(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111642
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】水処理方法および水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20240809BHJP
B01D 61/04 20060101ALI20240809BHJP
B01D 61/12 20060101ALI20240809BHJP
C02F 5/00 20230101ALI20240809BHJP
C02F 5/10 20230101ALI20240809BHJP
【FI】
C02F1/44 D
B01D61/04
B01D61/12
C02F1/44 A
C02F5/00 620A
C02F5/00 620C
C02F5/10 620C
C02F5/10 620D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016266
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄大
(72)【発明者】
【氏名】福田 美弥
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006KA02
4D006KA03
4D006KB13
4D006KD08
4D006KD30
4D006KE02P
4D006KE03P
4D006KE04P
4D006KE12P
4D006KE12Q
4D006KE14R
4D006KE15Q
4D006KE30R
4D006PA01
4D006PB02
4D006PB04
4D006PB08
4D006PB23
4D006PB70
(57)【要約】
【課題】シリカとアルミニウムとを含む被処理水の逆浸透膜処理を行う水処理においてスケールの析出を抑制することができる水処理方法および水処理装置を提供する。
【解決手段】シリカとアルミニウムとを含む被処理水を逆浸透膜に通水して透過水と濃縮水とを得る逆浸透膜処理を行う逆浸透膜処理工程を含み、濃縮水におけるシリカの濃度が溶解度以下であり、アルミニウムの濃度が0.1mg/Lを超え、被処理水にアクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重体を含むスケール分散剤を添加する、水処理方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカとアルミニウムとを含む被処理水を逆浸透膜に通水して透過水と濃縮水とを得る逆浸透膜処理を行う逆浸透膜処理工程を含み、
前記濃縮水におけるシリカの濃度が溶解度以下であり、アルミニウムの濃度が0.1mg/Lを超え、前記被処理水にアクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重体を含むスケール分散剤を添加することを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水処理方法であって、
前記濃縮水におけるカルシウムイオン濃度が80mg/L以上であり、ランゲリア指数が0以下であることを特徴とする水処理方法。
【請求項3】
請求項1に記載の水処理方法であって、
前記被処理水中のアルミニウムイオン濃度に基づいて、前記スケール分散剤の添加濃度を制御することを特徴とする水処理方法。
【請求項4】
請求項3に記載の水処理方法であって、
前記被処理水中のアルミニウムイオン濃度と、前記逆浸透膜処理における前記被処理水の流量、前記透過水の流量、および前記濃縮水の流量の3つのうち少なくとも2つと、を測定し、その数値に基づいて、前記スケール分散剤の添加濃度を制御することを特徴とする水処理方法。
【請求項5】
請求項1に記載の水処理方法であって、
前記逆浸透膜処理工程の前段に凝集処理工程をさらに含み、前記凝集処理工程の凝集剤としてアルミニウムを含む凝集剤を用いることを特徴とする水処理方法。
【請求項6】
シリカとアルミニウムとを含む被処理水を逆浸透膜に通水して透過水と濃縮水とを得る逆浸透膜処理を行う逆浸透膜処理手段と、
前記被処理水にアクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重体を含むスケール分散剤を添加する添加手段と、
を備え、
前記濃縮水におけるシリカの濃度が溶解度以下であり、アルミニウムの濃度が0.1mg/Lを超えることを特徴とする水処理装置。
【請求項7】
請求項6に記載の水処理装置であって、
前記濃縮水におけるカルシウムイオン濃度が80mg/L以上であり、ランゲリア指数が0以下であることを特徴とする水処理装置。
【請求項8】
請求項6に記載の水処理装置であって、
