(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111619
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】ドライビングシミュレータ
(51)【国際特許分類】
G09B 9/04 20060101AFI20240809BHJP
A63F 13/28 20140101ALN20240809BHJP
A63F 13/803 20140101ALN20240809BHJP
【FI】
G09B9/04 A
A63F13/28
A63F13/803
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016234
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】建部 崇典
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 直人
(72)【発明者】
【氏名】古川 和樹
(57)【要約】
【課題】車両の操作により発生する挙動に対するドライバの予見性を向上するドライビングシミュレータを提供する。
【解決手段】ドライバによる運転操作入力に応じて車両の走行状態を模擬するドライビングシミュレータDSを、ドライバDによる運転操作を検出する運転操作検出部110と、空間加振波形を生成する空間加振波形生成部310と、空間加振波形を用いてドライバの周囲の空気を加振する空間加振部370と、運転操作検出部が検出した運転操作に応じて、空間加振波形の出力ゲインG1を変化させるゲイン調整部330とを備える構成とする。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバによる運転操作入力に応じて車両の走行状態を模擬するドライビングシミュレータであって、
前記ドライバによる運転操作を検出する運転操作検出部と、
空間加振波形を生成する空間加振波形生成部と、
前記空間加振波形を用いて前記ドライバの周囲の空気を加振する空間加振部と、
前記運転操作検出部が検出した前記運転操作に応じて、前記空間加振波形の出力ゲインを変化させるゲイン調整部と
を備えることを特徴とするドライビングシミュレータ。
【請求項2】
前記空間加振波形は100乃至400Hzの周波数帯域に含まれる卓越周波数を有すること
を特徴とする請求項1に記載のドライビングシミュレータ。
【請求項3】
前記ゲイン調整部は、前記空間加振波形の出力ゲインを前記運転操作の操作量の微分値の絶対値の増加に応じて増加させること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のドライビングシミュレータ。
【請求項4】
前記ゲイン調整部における前記微分値の絶対値の増加に対する前記出力ゲインの増加率は、前記微分値の絶対値が微小な領域において最大となるとともに、前記微分値の増加に応じて減少すること
を特徴とする請求項3に記載のドライビングシミュレータ。
【請求項5】
前記運転操作は、前記車両の操舵操作、アクセル操作、ブレーキ操作の少なくとも一つを含むこと
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のドライビングシミュレータ。
【請求項6】
前記ゲイン調整部は、前記空間加振部の前記加振により生じる音圧が、前記ドライバの耳元で、前記ドライビングシミュレータの稼働時における暗騒音に対して卓越しないよう前記出力ゲインを設定すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のドライビングシミュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の運転の走行状態を模擬するドライビングシミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両のドライビングシミュレータ(運転模擬装置)に関する技術として、例えば、特許文献1には、本来体験できる振動に近い振動を体験可能とするため、表示体を画面に表示するゲームプログラムを実行するゲーム装置において、固定された筺体固定部と、筺体固定部に回動可能に設けられた筺体可動部と、移動状態にある表示体に対する振動をシミュレートして筺体可動部に振動を与える振動発生装置とを備えるものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の運転操作を模擬的に行うドライビングシミュレータには、例えば車両の開発評価、運転訓練などに用いられるものや、遊戯用のゲーム機など様々な態様のものがある。また、ドライビングシミュレータにおいて、例えばドライバが着座するシートと当該シートを車両の動きに合わせて駆動する駆動機構とを設け、当該駆動機構を駆動して車両の挙動を再現することも考えられる。
ところで実際の車両では、車両の操作開始から実際に車体の挙動が発生し、横加速度、ヨーレート、ロール角などが発生するまでの間には時間応答遅れがある。ドライビングシミュレータにおいて車両の挙動を再現しようとした場合、この挙動の時間応答遅れも再現することが考えられる。一方、例えばドライビングシミュレータを運転訓練などに用いる場合、実際に挙動の変化が開始する前に、挙動の変化が生じることをドライバが予見できることが望まれる場合がある。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、車両の操作により発生する挙動に対するドライバの予見性を向上する情報伝達装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様に係るドライビングシミュレータは、ドライバによる運転操作入力に応じて車両の走行状態を模擬するドライビングシミュレータであって、前記ドライバによる運転操作を検出する運転操作検出部と、空間加振波形を生成する空間加振波形生成部と、前記空間加振波形を用いて前記ドライバの周囲の空気を加振する空間加振部と、前記運転操作検出部が検出した前記運転操作に応じて、前記空間加振波形の出力ゲインを変化させるゲイン調整部とを備えることを特徴とする。
なお、本明細書、特許請求の範囲等において、ドライビングシミュレータとは、車両の研究開発、運転訓練に用いるものの他、遊戯用のゲーム機も含むものとする。
本発明によれば、運転操作に応じて音圧が変化する音響を発生させることにより、運転操作の初期に、車両に実際に挙動が発生することに先立ち、音響によって挙動が発生することを予見させることができる。
【0006】
本発明において、前記空間加振波形は100乃至400Hzの周波数帯域に含まれる卓越周波数を有する構成とすることができる。
これによれば、可聴域かつ皮膚感覚で感度の高いパチニ小体等を用いることが可能となり、ドライバ(ドライバ)の音響による音の感知と皮膚感覚の認知が良好になる。このため、ドライバにより確実に情報を伝達することができる。
ここで、より好ましくは、150乃至300Hzの周波数帯域に卓越周波数を設定することにより、受容体の感度のより良好な領域を使用し、上述した効果を促進することができる。
【0007】
