中で、数値の範囲を表す「x~y」は、x以上y以下、つまり、境界値を含むことを表す。
【背景技術】
【0002】
鋼矢板の一例として、U形鋼矢板の断面形状を図2に例示する。熱間圧延で製造された鋼矢板1は、圧延終了直後にはまっすぐである。一方で、圧延終了時には、断面内で板厚が最も大きいウェブ1Aの温度が高いため、室温まで冷却されたとき、ウェブ1Aの熱収縮がフランジ1Bや継手1Cの熱収縮よりも大きい。このため、冷却後の鋼矢板1は上反りが生じてしまう。その上反りを除去してまっすぐにする矯正が必要となる。
【0003】
形鋼の反りを矯正する方法として、図3に示す上下千鳥に配置したロールの間を通過させて上下方向の繰り返し曲げを付与するローラ矯正が広く普及している。ローラ矯正の効果を高めて効率よく反りを除去するためには、鋼矢板の製品断面形状に合わせた上下ロール形状の適正化が必要である。たとえば、特許文献1には、ウェブやフランジだけでなく、継手もロールで拘束することにより、矯正効果を高める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61-63316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ローラ矯正において、通材方向Fの上下ロールの間隔、つまり、図3に示すロールピッチPの半分と同じ距離の鋼矢板先尾端には、原理的に曲げモーメントが加わらない。そのため、曲げモーメントが加わる定常部とは異なり、変形がほとんど加わらない状態でローラ矯正装置10を通過する。この変形状態の違いが原因で、端部からロールピッチPの約半分の距離までの部分にローラ矯正工程で形状不良が発生することがある。具体的には、鋼矢板の幅がこの部分だけ大きくなる幅変動が発生し、ローラ矯正後の鋼矢板の幅寸法公差よりも大きくなってしまう寸法不良が発生する。このような寸法不良が発生した鋼矢板は、他の鋼矢板と継手を嵌合する場合に幅変動部分が引っかかり、うまく嵌合できないという問題が発生する。したがって、製品としてそのまま出荷することができない。そこで、ローラ矯正後に幅変動部分の形状を修正する必要があり、プレス機でのプレス矯正工程を追加する必要があった。すなわち、ローラ矯正工程で形状不良を発生させれば、工程の追加で余分なコストや時間が必要となり、製品出荷遅れの原因になるとともに、形状不良が修正できない場合には製品として出荷できずスクラップになる場合もあった。
【0006】
上記従来の技術では、継手の拘束により幅変動の形状不良発生を防止しようとしていたが、その効果は不十分であり、形状不良発生率が依然として高かった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、鋼矢板の長手方向端部の幅変動を抑制することができる鋼矢板のローラ矯正技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、ロール形状の工夫によってローラ矯正の課題の解決を図った。上記課題を解決し、上記の目的を実現するため開発した本発明にかかる鋼矢板のローラ矯正方法は、ウェブと、該ウェブの幅方向両端にコーナー部を介して接続される一対のフランジと、幅方向先端に一対の継手と、を有する鋼矢板を、複数のロールを備えたローラで矯正する方法であって、前記ローラは、前記ウェブと前記一対のフランジによって形成された凹状の内面に配置された内側ロールと、前記ウェブと前記一対のフランジによって形成された凸状の外面に配置された外側ロールとを、前記鋼矢板の通材路を挟んで通材方向に交互に配し、前記内側ロールのうちの少なくとも1本の、一のロールが、前記ウェブの内面の平坦部の一部および前記フランジの内面の一部と接触可能で、かつ、前記コーナー部とは接触しないロール面を有し、該ロール面を前記ウェブの平坦部に接触させて前記ウェブを前記凹状の内面から拘束し、前記鋼矢板の凸状の外面のうち前記コーナー部を含む前記ウェブの平坦部から前記フランジの外面の一部までに沿いうるロール面を有する前記外側ロールで、前記鋼矢板を凸状の外面から拘束し、前記鋼矢板を矯正することを特徴とする。
【0009】
なお、本発明にかかる鋼矢板のローラ矯正方法については、
a.前記ウェブのコーナー部近傍の、前記一のロールと接触しない領域の幅が、前記ウェブの幅方向両端で、それぞれ、前記ウェブの内面幅の10~20%の範囲とすること、
