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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111436
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料
(51)【国際特許分類】
   A23F 5/24 20060101AFI20240809BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20240809BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20240809BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
A23F5/24
A23L2/38 P
A23L2/38 C
A23L2/00 B
A23L2/52
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015944
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】杉野 良介
(72)【発明者】
【氏名】石井 友喜
【テーマコード(参考)】
4B027
4B117
【Fターム(参考)】
4B027FB24
4B027FC01
4B027FE06
4B027FE08
4B027FK01
4B027FK04
4B027FK05
4B027FK06
4B027FK10
4B027FK18
4B027FK20
4B027FQ07
4B027FQ16
4B027FQ17
4B027FQ19
4B027FQ20
4B117LC02
4B117LC03
4B117LC15
4B117LE10
4B117LG17
4B117LK01
4B117LK10
4B117LK12
4B117LK15
4B117LK18
4B117LL01
4B117LL02
4B117LL06
4B117LP14
4B117LP17
(57)【要約】
【課題】乳成分とコーヒー脂質を含有しながらも加熱劣化臭が低減された、加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料を提供する。
【解決手段】乳成分と、コーヒー脂質と、マグネシウム塩を含む無機塩とを含有し、パルミチン酸カーウェオールとパルミチン酸カフェストール(コーヒー脂質)の合計含有量が0.01~1.30mg/100gであり、マグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gである、加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳成分とコーヒー脂質とを含有する、加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料であって、以下(i)及び(ii)を満たすコーヒー飲料:
(i)コーヒー脂質がパルミチン酸カーウェオール及び/又はパルミチン酸カフェストールであり、飲料中のパルミチン酸カーウェオールとパルミチン酸カフェストールの合計含有量が0.01~1.30mg/100gである、
(ii)さらにマグネシウム塩を含む無機塩を含み、飲料中のマグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gである。
【請求項2】
更に、以下(iii)及び(iv)の少なくとも1つを満たす、請求項1に記載のコーヒー飲料:
(iii)無機塩がさらにカリウム塩を含み、飲料中のカリウム含有量が30~150mg/100gである、
(iv)無機塩がさらに塩化物を含み、飲料中の塩化物イオン含有量が5~50mg/100gである。
【請求項3】
飲料中のたんぱく質含有量が0.1~2.0g/100gである、請求項1又は2に記載のコーヒー飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱劣化臭が低減された加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
乳入りコーヒー飲料は、一年を通して飲用される嗜好性の高い飲料であり、長期にわたって常温保存可能な容器詰め乳入りコーヒー飲料が多数流通されている。乳入りコーヒー飲料の一般的な製造工程は、乳入りコーヒー飲料缶詰を例とすると、「焙煎」「粉砕」「抽出」「調合」「ろ過」「充填」「巻締」「殺菌」「冷却」「箱詰め」からなる。この製造工程において、「殺菌」は品質上重要な工程であり、通常、190g缶で125℃、20分間程度の加熱がなされている(特許文献1)。
【0003】
乳入りコーヒー飲料は、加熱殺菌後に特有のぬめりや切れ味の悪い香味が発生し、フレッシュな乳感やコーヒー本来の風味が損われることが大きな問題の一つであった。そこで、乳入りコーヒー飲料の加熱に伴う劣化臭や嫌味を低減する方法が種々提案されている。例えば、飲料中の全乳タンパク質に対する乳清タンパク質の比率を低減させることにより、加熱殺菌後の乳入りコーヒー飲料の後味の悪さ、すなわち特有のぬめりや飲んだ後に感じられる雑味、飲んだあとの切れ味の悪さを低減した乳入りコーヒー飲料(特許文献2)、飲料中の乳脂肪1重量当たりに対し、植物油脂を0.15~2の割合で配合することを特徴とする飲用後そう快な後味を有する容器詰めコーヒー(特許文献3)、乳又は乳製品にα-グリコシルトレハロースを含有せしめ、加熱処理工程を経て製造することを特徴とする乳加熱臭の生成が抑制された乳又は乳製品の製造方法(特許文献4)等が挙げられる。
【0004】
