(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111399
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】自律移動ロボット
(51)【国際特許分類】
G05D 1/43 20240101AFI20240809BHJP
B65G 1/00 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
G05D1/02 H
B65G1/00 501C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015863
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000561
【氏名又は名称】株式会社オカムラ
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】田中 晃司
(72)【発明者】
【氏名】山崎 恵一
(72)【発明者】
【氏名】小川 実結人
【テーマコード(参考)】
3F022
5H301
【Fターム(参考)】
3F022LL07
3F022MM52
3F022NN36
5H301AA01
5H301BB05
5H301BB14
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301GG10
5H301GG12
5H301LL03
5H301LL06
5H301LL11
(57)【要約】
【課題】高い作業効率を維持してそれぞれ自律走行させることができる自律移動ロボットを提供する。
【解決手段】自身の位置情報を取得する取得手段33と、取得した自身の位置情報を他の自律移動ロボットに対して送信可能である通信手段35aと、受信した他の自律移動ロボット1の位置情報に基づき、他の自律移動ロボット1が収まる所定の領域を示す領域情報100を生成可能である生成手段と、を備え、生成した領域情報100を迂回する迂回動作を行う。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自身の位置情報を取得する取得手段と、
取得した前記自身の位置情報を他の自律移動ロボットに対して送信可能である通信手段と、
受信した他の自律移動ロボットの位置情報に基づき、当該他の自律移動ロボットが収まる所定の領域を示す領域情報を生成可能である生成手段と、
を備え、
生成した前記領域情報を迂回する迂回動作を行うことを特徴とする自律移動ロボット。
【請求項2】
前記自律移動ロボットは、前記通信手段を用いて自身の前記走行経路情報を他の自律移動ロボットに対して送信可能であり、
前記生成手段は、他の自律移動ロボットの前記位置情報と受信した前記走行経路情報とに基づき前記領域情報を生成可能であることを特徴とする請求項1に記載の自律移動ロボット。
【請求項3】
前記領域情報は、進行方向左右のいずれか一方に偏って張り出す形状であることを特徴とする請求項2に記載の自律移動ロボット。
【請求項4】
前記自律移動ロボットは、平時において、左右幅が設定された通路を走行するようになっており、迂回動作時には前記通路の左右幅内において前記領域情報を避けた左右一方側に迂回することを特徴とする請求項3に記載の自律移動ロボット。
【請求項5】
前記自律移動ロボットは、カゴ台車を牽引する搬送車であり、前記領域情報は、前記カゴ台車が収まる所定の領域を示すものであり、
前記カゴ台車を牽引する搬送車の領域情報は、前記カゴ台車を牽引していない搬送車の領域情報よりも広いことを特徴とする請求項1に記載の自律移動ロボット。
【請求項6】
前記自律移動ロボットは、前記カゴ台車の牽引の有無を判定する判定手段を備え、前記カゴ台車の牽引の有無に基づき、前記カゴ台車を牽引する搬送車の領域情報と前記カゴ台車を牽引していない搬送車の領域情報との間で切り替えを行うことを特徴とする請求項5に記載の自律移動ロボット。
【請求項7】
前記自律移動ロボットの前記通信手段は、セルラー回線を用いて他の自律移動ロボットと通信を行うことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の自律移動ロボット。
