(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001115
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】オキサゾール化合物結晶
(51)【国際特許分類】
C07D 263/32 20060101AFI20231226BHJP
A61K 31/421 20060101ALI20231226BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231226BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231226BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231226BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C07D263/32 CSP
A61K31/421
A61P17/00
A61P43/00 111
A61P29/00
A61P37/08
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023171778
(22)【出願日】2023-10-03
(62)【分割の表示】P 2021196978の分割
【原出願日】2019-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2018072717
(32)【優先日】2018-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 直彦
(72)【発明者】
【氏名】安冨 貴之
(72)【発明者】
【氏名】廣田 良輔
(57)【要約】 (修正有)
【課題】PDE4に対する特異的な阻害作用を有する特定のオキサゾール化合物の結晶であって、優れた安定性を有する結晶を提供する。
【解決手段】式(5):
で表されるオキサゾール化合物の結晶であって、CuKα特性X線により測定される粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ(°)=9.6±0.2、19.1±0.2、及び21.2±0.2にピークを有する、結晶が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(5):
【化1】
で表されるオキサゾール化合物の結晶であって、
CuKα特性X線により測定される粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ(°)= 9.6±0.2、19.1±0.2、及び21.2±0.2にピークを有する、結晶。
【請求項2】
式(5):
【化2】
で表されるオキサゾール化合物の結晶であって、
臭化カリウム錠剤法により測定される赤外線吸収スペクトルにおいて、波数(cm
-1)=3380±5、2980±5、1651±2、1501±2、1258±2、1121±2、及び754±2 に赤外線吸収バンドを有する、結晶。
【請求項3】
式(5):
【化3】
で表されるオキサゾール化合物の結晶であって、融点が75~90℃である、結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキサゾール化合物の新規結晶、及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2には、ホスホジエステラーゼ4(PDE4)に対する特異的な阻害作用を有するオキサゾール化合物及びその製造方法が報告されている。PDE4は炎症細胞で優勢なPDEであり、PDE4の阻害は細胞内cAMP濃度を上昇させ、同濃度の上昇はTNF-α、IL-23、その他炎症性サイトカインの発現調節を通じて炎症反応を下方制御する。またcAMP濃度の上昇は、IL-10などの抗炎症性サイトカインを増加させる。従って、前記オキサゾール化合物は、抗炎症剤として用いるのに適していると考えられる。例えば、アトピー性皮膚炎を含む、皮膚の湿疹及び皮膚炎を抑えるために有用であると考えられる。特許文献3には、PDE4に対する特異的な阻害作用を有するオキサゾール化合物を安定に含有し、かつ皮膚内へ効率よく吸収され得る軟膏剤が記載されている。なお、当該特許文献1~3の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007/058338号(特表2009-515872号公報)
【特許文献2】国際公開第2014/034958号(特表2015-528433号公報)
【特許文献3】国際公開第2017/115780号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、PDE4阻害作用を有するオキサゾール化合物(具体的には、下記式(5)で表されるオキサゾール化合物)の結晶であって、より優れた安定性を有する結晶を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、PDE4阻害作用を有する特定のオキサゾール化合物を用いて、これまで報告されていない型の結晶を調製する方法を見出し、さらに当該新規結晶がより優れた安定性を有することを見出した。そして、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0006】
本発明は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
式(5):
【0007】
【0008】
で表されるオキサゾール化合物の結晶であって、
CuKα特性X線により測定される粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ(°)=
9.6±0.2、19.1±0.2、及び21.2±0.2にピークを有する、結晶。項2.
さらに、CuKα特性X線により測定される粉末X線回折パターンにおいて、12.6±0.2、22.8±0.2、及び26.0±0.2からなる群より選択される1、2、又は3の回折角2θ(°)にピークを有する、項1に記載の結晶。
項3.
さらに、CuKα特性X線により測定される粉末X線回折パターンにおいて、10.4±0.2、11.9±0.2、15.0±0.2、15.9±0.2、19.7±0.2、24.7±0.2及び27.6±0.2からなる群より選択される1又は2以上の回折角2θ(°)にピークを有する、項2に記載の結晶。
項4.