本発明において、前記ゲイン調整部は、前記空間加振波形の出力ゲインを前記運転操作の操作量の微分値の絶対値の増加に応じて増加させる構成とすることができる。
これによれば、運転操作の操作量の微分値(操作速度)の絶対値の増加に応じて音圧が増大する音響を発生させることにより、車両挙動に対するドライバの予見性をより向上することができる。
【0008】
本発明において、前記ゲイン調整部における前記微分値の絶対値の増加に対する前記出力ゲインの増加率は、前記微分値の絶対値が微小な領域において最大となるとともに、前記微分値の増加に応じて減少する構成とすることができる。
これによれば、微分値の絶対値が比較的小さい領域においても大きい出力ゲインを設定することが可能となり、舵角及び操舵速度が微小である操舵初期においても乗員に適切に情報を伝達することができる。
また、微分値の絶対値が大きい領域において、出力ゲインが過度に大きくなることを防止できる。
例えば、出力ゲインを微分値の絶対値の対数関数に基づいて設定することができる。
【0009】
本発明において、前記運転操作は、前記車両の操舵操作、アクセル操作、ブレーキ操作の少なくとも一つを含む構成とすることができる。
これによれば、上述した効果を効果的に得ることができる。
【0010】
本発明において、前記ゲイン調整部は、前記加振部の前記加振により生じる音圧が、前記ドライバの耳元で、前記ドライビングシミュレータの稼働時における暗騒音に対して卓越しないよう前記出力ゲインを設定する構成とすることができる。
これによれば、加振部の加振により生じる音響がドライビングシミュレータ稼働時の暗騒音に埋没することにより、ドライバに耳障りであると感じさせることを防止し、かつ、情報を適切に伝達することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、車両の操作により発生する挙動に対するドライバの予見性を向上するドライビングシミュレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明を適用したドライビングシミュレータの第1実施形態における運転席部の構成を示す図である。
【
図2】第1実施形態のドライビングシミュレータにおけるシートの構成を示す図である。
【
図3】第1実施形態のドライビングシミュレータにおけるシステム構成を示す図である。
【
図4】第1実施形態における振動子制御ユニットの構成を模式的に示す図である。
【
図5】第1実施形態における加振波形の一例を模式的に示す図である。
【
図6】皮膚が物体に触れた際に受容体が発する電気パルスのタイミングを模式的に示す図である。
【
図7】パチニ小体及びマイスナー小体の周波数に対する感度分布を示す図である。
【
図8】振動子制御ユニットの第1ゲイン調整部におけるゲイン調整の一例を模式的に示す図である。
【
図9】振動子制御ユニットの第2ゲイン調整部におけるゲイン調整の一例を模式的に示す図である。
【
図10】車両前後方向の加速度に応じたシートクッション振動子とバックレスト振動子との出力比変化の一例を示す図である。
【
図11】車両左右方向の加速度に応じた右サイドサポート振動子と左サイドサポート振動子との出力比変化の一例を示す図である。
【
図12】タイヤのスリップ率に応じた右サイドサポート振動子及び左サイドサポート振動子のゲイン調整の一例を示す図である。
【
図13】第1実施形態の第1空間加振システムのシステム構成を模式的に示す図である。
【
図14】第1空間加振システムの加振波形の例を模式的に示す図である。
【
図15】第1空間加振システムの第1ゲイン調整部におけるゲイン調整の一例を模式的に示す図である。
【
図16】マイクロフォンの出力履歴の一例を模式的に示す図である。
【
図17】暗騒音の音圧の周波数との相関の一例を示す図である。
【
図18】第1空間加振システムの第2ゲイン調整部におけるゲイン調整の一例を模式的に示す図である。
【
図19】第1実施形態の第2空間加振システムのシステム構成を模式的に示す図である。
【
図20】第2空間加振システムの第1ゲイン調整部におけるゲイン調整の一例を模式的に示す図である。
【
図21】第2実施形態のドライビングシミュレータにおけるコントローラの構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
以下、本発明を適用したドライビングシミュレータの第1実施形態について説明する。
ドライビングシミュレータは、定置状態で例えば4輪の乗用車等の自動車の走行状態を模擬し、仮想的に再現する装置である。
ドライビングシミュレータは、例えば、車両や部品の開発評価や、ドライバの訓練などに利用される。
ドライビングシミュレータは、ドライバ(ユーザ)のステアリング操作、アクセル操作、ブレーキ操作等の各種入力に応じて、数値計算モデルを利用して車両の挙動をリアルタイムに演算し、演算された車両の挙動に基づいて、ドライバに模擬的な操作反力、視覚、挙動などのフィードバックを与える機能を有する。
【0014】
図1は、第1実施形態のドライビングシミュレータにおける運転席部の構成を示す図である。
運転席部1は、フロアパネル2、トーボード3、シート10、インストルメントパネル20、ステアリングホイール30、アクセルペダル40、ブレーキペダル50、画像表示装置60等を有する。
フロアパネル2は、ドライバDが着座するシート10の下部に設けられる床板部分である。
フロアパネル2は、水平方向に延在している。
トーボード3は、フロアパネル2の前端部から、上方側かつ斜め上方側へ張り出したパネル状の部分である。
【0015】
図2は、第1実施形態のドライビングシミュレータにおけるシートの構成を示す図である。
ドライバが着座するシート10は、フロアパネル2の上部に設けられる。
シート10は、シートクッション11、バックレスト12、ヘッドレスト13、サイドサポート14等を有する。
【0016】
シートクッション11は、ドライバDの臀部及び大腿部が載せられる座面部である。
シートクッション11は、図示しないシートレールを介して、フロアパネル2に、前後方向等に位置調整可能に取り付けられる。
シートクッション11は、ドライバDの前後方向及び肩幅方向に沿って延在する上面部を有する。
【0017】
バックレスト(シートバック)12は、ドライバDの上体の背部と対向して設けられた背もたれ部分である。
バックレスト12は、シートクッション11の後端部近傍から、上方側かつ斜め後方側へ張り出している。
バックレスト12の上端部は、ドライバDの肩部の後方側に配置されている。
【0018】
ヘッドレスト13は、ドライバDの頭部の後方側に設けられ、頭部がシート10に対して後傾方向に回動した際に、頭部を拘束する部分である。
ヘッドレスト13は、バックレスト12の上端部から上方側へ突出して設けられている。
【0019】
サイドサポート14(
図1では不図示。
図2を参照。)は、バックレスト12の左右側端部から、前方側に張り出した部分である。
サイドサポート14は、ドライバDの体側部(典型的には脇腹、腰部左右)と当接する。
ドライバDは、例えば旋回時などには、サイドサポート14からの圧力により車体に作用する横方向(車幅方向)の加速度を認識する。
【0020】
