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特開2024-111513作業機械の自動制御システムおよび作業機械の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111513
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】作業機械の自動制御システムおよび作業機械の制御方法
(51)【国際特許分類】
   E02F 3/43 20060101AFI20240809BHJP
   E02F 9/24 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
E02F3/43 A
E02F9/24 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016065
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 悠人
(72)【発明者】
【氏名】綱野 雄太
(72)【発明者】
【氏名】平間 貴大
【テーマコード(参考)】
2D003
2D015
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB02
2D003AB03
2D003AB04
2D003AC10
2D003BA03
2D003BA06
2D003BA07
2D003CA02
2D003CA10
2D003DA04
2D003DB03
2D003DB04
2D003DB05
2D015GA03
2D015GB07
(57)【要約】
【課題】作業具と積込対象との干渉を抑制できる作業機械の自動制御システムおよび作業機械の制御方法を提供する。
【解決手段】姿勢検出センサ20は、作業機2の姿勢を検出する。コントローラ50は、姿勢検出センサ20の検出結果に基づいて旋回体3の旋回時にバケット8が通過する経路において排土点P2と通過点P1Aとを特定し、通過点P1Aから排土点P2とは反対側にずらした位置を修正通過点P1Bに設定し、旋回時にバケット8が修正通過点P1Bを通過するように制御する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回する旋回体と、
前記旋回体に取り付けられ、作業具を有する作業機と、
前記作業機の姿勢を検出する姿勢検出センサと、
前記姿勢検出センサの検出結果に基づいて前記旋回体の旋回時に前記作業具が通過する経路において排土点と通過点とを特定し、前記通過点から前記排土点とは反対側にずらした位置を修正通過点に設定し、旋回時に前記作業具が前記修正通過点を通過するように制御するコントローラと、を備えた、作業機械の自動制御システム。
【請求項2】
前記コントローラは、前記通過点から前記排土点とは反対側に前記作業具の幅の半分の寸法だけずらした位置を前記修正通過点に設定する、請求項1に記載の作業機械の自動制御システム。
【請求項3】
前記コントローラは、前記作業機械を基準とする機械座標系における水平方向に前記通過点からずらした位置を前記修正通過点に設定する、請求項1に記載の作業機械の自動制御システム。
【請求項4】
前記旋回体の旋回時に前記作業具が通過する経路において、積込対象の側端縁の上部に位置する点を前記通過点と特定する、請求項1に記載の作業機械の自動制御システム。
【請求項5】
前記作業機を駆動するアクチュエータと、
前記アクチュエータを駆動させるための手動運転の動作指令を出力する操作部と、
前記動作指令を出力して前記作業機を動作させた際に前記通過点を指示する指示部と、をさらに備えた、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の作業機械の自動制御システム。
【請求項6】
旋回する旋回体と、前記旋回体に取り付けられ、作業具を有する作業機と、を備えた作業機械の制御方法であって、
前記作業機の姿勢の検出結果に基づいて前記旋回体の旋回時に前記作業具が通過する経路において排土点と通過点とを特定するステップと、
上面視において前記通過点から前記排土点とは反対側にずらした位置を修正通過点に設定するステップと、
旋回時に前記作業具が前記修正通過点を通過するように制御するステップと、を備えた、作業機械の制御方法。
【請求項7】