【請求項8】
自身の位置情報を取得する取得手段と、
取得した前記自身の位置情報に基づき自身が収まる所定の領域を示す領域情報を生成する生成手段と、
前記領域情報を他の自律移動ロボットに対して送信可能である通信手段と、を備え、
少なくとも衝突の虞のある他の自律移動ロボットに対して前記領域情報を適時送信することを特徴とする自律移動ロボット。
【請求項9】
前記生成手段は、当該自身の自律移動ロボットの前記位置情報と自身の走行経路情報とに基づき前記領域情報を生成可能であることを特徴とする請求項8に記載の自律移動ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施設内を自律走行可能な自律移動ロボットに関する。
【0002】
近年、業務効率や生産性の向上のために、工場や物流倉庫等の施設において行われる様々な作業について自動化が進んでいる。例えば、従来、工場や物流倉庫等においては、部品や製品等の物品が積載される棚と、作業者が扱うカゴ台車との間で物品の棚出しと棚入れが行われているが、インターネットショッピングの普及により特に物流倉庫においては、小口で棚出しと棚入れ作業が行われ、カゴ台車の移動量が爆発的に増加しており、作業者の負担の軽減を図るために、カゴ台車を移動させることができる自律走行可能な自律移動ロボットが開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1に示される台車を移動させる自律走行可能な自律移動ロボットは、台車の前端部に係合可能な牽引アームを備え、自律移動ロボットの牽引アームを台車に係合させることで、自律移動ロボットの走行により台車を牽引して移動させることが可能となっており、物品搬送作業の人的負担を大幅に軽減することができる。
【0004】
また、このような自律移動ロボットにあっては、それぞれが自律走行するため、全ての自律移動ロボットと通信可能な管理装置を設置し、この管理装置により自律移動ロボットの走行経路情報の決定や自律移動ロボット同士の衝突防止が行われる。詳しくは、物流倉庫等の施設内にアクセスポイントが設置され、それぞれの自律移動ロボットに設置された無線通信手段がアクセスポイントを介して管理装置と通信し、集約された情報に基づき管理装置によりそれぞれの自律移動ロボットの動作が制御されている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許5977157号公報(第8頁、第1,2図)
【特許文献2】特開2022-45454号公報(第7頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2のように、倉庫内の全ての自律移動ロボットが管理装置と通信を行うものにあっては、管理装置が全ての自律移動ロボットの位置情報を把握し統合的に衝突を防止した移動制御を行う必要があるため、衝突を回避するために複雑な演算が行われ、衝突回避の動作の開始までに時間が掛かる場合があり、演算が完了するまで自律移動ロボットを停止したり、減速したりする動作が行われ、自律移動ロボットを高い作業効率を維持して自律走行させることができない虞があった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、高い作業効率を維持してそれぞれ自律走行させることができる自律移動ロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の自律移動ロボットは、
自身の位置情報を取得する取得手段と、
取得した前記自身の位置情報を他の自律移動ロボットに対して送信可能である通信手段と、
受信した他の自律移動ロボットの位置情報に基づき、当該他の自律移動ロボットが収まる所定の領域を示す領域情報を生成可能である生成手段と、
を備え、
生成した前記領域情報を迂回する迂回動作を行うことを特徴としている。
この特徴によれば、他の自律移動ロボットが収まる領域情報を迂回する迂回動作を行うというシンプルな衝突回避のプログラムで、自律移動ロボット同士の衝突を回避することができるため、高い作業効率を維持してそれぞれの自律移動ロボットを自律走行させることができる。
【0009】
前記自律移動ロボットは、前記通信手段を用いて自身の前記走行経路情報を他の自律移動ロボットに対して送信可能であり、
