(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111581
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】熱剥離性粘着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20240809BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20240809BHJP
C09J 133/14 20060101ALI20240809BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J133/00
C09J133/14
C09J11/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016172
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 大輔
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AA17
4J004AB01
4J004AB07
4J004BA02
4J004DA03
4J004DB02
4J004EA05
4J004FA08
4J040DF041
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4J040DF061
4J040DF082
4J040FA132
4J040FA232
4J040FA282
4J040HB02
4J040JA09
4J040JB09
4J040KA03
4J040KA13
4J040KA16
4J040KA23
4J040KA26
4J040KA37
4J040LA06
4J040MA10
4J040MB03
4J040MB09
4J040NA17
4J040NA19
4J040PA23
4J040PA33
4J040PA42
(57)【要約】
【課題】接着性及び剥離性の両方に優れる熱剥離性粘着シートを提供する。
【解決手段】本発明の熱剥離性粘着シートは、活性エネルギー線硬化型粘着剤の硬化物を含み、前記活性エネルギー線硬化型粘着剤は、粘着樹脂と、アルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレートと、熱発泡性微粒子とを含み、100℃以下で加熱処理した後の粘着力が0.5N/25mm以下である。本発明の熱剥離性粘着シートは、接着性及び剥離性の両方に優れる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性エネルギー線硬化型粘着剤の硬化物を含み、
前記活性エネルギー線硬化型粘着剤は、
粘着樹脂と、アルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレートと、熱発泡性微粒子とを含み、
100℃以下で加熱処理した後の粘着力が0.5N/25mm以下である、熱剥離性粘着シート。
【請求項2】
前記加熱処理前の粘着力が1N/25mm以上である、請求項1に記載の熱剥離性粘着シート。
【請求項3】
前記熱発泡性微粒子は、外殻がアクリロニトリルを含む共重合物を含有する、請求項1又は2に記載の熱剥離性粘着シート。
【請求項4】
前記アルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレートが、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートである、請求項1又は2に記載の熱剥離性粘着シート。
【請求項5】
前記活性エネルギー線硬化型粘着剤は、前記粘着樹脂100質量部に対して前記熱発泡性微粒子を50質量部以上、70質量部以下含む、請求項1又は2に記載の熱剥離性粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱剥離性粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
粘着シートは、例えば、アクリル系重合体を主成分とした粘着剤層を備えて形成される材料であり、調光フィルム、タッチパネル、液晶ディスプレイ(LCD)などの各種光学部材を貼り合わせる用途に使用される。粘着剤層が活性エネルギー線硬化型である場合は、UV等の活性エネルギー線を粘着剤層に照射することで、粘着剤層の更なる硬化が進行し、高い粘着力で各種部材(被着体)どうしを貼り合わせることができる。
【0003】
一方で、貼り合わせ後において部材どうしを分離等するために、粘着シートを容易に剥離することが求められることもある。従って、粘着シートには、使用時の接着性と、使用後の剥離性との両立が要求されることがある。例えば、接着性及び剥離性を両立すべく、特許文献1には、基材及び粘着剤層のいずれかの層に熱膨張性粒子を含む粘着シートを備えた粘着性積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、熱膨張性粒子を用いた粘着シートでは、熱膨張性粒子の分散性が不十分であるため、必ずしも接着性及び剥離性を両立することができているものではなかった。加えて、熱膨張性粒子は通常は有機溶剤に分散せて用いることが多く、このため発泡後にも有機溶剤が残留しやすいという問題もある。この点、例えば、特許文献1のように、発泡開始温度が高い熱膨張性粒子を使用することで、溶剤を高温で乾燥させることが考えられるが、この場合は発泡時にも高温が必要になり、被着体への熱ダメージが懸念される。逆に低温で発泡させた場合は、熱膨張性粒子の発泡不良を招くことになり、接着性及び剥離性を両立することが難しくなる。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、接着性及び剥離性の両方に優れる熱剥離性粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化型粘着剤を用いることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
活性エネルギー線硬化型粘着剤の硬化物を含み、
前記活性エネルギー線硬化型粘着剤は、
粘着樹脂と、アルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレートと、熱発泡性微粒子とを含み、
100℃以下で加熱処理した後の粘着力が0.5N/25mm以下である、熱剥離性粘着シート。
項2
前記加熱処理前の粘着力が1N/25mm以上である、項1に記載の熱剥離性粘着シート。
項3
