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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111519
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】弱酸性次亜塩素酸水の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 11/04 20060101AFI20240809BHJP
   B01J 39/05 20170101ALI20240809BHJP
   B01J 39/07 20170101ALI20240809BHJP
   B01J 39/20 20060101ALI20240809BHJP
   C02F 1/50 20230101ALI20240809BHJP
【FI】
C01B11/04
B01J39/05
B01J39/07
B01J39/20
C02F1/50 531M
C02F1/50 540B
C02F1/50 560D
C02F1/50 550D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016074
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】高橋 歩
(57)【要約】
【課題】 次亜塩素酸分解能及び水溶性有機物溶出性を有する酸性イオン交換樹脂(活性H型イオン交換樹脂)を用いて、次亜塩素酸金属塩が溶解した水溶液(原料水溶液)のイオン交換を行うことにより、分子型次亜塩素酸が溶解した弱酸性水溶液を製造するに際して、生成した次亜塩素酸の分解によるロスを低減する。
【解決手段】 原料水溶液のイオン交換を行う前に、イオン交換水等の洗浄水で活性H型イオン交換樹脂を洗浄するようにすると共に、該洗浄では、活性H型イオン交換樹脂について、例えば96時間といった比較的長時間洗浄水に浸漬する等の方法により、水溶性有機物を、その含有量が所定値以下となるまで除去して、次亜塩素酸分解能を低減させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸分解能及び水溶性有機物溶出性を有する酸性イオン交換樹脂からなる「活性H型イオン交換樹脂」を、イオン交換水及び/又は純水からなる洗浄水を用いて水洗することにより前記「活性H型イオン交換樹脂」から水溶性有機物を溶出させた後に前記洗浄水と分離して、次亜塩素酸分解能及び水溶性有機物溶出性が低減された酸性イオン交換樹脂からなる「不活化H型イオン交換樹脂」を得る水洗工程;及び
前記「不活化H型イオン交換樹脂」と、次亜塩素酸の金属塩の水溶液からなる原料水溶液と、を接触させて、前記金属塩の金属イオンと水素イオンとのイオン交換を行うことにより、分子状の次亜塩素酸を生成させるイオン交換工程;を含み、
40℃の水100mlと酸性イオン交換樹脂50mlとを混合して撹拌下に24時間抽出を行って得られた水溶性有機物を含む水溶液の有機物濃度(ppm)を当該酸性イオン交換樹脂における水溶性有機物の最大溶出量としたときに、
前記水洗工程において、水溶性有用性有機物の最大溶出量が130ppm以上である「活性H型イオン交換樹脂」から水溶性有用性有機物の最大溶出量が30ppm以下である「不活化H型イオン交換樹脂」を得る、
ことを特徴とする弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法。
【請求項2】
容器内で「活性H型イオン交換樹脂」50mlあたり常温の洗浄水25~500mlに浸漬する浸漬法により前記水洗工程を行う、請求項1に記載の弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記水洗工程において、前記水洗工程において洗浄水について経時的に化学的酸素要求量の測定を行って洗浄水中に抽出された水溶性有用性有機物の量(質量部)を求め、
(1)水洗対象物である「活性H型イオン交換樹脂」における水溶性有機物の最大溶出量と、洗浄水中に抽出された水溶性有用性有機物の総質量を上記「活性H型イオン交換樹脂」の質量で除した値と、の差に基づき水洗処理の終点を決定するか、又は
(2)前記測定を行った時点における水溶性有機物の抽出速度(質量/時間)に基づき水洗処理の終点を決定する、
請求項1又は2に記載の弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弱酸性次亜塩素酸水の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶液中の次亜塩素酸は、pHによって存在形態が変化する。具体的には、pHが3~6程度の弱酸性領域では殆どが分子型の次亜塩素酸(HClO)として存在し、pH9以上の塩基性領域では解離した次亜塩素酸イオン(OCl)としての存在が優勢となり、また強酸性領域(たとえばpH3未満)ではpHの低下に伴い塩素分子(Cl)の発生が優勢となる。これら存在形態の中で分子型次亜塩素酸(HClO)が極めて高い殺菌効果を有し、その殺菌効果はイオン型次亜塩素酸(OCl)の約80倍であるとも言われている。このような高い殺菌効果を有する分子型次亜塩素酸を多く含むpH3~6の弱酸性次亜塩素酸水溶液は、人体に対する安全性も比較的高いことから、医療、歯科、農業、食品加工等、様々な分野における除菌剤又は殺菌剤として使用されている。そして、近年では、介護施設、教育施設、商業施設等の公共施設や、一般家庭における除菌や殺菌の用途に使用されるようになり、その消費量は年々増加している。
