IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 一般財団法人日本きのこセンターの特許一覧 ▶ 鳥取県の特許一覧

特開2024-111447ブクリョウの栽培方法及びブクリョウ栽培用基材
<>
  • 特開-ブクリョウの栽培方法及びブクリョウ栽培用基材 図1
  • 特開-ブクリョウの栽培方法及びブクリョウ栽培用基材 図2
  • 特開-ブクリョウの栽培方法及びブクリョウ栽培用基材 図3
  • 特開-ブクリョウの栽培方法及びブクリョウ栽培用基材 図4
  • 特開-ブクリョウの栽培方法及びブクリョウ栽培用基材 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111447
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】ブクリョウの栽培方法及びブクリョウ栽培用基材
(51)【国際特許分類】
   A01G 18/20 20180101AFI20240809BHJP
   A01G 18/50 20180101ALI20240809BHJP
   A01G 18/40 20180101ALI20240809BHJP
   C12N 1/14 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
A01G18/20
A01G18/50
A01G18/40
C12N1/14 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015964
(22)【出願日】2023-02-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 集会名:漢方産業化推進研究会 令和4年度12月会員向けセミナー、開催場所:四谷スポーツスクエア(東京都新宿区四谷1丁目6-4)及びオンライン(WEB会議システムZoom)、開催日:令和4年12月2日 アドレス:https://kampo-promotion.jp/news/2022/12/20221213160531.html、掲載日:令和4年12月13日
(71)【出願人】
【識別番号】391000519
【氏名又は名称】一般財団法人日本きのこセンター
(71)【出願人】
【識別番号】592072791
【氏名又は名称】鳥取県
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100145229
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 雅則
(72)【発明者】
【氏名】奥田 康仁
(72)【発明者】
【氏名】福島 えみ
【テーマコード(参考)】
2B011
4B065
【Fターム(参考)】
2B011AA07
2B011BA01
2B011BA05
2B011BA06
2B011BA10
2B011BA13
2B011GA04
2B011GA10
2B011GA12
2B011KA04
2B011MA01
4B065AA57X
4B065BB26
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】容易に入手できる原木を用いてブクリョウの収量を増大させることができるブクリョウの栽培方法及びブクリョウ栽培用基材を提供する。
【解決手段】ブクリョウの栽培方法は、ブナ科の広葉樹の原木にマツホドの種菌を接種する種菌接種工程S1と、マツホドの種菌を培養し、原木に菌糸を形成させる種菌培養工程S2と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブナ科の広葉樹の原木にマツホドの種菌を接種する種菌接種工程と、
前記マツホドの種菌を培養し、前記原木に菌糸を形成させる種菌培養工程と、
を含む、ブクリョウの栽培方法。
【請求項2】
前記種菌培養工程において形成されたブクリョウを採取後の前記原木で、前記種菌接種工程及び前記種菌培養工程をさらに行う、
請求項1に記載のブクリョウの栽培方法。
【請求項3】
前記菌糸が形成された前記原木にマツホドの菌核を接種する菌核接種工程と、
