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特開2024-111535最適配電網切替手順算出システム及び最適配電網切替手順算出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111535
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】最適配電網切替手順算出システム及び最適配電網切替手順算出方法
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/60 20220101AFI20240809BHJP
   G06N 99/00 20190101ALI20240809BHJP
   H02J 3/00 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
G06N10/60
G06N99/00 180
H02J3/00 170
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016103
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄喜
(72)【発明者】
【氏名】杉村 修平
(72)【発明者】
【氏名】栗原 世治
(72)【発明者】
【氏名】田邊 隆之
(72)【発明者】
【氏名】高津 一誠
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA03
5G066AE09
(57)【要約】
【課題】電力損失を最小に抑えつつ、ある配電網から最適な配電網までの切替手順を算出することが可能な最適配電網切替手順算出システム及び最適配電網切替手順算出方法を提供する。
【解決手段】評価関数生成部4は、各種制約条件40と入力された配電網の開閉状態データ41から「一定回数の切替手順で到達できる範囲」で、電力損失を最小にする配電網(の開閉器の開閉状態)を算出するための評価関数を生成する。配電網算出部5は、上記生成した評価関数を量子コンピュータに渡す。配電網最適判定部6は、量子コンピュータによる最適化処理の収束を判定する。配電網差分抽出部7は、最適化処理が収束したと判定された場合、前回との差分(一定回数の切替手順)を抽出する。切替手順構築部9は、収束したと判定された場合に、一定回数の切替手順をつなぎ合わせて初期状態から最適解までの切替手順を構築し、最適配電網及び切替手順を出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子コンピュータを用いて複数の開閉器を有する配電網の最適化を行う最適配電網切替手順算出システムであって、
複数の制約条件を算出する制約条件算出部と、
前記制約条件算出部により算出された前記複数の制約条件と、入力された前記配電網が有する前記複数の開閉器における開閉状態とに基づいて、1回の切り替えで到達できる範囲で電力損失を最小にする配電網を算出するための評価関数を生成する評価関数生成部と、
前記評価関数生成部により生成された前記評価関数を前記量子コンピュータに渡し、電力損失を最小に抑える最適配電網を算出させる配電網算出部と、
前記量子コンピュータによって算出された新たな配電網の電力損失と、これより1回前に算出された配電網の電力損失とを比較し、前記新たな配電網の電力損失が前記1回前に算出された配電網の電力損失よりも小さいか否かに基づいて、前記量子コンピュータによる最適化処理が収束したか否かを判定する配電網最適判定部と、
前記配電網最適判定部によって前記量子コンピュータによる最適化処理が収束していないと判定された場合に、前記新たな配電網の前記複数の開閉器における開閉状態と前記1回前に算出された配電網の前記複数の開閉器における開閉状態との差分を、一定回の切替手順として抽出する配電網差分抽出部と、
前記配電網最適判定部で電力損失が収束したと判定された場合に、前記配電網差分抽出部によって抽出された前記複数の開閉器における開閉状態の差分に基づいて、初期状態から最適解までの前記複数の開閉器の切替手順を構築して出力する切替手順構築部と、
を備えることを特徴とする最適配電網切替手順算出システム。
【請求項2】
前記評価関数生成部は、前記量子コンピュータに対して、n回(n>1)の切り替えで到達できる範囲で電力損失を最小にする配電網を算出させるように前記評価関数を生成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の最適配電網切替手順算出システム。
【請求項3】
前記評価関数生成部は、前記量子コンピュータによる最適解の算出と同時に、k回(1≦k≦n、n>1)の切替手順算出と制約条件の確認とを行うことで評価関数を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の最適配電網切替手順算出システム。
【請求項4】
前記評価関数生成部は、前記量子コンピュータに対して、n回(n>1)の切り替えで到達できる範囲で電力損失を最小にする配電網を探索させることを繰り返し、前記n回の切り替えでは電力損失がさらに小さくなる配電網が見つからなくなった場合に、さらに、n+1回、n+2回、…m回(m>n)の切り替えまで探索範囲を拡げて、電力損失を最小にする配電網を算出させるように評価関数を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の最適配電網切替手順算出システム。
【請求項5】
量子コンピュータを用いて複数の開閉器を有する配電網の最適化を行う最適配電網切替手順算出方法であって、
複数の制約条件を算出すること、
前記算出された前記複数の制約条件と、入力された前記配電網が有する前記複数の開閉器における開閉状態とに基づいて、1回の切り替えで到達できる範囲で電力損失を最小にする配電網を算出するための評価関数を生成すること、
前記生成された評価関数を前記量子コンピュータに渡し、電力損失を最小に抑える最適配電網を算出させることと、
前記量子コンピュータによって算出された新たな配電網の電力損失と、これより1回前に算出された配電網の電力損失とを比較し、前記新たな配電網の電力損失が前記1回前に算出された配電網の電力損失よりも小さいか否かに基づいて、前記量子コンピュータによる最適化処理が収束したか否かを判定すること、
前記量子コンピュータによる最適化処理が収束していないと判定された場合に、前記新たな配電網の前記複数の開閉器における開閉状態と前記1回前に算出された配電網の前記複数の開閉器における開閉状態との差分を、一定回の切替手順として抽出すること、
前記電力損失が収束したと判定された場合に、前記抽出された前記複数の開閉器における開閉状態の差分に基づいて、初期状態から最適解までの前記複数の開閉器の切替手順を構築して出力すること、
を含むことを特徴とする最適配電網切替手順算出方法。
【請求項6】
前記評価関数は、前記量子コンピュータに対して、n回(n>1)の切り替えで到達できる範囲で電力損失を最小にする配電網を算出させるように生成される、
ことを特徴とする請求項5に記載の最適配電網切替手順算出方法。
【請求項7】
前記評価関数は、前記量子コンピュータによる最適解の算出と同時に、k回(1≦k≦n、n>1)の切替手順算出と制約条件の確認とを行うことで算出される、
ことを特徴とする請求項5に記載の最適配電網切替手順算出方法。
【請求項8】
前記評価関数は、一定回数の切替手順として、前記量子コンピュータに対して、n回(n>1)の切り替えで到達できる範囲で電力損失を最小にする配電網を探索させることを繰り返し、前記n回の切り替えでは電力損失がさらに小さくなる配電網が見つからなくなった場合に、さらに、n+1回、n+2回、…m回(m>n)の切り替えまで探索範囲を拡げて、電力損失を最小にする配電網を算出させるように生成される、
ことを特徴とする請求項5に記載の最適配電網切替手順算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最適配電網切替手順算出システム及び最適配電網切替手順算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配電網を構築するには、配電線を区分開閉器により複数の区間に分割し、それぞれの区間を隣接する他の区間と開閉器により接続したり切断したりすることで、通過電流の許容値に収めたり、規定された電圧に保持する等の制約条件を満たすように、最適なネットワーク構成となるような組み合わせを求める。
【0003】
特許文献1には、開閉器で区切られた区間をブロック、複数の開閉器の開閉状態を任意の整数a、bとして{a,b}の2値変数で表し、電力損失の評価関数を2値変数を用いて定式化し、アニーリングマシンへ適用して電力損失が少ない開閉器の組み合わせによる供給経路を求める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6736787号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、いくつか解決すべき問題点は含んでいるものの、量子コンピュータを用いることにより最適な配電網の算出は高速で行うことが可能である。しかしながら、実際の利用場面を考えた場合、最適な配電網を算出できたとしても、現在の配電網から最適な配電網まで、「停電を起こさない」、「各需要点が複数の供給源とつながらない」といった条件を満たしながら、どのように切り替えて行くのかの手順が示されなければ、配電網を最適な状態にまで変更することはできないという問題がある。
