(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111645
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】断熱ブロック、断熱壁の製造方法、断熱壁、および、工業炉
(51)【国際特許分類】
F27D 1/14 20060101AFI20240809BHJP
【FI】
F27D1/14 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016272
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】522123566
【氏名又は名称】マフテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】523041919
【氏名又は名称】ミノセラム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】秦 雄作
(72)【発明者】
【氏名】小林 友幸
(72)【発明者】
【氏名】林 賢一
【テーマコード(参考)】
4K051
【Fターム(参考)】
4K051AA03
4K051AB01
4K051AB03
4K051AB07
4K051AB09
4K051BB04
4K051BC00
(57)【要約】
【課題】断熱ブロックを炉殻に強固に固定することができると共に、断熱ブロックの現場での施工性が良好である、断熱ブロック、断熱壁の製造方法、該方法により施工された断熱壁、該断熱壁を備える工業炉を提供する。
【解決手段】折りたたまれた無機繊維集合体のマット、ビームを備えたブロック固定用金具を備え、前記ビームが、前記折りたたまれた無機繊維集合体のマットの折り目の内側に挿入された状態で、前記ビームと前記折りたたまれた無機繊維集合体のマットとが固定されており、前記ブロック固定用金具が、前記折りたたまれた無機繊維集合体のマットの外側に位置しており、前記ビームが前記前記折りたたまれた無機繊維集合体のマットを支持する支持点が前記折りたたまれた無機繊維集合体のマットの外側に位置する、断熱ブロック。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
折りたたまれた無機繊維集合体のマット、ビームを備えたブロック固定用金具を備え、
前記ビームが、前記折りたたまれた無機繊維集合体のマットの折り目の内側に挿入された状態で、前記ビームと前記折りたたまれた無機繊維集合体のマットとが固定されており、
前記ブロック固定用金具が、前記折りたたまれた無機繊維集合体のマットの外側に位置しており、
前記ビームが前記前記折りたたまれた無機繊維集合体のマットを支持する支持点が前記折りたたまれた無機繊維集合体のマットの外側に位置する、
断熱ブロック。
【請求項2】
前記ビームと、前記折りたたまれた無機繊維集合体のマットとの固定が、ビームに設けられた刃を、前記折りたたまれた無機繊維集合体のマットに刺すことにより行う、請求項1に記載の断熱ブロック。
【請求項3】
前記ビームを備えたブロック固定用金具が、ビームの両側にブロック固定用金具を備える形態である、請求項1または2に記載の断熱ブロック。
【請求項4】
前記断熱ブロックが、炉殻に設置する側の面に、少なくとも2つ以上の折り目を有する、請求項1または2に記載の断熱ブロック。
【請求項5】
前記ビームを備えたブロック固定用金具が、少なくとも2つ以上のビームを備える、請求項1または2に記載の断熱ブロック。
【請求項6】
請求項1または2に記載の断熱ブロックを炉殻へ取り付けることにより、炉殻に断熱壁を形成する断熱壁の製造方法。
【請求項7】
炉殻へ取り付けられた、請求項1または2に記載の複数の断熱ブロックを備える、断熱壁。
【請求項8】
請求項7に記載の断熱壁を備える、工業炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱ブロック、断熱壁の製造方法、断熱壁、および、工業炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加熱炉などの炉殻鉄皮の内面に断熱壁を形成するには、キャスタブルと呼ばれる耐熱コンクリートが使用されていた。近年、断熱壁の施工性、形成した断熱壁の断熱性の点から、キャスタブルに替えて、耐火性および断熱性を有する無機繊維からなる断熱材を内張することが行われている。
【0003】
