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▶ 株式会社タンガロイの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111448
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】立方晶窒化硼素焼結体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/5831 20060101AFI20240809BHJP
   B23B 27/14 20060101ALN20240809BHJP
   B23B 27/20 20060101ALN20240809BHJP
【FI】
C04B35/5831
B23B27/14 B
B23B27/20
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015965
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】工藤 貴英
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046FF35
3C046FF38
3C046FF39
3C046FF41
3C046FF42
3C046FF43
3C046FF57
(57)【要約】
【課題】優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有することで、工具寿命を延長することができる立方晶窒化硼素焼結体を提供する。
【解決手段】立方晶窒化硼素と結合相とを含む立方晶窒化硼素焼結体であって、立方晶窒化硼素の含有割合は81体積%以上95体積%以下であり、結合相の含有割合は5体積%以上19体積%以下であり、結合相は、特定のAl化合物、V化合物及びCoW化合物を各々特定量含み、粒径が0.1μm以下であるAl化合物の含有割合は、Al化合物の全体100体積%に対して、10体積%以上50体積%以下である、立方晶窒化硼素焼結体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化硼素と結合相とを含む立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記立方晶窒化硼素の含有割合は、前記立方晶窒化硼素焼結体の全体100体積%に対して81体積%以上95体積%以下であり、
前記結合相の含有割合は、前記立方晶窒化硼素焼結体の全体100体積%に対して5体積%以上19体積%以下であり、
前記結合相は、Al化合物と、V化合物と、CoW化合物と、を含み、
前記Al化合物は、Al元素と、N元素、O元素、及びB元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、からなる化合物を含み、
前記V化合物は、Vを主成分とする、炭化物、窒化物、及び炭窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる化合物を含み、
前記CoW化合物は、CoWを主成分とする、炭化物及び炭窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる化合物を含み、
前記Al化合物の含有割合は、前記結合相の全体100体積%に対して、2体積%以上40体積%以下であり、
前記V化合物の含有割合は、前記結合相の全体100体積%に対して、50体積%以上95体積%以下であり、
前記CoW化合物の含有割合は、前記結合相の全体100体積%に対して、3体積%以上35体積%以下であり、
粒径が0.1μm以下であるAl化合物の含有割合は、前記Al化合物の全体100体積%に対して、10体積%以上50体積%以下である、立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項2】
粒径が0.2μm超であるAl化合物の含有割合は、前記Al化合物の全体100体積%に対して、50体積%以上80体積%以下である、請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項3】
粒径が0.1μm超0.2μm以下であるAl化合物の含有割合は、前記Al化合物の全体100体積%に対して、20体積%以下である、請求項1又は2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項4】
前記Al化合物の全体において、粒径が0.1μm以下であるAl化合物の含有割合は、粒径が0.1μm超0.2μm以下であるAl化合物の含有割合よりも体積基準で大きい、請求項1又は2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項5】
前記立方晶窒化硼素の平均粒径が、0.5μm以上3.0μm以下である、請求項1又は2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立方晶窒化硼素焼結体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
立方晶窒化硼素(以下「cBN」ともいう。)は、ダイヤモンドに次ぐ高い硬度と優れた熱伝導性を持つ。また、立方晶窒化硼素は、ダイヤモンドに比べて鉄との親和性が低いという特徴を持つ。そのため、立方晶窒化硼素と、金属やセラミックスの結合相とからなる立方晶窒化硼素焼結体は、切削工具や耐摩耗工具などに用いられている。
【0003】
焼結金属は成形性が高く、複雑な形状を有していることが多いため、工具によって加工した場合に、熱衝撃によって工具に欠損が生じ易い。また、焼結金属は硬質粒子を含むことがあるため、工具が摩耗し易い。そのため、焼結金属の加工には立方晶窒化硼素が用いられることが多く、特に、立方晶窒化硼素含有率の高い立方晶窒化硼素焼結体について多くの検討がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、cBNは40~80面積%で、結合相はα相とβ相を有し、α相は、(Ti1-xx)(C1-yy)で平均組成は、x=0.30~0.70、y=0.00~0.50で、結合相中に70~97面積%、β相は、平均粒径が0.05~0.40μmのAlの酸化物、窒化物、硼化物の一種で、結合相中に3~20面積%、α相は、A領域とB領域を有し、A領域は、(Ti1-xAxA)(C1-yAyA)で、xA=0.10~0.30、yA=0.00~0.50で、B領域は、(Ti1-xBxB)(C1-yByB)で、xB=0.70~0.90、yB=0.00~0.50で、A領域、B領域の和がα相の50面積%以上のcBN焼結体について開示されている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、(Ti1-xx)(C1-yy)(x:0.1~0.4、y:0.1~0.5):10~40容量%、Tiの炭化物、窒化物、および炭窒化物の内の1種または2種以上:2~10容量%、Vの炭化物、窒化物、および炭窒化物の内の1種または2種以上:2~10容量%、ただし、B成分+C成分:6~20容量%、A成分/B成分+C成分=1.5~7となるように含有し、残りが立方晶窒化硼素からなる高強度cBN基焼結体であって、前記cBN基焼結体製切削工具に、さらに、Al23、AlNおよびAlB2の内の1種または2種以上:1~10容量%を含有したcBN基焼結体について開示されている。