【0006】
そこで本発明は、電力損失を最小に抑えつつ、ある配電網から最適な配電網までの切替手順を算出することが可能な最適配電網切替手順算出システム及び最適配電網切替手順算出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の最適配電網切替手順算出システムは、量子コンピュータを用いて複数の開閉器を有する配電網の最適化を行う最適配電網切替手順算出システムであって、複数の制約条件を算出する制約条件算出部と、前記制約条件算出部により算出された前記複数の制約条件と、入力された前記配電網が有する前記複数の開閉器における開閉状態とに基づいて、1回の切り替えで到達できる範囲で電力損失を最小にする配電網を算出するための評価関数を生成する評価関数生成部と、前記評価関数生成部により生成された前記評価関数を前記量子コンピュータに渡し、電力損失を最小に抑える最適配電網を算出させる配電網算出部と、前記量子コンピュータによって算出された新たな配電網の電力損失と、これより1回前に算出された配電網の電力損失とを比較し、前記新たな配電網の電力損失が前記1回前に算出された配電網の電力損失よりも小さいか否かに基づいて、前記量子コンピュータによる最適化処理が収束したか否かを判定する配電網最適判定部と、前記配電網最適判定部によって前記量子コンピュータによる最適化処理が収束していないと判定された場合に、前記新たな配電網の前記複数の開閉器における開閉状態と前記1回前に算出された配電網の前記複数の開閉器における開閉状態との差分を、一定回の切替手順として抽出する配電網差分抽出部と、前記配電網最適判定部で電力損失が収束したと判定された場合に、前記配電網差分抽出部によって抽出された前記複数の開閉器における開閉状態の差分に基づいて、初期状態から最適解までの前記複数の開閉器の切替手順を構築して出力する切替手順構築部と、を備えることを特徴とする。
但し、ここでいう量子コンピュータはアニーリングマシン、汎用量子コンピュータのどちらかを限定するものではなく、汎用量子コンピュータの場合は、量子近似最適化アルゴリズムなどの組合せ最適化アルゴリズムによる導出を意味するものとする。
【0008】
また、本発明の最適配電網切替手順算出方法は、量子コンピュータを用いて複数の開閉器を有する配電網の最適化を行う最適配電網切替手順算出方法であって、複数の制約条件を算出すること、前記算出された前記複数の制約条件と、入力された前記配電網が有する前記複数の開閉器における開閉状態とに基づいて、1回の切り替えで到達できる範囲で電力損失を最小にする配電網を算出するための評価関数を生成すること、前記生成された評価関数を前記量子コンピュータに渡し、電力損失を最小に抑える最適配電網を算出させることと、前記量子コンピュータによって算出された新たな配電網の電力損失と、これより1回前に算出された配電網の電力損失とを比較し、前記新たな配電網の電力損失が前記1回前に算出された配電網の電力損失よりも小さいか否かに基づいて、前記量子コンピュータによる最適化処理が収束したか否かを判定すること、前記量子コンピュータによる最適化処理が収束していないと判定された場合に、前記新たな配電網の前記複数の開閉器における開閉状態と前記1回前に算出された配電網の前記複数の開閉器における開閉状態との差分を、一定回の切替手順として抽出すること、前記電力損失が収束したと判定された場合に、前記抽出された前記複数の開閉器における開閉状態の差分に基づいて、初期状態から最適解までの前記複数の開閉器の切替手順を構築して出力すること、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、電力損失を最小に抑えつつ、ある配電網から最適な配電網までの切替手順を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態による最適配電網切替手順算出システム1の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態による最適配電網算出部1-1の構成を示すブロック図である。
図3】本実施形態による最適配電網算出部1-1での制約条件算出動作を説明するためのフローチャートである。
図4】本実施形態による最適配電網算出部1-1での配電網のネットワーク解析を説明するための概念図である。
図5】本実施形態による最適配電網算出部1-1での配電網の木構造の抽出方法におけるブロック間の関係のみに着目した場合の木構造を示す概念図である。
図6】本実施形態による最適配電網算出部1-1での配電網の木構造の抽出方法の説明するための概念図である。
図7】本実施形態による最適配電網算出部1-1の配電網の木構造の抽出方法の説明するための概念図である。
図8】本実施形態による最適配電網算出部1-1での配電網全体から抽出した木構造と各ブロック内での木構造との対応関係を示す概念図である。
図9】本実施形態による最適配電網算出部1-1での電力損失の算出方法を説明するための概念図である。
図10】本実施形態による最適配電網算出部1-1での次数削減条件の算出で用いる制約項を示す概念図である。
図11】本実施形態による切替手順構築動作を説明するためのフローチャートである。
図12】本実施形態において、1回の切り替えによる開閉動作(実施例1)を説明するための概念図である。
図13】本実施形態において、2回の切り替えによる開閉動作(実施例2)を説明するための概念図である。
図14】本実施形態において、可変切替回数による逐次探索動作(実施例4)を説明するためのフローチャートである。
図15】本実施形態において、配電網差分抽出部7における実施例2での差分イメージを説明するための概念図である。
図16】本実施形態において、配電網差分抽出部7における実施例2でのk個の切替手順動作を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
本発明は、量子コンピュータを用いて電力損失を最小化する配電網の算出方法を示すものである。配電網は、電力を供給する供給点と、送られてきた電力を受け取る需要点から構成される大きなネットワークである。以下、供給点と需要点をまとめてノードと呼び、ノード間を結ぶ辺のことをリンクと呼ぶことにする。リンクには開閉器と呼ばれる「つなぐ」/「つながない」を制御できるリンクがあり、開閉器はネットワーク上に点在している。これら開閉器の開閉状態を最適化し、電力損失を最小に抑えるネットワークの構成を算出することが配電網の最適化の具体的な内容である。本発明は、ある状態(例えば現時点)の配電網が最適な状態でない場合、その状態を初期状態として、繰り返し最適化処理を実行することで、最適な配電網に至るまでの切替手順を算出することを目的としている。
【0012】
図1は、本発明の実施形態による最適配電網切替手順算出システム1の構成を示すブロック図である。最適配電網切替手順算出システム1は、最適配電網算出部1-1、評価関数生成部4、配電網算出部5、配電網最適判定部6、配電網差分抽出部7、配電網差分蓄積部8、及び切替手順構築部9を備えている。
【0013】
最適配電網算出部1-1は、各種制約条件算出部2、各種制約条件蓄積部3を含んでいる。各種制約条件算出部2は、配電網データ30に基づいて、各種制約条件を算出する。各種制約条件蓄積部3は、算出された各種制約条件を蓄積する。
【0014】
ここで、各種制約条件について詳細に説明する。
配電網は、いくつかの制約条件を満たす必要がある。それら制約条件を以下に示す。
「無停電条件」…停電が起きてはいけない(どの需要点も必ず1つ以上の供給点につながっている)。
「放射状条件」…1つの需要点は2つ以上の辺から供給を受けてはならない
「電圧降下条件」…どのリンクも一定の電圧値を超えてはならない。
「電線容量条件」…各リンクに流れる電流量は規定量を超えてはいけない。
配電網を最適化するには、上記4つの条件を満たすことを前提とした上で、配電網全体の電力損失を最小化するように(電力損失条件)、開閉器の開閉状態を決定する必要がある。
【0015】
配電網を最適化するには、上記4つの条件を満たすことを前提とした上で、配電網全体の電力損失を最小化するように(電力損失条件)、開閉器の開閉状態を決定する必要がある。一方で、量子コンピュータに計算させるためには、評価関数を定義する必要がある。定義した評価関数は、クラウドを経由するなどして量子コンピュータに送られ、量子コンピュータは受け取った評価関数を最小化するように配電網に含まれる開閉器の開閉状態の組合せを探索し結果を返す。
【0016】