【0003】
このような弱酸性次亜塩素酸水溶液を製造する方法としては、次亜塩素酸塩水溶液からなる原料水溶液を酸性イオン交換樹脂で処理する方法(以下、単に「イオン交換法」ともいう。特許文献1および特許文献2参照。)が知られている。該イオン交換法は、電解装置のような特殊な装置を必要とせず、また危険な塩素ガスが発生しにくく、簡便且つ安全に弱酸性次亜塩素酸水溶液を製造するための方法として優れた方法である。しかしながら、使用する酸性イオン交換樹脂の状態によって次亜塩素酸分解能を有する場合には、生成した分子状次亜塩素酸の一部が製造中に分解することによって原料水溶液中に含まれる有効塩素をロスしてしまう。このような問題の解決法としては、予め酸化剤水溶液により処理した酸性イオン交換樹脂を用いる方法が知られている(特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2011-509275号公報
【特許文献2】特開2013-001620号公報
【特許文献3】特開2020-117422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献3に記載された方法では、所定の濃度の酸化剤水溶液を予め準備する必要があるばかりでなく、処理の際にもイオン交換樹脂の酸化量をコントールする必要がある。このため、特に、コストがかかり専用設備が必要な再生処理を行った再生酸性イオン交換樹脂を用いることなく、(比較的高い次亜塩素酸分解能を有する)新しい酸性イオン交換樹脂を毎回使用してバッチ法により弱酸性次亜塩素酸水溶液を製造する場合には、酸化剤水溶液処理に要する酸化剤のコストや操作の煩雑性が大きな問題となる。
【0006】
そこで、本発明は、酸化剤水溶液を用いた処理を行うことなく、簡便且つ低コストで有効塩素のロスを低減してイオン交換法により弱酸性次亜塩素酸水を製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は前記課題を解決するものであり、本発明の一の形態は、次亜塩素酸分解能及び水溶性有機物溶出性を有する酸性イオン交換樹脂からなる「活性H型イオン交換樹脂」を、イオン交換水及び/又は純水からなる洗浄水を用いて水洗することにより前記「活性H型イオン交換樹脂」から水溶性有機物を溶出させた後に前記洗浄水と分離して、次亜塩素酸分解能及び水溶性有機物溶出性が低減された酸性イオン交換樹脂からなる「不活化H型イオン交換樹脂」を得る水洗工程;及び
前記「不活化H型イオン交換樹脂」と、次亜塩素酸の金属塩の水溶液からなる原料水溶液と、を接触させて、前記金属塩の金属イオンと水素イオンとのイオン交換を行うことにより、分子状の次亜塩素酸を生成させるイオン交換工程;を含み、
40℃の水100mlと酸性イオン交換樹脂50mlとを混合して撹拌下に24時間抽出を行って得られた水溶性有機物を含む水溶液の有機物濃度(ppm)を当該酸性イオン交換樹脂における水溶性有機物の最大溶出量としたときに、
前記水洗工程において、水溶性有機物の最大溶出量が130ppm以上である「活性H型イオン交換樹脂」から水溶性有機物の最大溶出量が30ppm以下である「不活化H型イオン交換樹脂」を得る、
ことを特徴とする弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法である。
【0008】
上記形態の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)においては、容器内で「活性H型イオン交換樹脂」50mlあたり常温の洗浄水25~500mlに浸漬する浸漬法により前記水洗工程を行う、ことが好ましい。
【0009】
また、前記水洗工程において、前記水洗工程において洗浄水について経時的に化学的酸素要求量の測定を行って洗浄水中に抽出された水溶性有機物の量(質量部)を求め、
(1)水洗対象物である「活性H型イオン交換樹脂」における水溶性有機物の最大溶出量と、洗浄水中に抽出された水溶性有機物の総質量を上記「活性H型イオン交換樹脂」の質量で除した値と、の差に基づき水洗処理の終点を決定するか、又は
