(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111569
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】走査放射温度計およびオフセット補正方法
(51)【国際特許分類】
G01J 5/08 20060101AFI20240809BHJP
G01J 5/80 20220101ALI20240809BHJP
【FI】
G01J5/08 B
G01J5/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016153
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000133526
【氏名又は名称】株式会社チノー
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】坂本 勇気
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 達貴
【テーマコード(参考)】
2G066
【Fターム(参考)】
2G066AA13
2G066BA01
2G066BA08
2G066BA25
2G066BA26
2G066BA34
2G066BC07
2G066BC09
2G066BC15
(57)【要約】
【課題】オフセットを補正して分解能を高くするとともに量子化誤差を除去する。
【解決手段】走査放射温度計1は、筐体1a内の内部黒体2と、測定対象Wからの放射光と内部黒体2からの放射光とを反射する回転ミラー3と、回転ミラー3からの放射光に応じた信号を出力する受光部4と、受光部4の周囲温度に応じたデジタル補正用信号をDA変換してアナログ補正用信号を出力する補正用D/A変換部7と、受光部4からの信号をアナログ補正用信号によりオフセット補正して増幅する増幅部8と、増幅部8の出力信号をAD変換するA/D変換部9と、前記オフセット補正して増幅したAD変換後の測定対象Wからの放射光に基づく出力信号から前記オフセット補正して増幅したAD変換後の内部黒体2からの放射光に基づく出力信号を差し引いてオフセット補正による量子化誤差を除去する演算部10と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象からの放射光を所定の走査範囲で走査して前記測定対象の各位置における温度を測定する走査放射温度計において、
前記走査放射温度計の筐体の内部に配置された内部黒体と、
回転に伴って前記測定対象からの放射光と前記内部黒体からの放射光とを反射する回転ミラーと、
前記測定対象からの放射光と前記内部黒体からの放射光とを受光し、受光したそれぞれの放射光に応じた信号を出力する受光部と、
前記受光部の周囲温度を測定する周囲温度測定部と、
前記周囲温度に応じたデジタル補正用信号を生成する補正用信号生成部と、
前記デジタル補正用信号をDA変換してアナログ補正用信号を出力する補正用D/A変換部と、
前記測定対象からの放射光に応じた信号と前記内部黒体からの放射光に応じた信号とを前記アナログ補正用信号によりオフセット補正して増幅する増幅部と、
前記増幅部の出力信号をAD変換するA/D変換部と、
前記オフセット補正して増幅した前記AD変換後の前記測定対象からの放射光に基づく出力信号から前記オフセット補正して増幅した前記AD変換後の前記内部黒体からの放射光に基づく出力信号を差し引いて前記オフセット補正による量子化誤差を除去する演算部と、を備えたことを特徴とする走査放射温度計。
【請求項2】
測定対象からの放射光を所定の走査範囲で走査して前記測定対象の各位置における温度を測定する走査放射温度計の筐体の内部に内部黒体を配置するステップと、
回転ミラーの回転に伴って前記測定対象からの放射光と前記内部黒体からの放射光とを反射するステップと、
前記測定対象からの放射光と前記内部黒体からの放射光とを受光し、受光したそれぞれの放射光に応じた信号を出力するステップと、
前記放射光を受光する箇所の周囲温度を測定するステップと、
前記周囲温度に応じたデジタル補正用信号を生成するステップと、
前記デジタル補正用信号をDA変換してアナログ補正用信号を出力するステップと、
前記測定対象からの放射光に応じた信号と前記内部黒体からの放射光に応じた信号とを前記アナログ補正用信号によりオフセット補正して増幅するステップと、
前記増幅部の出力信号をAD変換するステップと、