したがって、量子コンピュータで計算させるためには、上記制約条件を評価関数で表現する必要がある。ここで評価関数とは、開閉器の状態を変数とした数式である。開閉器の状態は開:0/閉:1のように2値で表され、評価関数自体は、通常、これら開閉状態を変数とする2次の多項式で表される。ここで、上記4つの条件は、場合によっては3次以上の多項式で表現されることがあるため、その場合は、量子アニーリングマシンで計算ができるように、2次まで次数を下げることが一般的である。このとき次数削減のために新たな評価関数(次数削減条件)が必要となる。
但し、最近では、HUBO(Higher Order Unconstrained Binary Optimization)の形式で3次以上の項を持った多項式の評価関数をそのまま最適化する手法も提案されており、必ずしも2次まで次元を削減することが必要というわけではない。
【0017】
図1において、各種制約条件算出部2は、配電網データ30に基づいて、上述した4つの制約条件、電力損失を最小化する電力損失条件及び次数を削減するための次数削減条件、計6つの条件(以下、総称して制約条件という)を算出する。各種制約条件蓄積部3は、算出された各種制約条件として、電力損失条件、無停電条件、放射状条件、電圧降下条件、電線容量条件、及び次数削減条件を蓄積する。なお、最適配電網算出部1-1の詳細な構成、及び動作については後述する。
【0018】
本発明の中心的な構成は、評価関数生成部4、配電網算出部5、配電網最適判定部6、配電網差分抽出部7、配電網差分蓄積部8、及び切替手順構築部9にある。配電網最適判定部6から評価関数生成部4への再帰処理部分では「現在の配電網から一定回数の切り替えで到達可能な配電網の中で電力損失を最小にする配電網を探索する」という最適化を再帰的に実行している。あらかじめ算出しておいた5つの制約条件と、再帰処理の各時点の配電網の開閉状態を入力として、一定回数の切り替えで到達可能という条件の下、電力損失を最小化するよう評価関数を構築し、量子コンピュータ(不図示)に渡す処理を繰り返す。
【0019】
評価関数生成部4は、上記各種制約条件と入力された配電網の開閉状態から「一定回数の切替手順で到達できる範囲」で電力損失を最小にする配電網(の開閉状態)を算出するための評価関数を生成する。
【0020】
配電網算出部5は、上記生成した評価関数を量子コンピュータに渡し、新しい配電網を算出する。配電網最適判定部6は、上記算出した新しい配電網に対し、制約条件及び電力損失値を確認し、評価関数生成時に入力した(再帰処理の中の1回前の処理で算出した)配電網の電力損失と比較し、最適化処理の収束を判定する。
【0021】
配電網差分抽出部7は、新たに実行した配電網の算出によって前回の算出結果よりも電力損失が小さい結果が得られた場合に、前回との差分(一定回数の切替手順)を抽出する。配電網差分蓄積部8は、上記抽出された差分(一定回数の切替手順)を蓄積する。切替手順構築部9は、配電網最適判定部6で電力損失が収束したと判定された場合に、配電網差分蓄積部8に蓄積されている「一定回数の切替手順」をつなぎ合わせて初期状態から最適解までの切替手順を構築し、最適配電網及び切替手順を出力する。
【0022】
次に、上述した6つの制約条件(電力損失条件、無停電条件、放射状条件、電圧降下条件、電線容量条件、及び次数削減条件)の算出方法について詳細に説明する。
【0023】
図2は、本発明の実施形態による最適配電網算出部1-1(量子アニーリングもしくは汎用量子コンピュータの場合は量子近似最適化アルゴリズムなどによる組合せ最適化処理)の構成を示すブロック図である。最適配電網算出部1-1は、配電系統データ蓄積部10、ネットワーク解析部11、ネットワーク解析結果蓄積部12、電力損失条件算出部13、電力損失条件蓄積部14、電圧降下条件算出部15、電圧降下条件蓄積部16、電流容量条件算出部17、電流容量条件蓄積部18、無停電条件算出部19、無停電条件蓄積部20、放射状条件算出部21、放射状条件蓄積部22、次数削減条件算出部23、次数削減条件蓄積部24を備えている。
【0024】
配電系統データ蓄積部10は、配電網データ30として、配電網の供給点や需要点を表すノード番号、ノード間を結ぶ各リンクのレジスタンス(電気抵抗)、リアクタンス、電流容量値(有効電流/無効電流)、各リンクの操作可能(開閉可能)のフラグ(操作可能なリンクが開閉器である)、送り出し(供給点(供給源):1、需要点:0)など配電網の情報を蓄積している。ネットワーク解析部11は、配電網データ30に基づいて、供給点をルートとし、配電網内のノードや、ブロック間などの接続関係を表す木構造を抽出する。ネットワーク解析結果蓄積部12は、ネットワーク解析部11により抽出された木構造(解析結果)を蓄積する。
【0025】
電力損失条件算出部13は、ネットワーク解析結果蓄積部12に蓄積された木構造(ネットワーク解析結果)を用いて電力損失条件(条件1)を算出する。電力損失条件蓄積部14は、電力損失条件算出部13によって算出された電力損失条件(条件1)を蓄積する。電圧降下条件算出部15は、ネットワーク解析結果蓄積部12に蓄積された木構造(ネットワーク解析結果)を用いて電圧降下条件(どのリンクも一定の電圧値を超えないための条件;条件2)を算出する。電圧降下条件蓄積部16は、電圧降下条件算出部15によって算出された電圧降下条件(条件2)を蓄積する。
【0026】
電流容量条件算出部17は、ネットワーク解析結果蓄積部12に蓄積された木構造(ネットワーク解析結果)を用いて電流容量条件(各リンクに流れる電流量が一定値以下となる条件;条件3)を算出する。電流容量条件蓄積部18は、電流容量条件算出部17によって算出された電流容量条件(条件3)を蓄積する。無停電条件算出部19は、ネットワーク解析結果蓄積部12に蓄積された木構造(ネットワーク解析結果)を用いて、停電が起こらない(どの需要点も必ず1つ以上の供給点につながっている)ことを保証する無停電条件(条件4)を算出する。無停電条件蓄積部20は、無停電条件算出部19によって算出された無停電条件(条件4)を蓄積する。
【0027】
放射状条件算出部21は、ネットワーク解析結果蓄積部12に蓄積された木構造(ネットワーク解析結果)を用いて、ネットワークにサイクルが発生しない(1つの需要点は2つ以上のリンク(辺)から供給を受けてはならない)ことを保証する放射状条件(条件5)を算出する。放射状条件蓄積部22は、放射状条件算出部21によって算出された放射状条件(条件5)を蓄積する。
【0028】
次数削減条件算出部23は、各制約条件を蓄積する電力損失条件蓄積部14、電圧降下条件蓄積部16、電流容量条件蓄積部18、無停電条件蓄積部20、放射状条件蓄積部22に蓄積されている、上記5つの制約条件に含まれる3次以上の項について2次まで次数削減を行い、それに伴って発生する変数間の関係を規定する次数削減条件(条件6)を算出する。次数削減条件蓄積部24は、次数削減条件算出部23によって算出された、次数削減に伴って発生した次数削減条件(条件6)を蓄積する。
【0029】
図3は、本実施形態による最適配電網算出部1-1での制約条件算出動作を説明するためのフローチャートである。最適配電網算出部1-1は、まず、ネットワーク解析部11により、配電網データ30に基づいて、ネットワークを解析し、供給点をルートとし、配電網内のノードや、ブロック間などの接続関係を表す木構造31を抽出する(ステップS10)。
【0030】
次に、最適配電網算出部1-1は、電力損失条件算出部13、電圧降下条件算出部15、電流容量条件算出部17、無停電条件算出部19、及び放射状条件算出部21により、5つの制約条件(電力損失条件(条件1)、電圧降下条件(条件2)、電流容量条件(条件3)、無停電条件(条件4)、放射状条件(条件5))31を算出する(ステップS12)。
【0031】
すなわち、電力損失条件算出部13は、ネットワーク解析結果(木構造)301を用いて電力損失条件(条件1)を算出する。電圧降下条件算出部15は、ネットワーク解析結果(木構造)301を用いて電圧降下条件(条件2)を算出する。電流容量条件算出部17は、ネットワーク解析結果(木構造)301を用いて電流容量条件(条件3)を算出する。無停電条件算出部19は、ネットワーク解析結果(木構造)301を用いて、どの需要点においても停電が起こらないことを保証する無停電条件(条件4)を算出する。放射状条件算出部21は、ネットワーク解析結果(木構造)301を用いて、ネットワークにサイクルが発生しないことを保証する放射状条件(条件5)を算出する。
【0032】
次に、最適配電網算出部1-1は、次数削減条件算出部23により、5つの制約条件(電力損失条件(条件1)、電圧降下条件(条件2)、電流容量条件(条件3)、無停電条件(条件4)、放射状条件(条件5))31に含まれる3次以上の項について2次まで次数削減を行い、それに伴って発生する変数間の関係を規定する制約条件(次数削減条件;条件6)303を算出する(ステップS14)。
【0033】
なお、上述した最適配電網算出部1-1による電力損失を最小に抑える最適配電網の算出処理は、時間毎、時期毎、季節毎に算出するようにしてもよい。
【0034】
以下、各構成要素の詳細について説明する。
(1)配電網のネットワーク解析