前記被処理水中のアルミニウムイオン濃度を測定するアルミニウムイオン濃度測定手段と、
前記アルミニウムイオン濃度測定手段で測定した前記被処理水中のアルミニウムイオン濃度に基づいて、前記スケール分散剤の添加濃度を制御する制御手段と、
をさらに備えることを特徴とする水処理装置。
【請求項9】
請求項8に記載の水処理装置であって、
前記逆浸透膜処理における前記被処理水の流量を測定する被処理水流量測定手段、前記透過水の流量を測定する透過水流量測定手段、および前記濃縮水の流量を測定する濃縮水流量測定手段の3つのうち少なくとも2つをさらに備え、
前記制御手段は、前記アルミニウムイオン濃度測定手段で測定した前記被処理水中のアルミニウムイオン濃度と、前記被処理水流量測定手段で測定した前記被処理水の流量、前記透過水流量測定手段で測定した前記透過水の流量、および前記濃縮水流量測定手段で測定した前記濃縮水の流量の3つのうちいずれか2つと、の数値に基づいて、前記スケール分散剤の添加濃度を制御することを特徴とする水処理装置。
【請求項10】
請求項6に記載の水処理装置であって、
前記逆浸透膜処理手段の前段に凝集処理手段をさらに備え、前記凝集処理手段の凝集剤としてアルミニウムを含む凝集剤を用いることを特徴とする水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜を用いる水処理方法および水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、純水製造や水回収などの水処理において、逆浸透膜が用いられる機会が増加している。被処理水中の溶質が逆浸透膜処理により濃縮され、溶解度を超え、スケールとして析出して膜面を閉塞させるスケーリングは、逆浸透膜を用いる水処理におけるトラブルの1つである。この対策として、原則として濃縮水におけるスケール成分の濃度が各々の溶解度を超えないように逆浸透膜処理装置の回収率を決定することが行われている。または、スケールの析出を抑制することができるスケール分散剤を添加することが行われている。中でもシリカは代表的なスケール成分の1つであり、カルシウム、鉄、アルミニウムなどの共存物質によってシリカのスケール化が促進されること、およびそのスケール化の機構が複雑であり、事前にリスクを把握することが困難であることが問題となっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、シリカが溶解度以下の濃度であっても鉄やアルミニウムによってスケール化が促進されること、および、その場合でも、アルミニウムイオン濃度を0.4mg/L以下、鉄イオン濃度を0.8mg/L以下とし、ランゲリア指数を適切に管理することによってスケール析出を防ぐことができることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、実施例において、塩化ナトリウム100mg/L、炭酸水素ナトリウム84mg/Lの水溶液に、塩化カルシウムをカルシウム濃度が10mg/Lとなるように、ポリ塩化アルミニウムをアルミニウム濃度が0.1mg/Lとなるように添加すると共に、メタケイ酸ナトリウムをシリカ濃度が35mg/Lとなるように添加し、最終的に塩酸と水酸化ナトリウムでpH7.0に調整したものをRO供給水とし、このRO供給水に固形分として1.156mg/Lのシリカ分散剤を添加すること、シリカ分散剤として、リン酸基を有する化合物、スルホン酸基を有する化合物などを用いることが記載されている。
【0005】
しかし、逆浸透膜処理の濃縮水において、ランゲリア指数が0未満であり、鉄イオンがほとんど存在せず、アルミニウムイオン濃度が0.4mg/L以下であり、シリカが溶解度以下の濃度であっても、シリカがアルミニウムと複合することによってケイ酸アルミニウムとして析出し、スケールが析出する問題がある。
【0006】
また、逆浸透膜の給水(被処理水)に濁質成分が含まれることは好ましくなく、逆浸透膜処理の前処理として凝集処理や除濁処理などを行うことが一般的である。この凝集処理では、アルミニウム系の凝集剤が用いられることが多い。しかし、凝集処理においては、原水水質や水温、天候などによって最適な凝集剤の添加量が変動し、凝集剤の添加量が過剰となった場合には前処理工程の処理水にアルミニウムが残存してしまうことがある。結果として、逆浸透膜処理の前処理工程で必要とされるアルミニウム系の凝集剤の濃度が事前に把握するのが困難であり、余裕を見てアルミニウム系の凝集剤を過剰に添加することになる。この凝集剤由来のアルミニウムが逆浸透膜処理に流入し、スケール化の一因となるおそれがあるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-170273号公報
