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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111398
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】抗除菌溶液および抗除菌部材
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/00 20060101AFI20240809BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20240809BHJP
   B01J 35/39 20240101ALI20240809BHJP
   F21S 2/00 20160101ALI20240809BHJP
   F21Y 101/00 20160101ALN20240809BHJP
   F21Y 103/00 20160101ALN20240809BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20240809BHJP
【FI】
A61L9/00 C
A61L9/01 B
B01J35/02 J
F21S2/00 230
F21S2/00 600
F21Y101:00 100
F21Y103:00
F21Y115:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015862
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】510068183
【氏名又は名称】株式会社セオコーポレーション
(71)【出願人】
【識別番号】521518851
【氏名又は名称】株式会社 健成
(74)【代理人】
【識別番号】100117558
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 和之
(72)【発明者】
【氏名】相馬 一貴
(72)【発明者】
【氏名】治村 章浩
【テーマコード(参考)】
4C180
4G169
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180AA19
4C180CC03
4C180CC15
4C180DD03
4C180EA06X
4C180EA24Y
4C180EA25Y
4C180EA26Y
4C180EA27Y
4C180EA28X
4C180EA28Y
4C180EA30X
4C180EA30Y
4C180EA33X
4C180EA34X
4C180EA39X
4C180EA39Y
4C180EA40X
4C180EA44X
4C180EA44Y
4C180EA54X
4C180HH17
4C180HH18
4C180HH19
4C180MM06
4G169AA03
4G169BA02A
4G169BA07A
4G169BA14A
4G169BA48A
4G169BB04A
4G169BC32A
4G169CA11
4G169DA05
4G169HA01
4G169HB01
4G169HE07
4G169HF02
4G169HF03
4G169ZA03A
(57)【要約】
【課題】空間抗除菌作用が発揮される抗除菌層を形成し得る抗除菌溶液および抗除菌層を有する抗除菌部材を提供する。
【解決手段】抗除菌溶液は、光触媒作用を有する酸化物微粒子21と、銀ナノ粒子30または銀錯体並びにゼオライト微粒子26とを含有している。抗除菌溶液は、照明装置としてのLEDベースライト71が発生したLED光VLが照射面としての壁62に塗布されることによって、そのLED光VLに応じた抗除菌作用を発揮する抗除菌層20を形成することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体並びに鉱物微粒子とを含有し、照明器具が発生した照明光が照射される照射面に塗布されることによって、該照明光に応じた抗除菌作用を発揮する抗除菌層を形成し得る抗除菌溶液。
【請求項2】
光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体及び珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、照明器具が発生した照明光が照射される照射面に塗布されることによって、該照射面に抗除菌層が形成される抗除菌溶液であって、
前記珪酸塩鉱物微粒子を構成している珪酸塩に前記酸化物微粒子、銀ナノ粒子または銀錯体のいずれかが吸着し、該珪酸塩に吸着されている吸着物において、前記珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により前記吸着物の仕事関数が低下して、前記照明光のうちの前記吸着物の限界波長よりも波長の長い長照明光が前記抗除菌層に照射されたときに前記吸着物から光電子が放出されて、該光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって前記抗除菌層の周囲に浮遊している細菌等微物に対する抗除菌作用が発揮される抗除菌溶液。
【請求項3】
光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体及び珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、照明器具が発生した照明光が照射される照射面に塗布されることによって、該照射面に抗除菌層が形成される抗除菌溶液であって、
前記珪酸塩鉱物微粒子を構成している珪酸塩に前記酸化物微粒子、銀ナノ粒子または銀錯体のいずれかが吸着し、該珪酸塩に吸着されている吸着物において、前記珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により前記吸着物の仕事関数が低下して、前記照明光のうちの波長が365nm~370nmの範囲の近紫外線が前記抗除菌層に照射されたときに前記吸着物から光電子が放出されて、該光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって前記抗除菌層の周囲に浮遊している細菌等微物に対する抗除菌作用が発揮される抗除菌溶液。
【請求項4】
前記珪酸塩として、細孔を有する結晶性の多孔質材料が用いられ、該細孔に前記吸着物が吸着されている吸着状態において、前記陽イオンによる前記電子の吸引が発生して前記吸着物の表面の状態が変化することによって、前記仕事関数が低下する請求項2または3記載の抗除菌溶液。
【請求項5】
光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体と、銀とは異なる別金属微粒子並びにアルミノ珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、照明器具が発生した照明光が照射される照射面に塗布されることによって、該照射面に抗除菌層が形成される抗除菌溶液であって、