(2)前記測定を行った時点における水溶性有機物の抽出速度(質量/時間)に基づき水洗処理の終点を決定する、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法における水洗工程によれば、たとえば酸性イオン交換樹脂を過剰量のイオン交換水及び/又は純水中に浸漬して数日間放置した後にデカンテーションするという極めて簡便且つ低コストの処理を行うだけで酸性イオン交換樹脂の次亜塩素酸分解能を問題のないレベルまで低減することができる。その結果、イオン交換法中における有効塩素(分子型次亜塩素酸)のロスを抑制することができる。したがって、本発明の製造方法によれば、酸化剤コストを要し操作が煩雑な酸化剤水溶液処理を行うことなく、イオン交換法で弱酸性次亜塩素酸水溶液を効率よく安価に製造することが可能となる。
【0011】
特に、容器内で「活性H型イオン交換樹脂」50mlあたり常温の洗浄水25~500mlに浸漬する浸漬法により前記水洗工程を行った場合には、冷却水について(コストを要する加熱や冷却が必要な)温度制御等の管理を行う必要がないので、より一層の製造コスト低減が可能となる。なお、この場合には、水洗工程に数日レベルの時間を要することがあるが、初期と終期に作業を行えば期間中は特に操作を要することは無く、酸性イオン交換樹脂の在庫期間を利用して行うこともできるので、このことによって効率性が特に損なわれることは無い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
酸性イオン交換樹脂は高分子材料であり、通常は、イオン交換樹脂を水に数時間浸漬しても浸漬した水に変化は見られない。ところが、本発明者等がたまたま未使用の酸性イオン交換樹脂を水に浸漬して数日間放置した場合に、水が着色していることに気づいた。本発明者等は、水の着色原因は酸性イオン交換樹脂に元々わずかに含まれる水溶性有機物あるいは樹脂が水中で分解する等して形成された水溶性有機物が水中に溶出したことによると考えると共に酸性イオン交換樹脂の表面に存在する分子型次亜塩素酸の還元反応を引起すような活性点(表面還元性活性点)を含むような成分も同時に水中に溶出しているのではないかと考え、上記着色水に弱酸性次亜塩素酸水を添加してみたところ、有効塩素濃度が低下するということを確認した。この様な知見に基づき、酸化剤水溶液処理を行わなくても酸性イオン交換樹脂をあらかじめ水中に長時間浸漬しておくことにより、酸性イオン交換樹脂の次亜塩素酸分解能を低減できるのではないかと考え、鋭意検討を行った。その結果、酸性イオン交換樹脂の最大溶出量が一定のレベル以下となるまで水溶性有機物を溶出させた場合には、おそらく上記溶出に伴う表面還元性活性点の消失によると思われるが、次亜塩素酸分解能が著しく低下することを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0013】
本発明の製造方法は、酸性イオン交換樹脂と、次亜塩素酸の金属塩の水溶液からなる原料水溶液と、を接触させて金属イオンと水素イオンとのイオン交換を行うことにより、分子状の次亜塩素酸を生成させるイオン交換工程を含む(一般的な)イオン交換法により弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法において、(1)酸性イオン交換樹脂として次亜塩素酸分解能及び水溶性有機物溶出性を有する酸性イオン交換樹脂からなる「活性H型イオン交換樹脂」を用いる点、及び(2)前記「活性H型イオン交換樹脂」に水洗工程を施して、次亜塩素酸分解能及び水溶性有機物溶出性が低減した「不活化H型イオン交換樹脂」としてからイオン交換工程行うことを特徴とする。
【0014】
上記イオン交換工程自体は従来のイオン交換法と特に変わる点は無い。すなわち、目的物である、分子状の次亜塩素酸が溶解した弱酸性の水溶液は、一般に弱酸性次亜塩素酸水溶液と呼ばれるものであり、イオン交換工程も従来のイオン交換法と同様にして行うことができる。これらの点を含めて、以下に、本発明の製造方法について詳しく説明する。
【0015】
1.水洗工程
水洗工程では、酸性イオン交換樹脂からイオン交換水及び/又は純水中に有機物を溶出させる。当該工程により、恐らく、酸性イオン交換樹脂の表面還元性活性点となる有機物が一部溶出したことによると思われるが、イオン交換工程において生成した分子型次亜塩素酸の分解が抑制されて有効塩素ロスを低減することができる。
【0016】
水洗工程で使用する(処理される)酸性イオン交換樹脂としては、イオン交換基としてスルホン酸基(-SOH)を有する強酸性イオン交換樹脂やカルボキシル基(-COOH)を有する弱酸性イオン交換樹脂が使用される。このようなイオン交換樹脂は、通常、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等を重合し、ジビニルベンゼンで三次元架橋した樹脂にイオン交換基として、スルホン酸基やカルボキシル基を導入した構造を有する。特に、イオン交換基としてカルボキシル基を有する弱酸性イオン交換樹脂は、緩衝作用を有し、大量に使用しても処理水溶液のpHを約5より低い値に低下させることがないので、処理中に塩素ガスを発生させる危険性がない。また、弱酸性イオン交換樹脂は、使用後に塩酸や硫酸水溶液などの薬剤で処理することにより、容易に再生することができる(イオン交換基を-COOHの形に戻すことができる)という特徴を有しており、安全性や取り扱いの良さから弱酸性イオン交換樹脂を使用することが好ましい。