また、コーヒー特有の脂質であるカフェストール及びカーウェオールを含有するコーヒー原料を用いて調製される乳入りコーヒー飲料は、より一層、加熱臭が強くなることから、コーヒー脂質が低減されたコーヒー原料を用いて加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料を製造することも提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-186425号公報
【特許文献2】特開2010-57435号公報
【特許文献3】特開2009-291137号公報
【特許文献4】特開2006-94856号公報
【特許文献5】国際公開第2015/030253号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コーヒー脂質は、アロマオイルと呼ばれることもあるほど、香りと深い結びつきがある。
【0007】
本発明の目的は、乳成分とコーヒー脂質を含有しながらも加熱劣化臭が低減された、加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、少量のマグネシウム塩を含む無機塩を含有させることで、コーヒー脂質を含有する加熱殺菌済み乳入りコーヒー飲料の加熱劣化臭を低減させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]乳成分とコーヒー脂質とを含有する、加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料であって、以下(i)及び(ii)を満たすコーヒー飲料:
(i)コーヒー脂質がパルミチン酸カーウェオール及び/又はパルミチン酸カフェストールであり、飲料中のパルミチン酸カーウェオールとパルミチン酸カフェストールの合計含有量が0.01~1.30mg/100gである、
(ii)さらにマグネシウム塩を含む無機塩を含み、飲料中のマグネシウム含有量が0.5~8.0mg/100gである。
[2]更に、以下(iii)及び(iv)の少なくとも1つを満たす、[1]に記載のコーヒー飲料:
(iii)無機塩がさらにカリウム塩を含み、飲料中のカリウム含有量が30~150mg/100gである、
(iv)無機塩がさらに塩化物を含み、飲料中の塩化物イオン含有量が5~50mg/100gである。
[3]飲料中のたんぱく質含有量が0.1~2.0g/100gである、[1]又は[2]に記載のコーヒー飲料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、加熱劣化臭が効果的に低減され、コーヒーと乳の自然な味わいや香りを有する、長期保存可能な乳入りコーヒー飲料の提供が可能となる。本発明の飲料は、食品添加物として用いられている無機塩を少量配合するという簡便な方法で製造できることも利点である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(コーヒー飲料)
本明細書でいう「コーヒー飲料」とは、コーヒー分を原料として使用し、加熱殺菌工程を経て製造される飲料製品のことをいう。製品の種類は特に限定されないが、1977年に日本の公正取引協議会によって認定された「コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約」で定義される「コーヒー」(内容量100グラム中にコーヒー生豆換算で5グラム以上のコーヒー豆抽出物又は溶出物を含むもの)又は「コーヒー飲料」(内容量100グラム中にコーヒー生豆換算で2.5グラム以上5グラム未満のコーヒー豆抽出物又は溶出物を含むもの)が具体的な飲料として例示できる。なお、本発明の飲料は、同規約で定義される「コーヒー入り清涼飲料」(内容量100グラム中にコーヒー生豆換算で1グラム以上2.5グラム未満のコーヒー豆抽出物又は溶出物を含むもの)や「コーヒー入り炭酸飲料」(内容量100グラム中にコーヒー生豆換算で1グラム以上のコーヒー豆抽出物又は溶出物を含み二酸化炭素を圧入したもの)ではないことが好ましい。
【0012】
また、コーヒー分を原料とした飲料においても、乳固形分が3.0質量%以上のものは「飲用乳の表示に関する公正競争規約」の適用を受け、「乳飲料」として取り扱われるが、この乳固形分が3.0質量%以上の乳飲料であってコーヒー分を原料として含むものも本発明におけるコーヒー飲料に含まれるものとする。
【0013】
(コーヒー分)
コーヒー分とは、コーヒー豆から抽出又は溶出したものであって、コーヒー豆由来の成分を含有するものをいい、例えば、コーヒー抽出液、すなわち、焙煎、粉砕されたコーヒー豆を水や温水などを用いて抽出した溶液が挙げられる。また、コーヒー抽出液を濃縮したコーヒーエキスやコーヒー抽出液を乾燥したインスタントコーヒーなどを、水や温水などで適量に調整した溶液も、コーヒー分として挙げられる。
【0014】
(乳成分)
本明細書中、コーヒー分に加えて乳成分を原料として使用し、加熱殺菌工程を経て製造されるコーヒー飲料を、「乳入りコーヒー飲料」と表す。ここで、乳成分とは、コーヒー飲料に乳風味や乳感を付与するために添加される成分を指す。本発明で用いられる乳成分は、特に制限無く通常の乳類を使用することができる。例えば牛乳、羊乳、及び山羊乳等の獣乳、大豆乳、アーモンドミルク等の植物乳が挙げられ、これらを単独または2種以上を組み合わせて使用することもできる。これらのうち、獣乳は、例えば「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日)」によれば、加工方法に応じて生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、生水牛乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳、及び加工乳に分類されるが、その別を問わず、いずれも使用することができる。また、獣乳、植物乳のいずれにおいてもその形態は特に問わず、全乳、発酵乳、ホエイ、クリーム、バター、バターオイル、濃縮ホエイ、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調整粉乳、大豆粉末等種々のものが利用でき、また、粉乳、濃縮乳から還元したものも利用できる。