前記熱発泡性微粒子は、外殻がアクリロニトリルを含む共重合物を含有する、項1又は2に記載の熱剥離性粘着シート。
項4
前記アルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレートが、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートである、項1~3のいずれか1項に記載の熱剥離性粘着シート。
項5
前記活性エネルギー線硬化型粘着剤は、前記粘着樹脂100質量部に対して前記熱発泡性微粒子を50質量部以上、70質量部以下含む、項1~4のいずれか1項に記載の熱剥離性粘着シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る熱剥離性粘着シートは、接着性及び剥離性の両方に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0011】
本発明の熱剥離性粘着シートは、活性エネルギー線硬化型粘着剤の硬化物を含み、前記活性エネルギー線硬化型粘着剤は、粘着樹脂と、アルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレートと、熱発泡性微粒子とを含む。また、本発明の熱剥離性粘着シートは、100℃以下で加熱処理した後の粘着力が0.5N/25mm以下である。
【0012】
本発明の熱剥離性粘着シートは、接着性及び剥離性の両方に優れるものである。とりわけ、活性エネルギー線硬化型粘着剤に含まれる熱発泡性微粒子は分散性に優れるものであり、結果として粘着シート中においても熱発泡性微粒子は分散性に優れるものとなり、これにより、本発明の熱剥離性粘着シートは、接着性及び剥離性の両方に優れるものとなる。
【0013】
本発明の熱剥離性粘着シートは、前述のように、活性エネルギー線硬化型粘着剤の硬化物を含む。従って、本発明の熱剥離性粘着シートは、例えば、活性エネルギー線硬化型粘着剤を硬化させることで形成させることができる。以下、活性エネルギー線硬化型粘着剤を単に「粘着剤」と略記する。また、本発明の熱剥離性粘着シートを単に「粘着シート」と略記することもある。
【0014】
(アルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレート)
粘着剤に含まれるアルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレートは、分子内にアルキレングリコール単位を有する(メタ)アクリレート化合物である。アルキレングリコール部位の末端はアルキル基を有していることが好ましく、すなわち、アルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレートは、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートであることが好ましい。以下では、粘着剤に含まれるアルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレートを「単量体A」と略記する。
【0015】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」または「メタクリル」を、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」または「メタクリレート」を意味する。
【0016】
単量体Aのアルキレングリコール部位において、アルキレンの炭素数は特に限定されない。当該アルキレンの炭素数は、例えば、1以上、10以下とすることができ、好ましくは2以上であり、また、好ましくは8以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは5以下、特に好ましくは4以下である。活性エネルギー線硬化型粘着剤に含まれる熱発泡性微粒子の分散性が向上しやすく、熱剥離性粘着シートがより優れた接着性及び剥離性を有しやすい点で、アルキレングリコール部位(又はポリアルキレングリコール部位)におけるアルキレンは、エチレン又はプロピレンであることが好ましく、エチレンであることが特に好ましい。
【0017】
単量体Aのアルキレングリコール部位において、アルキレングリコール単位の繰り返し数は特に限定されず、例えば、2~24であることが好ましく、6~18であることがより好ましく、8~12であることがさらに好ましい。
【0018】
単量体Aのアルキレングリコール部位の末端は、前述のように、アルキル基であることが好ましく、具体的には、グリコール末端の水酸基の水素原子がアルキル基で置換されている(すなわち、単量体Aのアルキレングリコール部位の末端は、アルコキシ基である)ことが好ましい。従って、単量体A(アルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレート)は、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートであることが好ましい一態様である。この場合、熱発泡性微粒子の分散性がさらに向上しやすく、熱剥離性粘着シートが特に優れた接着性及び剥離性を有しやすい。
【0019】
前記アルコキシ基の炭素数は特に限定されず、例えば、1以上、10以下とすることができ、好ましくは8以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは5以下、特に好ましくは4以下である。アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基等を挙げることができ、メトキシ基であることが特に好ましい。
【0020】
アルキレングリコール(メタ)アクリレートの一例としては、下記式(1)で表すことができる。
【0021】
【0022】
前記式(1)中、R1は水素又はメチル基を表し、R2は水素又はメチル基を表し、R3は炭素数1~10のアルキル基を表す。R3の炭素数は、1以上10以下であることが好ましく、好ましくは8以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは5以下、特に好ましくは4以下である。R3の具体例としては、メチル基、エチル基等を挙げることができ、メチル基であることが特に好ましい。
【0023】
前記式(1)中、nは整数であって、アルキレングリコール単位の繰り返し数を意味する。nは、例えば、2~24であることが好ましく、6~18であることがより好ましく、8~12であることがさらに好ましい。
【0024】
単量体Aとしては、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0025】