【0006】
さらに、例えば、特許文献3には、50体積%以上のcBN粒子と、Coを含む結合相とを含有し、結合相中に、Coab(0≦a≦0.95、0.05≦b≦1)を含む結合相内粒子が存在するcBN焼結体、およびcBN焼結体からなるcBNチップを備える、若しくは全体がcBN焼結体からなる切削インサート等の切削工具について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-151943号公報
【特許文献2】特開平09-136203号公報
【特許文献3】国際公開2016/084738号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年は、切削加工においてさらに高能率化が求められているため、高速化、高送り化、及び深切込み化が一層顕著になっている。このような傾向に伴い、焼結金属の高速加工においても、耐摩耗性及び耐欠損性に優れ、長い工具寿命を有することのできる立方晶窒化硼素焼結体が求められている。
【0009】
このような背景において、特許文献1に記載の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素焼結体中の立方晶窒化硼素の割合が低く耐摩耗性が未だ十分ではない。また、特許文献2及び特許文献3に記載の立方晶窒化硼素焼結体は、結合相において、V及びWの両方を含むわけではなく、靭性が十分でない場合があり、耐欠損性が低下しやすい。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有することによって、工具寿命を延長することができる立方晶窒化硼素焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は被覆切削工具の工具寿命の延長について研究を重ねたところ、立方晶窒化硼素焼結体を特定の構成にすると、その耐摩耗性及び耐欠損性を向上させることが可能となり、その結果、工具寿命を延長することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1]
立方晶窒化硼素と結合相とを含む立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記立方晶窒化硼素の含有割合は、前記立方晶窒化硼素焼結体の全体100体積%に対して81体積%以上95体積%以下であり、
前記結合相の含有割合は、前記立方晶窒化硼素焼結体の全体100体積%に対して5体積%以上19体積%以下であり、
前記結合相は、Al化合物と、V化合物と、CoW化合物と、を含み、
前記Al化合物は、Al元素と、N元素、O元素、及びB元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、からなる化合物を含み、
前記V化合物は、Vを主成分とする、炭化物、窒化物、及び炭窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる化合物を含み、
前記CoW化合物は、CoWを主成分とする、炭化物及び炭窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる化合物を含み、
前記Al化合物の含有割合は、前記結合相の全体100体積%に対して、2体積%以上40体積%以下であり、
前記V化合物の含有割合は、前記結合相の全体100体積%に対して、50体積%以上95体積%以下であり、
前記CoW化合物の含有割合は、前記結合相の全体100体積%に対して、3体積%以上35体積%以下であり、
粒径が0.1μm以下であるAl化合物の含有割合は、前記Al化合物の全体100体積%に対して、10体積%以上50体積%以下である、立方晶窒化硼素焼結体。
[2]
粒径が0.2μm超であるAl化合物の含有割合は、前記Al化合物の全体100体積%に対して、50体積%以上80体積%以下である、[1]に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
[3]
粒径が0.1μm超0.2μm以下であるAl化合物の含有割合は、前記Al化合物の全体100体積%に対して、20体積%以下である、[1]又は[2]に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
[4]
前記Al化合物の全体において、粒径が0.1μm以下であるAl化合物の含有割合は、粒径が0.1μm超0.2μm以下であるAl化合物の含有割合よりも体積基準で大きい、[1]から[3]いずれかに記載の立方晶窒化硼素焼結体。
[5]
前記立方晶窒化硼素の平均粒径が、0.5μm以上3.0μm以下である、[1]から[4]いずれかに記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有することによって、工具寿命を延長することができる立方晶窒化硼素焼結体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0015】
[立方晶窒化硼素焼結体]
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素(以下、「cBN」ともいう。)と結合相とを含む立方晶窒化硼素焼結体であって、立方晶窒化硼素の含有割合は、立方晶窒化硼素焼結体の全体100体積%に対して81体積%以上95体積%以下であり、結合相の含有割合は、立方晶窒化硼素焼結体の全体100体積%に対して5体積%以上19体積%以下であり、結合相は、Al化合物と、V化合物と、CoW化合物と、を含み、Al化合物は、Al元素と、N元素、O元素、及びB元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、からなる化合物を含み、V化合物は、Vを主成分とする、炭化物、窒化物、及び炭窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる化合物を含み、CoW化合物は、CoWを主成分とする、炭化物及び炭窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる化合物を含み、Al化合物の含有割合は、結合相の全体100体積%に対して、2体積%以上40体積%以下であり、V化合物の含有割合は、結合相の全体100体積%に対して、50体積%以上95体積%以下であり、CoW化合物の含有割合は、結合相の全体100体積%に対して、3体積%以上35体積%以下であり、粒径が0.1μm以下であるAl化合物の含有割合は、Al化合物の全体100体積%に対して、10体積%以上50体積%以下である。
