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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111476
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】超電導線材および超電導コイル
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/06 20060101AFI20240809BHJP
   H01B 12/06 20060101ALN20240809BHJP
【FI】
H01F6/06 140
H01F6/06 120
H01B12/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016000
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 一充
(72)【発明者】
【氏名】戸坂 泰造
(72)【発明者】
【氏名】大谷 安見
(72)【発明者】
【氏名】宇都 達郎
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貞憲
【テーマコード(参考)】
5G321
【Fターム(参考)】
5G321AA04
5G321BA03
5G321CA04
5G321CA24
5G321CA27
5G321CA38
5G321CA42
5G321CA51
(57)【要約】
【課題】超電導積層体の剥離劣化または絶縁不良のリスクを低減させる。
【解決手段】超電導線材13は、金属基板2の上に他の層とともに積層された超電導層4を有し、テープ状を成す超電導積層体1と、超電導積層体1の一方の面に対向して配置され、超電導積層体1とともに巻回されるテープ状を成す絶縁線材8と、超電導積層体1と絶縁線材8との間、かつ超電導積層体1の幅W2の範囲内の少なくとも一部に配置され、感圧接着材を主成分とした接着材層12と、を備え、超電導積層体1または絶縁線材8の少なくとも一方に対する接着材層12の接着強度が、超電導積層体1で積層された各層の破壊強度および剥離強度よりも弱くなっている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板の上に他の層とともに積層された超電導層を有し、テープ状を成す超電導積層体と、
前記超電導積層体の一方の面に対向して配置され、前記超電導積層体とともに巻回されるテープ状を成す絶縁線材と、
前記超電導積層体と前記絶縁線材との間、かつ前記超電導積層体の幅の範囲内の少なくとも一部に配置され、感圧接着材を主成分とした接着材層と、
を備え、
前記超電導積層体または前記絶縁線材の少なくとも一方に対する前記接着材層の接着強度が、前記超電導積層体で積層された各層の破壊強度および剥離強度よりも弱くなっている、
超電導線材。
【請求項2】
前記超電導積層体または前記絶縁線材の少なくとも一方における前記接着材層が配置されていない面に配置されている離形材層を備える、
請求項1に記載の超電導線材。
【請求項3】
前記接着材層が、前記超電導積層体の面の幅方向の両端縁を含む一部分に配置されている、
請求項1または請求項2に記載の超電導線材。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の超電導線材を備え、
前記超電導線材が巻回され、前記超電導線材の少なくとも一部が熱硬化性合成樹脂で含浸されている、
超電導コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超電導線材および超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導技術の向上に伴い、例えば、磁気共鳴画像診断装置(MRI)、超電導磁気エネルギー貯蔵装置(SMES)または単結晶引き上げ装置などの超電導応用機器が実用化されている。これらの超電導応用機器は、超電導線材を巻回してなる超電導コイルを内蔵している。
【0003】
近年、高温・高磁場中での臨界電流特性に優れた高温超電導線材を用いた超電導コイルが開発されている。この高温超電導線材としては、例えば、ハステロイなどのテープ状の金属基板、酸化セリウムなどの中間層、YBaCuなどの酸化物超電導層、銀などの保護金属層を有する多層構造の薄膜超電導線材(以下、超電導積層体と記す)が開発されてきている。
【0004】
巻き回した形状の保持と真空中での伝熱性を向上させるために、エポキシ樹脂などの熱硬化性合成樹脂で含浸した超電導コイルが知られている。しかし、多層構造の超電導積層体は、テープ面に垂直方向の引張り応力、すなわち、剥離力に弱く、熱硬化性合成樹脂と超電導積層体との熱収縮率の差に起因する熱応力で層間剥離を起こし、超電導特性が劣化するおそれがある。
【0005】
これに対し、離形処理を施した絶縁物をコイルターン間に挿入することにより、冷却により超電導コイルの内部に発生する剥離力を低減する技術が知られている。
【0006】
また、粘着層付きの絶縁テープを超電導線材に縦添えして貼り付け、粘着層の粘着力を適切な値にすることにより、冷却時、含浸樹脂の収縮力に起因する剥離力が作用した場合に、粘着層の粘着した部分で層間剥離を生じさせて、超電導線材に作用する応力を緩和させる技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010?267835号公報