前記生成手段は、他の自律移動ロボットの前記位置情報と受信した前記走行経路情報とに基づき前記領域情報を生成可能であることを特徴としている。
この特徴によれば、領域情報が他の自律移動ロボットから送信された位置情報に加えて走行経路情報を考慮して生成されることで、より確実に自律移動ロボット同士の衝突を防ぐことができる。
【0010】
前記領域情報は、進行方向左右のいずれか一方に偏って張り出す形状であることを特徴としている。
この特徴によれば、自律移動ロボット同士がすれ違う際には、常に自律移動ロボット同士が互いに離間する方向に移動して迂回することにため、シンプルなプログラムで正面衝突を確実に防止できる。
【0011】
前記自律移動ロボットは、平時において、左右幅が設定された通路を走行するようになっており、迂回動作時には前記通路の左右幅内において前記領域情報を避けた左右一方側に迂回することを特徴としている。
この特徴によれば、左右幅が設定された通路内において最短経路で迂回動作することができる。
【0012】
前記自律移動ロボットは、カゴ台車を牽引する搬送車であり、前記領域情報は、前記カゴ台車が収まる所定の領域を示すものであり、
前記カゴ台車を牽引する搬送車の領域情報は、前記カゴ台車を牽引していない搬送車の領域情報よりも広いことを特徴としている。
この特徴によれば、搬送車または牽引するカゴ台車が他の搬送車のカゴ台車に衝突することを防止できる。
【0013】
前記自律移動ロボットは、前記カゴ台車の牽引の有無を判定する判定手段を備え、前記カゴ台車の牽引の有無に基づき、前記カゴ台車を牽引する搬送車の領域情報と前記カゴ台車を牽引していない搬送車の領域情報との間で切り替えを行うことを特徴としている。
この特徴によれば、カゴ台車を牽引していない場合には、領域情報が小さくなるため、他の自律移動ロボットの迂回動作の無駄を少なくでき、高い作業効率で自律移動ロボットを自律走行させることができる。
【0014】
前記自律移動ロボットの前記通信手段は、セルラー回線を用いて他の自律移動ロボットと通信を行うことを特徴としている。
この特徴によれば、セルラー通信の基地局との通信が確保できれば、自律移動ロボットが配備される施設内に構築された通信網を利用せずとも自律移動ロボット間で通信を行うことができ、施設の走行面の面積に関わらず、自律移動ロボット同士の衝突を防ぎ円滑にそれぞれ自律走行させることができる。
【0015】
自身の位置情報を取得する取得手段と、
取得した前記自身の位置情報に基づき自身が収まる所定の領域を示す領域情報を生成する生成手段と、
前記領域情報を他の自律移動ロボットに対して送信可能である通信手段と、を備え、
少なくとも衝突の虞のある他の自律移動ロボットに対して前記領域情報を適時送信することを特徴としている。
この特徴によれば、少なくとも衝突の虞のある他の自律移動ロボットに対して、自身が収まる所定の領域を示す領域情報を送信するという各自律移動ロボットのシンプルなプログラムで衝突を回避することができるため、高い作業効率を維持してそれぞれの自律移動ロボットを自律走行させることができる。
【0016】
前記生成手段は、当該自身の自律移動ロボットの前記位置情報と自身の走行経路情報とに基づき前記領域情報を生成可能であることを特徴としている。
この特徴によれば、領域情報が自律移動ロボット自身の位置情報に加えて自身の走行経路情報を考慮して生成されることで、より確実に自律移動ロボット同士の衝突を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例における自律移動ロボットでありカゴ台車を牽引する搬送車を示す斜視図である。
【
図2】搬送車に内蔵された各種装置を示すイメージ図である。
【
図3】搬送車を用いたカゴ台車の搬送システムを示す図である。
【
図5】生成された搬送車の領域情報を示すイメージ図である。
【
図6】通路領域にて搬送車同士が正面からかち合った状態を示す図である。
【
図7】一方の搬送車が他方の搬送車の領域情報を迂回する様子を示す図である。
【
図8】他方の搬送車が一方の搬送車の領域情報を迂回する様子を示す図である。
【
図9】搬送車がそれぞれ平時の走行経路に復帰する動作を行う様子を示す図である。
【
