(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111496
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】締結部材
(51)【国際特許分類】
F16B 35/04 20060101AFI20240809BHJP
F16B 39/282 20060101ALI20240809BHJP
F16B 37/04 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
F16B35/04 E
F16B35/04 Q
F16B39/282 Z
F16B37/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016036
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】390038069
【氏名又は名称】株式会社青山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星野 直樹
(57)【要約】
【課題】かしめ強度を低下させることなく、かしめ時におけるバリの発生や相手部材の周囲の変形を抑制できる締結部材を提供する。
【解決手段】かしめ時に相手部材に圧入もしくは接触する座面11に、締結機能部50を備えたかしめボルト、かしめナット等の締結部材である。座面11には、締結機能部50を取り囲むように、リング状突起20が形成され、締結機能部50とリング状突起20の間の位置に放射状突起30が形成されている。リング状突起20と放射状突起30は、外周側から内周側に向けて座面11に近付くように傾斜させた第1の傾斜面21と、第2の傾斜面31をそれぞれ備える。締結機能部50と座面11との間には、かしめ時に相手部材の材料を流入させる凹部15が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結部材であって、
かしめ時に相手部材に圧入もしくは接触する座面と、
前記座面に形成された締結機能部と、
前記締結機能部を取り囲む位置に、前記座面から突出形成されたリング状突起と、
前記締結機能部と前記リング状突起の間の位置に、前記座面から突出形成された放射状突起とを備え、
前記リング状突起と前記放射状突起は、外周側から内周側に向けて前記座面に近付くように傾斜させた傾斜面をそれぞれ備えることを特徴とする締結部材。
【請求項2】
前記放射状突起は、座面に対する傾斜角度の異なる複数の傾斜面を持ち、外周側の傾斜面の傾斜角度を、内周側の傾斜面の傾斜角度よりも小さくしたことを特徴とする請求項1に記載の締結部材。
【請求項3】
前記締結機能部が、おねじを備えた軸部であり、前記おねじの端部と前記座面との間に、かしめ時に相手部材の材料を流入させる凹部が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の締結部材。
【請求項4】
前記締結機能部が、めねじを備えた、もしくはめねじの無い貫通孔であり、前記貫通孔の周囲に形成された環状脚部と前記座面との間に、かしめ時に相手部材の材料を流入させる凹部が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の締結部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の相手部材にかしめ固定されるボルト、ナット等の締結部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
相手部材に他の部材を取り付けるためには、双方の部材にボルト挿通穴を形成してボルトを挿通し、ボルトのおねじ部にナットを螺合させて固定するのが普通である。しかし自動車に代表される技術分野においては、構造の簡素化と組付け工程の削減のために、ボルトの頭部を金属製の相手部材に溶接して固定する溶接ボルトや、金属製の相手部材に形成した下穴に軸部を通し、ボルトの頭部を相手部材に圧入して固定するかしめボルトが用いられている。また同様に、相手部材に溶接される溶接ナットや、相手部材にかしめ固定されるかしめナットも用いられている。本明細書の「締結部材」には、ボルトとナット等が含まれるものである。
【0003】
これらの締結部材は、相手部材にかしめ固定された後に他の部材を取り付けるために用いられるものである。例えばボルトの場合には、ナットを用いて他の部材を締結する際に回転トルクを受けることとなるが、相手部材に対してボルトが空転してしまうと締結作業が行いにくくなる。このためかしめ固定型の締結部材には、空転トルク(空転し始めるトルク)が大きいことが求められる。また、引張荷重を受けた際に締結部材がかしめ固定された部分から剥離することがないよう、抜け強度が大きいことが求められる。これはナットの場合にも同様である。