図4は、本実施形態による最適配電網切替手順算出システム1での配電網のネットワーク解析を説明するための概念図である。配電網は、供給点および需要点をノードとするネットワークの構造を持つ。配電網上のノード間のリンクは、つなぐことが確定しているリンクと、「つなぐ」/「つながない」を開閉器の開閉により変更可能なリンクがあり、つなぐことが確定しているリンクでつながっているノードの集合は1つのブロックとみなすことができる。図4に示す場合、B~Bがそのブロックにあたる。また、q14,q24,q34,q15,q36はブロック間をつなぐ開閉器である。
【0035】
ネットワーク解析処理では、まず、開閉器を辺とし、ブロックを点としたブロック間の繋がりを表すネットワーク構造を抽出する。図4において、ブロック間の関係のみに着目すると、図5に示すようになる。どのブロックに供給点が含まれるか、ブロック間がどの開閉器でつながれているか、供給点を含むブロック同士をつなぐ経路、供給点を含まないブロックから供給点を含むブロックまでの経路等を後で参照できるようにする。ブロック間の関係の解析結果は、後に、無停電条件の算出、放射状条件の算出で用いる。
【0036】
(2)木構造の抽出
電力損失の計算では、正確な表現は後述するとして、概略だけ示すと、以下のように「抵抗値」×「電流値の二乗」の総和として計算される。
【0037】
【数1】
【0038】
ここで、Aは電力の供給点全体の集合、F(a)は供給点aをルートノードとした木構造とする。また、Rはリンクlの抵抗値、I[F(a)]は供給点aをルートとした木構造F(a)上において下流のリンクからリンクlまで電流値を累計した値、すなわちI[F(a)]は以下で与えられることを意味する。
【0039】
【数2】
【0040】
ここでIはリンクlに流れる電流値、
【0041】
【数3】
【0042】
は供給点aをルートとした木構造F(a)においてリンクiがリンクlより下流に位置することを意味するものとする。すなわち、電力損失の計算では、供給点をルートとした木構造の下流から電流値を累計していくことが必要になる。しかしながら、各需要点は、量子組合せ最適化の結果を得るまでは、どの供給点から電力が供給されるのか定まらない(どの供給点をルートとした木構造上で電流値を累計すればいいか定まらない)。このため、予め配電網に含まれるすべての供給点に対して、その供給点をルートとした木構造を抽出しておく必要がある。図4に示す配電網に対して抽出した木構造を図6に示す。
【0043】
図4に示す配電網からは、図6に示すように、F(a),F(a),F(a10)の3つの木構造が得られる。ここで注意点として、配電網内の各需要点は「2つ以上のリンクから電力を供給されてはいけない」という放射状条件を満たす必要がある。したがって、各木構造の中に含まれる供給点は、ルートノード1点のみである。すなわち、木構造の抽出結果としては、供給点を含むブロックに辿り着く手前までとなる。例えば、図6に示す木構造F(a)では、ノードaが供給点であるが、開閉器q15,q36を閉状態にしてブロックB,Bをつなげてしまうと、放射状条件に反するため、木構造F(a)にブロックB,Bは含まれない(木構造の抽出結果としては、ブロックBの手前のブロックBまで、ブロックBの手前のブロックBまでとなる)。F(a),F(a10)についても同様である。
【0044】
■ブロック内のノード間の木構造
後の電力損失の計算のために、各ブロック内のノード間の関係からなる木構造について記号を導入する。ブロック内のノード間の関係を表す木構造は、図6からも分かる通り、そのブロックがどこから電力を供給されるかによって変化する。例えば、図5に示すブロックB内に注目した場合、F(a)ではsがルートノードとなっているが、F(a)ではsが、F(a10)ではsがルートノードになっている。
【0045】
ここで、ブロックB内において供給点もしくは開閉器の端点sをルートとした木構造をT(s)と表わすものとする。例えばブロックB内での木構造は図7に示すようになる。
【0046】
図6に示す木構造の抽出結果について、配電網全体から抽出した木構造F(a)と各ブロック内での木構造T(s)の対応を整理すると図8に示すようになる。図8から分かる通り、配電網全体から抽出した木構造F(a)は、各ブロック内での木構造T(s)から構成される。図8に示す場合、F(a)は、
【0047】
【数4】
【0048】
から構成され、F(a)は
【0049】
【数5】
【0050】
から構成され、F(a10)は
【0051】
【数6】
【0052】
から構成される。
【0053】
(3)電力損失条件の算出
上記ネットワークの解析結果、特に木構造の抽出結果を用いて電力損失条件を算出する。先にも述べたとおり、電力損失は、基本的にはノード間をつなぐリンクの「抵抗値」×「電流値の二乗」の総和で算出され(式1を参照)、その際の電流値には、(式2)に示すように電力供給点をルートとした木構造の下流から上流に向かって累計した値が用いられる。このとき、どの木構造に沿って累計すべきかについては、各ブロックがどこから電力を供給されるかに依存するため、周辺ブロックとの繋がり方(開閉器の開閉状態)により変化する。
【0054】
以下、電力損失の算出方法について説明する。
図9は、本実施形態による最適配電網切替手順算出システム1での電力損失の算出方法を説明するための概念図である。図9には、図4に示す配電網に対して、各リンクに対する抵抗値、有効電流値、無効電流値の情報を付与したものを示している。
【0055】
【数7】
【0056】
は(抵抗値、有効電流値、無効電流値)を表わす。電流値は有効/無効の2種類があり、電力損失の計算にはその両方を考慮する必要がある。すなわち、式1をより正確に記述すると、以下のように、電力損失は、有効電流成分と無効電流成分との和として表わされる。
【0057】
【数8】
【0058】
但し、I[F(a)],J[F(a)]は、それぞれ有効電流、無効電流について木構造F(a)に沿って下流からリンクlまで累計した値である。
ここで、
【0059】
【数9】
【0060】
と定義すれば、
【0061】
【数10】
【0062】
と表すことができる。例えば、図4に示す配電網の場合、供給点は、a,a,a10の3点であるので、
【0063】
【数11】
【0064】
となる。
【0065】
そこで、以下、配電網から抽出した木構造F(a)について、F(a)に沿った電力損失の評価関数P(F(a))を求める方法について説明する。ここでは、特に、図8に示すブロックの木構造F(a)を例にして説明する。
【0066】
配電網の木構造F(a)に沿って電力損失を計算する場合、ブロックB内の供給点aがルートノードになる。これに伴ってブロックB内ではsが、ブロックB内ではsが、ブロックBではsがルートとなる。すなわち、各ブロック内では、それぞれ、
【0067】
【数12】
【0068】
に沿って電流値を累計することになる。
【0069】
ここで、次のように記号を導入する。ブロックB内の木構造T(s)においてノードnより下流について末端から累計した有効電流の値を以下の記号で表すものとする。
【0070】
【数13】
【0071】
ここで、
【0072】
【数14】
【0073】
は木構造T(s)においてノードnから見てリンクlが下流にあることを意味するものとする。無効電流についても同様に、
【0074】
【数15】
【0075】
と定義する。例えば、図9に示すブロックBにおいて図7の木構造
【0076】
【数16】
【0077】
に従って電流値を累計した場合、
【0078】
【数17】
【0079】
と計算することができる。他にも、例えば、図7に示す解析結果
【0080】
【数18】
【0081】
に従って、ブロックB内の電流値を累計した場合、
【0082】
【数19】
【0083】
などとなる。さらに、ここで、記号の簡略化のために、
【0084】
【数20】
【0085】
の引数のノードnが開閉器の端点s自身の場合、木構造を示すTは省略するものとする。すなわち、
【0086】
【数21】
【0087】
と表すことにする。上記のように各ブロック内の木構造に沿った電流値の累計を定義した上で、それらを用いてブロック間の木構造F(a)に沿った電力損失P(F(a))を計算する。以下、P(F(a))を例として計算方法を示す。関数P(F(a))は、配電網内の各需要点がブロックB内の供給点aから電力を供給される場合を表現した評価関数の部分を表すものである。ブロックBに属する末端のn,sから最終的にブロックB内の供給点aに到達するまでの全てのノードnについて、下流からノードnまでの電流値の累計と抵抗値とを用いて損失計算を積み上げていく。そこで、その計算過程が分かるように、特にブロックB内のリンクで電流値の累計がどのように計算されるのかを以下に説明する。
【0088】
F(a)は、木構造
【0089】
【数22】
【0090】
から構成されブロックとしては、B→B→B→Bの順で下流から上流に向かう。したがって、ブロックB内のリンクsの電流累計値を木構造F(a)に沿って計算する場合、ブロックBに含まれるリンクは、すべてリンクsから見て下流になる。そのため、開閉器q34が閉じていれば、ブロックB全体で累計した電流値を加算する必要があり、開閉器q34が開いていれば、寄与しないことになる。ブロックBがブロックBに接続する直前までの電流の累計値は、木構造