図10】カゴ台車を牽引する際の搬送車の領域情報を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る自律移動ロボットを実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0019】
実施例1に係る自律移動ロボットである搬送車につき、
図1から
図10を参照して説明する。以下、
図1の紙面左斜め下側を搬送車の前方側とし、紙面右斜め上側を搬送車の後方側として説明する。
【0020】
図1に示されるように、自律移動ロボットである搬送車1は、工場や倉庫、物流センタ等において、床面を走行してカゴ台車10の牽引を行う。本実施例におけるカゴ台車10は、平面視矩形をなし物品を積載可能な底板11と、該底板11の3辺に沿って立設する格子状のパネル12及び一対のサイドパネル13と、旋回キャスタ15とから構成されており、パネル12及びサイドパネル13が立設しない底板11の前方の辺には、底板11に積載される物品を出し入れ可能な開口部16が形成されている。尚、開口部16には、底板11に積載される物品の落下を防ぐための安全バーや上下開きまたは観音開きの扉等が設けられていてもよい。さらに尚、本実施例におけるカゴ台車は、一例であり、その形状は限定されるものではなく、例えば複数段の棚板を有する構成等でもよい。
【0021】
搬送車1は、床面を走行可能な車体2と、該車体2の走行方向に沿って設けられる複数の車輪30と、該車輪30を構成する駆動車輪を駆動させる駆動モータ31(
図2参照)と、を有している。また、車体2の後端部には図示しない係合手段が設けられている。係合手段は駆動手段により、カゴ台車10の底板11の前端部に形成され下方に略直角に屈曲して延びる屈曲部に係合・係脱可能となっている。
【0022】
また、
図2に示されるように、搬送車1には、走行用の駆動モータ31と、係合手段を駆動させる係合機構32と、MPU33と、記憶部34と、通信部35と、バッテリ36とが備えられている。MPU33は、搬送車1の走行の制御、係合機構の動作制御、走行経路の決定等をそれぞれ行う演算装置である。
【0023】
通信部35は、セルラー通信規格すなわち基地局と通信するための無線通信手段35aと、タブレットである後述する操作端末4(
図3参照)と直接無線通信する近距離通信手段35bをいずれも備えている。そして、近距離通信手段35bを用いて、操作端末4からの指令信号等の受信や記憶部に記憶されたデータの送信等を行うことができる。
【0024】
また、搬送車1には、前方における物体の有無を検出可能なフロントセンサ8と、後方における物体の有無を検出可能なバックセンサ9とが設けられている。尚、フロントセンサ8とバックセンサ9は、超音波センサから構成されている。また、駆動モータ31には、回転数を検出し位置情報を取得する取得手段としての図示しないロータリエンコーダが設けられている。
【0025】
MPU33は、操作端末4からの指令信号に基づき、駆動モータ31を回転駆動させ、各駆動モータ31により駆動される駆動車輪が床面を転動することにより走行するようになっている。駆動車輪毎に設けられる駆動モータ31,31の回転方向や回転数がそれぞれ制御されることで、搬送車1は前後方向の直進走行及び旋回走行が可能になっている。
【0026】
図2に示されるように、搬送車1を用いたカゴ台車の搬送システム20は、複数台の搬送車1と、搬送車1と通信可能に接続される操作端末4と、操作端末4とインターネットを介して接続されるサーバ3と、から主に構成されている。
【0027】
搬送車1は、通信部35を構成する無線通信手段35aにより、セルラー通信規格により基地局BSを介して他の搬送車と相互通信可能になっている。また、操作端末4と直接無線通信する近距離通信手段35bは、例えばBluetooth(登録商標)である。
【0028】
本実施例において、搬送車1は一台の操作端末4と相互通信可能な状態とされ、当該操作端末4から棚入れ棚出し等の指示情報を受信し、受信した指示情報に基づきMPU33により必要な動作が行われる。
【0029】
操作端末4は、サーバ3と通信することで、棚入れまたは棚出しのタスクリストを閲覧できる機能を有している。加えて、ここでは詳述しないが、各タスクに対して搬送車1を割り当てる操作を行うことができる。例えば、