【特許文献2】特開2014-017090号公報
【特許文献3】特開2020-167039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
離形処理を施した絶縁線材と超電導積層体を巻き回して形成された超電導コイルは、絶縁線材と超電導積層体が幅方向に相対的に位置ずれを起こすおそれがある。位置ずれした状態で巻線し、熱硬化性合成樹脂で含浸した超電導コイルは、超電導積層体の幅方向の端部において、剥離力を低減する作用が充分に発揮されず、超電導特性が劣化するおそれがある。また、超電導積層体の全周が絶縁線材で覆われていないため、絶縁性が確実に確保されるわけではない。
【0009】
また、粘着層付きの超電導線材を巻き回し形成した超電導コイルは、冷却時、含浸樹脂の収縮力に起因する剥離力が作用した場合に、粘着層の粘着した部分で層間剥離を生じる。コイル軸方向とコイル径方向について、超電導線材と含浸樹脂が層間剥離して接着しない場合、各方向の伝熱経路は確保されないため、コイル発熱時に熱損傷が発生するおそれがある。
【0010】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、超電導積層体の剥離劣化または絶縁不良のリスクを低減させることができる超電導線材および超電導コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態に係る超電導線材は、金属基板の上に他の層とともに積層された超電導層を有し、テープ状を成す超電導積層体と、前記超電導積層体の一方の面に対向して配置され、前記超電導積層体とともに巻回されるテープ状を成す絶縁線材と、前記超電導積層体と前記絶縁線材との間、かつ前記超電導積層体の幅の範囲内の少なくとも一部に配置され、感圧接着材を主成分とした接着材層と、を備え、前記超電導積層体または前記絶縁線材の少なくとも一方に対する前記接着材層の接着強度が、前記超電導積層体で積層された各層の破壊強度および剥離強度よりも弱くなっている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態により、超電導積層体の剥離劣化または絶縁不良のリスクを低減させることができる超電導線材および超電導コイルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の超電導線材に用いられる超電導積層体を示す斜視図。
図2】第1実施形態の超電導コイルを示す斜視図。
図3】第1実施形態の超電導線材を示す斜視図。
図4】第1実施形態の超電導コイルを示す断面図。
図5】第2実施形態の超電導線材を示す斜視図。
図6】第2実施形態の超電導コイルを示す断面図。
図7】第3実施形態の超電導線材を示す斜視図。
図8】第3実施形態の超電導コイルを示す断面図。
図9】第4実施形態の超電導線材を示す斜視図。
図10】第4実施形態の超電導コイルを示す断面図。
図11】第5実施形態の超電導線材を示す斜視図。
図12】第5実施形態の超電導コイルを示す断面図。
図13】従来の超電導コイルを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、超電導線材および超電導コイルの実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態について図1から図4を用いて説明する。
【0015】
図1の符号1は、第1実施形態の超電導積層体である。この超電導積層体1は、薄膜状の複数の層が積層されたテープ状を成す線材である。超電導積層体1は、少なくとも、金属基板2と中間層3と超電導層4とを有し、これらが安定化層5で被覆されている。なお、必要に応じて、金属基板2と中間層3との間に配向層6が設けられる。さらに、超電導層4と安定化層5との間に保護層7が設けられる。
【0016】
金属基板2は、例えば、ステンレス鋼、ハステロイ(登録商標)などのニッケル合金などの高強度の金属材質で形成されている。
【0017】
中間層3は、例えば、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウムなどの材質で形成される。この中間層3は、超電導層4と金属基板2のバッファー層として機能する。
【0018】
超電導層4は、例えば、YBCO、DyBCO、GdBCOなどのRe123系の高温超電導体で形成されている。
【0019】
安定化層5は、例えば、導電性の銅、銀などの材質で形成される。この安定化層5は、超電導層4に過剰に電気が流れた場合に、安定化層5に電流が転流するバイパスとして機能する。
【0020】
配向層6は、中間層3を配向させる目的で設けられている。この配向層6は、酸化マグネシウムなどの材質で形成されている。
【0021】
保護層7は、超電導層4が空気中の水分に触れて劣化するのを防止するなどの目的で設けられている。この保護層7は、銀などの材質で形成されている。また、この保護層7も、超電導層4に過剰に電気が流れた場合に、保護層7に電流が転流するバイパスとして機能する。
【0022】