【特許文献2】特開2019-098298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、シリカとアルミニウムとを含む被処理水の逆浸透膜処理を行う水処理においてスケールの析出を抑制することができる水処理方法および水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、シリカとアルミニウムとを含む被処理水を逆浸透膜に通水して透過水と濃縮水とを得る逆浸透膜処理を行う逆浸透膜処理工程を含み、前記濃縮水におけるシリカの濃度が溶解度以下であり、アルミニウムの濃度が0.1mg/Lを超え、前記被処理水にアクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重体を含むスケール分散剤を添加する、水処理方法である。
【0010】
前記水処理方法において、前記濃縮水におけるカルシウムイオン濃度が80mg/L以上であり、ランゲリア指数が0以下であることが好ましい。
【0011】
前記水処理方法において、前記被処理水中のアルミニウムイオン濃度に基づいて、前記スケール分散剤の添加濃度を制御することが好ましい。
【0012】
前記水処理方法において、前記被処理水中のアルミニウムイオン濃度と、前記逆浸透膜処理における前記被処理水の流量、前記透過水の流量、および前記濃縮水の流量の3つのうち少なくとも2つと、を測定し、その数値に基づいて、前記スケール分散剤の添加濃度を制御することが好ましい。
【0013】
前記水処理方法において、前記逆浸透膜処理工程の前段に凝集処理工程をさらに含み、前記凝集処理工程の凝集剤としてアルミニウムを含む凝集剤を用いることが好ましい。
【0014】
本発明は、シリカとアルミニウムとを含む被処理水を逆浸透膜に通水して透過水と濃縮水とを得る逆浸透膜処理を行う逆浸透膜処理手段と、前記被処理水にアクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重体を含むスケール分散剤を添加する添加手段と、を備え、前記濃縮水におけるシリカの濃度が溶解度以下であり、アルミニウムの濃度が0.1mg/Lを超える、水処理装置である。
【0015】
前記水処理装置において、前記濃縮水におけるカルシウムイオン濃度が80mg/L以上であり、ランゲリア指数が0以下であることが好ましい。
【0016】
前記水処理装置において、前記被処理水中のアルミニウムイオン濃度を測定するアルミニウムイオン濃度測定手段と、前記アルミニウムイオン濃度測定手段で測定した前記被処理水中のアルミニウムイオン濃度に基づいて、前記スケール分散剤の添加濃度を制御する制御手段と、をさらに備えることが好ましい。
【0017】
前記水処理装置において、前記逆浸透膜処理における前記被処理水の流量を測定する被処理水流量測定手段、前記透過水の流量を測定する透過水流量測定手段、および前記濃縮水の流量を測定する濃縮水流量測定手段の3つのうち少なくとも2つをさらに備え、前記制御手段は、前記アルミニウムイオン濃度測定手段で測定した前記被処理水中のアルミニウムイオン濃度と、前記被処理水流量測定手段で測定した前記被処理水の流量、前記透過水流量測定手段で測定した前記透過水の流量、および前記濃縮水流量測定手段で測定した前記濃縮水の流量の3つのうちいずれか2つと、の数値に基づいて、前記スケール分散剤の添加濃度を制御することが好ましい。
【0018】
前記水処理装置において、前記逆浸透膜処理手段の前段に凝集処理手段をさらに備え、前記凝集処理手段の凝集剤としてアルミニウムを含む凝集剤を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によって、シリカとアルミニウムとを含む被処理水の逆浸透膜処理を行う水処理においてスケールの析出を抑制することができる水処理方法および水処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係る水処理装置の一例を示す概略構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る水処理装置の他の例を示す概略構成図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る水処理装置の他の例を示す概略構成図である。
【
図5】実施例1における運転時間(h)に対する補正Flux保持率(vs初期値)示すグラフである。
【
図6】実施例2における運転時間(h)に対する補正Flux保持率(vs初期値)示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0022】