単量体Aの分子量(g/モル)は特に限定されず、例えば、200~5000することができ、250以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましく、350以上であることがさらに好ましく、400以上であることが特に好ましく、また、3000以下であることが好ましく、2000以下であることがより好ましく、1500以下であることがさらに好ましく、1000以下であることが特に好ましい。
【0026】
単量体Aの製造方法は特に限定されず、例えば、公知の方法で得ることができ、あるいは、市販品等から入手することもできる。単量体Aの市販品としては、大阪有機化学工業社製の「MPE400A」、「MPE500A」、新中村化学工業社の「AM-90G」、「AM-130G」、「AM-230G」、日油社の「PME-100」、「PME-200」、「PME-400」、「PME-1000」、「PME-4000」を挙げることができる。
【0027】
粘着剤において、単量体Aの含有量は特に限定されない。粘着シート中の熱発泡性微粒子の分散性が向上しやすく、発泡後に粘着シートが剥離しやすくなる点で、後記する粘着樹脂100質量部に対して単量体Aの含有量は、10質量部以上、100質量部以下とすることができる。粘着樹脂100質量部に対して単量体Aの含有量は、20質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましく、40質量部以上であることがさらに好ましく、また、90質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましく、70質量部以下であることがさらに好ましい。
【0028】
(熱発泡性微粒子)
粘着剤に含まれる熱発泡性微粒子は、加熱により膨張(発泡)する粒子であり、例えば、公知の熱発泡性微粒子を広く挙げることができる。中でも、熱発泡性微粒子は、発泡開始温度が70~110℃であり、最大膨張温度が100~135℃である性質を有することが好ましい。この場合、低温で発泡したとしても粘着シートの剥離が可能となり、結果として、被着体への熱ダメージを抑制しやすい。
【0029】
熱発泡性微粒子の発泡開始温度は70℃以上であることが好ましく、また、110℃以下であることがより好ましく、また、100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましく、80℃以下であることがさらに好ましい。
【0030】
熱発泡性微粒子の発泡開始温度は以下の方法で測定された値を意味する。直径6.0mm(内径5.65mm)、深さ4.8mmのアルミニウム製カップに、熱発泡性微粒子0.5mgを加え、その上からアルミニウム製の蓋(直径5.6mm、厚さ0.1mm)を載せて試験体を作製する。次いで、動的粘弾性測定装置を用いて、その試験体に前記蓋上部から、加圧子により0.01Nの力を加えた状態で、試料の高さを測定する。次いで、加圧子により0.01Nの力を加えた状態で、20℃から300℃まで10℃/minの昇温速度で試験体を加熱し、加圧子の垂直方向における変位量を測定し、正方向への変位が開始した温度を膨張開始温度とする。
【0031】
熱発泡性微粒子の最大膨張温度は100℃以上であることが好ましく、また、135℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましく、110℃以下であることがさらに好ましい。
【0032】
熱発泡性微粒子の最大膨張温度は以下の方法で測定された値を意味する。直径6.0mm(内径5.65mm)、深さ4.8mmのアルミニウム製カップに、熱発泡性微粒子0.5mgを加え、その上からアルミニウム製の蓋(直径5.6mm、厚さ0.1mm)を載せて試験体を作製する。次いで、動的粘弾性測定装置を用いて、その試験体に前記蓋上部から、加圧子により0.01Nの力を加えた状態で、試料の高さを測定する。次いで、加圧子により0.01Nの力を加えた状態で、20℃から300℃まで10℃/minの昇温速度で試験体を加熱し、加圧子の垂直方向における変位量が最大となったときの温度を測定し、当該温度を熱発泡性微粒子の最大膨張温度とする。
【0033】
熱発泡性微粒子は、外殻と、当該外殻に内包され、かつ、所定温度に加熱されると気化する内包成分とから構成される構造を有することができる。外殻は、例えば、熱可塑性樹脂によって形成される。斯かる熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリロニトリルを含む共重合物、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスルホン等が挙げられる。
【0034】
中でも、熱発泡性微粒子の外殻は、アクリロニトリルを含む共重合物を含有することがより好ましい。この場合、活性エネルギー線硬化型粘着剤に含まれる熱発泡性微粒子の分散性がさらに向上しやすく、熱剥離性粘着シートが特に優れた接着性及び剥離性を有しやすい。アクリロニトリルを含む共重合物としては、例えば、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、メタクリル酸アルキルエステル-アクリロニトリル共重合体等を挙げることができる。
【0035】
前記内包成分としては、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、イソブタン、イソペンタン、イソヘキサン、イソヘプタン、イソオクタン、イソノナン、イソデカン、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ネオペンタン、ドデカン、イソドデカン、シクロトリデカン、ヘキシルシクロヘキサン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ナノデカン、イソトリデカン、4-メチルドデカン、イソテトラデカン、イソペンタデカン、イソヘキサデカン、2,2,4,4,6,8,8-ヘプタメチルノナン、イソヘプタデカン、イソオクタデカン、イソナノデカン、2,6,10,14-テトラメチルペンタデカン、シクロトリデカン、ヘプチルシクロヘキサン、n-オクチルシクロヘキサン、シクロペンタデカン、ノニルシクロヘキサン、デシルシクロヘキサン、ペンタデシルシクロヘキサン、ヘキサデシルシクロヘキサン、ヘプタデシルシクロヘキサン、オクタデシルシクロヘキサン等が挙げられる。これらの内包成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記外殻及び内包成分の種類を適宜選択することで、前記発泡開始温度を調整することができる。