前記アルミノ珪酸塩鉱物微粒子を構成しているアルミノ珪酸塩に前記酸化物微粒子、銀ナノ粒子、銀錯体または別金属微粒子のいずれかが吸着し、該アルミノ珪酸塩に吸着されている吸着物において、前記アルミノ珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により前記吸着物の仕事関数が低下して、前記照明光のうちの前記吸着物の限界波長よりも波長の長い長照明光が前記抗除菌層に照射されたときに前記吸着物から光電子が放出されて、該光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって前記抗除菌層の周囲に浮遊している細菌等微物に対する抗除菌作用が発揮される抗除菌溶液。
【請求項6】
光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体と、銀とは異なる別金属微粒子並びにアルミノ珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、照明器具が発生した照明光が照射される照射面に塗布されることによって、該照射面に抗除菌層が形成される抗除菌溶液であって、
前記アルミノ珪酸塩鉱物微粒子を構成しているアルミノ珪酸塩に前記酸化物微粒子、銀ナノ粒子、銀錯体または別金属微粒子のいずれかが吸着し、該アルミノ珪酸塩に吸着されている吸着物において、前記アルミノ珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により前記吸着物の仕事関数が低下して、前記照明光のうちの波長が365nm~370nmの範囲の近紫外線が前記抗除菌層に照射されたときに前記吸着物から光電子が放出されて、該光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって前記抗除菌層の周囲に浮遊している細菌等微物に対する抗除菌作用が発揮される抗除菌溶液。
【請求項7】
照明器具が発生した照明光が照射される照射面に抗除菌層が形成されている抗除菌部材であって、
前記抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体及び珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、該珪酸塩鉱物微粒子を構成している珪酸塩に前記酸化物微粒子、銀ナノ粒子または銀錯体のいずれかが吸着し、該珪酸塩に吸着されている吸着物において、前記珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により前記吸着物の仕事関数が低下して、前記照明光のうちの前記吸着物の限界波長よりも波長の長い長照明光の照射によって、前記吸着物から光電子が放出されて、該光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって周囲に浮遊している細菌等微物に対する抗除菌作用が発揮される抗除菌部材。
【請求項8】
照明器具が発生した照明光が照射される照射面に抗除菌層が形成されている抗除菌部材であって、
前記抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体及び珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、該珪酸塩鉱物微粒子を構成している珪酸塩に前記酸化物微粒子、銀ナノ粒子または銀錯体のいずれかが吸着し、該珪酸塩に吸着されている吸着物において、前記珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により前記吸着物の仕事関数が低下して、前記照明光のうちの波長が365nm~370nmの範囲の近紫外線の照射によって、前記吸着物から光電子が放出されて、該光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって周囲に浮遊している細菌等微物に対する抗除菌作用が発揮される抗除菌部材。
【請求項9】
照明器具が発生した照明光が照射される照射面に抗除菌層が形成されている抗除菌部材であって、
前記抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体と、銀とは異なる別金属微粒子並びにアルミノ珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、該アルミノ珪酸塩鉱物微粒子を構成しているアルミノ珪酸塩に前記酸化物微粒子、銀ナノ粒子、銀錯体または別金属微粒子のいずれかが吸着し、該アルミノ珪酸塩に吸着されている吸着物において、前記アルミノ珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により前記吸着物の仕事関数が低下して、前記照明光のうちの前記吸着物の限界波長よりも波長の長い長照明光の照射によって、前記吸着物から光電子が放出されて、該光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって周囲に浮遊している細菌等微物に対する抗除菌作用が発揮される抗除菌部材。
【請求項10】
照明器具が発生した照明光が照射される照射面に抗除菌層が形成されている抗除菌部材であって、
前記抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体と、銀とは異なる別金属微粒子並びにアルミノ珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、該アルミノ珪酸塩鉱物微粒子を構成しているアルミノ珪酸塩に前記酸化物微粒子、銀ナノ粒子、銀錯体または別金属微粒子のいずれかが吸着し、該アルミノ珪酸塩に吸着されている吸着物において、前記アルミノ珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により前記吸着物の仕事関数が低下して、前記照明光のうちの波長が365nm~370nmの範囲の近紫外線の照射によって、前記吸着物から光電子が放出されて、該光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって周囲に浮遊している細菌等微物に対する抗除菌作用が発揮される抗除菌部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に接触する細菌、ウィルス、カビ等とともに、室内空間に浮遊している細菌、ウィルス、カビ等に及ぶ抗菌、除菌作用を有する抗除菌層を形成し得る抗除菌溶液および抗除菌層を有する抗除菌部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、室内の明かりを生成する照明装置として、種々の装置が知られている。例えば、殺菌効果を有する照明装置が知られていた(特許文献1参照)。この照明装置では、殺菌ランプから照射される紫外線によって、室内の空気(内気)の殺菌が行われるが、人体への直接照射を回避するため、その紫外線が室内の上方空間に向かって照射されるように、照明ランプと殺菌ランプとを保持するケーシングの構造が工夫されていた。