【0016】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、上記の構成とすることにより、耐摩耗性及び耐欠損性を向上させることが可能となり、その結果、工具寿命を延長することができる。
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体が、耐摩耗性及び耐欠損性を向上させ、工具寿命の長いものとする要因は、詳細には明らかではないが、本発明者はその要因を下記のように考えている。ただし、要因はこれに限定されない。
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、cBNの含有割合が81体積%以上であることにより、耐摩耗性に優れる。一方で、cBNの含有割合が95体積%以下であることにより、cBN粒子の脱落を抑制することができ、耐摩耗性に優れる。さらに、切削加工において、被加工物の加工面の表面粗さが小さくなり、加工後の外見も良好となる傾向にある。
また、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、結合相の含有割合が5体積%以上であることにより、cBN粒子の脱落を抑制することができ、耐摩耗性に優れる。一方、結合相の含有割合が19体積%以下であることにより、相対的にcBNの含有割合を多くし、硬さが向上した結果、耐摩耗性に優れる。
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、Al化合物の含有割合が、結合相の全体100体積%に対して、2体積%以上であることにより、Al酸化物が形成されることで、耐熱性が向上する。一方、Al化合物の含有割合が40体積%以下であることにより、Al窒化物及びAl硼化物の形成を少なくすることができ、耐摩耗性に優れる。また、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、V化合物の含有割合が、結合相の全体100体積%に対して、50体積%以上であることにより、粒子間の結合強度が向上するため、耐欠損性に優れる。一方、V化合物の含有割合が95体積%以下であると、cBN焼結体の製造が容易になる。さらに、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、CoW化合物の含有割合が、結合相の全体100体積%に対して、3体積%以上であることにより、粒子間の結合強度が向上するため、耐欠損性に優れる。一方、CoW化合物の含有割合が35体積%以下であることにより、cBN焼結体の硬度の低下を抑制することができ、耐摩耗性に優れる。そして、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、粒径が0.1μm以下であるAl化合物の含有割合が、Al化合物の全体100体積%に対して、10体積%以上であることにより、Al化合物とcBN粒子とが接触する面積が増えるため、cBN粒子の表面における酸素を除去する効果が高くなり、その結果、cBN粒子間の結合強度が向上し、耐欠損性に優れる。一方、粒径が0.1μm以下であるAl化合物の含有割合が、50体積%以下であると、cBN焼結体の製造が容易になる。
上述した効果が相俟って、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、耐摩耗性及び耐欠損性を向上させ、工具寿命を延長することができる。
【0017】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体において、cBNの含有割合は、立方晶窒化硼素焼結体の全体100体積%に対して81体積%以上95体積%以下であり、結合相の含有割合は、立方晶窒化硼素焼結体の全体100体積%に対して5体積%以上19体積%以下である。なお、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体において、cBNと結合相との合計の含有割合は100体積%となる。
【0018】
[立方晶窒化硼素(cBN)]
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、cBNの含有割合が81体積%以上であることにより、耐摩耗性に優れる。一方で、cBNの含有割合が95体積%以下であることにより、cBN粒子の脱落を抑制することができ、耐摩耗性に優れる。また、切削加工において、被加工物の加工面の表面粗さが小さくなり、加工後の外見も良好となる傾向にある。同様の観点から、cBNの含有割合は、82体積%以上93体積%以下であることが好ましく、84体積%以上92体積%以下であることがより好ましい。
【0019】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体において、cBN及び結合相の含有割合(体積%)は、任意の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、撮影した組織写真を市販の画像解析ソフトで解析することで求めることができる。具体的には、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0020】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体において、cBNの平均粒径は、0.5μm以上3.0μm以下であることが好ましい。本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、cBNの平均粒径が0.5μm以上であることにより、cBN粒子の脱落を抑制することができ、耐摩耗性が向上する傾向にある。また、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、cBNの平均粒径が3.0μm以下であることにより、結合相の厚さが薄くなり、耐欠損性が向上する傾向にある。同様の観点から、cBNの平均粒径は、0.7μm以上2.5μm以下であることがより好ましい。
【0021】