前記菌核を培養する菌核培養工程と、
をさらに含む、請求項1に記載のブクリョウの栽培方法。
【請求項4】
前記菌核培養工程において形成されたブクリョウを採取後の前記原木で、前記種菌接種工程、前記種菌培養工程、前記菌核接種工程及び前記菌核培養工程をさらに行う、
請求項3に記載のブクリョウの栽培方法。
【請求項5】
前記菌核培養工程において形成されたブクリョウを採取後の前記原木で、前記菌核接種工程及び前記菌核培養工程をさらに行う、
請求項3に記載のブクリョウの栽培方法。
【請求項6】
前記菌核培養工程において形成されたブクリョウを採取後に前記原木を滅菌してから前記菌核接種工程及び前記菌核培養工程をさらに行う、
請求項3に記載のブクリョウの栽培方法。
【請求項7】
前記種菌接種工程では、前記原木を滅菌してから前記原木に前記マツホドの種菌を接種する、
請求項1から6のいずれか一項に記載のブクリョウの栽培方法。
【請求項8】
前記広葉樹はコナラ、クヌギ又はアベマキである、
請求項1から6のいずれか一項に記載のブクリョウの栽培方法。
【請求項9】
ブナ科の広葉樹の原木を備える、
ブクリョウ栽培用基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブクリョウの栽培方法及びブクリョウ栽培用基材に関する。
【背景技術】
【0002】
マツホド(Wolfiporia cocos Ryvarden et Gilbertson、Wolfiporia extensa又はPoria cocos)は、サルノコシカケ科のきのこである。マツホドの菌核は利尿や鎮静の効果がある生薬“茯苓(ブクリョウ)”として知られている。日本国内で使用されるブクリョウの99.8%は中国産である。近年、輸入されたブクリョウに殺虫剤及び除草剤等の農薬が検出されることがあり、安全性が懸念されている。また、中国における急激な人口増加及び健康志向の高まりによって、ブクリョウの価格が高騰している。
【0003】
中国において広く行われているブクリョウの栽培方法は、伐採原木に野外で種菌を接種して栽培する未滅菌原木栽培である。未滅菌原木栽培は、滅菌の工程を含まない粗放的な手法である。このため、天候の影響及び害虫の発生等の問題が発生しやすくブクリョウの収量が少なくなることがある。
【0004】
一方、滅菌原木栽培は伐採原木を滅菌後、種菌を接種し、屋内で無菌的に栽培する方法である。例えば、特許文献1にはアカマツのオガクズを基材として使用するブクリョウの人工栽培方法が開示されている。特許文献2には、輪切りにしたマツ原木を袋に入れて、無菌化した条件下で種菌を接種及び培養して菌核を袋内で得ることを特徴とするブクリョウの人工栽培方法が開示されている。また、特許文献3では、伐採後4か月以上経過したスギ原木を使用したブクリョウの栽培方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/156759号
【特許文献2】特開2000-092986号公報
【特許文献3】特開2021-122238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2では、基材及び原木にマツ又はスギ等を使用することが提案されている。マツ及びスギ等には、抗菌性物質が含まれる。抗菌性物質によって、菌糸の伸長が阻害され、菌核の成長が抑制されるおそれがある。この結果として、ブクリョウの収量が低下してしまう。
【0007】
特許文献3に開示された栽培方法によれば、ブクリョウの収量を増大させることができるが、原木を伐採後、使用できるまで長期間を要するという不都合があった。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、容易に入手できる原木を用いてブクリョウの収量を増大させることができるブクリョウの栽培方法及びブクリョウ栽培用基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点に係るブクリョウの栽培方法は、
ブナ科の広葉樹の原木にマツホドの種菌を接種する種菌接種工程と、
前記マツホドの種菌を培養し、前原木に菌糸を形成させる種菌培養工程と、
を含む。
【0010】