前記通過点を特定するステップにおいては、手動操作に基づく操作信号の入力時における前記作業機の姿勢の検出結果に基づいて前記通過点を特定する、請求項6に記載の作業機械の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業機械の自動制御システムおよび作業機械の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-190234号公報(特許文献1)には、自動積込における旋回体の旋回中にバケットが積込対象に干渉しないように目標旋回速度を変更する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-190234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1に記載の技術では、バケットなどの作業具を有する作業機の移動軌跡によっては作業具が積込対象に接触する可能性がある。
【0005】
本開示の目的は、作業具と積込対象との干渉を抑制できる作業機械の自動制御システムおよび作業機械の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の作業機械の自動制御システムは、旋回体と、作業機と、姿勢検出センサと、コントローラとを備える。旋回体は旋回する。作業機は、旋回体に取り付けられ、作業具を有する。姿勢検出センサは、作業機の姿勢を検出する。コントローラは、姿勢検出センサの検出結果に基づいて旋回体の旋回時に作業具が通過する経路において排土点と通過点とを特定し、通過点から排土点とは反対側にずらした位置を修正通過点に設定し、旋回時に作業具が修正通過点を通過するように制御する。
【0007】
本開示の作業機械の制御方法は、旋回する旋回体と、旋回体に取り付けられ、作業具を有する作業機とを備えた作業機械の制御方法であって、以下のステップを備える。
【0008】
作業機の姿勢の検出結果に基づいて旋回体の旋回時に作業具が通過する経路において排土点と通過点とが特定される。通過点から排土点とは反対側にずらした位置が修正通過点に設定される。旋回時に作業具が修正通過点を通過するように制御される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、作業具と積込対象との干渉を抑制できる作業機械の自動制御システムおよび作業機械の制御方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の一実施形態における作業機械の一例として油圧ショベルの構成を示す図である。
図2】油圧ショベルによる掘削積込の動作フローを示す図である。
図3】油圧ショベルが自動積込を行なう様子を示す斜視図である。
図4】自動積込制御時におけるバケットの移動軌跡を示す図である。
図5図1の油圧ショベルの自動制御システムを示すブロック図である。
図6】本開示の一実施形態における油圧ショベルの制御方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0012】
明細書および図面において、同一の構成要素または対応する構成要素には、同一の符号を付し、重複する説明を繰り返さない。また、図面では、説明の便宜上、構成を省略または簡略化している場合もある。
【0013】
以下の説明において、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」とは、図1に示す運転室4内の運転席4Sに着座したオペレータを基準とした方向である。
【0014】
<作業機械の構成>
本開示の作業機械の一例として油圧ショベルの構成について図1を用いて説明する。
【0015】
図1は、本開示の一実施形態における油圧ショベルの構成を概略的に示す図である。図1に示されるように、本実施形態の油圧ショベル100は、本体1と、油圧により作動する作業機2とを有している。本体1は、旋回体3と、走行体5とを有している。
【0016】
走行体5は、一対の履帯5Crと、走行モータ5Mとを有している。油圧ショベル100は、履帯5Crの回転により走行可能である。走行モータ5Mは、走行体5の駆動源として設けられている。走行モータ5Mは、油圧により作動する油圧モータである。なお、走行体5は車輪(タイヤ)を有していてもよい。
【0017】
旋回体3は、走行体5の上に配置され、かつ走行体5により支持されている。旋回体3は、旋回モータ(図示せず)により旋回軸RXを中心として走行体5に対して旋回可能である。旋回モータは、油圧により作動する油圧モータである。旋回軸RXは、旋回体3の旋回中心となる仮想の直線である。なお走行モータ5Mあるいは旋回モータは電動モータであってもよい。
【0018】
