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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111607
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】紙製産業用ワイパー
(51)【国際特許分類】
   A47L 13/16 20060101AFI20240809BHJP
   D21H 11/04 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
A47L13/16 A
D21H11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016218
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000183462
【氏名又は名称】日本製紙クレシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹▲崎▼ 友紀子
【テーマコード(参考)】
3B074
4L055
【Fターム(参考)】
3B074AA01
3B074AA04
3B074AB01
3B074AC03
4L055AA02
4L055AC06
4L055AJ01
4L055AJ07
4L055EA04
4L055EA07
4L055EA08
4L055EA10
4L055EA13
4L055FA11
4L055FA13
4L055FA30
4L055GA28
(57)【要約】
【課題】網目状の表面のような凹凸及び引っかかりのある表面を拭き取っても繊維の脱落がほとんどなく、吸水性及び強度に優れ、かつ、適度なコシ及びボリューム感も有する紙製産業用ワイパーを提供する。
【解決手段】1プライの原紙を、4プライ以上5プライ以下にプライアップし、エンボス加工を施して一体化した、紙製産業用ワイパーであって、原紙に含まれるパルプ繊維は、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を80質量%以上含む木材パルプであって、木材パルプのうち少なくとも10質量%以上が、抄紙前のパルプ調合時に水分率が50%以上のパルプであり、ワイパーの坪量が、80.0g/m以上120.0g/m以下であり、ワイパーのJIS P 8113に基づく乾燥時の縦方向の引張強度DMDTが、40.0N/25mm以上であることを特徴とする、紙製産業用ワイパーを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1プライの原紙を、4プライ以上5プライ以下にプライアップし、エンボス加工を施して一体化した、紙製産業用ワイパーであって、
前記原紙に含まれるパルプ繊維は、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を80質量%以上含む木材パルプであって、前記木材パルプのうち少なくとも10質量%以上が、抄紙前のパルプ調合時に水分率が50%以上のパルプであり、
ワイパーの坪量が、80.0g/m以上120.0g/m以下であり、
ワイパーのJIS P 8113に基づく乾燥時の縦方向の引張強度DMDTが、40.0N/25mm以上であることを特徴とする、紙製産業用ワイパー。
【請求項2】
ワイパーの単位面積当たりの吸水量(T.W.A.)が350g/m以上であることを特徴とする、請求項1に記載の紙製産業用ワイパー。
【請求項3】
ワイパーのJIS P 8113に基づく乾燥時の縦方向の引張強度DMDTが50.0N/25mm以上60.0N/25mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の紙製産業用ワイパー。
【請求項4】
プライ数が4プライであることを特徴とする、請求項1に記載の紙製産業用ワイパー。
【請求項5】
前記エンボス加工により施されるエンボスがピンエンボスであることを特徴とする、請求項1に記載の紙製産業用ワイパー。
【請求項6】
ワイパーの製品形態は四つ折りであることを特徴とする、請求項1に記載の紙製産業用ワイパー。
【請求項7】
前記針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)はスギ又はマツ材由来であることを特徴とする、請求項1に記載の紙製産業用ワイパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンボス加工が施された紙製産業用ワイパーに関する。
【背景技術】
【0002】
パルプや古紙(セルロースのみで、不織布は含まない)を原料とする、産業用ワイパー(以下、紙製産業用ワイパーとも称する)が知られている。
【0003】