【0017】
水洗工程で使用する水は、イオン交換水及び/又は純水(蒸留水)である。イオン交換水及び/又は純水(蒸留水)を使用するのは、水洗工程後の酸性イオン交換樹脂の交換容量を減少させないためであり、浸漬に使用するこれら水のイオン電導率は、3(mS/m)以下、特に2.5(mS/m)以下の水を使用することが好ましく、2(mS/m)以下の水を使用することが最も好ましい。
【0018】
水洗工程で使用する水の量は、前記酸性イオン交換樹脂50ml当たり25ml以上であればよいが、溶出量を向上させるために、特に50ml以上であることが好ましく、100ml以上であることが最も好ましい。また、その上限値は、製造する装置容量範囲であれば特に限定されるものではないが、過剰使用を防止するという観点から、同基準で500ml以下、特に250ml以下とすることが好ましい。
【0019】
酸性イオン交換樹脂から有機物を溶出させる方法としては、特に制限されるものではなく、例えば、酸性イオン交換樹脂をイオン交換水及び/又は純水に浸漬させる方法(浸漬法)や、均一な状態となるように混合・撹拌したりする方法(バッチ法)や、酸性イオン交換樹脂を充填したカラムに、イオン交換水及び/又は純水を流す方法{カラム法(流通法ともいう。)}などが採用できる。中でも浸漬法は、過剰のイオン交換水及び/又は純水中に浸漬して数日間放置した後にデカンテーションするという極めて簡便且つ低コストであることから、最も好ましい。
【0020】
水洗工程では、所期の効果を得るために、40℃の水100mlと酸性イオン交換樹脂50mlとを混合して撹拌下に24時間抽出を行った水溶性有機物を含む水溶液の有機物濃度(ppm)を当該酸性イオン交換樹脂における水溶性有機物の最大溶出量としたときに、最大溶出量が30ppm以下となるまで酸性イオン交換樹脂を洗浄する。
【0021】
上記有機物濃度(ppm)とは、化学的酸素要求量から求められる有機物量であり、COD測定装置により測定することができる。
【0022】
有機物の溶出量は、処理したイオン交換水及び/又は純水を分析することにより把握することができるが、予め実際に使用する酸性イオン交換樹脂について、実際の接触条件(たとえば、浸漬やバッチ処理法の場合は、両者の量、接触時間、及び接触温度等、流通処理法の場合は、両者の量、空間速度、接触温度等)での処理時間と溶出量との関係を調べておき、所定の溶出量となる時間処理するようにすればよい。
【0023】
また、溶出した有機物が生成物中に混入することを避けるために、任意で洗浄工程を行っても良い。当該洗浄工程では、水洗浄処理工程後の前記酸性イオン交換樹脂を、イオン交換水及び/又は純水(蒸留水)で洗浄する。イオン交換水及び/又は純水(蒸留水)を使用するのは、酸化処理工程後の酸性イオン交換樹脂の交換容量を減少させないためであり、洗浄に使用するこれら水のイオン電導率は、3(mS/m)以下、特に2.5(mS/m)以下の水を使用することが好ましく、2(mS/m)以下の水を使用することが最も好ましい。
【0024】
洗浄量や回数は特に制限はなく、有機物溶出工程後に残存した溶出物が洗い流されていれば良い。溶出物が洗い流されているかを確認するための方法としては、COD測定装置が採用できる。ただし、毎回これら分析や測定による確認を行う必要はなく、予め予備実験を行い、十分な洗浄ができる条件を確認しておき、そのような条件を適用するようにしてもよい。
【0025】
2.イオン交換工程
イオン交換工程では、前記前処理工程を経た酸性イオン交換樹脂と、次亜塩素酸の金属塩の水溶液からなる原料水溶液とを接触させ金属イオンと水素イオンとのイオン交換を行うことにより、分子状の次亜塩素酸を生成させる。当該イオン交換工程は、酸性イオン交換樹脂として前記前処理工程を施したものを使用する以外は、従来のイオン交換法と特に変わる点はなく、原料水溶液や、原料使用液と酸性イオン交換樹脂との接触方法などについても従来のイオン交換法で使用される原料水溶液や方法が特に制限なく採用できる。
【0026】
すなわち、原料水溶液に含まれる次亜塩素酸の金属塩としては、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)、次亜塩素酸カリウム(KClO)、次亜塩素酸カルシウム(Ca(ClO))、次亜塩素酸バリウム(Ba(ClO))などが使用できる。また、原料水溶液は、これら次亜塩素酸の金属塩を水に溶解させて製造してもよいが、次亜塩素酸ナトリウム水溶液である場合には、NaOHとClを電気分解することで製造してもよい。また、試薬等として販売されている次亜塩素酸塩を水に溶解させて水溶液としてもよく、さらに、試薬等として販売されている次亜塩素酸塩水溶液をそのまま又は水で希釈して用いてもよい。溶媒水や希釈水としては、前記水洗工程で使用したような低イオン電導率のイオン交換水及び/又は蒸留水を使用することが好ましい。さらに、前記酸性イオン交換樹脂前処理工程を経た酸性イオン交換樹脂と、次亜塩素酸の金属塩の水溶液を接触させる方法としては、バッチ法や流通法(カラム法)などの公知の方法が特に制限なく採用できる。