図2は、超電導積層体1を巻回して形成された超電導コイル11である。以下、超電導コイル11を直径方向に切断した場合の断面Sを、超電導コイル11の断面図(図4図6図8図10図12図13)として説明する。この断面Sは、超電導積層体1が巻回された巻回部となっている。
【0023】
ここで、従来の技術の問題点について説明する。図13は、従来の技術に基づいて製作された超電導コイル11の巻回部の断面図である。
【0024】
従来の超電導コイル11は、テープ状の超電導積層体1と、両面に離形材層9を備えた絶縁線材8とが、接着されていない状態で共巻きされ、かつ同心円状に巻回されている。さらに、超電導積層体1と絶縁線材8との周囲が熱硬化性合成樹脂10で含浸され、これらが固定されている。
【0025】
絶縁線材8は、超電導積層体1の一方の面に対向して配置され、超電導積層体1とともに巻回され、絶縁性を有するテープ状を成す線材である。この絶縁線材8は、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリビニルブチラール、またはポリビニルホルマールなどの材質で形成されている。
【0026】
離形材層9は、絶縁線材8を超電導積層体1から離れ易くするために設けられている層である。
【0027】
熱硬化性合成樹脂10は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂のうち、少なくとも1つを含む材料で形成される。
【0028】
このような従来の超電導コイル11は、超電導積層体1と絶縁線材8が互いに接着されていないため、巻回の途中で、超電導積層体1と絶縁線材8が、テープ幅方向に位置ずれを起こす場合がある。この位置ずれが起きた場合、テープ幅方向の端部において、隣接するターンの超電導積層体1同士の間に、離形材層9が配置されない構造となってしまう。隣接するターンの超電導積層体1同士の間に、離形材層9が配置されないと、離形材層9が有する剥離力を低減する作用が充分に発揮されないため、超電導特性が劣化するおそれがある。
【0029】
また、超電導積層体1の全周が絶縁線材8で覆われていないため、絶縁性は、確実に確保されるわけではない。
【0030】
次に、第1実施形態について図3から図4を用いて説明する。図3は、第1実施形態の超電導線材13の斜視図である。図4は、この超電導線材13を巻き回し、熱硬化性合成樹脂10で含浸して形成した超電導コイル11の断面図である。
【0031】
超電導コイル11は、超電導線材13を備え、この超電導線材13が絶縁線材8とともに巻回され、超電導線材13の少なくとも一部が熱硬化性合成樹脂10で含浸されている。本実施形態では、巻回された超電導線材13の全体が熱硬化性合成樹脂10で含浸されている。なお、超電導線材13の一部に熱硬化性合成樹脂10で含浸されていない部分が存在してもよい。
【0032】
超電導線材13は、超電導積層体1と絶縁線材8とこれらの間に設けられた接着材層12とを備える。この超電導線材13は、接着材層12により超電導積層体1と絶縁線材8がテープ面で接着され、一体化された構成である。
【0033】
なお、テープ面とは、テープ状を成す部材の端縁以外の面であって、表面と裏面とを示す。また、テープ幅とは、テープ面の幅のことを示す。また、「接着」の用語は、「粘着」の意味を含む。さらに、「接着」とは、所定の温度で部材同士を接合しつつ、一定の温度以下になると接合が弱くなる、または接合しなくなる態様を含む。例えば、「接着」とは、室温では接合されている部材同士が、冷却されることで、その接合された状態が維持できなくなる態様を含む。
【0034】
超電導積層体1の各層(図1)は、積層方向に対して非対称な構造であり、超電導層4が近い方のテープ面と金属基板2が近い方のテープ面に区別される。なお、積層方向に対して非対称な構造とは、積層される層の種類が異なることを示す。また、超電導積層体1の各層は、少なくとも一部の層の厚みが他の層と異なっている。
【0035】
第1実施形態において、超電導積層体1のテープ面の向きは特に限定されるものではないが、絶縁線材8と接着される方の超電導積層体1のテープ面が、超電導層4に近い方のテープ面であることが好ましい。このようにすれば、超電導層4が、金属基板2と絶縁線材8との間に配置される構造となり、超電導層4に加わる力が軽減され、超電導層4の超電導特性の劣化が生じ難くなる。
【0036】
絶縁線材8のテープ幅W1は、超電導積層体1のテープ幅W2以上であり、絶縁線材8のテープ幅W1の範囲内に、超電導積層体1が配置されている。
【0037】
接着材層12は、超電導積層体1または絶縁線材8との接着強度が、超電導積層体1の超電導層4の破壊強度および剥離強度よりも弱い材料で形成されている。言い換えれば、超電導積層体1または絶縁線材8の少なくとも一方に対する接着材層12の接着強度が、超電導積層体1で積層された各層の破壊強度および剥離強度よりも弱くなっている。
【0038】
なお、接着強度は、外力が加わった場合に、接着された状態が維持できなくなるときの外力の値である。破壊強度は、外力が加わった場合に、破壊されてしまうときの外力の値である。剥離強度は、外力が加わった場合に、剥離してしまうときの外力の値である。これら外力の値は、kgまたはkNなどの単位で測定されるものである。
【0039】