b.前記鋼矢板は、前記継手が、前記ウェブとは反対側の前記フランジの端に接続されているU形鋼矢板であること、
などがより好ましい解決手段になり得る。
【0010】
上記課題を解決し、上記の目的を実現するため開発した本発明にかかる鋼矢板のローラ矯正装置は、ウェブと、該ウェブの幅方向両端にコーナー部を介して接続される一対のフランジと、幅方向先端に一対の継手と、を有する鋼矢板を、複数のロールを備えたローラで矯正するための装置であって、前記ローラは、前記ウェブと前記一対のフランジによって形成された凹状の内面に配置された内側ロールと、前記ウェブと前記一対のフランジによって形成された凸状の外面に配置された外側ロールとが、鋼矢板の通材路を挟んで通材方向に交互に配されており、前記内側ロールのうちの少なくとも1本の、一のロールが、前記ウェブの内面の平坦部の一部、および、前記フランジの内面の一部と接触可能で、かつ、前記コーナー部とは接触しないロール面を有し、前記外側ロールが、前記鋼矢板の凸状の外面のうち前記コーナー部を含む前記ウェブの平坦部から前記フランジの外面の一部までに沿いうるロール面を有していることを特徴とする。
【0011】
なお、本発明にかかる鋼矢板のローラ矯正装置については、前記一のロールと、前記ウェブのコーナー部近傍の前記ウェブの内面と、の接触しない領域の幅が、前記ウェブの幅方向両端で、それぞれ、前記ウェブの内面幅の10~20%の範囲であることがより好ましい解決手段になり得る。
【0012】
上記課題を解決し、上記の目的を実現するため開発した本発明にかかる鋼矢板のローラ矯正用ロールは、ウェブと、該ウェブの幅方向両端にコーナー部を介して接続される一対のフランジと、幅方向先端に一対の継手と、を有する鋼矢板のローラ矯正に用いるロールであって、前記ロールが、前記ウェブの内面の平坦部の一部、および、前記フランジの内面の一部と接触させたときに、前記コーナー部とは接触しないロール面を有していることを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決し、上記の目的を実現するため開発した本発明にかかる鋼矢板の製造方法は、上記いずれかの鋼矢板のローラ矯正方法で鋼矢板を矯正する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる鋼矢板のローラ矯正方法および装置、鋼矢板のローラ矯正用ロールならびに鋼矢板の製造方法によれば、ローラ矯正において鋼矢板のウェブの幅方向両端部に過大なひずみが導入されることを防止できる。これにより、長手方向端部および長手方向端部と定常部との境界部に発生する有害な変形を抑制し、ローラ矯正における鋼矢板の幅変動を小さくすることができる。つまり、長手方向端部の全幅を適正な基準値の範囲内に納めることができる。加えて、長手方向端部と定常部との境界部で全幅が急変することを抑制できる。したがって、鋼矢板としての見栄えに優れ、かつ、継手の嵌合がスムーズに行える効果が得られるので、生産性向上、コスト低減、歩留まり向上に寄与し、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態にかかる鋼矢板のローラ矯正方法を説明するためのロール形状を示す概略正面図である。
図2】鋼矢板の一例としてのU形鋼矢板の断面寸法を示す概略正面図である。
図3】鋼矢板のローラ矯正装置を示す概略側面図である。
図4】従来のローラ矯正方法に用いているロール形状を説明する概略正面図である。
図5】上記実施形態にかかるロール形状の詳細寸法の一例を示す拡大部分正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図を参照しながら具体的に説明する。以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに限定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0017】
図2は矯正に供される鋼矢板の一例としてU形鋼矢板の断面形状を示す図である。U形鋼矢板1は、略水平部であるウェブ1Aと、ウェブ1Aの幅方向両端から屈曲してウェブ1Aの一方の面側に傾斜して延びる一対のフランジ1Bと、各フランジ1Bのウェブ1Aとは反対側の先端に接続される一対の継手部1Cとを有して構成される。ウェブ1Aとフランジ1Bの接続部をコーナー部1Dとする。継手部1Cが他の鋼矢板1の継手部1Cと嵌合により連結されて壁体等が形成されることになる。