【0015】
本発明の乳入りコーヒー飲料は、乳成分由来のたんぱく質を含有する。乳成分由来のたんぱく質は加熱劣化臭の原因物質の一つであるが、特に特定量のコーヒー脂質と共に飲料中に含まれる場合に、これらが互いに影響しあって加熱劣化臭が強く知覚されるようになることを見出した。本発明では、乳成分由来のたんぱく質とコーヒー脂質との両方を含むことで加熱劣化臭が強く知覚されやすい状態となっているにもかかわらず、加熱劣化臭が効果的に低減された飲料を提供することができる。本発明の飲料中のたんぱく質含有量は、0.1g/100g以上であることが好ましく、0.2g/100g以上であることがより好ましく、0.3g/100g以上であることがより好ましく、0.4g/100g以上であることがさらに好ましい。飲料中のたんぱく質含有量が高過ぎると、本発明の効果を奏しにくくなることから、飲料中のたんぱく質含有量は、2.0g/100g以下であることが好ましく、1.8g/100g以下であることがより好ましく、1.6g/100g以下であることがさらに好ましい。飲料中のたんぱく質の含有量は、後述する実施例に記載の分析方法で測定することができる。
【0016】
後述するように、本発明の飲料は、特定の無機塩を使用して加熱劣化臭を低減させるものである。加熱劣化臭が低減されることにより、相対的にフレッシュな乳風味が際立つ乳入り飲料となり得る。したがって、本発明の飲料に、フレッシュな乳風味を有する成分が含まれていると、一層、本発明の効果を顕著に享受することができる。具体的には、δ-ドデカラクトン及びδ-テトラデカラクトンのいずれか1種以上を含み、好ましくはその合計含有量が2μg/100g以上である。より好ましくはδ-ドデカラクトン及びδ-テトラデカラクトンの合計含有量が5μg/100g以上であり、さらに好ましくは10μg/100g以上であり、特に好ましくは12μg/100g以上である。上限値は特に限定されないが、自然な乳風味を付与する観点からは、60μg/100g以下が好ましく、55μg/100g以下がより好ましく、50μg/100g以下がさらに好ましい。飲料中のδ-ドデカラクトン及びδ-テトラデカラクトンは、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)により測定することができる。
【0017】
本発明のコーヒー飲料におけるコーヒー分と乳成分の配合量やその割合は特に制限されず、所望する乳入りコーヒー飲料の香味を鑑みて適宜設定することができる。本発明の効果が知覚しやすいのは、通常、飲料中のコーヒー分由来の固形分が0.5~2.5質量%(好ましくは0.6~2.3質量%、より好ましくは0.7~2.0質量%)、乳成分由来の固形分が0.5~5.0質量%(好ましくは0.6~4.8質量%、より好ましくは0.7~4.6質量%、更に好ましくは0.8~4.5質量%、または0.8~2.5質量%)となる乳入りコーヒー飲料である。ここで、コーヒー分由来の固形分(本明細書中、コーヒー固形分とも表記する)とは、コーヒー分を一般的な乾燥法(凍結乾燥、蒸発乾固など)を用いて乾燥させ水分を除いた後の、乾固物の重量のことをいう。乳成分由来の固形分(本明細書中、乳固形分とも表記する)とは、無脂乳固形分と乳脂肪分の総量をいう。また、乳成分として植物乳を含む場合は、その固形分の総量(乳成分から水分を除いた後の乾固物の重量)をいう。
【0018】
(コーヒー脂質)
本発明のコーヒー飲料は、コーヒー脂質を含有する。ここで、本明細書でいう「コーヒー脂質」とは、後述する実施例に記載の方法で測定されるカーウェオールとカフェストールにパルミチン酸がエステル結合した、(A)パルミチン酸カーウェオール(略記:KwO-pal)と(B)パルミチン酸カフェストール(略記:CfO-pal)をいい、飲料中のコーヒー脂質の含有量をいう場合には、これらの合計量[(A)+(B)]をいう。これらのコーヒー脂質は、アロマオイルと呼ばれることもあるほどコーヒーの味わいや香りに影響を与え、コーヒーをリッチで優しい口当たりにする効果がある。本発明では、飲料にコーヒー脂質を含有させることで、コーヒーと乳とがそれぞれの良さを引き立て合う乳入りコーヒー飲料となる。本発明のコーヒー飲料中のコーヒー脂質含有量は、0.01~1.30mg/100g、好ましくは0.02~1.20mg/100g、より好ましくは0.03~1.10mg/100gである。コーヒー脂質の含有量は、液体クロマトグラフ-質量分析法(LC-MS/MS)により測定することができる。
【0019】
コーヒー脂質は、コーヒー豆中に約8~16%程度含まれる。コーヒー分中のコーヒー脂質の量は、コーヒー豆の抽出方法によって変化する。フレンチプレスや金属フィルターを使用した抽出では、コーヒー分中にコーヒー脂質が多く抽出されるが、ペーパーフィルター、ネル(綿)フィルター、珪藻土、ポリプロピレン製不織布を用いたフィルターカートリッジ等の多孔質ろ材を使用した抽出では、オイルがろ材に捕捉されるため、コーヒー分中のコーヒー脂質の含有量は少なくなる。本発明では、用いるコーヒー分中のコーヒー脂質含有量を予め分析しておくことで、所定量のコーヒー脂質を含有する飲料を調製することができる。また、コーヒー分を、三相遠心分離を用いて、油分、抽出液、粕の三相に分け、油分をコーヒー脂質として本発明の飲料中に適量配合することもできる。
【0020】
(加熱殺菌)