【0004】
そこで本発明者等は先に、座面に星型の突起を形成した特許文献1のかしめボルトを開発した。このかしめボルトは、かしめ時に座面に形成された星型の突起が相手部材に圧入されることによって大きい空転トルクを得ることができる。また、軸部の上端と座面との間に形成される不完全ねじ部に相手部材の金属材料を流入させることによりかしめ強度を高め、大きい抜け荷重を得られるようになっている。
【0005】
しかし相手部材の板厚や強度によっては、かしめ時に相手部材が圧入方向に変形し、相手部材の下穴の端縁にバリが発生することがあった。かしめボルトの場合、このバリはボルトのねじ部の上端に向かって発生するため、バリが大きくなると問題となるおそれがある。またかしめ時に相手部材が径方向に押し出され、周囲の相手部材に変形を生じさせることがあった。この問題は、相手部材が銅やアルミニウムのような軟質金属である場合に特に顕著となる。このため本発明者は、空転トルクや抜け強度などのかしめ強度を低下させることなく、これらの問題点を解消した締結部材を開発するため、検討を重ねた。
【0006】
なお、かしめ型の締結部材については既に多くの先行特許文献が存在するので、以下に簡単に説明する。特許文献2には特許文献1と同様の星型突起を座面に形成したかしめボルトが開示されている。しかし座面の形状が類似しており、上記した特許文献1のかしめボルトと同様の問題があるものと考えられる。
【0007】
特許文献3及び特許文献4には、座面に多数の放射状突起を備えたかしめボルト及びかしめナットが開示されている。これらの放射状突起は軸部に形成された台座部につながっている。このためかしめ時に相手部材の金属材料は、台座部によって特許文献1よりも更に大量に圧入方向及び径方向に押し出され、バリを生じさせたり、周囲を変形させたりするおそれがあるものと考えられる。
【0008】
特許文献5にも、座面に多数の放射状突起を備えたかしめボルト及びかしめナットが開示されている。これらの放射状突起は軸部から離れた位置にある。しかし、かしめ時に相手部材の金属材料を径方向に押し出し、周囲を変形させることは上記した各特許文献と同様であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第6214696号公報
【特許文献2】米国特許第5513933号明細書
【特許文献3】特許第5981008号公報
【特許文献4】特許第5567898号公報
【特許文献5】米国特許第5797175号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って本発明の目的は上記した従来技術の問題点を解決し、空転トルクや抜け強度などのかしめ強度を低下させることなく、かしめ時におけるバリの発生や相手部材の周囲の変形を抑制できる締結部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、締結部材であって、かしめ時に相手部材に圧入もしくは接触する座面と、前記座面に形成された締結機能部と、前記締結機能部を取り囲む位置に、前記座面から突出形成されたリング状突起と、前記締結機能部と前記リング状突起の間の位置に、前記座面から突出形成された放射状突起とを備え、前記リング状突起と前記放射状突起は、外周側から内周側に向けて前記座面に近付くように傾斜させた傾斜面をそれぞれ備えることを特徴とするものである。なお前記放射状突起は、座面に対する傾斜角度の異なる複数の傾斜面を持ち、外周側の傾斜面の傾斜角度を、内周側の傾斜面の傾斜角度よりも小さくした構造とすることができる。
【0012】
締結部材がボルトである場合には、前記締結機能部が、おねじを備えた軸部であり、前記おねじの端部と前記座面との間に、かしめ時に相手部材の材料を流入させる凹部が形成されている構造とすることができる。
【0013】
締結部材がナットである場合には、前記締結機能部が、めねじを備えた、もしくはめねじの無い貫通孔であり、前記貫通孔の周囲に形成された環状脚部と前記座面との間に、かしめ時に相手部材の材料を流入させる凹部が形成されている構造とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の締結部材は、座面に形成された締結機能部を取り囲む位置に突出形成されたリング状突起と放射状突起を相手部材に圧入して相手部材にかしめ固定されるものであるから、大きい空転トルクを得ることができる。また、これらの突起は外周側から内周側に向けて前記座面に近付くように傾斜させた傾斜面をそれぞれ備えているので、相手部材に圧入した際にこれらの傾斜面が相手部材を中心側に引き寄せる作用を生ずる。そのため従来のように相手部材を径方向に押し出す作用が抑制され、周囲の相手部材の変形を抑制することができる。さらに、放射状突起は間隔を明けて形成されており、従来構成とは異なり、放射状突起の内周端を連結する台座部分がない。このため、相手部材に圧入した際に相手部材の材料を各突起間に流入させ、バリの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施形態のかしめボルトの全体斜視図である。