この場合、上記本発明の第1の観点に係るブクリョウの栽培方法では、
前記種菌培養工程において形成されたブクリョウを採取後の前記原木で、前記種菌接種工程及び前記種菌培養工程をさらに行う、
こととしてもよい。
【0011】
また、上記本発明の第1の観点に係るブクリョウの栽培方法は、
前記菌糸が形成された前記原木にマツホドの菌核を接種する菌核接種工程と、
前記菌核を培養する菌核培養工程と、
をさらに含む、
こととしてもよい。
【0012】
また、上記本発明の第1の観点に係るブクリョウの栽培方法では、
前記菌核培養工程において形成されたブクリョウを採取後の前記原木で、前記種菌接種工程、前記種菌培養工程、前記菌核接種工程及び前記菌核培養工程をさらに行う、
こととしてもよい。
【0013】
また、上記本発明の第1の観点に係るブクリョウの栽培方法では、
前記菌核培養工程において形成されたブクリョウを採取後の前記原木で、前記菌核接種工程及び前記菌核培養工程をさらに行う、
こととしてもよい。
【0014】
また、上記本発明の第1の観点に係るブクリョウの栽培方法では、
前記菌核培養工程において形成されたブクリョウを採取後に前記原木を滅菌してから前記菌核接種工程及び前記菌核培養工程をさらに行う、
こととしてもよい。
【0015】
また、前記種菌接種工程では、前記原木を滅菌してから前記原木に前記マツホドの種菌を接種する、
こととしてもよい。
【0016】
また、前記広葉樹はコナラ、クヌギ又はアベマキである、
こととしてもよい。
【0017】
本発明の第2の観点に係るブクリョウ栽培用基材は、
ブナ科の広葉樹の原木を備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、容易に入手できる原木を用いてブクリョウの収量を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態1に係るブクリョウの栽培方法のフローチャートを示す図である。
図2】実施の形態3に係るブクリョウの栽培方法のフローチャートを示す図である。
図3】実施例2におけるポリコ酸A(a)、ポリポレン酸C(b)、ヒドロキシトラメテノール酸(c)及びパキマ酸(d)の含有量を示す図である。
図4】実施例2におけるポリコ酸B(a)、トラメテノール酸(b)、ヒドロキシデヒドロトラメテノール酸(c)、デヒドロエブリコ酸(d)及びエブリコ酸(e)の含有量を示す図である。
図5】実施例2における合計トリテルペン酸含有量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は下記の実施の形態及び図面によって限定されるものではない。なお、下記の実施の形態において、“有する”、“含む”又は“含有する”といった表現は、“からなる”又は“から構成される”という意味も包含する。
【0021】
(実施の形態1)
本実施の形態に係るブクリョウの栽培方法は、図1に示すように、種菌接種工程(ステップS1)と、種菌培養工程(ステップS2)と、を含む。原木としては、ブクリョウの栽培に使用できる任意の原木が使用できる。原木は、好ましくは広葉樹の原木である。さらに好ましくは、原木は、ブナ科の広葉樹の原木である。ブナ科の広葉樹としては、コナラ、クヌギ及びアベマキ等が挙げられる。
【0022】
原木は、伐採後の経過期間が4か月未満のものを使用してもよい。伐採後の経過期間は、4か月未満であればとくに限定されないが、伐採直後、1日、1週間、10日、1か月、2か月又は3か月であってもよい。好ましくは伐採後の経過期間が10日未満である原木を用いる。
【0023】
種菌接種工程では、原木にマツホドの種菌を接種する。マツホドの種菌は、野生から採取してもよいし、ATCC(American Type Culture Collection)及び農業生物資源ジーンバンク(NIAS Genebank)等の保存機関から入手してもよい。マツホドの種菌の原木への接種は公知の方法で行えばよい。
【0024】
種菌培養工程では、マツホドの種菌を培養し、原木に菌糸を形成させる。培養の温度は、例えば20~32℃、より好ましくは22~30℃、特に好ましくは23℃である。培養時の湿度は60%以上とすることが好ましい。マツホドの種菌の培養は明下で行ってもよいが、好ましくは暗下で行う。種菌接種工程は、原木を任意の容器に入れて行ってもよい。原木を容器に保持する場合、雑菌及び害虫の侵入を防ぐため、容器に封をすることが好ましい。