前記オフセット補正して増幅した前記AD変換後の前記測定対象からの放射光に基づく出力信号から前記オフセット補正して増幅した前記AD変換後の前記内部黒体からの放射光に基づく出力信号を差し引いて前記オフセット補正による量子化誤差を除去するステップと、を含むことを特徴とする走査放射温度計のオフセット補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象からの放射光を所定の走査範囲で走査して測定対象の各位置における温度を測定する走査放射温度計およびオフセット補正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射温度計は、物体から放射される赤外光や可視光の強度を測定して、放射光の強度と温度との関係に基づき物体の温度を測定する装置である。放射温度計は、赤外光などを検出する光検出センサを備えているが、この光検出センサの周囲温度の変動によりオフセットのドリフトが生じ、対象の温度測定に誤差をもたらす。
【0003】
オフセットドリフトによる影響を抑制する技術は、様々に提案されており、例えば、特許文献1のように、チョッパを作動させ、チョッパが開状態と閉状態のそれぞれにて光強度を測定することで誤差を抑制することを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、装置にチョッパやモータなどの機械的な手段を設けることなく、周囲温度の変動によるオフセットドリフトの影響を抑制するための技術として、光検出センサのセンサ出力をAD変換する際に、AD変換器の入力範囲のうちに、オフセットのドリフト分を割り当てておくことで、誤差を吸収しようとするものがある。
【0006】
図4(a)は、上記従来技術における問題を示す概念図である。
図4(a)において、実線で示しているのがセンサ出力であり、凸状箇所はセンサ出力が高くなっていることを示している。また、破線で示しているのはドリフトした場合のセンサ出力である(プラスにマイナスにもドリフトする)。図示するように、ドリフトした場合も入力範囲に収めるようにするために、AD変換器の限りある入力範囲において、ドリフト分を割り当てている。そのため、センサ出力に対する割り当てが相対的に少なくなってしまい、分解能が低下するという問題が生じる。
【0007】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、オフセットを補正して分解能を高くするとともに量子化誤差を除去することができる走査放射温度計およびオフセット補正方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載された走査放射温度計は、測定対象からの放射光を所定の走査範囲で走査して前記測定対象の各位置における温度を測定する走査放射温度計において、
前記走査放射温度計の筐体の内部に配置された内部黒体と、
回転に伴って前記測定対象からの放射光と前記内部黒体からの放射光とを反射する回転ミラーと、
前記測定対象からの放射光と前記内部黒体からの放射光とを受光し、受光したそれぞれの放射光に応じた信号を出力する受光部と、
前記受光部の周囲温度を測定する周囲温度測定部と、
前記周囲温度に応じたデジタル補正用信号を生成する補正用信号生成部と、
前記デジタル補正用信号をDA変換してアナログ補正用信号を出力する補正用D/A変換部と、
前記測定対象からの放射光に応じた信号と前記内部黒体からの放射光に応じた信号とを前記アナログ補正用信号によりオフセット補正して増幅する増幅部と、
前記増幅部の出力信号をAD変換するA/D変換部と、
前記AD変換された前記測定対象からの放射光に基づく出力信号から前記AD変換された前記内部黒体からの放射光に基づく出力信号を差し引いて前記オフセット補正による量子化誤差を除去する演算部と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に記載された走査放射温度計のオフセット補正方法は、測定対象からの放射光を所定の走査範囲で走査して前記測定対象の各位置における温度を測定する走査放射温度計の筐体の内部に内部黒体を配置するステップと、
回転ミラーの回転に伴って前記測定対象からの放射光と前記内部黒体からの放射光とを反射するステップと、
前記測定対象からの放射光と前記内部黒体からの放射光とを受光し、受光したそれぞれの放射光に応じた信号を出力するステップと、
前記放射光を受光する箇所の周囲温度を測定するステップと、
前記周囲温度に応じたデジタル補正用信号を生成するステップと、
