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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111564
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】噴射制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/22 20060101AFI20240809BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20240809BHJP
   F02D 41/34 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
F02D41/22
F02D45/00 345
F02D41/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016148
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】右島 響
【テーマコード(参考)】
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G301JA14
3G301MA11
3G301PA01Z
3G301PB08Z
3G301PD02Z
3G301PE03Z
3G301PE08Z
3G301PF03Z
3G301PG02B
3G384BA13
3G384DA47
3G384FA01Z
3G384FA06Z
3G384FA13B
3G384FA15Z
3G384FA28Z
3G384FA37Z
3G384FA58Z
(57)【要約】
【課題】昇圧回路の昇圧コンデンサの異常発生時に、排気ガスの悪化や騒音の悪化を適切に抑えると共に、主噴射時の燃料の噴射量を適切に確保する。
【解決手段】噴射制御装置1は、昇圧コンデンサを有する昇圧回路6と、昇圧コンデンサから放電されることにより開弁して燃料を内燃機関へ噴射するインジェクタ2~5と、インジェクタへ噴射指令信号を出力する制御部7と、噴射指令信号のオン時間に基づいてインジェクタの開弁時間を制御する駆動制御回路8と、昇圧回路からインジェクタへ流れる通電電流の電流値を測定する電流値測定回路11と、を備える。制御部は、インジェクタの開弁時における電流値測定回路により測定された通電電流の電流値を取得して当該電流値の傾きを算出し、その算出した当該電流値の傾きが第1閾値の傾き以下である場合に、昇圧コンデンサの異常を特定し、噴射指令信号のオン時間を延長する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇圧コンデンサを有する昇圧回路(6)と、
前記昇圧コンデンサから放電されることにより開弁して燃料を内燃機関へ噴射するインジェクタ(2~5)と、
前記インジェクタへ噴射指令信号を出力する制御部(7)と、
前記噴射指令信号のオン時間に基づいて前記インジェクタの開弁時間を制御する駆動制御回路(8)と、
前記昇圧回路から前記インジェクタへ流れる通電電流の電流値を測定する電流値測定回路(11)と、を備え、
前記制御部は、前記インジェクタの開弁時における前記電流値測定回路により測定された通電電流の電流値を取得して当該電流値の傾きを算出し、その算出した当該電流値の傾きが第1閾値の傾き以下である場合に、前記昇圧コンデンサの異常を特定し、前記噴射指令信号のオン時間を延長する噴射制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記通電電流の電流値を、前記噴射指令信号を出力したタイミングから当該電流値が第2閾値に達するまでの期間で周期的に取得する請求項1に記載した噴射制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記電流値の傾きが前記第1閾値の傾き以下である回数が連続して第3閾値に達した場合に、前記昇圧コンデンサの異常を特定し、前記噴射指令信号のオン時間を延長する請求項1に記載した噴射制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記昇圧コンデンサの異常を特定した場合、又は前記噴射指令信号をオフした場合に、前記通電電流の電流値の取得を停止する請求項1に記載した噴射制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1閾値の傾きで前記電流値が前記第2閾値に達するタイミングを起点とし、前記電流値の傾きの過去の第3閾値分の中央値又は平均値の傾きで当該電流値が当該第2閾値に達するタイミングを終点とし、前記起点から前記終点までの時間に定数を積算した時間を、前記噴射指令信号のオン時間を延長する延長時間として設定する請求項1から4の何れか一項に記載した噴射制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記定数として任意の値を用いる請求項5に記載した噴射制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