式(5):
【0009】
【0010】
で表されるオキサゾール化合物の結晶であって、
臭化カリウム錠剤法により測定される赤外線吸収スペクトルにおいて、波数(cm-1)=3380±5、2980±5、1651±2、1501±2、1258±2、1121±2、及び754±2 に赤外線吸収バンドを有する、結晶。
項5.
臭化カリウム錠剤法により測定された赤外線吸収スペクトルにおいて、波数(cm-1)=3380±5、2980±5、1651±2、1501±2、1258±2、1121±2、及び754±2 に赤外線吸収バンドを有する、項1~3のいずれかに記載の結晶。
項6.
さらに、臭化カリウム錠剤法により測定された赤外線吸収スペクトルにおいて、1601±2、1537±2、1302±2、1234±2、1107±2、1026±2及び627±2からなる群より選択される1又は2以上の波数(cm-1)に赤外線吸収バンドを有する、項4又は5に記載の結晶。
項7.
融点が75~90℃である、項1~6のいずれかに記載の結晶。
項8.
式(5):
【0011】
【0012】
で表されるオキサゾール化合物の結晶であって、
融点が75~90℃である、結晶。
項9.
項1~8のいずれかに記載の結晶を含有する医薬組成物。
項10.
皮膚の湿疹又は皮膚炎(好ましくはアトピー性皮膚炎)の治療及び/又は予防用である、項9に記載の医薬組成物。
項11.
軟膏剤である、項9又は10に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0013】
PDE4阻害作用を有する特定のオキサゾール化合物の、より安定な結晶が提供される。特に、当該結晶は、従来の当該特定のオキサゾール化合物の結晶に比べ、融点が高いため、熱安定性が高く、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】化合物(5)のA型結晶の、CuKα特性X線により測定される粉末X線回折パターンを示す。
【
図2】化合物(5)のA型結晶の、臭化カリウム錠剤法により測定される赤外線吸収スペクトルを示す。
【
図3】化合物(5)のB型結晶の、CuKα特性X線により測定される粉末X線回折パターンを示す。
【
図4】化合物(5)のB型結晶の、臭化カリウム錠剤法により測定される赤外線吸収スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の各実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0016】
本発明に包含されるオキサゾール化合物の結晶は、下記式(5):
【0017】
【0018】
で表されるオキサゾール化合物の結晶である。当該オキサゾール化合物は、PDE4に対する特異的な阻害作用を有しており、抗炎症剤等として有用である。本明細書では、式(5)で表されるオキサゾール化合物を化合物(5)と称することがある。なお、化合物(5)は、N-[2-(4-ジフルオロメトキシ-3-イソプロポキシフェニル)オキサゾール-4-イルメチル]-2エトキシベンズアミドである。
【0019】
化合物(5)は、公知の方法(例えば特許文献1~3のいずれかに記載の方法)より製造することができる。但し、いずれの公知の方法で製造した化合物(5)の結晶型も、本発明に包含される化合物(5)の結晶型とは異なる。本明細書では、前者の結晶型をA型、後者の結晶型をB型、と称することがある。すなわち、公知の方法で製造した化合物(5)の結晶はA型結晶であり、本発明に包含される化合物(5)の結晶はB型結晶である。
【0020】
B型結晶は、例えば以下の特徴を1又は2以上有する化合物(5)の結晶である。好ましくは、以下の特徴(i)~(iii)のうち、少なくとも1つの特徴を有し、より好ましくは少なくとも2つの特徴を有し(すなわち、特徴(i)及び(ii)を有するか、特徴(ii)及び(iii)を有するか、あるいは特徴(iii)及び(i)を有する)、さらに好ましくは3つ全ての特徴を有する。
【0021】
特徴(i):特有の粉末X線回折パターン
B型結晶は、CuKα特性X線により測定される粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ(°)= 9.6±0.2、19.1±0.2、及び21.2±0.2にピークを有することが好ましい。これら3本のピークのなかで、回折角2θ(°)=19.1±0.2のピーク(ピーク[12]ということがある)の強度(intensity)が最も小さいこ