本発明のコーヒー飲料は、加熱劣化臭が低減された加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料である。ここで、本明細書における加熱殺菌とは、コーヒー分と乳成分と無機塩とを含有する調合液を高温で短時間殺菌した後、無菌条件下で殺菌処理された保存容器に充填する方法(UHT殺菌法)と、調合液を缶等の保存容器に充填した後、レトルト処理を行うレトルト殺菌法とをいう。加熱殺菌の条件は、乳入り飲料の調合液の特性や使用する保存容器に応じて適宜選択すればよいが、UHT殺菌法の場合、通常120~150℃で1~120秒間程度、好ましくは130~145℃で30~120秒間程度の条件であり、レトルト殺菌法の場合、通常110~130℃で10~30分程度、好ましくは120~125℃で10~20分間程度の条件である。
【0021】
(無機塩)
本発明は、コーヒー脂質を含有する加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料で顕著に知覚される加熱劣化臭を、特定の無機塩を用いることで効果的に低減する。ここで、本明細書でいう加熱劣化臭の低減とは、加熱劣化臭の発生が抑制されることと、発生した加熱劣化臭がマスキングされていることのいずれか一方または両方を含む。加熱劣化臭が低減された乳入りコーヒー飲料とは、無機塩を配合しない乳入りコーヒー飲料と比較して加熱劣化臭が低減されていることを意味する。
【0022】
本発明で使用する「無機塩」とは、無機酸と無機塩基からなる塩をいう。本発明では、無機塩として、少なくとも1種類のマグネシウム塩を含有し、好ましくは更に少なくとも1種類のカリウム塩及び/又は少なくとも1種類の塩化物塩を含有する。本発明者らは、カルシウム塩には本発明の効果はなく、飲料中のカルシウム含有量が高まると保存中に沈殿や凝集を起こしやすいことを確認している。したがって、前記マグネシウム塩やカリウム塩は、様々な金属元素の塩を含む各種無機塩の混合物の形態、例えば、精製されていない天然由来の各種塩を含む各種ミネラル素、(例えば、ミネラル(Mg)含有酵母、アクアミネラル、乳清ミネラル等)として添加するのではなく、以下に例示するような食品添加物としてのマグネシウム塩やカリウム塩の形態で添加することが重要である。
【0023】
本発明におけるマグネシウム塩の好ましい具体例としては、例えば、食品添加物として使用され得る塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、L-グルタミン酸マグネシウム等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、少なくとも1種類のマグネシウム塩が、塩化マグネシウムを含むことは好ましい。
【0024】
上記マグネシウム塩は、本発明のコーヒー飲料中のマグネシウム含有量が0.5mg/100g以上となるように添加する。マグネシウム塩の含有量に応じて本発明の加熱劣化臭低減効果が発現することから、マグネシウム塩は好ましくは0.6mg/100g以上、より好ましくは0.7mg/100g以上、さらに好ましくは0.8mg/100g以上、特に好ましくは0.9mg/100g以上、ことさらに好ましくは1.0mg/100g以上となるように添加する。マグネシウム塩の含有量が8.0mg/100gを超えると、本発明の加熱劣化臭低減効果が頭打ちとなり、コストが上昇するため好ましくない。また、過剰なマグネシウム塩の添加は、コーヒー飲料の香味に影響を及ぼすことがある。飲料中のマグネシウム含有量の上限は、8.0mg/100g以下であり、好ましくは6.0mg/100g以下、より好ましくは5.0mg/100g以下、さらに好ましくは4.0mg/100g以下、特に好ましくは3.0mg/100g以下、ことさらに好ましくは2.5mg/100g以下である。飲料中のマグネシウムの含有量は、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP発光分析法)により測定することができる。
【0025】
飲料中には、通常、上記無機塩として添加したもの以外にも、乳成分等の原料由来のミネラル分が存在する。本発明では、最終的に得られる飲料中のマグネシウムの含有量(原料由来のマグネシウムと、マグネシウム塩として添加したマグネシウムの両方を含む)が上記範囲となるように添加すればよい。通常、添加されるマグネシウム塩の量は、飲料全体に対して0.0005~0.1質量%、好ましくは0.0008~0.08質量%、より好ましくは0.001~0.05質量%、又は0.001~0.01質量%である。
【0026】
上述のとおり、本発明の効果はマグネシウム塩の含有量に応じて発現するが、飲料中のたんぱく質含有量に対するマグネシウム含有量の比率[マグネシウム含有量(mg)/たんぱく質含有量(g)]が所定範囲内となるようにマグネシウム塩を添加すると、効率的に効果を享受することができる。すなわち、最小量のマグネシウム塩で効果的に本発明の効果を発現させることができる。マグネシウム含有量(mg)/たんぱく質含有量(g)の好ましい範囲は1.0~7.0であり、より好ましくは1.2~6.5、さらに好ましくは1.5~6.0である。
【0027】
本発明のコーヒー飲料は、上記マグネシウム塩に加えて、無機塩であるカリウム塩を含有することが好ましい。上述したとおり、マグネシウム塩の添加だけでは加熱劣化臭低減効果が頭打ちとなる場合があるが、カリウム塩を併用すると、マグネシウム塩と相乗的に作用して、マグネシウム塩単独の場合よりも加熱劣化臭をより低減することができる。本発明におけるカリウム塩の好ましい具体例としては、例えば、塩化カリウム、リン酸カリウム、グルコン酸カリウム、クエン酸カリウム、リンゴ酸カリウム等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、塩化カリウムを含むことは好ましい。
【0028】