無機繊維からなる断熱材によって断熱壁を形成する方法としては、無機繊維マットを炉殻(鉄皮面)に平行に積層し、炉殻に直角に設けたスタッドによって固定するペーパーライニング法、無機繊維マットを炉殻に直角に積層し、炉殻に直角に固定された固定金具及びこの固定金具に固定され無機繊維マットを炉殻に平行に貫通するロッドによって固定するスタックライニング法(いわゆるHアンカー工法)、無機繊維マットをブロック化しその一つの面に断熱ブロック固定用取付金具(以下、「ブロック固定金具」という場合がある。)を取付けてなる断熱ブロックを、炉殻に直角に設けたスタッドにブロック固定金具を介して取り付けるモジュール法(例えば、特許文献1)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらのうち、スタックライニング法は、製造コストが安く、施工が早いという利点があるが、無機繊維マットにロッドを横串にするという構造から、ロッドが無機繊維マットを点で支える構造であるため、固定金具が無機繊維のマットを支えきれないという問題があり、炉殻(特に天井)から無機繊維のマットが落ちる、または、無機繊維マットと炉殻との間に隙間ができるといった問題点があった。また、施工する現場にて、無機繊維マットに横串を刺す位置が施工者に委ねられており、この位置がずれることがあり、施工精度が悪いという問題点があった。
【0006】
また、モジュール法は、ビームによって、無機繊維マットを面で支える構造であるため、無機繊維マットを炉壁に強固に固定することができる構造であるが、固定金具が断熱ブロックの背面に存在し、該固定金具に存在する孔に、炉殻に立設しているスタッドを挿入することで、断熱ブロックと炉殻とを固定する構造となっている。このため、断熱ブロックを施工する作業者が、施工の際に、断熱ブロックの裏側の固定金具およびスタッドを目視することができず、その状態での作業のため、設置に時間がかかってしまうという問題があった。
なお、断熱壁を施工する加熱炉内は、炉を停止して長時間経過していたとしても、炉全体に熱が残存してしまうため、高温多湿状態となっている。よって、加熱炉内は、作業者にとって、狭い、暗い、むし暑いという、好ましくない作業環境であると言える。このため、断熱壁の設置は、簡易な方法で、短時間で行えるものであることが、要望されている。
【0007】
以上より、本発明は、断熱ブロックを炉殻に強固に固定することができると共に、断熱ブロックの現場での施工性が良好である、断熱ブロック、断熱壁の製造方法、該方法により施工された断熱壁、該断熱壁を備える工業炉を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の事項を見出した。
・無機繊維集合体のマットを折りたたんで形成した断熱ブロックの折り目の内側にブロック固定用金具のビームを挿入し固定して断熱ブロックとすることで、無機繊維集合体のマットをビームが面で支えることになり、無機繊維集合体のマットを強固に炉殻に固定することができる。
・上記断熱ブロックにおいて、ブロック固定用金具は、折りたたまれた無機繊維集合体のマットの外側に位置している。よって、断熱壁の施工時において、作業者が、炉殻に立設されたスタッドとブロック固定用金具とを接続する作業を目視しながら行うことが可能となり、施工性が向上する。
・上記断熱ブロックにおいては、ブロック固定用金具のビームが断熱ブロックを支持する支持点が、断熱ブロックの外側に位置しており、この点で、従来の断熱ブロックとは異なる構造を備えるものである。
【0009】
以上の事項を元に、本発明者は以下の発明を完成させた。
[1] 折りたたまれた無機繊維集合体のマット、ビームを備えたブロック固定用金具を備え、
前記ビームが、前記折りたたまれた無機繊維集合体のマットの折り目の内側に挿入された状態で、前記ビームと前記折りたたまれた無機繊維集合体のマットとが固定されており、
前記ブロック固定用金具が、前記折りたたまれた無機繊維集合体のマットの外側に位置しており、
前記ビームが前記前記折りたたまれた無機繊維集合体のマットを支持する支持点が前記折りたたまれた無機繊維集合体のマットの外側に位置する、
断熱ブロック。
【0010】
[2] 前記ビームと、前記折りたたまれた無機繊維集合体のマットとの固定が、ビームに設けられた刃を、前記折りたたまれた無機繊維集合体のマットに刺すことにより行う、[1]に記載の断熱ブロック。
[3] 前記ビームを備えたブロック固定用金具が、ビームの両側にブロック固定用金具を備える形態である、[1]または[2]に記載の断熱ブロック。
[4] 前記断熱ブロックが、炉殻に設置する側の面に、少なくとも2つ以上の折り目を有する、[1]または[2]に記載の断熱ブロック。
[5] 前記ビームを備えたブロック固定用金具が、少なくとも2つ以上のビームを備える、[1]または[2]に記載の断熱ブロック。
【0011】
[6] [1]または[2]に記載の断熱ブロックを炉殻へ取り付けることにより、炉殻に断熱壁を形成する断熱壁の製造方法。