【0003】
しかしながら、この照明装置では、紫外線が照射される領域の内気については殺菌が行われるものの、殺菌作用が内気の隅々にまで及ぶことがなく、十分な浄化作用が得られないという課題があった。この点、従来、ファン等の気流生成手段によって内気を強制的に移動させて、殺菌効果が広範囲に及ぶようにした照明装置が知られていたが(特許文献2,3,4参照)、これらの照明装置には、気流生成手段を有することで構造が複雑になり、電力消費が増えるという課題があった。
【0004】
そこで、従来、紫外線の殺菌ランプおよび気流生成手段を備えることなく、光触媒を利用した殺菌(特定の菌を死滅させること)、抗菌(菌の増殖を抑制すること)、除菌(菌を取り除くこと)作用(抗菌、除菌作用をまとめて抗除菌作用ともいう)有する照明装置が知られていた(特許文献5、6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-3616号公報
【特許文献2】国際公開番号WO2011/049047号公報
【特許文献3】特表2012-527302号公報
【特許文献4】特開2017-98085号公報
【特許文献5】実用新案登録第3229149号公報
【特許文献6】特許第6925669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、光触媒を利用した抗除菌作用が得られるためには、近紫外線を含む光が光触媒に照射されることが必要である。
【0007】
しかし、このような光触媒による抗除菌作用は、光触媒に接触する細菌、ウィルス、カビ等(「細菌等微物」ともいう)が対象である。光触媒に接触しない細菌等微物には、光触媒による抗除菌作用が及ばなかった。そのため、例えば、細菌等微物が室内空間に浮遊している場合、その細菌等微物が光触媒に接触すれば分解されるものの、光触媒に接触することなく室内空間に浮遊しているときは、分解されることがなかった。
【0008】
したがって、従来技術では、光触媒による抗除菌作用は、接触することなく室内空間に浮遊している細菌等微物には及ばなかった。そのため、接触することなく室内空間に浮遊している細菌等微物に及ぶ抗除菌作用(以下、「空間抗除菌作用」ともいう)を得ることが求められていた。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、空間抗除菌作用が発揮される抗除菌層を形成し得る抗除菌溶液および抗除菌層を有する抗除菌部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体並びに鉱物微粒子とを含有し、照明器具が発生した照明光が照射される照射面に塗布されることによって、その照明光に応じた抗除菌作用を発揮する抗除菌層を形成し得る抗除菌溶液を特徴とする。
【0011】
本発明は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体及び珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、照明器具が発生した照明光が照射される照射面に塗布されることによって、その照射面に抗除菌層が形成される抗除菌溶液であって、珪酸塩鉱物微粒子を構成している珪酸塩に酸化物微粒子、銀ナノ粒子または銀錯体のいずれかが吸着し、その珪酸塩に吸着されている吸着物において、珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により吸着物の仕事関数が低下して、照明光のうちの吸着物の限界波長よりも波長の長い長照明光が抗除菌層に照射されたときに吸着物から光電子が放出されて、その光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって抗除菌層の周囲に浮遊している細菌等微物に対する抗除菌作用が発揮される抗除菌溶液を提供する。
【0012】
また、本発明は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体及び珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、照明器具が発生した照明光が照射される照射面に塗布されることによって、その照射面に抗除菌層が形成される抗除菌溶液であって、珪酸塩鉱物微粒子を構成している珪酸塩に酸化物微粒子、銀ナノ粒子または銀錯体のいずれかが吸着し、その珪酸塩に吸着されている吸着物において、珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により吸着物の仕事関数が低下して、照明光のうちの波長が365nm~370nmの範囲の近紫外線が抗除菌層に照射されたときに吸着物から光電子が放出されて、その光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって抗除菌層の周囲に浮遊している細菌等微物に対する抗除菌作用が発揮される抗除菌溶液を提供する。
【0013】
上記抗除菌溶液の場合、珪酸塩として、細孔を有する結晶性の多孔質材料が用いられ、その細孔に吸着物が吸着されている吸着状態において、陽イオンによる電子の吸引が発生して吸着物の表面の状態が変化することによって、仕事関数が低下することが好ましい。
【0014】
さらに、本発明は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体と、銀とは異なる別金属微粒子並びにアルミノ珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、照明器具が発生した照明光が照射される照射面に塗布されることによって、その照射面に抗除菌層が形成される抗除菌溶液であって、アルミノ珪酸塩鉱物微粒子を構成しているアルミノ珪酸塩に酸化物微粒子、銀ナノ粒子、銀錯体または別金属微粒子のいずれかが吸着し、そのアルミノ珪酸塩に吸着されている吸着物において、アルミノ珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により吸着物の仕事関数が低下して、照明光のうちの吸着物の限界波長よりも波長の長い長照明光が抗除菌層に照射されたときに吸着物から光電子が放出されて、その光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって抗除菌層の周囲に浮遊している細菌等微物に対する抗除菌作用が発揮される抗除菌溶液を提供する。
