(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111505
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】ミシン及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
D05B 19/08 20060101AFI20240809BHJP
D05B 19/16 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
D05B19/08
D05B19/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016054
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】株式会社ジャノメ
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勇大
(72)【発明者】
【氏名】中村 遥
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 健太郎
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA01
3B150CB04
3B150CC01
3B150CC05
3B150CE23
3B150GD05
3B150GE29
3B150LA58
3B150LB02
3B150LB03
3B150MA03
3B150NA59
3B150NB18
3B150QA01
3B150QA06
3B150QA07
(57)【要約】
【課題】経験の浅いミシンユーザであっても模様を容易に、かつ、より正確に縫製することのできるミシン及びその制御方法を提供すること。
【解決手段】ミシン1は、針落ち方向に直交する第1方向に縫針を移動させる第1モータ51と、被縫製物の移動量を検出する検出部22と、検出された移動量に基づいて、被縫製物に縫製する模様とミシン本体の基準位置との相対位置を更新する位置更新部23と、更新後の相対位置に基づいて特定される縫針の針落ち基準位置が、模様の軌跡上にあるか判定し、針落ち基準位置が模様の軌跡上にない場合に、針落ち基準位置と模様とのずれ量が低減する方向に第1モータ51を駆動する位置調整部24とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
針落ち方向に直交する第1方向に縫針を移動させる第1駆動部と、
被縫製物の移動量を検出する検出部と、
検出された移動量に基づいて、前記被縫製物に縫製する模様とミシン本体の基準位置との相対位置を更新する位置更新部と、
更新後の相対位置に基づいて特定される縫針の針落ち基準位置が、前記模様の軌跡上にあるか判定し、前記針落ち基準位置が前記模様の軌跡上にない場合に、前記針落ち基準位置と前記模様とのずれ量が低減する方向に前記第1駆動部を駆動する位置調整部と
を備えるミシン。
【請求項2】
前記針落ち基準位置は、前記第1駆動部が初期位置にあるときの縫針の針落ち位置である請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記針落ち基準位置は、更新後の相対位置と前記第1駆動部による縫針の移動量とに基づいて特定される縫針の針落ち推定位置である請求項1に記載のミシン。
【請求項4】
前記第1方向と前記針落ち方向とに直交する第2方向に縫針を移動させる第2駆動部を備え、
前記位置調整部は、過去の針落ち間隔と、前記模様の軌跡データとに基づいて次の針落ち目標位置を設定し、設定した次の針落ち目標位置と前記針落ち基準位置とが一致するように前記第1駆動部及び前記第2駆動部を駆動する請求項1に記載のミシン。
【請求項5】
前記位置調整部は、前記ずれ量が下限値未満である場合に、縫針の位置調整を行わない請求項1に記載のミシン。
【請求項6】
前記位置調整部は、前記ずれ量が上限値以上である場合に、縫製を中断させる請求項1に記載のミシン。
【請求項7】
前記被縫製物に描かれた模様の画像データを取得する画像データ取得部と、
前記画像データ取得部によって取得された画像データを前記模様の軌跡データとして格納するデータ記憶部と
を備える請求項1に記載のミシン。
【請求項8】
模様を前記被縫製物に照射する照射部を備え、
前記照射部は、検出部によって検出された前記被縫製物の移動量に応じて、前記被縫製物に照射する模様を移動させる請求項1に記載のミシン。
【請求項9】
針落ち方向に直交する第1方向に縫針を移動させる第1駆動部を備えるミシンの制御方法であって、
被縫製物の移動量を検出する工程と、
検出された移動量に基づいて、前記被縫製物に縫製する模様とミシン本体の基準位置との相対位置を更新する工程と、
更新後の相対位置に基づいて特定される縫針の針落ち基準位置が、前記模様の軌跡上にあるか判定し、前記針落ち基準位置が前記模様の軌跡上にない場合に、前記針落ち基準位置と前記模様とのずれ量が低減する方向に前記第1駆動部を駆動する工程と