[7] 炉殻へ取り付けられた、[1]または[2]に記載の複数の断熱ブロックを備える、断熱壁。
[8] [7]に記載の断熱壁を備える、工業炉。
【発明の効果】
【0012】
本発明の断熱ブロックによれば、炉殻への設置の際に、取り付け作業を目視しながら行うことができ施工性が良好であり、施工作業の簡便化、および、作業時間の短縮化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の断熱ブロック100の斜視図である。
【
図2】
図2(a)は、ブロック固定用金具20の背面側斜視図であり、
図2(b)は側面図である。
【
図3】
図3は、ブロック固定用金具20の正面側斜視図である。
【
図4】
図4(a)(b)は、別の形態のブロック固定用金具20の背面側斜視図である。
【
図5】
図5は、別の形態のブロック固定用金具20の正面側斜視図である。
【
図6】
図6(a)(b)は、さらに別の形態のブロック固定用金具20正面側斜視図である。
【
図7】
図7は、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10に、ブロック固定用金具20の刃26を突き刺した状態を、炉殻側から見た様子を示す模式図である。
【
図8】
図8は、炉殻30に、本発明の断熱ブロック100を設置する様子を示した模式図である。
【
図9】
図9(a)~(c)は、ビームが断熱ブロックを支持する支持点の位置を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態の一例としての、断熱ブロック、断熱壁の製造方法、断熱壁、および、工業炉について説明する。ただし、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
なお、数値範囲を示す「a~b」の記述は、特にことわらない限り「a以上b以下」を意味すると共に、「好ましくはaより大きい」及び「好ましくはbより小さい」の意を包含するものである。
また、本明細書における数値範囲の上限値及び下限値は、本発明が特定する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含するものとする。
【0015】
<断熱ブロック100>
本発明の断熱ブロック100は、
図1に斜視図を示すように、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10、ビームを備えたブロック固定用金具20を備え、該ビームが折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の折り目の内側に挿入された状態で、ブロック固定用金具20と折りたたまれた無機繊維集合体のマット10とが固定されている。
なお、
図1では、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の圧縮状態を保つために、バンド14により固定されている。
【0016】
(折りたたまれた無機繊維集合体のマット10)
折りたたまれた無機繊維集合体のマット10を形成する無機繊維は、特に制限されないが、例えば、シリカ、アルミナ/シリカ、これらを含むジルコニア、スピネル、チタニア及びカルシアの単独、または複合繊維が挙げられる。中でも、特に好ましいのは、耐熱性、繊維強度(靱性)、安全性の点で、アルミナ/シリカ系繊維、特に多結晶質アルミナ/シリカ系繊維である。特に、アルミナ比が70~80質量%でシリカ比が30~20質量%のアルミナ/シリカ繊維が好ましい。
【0017】
無機繊維集合体のマット10としては、安全性を確保しつつ、耐熱性や耐久性を高めるという理由により、実質的に繊維径3μm以下を含まない無機繊維の集合体にニードリング処理が施されたマット(ニードルブランケット)が好ましい。
無機繊維集合体の嵩密度は特に限定されないが、形成される断熱ブロック100の耐熱性および強度の点から、85kg/m3~150kg/m3が好ましく、90kg/m3~140kg/m3がさらに好ましい。
無機繊維集合体のマットの厚みは適宜選択されるが、施工性や強度の点から10~30mmが好ましく、12.5~27mmがより好ましい。厚みが薄くなりすぎると、施工に手間がかかり、厚みが厚すぎると折りたたんだ時に、構造体を維持しづらいという問題点がある。
無機繊維集合体のマットのサイズは、特に限定されず、炉殻の施工場所に応じて、適宜好適な大きさに切り出して対応可能である。
【0018】
・無機繊維集合体のマットの折りたたみ方法
無機繊維集合体のマットの折りたたみ方法は、断熱ブロック100の炉殻に設置する側の面(