【0015】
さらに、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体と、銀とは異なる別金属微粒子並びにアルミノ珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、照明器具が発生した照明光が照射される照射面に塗布されることによって、その照射面に抗除菌層が形成される抗除菌溶液であって、アルミノ珪酸塩鉱物微粒子を構成しているアルミノ珪酸塩に酸化物微粒子、銀ナノ粒子、銀錯体または別金属微粒子のいずれかが吸着し、そのアルミノ珪酸塩に吸着されている吸着物において、アルミノ珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により吸着物の仕事関数が低下して、照明光のうちの波長が365nm~370nmの範囲の近紫外線が抗除菌層に照射されたときに吸着物から光電子が放出されて、その光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって抗除菌層の周囲に浮遊している細菌等微物に対する抗除菌作用が発揮される抗除菌溶液を提供する。
【0016】
そして、本発明は、照明器具が発生した照明光が照射される照射面に抗除菌層が形成されている抗除菌部材であって、抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体及び珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、その珪酸塩鉱物微粒子を構成している珪酸塩に酸化物微粒子、銀ナノ粒子または銀錯体のいずれかが吸着し、その珪酸塩に吸着されている吸着物において、珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により吸着物の仕事関数が低下して、照明光のうちの吸着物の限界波長よりも波長の長い長照明光の照射によって、吸着物から光電子が放出されて、その光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって周囲に浮遊している細菌等微物に対する抗除菌作用が発揮される抗除菌部材を提供する。
【0017】
また、本発明は、照明器具が発生した照明光が照射される照射面に抗除菌層が形成されている抗除菌部材であって、抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体及び珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、その珪酸塩鉱物微粒子を構成している珪酸塩に酸化物微粒子、銀ナノ粒子または銀錯体のいずれかが吸着し、その珪酸塩に吸着されている吸着物において、珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により吸着物の仕事関数が低下して、照明光のうちの波長が365nm~370nmの範囲の近紫外線の照射によって、吸着物から光電子が放出されて、その光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって周囲に浮遊している細菌等微物に対する抗除菌作用が発揮される抗除菌部材を提供する。
【0018】
また、本発明は、照明器具が発生した照明光が照射される照射面に抗除菌層が形成されている抗除菌部材であって、抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体と、銀とは異なる別金属微粒子並びにアルミノ珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、そのアルミノ珪酸塩鉱物微粒子を構成しているアルミノ珪酸塩に酸化物微粒子、銀ナノ粒子、銀錯体または別金属微粒子のいずれかが吸着し、そのアルミノ珪酸塩に吸着されている吸着物において、アルミノ珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により吸着物の仕事関数が低下して、照明光のうちの吸着物の限界波長よりも波長の長い長照明光の照射によって、吸着物から光電子が放出されて、その光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって周囲に浮遊している細菌等微物に対する抗除菌作用が発揮される抗除菌部材を提供する。
【0019】
さらに、本発明は、照明器具が発生した照明光が照射される照射面に抗除菌層が形成されている抗除菌部材であって、抗除菌層は、光触媒作用を有する酸化物微粒子と、銀ナノ粒子または銀錯体と、銀とは異なる別金属微粒子並びにアルミノ珪酸塩鉱物微粒子とを含有し、そのアルミノ珪酸塩鉱物微粒子を構成しているアルミノ珪酸塩に酸化物微粒子、銀ナノ粒子、銀錯体または別金属微粒子のいずれかが吸着し、そのアルミノ珪酸塩に吸着されている吸着物において、アルミノ珪酸塩に含まれる陽イオンによる電子の吸引により吸着物の仕事関数が低下して、照明光のうちの波長が365nm~370nmの範囲の近紫外線の照射によって、吸着物から光電子が放出されて、その光電子から生成されるヒドロキシルラジカルによって周囲に浮遊している細菌等微物に対する抗除菌作用が発揮される抗除菌部材を提供する。
【発明の効果】
【0020】
以上詳述したように、本発明によれば、空間抗除菌作用が発揮される抗除菌層を形成し得る抗除菌溶液および抗除菌層を有する抗除菌部材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態に係る抗除菌部材の一例を示す斜視図である。
図2図1の2-2線断面図(要部を拡大して断面図)である。
図3】酸化物微粒子の一例を模式的に示す正面図である。
図4】ゼオライトを構成する四面体構造部を示す斜視図である。
図5】ゼオライトを構成する連結構造部を示す斜視図である。
図6】フォージャサイトの結晶構造の要部を示す一部省略した斜視図である。
図7】フォージャサイトの細孔に金属等微粒子が吸着された状態を模式的に示した図である。
図8】フォージャサイトのカチオンに吸引されている金属等微粒子において、電子の吸引が発生した状態を模式的に示す図である。
図9】フォージャサイトのカチオンに吸引されている金属等微粒子において、光電効果により、光電子の放出が発生した状態を模式的に示す図である。
図10】フォージャサイトのカチオンに吸引されている金属等微粒子において、放出された光電子によって、ヒドロキシルラジカルが発生した状態を模式的に示す図である。
図11図1の抗除菌部材が設置されている事務所を模式的に示した図である。
図12】高演色性LEDモジュールの発光スペクトルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0023】