シートクッション11、バックレスト12、ヘッドレスト13、サイドサポート14は、それぞれ例えば鋼などの金属材料等からなるフレームの周囲に、例えば多孔質体であるウレタンフォーム等の弾性体を設けて、衝撃吸収性(クッション性)を有するよう構成されている。
弾性体の表面部には、例えばファブリック、天然皮革、人工皮革などのシート表皮が設けられる。
また、シートクッション11、バックレスト12、サイドサポート14には、ドライバDとの接触箇所を加振するシートクッション振動子241、バックレスト振動子242、右サイドサポート振動子243、左サイドサポート振動子244が設けられる。
この点については、後に詳しく説明する。
【0021】
インストルメントパネル20は、シート10に着座したドライバDの前方側に、ドライバDと対向して配置されている。
インストルメントパネル20には、例えば、車速やエンジン回転数などの情報を表示する図示しない画像表示装置などが設けられる。
【0022】
ステアリングホイール30は、ドライバDが操舵操作を行う操舵操作部である。
ステアリングホイール30は、例えば、円環状の形状を有し、図示しないステアリングシャフト(コラム)回りに回動可能な状態で支持されている。
ステアリングシャフトは、インストルメントパネル20から突出したコラムカバー31の内部に収容されている。
【0023】
アクセルペダル40、ブレーキペダル50は、ドライバDがアクセル操作、ブレーキ操作を行う加速操作部、減速操作部である。
また、アクセルペダル40は、所定のストロークからの戻し操作に応じて、電動車両の回生発電を模した減速操作を行うことが可能となっている。
アクセルペダル40、ブレーキペダル50は、例えば、ドライバDから見て右側、左側に、横並びに配置されている。
アクセルペダル40、ブレーキペダル50は、ブラケットを介してトーボード3に対して近接、離間する方向に相対変位可能に支持され、ドライバDの足により踏み込まれる踏面部を有する。
アクセルペダル40は、ドライバDによる踏込量に応じて、反力を発生させるばね要素(リターンスプリング)が設けられている。
ブレーキペダル50には、実車の制動時におけるブレーキ踏力を模擬するため、後述する反力発生装置(
図3参照)が設けられる。
【0024】
画像表示装置60は、ドライバDに車両の運転時を模擬した仮想的な視界情報を表示するものである。
仮想的な視界情報として、例えば、車線形状、地形、他車両等の障害物などが含まれる。
画像表示装置60は、例えば、インストルメントパネル20の上方かつ前方側に配置される。
【0025】
図3は、第1実施形態のドライビングシミュレータにおけるシステム構成を示す図である。
ドライビングシミュレータDSは、車両運動モデル演算ユニット100、振動子制御ユニット200等を有する。
各ユニットは、例えば、CPU等の情報処理部、RAMやROMなどの記憶部、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有するコンピュータとして構成することができる。
また、車両運動モデル演算ユニット100、振動子制御ユニット200は、通信手段を介して接続され、双方向に情報の伝達が可能となっている。
【0026】
車両運動モデル演算ユニット100は、ドライバDからの各種入力、及び、予めデータベース化された仮想的な走行路の車線形状、路面状態などの情報等をもとに、予め設定された車両運動モデルを用いて、車両の挙動等を数値計算によりリアルタイムに演算する。
車両運動モデル演算ユニット100には、舵角センサ110、ステアリング反力発生装置120、アクセルペダルセンサ130、ブレーキペダルセンサ140、ブレーキ反力発生装置150、画像生成装置160、モーション機構170等が接続されている。
【0027】
舵角センサ110は、ステアリングホイール30の回転角度位置(位相)を検出する角度エンコーダを備えている。
車両運動モデル演算ユニット100は、舵角センサ110の出力に基づいて、舵角を演算する。
演算された舵角は、ステアリング操作入力として、車両運動モデルを用いた車両走行状態の演算に反映される。
【0028】
ステアリング反力発生装置120は、車両運動モデルを用いて算出された操舵装置のセルフアライニングトルクや、模擬される車両のパワーステアリング装置の諸元、制御内容等に基づいて、ステアリングホイール30に模擬的な操舵反力を与えるものである。
ステアリング反力発生装置120は、ステアリングホイール30が取り付けられたステアリングシャフトにトルクを与える電動アクチュエータ(モータ)等を備えている。
【0029】
アクセルペダルセンサ130は、ドライバDによるアクセルペダル40の操作量(踏込量)を検出するセンサである。
ブレーキペダルセンサ140は、ドライバDによるブレーキペダル50の操作量(踏込量)を検出するセンサである。
アクセルペダルセンサ130、ブレーキペダルセンサ140の出力は、それぞれアクセル操作入力、ブレーキ操作入力として、車両運動モデル演算ユニット100に伝達され、車両運動モデルを用いた車両走行状態の演算に反映される。
【0030】
車両運動モデル演算ユニット100は、舵角センサ110、アクセルペダルセンサ130、ブレーキペダルセンサ140から検出される操作入力に基づいて、模擬的に走行する車両の車速、ヨーレート、ピッチ角、ロール角、前後方向加速度、横方向加速度、各車輪の接地荷重、前後方向及び横方向のタイヤ発生力、スリップ率、各サスペンションのストロークなどを演算する。
【0031】
ブレーキ反力発生装置150は、ドライバDによるブレーキ操作に応じて、ブレーキペダル50に実車の操作反力を模擬した擬似的なブレーキ反力を発生させるものである。
ブレーキ反力発生装置150は、車両運動モデル演算ユニット100からの指令に応じて、ブレーキペダル50を戻し方向へ駆動する電動モータ等のアクチュエータを有する。
【0032】
画像生成装置160は、車両運動モデル演算ユニット100が演算した車両の走行状態(車速、走行ライン、挙動など)と、予め準備された車線形状や地形などの地図データに応じて、模擬的な運転視界を示す画像に係る画像データを生成するレンダリングエンジンを備えている。
画像データは、画像表示装置60に伝達され、ドライバDに対して画像が表示される。
【0033】
モーション機構170は、
図1に示す運転席部を、車両運動モデル演算ユニット100からの指令に応じて、振動、揺動、傾斜などの動作をさせることにより、車両の運転時にドライバDが感じる加速度を模擬的に発生する加速度模擬装置である。
モーション機構170として、例えば、個別に伸縮可能な6本の電動シリンダを有する6軸モーションベースを用いることができる。
【0034】
振動子制御ユニット200は、シート10、ステアリングホイール30、アクセルペダル40、ブレーキペダル50に設けられた振動子(接触加振部)を制御するものである。
振動子制御ユニット200は、各振動子に、所定の加振波形を有する駆動電流、電圧を供給する接触加振制御部である。
【0035】
振動子制御ユニット200には、ステアリング振動子210、アクセルペダル振動子220、ブレーキペダル振動子230、シート振動子240が接続されている。