とが好ましい。また、回折角2θ(°)=21.2±0.2のピーク(ピーク[16]ということがある)の強度が最も大きいことが好ましい。なお、回折角2θ(°)=9.6±0.2のピークをピーク[2]ということがある。
【0022】
またさらに、ピーク[12]とピーク[16]の強度の比(ピーク[16]/ピーク[12])は、1.5~2.5程度であることが好ましく、1.6~2.4程度又は1.7~2.3程度であることがより好ましく、1.8~2.2程度又は1.9~2.1程度であることがさらに好ましい。また、ピーク[12]とピーク[2]の強度の比(ピーク[2]/ピーク[12])は、1.5~1.75程度であることが好ましい。
【0023】
また、これら3本のピーク(ピーク[2]、[12]、及び[16])に加えて、12.6±0.2、22.8±0.2、及び26.0±0.2からなる群より選択される1、2、又は3の回折角2θ(°)にピークを有することがさらに好ましい。なお、回折角2θ(°)=12.6±0.2のピークをピーク[6]ということがある。回折角2θ(°)=22.8±0.2のピークをピーク[18]ということがある。回折角2θ(°)=26.0±0.2のピークをピーク[20]ということがある。
【0024】
B型結晶は、ピーク[2]、[12]、及び[16]に加えて、ピーク[6]、[18]、及び[20]を全て有することが中でも好ましい。この場合、ピーク[6]、[18]、及び[20]のピーク強度は、いずれも、ピーク[12]のピーク強度より小さいことが好ましい。また、ピーク[6]、[18]、及び[20]のピーク強度の中では、ピーク[20]のピーク強度が最も大きいことが好ましい。
【0025】
また、上記4~6本のピーク(ピーク[2]、[12]、及び[16]の3本ピーク、並びにピーク[6]、[18]、及び[20]からなる群より選択される1本、2本、又は3本のピーク)に加えて、10.4±0.2、11.9±0.2、15.0±0.2、15.9±0.2、19.7±0.2、24.7±0.2及び27.6±0.2からなる群より選択される1又は2以上(2、3、4、5、6、又は7)の回折角2θ(°)にピークを有することがよりさらに好ましい。これら1~7本のピークの強度は、いずれも、上記4~6本のピークの強度よりも小さいことが好ましい。ピーク[2]、[12]、及び[16]、並びにピーク[6]、[18]、及び[20]を有し、さらに回折角2θ(°)=10.4±0.2、11.9±0.2、15.0±0.2、15.9±0.2、19.7±0.2、24.7±0.2及び27.6±0.2にもピークを有するB型結晶が、特に好ましい。
【0026】
特徴(ii):特有の赤外線吸収スペクトル
B型結晶は、臭化カリウム錠剤法により測定される赤外線吸収スペクトルにおいて、波数(cm-1)=3380±5、2980±5、1651±2、1501±2、1258
±2、1121±2、及び754±2 に赤外線吸収バンドを有することが好ましい。これらの赤外線吸収バンドのなかでも、波数(cm-1)=1651±2の赤外線吸収バンドが、特にB型結晶に特徴的なバンドである。また、これらの赤外線吸収バンドは、化合物(5)に存在する特徴的な官能基の赤外吸収に由来しており、より具体的には次の通りである。(なお、下記において記号「/」の右側に記載される波長は、下述するA型結晶における赤外線吸収バンドの波長である。)
3380(cm-1): 第二アミドN-H 伸縮振動
2980(cm-1): -CH2 伸縮振動
1651/1643(cm-1): アミドC=O 伸縮振動
1501/1503(cm-1): 芳香族C=C 伸縮振動
1258/1261、 1121/1119(cm-1): -CF2 伸縮振動
754/758(cm-1): ベンゼンC-H 面外変角振動
【0027】
また、これらの特徴的な赤外線吸収バンドの他にも、1601±2、1537±2、1302±2、1234±2、1107±2、1026±2、及び627±2からなる群より選択される1又は2以上(2、3、4、5、6、又は7)の波数(cm-1)にさらに赤外線吸収バンドを有することがより好ましい。
【0028】