【0025】
マツホドの種菌を一定期間以上、例えば20日以上培養することにより、菌糸が原木表面に繁茂する。菌糸同士が密着し、内部の水分が抜けて組織が硬く密になると菌核、すなわちブクリョウが形成される。種菌培養工程で形成されたブクリョウは、収穫して皮を剥いで乾燥させてもよい。
【0026】
上記ブクリョウの栽培方法では、原木はコナラ、クヌギ及びアベマキ等のブナ科の広葉樹であってもよいこととした。ブクリョウの栽培にはマツが用いられることが多いが、日本国内においてはブクリョウの栽培のためにマツを安定的に供給することが難しいことが予想される。コナラ、クヌギ及びアベマキはシイタケの栽培に使用される原木として流通するため、入手が容易であり、マツに比べ、コストを抑制することができる。上記ブクリョウの栽培方法によれば、下記実施例に示すようにブクリョウの収量を増大させることができる。
【0027】
なお、本実施の形態に係るブクリョウの栽培方法では、種菌培養工程において形成されたブクリョウを採取後の原木で、種菌接種工程及び種菌培養工程をさらに行ってもよい。これにより原木を有効に再利用することができる。原木の再利用は、森林資源の保護の観点で有利である。
【0028】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。本実施の形態に係るブクリョウの栽培方法では、種菌接種工程において、原木を滅菌してから原木にマツホドの種菌を接種する。
【0029】
滅菌での操作性を考慮して、原木は伐採直後又は滅菌の直前に任意の大きさに切断してもよい。好ましくは、任意の容器に入れた状態で原木を滅菌する。容器の容量に応じて、原木の大きさは適宜調整され、1個の原木を割って容器に入れてもよい。また、1個の容器に1個又は複数個の原木を入れてもよい。
【0030】
滅菌の条件は、原木の種類及び原木の量に応じて設定される。原木の滅菌は、例えば高圧蒸気で滅菌される。滅菌の温度は、80~150℃、85~140℃、90~130℃又は95~120℃である。滅菌には複数の温度を用いてもよく、例えば、90~110℃又は95~105℃の第1の温度を所定時間維持することで滅菌し、続いて第1の温度より高温の100~140℃又は110~130℃の第2の温度を維持して滅菌してもよい。滅菌時間は、例えば0.5~4時間、1~3時間又は1.5~2時間である。好ましくは、滅菌後に、例えば室温まで原木を冷却する。原木を高温で滅菌する場合、原木を保持する容器としては、例えば耐熱袋が好ましい。
【0031】
コナラ、クヌギ及びアベマキ等のブナ科の広葉樹の原木は、樹液(ヤニ)をほとんど含まないため、高温で滅菌した場合に熱せられた樹液により原木を保持する耐熱袋が溶けてしまう虞がない。したがって、例えばスギ原木を使用した場合のように伐採後長期間経過させて原木のヤニを減少させる必要がないし、耐熱袋を二重にする等の措置をとる必要がなく、ブクリョウの製造にかかる時間及びコストを減少させることができる。
【0032】
本実施の形態における種菌接種工程では、滅菌した原木にマツホドの種菌を接種する。この場合、クリーンベンチ等の無菌設備で原木にマツホドの種菌を接種するのが好ましい。種菌の培養中は、雑菌及び害虫の侵入を防ぐため、耐熱袋に封をすることが好ましい。原木を入れた耐熱袋を別の耐熱袋に入れて原木を滅菌した場合、その状態を維持したまま、種菌接種工程において原木にマツホドの種菌を接種するのが好ましい。
【0033】
なお、種菌培養工程において形成されたブクリョウを採取後の原木で、種菌接種工程及び種菌培養工程をさらに行う場合も、種菌接種工程において、原木を滅菌してから原木にマツホドの種菌を接種してもよい。原木を滅菌することで、再利用される原木における雑菌を除去し、ブクリョウの収量を増大させることができる。
【0034】
(実施の形態3)