市場に出回っているものは2~6プライの物が多く、エンボスの形状(マッチドエンボス、ピンエンボス等)や商品形態(ポップアップ式、四つ折り、ハンディタイプ、ロールタイプ等)は様々である。
【0004】
紙製産業用ワイパーに求められる品質として、吸水性、使用感(拭き心地、手持ちのボリューム感)、丈夫さ(強度)、繊維の脱落の少なさ等が挙げられる。
【0005】
そのような紙製産業用ワイパーの先行技術文献として、例えば、特許文献1には、3枚の原紙を重ねた3プライの紙ワイパーであり、紙ワイパーにはエンボスが形成されており、紙ワイパーの3プライ合計の坪量が、56.0g/m以上80.0g/m以下であり、紙ワイパーの3プライ合計の紙厚が、0.40mm以上0.62mm以下であり、紙ワイパーの3プライ合計の乾燥状態における縦強度が、31.4N/25mm以上54.9N/25mm以下であり、紙ワイパーの3プライ合計の乾燥状態における横強度が、7.8N/25mm以上19.6N/25mm以下である、紙ワイパーが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、産業用製品及びこれに用いる部品に付着した塵・埃・水分・油分の拭き取りに用いられる産業用ワイパーであって、複数枚の積層された基材紙がエンボスによってプライ構造にされ、その基材紙が、LBKP10~30重量%、NBKP70~90重量%のパルプからなるクレープ紙であり、エンボスが、凹エンボスラインが基材紙の縦方向に対して45±10度及び135±10度の交差角となるようにして格子状に配されたエンボスパターンを有し、凹エンボスラインの幅が1~3mmであり深さが1~3mmであり、かつ、単位面積当たりの凹エンボスラインの面積が2~40%であり、凹エンボスラインで囲まれる矩形部分の対角線距離で定義されるエンボスピッチが10~30mmであることを特徴とする産業用ワイパーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-087618号公報
【特許文献2】特許第5198122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
紙製産業用ワイパーは、吸水性や強度、拭き心地を良好にするため、坪量や引張強度を所定の範囲に規定することが多いが、坪量や引張強度を低くしすぎると、ワイパーが薄くなりすぎて、コシがなく、硬いワイパーとなってしまう。
【0009】
一方で、紙製産業用ワイパーに用いるパルプ繊維は、材料とする木材の材質、パルプとして精製した際の水分率等、様々な条件が設定できるが、中でもパルプの水分率が少ないと、一度パルプ繊維が乾燥して硬くなっている影響により、網目状の表面のような凹凸及び引っかかりのある表面を拭き取った際に、繊維が脱落しやすいという問題がある。
また、パルプ以外に、ワイパーの原紙の枚数(プライ数)も、少なすぎると強度、吸水性に劣り、多すぎるとゴワゴワして、拭き心地が良くないという問題がある。
【0010】
そのため、網目状の表面を拭き取っても繊維の脱落がほとんどない事、吸水性及び強度を良好なものとする事、並びにワイパーの拭き心地及び使用感(手持ちのボリューム感)を良好なものとする事を全て満たすのは従来の技術では難しかった。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、網目状の表面のような凹凸及び引っかかりのある表面を拭き取っても繊維の脱落がほとんどなく、吸水性及び強度に優れ、かつ、適度なコシ及びボリューム感も有する紙製産業用ワイパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は鋭意検討を行い、原紙を所定の枚数プライアップし、エンボス加工を施して一体化した紙製産業用ワイパーにおいて、原紙に含まれる特定のパルプ繊維の含有量及び所定の水分率であるパルプの含有量をいずれも所定の数値範囲内とし、かつ、ワイパーの坪量及び引張強度をいずれも所定の数値範囲内とすることで、網目状の表面のような凹凸及び引っかかりのある表面を拭き取っても繊維の脱落がほとんどなく、吸水性及び強度に優れ、かつ、適度なコシ及びボリューム感も有する紙製産業用ワイパーとすることができ、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
【0013】
(1)本発明の第1の態様は、1プライの原紙を、4プライ以上5プライ以下にプライアップし、エンボス加工を施して一体化した、紙製産業用ワイパーであって、前記原紙に含まれるパルプ繊維は、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を80質量%以上含む木材パルプであって、前記木材パルプのうち少なくとも10質量%以上が、抄紙前のパルプ調合時に水分率が50%以上のパルプであり、ワイパーの坪量が、80.0g/m以上120.0g/m以下であり、ワイパーのJIS P 8113に基づく乾燥時の縦方向の引張強度DMDTが、40.0N/25mm以上であることを特徴とする、紙製産業用ワイパーである。