【0027】
以下、イオン交換法における好適な条件等について説明する。
【0028】
まず、原料水溶液中の次亜塩素酸金属塩水溶液の濃度は、通常は、有効塩素濃度で表わして、10(ppm)~50,000(ppm)の範囲であるが、接触方法により好適な範囲は若干異なる。すなわち、流通法(カラム法)の場合には、原料水溶液中に含まれる有効塩素濃度がたとえば100,000(ppm)と非常に高い場合には、イオン交換反応を終了させるために、理論段数を増やす必要性があるが、その場合、カラムの長さを長くすることとなり、その分生成したHClOが接触する時間が長くなる。前記酸化処理工程で酸性イオン交換樹脂の酸化されやすい部分を酸化したとしても、それ以上酸化されないわけではなく、酸化されるスピードが遅くなるが、少しずつ酸化されてしまう。したがって、生成したHClOと長時間接触した場合、不可逆的に起こる一定量の分解の影響を受けて、分子型次亜塩素酸の収率(溶液中に残存する分子型次亜塩素酸モル当量/原料水溶液中の次亜塩素酸金属塩モル当量に対応する)が低くなる傾向がある。このため、製造を効率的に行うという観点から、カラム法の場合における原料水溶液の濃度は、10(ppm)~50,000(ppm)特に30(ppm)~10,000(ppm)であることが好ましく、取り扱い易さ等を考慮すると50(ppm)~5,000(ppm)であることが最も好ましい。
【0029】
一方、バッチ法の場合には、原料水溶液中の有効塩素濃度がたとえば10(ppm)未満と低い場合には、カラム法と同様に、不可避的に起こる一定量の分解の影響を受けて、前記収率が低くなる傾向がある。また、前記有効塩素濃度がたとえば100,000(ppm)と非常に高い場合には、撹拌中の樹脂との接触頻度が多くなり、生成したHClOがより多く分解することによって前記収率が低下する傾向がある。このため、製造を効率的に行うという観点から原料水溶液の濃度は、500(ppm)~50,000(ppm)、特に500(ppm)~20,000(ppm)であることが好ましく、取り扱い易さ等を考慮すると700(ppm)~10,000(ppm)であることが最も好ましい。
【0030】
次に、接触させる酸性イオン交換樹脂の総量と原料水溶液の総量の比(混合比ともいう。)については、酸性イオン交換樹脂の総イオン交換等量が、次亜塩素酸の金属塩の金属イオンの総化学当量と同じかそれ以上となるようにすれば良い。ただし、酸性イオン交換樹脂のうち弱酸性イオン交換樹脂を使用した場合には、イオン交換反応が進むにつれ徐々にpHが低下していき、金属イオンの吸着と脱着が平衡に達する。また、金属イオンは、生成した弱酸性次亜塩素酸水の保存安定性を低下させる。したがって、生成する弱酸酸性次亜塩素酸水の保存安定性の観点から、弱酸性イオン交換樹脂を使用した場合の、イオン交換樹脂と次亜塩素酸の金属塩の水溶液の混合比は、弱酸性イオン交換樹脂の総イオン交換当量(EIE)と、原料水溶液中の金属イオンの総化学当量(EMI)との比(EMI/EIE)が0.01~0.6、特に0.03~0.55であることが好ましく、より高純度にすることにより保存安定性の向上を目指したり、弱酸性イオン交換樹脂の使用量を抑え、製造コストを低減したりという観点から、0.05~0.5となるような量比とすることが好ましい。
【0031】
なお、弱酸性イオン交換樹脂の総イオン交換当量(EIE)とは、イオン交換樹脂のもつすべての交換基が作用した場合のイオン交換能力を意味し、単位は当量(eq)である。例えば、総イオン交換容量が3.9(eq/L-樹脂)の弱酸性イオン交換樹脂100(ml)を使用した場合、イオン交換樹脂の総イオン交換当量は、EIE=0.39(eq)となる。また、原料水溶液の金属イオンの総化学当量(EMI)とは、原料である次亜塩素酸の金属塩の水溶液中に含まれる、金属イオンの価数の和を意味し、単位は当量(eq)で示される。例えば、原料である次亜塩素酸の金属塩の水溶液がNaClONaであり、有効塩素濃度が2000(ppm)で容量が1(L)の場合、原料水溶液の金属イオンの総化学当量は、EMI=0.028(eq)となる。
【0032】
イオン交換工程における液温、すなわちイオン交換反応時の反応温度は、5℃以上40℃以下、特に10℃以上35℃以下であることが好ましい。液温がこのような範囲であれば取り扱いも容易で温度制御に要するコストも低く抑えることができるばかりでなく、製造される弱酸性次亜塩素酸水溶液中の金属イオンの低減や分子状次亜塩素酸の分解抑制が容易となる。具体的には、液温が5℃未満の場合には、イオン交換反応のスピードが遅くなり、十分なイオン交換を行うために必要な混合時間が120分を超えてしまい、金属イオン量を減少させることが困難となってしまう。一方、温度が40℃を越える場合には、原料である次亜塩素酸の金属塩の水溶液や生成した分子型次亜塩素酸の分解が促進されるとともに、分子型の次亜塩素酸の揮発も促進されることから、溶液の有効塩素濃度が大幅に低下してしまう。