旋回体3は、運転室4(キャブ)を有している。運転室4内には、オペレータが着座する運転席4Sが設けられている。オペレータ(乗員)は、運転室4に搭乗して、作業機2の操作、走行体5に対する旋回体3の旋回操作、および走行体5による油圧ショベル100の走行操作が可能である。旋回体3は、外装カバー9を有している。外装カバー9は、機械室を覆っている。油圧ショベル100は、遠隔操作されるものでもよい。
【0019】
作業機2は、旋回体3に支持されている。作業機2は、ブーム6と、アーム7と、バケット8とを有している。作業機2は、ブームシリンダ10と、アームシリンダ11と、バケットシリンダ12とをさらに有している。
【0020】
ブーム6は、本体1に回動可能に接続されている。具体的にはブーム6の基端部は、ブームフートピン13を支点として旋回体3に回動可能に接続されている。アーム7は、ブーム6に回動可能に接続されている。具体的にはアーム7の基端部は、ブームトップピン14を支点としてブーム6の先端部に回動可能に接続されている。バケット8は、アーム7に回転可能に接続されている。具体的にはバケット8の基端部は、アームトップピン15を支点としてアーム7の先端部に回動可能に接続されている。バケット8は、グラップルのような他の作業具であってもよい。グラップルは爪の開閉状態によって全長が異なるため、グラップルの状態または姿勢の変化で積込対象200に干渉するおそれがある。このように状態または姿勢によって水平方向の長さが異なる作業具あるいは積込対象200との相対位置関係が変化する作業機であれば本開示を適用することができる。
【0021】
ブームシリンダ10の一端は旋回体3に接続され、他端はブーム6に接続されている。ブーム6は、ブームシリンダ10により本体1に対して駆動可能である。この駆動により、ブーム6は、ブームフートピン13を支点として旋回体3に対して上下方向に回動可能である。
【0022】
アームシリンダ11の一端はブーム6に接続され、他端はアーム7に接続されている。アーム7は、アームシリンダ11によりブーム6に対して駆動可能である。この駆動により、アーム7は、ブームトップピン14を支点としてブーム6に対して上下方向または前後方向に回動可能である。
【0023】
バケットシリンダ12の一端はアーム7に接続され、他端はバケットリンク17に接続されている。バケット8は、バケットシリンダ12によりアーム7に対して駆動可能である。この駆動により、バケット8は、アームトップピン15を支点としてアーム7に対して上下または前後方向に回動可能である。
【0024】
ブームシリンダ10、アームシリンダ11およびバケットシリンダ12の各々は、油圧により駆動する油圧シリンダであるが、電動シリンダなどの他のアクチュエータであってもよい。
【0025】
油圧ショベル100は、作業機姿勢センサ20(図5)と、位置方位センサ21と、傾斜センサ22(図5)と、検出センサ23とをさらに有している。作業機姿勢センサ20は、作業機2の姿勢を検出し、作業機2の姿勢を示す姿勢信号を出力する。作業機姿勢センサ20は、ブーム6、アーム7、バケット8の各々の姿勢を検出することができる。作業機姿勢センサ20は、ブーム6、アーム7、バケット8の各々に配置されたセンサを含む。作業機姿勢センサ20は、IMU(Inertial Measurement Unit)、ストロークセンサ、ポテンショメータ、撮像装置などのいずれか、またはこれらの任意の組み合わせであってもよい。
【0026】
位置方位センサ21は、たとえばGNSS(Global Navigation Satellite Systems:全地球航法衛星システム)受信機である。位置方位センサ21は、2つのGNSS受信機21a、21bを含む。2つのGNSS受信機21a、21bの各々は、旋回体3の異なる位置に設置される。GNSS受信機21a、21bの各々は、グローバル座標系における旋回体3の位置を示す衛星測位信号を衛星から受信する。位置方位センサ21は、受信したグローバル座標系における旋回体3の位置を示す衛星測位信号を出力する。コントローラ50は、この衛星測位信号から、グローバル座標系における旋回体3の位置と、旋回体3の向く方位とを演算する。
【0027】
位置方位センサ21は、旋回角度センサを有していてもよい。旋回角度センサは、たとえば旋回体3に固定されている。旋回角度センサは、走行体5に対する旋回体3の旋回角度を検出し、旋回体3の旋回角度を示す旋回角度信号を出力する。旋回角度センサにより機械座標系(ローカル座標系)における旋回角度を検出することができる。旋回角度センサは、IMU、ポテンショメータ、撮像装置などのいずれか、またはこれらの任意の組み合わせであってもよい。機械座標系とは、旋回体3の旋回中心を原点とし、前後方向に伸びる軸、左右方向に伸びる軸、上下方向に伸びる軸(旋回軸RX)で表される直交座標系である。