をコンピュータが実行するミシンの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシン及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ミシンによる縫製手法の一つとして、加工布を移動させるのに通常使用する送り歯は使用せず、ユーザ自身が加工布を手動操作で移動させながら縫製を行う、フリーモーション縫製が知られている。このようなフリーモーション縫製では、ユーザが布などの被縫製物を手動で移動させるため、きれいな模様を縫製するのに高い熟練度が必要となる。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、布に模様を投影するとともに、投影している模様を布の動きに合わせて移動させることにより、経験の浅いユーザであっても模様を容易に縫製することのできるミシンが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたミシンでは、予定された縫目経路と実際の縫目が所定量を超えてずれてしまった場合には、未縫製領域に縫目経路が新たに生成され、新たな縫目データに基づいて、新たな映写データが生成される。このため、針落ち位置が当初予定していた縫目経路からずれたときでも縫製を続けることは可能である。
しかしながら、この方法は、そもそも針落ち位置が縫目経路からずれることを許容していることから、完成した模様が当初縫製予定だった模様と異なる可能性があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、経験の浅いミシンユーザであっても模様を容易に、かつ、より正確に縫製することのできるミシン及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1態様は、針落ち方向に直交する第1方向に縫針を移動させる第1駆動部と、被縫製物の移動量を検出する検出部と、検出された移動量に基づいて、前記被縫製物に縫製する模様とミシン本体の基準位置との相対位置を更新する位置更新部と、更新後の相対位置に基づいて特定される縫針の針落ち基準位置が、前記模様の軌跡上にあるか判定し、前記針落ち基準位置が前記模様の軌跡上にない場合に、前記針落ち基準位置と前記模様とのずれ量が低減する方向に前記第1駆動部を駆動する位置調整部とを備えるミシンである。
【0008】
本発明の第2態様は、針落ち方向に直交する第1方向に縫針を移動させる第1駆動部を備えるミシンの制御方法であって、被縫製物の移動量を検出する工程と、検出された移動量に基づいて、前記被縫製物に縫製する模様とミシン本体の基準位置との相対位置を更新する工程と、更新後の相対位置に基づいて特定される縫針の針落ち基準位置が、前記模様の軌跡上にあるか判定し、前記針落ち基準位置が前記模様の軌跡上にない場合に、前記針落ち基準位置と前記模様とのずれ量が低減する方向に前記第1駆動部を駆動する工程とをコンピュータが実行するミシンの制御方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、経験の浅いミシンユーザであっても模様を容易に、かつ、より正確に縫製することのできるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るミシンの外観図の一例を示した図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るミシンの電気的構成の一例を示したブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るミシンが備える縫針の移動可能範囲について説明するための図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るミシンが備えるプロジェクターによって布に投影された模様の一例を示した図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るミシンが備える各種縫製モードのうち、フリーモーション縫製モードを用いて模様を縫製する場合におけるミシンの制御手順の一例を示したフローチャートである。
【
図6】本発明の一実施形態に係るミシンの制御方法において、布に縫製する模様とミシン本体の基準位置との相対位置について説明するための図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係るミシンの制御方法において、布に縫製する模様とミシン本体の基準位置との相対位置の更新処理について説明するための図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係るミシンにおいて、次の針落ち目標位置を設定する処理について説明するための図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係るミシンの効果について説明するための図である。
【
図10】本発明の他の実施形態に係るミシンの外観図の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本開示の一実施形態に係るミシン及びその制御方法について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、本開示の一実施形態に係るミシン1の外観図の一例を示した図である。