【
図2】第1の実施形態のかしめボルトのA-A断面図及びB-B断面図である。
【
図5】従来のかしめボルトのCAE解析結果を示す図である。
【
図6】本発明のかしめボルトのCAE解析結果を示す図である。
【
図7】第2の実施形態のかしめナットの全体斜視図である。
【
図8】第2の実施形態のかしめナットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施形態)
以下に本発明の実施形態を説明する。第1の実施形態の締結部材は、かしめボルトである。
図1に示すように、第1の実施形態の締結部材は、頭部10と、頭部10の裏面に形成され、かしめ時に金属製の相手部材に圧入もしくは接触する座面11を備える。本実施形態では座面11は円形であるが、四角形、六角形等の多角形やその他の形状であってもよい。また本実施形態では頭部10は座面11に対して垂直方向から見て円形であるが、四角形、六角形等の多角形やその他の形状であってもよい。
【0017】
座面11の中央部には、締結機能部50が形成されている。締結機能部50は好ましくはねじを備えて締結機能を発揮する部分であり、締結部材が本実施形態のようなかしめボルトである場合には、締結機能部50はおねじ12を備えたかしめボルトの軸部13である。
図2に示すように、おねじ12の頭部10側の端部は不完全ねじ部14となっている。不完全ねじ部14は、転造ダイスを用いておねじ12を転造する際に、その端部に不可避的に形成されるねじ山高さが次第に低くなる部分である。不完全ねじ部14と頭部10の座面11との間は、凹部15となっている。この凹部15は、かしめ時に相手部材の材料が流入する部分である。
【0018】
図1~
図3に示すように、頭部10の座面11には、締結機能部50である軸部13を取り囲む位置に、リング状突起20と放射状突起30とが形成されている。リング状突起20は座面11からほぼ垂直に突出形成されており、その内周側には第1の傾斜面21が形成されている。
図2に示すように、第1の傾斜面21が座面11に対してなす角度αは10°~45°とすることが好ましい。この実施形態ではリング状突起20の直径は、頭部10の外径の約70%程度となっているが、適宜拡大してもよい。しかしリング状突起20の直径を小さくすると締結機能部50である軸部13に接近し、後述する第1の傾斜面21の作用効果が損なわれるので、頭部10の外径の半分以下とすることはあまり好ましくはない。逆にリング状突起20の直径を大きくして頭部10の外径に近付けるとかしめ加工が行いにくくなる。このためリング状突起20の直径は、頭部10の外径の50~80%の範囲とすることが望ましい。
【0019】
放射状突起30は、締結機能部50とリング状突起20の間の位置に形成されている。放射状突起30も座面11から突出形成されたものであり、本実施形態では放射状突起30の高さはリング状突起20の高さと同一となっているが、必ずしも同一である必要はない。放射状突起30は締結機能部50に向かって延び、その内周側には第2の傾斜面31が形成されている。第2の傾斜面31はリング状突起20の第1の傾斜面21よりも急な斜面であり、
図2に示すように第2の傾斜面31が座面11に対してなす角度βは、15°~70°とすることが好ましい。
【0020】
放射状突起30の第2の傾斜面31は締結機能部50に近傍まで延びている。このためこの部分では、不完全ねじ部14と頭部10の座面11との間の凹部15は狭くなっている。放射状突起30の平面32の外周端は、リング状突起20につながっている。放射状突起30の半径方向の長さは、本実施形態では頭部10の直径の約25%である。しかしリング状突起20の直径が大きくなれば、放射状突起30の半径方向の長さも長くなる。
【0021】
放射状突起30は本実施形態では8個が等間隔で配置されている。しかしその個数は2以上であれば任意である。しかし放射状突起30の個数があまりに多くなると放射状突起30同士の間の空間が減少して本発明の効果が損なわれるので、12個以下とすることが好ましい。
【0022】
図4(A)に拡大して示すように、本実施形態では放射状突起30の平面32は座面11と平行である。しかし
図4(B)に示すように、放射状突起30が座面11に対する傾斜角度の異なる複数の傾斜面31、33を持ち、外周側の傾斜面33の傾斜角度γを、内周側の傾斜面である第2の傾斜面31の傾斜角度βよりも小さくした構造としてもよい。このとき、傾斜面33と座面11との間の角度γを0°~10°の範囲で変更することもできる。