本発明の実施の形態に係る抗除菌部材10について、図1図3を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る抗除菌部材10の斜視図である。図2は、図1の2-2線断面図(要部を拡大して断面図)である。図3は、酸化物微粒子21を模式的に示す正面図である。
【0024】
抗除菌部材10は、平面視矩形状の板状(パネル状)部材であって、ベース板部17と、抗除菌層20とを有している。抗除菌部材10は、例えば、室内の天井や、床面や壁面に張り付ける等して使用される。ベース板部17は、ポリカーボネート、アクリル等の樹脂を用いて形成されている。ベース板部17は、金属や木材等の他の部材を用いて形成されてもよい。
【0025】
(抗除菌層)
抗除菌層20は、ベース板部17の片側の表面17aに形成されている。図2に示すように、抗除菌層20は、光触媒作用を有する酸化物微粒子21と、ゼオライト微粒子26と、銀ナノ粒子30と、添加金属40とが分散して含有されている溶液(光触媒銀ナノ分散液ともいう)を用いて形成されている。光触媒銀ナノ分散液は、ゾル溶液であって、水溶液系、溶剤系のどちらでもよいが、水溶液系が好ましい。
【0026】
酸化物微粒子21は、光触媒作用を有する酸化物の微粒子(粒子径は約2~10nm程度)である。光触媒作用を有する酸化物として、酸化チタン(TiO)、酸化チタンとシリカの複合物であるチタニアシリカ、酸化タングステン等があるが、本実施の形態では、酸化チタン(TiO)が用いられている。図3に示すように、酸化物微粒子21は、酸化チタン(TiO)微粒子22と、その表面を部分的に被覆する複数のセラミック粒子23とを有している。酸化チタン(TiO)には、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型と呼ばれる3種類の異なった結晶構造があるが、本実施の形態に係る酸化チタン微粒子22は、アナターゼ型とするのが好ましい。
【0027】
酸化物微粒子21は、酸化チタン微粒子22(チタン系微粒子)による光触媒作用を有する。その光触媒作用とは、有機物を分解、浄化、殺菌等する作用である。光触媒作用は、バンドギャップ以上のエネルギーをもつ波長の光が酸化物微粒子21に照射されることによって発揮される。この光触媒作用は、光励起によって伝導帯に電子、荷電子帯に正孔がそれぞれ生成された場合のその電子の強い還元力、正孔の酸化力によって得られる。アナターゼ型の酸化チタンの場合、そのバンドギャップは3.2eVなので、約388nmよりも高エネルギーをもつ光(波長の短い光)が光触媒作用には有効である。紫外線(詳しくは、近紫外線、波長は300nmから388nm程度)が照射されることによって、酸化物微粒子21の光触媒作用が有効に発揮される。
【0028】
セラミック粒子23は、光触媒作用をもたない材料(本実施の形態では、アパタイトが好ましく、シリカでもよい)によって構成されている。アパタイトは、骨や歯を構成している物質であって生体親和性に優れていて、菌やカビを吸着する。酸化チタン微粒子22が繊維やプラスチック(例えば、ベース板部17の表面17a)に塗布されると、光触媒作用によってそれらが分解されてしまう。そのため、酸化チタン微粒子22の表面が複数のセラミック粒子23によって部分的に被覆されて、酸化物微粒子21が形成されている。
【0029】
銀ナノ粒子30は、ナノサイズ(粒子径は約2~30nm程度)の大きさを有する銀の微粒子である(図2において、ドット表示が銀ナノ粒子30を示している)。銀ナノ粒子30は、光触媒銀ナノ分散液の中で銀又は銀イオンとなって含有されている。光触媒銀ナノ分散液に可視光が照射されて電荷分離が誘起されると、銀ナノ粒子30が酸化されて銀イオン(Ag)が生成される。そのための波長は、主に400nm~450nm程度(好ましくは405nm、450nm)の可視光である。その銀イオンは、ごく微量で極めて強い殺菌作用があり、レジオネラ菌、大腸菌、ブドウ球菌、一般細菌、MRSA、ヘルペスウィルス、赤痢菌、緑膿菌、ポリオウィルス、ロタウィルスなどほとんどの菌に対して有効であることが知られている。銀イオンは、細菌を呼吸できなくさせ、ウィルスについてはenvelope表面を不活性化させて死滅させることで、殺菌、抗除菌作用が発揮される。
【0030】
一方、前述の酸化チタン微粒子22による光触媒作用によって電子が生成されると、その還元反応により、銀イオンが還元されて銀ナノ粒子30が生成される。
【0031】
(ゼオライト微粒子)
ゼオライト微粒子26はゼオライトの微粒子(粒子径はナノサイズ~ミクロンサイズ)である。ゼオライトは、アルミニウム(Al),珪素(Si)、酸素(O)を構成元素とするアルミノ珪酸塩である。ゼオライトは、図4に示すように、SiO(またはAlO)からなる四面体構造部126を有している。四面体構造部126は、Si4+またはAl3+と4つの酸素(O2-)とを有している。その四面体構造部126が酸素を共有しながら図5に示すように規則正しくつながって連結構造部226が形成される。さらに連結構造部226が立体的につながることで、図6に示すような結晶構造部326が形成されている。結晶構造部326が後述する細孔327を有している。
【0032】
鉱物(mineral)は、天然産の無機物質であるが、人工的な方法によって合成または生成された鉱物(人工鉱物)も存在している。鉱物(mineral)には、酸化鉱物、水酸化鉱物などがあり、珪素(Si)および酸素(O)を構成元素とする珪酸塩鉱物もある。珪酸塩は、Si-Oの結合方式に応じて、ネソ、ソロ、サイクロ、イノ、フィロ、テクトに分類される。テクト珪酸塩(tectosilicate)は、Si-O四面体が四つのすべての酸素(O)を共有している連続的な3次元網目構造を有している。テクト珪酸塩において、珪素(Si)の一部がアルミニウム(Al)で置換されて、(SiAl)Oとなることがある。これがアルミノ珪酸塩(aluminosilicate)である。アルミノ珪酸塩の場合、Si4+がAl3+によって置換されているので、電気的に中性になるよう、1価の陽イオン(後述するカチオンM)が含まれている。テクト珪酸塩には、例えば、カスミ石(nepheline)、ソウチョウ石(albite)などがある。また、四面体の骨組みがすき間を持ち、そこに水を含むアルミノ珪酸塩がある。それがゼオライト(沸石)である。
【0033】
ゼオライトは、四面体構造部126を基本単位とするアルミノ珪酸塩であるが、結晶構造が異なる非常に多くの種類が知られている。ゼオライトには、天然ゼオライト、合成ゼオライト、人工ゼオライトがある。天然ゼオライトには、方沸石(analcime)、菱沸石(chabazite)などがある。合成ゼオライトには、フェリエライト(ferrierite)、フォージャサイト(faujasite)などがある。
【0034】