図1における左奥側の面P1)に折り目を有するのであれば、特に制限されない。断熱ブロック100を炉殻に強固に固定する観点から、断熱ブロック100の炉殻に設置する側の面P1には、折り目が少なくとも2つ以上あることが好ましく、4つ以上あることがより好ましい。折り目の数の上限は断熱ブロック100の大きさに依存するが、10個以下が好ましく、8個以下がより好ましい。なお、
図1に示した形態では、断熱ブロック100の炉殻に設置する側の面P1に、折り目が5つ形成されている。
【0019】
無機繊維集合体のマットの折りたたみ方法は、
図1に示すように、一つの長尺マットを九十九折りしたものであってもよいし、複数の長尺マットを九十九折りしたものを組み合わせたものであってもよいし、または、二つに折りたたんだマットを複数準備し、これらの折り目を面P1側に揃えてまとめたものであってもよい。
【0020】
断熱ブロック100の嵩密度に関して特に制限はないが、96kg/m3~160kg/m3が好ましく、100kg/m3~140kg/m3が好ましい。断熱ブロック100を構成する折りたたまれた無機繊維集合体のマットは、最終的には、圧縮された状態となっていることが好ましい。つまり、後に示すビームを備えた固定用金具20のビームを挿入固定した状態で、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10を圧縮することが好ましい。
【0021】
圧縮率は、断熱ブロック100の耐熱性と耐久性を高める観点から、10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましい。また、ビームの変形を防ぐ観点から、上限は40%以下とすることが好ましい。なお、圧縮率を高くすることで、断熱ブロック100の嵩密度が大きくなり、断熱ブロック100の耐熱性が向上する。
【0022】
断熱ブロック100は、アルミナロープなどで縫製して、圧縮したり、構造を保持したりすることができる。また、無機繊維集合体のマットを折りたたんで積層し、圧縮面の両側をベニヤ板や金属板などで抑えて圧縮し、バンド14などで固定することで、断熱ブロック100の嵩密度を高めることもできる。
図1では、バンド14のみで圧縮を保持する形態を示したが、バンド14と折りたたまれた無機繊維集合体のマット10との間に、ベニヤ板などを設置して圧縮させることにより、圧縮率を高めて断熱ブロック100の嵩密度をより向上させることができる。
各断熱ブロック100は、施工後にバンド14を切断することによって、圧縮を開放し、断熱ブロック100同士を密着させて、炉殻に固定することができる。
【0023】
(ビームを備えたブロック固定用金具20)
本発明の断熱ブロック100は、該断熱ブロック100の製造段階において、上記した折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の折り目の内側に、ビームを備えたブロック固定用金具20のビームが挿入され、該ビームと無機繊維集合体のマットとが固定され、これにより、ブロック固定用金具20と折りたたまれた無機繊維集合体のマット10とが固定される。また、本発明の断熱ブロック100は、ブロック固定用金具20を介して炉殻に固定される。
【0024】
図2、3に、ビームを備えたブロック固定用金具20の一実施形態を示す。
図2(a)が背面側斜視図であり、
図2(b)が側面図であり、
図3が正面側斜視図である。なお、断熱ブロック100が炉殻に設置された際において、炉殻側となる面を背面、炉内側となる面を正面としている。
図2に示した固定用金具20は、炉殻に取り付ける面を備える本体プレート22A、該本体プレート22Aから立設する立設片22B、該立設片22Bから炉殻に平行な方向に延びるビーム24A、24Bを備える。
なお、立設片22Bは、
図2,3に示したように、L字のプレートまたは平面のプレートを折り曲げてL字としたプレートを使用することが、溶接の工数低減、固定用金具20の強度、および、固定用金具20の加工性の点から、好ましい。
プレートや立設片の材質は適宜選択できるが、耐熱性の観点からステンレス304やステンレス310S等を使用することが好ましい。またプレートや立設片の厚みは適宜調整できるが、0.5~2mmの厚みにすることが好ましい。これより薄くなると強度不足となり、これより厚いと加工性が悪くなり、またコスト高となる。
【0025】
ブロック固定用金具20が備えるビーム24の数は、断熱ブロック100における折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の炉殻側の折り目の数と同じか、それよりも少ない数となっており、好ましくは2つ以上、より好ましくは4つ以上である。また、ビーム24の数が増えると、断熱ブロック100を炉殻に固定する強度が高くなるが、ビーム24を、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の折り目の内側に挿入する際の加工性が悪くなるので、ビーム24の数の上限は、6以下が好ましい。