【0028】
傾斜センサ22は、旋回体3の加速度および角速度(旋回速度)を計測し、計測結果に基づいて旋回体3の姿勢(たとえばロール角、ピッチ角、ヨー角)を検出する。傾斜センサ22は、たとえば旋回体3の下面に設置される。傾斜センサ22は、たとえばIMUである。傾斜センサ22は、計測により得た傾斜信号を出力する。
【0029】
検出センサ23は、油圧ショベル100の作業現場周囲の地形または物体を検出する。検出センサ23は、たとえば運転室4に取り付けられてもよく、外装カバー9に取り付けられてもよく、またこれら以外に取り付けられてもよい。検出センサ23は、検出した検出信号を出力する。
【0030】
検出センサ23は、たとえばレーザ光を射出して対象物の情報を取得するLiDAR(Light Detection and Ranging)である。検出センサ23は、電波を射出することにより対象物の情報を取得するRadar(Radio Detection and Ranging)であってもよい。Radarは、たとえば送信アンテナから発したミリ波帯の電波が物体の表面で反射して戻ってくる様子を受信アンテナで検出するミリ波レーダであってもよい。検出センサ23は、カメラを含む視覚センサであってもよい。なお検出センサ23が、作業機姿勢センサ20と同様に、作業機2の姿勢を検出する機能を備えていてもよい。
【0031】
油圧ショベル100は、指示部24(図5)と、操作部25(図5)とをさらに有している。指示部24および操作部25の各々は、運転室4内に配置されている。指示部24および操作部25は、運転室4内に搭乗したオペレータにより手動操作され、手動運転による動作指令を出力する。指示部24は、自動積込制御においてバケット8が通過すべき点を指示するための部分である。操作部25は、ブーム6、アーム7およびバケット8の動作と、旋回と、走行との各々を操作するための部分である。
【0032】
<掘削積込の動作フローおよび自動積込制御>
次に、作業機械の掘削積込の動作フローおよび自動積込制御について図2図4を用いて説明する。
【0033】
図2は、油圧ショベルによる掘削積込の動作フローを示す図である。図3は、油圧ショベルが自動積込を行なう様子を示す斜視図である。図4は、自動積込制御時におけるバケットの移動軌跡を示す図である。
【0034】
図2および図3に示されるように、油圧ショベル100による掘削積込においては、まず掘削が行なわれる(ステップSA)。この掘削により土砂などの荷がバケット8内に積み込まれる。掘削後に、バケット8内に荷を積み込んだ状態で旋回体3は旋回する(ステップSB)。この旋回はいわゆる積込旋回である。この積込旋回時にバケット8は積込対象200に干渉しないように動作制御される。積込対象200は、たとえばダンプトラックである。ダンプトラック200は、バケット8内の荷を積み込むためのベッセル200Aを有している。
【0035】
積込旋回によりバケット8内の荷をベッセル200Aに排土する点にバケット8が達すると旋回体3の旋回は停止する。この後、バケット8内の荷がダンプトラック200のベッセル200Aに排出(排土)される(ステップSC)。排土後に、再度掘削するために旋回体3は戻り旋回をする(ステップSD)。
【0036】
図3に示されるように、上記積込作業を自動化するために、積込動作時にバケット8が通過する点を特定する必要がある。自動化においては、作業具であるバケット8がベッセル200Aに干渉しないように作業機2の動作を制御する必要がある。積込動作時にバケット8が通過すべき点として、たとえば通過点(干渉回避点)P1Aと、排土点P2と、戻り点(掘削点)P3とが少なくとも特定される。
【0037】
通過点P1Aは、積込対象200の側端縁SE(たとえばベッセル200Aの側端縁)の真上にアームトップピン15の左右方向の中心が位置する点である。排土点P2は、積込対象200(たとえばベッセル200A)の真上にアームトップピン15の左右方向の中心が位置する点である。戻り点P3は、掘削を行なう箇所の真上にアームトップピン15の左右方向の中心が位置する点である。ここでは、通過点P1A、排土点P2、戻り点P3を特定するために、アームトップピン15の左右方向の中心が位置する点として説明するが、他の点を用いて特定してもよい。たとえば、バケット8の刃先8Tの点を用いて通過点P1A、排土点P2、戻り点P3を特定してもよい。また、たとえば、外界センサなどで積込対象200の位置を検知し、指示部24が操作された時に、作業機2と積込対象200との相対距離が最も近い作業機2上の点を用いて通過点P1A、排土点P2、戻り点P3を特定してもよい。