図6に示されている結晶構造部326は、フォージャサイトの結晶構造の要部を示す一部省略した斜視図である。結晶構造部326は、細孔327を有している。細孔327は、図6に示すLが0.7~1.3nm程度の大きさを有している。また、結晶構造部326の場合、細孔327の近くのポイント328a,328bと、細孔327から離れたポイント328cにカチオンMが含まれている。ゼオライトは、その結晶構造内に細孔327を有するため、結晶性の多孔質材料である。ゼオライトは、その細孔327を活用して、金属や金属酸化物(例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化亜鉛(ZnO)など)の微粒子、金属化合物(例えば、硝酸銀)の微粒子、金属錯体を取り込む吸着機能や、金属イオン(例えば、銅イオン)を対象としたイオン交換機能、触媒機能等の特性を有する。
【0035】
(添加金属)
添加金属40は、銀とは異なる別金属(例えば、銅(Cu),亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、トリウム(Th)など)からなる微粒子(本発明における別金属微粒子、粒子径は約2~30nm程度)または別金属のイオン、別金属の酸化物や化合物の微粒子またはイオンである。これらは、後述する抗除菌溶液を定着させるバインダとして機能するか、またはゼオライト微粒子26の吸着またはイオン交換の対象とされる。
【0036】
(抗除菌部材の製造方法)
抗除菌部材10を製造する方法について説明する。抗除菌部材10は、ベース板部17を準備し、その片側の表面17aに抗除菌層20が形成されることによって製造される。
【0037】
抗除菌部材10が製造されるときは、抗除菌層形成工程が実行される。抗除菌層形成工程では、ベース板部17の表面17aに抗除菌溶液が塗布される。抗除菌溶液は、前述した光触媒作用を有する酸化物微粒子21と、ゼオライト微粒子26と、銀ナノ粒子30と、添加金属40とが分散して含有され(さらにアニオンポリマーが含まれている)ているゾル溶液(前述の光触媒銀ナノ分散液)である。これを刷毛塗り、スプレーコートなどの方法でベース板部17の表面17aに塗布する。すると、ベース板部17の表面17aにその抗除菌溶液の塗膜が形成される。その後、ベース板部17が放置されると、塗膜に含まれていた水分が蒸発して固化し、その塗膜がベース板部17の表面17aに定着する。これによって、抗除菌層20が形成されて、抗除菌部材10が製造される。
【0038】
(抗除菌部材10、抗除菌溶液の動作内容、作用効果)
抗除菌部材10は、例えば、事務所、学校、工場、住宅等の室内において、天井、壁、床等を構成する既存の部材に張り付ける等して取り付けられる。例えば、抗除菌部材10は、図11に示す事務所60に設置して使用される。事務所60は、天井61,壁62,床63を有している。事務所60は、天井61、壁62、床63に囲まれた室内空間64を有している。事務所60において、抗除菌層20が室内空間64を向くように、抗除菌部材10が天井61に張り付けて固定されている。その抗除菌部材10にLEDベースライト71が取り付けられている。また、壁62には、抗除菌溶液が刷毛塗り、スプレーコートなどの方法で塗布されたことによって、抗除菌層20が形成されている。
【0039】
LEDベースライト71は、ライト本体72と、ライトバー73とを有し、ライトバー73の内側に高演色LEDモジュール75が収容されている。高演色LEDモジュール75は、図示しないLED素子が発光することによって、演色性の高い白色光(平均演色評価数Ra:90~95程度で、本実施の形態において、LED光ともいう)VLを出力する。LED光VLは、波長が365nmから400nmまでの近紫外領域A1と、400nmから780nmまでの可視光領域A2とを含む広範囲の連続的な発光スペクトルを有している。その高演色LEDモジュール75の発光スペクトルの一例が図12に示されている。LED光VLには、波長が365nmから370nmまでの近紫外線UV1が含まれている。
【0040】
事務所60では、照明器具としてのLEDベースライト71が発生したLED光VL(本発明における照明光に相当する)が室内空間64に向けて照射される。また、そのLED光VL(および近紫外線UV1)は、天井61、壁62、床63にも照射される。そのため、事務所60において、天井61、壁62,床63は、本発明における照射面に相当する。天井61には、抗除菌部材10が張り付けられているが、その抗除菌部材10には、照射面としての表面17aに抗除菌層20が形成されている。
【0041】
そして、LEDベースライト71の電源スイッチが投入されると、図示しない商用電源から電力が供給され、LEDベースライト71が点灯する。すると、LEDベースライト71からLED光VLが発生し、室内空間64に向けて照射される。また、LED光VLは、天井61の抗除菌部材10、壁62、床63に照射される。すると、抗除菌部材10、壁62には、それぞれ抗除菌層20が形成されているので、LED光VLがそのそれぞれの抗除菌層20に照射される。
【0042】
抗除菌層20には、酸化物微粒子21と、銀ナノ粒子30とが分散している(図2参照)。照明光としてのLED光VLには、酸化物微粒子21による光触媒作用が発揮される近紫外領域A1の近紫外線が含まれている。そのため、LED光VLの照射を受けて酸化物微粒子21が光触媒作用を発揮する。その場合、LED光VLが照射されたことで、抗除菌部材10の表面に強力な酸化還元力が生まれ、それに伴い、抗除菌部材10の表面に接触する有機化合物や細菌等微物が水と二酸化炭素に分解される。こうして、抗除菌部材10の周囲にある内気につき、抗除菌作用が得られる。このとき、酸化物微粒子21の表面のアパタイトからなるセラミック粒子23(図3参照)がその周囲の菌やカビを吸着するから、より効果的な抗除菌作用が得られる。
【0043】
また、照明光としてのLED光VLには、銀ナノ粒子30が酸化されて銀イオンが生成される波長の光(銀イオン生成光、可視光領域A2のうちの波長が400nm~450nmの光)が含まれる。そのため、照明光としてのLED光VLが照射されたことで、抗除菌層20に銀イオンが生成され、その銀イオンによって、抗除菌層20の表面に接触する有機化合物や細菌等微物が不活性化され、これによる抗除菌作用も得られる。
【0044】
一方、抗除菌層20には、ゼオライト微粒子26が含まれている。ゼオライト微粒子26のゼオライトは、例えば、細孔(例えば、フォージャサイトの結晶構造部326の場合は、前述の細孔327)を有している。そのため、抗除菌層20では、その細孔が活用されることで、金属、金属酸化物、金属化合物の吸着、イオン交換などが実現される。
【0045】
また、ゼオライトがフォージャサイトの場合、細孔327よりも大きなスーパーケージと呼ばれる細孔329(直径が2~3nm程度)が含まれている。そのため、その細孔329に金属酸化物または金属の微粒子(以下、"金属等微粒子"ともいい、例えば、酸化チタンや銀の微粒子、別金属の酸化物(例えば、酸化ジルコニウム)の微粒子で直径2~3nm程度)が取り込まれることが可能である。そうすると、例えば、図7に示すように、添加金属40の一例としての金属等微粒子C1が細孔329の内側に吸着される。この場合、金属等微粒子C1が本発明における吸着物に相当する。