図1において示される互いに直交する上下方向、前後方向、左右方向は、それぞれミシン1の本体における上下方向、前後方向、及び左右方向を定義するものである。また、上下方向を針落ち方向、Z軸方向ともいう。また、前後方向をY軸方向、左右方向をX軸方向ともいう。
【0013】
ミシン1は、例えば、脚柱部3と、アーム部4と、ベッド部5とを備えている。脚柱部3は、ミシン1の右端部を構成し且つ上下方向に延在されている。アーム部4は、脚柱部3の上端部から左側へ延出されている。ベッド部5は、脚柱部3の下端部から左側へ延出されている。
【0014】
ベッド部5の上面には、例えば、針穴を有する針板6が設けられている。針板6の下側、すなわち、ベッド部5内には、送り歯(図示略)及び送り歯を駆動する送り駆動部(図示略)が設けられている。
【0015】
アーム部4の左下部には、針棒8が設けられている。針棒8の下端部には縫針10が着脱可能に装着される。アーム部4の内部には、針棒8を駆動するための針棒駆動部50(
図2参照)が設けられている。
アーム部4の下面付近には、被縫製物である布に向けて光を照射するプロジェクター(照射部)9が設けられている。本実施形態では、4か所にプロジェクター9を設置し、照射範囲を大きくし、押さえと縫針10の影が布に映らないようにしている。4つのプロジェクター9はそれぞれ同期しており、4台で1つの投影を行う。なお、プロジェクターの設置数及び設置位置はこの例に限られない。プロジェクター9によって、
図4に示すような模様の軌跡を布に映し出すことにより、ユーザは映し出された模様の軌跡に沿って布を移動させることができる。これにより、ユーザは模様の完成形をイメージしながら容易に縫製を進めることが可能となる。プロジェクター9によって照射される模様は、後述する制御部20によって制御される。
【0016】
アーム部4の前面には、例えば、ユーザがミシン1に対して操作指示を与えるための各種スイッチ等の入力部11と、ユーザに対して情報を提示するためのディスプレイ12が設けられている。ディスプレイ12は、例えば、タッチパネルディスプレイでもよく、この場合には、ディスプレイ12は入力部11としても機能する。
【0017】
ベッド部5の上面には、前後方向又は左右方向に対する布の移動量(具体的には、移動距離及び移動方向)を検出するためのセンサ7が設けられている。センサ7は、ベッド部5の上面の複数箇所に設けられている。センサ7は、例えば、公知のセンサである。
図1では、一例として、縫針10の針元を通り、前後方向に平行な位置と、縫針10の針元を通り左右方向に平行な位置とに、センサ7がそれぞれ設けられている。
【0018】
次に、本発明の一実施形態に係るミシン1の電気的構成について説明する。
図2は、本実施形態に係るミシン1の電気的構成の一例を示したブロック図である。
図2に示すように、ミシン1は、例えば、入力部11、ディスプレイ12、センサ7、針棒駆動部50、プロジェクター9、及び制御部20を備えている。
【0019】
入力部11を介して入力された情報は、制御部20に出力され、入力情報に基づく各種処理が制御部20によって行われる。
ディスプレイ12に表示される情報は、制御部20によって制御される。
【0020】
針棒駆動部50は、針棒8を駆動する。針棒駆動部50は、例えば、針落ち方向に直交する左右方向(第1方向)に針棒8を移動させるための第1モータ(第1駆動部)51と、前後方向(第2方向)に針棒8を移動させるための第2モータ(第2駆動部)52と、針棒8を上下方向に往復移動させるミシンモータ53とを備えている。また、針棒駆動部50は、第1モータ51の動力、第2モータ52の動力、及びミシンモータ53の動力を針棒8にそれぞれ伝達するための図示しない公知の伝達機構を備えている。
【0021】
第1モータ51、第2モータ52、及びミシンモータ53は、制御部20によって制御される。
例えば、第1モータ51は、制御部20によって一針毎に設定される第1調整量に基づいて制御される。第2モータ52は、制御部20によって一針毎に設定される第2調整量に基づいて制御される。第1調整量、第2調整量の詳細については後述する。
ミシンモータ53は、制御部20によって設定される縫製速度に応じた周期で針棒8を上下移動させる。
【0022】
制御部20からの制御信号に基づいて、針棒駆動部50の第1モータ51及び第2モータ52が駆動されることにより、
図3に示すように、原点(0,0)を中心として、針棒8を左方向、右方向、前方向、後方向に移動させることが可能となる。これにより、例えば、縫針10の移動可能範囲は、
図3に示すような範囲とされる。
【0023】
制御部20は、例えば、処理回路(circuitry)を備えている。制御部20は、例えば、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)、主記憶装置(Main Memory)、二次記憶装置(Secondary storage:メモリ)等を備えている。
主記憶装置は、例えば、キャッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)等の書き込み可能なメモリで構成され、CPUの実行プログラムの読み出し、実行プログラムによる処理データの書き込み等を行う作業領域として利用される。
【0024】