【0091】
【数23】
【0092】
に従ってブロックB内で累計した電流値
【0093】
【数24】
【0094】
として表わされるので、リンクsの電流累計値は、
【0095】
【数25】
【0096】
と表される。但し、ここで、q34はBとBの間の開閉器が閉じていれば1、開いている場合は0となる2値変数である。(式1)~(式3)にあるI[F(a)]の記号を使えば、
【0097】
【数26】
【0098】
ということになる。同様に、リンクnの電流累計値は、
【0099】
【数27】
【0100】
となる。さらに、リンクsの電流累計値は、sからnにかけての電流値I+Iも加算されるので、
【0101】
【数28】
【0102】
と表わされる。この値が有効電流について木構造F(a)に沿ってブロックBからブロックBまで累計した値である。さらに、木構造F(a)を遡ってブロックB内のリンクについて累計値を求める場合、例えば、ブロックB内のリンクsの電流値の累計は、開閉器q14が閉じていれば、そこまでに累計した電流値がすべて加算されることから、
【0103】
【数29】
【0104】
と表される。同様にして、最終的にブロックB内のsを結ぶリンクまで累計した電流値は、
【0105】
【数30】
【0106】
となる。このように、電流値の累計は、木構造に沿って下流から開閉器を介すたびに開閉状態を表す0/1の2値変数qijの掛け算が再帰的に現れる形で表される。最終的に木構造F(a)に沿った電力損失の評価関数P(F(a))は、上記のように計算した
【0107】
【数31】
【0108】
を用いて、以下のように計算される。
【0109】
【数32】
【0110】
ここで、さらに注意が必要なのは、上記P(F(a))は、下流から再帰的に計算を行うため、開閉器の開閉を表す2値変数qijに対して次数が3以上になり得る点である。実際、式4では、展開すると、
【0111】
【数33】
【0112】
のようにqijについて3次の項が現れている。量子組合せ最適化では、2次の多項式で扱うことが一般的である。2次まで次数を削減する方法は、後述する(8)次数削減条件の算出で説明する。
【0113】
(4)無停電条件の算出
次に、無停電条件の算出について図5を参照して説明する。無停電条件は、どの需要点も必ず1つ以上の供給点とつながっていることを保証するための条件である。供給点を含むブロックB,B,Bに含まれる需要点については、既に供給点につながっているため停電の心配はない。しかし、供給点を含まないブロックB,B,Bについては、供給点を含むブロックB,B,Bのどれかとつながっている必要がある。例えば、ブロックBの場合、ブロックBとつながるには、開閉器q24が閉じている必要があり、ブロックBとつながるには、開閉器q34,q36の両方が閉じている必要がある。また、ブロックBとつながるには、開閉器q14,q15の両方が閉じている必要がある。量子コンピュータは、評価関数を最小化する組合せを解として返すので、上記状態を表現するには、条件を満たす場合は0、満たさない場合はある正数となるように定義する必要がある。したがって、ブロックBについて無停電条件を表現しようとした場合、以下のように評価関数を定義すればよい。
【0114】
【数34】
【0115】
実際、ブロックBがどれか1つでも供給点とつながっていれば0、どれも満たされない場合はCpenaltyとなる。これは、ブロックBに着目した場合の評価関数であるが、ブロックB,Bも同様に考えればよい。
これを一般の形で表すと以下のようになる。
【0116】
【数35】
【0117】
ここで、Aは供給点を含むブロック全体の集合、AはAの補集合、すなわち、供給点を含まないブロック全体の集合、Ω(b,a)はブロックbとブロックaを結ぶ経路全体の集合(経路の途中に供給点を含まない)、Q(p)は経路p上の開閉器の集合とする。ここで、注意点としては、電力損失条件と同様、
【0118】
【数36】
【0119】
の部分で3次以上になる可能性がある。この次数についての解決方法は、後述する(8)次数削減条件の算出で説明する。
【0120】
(5)放射状条件の算出
次に、放射状条件の算出について図5を参照して説明する。放射状条件は、各需要点は、2つ以上のリンクから電力を供給されてはいけないという条件である。ブロックB,B,Bの供給点を含むブロック同士が繋がらないように、開閉器の開閉を制限する必要がある。例えば、ブロックBとブロックBとを結ぶ経路上の開閉器はq24,q14,q15であり、これらがすべて閉状態であると、放射状条件に違反する。したがって、開閉器q24,q14,q15が同時に1になる場合に、ペナルティが課されるように評価関数を設計する必要がある。これは、例えば、以下のようにすればよい。
【0121】
【数37】
【0122】
実際、開閉器q24,q14,q15のどれか1つでも0の場合(開の場合)、上式は0となり、開閉器q24,q14,q15がすべて1(すべて閉)の場合のときのみ、Cpenaltyとなる。ブロックBとブロックB、ブロックBとブロックBも同様に考えると、図4の場合の放射状条件を表す評価関数は、以下のようになる。
【0123】
【数38】
【0124】
これを一般化した形で表せば、以下のように表される。
【0125】
【数39】
【0126】
但し、ここで、Aは供給点を含むブロック全体の集合、Ω(a,a’)はAの2つの元a,a’を結ぶ経路全体の集合(経路の途中に供給点を含まない)、Q(p)は経路p上の開閉器の集合を表わすものとする。ここでも、
【0127】
【数40】
【0128】
のように、経路p上に3つ以上の開閉器がある場合には、評価関数に3次以上の項が現れてしまう可能性があるが、これについても、上記(3)電力損失条件の算出、上記(4)無停電条件の算出の場合と同様、後述する(8)次数削減条件の算出で説明する方法により2次まで次数を下げることができる。
【0129】
(6)電流容量条件の算出
電流容量条件は、各リンクに流れる電流値が一定以下になることを規定する制約である。例えば、図9に示す配電網において、ブロックB内のsを結ぶリンクに流れる有効電流は、以下のように表される。
【0130】
【数41】
【0131】
無効電流についても同様に、
【0132】
【数42】
【0133】
と計算される。ここで、例えば、電流容量が300[A]であった場合、以下を満たす必要がある。
【0134】
【数43】
【0135】
すなわち、上記条件を満たすように、開閉器q15,q14、q34の開閉状態を決定する必要がある。そこで、
【0136】
【数44】
【0137】
の場合には、ペナルティを課すように評価関数を設計する。ここで、
【0138】
【数45】
【0139】
と定義する。例えば、開閉器がすべて閉状態(q15=1,q14=1,q34=1)であったと仮定すると、
【0140】
【数46】
【0141】
と計算され、
【0142】
【数47】
【0143】
の場合には、電流容量を超えてしまうので、開閉器q15,q14、q34のどれか1つは必ず開状態である必要がある。そこで、評価関数を
【0144】
【数48】
【0145】
のように定義する。実際、このように評価関数を定義すると、開閉器q15,q14、q34がすべて1(閉状態)の場合には、Cpenaltyとなり、どこか1つでも開状態の場合には、0となる。これを一般化すると以下のようになる。
【0146】
[F(a)]を(式2)で定義した通り、木構造F(a)に沿って末端からリンクlまで累計した有効電流値、J[F(a)]も同様に木構造F(a)に沿って末端からリンクlまで累計した無効電流値とする。木構造[F(a)]上に含まれる開閉器の開閉を表す2値変数を
【0147】
【数49】
【0148】
で表し、
【0149】
【数50】
【0150】
と定義する。このとき、
(6-1)開閉器がすべて閉状態であると仮定した場合の
【0151】
【数51】
【0152】
の値がリンクlの電流容量θを超えるリンクについて、リンク上の開閉器の集合
【0153】
【数52】
【0154】
をとってくる。
【0155】
(6-2)それら開閉器がすべて閉状態であった場合にペナルティを課すよう以下のように評価関数を定義する。
【0156】
【数53】
【0157】
(7)電圧降下条件の算出
電圧降下条件では、下流から累計した電流値を用いて、各リンク上での電圧を下流からではなく上流から累計していく。図8に示す木構造F(a)に沿って累計する方法を説明する。リンクaの抵抗、リアクタンスおよび有効電流値、無効電流値が(R15,S15,I15,J15)で与えられている場合、リンクaまでの電圧降下V15[F(a)]は、
【0158】
【数54】
【0159】
としたときに
【0160】
【数55】
【0161】
で与えられる。
【0162】
次に、リンクsの電圧降下V7[F(a)]は、同様に
【0163】
【数56】
【0164】
を用いて、
【0165】
【数57】
【0166】
としたとき、
【0167】
【数58】
【0168】
で与えられる。これをリンクnまで繰り返したとき、リンクnの電圧降下は、
【0169】
【数59】
【0170】
を用いて、
【0171】
【数60】
【0172】