【0046】
このとき、細孔329のポイント330a,330bにカチオンMが配置されているとすると、金属等微粒子C1が細孔329の内表面329bのポイント330a,330bにおいて、カチオンMに吸引される(カチオンMと、金属等微粒子C1との静電引力による)。これに伴い、図8に示すように、金属等微粒子C1の表面C1Sにおいて、電子e1のカチオンMに向かう吸引eaが発生する。その吸引eaによって、電子e1が表面C1Sの近くに配置される。そのため、表面C1Sの吸着状態が変化し、それにより、電子e1が外部に放出されやすくなる。すると、金属等微粒子C1において、金属等微粒子C1の仕事関数Wが低下する。仕事関数Wは、バルク項(金属内の電子密度だけに依存する量であって、物質に固有の大きさを有する)と、表面項(吸着物質等による表面の状態によって大きさが変化する)との和であり、その表面項がカチオンMによる吸引eaに伴い変化するからである。
【0047】
ところで、光が金属等の固体表面に照射されたときに光電子が放出される現象は光電効果と呼ばれ、固体表面から放出される電子は光電子と呼ばれている。その光電子一つが金属等の固体表面から取り出されるために必要なエネルギーが仕事関数Wである。なお、本実施の形態において、光電子が放出される現象を光電子放出ともいう。
【0048】
そして、仕事関数Wと、限界波長λとの間には、以下の式1で示す関係があることが知られている。限界波長λとは、固体表面から光電子が放出されるために必要な光の最も長い波長である。したがって、限界波長λよりも波長の短い光が金属等に照射されたときに光電子が放出される。
式1:λ=hc/W
(λ:限界波長[m]、h:プランク定数[J・s])
(c:光速度[m/s]、W:仕事関数[ev])
【0049】
そうすると、例えば、金属等微粒子C1が酸化ジルコニウムの微粒子の場合、酸化ジルコニウムの仕事関数が5.8[ev]であるから、金属等微粒子C1の限界波長は214nmとなる。そのため、金属等微粒子C1の光電子放出が実現されるには、波長が214nmよりも短い光(紫外線)が金属等微粒子C1に照射されることが必要である。
【0050】
しかし、LEDモジュール75の場合、波長が350nmよりも長い光(近紫外線)が発生するが、波長が214nm程度の光(紫外線)を発生させることができない。仮に、LEDモジュール75から波長が214nm程度の紫外線が発生できたとしても、そのような紫外線が人体に照射されたときに、人体に悪影響を及ぼすおそれがある。したがって、波長が214nm程度の光(紫外線)がLEDモジュール75から発生することは好ましくない。
【0051】
そこで、本実施の形態にかかる抗除菌照明装置1では、抗除菌層20にゼオライト微粒子26が含有されている。ゼオライト微粒子26は、ゼオライトの微粒子であるが、ゼオライトは、図6図7に示すような細孔327、329を有する結晶性の多孔質材料であるから、その細孔327、329を利用して、金属等微粒子C1を吸着することができる。また、ゼオライトはカチオン(本発明における陽イオンに相当する。本実施の形態では、前述のフォージャサイトのカチオンM)が含まれているから、吸着されている金属等微粒子C1において、金属等微粒子C1を構成する金属(例えば、金属等微粒子C1が酸化ジルコニウムの微粒子の場合、ジルコニウム)の電子e1の吸引eaが起こる。それに起因して、金属等微粒子C1の仕事関数Wが低下する。その結果、電子e1が原子核の束縛を振り切って飛び出す光電子放出に要するエネルギーが小さくなる。
【0052】
仕事関数Wの低下が起こると、限界波長λよりも波長の長い光が照射された場合でも、光電子放出が実現されるようになる。そうすると、前述のように、金属等微粒子C1が酸化ジルコニウムの微粒子の場合、限界波長λが214nmであるが、それよりも波長の長い紫外線(近紫外領域A1(365nm~370nm)の近紫外線UV1で、本発明における長照明光に相当する)が照射された場合でも、光電子eが放出される(図9参照)。また、近紫外線UV1は可視光線に近い波長を有し、人体にはほぼ影響がないことが知られている。それに加えて、近紫外線UV1がLEDモジュール75から室内に照射されることによって、近紫外線UV1自体が有する抗除菌作用も発揮される。
【0053】
このように、本実施の形態にかかる抗除菌部材10では、抗除菌層20において、LEDモジュール75が発生するLED光VLのうちの吸着物の限界波長(吸着物が酸化ジルコニウムの微粒子の場合、限界波長λは214nm)よりも波長の長い長LED光(本実施の形態では、近紫外領域A1(365nm~370nm)の近紫外線UV1)の照射によって、光電子放出が実現される。また、壁62にも、抗除菌部材10と同様に抗除菌層20が形成されており、その抗除菌層20は、本実施の形態に係る抗除菌溶液を用いて形成されているから、本実施の形態に係る抗除菌溶液を用いることによって、抗除菌部材10と同様の抗除菌層20が形成されることが可能である。
【0054】
また、図12に示すように、LEDモジュール75では、近紫外領域A1(365nm~370nm)の放射照度(irradiance)が可視光領域の放射照度よりも高められている。近紫外線UV1の放射照度が高められることにより、近紫外線UV1に含まれる光子の数が増える。そのため、LEDモジュール75により、近紫外線UV1が抗除菌層20に照射されることによって、より多くの光電子eが放出される。
【0055】
一方、光電子放出が実現されると、図10に示すように、放出された光電子eが室内空間の空気中に存在している酸素(O)と反応する(S0)。この反応によって、酸素ラジカル(・O)が生成される(S1)。そして、その酸素ラジカル(・O)が空気中に存在している水(HO)と反応すること(S2)によって、ヒドロキシルラジカル(・OH)が生成される(S3)。
【0056】
ヒドロキルシラジカル(・OH)は、強力な酸化力を有する。そのため、ヒドロキルシラジカル(・OH)は、たんぱく質や糖質など、様々物質と反応する。そのため、室内空間64の空気中において、抗除菌部材10(および壁62に形成されている抗除菌層20)の周囲に浮遊している細菌等微物がヒドロキルシラジカル(・OH)によって分解される。
【0057】
したがって、抗除菌部材10(および壁62に形成されている抗除菌層20)によって、空間抗除菌作用が発揮される。このように、抗除菌部材10には、照射面としての表面17aに抗除菌層20が形成されているため、抗除菌部材10によって、空間抗除菌作用が得られる。また、照射面としての壁62に抗除菌溶液が塗布されることで、空間抗除菌作用を有する抗除菌層20を形成することができる。
【0058】