本実施の形態に係るブクリョウの栽培方法は、図2に示すように、上記実施の形態1又は実施の形態2で説明した種菌接種工程(ステップS1)及び種菌培養工程(ステップS2)に加え、菌核接種工程(ステップS3)と、菌核培養工程(ステップS4)とを含む。本実施の形態に係るブクリョウの栽培方法における種菌接種工程及び種菌培養工程は、上記実施の形態1又は実施の形態2と同様である。以下では、菌核接種工程及び菌核培養工程について主に説明する。
【0035】
菌核接種工程では、菌糸が形成された原木にマツホドの菌核(ブクリョウ菌核ともいう)を接種する。菌核の接種では、種菌培養工程で菌糸が形成された原木に菌核を載置すればよい。菌核の量は特に限定されないが、例えば、5~40g又は10~30gである。菌核は、未成熟であっても成熟していてもよい。菌核には皮がついたままでもよいが、皮を除去してもよい。菌核は、1個の原木に1個接種しても複数個接種してもよい。
【0036】
菌核培養工程では、菌核を培養する。菌核を培養する際の温度は、20~35℃、21~30℃又は22~25℃である。菌核を培養する際の湿度は、60%以上とすることが好ましい。マツホドの菌核の培養は明下で行ってもよいが、好ましくは暗下で行う。菌核の培養中は、雑菌及び害虫の侵入を防ぐため、原木を保持する容器に封をすることが好ましい。このような条件で、例えば60~120日、好ましくは80~100日程度培養することにより、菌核が肥大化する。なお、菌核は、例えば100日以上又は半年以上に渡って、培養してもよい。
【0037】
また、本実施の形態に係るブクリョウの栽培方法では、菌核培養工程において形成されたブクリョウを採取後の原木で、種菌接種工程、種菌培養工程、菌核接種工程及び菌核培養工程をさらに行ってもよい。ブクリョウを採取した後の原木表面に菌糸があまりない場合は、原木を種菌接種工程に再利用して、原木における菌糸の形成を促すことで、ブクリョウの収量を増大させやすい。この際、雑菌が原木表面に発生している等の場合は、種菌接種工程において、原木を滅菌してから原木にマツホドの種菌を接種してもよい。
【0038】
なお、菌核培養工程において形成されたブクリョウを採取後の原木で、菌核接種工程及び菌核培養工程をさらに行ってもよい。特に、ブクリョウを採取した後の原木表面に菌糸が蔓延しており、雑菌が発生していない場合は、原木を菌核接種工程にそのまま使用すればよい。一方、雑菌が原木表面に発生している等の場合は、再利用する原木を滅菌してから当該原木にマツホドの菌核を接種してもよい。
【0039】
別の実施の形態では、ブクリョウ栽培用基材が提供される。当該ブクリョウ栽培用基材は、ブナ科の広葉樹の原木を備える。原木の大きさは特に限定されず、適宜調整される。他の実施の形態では、当該ブクリョウ栽培用基材と、容器と、を備えるブクリョウ栽培キットが提供される。容器は、特に限定されないが、耐熱性を有する素材で形成された容器が好ましい。容器は、例えば耐熱袋である。ブクリョウ栽培キットでは、ブクリョウ栽培用基材及び容器が滅菌されていてもよい。好ましくは、ブクリョウ栽培用基材は、容器内に保持されて滅菌の状態が維持されている。こうすることで、使用者は、ブクリョウ栽培用基材に対して種菌接種工程をすぐに行うことができるため、ブクリョウを効率よく栽培することができる。
【0040】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限
定されるものではない。
【実施例0041】
(実施例1)
伐採直後のコナラ原木及びクヌギ原木を、フィルター付きの耐熱袋(厚さ50μm、フィルター穴径40φ、折径325mm×ガゼット62mm×長さ450mm;ST50-TMS40φ、エフテック社製)に入る長さに切断した。切断したコナラ原木又はクヌギ原木を入れた耐熱袋をそれぞれ高圧蒸気で滅菌した。滅菌では、温度を20分かけて100℃にし、続いて20分かけて118℃にし、1時間30分間維持した。滅菌後、温度を制御できる部屋に耐熱袋を一晩静置して耐熱袋を冷却した。
【0042】
無菌操作下で、耐熱袋1個あたり、オガクズで培養したマツホド種菌(TMIC-36031株)を約30ml(20g)を耐熱袋内のコナラ原木及びクヌギ原木に接種した。フィルター付きの耐熱袋に封をし、23℃、暗下で培養した。接種から5か月後に菌核を収穫した。
【0043】
(比較例1)
伐採したスギ原木を伐採から0~2か月、2~4か月、4~6か月、6~8か月又は1