一般的に超電導線材13は、冷却して使用されることが多い。そのため、特に、室温以下において、超電導積層体1または絶縁線材8の少なくとも一方に対する接着材層12の接着強度が、超電導積層体1の各層の破壊強度および剥離強度よりも弱くなることが好ましい。例えば、接着材層12の単位面積当たりの接着強度が、超電導積層体1の少なくとも超電導層4の単位面積当たりの破壊強度および剥離強度よりも弱く(小さく)なっている。
【0040】
接着材層12は、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、またはゴム系の物質を主成分とした感圧接着材の材料で形成される。
【0041】
超電導線材13は、一般に曲げて使用されることが多いため、曲率半径がΦ30mm程度に曲げても、破壊されないことが好ましい。
【0042】
接着材層12は、超電導積層体1と絶縁線材8の接着のために、超電導積層体1と絶縁線材8との間、かつ超電導積層体1のテープ幅W2の範囲内の少なくとも一部に配置されている。なお、接着材層12は、超電導積層体1と絶縁線材8との間の超電導積層体1のテープ面全体に亘って配置されてもよい。
【0043】
接着材層12の幅W3は、超電導積層体1のテープ幅W2の半分(50%)から同一(100%)の範囲内であればよい。
【0044】
超電導線材13が、超電導積層体1と絶縁線材8との間に接着材層12を含む構造となっていることで、この超電導線材13が巻き回されて、超電導コイル11が形成される際に、超電導積層体1と絶縁線材8の幅方向の位置ずれを防ぐことができる。
【0045】
また、超電導積層体1または絶縁線材8に対する接着材層12の接着強度が、超電導積層体1の少なくとも超電導層4の剥離強度よりも弱い構造となっている。このようにすれば、超電導線材13に剥離力が加わった際に、超電導積層体1の超電導層4が破壊または剥離される前に、接着材層12が剥離されるようになる。そのため、超電導層4に伝わる剥離力を低減することができる。
【0046】
第1実施形態では、超電導線材13を巻き回して超電導コイル11を形成する際に、接着材層12により、超電導積層体1と絶縁線材8が接着されるため、超電導積層体1と絶縁線材8の幅方向の位置ずれが生じない。そのため、超電導コイル11の絶縁不良のリスクを低減させることができる。
【0047】
また、超電導コイル11の運用時に、超電導線材13に剥離力が加わった際に、超電導積層体1の超電導層4が破壊または剥離される前に、接着材層12で剥離し、超電導層4に伝わる剥離力が低減される。そのため、超電導層4の超電導特性の劣化を抑制することができる。
【0048】
また、超電導積層体1の一方のテープ面を絶縁線材8が覆われることになり、電気絶縁の信頼性が向上する。さらに、超電導コイル11の軸方向において、冷却時に層間剥離する原因となる接着材層12が配置されていないので、軸方向の伝熱経路を確保し、超電導線材13の軸方向に対する伝熱性能を向上させることができる。
【0049】
また、巻回された超電導線材13が熱硬化性合成樹脂10で固められても、超電導積層体1の剥離劣化または絶縁不良を抑制できる超電導コイル11とすることができる。
【0050】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について図5から図6を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。図5は、第2実施形態の超電導線材14の斜視図である。図6は、この超電導線材14を巻き回し、熱硬化性合成樹脂10で含浸して形成した超電導コイル11の断面図である。
【0051】
第2実施形態の超電導線材14は、離形材層9を備える。この離形材層9は、絶縁線材8における接着材層12が配置されていない面に配置されている。
【0052】
離形材層9は、熱硬化性合成樹脂10に対する接着強度が、超電導積層体1の超電導層4の各層の破壊強度および剥離強度、接着材層12の接着強度よりも弱い材料で形成されている。
【0053】
一般的に超電導線材14は、冷却して使用されることが多い。そのため、特に、室温以下において、離形材層9と熱硬化性合成樹脂10の接着強度が、超電導積層体1の各層の破壊強度および剥離強度よりも弱くなることが好ましい。
【0054】
離形材層9は、テフロン(登録商標)などのフッ素系樹脂、パラフィン、グリースおよびシリコンオイルから選ばれた少なくとも1種からなる層である。
【0055】
離形材層9は、接着材層12が配置されていない方のテープ面であれば、超電導積層体1と絶縁線材8のいずれに配置されていても構わない。ただし、伝熱経路の確保のため、超電導積層体1の少なくとも一部は、熱硬化性合成樹脂10と接着していることが好ましい。そのため、離形材層9は、絶縁線材8のみに設けられていることが好ましい。
【0056】
このように、第2実施形態の超電導線材14は、絶縁線材8における接着材層12が配置されていない面に配置されている離形材層9を備えている。そのため、超電導線材14に剥離力が加わった際に、超電導積層体1で積層された各層が破壊または剥離される前に、離形材層9が熱硬化性合成樹脂10から剥離されるようになり、超電導積層体1の剥離劣化または絶縁不良を抑制することができる。
【0057】