本発明の実施形態に係る水処理方法は、シリカとアルミニウムとを含む被処理水を逆浸透膜に通水して透過水と濃縮水とを得る逆浸透膜処理を行う逆浸透膜処理工程を含み、濃縮水におけるシリカの濃度が溶解度以下であり、アルミニウムの濃度が0.1mg/Lを超え、被処理水にアクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重体を含むスケール分散剤を添加する、方法である。
【0023】
本発明の実施形態に係る水処理装置の一例の概略を
図1に示し、その構成について説明する。
【0024】
水処理装置1は、シリカとアルミニウムとを含む被処理水を逆浸透膜に通水して透過水と濃縮水とを得る逆浸透膜処理を行う逆浸透膜処理手段として、逆浸透膜処理装置12を備える。水処理装置1は、シリカとアルミニウムとを含む被処理水を貯留する被処理水槽10を備えてもよい。
【0025】
図1の水処理装置1において、被処理水槽10の被処理水入口には、被処理水配管14が接続されている。被処理水槽10の被処理水出口と逆浸透膜処理装置12の被処理水入口とは、被処理水配管16により接続されている。逆浸透膜処理装置12の透過水出口には、透過水配管18が接続され、濃縮水出口には、濃縮水配管20が接続されている。被処理水槽10の薬剤入口には、スケール分散剤添加配管22が接続されている。
【0026】
図1の水処理装置1において、シリカとアルミニウムとを含む被処理水は、被処理水配管14を通して必要に応じて被処理水槽10に貯留される。ここで、被処理水槽10において、被処理水にアクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重体を含むスケール分散剤が添加される(スケール分散剤添加工程)。スケール分散剤が添加された被処理水は、被処理水配管16を通して逆浸透膜処理装置12に送液される。スケール分散剤は、被処理水配管14または被処理水配管16においてライン添加されてもよい。
【0027】
逆浸透膜処理装置12において、被処理水は逆浸透膜に通水されて透過水と濃縮水とを得る逆浸透膜処理が行われる(逆浸透膜処理工程)。透過水は、透過水配管18を通して排出され、濃縮水は、濃縮水配管20を通して排出される。
【0028】
本発明者らの検討により、前述のとおり、逆浸透膜処理の濃縮水において、ランゲリア指数が0未満であり、鉄イオンがほとんど存在せず、アルミニウムイオン濃度が0.4mg/L以下であり、シリカが溶解度以下の濃度であっても、シリカがアルミニウムと複合することによってケイ酸アルミニウムとして析出し、スケールが析出することがわかった。
【0029】
また、本発明者らの検討により、前述のとおり、逆浸透膜処理の前処理としてアルミニウム系の凝集剤を用いて凝集処理などを行う場合、原水水質や水温、天候などによって最適な凝集剤の添加量が変動するために余裕を見てアルミニウム系の凝集剤を過剰に添加すると、この凝集剤由来のアルミニウムが逆浸透膜処理に流入し、スケール化の一因となることもわかった。
【0030】
本発明者らは、溶解度以下のシリカと、共存するアルミニウムとにより生成される複合スケールについて、アクリル酸を構成単量体として含むスケール分散剤を添加することによって、複合スケールの析出を抑制することができることを見出した。アクリル酸はカチオンをキレート化する効果があり、一般的には硬度向けのスケール分散剤として活用されている。このキレート効果が、アルミニウムにも発揮されることによって、複合スケールの析出抑制効果が得られると考えられる。
【0031】
用いるスケール分散剤は、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)との共重体を含む。この共重体の重量平均分子量は、特に制限はないが、例えば、2000~11000の範囲であり、4000~5000の範囲であることが好ましい。共重体の重量平均分子量が2000未満であると、スケール分散における立体障害効果が不十分となる場合があり、11000を超えると、逆浸透膜が閉塞する場合がある。この共重体におけるアクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸とのモル比は、特に制限はないが、例えば、80:20~70:30の範囲であり、78:22~72:28の範囲であることが好ましい。共重体におけるアクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸とのモル比において70:30よりアクリル酸の量が少ないと、カチオンをキレート化する能力が不十分になる場合があり、80:20より2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の量が少ないと、スケール分散剤ポリマー自体の荷電反発による分散力が不十分になる場合がある。
【0032】
濃縮水におけるシリカの濃度は、溶解度以下である。25℃におけるシリカの水に対する溶解度は、120mg/Lである。
【0033】