図2に示した形態のブロック固定用金具20は、合計2つのビーム24A、24Bを備えている。
ビームの材質は適宜選択できるが、耐熱性の観点からステンレス304やステンレス310S等を使用することが好ましい。またビームの直径は3~7mmが好ましい。これよりも細いと強度不足となり断熱ブロックを支えることが出来ず、これより太いと加工性が悪くまたコスト高になってしまう。
【0026】
図2に示したブロック固定用金具20が備えるビーム24A、24Bは、それぞれ、刃26を備えている。具体的には、ビーム24Aは、4枚の刃26aa、26bbを備えており、ビーム24Bも、4枚の刃26cc、26ddを備えている。なお、図面上では、一枚で表示されている各刃は、実際には二枚重なった状態となっている。
本発明の断熱ブロック100を製造する際には、ブロック固定用金具20のビーム24を、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の折り目の内側に挿入し、各刃26を、折り目の内側から無機繊維集合体のマットに刺して、炉殻側に突き抜けさせる。
図7に、刃26が、無機繊維集合体のマットから突き抜けて、炉殻側に飛び出している状態を示す模式図を示す。
例えば、飛び出した刃26aaは、二枚の刃がそれぞれ図示左右方向に折り曲げられ、これにより、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10とブロック固定用金具20とが固定される。なお、無機繊維集合体のマット10とブロック固定用金具20との固定は、刃26を折り曲げて固定する方法が、作業性の観点から好ましい。
【0027】
図2(a)に示した、ビーム24Aとビーム24Bの間の距離W1は、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の炉殻に設置する側の面P1側の折り目と折り目の距離に対応している。例えば、
図1に示した形態では、炉殻に設置する側の面P1側には、5つの折り目が存在しており、
図2に示したブロック固定用金具20を用いた場合、図示手前から二番目の折り目にビーム24Bが挿入され、4番目の折り目にビーム24Aが挿入され、ビーム24Bとビーム24Aとの間には、4枚の無機繊維集合体のマットが存在していることになる。つまり、ビーム24Aとビーム24Bの間の距離W1は、圧縮された状態の4枚の無機繊維集合体のマットの幅に相当する。
【0028】
ビーム24同士の幅W1と、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の折り目の位置とを調整する方法としては、断熱ブロック100を製造する際に、無機繊維集合体のマットの厚みを選択したり、無機繊維集合体のマットの圧縮率を適宜調整することにより行ってもよいし、あるいは、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10におけるビーム24を挿入する折り目同士の距離に合わせて、ブロック固定用金具20のビーム24とビーム24との幅W1を調整してブロック固定用金具20を作製してもよい。
もしくは、ビーム24を折りたたまれた無機繊維集合体のマット10に挿入し固定した状態で圧縮し、圧縮を保持した後、立設片22Bをビーム24と溶接することで、ブロック固定用金具20を事後的に製造しても構わない。こうすることで、無機繊維集合体のマットの圧縮率に関わらずビーム24を曲げることなく、固定用金具20と折りたたまれた無機繊維集合体のマット10とを取り付けることが可能となる。
【0029】
図示した形態のブロック固定用金具20では、ビーム24は、立設片22Bから炉殻に平行な方向に延びるように設置されているが、ビーム24は、炉殻側から高さW2隔てて立設片22Bに取り付けられている。この高さW2は、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10における折り目部分の無機繊維集合体のマットの厚みに対応している。よって、使用する無機繊維集合体のマットの厚みに合わせて、ブロック固定用金具20のビーム24の高さW2を調整するか、あるいは、ブロック固定用金具20のビーム24の高さW2に合わせて、無機繊維集合体のマットの厚みが選択される。なおW2の高さを無機繊維集合体のマットの厚みより若干短くすることで、断熱ブロック100と炉殻との僅かな隙間をなくすことができる。
【0030】
後に、ブロック固定用金具20を炉殻へ取り付ける方法を説明するが、