図4に示す第1エリアAから第2エリアBまで、特定のカゴ台車10を運搬するというタスクに、搬送車1Aを割り当てるという割当操作を行うことができる。
【0030】
割当操作が行われると、操作端末4から当該タスクの情報が搬送車1Aに対して近距離通信手段を用いて送信される。タスクの情報を受信した搬送車1AのMPU33は、自身の位置情報と自身の向きの情報を加味した上で、最適な走行ルートを作成する。本実施例において、搬送車1のMPU33は、施設内のマップデータを記憶しており、マップデータでは
図4のイメージ図のように、待機エリアW、第1エリアA、第2エリアB、充電エリアCH1~CH3、その他の通路エリアP、の各エリアを定義する情報と、それぞれのエリアにおける自身の位置情報を、ロータリエンコーダ等を用いて把握している(取得手段)。位置情報は、ここではマップデータに対応する1点の座標情報であり、搬送車1の平面視の中心である。
【0031】
例えば搬送車1Aが待機エリアWにて停止していた場合には、当該待機エリアWから第1エリアAに移動し、第1エリアAにて特定のカゴ台車10に係合手段を係合させ、そのままカゴ台車10を牽引して第2エリアBの所定位置まで移動する、という必要な手順を準備するとともに最適な走行経路情報を作成し、その走行経路情報で自律走行を開始する。
【0032】
第1エリアAの領域内に到着した搬送車1AのMPU33は、図示しない撮像装置により撮像された画像を画像解析しカゴ台車10の所在位置を認識し、当該カゴ台車10に対する所定の位置まで移動後に、係合機構32を駆動させて当該カゴ台車10の屈曲部に係合させる。
【0033】
そして、当該カゴ台車10を牽引しながら第2エリアBの領域内まで自律走行させる。第2エリアBの領域内の所定の地点に到着した搬送車1AのMPU33は、係合機構32を駆動させてカゴ台車10の屈曲部との係合を解く。
【0034】
搬送車1は、フロントセンサ8により走行方向前方における不動の障害物を避けながら走行するが、施設内では複数の搬送車が同時に稼働可能であることから、それぞれ自律走行を行う搬送車1同士の走行経路が互いに重複、交差等(以下単に交差という。)する虞がある。走行経路が交差する搬送車1同士の距離が十分に離れている場合には、これらが衝突する虞はないため、搬送車1はそれぞれのMPU33にて搬送車1同士の距離を監視し、衝突する虞があると判断された場合にのみ、後述する衝突回避処理を適宜行うようになっている。
【0035】
次いで、衝突回避処理について、
図5から
図9を用いて説明する。搬送車1は、所定間隔(例え3秒間)毎に一回の頻度で、自身の記憶部34に記憶された他の搬送車1に対して通信を行う。詳しくは、搬送車1の記憶部34には、ここでは施設における同室で稼働する自身以外の全ての搬送車1(全ての搬送車1ということもある。)の送信先アドレス例えばIPアドレスが記憶されており、搬送車1は他の全ての搬送車1のIPアドレスを用いて全ての搬送車1に定期通信を行う。
【0036】
搬送車1が所定間隔毎に行う定期通信は、自身の現在の位置情報と自身の走行経路情報であり、一方的に他の全ての搬送車1に対して送信される。搬送車1のMPUは、他のいずれかの搬送車1(他の搬送車1ということもある。)から定期通信を受信すると、位置情報と走行経路情報とから当該他の搬送車1の領域情報を生成する。走行経路情報とは、例えば搬送車1の走行方向を示す情報である。そして、この領域情報を自身の記憶部34に記憶されたマップデータに加える、もしくは当該搬送車1の領域情報をマップデータ上で更新する。このとき、他の搬送車1の領域情報には、当該搬送車1の識別情報を含んでいなくてもよい。これにより、記憶領域や判断ステップを少なくすることができる。
【0037】
領域情報は、4点の座標情報である。搬送車1のMPU33は、ロータリエンコーダからの情報と、各種センサとによりマップデータに対応して割り出された1点の座標情報である位置情報を他の搬送車1に送信する。搬送車1のMPU33は、他の搬送車1から受信した1点の座標情報を当該他の搬送車1の平面視の中心である位置情報として、この位置情報に基づく4点の座標情報を生成(算出)するようになっている(生成手段)。
【0038】