【0033】
イオン交換工程におけるイオン交換反応時間は、金属イオンが十分に吸着できる時間であれば特に限定されるものではない。ただし、バッチ法において弱酸性イオン交換樹脂を使用した場合には、混合時間が120分を越えると、長時間イオン交換樹脂と接触することで、生成した分子型の次亜塩素酸が徐々に分解する。分解によって発生するHCl(強酸)は、弱酸性イオン交換樹脂に吸着している金属イオンを脱離する作用を有するため、溶液内の金属イオン量が増加し、保存安定性が低下してしまうため、混合時間は120分以内が好ましい。このような点に注意することにより、バッチ法でもpHが7以下で、有効塩素濃度(CEC)に対する金属イオンの総濃度(CMI)の比(CMI/CEC)が0.5以下となる弱酸性次亜塩素酸水を得ることができる。
【0034】
本発明の方法で得られる弱酸性次亜塩素酸水は、除菌剤又は殺菌剤として有用であり、様々な除菌・殺菌用途で使用される。また、その使用態様は特に限定されず、例えば、噴霧器を用いて目的水溶液を噴霧することによって所定の空間を除菌又は殺菌してもよいし、パレットなどの容器に溜めた目的水溶液に除菌又は殺菌対象物である道具、器具、布等を浸漬して、これらを除菌又は殺菌してもよいし、目的水溶液をしみこませた布などにより、壁、床、机、椅子等を清拭してもよい。本発明の方法で得られる弱酸性次亜塩素酸水溶液は、殺菌力が高く、人体に対する安全性も比較的高い分子型次亜塩素酸を含み、且つその濃度も安定していることから、医療器具や機器の簡易的な除菌に適しており、また、口腔内の除菌用のうがい液としても使用可能である。
【0035】
得られた弱酸性次亜塩素酸水溶液は、そのままこれら用途に使用することもできる。しかし、得られた弱酸性次亜塩素酸水溶液を商品とした場合の輸送コストや保管スペース等を考慮すると、高い有効塩素濃度の目的水溶液からなる濃厚原液を、使用者が使用時に、使用態様に応じて好ましい有効塩素濃度となるように、水道水等の水で都度希釈して使用することが好ましい。前記したように、本発明の方法では、原料水溶液の有効塩素濃度が数百~数万ppmのときの収率が高く、たとえば5000(ppm)程度の有効塩素濃度を有する弱酸性次亜塩素酸水溶液を効率的に製造できるため、上記したような希釈して使用する際の濃厚原液の製造方法として有効である。ただし、有効塩素濃度が高すぎる場合には取り扱いに注意を要し、塩素系殺菌剤について専門的な知識を有さない一般人による使用を考える場合には、濃縮原液における有効塩素濃度は100(ppm)以上1,000(ppm)以下、特に300(ppm)以上800(ppm)以下であることが好ましい。
【実施例0036】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。
【0037】
先ず、実施例及び比較例で使用した、次亜塩素酸金属塩の水溶液、イオン交換樹脂等について説明する。
【0038】
[次亜塩素酸金属塩水溶液]
・有効塩素濃度12.0(wt%)のNaClO水溶液(ネオラックススーパー:供給元 島田商店)。
【0039】
[酸性イオン交換樹脂]
<弱酸性イオン交換樹脂>
・アンバーライトIRC-76(オルガノ株式会社製):総イオン交換容量3.9(eq/L)、以下、「IRC76」と略記する。
<強酸性イオン交換樹脂>
・アンバーライトHPR8400(オルガノ株式会社製):総イオン交換容量4.7(eq/L)、以下、「HPR8400」と略記する。
【0040】
後述する実施例及び比較例では、上記IRC76及びHPR8400の夫々については何れも同一バッチのものを使用した。このため、先ず、これら各酸性イオン交換樹脂について、同一バッチの未使用の状態におけるものをサンプリングし、以下に示す方法により「水溶性有機物の最大溶出量」(以下、単に「最大溶出量」ともいう。)を測定した。その結果、IRC76の「最大溶出量」は156ppmであり、HPR8400の「最大溶出量」は231ppmであった。したがって、HPR8400及びIRC76は、何れも「活性H型イオン交換樹脂」に該当することが確認された。
【0041】
[最大溶出量の測定方法]
40℃の水100mlと酸性イオン交換樹脂50mlとを(40℃を維持した状態で)混合して24時間撹拌後、上澄み液を採取し、イオン交換水を用いてこれを100倍に希釈して測定用試料とした。該測定用試料について、過マンガン酸法COD測定試薬(東亜ディーケーケー株式会社)を用いて分光光度計DR6000(HACH社製)にてCODを測定し、測定結果を100倍することで上澄み液のCODを求め、この値を「最大溶出量」とした。
【0042】
実施例1
(1)酸性イオン交換樹脂の水洗工程(浸漬法)
容量300mlのガラス製容器内に酸性イオン交換樹脂としてIRC76を100ml計りとった後にイオン電導率が3(mS/m)以下のイオン交換水100mlを量添加し、軽くかきまぜた後に室温(25℃)で96時間静置し、含浸法による水洗工程を行った。その後、デカンテーションにより上澄み液を除去してからイオン交換水を100ml添加し軽く容器を振り、イオン交換樹脂を洗浄後、デカンテーションにより上澄み液を除去する工程を10回繰り返し、水洗工程処理後のIRC76:100mlを回収した。