濃縮水におけるアルミニウムの濃度は、0.1mg/Lを超え、0.17mg/L以上であることが好ましい。濃縮水におけるアルミニウムの濃度が0.1mg/L以下であると、アルミニウム測定の精度から誤差が大きくなる場合がある。濃縮水におけるアルミニウムの濃度の上限値には特に制限はないが、例えば、10mg/Lである。
【0034】
濃縮水におけるカルシウムイオン濃度は、80mg/L以上であり、120mg/L以上であることが好ましい。濃縮水におけるカルシウムイオン濃度が80mg/L未満であると、シリカの溶解度に影響を与えない場合がある。濃縮水におけるカルシウムイオン濃度の上限値には特に制限はないが、例えば、1000mg/Lである。
【0035】
本発明者らは、このキレート効果は、カルシウムが被処理水に共存する場合、共存するカルシウムにも作用することを見出した。カルシウムはシリカと共存するとシリカのスケール化を促進すると考えられ、そのカルシウムをキレート化することによって、このスケール化促進作用を抑制することができると考えられる。
【0036】
濃縮水におけるランゲリア指数は、0以下であり、-0.1以下であることが好ましい。濃縮水におけるランゲリア指数が0を超えると、炭酸カルシウムが析出する場合がある。濃縮水におけるランゲリア指数の下限値には特に制限はないが、例えば、-3.0である。
【0037】
被処理水のpHは、例えば、4.0~10.0の範囲であり、5.5~9.0の範囲であることが好ましい。被処理水のpHが4.0未満であると、逆浸透膜の阻止率が急激に低下し透過水質が悪化する場合があり、10.0を超えると、逆浸透膜が加水分解により劣化する場合がある。
【0038】
被処理水中のアルミニウムイオン濃度に基づいて、スケール分散剤の添加濃度を決定し、制御してもよい。
【0039】
また、被処理水中のアルミニウムイオン濃度と、逆浸透膜処理における被処理水の流量、透過水の流量、および濃縮水の流量の3つのうちいずれか2つと、を例えば連続的に測定し、その数値に基づいて、スケール分散剤の添加濃度を決定し、制御してもよい。
【0040】
これらのような構成を有する水処理装置の一例を
図2に示す。
図2に示す水処理装置3は、被処理水中のアルミニウムイオン濃度を測定するアルミニウムイオン濃度測定手段として、アルミニウムイオン濃度測定装置30と、アルミニウムイオン濃度測定装置30で測定した被処理水中のアルミニウムイオン濃度に基づいて、スケール分散剤の添加濃度を制御する制御手段として、制御装置32と、を備える。水処理装置3は、逆浸透膜処理における被処理水の流量を測定する被処理水流量測定手段としての流量計24、透過水の流量を測定する透過水流量測定手段としての流量計26、および濃縮水の流量を測定する濃縮水流量測定手段としての流量計28の3つのうち少なくとも2つをさらに備えてもよい。
【0041】
水処理装置3において、被処理水槽10にアルミニウムイオン濃度測定装置30が設置されている。流量計24は、被処理水配管16に設置され、流量計26は、透過水配管18に設置され、流量計28は、濃縮水配管20に設置されている。流量計24,26,28のうち少なくとも2つが設置されていればよい。
【0042】
アルミニウムイオン濃度測定装置30としては、Aztec AW631(ABB製)、アルミニウムアナライザ Liqiline System CA80AL(Endress Hauser製)などを用いることができる。また、アルミニウムイオン濃度測定装置30として誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)装置を用いてもよい。ICP-MS装置としては、例えば、7850 ICP-MS(Agilent製)などを用いることができる。
【0043】
制御装置32は、アルミニウムイオン濃度測定装置30と、スケール分散剤添加配管22に設置されたスケール分散剤の添加量、添加時間などを調整するためのポンプやバルブなどの調整手段と、有線または無線で通信可能なように接続されている。これによって、被処理水中のアルミニウムイオン濃度に基づいて、スケール分散剤の添加濃度を決定し、制御することができる。
【0044】
制御装置32は、例えば、プログラムを演算するCPUなどの演算手段、プログラムや演算結果を記憶するROMおよびRAMなどの記憶手段などから構成されるマイクロコンピュータと電子回路などで構成され、ポンプの流量、バルブの開閉度などを制御する機能を有するものである。
【0045】