噴射制御装置は、インジェクタの開弁及び閉弁を制御し、燃料を内燃機関へ噴射する。噴射制御装置は、昇圧回路の昇圧コンデンサから昇圧電圧による大電流をインジェクタの電磁コイルへ流してインジェクタを速やかに開弁させ、その後は予め定められている通電期間が終了するまで一定電流をインジェクタの電磁コイルへ流してインジェクタを開弁状態に保持することで、燃料の噴射量を制御する。昇圧コンデンサの劣化等により電荷の蓄積に要する時間が増大すると、インジェクタの開弁までに十分な電荷を蓄積することが困難となり、開弁に要する時間が増大する。その結果、燃料の噴射量を担保することができず、十分なトルクが得られない課題が発生する。
【0003】
このような課題に対し、特許文献1では、昇圧コンデンサの劣化を検出すると、内燃機関の作動自体には関係ない燃料噴射である副噴射を制限することで、主噴射時の燃料の噴射量を担保し、内燃機関を継続的に作動させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-113547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、副噴射を制限することで排気ガスの悪化や騒音の悪化を招くという新たな課題が発生する。加えて、電荷の蓄積に要する時間が増大するだけでなく、静電容量が減少するような故障の場合では、特許文献1のように副噴射を制限したとしても、主噴射時のインジェクタの開弁が遅くなる。その結果、主噴射時の燃料の噴射量を担保することができず、この場合も、十分なトルクが得られないという課題が発生する。
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、昇圧回路の昇圧コンデンサの異常発生時に、排気ガスの悪化や騒音の悪化を適切に抑えると共に、主噴射時の燃料の噴射量を適切に確保することができる噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載した発明によれば、昇圧コンデンサを有する昇圧回路(6)と、前記昇圧コンデンサから放電されることにより開弁して燃料を内燃機関へ噴射するインジェクタ(2~5)と、前記インジェクタへ噴射指令信号を出力する制御部(7)と、前記噴射指令信号のオン時間に基づいて前記インジェクタの開弁時間を制御する駆動制御回路(8)と、前記昇圧回路から前記インジェクタへ流れる通電電流の電流値を測定する電流値測定回路(11)と、を備える。前記制御部は、前記インジェクタの開弁時における前記電流値測定回路により測定された通電電流の電流値を取得して当該電流値の傾きを算出し、その算出した当該電流値の傾きが第1閾値の傾き以下である場合に、前記昇圧コンデンサの異常を特定し、前記噴射指令信号のオン時間を延長する。
【0008】
昇圧回路の昇圧コンデンサに異常が発生すると、昇圧回路からインジェクタへ流れる通電電流の電流値が低下する。インジェクタの開弁時における通電電流の電流値を取得して当該電流値の傾きを算出し、その算出した当該電流値の傾きが第1閾値の傾き以下であると、昇圧コンデンサの異常を特定し、噴射指令信号のオン時間を延長するようにした。昇圧コンデンサの異常を特定すると、噴射指令信号のオン時間を延長することで、副噴射を制限することなく、主噴射時の燃料の噴射量を適切に確保することができる。これにより、昇圧回路の昇圧コンデンサの異常発生時に、排気ガスの悪化や騒音の悪化を適切に抑えると共に、主噴射時の燃料の噴射量を適切に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態を示す機能ブロック図
図2】噴射指令信号オンイベント処理を示すフローチャート
図3】噴射指令信号オフイベント処理を示すフローチャート
図4】電流値取得処理を示すフローチャート
図5】異常判定処理を示すフローチャート
図6】インジェクタ通電電流の電流値の傾きを示す図
図7】タイミングチャート