各振動子は、振動子制御ユニット200から供給される電圧又は電流の波形に応じて、ドライバDとの接触部(シート10、ステアリングホイール30、アクセルペダル40、ブレーキペダル50)のドライバDとの接触部を加振する加振部である。
振動子として、例えば、供給される電圧の変動に応じた振動を発生するボイスコイル及び振動板を有する構成とすることができ、一例として小型のスピーカを利用することができる。
【0036】
ステアリング振動子210は、ステアリングホイール30を加振する。
ステアリング振動子210は、例えば、ステアリングホイール30自体や、ステアリングホイール30に振動伝達可能な他の部位(例えば、ステアリングシャフト、ステアリングコラム、コラムカバー31等)に取り付けることができる。
【0037】
アクセルペダル振動子220、ブレーキペダル振動子230は、アクセルペダル40、ブレーキペダル50の踏面部を加振する。
アクセルペダル振動子220、ブレーキペダル振動子230は、例えば、アクセルペダル40、ブレーキペダル50を支持するブラケットや、ブラケットを支持するトーボード等に取り付けることができる。
【0038】
シート振動子240は、
図2に示すように、シートクッション振動子241、バックレスト振動子242、右サイドサポート振動子243、左サイドサポート振動子244を有する。
シートクッション振動子241、バックレスト振動子242、右サイドサポート振動子243、左サイドサポート振動子244は、シート表皮の裏面(運転者と接する面とは反対側の面)に隣接して配置され、シート表皮の表面部を加振する。
【0039】
シートクッション振動子241は、シートクッション11の上面部であって、運転者の臀部と対向する領域に配置されている。
シートクッション振動子241は、バックレスト振動子242に対して前方側に配置されている。
バックレスト振動子242は、バックレスト12の前面部であって、運転者の背部に対向して配置されている。
【0040】
右サイドサポート振動子243は、ドライバDから見て右側のサイドサポート14において、ドライバDの右体側部に対向して配置されている。
左サイドサポート振動子244は、ドライバDから見て左側のサイドサポート14において、ドライバDの左体側部に対向して配置されている。
【0041】
図4は、第1実施形態における振動子制御ユニットの構成を模式的に示す図である。
振動子制御ユニット200は、波形生成部201、バンドパスフィルタ202、第1ゲイン調整部203、第2ゲイン調整部204、シートゲイン調整部205等を有する。
【0042】
波形生成部201は、各振動子の駆動電力の電圧波形である加振波形(接触加振波形)の基本波(ゲイン等が未調整であるもの)を生成する。
波形生成部201は、加振波形の基本波の振幅、周波数を、以下の情報を考慮して設定する。
(1)車両運動モデル演算ユニット100から提供される、模擬された車両走行状態における車速(車両の走行速度)に関する情報
(2)予め設定されたタイヤの演算モデルに関する情報(例えば、パターンノイズ成分に対して支配的なタイヤサイズ及びパターン形状に関する情報、及び、トレッドゴムの特性に関する情報)
(3)路面モデル(路面の凹凸等のプロファイル。例えば、骨材の粒径及びその分布等)
【0043】
図5は、第1実施形態における加振波形の一例を模式的に示す図である。
図5において、横軸は時間を示し、縦軸は電圧を示している。
図5に示すように、加振波形は、一例として、矩形波とすることができるが、これに限定されず他の波形であってもよい。
例えば、ランダム波、サイン波、三角波、路面の形状の計測波形などを用いてもよい。
【0044】
バンドパスフィルタ(BPF)202は、波形生成部201が生成した加振波形から、特定の周波数帯域を抽出するものである。
実施形態において、加振波形の周波数は、例えば、100乃至300Hzの範囲に卓越周波数を有するように設定する。
なお、本明細書において、卓越周波数とは、他の周波数の振幅に対して振幅が特に大きい周波数を示すものとする。一般に、このような卓越周波数は、複数の固有値(固有振動数)のなかで特に振幅が大きいものと一致する場合が多い。
以下、その理由について説明する。
【0045】
ドライビングシミュレータDSを構成する各部材に触れるドライバDの身体が、触感(皮膚感覚)を取得する感覚受容体(触覚センサ)として、メルケル細胞、マイスナー小体、パチニ小体などがある。
図6は、皮膚が物体に触れた際に受容体が発する電気パルスのタイミングを模式的に示す図である。
図6において、横軸は時間を示し、縦軸は上段から順に、圧力、及び、メルケル細胞、マイスナー小体、パチニ小体の電気パルス発生状態を示している。
【0046】
メルケル細胞は、応答が比較的遅く、直流成分に対応する。
マイスナー小体は、接触圧力の変化率(速度)が発生しているときに対応する。
マイスナー小体は、速度が出ているときに常に反応することから、仮にノイズ信号としてマイスナー小体の感度が高い周波数のものを用いた場合、ドライバDが振動として感じやすくなると考えられる。
パチニ小体は、過渡的変化の瞬間に対応し、これらの受容体のなかでは最も感度が高いとされる。
ドライバDがドライビングシミュレータDSとの接触箇所からの微小な圧力変化を感じ取る受容体として、パチニ小体が支配的であると考えられる。
【0047】
図7は、パチニ小体及びマイスナー小体の周波数に対する感度分布を示す図である。
図7において、横軸は周波数を示し、縦軸は閾値上の振幅を示しており、値が小さいほど感度が良いことを表わす。
図7に示すように、パチニ小体は、100乃至400Hz、好ましくは100乃至300Hz付近の領域において、良好な感度を示すことから、実施形態においては、100乃至300Hzの周波数帯域内に卓越周波数を有する加振波形となるよう、バンドパスフィルタ202の設計を行っている。
【0048】
第1ゲイン調整部203は、バンドパスフィルタ202による処理後の加振波形に対して、以下説明する第1のゲイン調整を行うものである。
第1のゲイン調整は、走行模擬が行われる車両のタイヤ作用力に応じてゲインを変化させるものである。
タイヤ作用力として、例えば、車両運動モデルから演算される各車輪のタイヤの接地荷重を用いることができる。
また、タイヤ作用力として、タイヤの接地荷重に代えて、あるいは、タイヤの接地荷重とともに、タイヤが発生する前後力、横力(タイヤ発生力)を用いてもよい。
この場合、車両運動モデル演算ユニット100において車両走行状態を演算する際に求めた各車輪のタイヤ発生力を用いることができる。また、車体に作用する前後方向、左右方向の加速度を、それぞれ前後方向、左右方向のタイヤ発生力を示すパラメータとして用いてもよい。
【0049】
図8は、振動子制御ユニットの第1ゲイン調整部におけるゲイン調整の一例を模式的に示す図である。
図8において、横軸はタイヤの接地荷重を示し、縦軸は加振波形に乗算されるゲインを示している。
ゲインは、例えば、タイヤの接地荷重の増加に応じて増加する構成とすることができる。
第1ゲイン調整部203において、各振動子から付加する加振振幅をΔA、ドライビングシミュレータの各部位から最終的にドライバDの身体に伝達される振動振幅(振動子以外の振動源からの振動及び振動子から付加される振動の振幅の和)をAとした場合、ΔA/Aは、ウェーバー比Wと考えらえる。