なお、当該赤外線吸収スペクトルにおいて、1又は2以上(2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、又は13)の赤外線吸収バンドの波数(cm-1)の誤差は±4、±3、±2、又は±1であってもよい。
【0029】
特徴(iii):特有の融点
B型結晶の融点は、好ましくは75~90℃である。当該範囲の下限は76℃、77℃、78℃、79℃、又は80℃であってもよい。また、当該範囲の上限は、89℃、88℃、87℃、86℃、85℃、又は84℃であってもよい。好ましくは77~88℃であり、より好ましくは78~86℃であり、さらに好ましくは79~85℃であり、特に好ましくは80~84℃である。
【0030】
なお、当該融点は、第十七改正日本薬局方の2.60に記載の第1法により測定した値である。
【0031】
B型結晶は、A型結晶を室温よりも高い温度で長期間静置することにより、調製することができる。より具体的には、例えば、好ましくは40~60℃、より好ましくは45~55℃、さらに好ましくは48~52℃で、好ましくは3ヶ月以上、より好ましくは4ヶ月以上又は5ヶ月以上静置することにより、調製することができる。静置する期間の上限はB型結晶が得られる限り特に制限されないが、例えば6ヶ月又は7ヶ月程度が例示できる。静置は、気密又は密閉状態で行うことが好ましい。また、光の影響を受けない状態(例えば遮光状態、より具体的には例えば遮光褐色瓶に入れた状態)で行うことが好ましい。
【0032】
また、A型結晶は、上記の通り公知の方法で調製することができ、例えば特許文献1~3のいずれかに記載された方法で調製することができる。特に制限はされないが、例えば、特許文献3に記載される下記反応式に従って化合物(5)を調製し、さらに化合物(5)の結晶を析出させることにより、A型結晶を調製することができる。得られた析出晶を乾燥させてA型結晶として用いることもでき、乾燥済みA型結晶は、室温より高い温度で長期間静置しB型結晶を調製するために用いるA型結晶として、特に好ましい。
【0033】
【0034】
なお、A型結晶の粉末X線回折パターン、赤外線吸収スペクトル、及び融点について、次に記載する。A型結晶は、CuKα特性X線により測定される粉末X線回折パターンにおいて、特に回折角2θ(°)= 5.8±0.2、11.6±0.2、17.1±0.2、23.1±0.2及び26.1±0.2に特徴的なピークを有する。またさらに、10.2±0.2、13.2±0.2、16.1±0.2、18.5±0.2、22.2±0.2及び26.7±0.2からなる群より選択される1又は2以上の回折角2θ(°)にもピークを有していてもよい。A型結晶は、臭化カリウム錠剤法により測定される赤外線吸収スペクトルにおいて、特に波数(cm-1)=3380±5、2980±5、1643±2、1503±2、1261±2、1119±2及び758±2に赤外線吸収バンドを有する。またさらに、1601±2、1537±2、1296±2、1229±2、1047±2、939±2及び617±2からなる群より選択される1又は2以上の波数(cm-1)にも吸収バンドを有していてもよい。A型結晶の融点(第十七改正日本薬局方の2.60に記載の第1法により測定)は、56~60℃程度である。
【0035】
本発明は、B型結晶を含有する医薬組成物をも含有する。当該医薬組成物は、例えば、薬学的に許容される担体及びB型結晶を含有する。このような単体としては、特に制限はされず、公知の単体を用いることができる。なお、当該医薬組成物を本発明の医薬組成物ということがある。
【0036】
本発明の医薬組成物は、特に皮膚の湿疹又は皮膚炎の抑制に有用であり、特にアトピー性皮膚炎の抑制に有用である。本発明の医薬組成物は、例えばこれらの疾患の予防及び/又は治療剤として用いることができる。
【0037】
本発明の医薬組成物の形態も、特に制限されず、例えば皮膚外用剤、経口剤、注射剤等が挙げられる。中でも皮膚外用剤が好ましく、特に軟膏剤であることが好ましい。軟膏剤としてしては、好ましくは、(I)B型結晶 は基剤成分に溶解して含まれており、当該
基剤成分は(II)化合物(5)を溶解する溶媒、及び(III)軟膏基剤 を包含する。
【0038】
さらに好ましくは、軟膏剤は、(I)B型結晶が溶解した(II)溶媒が(III)軟膏基剤中に溶解又は液滴として分散した軟膏剤である。
【0039】