cBNの平均粒径の測定方法としては、例えば、焼結体の任意の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、撮影した組織写真を市販の画像解析ソフトで解析することでcBN粒子の面積を求め、この面積と等しい面積の円の直径をcBNの粒径とすることができる。このようにして得られた複数のcBN粒子の粒径の相加平均を求め、cBNの平均粒径としてもよい。具体的には、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0022】
[結合相]
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、結合相の含有割合が5体積%以上であることにより、cBN粒子の脱落を抑制することができ、耐摩耗性に優れる。一方、結合相の含有割合が19体積%以下であることにより、相対的にcBNの含有割合を多くし、硬さが向上した結果、耐摩耗性に優れる。同様の観点から、結合相の含有割合は、7体積%以上18体積%以下であることが好ましく、8体積%以上16体積%以下であることがより好ましい。
【0023】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体において、結合相は、Al化合物と、V化合物と、CoW化合物と、を含む。また、Al化合物は、Al元素と、N元素、O元素、及びB元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、からなる化合物を含む。また、V化合物は、Vを主成分とする、炭化物、窒化物、及び炭窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる化合物を含む。また、CoW化合物は、CoWを主成分とする、炭化物及び炭窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる化合物を含む。
本明細書において、「Vを主成分とする」とは、化合物における金属元素全体を100原子%としたとき、V元素の含有割合が50原子%以上であることを意味し、該含有割合は50原子%超であってもよく、60原子%以上であってもよく、70原子%以上であってもよい。また、「CoWを主成分とする」とは、化合物がCo元素及びW元素を含有し、その化合物における金属元素全体を100原子%としたとき、Co元素とW元素の合計の含有割合が50原子%以上であることを意味し、該含有割合は50原子%超であってもよく、該含有割合は60原子%以上であってもよく、70原子%以上であってもよく、80原子%以上であってもよい。また、本実施形態に用いるCoW化合物において、W元素とCo元素との原子比(W元素:Co元素)は、3:10~7:2の範囲であることが好ましい。
【0024】
Al化合物は、Al元素と、N元素、O元素、及びB元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、からなる化合物を含む。Al化合物として、結合相が含み得る成分は、特に限定されないが、例えば、Al23、AlN、AlB2、AlB12等が挙げられる。本発明による効果を一層有効かつ確実に奏する観点から、結合相は、Al化合物としては、Al23、AlN、及びAlB2からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、Al23及びAlNからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましく、Al23だけを含むことが特に好ましい。
【0025】
Al化合物において、粒径が0.1μm以下である粒子(以下、「小粒子」ともいう。)の含有割合は、Al化合物の全体100体積%に対して、10体積%以上50体積%以下である。本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、小粒子の含有割合が、10体積%以上であることにより、Al化合物とcBN粒子とが接触する面積が増えるため、cBN粒子の表面における酸素を除去する効果が高くなり、その結果、cBN粒子間の結合強度が向上し、耐欠損性に優れる。一方、小粒子の含有割合が、50体積%以下であると、cBN焼結体の製造が容易になる。同様の観点から、Al化合物における小粒子の含有割合は、11体積%以上48体積%以下であることが好ましく、15体積%以上35体積%以下であることがより好ましい。
なお、本実施形態において、小粒子の粒径の下限は特に限定されないが、例えば、0.01μmである。また、本実施形態において、後述の実施例に記載の方法により検出できない微小の粒子は粒子の含有割合に含めない。
【0026】
Al化合物において、粒径が0.1μm超0.2μm以下である粒子(以下、「中粒子」ともいう。)の含有割合は、Al化合物の全体100体積%に対して、20体積%以下であることが好ましい。本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、中粒子の含有割合が、20体積%以下であることにより、cBN粒子表面の酸素を除去する効果及び/又は耐熱性が向上する効果が得られ、その結果、耐摩耗性及び/又は耐欠損性に優れる傾向にある。同様の観点から、Al化合物における中粒子の含有割合は、14体積%以下であることがより好ましく、12体積%以下であることが更に好ましい。
【0027】
Al化合物の全体において、粒径が0.1μm以下であるAl化合物(小粒子)の含有割合は、粒径が0.1μm超0.2μm以下であるAl化合物(中粒子)の含有割合より体積基準で大きいことが好ましい。本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、小粒子の含有割合が中粒子の含有割合より体積基準で大きいことにより、Al化合物とcBN粒子とが接触する面積が増えるため、cBN粒子の表面における酸素を除去する効果が一層向上し、その結果、耐欠損性に一層優れる傾向にある。
【0028】
Al化合物において、粒径が0.2μm超である粒子(以下、「大粒子」ともいう。)の含有割合は、Al化合物の全体100体積%に対して、50体積%以上80体積%以下であると好ましい。本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、大粒子の含有割合が、50体積%以上であることにより、耐熱性が向上することで耐摩耗性が向上する傾向にある。一方、大粒子の含有割合が80体積%以下であることにより、相対的に小粒子又は中粒子の含有割合が大きくなり、Al化合物とcBN粒子とが接触する面積が増えるため、cBN粒子表面の酸素を除去する効果が一層向上し、その結果、耐欠損性に一層優れる傾向にある。同様の観点から、Al化合物における大粒子の含有割合は、61体積%以上78体積%以下であることがより好ましく、62体積%以上77体積%以下であることが更に好ましい。