【0018】
図2に示すように、Wを全幅、つまり、幅方向で継手1Cの外側の先端間距離とする。Hを全高とする。Wを有効幅とし、Hを有効高さとする。Wをフランジ1B内面の最大開き幅とし、Wをウェブ1Aの内面幅とし、Wをウェブ1Aの外面幅とする。Hを内面高さとする。tはウェブ1Aの厚みでほぼ一定である。フランジ1Bの厚みは、ウェブ1A側から継手1C側に向かって漸減している。
【0019】
熱間圧延によって製造された鋼矢板1は、圧延し冷却した後に反りが生じる場合があるので、反りを緩和し除去する必要がある。また、熱間圧延により製造された鋼矢板1の幅は均一になりにくく、製品ごとにばらつくおそれがある。そこで、幅を調整して製品ごとのばらつきを小さくする必要がある。
【0020】
鋼矢板の製造プロセスは以下のようである。加熱炉によって、ブルームやスラブなどの鋼素材を所定の温度に加熱する。そして、この鋼素材を、複数の孔型を有するロールが組み込まれた複数台の圧延機で熱間圧延して鋼矢板の製品形状に形成する。
【0021】
そこで、鋼矢板1を製造する製造設備中に、図3に示すローラ矯正装置10を設置し、製造設備の搬送ライン(図示せず)によって、鋼矢板1をローラ矯正装置10に導入することが行われる。ローラ矯正装置10では、冷間矯正により鋼矢板1の反りを緩和し除去するとともに幅を調整するようになっている。そして、反りが緩和し除去されるともに幅が目的の製品ごとに調整されて所望の形状の製品とされた鋼矢板1は、搬送ラインによって検査工程、出荷工程に搬送されるようになっている。
【0022】
本実施形態にかかる鋼矢板のローラ矯正方法では、図1に示す形状のロール構成で、鋼矢板1を矯正する。なお、便宜上、図1では、鋼矢板を上に凸の逆U字姿勢で矯正する例を示すが、これに限られず、たとえば、下に凸のU字姿勢であってもよい。
【0023】
本実施形態では、図3に示すようにローラ矯正装置10は、複数のロール2、3で構成される。上ロール2は、図1に示すようにウェブ1Aとフランジ1Bによって形成された鋼矢板1の凸状外面に沿ったロール面形状を有する外側ロールである。下ロール3は、図1に示すようにウェブ1Aとフランジ1Bによって形成された鋼矢板1の凹状内面に沿ったロール面形状を有する内側ロールである。上ロール2と下ロール3とは、鋼矢板1の通材路Cを挟んで通材方向Fに交互に配置されており、いわゆる、千鳥配置をなしている。
【0024】
本実施形態では、図1に示すように、下ロール3のうちの1本がウェブ1Aの内面平坦部の一部およびフランジ1Bの内面部の一部と接触可能であり、コーナー部1D近傍で接触しないロール面を有する。一方、上ロール2は、コーナー部1Dを含むウェブ1Aの外面平坦部からフランジ1Bの外面の一部までに沿いうるロール面を有する。
【0025】
従来のローラ矯正方法では、特許文献1の第1図や図4に示すように、ロール形状は上下とも矯正しようとする鋼矢板1の表裏面に沿った形状が一般的であった。これに対し、発明者らは、有限要素法を用いてローラ矯正による鋼矢板の変形状態を詳細に調査した。その結果、このような従来のロール形状では、鋼矢板1のウェブ1Aの幅方向両端部に大きなひずみが導入されることを見いだした。すなわち、鋼矢板1に曲げが加わる長さ方向の定常部ではウェブ1Aの幅方向両端部に大きなひずみが導入される。一方、通材方向Fに先尾端からロールピッチPの半分の距離の範囲では、曲げ変形が加わらないため、定常部と変形状態が大きく異なることが分かった。これがローラ矯正後に幅変動の形状不良が発生する原因であることを知見した。
【0026】
そこで、図1に示す下ロール3のように、ウェブ1Aの幅方向両端部、つまり、コーナー部1Dにおいて、下ロール3が鋼矢板1のウェブ1Aの内面に接触しないロール形状とした。これにより、ロール2、3によるウェブ1Aの幅方向両端部の拘束が緩和され、結果としてウェブ両端部のひずみの大きさを低減することが可能となった。つまり、ウェブ1Aの幅方向両端部に、必要以上に過大なひずみが付与されることを防止することができる。これによって、先尾端部と定常部との変形の違いが小さくなり、幅変動という形状不良について、問題のないレベルにまで低減することが可能となった。
【0027】