なお、(II)溶媒に(I)B型結晶を溶解させるにあたり、加熱溶解させてもよい。加熱溶解させる場合には、B型結晶の融点以上の温度で加熱することが好ましい。例えば、75℃以上、76℃以上、77℃以上、78℃以上、79℃以上、80℃以上、81℃以上、82℃以上、83℃以上、84℃以上、85℃以上、86℃以上、87℃以上、88℃以上、89℃以上、又は90℃以上で加熱溶解させることができる。また、加熱温度の上限は、化合物(5)の効果が奏される範囲であれば特に制限されないが、例えば100℃以下、99℃以下、98℃以下、97℃以下、96℃以下、95℃以下、94℃以下、93℃以下、92℃以下、又は91℃以下が挙げられる。
【0040】
特に制限されないが、(I)B型結晶は、軟膏剤100重量部に対して、好ましくは0.01~10重量部、より好ましくは0.05~7.5重量部、さらに好ましくは0.1~5重量部、軟膏剤に含有される。
【0041】
(I)B型結晶は、(II)溶媒に溶解していることが好ましい。溶媒としては、常温で液体の極性化合物が好ましく、より具体的には、例えば炭酸エチレン、炭酸プロピレン、ベンジルアルコール、トリアセチン、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル、イソステアリン酸、オリーブ油、ヘキシルドデカノール、オレイン酸デシル、イソステアリルアルコール及びミリスチン酸イソプロピルなどが好ましく挙げられる。より好ましくは、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、ベンジルアルコール、トリアセチンが挙げられ、さらにより好ましくは炭酸プロピレン及びトリアセチンが挙げられる。中でも、炭酸プロピレンが好ましい。溶媒は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、炭酸エチレン又は炭酸プロピレンのみを用いるか、又は炭酸エチレン又は炭酸プロピレンに更にベンジルアルコール及び/又はトリアセチンを組み合わせて用いることが好ましい。
【0042】
(II)溶媒は、(I)B型結晶1重量部に対して、好ましくは2重量部より多く、より好ましくは2.1重量部以上、さらに好ましくは2.2重量部以上、軟膏剤に含有される。また、上限としては、本発明の効果が得られれば特に制限されないが、例えば好ましくは30重量部以下、より好ましくは20重量部以下、さらに好ましくは15重量部以下である。
【0043】
また、(II)溶媒は、軟膏剤100重量部に対して、好ましくは0.1~50重量部、より好ましくは0.2~25重量部、さらに好ましくは0.5~20重量部、軟膏剤に含有される。
【0044】
B型結晶が溶媒に溶解した溶液は、(III)軟膏基剤中に溶解又は液滴として分散していることが好ましく、(III)軟膏基剤中に液滴として分散していることがより好ましい。
【0045】
(III)軟膏基剤としては、軟膏剤の製造に用いられる公知の軟膏基剤を用いることができ、例えば、炭化水素類が挙げられ、より具体的には、例えば油脂性基剤、特に天然ロウ、石油ロウ、その他の炭化水素類等が例示できる。天然ロウとしては、ミツロウ(無漂白ミツロウ、非化学漂白サラシミツロウ、化学漂白サラシミツロウ等)、カルナウバロウ等が例示できる。石油ロウとしては、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス等が
例示できる。その他の炭化水素類としては、流動パラフィン、ワセリン(白色ワセリン、黄色ワセリン等)等が例示できる。軟膏基剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
(III)軟膏基剤は、(I)B型結晶1重量部に対して、好ましくは5~5000重量部、より好ましくは10~2500重量部、さらに好ましくは20~1000重量部、軟膏剤に含有される。
【0047】
また、(III)軟膏基剤は、軟膏剤100重量部に対して、好ましくは50~99重量部、より好ましくは70~98重量部、さらに好ましくは80~97重量部、軟膏剤に含有される。
【0048】
なお、(III)軟膏基剤は少なくともミツロウを含むことが好ましい。また、ミツロウとしては、化学漂白されていないミツロウ、例えば、非化学的に漂白したミツロウ(非化学的漂白ミツロウ)や漂白されていないミツロウ(無漂白ミツロウ)、を用いることが好ましい。