そこで、このウェーバー比Wが予め設定された所定値となるようにゲイン調整を行うことで、ウェーバー・フェヒナーの法則から、安定した効果を得られると考えられる。
【0050】
第2ゲイン調整部204は、第1のゲイン調整後の加振波形に対して、さらに以下説明する第2のゲイン調整を行うものである。
第2のゲイン調整は、模擬される車両の路面からドライバDとの接触箇所までの振動伝達特性(伝達比の周波数特性)に応じたゲイン調整を行うものである。
図9は、振動子制御ユニットの第2ゲイン調整部におけるゲイン調整の一例を模式的に示す図である。
図9において、横軸は周波数を示し、縦軸はゲインを示している。
ここで、路面からステアリングホイール30、アクセルペダル40、ブレーキペダル50、シート10への振動伝達特性の違いに応じて、各部位の振動子に伝達される加振波形のゲイン調整を、独立して行う構成とすることができる。
ステアリング振動子210、アクセルペダル振動子220、ブレーキペダル振動子230は、第2ゲイン調整部204によるゲイン調整後の加振波形に応じて駆動され、振動を発生する。
【0051】
シートゲイン調整部205は、第2のゲイン調整後の加振波形に対して、さらに以下説明するゲイン調整を行うものである。
シートゲイン調整部205は、模擬される車両の前後方向の加速度に応じて、シートクッション振動子241、バックレスト振動子242の出力比を変化させる。
また、シートゲイン調整部205は、模擬される車両の横方向の加速度に応じて、右サイドサポート振動子243、左サイドサポート振動子244の出力比を変化させる。
さらに、シートゲイン調整部205は、模擬される車両のタイヤのスリップ率に応じて、右サイドサポート振動子243、左サイドサポート振動子244のゲインを変化させる。
以下、これらのゲイン調整について、詳しく説明する。
【0052】
図10は、車両前後方向の加速度に応じたシートクッション振動子とバックレスト振動子との出力比変化の一例を示す図である。
図10において、横軸は車両前後方向の加速度を示し、縦軸よりも右側が減速側(車速減少側)、左側が加速側(車速増加側)を示している。
図10に示すように、減速側への加速度の絶対値の増加に応じて、シートクッション振動子241の出力が、バックレスト振動子242の出力に対して、増加するようになっている。
また、加速側への加速度の絶対値の増加に応じて、バックレスト振動子242の出力が、シートクッション振動子241の出力に対して、増加するようになっている。
【0053】
図11は、車両左右方向の加速度に応じた右サイドサポート振動子と左サイドサポート振動子との出力比変化の一例を示す図である。
図11において、横軸は車両左右方向の加速度を示し、縦軸に対して右側は左方向の加速度(典型的には左旋回時の求心加速度)を示し、左側は右方向の方向の加速度(典型的には右旋回時の求心加速度)を示している。
縦軸は各振動子のゲインを示し、横軸に対して上側は右サイドサポート振動子243の出力ゲインを示し、下側は左サイドサポート振動子244の出力ゲインを示している。
図11に示すように、右側への加速度の絶対値の増加に応じて、左サイドサポート振動子244の出力が、右サイドサポート振動子243の出力に対して、増加するようになっている。この領域では、右サイドサポート振動子243は、左サイドサポート振動子244に対して小さい振幅で加振するか、あるいは、加振を停止する構成とすることができる。
また、左側への加速度の絶対値の増加に応じて、右サイドサポート振動子243の出力が、左サイドサポート振動子244の出力に対して、増加するようになっている。この領域では、左サイドサポート振動子244は、右サイドサポート振動子243に対して小さい振幅で加振するか、あるいは、加振を停止する構成とすることができる。
このように、旋回時に、ドライバの身体を支える旋回外側のサイドサポートに設けられた振動子の出力を、旋回内側に対して高くすることによって、ドライバに旋回時の横加速度と知覚させる。
【0054】
図12は、タイヤのスリップ率に応じた右サイドサポート振動子及び左サイドサポート振動子のゲイン調整の一例を示す図である。
図12において、横軸は車両運動モデル演算ユニット100が演算したタイヤ(一例として後輪だが、前輪であってもよい)のスリップ率を示し、縦軸は加振波形に乗算されるゲインを示している。
ゲインは、例えば、スリップ率の増加に応じて(一例として対数関数的に)減少する構成とすることができる。
【0055】
シートゲイン調整部205における上述したゲイン調整を行った加振波形は、シートクッション振動子241、バックレスト振動子242、右サイドサポート振動子243、左サイドサポート振動子244にそれぞれ伝達される。
各振動子は、伝達された加振波形に応じた周波数特性及び振幅の振動を発生させる。
【0056】
また、第1実施形態のドライビングシミュレータは、さらに、以下説明する第1空間加振システム300、第2空間加振システム400を有する。
第1空間加振システム300は、ドライビングシミュレータDSにおいて行われる操舵操作に応じて、ドライバ周辺の空気を加振し、ドライバに音響情報を提示するものである。
【0057】
図13は、第1実施形態の第1空間加振システムのシステム構成を模式的に示す図である。
第1空間加振システム300は、ドライバDに隣接して配置されたスピーカ370によりドライバDの耳部周辺の空気を振動させ、ドライバDに対して車両の挙動が生ずる前兆を音響信号により報知するものである。
第1空間加振システム300は、波形生成部310、微分演算部320、第1ゲイン調整部330、マイクロフォン340、センシング値演算部350、第2ゲイン調整部360、スピーカ370等を有する。
【0058】
波形生成部310は、スピーカ370が発生する音響信号の波形である加振波形(空間加振波形)を生成するものである。
図14は、第1空間加振システムの加振波形の例を模式的に示す図である。
図14において、横軸は時間を示し、縦軸は電圧(振幅)を示している。
例えば
図14(a)に示すように、加振波形は、正弦波とすることができる。
また、例えば
図14(b)に示すように、加振波形は、波長の異なる複数の正弦波を重畳(合成)した波形とすることができる。
また、加振波形は、これらに限定されず、適宜変更することができる。
例えば、加振波形として、矩形波、三角波や、車両の走行音を模した波形など各種の波形を単独で、あるいは、他の波形と合成して、用いることができる。
【0059】
波形生成部310において、加振波形の周波数は、パチニ小体が良好な感度を示す例えば100乃至400Hz、より好ましくは150乃至300Hzの範囲に卓越周波数を有するよう設定することができる。
このような領域は、一般に人間の可聴域とされる20Hz乃至20kHzの範囲に含まれる。
加振波形の卓越周波数は、一例として250Hzに設定することができる。
【0060】
微分演算部320は、舵角センサ110が検出した車輪の舵角θに関する情報を取得し、時間微分した微分値Δθを算出するものである。
微分演算部320は、算出された微分値Δθを、第1ゲイン調整部330に逐次伝達する。
【0061】