上記カリウム塩は、本発明のコーヒー飲料中のカリウム含有量が30mg/100g以上となるように添加することが好ましい。好ましくは50mg/100g以上、より好ましくは60mg/100g以上、さらに好ましくは70mg/100g以上である。マグネシウム塩と相乗的に作用するカリウム塩の効果も頭打ちとなることがあるので、カリウム塩の上限は好ましくは150mg/100g以下、より好ましくは140mg/100g以下、さらに好ましくは130mg/100g以下、特に好ましくは120mg/100g以下である。なお、飲料中のカリウムの含有量は、原子吸光光度法により測定することができる。
【0029】
飲料中には、通常、上記無機塩のカリウム塩として添加したもの以外にも、乳成分等の原料由来のミネラル分が存在する。本発明では、最終的に得られる飲料中のカリウム含有量(原料由来のカリウムと、カリウム塩として添加したカリウムの両方を含む)が上記範囲となるように添加すればよい。通常、添加されるカリウム塩の量は、飲料全体に対して0.0005~0.1質量%、好ましくは0.0008~0.08質量%、より好ましくは0.001~0.05質量%、さらに好ましくは0.002~0.03質量%である。相乗的効果が得られやすいことから、添加するカリウム塩は添加するマグネシウム塩に対して質量比で1~15倍程度の量であることが好ましく、1.5~10倍がより好ましく、2~8倍がさらに好ましい。
【0030】
また、本発明の飲料中の無機塩として、塩化物塩を使用することは好ましい。乳入りコーヒー飲料は、加熱殺菌後に特有のぬめりや切れ味の悪い香味が発現しやすいが、塩化物塩を飲料に添加して飲料中の塩化物イオン(Cl)の含有量が特定範囲となるように調整すると、飲料の後味のキレがよくなり、ぬめりや切れ味の悪い香味が低減される。したがって、無機塩としてマグネシウムと塩化物イオンの両方を添加することにより、塩化物イオンによる後味の改善効果とマグネシウム塩による加熱劣化臭低減作用とが相乗的又は相加的に作用して加熱殺菌済み乳入りコーヒー飲料の香味をさらに向上させることができる。本発明における塩化物塩は、飲料中にて塩化物イオンに解離するものであればよく、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の一価の金属との塩化物や、塩化マグネシウム等の二価の金属との塩化物が挙げられ、これらのうち少なくとも1種を含有することができる。中でも、塩化マグネシウム、塩化カリウムは好ましい。
【0031】
上記塩化物塩は、本発明のコーヒー飲料中の塩化物イオン含有量が5~50mg/100g、好ましくは8~40mg/100g、より好ましくは10~30mg/100gとなるように添加することが好ましい。飲料中の塩化物イオン含有量は、電位差滴定法で分析することが可能である。
【0032】
飲料中には、上記塩化物塩以外の原料由来の塩化物イオンが含まれることがある。本発明では、最終的に得られる飲料中の塩化物イオン含有量(塩化物塩由来の塩化物イオンと、塩化物塩以外の原料由来の塩化物イオンの両方を含む)が上記範囲となるように添加すればよい。通常、添加される塩化物塩の量は、飲料全体に対して0.0005~0.1質量%、好ましくは0.0008~0.08質量%、より好ましくは0.001~0.05質量%程度である。
【0033】
本発明では、上述の通り、マグネシウム塩を含む無機塩(好ましくはさらにカリウム塩含む無機塩であり、及び/又は塩化物を含む無機塩である)をコーヒー飲料に添加することで、乳成分とコーヒー脂質とを含有しながらも加熱劣化臭が低減されたコーヒー飲料を得ることができる。上述の通り、マグネシウム、カリウム、及び塩化物イオンは、無機塩以外の原料(例えば乳成分など)からも飲料中に持ち込まれ得るが、本発明では、飲料に、「無機塩」(食品添加物として使用され得るマグネシウム塩やカリウム塩)を添加することが重要である。
【0034】
本発明は、別の観点から言えば、飲料にマグネシウム塩を含む無機塩(好ましくはさらにカリウム塩含む無機塩であり、及び/又は塩化物を含む無機塩である)を添加することを含む、加熱劣化臭が低減された乳入りコーヒー飲料の製造方法であるとも言える。無機塩は、飲料の加熱殺菌を行う前であればいずれの段階で添加してもよい。飲料に無機塩を添加する際には、飲料中のマグネシウム含有量(好ましくはさらにカリウム含有量及び/又は塩化物イオン含有量)が上述した範囲内となるように添加する。これにより、無機塩が添加されていない場合に比べて、加熱劣化臭が低減された、乳入りコーヒー飲料を提供することができる。
【0035】
(pH調整剤)
常温で長期保存可能な容器詰コーヒー飲料には、通常、殺菌時におけるpH低下を緩和する目的でpH調整剤が配合される。このpH調整剤に由来する塩味、ぬめり、キレ味の悪さが加熱劣化臭を増強する一因となり得る。本発明の無機塩を含有するコーヒー飲料は、このようなpH調整剤を含有するコーヒー飲料における加熱劣化臭の低減に対しても顕著に効果を発現する。したがって、pH調整剤を含有する飲料は、本発明の好ましい態様の一つである。ここで、pH調整剤としては、殺菌時におけるpH低下を緩和しうる成分で、水に溶解した時にアルカリ性を示す物質、具体的には、炭酸水素ナトリウム(重曹)、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウムなどが用いられる。中でも、少なくとも1種類のナトリウム塩を用いることが好ましい。ナトリウム塩を用いた場合、所望するpHの他、飲料中のナトリウム含有量が35~80mg/100g或いは飲料中のナトリウムに対するマグネシウムの比率[マグネシウム含有量/ナトリウム含有量](質量比)が0.007~0.175となるようにすると、より一層、本発明の効果を顕著に享受できる。なお、本発明のコーヒー飲料のpHは、5.5~7.5であることが好ましく、6.0~7.0であることがより好ましい。
【0036】
(その他成分)