前記デジタル補正用信号をDA変換してアナログ補正用信号を出力するステップと、
前記測定対象からの放射光に応じた信号と前記内部黒体からの放射光に応じた信号とを前記アナログ補正用信号によりオフセット補正して増幅するステップと、
前記増幅部の出力信号をAD変換するステップと、
前記AD変換された前記測定対象からの放射光に基づく出力信号から前記AD変換された前記内部黒体からの放射光に基づく出力信号を差し引いて前記オフセット補正による量子化誤差を除去するステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、デジタル補正用信号でオフセットを補正することにより、A/D変換部の入力範囲の大部分をセンサ出力に割り当てて分解能を高くすることが可能になる。また、オフセット補正して増幅したAD変換後の測定対象からの放射光に基づく出力信号からオフセット補正して増幅したAD変換後の内部黒体からの放射光に基づく出力信号を差し引くことにより、オフセット補正したときに生じる量子化誤差を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る走査放射温度計の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】(a)~(c)本発明に係る走査放射温度計の回転ミラーの走査により測定対象からの放射光を受光する様子を示す概念図である。
【
図3】本発明に係る走査放射温度計の回転ミラーの走査により内部黒体からの放射光を受光する様子を示す概念図である。
【
図4】(a)従来の放射温度計における問題を示す概念図、(b)本発明に係る走査放射温度計における効果を示す概念図である。
【
図5】本発明に係る走査放射温度計のA/D変換部に入力する増幅部からの出力信号を示す概念図である。
【
図6】(a)~(c)本発明に係る走査放射温度計の受光部からの出力信号が温度算出に供されるまでの信号の様子を示す概念図である。
【
図7】本発明に係る走査放射温度計の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施の形態の走査放射温度計1は、内部黒体2、回転ミラー3、受光部4、周囲温度測定部5、補正用信号生成部6、補正用D/A変換部7、増幅部8、A/D変換部9、演算部10を筐体1a内に備えて概略構成され、測定対象Wの表面から測定窓1bを介して入射される放射光(放射エネルギー)を所定の走査範囲(例えば90°)で走査し、測定対象Wの表面の各位置における温度を測定するものである。
【0014】
測定対象Wは、例えば半導体、電子部品、機械、鉄鋼、金属など多様である。本実施の形態の走査放射温度計1は、それらの測定対象Wの製造、処理加工、品質管理、設備監視などの様々な場面において利用することができる。
【0015】
内部黒体2は、例えばカーボンナノチューブから構成されるベンタブラックが表面にコーティングされた板材からなり、走査放射温度計1の筐体1aの内部、例えば測定対象Wからの放射光が入射して透過する筐体1aの測定窓1bの近傍に取り付けて配置される。
【0016】
回転ミラー3は、モータにより回転駆動される回転体であり、例えば連続して隣接する4つの反射面が直角をなす枠状の4面回転ミラーで構成される。回転ミラー3は、モータの回転力が例えば一対の磁力カップリングを介して回転軸に伝達されると、回転軸を中心として回転駆動される。本実施形態では、
図1や
図2(a)~(c)の矢印A方向(反時計回り方向)に回転する。回転ミラー3は、モータの回転により所定の走査範囲で走査され、
図2(a)~(c)に示すように、測定対象Wの表面からの放射光が筐体1aの測定窓1bから入射されると、入射された放射光を受光部4に向けて反射する。また、回転ミラー3は、モータの回転により、
図3に示すように、内部黒体2の表面からの放射光も受光部4に向けて反射する。
【0017】
なお、本実施の形態では、回転ミラー3として、4つの反射面を有する4面回転ミラーを図示して説明しているが、4つの反射面に限定されるものではなく、少なくとも1つの反射面を有する構成であればよい。
【0018】
受光部4は、回転ミラー3の回転に伴って反射される測定対象Wからの放射光と内部黒体2からの放射光とを不図示の集光手段(集光レンズ)を介して受光し、受光した測定対象Wからの放射光に応じた信号と内部黒体2からの放射光に応じた信号とを出力する機能を有する。
【0019】