二次記憶装置は、非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体(non-transitory computer readable storage medium)である。二次記憶装置の一例として、HDD(Hard Disk Drive)などの磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、SSD(Solid State Drive)等の半導体メモリ等が挙げられる。
二次記憶装置には、例えば、通常縫い、アップリケ縫い、刺繍縫い、フリーモーション等の複数の縫製モードの各々を実現させるための制御プログラムが格納されている。また、二次記憶装置には、各種縫製モードを実現するために参照されるデータ、例えば、模様縫製を行うための模様データ等が格納されている。
【0025】
制御部20が備える後述する各部の機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で二次記憶装置に記憶されており、このプログラムをCPUが主記憶装置に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、二次記憶装置に予めインストールしておく形態や、非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。なお、非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体の具体例は、上述した通りである。
【0026】
制御部20は、例えば、記憶部21、検出部22、位置更新部23、位置調整部24、及び模様データ記憶部25を備えている。これらの機能は、例えば、フリーモーション縫製モードで模様を縫製する場合の主な機能を抽出して示したものである。
【0027】
記憶部21には、これから縫製される模様に関するデータ、位置調整を行うために必要となる各種データが記憶される。模様データ記憶部25には、複数の模様データが格納されている。模様データは、例えば、模様の軌跡に関する軌跡データを含んでいる。
【0028】
検出部22は、布(被縫製物)の移動量を検出する。検出部22は、例えば、センサ7からの検出信号に基づいて布の移動量を検出する。ここで、移動量は、移動距離及び移動方向を含む情報である。ここで、本実施形態に係る位置や移動量は、主に、XY平面上、すなわち、左右方向と前後方向とで規定される平面上の位置や移動量を意味し、Z方向(上下方向)の位置は、特に言及しない限り考慮しないものとする。
【0029】
位置更新部23は、検出部22によって検出された移動量に基づいて、布に縫製する模様とミシン本体の基準位置との相対位置を更新する。本実施形態では、ミシン本体の基準位置として、第1モータ51及び第2モータ52が初期位置にあるときの針棒8の位置(
図3参照)が設定されている場合を例示して説明する。なお、ミシン本体の基準位置は、針棒8との相対的な位置関係が固定化されている場所であれば、ミシン本体において任意の位置に設定可能である。
【0030】
位置調整部24は、位置更新部23によって更新された相対位置に基づいて特定される縫針10の針落ち基準位置が模様の軌跡上にあるか判定し、針落ち基準位置が模様の軌跡上にない場合に、針落ち基準位置と模様とのずれ量が低減する方向に第1モータ51及び第2モータ52を駆動する。
本実施形態では、針落ち基準位置として、更新後の相対位置と第1モータ51及び第2モータ52による針棒移動量とに基づいて特定される縫針10の針落ち推定位置を用いる場合を例示して説明する。
【0031】
例えば、位置調整部24は、過去の針落ち間隔と、模様の軌跡データとに基づいて、模様の軌跡上に存在する次の針落ち目標位置を設定し、設定した次の針落ち目標位置と縫針の針落ち推定位置(針落ち基準位置)とが一致するように第1モータ51及び第2モータ52を駆動する。なお、この場合、設定した次の針落ち目標位置と現在の縫針の針落ち推定位置との差分、具体的には、左右方向における距離及び前後方向における距離がずれ量となる。ずれ量は、左右方向及び前後方向の2成分においてそれぞれ特定されてもよいし、これらの成分から求められるベクトル量として特定されてもよい。
【0032】
また、位置調整部24は、ずれ量が下限値未満である場合に、縫針の位置調整を行わないこととしてもよい。下限値は、模様の縫製精度に応じて適宜設定すればよい。下限値は、例えば、針落ち点が模様の軌跡からはずれているもののそのずれを許容できる範囲に設定されている。これにより、第1モータ51及び第2モータ52が頻繁に駆動されることを回避することができ、これら駆動部の寿命を長期化することができる。
【0033】
また、位置調整部24は、ずれ量が上限値以上である場合に、縫製を中断させることとしてもよい。上限値とは、例えば、
図3に示した縫針10の移動可能範囲から決定される。
例えば、位置調整部24は、縫針10の針落ち推定位置と次の針落ち目標位置との移動量が
図3に示した移動可能範囲を超えている場合に、調整不可能と判定して、縫製を中断させてもよい。
【0034】
また、制御部20は、検出部22によって検出された移動量に応じてプロジェクター9から投影される模様の位置を移動させる。これにより、布の動きに連動して投影模様を動かすことが可能となる。