と表わされる。このように、再帰的に上流から下流に向かって累計した電圧降下
【0173】
【数61】
【0174】
は、木構造F(a)上にある開閉器の開閉状態を表す2値変数
【0175】
【数62】
【0176】
の関数である。そこで、V[F(a)]を
【0177】
【数63】
【0178】
と書くことにすれば、電流容量条件と同じように、電圧降下条件は、以下のように表される。
【0179】
【数64】
【0180】
ここで、θはリンクlに対する電圧の閾値である。
【0181】
【数65】
【0182】
の項があるため、3次以上になり得ることは電流容量条件と同じである。
【0183】
(8)次数削減条件の算出
上記(1)電力損失条件の算出から(7)電圧降下条件の算出までにおける評価関数に現れる3次以上の項について、2次まで次数を下げる方法について説明する。3次以上の評価関数をそのまま扱うhigher-order unconstrained binary optimization(HUBO)やpolynomial unconstrained binary optimization(PUBO)のようなモデルも提案されているが、通常、量子コンピュータで扱う評価関数は2次の多項式で定義することが一般的である。そのため、qのような3次以上の項は、次のような変数変換で次数を下げる。
【0184】
【数66】
【0185】
=qと置き、変数qを1つ増やすことで2次に削減したが、単純に、この置換だけでは不十分である。qは、純粋に独立な自由に0/1を取れる変数でなく、q=qという制約を満たす必要がある。そこで、q=qに縛るようなペナルティを課すために、以下のような制約項を考える。
【0186】
【数67】
【0187】
この制約項は、図10に示すような値を取る。すなわち、q=qが満たされているときは0、それ以外の場合は1以上である。そのため、この制約項を評価関数に追加すると、評価関数を最小化して得られる解は、q=qを満たすものが得られることになる。
【0188】
高次の場合は、この変換を繰り返して2次にまで持っていく。例えば、電力損失条件に現れる、
【0189】
【数68】
【0190】
のような3次の項は、この方法を1回適用することで2次まで次数を削減することができる。放射状条件で現れたq15143436のような4次の項があれば、2回適用することで2次まで次数を削減することができる。但し、この方法は、1回適用するごとに1つ制約条件が追加されることになり、比較的高次の多項式に対して適用すると、制約項が膨大な数になり、実質、最適解が得られないような状況に陥ってしまう。
【0191】
次に、あらかじめ算出しておいた6つの制約条件と、開閉状態データ(配電網内の、各時点の開閉器の開閉状態)とを入力として、一定回数の切り替えで到達可能という条件の下、電力損失を最小化するよう評価関数を構築し、クラウドを経由するなどして量子コンピュータに渡す処理を繰り返すことで、「現在の配電網から一定回数の切り替えで到達可能な配電網の中で電力損失を最小にする配電網を探索する」という最適化を再帰的に実行する処理(再帰処理)について説明する。
【0192】
図11は、本実施形態の最適配電網切替手順算出システム1による切替手順構築動作を説明するためのフローチャートである。切替手順構築処理において、まず、評価関数生成部4は、あらかじめ算出しておいた上記各種制約条件(電力損失条件(条件1)、電圧降下条件(条件2)、電流容量条件(条件3)、無停電条件(条件4)、放射状条件(条件5)、次数削減条件(条件6))と、入力された開閉状態データ(配電網内の、各時点の開閉器の開閉状態)とから、「一定回数の切替手順で到達できる範囲」で電力損失を最小にする配電網(の開閉状態)を算出するための評価関数42を生成する(ステップS20)。
【0193】
次に、配電網算出部5は、上記生成した評価関数42を量子コンピュータに渡し、新しい配電網を算出する(ステップS22)。量子コンピュータ(不図示)は、開閉器の開閉状態を最適化し、電力損失を最小に抑える最適配電網を算出する。配電網最適判定部6は、上記算出された新しい配電網に対して制約条件及び電力損失値を確認し、評価関数生成時に入力した(再帰処理の中の1回前の処理で算出した)配電網の電力損失と比較し、最適化処理の収束を判定する(ステップS24)。
【0194】
そして、配電網最適判定部6は、再帰処理の中の1回前の処理で算出された配電網の電力損失に対して、上記算出された新しい配電網の電力損失が小さいか否かを判断する(ステップS26)。そして、1回前の配電網の電力損失よりも、新たな配電網の電力損失が小さい場合には(ステップS26のYES)、配電網差分抽出部7は、前回との差分(一定回数の切替手順)を抽出する(ステップS28)。当該差分(一定回数の切替手順)は、配電網差分蓄積部8に蓄積される。
【0195】
その後、ステップS20に戻り、新しい配電網の更新された開閉状態データを1回前の配電網の状態として、上述した処理を繰り返し、「現在の配電網から一定回数の切り替えで到達可能な配電網の中で電力損失を最小にする配電網を探索する」という最適化を再帰的に実行する。この結果、配電網差分蓄積部8には、収束するまでの差分(n回の切替手順)の集合44が蓄積されることになる。
【0196】
そして、1回前の配電網の電力損失よりも、新たな配電網の電力損失が小さくなった場合、すなわち配電網最適判定部6で電力損失が収束したと判定された場合には(ステップS26のNO)、切替手順構築部9は、配電網差分蓄積部8に蓄積されている「一定回数の切替手順」をつなぎ合わせて初期状態から最適解までの切替手順を構築し、最適配電網及び切替手順46を出力する(ステップS30)。
【0197】
以下、各構成要素の詳細について説明する。
(9)評価関数生成部4
評価関数生成部4では、(t-1)回目の再帰処理で算出した配電網の開閉状態
【0198】
【数69】
【0199】
と、予め算出しておいた各種制約条件40とを用いて、t回目の再帰処理のための評価関数を生成する。予め算出しておいた6つの各種制約条件を足し合わせた
【0200】
【数70】
【0201】
と、(t-1)回目の再帰処理で算出した配電網の開閉状態
【0202】
【数71】
【0203】
とから、一定回数の切替手順で到達可能であるという条件
【0204】
【数72】
【0205】
を足し合わせて、新しい配電網の開閉状態
【0206】
【数73】
【0207】
を算出するための評価関数
【0208】
【数74】
【0209】
を生成する。すなわち、
【0210】
【数75】
【0211】
ここで、
【0212】
【数76】
【0213】
は、例えば、対象の配電網にm個の開閉器が含まれている場合にはm次元のベクトル
【0214】
【数77】
【0215】
であり、
【0216】
【数78】
【0217】
の各々は、開閉器の開閉状態(開:0、閉:1)を表す。すなわち、
【0218】
【数79】
【0219】
は、バイナリ(0、1)のmビット列を表す。
【0220】
なお、上述した説明では、「一定回数の切り替え」又は「一定回数の切替手順」と記しているが、ここで、「1回の切り替え(又は切替手順)」とは、図12に示すように、「1つの開状態の開閉器を閉状態にし、また別の1つの閉状態の開閉器を開状態にする」ことを指す。n回の切り替え(又は切替手順)は、これをn回繰り返すことを意味する。
【0221】
<実施例1>
本実施例1では、1回の切り替えで到達できる配電網に探索範囲を限定した場合における評価関数生成部41での評価関数の算出方法について説明する。
はじめに、1回の切り替えで到達できる配電網(の開閉器の開閉状態)に探索範囲を限定した場合の条件
【0222】
【数80】
【0223】
について説明する。
現時点の開閉状態(開閉器の個数m)が
【0224】
【数81】
【0225】
で与えられている場合、
【0226】
【数82】
【0227】
から1回の切り替えで到達可能な開閉状態
【0228】
【数83】
【0229】
は、次を満たす必要がある。
【0230】
【数84】
【0231】
なぜならば、1回の手順で切り替え可能である場合、
【0232】
【数85】
【0233】
はどこかの成分が0→1、どこかの成分が1→0になっているため、
【0234】
【数86】
【0235】
の形をしている。よって、
【0236】
【数87】
【0237】
とすると、
【0238】
【数88】
【0239】
より、
【0240】
【数89】
となり、すなわち、
【0241】
【数90】
【0242】
で上記(式5)を得る。
【0243】
さらに、q[t]は、0もしくは1であることから、(q[t])=q[t]を適用すると、
【0244】
【数91】
【0245】
で上記(式6)を得る。
【0246】
上記(式5)、(式6)を評価関数として取り入れるときは、(式5)、(式6)の等式が成立しないときに、ペナルティが課されるよう以下のような形で評価関数を定義する。
【0247】
【数92】
【0248】
このようにして、「1回の手順で切替可能」という条件下で最適な配電網を算出する場合の評価関数が求められる。
【0249】