【0043】
上記水洗工程処理後のIRC76の「最大溶出量」を調べるために、回収した水洗工程処理後のIRC76:50mlについて、上記最大溶出量の測定方法により「最大溶出量」を測定した。その結果は、28ppmであり、水洗工程処理後のIRC76は「不活化H型イオン交換樹脂」となっていることが確認された。
【0044】
(2)イオン交換工程(バッチ法)
前記12%NaClO水溶液をイオン電導率が3(mS/m)以下のイオン交換水で希釈して有効塩素濃度が5000ppmとなるよう調整して、原料水溶液を調製した。洗浄工程後の酸性イオン交換樹脂(IRC76):50mlに、600mlの原料水溶液を添加し、20℃にてフッ素樹脂製撹拌羽を用いて酸性イオン交換樹脂が均一に分散するように撹拌して8分間混合して反応を行った(反応時間=8分)。撹拌終了後、樹脂が沈降するまで静置し、デカンテーションにより上澄み液である次亜塩素酸水溶液を、樹脂が入り込まないように#200の濾布を通してポリエチレン容器に回収し、以下に説明する方法により、pH、有効塩素濃度(CEC)及びNaイオン濃度(CMI)を測定した。その結果、pHは、6.5であり、CECは3973ppmであり、CMIは811ppmであった。そして、これら結果から求められる有効塩素濃度残存率は79%であり、CMI/CEC比は0.20であった。ここで、有効塩素残存率とは、製造した弱酸性次亜塩素酸水の有効塩素濃度を原料水溶液の有効塩素濃度で除した数値(%)であり、その値が100%に近いほど製造中に減少する有効塩素が少ないことを意味する。
【0045】
[pH測定]
pHメーターF-55型(株式会社堀場製作所)を用いて、回収した弱酸性次亜塩素酸水溶液の一部をサンプル溶液とし、当該測定サンプル液のpHを測定した。
【0046】
[有効塩素濃度測定]
回収した弱酸性次亜塩素酸水溶液の一部をサンプル溶液とし、当該サンプル溶液を、イオン交換水を用いて50倍に希釈して測定用試料を調製した。該測定用試料について有効塩素濃度測定キットAQ-202型(柴田科学株式会社)を用いて希釈後の有効塩素濃度を測定し、得られた測定値に上記希釈倍率(50)を乗じて弱酸性次亜塩素酸水溶液の有効塩素濃度(CEC)を求めた。
【0047】
[Naイオン濃度測定]
回収した弱酸性次亜塩素酸水溶液の一部をサンプル溶液とし、当該サンプル溶液を、イオン交換水を用いて50倍に希釈し、測定用試料を調製した。該測定用試料についてNaイオンメーター(株式会社堀場製作所)を用いてNaイオン濃度を測定し、得られた測定値に上記希釈倍率(50)を乗じて弱酸性次亜塩素酸水溶液のNaイオン濃度(CMI)を求めた。
【0048】
実施例2~10
(1)酸性イオン交換樹脂の水洗工程(浸漬法)
使用する酸性イオン交換樹脂の種類及びイオン交換水の量を表1に示すように変えた他は実施例1と同様にして水洗工程及び該水洗工程後の酸性イオン交換樹脂の「最大溶出量」測定を行った。その結果を表1に示す。
【0049】
(2)イオン交換工程(バッチ法)
原料水溶液の有効塩素濃度が表2に示す濃度になるように12%NaClO水溶液をイオン電導率が3(mS/m)以下のイオン交換水で希釈して調製した原料水溶液を表2に示す量用いる共に反応時間(撹拌時間)を表2に示す時間に変える他は実施例1と同様にして反応(撹拌)を行い、実施例1と同様にして回収した弱酸性次亜塩素酸水溶液の分析及び評価を行った。但し、測定の都合上、有効塩素濃度(CEC)及びNaイオン濃度(CMI)の測定における測定試料の調製に際しては、原料水溶液の有効塩素濃度及びNaイオン濃度に応じて、サンプル溶液のイオン交換水による希釈率を次のように変更している。結果を表3に示す。
【0050】
[有効塩素濃度測定試料調製時の希釈率]
・原料溶液の有効塩素濃度301~900ppm:希釈倍率3倍
・原料溶液の有効塩素濃度901~3000ppm:希釈倍率10倍
・原料溶液の有効塩素濃度3001~15000ppm:希釈倍率50倍
・原料溶液の有効塩素濃度15001~120000ppm:希釈倍率500倍。
【0051】
[Naイオン濃度測定試料調製時の希釈率]
・原料溶液のNaイオン濃度101~500ppm:希釈倍率5倍
・原料溶液のNaイオン濃度501~5000ppm:希釈倍率50倍
・原料溶液のNaイオン濃度5001~20000ppm:希釈倍率200倍。
【0052】
実施例11
(1)酸性イオン交換樹脂の水洗工程(バッチ法)
容量300mlのガラス製容器内に酸性イオン交換樹脂として酸性イオン交換樹脂:HPR8400を100ml計りとり、イオン電導率が3(mS/m)以下のイオン交換水を200ml添加し、フッ素樹脂製撹拌羽を用いて酸性イオン交換樹脂が均一に分散するように、室温(25℃)で48時間撹拌して混合を行った。撹拌終了後、樹脂が沈降するまで静置させ、デカンテーションにより上澄み液を除去した。その後、イオン交換水を200ml添加し、10秒間撹拌後、樹脂が沈降するまで静置させ、デカンテーションにより上澄み液である洗浄液を除去する工程を10回繰り返し、水洗工程処理後のHPR8400:100mlを回収した。