前述のとおり、逆浸透膜に流入するアルミニウムイオンの濃度は変動しやすいが、本発明者らは、アルミニウムイオン濃度を例えばオンラインで連続的に監視し、その濃度に基づいてスケール分散剤の添加量を決定し、制御することによって、逆浸透膜を安定して運転できることを見出した。アルミニウムイオン濃度は、逆浸透膜への給水(被処理水)においてアルミニウムイオン濃度測定装置30により例えばオンラインで連続的に測定し、流量計24で測定した被処理水の流量、流量計26で測定した透過水の流量、および流量計28で測定した濃縮水の流量のうちいずれか2つの比から求められる濃縮倍率から理論的なアルミニウムイオン濃度を算出し、これを用いればよい。濃縮水中のアルミニウムイオン濃度を直接測定する場合、既にシリカとの複合スケール生成にアルミニウムが消費されていることが考えられ、有効な数値でなくなる可能性があるためである。
【0046】
シリカとアルミニウムとを含む被処理水としては、シリカとアルミニウムとを含む水であればよく、特に制限はないが、例えば、凝集処理水、膜ろ過処理水、工業用水などが挙げられる。本実施形態に係る水処理方法および水処理装置は、特に凝集処理水の処理に好適に適用される。
【0047】
例えば、本実施形態に係る水処理方法は、逆浸透膜処理工程の前段に凝集処理工程を含んでもよい。凝集処理工程の凝集剤としてアルミニウムを含む凝集剤を用いてもよい。
【0048】
このような構成を有する水処理装置の一例を
図3に示す。
図3に示す水処理装置5において、逆浸透膜処理装置12(逆浸透膜処理工程)の前段に、凝集処理装置34(凝集処理工程)を備える。
【0049】
凝集処理装置34において、例えばアルミニウムを含む凝集剤を用いて工場排水、湖沼水、河川水などの凝集処理が行われる。凝集処理装置34で得られた凝集処理水がシリカとアルミニウムとを含む被処理水として水処理装置1,3と同様にして、被処理水配管14を通して必要に応じて被処理水槽10に貯留された後、逆浸透膜処理装置12において逆浸透膜に通水されて透過水と濃縮水とを得る逆浸透膜処理が行われる(逆浸透膜処理工程)。ここで、被処理水槽10などにおいて、被処理水にアクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重体を含むスケール分散剤が添加される(スケール分散剤添加工程)。
【0050】
凝集処理装置34としては、凝集処理を行うものであればよく、特に制限はないが、例えば、凝集沈殿処理装置、凝集加圧浮上処理装置、凝集膜ろ過処理装置などが挙げられる。
【0051】
本明細書は、以下の実施形態を含む。
(1)シリカとアルミニウムとを含む被処理水を逆浸透膜に通水して透過水と濃縮水とを得る逆浸透膜処理を行う逆浸透膜処理工程を含み、
前記濃縮水におけるシリカの濃度が溶解度以下であり、アルミニウムの濃度が0.1mg/Lを超え、前記被処理水にアクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重体を含むスケール分散剤を添加する、水処理方法。
【0052】
(2)(1)に記載の水処理方法であって、
前記濃縮水におけるカルシウムイオン濃度が80mg/L以上であり、ランゲリア指数が0以下である、水処理方法。
【0053】
(3)(1)または(2)に記載の水処理方法であって、
前記被処理水中のアルミニウムイオン濃度に基づいて、前記スケール分散剤の添加濃度を制御する、水処理方法。
【0054】
(4)(3)に記載の水処理方法であって、
前記被処理水中のアルミニウムイオン濃度と、前記逆浸透膜処理における前記被処理水の流量、前記透過水の流量、および前記濃縮水の流量の3つのうち少なくとも2つと、を測定し、その数値に基づいて、前記スケール分散剤の添加濃度を制御する、水処理方法。
【0055】
(5)(1)~(4)のいずれか1つに記載の水処理方法であって、
前記逆浸透膜処理工程の前段に凝集処理工程をさらに含み、前記凝集処理工程の凝集剤としてアルミニウムを含む凝集剤を用いる、水処理方法。
【0056】
(6)シリカとアルミニウムとを含む被処理水を逆浸透膜に通水して透過水と濃縮水とを得る逆浸透膜処理を行う逆浸透膜処理手段と、
前記被処理水にアクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重体を含むスケール分散剤を添加する添加手段と、
を備え、
前記濃縮水におけるシリカの濃度が溶解度以下であり、アルミニウムの濃度が0.1mg/Lを超える、水処理装置。
【0057】
(7)(6)に記載の水処理装置であって、
前記濃縮水におけるカルシウムイオン濃度が80mg/L以上であり、ランゲリア指数が0以下である、水処理装置。
【0058】
(8)(6)または(7)に記載の水処理装置であって、
前記被処理水中のアルミニウムイオン濃度を測定するアルミニウムイオン濃度測定手段と、
前記アルミニウムイオン濃度測定手段で測定した前記被処理水中のアルミニウムイオン濃度に基づいて、前記スケール分散剤の添加濃度を制御する制御手段と、
をさらに備える、水処理装置。
【0059】
(9)(8)に記載の水処理装置であって、