【0038】
通過点P1A、排土点P2および戻り点P3の各々は、旋回体3の旋回中にたとえばオペレータが指示部24を操作することにより特定される。具体的にはオペレータは旋回体3の旋回において積込対象200の側端縁SE(たとえばベッセル200Aの側端縁)の真上にアームトップピン15の左右方向の中心が位置したと目視で判定したときに指示部24を操作する。またオペレータは旋回体3の旋回においてバケット8内の荷を排土すべき点の真上にアームトップピン15の左右方向の中心が位置したと目視で判定したときに指示部24を操作する。またオペレータは旋回体3の旋回において掘削すべき点の真上にアームトップピン15の左右方向の中心が位置したと目視で判定したときに指示部24を操作する。
【0039】
オペレータが指示部24を操作したタイミングにおける作業機2の姿勢と旋回体3の旋回角度とに基づいて各点P1A、P2、P3の機械座標系における座標が演算される。これにより各点P1A、P2、P3が特定される。各点P1A、P2、P3の特定は、たとえば排土後の戻り旋回時に行なわれる。自動積込制御においては、アームトップピン15の左右方向の中心が戻り点P3から通過点P1Aを通過して排土点P2へ到達するように作業機2の動作および旋回体3の旋回が制御される。
【0040】
上記通過点P1Aは、バケット8が積込対象200と干渉しないように特定される。しかしながらバケット8の移動軌跡によってはバケット8が積込対象200と干渉するおそれがある。具体的には図4に示されるように、自動積込制御においては、上記のとおりアームトップピン15の左右方向の中心が、戻り点P3から通過点P1Aを通過して排土点P2へ到達するように移動する。この際、戻り点P3から通過点P1Aまでの移動軌跡は特定されていない。もしくは戻り点P3から通過点P1Aまでの移動軌跡が特定されている場合であっても、制御上のばらつきが発生する場合がある。このため戻り点P3から移動軌跡R1で通過点P1Aに達する場合もあれば、戻り点P3から移動軌跡R2で通過点P1Aに達する場合もある。たとえばバケット8に積み込まれた荷の重量が大きい場合には、移動軌跡R1よりも移動軌跡R2となる傾向が高い。このように移動軌跡R2でバケット8が移動した場合、バケット8は積込対象200(ベッセル200A)に干渉するおそれがある。
【0041】
そこで本開示においては、自動積込制御時において戻り点P3から通過点までの移動軌跡によらずにバケット8が積込対象200に干渉しないよう通過点P1Aが修正通過点P1Bに較正される。通過点P1Aを修正通過点P1Bに較正する作業機械の自動制御システムおよび作業機械の制御方法を以下に説明する。
【0042】
<作業機械の自動制御システム>
まず本実施形態における自動制御システムの構成について図5を用いて説明する。
【0043】
図5は、本開示における油圧ショベルの自動制御システムを示すブロック図である。図5に示されるように、自動制御システムはコントローラ50を有している。コントローラ50は、プロセッサと、メインメモリと、記憶部53とを含む。プロセッサはたとえばCPU(Central Processing Unit)などである。メインメモリは、たとえばROM(Read Only Memory)のような不揮発性メモリおよびRAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリを含む。コントローラ50は、記憶部53に記憶されているプログラムを読み出してメインメモリに展開し、プログラムに従って所定の処理を実行する。
【0044】
コントローラ50は、指示点特定部51と、修正通過点算出部52と、記憶部53と、EPC弁制御部54とを有している。
【0045】
指示点特定部51は、作業機姿勢センサ20から出力された姿勢信号を取得する。指示点特定部51は、位置方位センサ21から出力された衛星測位信号と旋回角度信号とを取得する。指示点特定部51は、傾斜センサ22から出力された傾斜信号を取得する。指示点特定部51は、検出センサ23から出力された検出信号を取得する。指示点特定部51は、指示部24から出力された指示信号を取得する。
【0046】
指示点特定部51は、自動積込制御においてバケットが通過すべき点の座標を特定する。具体的には指示点特定部51は、指示部24から指示信号を取得したタイミングにおけるアームトップピン15の左右方向の中心位置の座標を算出する。
【0047】