【0014】
(2)本発明の第2の態様は、(1)に記載の紙製産業用ワイパーであって、ワイパーの単位面積当たりの吸水量(T.W.A.)が350g/m以上であることを特徴とするものである。
【0015】
(3)本発明の第3の態様は、(1)に記載の紙製産業用ワイパーであって、ワイパーのJIS P 8113に基づく乾燥時の縦方向の引張強度DMDTが50.0N/25mm以上60.0N/25mm以下であることを特徴とするものである。
【0016】
(4)本発明の第4の態様は、(1)に記載の紙製産業用ワイパーであって、プライ数が4プライであることを特徴とするものである。
【0017】
(5)本発明の第5の態様は、(1)に記載の紙製産業用ワイパーであって、前記エンボス加工により施されるエンボスがピンエンボスであることを特徴とするものである。
【0018】
(6)本発明の第6の態様は、(1)に記載の紙製産業用ワイパーであって、ワイパーの製品形態は四つ折りであることを特徴とするものである。
【0019】
(7)本発明の第7の態様は、(1)に記載の紙製産業用ワイパーであって、前記針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)はスギ又はマツ材由来であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、網目状の表面のような凹凸及び引っかかりのある表面を拭き取っても繊維の脱落がほとんどなく、吸水性及び強度に優れ、かつ、適度なコシ及びボリューム感も有する紙製産業用ワイパーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0022】
<紙製産業用ワイパー>
本実施形態に係る紙製産業用ワイパーは、1プライの原紙を、4プライ以上5プライ以下にプライアップし、エンボス加工を施して一体化したものである。プライ数が4プライ以上5プライ以下であることにより、紙製産業用ワイパーの強度及び適度な吸水性が確保されると共に、拭き取り時に適度なコシ及びボリューム感があり、良好な拭き心地となる。また、網目状の表面のような凹凸及び引っかかりのある表面を拭き取っても、繊維の脱落が少なくなる。3プライ以下の場合はワイパーとしてのコシが不足して拭き心地に劣り、6プライ以上の場合はコシが強いため窪んだ面等にワイパーが追従せず、拭き心地に劣ることとなる。
なお、プライアップするプライ数は4プライであることが好ましい。その理由は、5プライよりもさらに拭き心地に優れるためである。
【0023】
紙製産業用ワイパーの製品形態はポップアップ式、四つ折り、ハンディタイプ、ロールタイプ等の通常の産業用ワイパー製品に用いられる形態であれば特に制限されないが、中でも四つ折りであることが好ましい。四つ折り状態であれば対象物の水分を拭き取る用途で使用した際、吸水性が良好となり、適度なコシ及びボリューム感にも優れる。
なお、四つ折りした形態での紙製産業用ワイパーの寸法は問わないが、作業者の作業性を考慮した場合、短辺の寸法は150mm以上180mm以下であることが好ましく、長辺の寸法は180mm以上210mm以下であることが好ましいが、長辺の寸法と短辺の寸法が等しい、いわゆる正方形型であってもよい。
【0024】
紙製産業用ワイパーの坪量は、80.0g/m以上120.0g/m以下であり、90.0g/m以上100.0g/m以下であることが好ましい。坪量を上記の数値範囲内とすることで、吸水性と丈夫さ、良好な拭き心地を兼ね備える紙製産業用ワイパーとすることができる。この場合における坪量とは、1プライの原紙をプライアップし、エンボス加工を施して一体化した後の紙製産業用ワイパーの坪量を指す。なお、坪量はJIS P 8124に準拠して測定される。
【0025】
また、プライアップ後の紙製産業用ワイパーを、10プライとした状態で測定した際の紙厚が0.50mm/10プライ以上2.60mm/10プライ以下であることが好ましく、1.00mm/10プライ以上2.10mm/10プライ以下であることがより好ましい。プライアップ後の紙製産業用ワイパーにおける10プライの非エンボス部紙厚を上記の数値範囲内とすることで、適度なコシ及びボリューム感に優れる紙製産業用ワイパーとすることができる。なお、この場合における10プライとは、プライアップ後の紙製産業用ワイパーを剥がしてプライの状態に戻した後、戻した1プライを10プライ重ねた状態のことを指す。
紙厚の測定は、JIS P 8113(1998)の条件下(23±1℃、50±2%相対湿度)で、シックネスゲージ(例えば、尾崎製作所製のアップライトダイヤルシックネスゲージ「PEACOCK R1-B型」)を用い、測定子に3.7kPaの圧力を加えて測定する。