図2、3に示したブロック固定用金具20は、本体プレート22Aの中央部に、炉殻に立設されたスタッドを挿入するための孔28を有している。
また、ビーム24は、該ビーム24により、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10を支える構造であるため、断熱ブロック100のY1方向の長さの1/3以上の長さを有していることが好ましく、1/2以上の長さを有していることがより好ましく、2/3以上の長さを有していることがさらに好ましい。また、長すぎると折りたたまれた無機繊維集合体のマット10からはみ出して、他の断熱ブロックに干渉してしまうので、長さの上限は折りたたまれた無機繊維集合体のマット10のY1方向の長さとすることが好ましい。
【0031】
図4、5に、別の形態のブロック固定用金具20を示す。
図4(a)(b)が、背面側斜視図であり、
図5が正面側斜視図である。なお、本発明の断熱ブロック100が炉殻に設置された際において、炉殻側となる面を背面、炉内側となる面を正面としている。
図4、5に示したブロック固定用金具20は、ビーム24A、24Bの両側に本体プレート22A1および立設片22B1と、本体プレート22A2および立設片22B2とを備えている。
【0032】
図4、5に示したブロック固定用金具20を用いる場合は、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10は、ブロック固定用金具20の立設片22B1と立設片22B2との間に設置される。
図4、5に示したブロック固定用金具20では、ビーム24A、24Bは、それぞれ、ビームの長さ方向中央部に刃26aa、26bbを備えている。
図4、5に示したビームの両端に、本体プレートと立設片を有するブロック固定用金具20を用いる場合は、二つの本体プレートにより断熱ブロック100を炉殻に固定する構造であるので、より強固に固定できるという利点がある。
【0033】
W1、W2や、本体プレート22A1に設けられた孔28については、上記した
図2、3に示したブロック固定用金具20における場合と同様である。また、
図4、5に示したブロック固定用金具20では、
図4(a)の図示左側の本体プレート22A2には、孔が設けられておらず、代わりに、切り欠き29が形成されている。
図4,5のブロック固定用金具20を備える断熱ブロック100の設置時においては、すでに設置された隣接する断熱ブロック100における本体プレート22A1と炉殻との間に、次に設置する断熱ブロック100の本体プレート22A2を入れることで、ブロック固定用金具20の一方側(断熱ブロック100の一方側)を固定する。これにより、断熱ブロック100の設置時のビス止め作業が簡略化され、断熱ブロック100の施工性をより向上させることができる。
また、
図4、
図5の本体プレート22A1の立設片22B1に金属棒を立てることで、断熱ブロック100と断熱ブロック100の間に断熱ブランケットを設置する際に、断熱ブランケットがずれにくくなり、断熱性を向上させることができる。
【0034】
図6に、さらに別の形態のブロック固定用金具20を示す。この形態のブロック固定用金具20は、本体プレート22Aに立設片を形成せずに、本体プレート22Aから直接L字またはコの字のビーム24A、24Bが形成されている。図示左側が炉殻側、図示右側が炉内側である。このような形態のブロック固定用金具20であっても、本願発明の所定の効果を奏することが可能である。
【0035】
(折りたたまれた無機繊維集合体のマット10とブロック固定用金具20との位置関係)
上記したブロック固定用金具20は、ビーム24を、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の折り目の内側に挿入して、折り目の内側において、刃26を無機繊維集合体のマットに突き刺して固定することで、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10とブロック固定用金具20とが固定される。そして、圧縮などの所定の処理を経て、本発明の断熱ブロック100が製造される。
【0036】
本発明の断熱ブロック100は、ブロック固定用金具20が折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の外側に位置している。詳細には、ブロック固定用金具20のビーム24と刃26以外の部分である、本体プレート22Aと立設片22Bとが折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の外側に位置している(構造A)。
このような構造とすることにより、本発明の断熱ブロック100を炉内側(