オペレータが通過点P1Aの取得を目的として指示部24を操作した場合、指示部24が操作されたタイミングにおけるアームトップピン15の左右方向の中心位置の座標が通過点P1Aの座標として通過点特定部51Aにより算出される。またオペレータが排土点P2の取得を目的として指示部24を操作した場合、指示部24が操作されたタイミングにおけるアームトップピン15の左右方向の中心位置の座標が排土点P2の座標として排土点特定部51Bにより算出される。またオペレータが戻り点P3の取得を目的として指示部24を操作した場合、指示部24が操作されたタイミングにおけるアームトップピン15の左右方向の中心位置の座標が戻り点P3の座標として戻り点特定部51Cにより算出される。
【0048】
各点P1A、P2、P3の座標の算出は、作業機姿勢センサ20、位置方位センサ21および傾斜センサ22の各々から取得した信号に基づいて実行される。この際、指示点特定部51は、記憶部53に記憶された作業機2の各構成部品の寸法などを参照してもよい。指示点特定部51は、特定した通過点P1A、排土点P2および戻り点P3の各々の座標信号を修正通過点算出部52へ出力する。
【0049】
なお図において通過点特定部51A、排土点特定部51Bおよび戻り点特定部51Cが分けて示されているが、通過点特定部51A、排土点特定部51Bおよび戻り点特定部51Cは分かれておらず、同じ部分であってもよい。つまり各点P1A、P2、P3は、指示点特定部51の同じ部分により特定されてもよい。また指示点特定部51は、特定した排土点P2および戻り点P3の各々の座標信号を修正通過点算出部52ではなくEPC弁制御部54へ直接出力してもよい。
【0050】
修正通過点算出部52は、通過点P1Aの座標信号を通過点特定部51Aから取得する。修正通過点算出部52は、取得した通過点P1Aの座標を修正通過点P1Bに較正する。
【0051】
図4に示されるように、通過点P1Aの座標の較正は、通過点P1Aに対して排土点P2とは反対側に距離Lだけずらした位置を修正通過点P1Bに設定し、その修正通過点P1Bの座標を算出することにより行なわれる。
【0052】
位置をずらす距離Lは、たとえばバケット8の左右方向の幅W(図1)の半分の寸法(W/2)以上である。これによりバケット8が積込対象200に干渉することがさらに抑制される。
【0053】
また修正通過点P1Bは、油圧ショベル100を基準とする機械座標系(ローカル座標系)における水平方向に通過点P1Aからずらした位置に設定される。具体的にはグローバル座標系における水平面に油圧ショベル100が配置されている場合には、グローバル座標系における水平方向と機械座標系における水平方向とは一致する。このため、この場合には修正通過点P1Bは、グローバル座標系の水平方向と同じ機械座標系の水平方向に通過点P1Aからずらした位置に設定される。
【0054】
一方、グローバル座標系における水平面に対して傾斜した斜面に油圧ショベル100が配置されている場合には、グローバル座標系における水平方向と機械座標系における水平方向とは一致しない。このため、この場合には修正通過点P1Bは、グローバル座標系の水平方向とは異なる機械座標系の水平方向に通過点P1Aからたとえば排土点P2とは反対側に距離Lだけずらした位置に設定される。
【0055】
図5に示されるように、修正通過点算出部52は、修正通過点P1Bを算出するに際し、記憶部53に記憶されたバケット8の形状データなどを参照する。記憶部53には、作業機2の各構成部品の寸法などが記憶されている。
【0056】
記憶部53には、入力装置26から各種の情報が入力される。入力装置26は、タッチパネル、キーボードなどであってもよい。入力装置26は、油圧ショベル100に搭載されていてもよく、また油圧ショベル100とは離れた位置にありコントローラ50と有線または無線で接続されるものであってもよい。また記憶部53には予めバケット8(作業具)の形状データなどが記憶されていてもよく、入力装置26により外部から記憶部53へ無線で送信されてもよい。
【0057】
修正通過点算出部52は、算出した修正通過点P1Bと、排土点P2と、戻り点P3との各座標を示す信号をEPC弁制御部54へ出力する。EPC弁制御部54は、取得した修正通過点P1B、排土点P2および戻り点P3の各々の座標を示す信号に基づいてEPC弁28を制御する。
【0058】
EPC弁28は、コントローラ50のEPC弁制御部54からの指令電流に基づいて油圧バルブ30を制御する。これによりEPC弁28は、油圧ポンプ27により油タンク(図示せず)から汲み上げられた油のアクチュエータ29への供給を制御する。アクチュエータ29は、たとえば油圧アクチュエータであり、ブームシリンダ10、アームシリンダ11、バケットシリンダ12、旋回モータなどである。