以上のように、抗除菌層20を有する抗除菌部材10および抗除菌溶液を用いて形成された抗除菌層20は、酸化物微粒子21による光触媒作用と、銀ナノ粒子30による殺菌、抗除菌作用とともに、UV1による空間抗除菌作用を有している。
【0059】
ところで、照明光は、照明器具から発生する光、例えばLED光である。そのほか、蛍光灯から発生する光や、白熱電球から発生する光も照明光に相当する。これらの照明光は、人工的な光であって、太陽光とは異なっている。その太陽光には、波長が250nm程度の紫外線、360nm~400nm程度の近紫外線、400nm~700nmの可視光線が含まれている。そのため、太陽光が抗除菌層20に含まれる添加金属(例えば、ジルコニウム)に照射されたときは、抗除菌層20のような仕事関数の低下がなくても、光電子が発生する。太陽光には、限界波長よりも波長の小さい光(紫外線)が含まれているからである。
【0060】
これに対し、照明器具から発生する光は、いずれも、太陽光とは異なる人工的な光であって、可視光線よりも波長の短い領域の光が含まれていないことが多い。前述したLEDモジュール75の場合は、365nm~370nmの近紫外線UV1が含まれているものの、波長が250nm程度の紫外線は含まれていない。つまり、人工的な光である照明光には、紫外線のような限界波長よりも波長の小さい光が含まれていない。そこで、本実施の形態にかかる抗除菌部材10と、抗除菌溶液を用いて形成された抗除菌層20では、限界波長よりも波長の長い光(長照明光)が照射されても光電子が発生するように、ゼオライト微粒子26を活用して、仕事関数が低下するようにしている。
【0061】
(変形例)
前述の実施形態では、添加金属40として、ジルコニウムを例にとって説明しているが、添加金属40として、亜鉛(Zn)の微粒子が加えられてもよい。亜鉛(Zn)の仕事関数Wが3.63[ev]であり、限界波長λが342nmとなるが、ゼオライト微粒子26による仕事関数Wの低下により、342nmよりも波長の長い長LED光(近紫外線:388nm程度)が照射された場合でも、光電子放出が実現される、と考えられるからである。
【0062】
(そのほかの変形例)
前述した抗除菌照明装置1では、抗除菌層20が酸化物微粒子21と、銀ナノ粒子30とが分散している溶液(光触媒銀ナノ分散液)を用いて形成されていた。そのほか、酸化物微粒子21と、銀錯体とが分散している溶液(光触媒銀錯体溶液)を用いて抗除菌層20が形成されていてもよい。
【0063】
銀錯体は銀を含む錯体(金属等の原子を中心原子とし、それに配位子とよばれる分子やイオンが結合してひとつの原子集団を形成しているときのその集団)である。銀の配位置数が2であるから、銀錯体は直線型となる。このような抗除菌層20でも、酸化物微粒子21によって、抗除菌層20と同様の光触媒作用が得られるし、銀錯体31から銀イオンが生成されることでその銀イオンによる抗除菌作用が得られる。また、抗除菌層20も、ゼオライトによる仕事関数の低下によって、光電子放出が実現されるため、空間抗除菌作用が得られる。
【0064】
前述した実施形態では、ゼオライト微粒子26に酸化ジルコニウムの微粒子が吸着される場合を例にとって説明した。ゼオライト微粒子26には、酸化チタン、銀の微粒子が吸着されることもできる。また、別金属として、ジルコニウム以外の銅や亜鉛の微粒子またはそれらの酸化物の微粒子が吸着されることもできる。
【0065】
前述した実施形態では、ゼオライト微粒子26を含む抗除菌層20を例にとって説明した。ゼオライトは、細孔および陽イオンを含む珪酸塩鉱物である。細孔および陽イオンを含むことにより、ゼオライトに吸着された金属等微粒子の仕事関数が低下し、その金属等微粒子を構成する金属の限界波長よりも波長の長い光(例えば、365nm~370nm)が照射された場合にも光電子放出が実現されることができる。その他、細孔および陽イオンを含む鉱物として、バーミキュライト、スメクタイト等の層状珪酸塩鉱物がある。これらは、同型置換による負電荷を中和するため、単位層の表面に陽イオンが保持されている。ゼオライト微粒子26の代わりにこれらの層状珪酸塩鉱物の微粒子が添加されていても、金属等微粒子を構成する金属の限界波長よりも波長の長い光が照射された場合にも光電子放出が実現されると考えられる。なお、同型置換とは、本来の結晶組成とは異なる元素が保持されていることを意味している。例えば、Si4+が入るべきところにAl3+が入る場合である。
【0066】
前述した抗除菌部材10は、樹脂製のベース板部17の表面17aに抗除菌層20が形成されていた。そのほか、透光性を有する材料(例えば、ガラス)を用いて形成された部材の表面に抗除菌層20が形成されていてもよい(図示せず)。ガラス製部材の表面に抗除菌層20が形成されていると、不燃性能を求められる地下鉄の駅や車両その他の場所にも、本発明に係る抗除菌部材10が設置されることで、抗除菌作用や空間抗除菌作用による周囲の浄化が行える。
【0067】
前述の実施形態では、銀とは異なる別金属として、銅(Cu),亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、トリウム(Th)などが例示されている。その他、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、その酸化物、化合物でもよい。アルカリ金属は、一般に仕事関数の大きさが他の金属に比べて小さく、それ故、波長の長い近紫外線の照射によって、光電子が放出されやすいからである。
【0068】
前述の実施形態では、照明器具として、LEDベースライトを例にとって説明したが、照明器具には、LEDシーリングライト、直管型の構造のLEDライト、LED電球も含まれる。また、照明器具は、蛍光灯や白熱電球でもよい。これらの照明器具から照明光が発生する。例えば、LED照明装置が高演色LEDモジュール75を有するときは、可視光領域とともに近紫外線領域(365nm~370nm)を含む照明光が発生する。また、抗除菌部材10が板状の部材である場合を例にとって説明しているが、本発明は、板状とは別形状を有する部材にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明を適用することにより、空間抗除菌作用が発揮される抗除菌層を形成し得る抗除菌溶液および抗除菌層を有する抗除菌部材が得られる。本発明は、抗除菌溶液および抗除菌部材の分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
10……抗除菌部材、17…ベース板部、17a…表面、20…抗除菌層、21…酸化物微粒子、22…酸化チタン微粒子、23…セラミック粒子、26…ゼオライト微粒子、30…銀ナノ粒子、40…添加金属、71…ベースライト、75…高演色LEDモジュール、126…四面体構造部、326…結晶構造部、327、329…細孔。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12