図8】タイミングチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、内燃機関としての自動車のガソリンエンジンの直噴制御に適用した実施形態について図面を参照して説明する。尚、ディーゼルエンジンの直噴制御に適用することもできる。図1に示すように、噴射制御装置1は、それぞれ燃料を内燃機関へ噴射するソレノイド式の4本のインジェクタ2~5の駆動を制御する装置であり、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)から構成される。燃料噴射弁2~5は、それぞれ電磁コイル2a~5aに通電してニードル弁を駆動し、燃料を各気筒内へ直接噴射する。本実施形態では、4本のインジェクタ2~5による4気筒の構成を例示しているが、任意の気筒数でも良く、例えば6気筒や8気筒等の構成にも適用することができる。
【0011】
インジェクタ2~5は、2気筒ずつ2つのグループに分けられている。インジェクタ2,4が同じ噴射グループとされ、それらの電磁コイル2a,4aの上流側の一端が噴射制御装置1の端子COM1に接続されている。インジェクタ3,5が同じ噴射グループとされ、それらの電磁コイル3a,5aの上流側の一端が噴射制御装置1の端子COM2に接続されている。各噴射グループは、同時に駆動されることがない気筒同士で構成されるが、そのグループ分けは何れの気筒間で多重噴射を実施させるか等のエンジンの設計仕様により決定される。
【0012】
インジェクタ2~5は、噴射制御装置1により多段噴射制御されることで、噴射時間が相対的に長い主噴射と、噴射時間が相対的に短い副噴射とを組み合わせて行う。通常噴射は、ニードル弁のリフト位置が最大位置まで達する噴射であり、フルリフト噴射とも称される。微小噴射は、ニードル弁のリフト位置が最大位置まで達しない噴射であり、パーシャルリフト噴射とも称される。
【0013】
噴射制御装置1は、昇圧回路6と、制御部7と、駆動制御回路8と、上流側スイッチ9と、下流側スイッチ10と、電流値測定回路11とを備える。昇圧回路6は、バッテリからの電源電圧VBを入力し、制御部7から昇圧指令信号を入力すると、その入力した電源電圧VBを昇圧して充電部としての昇圧コンデンサ6aに昇圧電圧Vboostを満充電電圧まで充電させる。電源電圧VBは例えば12ボルトであり、昇圧電圧Vboostは例えば65ボルトである。昇圧電圧Vboost及び電源電圧VBは、インジェクタ2~5の駆動用の電力として上流側スイッチ9へ供給される。尚、昇圧コンデンサ6aとしては、アルミ電解コンデンサが用いられる。アルミ電解コンデンサは、例えばフィルムコンデンサと比較して静電容量に対する体積比が小さく、多段噴射を行う等の高容量のコンデンサが必要とされる用途に適している。
【0014】
制御部7は、CPU7aと、ROM7bと、RAM7cと、信号出力モジュール7dと、通信モジュール7eと備える。制御部7は、図示は省略するが、エンジンの運転状態等を検出するための各種センサからセンサ信号を入力する。各種センサは、例えば燃料を噴射する際の燃料圧力を検出する燃圧センサ、エンジンの冷却水の温度を検出する水温センサ、排気の空燃比を検出するA/Fセンサ、エンジンのクランク角を検出するクランク角センサ、エンジンの吸入空気量を検出するエアフロメータ、スロットル開度を検出するスロットル開度センサ等である。制御部7は、後述するようにROM7bに記憶されている制御プログラム及び各種センサから入力するセンサ信号等に基づいて噴射制御の処理を行う。
【0015】
制御部7は、各種センサから入力するセンサ信号からエンジンの負荷を把握し、そのエンジン負荷に基づいてインジェクタ2~5の要求される燃料噴射量を算出する。制御部7は、インジェクタ2~5の要求される燃料噴射量を算出すると、その算出した燃料噴射量と、燃圧センサにより検出された燃料を噴射する際の燃料圧力とに基づいて通電指示の通電指示時間を算出する。制御部7は、各種センサから入力するセンサ信号から各気筒に対する噴射指令タイミングを算出し、通電指示による噴射指令信号を、その算出した噴射指令タイミングにおいて信号出力モジュール7dから出力する噴射指令信号をオンする。この場合、詳しい説明は省略するが、制御部7、A/Fセンサの検出した空燃比に基づいて目標空燃比となるようにA/F補正量を算出して空燃比フィードバック制御を行う。又、制御部7は、A/F補正の履歴に基づいてA/F学習を行い、A/F補正量の計算に学習補正値を加味する。
【0016】
駆動制御回路6は、例えばASICによる集積回路装置であり、図示は省略するが、例えばロジック回路と、CPU等による制御主体と、RAMやROMやEEPROM等の記憶部と、コンパレータを用いた比較器等を備える。駆動制御回路6は、制御部7から入力する噴射指令信号のオン時間に基づいてインジェクタ2~5の開弁時間を制御し、制御信号を上流側スイッチ9及び下流側スイッチ10へ出力し、インジェクタ2~5への通電電流制御等を行う。