図5に示されるように、4点の座標情報は、実際の搬送車1の四隅よりも外側に位置している。本実施例における実際の搬送車1の後方右側の隅部分1dから右方向かつ後方向に所定距離で離れた近接位置が搬送車1の後方右側の座標情報100dとして算出される。例えばここでは、搬送車1の後方右側の隅部分1dから右方向かつ後方にそれぞれ50mm離れた位置が後方右側の座標情報100dである。また、実際の搬送車1の後方左側の隅部分1eから後方向に所定距離(後方右側と同様に例えば50mm)離れ、かつ左方向には搬送車1の左右寸法(例えば350mm)分で実際の搬送車1の後方左側の隅部分1eから離れた位置が搬送車1の後方左側の座標情報100eとして算出される。
【0039】
また、実際の搬送車1の前方右側の隅部分1fから右方向に所定距離(後方右側と同様に例えば50mm)離れ、かつ前方向には搬送車1の前後寸法の4倍(例えば1600mm)分で実際の搬送車1の前方右側の隅部分1fから離れた位置が搬送車1の前方右側の座標情報100fとして算出される。同様に、実際の搬送車1の前方左側の隅部分1gから前方向に搬送車1の前後寸法の4倍分で離れ、かつ左方向には搬送車1の左右寸法分で実際の搬送車1の前方左側の隅部分1gから離れた位置が搬送車1の前方左側の座標情報100gとして算出される。
【0040】
このように、搬送車1が生成する他の搬送車1の領域情報を構成する4点の座標情報は、マップデータにおける当該他の搬送車1が存在する領域を示すとともに、進行方向(前方)においては、同時に他の搬送車1の未来の走行経路情報の一部を示しているといえる。尚、この領域情報を構成する4点の座標情報は、搬送車1が走行する通路の左右幅情報に応じて算出されるものであり、中心に位置する他の搬送車1と通路の進行方向左サイドとの間の空間を埋めるように前方左側と後方左側の座標情報が算出される。さらに尚、搬送車1が走行可能なマップデータにおいて通路には左右幅が設定されている。言い換えると、実際の通路とは異なるデータ上において搬送車1の走行可能範囲が設定されている。
【0041】
搬送車1のMPU33は、他の搬送車1から定期通信を受信し、自身のマップデータに反映した4点の座標情報で囲まれる他の搬送車1の領域情報100の衝突回避処理を行う。このとき他の搬送車1の領域情報100すなわち4点の座標によって囲まれる領域内部を走行しないように迂回動作することで、当該他の搬送車1との衝突を回避することができる。
【0042】
次いで、搬送車1A,1Bが通路P1において進行方向両側からかち合った場合におけるすれ違い時の衝突回避処理を、
図6から
図9を用いて説明する。搬送車1BのMPU33は、自身が生成した他の搬送車1Aの4点の座標情報(以降、「搬送車1Aの領域情報」という。)と自身の現在位置情報とを参照し、搬送車1Bの現在位置から搬送車1Aの領域情報が予め設定された所定の距離以下になった場合、迂回動作の準備に入る。このとき、搬送車1Aについても同様に、自身が生成した他の搬送車1Bの座標情報(以降、「搬送車1Bの領域情報」という。)と自身の現在位置情報とを参照し、搬送車1Aの現在位置から搬送車1Bの領域情報が予め設定された所定の距離以下になった場合、迂回動作の準備に入る。
【0043】
搬送車1Aから定期通信を受信した搬送車1BのMPU33は、搬送車1Aの領域情報を走行不能領域として、迂回しての走行経路を決定し、迂回動作を開始する。
図7に示されるように、搬送車1Bは、まず通路P1における自身の進行方向右サイド側が搬送車1Aの領域情報100に占有されているため、自身の進行方向左サイド側に向けて斜め前方に移動する。
【0044】
全く同様に搬送車1Bから定期通信を受信した搬送車1AのMPU33は、搬送車1Bの領域情報を走行不能領域として、迂回しての走行を決定し、迂回動作を開始する。
図8に示されるように、搬送車1Aは、まず通路における自身の進行方向右サイド側が搬送車1Bの領域情報100に占有されているため、自身の進行方向左サイド側に向けて斜め前方に移動する。
【0045】
そして、搬送車1AのMPU及び搬送車1BのMPU33は、斜め前方に移動した状態で前進し、逐次送信される定期通信に基づき常時更新される相手の領域情報100に侵入しないと判定した場合、
図9に示されるように、元の走行経路、ここでは通路P1の中心に復帰し、迂回動作を終了する。