【0029】
Al化合物粒子の粒径の測定方法としては、例えば、焼結体の任意の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、撮影した組織写真を市販の画像解析ソフトで解析することで結合相におけるAl化合物粒子の面積を求め、この面積と等しい面積の円の直径を各Al化合物粒子の粒径とすることができる。このようにして得られる複数のAl化合物粒子の粒径から、各々小粒子、中粒子、及び大粒子に分けることができる。具体的には、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0030】
Al化合物の含有割合は、結合相の全体100体積%に対して、2体積%以上40体積%以下である。本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、Al化合物の含有割合が、結合相の全体100体積%に対して、2体積%以上であることにより、Al酸化物が形成されることで、耐熱性が向上する。一方、Al化合物の含有割合が40体積%以下であることにより、Al窒化物及びAl硼化物の形成を少なくすることができ、耐摩耗性に優れる。同様の観点から、Al化合物の含有割合は、結合相の全体100体積%に対して、3体積%以上36体積%以下であることが好ましく、4体積%以上27体積%以下であることがより好ましい。
【0031】
V化合物は、Vを主成分とする、炭化物(以下「V炭化物」ともいう)、窒化物(以下「V窒化物」ともいう)、及び炭窒化物(以下「V炭窒化物」ともいう)からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる化合物を含む。本発明による効果を一層有効かつ確実に奏する観点からは、V化合物がV炭化物を含むと好ましい。
また、V化合物において、V以外に含まれる金属元素としては、特に限定されないが、例えば、W、Co、Cr、Mo、Ta、Nb、Zr、Hf、Ni等が挙げられる。本発明による効果を一層有効かつ確実に奏する観点からは、W、Co、Cr、Mo、Ta、Nb、Zr、Hf、及びNiのうち少なくとも2種以上の金属元素を含んでいてもよく、少なくともW及びCoを含んでいてもよく、W、Co、Cr、Mo、Ta、Nb、Zr、Hf、及びNiのうち少なくとも3種以上の金属元素を含んでいてもよく、少なくともW、Co、及びCrを含んでいてもよい。
【0032】
V化合物の含有割合は、結合相の全体100体積%に対して、50体積%以上95体積%以下である。本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、V化合物の含有割合が、結合相の全体100体積%に対して、50体積%以上であることにより、粒子間の結合強度が向上するため、耐欠損性に優れる。一方、V化合物の含有割合が95体積%以下であると、cBN焼結体の製造が容易になる。同様の観点から、V化合物の含有割合は、結合相の全体100体積%に対して、54体積%以上92体積%以下であることが好ましく、63体積%以上84体積%以下であることがより好ましい。
【0033】
V化合物においてV以外に含まれる金属元素(以下、単に「V以外の金属元素」ともいう。)の含有割合は、特に限定されないが、例えば、V化合物に含まれる金属元素全体100原子%に対して、0原子%以上50原子%未満である。V以外の金属元素の含有割合が0原子%を超えて高くなると、立方晶窒化硼素焼結体の靭性が向上し、耐欠損性に優れる傾向にある。一方、V以外の金属元素の含有割合が50原子%未満であると、立方晶窒化硼素焼結体の硬さが向上し、耐摩耗性に優れる傾向にある。同様の観点から、V以外の金属元素の含有割合は、4原子%以上46原子%以下であると好ましく、26原子%以上39原子%以下であるとより好ましい。
【0034】
CoW化合物は、CoWを主成分とする、炭化物(以下「CoW炭化物」ともいう)及び炭窒化物(以下「CoW炭窒化物」ともいう)からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる化合物を含む。本発明による効果を一層有効かつ確実に奏する観点からは、CoW化合物がCoW炭化物を含むと好ましい。
また、CoW化合物において、Co及びW以外に含まれる金属元素としては、特に限定されないが、例えば、V、Cr、Mo、Ta、Nb、Zr、Hf、Ni等が挙げられる。本発明による効果を一層有効かつ確実に奏する観点からは、V、Cr、Mo、Ta、Nb、Zr、Hf、及びNiのうち少なくとも1種以上の金属元素を含んでいてもよく、少なくともVを含んでいてもよく、V、Cr、Mo、Ta、Nb、Zr、Hf、及びNiのうち少なくとも2種以上の金属元素を含んでいてもよく、少なくともV及びCrを含んでいてもよい。
【0035】
CoW化合物の含有割合は、結合相の全体100体積%に対して、3体積%以上35体積%以下である。本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、CoW化合物の含有割合が、結合相の全体100体積%に対して、3体積%以上であることにより、粒子間の結合強度が向上するため、耐欠損性に優れる。一方、CoW化合物の含有割合が35体積%以下であることにより、cBN焼結体の硬度の低下を抑制することができ、耐摩耗性に優れる。同様の観点から、CoW化合物の含有割合は、結合相の全体100体積%に対して、4体積%以上35体積%以下であることが好ましく、9体積%以上13体積%以下であることがより好ましい。
【0036】
CoW化合物においてCo及びW以外に含まれる金属元素(以下、単に「Co及びW以外の金属元素」ともいう。)の含有割合は、特に限定されないが、例えば、CoW化合物に含まれる金属元素全体100原子%に対して、0原子%以上50原子%未満である。Co及びW以外の金属元素の含有割合が0原子%を超えて高くなると、立方晶窒化硼素焼結体中の粒子間の結合強度が向上し、耐欠損性に優れる傾向にある。一方、Co及びW以外の金属元素の含有割合が50原子%未満であると、立方晶窒化硼素焼結体の耐熱性が向上し、耐摩耗性に優れる傾向にある。同様の観点から、Co及びW以外の金属元素の含有割合は、3原子%以上48原子%以下であると好ましく、17原子%以上31原子%以下であるとより好ましい。
【0037】
結合相の組成は、市販のX線回折装置を用いて同定することもできる。例えば、株式会社リガク製のX線回折装置(製品名「SmartLab」)を用いて、Cu-Kα線を用いた2θ/θ集中光学系のX線回折測定を、所定の条件で測定すると、結合相の組成を同定することができる。具体的な条件等は、後述の実施例に記載の通りで行うことができる。また、X線解析装置のみで結合相の組成の全てを同定することが難しい場合は、X線解析装置による測定の結果と、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いた元素マッピング結果とを解析することにより特定してもよい。