【0026】
そして、紙製産業用ワイパーのJIS P 8113に基づく乾燥時の縦方向の引張強度DMDTは40.0N/25mm以上であり、50.0N/25mm以上60.0N/25mm以下であることが好ましい。DMDTが上記の数値範囲内であることにより、強度が高い(丈夫な)紙製産業用ワイパーとすることができる。
また、紙製産業用ワイパーのJIS P 8113に基づく乾燥時の横方向の引張強度DCDTは5.0N/25mm以上30.0N/25mm以下であることが好ましく、7.0N/25mm以上20.0N/25mm以下であることがより好ましい。DCDTが上記の数値範囲内であることにより、強度が高い(丈夫な)紙製産業用ワイパーとすることができる。
なお、乾燥時の各方向の引張強度は、いずれもJIS P 8113に準拠して測定される。この場合におけるMD方向とは、紙製産業用ワイパーの製造時における製造方向(流れ方向、縦方向とも称する)を意味し、CD方向とは、MD方向に直交する方向(幅方向、横方向とも称する)を意味する。
【0027】
なお、プライアップ後の強度の調整をする場合は、後述する原紙においてDDR(ダブルディスクリファイナ)での叩解、湿潤紙力剤や乾燥紙力剤の添加等の方法を適宜選択することができる。
湿潤紙力剤としては特に限定されないが、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン系のものが好ましい。また、乾燥紙力剤を併用しても良く、乾燥紙力剤はPAM系が好ましい。また、湿潤紙力剤は、その助剤を含有してもよく、湿潤紙力剤の助剤としては、アニオン性ポリアクリルアミド系樹脂が好ましい。吸水速度の観点から、紙力剤及び助剤の添加率は、絶乾パルプ重量に対して1.0%以下であることが好ましい。薬剤の添加量が多いと、吸水速度に劣る場合がある。
【0028】
また、紙製産業用ワイパーの単位面積当たりの吸水量(T.W.A.:Total Water Absorbance)は350g/m以上であることが好ましく、370g/m以上であることがより好ましい。吸水量が上記の数値範囲内であることにより、吸水性能に優れる紙製産業用ワイパーとすることができる。
単位面積当たりの吸水量(T.W.A.)は、まず、紙製産業用ワイパーを76×76mmの正方形の試験片に切断し、乾燥質量(W1)を測定する。その後、この試験片を蒸留水中に2分間浸漬した後、試験片の1つの角部が上側の頂部となるようにし、この頂部と隣接する2つの角部とを支持して展伸した状態(RH100%)で吊るし、30分放置後の質量(W2)を測定する。そして、(W2-W1)の値を算出し、この値をサンプル1m当たりの保水量(g/m)に換算したものを、単位面積当たりの吸水量(T.W.A.)とする。
【0029】
(エンボス)
本実施形態に係る紙製産業用ワイパーに施されるエンボス加工は、略規則的に、一定パターンの繰り返しでエンボスを施して複数枚の原紙を一体化するものである。なお、エンボスの加工形態は、ピンエンボス、ドットエンボス、マッチドエンボス等、通常紙製のワイパーやシートに用いられるエンボスを特に制限なく用いることができるが、網目状の表面のような凹凸及び引っかかりのある表面を拭き取っても繊維の脱落が少ないことから、ピンエンボスが好ましい。
【0030】
(原紙)
紙製産業用ワイパーの製造に用いる(プライアップする前の)原紙は、原料の種類は特に制限されず、晒パルプ、未晒パルプ、紙パック由来の再生原料等を一種類又は二種類以上を混ぜて使用することができる。
また、原料配合は針葉樹クラフトパルプ、広葉樹クラフトパルプ、ミルクカートンから再生したパルプ(MSF)等を用いる事ができるが、吸水性の観点からバージンパルプ100%とすることが好ましい。
【0031】
さらに、原紙に含まれるパルプ繊維は、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を80質量%以上含む木材パルプである。針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)の含有量が80質量%未満であると、製造される紙製産業用ワイパーが強度に劣るものとなる。
なお、原紙に含まれるパルプ繊維は、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を90質量%以上含む木材パルプであることが好ましく、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を100質量%で含む木材パルプであることがより好ましい。
加えて、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)は後述する抄紙前のパルプ調合時における水分率の観点から、スギ又はマツ材由来であることが好ましい。