【0037】
熱発泡性微粒子の23℃における発泡前の平均粒子径は特に限定されず、好ましくは3~100μm、より好ましくは4~70μm、更に好ましくは6~60μm、特に好ましくは10~50μmである。なお、熱発泡性微粒子の発泡前の平均粒子径とは、体積中位粒子径(D50)であり、レーザ回折式粒度分布測定装置(例えば、Malvern社製、製品名「マスターサイザー3000」)を用いて測定した、発泡前の熱発泡性微粒子の粒子分布において、発泡前の熱発泡性微粒子の粒子径の小さい方から計算した累積体積頻度が50%に相当する粒子径を意味する。
【0038】
熱発泡性微粒子の23℃における発泡前の90%粒子径(D90)は特に限定されず、好ましくは10~150μm、より好ましくは20~100μm、更に好ましくは25~90μm、特に好ましくは30~80μmである。なお、熱発泡性微粒子の発泡前の90%粒子径(D90)とは、レーザ回折式粒度分布測定装置(例えば、Malvern社製、製品名「マスターサイザー3000」)を用いて測定した、発泡前の熱発泡性微粒子の粒子分布において、熱発泡性微粒子の粒子径の小さい方から計算した累積体積頻度が90%に相当する粒子径を意味する。
【0039】
熱発泡性微粒子の発泡開始温度以上の温度まで加熱した際の体積換算の最大発泡率は、好ましくは1.5~100倍、より好ましくは2~80倍、更に好ましくは2.5~60倍、より更に好ましくは3~40倍である。
【0040】
熱発泡性微粒子の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の方法で製造することができ、あるいは、市販品等から入手することもできる。熱発泡性微粒子の市販品としては、松本油脂製薬社製のマツモトマイクロスフェアー(登録商標)「F-35D」、クレハ社製のクレハマイクロスフェアー(登録商標)「M430」等を挙げることができる。
【0041】
粘着剤において、熱発泡性微粒子の含有量は特に限定されない。粘着シート中の熱発泡性微粒子の分散性が向上しやすく、発泡後に粘着シートが剥離しやすくなる点で、後記する粘着樹脂100質量部に対して熱発泡性微粒子の含有量は、10質量部以上、150質量部以下とすることができ、より好ましくは、粘着剤は、前記粘着樹脂100質量部に対して前記熱発泡性微粒子を30質量部以上、100質量部以下含むことである。粘着樹脂100質量部に対して熱発泡性微粒子の含有量は、40質量部以上であることがさらに好ましく、50質量部以上であることが特に好ましく、また、90質量部以下であることがより好ましく、80質量部以下であることがさらに好ましく、70質量部以下であることが特に好ましい。
【0042】
別の観点から、前記単量体Aの100質量部あたり、熱発泡性微粒子の含有量は、50~500質量部とすることができ、60~400質量部が好ましく、80~300質量部がより好ましい。
【0043】
(粘着樹脂)
粘着剤は、前記単量体A及び熱発泡性微粒子以外に、粘着樹脂を含む。斯かる粘着樹脂が含まれることにより、粘着シートに粘着性能が付与され得るものとなり、とりわけ、後記するように、粘着シートの発泡前の粘着力が1N/25mmになりやすい。
【0044】
粘着樹脂の種類は特に限定されず、例えば、従来の粘着シートに広く適用されている公知のアクリル系重合体を広く挙げることができる。
【0045】
アクリル系重合体は、例えば、(メタ)アクリル系単量体単位で構成される重合体である限り、その種類は特に限定されない。なお、(メタ)アクリル系単量体単位とは、(メタ)アクリル系単量体が重合して形成される構造単位であることを意味する。
【0046】
(メタ)アクリル系単量体単位としては、(メタ)アクリル酸エステル単位を挙げることができる。(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、直鎖、分岐、又は環状のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、あるいは、芳香環を有する(メタ)アクリレートを挙げることができる。(メタ)アクリレートが直鎖、分岐、又は環状のアルキル基を有する場合、その炭素数は、例えば、1~20とすることができ、好ましくは1~10、より好ましくは、2~8である。(メタ)アクリレートが芳香環を有する場合、その炭素数は、例えば、5~20とすることができ、好ましくは、6~10である。(メタ)アクリル酸エステルモノマーの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0047】
(メタ)アクリル系単量体単位としては、前記(メタ)アクリル酸エステル単位の他、カルボキシ基を有する単量体単位、水酸基を有する単量体単位を含むこともできる。カルボキシ基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸を挙げることができる。水酸基を有する単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2,2-ジメチル2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-クロロ2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0048】
アクリル系重合体を構成する(メタ)アクリル系単量体単位は、1種単独とすることができ、あるいは、2種以上とすることもできる。すなわち、アクリル系重合体は、ホモポリマーであっても、コポリマーであってもよく、コポリマーであることがより好ましい。例えば、アクリル系重合体は、1種以上の(メタ)アクリル酸エステルと、1種以上のカルボキシ基を有する単量体との共重合体であってもよい。
【0049】
アクリル系重合体がカルボキシ基を有する単量体単位、及び/又は水酸基を有する単量体単位を含む場合、それらの総含有割合は、アクリル系重合体中、1~20質量%であることが好ましく、2~10質量%であることがより好ましい。アクリル系重合体は、前記(メタ)アクリル酸エステル単位を50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、95質量%以上含むことが特に好ましい。
【0050】
アクリル系重合体の重量平均分子量は特に限定されず、例えば、粘着シートにおいて粘着力の低下が起こりにくいという観点から、10万~200万とすることができ、20万~100万とすることがより好ましい。なお、本発明でいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によって測定したポリスチレン換算重量平均分子量のことである。
【0051】