【0017】
上流側スイッチ5は、インジェクタ2~5の上流側に設けられているスイッチであり、インジェクタ2~5への昇圧電圧Vboostの放電をオンオフするための放電スイッチと、電源電圧VBを用いて定電流制御するための定電流制御スイッチとを有する。放電スイッチや定電流制御スイッチは、例えばnチャネル型のMOSトランジスタを用いて構成されている。放電スイッチや定電流制御スイッチは、バイポーラトランジスタ等の他種類のトランジスタを用いて構成されていても良い。
【0018】
下流側スイッチ9は、インジェクタ2~5の下流側に設けられているスイッチであり、気筒を選択するための気筒選択スイッチを有する。気筒選択スイッチも、上記した上流側スイッチ5の放電スイッチや定電流制御スイッチと同様に、例えばnチャネル型のMOSトランジスタを用いて構成されている。気筒選択スイッチも、バイポーラトランジスタ等の他種類のトランジスタを用いて構成されても良い。
【0019】
電流値測定回路11は、昇圧回路6から上流側スイッチ9を介してインジェクタ通電電流(図1ではINJ通電電流と示す)を入力し、インジェクタ2~5へ流れるインジェクタ通電電流の電流値を測定し、その測定したインジェクタ通電電流の電流値を制御部7へ出力する。制御部7は、電流値測定回路11により測定されたインジェクタ通電電流の電流値を通信モジュール7eにより取得する。
【0020】
上記した構成において、昇圧コンデンサ6aにおいては、例えば劣化等によりリークが増大すると、充電エネルギーの一部が漏れ電流として消失し、電荷の蓄積に要する時間が増大する。その結果、インジェクタの開弁までに十分な電荷を蓄積することが困難となり、開弁に要する時間が増大する。又、静電容量が減少する等して故障すると、電荷を十分に蓄積することができず、主噴射時の燃料の噴射量を適切に確保することができない。これらの課題に対し、制御部7は以下の処理を行う。
【0021】
上記した構成の作用について図2から図8を参照して説明する。制御部7は、噴射指令信号オンイベント処理、噴射指令信号オフイベント処理、電流値取得処理、異常判定処理を行う。以下、各処理について順次説明する。
【0022】
(1-1)噴射指令信号オンイベント処理(図2参照)
制御部7は、噴射指令信号をオンすると、噴射指令信号オンイベント処理を開始し、検出フラグをオンし(S1)、噴射指令信号オンイベント処理を終了する。
【0023】
(1-2)噴射指令信号オフイベント処理(図3参照)
制御部7は、噴射指令信号をオフすると、噴射指令信号オフイベント処理を開始し、検出フラグをオフし(S11)、噴射指令信号オフイベント処理を終了する。
【0024】
(1-3)電流値取得処理(図4参照)
制御部7は、予め設定されている所定周期で電流値取得処理を行う。制御部7は、電流値取得処理の開始タイミングになると、電流値取得処理を開始し、電流値測定回路11から通信モジュール4eに入力されたインジェクタ通電電流の電流値を取得する(S21)。制御部7は、その取得したインジェクタ通電電流の電流値を予め設定されている検出終了判定閾値(第2閾値に相当する)と照合する(S22)。制御部7は、その取得したインジェクタ通電電流の電流値が検出終了判定閾値以上でないと特定すると(S22:NO)、検出フラグをオフすることなく、電流値取得処理を終了する。制御部7は、その取得したインジェクタ通電電流の電流値が検出終了判定閾値以上であると特定すると(S22:YES)、検出フラグをオフし(S23)、電流値取得処理を終了する。
【0025】
(1-4)異常判定処理(図5参照)
制御部7は、予め設定されている所定周期で異常判定処理を行う。制御部7は、異常判定処理の開始タイミングになると、異常判定処理を開始し、検出フラグがオンであるか否かを判定する(S31)。制御部7は、検出フラグがオンでないと判定すると(S31:NO)、異常判定処理を終了する。制御部7は、検出フラグがオンであると判定すると(S31:YES)、電流値測定回路11から通信モジュール4eに入力されたインジェクタ通電電流の電流値を取得する(S32)。
【0026】
制御部7は、前回のインジェクタ通電電流の電流値の増加分から傾きを算出し(S33)、その算出したインジェクタ通電電流の電流値の傾きを予め設定されている電流値判定閾値(第1閾値に相当する)の傾きと照合する(S34)。制御部7は、インジェクタ通電電流の電流値の傾きが電流値判定閾値の傾き以下でないと判定すると(S34:NO)、異常カウンタの値をクリアし(S35)、異常判定処理を終了する。