さらに説明すると、受光部4は、例えばサーモパイルなどの熱電素子やPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などの焦電素子などの光検出素子で構成される。光検出素子は、測定対象W、測定環境、測定する温度範囲などに応じて適宜選択することができる。例えば、-50~1200℃といった低温領域の場合は、InAsSb(インジウムヒ素アンチモン)やHgCdTe(テルル化カドミウム水銀)を用いて波長8~13μmを測定する。また、300~1300℃といった中温領域の場合は、InGaAs(インジウムガリウムヒ素)を用いて波長1.5~1.8μmを測定する。
【0020】
周囲温度測定部5は、受光部4の周囲温度を測定する機能を有する。周囲温度の測定は、熱電対や抵抗温度計などを受光部4に取り付け、受光部4に直接取り付けられない場合には、受光部4が設置されている走査放射温度計1の筐体などに取り付けて行う。受光部4は、測定対象Wからの放射光や内部黒体2からの放射光を受光するだけでなく、自身や周囲からの放射光に含まれる周囲からの放射光を切り分けることができる。すなわち、測定対象Wからの放射光のみを明らかにすることができる。
【0021】
補正用信号生成部6は、周囲温度測定部5にて測定した周囲温度に応じたオフセット補正用のデジタルの信号であるデジタル補正用信号を生成する機能を有する。オフセットの基準となる温度と周囲温度との差が、オフセットのドリフトを生じさせるので、オフセットの基準となる温度と測定した周囲温度との差に相当する放射光に応じた受光部4の出力信号に相当するデジタルの出力信号をデジタル補正用信号として生成する。
【0022】
補正用D/A変換部7は、補正用信号生成部6にて生成したデジタル補正用信号をDA変換してアナログの補正用信号であるアナログ補正用信号を出力する機能を有する。デジタル補正用信号は、増幅部8での補正のために生成されているが、この補正の対象となる受光部4による出力信号はアナログ信号であるので、補正用D/A変換部7にてデジタル補正用信号をアナログ信号に変換してから増幅部8に供している。
【0023】
増幅部8は、受光部4の受光による出力信号(測定対象Wからの放射光に応じた出力信号、内部黒体2からの放射光に応じた出力信号)に対し、補正用D/A変換部7にてDA変換されたアナログ補正用信号によりオフセット補正して増幅する機能を有する。受光部4の受光による出力信号からデジタル補正用信号を差し引いてオフセット補正することで、A/D変換部9の入力においてオフセットのドリフト分を考慮して入力範囲を割り当てる必要がなくなる。このため、
図4(b)に示すように、入力範囲のほとんどすべてをセンサ出力に割り当てることができ、それに応じて入力範囲のほとんどすべてを使用する程度に増幅されたセンサ出力をA/D変換部9に入力することができる。
【0024】
A/D変換部9は、増幅部8により増幅された出力信号(測定対象Wからの放射光に応じた信号をオフセット補正して増幅した出力信号、内部黒体2からの放射光に応じた信号をオフセット補正して増幅した出力信号)をAD変換する機能を有する。A/D変換部9は、オフセット補正されてから増幅された受光部4による出力信号の入力を受け付けるので、従来技術のように、入力範囲に周囲温度によるオフセットのドリフト分を割り当てなくてもよい。したがって、増幅部8について説明したように、A/D変換部9の入力範囲のほとんどすべてを増幅部8からの出力信号に割り当てることができるため、分解能を高めることができる。
【0025】
ここで、A/D変換部9に入力する増幅部8からの出力信号は、受光部4からのアナログの信号から補正用D/A変換部7でDA変換されたアナログ補正用信号を差し引いた信号となる。アナログ補正用信号は、もともとデジタルの信号をDA変換した信号であるため、補正用D/A変換部7の分解能に応じた段差のある信号となる。したがって、
図5に示すように、A/D変換部9に入力する増幅部8からの出力信号S1は、理想的で純然のアナログな出力信号(
図5の点線で示す信号S2)ではなく、段差のある出力信号(
図5の実線で示す信号S3)となっている。このような段差による誤差を量子化誤差という。
【0026】
演算部10は、A/D変換部9により変換された出力信号に基づき測定対象Wの温度を算出する機能と、デジタル補正用信号でオフセット補正したときに生じる量子化誤差を除去する機能とを有する。
【0027】
温度の算出は、予め保持しておく温度と放射光(放射エネルギー)との関係を定義したテーブルに基づき温度を算出する。あるいは、温度と放射光(放射エネルギー)との関係を示す所定の式に基づき温度を算出する。
【0028】