GPC法に使用されるGPC装置には特に制限はなく、市販のGPC測定機、例えば、日本分光株式会社製、LC-2000Plusシリーズ、検出機としてRI-2031Plus、UV-2075Plus等を使用できる。この場合、例えば、昭和電工株式会社製「Shodex KF801」、「Shodex KF803L」、「Shodex KF800L」及び「Shodex KF800D」の4本を接続してなるGPCカラムが用いられる。カラム温度を40℃とすることができる。溶離液としてテトラヒドロフランが用いられ、流速1.0ml/分にて測定される。通常、標準ポリスチレンを用いて検量線を作製し、ポリスチレン換算により重量平均分子量(Mw)を得ることができる。
【0052】
アクリル系重合体は、例えば、各構成単位を形成するためのモノマー混合物を公知の重合方法によって重合して製造することができる。この重合方法としては、例えば、溶液重合、バルク重合、懸濁重合、乳化重合等を採用できる。なお、アクリル系重合体中の各構成単位の比率は、重合時に使用する各モノマーの使用比率に対応する。重合に使用する溶媒や重合開始剤の種類も特に制限されず、例えば、公知のアクリル系重合体の製造に使用される溶媒や重合開始剤を使用することができる。
【0053】
粘着樹脂は、部分重合物とすることもできる。すなわち、粘着樹脂は、例えば、アクリル系重合体と、単量体の混合物とすることもできる。この場合、粘着樹脂は、例えば、アクリル系重合体が単量体に溶解した溶液(シロップ)である。粘着樹脂が部分重合物である場合、粘着樹脂に含まれる単量体は、例えば、アクリル系重合体に含まれる単量体単位を構成する単量体組成と同一組成であることが好ましい。アクリル系重合体がコポリマーである場合は、粘着樹脂に含まれる単量体は、アクリル系重合体中の各単量体単位に対応する単量体の混合物とすることができる。この場合、混合物中の各単量体の比率は、アクリル系重合体を構成している各単量体の比率と同じとすることができる。
【0054】
粘着樹脂が部分重合物である場合、ポリマー分率は特に制限されない。ポリマー分率とは、樹脂成分(アクリル系重合体等)と単量体の全質量に対する樹脂成分の含有割合(質量%)である。ポリマー分率は、例えば、1~50質量%とすることができ、好ましくは、5~30質量%である。
【0055】
(架橋剤)
粘着剤は、架橋剤を含むことができる。架橋剤としては、例えば、多官能性モノマーを挙げることができる。多官能性モノマーは、例えば、分子内に重合性二重結合を2つ以上有する化合物を挙げることができる。多官能性モノマーは、重合性二重結合の個数が2個以上であり、2個以上5個未満であることが好ましく、2個以上4個未満であることがより好ましい。
【0056】
多官能性モノマーとしては、例えば、2官能モノマー(重合性二重結合の個数が2個である単量体)として、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレンジアクリレート、アルキルジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ジオキサンジアクリレート、トリシクロデカノールジアクリレート、フルオレンジアクリレートを挙げることができる。また、多官能性モノマーとしては、3官能以上のモノマーとして、アルコキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、アルコキシ化グリセリントリアクリレート、カプロラクトン変性イソシアヌレートトリアクリレート、ペンタエリスリトールアクリレート、アルコキシ化ペンタエリルリトールアクリレート、(アルコキシ化)ペンタエリスリトールアクリレート、(アルコキシ化)ジトリメチロールプロパンアクリレート、(アルコキシ化)ジペンタエリスリトールアクリレート、(エトキシ化)ポリグリセリンアクリレート等を挙げることができる。
【0057】
多官能性モノマーは、1分子内にアルキレングリコール基を有する多官能モノマーであることが好ましい。この場合、1分子中におけるアルキレングリコール基の数は1~20であることが好ましい。このような多官能性モノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド変性トリアクリレート等が挙げられる。
【0058】
多官能性モノマーは、例えば、市販品を使用できる。市販品としては、新中村化学製の2官能ポリエチレングリコールアクリレートであるNKエステルシリーズの「A-200」(ポリエチレングリコール♯200ジアクリレート)、「A-400」(ポリエチレングリコール♯400ジアクリレート)、東亞合成社製の三官能モノマーM310(トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート)や三官能モノマーM321(トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド変性トリアクリレート)、東亞合成社製の二官能モノマーM211B(ビスフェノールA EO変性ジアクリレート)等が挙げられる。
【0059】
多官能性モノマーは、1分子内にビスフェノール骨格を有するものであってもよい。斯かる多官能性モノマーとしては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテルのジアクレート、プロポキシ化ビスフェノールAのジアクリレート、ビスフェノールFジグリシジルエーテルのジアクレート等が挙げられる。
【0060】
粘着剤が多官能性モノマーを含む場合、粘着剤を活性エネルギー線によって硬化させることで、粘着樹脂(アクリル系重合体)が架橋構造を形成することができ、これにより、粘着シートは優れた粘着力を有しやすい。
【0061】
架橋剤は、多官能性モノマーに替えて、又は、多官能性モノマーと共に他の架橋剤、例えば、イソシアネート架橋剤、エポキシ架橋剤等を含むこともできる。
【0062】
粘着剤において、架橋剤の含有量は特に限定されず、例えば、粘着剤は、前記粘着樹脂100質量部あたり、架橋剤を5質量部以下含むことができ、1質量部以下含むことがより好ましい。また、粘着剤は、前記粘着樹脂100質量部あたり、架橋剤を0.01質量部以上含むことが好ましく、0.05質量部以上含むことがより好ましい。粘着剤が架橋剤を含む場合、架橋剤は1種類を単独又は2種類以上の併用が可能である。
【0063】
(光重合開始剤)
粘着剤は、光重合開始剤を含むことができる。光重合開始剤としては、例えば、公知の光重合開始剤を広く使用することができ、中でも、アセトフェノン系光重合開始剤又はアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤であることが好ましい。
【0064】
アセトフェノン系開始剤として具体的には、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、オリゴ(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニルプロパノン]、2,2-ジメトキシー2-フェニルアセトフェノン、(1-ヒドロキシシクロヘキシルーフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノン等が挙げられる。ベンゾインエーテル系開始剤として具体的には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル等が挙げられる。
【0065】
アシルフォスフィンオキシド系開始剤として具体的には、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド等が挙げられる。
【0066】
光重合開始剤としては、その他、ベンゾインエーテル系開始剤、ベンゾフェノン系開始剤、ヒドロキシアルキルフェノン系開始剤、チオキサントン系開始剤、アミン系開始剤等も挙げることができる。
【0067】
粘着剤において、光重合開始剤の含有量は特に限定されず、例えば、前記粘着樹脂100質量部あたり、光重合開始剤を0.01~5質量部含むことができ、0.05~1質量部含むことがより好ましい。粘着剤が光重合開始剤を含む場合、光重合開始剤は1種類を単独又は2種類以上の併用が可能である。
【0068】
(粘着剤)
粘着剤は、上記のように、粘着樹脂、単量体A(アルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレート)及び熱発泡性微粒子を少なくとも含む。好ましくは、粘着剤は、単量体A、熱発泡性微粒子、粘着樹脂及び光重合開始剤を含むことであり、より好ましくは、粘着剤は、単量体A、熱発泡性微粒子、粘着樹脂、架橋剤及び光重合開始剤を含むことである。粘着剤は、その他、シランカップリング剤、溶剤等を含んでもよい。また、着色を目的に染料や顔料を粘着剤に添加してもよい。粘着剤は、溶剤を含まないこと、すなわち、無溶剤であることも好ましい。
【0069】
粘着剤の調製方法は特に限定されず、例えば、公知の方法を広く採用することができる。例えば、単量体Aと熱発泡性微粒子とを混合して熱発泡性微粒子が分散した分散物を調製し、あらかじめ合成した粘着樹脂に前記分散物と、必要に応じて使用される架橋剤及び光重合開始剤とを混合することで、粘着剤を調製することができる。特に本発明では熱発泡性微粒子の分散媒体として特定の単量体Aが使用されるので、熱発泡性微粒子が容易に分散する。
【0070】
上記分散物を調製する方法は特に限定されず、例えば、所定量の単量体A及び熱発泡性微粒子を適宜の手段で混合させることで、分散物を調製することができる。
【0071】
(熱剥離性粘着シート)
本発明の粘着シートは、例えば、前記粘着剤によって製造することができる。粘着剤を用いて粘着シートを製造する方法は特に限定されず、例えば、公知の方法で粘着剤を硬化させることで粘着剤層を形成させ、斯かる粘着剤層を粘着シートとして得ることができる。従って、粘着剤層は、粘着剤の硬化物である。
【0072】
本発明の粘着シートの製造方法は、具体的には、基材上に粘着剤を塗工して塗膜を形成する工程と、この塗膜に活性エネルギー線を照射して粘着剤の硬化物を得る工程を備えることができる。これによって、粘着剤が硬化してなる粘着剤層を形成することができる。
【0073】
粘着剤の塗工は、公知の塗工装置を用いて実施できる。塗工装置としては、例えば、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ロッドブレードコーター、リップコーター、ダイコーター、カーテンコーター等が挙げられる。
【0074】
粘着剤を塗工するにあたって、使用する基材は、特に限定されない。例えば、粘着剤は、樹脂製の基材、ガラス製の基材等の各種基材に塗工することができる。基材が後記剥離シートを有する場合、この剥離シート上に粘着剤を塗工することもできる。また、粘着剤は接着対象とする部材上に直接塗工することもできる。粘着剤の塗工後の厚みも特に制限されず、目的とする粘着剤層(あるいは粘着シート)の厚みに応じて適宜設定することができる。塗膜を形成した後は、必要に応じて塗膜を加熱処理や乾燥処理を施しても良い。ただし、温度条件は、熱発泡性微粒子が発砲しない程度とする。
【0075】
塗膜に活性エネルギー線を照射する工程は、例えば、公知の方法と同様の工程を採用することができる。斯かる工程により、例えば、粘着剤中の光重合性を有する成分(例えば、粘着樹脂中の単量体、架橋剤、光重合性開始剤等)の反応が進行し、硬化物となる。例えば、粘着剤が、前記粘着樹脂、多官能性モノマー及び光重合開始剤を含む場合は、粘着樹脂中の単量体及び多官能性モノマーの重合反応も進行して硬化物が形成され得る。これにより、粘着剤層の強度が向上し、また、粘着力も向上させることができる。
【0076】
活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、可視光線、X線、イオン線等が挙げられ、粘着剤層に含まれる光重合開始剤に応じて適宜選択できる。中でも、汎用性の点から、紫外線または電子線が好ましく、紫外線が特に好ましい。紫外線の光源としては、例えば、ケミカルランプ、高圧水銀灯、低圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク、キセノンアーク、無電極紫外線ランプ等を使用できる。紫外線の照射出力は、積算光量が100~10000mJ/cm2となるようにすることが好ましく、200~5000mJ/cm2となるようにすることがより好ましい。
【0077】
上記のように形成される粘着剤層を本発明の粘着シートとして得ることができる。粘着シートの厚み(ただし、熱発泡性微粒子が発砲していない状態)は、用途に応じて適宜設定でき、例えば、10~1000μmであることが好ましく、20~500μmであることがより好ましく、100~400μmであることがさらに好ましい。なお、粘着剤層(粘着シート)の厚みを調節するために、同種の粘着剤を重ね塗工(すなわち、粘着剤の塗膜を形成した後に更に該塗膜上に当該粘着剤を塗工して塗膜を重ね合わせする)こともできる。このように形成される粘着シートも後記するように単層構造である。
【0078】