【0059】
EPC弁制御部54によりEPC弁28が制御されることにより、自動積込制御においてアームトップピン15の左右方向の中心が戻り点P3から修正通過点P1Bを通過して排土点P2に達するように各油圧アクチュエータが制御される。これによりバケット8と積込対象200との干渉が抑制された自動積込制御が可能となる。
【0060】
なおEPC弁制御部54は、操作部25からの操作信号を取得する。EPC弁制御部54は、操作部25から出力された手動運転の動作指令に基づいてEPC弁28を制御してもよい。これによりオペレータによる手動運転により作業機2の動作、旋回体3の旋回を操作することが可能となる。これによりオペレータが通過点P1A、排土点P2および戻り点P3の各点となる位置へ作業機を移動させることができる。
【0061】
また検出センサ23の検出信号に基づいて図2に示す一連の掘削積込動作が完全自動化されてもよい。検出センサ23が油圧ショベル100の周囲の状況および物体を検出することにより、油圧ショベル100と掘削点または積込対象200との相対的な位置関係を検出することが可能となる。このため自動での戻り旋回SD(図2)時に通過点P1A、排土点P2および戻り点P3の各点を自動で特定することも可能となる。また検出センサ23が油圧ショベル100の周囲の地形などを検出することにより、掘削SA(図2)も自動で行うことが可能となる。これにより自動積込制御との組合わせで掘削積込の一連の作業を完全自動化することが可能となる。
【0062】
コントローラ50、指示部24、操作部25および入力装置26の各々は、油圧ショベル100に搭載されていてもよく、油圧ショベル100の外部に離れて配置されていてもよい。コントローラ50、指示部24、操作部25および入力装置26の各々が油圧ショベル100の外部に離れて配置されている場合、コントローラ50、指示部24、操作部25および入力装置26の各々は、各種センサ20~23、EPC弁28などと無線により接続されていてもよい。コントローラ50は、油圧ショベル100から離れたサーバに格納されていてもよい。また操作部25が油圧ショベル100から離れていることにより、オペレータは油圧ショベル100の運転席4内に搭乗せずに、遠隔で油圧ショベル100を操作してもよい。
【0063】
<作業機械の制御方法>
次に、本実施形態における作業機械の制御方法について図5および図6を用いて説明する。
【0064】
図6は、本開示の一実施形態における油圧ショベルの制御方法を示すフロー図である。図5および図6に示されるように、コントローラ50の指示点特定部51は、作業機姿勢センサ20から出力された姿勢信号(作業機姿勢情報)を取得する(ステップS1:図6)。コントローラ50の指示点特定部51は、位置方位センサ21から出力された衛星測位信号と旋回角度信号(旋回角度情報)とを取得する(ステップS2:図6)。コントローラ50の指示点特定部51は、傾斜センサ22から出力された傾斜信号を取得する。コントローラ50の指示点特定部51は、検出センサ23から出力された検出信号を取得する。コントローラ50の指示点特定部51は、指示部24から出力された指示信号を取得する。
【0065】
コントローラ50の指示点特定部51は、自動積込制御においてバケット8が通過すべき点の座標を特定する。具体的には指示点特定部51は、指示部24から指示信号を取得したタイミングにおけるアームトップピン15の左右方向の中心位置の座標を算出する。
【0066】
アームトップピン15の左右方向の中心が積込対象200の側端縁の真上に位置したとオペレータが判断して指示部24を操作した場合または検出センサ23が判断した場合、そのタイミングにおけるアームトップピン15の左右方向の中心位置の座標が通過点P1Aの座標として通過点特定部51Aにより算出される。これにより通過点P1Aが特定される(ステップS3:図6)。
【0067】
またアームトップピン15の左右方向の中心が荷を排土すべき点の真上に位置したとオペレータが判断して指示部24を操作した場合または検出センサ23が判断した場合、そのタイミングにおけるアームトップピン15の左右方向の中心位置の座標が排土点P2の座標として排土点特定部51Bにより算出される。これにより排土点P2が特定される。
【0068】
またアームトップピン15の左右方向の中心が掘削すべき点の真上に位置したとオペレータが判断して指示部24を操作した場合または検出センサ23が判断した場合、そのタイミングにおけるアームトップピン15の左右方向の中心位置の座標が戻り点P3の座標として戻り点特定部51Cにより算出される。これにより戻り点P3が特定される。