第1ゲイン調整部330は、波形生成部310が発生する加振波形の基本波に対して、以下説明する第1のゲイン調整を行うものである。
第1のゲイン調整は、操舵装置の舵角θ(操舵量に相関するパラメータ)の微分値(時間あたり変化率)に応じて、加振波形の電圧に乗算される出力ゲインであるゲインG1を変化させるものである。
【0062】
図15は、第1空間加振システムの第1ゲイン調整部におけるゲイン調整の一例を模式的に示す図である。
図15において、横軸は車輪の舵角θの微分値Δθの絶対値を示し、縦軸は加振波形の電圧に乗算されるゲインG1を示している。
ゲインG1は、微分値Δθの絶対値の増加に応じて増加する構成とすることができる。
また、第1ゲイン調整部330における微分値Δθの絶対値の増加に対するゲインG1の増加率は、微分値Δθの絶対値が微小な領域において最大となるとともに、微分値Δθの絶対値の増加に応じて減少する構成とすることができる。
【0063】
第1ゲイン調整部330におけるゲインG1は、例えば、舵角θの微分値Δθの絶対値から、対数関数を用いて算出することができる。
ゲインG1は、例えば、以下の式1によって表される。
ゲインG1=log(舵角微分値Δθの絶対値×係数k) (式1)
係数kは、車両の特性(例えば、舵角θに対するヨーゲイン、重心位置等)に合わせて、例えば車両の開発段階で設定した値とすることができる。
【0064】
マイクロフォン340は、ドライビングシミュレータDSの運転席部に設けられ、ドライバD周辺の暗騒音を採取する集音装置である。
マイクロフォン340は、ドライバDの耳元に近い位置に配置することが好ましく、例えば、シート10のヘッドレスト13部に設ける構成とすることができる。
マイクロフォン340の出力は、センシング値演算部350へ伝達される。
【0065】
センシング値演算部350は、マイクロフォン340が取得した暗騒音から、所定の周波数帯域の成分を抽出し、抽出された成分の音圧をセンシング値として第2ゲイン調整部360に伝達するものである。
図16は、マイクロフォンの出力履歴の一例を模式的に示す図である。
図16において、横軸は時間を示し、縦軸はマイクロフォン340が取得した暗騒音の音圧を示している。
【0066】
センシング値演算部350は、マイクロフォン340が取得した暗騒音の音響信号に対して高速フーリエ変換(FFT)処理を施して周波数領域に変換し、さらに、バンドパスフィルタ処理を施して所定の周波数帯域の成分を抽出する。
抽出する周波数帯域は、波形生成部310が出力する加振波形の卓越周波数を含むよう設定される。
センシング値演算部350は、抽出された周波数帯域の平均音圧を、第2のゲイン調整に用いるセンシング値とする。
【0067】
図17は、暗騒音の音圧の周波数との相関の一例を示す図である。
図17において、横軸は周波数を示し、縦軸は音圧を示している。
バンドパスフィルタは、例えば、波形生成部310における加振波形の卓越周波数(一例として250Hz)近傍の周波数帯域を抽出する構成とすることができる。
抽出された周波数帯域における音圧(一例として周波数帯域の平均値)は、第2ゲイン調整部360にセンシング値として提供される。
【0068】
第2ゲイン調整部360は、第1のゲイン調整後の加振波形に対して、さらに以下説明する第2のゲイン調整を行うものである。
第2のゲイン調整は、車両の模擬走行時(ドライビングシミュレータDSの稼働時)の暗騒音(人工的に生成される駆動系騒音、空力騒音、ロードノイズ等)の変化に応じて加振波形の出力振幅を調節するため、ドライバDの周辺の騒音のセンシング値に応じて、加振波形のゲインを変化させるものである。
第2ゲイン調整部360は、センシング値演算部350の出力に基づいて、第2のゲイン調整を行う。
【0069】
第2ゲイン調整部360は、センシング値演算部350が出力するセンシング値に基づいて、ゲインG2の設定を行う。
図18は、第1空間加振システムの第2ゲイン調整部におけるゲイン調整の一例を模式的に示す図である。
図18において、横軸はセンシング値を示し、縦軸は加振波形の電圧に乗算されるゲインG2を示している。
ゲインG2は、センシング値の増加に応じて増加する構成することができる。
ゲインG2は、乗員の耳元における暗騒音の音圧に対して、スピーカ370から出力される加振振幅による音響の音圧が卓越しないように設定される。
好ましくは、加振振幅による音響がドライバD周辺の暗騒音に潜り込み、乗員が無意識に聴取可能な音圧レベルとなるように、ゲインG2を設定するとよい。
【0070】
以上説明した第1のゲイン調整、第2のゲイン調整後の加振波形の出力値(電圧)Aは、式2のように表される。
出力値A=波形生成部出力値×ゲインG1×ゲインG2
=波形生成部出力値×log(舵角微分値Δθの絶対値×係数k)
×ゲインG2(式2)
【0071】
スピーカ370は、車室内に配置され、出力値Aを用いて、車室内の乗員の周囲の空気を加振し、音響を発生させる加振装置(空間加振部)である。
ドライビングシミュレータDSが模擬走行時に車両の走行音(駆動系騒音、空力騒音、ロードノイズ等)を模した音響を出力する機能を有する場合には、スピーカ370は走行音を出力するスピーカと共用することができる。
【0072】
第2空間加振システム400は、ドライビングシミュレータDSにおいて行われる加減速操作に応じて、ドライバ周辺の空気を加振し、ドライバに音響情報を提示するものである。
図19は、第1実施形態の第2空間加振システムのシステム構成を模式的に示す図である。
【0073】
第2空間加振システム400は、ドライバDに隣接して配置されたスピーカ470によりドライバDの耳部周辺の空気を振動させ、ドライバDに対して車両の挙動が生ずる前兆を音響信号により報知するものである。
第2空間加振システム400は、波形生成部410、微分演算部420、第1ゲイン調整部430、マイクロフォン440、センシング値演算部450、第2ゲイン調整部460、スピーカ470等を有する。
【0074】
波形生成部410は、上述した波形生成部310と同様に、スピーカ370が発生する音響信号の波形である加振波形(空間加振波形)を生成するものである。
【0075】
微分演算部420は、アクセルペダルセンサ130が検出したアクセルペダル40のストロークSに関する情報を取得し、時間微分した微分値ΔSを算出するものである。
微分演算部420は、算出された微分値ΔSを、第1ゲイン調整部430に逐次伝達する。
【0076】
第1ゲイン調整部430は、波形生成部410が発生する加振波形の基本波に対して、以下説明する第1のゲイン調整を行うものである。
第1のゲイン調整は、アクセルペダル40のストロークS(駆動力と制動力の少なくとも一方に相関するパラメータ)の微分値ΔS(時間あたり変化率)に応じて、加振波形の電圧に乗算される出力ゲインであるゲインG1を変化させるものである。
【0077】
図20は、第2空間加振システムの第1ゲイン調整部におけるゲイン調整の一例を模式的に示す図である。
図20において、横軸はアクセルペダル40のストロークSの微分値ΔSを示し、縦軸は加振波形の電圧に乗算されるゲインG1を示している。
ゲインG1は、微分値ΔSの絶対値の増加に応じて増加する構成とすることができる。