【0046】
上記したように、本発明の搬送車1は、取得した他の搬送車1の位置情報に基づき生成した、他の搬送車1が収まる領域情報100を迂回する迂回動作を行うというシンプルな衝突回避のプログラムで、衝突を回避するために複雑な演算が行うことなく、衝突を回避することができるため、高い作業効率を維持してそれぞれの搬送車1を自律走行させることができる。
【0047】
また、他の搬送車1の領域情報と自身の位置情報とが所定の位置関係である場合に、他の搬送車1の位領域情報を迂回する迂回動作を行うようになっている。つまり、例えば管理装置を用いて全ての搬送車の位置情報を把握することで統合的に衝突を防止した移動制御を行う構成でなく、搬送車1同士の距離に基づき、個々の搬送車1がMPU33にてそれぞれ単独で判断し衝突回避処理を行うようになっている。これによれば、他の搬送車1から一方的に送信された位置情報に基づき生成した領域情報100を迂回する迂回動作を行うというシンプルな衝突回避処理のプログラムで、搬送車1同士の衝突を防ぐことができる。ひいては、衝突を回避するために複雑な演算が行われないため、高い作業効率を維持してそれぞれの搬送車1を自律走行させることができる。
【0048】
また、領域情報100は、他の搬送車1の進行方向左右のいずれか一方に偏って張り出す形状であるため、搬送車1同士がすれ違う際には、常に搬送車1同士が互いに離間する方向に移動し迂回することにため、シンプルなプログラムで正面衝突を確実に防止できる。さらに、搬送車1は平時には左右幅が設定された通路の中央を走行するようにすることで、迂回動作時の回避先のスペースを確保することができる。
【0049】
また、他の搬送車1から受信した位置情報と自身の現在位置情報とを比較し、これらが所定の距離以下になった場合に迂回動作の演算を開始する構成であることから、対向方向から互いに前進する搬送車1の走行速度をなるべく緩めずに、迂回することができる。また、このような構成であるから、演算そのものが少なく迂回や衝突回避のための演算負荷が少ない。
【0050】
また、対向方向から前進する搬送車1の進行方向(前方)の2点の座標情報(100f,100g)は、実際の搬送車1の位置よりも前方に設定されているため、実際に迂回動作が開始され、進行方向左サイド側に向けて斜め前方への移動が完了するまでの間で、対向する搬送車1同士の接触を確実に防止することができる。
【0051】
また、本実施例における搬送車1は、他の搬送車1から受信した位置情報から生成された4点の座標情報で示される領域情報100を回避する行動をとる。つまり、回避動作のプランを近接した搬送車1同士で調整し合い決定することがないため、衝突回避処理がシンプルであり、演算の時間も極めて短い。
【0052】
また、搬送車1の無線通信手段35a(通信手段)は、セルラー回線を用いて他の搬送車1と通信を行うため、セルラー通信の基地局BSとの通信が確保できれば、搬送車1が配備される施設内に構築された通信網を利用せずとも搬送車1間で通信を行うことができ、施設の床面積に関わらず、搬送車1同士の衝突を防ぎ円滑にそれぞれ自律走行させることができる。
【0053】
また、搬送車1のMPU33は、他の搬送車1がカゴ台車10を牽引して走行する際には、カゴ台車10が収まる所定の領域を示す領域情報を生成することができる。
図10に示されるようにカゴ台車が収まる所定の広さの領域情報110は、
図5に示されるカゴ台車10を牽引していない状態における4点の座標情報で囲まれる領域情報100よりも広い。具体的には、牽引するカゴ台車10の前後寸法分、広くしたものである。尚、カゴ台車10を牽引して走行する搬送車1の領域情報の左右幅を
図5に示される領域情報100よりも広くしてもよい。
【0054】
詳しくはカゴ台車10が収まる領域情報の後方右側の座標情報110dには、搬送車に牽引されたカゴ台車10の後方右側の隅部分10dから後方向に所定距離(例えば50mm)で離れた位置が設定され、この後方右側の座標情報110dと、搬送車1の前方左側の座標情報100gとを直交させた位置が、カゴ台車10が収まる領域情報の後方左側の座標情報110eとして設定されている。このため、搬送車1または牽引するカゴ台車10が他の搬送車1のカゴ台車10に衝突することを防止できる。
【0055】