【0035】
次に、本実施形態に係るミシン1の制御方法について図面を参照して説明する。
図5は、本実施形態に係るミシン1が備える各種縫製モードのうち、フリーモーション縫製モードを用いて模様を縫製する場合におけるミシン1の制御手順の一例を示したフローチャートである。
【0036】
以下に説明する一連の処理は、一例として、プログラム(例えば、フリーモーション縫製プログラム)の形式で二次記憶装置に記憶されており、このプログラムをCPUが主記憶装置に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、以下の処理が実行される。
【0037】
フリーモーション縫製モードの制御は、例えば、縫製者によってフリーモーション縫製モードが選択されると開始される。縫製者は、フリーモーション縫製モードを選択すると、続いて、入力部11を操作し、これから縫製する模様を選択する。例えば、縫製者は、模様データ記憶部25に記憶されている複数の模様データの中から所望の模様を選択することが可能である。ユーザによっていずれかの模様データが選択されると、制御部20は、選択された模様データを記憶部21に一時的に記憶するとともに、この模様データに基づく映像をプロジェクター9に投影させる(SA1)。これにより、被縫製物の照射領域には、例えば、
図4に示すような模様が投影される。
【0038】
次に、ユーザによって縫製を開始する入力操作、例えば、スタートボタンが押下されると、制御部20は、針棒駆動部50のミシンモータ53を駆動する(SA2)。これにより、縫製が開始され、所定の周期で針棒8の上下運動が繰り返し行われることにより、布に縫目が形成される。
【0039】
また、縫製の開始時において、縫針10が布に落ちると、布上の模様と針棒8の移動範囲の原点(ミシンの基準位置)との関連付けがなされ、模様と縫針10の位置との相対位置が記憶される。例えば、制御部20は、
図6に示すように、縫い始めにおけるミシンの基準位置に対応する模様の位置を始点(0,0)として記憶する(SA3)。
【0040】
続いて、センサ7からの検出信号に基づいて布の移動量を検出し(SA4)、検出した移動量に基づいて布が移動しているか否かを判定する(SA5)。この結果、布が移動していない場合には(SA5:NO)、ステップSA4に戻る。一方、布が移動している場合には(SA5:YES)、検出された移動量(移動距離及び移動方向)に基づいてミシン本体の基準位置と模様との相対位置を更新するとともに、投影する模様を移動させる(SA6)。例えば、制御部20は、
図7に示すように、前回の針落ち点、すなわち、ステップSA3で記憶した始点(0,0)に対して、検出された移動量を加算することで、現在のミシン本体の基準位置(X1,Y1)を算出し、これを記憶部21に記憶する。
【0041】
続いて、制御部20は、更新後のミシン本体の基準位置と模様との相対位置に基づいて、縫針10の針落ち推定位置(針落ち基準位置)を特定し、特定した縫針10の針落ち推定位置が模様の軌跡上にあるか否かを判定する(SA7)。なお、第1モータ51又は第2モータ52が初期位置にない場合には、第1モータ51及び第2モータ52の移動量も加味して縫針10の針落ち推定位置が特定される。
この結果、縫針10の針落ち推定位置が模様の軌跡上にある場合には(SA7:YES)、ステップSA4に戻り、以降の処理を繰り返し行う。これにより、例えば、模様の縫製がうまく進み、縫針10の針落ち推定位置が模様の軌跡上にある状態が続く限り、縫針10の位置調整が行われることなく、処理が進められる。
【0042】
一方、縫針10の針落ち推定位置が模様の軌跡上にない場合には(SA7:NO)、過去の針落ち間隔及び模様の軌跡データに基づいて、次の針落ち目標位置を設定する(SA8)。例えば、
図8に示すように、前回の針落ち点の座標(Xn-1,Yn-1)に、布の移動量を加算することによって演算された縫針10の針落ち推定位置の座標(Xn,Yn)が模様の軌跡上にない場合には、過去の針落ち間隔と模様の軌跡データとに基づいて、模様の軌跡上に存在する次の針落ち目標位置(Xn’,Yn’)を設定する。
【0043】
続いて、設定した次の針落ち目標位置(Xn’,Yn’)に縫針10の針落ち推定位置が一致するように第1モータ51及び第2モータ52を駆動する(SA9)。具体的には、設定した次の針落ち目標位置(Xn’,Yn’)と現在の縫針10の位置(Xn,Yn)とに基づいて、左右方向における第1調整量(Xn’-Xn)及び前後方向における第2調整量(Yn’-Yn)を算出し、算出した第1調整量に基づいて第1モータ51を駆動するとともに、第2調整量に基づいて第2モータ52を駆動する。ここで、第1モータ51及び第2モータ52の駆動は、縫針10が針板よりも上方に位置しているタイミングで行われる。
【0044】
これにより、ユーザによって布が過剰に移動された場合でも、縫針10の位置を調整することによって、模様の軌跡上に針落ちをさせることが可能となる。
【0045】
続いて、ユーザによってストップキーが操作されたか否かを判定し(SA10)、操作されていない場合は(SA10:NO)、ステップSA4に戻り、以降の処理を繰り返す。一方、ストップキーが操作されている場合には(SA10:YES)、制御部20は、ミシンモータ53を停止し(SA11)、本処理を終了する。