ここで、下ロール3が鋼矢板1のコーナー部1Dと接触しない領域について、説明する。図2に示すU形鋼矢板1の断面形状について、ウェブ1Aの内面幅Wは以下の定義で求められる。すなわち、ウェブ1Aの内面の平坦な部分を延長した直線と一対のフランジ1B、1Bの内面の輪郭線を延長した直線との、一方の交点をA、他方の交点をBとし、このAからBへの間の距離をウェブ内面幅Wとすることができる。
【0028】
下ロール3がコーナー部1Dの近傍で鋼矢板1の内面と接触しない幅方向の長さ、つまり、非接触幅は、ウェブ1Aの幅方向両端部のそれぞれでウェブ1Aの内面幅Wの10~20%の範囲とすることが好ましい。すなわち、図2の鋼矢板の場合、ウェブ内面幅Wが例えば297mmとすれば、29.7~59.4mmが好適な範囲である。非接触幅がウェブ1Aの内面幅の10%未満の場合は、上記のひずみの集中を緩和する効果が不十分となる可能性がある。いっぽうで、20%を超える場合は、当該ロールによって加える曲げ変形がウェブの幅方向中央に集中し、上反りを矯正する効果が減少するおそれがある。したがって、非接触幅は、ウェブ1Aの内面幅Wの10~20%の範囲とすることが好ましい。
【0029】
また、本実施形態のローラ矯正装置10は、下ロール3を鋼矢板の内側ロールとして上記のロール形状を少なくとも1本は用いたローラ矯正装置である。下ロール3のすべてにこの形状のロールを適用する必要はない。たとえば、圧下条件の強い、第3軸(図3の#3)と第5軸(図3の#5)にこの形状のロールを用いて、他の第7軸(図3の#7)などには、従来の鋼矢板1の内面形状に沿う形状のロールとしてもよい。
【0030】
また、本実施形態が対象とする鋼矢板は、図2の断面形状に限定されるものではなく、熱間圧延や冷間成形で製造される鋼矢板であれば、どのような断面形状であっても同様の効果が得られる。たとえば、ハット形鋼矢板であってもよい。また、ロール形状も図1に示す形状に限定されるものではなく、基本的にコーナー部近傍のウェブ1Aと内側ロールとが接触しない領域が存在すれば、同様の形状不良防止効果が得られる。また、千鳥に配置したロールの数も9軸に限られず、常識的な範囲で増減しても問題はない。たとえば、第1軸(図3の#1)や第9軸(図3の#9)には、鋼矢板の継手部下面に接触するフラットロールとすることもできる。さらに、図1に示す下ロール3に継手1Cの幅方向外縁を拘束するスリーブを設けてもよい。また千鳥配置のロールの一部にスリーブを設け、一部にスリーブを適用しない構成でもよい。
【実施例0031】
本発明の実施例を比較例とともに以下に説明する。図2に示す断面形状の鋼矢板を熱間圧延で製造したところ、大きな上反りが発生したため、図3と同様のローラ矯正装置でローラ矯正を行った。
【0032】
適合例では、上ロール4本、下ロール5本が千鳥配置されたローラ矯正装置を用いて、第3軸、第5軸、第7軸に、図1および図5に示す上下ロール形状を用いてローラ矯正を実施した。この適合例では、ウェブの内面と下ロールが接触する幅Wの寸法は、図6に示す例では232mmであり、ウェブの幅方向両端の非接触幅Wはそれぞれ32.5mmである。この非接触幅は鋼矢板のウェブ内面幅Wである297mmに対して10.9%に相当する。
【0033】
適合例では製品10本の矯正を実施した。結果として、全製品について、矯正後の全幅は長さ方向全長で寸法公差範囲内であった。また、長手端部の全幅と長手端部から1m位置での全幅の差を全幅差とし、この全幅差も-2~+2mm以内であり、許容範囲である-4~+4mm以内に収まっていた。
【0034】
また、比較例として同じ断面形状の鋼矢板製品10本について、図4に示す形状、つまり、コーナー部を含むウェブの内面平坦部からフランジの内面に沿う形状のロール面を有する下ロールを用いて矯正を行った。この結果、矯正した本数の80%(8本)について、全幅差が-4~+4mmの許容範囲を超えるという寸法不良が発生し、プレス矯正が必要であった。
かくして、本発明の効果が明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、鋼矢板のローラ矯正に用いて、反りと幅変動を抑制することができ、生産性向上、コスト低減、歩留まり向上に寄与し、産業上極めて有用である。
【符号の説明】
【0036】
1 (U形)鋼矢板
1A ウェブ
1B フランジ
1C 継手
1D コーナー部
2 上ロール
3 下ロール
10 (鋼矢板の)ローラ矯正装置
F 通材方向
C 通材路(パスライン)
P ロールピッチ

図1
図2
図3
図4
図5