【0038】
結合相における各元素の含有割合(原子%)を測定する方法としては、例えば、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)付きのSEMで立方晶窒化硼素焼結体の組織写真を撮影し、EDS分析を行うことにより求めることができる。より具体的には、後述の実施例に記載の方法を用いることができる。
【0039】
[立方晶窒化硼素焼結体の製造方法]
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、例えば、以下の(A)~(E)の工程を含む方法によって製造することができる。より具体的な方法としては、後述の実施例に記載の方法を用いるとよい。
工程(A):原料粉末として、必要に応じて立方晶窒化硼素(cBN)粉末、VC粉末、VN粉末、Cr32粉末、Cr2N粉末、WC粉末、Co粉末、Al粉末、Mo2C粉末、TaC粉末、NbC粉末、ZrC粉末、HfC粉末、Ni粉末等を準備する(原料粉末の調製及び秤量)。
【0040】
工程(B):工程(A)で準備したAl粉末の一部を、超硬合金製ボールと、ヘキサン溶媒と、パラフィンワックスと、分散剤とともにボールミル用のシリンダーに入れ、混合する(第1の混合工程)。
【0041】
工程(C):工程(B)で混合されたAl粉末と、工程(A)で準備した残りの原料粉末を、超硬合金製ボールと、ヘキサン溶媒と、パラフィンワックスと、分散剤とともにボールミル用のシリンダーに入れ、混合する(第2の混合工程)。混合する原料粉末の量の違いに合わせて、この工程で用いるシリンダーは、工程(B)に用いるものとは別のシリンダーとする。
【0042】
工程(D):工程(C)で得られた混合物を、所定の形状の高融点金属カプセルに充填し、充填された原料粉末の表面に吸着している水分及びその他の付着成分を除去するため、カプセルを開放した状態で真空熱処理を行う(充填工程及び乾燥工程)。
【0043】
工程(E):原料粉末が充填されているカプセルを温度1800~2100℃の範囲、8.0~9.5GPaの圧力で、30~40分の間保持して焼結する(高圧焼結)。
【0044】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体の製造方法の各工程は、以下の意義を有する。
工程(A)では、原料におけるcBN粉末の平均粒径を適宜調整することにより、得られる立方晶窒化硼素焼結体におけるcBNの平均粒径を所定の範囲に制御することができ、原料粉末の平均粒径を大きくすると焼結体におけるcBNの平均粒径が大きくなる。
ここで、結合相の原料として、上記の各原料粉末の一部を組み合わせて以下の処理を行ったものを用いてもよい。まず、上記の各原料粉末の一部を特定の配合割合(質量%)となるように混合する。混合は、例えば、各原料粉末を超硬合金製ボールとヘキサン溶媒とパラフィンと、分散剤とともにボールミル用のシリンダーに入れて行う。そして、混合された原料粉末を、真空雰囲気下、熱処理し、加熱処理後の原料を、超硬合金製ボールとヘキサン溶媒とパラフィンと、分散剤とともにボールミル用のシリンダーに入れて粉砕して、得られた粉砕物を結合相の原料粉末材料として用いる。このように予め組み合わせた原料粉末材料を用いると、V化合物におけるV以外に含まれる金属元素及び/又はCoW化合物におけるCo及びW以外に含まれる金属元素の含有割合(原子比)を、0原子%を超えて高い値とすることが容易になる傾向にある。このように予め組み合わせた原料粉末材料としては、例えば、VC粉末、VN粉末、Co粉末、及びWC粉末のうち少なくとも2種以上を組み合わせた原料粉末材料、VC粉末、VN粉末、Co粉末、及びWC粉末のうち少なくとも3種以上を組み合わせた原料粉末材料、VC粉末若しくはVN粉末と、Co粉末と、WC粉末とを組み合わせた原料粉末材料が挙げられる。
【0045】
各原料粉末の割合を適宜調整することにより、得られる立方晶窒化硼素焼結体におけるcBN及び結合相の含有割合を上記特定の範囲に制御することができる。例えば、cBNの配合割合を高くするとcBNの含有割合(体積%)が高くなる傾向にある。また、例えば、Alの配合割合を高くすると、結合相におけるAl化合物の含有割合(体積%)が高くなる傾向にある。さらに、V元素を含む原料粉末の割合を高くすると、結合相におけるV化合物の含有割合(体積%)が高くなる傾向にある。V元素を含む原料粉末としては、例えば、VC粉末、VN粉末、後述する実施例に記載の材料A、材料B、材料D等が挙げられる。これらの配合割合が高いほど、V化合物の含有割合(体積%)が高くなる傾向にある。また、ここで、V化合物の含有割合(体積%)を高くする効果及びV化合物におけるVの割合(原子%)を高くする効果は、以下の順となる。
(高い)VC粉末、VN粉末>材料A、材料D>材料B(低い)
また、例えば、Co元素及び/又はW元素を含む原料粉末の割合を高くすると、結合相におけるCoW化合物の含有割合(体積%)が高くなる傾向にある。Co元素及び/又はW元素を含む原料粉末としては、例えば、WC粉末、Co粉末、後述する実施例に記載の材料B、材料C、材料E等が挙げられる。これらの配合割合が高いほど、CoW化合物の含有割合(体積%)が高くなる傾向にある。また、ここで、CoW化合物の含有割合(体積%)を高くする効果及びCoW化合物におけるVの割合(原子%)を高くする効果は、以下の順となる。
(高い)WC粉末、Co粉末>材料C、材料E>材料B(低い)
【0046】
工程(B)(第1の混合工程)において混合するAl粉末としては、例えば、工程(A)において準備したAl粉末の全体100質量%に対して、15.0質量%以上50.0質量%以下、好ましくは18.1質量%以上47.5質量%以下の量を用いるとよい。ここで、第1の混合工程において混合するAl粉末の量を多くすると、Al化合物における小粒子の割合(体積%)が高くなる傾向にあり、大粒子の割合(体積%)が低くなる傾向にある。また、第1の混合工程における混合時間は、例えば、10~125時間、好ましくは15~120時間である。第1の混合工程における混合時間を長くすると、Al化合物における小粒子の割合(体積%)が高くなる傾向にあるため、Al化合物における小粒子の割合(体積%)が中粒子の割合(体積%)よりも高くなる傾向にある。
【0047】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体及び被覆された本発明の立方晶窒化硼素焼結体は、耐摩耗性、耐欠損性に優れるため、切削工具、耐摩耗工具に応用されることが好ましい。本発明の立方晶窒化硼素焼結体及び被覆された本発明の立方晶窒化硼素焼結体は、その中でも切削工具に応用されることが、さらに好ましい。