その他、本発明のコーヒー飲料には、本発明の所期の目的を逸脱しない範囲であれば、上記成分に加え、飲料に一般的に配合される成分、例えば、甘味成分、酸化防止剤、香料、ビタミン、乳化剤、増粘安定剤等を適宜添加することができる。
【0037】
本発明の効果を顕著に享受できる観点から、甘味成分や乳化剤を含有するコーヒー飲料が好適な態様として例示できる。ここで、甘味成分とは甘味を呈する成分のことをいう。具体的には、黒砂糖、白下糖、カソナード(赤砂糖)、和三盆、ソルガム糖、メープルシュガーなどの含蜜糖、ザラメ糖(白双糖、中双糖、グラニュー糖など)、車糖(上白糖、三温糖など)、加工糖(角砂糖、氷砂糖、粉砂糖、顆粒糖など)、液糖などの精製糖、単糖類(ぶどう糖、果糖、木糖、ソルボース、ガラクトース、異性化糖など)、二糖類(蔗糖 、麦芽糖、乳糖、異性化乳糖、パラチノースなど)、オリゴ糖類(フラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、カップリングシュガーなど)、糖アルコール類(エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール、マルトトリイトール、イソマルトトリイトール、パニトール、オリゴ糖アルコール、粉末還元麦芽糖水飴)などのような糖質甘味料の他、天然非糖質甘味料(ステビア抽出物、カンゾウ抽出物等)や合成非糖質甘味料(アスパルテーム、アセスルファムK等)のような高甘味度甘味料などの甘味料が挙げられる。中でも二糖類が好適であり、特に蔗糖が好適である。乳化剤とは、乳化の効果を持つ添加物のことをいい、例えば、カゼインNa、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられるが、中でもカゼインNaが好適である。
【0038】
近年、寒天、ゼラチン、その他ゲル化剤を使用した容器入りゼリー飲料が多数開発されている。ここで、ゼリー飲料とは、容器の外から力を加えることで、当該容器内のゼリーを崩壊させて飲用するものであり、固体又は半固体状の形態である。このような固体又は半固体状のゼリー飲料は、液体の飲料と比較すると、香りそのものが知覚されにくいので、本発明の課題となる加熱劣化臭も比較的知覚されにくく問題とならないことがある。固体又は半固体状のゼリー飲料では、本発明の加熱劣化臭の低減の効果をそもそも知覚し難いことから、本発明のコーヒー飲料は、ゲル化剤を含まないことが好ましく、ゼリー飲料でないことが好ましい。ここで、ゲル化剤としては、例えば、ゼラチン、ペクチン、カラギナン、ローカストビーンガム、寒天、脱アシルジェランガム、ネイティブジェランガム、グルコマンナン、キサンタンガム、グアーガム、タラガムおよびアルギン酸塩等が挙げられる。同様に、増粘多糖類を用いて粘度を付けて飲み応えが付与されたような飲料も、加熱劣化臭がそもそも問題となり難いことから、本発明のコーヒー飲料は、増粘多糖類を含まないことが好ましい。増粘多糖類としては、例えば、ゼラチン、ペクチン、カラギナン、ガラクトマンナン、大豆多糖類、脱アシルジェランガム、ネイティブジェランガム、グルコマンナン、キサンタンガム、グアーガム、タマリンドシードガム、タマリンドカム、アラビアガム、タラガムおよびアルギン酸塩等が挙げられる。
【実施例0039】
以下、実験例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、本明細書において、特に記載しない限り、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0040】
<成分分析>
(1)マグネシウム含有量
「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)別添 栄養成分等の分析方法等」に記載されているマグネシウムの分析方法に従い、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP発光分析法)を用いて測定した。
【0041】
(2)カリウム含有量
「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)別添 栄養成分等の分析方法等」に記載されているカリウムの分析方法に従い、前処理方法として塩酸抽出法を、測定方法として原子吸光光度法を用いて測定した。
【0042】
(3)塩化物イオン含有量
試料に、測定電極である白金指示電極と比較電極を挿入し、撹拌しながら硝酸銀標準溶液で滴定して塩化物イオン濃度を分析する電位差滴定法を用い、下記式により求めた:
塩化物イオン含有量 (mg/100g)=M×F×1.7725×100÷S
M:滴定に要した0.05 mol/L 硝酸銀標準溶液量 (mL)
F:滴定に使用した0.05 mol/L 硝酸銀標準溶液のファクター
S:試料のサンプリング量 (g)
1.7725:0.05 mol/L 硝酸銀標準溶液1mLあたりの塩化物イオン量 (mg)。
(4)たんぱく質含有量
「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)別添 栄養成分等の分析方法等」に記載されているケルダール法にて分析し、下記式により求めた:
たんぱく質含有量(g/100g)=(V-B)×F×0.0014×K×100÷S
V:本試験滴定量(mL)
B:空試験滴定量(mL)
F:0.05mol/L硫酸標準溶液のファクター
K:窒素・たんぱく質換算係数
S:試料のサンプリング量 (g)
0.0014:0.05mol/L硫酸標準溶液1mLに対する窒素量(g)。
【0043】
(5)コーヒー脂質含有量