また、搬送車1のMPU33は、自身の後方の物体を検知するバックセンサ9による検知情報に基づき、牽引するカゴ台車10の有無を判定する判定手段を構成している。MPU33は牽引するカゴ台車10の有無情報を、他の搬送車1に位置情報とともに送信できるようになっている。MPU33は牽引するカゴ台車10の有無情報に基づき領域情報110と、他の搬送車1のみが収まる所定の領域情報100との間で切り替えを行う。これによれば、カゴ台車10を牽引していない場合には、領域情報100が小さくなるため、搬送車1に行わせる迂回動作の無駄を少なくでき、高い作業効率で搬送車1を自律走行させることができる。尚、判定手段はこれに限らず、例えば、係合手段の係合状態と係脱状態を判別することで、牽引するカゴ台車10の有無を判定してもよい。
【0056】
尚、前記実施例では、正面からのすれ違い時における衝突回避処理について説明したが、これに限らず、交差時や追い越し時においても同様の衝突回避処理にて衝突を回避可能である。
【0057】
また、搬送車1が生成する他の搬送車1の4点の座標情報は、自身及び他の搬送車1が走行する通路P1の幅に対して適宜設定及び変更が可能である。
【0058】
また、搬送車1が生成する他の搬送車1の領域情報を構成する4点の座標情報は、マップデータにおける当該他の搬送車1が存在する領域を示すとともに、当該他の搬送車1から受信した走行経路情報の一部である進行方向(前方)の情報に基づき実際の他の搬送車1の前方に延長されて生成されている。これによれば、搬送車1の走行速度に関わらず、より確実に自律移動ロボット同士の衝突を防ぐことができることに加えて、例えば他の搬送車1の後方から接近する場合には、実際の他の搬送車1の後方に近接した位置で迂回動作を開始することができ、できるだけ搬送車1の走行速度を緩めず迂回することができる。
搬送車1は、自身の現在の位置情報と自身の走行経路情報から自身の搬送車1の領域情報を生成する。そして、この領域情報を他の搬送車1に対して所定間隔毎に定期通信で送信する。搬送車1のMPUは、他のいずれかの搬送車1(他の搬送車1ということもある。)から定期通信を受信すると、受信した他の搬送車1の領域情報を自身の記憶部34に記憶されたマップデータに加える、もしくは当該他の搬送車1の領域情報をマップデータ上で更新する。搬送車1は、他の搬送車1の領域情報を迂回するように迂回動作を行う。
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
また、搬送車は、傾斜状態の台車を牽引して移動させるものに限らず、傾斜状態の台車を走行方向に押して移動させるものであってもよい。また、搬送車により搬送される台車は、カゴ台車に限らず、例えば平台車や手押し台車等であってもよい。
また、搬送車が生成する他の搬送車の位置情報は、4点の座標情報に限らず、搬送車が収まる領域情報を定義できれば、例えば3点の座標情報でもよいし、5点以上の座標情報であってもよい。
また、前記実施例において搬送車は、自身の現在の位置情報を他の搬送車に所定間隔毎に定期通信しているが、これに限らず、例えばセンサなどで所定の距離以内に近接した搬送車がある場合に、この搬送車に対してのみ自身の現在の位置情報を送信する構成であってもよい。
また、前記実施例の搬送車のように、セルラー通信を用いて搬送車同士が通信を行う構成は、施設内のインフラ設備に関わらずに搬送車の導入や追加などを行うことができるため好ましいが、これに限らず、例えばWi-FiやBluetooth(登録商標)等の近距離無線通信を用いて互いに通信可能とする構成であってもよい。
また、搬送車1が生成する他の搬送車の領域情報は、前記実施例のように進行方向左側に偏って張り出す形状に限らず、進行方向右側に偏って張り出す形状を成していてもよい。
また、カゴ台車を搬送する搬送システム20の構成は、前述したものに限らず、例えば操作端末4に接続されるサーバ3は省略されてもよいし、反対にサーバ3から搬送車1にタスクの指示情報が直接送信されるようにして操作端末4を省略してもよい。
また、搬送車1は、他の搬送車1の領域情報を生成した際に、領域情報と当該領域情報に対応する搬送車の識別情報とを紐づけて記憶することで、各搬送車を判別してそれぞれの領域情報を把握できるようにしてもよい。