【実施例0048】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
[原料粉末の調製]
立方晶窒化硼素(cBN)粉末、VC粉末、VN粉末、Cr32粉末、Cr2N粉末、WC粉末、Co粉末、Al粉末、Mo2C粉末、TaC粉末、NbC粉末、ZrC粉末、HfC粉末、及びNi粉末を用意した。これらの平均粒径は、それぞれ、2.2μm(VC粉末)、2.6μm(VN粉末)、2.1μm(Cr32粉末)、2.0μm(Cr2N粉末)、2.0μm(WC粉末)、1.5μm(Co粉末)、1.8μm(Al粉末)、3.0μm(Mo2C粉末)、2.4μm(TaC粉末)、2.1μm(NbC粉末)、2.5μm(ZrC粉末)、1.8μm(HfC粉末)、1.5μm(Ni粉末)であり、cBN粉末の平均粒径は表2に示す通りであった。なお、原料粉末の平均粒径は、米国材料試験協会(ASTM)規格B330に記載のフィッシャー法(Fisher Sub-Sieve Sizer(FSSS))により測定した。
【0050】
さらに、結合相の原料として、表1の配合割合(質量%)となるように原料粉末を配合し、超硬合金製ボールと、ヘキサン溶媒と、パラフィンワックスと、分散剤とともにボールミル用のシリンダーに入れ、6時間混合した。次いで、混合された原料粉末を真空雰囲気下、1100℃の条件で熱処理をした後、再度超硬合金製ボールと、ヘキサン溶媒と、パラフィンワックスと、分散剤とともにボールミル用のシリンダーに入れて、24時間粉砕した。このような工程により、表1に示すような材料A~Eを得た。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
[第1の混合工程]
上記で用意した原料粉末を、表3及び表4に示す割合になるよう秤量した。次いで、秤量したAl粉末の一部を、超硬合金製ボールと、ヘキサン溶媒と、パラフィンワックスと、分散剤とともにボールミル用のシリンダーに入れ、表5に示す混合時間の間混合した。ここで、Al粉末の一部とは、表5に示す「Al(質量%)」であり、上記で秤量したAl粉末の全体100質量%に対する割合である。
【0054】
[第2の混合工程]
上記第1の混合工程で混合されたAl粉末と、上記Al粉末の一部以外の秤量した原料粉末を、超硬合金製ボールと、ヘキサン溶媒と、パラフィンワックスと、分散剤とともに、第1の混合工程とは別のボールミル用のシリンダーに入れ、2時間混合した。
【0055】
[充填工程及び乾燥工程]
混合した原料粉末を、Ta製の高融点金属カプセル内に充填した。次いで、カプセルを開放したまま真空熱処理を行い、粉末の表面に吸着している水分及びその他の付着成分を除去した後、カプセルを密封した。
【0056】
[高圧焼結]
その後、カプセルに充填されている原料粉末を高圧で焼結させた。高圧焼結の条件としては、表6及び表7に示すとおりとした。
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【0060】
【表6】
【0061】
【表7】
【0062】
[測定・分析]
高圧焼結によって得られた立方晶窒化硼素焼結体について、まず、株式会社リガク製のX線回折装置(製品名「SmartLab」)を用いた同定を行った。具体的には、Cu-Kα線を用いた2θ/θ集中光学系のX線回折測定として、下記条件で行った。
<測定条件>
・出力:45kV、200mA、
・入射側ソーラースリット:5°、
・発散縦スリット:2/3°、
・発散縦制限スリット:5mm、
・散乱スリット:2/3°、
・受光側ソーラースリット:5°、
・受光スリット:0.3mm、
・受光スリット:0.3mm、
・サンプリング幅:0.02°、
・スキャンスピード:1°/min、
・2θ測定範囲:30~90°。
これにより、焼結体が立方晶窒化硼素(cBN)及び結合相を含むことを特定した。結合相としては、Al化合物を含むことを特定した。特定した立方晶窒化硼素及びAl化合物の組成を表8及び9に示す。V化合物及びCoW化合物については、さらに、上記条件で測定して得られた結果と、走査型電子顕微鏡(SEM)に付属しているエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いた元素マッピング結果とを組み合わせて解析することにより、各化合物に含まれる元素を特定した。特定した元素を表10及び11に示す。以下、各測定・分析方法についてさらに詳細に説明する。
【0063】
高圧焼結によって得られた立方晶窒化硼素焼結体について、立方晶窒化硼素及び結合相の含有割合(体積%)を、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した立方晶窒化硼素焼結体の組織写真から、市販の画像解析ソフトで解析して求めた。より具体的には、立方晶窒化硼素焼結体を研磨し、その表面から、内部に向かって深さ500μmの位置の断面組織からの鏡面研磨面を得た。次に、SEMを用いて、立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面の反射電子像を観察した。この際、SEMを用いて、10000倍の倍率で拡大して観察した。SEMに付属しているエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いることにより、黒色領域を立方晶窒化硼素と、灰色領域及び白色領域を結合相と特定した。その後、SEMを用いて立方晶窒化硼素の上記鏡面研磨面の組織写真を3枚撮影した。市販の画像解析ソフトを用い、得られた組織写真から立方晶窒化硼素及び結合相の占有面積をそれぞれ求め、組織写真全体が占める面積で除することで、立方晶窒化硼素及び結合相の含有割合(体積%)を求めた。なお、立方晶窒化硼素及び結合相の含有割合(体積%)は、撮影した3枚の組織写真の各々の3つ視野における上記分析により得られた値の相加平均とした。その結果を表8及び表9に示す。
ここで、立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面とは、立方晶窒化硼素焼結体の表面又は任意の断面を鏡面研磨して得られた立方晶窒化硼素焼結体の表面から、内部に向かって深さ500μm以上の位置の断面である。当該鏡面研磨面(以下、断面ともいう。)の研磨は、ダイヤモンドペーストを用いて行った。