上記水洗工程処理後のHPR8400の「最大溶出量」を調べるために、回収した水洗工程処理後のHPR8400:50mlについて、実施例1と同様にして「最大溶出量」を測定したところ、17ppmであり、「不活化H型イオン交換樹脂」となっていることが確認された。
【0053】
(2)イオン交換工程(バッチ法)
原料水溶液の有効塩素濃度が表2に示す濃度になるように12%NaClO水溶液をイオン電導率が3(mS/m)以下のイオン交換水で希釈して調製した原料水溶液を表2に示す量用いる共に反応時間(撹拌時間)を表2に示す時間に変える他は実施例2-10と同様にして反応(撹拌)を行い、実施例2-10と同様にして回収した弱酸性次亜塩素酸水溶液の分析及び評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0054】
実施例12
(1)酸性イオン交換樹脂の水洗工程(カラム法)
酸性イオン交換樹脂:HPR8400を100ml計りとり、ガラス製カラムに充填した。その後、室温(25℃)でイオン電導率が3(mS/m)以下のイオン交換水400mlを流速2ml/秒で48時間循環させた。その後、イオン電導率が3(mS/m)以下のイオン交換水2000mlを流速2ml/秒で流した後に、水洗工程処理後のHPR8400:100mlを回収した。
上記水洗工程処理後のHPR8400の「最大溶出量」を調べるために、回収した水洗工程処理後のHPR8400:50mlについて、実施例1と同様にして「最大溶出量」を測定したところ、19ppmであり、「不活化H型イオン交換樹脂」となっていることが確認された。
【0055】
(2)イオン交換工程(カラム法)
12%NaClO水溶液をイオン電導率が3(mS/m)以下のイオン交換水で希釈して有効塩素濃度が860ppmとなるよう原料水溶液を調製した。水洗工程終了後に回収された各酸性イオン交換樹脂50mlを、夫々ガラス製カラムに充填し、各カラムに調製した原料水溶液1000mlを夫々流速2ml/秒で流し、流出した弱酸性次亜塩素酸水をポリエチレン容器に回収し、実施例2-10と同様にして回収した弱酸性次亜塩素酸水溶液の分析及び評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0056】
実施例13
(1)酸性イオン交換樹脂の水洗工程(浸漬法)
実施例6と同様の浸漬法により、水洗工程を行った。
【0057】
(2)イオン交換工程(カラム法)
実施例12と同様のカラム法により、イオン交換工程を行い、実施例2-10と同様にして回収した弱酸性次亜塩素酸水溶液の分析及び評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0058】
実施例14
(1)酸性イオン交換樹脂の水洗工程(カラム法)
実施例12と同様のカラム法により、水洗工程を行った。
【0059】
(2)イオン交換工程(バッチ法)
原料水溶液の有効塩素濃度が表2に示す濃度になるように12%NaClO水溶液をイオン電導率が3(mS/m)以下のイオン交換水で希釈して調製した原料水溶液を表2に示す量用いる共に反応時間(撹拌時間)を表2に示す時間に変える他は実施例2-10と同様にして反応(撹拌)を行い、実施例2-10と同様にして回収した弱酸性次亜塩素酸水溶液の分析及び評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0060】
比較例1~3
IRC76、50ml(比較例1)又はHPR8400、50ml(比較例2.3)を用い、水洗工程を行うことなくそのまま、表2に示す条件でバッチ法(比較例1、2)及びカラム法(比較例3)でイオン交換工程を行い、弱酸性次亜塩素酸水溶液を製造し、実施例と同様の評価を行った。結果を表3に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
実施例1~14は、本発明の製造方法における各条件を全て満足するものであり、有効塩素濃度残存率は78%以上であった。一方、比較例は、酸性イオン交換樹脂の前処理を行わなかった場合であるが、弱酸性イオン交換樹脂であるIRC76を用いたバッチ法に依るイオン交換を行った比較例1における残存率は、70%であり、対応する実施例1-3の結果(79~84%)と比べて低くなっている。また、強酸性イオン交換樹脂である弱酸性イオン交換樹脂であるHPR8400を用いた場合のバッチ法に依るイオン交換を行った比較例2における残存率は、72%であり、対応する実施例7及び14の結果(83%)と比べて低くなっている。さらに、HPR8400でカラム法に依るイオン交換を行った比較例3における残存率は、28%であり、対応する実施例12及び13の結果(82~83%)と比べて低くなっている。