【0046】
以上説明してきたように、本実施形態に係るミシン1及びミシンの制御方法によれば、布の移動量を検出する検出部22と、検出された移動量に基づいて、布に縫製する模様とミシン本体の基準位置との相対位置を更新する位置更新部23と、更新後の相対位置に基づいて特定される縫針10の針落ち基準位置、より具体的には、縫針10の針落ち推定位置が模様の軌跡上にあるか判定し、縫針10の針落ち推定位置が模様の軌跡上にない場合に、縫針10の針落ち推定位置と模様とのずれ量が低減する方向に第1モータ51及び第2モータ52を駆動する位置調整部24とを備える。
【0047】
これにより、縫製者が模様に沿ってうまく布を移動できずに、縫針10の位置が模様からずれてしまった場合であっても、針落ちする前にそのずれ量を低減する方向に縫針10の位置を調整することができる。これにより、縫製すべき模様上に針落ちをさせることができ、経験の浅いミシンユーザであっても模様を容易に、かつ、より正確に縫製することが可能となる。
図9は、本実施形態に係るミシン1の効果の一例を示した図である。縫針10の位置調整が行われない場合には、
図9の上図に示すように、縫目が模様からずれてしまう可能性があるが、本実施形態に係るミシン及びその制御方法によれば、
図9の下図に示すように、模様に沿ったきれいな縫製を実現することが可能となる。
【0048】
また、位置調整部24は、縫針10の針落ち推定位置が模様の軌跡上にない場合には、過去の針落ち間隔と模様の軌跡データとに基づいて次の針落ち目標位置を設定し、設定した次の針落ち目標位置と縫針10の針落ち推定位置とが一致するように第1モータ51及び第2モータ52を駆動する。
このように、過去の針落ち間隔を考慮して次の針落ち目標位置を設定することにより、針落ち間隔をほぼ均一に保つことができる。これにより、きれいな縫目によって模様を縫製することができる。
【0049】
また、ミシン1は、プロジェクター9を備え、縫製する模様を布に投影するので、縫製者は、投影された模様に沿って布を移動させることにより、容易に縫製を行うことが可能となる。
【0050】
以上、本発明について実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更又は改良を加えることができ、該変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
また、上記実施形態で説明した方法の手順も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよい。
【0051】
例えば、上記実施形態では、針落ち基準位置として、縫針10の針落ち推定位置を用いていたが、この例に限られない。例えば、針落ち基準位置として、第1駆動部51及び第2駆動部52が初期位置にあるときの縫針10の針落ち位置を用いることとしてもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、第1モータ51及び第2モータ52を備え、左右方向及び前後方向の両方に針棒8を移動させることが可能な構成としていたが、これに限られない。例えば、第2モータ52は省略し、第1モータ51による左右方向への縫針10の位置調整のみを可能とする構成としてもよい。この場合、左右方向における縫針10の針落ち基準位置と模様との間の距離をずれ量とし、このずれ量を低減するように第1モータ51を駆動させる。このような態様によれば、針落ち間隔を均一化することは難しいが、模様の軌跡上に針落ちを行わせるという効果は得ることができる。
【0053】
また、上述した実施形態では、模様データ記憶部25に格納された模様データを用いて模様を縫製する場合を例示して説明したが、この例に限られない。例えば、模様は、布などの被縫製物にユーザ自身が直接描くことが可能である。この場合、
図10に示すように、ミシン1に被縫製物に描かれた模様の画像データを取得するためのカメラ(画像データ取得部)14を設け、カメラ14によって取得した画像データを模様の軌跡データとして模様データ記憶部25に記憶し、用いることとしてもよい。この場合、布に既に模様が描かれているので、プロジェクター9による模様の投影は不要となる。
【0054】
また、上述した実施形態では、フリーモーション縫製モードに、本実施形態に係るミシン1及び制御方法を適用する場合について説明したが、この例に限られない。例えば、模様を縫製する他の縫製モードに対しても同様に適用することが可能である。また、この場合、上下方向における縫針10と模様との間の位置調整は、第2モータ52に代えて、又は、加えて、針板6の下側に設けられた送り歯(図示略)及び送り歯を駆動する送り駆動部(図示略)を用いて行うこととしてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 :ミシン
6 :針板
7 :センサ
8 :針棒
9 :プロジェクター
10 :縫針
11 :入力部
12 :ディスプレイ
14 :カメラ
20 :制御部
21 :記憶部
22 :検出部
23 :位置更新部
24 :位置調整部
25 :模様データ記憶部
50 :針棒駆動部
51 :第1モータ(第1駆動部)
52 :第2モータ(第2駆動部)
53 :ミシンモータ