【0069】
指示点特定部51は、特定した通過点P1A、排土点P2および戻り点P3の各々の座標信号を修正通過点算出部52へ出力する。なお指示点特定部51は、特定した排土点P2および戻り点P3の各々の座標信号を修正通過点算出部52ではなくEPC弁制御部54へ直接出力してもよい。
【0070】
修正通過点算出部52は、通過点P1Aの座標信号を通過点特定部51Aから取得すると、取得した通過点P1Aの座標を修正通過点P1Bに較正する。つまりコントローラ50の修正通過点算出部52は、通過点P1Aを修正した修正通過点P1Bを算出する(ステップS4:図6)。
【0071】
通過点P1Aの座標の較正は、図4を用いて説明したように、通過点P1Aに対して排土点P2とは反対側に距離Lだけずらした位置を修正通過点P1Bに設定し、その修正通過点P1Bの座標を算出することにより行なわれる。
【0072】
修正通過点算出部52は、算出した修正通過点P1Bと、排土点P2と、戻り点P3との各座標を示す信号をEPC弁制御部54へ出力する。EPC弁制御部54は、取得した修正通過点P1B、排土点P2および戻り点P3の各座標を示す信号に基づいてEPC弁28を制御する。
【0073】
EPC弁制御部54によりEPC弁28が制御されることにより、自動積込制御においてアームトップピン15の左右方向の中心が戻り点P3から修正通過点P1Bを通過して排土点P2に達するように各油圧アクチュエータが制御される(ステップS5:図6)。これによりバケット8と積込対象200との干渉が抑制された自動積込制御が可能となる。
【0074】
<効果>
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0075】
本実施形態においては図4に示されるように、通過点P1Aから排土点P2とは反対側にずらした位置を修正通過点P1Bとして、修正通過点P1Bの座標が算出される。そして旋回時に修正通過点P1Bを通過するように作業機2の動作が制御される。これにより自動積込制御時においてバケット8と積込対象200との干渉を抑制することが可能となる。
【0076】
また本実施形態においては図4に示されるように、通過点P1Aから排土点P2とは反対側にバケット8の左右方向の幅W(図1)の半分の寸法(W/2)だけずらした位置が修正通過点P1Bに設定される。これにより自動積込制御時においてバケット8と積込対象200との干渉をさらに抑制することが可能となる。
【0077】
また本実施形態においては、油圧ショベル100を基準とする機械座標系における水平方向に通過点P1Aからずらした位置が修正通過点P1Bに設定される。これにより油圧ショベル100がグローバル座標系における水平面に対して傾斜した斜面に配置されている場合においても、自動積込制御時においてバケット8と積込対象200との干渉を抑制することが可能となる。
【0078】
また本実施形態においては図5に示されるように、自動制御システムは、アクチュエータ29を駆動させるための手動運転の動作指令を出力する操作部25と、動作指令を出力して作業機2を動作させた際に通過点P1Aを指示する指示部24とを有している。これによりオペレータが手動運転で作業機2および旋回体3を動作させて、通過点P1Aを特定することができる。
【0079】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0080】
1 本体、2 作業機、3 旋回体、4 運転室、4S 運転席、5 走行体、5Cr 履帯、5M 走行モータ、6 ブーム、7 アーム、8 バケット、9 外装カバー、10 ブームシリンダ、11 アームシリンダ、12 バケットシリンダ、13 ブームフートピン、14 ブームトップピン、15 アームトップピン、17 バケットリンク、20 作業機姿勢センサ、21 位置方位センサ、21a 受信機、22 傾斜センサ、23 検出センサ、24 指示部、25 操作部、26 入力装置、27 油圧ポンプ、28 EPC弁、29 アクチュエータ、50 コントローラ、51 指示点特定部、51A 通過点特定部、51B 排土点特定部、51C 戻り点特定部、52 修正通過点算出部、53 記憶部、54 EPC弁制御部、100 油圧ショベル、200 積込対象、200A ベッセル、P1A 通過点、P1B 修正通過点、P2 排土点、P3 戻り点、R1,R2 移動軌跡、RX 旋回軸、SE 側端縁。
図1
図2
図3
図4
図5
図6