また、超電導線材14に剥離力が加わった際に、接着材層12に加えて、離形材層9でも剥離することができるため、超電導積層体1の超電導層4に伝わる剥離力をより低減させることができる。さらに、超電導層4の超電導特性の劣化を抑制することができる。
【0058】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について図7から図8を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。図7は、第3実施形態の超電導線材15の斜視図である。図8は、この超電導線材15を巻き回し、熱硬化性合成樹脂10で含浸して形成した超電導コイル11の断面図である。
【0059】
第3実施形態の超電導線材15は、離形材層9を備える。この離形材層9は、超電導積層体1における接着材層12が配置されていない面に配置されている。このようにすれば、超電導積層体1で積層された各層が破壊または剥離される前に、離形材層9が熱硬化性合成樹脂10から剥離されるようになり、超電導積層体1の剥離劣化または絶縁不良を抑制することができる。
【0060】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について図9から図10を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。図9は、第4実施形態の超電導線材16の斜視図である。図10は、この超電導線材16を巻き回し、熱硬化性合成樹脂10で含浸して形成した超電導コイル11の断面図である。
【0061】
第4実施形態の超電導線材16は、2つ(複数)の離形材層9を備える。これら離形材層9は、超電導積層体1および絶縁線材8における接着材層12が配置されていない面に配置されている。このようにすれば、超電導積層体1で積層された各層が破壊または剥離される前に、離形材層9が熱硬化性合成樹脂10から剥離されるようになり、超電導積層体1の剥離劣化または絶縁不良を抑制することができる。
【0062】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態について図11から図12を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。図11は、第5実施形態の超電導線材17の斜視図である。図12は、この超電導線材17を巻き回し、熱硬化性合成樹脂10で含浸して形成した超電導コイル11の断面図である。
【0063】
第5実施形態の超電導線材17は、2つ(複数)の接着材層12を備える。これら接着材層12は、超電導積層体1のテープ面の幅方向の両端縁を含む一部分に配置されている。つまり、接着材層12が、超電導積層体1のテープ面の両端部近傍に沿って配置されている。
【0064】
一方の接着材層12の幅W3’と他方の接着材層12の幅W3’’とを合わせた幅は、超電導積層体1のテープ幅W2の半分(50%)以上あればよい。
【0065】
また、超電導積層体1と絶縁線材8で挟まれた領域において、2つの接着材層12の間には、空洞Cが形成されている。第5実施形態の超電導コイル11において、超電導積層体1と絶縁線材8との間には、接着材層12と空洞Cがあるため、熱硬化性合成樹脂10が配置されない構造となっている。
【0066】
超電導積層体1と絶縁線材8が、超電導積層体1のテープ面の幅方向の両端部を含む一部分で接着された構造となっている。このようにすれば、超電導線材17に剥離力が加わった際に、超電導積層体1で積層された各層が破壊または剥離される前に、接着材層12が剥離されるようになる。そのため、超電導層4に伝わる剥離力を低減することができる。
【0067】
さらに、空洞Cがあることで、超電導積層体1と絶縁線材8がさらに剥離し易くなっている。超電導積層体1と絶縁線材8の間が、超電導積層体1の幅方向の全体に亘って剥離されるため、超電導積層体1の超電導層4に伝わる剥離力をより低減させることができる。さらに、超電導層4の超電導特性の劣化を抑制することができる。
【0068】
以上、超電導線材13~17および超電導コイル11が第1実施形態から第5実施形態に基づいて説明されているが、いずれかの実施形態において適用された構成が他の実施形態に適用されてもよいし、各実施形態において適用された構成が組み合わされてもよい。
【0069】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、超電導積層体1または絶縁線材8の少なくとも一方に対する接着材層12の接着強度が、超電導積層体1で積層された各層の破壊強度および剥離強度よりも弱くなっている。そのため、超電導積層体1の剥離劣化または絶縁不良のリスクを低減させることができる。
【0070】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0071】
1…超電導積層体、2…金属基板、3…中間層、4…超電導層、5…安定化層、6…配向層、7…保護層、8…絶縁線材、9…離形材層、10…熱硬化性合成樹脂、11…超電導コイル、12…接着材層、13,14,15,16,17…超電導線材、C…空洞、S…断面、W1…絶縁線材のテープ幅、W2…超電導積層体のテープ幅、W3,W3’,W3’’…接着材層の幅。
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