【0049】
ミツロウは、(I)B型結晶1重量部に対して、好ましくは0.05~50重量部、より好ましくは0.1~40重量部、さらに好ましくは0.2~35重量部、軟膏剤に含有される。
【0050】
また、ミツロウは、軟膏剤100重量部に対して、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.2~9重量部、さらに好ましくは0.4~8重量部、よりさらに好ましくは0.5~7.5重量部、特に好ましくは1~5重量部、軟膏剤に含有される。
【0051】
他の軟膏基剤がミツロウと組み合わせて用いられる場合、特に限定はされないが、例えばワセリン(好ましくは白色ワセリン)、流動パラフィン、及びパラフィンからなる群より選択される少なくとも1種とミツロウが含まれることが好ましい。
【0052】
上記の軟膏基剤に加えて、香料、着色剤、防腐剤、高級アルケン酸(例えば、オレイン酸等)のような吸収促進剤など軟膏剤に使用しうる他の添加剤(特に医薬品添加物)や、他の皮膚疾患に有効な薬剤が含まれていてもよい。
【0053】
本発明の軟膏剤は、上記の通り、好ましくは(I)B型結晶が溶解した(II)溶媒が(III)軟膏基剤中に溶解又は液滴として分散した構造を有する。このような構造を有する軟膏剤を製造する方法としては、例えば、(I)を(II)に溶解させた溶解液を調製し、当該溶解液と(III)とを撹拌混合する方法が挙げられる。撹拌混合には、例えばホモミキサー、パドルミキサー、その組み合わせ等を用いることができる。
【0054】
また、(III)については、複数種の軟膏基剤を用いる場合には、予め混合しておくことが好ましい。当該調製においては、ミツロウ等の固形物を溶解させるために加熱混合することが好ましい。例えば、ミツロウとその他の軟膏基剤を組み合わせて用いる場合には、ミツロウとその他の軟膏基剤とを予め混合して調製しておくことが好ましく、混合時には加熱混合することが好ましい。
【0055】
また、軟膏剤が、(I)が溶解した(II)が(III)中に液滴として分散した構造を有する場合は、当該液滴の粒子径を偏光顕微鏡で観察するとき100μm以下である。好ましくは約40μm以下であり、より好ましくは約25μm以下であり、さらに好ましくは約20μm以下である。なかでも、100μmより大きい液滴が存在しないことが好ましく、40μmより大きい液滴が存在しないことがより好ましく、25μmより大きい
液滴が存在しないことがさらに好ましく、20μmより大きい液滴が存在しないことがよりさらに好ましい。液滴の粒子径については、前記溶解液と(III)とを撹拌混合する際の、撹拌速度を調整することにより、所望の平均粒径とすることができる。
【0056】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本発明は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0057】
また、上述した本発明の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本発明に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本発明には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0058】
以下、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。なお、以下に記載する反応式において、各化合物を数字で示した場合、その化合物を化合物(数字)と表記することがある。例えば、「3」で示される化合物を「化合物(3)」と表記することがある。また、以下の反応式において、「5」で示される化合物は上述した化合物(5)と同じ化合物である。
【0059】
[オキサゾール化合物の合成(A型結晶)]
特許文献1(国際公開第2007/058338号)の実施例352に記載の方法により、化合物(5)(白色粉末)を調製した。
【0060】
化合物(5)データ
N-({2-[4-(difluoromethoxy)-3-isopropoxyphenyl]oxazol-4-yl}methyl)-2-ethoxybenzamide
: white powder.