0~12か月間、風雨に曝した。当該スギ原木を、実施例1と同様の方法を用いて切断し、滅菌した。なお、滅菌時に高温になった樹液により耐熱袋に穴が開くおそれがある場合は、スギ原木を入れた耐熱袋をさらに耐熱袋に入れて滅菌を行った。続いて、実施例1と同様に、耐熱袋内のスギ原木にマツホド種菌を接種して培養し、菌核を回収した。
【0044】
(結果)
実施例1では、コナラ原木及びクヌギ原木のいずれも滅菌時に耐熱袋に穴が開くことはなかった。一方、比較例1では、伐採後0~2か月経過したスギ原木では、ほぼすべての耐熱袋に穴が開いたが、伐採後の経過期間が長くなるにつれて、穴が空いた耐熱袋の割合は減少する傾向にあった。
【0045】
実施例1における菌核の収量、及び比較例1におけるスギ原木の伐採後の経過期間ごとの菌核の収量を表1に示す。なお、表1における“耐熱袋の個数”は、比較例1においてスギ原木を入れた耐熱袋をさらに耐熱袋に入れた場合も、1個として計数した。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示すように、コナラは伐採直後の原木を使用しても、伐採後10~12か月のスギ原木を使用した場合よりも収量が多かった。伐採直後のクヌギ原木は、伐採後6~8か月のスギ原木を使用した場合と同等の収量であった。
【0048】
(実施例2)
実施例1でコナラ原木を使用して栽培したブクリョウ菌核、比較例1でスギ原木を使用して栽培したブクリョウ菌核及び中国産ブクリョウ菌核のトリテルペン酸含有量を比較した。トリテルペン酸はキノコ類に含まれる成分であり、抗酸化作用、抗炎症、抗腫瘍、抗アレルギー効果及び抗肥満効果等があることが知られている。そのため、トリテルペン酸含有量は、ブクリョウの品質の指標のひとつとすることができる。測定したトリテルペン酸は、ポリコ酸B、ポリコ酸A、トラメテノール酸、ポリポレン酸C、ヒドロキシデヒドロトラメテノール酸、デヒドロエブリコ酸、ヒドロキシトラメテノール酸、パキマ酸及びエブリコ酸である。
【0049】
各トリテルペン酸は、溶媒抽出し、高速液体クロマトグラフィにより含有量を測定した。
【0050】
(結果)
各ブクリョウ菌核におけるトリテルペン酸含有量を図3及び図4に示す。図3(a)、(b)、(c)及び(d)は、それぞれポリコ酸A、ポリポレン酸C、ヒドロキシトラメテノール酸及びパキマ酸の含有量を示す。図4(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)は、それぞれポリコ酸B、トラメテノール酸、ヒドロキシデヒドロトラメテノール酸、デヒドロエブリコ酸及びエブリコ酸の含有量を示す。図3に示す各トリテルペン酸は、コナラ原木を使用して栽培したブクリョウ菌核における含有量が、スギ原木を使用して栽培したブクリョウ菌核における含有量よりも有意に多かった成分である。特に、コナラ原木を使用して栽培したブクリョウ菌核におけるポリコ酸含有量は、スギ原木を使用して栽培したブクリョウ菌核の2倍強であった。さらに、コナラ原木を使用して栽培したブクリョウ菌核におけるパキマ酸の含有量は中国産ブクリョウよりも有意に多かった。図4に示す各トリテルペン酸は、コナラ原木を使用して栽培したブクリョウ菌核とスギ原木を使用して栽培したブクリョウ菌核において含有量に統計的有意差がなかった成分である。
【0051】
また、各ブクリョウ菌核における合計トリテルペン酸含有量を図5に示す。合計トリテルペン酸量は、測定した各トリテルペン酸の累積値として算出した。コナラ原木を使用して栽培したブクリョウ菌核における合計トリテルペン酸含有量は、スギ原木を使用して栽培したブクリョウ菌核よりも大幅に多く、中国産ブクリョウよりもやや多かった。これらのことから、コナラ原木を使用して栽培したブクリョウは、スギ原木を使用して栽培したブクリョウよりも、抗酸化作用、抗炎症、抗腫瘍、抗アレルギー効果及び抗肥満効果等のブクリョウに期待される効果が高いことが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、ブクリョウの製造に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5