本発明の粘着シートは単層構造で形成され得る。すなわち、前記粘着剤から形成される粘着剤層は単層である。なお、念のための注記に過ぎないが、単層構造とは、粘着シートが一層で形成された構造を意味し、異種の層が二以上積層された構造は単層構造には含めない。ただし、同種の層が二以上積層された積層体に限っては、当該積層体は単層構造に包含することができる。従って、単層構造とは、ただ1種の層が一つのみで形成された構造又はただ1種の層が二以上積層されて形成された構造であることを意味する。従って、同種の粘着剤を前述のように重ね塗工によって得られる粘着シートは単層構造を有するものである。
【0079】
本発明の粘着シートは粘着剤の硬化物(例えば、粘着剤が活性エネルギー線によって硬化されてなる硬化物)を含有することから、例えば、粘着シートは、単量体Aを構成単位とするポリマーと、熱発泡性微粒子とを含むものである。粘着剤が単量体Aを含有することから、本発明の粘着シート中における熱発泡性微粒子の分散性が優れるものであり、例えば、粘着シートを目視観察しても熱発泡性微粒子の凝集等に起因するダマ(塊状物)が観察されない。これにより、本発明の粘着シートは粘着性に優れるものである。
【0080】
また、本発明の粘着シートは熱発泡性微粒子を含有するので、例えば、粘着シートが被着体に貼り合わせられた状態で加熱することで、熱発泡性微粒子を発泡させることができる。熱発泡性微粒子が発泡することで、粘着シートの体積膨張が起こり、これにより、被着体から剥離しやすくなる、あるいは剥離が起こる。とりわけ、本発明の粘着シートは熱発泡性微粒子が均一に分散しているので、発泡によって容易に粘着シートを被着体から剥離させることができる。
【0081】
特に、本発明の粘着シートは、100℃以下で加熱処理した後の粘着力が0.5N/25mm以下である。これにより粘着シートは、加熱により容易に被着体から剥離され得る。ここでいう加熱処理は、例えば、100℃で10分とすることができ、加熱は大気下で行うことができる。
【0082】
本発明の粘着シートは、100℃以下で加熱処理した後の粘着力が0.4N/25mm以下であることがより好ましく、0.3N/25mm以下であることがさらに好ましく、0.2N/25mm以下であることが特に好ましい。本発明の粘着シートは、前記熱発泡性微粒子を100℃以下で発泡した後の粘着力が0であってもよい。これらの加熱処理にあっても、例えば、100℃で10分とすることができ、加熱は大気下で行うことができる。
【0083】
本発明の粘着シートは、前記加熱処理前の粘着力が1N/25mm以上であることが好ましい。すなわち、本発明の粘着シートは、当該シート中に含まれる熱発泡性微粒子が発砲していない状態(発泡前)においては、粘着力が1N/25mm以上であることが好ましい。これにより、本発明の粘着シートは、発泡前においては優れた粘着力を発揮することができる。
【0084】
本発明の粘着シートは、より高い粘着力を有することができる点で、例えば、前記加熱処理前の粘着力が1.2N/25mm以上であることが好ましく、1.5N/25mm以上であることがより好ましく、2N/25mm以上であることがさらに好ましく、3N/25mm以上であることが特に好ましい。本発明の粘着シートの発泡前の粘着力の上限は特に限定されず、例えば、発泡後の剥離性を考慮して、30N/25mm以下とすることが好ましい。
【0085】
粘着シートの粘着力は、以下の方法で測定した値である。発泡前又は発泡後の粘着シートの一方の粘着面を易接着処理された厚み50μmのPETフィルム(東洋紡社の「A4360#50」)に貼合し、被着体(後記するSUS304板)への貼り付け部が幅25mm、長さ80mmとなるようカットして測定サンプルを得る。このサンプルの他方の粘着面を1mm厚、幅115mm、長さ75mmのBA処理されたSUS304板に幅25mm、長さ50mmで貼り付けた後、2kgのローラーで2往復し圧着する。その後、温度23℃湿度50%環境下にて1日静置する。次いで、被着体を含むサンプルを、島津製作所AGX-500NXにて同環境下で、粘着シートの未貼合部を掴み引張り速度300mm/minで剥離角度180℃方向に引張りながら粘着力を測定する。この測定で得た値を粘着シートの粘着力とする。
【0086】
本発明の粘着シートは、前述のように、加熱処理によって、被着体から剥離させることができる。剥離をするための加熱温度は、例えば、被着体等に熱ダメージを与えにくくする観点から、70℃~135℃であることが好ましく、70℃~100℃であることがより好ましく、70℃~80℃であることがさらに好ましい。加熱処理の時間は、特に限定されず、少なくとも剥離できる程度の状態になるまで加熱をすることができる。
【0087】
本発明の粘着シートは、熱発泡性微粒子の分散性が優れ、熱発泡性微粒子を均一に粘着シート中に分散させることができる。また、活性エネルギー線により硬化するため、従来の溶剤系の粘着剤を使用した粘着シートと異なり、本発明の粘着シートは、発泡開始温度が低い熱発泡性微粒子を使用することができ、この結果、低温であっても粘着シートを容易に剥離させることができ、被着体や機器に対する熱ダメージを低減することができる。
【0088】
本発明の粘着シートは、各種用途に使用することができ、半導体分野における各種接着用途の他、多岐に渡る分野の被着体どうしを貼り合わせるための粘着剤としても好適に使用できる。
【0089】
本発明の粘着シートは片面又は両面に剥離シート等の基材を備えた粘着シートとすることもできる。剥離シートとしては、剥離シート用基材及びこの剥離シート用基材の片面に設けられた剥離剤層を有する剥離性積層シート、あるいは、低極性基材としてポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルム等のポリオレフィンフィルムが挙げられる。剥離性積層シートにおける剥離シート用基材には、紙類、高分子フィルムが使用される。剥離剤層を構成する剥離剤としては、例えば、汎用の付加型もしくは縮合型のシリコーン系剥離剤や長鎖アルキル基含有化合物が用いられる。剥離性積層シートとして、市販品を用いてもよい。例えば、帝人デュポンフィルム社製の離型処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムである重セパレータフィルムや、帝人デュポンフィルム社製の離型処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムである軽セパレータフィルムを挙げることができる。
【0090】
本開示に包含される発明を特定するにあたり、本開示の各実施形態で説明した各構成(性質、構造、機能等)は、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各構成のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0091】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0092】