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 8.56 (br s,
1H, NH), 8.23 (dd, J = 7.6 Hz, 1.6 Hz, 1H, ArH), 7.66 (s, 1H, ArH), 7.63 (d, J = 2.0 Hz, 1H, ArH), 7.58 (dd, J = 8.4 Hz, 2.0 Hz, 1H, ArH), 7.44-7.39 (m, 1H, ArH), 7.21 (d, J = 8.0 Hz, 1H, ArH), 7.08-7.04 (m, 1H, ArH), 6.94 (d, J = 8.0 Hz, 1H, ArH), 6.61 (t, J = 75.2 Hz, 1H, CHF2), 4.68 (sept, J = 6.0 Hz, 1H, CH), 4.62
(d, J = 6.0 Hz, 2H, CH2), 4.17 (q, J = 6.93, 2H, CH2), 1.48 (t, J = 7.2 Hz, 3H,
CH3), 1.39 (d, J = 5.6 Hz, 6H, 2CH3).
【0061】
得られた化合物(5)の白色粉末について、CuKα特性X線により粉末X線回折パターンを測定した。より具体的には、以下の条件により測定した。
測定装置:XRD-6000(株式会社島津製作所)
操作条件:Voltage:35.0kV、Current:20.0mA、Sampling Pitch:0.0200°
測定結果を
図1及び表1に示す。
【0062】
【0063】
また、得られた化合物(5)の白色粉末について、臭化カリウム錠剤法により赤外線吸収スペクトルを測定した。より具体的には、以下の条件により測定した。
測定装置:IR Prestige-21(株式会社島津製作所)
操作条件:
積算回数:16、分解能:4cm
-1
測定結果を
図2に示す。
【0064】
また、得られた化合物(5)の白色粉末について、第十七改正日本薬局方2.60に記載の第1法により、融点を測定した。より具体的には、以下の条件により測定した。
測定装置:M-565(BUCHI)
操作条件:化合物(5)の白色粉末を乾燥した毛細管に入れ、層厚が2.5~3.5mmとなるようにした。浴液を加熱して48℃まで徐々に上げ、当該白色粉末を入れた毛細管を挿入した。次に1分間に約3℃上昇するように加熱して温度を上げ、53℃から1分間に1℃上昇するように加熱し、試料の観察を行った。
【0065】
当該測定の結果、化合物(5)の白色粉末(A型結晶)の融点は、約56~60℃であった。
【0066】
なお、上記のようにして得られたA型結晶を種晶として、特許文献2(国際公開第2014/034958号)に記載の方法(特に実施例1(1-10):化合物1)、及び特許文献3(国際公開第2017/115780号)に記載の方法(特に製造例4(化合物(11))で調製した化合物(5)の結晶も、上記と同様の特性を有しており、従って、いずれもA型結晶であった。
【0067】
[B型結晶の調製1]
A型結晶12gを褐色ガラス瓶に入れて密閉し、恒温器(50±2℃)にて3ヶ月保管した。保管後回収した粉末(結晶)について、上記と同様にして、粉末X線回折パターン、及び赤外線吸収スペクトルを測定した。当該粉末X線回折パターンを
図3及び表2に、当該赤外線吸収スペクトルを
図4に、それぞれ示す。また、融点についても、上記の方法において、「48℃」を「72℃」に変更し、「53℃」を「77℃」に変更した以外は、同様にして測定した。結果、融点は約80~84℃であった。
【0068】
【0069】
これらの結果から分かるように、保管後回収した結晶は、A型結晶とは異なる粉末X線回折パターン、異なる赤外線吸収スペクトル、及び異なる融点を示した。当該結晶をB型結晶とした。