【0023】
図2に示すように、放射状突起30の第2の傾斜面31の内周端は締結機能部50である軸部13に近接しており、おねじ12の端部の不完全ねじ部14と座面11との間に、かしめ時に各突起20により押し出された相手部材の材料を流入させる凹部15が形成されている。なお本実施形態では放射状突起30の内周端は互いに分離されており、内周端間をつなぐ従来のような台座は存在しない。
【0024】
ここで特許文献1の座面に星型の突起を備えたかしめボルトと、本発明の第1の実施形態のかしめボルトについて、CAE解析を行った結果を示す。
図5は特許文献1のかしめボルトのCAE解析図であり、(A)の初期状態からかしめボルトの頭部を相手部材に圧入すると、(B)に示すように圧入初期に下穴の内周下部とかしめボルトの軸部との間に小さいバリが発生する。そして(C)に示すように首下部に相手部材の材料が充満すると、行き場を失った材料が外周方向へ拡がり、相手部材である金属板が反り始める。また首下部への相手部材の材料の充満過程で外周に逃げられない部分はバリとなって下方に押し出され、最終的に(D)に示すように、大きいバリと周囲の変形を生じさせることとなる。
【0025】
これに対して
図6(A)に示す本発明の実施形態のかしめボルトにおいては、座面11のリング状突起20及び放射状突起30が相手部材に圧入されたとき、リング状突起20の第1の傾斜面21と放射状突起30の第2の傾斜面31が相手部材の材料を内側に引き寄せる(
図6(B)参照)ため、
図5のように材料が外周方向へ拡がることはなく、反りなど周囲を変形させることがない。リング状突起20はかしめ過程において相手部材に急角度で喰い込み(
図6(C)参照)、相手部材が内側方向に移動することを阻害するうえ、かしめ開始時には座面11と相手部材との間に空間15が形成されているため、バリの発生が抑制されることが確認された(
図6(D)参照)。かしめ完了時には相手部材の材料が凹部15に流入し、かしめ固定される。
【0026】
(第2の実施形態)
図7、
図8に、本発明の第2の実施形態であるかしめナットを示す。この締結部材はナット本体40と、ナット本体40の裏面に形成され、かしめ時に金属製の相手部材に圧入される座面41を備える。本実施形態では座面41は円形であるが、四角形、六角形等の多角形やその他の形状であってもよい。また本実施形態ではナット本体40は座面41に対して垂直方向から見て円形であるが、四角形、六角形等の多角形やその他の形状であってもよい。
【0027】
座面41の中央部には、締結機能部50が形成されている。締結機能部50は締結機能を発揮する部分であり、締結部材がかしめナットである場合には、締結機能部50はめねじ42が切られた貫通孔43であることが普通であるが、場合によってはめねじ42はなくてもよい。ナット本体40の座面41には第1の実施形態と同様に、リング状突起20及び放射状突起30が締結機能部50を取り囲むように設けられている。第2の実施形態のリング状突起20及び放射状突起30の形状は第1の実施形態と同じである。
【0028】
ナット本体50の座面41には、貫通孔43の周囲を囲むように環状脚部44が形成されている。この環状脚部44はかしめナットを相手部材にかしめた際に相手部材を打ち抜く機能を持ち、環状脚部44の外周面45と内周面46は座面41に対して外周側に傾斜したテーパ面となっている。そして環状脚部44と座面41との間に、かしめ時に相手部材の材料を流入させる凹部47が形成されている。
【0029】
締結部材がかしめナットである場合にも、リング状突起20及び放射状突起30の機能はかしめボルトについて説明した通りであり、バリの発生を防止できること、相手部材の変形を防止できることは前記と同様である。
【0030】
以上に説明した通り、本発明の締結部材は、空転トルクや抜け強度などのかしめ強度を低下させることなく、かしめ時におけるバリの発生や相手部材の周囲の反りなどの変形を抑制できる利点がある。なお、締結機能部50がボルトの軸部13である場合には、ナットによる締結が行われ、締結機能部50がナットの貫通孔43である場合には、ボルトによる締結が行われることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0031】
10 頭部
11 座面
12 おねじ
13 軸部
14 不完全ねじ部
15 凹部
20 リング状突起
21 第1の傾斜面
30 放射状突起
31 第2の傾斜面
32 平面
33 傾斜面
40 ナット本体
41 座面
42 めねじ
43 貫通孔
44 環状脚部
45 外周面
46 内周面
47 凹部
50 締結機能部