また、第1ゲイン調整部430における微分値ΔSの絶対値の増加に対するゲインG1の増加率は、微分値ΔSの絶対値が微小な領域において最大となるとともに、微分値ΔSの絶対値の増加に応じて減少する構成とすることができる。
【0078】
また、アクセルペダル40の踏み込み側と戻し側とを比較すると、微分値ΔSの絶対値が同等である場合には、戻し側(減速操作)のほうが踏み込み側(加速操作)に対してゲインG1が大きくなるよう設定されている。
アクセルペダル40の踏み込み側と戻し側との判別は、微分値ΔSの符号に基づいて行うことができる。
【0079】
第1ゲイン調整部430におけるゲインG1は、例えば、ストロークSの微分値ΔSの絶対値から、対数関数を用いて算出することができる。
ゲインG1は、例えば、以下の式3によって表される。
ゲインG1=log(ストローク微分値ΔSの絶対値×係数k) (式3)
係数kは、車両の特性(例えば、ストロークSの変化に対する駆動力、制動力の特性や、重心位置等)に合わせて、例えば車両の開発段階で設定した値とすることができる。
【0080】
マイクロフォン440は、ドライビングシミュレータDSの運転席部に設けられ、ドライバD周辺の暗騒音を採取する集音装置である。
マイクロフォン440は、第1空間加振システム300のマイクロフォン340と共用する構成とすることができる。
マイクロフォン440は、ドライバDの耳元に近い位置に配置することが好ましく、例えば、シート10のヘッドレスト13部に設ける構成とすることができる。
マイクロフォン440の出力は、センシング値演算部450へ伝達される。
マイクロフォン440の出力履歴は、例えば、上述した
図16に示したものと同様である。
【0081】
センシング値演算部450は、マイクロフォン440が取得した暗騒音から、所定の周波数帯域の成分を抽出し、抽出された成分の音圧をセンシング値として第2ゲイン調整部460に伝達するものである。
【0082】
センシング値演算部450は、マイクロフォン440が取得した暗騒音の音響信号に対して高速フーリエ変換(FFT)処理を施して周波数領域に変換し、さらに、バンドパスフィルタ処理を施して所定の周波数帯域の成分を抽出する。
抽出する周波数帯域は、波形生成部410が出力する加振波形の卓越周波数を含むよう設定される。
センシング値演算部450は、抽出された周波数帯域の平均音圧を、第2のゲイン調整に用いるセンシング値とする。
【0083】
バンドパスフィルタは、例えば、波形生成部410における加振波形の卓越周波数(一例として250Hz)近傍の周波数帯域を抽出する構成とすることができる。
抽出された周波数帯域における音圧(一例として周波数帯域の平均値)は、第2ゲイン調整部460にセンシング値として提供される。
【0084】
第2ゲイン調整部460は、第1のゲイン調整後の加振波形に対して、さらに以下説明する第2のゲイン調整を行うものである。
第2のゲイン調整は、車両の模擬走行時の暗騒音(駆動系騒音、空力騒音、ロードノイズ等)の変化に応じて加振波形の出力振幅を調節するため、ドライバDの周辺の騒音のセンシング値に応じて、加振波形のゲインを変化させるものである。
第2ゲイン調整部460は、センシング値演算部450の出力に基づいて、第2のゲイン調整を行う。
【0085】
第2ゲイン調整部460は、センシング値演算部450が出力するセンシング値に基づいて、第1空間加振システム300の第2ゲイン調整部360と同様の手法により、ゲインG2の設定を行う。
【0086】
以上説明した第1のゲイン調整、第2のゲイン調整後の加振波形の出力値(電圧)Aは、式4のように表される。
出力値A=波形生成部出力値×ゲインG1×ゲインG2
=波形生成部出力値×log(ストローク微分値ΔSの絶対値×係数k)
×ゲインG2(式4)
【0087】
スピーカ470は、車室内に配置され、出力値Aを用いて、車室内の乗員の周囲の空気を加振し、音響を発生させる加振装置(空間加振部)である。
スピーカ470は、例えば、第1空間加振システム300のスピーカ370と共用する構成とすることができる。
【0088】
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)運転操作に応じて音圧が変化する音響を発生させることにより、運転操作の初期に、車両に実際に挙動が発生することに先立ち、音響によって挙動が発生することを予見させることができる。
(2)空間加振波形は100乃至400Hzの周波数帯域に含まれる卓越周波数を有する構成とすることにより、可聴域かつ皮膚感覚で感度の高いパチニ小体等を用いることが可能となり、ドライバDの音響による音の感知と皮膚感覚の認知が良好になる。このため、ドライバにより確実に情報を伝達することができる。
ここで、より好ましくは、150乃至300Hzの周波数帯域に卓越周波数を設定することにより、受容体の感度のより良好な領域を使用し、上述した効果を促進することができる。
(3)空間加振波形の出力ゲインを運転操作の操作量の微分値の絶対値の増加に応じて増加させることにより、運転操作の操作量の微分値(操作速度)の絶対値の増加に応じて音圧が増大する音響を発生させることにより、車両挙動に対するドライバの予見性をより向上することができる。
(4)第1空間加振システム300、第2空間加振システム400の第1ゲイン調整部330、430における微分値の絶対値の増加に対する出力ゲインG1の増加率は、舵角θの微分値Δθ、ストロークSの微分値ΔSの絶対値が微小な領域において最大となるとともに、微分値Δθ、ΔSの増加に応じて減少する構成とすることにより、微分値の絶対値が比較的小さい領域においても大きい出力ゲインを設定することが可能となり、操作量及び操作速度が微小である状態においても乗員に適切に情報を伝達することができる。
また、微分値の絶対値が大きい領域において、出力ゲインが過度に大きくなることを防止できる。
(5)空間振動が行われる運転操作は、車両の操舵操作、アクセル操作、ブレーキ操作の少なくとも一つを含む構成とすることにより、上述した効果を効果的に得ることができる。
(6)スピーカ370、470の加振により生じる音圧が、ドライバDの耳元で、ドライビングシミュレータの稼働時における暗騒音に対して卓越しないようゲインG2を設定することにより、スピーカ370,470の加振により生じる音響がドライビングシミュレータの暗騒音に埋没し、ドライバDに耳障りであると感じさせることを防止し、かつ、情報を適切に伝達することができる。
(7)人間の触覚を司る受容器のなかで、比較的圧力に対する感度が高いとされるパチニ小体の感度が良好である100乃至300Hzの周波数成分を有する加振波形で、運転席部1におけるドライバDと接触する箇所を加振することにより、身体(皮膚)がドライビングシミュレータDSと接触する箇所から受ける微小な圧力変化を、ドライバDが感知しやすくなり、過渡領域における操作感を実車の操作感に近づけることができる。
(8)接触加振波形を、車両のタイヤモデル、路面モデルに基づいて生成することにより、路面からタイヤを介して車両に入力される振動を適切に再現し、ドライバDが受ける操作感を実車により近付けることができる。