【0070】
なお、上記の通り、B型結晶はA型結晶に比べ、高い融点を有する。このことから、B型結晶の方が優れた熱安定性を有することが分かった。当該検討前に、多種の溶媒を用いて再結晶法によりA型結晶に比べより安定性の優れた結晶を探索した際には異なる結晶型は得られなかったが、意外にも、A型結晶を室温よりも高い温度で長期間静置することにより、より安定性(特に熱安定性)の高いB型結晶を調製できることが明らかになった。
【0071】
[B型結晶の調製2]
得られたB型結晶を種晶として用い、B型結晶をさらに調製することを検討した。具体的には、特許文献3(国際公開第2017/115780号)に記載の方法に従い、次の
ようにしてB型結晶を調製した。
【0072】
【0073】
化合物(1) 20.00g(66.8mmol)とジイソプロピルエチルアミン 17.28g(134mmol)を酢酸エチル 300mLに加えて冷却し、メタンスルホニルクロリド 11.48g(100mmol)を流入して10~30℃で1時間撹拌した。続いて、臭化リチウム 17.41g(200mmol)を加え20~35℃で1時間撹拌した。反応液に水 100mLを加え分液し、有機層を減圧濃縮した。濃縮残渣に酢酸エチル 300mLを加え溶解し、再度減圧濃縮した。濃縮残渣にN,N-ジメチルホルムアミド 200mL、フタルイミドカリウム 17.33g(93.6mmol)を加え、75~85℃で1時間反応させた。反応液に水 200mLを加えて結晶を析出させ、析出晶を濾取し、80℃にて乾燥して化合物(3)27.20g(収率95.01%)を得た。
【0074】
【0075】
化合物(3) 20.00g(46.7mmol)と40%メチルアミン水溶液 40mL、メタノール 40mL、水 100mLを混合し、還流下、30分間反応させた。反応液にシクロペンチルメチルエ-テル(CPME) 200mL、25%水酸化ナトリウム水溶液 20mLを加え、65~75℃に温度調整して分液した。有機層に水 100mLと塩化ナトリウム20.00gの混合液を加え、再度65~75℃に温度調整して分液した。有機層に濃塩酸5mLを加えて結晶を析出させた。析出晶を濾取し、化合物(4) の湿結晶27.58gを得た。
【0076】
化合物(4)の湿結晶(46.7mmol)を酢酸エチル120mL、トリエチルアミン7.1mL(51.4mmol)と混合し、20~30℃で1時間撹拌した。反応液に2-エトキシ安息香酸 10.09g(60.7mmol)と1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC) 11.63g(60.7mmol)を加え、20~30℃で1時間反応させた。反応液に水 60mLと濃塩酸 6mLを加え、40~50℃に温度調整して分液した。有機層に水 60mLと25%水酸化
ナトリウム水溶液6mLを加え、再度40~50℃に温度調整して分液し、有機層を減圧濃縮した。濃縮残渣にエタノール 50mL、水 20mL、25%水酸化ナトリウム水溶液6mL、活性炭0.6gを加え、30分間還流した。活性炭を濾去し、エタノール 12mLで洗い込み、濾液を冷却してからB型結晶(種晶)10mgを加えて結晶を析出させた。析出晶を濾取し、60℃にて乾燥して化合物(5)の結晶18.38g(収率88.18%)を得た。
【0077】
得られた結晶について、上記と同様に粉末X線回折パターン、赤外線吸収スペクトル、及び融点を測定したところ、いずれの結果も上記B型結晶の結果と同様であった。このことから、A型結晶を用いてB型結晶を調製せずとも、種晶としてB型結晶を用いることにより直接B型結晶を合成することが可能であることが分かった。