上述した実施例1によれば、1回の切り替えで毎回、電力損失を最小化しながら探索するので、得られた切替手順は後から制約を確認しなくても必ず遷移可能であり、かつ電力損失も小さくなることが保証される。
【0250】
<実施例2>
本実施例2では、n回以内の切り替えで到達できる配電網に探索範囲を限定した場合における評価関数生成部41での評価関数の算出方法について説明する。
【0251】
上述した実施例1では、1回の手順で切替可能な配電網に探索範囲を限定した場合の評価関数について説明した。しかしながら、この場合、確かに1回の切り替えで到達できる範囲では電力損失は最小になるが、2手先、3手先まで考えた場合、さらに電力損失を小さく抑えられる可能性がある。
【0252】
図13は、本実施形態において、2回の切り替えによる開閉動作(実施例2)を説明するための概念図である。図13において、破線が毎回最適化した場合の電力損失を示し、実線が2手先まで最適化した場合の電力損失を示している。例えば、現時点の配電網から2回の切り替えで到達できる範囲で配電網を最適化しようと考えた場合、図13に示すように、毎回、電力損失を最小化する探索を繰り返すよりも、1回目の切り替えで一旦、電力損失が大きくなることを許容し、2回の切り替えを行った場合の方が、電力損失をより低く抑えることができる可能性がある。
【0253】
そこで、ここでは、図11における再帰処理においてn回の切り替えで到達できる範囲(n回以内)まで探索範囲を拡張した場合の処理について説明する。
【0254】
n回の切り替えまで探索範囲を拡張する場合は、ちょうどk回の切り替えで到達できる配電網を算出するための評価関数
【0255】
【数93】
【0256】
をn個生成し(1≦k≦n)、n個の評価関数を量子コンピュータに渡す。そしてn個の解の中で一番配電損失が低いものを最適解
【0257】
【数94】
【0258】
とする。
【0259】
ここで、
【0260】
【数95】
【0261】
は、以下のように6つの制約条件を表す
【0262】
【数96】
【0263】
は、どのk(1≦k≦n)に対しても共通であり、ちょうどk回の切り替えで到達できるという制約を表す
【0264】
【数97】
【0265】
がk(1≦k≦n)によって異なり、
【0266】
【数98】
【0267】
となる。
【0268】
但し、ここで、
【0269】
【数99】
【0270】
である。
【0271】
以下、
【0272】
【数100】
【0273】
の算出方法について説明する。現時点の開閉状態(開閉器の個数m)が、
【0274】
【数101】
【0275】
であるとし、
【0276】
【数102】
【0277】
からちょうどk回の切り替えで開閉状態
【0278】
【数103】
【0279】
に到達したとすると、
【0280】
【数104】
【0281】
の形をしている。よって、
【0282】
【数105】
【0283】
とすると、
【0284】
【数106】
【0285】
すなわち
【0286】
【数107】
【0287】
となる。
【0288】
さらに、q[t]は、0もしくは1であることから、(q[t])=q[t]を適用すると、
【0289】
【数108】
【0290】
すなわち
【0291】
【数109】
【0292】
となる。
上記(式8)、(式9)が成立しない場合にペナルティが課されるように評価関数を定義すると、評価関数
【0293】
【数110】
【0294】
は、上記(式7)のように表される。
【0295】
上述した実施例2によれば、切り替えの途中で一旦は電力損失が大きくなる場合も含めて探索することになるので、実施例1に比べ、電力損失をより小さく抑えた解(配電網)を得ることが可能となる。
【0296】
<実施例3>
上述した実施例1では、1回の切り替えで到達できる範囲での探索を繰り返す場合の評価関数を、上述した実施例2では、n回以内の切り替えで到達できる範囲での探索を繰り返す場合の評価関数を示した。実施例1では、1回の切り替えで到達できる範囲内で探索を行うため、解が見つかれば必ずその解へ遷移可能である。しかしながら、「1回の切り替えでは、一旦、電力損失が増加するが、2手先、3手先で初めて電力損失が小さくなる」場合が探索範囲に含まれていないため、最適解でない解に収束してしまう可能性がある。
【0297】
上述した実施例2では、これを補うため、n手先まで探索範囲を拡げて探索を繰り返すものである。しかしながら、得られる解がちょうどk回(1≦k≦n)の切り替えで到達する配電網であるため、k≧2の場合、得られた配電網までのk回の手順を後から算出する必要があり、また切り替えの各段階で制約条件を満たすことも確認する必要がある。
そこで、実施例3では、これら点を補うため、評価関数生成部41により、最適解の算出と同時に、k回の切替手順の算出と制約条件の確認とを行うことで評価関数を算出する方法について説明する。
【0298】
実施例2では、ちょうどk回の切り替えで辿り着ける解を算出するための評価関数
【0299】
【数111】
【0300】
を1≦k≦nの範囲でn個生成して量子コンピュータに渡したが、実施例3においても、この点は同様である。実施例2との違いは、k回の切り替えと各切替段階での制約条件とを評価関数上にすべて展開する点である。実施例3による評価関数を以下に示す。
【0301】
【数112】
【0302】
ここで、
【0303】
【数113】
【0304】
は、それぞれ、電力損失条件を表す評価関数及び電力損失条件以外の5つの制約条件を表す評価関数である。1回の切り替えの繰り返しで、
【0305】
【数114】
【0306】
と配電網が遷移した場合に満たすべき条件を評価関数で表している。
特に、上記(式10)に現れる各項の意味は、次式の通りである。
【0307】
【数115】
【0308】
そして、最後のk回目の切り替えについては、5つの制約だけでなく、電力損失を最小化する
【0309】
【数116】
【0310】
を含めて探索を行う。
これによりk回の切り替えの途中で必ず制約を満たすことが保証され、切替手順についても、
【0311】
【数117】
【0312】
として同時に算出することができる。
【0313】
上述した実施例3によれば、1回の量子計算で切替手順まで含めて算出することができ、さらに切り替えの各段階で制約条件を満たすことも保証した解を得ることができる。
【0314】
<実施例4>
上述した実施例1では、1回の切り替えで、実施例2、実施例3では、ある定めた一定回数(n回)の切り替えで到達できる範囲の探索を繰り返し、電力損失が小さくなり、かつ制約条件を満たす配電網が見つからなくなるまで探索を繰り返すものであった。実施例4では、探索する切替回数をn回、m回(n<m)のように2種類用意し、基本的にはn回の切り替えで到達できる範囲で探索を繰り返すが、n回の切り替えでは電力損失がさらに小さくなる配電網が見つからなくなった場合に(実施例1~3ではここで探索を終了していたが、)、さらに、n+1回、n+2回、…m回の切り替えまで探索範囲を拡げて量子計算を行うように評価関数を算出する。すなわち、(m-n)個の評価関数を量子コンピュータに渡し、m回の切り替えまで許容した配電網を算出する。
【0315】
実施例4の利点としては、基本的にn回の切り替えに限定しているため、n個の評価関数についての量子組合せ最適化のみに処理が限定されるが、探索が行き詰ったときだけ、さらにm回の切り替えまで探索範囲を拡大させるので、処理負荷を抑えながら、かつ、必要なときだけ探索範囲を拡げることができ、さらに良い解を探索することができる点にある。
【0316】
図14は、本実施形態において、可変切替回数による逐次探索動作(実施例4)を説明するためのフローチャートである。逐次探索動作において、まず、評価関数生成部4は、あらかじめ算出しておいた上記各種制約条件(電力損失条件(条件1)、電圧降下条件(条件2)、電流容量条件(条件3)、無停電条件(条件4)、放射状条件(条件5)、次数削減条件(条件6))と、入力された開閉状態データ(配電網内の、各時点の開閉器の開閉状態)とから、「n回の手順で到達できる範囲」で電力損失を最小にする配電網(の開閉状態)を算出するための評価関数42を生成する(ステップS50)。
【0317】
次に、配電網算出部5は、上記生成した評価関数42(n個の評価関数)を量子コンピュータに渡し、新しい配電網を算出する(ステップS52)。配電網最適判定部6は、上記算出した新しい配電網に対して制約条件及び電力損失値を確認し、評価関数生成時に入力した(再帰処理の中の1回前の処理で算出した)配電網の電力損失と比較し、最適化処理の収束を判定する(ステップS54)。
【0318】
そして、配電網最適判定部6は、再帰処理の中の1回前の処理で算出した配電網の電力損失に対して、算出した新しい配電網の電力損失が小さいか否かを判断する(ステップS56)。そして、前回の算出した配電網の電力損失よりも、新たな配電網の電力損失が小さい場合には(ステップS56のYES)、配電網差分抽出部7は、前回との差分(一定回数の切替手順)を抽出する(ステップS58)。当該差分(n回の切替手順)は、配電網差分蓄積部8に蓄積される。
【0319】