(製造例1;粘着樹脂の調製)
攪拌機、窒素導入管、冷却管、温度計を備えた2Lフラスコに2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)、エチルメタクリレート(EMA)、及び、アクリル酸(AAc)の質量比が75:25:5である混合モノマー100質量部を投入し、AIBN0.15gを投入し、発熱を制御しながら30分間反応させ、その後冷却することで、部分重合物を含む粘着樹脂を得た。粘着樹脂中の部分重合物は、重量平均分子量70万であり、ポリマー分率が23%であった。
【0093】
(実施例1)
メトキシポリエチレングリコールアクリレート(単量体A)として、大阪有機化学工業社製「MPE400A(分子量約470)50質量部を準備し、そこへ、熱発泡性微粒子として松本油脂製薬社製「マツモトマイクロスフェアー(登録商標)F-35D」(平均粒子径10~20μm、発泡開始温度70~80℃、最大膨張温度100~110℃)を50質量部加えて混合処理することで、分散物を得た。混合処理の条件は、シンキ―社の遊星撹拌機「ARE-310」を使用し、室温下、撹拌回転数2000rpmで5分混合し、次いで、脱泡回転数2200rpmで1分間分散させることで行った。
【0094】
次いで、後掲の表1に示す粘着剤調製処方の欄に記載の配合条件に従い、粘着剤(活性エネルギー線硬化型粘着剤)を製造した。具体的には、製造例1で得た粘着樹脂100質量部に対し、前記分散物と、架橋剤として新中村化学工業社製「A-200:ポリエチレングリコール#200ジアクリレート」0.5質量部と、光重合開始剤としてIGMresin社製「Omniard1173」0.5質量部とを遊星撹拌により混合して、粘着剤を調製した。この粘着剤を、厚みが200μmになるよう重セパレータ(藤森工業社「100E-0010NT1AS」)に塗工して塗膜を形成し、さらにその上に軽セパレータ(藤森工業社「50E-0010KFAS」)を重ねて、積層体を得た。斯かる積層体にケミカルランプにて4mW/cm2の光強度で積算光量が240mJ/cm2となるよう照射した後、高圧水銀ランプにて150mW/cm2の光強度で積算光量が2000mJ/cm2となるよう照射することで、厚みが200μmの粘着シートを得た。
【0095】
(実施例2)
表1に示す粘着剤調製処方の欄に記載の配合条件に変更して粘着剤を調製したこと以外は実施例1と同様の方法で厚み200μmの粘着シートを得た。
【0096】
(実施例3)
表1に示す粘着剤調製処方の欄に記載の配合条件に変更して粘着剤を調製したこと以外は実施例1と同様の方法で厚み300μmの粘着シートを得た。なお、実施例3では、メトキシポリエチレングリコールアクリレート(単量体A)として、大阪有機化学工業社製「MPE500A(分子量約620)を使用した。
【0097】
(実施例4)
表1に示す粘着剤調製処方の欄に記載の配合条件に変更して粘着剤を調製したこと以外は実施例1と同様の方法で厚み200μmの粘着シートを得た。
【0098】
(比較例1)
表1に示す粘着剤調製処方の欄に記載の配合条件に変更して粘着剤を調製したこと以外は実施例1と同様の方法で厚み150μmの粘着シートを得た。なお、比較例1では、単量体Aに替えて2-エチルヘキシルアクリレートを使用した。
【0099】
(比較例2)
表1に示す粘着剤調製処方の欄に記載の配合条件に変更して粘着剤を調製したこと以外は実施例1と同様の方法で厚み200μmの粘着シートを得た。
【0100】
(比較例3)
表1に示す粘着剤調製処方の欄に記載の配合条件に変更して粘着剤を調製したこと以外は実施例1と同様の方法で厚み200μmの粘着シートを得た。
【0101】
(比較例4)
表1に示す粘着剤調製処方の欄に記載の配合条件に変更して粘着剤を調製したこと以外は実施例1と同様の方法で厚み200μmの粘着シートを得た。なお、比較例4では、熱発泡性微粒子として松本油脂製薬社製「マツモトマイクロスフェアー(登録商標)F-35D」の代わりに松本油脂製薬社製「マツモトマイクロスフェアー(登録商標)FN-100SD」(平均粒子径10~20μm、発泡開始温度125~135℃、最大膨張温度150~160℃)を使用した。
【0102】
(評価方法)
[分散性]
各実施例及び比較例で得た粘着シートを目視して熱発泡性微粒子の分散状態を確認し、下記基準で分散性の評価を行った。
○:粘着シートにダマ(白濁物や塊状物)は観察されず、熱発泡性微粒子の分散性が良好である。
×:粘着シートにダマ(白濁物や塊状物)が観察され、熱発泡性微粒子の分散性が悪い。
【0103】
[発泡前粘着力(加熱処理前粘着力)]
粘着シートの一方の粘着面を易接着処理された厚み50μmのPETフィルム(東洋紡社製「A4360#50」)に貼合し、被着体(後記するSUS304板)への貼り付け部が幅25mm、長さ80mmとなるようカットして測定サンプルを得た。このサンプルの他方の粘着面を1mm厚、幅115mm、長さ75mmのBA処理されたSUS304板に幅25mm、長さ50mmで貼り付けた後、2kgのローラーで2往復し圧着した。その後、大気圧、温度23℃湿度50%環境下にて1日静置した。次いで、被着体を含むサンプルを、島津製作所AGX-500NXにて同環境下で、粘着シートの未貼合部を掴み引張り速度300mm/minで剥離角度180℃方向に引張りながら粘着力を測定した。
【0104】
[発泡後粘着力(加熱処理後粘着力)]
発泡前粘着力で作製した被着体を含むサンプルと同様のサンプルを作製し、これを100℃オーブン(大気圧下)で10分加熱処理した後、発泡前粘着力と同様の方法で粘着力を測定した。なお、粘着シートが発泡して被着体から剥離した場合は「剥離」とした。
【0105】
表1には、粘着剤調製処方及び粘着剤から得られた粘着シートの物性を示している。なお、表1の空欄は、その原料を使用していないことを意味する。
【0106】
表1から、実施例1~4のように、所定の粘着樹脂と、アルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレートと、熱発泡性微粒子とを含む活性エネルギー線硬化型粘着剤から得られる粘着シートは、発泡前の粘着力が高く、かつ、発泡によって、容易に剥離できることがわかる。比較例1及び3では、熱発泡性微粒子の分散性が極めて悪かったので、所望の粘着シートを得ることができなかった。比較例4は、発泡前の粘着力が高かったものの、表1に示すように100℃の10分の加熱処理で熱発泡性微粒子が発泡せず、発泡前後で粘着力が変化しなかったため(すなわち、加熱処理後の粘着シートの粘着力も1.8N/25mmであったため)、容易に剥離することができなかった。
【0107】