試料2gをガラス製遠沈管にとり、アセトニトリル4mlを加えて、ボルテックスミキサーで1分間攪拌した。これを遠心機で遠心(1680×g、30分、20℃)し、上清を10mlメスフラスコに移した。遠沈管にエタノール2mlを加え、沈殿物をピペット先端で潰して拡散させた。これを超音波洗浄機に15分かけて不溶物をさらに拡散させ、ボルテックスミキサーで1分間攪拌し、遠心機で遠心(1680×g、30分、20℃)して、上清を10mlメスフラスコに移した。同様のエタノールによる抽出作業を、さらに1回行った。抽出液を回収した10mlメスフラスコをエタノールでメスアップし、よく混ぜた液をPTFE製メンブレンフィルター(東洋濾紙社製、孔径0.2μm、直径25mm)で濾過し、分析試料とした。分析試料をLC-MS/MSに供し、コーヒー脂質含有量を測定した。LC-MS/MSの分析条件は以下の通り。
[使用機種]
・MS:4000QTRAP(AB Sciex社製)
・LC:1290Infinity(Agilent Technologies社製)
[LC条件]
・移動相:(A)0.1%ギ酸水溶液、(B)エタノール
・流速:0.4ml/分
・グラジエント条件:0-1分(80%B)、1-5分(80-100%B)、5-7.5分(100%B)、初期移動相による平衡化2.5分
・カラム:Agilent Technologies社製、Zorbax Eclipse Plus RRHD C18(1.8μm、2.1×150mm)
・カラム温度:45℃
・導入量:1μl
[MS条件]
・イオン源:Heated Nebulizer
・CUR:20
・CAD:Medium
・NC:5
・TEM:400
・GS1:40
・ihe:ON
・切り替えバルブ条件:カラムを通過した移動相のうち、4.5-5.8分のみをMSに導入した
[MRM条件]
・パルミチン酸カーウェオール:535.41→279.17(Q1→Q3)
・パルミチン酸カフェストール:537.43→281.19(Q1→Q3)
・DP:95
・EP:10
・CE:21
・CXP:12
本実施例においては、上記条件でパルミチン酸カーウェオール標準品(MP Biomedicals社製)およびパルミチン酸カフェストール標準品(LKT Labs社製)を分析して検量線をあらかじめ作成し、試料中のパルミチン酸カーウェオール(KwO-pal)およびパルミチン酸カフェストール(CfO-pal)を定量した。上記条件におけるパルミチン酸カーウェオールの溶出時間は5.1分、パルミチン酸カフェストールの溶出時間は5.2分であった。パルミチン酸カーウェオールとパルミチン酸カフェストールの合計含有量をコーヒー脂質含有量とした。
【0044】
(6)香気分析(δ-ドデカラクトン及びδ-テトラデカラクトン)含有量
試料5mlをネジ付き20ml容ガラス瓶(直径18mm、ゲステル社製)に入れてPTFE製セプタム付き金属蓋(ゲステル社製)にて密栓し、固相マイクロ抽出法(SPME)にて香気成分の抽出を行った。定量は、GC/MSのEICモードにて検出されたピーク面積を用い、標準添加法にて行った。分析条件は以下の通り。
[SPME]
・SPMEファイバー:DVB/Carboxen/PDMS製、2cm
・成分抽出:60℃40分間
[GC/MS]
・分析装置:GC/MS Triple Quad7000(Agilent Technologies社製)
・キャリアーガス:ヘリウム、36cm/秒
・カラム:VF-WAXms(Agilent Technologies社製;60m×0.25mm、0.50μm)
・GC温度条件:40℃(5分間)→15℃/分→250℃(10分間)
δ-ドデカラクトン及びδ-テトラデカラクトンの定量では、それぞれの標準品(それぞれ、市販試薬)を用いた標準添加法により検出値を算出した。
【0045】
実験例1-1 マグネシウム塩による加熱臭低減効果(1)
エチオピア産アラビカ種の焙煎豆(L値20)を中挽きした焙煎コーヒー豆の粉砕物を円筒状抽出塔(カラム)4本に1塔当たりの充填量が4.0kgとなるように充填し、110℃の熱水を送液して連続多段抽出(SV:1[h-1]、BV:111[v/v])を行ってBrixが7.9、pH5.5のコーヒー抽出液(コーヒー脂質含有量:6.3mg/100g)を得た。この抽出液(コーヒー分)に表1に示す牛乳(乳成分)、塩化マグネシウム・6水和物(無機塩)、炭酸水素ナトリウム(pH調整剤)、砂糖(甘味成分)、カゼインナトリウムやショ糖脂肪酸エステル(乳化剤)、及び香料を混合して全量が1000gとなるように加水して均質化処理し、調合液を得た。これを190g缶に充填した後、125℃、20分間の加熱殺菌を行って、加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料(pH6.5)を製造して20℃に冷却した。
【0046】
【表1】
【0047】
得られた加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料について、各種成分分析を行うとともに、専門パネル10名で加熱劣化臭の強さを官能評価した。各パネルが、対照(No.1-1)と比較して加熱劣化臭が低減されているか否かを評価し、評価した人数によって以下5段階の評価とした。
【0048】
・5点:パネル全員(10名)が対照と比較して加熱劣化臭が弱いと感じる
・4点:パネルの過半数(7~9名)が対照と比較して加熱劣化臭が弱いと感じる
・3点:パネルのおよそ半数(5~6名)が対照と比較して加熱劣化臭が弱いと感じる
・2点:パネルの半数未満(2~4名)が対照と比較して加熱劣化臭が弱いと感じる
・1点:パネルの0~1名のみが対照と比較して加熱劣化臭が弱いと感じる
表2に結果を示す。塩化マグネシウムを配合することで、加熱劣化臭が低減することが判明した。
【0049】
【表2】
【0050】
実験例1-2 マグネシウム塩による加熱臭低減効果(2)