その後、ステップS50に戻り、新しい配電網の更新された開閉状態データを1回前の配電網の状態として、上述した処理を繰り返し、「現在の配電網からm回の切り替えで到達可能な配電網の中で電力損失を最小にする配電網を探索する」という最適化を再帰的に実行する処理(再帰処理)を実行する。この結果、配電網差分蓄積部8には、収束するまでの差分(n回の切替手順)の集合44が蓄積されることになる。
【0320】
そして、前回の算出した配電網の電力損失よりも、新たな配電網の電力損失が小さくなった場合、すなわち配電網最適判定部6で電力損失が収束したと判定された場合、すなわちn回の切り替えでは電力損失がさらに小さくなる配電網が見つからなくなった場合には(ステップS56のNO)、評価関数生成部4は、あらかじめ算出しておいた上記各種制約条件と、入力された開閉状態データ(配電網内の、各時点の開閉器の開閉状態)とから、「m回の手順で到達できる範囲」で電力損失を最小にする配電網(の開閉状態)を算出するための評価関数42を生成する(ステップS60)。
【0321】
次に、配電網算出部5は、上記生成した評価関数42((m-n)個の評価関数)を量子コンピュータに渡し、新しい配電網を算出する(ステップS62)。配電網最適判定部6は、上記算出した新しい配電網に対して制約条件及び電力損失値を確認し、評価関数生成時に入力した(再帰処理の中の1回前の処理で算出した)配電網の電力損失と比較し、最適化処理の収束を判定する(ステップS64)。
【0322】
そして、配電網最適判定部6は、再帰処理の中の1回前の処理で算出した配電網の電力損失に対して、算出した新しい配電網の電力損失が小さいか否かを判断する(ステップS66)。そして、前回の算出した配電網の電力損失よりも、新たな配電網の電力損失が小さい場合には(ステップS66のYES)、配電網差分抽出部7は、前回との差分(一定回数の切替手順)を抽出する(ステップS68)。当該差分(m個の切替手順)は、配電網差分蓄積部8に蓄積される。
【0323】
その後、ステップS50に戻り、新しい配電網の更新された開閉状態データを1回前の配電網の状態として、上述した処理を再び繰り返し、「現在の配電網からn回の切り替えで到達可能な配電網の中で電力損失を最小にする配電網を探索する」という最適化を再帰的に実行する処理(再帰処理)を実行する。
【0324】
このように、ステップS50~S56にて、n回の切り替えで到達できる範囲で探索を繰り返すが、n回の切り替えでは電力損失がさらに小さくなる配電網が見つからなくなった場合には、さらに、ステップS60~S66で、n+1回、n+2回、…m回の切り替えまで探索範囲を拡げて量子計算を行うように(m-n)個の評価関数を算出し、該(m-n)個の評価関数を量子コンピュータに渡し、m回の切り替えまで許容した配電網を算出する。
【0325】
切替手順構築部9は、配電網差分蓄積部8に蓄積されている「(m-n)個の切替手順」をつなぎ合わせて初期状態から最適解までの切替手順を構築し、最適配電網及び切替手順46を出力する(ステップS68)。
【0326】
上述した実施例4によれば、基本的には実施例2、3と同様の探索を行うが、必要に応じて探索範囲を拡げるため、はじめから探索範囲を拡げた場合よりも量子計算の回数を抑えつつ、かつ最適解を導く可能性を高めることができる。
【0327】
(10)配電網最適判定部6
配電網最適判定部6では、再帰処理において今回新たに算出した配電網
【0328】
【数118】
【0329】
が、確かに電力損失条件以外の5つの制約条件(電圧降下条件、電流容量条件、無停電条件、放射状条件、次元削減条件)を満たすことと、1回前に算出した
【0330】
【数119】
【0331】
の電力損失より、
【0332】
【数120】
【0333】
の電力損失の方が小さくなっていることを確認する。ここで、制約条件を満たす
【0334】
【数121】
【0335】
が見つからない場合、再帰処理が収束したとみなし、前回までの最適解
【0336】
【数122】
【0337】
を最終的な最適解と判定する。
【0338】
(11)配電網差分抽出部7
配電網差分抽出部7では、再帰処理により新たに算出した配電網
【0339】
【数123】
【0340】
と1回前に算出した配電網
【0341】
【数124】
【0342】
の差分を抽出する。ここで、
【0343】
【数125】
【0344】
が1回分の切り替えしかない実施例1、および
【0345】
【数126】
【0346】
を算出した時点で、
【0347】
【数127】
【0348】
を同時に算出する実施例3の場合には、特に計算処理は必要ないが、
【0349】
【数128】
【0350】
からちょうどk回(2≦k≦n)の切り替えで到達する配電網
【0351】
【数129】
【0352】
だけを算出する実施例2の場合には、k回の手順(既存のコンピュータで演算)でどのように、
【0353】
【数130】
【0354】
に切り替わるのか算出する必要がある。
【0355】
ここで、上述した実施例2における配電網差分抽出部7の動作について説明する。
図15は、本実施形態において、配電網差分抽出部7における実施例2での差分イメージを説明するための概念図である。図15には、
【0356】
【数131】
【0357】
を並べた状態を示している。
【0358】
【数132】
【0359】
の差分がk回の切り替えである場合、
【0360】
【数133】
【0361】
の一致しない成分は、q[t-1]が閉:1でq[t]が開:0の成分と、q[t-1]が開:0でq[t]が閉:1となる成分とがそれぞれk個ずつ含まれる。
【0362】
これら不一致k個の(開、閉)の組をどこから順番に切り替えていくのかを決める必要がある。図16は、本実施形態において、配電網差分抽出部7における実施例2でのk個の切替手順動作を説明するための概念図である。
【0363】
配電網差分抽出部7は、変数iにkを設定し(ステップS70)、まだ抽出していないi個の(「開:0」「閉:1」)の中から1組を抽出して切り替える(ステップS72)。次に、配電網差分抽出部7は、電力損失条件以外の4つの制約条件を確認し(ステップS74)、制約条件を満たすか否かを判断する(ステップS76)。そして、制約条件を満たしていない場合には(ステップS76のNO)、ステップS70に戻し、上述した動作を繰り返す。
【0364】
一方、制約条件を満たした場合には(ステップS76のYES)、配電網差分抽出部7は、変数iが0になったか否かを判断する(ステップS78)。そして、変数iが0でない場合には(ステップS78のNO)、配電網差分抽出部7は、切り替えた「開:0」を「閉:1」に、「閉:1」を「開:0」を、配電網差分蓄積部8に記録する(ステップS80)。次に、変数iを1つデクリメントし(ステップS82)、ステップS72に戻り、次のi個の中から1組を抽出して同様の動作を繰り返す。
【0365】
このように、「切り替え→制約条件の確認」を繰り返し、制約条件に違反しないk回の切り替えが見つかるまで探索を進めていく。そして、k回の切り替えが見つかると(ステップS78のYES)、配電網差分抽出部7は、配電網差分蓄積部8に記録したk回の切替手順結果を出力する(ステップS84)。
【0366】
上述したk個の切替手順動作によれば、最大で(k!・k!)通りの探索することになるが、例えば、ベンチマークテスト用として公開されている日本標準モデルの場合では、k=3で最適解に辿り着けることが確認されており、その場合には3!*3!=36通りにしかならない。したがって、
【0367】
【数134】
【0368】
までのk回の手順の算出は、古典コンピュータにより実行しても十分高速に処理が可能である。
【0369】
上述した実施形態によれば、最適解を示すだけでなく、現時点の配電網から数手先までの切替手順を示しながら部分最適化を繰り返すことにより、実際の適用場面において、どの開閉器から切り替えればよいかを提示することができ、作業効率を向上させることができる。また、最適な配電網までどの程度の切り替えが必要であるかも提示することができるため、切替作業の負荷を見積もることができる。
【符号の説明】
【0370】
1 最適配電網切替手順算出システム
1-1 最適配電網算出部
2 各種制約条件算出部
3 各種制約条件蓄積部
4 評価関数生成部
5 配電網算出部(量子組合せ最適化)
6 配電網最適判定部
7 配電網差分抽出部
8 配電網差分蓄積部
9 切替手順構築部
10 配電系統データ蓄積部
11 ネットワーク解析部
12 ネットワーク解析結果蓄積部
13 電力損失条件算出部
14 電力損失条件蓄積部
15 電圧降下条件算出部
16 電圧降下条件蓄積部
17 電流容量条件算出部
18 電流容量条件蓄積部
19 無停電条件算出部
20 無停電条件蓄積部
21 放射状条件算出部
22 放射状条件蓄積部
23 次数削減条件算出部
24 次数削減条件蓄積部
30 配電網データ
31 解析結果(木構造)
32 制約条件
33 次数削減条件
40 各種制約条件
41 開閉状態データ
42 評価関数
43 更新された開閉状態データ
44 差分(n回の切替手順)の集合
45 収束した開閉状態データ
46 最適配電網及び切替手順
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16