デジタル補正用信号でオフセット補正したときに生じる量子化誤差の除去は、オフセット補正して増幅したAD変換後の測定対象Wからの放射光に基づく出力信号からオフセット補正して増幅したAD変換後の内部黒体2からの放射光に基づく出力信号を差し引くことにより行う。詳細には、受光部4にて受光された測定対象Wからの放射光に応じた出力を増幅部8にてオフセット補正して増幅した後にA/D変換部9にてAD変換した信号から受光部4にて受光された内部黒体2からの放射光に応じた出力を増幅部8にてオフセット補正して増幅した後にA/D変換部9にてAD変換した信号を差し引いて量子化誤差を除去する。
【0029】
図6は走査放射温度計1における受光部4からの出力信号が温度算出に供されるまでの信号の様子を示す概念図である。まず、
図6(a)は、オフセット補正を行わずA/D変換部9の入力範囲のほとんどを使用する程度に増幅部8で増幅した出力信号S4を示している(段差は誇張して表現している)。この場合、オフセット補正がなされていないので、出力信号が入力範囲に収まらない。そこで、オフセット補正してから増幅することで、
図6(b)に示すように、A/D変換部9の入力範囲のほとんどを使用しつつ、出力信号は入力範囲に収まっている。そして、演算部10において、オフセット補正して増幅したAD変換後の測定対象Wからの放射光に基づく出力信号からオフセット補正して増幅したAD変換後の内部黒体2からの放射光に基づく出力信号を差し引くことにより、
図6(c)に示すように、出力信号における量子化誤差が除去され段差のない出力信号S5に基づいて温度算出することができる。
【0030】
次に、上記のように構成される走査放射温度計1の処理の流れについて
図7を参照しながら説明する。
【0031】
図7に示すように、測定対象Wの温度を測定するにあたっては、まず、測定対象Wと内部黒体2から受光する放射光(放射エネルギー)に応じた信号を出力する(ST1:受光ステップ)。そして、受光ステップST1における周囲温度を測定する(ST2:周囲温度測定ステップ)。そして、測定した周囲温度に応じたオフセット補正用のデジタルの信号であるデジタル補正用信号を生成する(ST3:デジタル補正用信号生成ステップ)。そして、生成したデジタル補正用信号をDA変換してアナログの補正用信号であるアナログ補正用信号を出力する(ST4:補正用信号DA変換ステップ)。そして、受光ステップST1での受光による出力信号を、DA変換されたアナログ補正用信号によりオフセット補正して増幅する(ST5:増幅ステップ)。これにより、AD変換ステップST6における入力範囲のほとんどすべてを使用する程度に増幅することができる。そして、増幅ステップST5により増幅された出力信号を、AD変換する(ST6:AD変換ステップ)。そして、AD変換ステップST6により変換された出力信号に基づき測定対象Wの温度を算出する(ST7:温度算出ステップ)。このとき、AD変換ステップST6により変換された出力信号を用いて量子化誤差を除去する。すなわち、オフセット補正して増幅したAD変換後の測定対象Wからの放射光に基づく出力信号からオフセット補正して増幅したAD変換後の内部黒体2からの放射光に基づく出力信号を差し引くことにより、デジタル補正用信号でオフセット補正したときに生じる量子化誤差を除去する。
【0032】
このように、上述した実施の形態によれば、デジタル補正用信号でオフセットを補正することにより、A/D変換部の入力範囲の大部分をセンサ出力に割り当てて分解能を高くすることが可能になる。また、オフセット補正して増幅したAD変換後の測定対象からの放射光に基づく出力信号からオフセット補正して増幅したAD変換後の内部黒体からの放射光に基づく出力信号を差し引くことにより、デジタル補正用信号でオフセット補正したときに生じる量子化誤差を除去することができる。
【0033】
以上、本発明に係る走査放射温度計の最良の形態について説明したが、この形態による記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、この形態に基づいて当業者等によりなされる他の形態、実施例及び運用技術などはすべて本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0034】
1 走査放射温度計
1a 筐体
1b 測定窓
2 内部黒体
3 回転ミラー
4 受光部
5 周囲温度測定部
6 補正用信号生成部
7 D/A変換部
8 増幅部
9 A/D変換部
10 演算部
W 測定対象
A 回転ミラーの回転方向