(9)接触加振波形の周波数分布を、車両の路面からドライバDとの接触部までの振動伝達特性に基づいて設定することにより、ドライバDが受ける操作感をさらに実車に近づけることができ、また、加振波形の周波数分布の設定に用いられる振動伝達特性を必要に応じて変更することにより、仕様や構成の異なる車両の官能評価を簡便に行うことができる。
(10)模擬された車両の走行状態におけるタイヤの接地荷重の増加に応じて、接触加振波形の振幅を増加させることにより、模擬運転される車両に何らかの挙動が発生した場合に、挙動に応じて発生する接触圧力の変化を強調することで、ドライバDが受ける操作感をさらに実車に近づけることができる。
(11)シート10、ステアリングホイール20、アクセルペダル40、ブレーキペダル50を加振することにより、操舵操作、加速操作、減速操作に対する反力と、ドライバDがシート10から受ける圧力とを強調することができ、上述した効果を効果的に得ることができる。
(12)前後方向に離間して配置されたシートクッション振動子241、バックレスト振動子242の加振波形の振幅を、車両前後方向の加速度に応じて異ならせることにより、ドライバDに前後方向の加速度を良好に知覚させることができる。
(13)左右方向に離間して配置された右サイドサポート振動子243、左サイドサポート振動子244の加振波形の振幅を、車両左右方向の加速度に応じて異ならせることにより、ドライバDに左右方向の加速度を良好に知覚させることができる。
(14)タイヤのスリップ状態の検出に応じて、シート振動子240の加振波形の振幅を低下させることにより、車輪のスリップ状態が発生することで、タイヤが発生可能な横力が減少し、横加速度の減少(抜け)が生じる際に、ドライバDがシート10から感じる圧力変化を強調することができる。
このため、運転者が模擬される車両のグリップ感をより適切に認識することができ、運転模擬操作の正確性をより向上することができる。
【0089】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用したドライビングシミュレータの第2実施形態について説明する。
第2実施形態において、第1実施形態と共通する箇所には同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
第2実施形態のドライビングシミュレータは、ドライバ(ドライバ)が手指により把持するコントローラを用いて運転操作を行う遊戯用のゲーム機として構成されている。
図21は、第2実施形態のドライビングシミュレータにおけるコントローラの構成を模式的に示す図である。
【0090】
コントローラ500は、ドライバの手により把持される。
コントローラ500は、右スティック510、左スティック520を有する。
右スティック510は、右手の親指によって操作される操舵操作部材である。
右スティック510は、左右方向に揺動可能に構成されている。
ドライバは、右スティック510を左右方向に動かすことにより操舵操作(舵角θの入力)を行う。
【0091】
左スティック520は、左手の親指によって操作される加減速操作部材である。
左スティック520は、前後方向に揺動可能に構成されている。
左スティック520は、中立位置から前方へ動かすことによりアクセル操作を行い、中立位置から後方へ動かすことによりブレーキ操作を行うよう構成されている。
ドライバは、画像表示装置60を見ながらコントローラ500を操作し、模擬的な車両の運転操作を行う。
【0092】
第2実施形態においては、ステアリング振動子210に相当する振動子を右スティック510に設け、アクセルペダル振動子220、ブレーキペダル振動子230に相当する振動子を左スティック520に設ける構成とすることができる。
以上説明した第2実施形態においても、車両の走行状態、運転操作の状態に応じて、コントローラ500の右スティック510、左スティック520を加振し、あるいは、スピーカ370,470から音響情報を出力(空間加振)することにより、上述した第1実施形態の効果と同様の効果(シートに設けられた振動子による効果を除く)を得ることができる。
【0093】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)ドライビングシミュレータの構成は、上述した各実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
例えば、第1実施形態においては、ドライビングシミュレータは運転席部を動作させるモーション機構を備えているが、本発明はモーション機構をもたず、運転席部が定置されたドライビングシミュレータにも適用することができる。
また、第2実施形態のような手持ち式コントローラを用いて運転操作を行う場合のコントローラの構成も限定されない。
また、ドライビングシミュレータの用途も、車両の研究開発用、運転訓練用、遊戯用(ゲーム)など、特に限定されない。
(2)第1実施形態においては、ステアリングホイールを振動子によって加振しているが、これに代えて、あるいは、これと併用して、ステアリング反力発生装置の出力に、加振波形に基づく振動成分を重畳させてもよい。この場合、ステアリング反力発生装置が加振部を兼ねることとなる。同様に、ブレーキペダルの加振を、ブレーキ反力発生装置を用いて行ってもよい。
(3)第1実施形態においては、例えば、ステアリングホイール、アクセルペダル、ブレーキペダル、シートを加振しているが、加振される部材はこれらに限らず、ドライバと接触する他の部材であってもよい。例えば、変速操作部材(シフトレバー、パドル等)や、クラッチペダル、フロアパネル、膝部等のサポート部材、インストルメントパネル等を加振してもよい。
また、加振部の構成や加振原理も特に限定されない。
(4)実施形態における加振波形の各種ゲイン調整は一例であって、一部を省略し、あるいは、他のゲイン調整を付加してもよい。
【符号の説明】
【0094】
DS ドライビングシミュレータ 1 運転席部
2 フロアパネル 3 トーボード
10 シート 11 シートクッション
12 バックレスト 13 ヘッドレスト
14 サイドサポート 20 インストルメントパネル
30 ステアリングホイール 31 コラムカバー
40 アクセルペダル 50 ブレーキペダル
60 画像表示装置 100 車両運動モデル演算ユニット
110 舵角センサ 120 ステアリング反力発生装置
130 アクセルペダルセンサ 140 ブレーキペダルセンサ
150 ブレーキ反力発生装置 160 画像生成装置
170 モーション機構
200 振動子制御ユニット 210 ステアリング振動子
220 アクセルペダル振動子 230 ブレーキペダル振動子
240 シート振動子 241 シートクッション振動子
242 バックレスト振動子 243 右サイドサポート振動子
244 左サイドサポート振動子 D ドライバ
300 第1空間加振システム 310 波形生成部
320 微分演算部 330 第1ゲイン調整部
340 マイクロフォン 350 センシング値演算部
360 第2ゲイン調整部 370 スピーカ
400 第2空間加振システム 410 波形生成部
420 微分演算部 430 第1ゲイン調整部
440 マイクロフォン 450 センシング値演算部
460 第2ゲイン調整部 470 スピーカ
500 コントローラ 510 右スティック
520 左スティック