図1のP2側)から見た際に、本体プレート22Aの孔28を視認することが可能となる。これにより、本発明の断熱ブロック100を炉殻に設置する際に、作業者が、炉殻に設置されたスタッドと、断熱ブロックの孔28とを確認しながら、断熱ブロック100の設置作業を進めることができる。
【0037】
また、本発明の断熱ブロック100では、ビーム24が前記折りたたまれた無機繊維集合体のマット10を支持する支持点が折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の外側に位置している(構造B)。本発明の断熱ブロック100は、構造A、構造Bを備える点において、従来の断熱ブロックと異なっており、これにより従来の断熱ブロックでは得られない上記効果を奏するものである。
【0038】
(ビーム24が折りたたまれた無機繊維集合体のマット10を支持する支持点の位置について)
上記したように、固定用金具20のビーム24が折りたたまれた無機繊維集合体のマット10を支持する支持点が、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の外側に位置しており、この点で、従来の断熱壁とは異なる構造(構造B)を備えるものである。
【0039】
上記支持点について、
図9を用いて説明する。
図9(a)には、固定用金具20として、
図4、5に示した形態のものを使用した断熱ブロック100を側面から透視して見た模式図である。図示下側が炉殻側であり、図示上側が炉内側である。この形態において、ビーム24が折りたたまれた無機繊維集合体のマット10を支持する支持点は、支持点35Aとなる。
【0040】
図9(b)には、固定用金具として、
図6(b)に示した形態のものを使用した断熱ブロック100を側面から透視して見た模式図である。図示下側が炉殻側であり、図示上側が炉内側である。この形態において、ビーム24が折りたたまれた無機繊維集合体のマット10を支持する支持点は、支持点35Bまたは支持点35Cのいずれかとなる。
【0041】
上記のように、本発明の断熱ブロック100においては、ビーム24が折りたたまれた無機繊維集合体のマット10を支持する支持点の位置は、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の外側に位置することになる。ここで、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の外側とは、炉内側(
図9の上側)から見て、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の外側に位置していること、つまり、炉内側から見て、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の位置と、支持点の位置とが重なっていないことを意味する。
なお、ビーム24の長さを短くすることで立設片22Bもしくは本体プレート22Aを折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の内側に位置させることもできるが、支持点が外側にあるほうが断熱ブロックの加工性の観点から好ましい。
【0042】
図9(c)に、従来の形態の断熱ブロック(例えば特許文献1に記載の形態)を側面から透視して見た模式図を示す。特許文献1に記載の断熱ブロックでは、無機繊維集合体のマットの内側にビーム52を入れ込んで、固定用金具50を、断熱ブロックの炉壁側面の略中央部に設置している。この場合、ビーム52が折りたたまれた無機繊維集合体のマット10を支持する支持点は、支持点55D、55Eのいずれかとなるが、いずれの位置も、炉内側(紙面上側)から見て、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の内側に位置しており、炉内側から見て、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の位置と、支持点の位置とが重なっている。
【0043】
<断熱ブロックの製造方法>
本発明の断熱ブロックの製造方法は、無機繊維集合体のマットを折りたたむ工程、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の折り目の内側にブロック固定用金具20のビーム24を挿入する工程、ビーム24に設けた刃26を無機繊維集合体のマットに突き刺す工程、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の炉殻側面P1から突き出た刃26を折り曲げてブロック固定用金具20と折りたたまれた無機繊維集合体のマット10とを固定する工程、を備えている。
【0044】
また、さらに、上記工程の後に、圧縮工程を備えていることが好ましい。圧縮方向は、