【0032】
そして、木材パルプのうち少なくとも10質量%以上が、抄紙前のパルプ調合時に水分率が50%以上のパルプである。抄紙前のパルプ調合時に水分率が50%以上のパルプが10質量%未満であると、製造される紙製産業用ワイパーが強度に劣るものとなる。
なお、抄紙前のパルプ調合時に水分率が50%以上のパルプは12質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。また、パルプにおける水分量の上限はないが、水分量が高すぎる場合は、絶乾量が少なくなるため、設備における調整能力に応じて選択する必要がある。
【0033】
以上説明したとおり、本実施形態によれば、網目状の表面のような凹凸及び引っかかりのある表面を拭き取っても繊維の脱落がほとんどなく、吸水性及び強度に優れ、かつ、適度なコシ及びボリューム感も有する紙製産業用ワイパーを提供することができる。
【実施例0034】
以下の実施例及び比較例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0035】
表1及び表2に示す各条件において、実施例1~8及び比較例1~6のそれぞれの紙製産業用ワイパーを作製し、以下の評価を行った。なお、下記の評価以外の各パラメーターは、上述した基準又は測定方法に従って行った。
【0036】
(吸水性)
紙製産業用ワイパーの吸水性の評価として、単位面積当たりの吸水量(T.W.A.)を用いた。測定したT.W.A.の数値について、下記の基準で評価を行った。
「優(◎)」:T.W.A.が350g/m以上(特に多くの水分を吸収することができる)
「良(○)」:T.W.A.が300g/m以上350g/m未満(多くの水分を吸収することができる)
「可(△)」:T.W.A.が300g/m未満(水分の吸収量が少ない)
【0037】
(網拭きの毛羽立ち)
金属網(2mm四方格子)をパッドに固定し、水3mlを滴下した。その後、水分がなくなるまで、紙製産業用ワイパーで金属網の表面をこすった後の、ワイパー表面の摩耗具合により、網拭きの毛羽立ちを評価した。
「優(◎)」:毛羽立ちがほとんどなく、破れの発生が見られない
「良(○)」:毛羽立ちが多少あり、軽度に破れの発生がある
「不可(×)」:毛羽立ちが多く、破れの発生が顕著である
【0038】
(強度判定)
紙製産業用ワイパーの強度を、引張強度にて評価した。具体的には、測定したDMDTの数値について、下記の基準で評価を行った。
「優(◎)」:DMDTが50N/25mm以上(強度が十分に優れる)
「良(○)」:DMDTが40N/25mm以上50N/25mm未満(強度に優れる)
「可(△)」:DMDTが30N/25mm以上40N/25mm未満(強度が低めである)
「不可(×)」:DMDTが30N/25mm未満(強度が十分でない)
【0039】
(拭き取りやすさ)
紙製産業用ワイパーを使用した拭き取りに関して、60名を対象にしてアンケートを行い、下記の3つのうち最も回答が多いものを総合評価とした。評価は、拭き取りに適度な硬さがあるかを判断した。
「優(◎)」:ワイパーにコシが十分にあり、拭き取りやすい
「良(○)」:コシがやや劣るが、拭き取りに特に問題はない
「可(△)」:コシが強く、ごわついた触感のため拭き取りにくい
「不可(×)」:コシが劣り、拭き取り性能に劣る
【0040】
(ボリューム感)
紙製産業用ワイパーのボリューム感に関して、ワイパーを四つ折り加工した後、四つ折りの状態で積層させたときに110mmの高さとなるのに必要な枚数によって評価した。
「優(◎)」:39枚以下の枚数で達成できる
「良(○)」:40枚~49枚の枚数にて達成できる
「可(△)」:50枚以上の枚数にて達成できる
【0041】
(四つ折り操業性)
紙製産業用ワイパーを四つ折り加工する際の操業性について、下記の基準で評価を行った。
「良(○)」:折りズレ等の発生がなく、操業性が良い
「不可(×)」:折りズレ等が発生し、操業性が悪い
【0042】
表1に、各実施例の条件及び評価結果を示し、表2に、各比較例の条件及び評価結果を示す。なお、各評価において「優(◎)」が4つ以上ある場合は総合評価「5」、「優(◎)」が3つある場合は総合評価「4」、「優(◎)」が1つ~2つある場合は総合評価「3」、「可(△)」が1つでもある場合は総合評価「2」、「不可(×)」が1つでもある場合は総合評価「1」とし、総合評価が3以上を合格とした。
【0043】

【表1】
【0044】

【表2】
【0045】
以上より、本実施例によれば網目状の表面のような凹凸及び引っかかりのある表面を拭き取っても繊維の脱落がほとんどなく、吸水性及び強度に優れ、かつ、適度なコシ及びボリューム感も有する紙製産業用ワイパーが得られることが確認された。