また、結合相における、Al化合物の含有割合(体積%)を、上記の立方晶窒化硼素及び結合相の含有割合(体積%)を求めた組織写真から、市販の画像解析ソフトで解析して求めた。立方晶窒化硼素及び結合相の含有割合(体積%)を求めたものと同じ視野において反射電子像を観察し、EDSを用いることにより、結合相における灰色領域及び白色領域のうち、濃い灰色領域がAl化合物であり、淡い灰色領域及び白色領域がAl化合物以外の結合相材料であることを特定した。次に、上記組織写真中のAl化合物が占める面積とAl化合物以外の結合相材料が占める面積とを求め、結合相全体が占める面積で除することで、結合相に占めるAl化合物の含有割合(体積%)と、Al化合物以外の結合相材料の含有割合(体積%)と求めた。同様の分析を撮影した3枚の組織写真の各々の3つの視野で行い、得られた値の相加平均を各化合物の含有割合(体積%)とした。その結果のうちのAl化合物の含有割合(体積%)を表8及び表9に示す。
また、結合相における、V化合物及びCoW化合物の含有割合(体積%)は、さらにEDSを用いた元素マッピングを組み合わせることで求めた。Al化合物の含有割合(体積%)において特定したAl化合物以外の結合相材料について、EDSを用いた元素マッピングを行った。得られたマッピング結果を解析することにより、Al化合物以外の結合相材料が、検出される金属元素全体を100原子%としたときのV元素の含有割合が50原子%以上となるV化合物と、検出される金属元素全体を100原子%としたときのCo元素とW元素との合計の含有割合が50原子%以上となるCoW化合物とであることを特定した。また、得られたマッピング結果を解析することにより、Al化合物以外の結合相材料におけるV化合物とCoW化合物との各々が占める面積比を求めた。この面積比と、結合相に占めるAl化合物以外の結合相材料の含有割合(体積%)とを解析して得られた値を、結合相に占めるV化合物及びCoW化合物の含有割合(体積%)とした。この結果を表8及び9に示す。例えば、表8において、発明品1は、結合相に占めるAl化合物以外の結合相材料の含有割合(体積%)が89体積%であり、マッピングにより求められるV化合物とCoW化合物との占める面積比(V化合物:CoW化合物)が78:11であったことを示す。
また、V化合物の組成は、EDSを用いた分析により求めた。上記と同様の反射電子像を観察し、上記マッピングにより特定された鏡面研磨面におけるV化合物上の任意の点において、EDSを用いた点分析を行い、検出された全ての金属元素の合計に対するV元素の割合を求めた。同様の分析を20点で行い、得られたV元素の割合の相加平均値を、V化合物におけるVの含有割合(原子%)とした。このとき、C元素とN元素との原子比の相加平均値も求めた。C元素:N元素が8:2よりC元素が多い状態のときをV炭化物とし、8:2~2:8の範囲内にあるときをV炭窒化物とし、2:8よりN元素が多いときをV窒化物として各々を区別した。これらの結果と、EDSを用いた分析の際に検出されたV以外の元素を表10及び表11に示す。
CoW化合物の組成も、V化合物の組成と同様に求めた。上記と同様に、鏡面研磨面におけるCoW化合物上の任意の点において、EDSを用いた点分析を行い、検出された全ての金属元素の合計に対する、Co元素の割合とW元素の割合との合計値を求めた。同様の分析を20点で行い、得られたCo元素の割合とW元素の割合との合計値の相加平均値を、CoW化合物におけるCoとWとの合計の含有割合(原子%)とした。このとき、C元素とN元素との原子比の相加平均値も求めた。C元素:N元素が8:2よりC元素が多い状態のときをCoW炭化物とし、8:2~2:8の範囲内にあるときをCoW炭窒化物とし、2:8よりN元素が多いときをCoW窒化物として各々を区別した。これらの結果と、EDSを用いた分析の際に検出されたCo及びW以外の元素を表10及び表11に示す。
なお、CoW化合物の組成を求めた点分析において、W元素:Co元素の比は3:10~7:2の範囲で存在し、金属元素:非金属元素の比は3:1~12:1の範囲で存在した。また、X線回折装置を用いた同定において、Co33Cと推測されるピークが最も明瞭に存在した。また、本実施例のCoW化合物において、W元素:Co元素の比は1:1近い値であると推測している。また、本実施例におけるCoW化合物は主として、Co33Cにおいて、Co元素及びW元素の一部が他の金属元素に置換され、C元素の一部がN元素に置換された状態で存在していると推察している。なお、今回の分析においては、判定条件とはしていないが、V化合物の組成を求めた点分析において、V化合物は金属元素:非金属元素が1:2~2:1の範囲で存在した。
【0064】
また、上記で撮影した組織写真の画像解析により、断面組織内に存在するAl化合物粒子の面積を求め、この面積と等しい面積の円の直径をAl化合物の粒径とした。Al化合物粒子の粒径が0.1μm以下であるものを小粒子とし、0.1μm超0.2μm以下であるものを中粒子とし、0.2μm超であるものを大粒子とした。断面組織内に存在する、小粒子が占める面積の合計と、中粒子が占める面積の合計と、大粒子が占める面積の合計とを求め、Al化合物全体が占める面積で除することで、各タイプの粒子の含有割合(体積%)を算出した。また、小粒子及び中粒子について得られたそれぞれの含有割合を比較した。これらの結果を表12及び表13に示す。また、同様に上記で撮影した組織写真の画像解析により、断面組織内に存在するcBN粒子の面積を求め、この面積と等しい面積の円の直径をcBN粒子の粒径とした。断面組織内に存在するcBN粒子の粒径の相加平均を求め、cBNの平均粒径とした。その結果、表2に示すcBN原料粉末の平均粒径と同じであった。
【0065】
【表8】
【0066】
【表9】
【0067】
【表10】
【0068】
【表11】
【0069】
【表12】
【0070】
【表13】
【0071】
[切削工具の作製]
得られた立方晶窒化硼素焼結体を、ワイヤ放電加工機を用いてISO規格CNGA120408で定められたインサート形状の工具形状に合わせて切り出した。切り出した立方晶窒化硼素焼結体を、超硬合金からなる台金にろう付けにより接合した。ろう付けした工具にホーニング加工を施して、切削工具を得た。
【0072】
[切削試験]
得られた切削工具を用いて、下記の条件で切削試験を行った。
・被削材:浸炭焼入れした焼結金属
(材質:JIS規格・FD-08N4C-39、硬さ:HRA70)、
・被削材形状:ギア形状、φ45mm(歯たけ8mm)×30mm、
・切削速度:250m/min、
・送り:0.15mm/rev、
・切り込み深さ:0.2mm、
・クーラント:なし(乾式切削加工)、
・評価項目:工具の逃げ面摩耗幅が0.15mmに至ったとき、又は刃先が欠損に至るまでの加工時間を工具寿命とした。得られた結果を表14に示す。
【0073】
【表14】
【0074】
表14に示された結果より、特定の構成の立方晶窒化硼素焼結体を用いた発明品の方が、そうでない比較品より優れた耐欠損性及び耐摩耗性を有し、長い工具寿命を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体は、耐摩耗性及び耐欠損性に優れることにより、従来よりも工具寿命を延長できるので、その点で産業上の利用可能性が高い。