図1に示したX1方向であり、各無機繊維集合体のマットの厚みが薄くなるように、圧縮される。圧縮後は、圧縮を保持すべく、バンド14などにより拘束されるが、その際に、圧縮方向の表裏面に板等を介してバンド14で締めることで、バンド14により無機繊維集合体のマット10が損傷することが防止できる。
【0045】
<断熱壁の製造方法>
本発明の断熱壁の製造方法は、上記した断熱ブロック100を炉壁へ取り付けることにより、炉殻に断熱壁を形成する方法である。
断熱壁の形成位置は、特に限定されず、炉の内側の側面、底面、天井のいずれであっても構わないが、本発明の断熱壁の製造方法によると、断熱ブロック100を強固に炉殻に固定することが可能である点から、断熱ブロック100の重力により、炉殻から剥がれ落ち易い天井に設置する場合に、大きな効果を発揮する。
【0046】
本発明の断熱ブロック100は、上記した構造Aおよび構造Bを備えているので、ブロック固定用金具20が、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の外側に出ている。詳細には、断熱ブロック100を炉内側(
図1のP2方向)から見た際に、ブロック固定金具20の固定プレート22Aが、折りたたまれた無機繊維集合体のマット10の外側に出ている。
【0047】
図8に、炉殻30に、断熱ブロック100を設置する様子を示す概念図を示す。炉内にて断熱壁を形成する作業者は、断熱ブロック100を炉壁30に設置する際に、固定プレート22Aの孔28を視認することが可能であり、炉殻30上に設置されたスタッド32に、固定プレート22Aの孔28を通す作業、および、その後に、スタッド32をナットなどでねじ止めする作業を、すべて視認しながら行うことができる。
【0048】
先にも記載したが、炉内は、暗く、暑く、湿度が高く、狭く、非常に過酷な状況である。そのような状況で、上記作業を視認しながら行うことができることは、作業者の精神的負担軽減、および、作業効率の向上の観点から、非常に有用であると言える。
【0049】
図8に示した断熱ブロックの上に、さらに、次の断熱ブロックが取り付けられるが、その際、上下の断熱ブロック100の間は、本体プレート22Aの幅の分、隙間が空くことになる。このため、上下の隣接する断熱ブロック100の本体プレート22Aの孔28をスタッド32に挿入する作業をそれぞれ目視しながら行うことが可能となる。
図8における上下方向における、本体プレート22Aの幅分の隙間には、無機繊維集合体のマットを挿入し埋めることで、形成する断熱壁の遮熱能力を向上可能である。
【0050】
<断熱壁、工業炉>
本発明の工業炉は、上記した断熱壁を備えている。工業炉としては、特に限定されず、例えば、種々の工業炉で採用可能であるが、特に、本発明の耐熱壁の耐熱性が高い観点から、熱延加熱炉、冷延焼鈍炉の直火炉、鍛造炉等に採用した場合にその効果を発揮可能である。
【0051】
なお、上記では、固定用金具20の本体プレート22Aの孔28に、炉殻30上に設けたスタッド32を挿入し固定する方法を例示したが、本発明の断熱ブロック100を炉殻に固定する方法は、これに限定されるものではなく、例えば、炉殻30上にスタッド32を設けず、固定用金具20の本体プレート22Aを、炉殻30に溶接することにより、固定することも可能である。この場合は、断熱ブロック100をスタッドの位置に影響されずに、炉殻に設置可能という利点がある。溶接方法は、TIG溶接など、適宜選択することができる。
【0052】
図8において、上下方向と共に、左右方向にも断熱ブロック100が並べて設置されるが、左右方向に隣接する断熱ブロック100は、バンド14を切断することにより、圧縮が開放されるため、断熱ブロック100同士は密接して配置されることになる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の断熱ブロック100によれば、固定用金具20を、炉内側から作業者が視認しながら設置作業を行うことができるので、現場での施工性が良好であり、種々の新規断熱炉、または、既存の断熱炉の断熱壁の張替作業において、有用なものとなり、複雑な形状の炉、過酷な作業状況の炉において、特に有用なものとなる。また、ビームにより、無機繊維集合体のマット10を線で保持する形態であるので、断熱ブロック100を炉殻に強固に固定することができる。よって、断熱炉の炉内天井に断熱壁を形成する際に特に有用である。
【符号の説明】
【0054】
100:断熱ブロック
10:折りたたまれた無機繊維集合体のマット
14:バンド
20:ブロック固定用金具
22A:本体プレート
22B:立設片
24:ビーム
26:刃
28:孔
30:炉殻
32:スタッド
35A~35C:支持点