【0027】
制御部7は、インジェクタ通電電流の電流値の傾きが電流値判定閾値の傾き以下であると判定すると(S34:YES)、異常カウンタの値をインクリメントし(S36)、インクリメント後の異常カウンタの値を異常判定閾値(第3閾値に相当する)と照合する(S37)。制御部7は、インクリメント後の値が異常判定閾値以上でないと判定すると(S37:NO)、異常判定処理を終了する。
【0028】
制御部7は、インクリメント後の値が異常判定閾値以上であると判定すると(S37:YES)、昇圧コンデンサ6aの異常を特定し(S38)。制御部7は、電流値判定閾値の傾きでインジェクタ通電電流の電流値が検出終了判定閾値に達するタイミングを起点として算出する。制御部7は、インジェクタ通電電流の電流値の傾きの過去の異常判定閾値分の中央値又は平均値の傾きで当該電流値が検出終了判定閾値に達するタイミングを終点として算出する。制御部7は、起点から終点までの時間に定数を積算した時間を、噴射指令信号のオン時間を延長する延長時間として設定する(S39)。定数は任意の値である。制御部7は、検出フラグをオフし(S40)、異常判定処理を終了する。
【0029】
以下、昇圧回路6の昇圧コンデンサ6aが正常な場合、昇圧回路6の昇圧コンデンサ6aが異常な場合について図6から図8を参照して説明する。図6に示すように、電流値判定閾値の傾きを「αth」、昇圧回路6の昇圧コンデンサ6aが正常な場合のインジェクタ通電電流の電流値の傾きを「α1(=ΔI1/T1)」、昇圧回路6の昇圧コンデンサ6aが異常な場合のインジェクタ通電電流の電流値の傾きを「α2(=ΔI2/T1)」とすると、
α1>αth>α2
が成立する。
【0030】
(2-1)昇圧回路6の昇圧コンデンサ6aが正常な場合(図7参照)
制御部7は、噴射指令信号をオンすると、検出フラグをオンする(t1)。制御部7は、インジェクタ通電電流の電流値の傾きが電流値判定閾値の傾き以下でないと判定し続け(t2~t7)、インジェクタ通電電流の電流値が検出終了判定閾値に達したと判定すると、検出フラグをオフする(t8)。制御部7は、噴射指令信号のオフタイミングになると、噴射指令信号をオフする(t9)。
【0031】
(2-2)昇圧回路6の昇圧コンデンサ6aが異常な場合(図8参照)
制御部7は、噴射指令信号をオンすると、検出フラグをオンする(t1)。制御部7は、インジェクタ通電電流の電流値の傾きが電流値判定閾値の傾き以下であると判定すると、異常カウンタの値をインクリメントし(t2)、インクリメント後の値が異常判定閾値以上でないと判定する。制御部7は、インジェクタ通電電流の電流値の傾きが電流値判定閾値の傾き以下であると判定し、異常カウンタの値をインクリメントし(t3)、インクリメント後の値が異常判定閾値以上でないと判定する。制御部7は、インジェクタ通電電流の電流値の傾きが電流値判定閾値の傾き以下であると判定し、異常カウンタの値をインクリメントし、インクリメント後の値が異常判定閾値に達したと判定すると、検出フラグをオフする(t4)。
【0032】
制御部7は、電流値判定閾値の傾きでインジェクタ通電電流の電流値が検出終了判定閾値に達するタイミング「t11」を起点として算出する。制御部7は、インジェクタ通電電流の電流値の傾きの過去の異常判定閾値分の中央値又は平均値の傾きで当該電流値が検出終了判定閾値に達するタイミング「t12」を終点として算出する。制御部7は、異常判定閾値が例えば「5」であり、それぞれのインジェクタ通電電流の電流値の傾きが「α21」、「α22」、「α23」、「α24」、「α25」であれば、中央値であれば傾きが3番目の値を用いて終点を算出し、平均値であれば全ての傾きの和をサンプル数の「5」で除算した値を用いて終点を算出する。この場合、「α21」、「α22」、「α23」、「α24」、「α25」のばらつきが比較的小さければ、中央又は平均値の何れを用いた場合でも終点を適切に算出することができる。「α21」、「α22」、「α23」、「α24」、「α25」のばらつきが比較的大きければ、平均値を用いた場合には突出した値による影響で終点を適切に算出することができない虞があるが、中央値を用いた場合には突出した値による影響を排除して終点を適切に算出することができる。
【0033】
制御部7は、起点と終点を算出すると、起点から終点までの時間(T´)を算出し、その算出した時間(T´)に定数(β)を積算した時間を、噴射指令信号のオン時間を延長する延長時間(T)として設定する。即ち、制御部7は、昇圧回路6の昇圧コンデンサ6aが正常な場合の噴射指令信号のオフタイミング(t9)から延長時間(T)だけ延長したタイミングを、噴射指令信号のオフタイミングに設定する。尚、制御部7は、定数として任意の値を用いる。制御部7は、噴射指令信号のオフタイミングになると、噴射指令信号をオフする(t13)。