前記逆浸透膜処理における前記被処理水の流量を測定する被処理水流量測定手段、前記透過水の流量を測定する透過水流量測定手段、および前記濃縮水の流量を測定する濃縮水流量測定手段の3つのうち少なくとも2つをさらに備え、
前記制御手段は、前記アルミニウムイオン濃度測定手段で測定した前記被処理水中のアルミニウムイオン濃度と、前記被処理水流量測定手段で測定した前記被処理水の流量、前記透過水流量測定手段で測定した前記透過水の流量、および前記濃縮水流量測定手段で測定した前記濃縮水の流量の3つのうちいずれか2つと、の数値に基づいて、前記スケール分散剤の添加濃度を制御する、水処理装置。
【0060】
(10)(6)~(9)のいずれか1つに記載の水処理装置であって、
前記逆浸透膜処理手段の前段に凝集処理手段をさらに備え、前記凝集処理手段の凝集剤としてアルミニウムを含む凝集剤を用いる、水処理装置。
【実施例0061】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
<実施例1、比較例1>
4インチ逆浸透膜エレメントを有する
図4に示す実験装置を用いて通水試験を実施した。逆浸透膜処理の被処理水としては、純水原水となる表流水を想定して作製した、模擬水を使用した。被処理水のイオン状シリカの濃度は、メタケイ酸ナトリウムを用いて33mg/Lとなるように調整し、アルミニウムイオンの濃度は、塩化アルミニウムを用いて表1に示す所定の濃度となるように調整した。その他、被処理水のカルシウムイオンの濃度を120mg/L~240mg/Lとなるように塩化カルシウムを用いて調整し、炭酸水素イオンの濃度を32mg/Lとなるように炭酸水素ナトリウムを用いて調整し、ランゲリア指数が0未満(-0.62)となるように、pH=6.5となるように塩酸を用いて調整した。逆浸透エレメントへの通水は、25±3℃の室温で行った。流量計(透過流量センサー)を用いて透過水の流量を測定し、流量計(濃縮流量センサー)を用いて濃縮水の流量を測定し、透過水の流量が140L/hとなるように、濃縮水の流量が60L/hとなるように運転した。スケール分散剤としては、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)との共重合体であり、アクリル酸とAMPSのモル比が3:1で構成され、重量平均分子量が4000~5000の範囲であるポリマーを使用し、表1に示す所定の濃度となるように被処理水に添加した。実験により得られた、運転時間(h)に対する補正Flux保持率(初期値に対する保持率)を
図5に示す。安定運転期間を下記基準で評価した。結果を表1に示す。なお、「補正Flux」とは、通常のFlux(透過水量÷膜面積)に、操作圧補正(実際の操作圧で割る)、浸透圧補正(被処理水の浸透圧分を操作圧から減算する)、水温補正(水温ごとに定められた補正係数を乗じる)を行ったものを指し、「補正Flux=透過水量÷(操作圧-浸透圧)×水温補正係数」となる。
【0063】
(運転期間)
◎:Flux低下傾向ほとんど見られず
〇:約6か月でFlux低下見込み
△:約3か月でFlux低下
×:約1か月でFlux低下
【0064】
【0065】
図5からわかるように、実施例では、比較例に比べてFluxの低下が抑制された。
【0066】
<実施例2,3>
実施例1の試験装置を使用して、アルミニウムの濃度に応じてスケール分散剤の添加量を制御する通水試験を行った。被処理水は実施例1と同じ模擬水を使用した。逆浸透膜の濃縮水のアルミニウムの濃度を、0.17mg/Lと0.29mg/Lに変化させた。実施例2では、濃縮水のアルミニウム濃度が0.17mg/Lのときはスケール分散剤の濃度を濃縮水において6.7mg/Lとなるように添加し、0.29mg/Lのときは、濃縮水において100mg/Lとなるように添加した。実施例3では、アルミニウム濃度に関わらずスケール分散剤の濃度を濃縮水において6.7mg/Lとなるように添加した。被処理水のアルミニウム濃度をアルミニウムイオン濃度測定装置として誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)装置(7850 ICP-MS、Agilent製)を用いて測定した。運転時間(h)に対する補正Flux保持率(初期値に対する保持率)を
図6に示す。
【0067】
図6からわかるように、実施例2ではアルミニウムの濃度に応じてスケール分散剤の添加量を制御することによって、実施例3に比べてFluxの低下が抑制された。
【0068】
このように、実施例によって、シリカとアルミニウムとを含む被処理水の逆浸透膜処理を行う水処理においてスケールの析出を抑制することができた。
1,3,5 水処理装置、10 被処理水槽、12 逆浸透膜処理装置、14,16 被処理水配管、18 透過水配管、20 濃縮水配管、22 スケール分散剤添加配管、24,26,28 流量計、30 アルミニウムイオン濃度測定装置、32 制御装置、34 凝集処理装置。