表3に示す処方のとおり、牛乳及びコーヒー抽出液等の配合量を変える以外は、実験例1-1と同様にして加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料(pH6.6)を製造し、No.1-4を対照として実験例1-1と同様に評価した。表4に結果を示す。コーヒー分や乳成分の含有量が多くなった場合にも塩化マグネシウムを添加することで、加熱劣化臭が低減された。No.1-8の飲料では、加熱劣化臭は低減されているが、マグネシウムに起因するようなえぐ味を感じると評価したパネルが存在した。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
実験例1-3 マグネシウム塩による加熱臭低減効果(3)
表5に示す処方のとおり、乳成分としてさらに脱脂粉乳を用いること以外は、実験例1-1と同様にして加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料(pH6.6)を製造し、No.1-9を対照として評価した。表6に結果を示す。乳成分が多くなった場合にも、塩化マグネシウムを添加することで、加熱劣化臭が低減された。No.1-11の飲料では、加熱劣化臭は低減されているが、マグネシウムに起因するようなえぐ味を感じると評価したパネルが存在した。
【0054】
【表5】
【0055】
【表6】
【0056】
実験例1-4 マグネシウム塩による加熱臭低減効果(4)
表7に示すように、実験例.1-1のNo.1-1処方に、さらに市販のコーヒーオイルを添加すること以外は、実験例1-1と同様にして加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料(pH6.5)を製造し、評価した。コーヒーオイルは、アラビカ種の焙煎コーヒー豆から二酸化炭素抽出して得られたオイル(粗精製品)である。表8に結果を示す。No.1-1の飲料と比較して、コーヒー脂質が多くなった飲料(No.1-12、1-14)は、パネル全員が加熱劣化臭が強くなったと知覚した。このコーヒー脂質がNo.1-1よりも多い場合にも、No.1-13では、塩化マグネシウムを添加することで、加熱劣化臭が低減されることが確認できた。しかし、コーヒー脂質含有量が1.5mg/100gを超える飲料(No.1-15)では、マグネシウム塩による加熱臭低減効果を感じるパネルは半数未満であった。
【0057】
【表7】
【0058】
【表8】
【0059】
実験例2-1 カリウム塩による加熱臭低減効果(1)
実験例1-2のNo.1-4の処方を対照として、さらに表9に示す量の塩化カリウムを添加すること以外は、実験例1-1と同様にして加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料(pH6.5)を製造し、評価した。表10に結果を示す。塩化マグネシウムを添加せず塩化カリウムのみを添加した飲料(試料No.2-3)では、加熱劣化臭低減効果が確認されなかった。一方、塩化マグネシウムと塩化カリウムを併用した飲料(試料No.2-4~2-8)は、顕著に加熱劣化臭が低減された。塩化マグネシウムのみを添加した場合(No.2-2)と比較して、一定量以上の塩化カリウムを併用した場合(No.2-4、2-6~2-8)には、より高い加熱劣化臭の低減効果が得られた。このマグネシウム塩とカリウム塩を併用したミルク入りコーヒー飲料は、加熱劣化臭が低減されることにより、相対的にフレッシュな乳風味が際立つ乳入り飲料となった。
【0060】
【表9】
【0061】
【表10】
【0062】
実験例2-2 カリウム塩による加熱臭低減効果(2)
実験例1-3のNo.1-9の脱脂粉乳が処方された飲料を対照として、さらに表11に示す量の塩化マグネシウム及び/又は塩化カリウムを添加する以外は、実験例1-1と同様にして加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料(pH6.6)を製造し、評価した。表12に結果を示す。乳成分の含有量が高い場合にも、マグネシウム塩にカリウム塩を併用することで、より顕著な加熱臭低減効果が得られた。そして、フレッシュな乳風味が際立つ乳入りコーヒー飲料となった。
【0063】
【表11】
【0064】
【表12】
【0065】
実験例3 塩化物以外のマグネシウム塩及びカリウム塩による加熱臭低減効果
実験例2-2のNo.2-13の飲料に配合された無機塩を、表13に示す種類及び量のマグネシウム塩、カリウム塩、及びナトリウム塩に変える以外は、実験例2-2と同様にして加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料(pH6.6)を製造し、No.2-9を対照として評価した。表14に結果を示す。マグネシウム塩とカリウム塩の併用により、高い加熱臭低減効果が得られたが、無機塩として塩化物を用いなかった場合(試料No.3-5)は、塩化物を用いた場合よりも効果が小さいと評価する者が若干名存在した。
【0066】
【表13】
【0067】
【表14】
【0068】
実験例4 マグネシウム塩及びカリウム塩による加熱臭低減効果(3)
市販の190g缶入りの乳入りコーヒー飲料A(種別:コーヒー、原材料:牛乳、コーヒー、砂糖、乳製品、デキストリン/カゼインNa、乳化剤、香料、甘味料(アセスルファムK)と、市販のPETボトル入りの乳入りコーヒー飲料B(種別:コーヒー飲料、原材料:牛乳(国内製造)、砂糖、コーヒー、乳製品、デキストリン/香料、乳化剤、カゼインNa)とを用いた。市販品A及びBを開封し、表15に示す量の無機塩を添加して良く攪拌し、溶解させた。無機塩を添加していない飲料(いわゆる市販品A及びB)を対照として、加熱劣化臭の強さを評価した。また、無機塩を添加した飲料185gずつを190g缶に充填し、巻締めして湯浴中に水没させて(いわゆる「どぶ漬け」)加熱殺菌を行い、再度、開封してその風味を評価した。表15に結果を示す。加熱殺菌済みの乳入りコーヒー飲料にマグネシウム塩及びカリウム塩を添加することで、再加熱(加熱殺菌)した場合でも、乳入りコーヒー飲料の加熱劣化臭を効果的に低減できた。
【0069】
【表15】