【0034】
以上に説明したように本実施形態によれば、以下に示す作用効果を得ることができる。噴射制御装置1において、インジェクタ2~5の開弁時におけるインジェクタ通電電流の電流値を取得して当該電流値の傾きを算出し、その算出した電流値の傾きが電流値判定閾値の傾き以下であると、昇圧コンデンサ6aの異常を特定し、噴射指令信号のオン時間を延長するようにした。昇圧コンデンサ6aの異常を特定すると、噴射指令信号のオン時間を延長することで、副噴射を制限することなく、主噴射時の燃料の噴射量を適切に確保することができる。これにより、昇圧回路6の昇圧コンデンサ6aの異常発生時に、排気ガスの悪化や騒音の悪化を適切に抑えると共に、主噴射時の燃料の噴射量を適切に確保することができる。
【0035】
インジェクタ通電電流の電流値を、噴射指令信号を出力したタイミングから当該電流値が検出終了判定閾値に達するまでの期間で周期的に取得するようにした。インジェクタ通電電流の電流値を取得する期間に制限を持たせることで、インジェクタ通電電流の電流値の不要な取得を回避することができる。
【0036】
インジェクタ通電電流の電流値の傾きが電流値判定閾値の傾き以下である回数が連続して異常判定閾値に達すると、昇圧コンデンサ6aの異常を特定し、噴射指令信号のオン時間を延長するようにした。インジェクタ通電電流の電流値の傾きが一時的に電流値判定閾値の傾き以下であることによる昇圧コンデンサ6aの異常の特定を回避することができ、昇圧コンデンサ6aの異常を適切に特定することができる。
【0037】
昇圧コンデンサ6aの異常を特定すると、又は噴射指令信号をオフすると、インジェクタ通電電流の電流値の取得を停止するようにした。昇圧コンデンサ6aの異常を特定したタイミング、又は噴射指令信号をオフしたタイミングでインジェクタ通電電流の電流値の取得を停止することができ、インジェクタ通電電流の電流値の取得を適切なタイミングで停止することができる。
【0038】
電流値判定閾値の傾きでインジェクタ通電電流の電流値が検出終了判定閾値に達するタイミングを起点とし、インジェクタ通電電流の電流値の傾きの過去の異常判定閾値分の中央値又は平均値の傾きでインジェクタ通電電流の電流値が検出終了判定閾値に達するタイミングを終点とし、起点から終点までの時間に定数を積算した時間を、噴射指令信号のオン時間を延長する延長時間として設定するようにした。噴射指令信号のオン時間を延長する延長時間を、インジェクタ通電電流の電流値の傾きの過去の異常判定閾値分の中央値又は平均値を考慮して設定することができる。
【0039】
噴射制御装置1において、定数として任意の値を用いるようにした。噴射指令信号のオン時間を延長する延長時間を、車両の動作設計を考慮して設定することができる。例えば昇圧コンデンサ6aの故障が発生した際にリッチバーンを狙い大きなトルクの確保を優先する動作設計の場合であれば、定数の値を大きく設定することでリッチバーンを適切に狙うことができる。
【0040】
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、更には、それらに一要素のみ、それ以上、或いはそれ以下を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0041】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することにより提供された専用コンピュータにより実現されても良い。或いは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によりプロセッサを構成することにより提供された専用コンピュータにより実現されても良い。若しくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路により構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより実現されても良い。又、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていても良い。
【符号の説明】
【0042】
図面中、1は噴射制御装置、2~5はインジェクタ、6は昇圧回路、6aは昇圧コンデンサ、7は制御部、8は駆動制御回路、11は電流値測定回路である。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8